物理的操作または殺菌の後に大きな生物活性を有する固定化された生物活性物質
本発明は、固定化された生物活性物質であって、その生物活性物質が固定化された基板材料の物理的操作の後に大きな生物活性を維持している生物活性物質に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温、および/または高湿度、および/または抗生剤、および/または物理的応力の条件に曝露された後に生物活性を維持している固定化された生物活性物質を有する基板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
医療装置の分野では、ガラス材料、および/またはポリマー材料、および/または金属材料が一般的な基板材料である。これらの材料は診断装置または体外装置で使用することができる。ガラス以外の多くの材料は埋め込み可能な装置で使用することができる。
【0003】
基板材料に生物活性物質を生物活性のある形態で固定化する際には、その物質と基板材料それぞれの化学的性質の評価する操作が含まれる。基板材料の表面に生物活性物質を固定化するには、その基板材料の化学的組成を変更することがしばしば必要とされる。これは、通常は、基板材料の表面を処理して化学反応する一群の元素または基を生成させた後、適切なプロトコルを利用して生物活性物質を固定化することによって実現される。他の基板材料では、基板材料の表面を、反応性化学基が内部に組み込まれた材料で被覆またはコーティングする。次に、生物活性物質を、その被覆材料の反応性化学基を通じて基板材料の上に固定化する。基板材料を被覆またはコーティングするためのさまざまな方法がこれまでに報告されている。被覆材料またはコーティング材料を有する基板材料に固定化される生物活性物質の代表例は、アメリカ合衆国特許第4,810,784号、第5,213,898号、第5,897,955号、第5,914,182号、第5,916,585号、第6,461,665号に記載されている。
【0004】
生物活性を有する化合物、組成物、物質が固定化されるとき、その“生物製剤”の生物活性は、固定化法によってマイナスの影響を受ける可能性がある。多くの生物製剤の生物活性は、固定化された状態におけるコンホメーション(すなわち一次構造、二次構造、三次構造など)に依存する。所期の機能を発揮するのに十分な活性を生物製剤に与えるコンホメーションでその生物製剤を被覆材料の中に組み込むには、固定化法を注意深く選択することに加え、生物製剤を化学的に変化させることが必要となる可能性がある。
【0005】
被覆と固定化のスキームを最適化しているにもかかわらず、追加の処理(例えば殺菌)によって固定化された生物製剤の生物活性が低下する可能性がある。埋め込み可能な医療装置では、使用する前に殺菌する必要がある。殺菌は、汚染物に対して敏感なインビトロ用診断装置でも必要とされるであろう。そのような装置を殺菌するには、通常は、しばしば数サイクルにわたってその装置を高温、高圧、高湿度に曝露する必要がある。抗生剤(例えばエチレンオキシド(EtO)ガスまたは過酸化水素の蒸気)が殺菌プロセスに含まれる場合がある。殺菌に加え、固定化された生物製剤の物理的な圧縮または延伸や、長期にわたる保管によってその生物製剤の活性が低下する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物活性を著しく低下させることなく殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管を行なうことのできる、生物活性物質が表面に固定化された医療装置が必要とされている。このような医療装置は、固定化された生物活性物質の生物活性の低下を、殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管の間にできるだけ少なくするのに役立つ生体適合性組成物または生体適合性化合物を、その生物活性物質とともに含むことになろう。その追加の生体適合性組成物または生体適合性化合物は、殺菌の後にいくつかの生物活性物質の生物活性を増大させる場合があろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生物活性物質が表面に固定化された基板材料と、その生物活性物質の生物活性を低下させるであろう処理条件と保管条件に曝露された後にその生物活性物質が大きな生物活性を保持することを可能にする追加の生体適合性有機組成物とを備える医療装置に関するものである。
【0008】
適切な基板材料としては、生物活性物質を生物活性のある形態で基板材料の1つ以上の面に付着させる、または拘束する、または固定化することのできる反応性化学基を有する表面を持つ任意の材料が可能である。基板材料は、1種類以上の被覆組成物または被覆材料を表面に付着させることを通じ、その材料の表面に付加された複数の反応性化学基も備えることができる。被覆材料の少なくとも一部には、生物活性物質と反応してその生物活性物質を生物活性のある形態で被覆材料に付着させる、または拘束する、または固定化するのに役立つ化学元素、化学基、化合物、成分を有する。いくつかの実施態様では、生物活性物質を取外し可能に固定化することができる。
【0009】
少なくとも1つのタイプの生物活性物質を、基板材料および/または被覆材料の表面にある適切な反応性化学基に化学的に付着させる、または拘束する、または固定化する。複数の生物活性物質を、基板材料および/または被覆材料の表面に存在する複数の反応性化学基の少なくとも一部に固定化した後、生体適合性のある追加の有機組成物を、その生物活性物質、および/または基板、および/またはポリマー被覆材料に共有結合または非共有結合させる。生体適合性有機組成物は、生物活性物質と相互作用するとともに、基板材料および/または被覆材料の反応性化学基と相互作用し、その生物活性物質の生物活性を著しく低下させるであろう条件下でその生物活性物質が生物活性を失わないようにする。そのような条件として、殺菌と保管が挙げられる。膨張可能な管腔内医療装置では、例えばそのような装置の物理的圧縮と膨張によっても生物活性物質の生物活性が著しく低下する可能性がある。
【0010】
いくつかの場合には、追加の生体適合性有機組成物は、殺菌、および/または保管、および/または物理的操作によって生物活性物質にしばしば誘導される望ましくない変化を制限することにより、殺菌、および/または保管、および/または物理的操作の間を通じてその生物活性物質の生物活性を維持しているように見える。活性を低下させる変化としては、生物活性物質のコンホメーションが変化してその物質の活性部位が不明確になることなどが挙げられよう。活性を低下させる変化としては、互いに近くにある生物活性物質間の相互作用も挙げられよう。ポリマー被覆材料に対する生物活性物質の再配置は、その生物活性物質の活性を低下させる可能性のある別の変化である。生物活性物質の単なる変性や分解は、生物活性物質が生物活性を失う別の手段であろう。この明細書により詳しく説明するように、固定化された生物活性物質を、追加の生体適合性有機組成物の存在下で殺菌、および/または保管、および/または物理的に操作すると、その追加の生体適合性有機組成物なしで同じ条件下で処理した同様の固定化された生物活性物質よりも、生物活性をはるかによく保持することができる。
【0011】
追加の生体適合性有機組成物は、殺菌された医療装置から殺菌後処理の間に除去すること、またはその組成物は、その殺菌された医療装置を埋め込み部位で広げた後にインプラントのレシピエントの生理学的プロセスによって除去することができる。
【0012】
好ましい生物活性物質は、基板および/または被覆材料の表面における血栓の形成を低減または抑制する。グリコサミノグリカンが本発明で用いるための好ましい抗血栓剤であり、ヘパリン、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体が特に好ましい。好ましい他の生物活性物質は、本発明の医療装置を埋め込んだ組織からの望ましくない細胞増殖を減らす。本発明で用いるための好ましい抗増殖剤として、デキサメタゾン、ラパマイシン、パクリタキセルなどがある。
【0013】
したがって本発明の一実施態様は、基板材料と;その基板の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII結合活性を持っていてそのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した複数の生物活性物質と;ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物とを含んでいて、生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である医療装置に関する。別の実施態様では、アンチトロンビン結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも6ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも7ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも8ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも9ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である。いくつかの実施態様では、アンチトロンビンIII活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも100ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である。
【0014】
本発明の別の一実施態様は、基板材料と、その基板の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII活性を持っていて、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に末端が結合される第1の複数のヘパリン分子と、そのポリマー被覆材料と結合される生体適合性組成物とを含んでいて、第1の複数のヘパリン分子のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)であることを特徴とする医療装置に関する。
【0015】
本発明の別の一実施態様は、ポリマー基板材料と、その基板の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII活性を持っていて、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に末端が結合される複数のヘパリン分子と、そのポリマー被覆材料と結合される複数のポリエチレングリコール分子を含む組成物とを含んでいて、上記複数のヘパリン分子のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも50ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)であることを特徴とする殺菌された医療装置に関する。
【0016】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の少なくとも一部に存在していてアンチトロンビンIII活性を有する複数の化学物質と、そのポリマー被覆材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質および組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを備える医療装置に関する。
【0017】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、その基板材料の少なくとも一部に存在していてアンチトロンビンIII活性を有する複数の化学物質と、そのポリマー被覆材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質および組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを備える医療装置に関する。
【0018】
非共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、温度が約37℃で実質的に中性pHの0.15Mのリン酸塩緩衝溶液の中に入れると、その有機組成物または第2の複数のヘパリン分子の少なくとも一部が、殺菌または物理的操作をされた医療装置から数時間以内に放出されることがしばしばある。放出された化合物の存在は、定型的なアッセイ技術を利用して緩衝溶液の中で検出することができる。
【0019】
共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、その有機組成物または第2の複数のヘパリン分子は、殺菌または物理的操作の後にその殺菌または物理的操作をされた医療装置の表面に実質的に保持される。
【0020】
さらに別の実施態様では、共有結合した生体適合性有機組成物は、共有結合を解消することによってポリマー被覆材料から放出させることができる。共有結合を解消することによって放出された化合物の存在は、定型的なアッセイ技術を利用して緩衝溶液の中で検出することができる。
【0021】
いくつかの実施態様では、生体適合性有機組成物は、物理的操作および/または殺菌の前に混合することができる。別の実施態様では、生体適合性有機組成物は、物理的操作および/または殺菌の後に(すなわち操作室の中で)混合することができる。これは、有機組成物が、その組成物を用いた基板または装置の物理的操作または殺菌の間に分解する可能性があるときに特に有用である。このようになっていると、有機組成物を、基板上または装置上の個々の位置に用量を変えて配置することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、生物活性物質の生物活性を著しく低下させるであろう殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管の後に、大きな生物活性を維持する生物活性物質が固定化された材料と装置に関するものである。固定化された生物活性物質の生物活性は、そのような条件に曝露された後、生物活性物質に共有結合または非共有結合した少なくとも1つの追加の生体適合性組成物の存在によってプラスの影響を受けることができる。たいていの実施態様では、追加の組成物は有機化合物である。しかしいくつかの実施態様では、生体適合性組成物は無機化合物である。好ましい実施態様では、追加の組成物は、多糖の形態になった炭水化物である。好ましい多糖はグリコサミノグリカンである。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体である。
【0023】
図1と図2を参照すると、いくつかのポリマー基板材料(12)は、その基板材料の表面の少なくとも一部に分布した複数の反応性化学基(16)を備えていて、その基板材料には複数の生物活性物質(17)が付着、または拘束、または固定化されていることがわかる。生物活性物質(17)の大半は、反応性化学基(16)を通じて基板材料(12)に共有結合している。ポリマー基板材料(12)の表面は、滑らかな状態、粗い状態、多孔性状態、湾曲した状態、平坦な状態、角ばった状態、不規則な状態のいずれでも、これらの組み合わせでもよい。いくつかの実施態様では、多孔性表面を有する基板材料が、その材料の多孔性表面からその材料の本体の内部へと延びる内部空隙スペースを有する。このような多孔性基板材料は孔同士を結合する内部基板材料を備えていて、その内部基板材料が、生物活性物質を固定化することのできる表面を提供することがしばしばある。多孔性であるかないかに関係なく、基板材料は、フィラメント、膜、シート、チューブ、メッシュ、織布、不織布の形態、またはこれらを組み合わせた形態にすることができる。
【0024】
生物活性物質(17)の固定化に適した基板材料(12)として、生体適合性ポリマー材料(例えばポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン)がある。反応性化学基(16)がポリマー材料の成分に導入されるのであれば、完全に密な、または多孔性のポリテトラフルオロエチレンが、適切な1つのポリマー基板材料(12)である。基板材料の一部として複数の反応性化学基を有する基板材料を、この明細書では“機能化可能な材料”と呼ぶ。生物活性物質が機能化可能な基板材料と反応すると、その基板材料は機能化されたと見なされ、生物活性物質が固定化される。固定化された物質の生物活性をその後の処理条件(例えば殺菌、物理的圧縮と膨張、保管)の間を通じて維持するため、追加の生体適合性有機組成物を、機能化された材料および固定化された物質と非共有結合させる。
【0025】
基板材料は、1種類以上の被覆組成物または被覆材料を表面に付着させることによって材料の表面に付加した複数の化学反応基も備えることができる。被覆材料の少なくとも一部には、いろいろな生物活性物質と反応する化学元素、基、化合物、成分や、生物活性な形態で1つの生物活性物質を被覆材料に付着させる、または拘束する、または固定化するのに役立つ化学元素、基、化合物、成分を有する。被覆材料は、溶質、粒子、分散液、コーティング、オーバーレイいずれかの形態で付着させることができ、さまざまな方法(例えば共有結合、吸着(物理吸着や化学吸着など)、非共有結合(水素結合やイオン結合など))で基板材料に付着させる。好ましい実施態様では、被覆材料は溶液の形態で付着され、溶媒を除去したときに連続膜層または不連続膜層を基板材料の1つ以上の面に形成する。被覆材料は1つ以上の層にして付着させることができる。各層の被覆材料の化学成分は、同じでも異なっていてもよい。いくつかの実施態様では、被覆材料は自ら架橋するか、他の層の他の被覆材料と架橋する。架橋結合は、共有結合またはイオン結合が可能である。
【0026】
表面に反応性化学基(または適切な反応性化学基)のない基板材料(12、14)(図1A)は、少なくとも一部が、表面に複数の反応性化学基(16)を有するポリマー被覆材料(18)で覆われる(図3と図3A)。そのポリマー被覆材料(18)には、生物活性物質(17)を付着させること、または拘束すること、または固定化することができる(図4と図4A)。生物活性物質(17)の大半は、ポリマー被覆材料(18)の反応性化学基(16)を通じてその被覆材料(18)に共有結合している。ポリマー被覆材料(18)は、基板材料(12、14)の少なくとも一部の上に少なくとも1つの層を形成する。いくつかの実施態様では、ポリマー被覆材料(18)は自ら架橋する(19)か、他の層(18A、18B)の他の被覆材料と架橋する(図7と図7A)。架橋は、共有結合、またはイオン結合、またはその両方が可能である。被覆しやすい基板材料は、ガラス、金属(14)、セラミック、ポリマー材料(12)であり、その中でも特に化学的に不活性なポリマー材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)である。
【0027】
アンチトロンビンIII結合能力を持つ少なくとも1つのタイプの生物活性物質(17)を、基板材料(12、14)および/または被覆材料(18)の表面にある適切な反応性化学基(16)に化学的に付着させる、または拘束する、または固定化する。
【0028】
生体適合性組成物(11、15、100)としては、抗血栓剤、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、血栓溶解剤、抗生剤、抗微生物/消毒化合物、抗ウイルス化合物、抗増殖剤、細胞接着化合物、細胞抗接着化合物、抗炎症剤などがある。特に興味のある抗血栓剤はグリコサミノグリカンであり、その中でも特にヘパリン(その中にその誘導体とアナログが含まれる)である。他の抗凝固剤として、ヒルジン、活性化されたプロテインC、プロスタグランジンなどがある。フィブリン溶解剤または血栓溶解剤としては、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン・アクチベータ(tPA)などがある。抗生剤の例として、ペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、バンコマイシン、バシトラシン、カナマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、セファロスポリンなどがある。セファロスポリンの例として、セファロシン、セファピリン、セファゾリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロル、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セフォタキシム、モキサラクタム、セフトリゾキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾンなどがある。抗微生物/消毒化合物の例としては、銀スルファジアジン、クロルヘキシジン、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、トリクロサン、フェノール、フェノール化合物、ヨードフォア化合物、第四級アンモニウム化合物、塩素化合物、ヘパリンなどと、これらの組み合わせがある。抗ウイルス剤の例としては、α-メチル-1-アダマンタンメチルアミン、ヒドロキシ-エトキシメチルグアニン、アダマンタンアミン、5-ヨード-2'-デオキシウリジン、トリフルオロチミジン、インターフェロン、アデニンアラビノシドなどがある。細胞接着化合物としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、オステオポンチン、RGDペプチド、RGDSペプチド、YIGSRペプチド、抗体標的細胞表面抗原などがある。細胞の付着に抵抗することのできる細胞としては、ポリHEMA、ポリエチレングリコール、多糖、ポリビニルピロリドン、リン脂質などがある。他の生物活性物質としては、酵素、有機触媒、リボザイム、有機金属、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、ポリアミノ酸、抗体、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、ステロイド分子、抗生剤、抗微生物化合物、抗真菌剤、サイトカイン、炭水化物、疎油性物質、脂質、調合薬、治療薬などがある。
【0029】
すでに説明したように多彩な生物活性物質(17)を本発明で使用できるが、哺乳動物の血液の成分と相互作用することができて基板材料(12、14)または被覆材料(18)の表面に凝固物または血栓が形成されるのを阻止する物質が最も好ましい。そのような生物活性物質の多くはオリゴ糖または多糖である。多糖のいくつかはグリコサミノグリカン(例えばグルコサミン組成物やガラクトサミン組成物)である。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体である。ヘパリンは、成長因子、酵素、モルフォゲン、細胞接着分子、サイトカインと結合することによって媒介される多くの生物学的機能を持つ複合グリコサミノグリカンである。抗凝固剤として機能するヘパリンの生物活性は、ヘパリンが、トロンビンとアンチトロンビンIII(AT III)が結合するための触媒として作用する能力に基づいている。ヘパリンの抗凝固活性の大半は、この結合を容易にする五糖配列と関係している。
【0030】
本発明における固定化にとって最も好ましいヘパリン組成物は、Larmに付与されたアメリカ合衆国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)の教示内容に従って作られた、自由なアルデヒド末端基を有するヘパリン組成物である。自由なアルデヒド末端基を有するヘパリンを作るとき、ヘパリンをジアゾ化によって分解し、自由なアルデヒド末端基を有するヘパリン断片を形成する。自由なアルデヒド末端基により、基板またはポリマー被覆材料の第一級アミノ基にヘパリン組成物の“端部を結合させ”てイミンを形成することができる。そのイミンは、還元によって第二級アミンに変換される。ヘパリン組成物の端部を結合させることにより、そのヘパリン組成物の生物活性のある部分を凝固と血栓の形成にとって重要な血液成分に最もうまく曝露するコンホメーションでヘパリンを固定化することができる。最適な状態で固定化されたヘパリンは、血栓の形成と凝固にとって重要な血液成分に曝露されると、その血液成分と相互作用し、基板および/または被覆材料の表面における血栓の形成や他の凝固イベントを減らしたり阻止したりする。
【0031】
本発明で使用することが望ましい他の生物活性物質(17)として、アンチトロンビンIIIを媒介としてXa因子、抗増殖剤、抗炎症剤を抑制する、“フォンダパリナックス(登録商標)”と呼ばれる合成ヘパリン組成物がある。
【0032】
固定化スキームが最適化されているにもかかわらず、ヘパリンをベースとした生物物質の生物活性は、その物質を殺菌、および/または物理的圧縮と膨張、および/または保管している間に著しく低下する(図9、図11、図12、図13)。すでに説明したように、固定化された生物活性物質の生物活性の低下は、さまざまな因子によって起こる可能性がある。固定化された物質の生物活性の低下が起こるメカニズムが何であれ、固定化された生物活性物質に生体適合性有機組成物を共有結合または非共有結合させると、その物質を殺菌、および/または物理的操作(例えば物理的圧縮と膨張)、および/または保管している間とその後もその物質の生物活性が維持される。
【0033】
追加の生体適合性有機組成物は、生物活性を持っていても持っていなくてもよい。追加の生体適合性有機組成物としては、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンならびにその誘導体の形態になった炭水化物が可能である。そのような炭水化物として、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖(例えばグリコサミノグリカン、グリコサミノマンナン、保管用多糖(デキストランとその誘導体など))などがある。本発明で用いるのに適した他の生体適合性有機組成物として、酸性ムコ多糖、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドや、分子量が約100,000MW未満で、帯電した、または帯電していない他の生体適合性脂肪族化合物や芳香族化合物などがある。
【0034】
図5〜図6Aを参照すると、表面に生物活性物質(17)が固定化された被覆された基板(14、12)材料または被覆されていない基板材料(12)が、その生物活性物質(17)、および/または基板材料(14、12)、および/または被覆材料(18)に結合した追加の生体適合性組成物(100)を備えていることがわかる。生体適合性組成物は有機物であることが好ましい。生体適合性有機組成物は、固定化された生物活性物質、および/または基板、および/または被覆材料にさまざまな方法で付着させることができる。好ましい一実施態様では、炭水化物をベースとした適切な生体適合性組成物を水性溶媒に溶かし、その溶液を、スプレー、浸漬コーティング、浸漬、ローリング、塗布、または他の堆積手段により、固定化された生物活性物質、および/または基板、および/または被覆材料に付着させる。適切な系では、生体適合性組成物を有機溶媒に溶かして同様に付着させることができる。
【0035】
本発明の好ましい一実施態様は、解剖学的部位に埋め込んだりそれ以外の方法で設置したりするための殺菌された医療装置に関する。空隙スペースまたは管腔を規定する解剖学的構造の内部に配置してその解剖学的構造を強化したり、その解剖学的構造によって規定される空隙スペースを維持したりするための殺菌された医療装置も好ましい。殺菌されたこのような医療装置を血管構造の内部で使用する場合、末端が結合したヘパリンの形態で固定化された生物活性物質は、その装置の中または周囲を通過する血液と相互作用し、装置で血液と接触する面に血栓またはそれ以外の凝固生成物が形成されるのを最少にしたり阻止したりする。好ましい一実施態様では、追加の生体適合性有機組成物は、基板材料および/または被覆材料と共有結合したポリエチレングリコール化合物である。共有結合したヘパリンは、殺菌された医療装置に留まることが可能である。好ましい殺菌法として、エチレンオキシド・ガスがある。
【0036】
医療装置を製造するには物理的操作を必要とする可能性があり、その物理的操作により、固定化された生物活性物質の生物活性が低下することがしばしばある。上に説明した固定化された生物活性物質、および/または基板材料、および/または被覆材料と結合した追加の生体適合性組成物は、医療装置の物理的圧縮と膨張の後に、その固定化された生物活性物質の生物活性を維持することもできる(図12と図13)。膨張可能なステントとステント-グラフトは、固定化された生物活性物質の生物活性が改善されていることが特に重要な医療装置である。
【0037】
