説明

物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するための装置のような装置を含む流体フロー装置、アセンブリ、物理化学系の少なくとも1つの特性を測定するプロセス及びスクリーニング法

小型のプレート(2)と、このプレート内に切削した、連結用の少なくとも1つの流れチャンネル(20)と、連結用チャンネルから伸延する少なくとも1つの貯蔵用チャンネル(221〜226)と、相当する貯蔵用チャンネル内の流体の流動を許容し又は停止させるために好適な弁(V1〜V6)とを含む装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するための装置のような装置を含む流体フロー装置、アセンブリ、物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するプロセス及びスクリーニング法に関する。
本発明の物理化学系は、例えば、純物質あるいは、溶剤中に溶解した1つ以上の溶質のような化合物、または、幾つかの純物質の混合物であり得る少なくとも1つの特性を決定するためのものである。本発明は、特に、熱力学的極限、詳しくは、溶解度曲線のような相図、または、2つの液体の混合物の混和性極限のような特性曲線を特性とするものである。
本発明は、詳しくは、これに限定しないが、そうした物理化学系の溶解度を調べることを特に意図したものである。溶媒中の溶質の溶解度とは、所定温度下に溶媒中に溶解し得る溶質の最大濃度のことである。従って、本発明に従う物理化学系を構成する溶質の溶解度曲線は、温度の関数としてのそうした溶解度の変動に一致するものとなる。
【背景技術】
【0002】
溶解度曲線は従来より様々な方法で決定されており、従来の決定法では、少なくとも1つのパラメータとして、特に溶質の濃度及び又は温度を変化させる。一般に、従来の決定法は本来系統的で、実施時間が非常に長いものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】D.C.DUFFY,J.C.McDONALD,Oliver J.A. SCHUELLER,George M.WHITESIDES,ANAL.CHEM.,70(1998)第4974−4984頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この状況に鑑み、本発明はそうした従来法の問題点を軽減することを目的としたものであり、特には、物理化学系の少なくとも1つの特性を信頼下に決定し、且つまた、従来法に関わる処理時間を相当に短縮させることをその目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的上、添付した請求項1はその主題を流体フロー装置とするものである。
請求項2〜12には本発明の他の有益な特性が記載される。
請求項13には、物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するためのアセンブリが記載される。
請求項14には物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するための方法が記載される。
請求項15〜29には本発明の他の有益な特性が記載される。
請求項30にはスクリーニング法が記載される。
【発明の効果】
【0006】
前述の従来法の問題点を軽減する、特には、物理化学系の少なくとも1つの特性を信頼下に決定し、且つまた、従来法に関わる処理時間を相当に短縮させるプロセス及びスクリーニング法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は本発明に従う決定用アセンブリの概略正面図である。
【図2A】図2Aは図1の決定用アセンブリを備える弁の2つの位置の一方を例示する側面図である。
【図2B】図2Bは図1の決定用アセンブリを備える弁の2つの位置の他方を例示する側面図である。
【図3】図3は本発明により決定する溶解度曲線のグラフ図である。
【図4A】図4Aは本発明の決定法のある段階を例示する、図1と類似の概略正面図である。
