説明

物質に対する粒子ビームの効果を決定するための方法

この発明は、少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになっている物質に対する粒子ビーム(34a)の効果を決定するための方法であって、前記粒子ビーム(34a)を特徴付ける少なくとも1つのパラメータおよび物質の少なくとも1つの特性から、前記物質内の前記粒子ビームの前記効果が微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定される方法に関する。さらにこの発明は、目標ボリュームについての照射プラン、及び粒子ビーム(34a)用いて目標ボリュームを照射する方法に関する。また本発明は、本発明による方法(200)を実行するために構成された特に能動的ビーム修正装置、および/または受動ビーム修正装置を備えた少なくとも1つのビーム修正装置(32,70)を有する照射装置(30,66)に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子ビームの、少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになっている物質に対する作用を決定するための方法、目標ボリュームについての照射プランニングのための方法、および、粒子ビーム、照射プラン、ビーム修正設備、および照射デバイスを用いて目標ボリュームを照射するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン・ビームまたは粒子ビームを用いた照射ボリューム内の目標ボリュームの照射は、物質、特に、無機、有機、および生物学的物質の照射に関係し、研究、産業界、および医療エンジニアリングといった多様な分野において使用されている。目標ボリュームは、特に、照射される物質を改変するためにあらかじめ決定済みの用量が沈着されることになる領域を含み、また照射ボリュームは、特に、望ましい用量を目標ボリューム内において達成するために放射が浸透する物質の領域も含む。粒子ビームまたはイオン・ビームは、特に、荷電粒子、たとえば陽子、炭素イオンまたはそのほかの元素のイオン、π中間子または中性粒子、たとえば中性子等の高エネルギ・ビームのいずれかであるとして理解されている。以下の記述においては、これらの用語、すなわちイオン・ビームおよび粒子ビームが相互交換可能に使用される。高エネルギは、特に、数MeV/amuから数GeV/amuまでの領域内の粒子のエネルギであるとして理解されている(amuは「原子質量単位(atomic mass unit)」)。
【0003】
照射を実行するために適した照射デバイスは、イオン・ビームの発生および形成を行なう加速設備を一般に有し、イオン・ビームは、照射のためにビーム移送システムを介して照射ボリュームが配されている領域内へ導かれる。照射デバイスはまた、ビーム修正設備も含み、目標ボリュームの位置ならびにサイズに対してイオン・ビームのパラメータを適合させることが可能である。
【0004】
照射ボリュームは、たとえば、照射フィールドの検証に使用される検出器システムとすることが可能である。概して言えば照射ボリュームは、ラテラル方向において、すなわち一般にはイオン・ビームの方向に対して垂直なxおよびy方向において最大の広がりを伴うフィールドである照射フィールドを含む。検出器システムは、検出器フィールド、または順次背後に配された複数のラテラル方向に広がる検出器フィールドを伴ったいわゆるスタックから構成することが可能である。線量測定分野においては、たとえば写真乳剤を伴うフィルムがこの目的のために使用される。核トレース検出器もまた、照射フィールド内のフルエンス分布の測定に使用される。医療応用の分野においては、宇宙空間における宇宙線のビームに対する曝露の作用の評価を可能にするために、粒子放射の作用の研究に生物学的組織の照射が使用される。最後に挙げるが、照射ボリュームは、患者の腫瘍のボリュームとすることも可能である。この場合においては、イオン・ビームが目標ボリューム内の腫瘍組織の破壊に使用される。
【0005】
腫瘍治療においては、イオン・ビームの特別な性質が、周囲を取囲む健康組織へのダメージを最小限にしつつ、腫瘍組織の破壊を可能にする。これは、イオン・ビームの好都合な深度の用量分布と関連付けされる。高エネルギ・イオン・ビームが物質内に浸透するとき、最初は殆どエネルギの沈着がない。深度が増すに従ってエネルギ沈着が増加し、ブラッグ・ピークと呼ばれる分布曲線の領域内の最大に到達した後、急速に低下する。この態様で、より深い腫瘍の場合においてさえ、周囲を取囲む健康組織よりも多くのエネルギを腫瘍組織内に沈着させることが可能である。
【0006】
イオン・ビームは、照射されることになっている物質のタイプおよび当該イオン・ビームのパラメータに依存する照射ボリュームに対する作用を有する。概して言えば、イオン・ビームは、光量子放射線と異なる作用を有する。このことは、あらかじめ決定済みの作用またはあらかじめ決定済みの照射効果を達成するために沈着されることになる用量がイオン・ビームを用いる場合と光量子ビームを用いる場合とでは異なることを意味する。イオン用量Dと同じ照射効果を生じさせる光量子の用量Dγは、有効用量として指定される。イオン・ビームの変更される作用が、無機、有機、および生物学的物質について観察される。無機物質においては、光量子ビームと比較するとイオン・ビームの方が、より小さい作用が観察される傾向にある。これとは対照的に、生物学的物質がイオンによって照射されるときには、通常は光量子照射と比較してより高い作用、したがってより大きな効果が通常は観察される。
【0007】
実際の照射の前には、概して、目標ボリューム、たとえば模型または腫瘍内のサブ領域を照射するための照射プランが作成される。イオン・ビームを用いて照射を行なう場合には、この照射プランが可能な限りイオン・ビームの作用を考慮に入れたものとなる必要がある。
【0008】
照射プランを作成するための多様な方法が知られている。たとえば、非特許文献1に照射プランを作成するための方法が記述されている。
【0009】
物質内におけるイオン・ビームの作用は、複雑な態様で、イオンのタイプ、イオンのエネルギ、照射用量、照射される物質、およびそれぞれの場合において観察される効果に依存する。照射プランニングのために必要とされる精度を伴ってこれらの複数の依存度を実験的に決定することは、実際問題として達成できない。変更される有効性の予測を可能にするモデルは、したがって、照射プランニングの実装のための重要なツールを表わす。これらのモデルは、無機、有機、および生物学的物質のダメージについてそれらが基づくメカニズムが未だに充分な精度をもって定量的に明らかにされていないことから、一般に、単純化および近似に基づく。相応じて、概して、モデルの適用フィールドもまた限られる。
【0010】
その種のモデルの一例が非特許文献2の中で述べられている。このモデルは、LEMと呼ばれており、これは『ローカル・エフェクト・モデル(local effect model:局所的効果モデル)』の略語である。
【0011】
これまでに周知のモデルは、軽イオンから重イオンまでの全範囲にわたる照射プランニングのための充分な精度の何らの情報も供給することが可能でない。
【0012】