したがって本発明により、生物活性物質が固定化されていて、殺菌中と殺菌後にその固定化された物質の生物活性が実質的に保持される殺菌された医療装置が提供される(図9〜図11、図13)。医療装置に対して殺菌前に物理的操作(例えば圧縮と膨張)を施し、大きな生物活性を維持することができる(図12と図13)。
【0038】
図14は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)の実施態様(50)を示している。被覆材料(18)には、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)が結合している。被覆材料(18)は、複数の化学反応基“R”(13)も表面に備えている。その被覆材料には、生体適合性組成物“S”(15)を共有結合させることができる(図16と図17)。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。図15と図17は、金属基板(14)を用いた同様の構造体(50)を示している。
【0039】
図18と図19は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)または金属基板(14)の実施態様(70)の概略図である。被覆材料(18)は、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)と、共有結合した第1の生体適合性組成物“S”(15)を備えている。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【0040】
図20と図21は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)または金属基板(14)の実施態様(80)の概略図である。被覆材料(18)には、複数の生物活性物質“B”(17)が固定化されている。第1の生体適合性組成物(100)が生物活性物質(17)と結合している。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【実施例】
【0041】
実施例1を除き、本発明における表面のヘパリン活性の計算は、サンプル材料の一方の側だけの表面積を用いて行なった。しかしサンプル全体(隙間も含む)の表面にヘパリンを固定化することができる。ヘパリン活性は、末端が結合したヘパリンが既知量のアンチトロンビンIII(AT III)と結合する能力または容量を測定することによって調べた。結果は、基板材料1平方センチメートルに結合したアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数として表わした(ピコモルAT III/cm2基板材料)。このアッセイは、Larsen M.L.他、「トロンビンと発色性基質H-D-Phe-Pip-Arg-pNA(S-2238)を用いた血漿ヘパリンのアッセイ」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)とPasche他、「さまざまな流れ条件下における、固定化されたヘパリンへのアンチトロンビンの結合」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。
【0042】
基板材料の表面積当たりのAT III結合活性は、被覆された基板材料または被覆されていない基板材料の見かけの表面積当たりの結合したAT IIIのピコモル数として定義される。基板の見かけの表面積には、被覆された複数の表面は含まれず、多孔性基板材料の多孔度も含まれない。基板材料が多孔性である場合には、多孔性が表面積に及ぼす効果は計算で考慮しない。例えば(多孔性材料でできた)円筒形チューブの形態のePTFE移植血管においてそのチューブ状移植血管の内面にある基板材料にヘパリンの末端が固定化されている場合の見かけの表面積は、あらゆる円筒形状に関して2πrLとして計算される(ただしrはグラフトの内径であり、Lは軸方向の長さであり、πはパイという数である)。ePTFEの多孔性と、表面積に及ぼすその効果は、この明細書では考慮しないことに注意することが重要である。したがって、分析のために切断されて正方形になる非多孔性基板材料は、長さ×幅という表面積を持つとされる。
【0043】
実施例1
この実施例では、ヘパリンをエチレンオキシド(EtO)で殺菌処理した後に結合していない“純粋な”ヘパリンが生物活性を保持していることを示す。
【0044】
この実施例では、凍結乾燥粉末形態の殺菌されていないUSPグレードのヘパリン-ナトリウムをセルサス・ラボラトリーズ社(シンシナチ、オハイオ州)から取得した。テストするため、ヘパリンの量を測定してCHEX-ALL(登録商標)殺菌パウチ(ロング・アイランド・シティ、ニューヨーク州)に入れた。ヘパリンを入れた1つのグループのパウチに対してEtOで殺菌を行なった。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。別のグループに対しては、EtOなしの殺菌手続きを実施した。第3のグループには殺菌手続きを行なわなかった。
【0045】
殺菌手続きの後、既知量のヘパリンを各パウチから取り出し、アメリカン・ディアグノスティカ社(スタンフォード、コネティカット州)から入手できるACTICHROMEヘパリン(抗FXa)アッセイ・キットを用いて生物活性を調べた。各ヘパリン・サンプルの生物活性の値は、ヘパリンの国際単位をヘパリンの重量で割った値(IU/mg)として表わした。ヘパリンの国際単位は、ヘパリンを触媒としたAT IIIによるXa因子の不活化に基づいて計算される。したがって国際単位は、ヘパリンのAT III結合活性の1つの指標である。ヘパリン活性が少しでも低下すると、ACTICHROME試験から、同等な対照ヘパリンと比較したIU/mgの低下となってストレートに表われる。活性が低下したヘパリンは、殺菌プロセスによってある程度不活化されたと見なされる。
【0046】
図8は、EtOによる殺菌が、結合していない状態の乾燥粉末ヘパリンのアンチトロンビンIII(AT III)結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。図8は、各グループのヘパリン・サンプル(n=3)に関する活性レベルの平均を、IU/mgを単位として示している。殺菌を行なわなかった対照ヘパリン・サンプルは、平均値が138IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理(すなわち高湿度、高温など)を行なった対照ヘパリン・サンプルは、平均値が119IU/mgであった。EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、平均値が123IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、殺菌していない対照サンプルと比べて活性が14%低下したのに対し、EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、活性の低下がわずかに11%であった。図8からわかるように、結合していない純粋なヘパリン粉末をEtOの存在下または不在下で殺菌したとき、殺菌していない対照サンプルと比べてヘパリンに対するAT IIIの結合が著しく少なくなることはない。結合していない非殺菌ヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、EtOなしの殺菌またはEtOを用いた殺菌によって著しく低下することはない。したがって、似たEtO殺菌条件にした固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性の低下は、EtOを用いた殺菌またはEtOなしの殺菌を単に行なうこと以外のメカニズムによって起こっているに違いない。
【0047】
実施例2
この実施例では、本発明の一実施態様による構造体として、ヘパリン-アンチトロンビンIII(AT III)の結合がEtOを用いた殺菌によって著しく低下することはない構造体について説明する。
【0048】
アメリカ合衆国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、アメリカ合衆国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って製造されたアルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の表面に配置した被覆材料またはコーティング層に結合させた。追加の生体適合性有機組成物をヘパリンが結合した被覆材料の中に組み込み、固定化されたそのヘパリンに対してEtOを用いた殺菌を行なっても生物活性が著しく低下しないようにした。
【0049】
シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。ベース・コーティングの形態の被覆材料をePTFE材料に付着させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間にわたって浸し、次いでLUPASOL(登録商標)ポリエチレンイミン(PEI)とIPAが1:1の溶液に浸した。無水LUPASOL(登録商標)PEIはBASF社から取得し、希釈して約4%の濃度にし、pHを9.6に調節した。ePTFE材料を上記溶液の中に約15分間にわたって浸した後、材料をその溶液から取り出し、pH9.6の脱イオン(DI)水の中で15分間にわたってリンスした。ePTFE材料の表面に残ったPEIを15分間にわたって(アムレスコ社から取得した)グルタルデヒドの0.05%水溶液(pH9.6)と架橋させた。追加のPEIをこの構造体に付加するため、その構造体をPEIの0.5%水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって入れ、DI水(pH9.6)の中で15分間にわたって再びリンスした。グルタルデヒドとPEI層が反応した結果として形成されるイミンを、シアンホウ水素化ナトリウム(NaCNBH3)溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)を用いて15分間にわたって還元し、DI水の中で30分間にわたってリンスした。
【0050】
追加のPEI層を構造体に付加するため、その構造体を0.05%グルタルデヒド水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって浸した後、0.5%PEI水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって浸した。次に構造体をDI水(pH9.6)の中で15分間にわたってリンスした。得られたイミンを還元するため、NaCNBH3溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)の中に構造体を浸した後、DI水の中で30分間にわたってリンスした。第3の層を構造体に付着させるため、これらのステップを繰り返した。結果は、架橋した親水性ポリマー・ベース被覆がベース材料の露出した面と隙間の面の実質的に全体に存在する多孔性疎水性フルオロポリマー・ベース材料であった。
【0051】
構造体の表面に別のPEI層を配置するため、中間化学層をポリマー・ベース被覆に付着させた。この中間イオン電荷層は、硫酸デキストラン(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)と塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)の中で構造体を60℃にて90分間にわたってインキュベートした後、DI水で15分間にわたってリンスすることによって作った。
【0052】
PEI層(この明細書では“キャップ層”と呼ぶ)を中間層に付着させるため、構造体を0.3%PEI水溶液(pH9)の中に約45分間にわたって入れた後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で20分間にわたってリンスした。DI水を用いた最後のリンスを20分間にわたって実施した。
【0053】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合または共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、サンプルを添加した。次にサンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。ヘパリンの存在と一様性は、構造体のサンプルの両側をトルイジン・ブルーで染色することによって調べた。染色によって均等に紫色になった表面が生じるというのは、ヘパリンが存在していてePTFE材料に一様に結合していることを示す。
【0054】
ヘパリンが結合した構造体に特別な化合物または組成物を付加することにより、ヘパリンの生物活性を低下させるであろう条件に曝露した後にヘパリンの生物活性を維持することができる。そのような条件として、EtOを用いた殺菌、物理的圧縮と膨張、保管などがある。
【0055】
被覆材料で覆われた上記の構造体を以下の化合物の溶液に曝露し、被覆の各部分に結合したヘパリンの生物活性を安定化させる効果を評価した。その化合物とは、USPグレードの塩化カルシウム(フィッシャー・サイエンティフィック社)、USPグレードのヘパリン・ナトリウム(セルサス社)、ポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)、DEAEデキストラン(分子量500,000、PKケミカル社)、硫酸デキストランのナトリウム塩(分子量8,000、シグマ社)、デキストラン(分子量9,500、シグマ社)のそれぞれをDI水100ml当たり0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したものである。エタノール100ml当たり0.5gのデキサメタゾンの濃度にしてpHを調節しないものも利用した。この明細書では、これら溶液のそれぞれを“処理溶液”と呼ぶ。EtOを用いた殺菌後に、アンチトロンビンIIIに対するヘパリンの結合活性にこれらのさまざまな化合物が及ぼす効果は、基板材料1平方センチメートル(cm2)に結合したアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数として表わした。得られたデータを図9にまとめてある。
【0056】
特定のヘパリン含有構造体を特定の処理溶液に曝露するため、その構造体を2リットルのビーカーに入れて100mlの処理溶液を添加し、その構造体が処理溶液の中に完全に浸るようにした。各構造体を60℃の処理溶液に1時間にわたって曝露した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを実施した。
【0057】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0058】
EtOを用いた殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0059】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)のサンプルを構造体から切り出した後、末端が結合したヘパリンがAT IIIに結合する能力を測定することにより、ヘパリンの活性を調べた。このアッセイは、Larsen M.L.他、「トロンビンと発色性基質H-D-Phe-Pip-Arg-pNA(S-2238)を用いた血漿ヘパリンのアッセイ」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)とPasche他、「さまざまな流れ条件下における、固定化されたヘパリンへのアンチトロンビンの結合」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。結果は、単位表面積当たりに結合するAT IIIの量として、ピコモル/cm2の単位で表わした。アッセイ期間を通じてすべてのサンプルを湿潤条件に保持した。約1平方センチメートル(1cm2)の各サンプルは、もし材料の両側を考慮すると合計で2平方センチメートル(2cm2)の表面積を持つが、AT III-ヘパリン結合活性(単位はピコモル/cm2)の計算にはサンプルの1つの面しか利用しなかったことに注意することが重要である。
【0060】
図9は、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンと非共有結合するさまざまな生体適合性有機組成物が、その固定化されたヘパリンをEtOで殺菌した後にその固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【0061】
固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したAT IIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表示した。対照サンプルの1つの集合は殺菌しなかった。対照サンプルの別の集合は、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物がない状態でEtOを用いて殺菌した。残りの各棒は、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物が存在しているときの固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を示している。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を示しているが、硫酸デキストランだけはn=6個のサンプルである。
【0062】
この棒グラフからわかるように、殺菌した対照サンプルでは、殺菌していない対照サンプルと比べてアンチトロンビンIII結合活性が劇的に低下した。殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1cm2につき103ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1cm2につき66ピコモルであった。EtOを用いて殺菌すると、殺菌していないサンプルと比べてアンチトロンビンIII結合活性が36%低下した。
【0063】
固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した上記の生体適合性有機組成物が殺菌後にアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす影響は、次の段落にまとめてある。各構造体からのそれぞれの生体適合性有機組成物をすでに説明したようにしてリンスした後、アンチトロンビンIII結合活性を測定した。
【0064】
ヘパリンを構造体に付加したとき、平均アンチトロンビンIII結合活性は108ピコモル/cm2であった。構造体にデキストランを付加すると、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき98ピコモルになった。構造体に硫酸デキストランを付加したとき、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき134ピコモルであった。さらに、ポリエチレングリコールにより、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき129ピコモルになった。興味深いことに、これらの値は、殺菌していない対照サンプルの平均値である基板材料1cm2につき103ピコモルよりも大きい。
【0065】
無機物である塩化カルシウム(CaCl2)を構造体に付加したとき、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき75ピコモルであった。構造体にデキサメタゾンを付加すると、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき42ピコモルになった。DEAEデキストランは固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を低下させるらしく、基板材料1cm2につき平均活性が5ピコモルであった。
【0066】
これらの結果から、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した適切な生体適合性組成物があると、EtOを用いた殺菌の後に、末端が結合したヘパリンがアンチトロンビンIII結合活性を維持または増大させる能力を持つことがわかる。
【0067】
実施例3
この実施例では、追加の生体適合性組成物が、埋め込み可能な医療装置の1つの部品である基板材料上のポリマー被覆に末端が結合したヘパリンの大きなアンチトロンビンIII(AT III)結合活性を生み出す能力を持つことを説明する。
【0068】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。
【0069】
VIABAHN(登録商標)体内プロテーゼは送達用カテーテルの内部に拘束されていたため、ヘパリンをその表面に固定化する前にカテーテルから取り出す必要があった。カテーテルに拘束された各装置は、拘束用の鞘に取り付けた紐を引っ張り、その鞘を装置の周囲から解放することによって取り出して処理した。各装置は、非拘束状態になると膨張し、独立した基板材料として使用した。それぞれの基板材料(体内プロテーゼ装置)を、体積比が30:70のPEI溶液(DI水の中に5%)とIPA(USPグレード)に約12時間にわたって浸し、ポリマー被覆材料(18)を基板材料(12)の表面に付着させた。ポリマー被覆材料(18)は複数の反応性化学基(16)を備えており、アルデヒドで修飾された複数のヘパリン分子(17)の末端を最終的にその反応性化学基に結合させた。
【0070】
少なくとも1つの追加の被覆材料(18A、18B)層を第1のPEI層(18)の上に配置した。これは、各体内プロテーゼ装置を別のシリコーン製チューブの中に配置し、そのチューブを蠕動ポンプと溶液リザーバに接続することによって実施した。こうすることにより、被覆材料を含む追加の溶液を繰り返してチューブ状医療装置の中心を通過させることができたため、その装置の内面が主に被覆された。
【0071】
上記の動的流れシステムのうちの1つの中に各体内プロテーゼが収容された状態で、体積の%比が45:55の0.10%(pH9.0)PEIとIPA水溶液の形態になった被覆材料(18)を約25分間にわたってその体内プロテーゼの中を通過させた。次に各体内プロテーゼをDI水(pH9.0)の中で5分間にわたってリンスし、0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.0)に20分間にわたって曝露することによってPEI層を架橋させた。次にこれらの体内プロテーゼを再びPEI水溶液(0.10%、pH9.0)で5分間にわたってリンスした。得られたイミンをシアンホウ水素化ナトリウム溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH9.0)で15分間にわたって還元し、DI水の中で30分間にわたってリンスした。
【0072】
中間イオン電荷層を各体内プロテーゼの架橋したPEI層の上に配置するため、硫酸デキストランと塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)を動的流れシステムの中とPEI層の上を60℃にて約90分間にわたって流した。その後、このシステムをDI水で15分間にわたってリンスした。
【0073】
PEIの“キャップ”層(18B)をイオンで帯電した硫酸デキストラン層(18A)に付加するため、PEI水溶液(0.075%、pH9.0)を動的流れシステムの中を約45分間にわたって流した後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で15分間にわたってリンスした。リンスの後、DI水を2.5分間という短時間吹きかけた。
【0074】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合または共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加してから10分後、ステップを開始した。DI水の中で15分間にわたって1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。選択したサンプルをトルイジン・ブルーで染色すると、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが一様に結合していることを示す。
【0075】
上記の実施例2で説明した研究で得られた結果に基づき、USPグレードのヘパリン(ナトリウム塩)と、DI水100mlにつき0.5gの濃度にした8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)を好ましい生体適合性有機組成物として選択し、EtOを用いた殺菌中と殺菌後の固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を維持または安定化させた。
【0076】
それぞれの好ましい生体適合性有機組成物に関し、ポリマー被覆材料に末端が結合したヘパリンを有する体内プロテーゼの断片を、その生体適合性有機組成物の溶液(それぞれ100mlのDI水に0.5gの濃度、pH9.6)を収容したプラスチック製チューブの中に配置し、60℃にて1時間にわたってインキュベートした。処理した各サンプルをプラスチック製チューブから取り出し、凍結乾燥させた。
【0077】
凍結乾燥させた各サンプルを個別のTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封し、EtOで殺菌した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0078】
エチレンオキシドを用いた殺菌の後、各構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0079】
EtOで殺菌した各装置から基板材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、固定化されたヘパリンの生物活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、装置の全表面積(すなわち管腔から離れた面と管腔面の両方)ではなく、各装置の管腔面で測定した基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0080】
図10は、ヘパリンと硫酸デキストランの形態である別々の生体適合性有機組成物が、EtOによる殺菌中と殺菌後に、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。アンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数として表わす。結果からわかるように、生体適合性有機組成物としてヘパリンと硫酸デキストランを用いると、EtOを用いた殺菌後に、固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII結合活性は大きく、それぞれ基板材料1cm2につき97ピコモルと91ピコモルである。どの棒も、n=6個のサンプルの平均値を表わしている。
【0081】
実施例4
この実施例では、本発明の一実施態様の構造体として、アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端を、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料に結合させた構造体について説明する。この構造体のヘパリン-AT III結合は、EtOを用いた殺菌によって著しくは減少しなかった。
【0082】
この構造体でベース被覆として用いる被覆材料は、ヘパリン含有被覆材料またはコーティングがイオン電荷を実質的に持たないように選択した。ポリビニルアルコールとPEIを被覆材料として使用した。
【0083】
アメリカ合衆国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、アルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、被覆された基板材料に結合させた。基板材料(12)は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料であった。追加の生体適合性有機組成物(100)を構造体のヘパリン含有被覆材料(18)に組み込み、EtOを用いた殺菌によってヘパリンの生物活性が著しく低下しないようにした。
【0084】
シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。被覆材料層またはベース被覆をePTFE基板材料に付着させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間にわたって浸した。その後、そのePTFE材料をUSPグレードのポリビニルアルコール(PVA)(スペクトラム社)の2%水溶液に15分間にわたって浸した。DI水の中で15分間にわたってリンスした後、PVA層を2%のグルタルデヒドと1%の塩酸(HCl)を含む水溶液に15分間にわたって曝露し、その場でPVA(18)を架橋させた(19)。この構造体をDI水の中で15分間にわたってリンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。得られた架橋したPVAベース被覆は、正味のイオン電荷を持っていなかった。
【0085】
ポリマー被覆材料(18A)からなる別の層を構造体に付加するため、その構造体を0.15%PEI水溶液(pH10.5)に30分間にわたって浸した。得られたイミンを還元するため、構造体をシアンホウ水素化ナトリウム水溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH10.5)に15分間にわたって浸した。構造体をDI水の中で15分間にわたってリンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。
【0086】
表面に複数の反応性化学基を有する被覆されたePTFE基板材料を、60℃にしたヘパリン溶液(1.0gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)に90分間にわたって浸した。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、このステップを開始した。DI水の中で15分間にわたって1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。次に、構造体のサンプルをトルイジン・ブルーで染色した。この染色により、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが、被覆されたePTFE材料の表面に一様に結合していることを示す。
【0087】
USPグレードの8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)(シグマ社)の形態になった生体適合性有機組成物を含む水溶液で構造体を処理するため、その構造体を60℃にした100mlの処理溶液(0.5gの硫酸デキストラン/100mlのDI水、pH9.6)に1時間にわたって浸した。構造体を処理溶液から取り出し、凍結乾燥させた。
【0088】
凍結乾燥させた各サンプルをTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れ、EtOで殺菌した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0089】
EtOを用いた殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0090】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0091】
図11は、硫酸デキストランの形態である生体適合性有機組成物が、EtOによる殺菌中と殺菌後に、延伸多孔性ポリテトラフルオロエチレン基板材料と、ポリビニルアルコールおよびPEIからなる被覆材料とに末端が固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数として表わす。
【0092】
殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモルであった。エチレンオキシドで殺菌したサンプルを硫酸デキストランで処理したものは、アンチトロンビンIII結合活性が基板材料1平方センチメートル当たり115ピコモルであった。この値は、エチレンオキシドで殺菌した装置を硫酸デキストラン処理溶液に曝露しなかった場合の対照値(すなわち基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモル)よりも大きかった。これは、付加された硫酸デキストランにより、EtOを用いた殺菌の後に、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性が増大したことを示している。これら構造体のどちらも、非処理でEtOを用いずに殺菌した対照(基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモル)よりもアンチトロンビンIII結合活性が著しく低かった。
【0093】
結果からわかるように、硫酸デキストランは、EtOを用いた殺菌の後、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料を有する構造体に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に大きな影響を与えた。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0094】
実施例5
この実施例では、追加の生体適合性有機組成物が、ヘパリンの生物活性を大きく低下させるのに十分な大きさの物理的応力を印加している間と印加後に、被覆された基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンの生物活性を維持または増大させる能力について説明する。
【0095】
この実施例では、上記の実施例3に記載したようにして、体内プロテーゼの形態の埋め込み可能な医療装置にヘパリン含有被覆を設けた。各プロテーゼは、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。装置の表面にヘパリン含有被覆を形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0096】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内装置の基板材料(12)を製造した。製造した装置の断片をプラスチック製チューブの中に配置し、60℃のグリセロール溶液(100mlのDI水の中に5mlのシグマ-オールドリッチ社のシグマウルトラ・グリセロール、pH9.6)とともに1時間にわたってインキュベートした。処理した各装置をプラスチック製チューブから取り出して凍結乾燥させた。
【0097】
円筒形の各体内プロテーゼを血管内送達システムの上に配置し、拘束用の鞘を用いて送達システムに拘束するのに十分な小ささになるまで物理的に圧縮した。実施例3に従って作った装置は、被覆の中に組み込まれたヘパリンの活性を著しく低下させることなく、送達システム上の体内プロテーゼの圧縮に伴う物理的応力に耐えることができる。
【0098】
テストする各体内プロテーゼに対して正反対の操作である圧縮と膨張をさせている間、末端が結合されたヘパリンの生物活性が維持されるよう、非共有結合する生体適合性有機組成物(100)としてグリセロールを選択した。対照となる各体内プロテーゼの断片は、末端が結合した(すなわち共有結合した)ヘパリン(17)とポリマー被覆材料(18)に加えて非共有結合した生体適合性グリセロール組成物(100)を含むことはなかった。各体内プロテーゼを凍結乾燥させた。
【0099】
送達システムの上で管腔内装置を圧縮してコンパクトにするため、各体内プロテーゼを引っ張り、直径が固定されたテーパー状漏斗の中を通過させた。各体内プロテーゼには、引っ張って漏斗の中を通過させるため、一端に6本の縫合糸(Gore-Tex(登録商標)CV-0、0N05)が縫い付けられていた。各体内プロテーゼを引っ張ることにより直径が約3mmである25mlのピペットの先端(Falcon(登録商標)、製品番号357525)の開口部を通過させて直径が約3.1mmのガラス製チューブの中に入れることで、各体内プロテーゼをコンパクトな状態に保持した。
【0100】
圧縮の後、各体内プロテーゼを37℃の0.9%生理食塩水の中で広げ、リンスし、この明細書に記載したようにしてアンチトロンビンIII結合活性を調べた。結果を図12に示してある。テスト用の各体内プロテーゼを作るため、DI水の中で15分間にわたって洗浄した後、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0101】
各体内プロテーゼからヘパリン含有材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0102】
図12は、ヘパリンが固定化されたグリセロール組成物が、圧縮と膨張の後に、被覆された基板材料に及ぼす効果を示す棒グラフである。結果から、固定化されたヘパリンにグリセロールを付加すると、その固定化されたヘパリンの圧縮と膨張の後に、結合したヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、グリセロールが付加されていない同様の処理をされた対照サンプルと比較して著しく大きくなることがわかる。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0103】
生体適合性有機グリセロール組成物が付加されていないポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンに対して正反対の操作である圧縮と膨張を行なうと、同様の構成になっていて同様の処理をした対照材料にその正反対の操作である圧縮と膨張を行なわなかった場合(137ピコモル/cm2)と比較し、アンチトロンビンIII結合活性が著しく低下した(85ピコモル/cm2)。ヘパリンが固定化された被覆された基板材料を生体適合性有機グリセロール組成物で処理し、処理しない構造体と同じ物理的操作を施すと、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、対照材料と似た値に留まった(129ピコモル/cm2)。
【0104】
実施例6
この実施例では、生体適合性有機組成物の付加が、圧縮、膨張、EtOを用いた殺菌という操作を施した後に、実施例3と5に記載した被覆された医療装置のアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果について説明する。
【0105】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、実施例3に記載したのと同様にして構成した。この医療装置は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。この装置の表面にヘパリン含有被覆を形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0106】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内装置の基板材料(12)を製造した。製造した装置をプラスチック製チューブの中に配置し、ヘパリンとグリセロールの溶液(100mlのDI水の中に0.5gのUSPヘパリンと5mlのグリセロールを溶かした、pH9.6)とともに60℃にて1時間にわたってインキュベートした。実施例2、3、5の結果に基づいてこれらの化合物を選択した。処理した各装置をヘパリンとグリセロールの溶液から取り出して凍結乾燥させた。装置に対する以後の処理と分析は、上記の実施例5と同じであった。
【0107】
図13は、グリセロールとヘパリンの形態である生体適合性有機組成物が、EtOを用いた殺菌操作と、ヘパリンが固定化された基板とポリマー被覆材料の圧縮と膨張という形態の物理的操作の間と、これらの操作の後に、基板材料の表面にあるポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0108】
EtOを用いた殺菌操作と、正反対の操作である圧縮と膨張という操作を、ヘパリンが固定化された被覆された基板材料に生体適合性有機組成物としてグリセロールとヘパリンが付加されていないものに対して施すと、アンチトロンビンIII結合活性が、EtOを用いた殺菌操作と、正反対の操作である圧縮と膨張という操作を施していない、同様の構成で同様の処理をした対照材料(158ピコモル/cm2)と比較し、著しく低下した(63ピコモル/cm2)。ヘパリンが固定化された被覆された基板材料を生体適合性有機組成物であるグリセロールとヘパリンで処理し、処理していない構造体と同じEtO殺菌条件を経験させて物理的操作を実施すると、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は対照材料と似た値に留まった(147ピコモル/cm2)。
【0109】
実施例7
この実施例では、ヘパリンで被覆された市販の医療装置のアンチトロンビンIII結合活性が比較的小さいことを示す。この装置は、長さが50cm、直径が6mmで、殺菌されて包装されたヘパリンで被覆された移植血管であり、ジョテック社(ヘヒンゲン、ドイツ国)からFLOWLINE BIPORE(登録商標)ヘパリン被覆移植血管(カタログ番号15TW5006N)という商品名で入手できた。製造者によると、このチューブ状移植血管は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料でできており、ヘパリンがこのグラフトの管腔面に共有結合とイオン結合によって結合している。ヘパリンは安定でePTFEに永久的に結合していると製造者は述べている。ヘパリン含有グラフトの表面は抗血栓であるとのことである。
【0110】
このヘパリン含有移植血管のサンプル(長さ0.5cm)を入手し、上記の実施例2に記載したようにしてテストした。本発明の材料と同様、移植血管のアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりのアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。前の実施例と同様、装置の全表面積ではなく、各装置の管腔の表面積だけを測定した。AT III結合アッセイの結果から、生物活性を有するヘパリンが移植血管の管腔面に存在しているという製造者の主張にもかかわらず、アンチトロンビンIII結合活性は見られなかった。アンチトロンビンIII結合活性アッセイでは、基板材料1平方センチメートル当たり約5ピコモル(5ピコモル/cm2)以上のレベルのアンチトロンビンIII結合活性を検出できることに注意されたい。
【0111】
実施例8
この実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆された基板材料または被覆されていない基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンと組み合わせて利用することについて説明する。この構造体は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示した。
【0112】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0113】
上記の構造体をバシトラシン(72,000単位/グラム)の溶液(100mlの脱イオン水(DI水)に0.5gの濃度)に曝露するため、その構造体を100mlのバシトラシン溶液に室温にて3時間にわたって浸した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを実施した。
【0114】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0115】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0116】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0117】
バシトラシンで処理した後にエチレンオキシドで殺菌したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が9ピコモル/cm2であった(n=3)。
【0118】
実施例9
この実施例では、被覆またはコーティングされた基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンをEtOを用いて殺菌した後、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。この実施例では、生体適合性有機組成物としてペプチド抗生剤を選択した。このようにして処理した構造体は、EtOを用いた殺菌の後、ヘパリン-AT IIIの結合が多かった。
【0119】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0120】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0121】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をNUAIRE生物学的安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU-425-600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0122】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)の殺菌したサンプルを構造体から切り出した後、濾過殺菌したバシトラシン溶液(ホスピラ社から購入した0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間にわたってこのバシトラシン溶液に曝露した。
【0123】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0124】
ヘパリンの末端が結合したシート材料のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0125】
最初にエチレンオキシドで殺菌し、次いでバシトラシンを用いて処理したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が185ピコモル/cm2であった(n=3)。この結果からわかるように、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを殺菌した後に、そのヘパリンの生物活性を著しく低下させることなく治療剤をそのヘパリンと混合することができる。
【0126】
実施例10
この実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、EtOを用いて殺菌し、最後にペプチド抗生剤で処理することについて説明する。このようにして処理した構造体は、ヘパリン-AT IIIの結合が多かった。
【0127】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0128】
上記の構造体を、100mlのDI水につき0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)の溶液に曝露した。構造体をビーカーの中に入れ、100mlのポリエチレングリコール溶液を添加して構造体をその溶液の中に完全に浸した。構造体を60℃にて1時間にわたってそのポリエチレングリコール溶液に曝露した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを行なった。
【0129】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0130】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をNUAIRE生物学的安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU-425-600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0131】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)の殺菌したサンプルを構造体から切り出した後、濾過殺菌したバシトラシン溶液(0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間にわたってこのバシトラシン溶液に曝露した。
【0132】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0133】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0134】
最初にポリエチレングリコールで処理し、エチレンオキシドで殺菌し、次いでバシトラシンで処理したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が195ピコモル/cm2であった(n=3)。したがって、生物活性のあるヘパリンが固定化されていて、そのヘパリンに第1の生体適合性有機組成物(PEG)が混合された殺菌済みの被覆された基板材料は、EtOを用いた殺菌の後に第2の生体適合性有機組成物(バシトラシン)でさらに処理するとき、大きなAT III結合活性を維持することができる。
【0135】
実施例11
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0136】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0137】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたデキストラン(分子量40,000、ピアス社)溶液(アルデヒドで活性化させたデキストラン0.050gとNaCl2.93gを100mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.286mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液をアルデヒドで活性化させたデキストラン溶液100mlに添加した後、サンプルを添加した。
【0138】
アルデヒドで活性化させたデキストラン溶液から構造体を取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0139】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0140】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0141】
この実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が65ピコモル/cm2であった(n=3)。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、EtOを用いた殺菌の後にヘパリンの大きな活性を維持できることがわかる。
【0142】
実施例12
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0143】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0144】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量1,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0145】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0146】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0147】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0148】
この実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が96ピコモル/cm2であった(n=3)。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0149】
実施例13
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)をその被覆材料またはコーティング層に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0150】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0151】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量5,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0152】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0153】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0154】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0155】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が64ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0156】
実施例14
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)を被覆材料またはコーティング材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0157】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0158】
末端が結合したヘパリンをすでに含むPEI層にUSPグレードのヘパリンを結合させるため、USPグレードのヘパリンを含む60℃の塩化ナトリウム溶液(1.5gのUSPヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に120分間にわたって構造体を入れた。0.1MのMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、1.5gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした溶液(pH5.5)に構造体を移し、4時間にわたって室温にした。
【0159】
構造体を上記の溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0160】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0161】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0162】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が31ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0163】
実施例15
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層に2回目の共有結合をさせることについて説明する。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、コーティング層に存在する残った第一級アミン基と反応させた。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0164】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0165】
0.1MのMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、1.5gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした)溶液(pH5.5)に膜を移し、4時間にわたって室温にした。
【0166】
構造体を上記の溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0167】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0168】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0169】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が20ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、ヘパリンは、末端を共有結合させることに加えてさらにコーティング層に共有結合させたとき、EtOを用いた殺菌の後にヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0170】