【図4B】図4Bは本発明の決定法のある段階を例示する、図1と類似の概略正面図である。
【図4C】図4Cは本発明の決定法のある段階を例示する、図1と類似の概略正面図である。
【図5】図5は図4の拡大図である。
【図6】図6は本発明に従い入手した曲線をプロットした、図3と類似のグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1には本発明に従う決定用アセンブリが例示され、全体を番号1で示す流体フロー装置(以下、装置1)を含み、装置1は、既知の、例えばPDMS(ポリジメチルシロキサン)製のプレート2を含んでいる。しかしながら、プレートはその他の好適な材料、例えば、ガラス、シリコン、PMMA(ポリ(メチルメタクリレート))、又はMicroChem社製のタイプSU−8の感光性樹脂で形成され得るものとする。
【0009】
プレート2は代表的には長さと幅が5〜10cmの間であり、代表的には厚さが5mmであり、1998年の”D.C.DUFFY,J.C.McDONALD,Oliver J.A. SCHUELLER,George M.WHITESIDES,ANAL.CHEM.,70”の第4974−4984頁に説明される従来手順に従う色々のマイクロチャンネルが食刻されている。
図示例では、これらのマイクロチャンネルの特性的な断面積は代表的には100μm2(例えば、10μm×10μm)〜1mm2(例えば、1mm×1mm)である。断面積がこの大きである場合、これらのマイクロチャンネル内には代表的には、レイノルズ数が10未満の層流が生じる。こうしたマイクロチャンネルの特性についての研究には、Stephane COLINによるMicrofluidique(Hermes Sciences Publicationsから発行されたEGEM microsystems series)がある。
【0010】
然し乍ら、本発明は断面積が前述の値よりも大きいミリ流体流れチャンネルに対しても適用され得る。そうしたミリ流体流れチャンネルの断面積は、例えば9mm2、または3mm×3mmに近い、または、例えば25mm2、または5mm×5mmに近いものである。
図1には、プレート2上に刻設したマイクロチャンネルの詳細が示される。2本の送給用マイクロチャンネル4及び6が、2つの入口8及び10に関連する2つの第1成分を送給する。各入口は図示されないチューブの第1端を受けるようになっており、チューブの他端はやはり図示されない注射器に連結される。各注射器により投与する成分の流量は図示されない注射器ポンプにより従来様式下に制御される。
【0011】
また、何れも図示されないチューブ、注射器、注射器ポンプ、と相互作用する入口14と関連するマイクロチャンネル12が設けられる。マイクロチャンネル12は、2本の枝チャンネル16に分離して略正方形状を成した後、交差部18位置で再合流する。送給用マイクロチャンネル4及び6の各下流側端部は、交差部18と相互作用する混合用マイクロチャンネル19内に開口する。
交差部18の下流側、即ち図1で交差部18よりも手前側には連結用マイクロチャンネル20と称するチャンネルが長手方向、本図では縦方向に伸延される。連結用マイクロチャンネル20は随意的には出口20’が設けられ、貯蔵用マイクロチャンネル221〜226と称する何本かのチャンネルと相互作用する。ここで、“何本かの”とは、“少なくとも2本”を意味するものとする。
【0012】
図示例では前記貯蔵用マイクロチャンネルは水平方向、即ち、相互に平行に且つ連結用マイクロチャンネル20とは直交して伸延する。然し乍ら、貯蔵用マイクロチャンネルは連結用チャンネルと直交させず、また相互に平行にしなくとも良く、かくして円状に配置できる。
図1に示すように、連結用マイクロチャンネル20及び貯蔵用マイクロチャンネル221〜226は、その基底部を連結用チャンネルが形成し、櫛歯部分を貯蔵用マイクロチャンネルが形成する櫛状形態を画定する。かくして各貯蔵用マイクロチャンネルは、連結用チャンネルから平行状態下に電気のように伸延する。
【0013】