したがって、粒子ビーム、特にイオン・ビームの作用を、広い質量範囲にわたって、特に陽子からネオン・イオンまでにわたってモデルを使用して必要とされる精度とともに信頼性をもって記述し、予測することが必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Kramer and Scholz 2000, Physics in Medicine and Biology, Vol. 45, pp. 3319−3330
【非特許文献2】Scholz et al., Radiation Environmental Biophysics, Vol. 36, pp. 59−66 (1997)
【非特許文献3】Kramer and Scholz, Physics in Medicine and Biology, Vol. 51, pp. 1959−1970, 2006
【非特許文献4】Elsasser and Scholz 2007, Radiation Research Vol. 167, 319−329
【非特許文献5】Elsasser et al. 2008, International Journal of Radiation Oncology Biology Physics, Vol. 71, 866−872
【非特許文献6】Furosawa et al. 2000, Radiation Research, Vol. 154, pp. 485−496
【非特許文献7】Muller, GSI Report 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、照射されることになっているか、または照射されている物質への粒子ビームの作用を決定するための、先行技術と比較して改善された方法を作り出すことである。その意図は、目標ボリュームについての照射プランニングのため、および目標ボリュームを照射するための方法を作り出すこと、および改善された照射デバイスを作り出すことでもある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この目的は、独立請求項の特徴によって達成される。提案されている方法および提案されているデバイスの発展は、従属請求項の中に与えられている。
【0016】
提案されている方法においては、少なくとも部分的に照射されることになっているか、または照射されている物質への粒子ビームの作用が決定される。粒子ビームを特徴付ける少なくとも1つのパラメータおよび物質特性を特徴付ける少なくとも1つのパラメータから、当該物質内の粒子ビームの作用が微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定される。
【0017】
微視的ダメージ相関は、特に、物質内において発生したダメージまたはダメージ事象の、好ましくは長さ尺度での空間的相互作用として理解されている。使用される長さ尺度のサイズは、物質にとって意味のある大きさの位数、発生したダメージ、およびそれらの空間的な相互作用に好ましく従う。この長さ尺度は、照射されることになっているか、または照射されている物質、特に異なるサイズの物質に応じて異なるものとすることが可能である。無機物質についてのダメージのダメージ相関は、したがって、生物学的物質内におけるダメージとは異なるものとなり得る。
【0018】
物質に対する粒子ビームの作用は、通常、粒子ビームの特徴、たとえばエネルギ、イオン・タイプ、および/または物質内における粒子ビームの線エネルギ付与によって影響を受ける(線エネルギ付与:LET)。言換えると、粒子ビームの作用は、とりわけ、粒子ビームのエネルギ、粒子ビーム内の個別の粒子の質量ならびに荷電状態、および物質へ伝達される粒子ビーム・エネルギに依存する。粒子ビームについての典型的なエネルギは、数百keV GeV/amuから数十GeV/amuまでの範囲内となり、これにおいて『amu』は、『原子質量単位(atomic mass unit)』を意味する。
【0019】
概して言えば、物質特性が、その物質の性質を記述し、かつエネルギ入力に対するその物質の鋭敏度に関係し、それもまたエネルギの沈着、したがって、その物質内に沈着する用量に関係する。ダメージ事象は、鋭敏度がダメージ事象の惹起に必要なエネルギ沈着を記述するように、エネルギ入力によって誘発することが可能である。これは、高分子物質の鋭敏度、X線フィルムの感度、または生物学的組織の鋭敏度とすることが可能である。物質のこの鋭敏度は、通常、光量子放射線を用いた物質の照射について決定され、かつ測定され、したがってそれが物質特性となる。
【0020】
この方法の発展においては、微視的ダメージ相関がサブ−マイクロメートル値域内で生じることが可能である。特に、物質が生物学的物質の場合においては、長さ尺度がサブ−マイクロメートル値域内となる。サブ−マイクロメートル値域は、数百ナノメートルの長さ範囲を含み、特に概略で100nmより大きい範囲を含む。好ましくは、長さ尺度が概略で400から500nmまでの間の範囲、特に好ましく440nmを含む。原理的に言えば、ダメージまたはダメージ事象を、物質内または物質の構成要素内の、その物質内におけるエネルギ損失からの結果としてもたらされる変化とすることが可能である。この変化は、化合物の化学的変化、たとえば無機または有機分子の分解、高分子鎖の切断、高分子物質内の側鎖または側基の排除、および/または生物学的物質におけるDNAの1つまたは複数の単一ストランド破壊または二重ストランド破壊とすることが可能である。言換えると、粒子ビームによって誘発されるダメージまたはダメージ事象、好ましくは約100nmまたはそれより大きいが約1000nmより小さい長さ尺度において観察される、発生するかまたは予測されることになるすべてのダメージまたはダメージ事象は、互いに空間的な関係に置くことが可能である。特に、生物学的物質、たとえば細胞または細胞からなる組織においては、発生するかまたは予測されることになるDNAの二重ストランド破壊が、約440nmであり、かつその物質に対する粒子ビームの作用についての固有の大きさとして使用される距離において観察が可能である。この場合においては、長さ尺度の分解能を、好ましく当該長さ尺度より小さくすること、特に約10nmの領域内とすることが可能である。
【0021】
微視的ダメージ相関は、空間的微視的ダメージ分布を使用して決定することができる。それに加えて、微視的用量分布から少なくとも部分的に空間的微視的ダメージ分布を決定することが可能である。したがって、粒子ビームによって生成される微視的ダメージ分布を決定することが可能であり、誘発される局所的ダメージの確率が、用量単位当りのダメージ事象の数を記述する第1の光量子用量効果曲線から少なくとも部分的に演繹される。それに加えて、本発明の発展によれば、微視的ダメージ相関を決定するとき、鋭敏なボリュームの適切に選択された部分的なボリューム内における相関されるダメージ事象の数の期待値を、空間的微視的ダメージ分布から、特に、相関されるダメージ事象の数と粒子ビームによって沈着される用量の比から、したがって誘発、分離、および相関が行なわれるダメージ事象の総数との比から少なくとも部分的に決定することが可能である。それに加えて、粒子ビームについての相関されるダメージ事象の数の期待値に対応する、同じ収率の相関されるダメージ事象を達成するために必要となったであろうとされる光量子用量を決定することが可能である。この場合において相関されるダメージ事象の収率は、相関されるダメージ事象の数と照射によって沈着される用量の比を記述することが可能である。それに代えて、相関されるダメージ事象の収率が、相関されるダメージ事象の数と分離されるダメージ事象の数の比を記述することも可能である。この方法の1つのバージョンによれば、この光量子用量と関連付けされる効果を、第2の光量子用量効果曲線から少なくとも部分的に決定することが可能である。粒子ビームの作用は、光量子用量と粒子ビームによって鋭敏なボリューム内に沈着される用量との比に対応して光量子用量と関連付けされる効果をスケーリングすることによって少なくとも部分的に決定することが可能である。好ましくは、粒子ビームの作用を、相関されるダメージ事象の数およびイオン照射によって誘発され、相関されるダメージ事象の数に対応して光量子用量と関連付けされる効果をスケーリングすることによって少なくとも部分的に決定することが可能である。