実施例16
この実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンと組み合わせて用いることについて説明する。この構造体は、物理的圧縮と膨張の後のアンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0171】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。次に、実施例8に記載した条件を利用してバシトラシンを付着させる。次に、ヘパリン化したこの管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、リンスし、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0172】
バシトラシンで処理した後、圧縮し、膨張させたサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0173】
実施例17
この実施例では、被覆された基板材料に生物活性のあるヘパリンを固定化し、その基板材料を圧縮し、膨張させた後、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。ペプチド抗生剤を生体適合性有機組成物として選択する。このようにして処理した構造体は、圧縮と膨張の後にヘパリン-AT IIIの結合が多い。
【0174】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化した後、実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、膨張させる。次に、実施例9に記載したようにして管腔内プロテーゼをバシトラシンで処理し、リンスする。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにしてテスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0175】
圧縮し、膨張させた後、バシトラシンを付加したヘパリン化したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0176】
実施例18
この実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンについて説明する。固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、物理的に圧縮し、物理的に膨張させた後、ペプチド抗生剤で処理する。このようにして処理した構造体は、物理的操作の後にヘパリン-AT IIIの結合が多い。
【0177】
実施例17に記載したようにして管腔内プロテーゼを処理し、テストするが、1点だけ異なっている。それは、実施例10に記載したようにしてポリエチレングリコールをヘパリン化管腔内プロテーゼと混合した後、圧縮と膨張を行なう点である。
【0178】
生体適合性有機組成物と混合したヘパリン化サンプルを圧縮し、膨張させた後にバシトラシンを付加したものは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0179】
実施例19
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0180】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0181】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0182】
実施例20
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0183】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例12に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0184】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0185】
実施例21
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0186】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例13に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0187】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0188】
実施例22
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0189】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。実施例14に記載したようにしてUSPヘパリンをコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0190】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0191】
実施例23
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層の反応基に2回目の共有結合をさせる。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、コーティング層に存在する残った第一級アミン基と反応させる。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させる。その後、この構造体のヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0192】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。固定化されたヘパリンを、実施例15のようにしてコーティング層にさらに共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0193】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0194】
実施例24
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、殺菌と、物理的な圧縮および膨張の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0195】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0196】
次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、実施例3に記載したようにして殺菌する。次に、実施例5に記載したようにしてその管腔内プロテーゼを膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0197】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0198】
実施例25
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物を被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、物理的な圧縮と膨張の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0199】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0200】
次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0201】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0202】
実施例26
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0203】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0204】
次に、ヘパリン化した材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0205】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0206】
実施例27
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0207】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。次にこの組成物を殺菌し、実施例8に記載したようにしてサンプリングし、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を実施例2に記載したAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0208】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0209】
実施例28
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0210】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0211】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0212】
実施例29
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示す。
【0213】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを混合してこの組成物に非共有結合させ、次いでその組成物を実施例2に記載したようにして殺菌してサンプリングする。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を実施例2に記載したAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0214】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0215】
実施例30
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0216】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0217】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0218】
実施例31
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示す。
【0219】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。実施例12に記載した方法を利用し、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるが、NaCNBH3は付加しない。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させる。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させる。次に、ヘパリン化したこの材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、サンプリングし、アンチトロンビンIII結合活性をAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0220】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0221】
実施例32
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0222】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。実施例12に記載した方法を利用し、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるが、NaCNBH3は付加しない。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させる。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0223】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー基板材料の概略図である。
【図1A】金属基板材料の概略図である。
【図2】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー基板材料の概略図である。
【図3】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図3A】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図4】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図4A】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図5】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー基板材料の概略図である。
【図6】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図6A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図6B】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図であり、図6に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図6C】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図であり、図6Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図である。
【図7A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図である。
【図7B】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図であり、図7に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7C】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図であり、図7Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図8】結合していないヘパリンの殺菌によってそのヘパリンの生物活性が著しく低下させないことを示す棒グラフである。
【図9】ポリマー被覆材料上の反応性化学基に末端が固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、さまざまな生体適合性組成物がその固定化されたヘパリンの生物活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【図10】基板上のポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、生体適合性有機組成物である付加されたヘパリンまたは硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンのAT III結合活性のレベルを大きくする能力を示す棒グラフである。
【図11】ポリビニルアルコールで被覆された基板に末端が固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、付加された硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図12】基板材料の圧縮と膨張の後に、付加されたグリセロールが、その基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図13】基板材料の物理的圧縮と、エチレンオキシドを用いた殺菌と、基板材料の物理的膨張の後に、付加されたグリセロールとヘパリンが、基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図14】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図15】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図16】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図17】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図18】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図19】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図20】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物と第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図21】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物と第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温、および/または高湿度、および/または抗生剤、および/または物理的応力の条件に曝露された後に生物活性を維持している固定化された生物活性物質を有する基板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
医療装置の分野では、ガラス材料、および/またはポリマー材料、および/または金属材料が一般的な基板材料である。これらの材料は診断装置または体外装置で使用することができる。ガラス以外の多くの材料は埋め込み可能な装置で使用することができる。
【0003】
基板材料に生物活性物質を生物活性のある形態で固定化する際には、その物質と基板材料それぞれの化学的性質の評価する操作が含まれる。基板材料の表面に生物活性物質を固定化するには、その基板材料の化学的組成を変更することがしばしば必要とされる。これは、通常は、基板材料の表面を処理して化学反応する一群の元素または基を生成させた後、適切なプロトコルを利用して生物活性物質を固定化することによって実現される。他の基板材料では、基板材料の表面を、反応性化学基が内部に組み込まれた材料で被覆またはコーティングする。次に、生物活性物質を、その被覆材料の反応性化学基を通じて基板材料の上に固定化する。基板材料を被覆またはコーティングするためのさまざまな方法がこれまでに報告されている。被覆材料またはコーティング材料を有する基板材料に固定化される生物活性物質の代表例は、アメリカ合衆国特許第4,810,784号、第5,213,898号、第5,897,955号、第5,914,182号、第5,916,585号、第6,461,665号に記載されている。
【0004】
生物活性を有する化合物、組成物、物質が固定化されるとき、その“生物製剤”の生物活性は、固定化法によってマイナスの影響を受ける可能性がある。多くの生物製剤の生物活性は、固定化された状態におけるコンホメーション(すなわち一次構造、二次構造、三次構造など)に依存する。所期の機能を発揮するのに十分な活性を生物製剤に与えるコンホメーションでその生物製剤を被覆材料の中に組み込むには、固定化法を注意深く選択することに加え、生物製剤を化学的に変化させることが必要となる可能性がある。
【0005】
被覆と固定化のスキームを最適化しているにもかかわらず、追加の処理(例えば殺菌)によって固定化された生物製剤の生物活性が低下する可能性がある。埋め込み可能な医療装置では、使用する前に殺菌する必要がある。殺菌は、汚染物に対して敏感なインビトロ用診断装置でも必要とされるであろう。そのような装置を殺菌するには、通常は、しばしば数サイクルにわたってその装置を高温、高圧、高湿度に曝露する必要がある。抗生剤(例えばエチレンオキシド(EtO)ガスまたは過酸化水素の蒸気)が殺菌プロセスに含まれる場合がある。殺菌に加え、固定化された生物製剤の物理的な圧縮または延伸や、長期にわたる保管によってその生物製剤の活性が低下する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生物活性を著しく低下させることなく殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管を行なうことのできる、生物活性物質が表面に固定化された医療装置が必要とされている。このような医療装置は、固定化された生物活性物質の生物活性の低下を、殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管の間にできるだけ少なくするのに役立つ生体適合性組成物または生体適合性化合物を、その生物活性物質とともに含むことになろう。その追加の生体適合性組成物または生体適合性化合物は、殺菌の後にいくつかの生物活性物質の生物活性を増大させる場合があろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、生物活性物質が表面に固定化された基板材料と、その生物活性物質の生物活性を低下させるであろう処理条件と保管条件に曝露された後にその生物活性物質が大きな生物活性を保持することを可能にする追加の生体適合性有機組成物とを備える医療装置に関するものである。
【0008】
適切な基板材料としては、生物活性物質を生物活性のある形態で基板材料の1つ以上の面に付着させる、または拘束する、または固定化することのできる反応性化学基を有する表面を持つ任意の材料が可能である。基板材料は、1種類以上の被覆組成物または被覆材料を表面に付着させることを通じ、その材料の表面に付加された複数の反応性化学基も備えることができる。被覆材料の少なくとも一部には、生物活性物質と反応してその生物活性物質を生物活性のある形態で被覆材料に付着させる、または拘束する、または固定化するのに役立つ化学元素、化学基、化合物、成分を有する。いくつかの実施態様では、生物活性物質を取外し可能に固定化することができる。
【0009】
少なくとも1つのタイプの生物活性物質を、基板材料および/または被覆材料の表面にある適切な反応性化学基に化学的に付着させる、または拘束する、または固定化する。複数の生物活性物質を、基板材料および/または被覆材料の表面に存在する複数の反応性化学基の少なくとも一部に固定化した後、生体適合性のある追加の有機組成物を、その生物活性物質、および/または基板、および/またはポリマー被覆材料に共有結合または非共有結合させる。生体適合性有機組成物は、生物活性物質と相互作用するとともに、基板材料および/または被覆材料の反応性化学基と相互作用し、その生物活性物質の生物活性を著しく低下させるであろう条件下でその生物活性物質が生物活性を失わないようにする。そのような条件として、殺菌と保管が挙げられる。膨張可能な管腔内医療装置では、例えばそのような装置の物理的圧縮と膨張によっても生物活性物質の生物活性が著しく低下する可能性がある。
【0010】
いくつかの場合には、追加の生体適合性有機組成物は、殺菌、および/または保管、および/または物理的操作によって生物活性物質にしばしば誘導される望ましくない変化を制限することにより、殺菌、および/または保管、および/または物理的操作の間を通じてその生物活性物質の生物活性を維持しているように見える。活性を低下させる変化としては、生物活性物質のコンホメーションが変化してその物質の活性部位が不明確になることなどが挙げられよう。活性を低下させる変化としては、互いに近くにある生物活性物質間の相互作用も挙げられよう。ポリマー被覆材料に対する生物活性物質の再配置は、その生物活性物質の活性を低下させる可能性のある別の変化である。生物活性物質の単なる変性や分解は、生物活性物質が生物活性を失う別の手段であろう。この明細書により詳しく説明するように、固定化された生物活性物質を、追加の生体適合性有機組成物の存在下で殺菌、および/または保管、および/または物理的に操作すると、その追加の生体適合性有機組成物なしで同じ条件下で処理した同様の固定化された生物活性物質よりも、生物活性をはるかによく保持することができる。
【0011】
追加の生体適合性有機組成物は、殺菌された医療装置から殺菌後処理の間に除去すること、またはその組成物は、その殺菌された医療装置を埋め込み部位で広げた後にインプラントのレシピエントの生理学的プロセスによって除去することができる。
【0012】
好ましい生物活性物質は、基板および/または被覆材料の表面における血栓の形成を低減または抑制する。グリコサミノグリカンが本発明で用いるための好ましい抗血栓剤であり、ヘパリン、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体が特に好ましい。好ましい他の生物活性物質は、本発明の医療装置を埋め込んだ組織からの望ましくない細胞増殖を減らす。本発明で用いるための好ましい抗増殖剤として、デキサメタゾン、ラパマイシン、パクリタキセルなどがある。
【0013】
したがって本発明の一実施態様は、基板材料と;その基板の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII結合活性を持っていてそのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した複数の生物活性物質と;ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物とを含んでいて、生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である医療装置に関する。別の実施態様では、アンチトロンビン結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも6ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも7ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも8ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも9ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)、または基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である。いくつかの実施態様では、アンチトロンビンIII活性は、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも100ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である。
【0014】
本発明の別の一実施態様は、基板材料と、その基板の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII活性を持っていて、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に末端が結合される第1の複数のヘパリン分子と、そのポリマー被覆材料と結合される生体適合性組成物とを含んでいて、第1の複数のヘパリン分子のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)であることを特徴とする医療装置に関する。
【0015】
本発明の別の一実施態様は、ポリマー基板材料と、その基板の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII活性を持っていて、そのポリマー被覆材料の少なくとも一部に末端が結合される複数のヘパリン分子と、そのポリマー被覆材料と結合される複数のポリエチレングリコール分子を含む組成物とを含んでいて、上記複数のヘパリン分子のアンチトロンビンIII結合活性が、基板材料の圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも50ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)であることを特徴とする殺菌された医療装置に関する。