連結用チャンネルと貯蔵用マイクロチャンネルとは、その一辺を連結用マイクロチャンネル20が形成し、他の2辺を貯蔵用マイクロチャンネル221及び226が画定し、最後の一辺を、連結用マイクロチャンネル20と平行な、各貯蔵用マイクロチャンネルの下流側出口に繋がるセグメントが画定する四辺形を画定するようにもできる。図示例では四辺形は矩形である。
【0014】
図示例では貯蔵用マイクロチャンネル221〜226は6本であるが、実際は2〜15本、好ましくは5〜10本を使用し得、また、1本のみを使用することも可能である。
図1で右側の下流側端部位置に於て、各貯蔵用マイクロチャンネルは、略示される弁V1及びV6と相互作用する。弁V1は図2A及び図2Bにその詳細を示す。貯蔵用マイクロチャンネル221の開口22’1にはフッ化エチレンプロピレン(商標名TeflonFEP)またはポリエーテルテルケトン(商標名PEEK)で作製した、剛性の、つまり、液体流動時に半径方向にそれ程変形しない剛性チューブ24が接続される。剛性チューブ24は、弁V1と関連する、例えばPVCまたはシリコーン製の可撓性チューブ26内に開口する。弁V1は既知のタイプのチューブピンチ式のソレノイド弁である。
【0015】
剛性チューブ24と可撓性チューブ26とは、貯蔵用マイクロチャンネル221の開口22’1と弁V1とを繋ぐ連結部材を構成する。この連結部材はプレートとは別個のものであり、開口22’1の壁部分に、特には着脱自在の様式下に嵌装され得る。この点は、プレート2を、弁の種類やその連結用部材とは無関係に任意の材料から作製できると言う意味で有益である。
弁V1には、可撓性チューブ26を支持体30内に押し込むための、図示されないコイルにより作動されるようにしたピストン28を従来様式下に設ける。可撓性チューブ26の、剛性チューブ24との連結部とピストン28によってピンチされる部分との間の長さlは非常に短く、例えば2mmに近いようなものである。これにより、弁動作時の各マイクロチャンネル内での流体の振動が制限され得る。
【0016】
図2A及び図2Bに示す弁の構造は、可撓性チューブ26により弁が各貯蔵用マイクロチャンネル内の流体から物理的に隔絶される利点を有し、更には、信頼性がありしかも比較的低コストである。
以下にもっと明瞭に説明するように、本発明では、各貯蔵用マイクロチャンネル22の画定するx軸方向と、連結用マイクロチャンネル20の画定するy軸方向とに夫々沿った2つの勾配を持たせ、本実施例では、特に動作条件での、x方向の、特には温度、湿度、照度、または他の成分の濃度、に勾配を持たせる。
【0017】
この条件に於て、本発明に従う決定用アセンブリは、貯蔵用マイクロチャンネル22に沿ってそうした勾配を持たせ得るようにする手段を含む。図示例ではこれらの手段は温度勾配を持たせ得るようにする2つのペルチェ効果モジュール321及び322を含む。ペルチェ効果モジュールは、既知の様式下において当該モジュールへの印加電流の関数として温度変化を生じさせ得る。これに限定しないが、Melcor社が販売する参照番号CPI4−71−06Lの相当モジュールを使用できる。
ペルチェ効果モジュール321は、貯蔵用マイクロチャンネル22の、図1で左側に例示する上流側端部付近に位置付けられ、ペルチェ効果モジュール322は、これらの2つのモジュールを一点鎖線で示した、図1で右側に示す、貯蔵用マイクロチャンネル22の下流側端部付近に位置付けられる。以下にもっと詳しく説明するように、ペルチェ効果モジュール321及び322は、本発明の方法の各ステップに応じて、高温源または低温源を構成し得る。
【0018】
決定用アセンブリには、プレート2に形成した各マイクロチャンネルの内容物を分析するために好適な手段を設ける。図示例では、各貯蔵用マイクロチャンネル22にそのビームを向けた画像分析手段、即ち、略示される顕微鏡34を含む。顕微鏡34は図示されない観察装置と関連付けされ、従来様式下にプロセス処理用コンピューター36に接続される。
上述した本発明に従う決定用アセンブリの操作を以下に説明する。
【0019】