【0022】
次に、物質に対する粒子ビームの作用を指定する方法ステップ内において使用される用語を、より詳細に説明する。
【0023】
空間的微視的ダメージ分布(rSv)は、概して、ダメージまたはダメージ事象の空間的分布によって決定することが可能である。空間的微視的ダメージ分布は、微視的用量分布(mDv)から少なくとも部分的に決定することが可能である。
【0024】
微視的用量分布、特に局所的用量分布は、単一イオン・トレース周りの放射状用量分布の少なくとも部分的な使用を伴って決定することが可能である。放射状用量分布は、局所的なエネルギ沈着の期待値を、イオン・トレースの軌跡からの距離の関数として記述する。放射状用量分布を使用する利点は、この方法においては光量子照射の後の効果を直接的に参照することが可能になることである。放射状用量分布は、たとえばモンテカルロ・シミュレーションによって計算することが可能である。別の可能性を、アモルファス・パス構造の意味における解析的用量記述によって与えることが可能である。
【0025】
光量子用量効果曲線は、それ自体周知であり、通常は実験的に決定される。たとえば、ダメージ事象の平均の数は、しばしば次の線形二次の関係によって記述が可能である。
damage=γD+δD (1)
これにおいてDはX線または光量子の用量であり、γおよびδは、ガフクロミック・フィルム(GafChromic film)の単量体結晶内における用量単位当りの重合事象の数を記述するパラメータ、または用量単位当りの二重ストランド破壊の数についてのパラメータ等といった物質固有定数である。
【0026】
光量子ビームの作用は、発生しているダメージ事象の空間的分布が、概して、光量子のエネルギ沈着の物理的性質を基礎として確率論的に一様に分布されることを特徴とする。鋭敏なボリュームが、パーセルとも呼ばれる部分的なボリュームに分割される場合には、各パーセルが同じダメージ密度分布を有すると仮定することが可能である。このことは、一様なダメージ分布が各パーセル内に存在することを意味する。
【0027】
これは対照的に、パーセルに分割され、イオンが照射される鋭敏なボリュームについては、イオン・ビームの極めて局在化されたエネルギ沈着に起因して異種のダメージ分布が存在する。鋭敏なボリュームが、1×1×1nm未満、またはそれと等しいかまたはそれ未満(≦1×1×1nm)のサイズのパーセルに分割され、各パーセル内における微視的用量、特に局所的な微視的用量分布が決定される場合には、したがって微視的な空間的ダメージ分布rSvを決定することが可能である。
【0028】
鋭敏なボリュームの適切に選択された部分的ボリューム内における相関されるダメージ事象(AkS)の数についての期待値は、より精密に、空間的微視的ダメージ分布から少なくとも部分的に決定することが可能である。この場合において、用語『相関されたダメージ事象』は、個別のダメージ事象の空間的相互作用を通じて発生することが可能なダメージを意味する。したがって、空間的相関は、個別のダメージ事象の間の距離を分析することによって定義することが可能である。生物学的物質の場合においては、たとえば、相関されるダメージ事象が、その生物学的物質にとって修復がより困難なダメージに結果として帰する2つの二重ストランド破壊の組み合わせによって与えられることが可能である。相関されるダメージ事象を使用する利点は、この方法において、特に照射に対する物質または細胞の非線形反応がより良好に考慮可能となることである。
【0029】
イオン照射の後と同じ収率の相関されるダメージ事象、すなわち個別のダメージ事象の総数または分離されたダメージ事象(AiS)の数に関して同じ数の相関されるダメージ事象(AkS)を達成するために必要となったであろうとされる光量子用量(PD1)を決定することが可能である。このことは、照射フィールド内の巨視的光量子用量について、ダメージ事象の空間的分布、それらのタイプ、およびそれらの数が、相関されるダメージ事象の数の期待値が決定可能となる光量子用量効果曲線PEK1に従って決定されることを意味する。したがって、特に、結果が、イオン放射線の後と同じ収率の相関されるダメージ事象に帰する光量子用量PD1になる。たとえば、指定された距離内の二重ストランド破壊のペアの数の期待値について、これが巨視的光量子用量に二次関数的に依存すると仮定することができる。特に、これは、指定された光量子用量における相関されるダメージ事象の収率のシミュレーションに基づく迅速なPD1の決定を可能にする。この目的のため、充分に小さく、かつ等しい局所的用量を伴うとして選択されたパーセルを用いるときには同一のダメージが光量子およびイオンの照射を用いて誘発されることが仮定される。これの理由を、充分に小さいパーセル・ボリュームを用いると、イオン・ビームの場合でさえも、このボリューム内のエネルギの沈着の期待値が均質に分布されていると仮定することが可能であり、したがって、光量子ビームの照射の作用と直接比較することが可能であるとすることも可能である。この場合において、光量子の照射から既知であるダメージ事象の数を、この寸法において、イオンを用いて照射された物質へ移植可能であることは有利である。
【0030】
観察可能な効果についての第2の光量子用量効果曲線(PEK2)から、光量子用量(PD1)と関連付けされた効果(E1)を少なくとも部分的に決定することが可能である。局所的な微視的または分子ダメージを記述する光量子用量効果曲線(PEK1)とは対照的に、光量子用量効果曲線(PEK2)は、巨視的に観察可能な効果を表わす。たとえば、細胞の場合においては、PEK2が、たとえば多くの細胞および組織のタイプについて既知である線形二次パラメータαおよびβによって特徴付けられる細胞の不活性化を記述することが可能である。組織または器官の場合においては、PEK2が、組織のダメージまたは器官の機能不全の確率を記述することが可能である。PEK1と同様に、実験的な光量子のデータを参照することによって、PEK2を用いてイオン照射についての生物学的効果の高精度の決定を達成することが可能であることから利点が存在する。それに加えて、この方法を用いれば、ほかの方法と比べて計算時間を劇的に短縮することが可能である。
【0031】
観察可能な効果(E2)は、鋭敏なボリューム内に沈着される光量子用量(PD1)とイオン用量(ID)の比に対応する生物学的に関係のある効果(E1)のスケーリングから少なくとも部分的に決定することが可能である。特に、観察可能な効果(E2)は、次式のとおりに計算することが可能である。