【0016】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の少なくとも一部に存在していてアンチトロンビンIII活性を有する複数の化学物質と、そのポリマー被覆材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質および組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを備える医療装置に関する。
【0017】
本発明のさらに別の一実施態様は、基板材料と、その基板材料の表面の少なくとも一部に付着したポリマー被覆材料と、その基板材料の少なくとも一部に存在していてアンチトロンビンIII活性を有する複数の化学物質と、そのポリマー被覆材料と結合される第1の生体適合性組成物と、その化学物質および組成物と混合される第2の生体適合性組成物とを備える医療装置に関する。
【0018】
非共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、温度が約37℃で実質的に中性pHの0.15Mのリン酸塩緩衝溶液の中に入れると、その有機組成物または第2の複数のヘパリン分子の少なくとも一部が、殺菌または物理的操作をされた医療装置から数時間以内に放出されることがしばしばある。放出された化合物の存在は、定型的なアッセイ技術を利用して緩衝溶液の中で検出することができる。
【0019】
共有結合した生体適合性有機組成物に関する実施態様では、その有機組成物または第2の複数のヘパリン分子は、殺菌または物理的操作の後にその殺菌または物理的操作をされた医療装置の表面に実質的に保持される。
【0020】
さらに別の実施態様では、共有結合した生体適合性有機組成物は、共有結合を解消することによってポリマー被覆材料から放出させることができる。共有結合を解消することによって放出された化合物の存在は、定型的なアッセイ技術を利用して緩衝溶液の中で検出することができる。
【0021】
いくつかの実施態様では、生体適合性有機組成物は、物理的操作および/または殺菌の前に混合することができる。別の実施態様では、生体適合性有機組成物は、物理的操作および/または殺菌の後に(すなわち操作室の中で)混合することができる。これは、有機組成物が、その組成物を用いた基板または装置の物理的操作または殺菌の間に分解する可能性があるときに特に有用である。このようになっていると、有機組成物を、基板上または装置上の個々の位置に用量を変えて配置することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、生物活性物質の生物活性を著しく低下させるであろう殺菌、および/または物理的な圧縮と膨張、および/または保管の後に、大きな生物活性を維持する生物活性物質が固定化された材料と装置に関するものである。固定化された生物活性物質の生物活性は、そのような条件に曝露された後、生物活性物質に共有結合または非共有結合した少なくとも1つの追加の生体適合性組成物の存在によってプラスの影響を受けることができる。たいていの実施態様では、追加の組成物は有機化合物である。しかしいくつかの実施態様では、生体適合性組成物は無機化合物である。好ましい実施態様では、追加の組成物は、多糖の形態になった炭水化物である。好ましい多糖はグリコサミノグリカンである。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体である。
【0023】
図1と図2を参照すると、いくつかのポリマー基板材料(12)は、その基板材料の表面の少なくとも一部に分布した複数の反応性化学基(16)を備えていて、その基板材料には複数の生物活性物質(17)が付着、または拘束、または固定化されていることがわかる。生物活性物質(17)の大半は、反応性化学基(16)を通じて基板材料(12)に共有結合している。ポリマー基板材料(12)の表面は、滑らかな状態、粗い状態、多孔性状態、湾曲した状態、平坦な状態、角ばった状態、不規則な状態のいずれでも、これらの組み合わせでもよい。いくつかの実施態様では、多孔性表面を有する基板材料が、その材料の多孔性表面からその材料の本体の内部へと延びる内部空隙スペースを有する。このような多孔性基板材料は孔同士を結合する内部基板材料を備えていて、その内部基板材料が、生物活性物質を固定化することのできる表面を提供することがしばしばある。多孔性であるかないかに関係なく、基板材料は、フィラメント、膜、シート、チューブ、メッシュ、織布、不織布の形態、またはこれらを組み合わせた形態にすることができる。
【0024】
生物活性物質(17)の固定化に適した基板材料(12)として、生体適合性ポリマー材料(例えばポリエチレン、ポリウレタン、シリコーン、ポリアミド含有ポリマー、ポリプロピレン)がある。反応性化学基(16)がポリマー材料の成分に導入されるのであれば、完全に密な、または多孔性のポリテトラフルオロエチレンが、適切な1つのポリマー基板材料(12)である。基板材料の一部として複数の反応性化学基を有する基板材料を、この明細書では“機能化可能な材料”と呼ぶ。生物活性物質が機能化可能な基板材料と反応すると、その基板材料は機能化されたと見なされ、生物活性物質が固定化される。固定化された物質の生物活性をその後の処理条件(例えば殺菌、物理的圧縮と膨張、保管)の間を通じて維持するため、追加の生体適合性有機組成物を、機能化された材料および固定化された物質と非共有結合させる。
【0025】
基板材料は、1種類以上の被覆組成物または被覆材料を表面に付着させることによって材料の表面に付加した複数の化学反応基も備えることができる。被覆材料の少なくとも一部には、いろいろな生物活性物質と反応する化学元素、基、化合物、成分や、生物活性な形態で1つの生物活性物質を被覆材料に付着させる、または拘束する、または固定化するのに役立つ化学元素、基、化合物、成分を有する。被覆材料は、溶質、粒子、分散液、コーティング、オーバーレイいずれかの形態で付着させることができ、さまざまな方法(例えば共有結合、吸着(物理吸着や化学吸着など)、非共有結合(水素結合やイオン結合など))で基板材料に付着させる。好ましい実施態様では、被覆材料は溶液の形態で付着され、溶媒を除去したときに連続膜層または不連続膜層を基板材料の1つ以上の面に形成する。被覆材料は1つ以上の層にして付着させることができる。各層の被覆材料の化学成分は、同じでも異なっていてもよい。いくつかの実施態様では、被覆材料は自ら架橋するか、他の層の他の被覆材料と架橋する。架橋結合は、共有結合またはイオン結合が可能である。
【0026】
表面に反応性化学基(または適切な反応性化学基)のない基板材料(12、14)(図1A)は、少なくとも一部が、表面に複数の反応性化学基(16)を有するポリマー被覆材料(18)で覆われる(図3と図3A)。そのポリマー被覆材料(18)には、生物活性物質(17)を付着させること、または拘束すること、または固定化することができる(図4と図4A)。生物活性物質(17)の大半は、ポリマー被覆材料(18)の反応性化学基(16)を通じてその被覆材料(18)に共有結合している。ポリマー被覆材料(18)は、基板材料(12、14)の少なくとも一部の上に少なくとも1つの層を形成する。いくつかの実施態様では、ポリマー被覆材料(18)は自ら架橋する(19)か、他の層(18A、18B)の他の被覆材料と架橋する(図7と図7A)。架橋は、共有結合、またはイオン結合、またはその両方が可能である。被覆しやすい基板材料は、ガラス、金属(14)、セラミック、ポリマー材料(12)であり、その中でも特に化学的に不活性なポリマー材料(例えばポリテトラフルオロエチレン)である。
【0027】
アンチトロンビンIII結合能力を持つ少なくとも1つのタイプの生物活性物質(17)を、基板材料(12、14)および/または被覆材料(18)の表面にある適切な反応性化学基(16)に化学的に付着させる、または拘束する、または固定化する。
【0028】
生体適合性組成物(11、15、100)としては、抗血栓剤、抗凝固剤、フィブリン溶解剤、血栓溶解剤、抗生剤、抗微生物/消毒化合物、抗ウイルス化合物、抗増殖剤、細胞接着化合物、細胞抗接着化合物、抗炎症剤などがある。特に興味のある抗血栓剤はグリコサミノグリカンであり、その中でも特にヘパリン(その中にその誘導体とアナログが含まれる)である。他の抗凝固剤として、ヒルジン、活性化されたプロテインC、プロスタグランジンなどがある。フィブリン溶解剤または血栓溶解剤としては、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン・アクチベータ(tPA)などがある。抗生剤の例として、ペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ミノサイクリン、ドキシサイクリン、バンコマイシン、バシトラシン、カナマイシン、ネオマイシン、ゲンタマイシン、エリスロマイシン、セファロスポリンなどがある。セファロスポリンの例として、セファロシン、セファピリン、セファゾリン、セファレキシン、セファラジン、セファドロキシル、セファマンドール、セフォキシチン、セファクロル、セフロキシム、セフォニシド、セフォラニド、セフォタキシム、モキサラクタム、セフトリゾキシム、セフトリアキソン、セフォペラゾンなどがある。抗微生物/消毒化合物の例としては、銀スルファジアジン、クロルヘキシジン、過酢酸、次亜塩素酸ナトリウム、トリクロサン、フェノール、フェノール化合物、ヨードフォア化合物、第四級アンモニウム化合物、塩素化合物、ヘパリンなどと、これらの組み合わせがある。抗ウイルス剤の例としては、α-メチル-1-アダマンタンメチルアミン、ヒドロキシ-エトキシメチルグアニン、アダマンタンアミン、5-ヨード-2'-デオキシウリジン、トリフルオロチミジン、インターフェロン、アデニンアラビノシドなどがある。細胞接着化合物としては、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチン、オステオポンチン、RGDペプチド、RGDSペプチド、YIGSRペプチド、抗体標的細胞表面抗原などがある。細胞の付着に抵抗することのできる細胞としては、ポリHEMA、ポリエチレングリコール、多糖、ポリビニルピロリドン、リン脂質などがある。他の生物活性物質としては、酵素、有機触媒、リボザイム、有機金属、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、ポリアミノ酸、抗体、ヌクレオシド、ヌクレオチド、核酸、ステロイド分子、抗生剤、抗微生物化合物、抗真菌剤、サイトカイン、炭水化物、疎油性物質、脂質、調合薬、治療薬などがある。
【0029】
すでに説明したように多彩な生物活性物質(17)を本発明で使用できるが、哺乳動物の血液の成分と相互作用することができて基板材料(12、14)または被覆材料(18)の表面に凝固物または血栓が形成されるのを阻止する物質が最も好ましい。そのような生物活性物質の多くはオリゴ糖または多糖である。多糖のいくつかはグリコサミノグリカン(例えばグルコサミン組成物やガラクトサミン組成物)である。好ましいグリコサミノグリカンは、ヘパリン組成物、ヘパリン・アナログ、ヘパリン誘導体である。ヘパリンは、成長因子、酵素、モルフォゲン、細胞接着分子、サイトカインと結合することによって媒介される多くの生物学的機能を持つ複合グリコサミノグリカンである。抗凝固剤として機能するヘパリンの生物活性は、ヘパリンが、トロンビンとアンチトロンビンIII(AT III)が結合するための触媒として作用する能力に基づいている。ヘパリンの抗凝固活性の大半は、この結合を容易にする五糖配列と関係している。
【0030】
本発明における固定化にとって最も好ましいヘパリン組成物は、Larmに付与されたアメリカ合衆国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)の教示内容に従って作られた、自由なアルデヒド末端基を有するヘパリン組成物である。自由なアルデヒド末端基を有するヘパリンを作るとき、ヘパリンをジアゾ化によって分解し、自由なアルデヒド末端基を有するヘパリン断片を形成する。自由なアルデヒド末端基により、基板またはポリマー被覆材料の第一級アミノ基にヘパリン組成物の“端部を結合させ”てイミンを形成することができる。そのイミンは、還元によって第二級アミンに変換される。ヘパリン組成物の端部を結合させることにより、そのヘパリン組成物の生物活性のある部分を凝固と血栓の形成にとって重要な血液成分に最もうまく曝露するコンホメーションでヘパリンを固定化することができる。最適な状態で固定化されたヘパリンは、血栓の形成と凝固にとって重要な血液成分に曝露されると、その血液成分と相互作用し、基板および/または被覆材料の表面における血栓の形成や他の凝固イベントを減らしたり阻止したりする。
【0031】
本発明で使用することが望ましい他の生物活性物質(17)として、アンチトロンビンIIIを媒介としてXa因子、抗増殖剤、抗炎症剤を抑制する、“フォンダパリナックス(登録商標)”と呼ばれる合成ヘパリン組成物がある。
【0032】
固定化スキームが最適化されているにもかかわらず、ヘパリンをベースとした生物物質の生物活性は、その物質を殺菌、および/または物理的圧縮と膨張、および/または保管している間に著しく低下する(図9、図11、図12、図13)。すでに説明したように、固定化された生物活性物質の生物活性の低下は、さまざまな因子によって起こる可能性がある。固定化された物質の生物活性の低下が起こるメカニズムが何であれ、固定化された生物活性物質に生体適合性有機組成物を共有結合または非共有結合させると、その物質を殺菌、および/または物理的操作(例えば物理的圧縮と膨張)、および/または保管している間とその後もその物質の生物活性が維持される。
【0033】
追加の生体適合性有機組成物は、生物活性を持っていても持っていなくてもよい。追加の生体適合性有機組成物としては、ポリヒドロキシアルデヒドまたはポリヒドロキシケトンならびにその誘導体の形態になった炭水化物が可能である。そのような炭水化物として、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖(例えばグリコサミノグリカン、グリコサミノマンナン、保管用多糖(デキストランとその誘導体など))などがある。本発明で用いるのに適した他の生体適合性有機組成物として、酸性ムコ多糖、アミノ酸、ポリペプチド、タンパク質、糖タンパク質、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ポリヌクレオチドや、分子量が約100,000MW未満で、帯電した、または帯電していない他の生体適合性脂肪族化合物や芳香族化合物などがある。
【0034】
図5〜図6Aを参照すると、表面に生物活性物質(17)が固定化された被覆された基板(14、12)材料または被覆されていない基板材料(12)が、その生物活性物質(17)、および/または基板材料(14、12)、および/または被覆材料(18)に結合した追加の生体適合性組成物(100)を備えていることがわかる。生体適合性組成物は有機物であることが好ましい。生体適合性有機組成物は、固定化された生物活性物質、および/または基板、および/または被覆材料にさまざまな方法で付着させることができる。好ましい一実施態様では、炭水化物をベースとした適切な生体適合性組成物を水性溶媒に溶かし、その溶液を、スプレー、浸漬コーティング、浸漬、ローリング、塗布、または他の堆積手段により、固定化された生物活性物質、および/または基板、および/または被覆材料に付着させる。適切な系では、生体適合性組成物を有機溶媒に溶かして同様に付着させることができる。
【0035】
本発明の好ましい一実施態様は、解剖学的部位に埋め込んだりそれ以外の方法で設置したりするための殺菌された医療装置に関する。空隙スペースまたは管腔を規定する解剖学的構造の内部に配置してその解剖学的構造を強化したり、その解剖学的構造によって規定される空隙スペースを維持したりするための殺菌された医療装置も好ましい。殺菌されたこのような医療装置を血管構造の内部で使用する場合、末端が結合したヘパリンの形態で固定化された生物活性物質は、その装置の中または周囲を通過する血液と相互作用し、装置で血液と接触する面に血栓またはそれ以外の凝固生成物が形成されるのを最少にしたり阻止したりする。好ましい一実施態様では、追加の生体適合性有機組成物は、基板材料および/または被覆材料と共有結合したポリエチレングリコール化合物である。共有結合したヘパリンは、殺菌された医療装置に留まることが可能である。好ましい殺菌法として、エチレンオキシド・ガスがある。
【0036】
医療装置を製造するには物理的操作を必要とする可能性があり、その物理的操作により、固定化された生物活性物質の生物活性が低下することがしばしばある。上に説明した固定化された生物活性物質、および/または基板材料、および/または被覆材料と結合した追加の生体適合性組成物は、医療装置の物理的圧縮と膨張の後に、その固定化された生物活性物質の生物活性を維持することもできる(図12と図13)。膨張可能なステントとステント-グラフトは、固定化された生物活性物質の生物活性が改善されていることが特に重要な医療装置である。
【0037】
したがって本発明により、生物活性物質が固定化されていて、殺菌中と殺菌後にその固定化された物質の生物活性が実質的に保持される殺菌された医療装置が提供される(図9〜図11、図13)。医療装置に対して殺菌前に物理的操作(例えば圧縮と膨張)を施し、大きな生物活性を維持することができる(図12と図13)。
【0038】
図14は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)の実施態様(50)を示している。被覆材料(18)には、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)が結合している。被覆材料(18)は、複数の化学反応基“R”(13)も表面に備えている。その被覆材料には、生体適合性組成物“S”(15)を共有結合させることができる(図16と図17)。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。図15と図17は、金属基板(14)を用いた同様の構造体(50)を示している。
【0039】
図18と図19は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)または金属基板(14)の実施態様(70)の概略図である。被覆材料(18)は、固定化された複数の生物活性物質“B”(17)と、共有結合した第1の生体適合性組成物“S”(15)を備えている。いくつかの実施態様では、共有結合は解消することもできるため、適切な条件下で生体適合性組成物“S”(15)を被覆材料から放出させることができる。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【0040】
図20と図21は、架橋した(19)ポリマー製の被覆材料またはコーティング材料(18)を表面に有する本発明のポリマー基板(12)または金属基板(14)の実施態様(80)の概略図である。被覆材料(18)には、複数の生物活性物質“B”(17)が固定化されている。第1の生体適合性組成物(100)が生物活性物質(17)と結合している。さらに、この実施態様は、生物活性物質“B”や生体適合性組成物“S”と混合される第2の生体適合性組成物“A”(11)を有する。
【実施例】
【0041】
実施例1を除き、本発明における表面のヘパリン活性の計算は、サンプル材料の一方の側だけの表面積を用いて行なった。しかしサンプル全体(隙間も含む)の表面にヘパリンを固定化することができる。ヘパリン活性は、末端が結合したヘパリンが既知量のアンチトロンビンIII(AT III)と結合する能力または容量を測定することによって調べた。結果は、基板材料1平方センチメートルに結合したアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数として表わした(ピコモルAT III/cm2基板材料)。このアッセイは、Larsen M.L.他、「トロンビンと発色性基質H-D-Phe-Pip-Arg-pNA(S-2238)を用いた血漿ヘパリンのアッセイ」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)とPasche他、「さまざまな流れ条件下における、固定化されたヘパリンへのアンチトロンビンの結合」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。
【0042】
基板材料の表面積当たりのAT III結合活性は、被覆された基板材料または被覆されていない基板材料の見かけの表面積当たりの結合したAT IIIのピコモル数として定義される。基板の見かけの表面積には、被覆された複数の表面は含まれず、多孔性基板材料の多孔度も含まれない。基板材料が多孔性である場合には、多孔性が表面積に及ぼす効果は計算で考慮しない。例えば(多孔性材料でできた)円筒形チューブの形態のePTFE移植血管においてそのチューブ状移植血管の内面にある基板材料にヘパリンの末端が固定化されている場合の見かけの表面積は、あらゆる円筒形状に関して2πrLとして計算される(ただしrはグラフトの内径であり、Lは軸方向の長さであり、πはパイという数である)。ePTFEの多孔性と、表面積に及ぼすその効果は、この明細書では考慮しないことに注意することが重要である。したがって、分析のために切断されて正方形になる非多孔性基板材料は、長さ×幅という表面積を持つとされる。
【0043】
実施例1
この実施例では、ヘパリンをエチレンオキシド(EtO)で殺菌処理した後に結合していない“純粋な”ヘパリンが生物活性を保持していることを示す。
【0044】
この実施例では、凍結乾燥粉末形態の殺菌されていないUSPグレードのヘパリン-ナトリウムをセルサス・ラボラトリーズ社(シンシナチ、オハイオ州)から取得した。テストするため、ヘパリンの量を測定してCHEX-ALL(登録商標)殺菌パウチ(ロング・アイランド・シティ、ニューヨーク州)に入れた。ヘパリンを入れた1つのグループのパウチに対してEtOで殺菌を行なった。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。別のグループに対しては、EtOなしの殺菌手続きを実施した。第3のグループには殺菌手続きを行なわなかった。
【0045】
殺菌手続きの後、既知量のヘパリンを各パウチから取り出し、アメリカン・ディアグノスティカ社(スタンフォード、コネティカット州)から入手できるACTICHROMEヘパリン(抗FXa)アッセイ・キットを用いて生物活性を調べた。各ヘパリン・サンプルの生物活性の値は、ヘパリンの国際単位をヘパリンの重量で割った値(IU/mg)として表わした。ヘパリンの国際単位は、ヘパリンを触媒としたAT IIIによるXa因子の不活化に基づいて計算される。したがって国際単位は、ヘパリンのAT III結合活性の1つの指標である。ヘパリン活性が少しでも低下すると、ACTICHROME試験から、同等な対照ヘパリンと比較したIU/mgの低下となってストレートに表われる。活性が低下したヘパリンは、殺菌プロセスによってある程度不活化されたと見なされる。
【0046】
図8は、EtOによる殺菌が、結合していない状態の乾燥粉末ヘパリンのアンチトロンビンIII(AT III)結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。図8は、各グループのヘパリン・サンプル(n=3)に関する活性レベルの平均を、IU/mgを単位として示している。殺菌を行なわなかった対照ヘパリン・サンプルは、平均値が138IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理(すなわち高湿度、高温など)を行なった対照ヘパリン・サンプルは、平均値が119IU/mgであった。EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、平均値が123IU/mgであった。EtOなしの殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、殺菌していない対照サンプルと比べて活性が14%低下したのに対し、EtOの存在下で殺菌処理を行なったヘパリン・サンプルは、活性の低下がわずかに11%であった。図8からわかるように、結合していない純粋なヘパリン粉末をEtOの存在下または不在下で殺菌したとき、殺菌していない対照サンプルと比べてヘパリンに対するAT IIIの結合が著しく少なくなることはない。結合していない非殺菌ヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、EtOなしの殺菌またはEtOを用いた殺菌によって著しく低下することはない。したがって、似たEtO殺菌条件にした固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性の低下は、EtOを用いた殺菌またはEtOなしの殺菌を単に行なうこと以外のメカニズムによって起こっているに違いない。
【0047】
実施例2
この実施例では、本発明の一実施態様による構造体として、ヘパリン-アンチトロンビンIII(AT III)の結合がEtOを用いた殺菌によって著しく低下することはない構造体について説明する。
【0048】
アメリカ合衆国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、アメリカ合衆国特許第4,613,665号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従って製造されたアルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の表面に配置した被覆材料またはコーティング層に結合させた。追加の生体適合性有機組成物をヘパリンが結合した被覆材料の中に組み込み、固定化されたそのヘパリンに対してEtOを用いた殺菌を行なっても生物活性が著しく低下しないようにした。
【0049】
シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。ベース・コーティングの形態の被覆材料をePTFE材料に付着させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間にわたって浸し、次いでLUPASOL(登録商標)ポリエチレンイミン(PEI)とIPAが1:1の溶液に浸した。無水LUPASOL(登録商標)PEIはBASF社から取得し、希釈して約4%の濃度にし、pHを9.6に調節した。ePTFE材料を上記溶液の中に約15分間にわたって浸した後、材料をその溶液から取り出し、pH9.6の脱イオン(DI)水の中で15分間にわたってリンスした。ePTFE材料の表面に残ったPEIを15分間にわたって(アムレスコ社から取得した)グルタルデヒドの0.05%水溶液(pH9.6)と架橋させた。追加のPEIをこの構造体に付加するため、その構造体をPEIの0.5%水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって入れ、DI水(pH9.6)の中で15分間にわたって再びリンスした。グルタルデヒドとPEI層が反応した結果として形成されるイミンを、シアンホウ水素化ナトリウム(NaCNBH3)溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)を用いて15分間にわたって還元し、DI水の中で30分間にわたってリンスした。
【0050】
追加のPEI層を構造体に付加するため、その構造体を0.05%グルタルデヒド水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって浸した後、0.5%PEI水溶液(pH9.6)の中に15分間にわたって浸した。次に構造体をDI水(pH9.6)の中で15分間にわたってリンスした。得られたイミンを還元するため、NaCNBH3溶液(5gを1リットルのDI水に溶かした、pH9.6)の中に構造体を浸した後、DI水の中で30分間にわたってリンスした。第3の層を構造体に付着させるため、これらのステップを繰り返した。結果は、架橋した親水性ポリマー・ベース被覆がベース材料の露出した面と隙間の面の実質的に全体に存在する多孔性疎水性フルオロポリマー・ベース材料であった。
【0051】
構造体の表面に別のPEI層を配置するため、中間化学層をポリマー・ベース被覆に付着させた。この中間イオン電荷層は、硫酸デキストラン(アマーシャム・ファルマシア・バイオテック社)と塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)の中で構造体を60℃にて90分間にわたってインキュベートした後、DI水で15分間にわたってリンスすることによって作った。
【0052】