本実施例では図3に示すような、溶媒中の溶質の溶解度曲線の決定が意図される。図3では溶媒中の溶質濃度Cをy座標で表示し、温度Tのプロット値をx座標で表示する。従って、溶解度曲線CSの下側及び右側の各部分では溶質は全て液体であり、同上側及び左側の各部分では溶液中に溶質の結晶が形成され得る。
本発明において、溶質Aは、送給用マイクロチャンネル4に導入される、本発明の研究対象である物理化学系を成し、溶質Bは、送給用マイクロチャンネル6を通して送られ、溶媒と混合して物理化学系複合体(physico−chemical whole)を成す。最後に、溶質及び溶媒の混合物とは不混和性の、油のようなキャリヤ相Pをマイクロチャンネル12を通して送る。
【0020】
予備ステップにおいて、各連結用マイクロチャンネル20及び貯蔵用マイクロチャンネル22に、剛性チューブ24及び可撓性チューブ26を含めて、油または、空気の圧縮性に基づく問題を排除し得る任意の好適な液体を充填し、弁V1〜V6は閉じておく。次いで、弁V1のみを開放し(図4A)て溶質Aと溶媒Bとを送給用マイクロチャンネル4及び6を通して送り、マイクロチャンネル12を通して油を送る。
【0021】
図4Aに示すように、交差部18の下流側には既知の様式下に一連の液滴G1が形成され、各液滴は最初の貯蔵用マイクロチャンネル221に配向される。各液滴は、溶質Aと溶媒B、即ち、先に定義した物理化学系複合体から構成される。各液滴G1は、これらの液滴とは不混和性のキャリヤ相Pを構成する油部分から、従来法により相互に分離される。このステップ中、液滴G1内で溶質を完全に液化させる、つまり、図3の曲線CSの下側及び右側部分に移行させるに充分な高温が付与される。
送給用マイクロチャンネル4及び6を通して流れる溶質及び溶媒の各流量から、各液滴G1内の溶質濃度C1が分かる。この場合、溶質及び溶媒の各流量の合計値は0.1mL/時及び5mL/時の間、特には0.5mL/時及び1mL/時の間であり、マイクロチャンネル12を通して流れる油の流量は0.5mL/時及び10mL/時の間、特には1mL/時及び5mL/時の間である。
【0022】
貯蔵用マイクロチャンネル221に液滴G1を充満させた後、図2Bに示す手順に従い弁V1を閉鎖し、一方、図2Aの手順に従い弁V2を開ける(図4B)。次いで、溶質及び溶媒の各流量を調節して、先に説明した溶質濃度C1と異なる溶質濃度C2を持つ液滴G2を形成させる。
次いで、液滴G2を図4Bに例示するように貯蔵用マイクロチャンネル222に充填させる。上記操作を繰り返し、各貯蔵用マイクロチャンネル221〜226に各溶質濃度がC1〜C6の、異なる各液滴G1〜G6を夫々充填させる。
【0023】
各貯蔵用マイクロチャンネル22における溶質濃度はy軸方向に沿って変化することが有益である。溶質濃度は、各マイクロチャンネルのy座標で画定され得る様式、特には単調な、例えば直線的、指数関数的または対数的様式下において変化され得る。
上記各ステップ(図4C)の終了時に於て、各貯蔵用マイクロチャンネル221〜226は各液滴G1〜G6で充填される。かくして、液滴Gi内の溶質濃度Ciは、同じ貯蔵用マイクロチャンネル22i(i=1〜6)内では同一に、そして貯蔵用マイクロチャンネル221〜226内では各濃度C1〜C6が異なることになる。
【0024】
先に説明したように、各貯蔵用マイクロチャンネル22への充填は高温下に実施され、各液滴G1〜G6が完全に液状になるようにしている。各貯蔵用マイクロチャンネル22におけるこの高い温度は、これらの液滴内の溶質を結晶化させるべく、図3の曲線Cの図で上方及び左側の部分に向かって徐々に低くなるようにする。こうした温度変化は、ペルチェ効果モジュール321及び322への印加電流を好適に変化させることにより得られる。
次いで、各貯蔵用マイクロチャンネル221〜226に沿って温度勾配を持たせる。この目的上、図で左側のペルチェ効果モジュール321をその表面温度が例えば10℃に近い比較的低温となるように調節し、一方、図で右側のベルチェ効果モジュール322をその表面温度が例えば60℃近辺の比較的高温になるように調節する。こうした異なる温度により、プレート2は、各貯蔵用マイクロチャンネル22に沿って略直線的な温度勾配特性を持つようになる。従って、プレートの上流側端部位置及び下流側端部位置の各温度は、夫々ペルチェ効果モジュール321及び322によって付加される温度に近い温度となる。