E2=E1×(AkS/AkS) (2)
これにおいては、たとえば、E2が、関連付けされたイオン用量沈着IDおよび関連付けされた光量子用量PD1を用いて単一のイオンによってもたらされると仮定することが可能である。また、たとえばE2が単一のイオンによってもたらされること、およびAkS1およびAkS2が光量子用量PD1およびイオン用量IDのそれぞれによる相関されるダメージ事象の数を記述することも仮定することが可能である。
【0032】
それに代えて、粒子ビームの作用を、分離および相関がなされたダメージ事象の数から、それらのダメージのタイプの効果が光量子用量効果曲線から演繹可能であるとした場合に、直接決定することも可能である。
E2=AiS2×ε+AkS2×ε (3)
【0033】
有効用量は、観察可能な効果(E2)と関連付けされた光量子用量(PD2)から少なくとも部分的に決定することが可能である。したがって、適切な最適化方法によって照射フィールドの各ポイントについてのイオン用量を選択することが可能であり、その結果、このようにして照射ボリュームのあらゆるポイントにおいて指定された効果の達成が可能となる。混合ビーム・フィールドの場合においては、たとえば、先行技術から周知の方法に従って、照射フィールドのあらゆるポイントにおいてビーム・フィールドを観察することによってPD2を決定することも可能である。この場合においては、特に、個別のイオンのいわゆる固有RBWを使用することが可能であり、固有RBWは、次式のとおりに決定することが可能である。
RBWint=αint/α=E2Single/(IDsingle×α) (4)
これにおいてαint×IDsingleは、用量沈着IDsingleを伴う単一イオンの生物学的効果E2singleに対応する。非特許文献3によれば、βintをαintから獲得することが可能であり、αintおよびβintから最終的に、全体の混合ビーム・フィールドについての効果E2を獲得することが可能である。イオン照射後の効果は、したがって、たとえば線形二次パラメータαionおよびβionによって記述することが可能である。
【0034】
上記の『決定する』は、特に、それぞれの大きさが複雑な技術的方法により計算ユニット内において計算されることを意味するとして解釈することが可能である。
【0035】
物質内または物質上における粒子ビームの作用を決定するための方法の利点は、それが、従来的な照射を伴った経験の、粒子ビームを伴う照射への直接的な移植を可能にするということの中に見ることが可能である。提案されている方法の追加の利点は、RBWint値および/または線形、二次の係数が、陽子からネオンまでの個別のイオンについて、および0.1MeV/uから1GeV/uまでのエネルギについて既存のビーム・フィールドとは独立に、混合ビーム・フィールドについてE2が計算される前に先行して計算し、テーブルの形式でストア可能なことである。これは、結果としてさらに、かなりの計算時間の節約をもたらすことが可能である。
【0036】
これらの発展の追加の利点および固有性は、以下に述べる照射プランニングのための方法、および/または目標ボリュームの照射のための方法、および照射デバイスならびにそれの発展の説明の中で類似して与えられている。
【0037】
粒子ビームを用いた目標ボリュームについての照射プランニングのための提案された方法は、照射ボリューム内において目標ボリュームを指定するステップ、目標ボリュームを含む照射ボリューム内において粒子ビームのフルエンスおよび/またはエネルギ分布を決定するステップ、フルエンスおよび/またはエネルギ分布から結果としてもたらされる有効用量分布を決定するステップを有し、微視的ダメージ相関を少なくとも部分的に基礎として照射ボリュームの物質に対する作用を決定するデータが使用される。この場合においては、照射ボリューム内において目標ボリュームを指定する方法ステップが、フルエンスおよび/またはエネルギ分布を決定するステップに先行することが可能である。
【0038】
この方法においては、通常、粒子ビームのフルエンスおよび/またはエネルギ分布のために目標ボリューム内に生成される作用が決定され、有効用量分布が好ましく決定される。作用の決定は、微視的ダメージ相関に好ましく基づく。これは、好ましくは概略で100nmより大きいとするサブ−マイクロメートル尺度でダメージ事象の作用を表示する。
【0039】
この場合において目標ボリュームは、通常、対象の中の照射されることになっているボリュームである。対象は、たとえば検出器システム、X線フィルム、照射状況をシミュレーションする模型、または人といった照射される物質内の範囲が定められたボリュームとすることができる。照射ボリュームは、粒子ビームの方向に見られる目標ボリュームとすること、目標ボリュームの正面に配された物質とすること、および目標ボリュームの後に配された物質とすることも可能である。この場合において目標ボリュームの物質、たとえば対象の改変されるべき物質または破壊されるべき腫瘍は、通常、その粒子ビームのブラッグ・ピークの領域内となる。
【0040】
フルエンス分布は、通常、単位面積当りの通過イオンまたは粒子の数(イオン/cm)および関連付けされたエネルギ分布を記述し、通常、目標ボリュームの少なくとも1つのポイントにおいて決定されるが、好ましくは目標ボリュームのポイントの3次元(3D)配列またはマトリクスにおいて決定される。フルエンス分布は、主イオン・ビームについての情報はもとより、核反応によって生成される二次粒子についての情報も含むことが可能である。
【0041】
フルエンスおよびエネルギ分布から、結果として得られる巨視的な物理的用量分布を決定することが可能である。巨視的な物理的用量分布は、以下において、通常は数立方ミリメートルまたはそれより大きいボリューム内における粒子ビームの用量分布の期待値から結果としてもたらされる用量沈着であるとして理解する。この用量分布は、目標ボリュームの各ポイントx,y,zにおける粒子の数およびそれらのエネルギ沈着の知識に基づく。
【0042】
しかしながら、イオンまたは粒子ビームの場合においては、期待されるべき照射効果を記述するために巨視的用量分布では充分でない。ビームの作用もまた、従来的な光量子ビームと比較されるイオン・ビームの変更される有効性によって決定的に決定される。
【0043】
照射プランニングの目標は、一般に、概略で5乃至10%の精度を伴って有効用量の決定が可能になることである。有効用量は、イオン・ビームと同じ効果を達成するために光量子ビームを用いて沈着されなければならないことになる用量を指定する。照射プランを計算するための出発点は、したがって、目標ボリュームの物質において達成され、観察可能となる作用、または望ましい作用、または望ましい効果のいずれかである。この場合において、適用されるべきイオン・ビームのパラメータ、たとえばイオン・ビームのタイプ、イオン・ビームのエネルギおよび/または一般に光量子ビームと比較される変更される有効性が使用され、それらから適用されることになる用量が、目標ボリュームを参照して決定されるか、または計算される。
【0044】