PEI層(この明細書では“キャップ層”と呼ぶ)を中間層に付着させるため、構造体を0.3%PEI水溶液(pH9)の中に約45分間にわたって入れた後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で20分間にわたってリンスした。DI水を用いた最後のリンスを20分間にわたって実施した。
【0053】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合または共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、サンプルを添加した。次にサンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させた。ヘパリンの存在と一様性は、構造体のサンプルの両側をトルイジン・ブルーで染色することによって調べた。染色によって均等に紫色になった表面が生じるというのは、ヘパリンが存在していてePTFE材料に一様に結合していることを示す。
【0054】
ヘパリンが結合した構造体に特別な化合物または組成物を付加することにより、ヘパリンの生物活性を低下させるであろう条件に曝露した後にヘパリンの生物活性を維持することができる。そのような条件として、EtOを用いた殺菌、物理的圧縮と膨張、保管などがある。
【0055】
被覆材料で覆われた上記の構造体を以下の化合物の溶液に曝露し、被覆の各部分に結合したヘパリンの生物活性を安定化させる効果を評価した。その化合物とは、USPグレードの塩化カルシウム(フィッシャー・サイエンティフィック社)、USPグレードのヘパリン・ナトリウム(セルサス社)、ポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)、DEAEデキストラン(分子量500,000、PKケミカル社)、硫酸デキストランのナトリウム塩(分子量8,000、シグマ社)、デキストラン(分子量9,500、シグマ社)のそれぞれをDI水100ml当たり0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したものである。エタノール100ml当たり0.5gのデキサメタゾンの濃度にしてpHを調節しないものも利用した。この明細書では、これら溶液のそれぞれを“処理溶液”と呼ぶ。EtOを用いた殺菌後に、アンチトロンビンIIIに対するヘパリンの結合活性にこれらのさまざまな化合物が及ぼす効果は、基板材料1平方センチメートル(cm2)に結合したアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数として表わした。得られたデータを図9にまとめてある。
【0056】
特定のヘパリン含有構造体を特定の処理溶液に曝露するため、その構造体を2リットルのビーカーに入れて100mlの処理溶液を添加し、その構造体が処理溶液の中に完全に浸るようにした。各構造体を60℃の処理溶液に1時間にわたって曝露した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを実施した。
【0057】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0058】
EtOを用いた殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0059】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)のサンプルを構造体から切り出した後、末端が結合したヘパリンがAT IIIに結合する能力を測定することにより、ヘパリンの活性を調べた。このアッセイは、Larsen M.L.他、「トロンビンと発色性基質H-D-Phe-Pip-Arg-pNA(S-2238)を用いた血漿ヘパリンのアッセイ」(Thromb. Res.、1978年、第13巻、285〜288ページ)とPasche他、「さまざまな流れ条件下における、固定化されたヘパリンへのアンチトロンビンの結合」(Artif. Organs、1991年、第15巻、281〜491ページ)に記載されている。結果は、単位表面積当たりに結合するAT IIIの量として、ピコモル/cm2の単位で表わした。アッセイ期間を通じてすべてのサンプルを湿潤条件に保持した。約1平方センチメートル(1cm2)の各サンプルは、もし材料の両側を考慮すると合計で2平方センチメートル(2cm2)の表面積を持つが、AT III-ヘパリン結合活性(単位はピコモル/cm2)の計算にはサンプルの1つの面しか利用しなかったことに注意することが重要である。
【0060】
図9は、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンと非共有結合するさまざまな生体適合性有機組成物が、その固定化されたヘパリンをEtOで殺菌した後にその固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【0061】
固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したAT IIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表示した。対照サンプルの1つの集合は殺菌しなかった。対照サンプルの別の集合は、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物がない状態でEtOを用いて殺菌した。残りの各棒は、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した生体適合性有機組成物が存在しているときの固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を示している。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を示しているが、硫酸デキストランだけはn=6個のサンプルである。
【0062】
この棒グラフからわかるように、殺菌した対照サンプルでは、殺菌していない対照サンプルと比べてアンチトロンビンIII結合活性が劇的に低下した。殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1cm2につき103ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1cm2につき66ピコモルであった。EtOを用いて殺菌すると、殺菌していないサンプルと比べてアンチトロンビンIII結合活性が36%低下した。
【0063】
固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した上記の生体適合性有機組成物が殺菌後にアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす影響は、次の段落にまとめてある。各構造体からのそれぞれの生体適合性有機組成物をすでに説明したようにしてリンスした後、アンチトロンビンIII結合活性を測定した。
【0064】
ヘパリンを構造体に付加したとき、平均アンチトロンビンIII結合活性は108ピコモル/cm2であった。構造体にデキストランを付加すると、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき98ピコモルになった。構造体に硫酸デキストランを付加したとき、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき134ピコモルであった。さらに、ポリエチレングリコールにより、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき129ピコモルになった。興味深いことに、これらの値は、殺菌していない対照サンプルの平均値である基板材料1cm2につき103ピコモルよりも大きい。
【0065】
無機物である塩化カルシウム(CaCl2)を構造体に付加したとき、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき75ピコモルであった。構造体にデキサメタゾンを付加すると、平均アンチトロンビンIII結合活性は基板材料1cm2につき42ピコモルになった。DEAEデキストランは固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を低下させるらしく、基板材料1cm2につき平均活性が5ピコモルであった。
【0066】
これらの結果から、固定化されたヘパリンと被覆材料に非共有結合した適切な生体適合性組成物があると、EtOを用いた殺菌の後に、末端が結合したヘパリンがアンチトロンビンIII結合活性を維持または増大させる能力を持つことがわかる。
【0067】
実施例3
この実施例では、追加の生体適合性組成物が、埋め込み可能な医療装置の1つの部品である基板材料上のポリマー被覆に末端が結合したヘパリンの大きなアンチトロンビンIII(AT III)結合活性を生み出す能力を持つことを説明する。
【0068】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。
【0069】
VIABAHN(登録商標)体内プロテーゼは送達用カテーテルの内部に拘束されていたため、ヘパリンをその表面に固定化する前にカテーテルから取り出す必要があった。カテーテルに拘束された各装置は、拘束用の鞘に取り付けた紐を引っ張り、その鞘を装置の周囲から解放することによって取り出して処理した。各装置は、非拘束状態になると膨張し、独立した基板材料として使用した。それぞれの基板材料(体内プロテーゼ装置)を、体積比が30:70のPEI溶液(DI水の中に5%)とIPA(USPグレード)に約12時間にわたって浸し、ポリマー被覆材料(18)を基板材料(12)の表面に付着させた。ポリマー被覆材料(18)は複数の反応性化学基(16)を備えており、アルデヒドで修飾された複数のヘパリン分子(17)の末端を最終的にその反応性化学基に結合させた。
【0070】
少なくとも1つの追加の被覆材料(18A、18B)層を第1のPEI層(18)の上に配置した。これは、各体内プロテーゼ装置を別のシリコーン製チューブの中に配置し、そのチューブを蠕動ポンプと溶液リザーバに接続することによって実施した。こうすることにより、被覆材料を含む追加の溶液を繰り返してチューブ状医療装置の中心を通過させることができたため、その装置の内面が主に被覆された。
【0071】
上記の動的流れシステムのうちの1つの中に各体内プロテーゼが収容された状態で、体積の%比が45:55の0.10%(pH9.0)PEIとIPA水溶液の形態になった被覆材料(18)を約25分間にわたってその体内プロテーゼの中を通過させた。次に各体内プロテーゼをDI水(pH9.0)の中で5分間にわたってリンスし、0.05%グルタルアルデヒド水溶液(pH9.0)に20分間にわたって曝露することによってPEI層を架橋させた。次にこれらの体内プロテーゼを再びPEI水溶液(0.10%、pH9.0)で5分間にわたってリンスした。得られたイミンをシアンホウ水素化ナトリウム溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH9.0)で15分間にわたって還元し、DI水の中で30分間にわたってリンスした。
【0072】
中間イオン電荷層を各体内プロテーゼの架橋したPEI層の上に配置するため、硫酸デキストランと塩化ナトリウムの溶液(0.15gの硫酸デキストランと100gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3)を動的流れシステムの中とPEI層の上を60℃にて約90分間にわたって流した。その後、このシステムをDI水で15分間にわたってリンスした。
【0073】
PEIの“キャップ”層(18B)をイオンで帯電した硫酸デキストラン層(18A)に付加するため、PEI水溶液(0.075%、pH9.0)を動的流れシステムの中を約45分間にわたって流した後、塩化ナトリウム溶液(50gのNaClを1リットルのDI水に溶かした)の中で15分間にわたってリンスした。リンスの後、DI水を2.5分間という短時間吹きかけた。
【0074】
アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端をPEI層に結合または共役させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(1.5gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れた。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加してから10分後、ステップを開始した。DI水の中で15分間にわたって1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。選択したサンプルをトルイジン・ブルーで染色すると、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが一様に結合していることを示す。
【0075】
上記の実施例2で説明した研究で得られた結果に基づき、USPグレードのヘパリン(ナトリウム塩)と、DI水100mlにつき0.5gの濃度にした8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)を好ましい生体適合性有機組成物として選択し、EtOを用いた殺菌中と殺菌後の固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を維持または安定化させた。
【0076】
それぞれの好ましい生体適合性有機組成物に関し、ポリマー被覆材料に末端が結合したヘパリンを有する体内プロテーゼの断片を、その生体適合性有機組成物の溶液(それぞれ100mlのDI水に0.5gの濃度、pH9.6)を収容したプラスチック製チューブの中に配置し、60℃にて1時間にわたってインキュベートした。処理した各サンプルをプラスチック製チューブから取り出し、凍結乾燥させた。
【0077】
凍結乾燥させた各サンプルを個別のTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封し、EtOで殺菌した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0078】
エチレンオキシドを用いた殺菌の後、各構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0079】
EtOで殺菌した各装置から基板材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、固定化されたヘパリンの生物活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、装置の全表面積(すなわち管腔から離れた面と管腔面の両方)ではなく、各装置の管腔面で測定した基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0080】
図10は、ヘパリンと硫酸デキストランの形態である別々の生体適合性有機組成物が、EtOによる殺菌中と殺菌後に、被覆された基板材料に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。アンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数として表わす。結果からわかるように、生体適合性有機組成物としてヘパリンと硫酸デキストランを用いると、EtOを用いた殺菌後に、固定化されたヘパリンに対するアンチトロンビンIII結合活性は大きく、それぞれ基板材料1cm2につき97ピコモルと91ピコモルである。どの棒も、n=6個のサンプルの平均値を表わしている。
【0081】
実施例4
この実施例では、本発明の一実施態様の構造体として、アルデヒドで修飾されたヘパリンの末端を、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料に結合させた構造体について説明する。この構造体のヘパリン-AT III結合は、EtOを用いた殺菌によって著しくは減少しなかった。
【0082】
この構造体でベース被覆として用いる被覆材料は、ヘパリン含有被覆材料またはコーティングがイオン電荷を実質的に持たないように選択した。ポリビニルアルコールとPEIを被覆材料として使用した。
【0083】
アメリカ合衆国特許第6,653,457号(参考としてその内容はこの明細書に組み込まれているものとする)に従い、アルデヒドで修飾されたヘパリン組成物の末端を、被覆された基板材料に結合させた。基板材料(12)は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料であった。追加の生体適合性有機組成物(100)を構造体のヘパリン含有被覆材料(18)に組み込み、EtOを用いた殺菌によってヘパリンの生物活性が著しく低下しないようにした。
【0084】
シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。被覆材料層またはベース被覆をePTFE基板材料に付着させるため、その被覆材料を直径10cmのプラスチック製刺繍用環状部材に取り付け、その支持されたePTFE材料をまず最初に100%イソプロピルアルコール(IPA)に約5分間にわたって浸した。その後、そのePTFE材料をUSPグレードのポリビニルアルコール(PVA)(スペクトラム社)の2%水溶液に15分間にわたって浸した。DI水の中で15分間にわたってリンスした後、PVA層を2%のグルタルデヒドと1%の塩酸(HCl)を含む水溶液に15分間にわたって曝露し、その場でPVA(18)を架橋させた(19)。この構造体をDI水の中で15分間にわたってリンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。得られた架橋したPVAベース被覆は、正味のイオン電荷を持っていなかった。
【0085】
ポリマー被覆材料(18A)からなる別の層を構造体に付加するため、その構造体を0.15%PEI水溶液(pH10.5)に30分間にわたって浸した。得られたイミンを還元するため、構造体をシアンホウ水素化ナトリウム水溶液(1リットルのDI水の中に5g、pH10.5)に15分間にわたって浸した。構造体をDI水の中で15分間にわたってリンスした後、DI水による2回目の15分間のリンスを行なった。
【0086】
表面に複数の反応性化学基を有する被覆されたePTFE基板材料を、60℃にしたヘパリン溶液(1.0gのヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)に90分間にわたって浸した。体積2.86mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を1リットルのヘパリン溶液に添加した後、このステップを開始した。DI水の中で15分間にわたって1回目のリンスを行なった後、ホウ酸塩緩衝溶液(0.7gのNaClと、10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で約20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。次に、構造体を凍結乾燥させた。次に、構造体のサンプルをトルイジン・ブルーで染色した。この染色により、表面が一様に紫色になった。これは、ヘパリンが、被覆されたePTFE材料の表面に一様に結合していることを示す。
【0087】
USPグレードの8,000MWの硫酸デキストラン(ナトリウム塩)(シグマ社)の形態になった生体適合性有機組成物を含む水溶液で構造体を処理するため、その構造体を60℃にした100mlの処理溶液(0.5gの硫酸デキストラン/100mlのDI水、pH9.6)に1時間にわたって浸した。構造体を処理溶液から取り出し、凍結乾燥させた。
【0088】
凍結乾燥させた各サンプルをTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れ、EtOで殺菌した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0089】
EtOを用いた殺菌の後、各構造体(対照を含む)をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0090】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0091】
図11は、硫酸デキストランの形態である生体適合性有機組成物が、EtOによる殺菌中と殺菌後に、延伸多孔性ポリテトラフルオロエチレン基板材料と、ポリビニルアルコールおよびPEIからなる被覆材料とに末端が固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数として表わす。
【0092】
殺菌していない対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモルであった。殺菌した対照サンプルのアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモルであった。エチレンオキシドで殺菌したサンプルを硫酸デキストランで処理したものは、アンチトロンビンIII結合活性が基板材料1平方センチメートル当たり115ピコモルであった。この値は、エチレンオキシドで殺菌した装置を硫酸デキストラン処理溶液に曝露しなかった場合の対照値(すなわち基板材料1平方センチメートル当たり93ピコモル)よりも大きかった。これは、付加された硫酸デキストランにより、EtOを用いた殺菌の後に、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性が増大したことを示している。これら構造体のどちらも、非処理でEtOを用いずに殺菌した対照(基板材料1平方センチメートル当たり150ピコモル)よりもアンチトロンビンIII結合活性が著しく低かった。
【0093】
結果からわかるように、硫酸デキストランは、EtOを用いた殺菌の後、イオン的に中性の第1の被覆層を含むポリマー被覆材料を有する構造体に固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性に大きな影響を与えた。どの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0094】
実施例5
この実施例では、追加の生体適合性有機組成物が、ヘパリンの生物活性を大きく低下させるのに十分な大きさの物理的応力を印加している間と印加後に、被覆された基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンの生物活性を維持または増大させる能力について説明する。
【0095】
この実施例では、上記の実施例3に記載したようにして、体内プロテーゼの形態の埋め込み可能な医療装置にヘパリン含有被覆を設けた。各プロテーゼは、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。装置の表面にヘパリン含有被覆を形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0096】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内装置の基板材料(12)を製造した。製造した装置の断片をプラスチック製チューブの中に配置し、60℃のグリセロール溶液(100mlのDI水の中に5mlのシグマ-オールドリッチ社のシグマウルトラ・グリセロール、pH9.6)とともに1時間にわたってインキュベートした。処理した各装置をプラスチック製チューブから取り出して凍結乾燥させた。
【0097】
円筒形の各体内プロテーゼを血管内送達システムの上に配置し、拘束用の鞘を用いて送達システムに拘束するのに十分な小ささになるまで物理的に圧縮した。実施例3に従って作った装置は、被覆の中に組み込まれたヘパリンの活性を著しく低下させることなく、送達システム上の体内プロテーゼの圧縮に伴う物理的応力に耐えることができる。
【0098】
テストする各体内プロテーゼに対して正反対の操作である圧縮と膨張をさせている間、末端が結合されたヘパリンの生物活性が維持されるよう、非共有結合する生体適合性有機組成物(100)としてグリセロールを選択した。対照となる各体内プロテーゼの断片は、末端が結合した(すなわち共有結合した)ヘパリン(17)とポリマー被覆材料(18)に加えて非共有結合した生体適合性グリセロール組成物(100)を含むことはなかった。各体内プロテーゼを凍結乾燥させた。
【0099】
送達システムの上で管腔内装置を圧縮してコンパクトにするため、各体内プロテーゼを引っ張り、直径が固定されたテーパー状漏斗の中を通過させた。各体内プロテーゼには、引っ張って漏斗の中を通過させるため、一端に6本の縫合糸(Gore-Tex(登録商標)CV-0、0N05)が縫い付けられていた。各体内プロテーゼを引っ張ることにより直径が約3mmである25mlのピペットの先端(Falcon(登録商標)、製品番号357525)の開口部を通過させて直径が約3.1mmのガラス製チューブの中に入れることで、各体内プロテーゼをコンパクトな状態に保持した。
【0100】
圧縮の後、各体内プロテーゼを37℃の0.9%生理食塩水の中で広げ、リンスし、この明細書に記載したようにしてアンチトロンビンIII結合活性を調べた。結果を図12に示してある。テスト用の各体内プロテーゼを作るため、DI水の中で15分間にわたって洗浄した後、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0101】
各体内プロテーゼからヘパリン含有材料のサンプル(長さ約0.5cm)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0102】
図12は、ヘパリンが固定化されたグリセロール組成物が、圧縮と膨張の後に、被覆された基板材料に及ぼす効果を示す棒グラフである。結果から、固定化されたヘパリンにグリセロールを付加すると、その固定化されたヘパリンの圧縮と膨張の後に、結合したヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、グリセロールが付加されていない同様の処理をされた対照サンプルと比較して著しく大きくなることがわかる。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0103】
生体適合性有機グリセロール組成物が付加されていないポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンに対して正反対の操作である圧縮と膨張を行なうと、同様の構成になっていて同様の処理をした対照材料にその正反対の操作である圧縮と膨張を行なわなかった場合(137ピコモル/cm2)と比較し、アンチトロンビンIII結合活性が著しく低下した(85ピコモル/cm2)。ヘパリンが固定化された被覆された基板材料を生体適合性有機グリセロール組成物で処理し、処理しない構造体と同じ物理的操作を施すと、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は、対照材料と似た値に留まった(129ピコモル/cm2)。
【0104】
実施例6
この実施例では、生体適合性有機組成物の付加が、圧縮、膨張、EtOを用いた殺菌という操作を施した後に、実施例3と5に記載した被覆された医療装置のアンチトロンビンIII結合活性に及ぼす効果について説明する。
【0105】
この実施例で用いる埋め込み可能な医療装置は、実施例3に記載したのと同様にして構成した。この医療装置は、多孔性の延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料からなるチューブをニチノール・ワイヤで補強した形態のものであり、W.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からVIABAHN(登録商標)体内プロテーゼという商品名で入手した。このチューブ状装置は、長さが15cm、直径が6mmであった。この装置の表面にヘパリン含有被覆を形成するのに実施例3に詳述したのと同じ方法を利用した。
【0106】
生体適合性有機組成物(100)で処理するため、アルデヒドで修飾されたヘパリン(17)が少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料(18)を用い、管腔内装置の基板材料(12)を製造した。製造した装置をプラスチック製チューブの中に配置し、ヘパリンとグリセロールの溶液(100mlのDI水の中に0.5gのUSPヘパリンと5mlのグリセロールを溶かした、pH9.6)とともに60℃にて1時間にわたってインキュベートした。実施例2、3、5の結果に基づいてこれらの化合物を選択した。処理した各装置をヘパリンとグリセロールの溶液から取り出して凍結乾燥させた。装置に対する以後の処理と分析は、上記の実施例5と同じであった。
【0107】