【0025】
各貯蔵用マイクロチャンネル221〜226に異なる物理化学系複合体を充填することにより、y軸方向に沿った溶質濃度を変化させ、そしてペルチェ効果モジュール321及び322により、x軸方向に沿った温度を連続的に変化させることが可能となる。本発明によれば、図3に示すグラフのそれと同様に溶質濃度値C1〜C6をy軸上に示す、図5に示すような基準系が再構築される。
次いで、分析ステップを実施し、各貯蔵用マイクロチャンネル22内の、結晶を含む各液滴を識別する。分析は顕微鏡34を使用して視覚的に行なう。顕微鏡34はプレート全体を一度に観察できるような広視野のものが良い。そうした顕微鏡の一例には双眼顕微鏡がある。
【0026】
例えば、分析器に偏光子を交差させて観察すれば復屈折結晶を直接検出することができる。結晶が十分大きい場合は復屈折法を使用しなくとも検出可能であろう。
図5でi=1〜6の各貯蔵用マイクロチャンネルの場合、液滴Gi’は結晶を有し、Gi”は結晶を持っていない。1つの且つ同じ貯蔵用マイクロチャンネルにおいて、結晶を含む液滴は図で左側、即ち最低温度部分に位置付けられる。
【0027】
i=1〜6の各貯蔵用マイクロチャンネルにおいて、Gi’(1)及びGi”(1)は、一方が結晶を含み他方が含まない、隣り合う異なる2つの液滴を示す。換言すると、液滴Gi’(1)は結晶を含む全ての液滴の中で温度が最高のものであり、液滴Gi”(1)は結晶を含まないものの中で温度が最低のものである。次いで、識別した各液滴の2つの温度Ti及び’Ti”を求め、次いで、各溶質濃度Ciについて溶解温度Tiを求める。
i=(Ti’+Ti”)/2
ここで、i=1〜6とする。
【0028】
次いでコンピューター36を使用して、溶質濃度C1〜C6について得た各温度T1〜T6を図6のグラフ上に表示させる。各温度点から、図6に示すような、図3の溶解度曲線CSのそれと類似の溶解度曲線CS’を得る。
上述した実施例では、溶解度曲線は6つの各貯蔵用マイクロチャンネルに相当する6つの点位置を繋いだものであるが、本発明の方法の精度は、貯蔵用マイクロチャンネル数を増やして溶解度曲線上の点位置数を相当量増やすことにより向上させ得る。1つの且つ同じ貯蔵用マイクロチャンネル内の液滴数を増大させて、隣り合う2つの液滴間距離を低減させれば溶解温度上の精度をも改善させ得る。
【0029】
上述した各ステップを終えると、調査対象となる物理化学系の特性、即ち、その溶解度曲線を決定可能となる。その後、同じ溶媒に関連付けされることで同じ濃度及び同じ温度勾配を維持させた別の物理化学系に関して、これら一連のステップを再開することができる。各ステップを物理化学系全体に関して反復実施し、そうして実施したスクリーニング法の最後において、目的用途に関する有益な、少なくとも1つの物理化学系が識別され得る。
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本実施例ではy軸方向に沿って溶質濃度が変化する、つまり異なるマイクロチャンネル毎に変化するものとしたが、物理化学系の、本発明の調査対象とする他のパラメーターが変化するようにもできる。
【0030】
従って、送給用マイクロチャンネル4に溶質と第1形式の溶媒とを含む第1液体を流し、送給用マイクロチャンネル6には同じ溶質と、第1形式の溶媒とは不混和性の第2形式の溶媒とを含む第2液体を流すことができる。これらのマイクロチャンネル内への射出流量を調節することにより、溶質濃度は一定であるが上記2つの各溶媒の比率が可変である物理化学系複合体を各貯蔵用マイクロチャンネルに充填させ得る。
【0031】
他の実施例では、y軸方向に沿って、溶質と溶媒とから成る物理化学系複合体中の不純物割合を変化させることができる。この場合、所定濃度の溶質を含む溶液を送給用マイクロチャンネル4に注入し、他方、送給用マイクロチャンネル6には、ナノ粒子または分子を添加した同じ溶液を注入する。かくして、各液滴中の不純物濃度は流量比に従って変化するようになる。
【0032】