先行技術によるところのLEMは、イオン・ビームの物理的な性質の知識および光量子放射線に対する物質の反応の知識からイオン・ビームの有効性の演繹を可能にする。しかしながら、使用される単純化および近似のため、一般にモデルの精度が、より重いイオン、たとえば炭素を用いた適用のためのみの照射プランニングにとって充分な精度となる。オリジナルの実装(LEM I)から出発し、発展(LEM II:非特許文献4;LEM III:非特許文献5)によって計算の精度の改善が可能となったが、それでもなおモデルは、広い質量範囲(陽子からネオン・イオンに至るまで)のイオンおよび(1MeV/uから1GeV/uに至るまでの)エネルギ範囲を覆う一般的な適用にとって不充分な精度しか提供できていない。
【0045】
LEM I乃至LEM IIIのモデルの中でこれまでに使用された方法とは対照的に、提案されている方法の場合においては、微視的な空間的ダメージ相関が有効用量の決定に使用される。非生物学的物質、たとえば無機物質の照射については、変更される有効性を決定するため、したがって、有効用量を決定するためには、特に、たとえば照射後放射線発色染料の発色、またはX線フィルム内の臭化銀結晶の感度等の物質の定数が決定的である。生物学的物質、たとえば腫瘍細胞等の照射の場合においては、細胞核内に含まれるDNAに対するダメージが、一般に、観察可能なビーム作用の決定的原因を表わす。有効用量を記述するために、ここではイオンの相対的生物学的効果比(RBW)がしばしば使用される。これは、光量子ビームとイオン・ビームを用いて同一の効果を達成するために必要とされるイオン用量の比によって定義される。
【数1】

【0046】
項isoeffectは、DPhotonおよびDIonについて同一の効果を示す。このことは、最初にダメージのタイプまたは観察可能な効果が定義されて、パラメータとして使用されなければならないことを意味する。
【0047】
この照射プランニングのための方法の1つのバージョンにおいては、粒子ビームおよび/または物質の多様な性質を特徴付ける多様なパラメータについて、照射されることになっている物質に対する粒子ビームの効果を、それぞれの場合における微視的ダメージ相関を基礎として決定することが可能である。粒子ビームの多様なパラメータについて、また多様な物質の性質について決定される効果、および/またはそれらの効果を特徴付けるデータならびに値は、それぞれの場合においてメモリ・ユニット内に保持することが可能である。
【0048】
この方法においては、粒子ビームの多様な性質について、たとえば陽子からネオンまでのイオンについて、および/または0.1MeV/uから1GeV/uまでのエネルギについて、先行して効果を計算し、メモリ・ユニット内、たとえばデータ・セットおよび/またはデータ・テーブル内に保持することが可能である。ストアされた効果は、その後、照射プランニングのための方法において使用することが可能である。
【0049】
指定された効果を達成するべく必要とされる用量、対応する物質定数または相対的生物学的効果比を記述するために必要なデータの決定を可能にするために、データ・セットまたはデータを含むテーブルの形式で用量効果曲線の線形および/または二次係数またはそのほかの係数を好ましく使用することが可能である。
【0050】
その種のデータ・セットの例は、指定されたイオン・エネルギおよびイオン・タイプについて、関係するRBW値の決定を可能にするパラメータを伴うテーブルである。これらのテーブルを含むデータ・セットは、RBWデータ・セットとして指定することが可能であり、かつ照射デバイスのコントロールに使用されるパラメータ・テーブルの形式とすることができる。しかしながら、照射デバイスのコントロール設備内において直接RBWデータ・セットを決定するための方法を実装することも考えられる。データ・セットは、コントロール設備内の照射デバイス、たとえば加速器をコントロールするパラメータ・フィールドとすることが可能である。
【0051】
それに加えて、フルエンス分布から、通常、10×10×10μmのボリューム内のあらゆるポイントにおいて、通常は<1nm、すなわちサブ−ナノメートル値域の分解能を伴って照射フィールド内の局所的用量分布を決定することが可能である。局所的用量分布は、粒子のスペクトル分布を考慮に入れることも可能である。局所的用量分布は、したがって、上で定義した巨視的用量分布とは対照的に微視的用量分布になる。
【0052】
物質に対する粒子ビームの作用または有効用量分布の決定、たとえば照射プランニングの関係における決定は、局所的な微視的用量分布を使用して決定することが可能な局所的ダメージ相関を考慮に入れることに基づくことが可能である。相関されるダメージ事象、特に空間的に相関されるダメージ事象を生成する確率は、とりわけ、適切に選択された鋭敏なボリュームの部分的なボリューム内におけるダメージ事象の数に依存する。フィルムの場合においては、鋭敏なボリュームを臭化銀の粒のボリュームによって定義することが可能であり、細胞の場合にはそれを細胞核とすることが可能である。適切に選択された距離内における個別のダメージ事象の相互作用の結果としてもたらされるダメージ事象が、相関されるダメージ事象と呼ばれる。ガフクロミック・フィルム(GafChromic film)の単量体結晶内における重合事象、または生物学的組織の細胞核内におけるDNAダメージ事象は、個別のダメージ事象の例として見ることが可能である。したがって、相関されるダメージ事象を発生する確率は、たとえばダメージ事象の距離分析から決定することが可能である。相関される生物学的ダメージ事象を決定する簡単な例は、指定された距離内における二重ストランド破壊のペア(DSBペア)の数を計算することである。
【0053】
これまでに周知となっている方法の場合においては、引き起こされたダメージ事象の数および空間的分布が一般に(サブ−)ナノメートル尺度ではなく、マイクロメートル寸法で計算されている。したがって、概して計算が、対応するマイクロメートル範囲にわたるエネルギ沈着についてのグローバルな情報を基礎とし、この方法においては、照射フィールド内に(サブ−)ナノメートル尺度で実際に位置する物理的な用量沈着が過度に簡単化される。それに加えて、これまでに周知となっている方法は、光量子用量効果曲線から効果を移植することを一般には基礎としていない。
【0054】
サブ−マイクロメートル範囲における空間的ダメージ分布(rSv)の精密な計算の光量子用量効果曲線に関する組み合わせは、ここで提案されている方法の本質的な新機軸を表わす。
【0055】
照射プランニングのためのこの方法の利点は、特に、それを用いると、有効な用量のより精密な計算が可能になり、したがって照射プランニングの実行が、有意に改善された精度において可能となることである。特に、この方法は、軽イオンの場合における精度を改善し、その結果、提案されている方法が、陽子から重イオン、たとえばネオン・イオンまでの広いイオンの範囲にわたって同一の精度を伴って使用が可能となる。それに加えて、これを用いると、照射プランニングのための先見的な形および、以前に作成され適用された照射プランの再計算、チェック、および妥当性検査のための回顧的な形の両方においてイオン・ビームの作用を考慮に入れることが可能である。
【0056】