図13は、グリセロールとヘパリンの形態である生体適合性有機組成物が、EtOを用いた殺菌操作と、ヘパリンが固定化された基板とポリマー被覆材料の圧縮と膨張という形態の物理的操作の間と、これらの操作の後に、基板材料の表面にあるポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。鉛直方向のどの棒も、n=3個のサンプルの平均値を表わしている。
【0108】
EtOを用いた殺菌操作と、正反対の操作である圧縮と膨張という操作を、ヘパリンが固定化された被覆された基板材料に生体適合性有機組成物としてグリセロールとヘパリンが付加されていないものに対して施すと、アンチトロンビンIII結合活性が、EtOを用いた殺菌操作と、正反対の操作である圧縮と膨張という操作を施していない、同様の構成で同様の処理をした対照材料(158ピコモル/cm2)と比較し、著しく低下した(63ピコモル/cm2)。ヘパリンが固定化された被覆された基板材料を生体適合性有機組成物であるグリセロールとヘパリンで処理し、処理していない構造体と同じEtO殺菌条件を経験させて物理的操作を実施すると、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性は対照材料と似た値に留まった(147ピコモル/cm2)。
【0109】
実施例7
この実施例では、ヘパリンで被覆された市販の医療装置のアンチトロンビンIII結合活性が比較的小さいことを示す。この装置は、長さが50cm、直径が6mmで、殺菌されて包装されたヘパリンで被覆された移植血管であり、ジョテック社(ヘヒンゲン、ドイツ国)からFLOWLINE BIPORE(登録商標)ヘパリン被覆移植血管(カタログ番号15TW5006N)という商品名で入手できた。製造者によると、このチューブ状移植血管は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料でできており、ヘパリンがこのグラフトの管腔面に共有結合とイオン結合によって結合している。ヘパリンは安定でePTFEに永久的に結合していると製造者は述べている。ヘパリン含有グラフトの表面は抗血栓であるとのことである。
【0110】
このヘパリン含有移植血管のサンプル(長さ0.5cm)を入手し、上記の実施例2に記載したようにしてテストした。本発明の材料と同様、移植血管のアンチトロンビンIII結合活性は、基板材料1平方センチメートル当たりのアンチトロンビンIII(AT III)のピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。前の実施例と同様、装置の全表面積ではなく、各装置の管腔の表面積だけを測定した。AT III結合アッセイの結果から、生物活性を有するヘパリンが移植血管の管腔面に存在しているという製造者の主張にもかかわらず、アンチトロンビンIII結合活性は見られなかった。アンチトロンビンIII結合活性アッセイでは、基板材料1平方センチメートル当たり約5ピコモル(5ピコモル/cm2)以上のレベルのアンチトロンビンIII結合活性を検出できることに注意されたい。
【0111】
実施例8
この実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆された基板材料または被覆されていない基板材料に固定化された生物活性を有するヘパリンと組み合わせて利用することについて説明する。この構造体は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示した。
【0112】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0113】
上記の構造体をバシトラシン(72,000単位/グラム)の溶液(100mlの脱イオン水(DI水)に0.5gの濃度)に曝露するため、その構造体を100mlのバシトラシン溶液に室温にて3時間にわたって浸した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを実施した。
【0114】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0115】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をパウチから取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0116】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0117】
バシトラシンで処理した後にエチレンオキシドで殺菌したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が9ピコモル/cm2であった(n=3)。
【0118】
実施例9
この実施例では、被覆またはコーティングされた基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンをEtOを用いて殺菌した後、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。この実施例では、生体適合性有機組成物としてペプチド抗生剤を選択した。このようにして処理した構造体は、EtOを用いた殺菌の後、ヘパリン-AT IIIの結合が多かった。
【0119】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0120】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた各構造体をTower DUALPEEL(登録商標)自己気密パウチ(アリージャンス・ヘルスケア社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0121】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をNUAIRE生物学的安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU-425-600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0122】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)の殺菌したサンプルを構造体から切り出した後、濾過殺菌したバシトラシン溶液(ホスピラ社から購入した0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間にわたってこのバシトラシン溶液に曝露した。
【0123】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0124】
ヘパリンの末端が結合したシート材料のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0125】
最初にエチレンオキシドで殺菌し、次いでバシトラシンを用いて処理したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が185ピコモル/cm2であった(n=3)。この結果からわかるように、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを殺菌した後に、そのヘパリンの生物活性を著しく低下させることなく治療剤をそのヘパリンと混合することができる。
【0126】
実施例10
この実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、EtOを用いて殺菌し、最後にペプチド抗生剤で処理することについて説明する。このようにして処理した構造体は、ヘパリン-AT IIIの結合が多かった。
【0127】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施した。
【0128】
上記の構造体を、100mlのDI水につき0.5gの濃度にしてpHを9.6に調節したポリエチレングリコール(分子量20,000、シグマ社)の溶液に曝露した。構造体をビーカーの中に入れ、100mlのポリエチレングリコール溶液を添加して構造体をその溶液の中に完全に浸した。構造体を60℃にて1時間にわたってそのポリエチレングリコール溶液に曝露した。構造体を溶液から取り出し、凍結乾燥させた後、殺菌手続きを行なった。
【0129】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0130】
EtOを用いた殺菌の後、構造体をNUAIRE生物学的安全キャビネット、クラスII、タイプA/B3、モデルNU-425-600(プリマス、ミネソタ州)の中で無菌状態で処理した。
【0131】
サイズが約1平方センチメートル(1cm2)の殺菌したサンプルを構造体から切り出した後、濾過殺菌したバシトラシン溶液(0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液10mlに77000単位/gのものを649.4mg溶かした)に浸したところ、USPグレードの0.9%塩化ナトリウム洗浄溶液1mlにつき約5000単位の濃度になった。サンプルを室温にて2分間にわたってこのバシトラシン溶液に曝露した。
【0132】
サンプルを溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸、2.7gのNaOH、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした。
【0133】
ヘパリンの末端が結合した膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。サンプルは、アッセイ・プロセスを通じて湿潤な状態に維持した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0134】
最初にポリエチレングリコールで処理し、エチレンオキシドで殺菌し、次いでバシトラシンで処理したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が195ピコモル/cm2であった(n=3)。したがって、生物活性のあるヘパリンが固定化されていて、そのヘパリンに第1の生体適合性有機組成物(PEG)が混合された殺菌済みの被覆された基板材料は、EtOを用いた殺菌の後に第2の生体適合性有機組成物(バシトラシン)でさらに処理するとき、大きなAT III結合活性を維持することができる。
【0135】
実施例11
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0136】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0137】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたデキストラン(分子量40,000、ピアス社)溶液(アルデヒドで活性化させたデキストラン0.050gとNaCl2.93gを100mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.286mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液をアルデヒドで活性化させたデキストラン溶液100mlに添加した後、サンプルを添加した。
【0138】
アルデヒドで活性化させたデキストラン溶液から構造体を取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0139】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0140】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0141】
この実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が65ピコモル/cm2であった(n=3)。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、EtOを用いた殺菌の後にヘパリンの大きな活性を維持できることがわかる。
【0142】
実施例12
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)を被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0143】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0144】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量1,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0145】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0146】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0147】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0148】
この実施例で記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が96ピコモル/cm2であった(n=3)。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0149】
実施例13
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)をその被覆材料またはコーティング層に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0150】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0151】
被覆材料で被覆された上記の構造体を、アルデヒドで活性化させたPEG(分子量5,000、ナノックス社)溶液(0.20gのPEGと3.90gのNaClを133mlのDI水に溶かした、pH5.5)に60℃にて120分間にわたって曝露した。体積0.380mlの2.5%(w/v)NaCNBH3水溶液を100mlのPEG溶液に添加した後、サンプルを添加した。
【0152】
構造体をPEG溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0153】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0154】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0155】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が64ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0156】
実施例14
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)を被覆材料またはコーティング材料に共有結合させることについて説明する。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0157】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0158】
末端が結合したヘパリンをすでに含むPEI層にUSPグレードのヘパリンを結合させるため、USPグレードのヘパリンを含む60℃の塩化ナトリウム溶液(1.5gのUSPヘパリンと29.3gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH3.9)の中に120分間にわたって構造体を入れた。0.1MのMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、1.5gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした溶液(pH5.5)に構造体を移し、4時間にわたって室温にした。
【0159】
構造体を上記の溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0160】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0161】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0162】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が31ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、末端が共有結合したヘパリンに加え、生体適合性有機組成物をコーティング層に共有結合させたとき、ヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0163】
実施例15
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層に2回目の共有結合をさせることについて説明する。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、コーティング層に存在する残った第一級アミン基と反応させた。この組成物をEtOで殺菌した後、ヘパリンは大きな生物活性を示した。
【0164】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手した。このePTFE材料には実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施したが、構造体を被覆した後に凍結乾燥させるのではなく、DI水の中に保管した。
【0165】
0.1MのMES(2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸)BupH(登録商標)MES緩衝化生理食塩水(ピアス社)と、1.5gのUSPヘパリンと、29.3gのNaClと、0.20gのN-(3-ジメチルアミノプロピル)-N-エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDC)と、0.13gのN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(NHS)とを1リットルのDI水に溶かした)溶液(pH5.5)に膜を移し、4時間にわたって室温にした。
【0166】
構造体を上記の溶液から取り出し、DI水の中で15分間にわたって洗浄し、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1,000mlのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたって洗浄し、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、ePTFE材料に結合した乾燥ヘパリンを生成させた。
【0167】
EtOを用いた殺菌のため、凍結乾燥させた構造体をConvertors(登録商標)自己気密パウチ(カーディナル・ヘルス社、マクゴー・パーク、イリノイ州)の中に入れて密封した。エチレンオキシドを用いた殺菌は、コンディショニングが1時間、EtOガスの滞在時間が1時間、設定温度が55℃、通気時間が12時間という条件下で実施した。
【0168】
ヘパリンの末端が結合した殺菌済みの膜のサンプル(約1cm2)を切り出した後、上記のAT III結合アッセイ(実施例2)を利用し、その固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を測定した。結果は、基板材料の単位面積当たりの結合したアンチトロンビンIIIのピコモル数(ピコモル/cm2)として表わした。
【0169】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性の平均値が20ピコモル/cm2(n=3)であった。この実施例から、ヘパリンは、末端を共有結合させることに加えてさらにコーティング層に共有結合させたとき、EtOを用いた殺菌の後にヘパリンは大きな活性を維持できることがわかる。
【0170】
実施例16
この実施例では、生体適合性有機組成物としてのペプチド抗生剤を、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンと組み合わせて用いることについて説明する。この構造体は、物理的圧縮と膨張の後のアンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0171】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。次に、実施例8に記載した条件を利用してバシトラシンを付着させる。次に、ヘパリン化したこの管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、リンスし、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0172】
バシトラシンで処理した後、圧縮し、膨張させたサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0173】
実施例17
この実施例では、被覆された基板材料に生物活性のあるヘパリンを固定化し、その基板材料を圧縮し、膨張させた後、生体適合性有機組成物を付加することについて説明する。ペプチド抗生剤を生体適合性有機組成物として選択する。このようにして処理した構造体は、圧縮と膨張の後にヘパリン-AT IIIの結合が多い。
【0174】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化した後、実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、膨張させる。次に、実施例9に記載したようにして管腔内プロテーゼをバシトラシンで処理し、リンスする。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにしてテスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0175】
圧縮し、膨張させた後、バシトラシンを付加したヘパリン化したサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0176】
実施例18
この実施例では、被覆された基板材料に固定化された生物活性のあるヘパリンについて説明する。固定化された生物活性のあるヘパリンを生体適合性有機組成物と混合し、物理的に圧縮し、物理的に膨張させた後、ペプチド抗生剤で処理する。このようにして処理した構造体は、物理的操作の後にヘパリン-AT IIIの結合が多い。
【0177】
実施例17に記載したようにして管腔内プロテーゼを処理し、テストするが、1点だけ異なっている。それは、実施例10に記載したようにしてポリエチレングリコールをヘパリン化管腔内プロテーゼと混合した後、圧縮と膨張を行なう点である。
【0178】
生体適合性有機組成物と混合したヘパリン化サンプルを圧縮し、膨張させた後にバシトラシンを付加したものは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0179】
実施例19
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0180】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0181】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0182】
実施例20
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量1,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0183】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例12に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0184】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0185】
実施例21
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール、分子量5,000)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0186】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコールを実施例13に記載したようにしてコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0187】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0188】
実施例22
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(EDCで活性化させたUSPヘパリン)をその被覆材料に共有結合させることについて説明する。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させた後、ヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0189】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。実施例14に記載したようにしてUSPヘパリンをコーティング層に固定化する。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0190】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0191】
実施例23
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、そのヘパリンをそのコーティング層の反応基に2回目の共有結合をさせる。末端が共有結合したヘパリンの2回目の共有結合を実現するため、カルボン酸基をEDCで活性化させ、コーティング層に存在する残った第一級アミン基と反応させる。この組成物を物理的に圧縮し、膨張させる。その後、この構造体のヘパリンは大きな生物活性を示す。
【0192】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。固定化されたヘパリンを、実施例15のようにしてコーティング層にさらに共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0193】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0194】
実施例24
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、殺菌と、物理的な圧縮および膨張の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0195】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0196】
次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、実施例3に記載したようにして殺菌する。次に、実施例5に記載したようにしてその管腔内プロテーゼを膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0197】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0198】
実施例25
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物を被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、物理的な圧縮と膨張の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0199】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0200】
次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、膨張させ、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0201】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0202】