他の実施例では、例えば、エタノールヘキサデカンにおける液・液平衡相のダイヤグラムを調査対象とすることができる。一方の液体における他方の液体に対する比率がy軸方向に沿って変化し、x軸方向に沿って温度勾配が示される。次いで、均質の液滴と、不混和性の2液から成る液滴との間における極限値を観察する。
説明及び図示した各実施例では、各貯蔵用マイクロチャンネルに沿って、つまりx軸方向に沿って温度が変化するものとしたが、他の成分に関する相対湿度、照度または濃度変化の如き別の操作条件を変化させるようにしても良い。
【0033】
説明及び図示した各実施例では、顕微鏡34を使用して視覚的に分析を実施するものとしたが、他の実施例では別の形式の分析法、特には、ラマン分光法、赤外分光法、UVまたは可視光分析法を使用可能である。
他の実施例において、例えばラマン分光装置のような分析装置を使用して各液滴を調査できる。そうした調査は、既知形式の、電動式のプログラム可能なテーブル(x、y)上にプレートを配置し、分析装置の正面に各液滴を順次位置付けるようにすることで自動化させ得る。
【0034】
説明及び図示した各実施例では、異なる2つの状況、即ち、結晶及び非結晶の各状況を有する各液滴を識別するものとしたが、本発明に従い識別するこうした異なる状況は、形式の相違、即ち、例えば、一方が単純液体であり、他方が相互に不混和性の2つの液体を含むものであり得る。かくして、溶解度曲線とは異なる特性の曲線、即ち、液・液平衡の場合における不混和性極限曲線を入手し得る。
【0035】
他の実施例では、化学反応の2次元マップを創生可能でもある。反応体を異なる濃度下において貯蔵用マイクロチャンネルに充填し、その間、x軸方向に沿った温度または照度を変化させる。相当反応によって得た生成物を、例えばラマン分光法により観察する。
説明及び図示した各実施例では、順次する各液滴と、スラグ形成とは各貯蔵用マイクロチャンネルに関するものであるが、キャリヤ相を介さずに溶質及び溶媒の混合物を直接注入することができる。
本発明によれば先に言及した目的が達成される。
【0036】
詳しくは、本発明に従う各貯蔵用マイクロチャンネルの充填操作時間は、従来技術に於て順次実施するべき各操作におけるそれよりも明らかに短く、更には、特には簡易な視覚的分析法により、目的特性を直読可能である。
本発明はまた、特小容積の液滴を形成し得、そうした液滴が、大きさが一定である故に均質性を有し、従って、肉眼式システムの場合に必要な攪拌操作が不要である真のマイクロリアクターである点で有益であり、また、この液滴寸法が熱平衡を素早く達成させる。
【0037】
また、顕微鏡スケールを使用することで、不純物が不意に出現する恐れも制限され、かくして高精度下の決定が提供される。
以上、本発明を実施例を参照して説明したが、本発明の内で種々の変更をなし得ることを理解されたい。
【符号の説明】
【0038】
1 流体フロー装置
2 プレート
4、6 送給用マイクロチャンネル
8、10、14 入口
12 マイクロチャンネル
16 枝チャンネル
18 交差部
19 混合用マイクロチャンネル
20’ 出口
20 連結用マイクロチャンネル
22’1 開口
221〜226 貯蔵用マイクロチャンネル
24 剛性チューブ
26 可撓性チューブ
28 ピストン
30 支持体
321及び322 ペルチェ効果モジュール
36 プロセス処理用コンピューター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体フロー装置であって、
プレート(2)と、
プレートに形成した少なくとも1つの連結用チャンネル(20)と、
連結用チャンネルから伸延する幾つかの貯蔵用チャンネル(221−226)と、
相当する貯蔵用チャンネル内への流体の流入を許容または停止させるようにした幾つかの弁(V1−V6)と、
各貯蔵用チャンネル(221−226)に沿った少なくとも1つの条件に勾配を持たせるようにした手段(321、322)と、
を含む流体フロー装置。
【請求項2】
連結用チャンネル(20)と、各貯蔵用チャンネル(22)内に、キャリヤ相(P)において順次するスラグ(G1−G6)を形成する手段(4、6、12、18)を更に含む請求項1の流体フロー装置。