この方法は、中性子ビームの有効性の決定に使用することも可能である。目標ボリュームに中性子を照射するとき、核反応によって荷電二次粒子を生成することが可能である。続いてそれらが、鋭敏なボリューム内にダメージを生じさせる。中性子の作用は、引き起こされる、いわゆる『反跳』の作用に基づいており、したがって、通常、陽子から酸素イオンまでの荷電粒子を含むことができる混合粒子フィールドによって特徴付けられる。この混合ビーム・フィールドの作用を計算するために、したがって、イオン・ビーム治療における状況と同様に、同一の方法を使用することが可能である。
【0057】
上で述べたことは、このほかの粒子にも当て嵌まる。
【0058】
提案されている方法の1つのバージョンにおいては、この方法が目標ボリュームについての照射プランの作成、および/または照射プランの妥当性検査に使用される。照射プランは、一般に、パラメータ・データ・セットを計算することによって目標ボリュームの実際の照射の前に決定され、照射方法をコントロールするために照射デバイス内にストアできる。したがって、照射プランは、データ・セットまたは値テーブルの形式でメモリ・ユニット内に保持されるパラメータ・データ・セットを包含し、それが照射の間に照射プランを実装するために使用されて照射システムが直接または間接的にコントロールされる。照射プランは、望ましい有効用量が目標ボリューム内において適用されることを確実にすることができる。決定された有効用量分布内において、照射されているか、または照射されることになっている物質の固有ビーム反応に依存するデータが少なくとも部分的に使用されることから、照射プランニングまたは照射プランの妥当性検査を、提案されている方法に対応して、概してより精密に行なうことが可能である。したがって、特定の、腫瘍の照射の場合においては、腫瘍内の有効用量の最適化が可能であり、しかも周囲を取囲む健康な組織もまた最適に保存することが可能である。
【0059】
有効な用量分布を決定するための方法の1つのバージョンにおいては、微視的用量分布がフルエンス分布から少なくとも部分的に決定される。この場合において、微視的用量分布、特に局所的用量分布は、単一イオン・トレース周りの放射状用量分布の少なくとも部分的な使用を伴って決定することが可能である。放射状用量分布は、局所的なエネルギ沈着の期待値を、イオン・トレースの軌跡からの距離の関数として記述する。放射状用量分布を使用する利点は、この方法においては光量子照射の後の効果を直接的に参照することが可能になることである。放射状用量分布は、たとえばモンテカルロ・シミュレーションによって生成することが可能である。別の可能性が、アモルファス・パス構造の解析的用量記述を通じて存在する。
【0060】
この方法の追加のバージョンにおいては、微視的な空間的ダメージ分布(rSv)が、粒子ビームによって、または誘発されたフルエンス/エネルギ分布によって生じることが可能な微視的用量分布(mDv)から少なくとも部分的に決定され、局所的ダメージ誘発の、この目的のために必要とされる確率が、関連付けされた光量子用量効果曲線(PEK1)から少なくとも部分的に演繹される。特に、空間的ダメージ分布は、ダメージ事象の空間的分布によって決定することが可能である。光量子用量効果曲線は、それ自体周知であり、通常は実験的に決定される。たとえば、ダメージ事象の平均の数は、しばしば次の線形二次の関係によって記述が可能である:Ndamage=γD+δD。これにおいてDはX線または光量子の用量であり、γおよびδは、ガフクロミック・フィルム(GafChromic film)の単量体結晶内における重合事象、または二重ストランド破壊の収率についてのパラメータといった物質固有定数である。
【0061】
光量子ビームの作用は、発生しているダメージ事象の空間的分布が、光量子のエネルギ沈着の物理的性質を基礎として確率論的に一様に分布されることを特徴とする。鋭敏なボリュームが、パーセルとも呼ばれる部分的なボリュームに分割される場合には、各パーセルが同じダメージ密度分布を有すると仮定することが可能である。このことは、一様なダメージ分布が各パーセル内に存在することを意味する。
【0062】
これは対照的に、パーセルに分割され、イオンが照射される鋭敏なボリュームについては、イオン・ビームの極めて局在化されたエネルギ沈着に起因して異種のダメージ分布が存在する。鋭敏なボリュームが、1×1×1nm未満、またはそれと等しいかまたはそれ未満(≦1×1×1nm)のサイズのパーセルに分割され、各パーセル内における微視的用量、特に局所的な微視的用量分布が決定される場合には、したがって微視的な空間的ダメージ分布rSvを決定することが可能である。
【0063】
方法の追加の好ましいバージョンにおいては、鋭敏なボリュームの適切に選択された部分的ボリューム内における相関されるダメージ事象(AkS)の数についての期待値が、より精密に、空間的微視的ダメージ分布から少なくとも部分的に決定される。この場合において、用語『相関されたダメージ事象』は、個別のダメージ事象の空間的相互作用を通じて発生することが可能なダメージを意味する。空間的相関は、個別のダメージ事象の間の距離を分析することによって定義することが可能である。生物学的物質の場合においては、たとえば、相関されるダメージ事象を、DNA二重ストランド破壊に帰するDNAの2つの単一ストランド破壊、またはその生物学的物質にとって修復がより困難なダメージに結果として帰する2つの二重ストランド破壊の組み合わせによって定義することが可能である。相関されるダメージ事象を使用する利点は、この方法において、特に照射に対する物質または細胞の非線形反応がより良好に考慮可能となることである。
【0064】
照射のための方法および少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになっている物質に対する粒子ビームの作用を決定するための方法の追加の好ましいバージョンにおいては、照射ボリューム内の物質が、少なくとも部分的に生物学的物質になる。この場合においては、物質が、細胞、細胞培養、および/または組織、たとえば腫瘍の組織から構成される物質を含むことが可能である。しかしながら、ボリュームは、同時にほかの物質、たとえば金属インプラントを生物学的組織とともに含むことが可能である。
【0065】
この方法の追加の好ましいバージョンにおいては、鋭敏なボリュームが、生物学的物質、特に細胞の少なくとも1つのサブ−ボリュームおよび/または部分的なボリュームを少なくとも部分的に包含する。特に、鋭敏なボリュームは、細胞の部分的なボリュームを包含する。それを、好ましくは細胞核とすることが可能である。したがって、局所的な微視的用量分布を決定するための鋭敏なボリュームの範囲は、細胞の代表的な寸法、すなわち約10μmに対応することが可能である。鋭敏なボリュームを前述したパーセルに細分するために、分解能をナノメートル範囲内とすること、すなわち前述したパーセルのうちの1つの寸法を、通常、≦1nm台の大きさとすることが可能である。ナノメートル尺度で観察することの利点は、充分に微細な分解能を用いるとパーセル内の微視的用量を一次近似に対する定数であるとする仮定が可能になることである。この仮定は、パーセル内のイオン・ビームのエネルギ沈着の作用を光量子放射線についての用量効果曲線から演繹することを可能にする。
【0066】