実施例26
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物をその被覆材料に結合させる。この不安定な結合により、治療化合物を局所的に送達できる一方で、安定に結合したヘパリンは、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0203】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで修飾された追加のヘパリンの末端を不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるため、60℃のヘパリン含有塩化ナトリウム溶液(アルデヒドで修飾されたヘパリン1.5gとNaCl 29.3gを1リットルのDI水に溶かす、pH3.9)の中に構造体を120分間にわたって入れる。アルデヒドで修飾されたヘパリンを2回目に共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンをePTFE材料に結合させる。
【0204】
次に、ヘパリン化した材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、テスト用に切断し、AT IIIの結合を調べる。
【0205】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0206】
実施例27
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を保持する。
【0207】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。次にこの組成物を殺菌し、実施例8に記載したようにしてサンプリングし、固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を実施例2に記載したAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0208】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0209】
実施例28
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(バシトラシン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0210】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたポリエチレングリコール(分子量1,000)を実施例12に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、バシトラシンを実施例8に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0211】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0212】
実施例29
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示す。
【0213】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを混合してこの組成物に非共有結合させ、次いでその組成物を実施例2に記載したようにして殺菌してサンプリングする。固定化されたヘパリンのアンチトロンビンIII結合活性を実施例2に記載したAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0214】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0215】
実施例30
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、生体適合性有機組成物(アルデヒドで活性化させたデキストラン)を被覆材料に共有結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0216】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。アルデヒドで活性化させたデキストランを実施例11に記載したようにして被覆材料に共有結合させた後、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物に非共有結合させる。このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0217】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0218】
実施例31
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、EtOを用いた殺菌の後に大きなAT III結合活性を示す。
【0219】
この実施例では、シートの形態になったePTFE材料をW.L.ゴア&アソシエイツ社(フラッグスタッフ、アリゾナ州)からGORE(登録商標)マイクロ濾過媒体(GMM-406)という商品名で入手し、実施例2と実質的に同じ方法を用いてヘパリン含有被覆を施す。実施例12に記載した方法を利用し、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるが、NaCNBH3は付加しない。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させる。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させる。次に、ヘパリン化したこの材料を実施例2に記載したようにして殺菌し、サンプリングし、アンチトロンビンIII結合活性をAT III結合アッセイを利用して測定する。
【0220】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【0221】
実施例32
この実施例では、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)材料の上に配置した被覆材料またはコーティング層に生物活性のあるヘパリンを共有結合させた後、不安定な結合を通じてさらに生体適合性有機組成物(ポリエチレングリコール)をその被覆材料に結合させ、最後に、混合した生体適合性有機組成物(デキサメタゾン)を非共有結合で付加する。この組成物は、物理的に圧縮し、膨張させた後に大きなAT III結合活性を示す。
【0222】
この実施例では、管腔内プロテーゼの形態になった埋め込み可能な医療装置を実施例3に記載したようにしてヘパリン化する。実施例12に記載した方法を利用し、アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコール(1,000MW)を、不安定な共有結合を通じてコーティング層に結合させるが、NaCNBH3は付加しない。アルデヒドで修飾されたポリエチレングリコールを共役させる間に還元剤NaCNBH3を添加しないことに注意することが重要である。第一級アミンとアルデヒドの間に形成される結合は、還元されない状態のままにされると不安定である。次に、サンプルをDI水の中で15分間にわたってリンスし、ホウ酸塩緩衝溶液(10.6gのホウ酸と、2.7gのNaOHと、0.7gのNaClを1リットルのDI水に溶かした、pH9.0)の中で20分間にわたってリンスし、最後にDI水の中で15分間にわたってリンスした後、構造体全体を凍結乾燥させることにより、乾燥ヘパリンとポリエチレングリコールをePTFE材料に結合させる。次に、デキサメタゾンを実施例2に記載したようにして混合してこの組成物と非共有結合させる。次に、このヘパリン化管腔内プロテーゼを実施例5に記載したようにして物理的に圧縮し、物理的に膨張させ、テスト用に切断し、リンスし、AT IIIの結合を調べる。
【0223】
この実施例に記載したようにして作ったサンプルは、アンチトロンビンIII結合活性が5ピコモル/cm2よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0224】
【図1】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー基板材料の概略図である。
【図1A】金属基板材料の概略図である。
【図2】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー基板材料の概略図である。
【図3】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図3A】複数の反応性化学基を表面に有するポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図4】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図4A】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図5】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー基板材料の概略図である。
【図6】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図6A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図6B】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図であり、図6に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図6C】複数の生物活性物質が固定化されたポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図であり、図6Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図である。
【図7A】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、追加の生体適合性組成物が結合した3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図である。
【図7B】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有するポリマー基板材料の概略図であり、図7に示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図7C】複数の生物活性物質が固定化された3層のポリマー被覆材料を有する金属基板材料の概略図であり、図7Aに示した生体適合性組成物の一部が基板材料とポリマー被覆材料から放出された様子を示している。
【図8】結合していないヘパリンの殺菌によってそのヘパリンの生物活性が著しく低下させないことを示す棒グラフである。
【図9】ポリマー被覆材料上の反応性化学基に末端が固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、さまざまな生体適合性組成物がその固定化されたヘパリンの生物活性に及ぼす効果を示す棒グラフである。
【図10】基板上のポリマー被覆材料に固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、生体適合性有機組成物である付加されたヘパリンまたは硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンのAT III結合活性のレベルを大きくする能力を示す棒グラフである。
【図11】ポリビニルアルコールで被覆された基板に末端が固定化されたヘパリンをエチレンオキシドで殺菌している間と殺菌した後に、付加された硫酸デキストランがその固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図12】基板材料の圧縮と膨張の後に、付加されたグリセロールが、その基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図13】基板材料の物理的圧縮と、エチレンオキシドを用いた殺菌と、基板材料の物理的膨張の後に、付加されたグリセロールとヘパリンが、基板のポリマー被覆材料に末端が固定化されたヘパリンの生物活性を維持する能力を示す棒グラフである。
【図14】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図15】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、反応性化学基が表面に存在しているポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図16】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図17】複数の生物活性物質と追加の生体適合性組成物が共有結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【図18】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図19】第2の生体適合性組成物が結合した本発明の実施態様の概略図である。
【図20】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物と第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備えるポリマー基板材料の概略図である。
【図21】複数の生物活性物質が固定化されるとともに、第1の生体適合性組成物と第2の生体適合性組成物が結合したポリマー被覆材料を備える金属基板材料の概略図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板材料と;
その基板の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII結合活性を持っていてそのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した複数の生物活性物質と;
上記ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物とを含んでいて、
上記生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である医療装置。
【請求項2】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と非共有結合している、請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と共有結合している、請求項1に記載の医療装置。
【請求項4】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも6ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項5】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも7ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項6】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも8ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項7】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも9ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項8】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項9】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも100ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の医療装置において、上記生体適合性組成物の少なくとも一部が、約37℃かつ実質的に中性pHの0.15Mリン酸塩緩衝溶液の中でその医療装置から放出される、医療装置。
【請求項11】
上記複数の生物活性物質がグリコサミノグリカンを含む、請求項4〜9のいずれか1項に記載の医療装置。
【請求項12】
上記複数の生物活性物質が、末端が結合したヘパリンを含む、請求項11に記載の医療装置。
【請求項13】
上記生体適合性組成物が有機化合物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項14】
上記有機化合物が多糖である、請求項13に記載の医療装置。
【請求項15】
上記多糖がグリコサミノグリカンである、請求項14に記載の医療装置。
【請求項16】
上記多糖がデキストランである、請求項15に記載の医療装置。
【請求項17】
上記多糖が硫酸デキストランである、請求項15に記載の医療装置。
【請求項18】
上記有機化合物がポリエチレングリコールである、請求項13に記載の医療装置。
【請求項19】
上記生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項20】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項19に記載の医療装置。
【請求項21】
上記生体適合性組成物が、合成した非極性分子を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項22】
上記生体適合性組成物が無機化合物を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項23】
上記無機化合物がリン酸塩を含む、請求項22に記載の医療装置。
【請求項24】
上記ポリマー被覆材料が複数の層を含んでいて、少なくとも1つの層の諸化学成分が架橋している、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項25】
上記基板材料がポリマー組成物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項26】
上記基板材料がフルオロポリマー組成物である、請求項25に記載の医療装置。
【請求項27】
上記フルオロポリマー組成物がポリテトラフルオロエチレンである、請求項26に記載の医療装置。
【請求項28】
上記基板材料が金属組成物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項29】
上記金属組成物が、ニッケルとチタンの合金である、請求項28に記載の医療装置。
【請求項30】
上記金属組成物がステンレス鋼である、請求項29に記載の医療装置。
【請求項31】
上記ポリマー被覆材料が、ポリエチレンイミンからなる少なくとも1つの層を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の医療装置の殺菌の前、または圧縮と膨張の前に、その医療装置と混合される第2の生体適合性組成物をさらに含む、医療装置。
【請求項33】
上記第2の生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項32に記載の医療装置。
【請求項34】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項33に記載の医療装置。
【請求項35】
請求項1〜34のいずれか1項に記載の医療装置の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、その医療装置と混合される第2の生体適合性組成物をさらに含む、医療装置。
【請求項36】
上記第2の生体適合性組成物が抗微生物化合物である、請求項35に記載の医療装置。
【請求項37】
上記抗微生物化合物がバシトラシンである、請求項36に記載の医療装置。
【請求項38】
アンチトロンビンIII結合活性のある複数の化学物質が表面の少なくとも一部の上に存在している基板材料を備えていて、その基板材料の圧縮と膨張の後にそのアンチトロンビンIII結合活性の少なくとも90%が維持されている医療装置。
【請求項39】
アンチトロンビンIII結合活性のある複数の化学物質が表面の少なくとも一部の上に存在している基板材料を備えていて、その化学物質の殺菌後にそのアンチトロンビンIII結合活性の少なくとも90%が維持されている、殺菌された医療装置。
【請求項1】
基板材料と;
その基板の表面の少なくとも一部に結合したポリマー被覆材料と、アンチトロンビンIII結合活性を持っていてそのポリマー被覆材料の少なくとも一部に共有結合した複数の生物活性物質と;
上記ポリマー被覆材料に結合した生体適合性組成物とを含んでいて、
上記生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも5ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である医療装置。
【請求項2】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と非共有結合している、請求項1に記載の医療装置。
【請求項3】
上記生体適合性組成物が、上記ポリマー被覆材料と共有結合している、請求項1に記載の医療装置。
【請求項4】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも6ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項5】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも7ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項6】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも8ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項7】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも9ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項8】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも10ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項9】
上記複数の生物活性物質のアンチトロンビンIII結合活性が、上記基板材料の殺菌または圧縮と膨張の後に基板材料1平方センチメートル当たり少なくとも100ピコモルのアンチトロンビンIII(ピコモル/cm2)である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の医療装置において、上記生体適合性組成物の少なくとも一部が、約37℃かつ実質的に中性pHの0.15Mリン酸塩緩衝溶液の中でその医療装置から放出される、医療装置。
【請求項11】
上記複数の生物活性物質がグリコサミノグリカンを含む、請求項4〜9のいずれか1項に記載の医療装置。
【請求項12】
上記複数の生物活性物質が、末端が結合したヘパリンを含む、請求項11に記載の医療装置。
【請求項13】
上記生体適合性組成物が有機化合物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項14】
上記有機化合物が多糖である、請求項13に記載の医療装置。
【請求項15】
上記多糖がグリコサミノグリカンである、請求項14に記載の医療装置。
【請求項16】
上記多糖がデキストランである、請求項15に記載の医療装置。
【請求項17】
上記多糖が硫酸デキストランである、請求項15に記載の医療装置。
【請求項18】
上記有機化合物がポリエチレングリコールである、請求項13に記載の医療装置。
【請求項19】
上記生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項20】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項19に記載の医療装置。
【請求項21】
上記生体適合性組成物が、合成した非極性分子を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項22】
上記生体適合性組成物が無機化合物を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項23】
上記無機化合物がリン酸塩を含む、請求項22に記載の医療装置。
【請求項24】
上記ポリマー被覆材料が複数の層を含んでいて、少なくとも1つの層の諸化学成分が架橋している、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項25】
上記基板材料がポリマー組成物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項26】
上記基板材料がフルオロポリマー組成物である、請求項25に記載の医療装置。
【請求項27】
上記フルオロポリマー組成物がポリテトラフルオロエチレンである、請求項26に記載の医療装置。
【請求項28】
上記基板材料が金属組成物である、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項29】
上記金属組成物が、ニッケルとチタンの合金である、請求項28に記載の医療装置。
【請求項30】
上記金属組成物がステンレス鋼である、請求項29に記載の医療装置。
【請求項31】
上記ポリマー被覆材料が、ポリエチレンイミンからなる少なくとも1つの層を含む、請求項2または3に記載の医療装置。
【請求項32】
請求項1〜31のいずれか1項に記載の医療装置の殺菌の前、または圧縮と膨張の前に、その医療装置と混合される第2の生体適合性組成物をさらに含む、医療装置。
【請求項33】
上記第2の生体適合性組成物が抗増殖剤である、請求項32に記載の医療装置。
【請求項34】
上記抗増殖剤がデキサメタゾンである、請求項33に記載の医療装置。
【請求項35】
請求項1〜34のいずれか1項に記載の医療装置の殺菌の後、または圧縮と膨張の後に、その医療装置と混合される第2の生体適合性組成物をさらに含む、医療装置。
【請求項36】
上記第2の生体適合性組成物が抗微生物化合物である、請求項35に記載の医療装置。
【請求項37】
上記抗微生物化合物がバシトラシンである、請求項36に記載の医療装置。
【請求項38】
アンチトロンビンIII結合活性のある複数の化学物質が表面の少なくとも一部の上に存在している基板材料を備えていて、その基板材料の圧縮と膨張の後にそのアンチトロンビンIII結合活性の少なくとも90%が維持されている医療装置。
【請求項39】
アンチトロンビンIII結合活性のある複数の化学物質が表面の少なくとも一部の上に存在している基板材料を備えていて、その化学物質の殺菌後にそのアンチトロンビンIII結合活性の少なくとも90%が維持されている、殺菌された医療装置。
【図1】
【図1A】
【図2】
【図3】
【図3A】
【図4】
【図4A】
【図5】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図1A】
【図2】
【図3】
【図3A】
【図4】
【図4A】
【図5】
【図6】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公表番号】特表2009−545333(P2009−545333A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−509883(P2009−509883)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/011441
【国際公開番号】WO2007/133699
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【国際出願番号】PCT/US2007/011441
【国際公開番号】WO2007/133699
【国際公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(598123677)ゴア エンタープライズ ホールディングス,インコーポレイティド (279)
【Fターム(参考)】
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