【請求項3】
スラグ形成手段が、該スラグの単数または複数の成分のための、少なくとも第1の送給用チャンネル(4、6)と、該第1の送給用チャンネルとの交差部を形成する、キャリヤ相のための第2の送給用チャンネル(12)とを含む請求項2の流体フロー装置。
【請求項4】
連結用チャンネル(20)及び各貯蔵用チャンネル(221−226)の断面積が100μm2〜25mm2の間である請求項1〜3の何れかの流体フロー装置。
【請求項5】
連結用チャンネルと各貯蔵用チャンネルとがマイクロチャンネル(20、221−226)であり、マイクロチャンネルの断面積が100μm2〜1mm2の間である請求項4の流体フロー装置。
【請求項6】
各弁(V1−V6)がチューブピンチ式のものである請求項1〜5の何れかの流体フロー装置。
【請求項7】
各貯蔵用チャンネル(221−226)の開口(22’1)が、プレート(2)とは無関係の連結用部材(24、26)を介して、相当する弁(V1−V6)と連結される請求項1〜6の何れかの流体フロー装置。
【請求項8】
各貯蔵用チャンネル(221−226)の、連結用チャンネル(20)と対向する端部が、相当するチューブピンチ式の弁(V1−V6)と協働するようにした可撓性チューブ(26)内に開口した剛性チューブ(24)に連結される請求項6及び7の何れかの流体フロー装置。
【請求項9】
各貯蔵用チャンネル(221−226)が相互に平行である請求項1〜8の何れかの流体フロー装置。
【請求項10】
相互に平行な各貯蔵用チャンネル(221−226)が連結用チャンネル(20)と直交する請求項9の流体フロー装置。
【請求項11】
貯蔵用チャンネル(221−226)数が2〜15、好ましくは5〜10間である請求項1〜10の何れかの流体フロー装置。
【請求項12】
各貯蔵用チャンネル(221−226)に沿った少なくとも1つの条件に勾配を持たせるようにした手段(321、322)が、貯蔵用チャンネルの第1端部に接近して配置した第1ソース(321)と、貯蔵用チャンネルの第2端に接近して配置した第2ソース(322)とを含み、第1及び第2の各ソースが異なる条件、特には異なる温度を付与するようになっている請求項1〜11の何れかの流体フロー装置。
【請求項13】
請求項1〜12の何れかに従う流体フロー装置を含み、物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するための決定用アセンブリであって、
各貯蔵用チャンネル内の、物理化学系または当該物理化学系を含む物理化学系複合体の少なくとも2つの異なる状態を識別するようになっている分析手段(34)と、該分析手段(34)に接続したプロセス処理手段(36)とを含む決定用アセンブリ。
【請求項14】
請求項13の決定用アセンブリを使用して物理化学系の少なくとも1つの特性を決定するための方法であって、
各貯蔵用チャンネル(221−226)に物理化学系(A)の画分を注入し、他方、注入する当該物理化学系(A)または、各チャンネル内の、該物理化学系を含む物理化学系複合体(G1−G6)の少なくとも1つのパラメーターを変化させ、他方、1つの且つ同じ貯蔵用チャンネルにおける当該パラメーターを不変に維持すること、
物理化学系の各画分を不動化すること、
各貯蔵用チャンネル(221−226)に沿って少なくとも1つの勾配を持たせること、
各貯蔵用チャンネル内の、物理化学系または物理化学系複合体(G1−G6)の少なくとも2つの異なる状態を識別すること、
物理化学系の各特性を導出すること、
を含む方法。
【請求項15】
変化させるパラメーターが、物理化学系または該物理化学系を含む物理化学系複合体の成分である請求項14の方法。
【請求項16】
変化させるパラメーターが、物理化学系複合体内の物理化学系の濃度である請求項15の方法。
【請求項17】
物理化学系複合体が、特には溶質である物理化学系と、特には溶剤である添加物と、の混合物から形成され、変化されるパラメーターが、添加物における、物理化学系複合体内の物理化学系を同じ濃度に保持させる性質である請求項14の方法。
【請求項18】