この方法の追加のバージョンにおいては、イオン照射の後と同じ収率の相関されるダメージ事象、すなわち個別のダメージ事象の、または分離および相関がなされたダメージ事象の総数に関して同数となる相関されるダメージ事象(AkS)を達成するために必要となる光量子用量(PD1)が決定される。このことは、照射フィールド内の巨視的光量子用量について、ダメージ事象の空間的分布、それらのタイプ、およびそれらの数が、相関されるダメージ事象の数の期待値が決定可能となる光量子用量効果曲線PEK1に従って決定されることを意味する。したがって、特に、結果が、イオン放射線の後と同じ収率の相関されるダメージ事象に帰する光量子用量PD1になる。たとえば、指定された距離内の二重ストランド破壊のペアの数の期待値について、それが巨視的光量子用量に二次関数的に依存すると仮定することができる。特に、これは、指定された光量子用量における相関されるダメージ事象の収率のシミュレーションに基づく迅速なPD1の決定を可能にする。この目的のため、充分に小さく、かつ等しい局所的用量を伴うとして選択されたパーセルを用いるときには同一のダメージが光量子およびイオンの照射を用いて誘発されることが仮定される。これの理由を、充分に小さいパーセル・ボリュームを用いると、イオン・ビームの場合でさえも、このボリューム内のエネルギの沈着の期待値が均質に分布されていると仮定することが可能であり、したがって、光量子ビームの照射の作用と直接比較することが可能であるとすることも可能である。この場合において、光量子の照射から既知であるダメージ事象の数を、この寸法において、イオンを用いて照射された物質へ移植可能であることは有利である。
【0067】
この方法の追加のバージョンにおいては、観察可能な効果についての第2の光量子用量効果曲線(PEK2)から、光量子用量(PD1)と関連付けされた効果(E1)が少なくとも部分的に決定される。局所的な微視的または分子ダメージを記述する光量子用量効果曲線(PEK1)とは対照的に、光量子用量効果曲線(PEK2)は、巨視的に観察可能な効果を表わす。たとえば、細胞の場合においては、PEK2が、たとえば多くの細胞および組織のタイプについて既知である線形二次パラメータαおよびβによって特徴付けられる細胞の不活性化を記述することが可能である。組織または器官の場合においては、PEK2が、組織のダメージまたは器官の機能不全の確率を記述することが可能である。PEK1と同様に、実験的な光量子のデータを参照することによって、PEK2を用いてイオン照射についての生物学的効果の高精度の決定を達成することが可能であることから利点が存在する。それに加えて、この方法を用いれば、ほかの方法と比べて計算時間を劇的に短縮することが可能である。
【0068】
この方法の追加の好ましいバージョンにおいては、所定のフルエンス分布についての観察可能な効果(E2)が、当該フルエンス分布と対応する鋭敏なボリューム内に沈着される光量子用量(PD1)とイオン用量(ID)の比に対応する生物学的に関係のある効果(E1)のスケーリングから少なくとも部分的に決定される。特に、観察可能な効果(E2)は、次式のとおりに計算することが可能である。
E2=E1×(ID/PD1) または
E2=E1×(AkS/AkS) (6)
これにおいては、たとえば、E2が、関連付けされた用量沈着IDおよび関連付けされたPD1を用いて単一のイオンによってもたらされると仮定することが可能である。それに代えて、また好ましくは、E2が単一のイオンによってもたらされること、およびAkS1およびAkS2が光量子用量PD1およびイオン用量IDのそれぞれによる相関されるダメージ事象の数を記述することを仮定することが可能である。
【0069】
それに代えて、粒子ビームの作用を、分離および相関がなされたダメージ事象の数から、それらのダメージのタイプの効果が光量子用量効果曲線から演繹可能であるとした場合に、直接決定することも可能である。
E2=AiS2×ε+AkS2×ε (7)
【0070】
これにおいてAiS2は分離されたダメージ事象の数を示し、AKS2は1つのイオンによって誘発することが可能な相関されるダメージ事象の数を示し、εは個別の分離されたダメージ事象の作用を、εは相関されるダメージ事象の作用をそれぞれ記述する。
【0071】
この方法の追加のバージョンにおいては、有効用量が、観察可能な効果(E2)と関連付けされた光量子用量(PD2)から少なくとも部分的に決定される。したがって、適切な最適化方法によって照射フィールドの各ポイントについてのイオン用量を選択することが可能であり、その結果、このようにして照射ボリュームのあらゆるポイントにおいて指定された効果の達成が可能となる。混合ビーム・フィールドの場合においては、たとえば、先行技術から周知の方法に従って、照射フィールドのあらゆるポイントにおいてビーム・フィールドを観察することによってPD2を決定することも可能である。この場合においては、特に、個別のイオンのいわゆる固有RBWを使用することが可能であり、固有RBWは、次式のとおりに決定することが可能である。
RBWint=αint/α=E2Single/(IDsingle×α) (8)
これにおいてαint×IDsingleは、用量沈着IDsingleを伴う単一イオンの生物学的効果E2singleに対応する。
【0072】
非特許文献3によれば、βintをαintから獲得することが可能であり、αintおよびβintから最終的に、フルエンス分布に従って生成される全体の混合ビーム・フィールドについての効果E2を獲得することが可能である。イオン照射後の効果は、たとえば線形二次パラメータαionおよびβionによって記述することが可能である。
【0073】
この方法の利点は、それが、従来的な照射を伴った経験の、粒子ビームを伴う照射への直接的な移植を可能にするということの中に見ることが可能である。提案されている方法の追加の利点は、RBWint値が、陽子からネオンまでの個別のイオンについて、および0.1MeV/uから1GeV/uまでのエネルギについて既存のビーム・フィールドとは独立に、混合ビーム・フィールドについてE2が計算される前に先行して計算し、テーブルの形式でストア可能なことである。これは、結果としてさらに、かなりの計算時間の節約をもたらすことが可能である。
【0074】
目的は、目標ボリューム(44)を含む照射ボリューム(46)内においてフルエンスおよび/またはエネルギ分布を決定するステップ、フルエンスおよび/またはエネルギ分布から結果としてもたらされる有効用量分布を決定するステップを有する、粒子ビームを用いて目標ボリュームを照射するための方法によっても達成され、当該方法においては照射ボリューム(46)の物質に対する粒子ビームの作用が使用され、それにおいて作用は、物質内の粒子ビームの作用を決定するための方法に従って、微視的ダメージ相関に少なくとも部分的に基づく。
【0075】
照射プランニングのための方法の固有性、特徴、および利点は、目標ボリュームを照射するための方法にも同様に当て嵌まる。
【0076】
目的は、さらに、目標ボリュームを包含する照射ボリュームを照射するための照射プランによって達成され、当該照射プランは、上で述べた方法を少なくとも部分的に使用して編集することが可能であるか、かつ/またはそれを使用して照射プランが編集済みである。結果として、照射プランを作成するために、フルエンス分布から結果としてもたらされる有効用量分布が決定するデータが使用され、関連した観察可能な照射ボリュームの物質に対する効果が、巨視的ダメージ相関を少なくとも部分的に基礎として、また特に相関されるダメージ事象(AkS)の数を基礎としても決定される。
【0077】