物理化学系または該物理化学系を含む物理化学系複合体のパラメーターが、各貯蔵用チャンネル(221−226)の分離距離に比例して、特には直線的に変化する請求項14〜17の何れかの方法。
【請求項19】
作動条件、特には、温度、相対湿度または照度に勾配を持たせるようにした請求項14〜18の何れかの方法。
【請求項20】
物理化学系及び又は物理化学系複合体の異なる相に相当する異なる2つの状態を有する請求項14〜19の何れかの方法。
【請求項21】
異なる各相が、物理化学系複合体内の、物理化学系により形成される結晶の有無に各相当する請求項20の方法。
【請求項22】
物理化学系及び又は物理化学系複合体がスラグ形態下において、それらスラグとは不混和性のキャリヤ相(P)内に、特には液滴(G1−G6)形態下に注入される請求項14〜21の何れかの方法。
【請求項23】
物理化学系を、第1の値のパラメータに於て第1の貯蔵用チャンネル(221)に注入し、その間、当該貯蔵チャンネルに関連する第1の弁(V1)を開放させ、他方、弁(V2−V6)を閉鎖させ、次いで、第1の弁を閉鎖させ、第2の弁(V2)を開放させ、第2の値のパラメーターに於て物理化学系を第2の貯蔵用チャンネル(222)に注入し、次いで、別の値のパラメーターに於て別の貯蔵用チャンネルに物理化学系を注入することを反復することを含む請求項14〜22の何れかの方法。
【請求項24】
各貯蔵用チャンネル(221−226)に第1の状態状況下、特には液体態下の物理化学系及び又は物理化学系複合体を充填し、当該物理化学系及び又は物理化学系複合体をを第2の状態、特には結晶化状態に持ち来し、物理化学系及び又は物理化学系複合体の一部分のみが最初の第1の状態に戻るようにする勾配条件を持たせること、を含む請求項14〜23の何れかの方法。
【請求項25】
少なくとも2つの異なる状態を、貯蔵用チャンネルに注入した物理化学系の各画分を分析して識別することを含む請求項14〜24の何れかの方法。
【請求項26】
視覚的分析を、特には視察装置と関連する顕微鏡(34)を使用して実施する請求項25の方法。
【請求項27】
分光分析法、特にはラマン分光法または赤外分光法を実施する請求項25の方法。
【請求項28】
各貯蔵用チャンネル(221−226)に対して隣り合う2つの値(T’i(1)T”i’(1))のパラメーターが識別され、識別された各パラメーターがスラグ(G1−G6)の異なる2つの状態に相当し、各貯蔵用チャンネルに関する当該パラメーターの特性値(Ti)を入手するための、前記2つの相対の中間値が生成される請求項22〜27の何れかの方法。
【請求項29】
物理化学系の特性が、当該物理化学系の特性曲線であり、当該特性曲線が各特性値(T1ーT6)から求められる請求項28の方法。
【請求項30】
幾つかの物理化学系をスクリーニングする方法であって、
幾つかの物理化学系を準備し、
各物理化学系の少なくとも1つの特性を請求項14〜29の何れかに記載するように決定し、
少なくとも1つの好ましい特性を有する少なくとも1つの好ましい物理化学系を識別する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−506185(P2010−506185A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−531877(P2009−531877)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【国際出願番号】PCT/FR2007/001667
【国際公開番号】WO2008/046989
【国際公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(508076598)ロディア オペレーションズ (98)
【氏名又は名称原語表記】RHODIA OPERATIONS
【住所又は居所原語表記】40 rue de la Haie Coq F−93306 Aubervilliers FRANCE
【出願人】(506369944)サントル ナスィオナル ド ラ ルシェルシュ スィアンティフィク (45)
【Fターム(参考)】