また目的は、上で述べた目標ボリュームを照射するための方法を使用して作成および/または作動が可能なビーム修正設備によっても達成される。ビーム修正設備は、その方法を実行するべくセットアップされる能動および/または受動デバイスを有することが可能である。能動ビーム修正設備は、たとえば、場所およびエネルギのパラメータ・フィールドに従って粒子ビームを目標ボリュームにわたって案内するラスタ・スキャン設備とすることが可能である。受動ビーム修正設備は、たとえば、提案されている方法を使用して設計または作成が行なわれたフィルタ要素とすることが可能である。このようにして設計されたフィルタ要素は、その後、照射設備内に組み込むことが可能である。この場合においては、フィルタ要素によって、イオンまたは粒子ビームのエネルギ、したがって浸透深度(z方向)を、スキャナを使用してビームを偏向することによってxおよびy方向がそれぞれシャットダウンされる間、修正することが可能である。したがって、受動フィルタ要素および能動スキャナの相互作用によって、照射されることになっている目標ボリュームをスキャンすることが可能である。
【0078】
目的はまた、上で述べた特徴を含む少なくとも1つのビーム修正設備を有する照射デバイスによっても達成される。この場合において照射デバイスは、特に、粒子ビームの生成および加速を行なう加速器デバイスを含むこと、およびビーム修正設備を有することが可能であり、それを使用して照射されることになっている目標ボリュームを空間的な3方向すべてにおいて検出することが可能である。この場合においてビーム修正デバイスは、目標ボリュームの場所においてビーム・エネルギならびにビーム・ポジションおよび/またはビーム軸を変更するために受動および能動両方の設備および受動および能動設備の組み合わせを有することが可能である。照射デバイスは、加速器デバイスをコントロールするためのコントロール・システム、および対象、特に患者を照射するための少なくとも1つのビーム修正設備を好ましく有する。このようにコントロール・システムを使用して照射デバイスをコントロールすることが可能であり、コントロール・システムは、照射プランがストアされる設備を有するか、またはそれを使用して対応する照射プランを生成することが可能である。
【0079】
本発明は、好ましい実施態様を参照して説明されているが、目的および/または特徴の均等物、代替、および修正が、請求項の保護の範囲から外に出ない限りにおいて保護の範囲内に含まれることを強調しておく。
【0080】
以下、図面を基礎として本発明をさらに詳細に説明する。図中の類似の対象については同じ参照記号が使用されている。図においては:
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】ビーム修正設備および深度用量分布に対するそれの作用の機能的な原理を略図的に表現した説明図である。
【図2a】能動的ビーム修正設備(図2a)および受動的ビーム修正設備(図2b)を伴う照射デバイスを略図的に表現した説明図である。
【図2b】能動的ビーム修正設備(図2a)および受動的ビーム修正設備(図2b)を伴う照射デバイスを略図的に表現した説明図である。
【図3】イオン(図3a、図3b、図3c)および光量子(図3d)を用いる照射について鋭敏なボリューム内の微視的用量分布を略図的に表現した説明図である。
【図4】目標ボリュームを照射するための方法を示したフローチャートである。
【図5】図4に示されている方法の中のより詳細に実行することが可能な方法ステップを示したフローチャートである。
【図6】イオンおよび光量子を用いた照射後の鋭敏なボリューム内のDNAダメージ事象の分布を示したグラフである
【図7】図6に示されているイオンを用いた照射と同じ収率の相関されるダメージ事象を結果としてもたらす光量子照射後の鋭敏なボリューム内のDNAダメージ事象の分布を示したグラフである。
【図8】線エネルギ付与(LET)に依存するRBWファクタの関数を示したグラフである。
【図9a】目標ボリューム内においてヘリウム・イオンを用いて適用される照射用量を浸透深度の関数として略図的に表わしたグラフである。
【図9b】図9aからの照射フィールドを用いた照射後の生存細胞を目標ボリューム内の浸透深度の関数として表わしたグラフである。
【図10a】典型的な2フィールド照射の場合について、目標ボリューム内において陽子および炭素イオンを用いて適用される照射用量を略図的に表わしたグラフである。
【図10b】図10aからの照射フィールドを用いた目標ボリュームの照射について計算された生存細胞および関連付けされた実験的に決定された生存確率を略図的に表わしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0082】
図1は、ビーム修正設備10および、単一エネルギのイオンまたは粒子ビーム12に対するそれの作用を略図的な表現で示している。単一エネルギ・イオン・ビーム12は、等しい長さの矢印14を使用して略図的に示されている。矢印16a乃至16iは、異なるエネルギのイオン・ビームを、したがって単一エネルギではない、すなわちエネルギの異なるイオンを有するイオン・ビーム16を表わしている。図1の下側の部分には、略図的な表現でグラフが示されている。そこには、照射されることになっている物質(図示せず)内のブラッグ・ピーク18’(左側のグラフ内)および24(右側のグラフ内)が示されている。ブラッグ・ピーク18’は、物質内における浸透深度の関数として相対的な用量を示す。相対的用量は、y軸と呼ばれる軸20上にプロットされ、浸透深度は、x軸と呼ばれる軸22上にプロットされる。ブラッグ・ピーク18の曲線の推移は、単一エネルギ・イオンを用いた照射について、用量の推移を深度の関数として記述する。ブラッグ・ピーク24は、矢印16a乃至16iによって示される異なるエネルギを伴うイオン・ビーム16について、物質内の相対的な用量を浸透深度の関数として記述する。ブラッグ・ピーク24は拡張ブラッグ・ピーク24と呼ばれ、個別のブラッグ・ピーク19a乃至19iの重ね合せからなり、そのそれぞれは矢印16a乃至16iによって表象的に示されるイオン・ビーム16のエネルギに対応する。イオン・ビーム16は、ビーム修正設備10を使用してイオン・ビーム12から生成可能である。相対的用量は、ここでは、照射ボリューム(図示せず)内における沈着される用量に対応する。x軸22のゼロ点26は、照射ボリュームの表面に対応する。
【0083】
この場合においては、指定された用量分布を用いて目標ボリューム(図示せず)を照射することが可能なビーム修正設備10の作用が図式的に示されている。この目的のために、ビーム・エネルギおよび浸透深度に関して単一エネルギ・ビームが、ビーム修正設備10の能動的または受動的ビーム案内要素によって、望ましい用量が指定された深度範囲まで適用されることが可能となるように変調される。矢印28は、単一エネルギ・イオン照射についてのブラッグ・ピーク18からイオン・ビーム16についてのブラッグ・ピーク24へのビーム修正設備10の作用を記号化している。
【0084】
図2は、ビーム修正設備10を実装するための異なる可能性を示している。図2aは、加速デバイスまたは粒子治療システム30としてセットアップされる加速器設備36の構造を、能動的ビーム案内およびビーム適用を含む能動的ビーム修正設備32とともに略図的な表現で示している。粒子治療システム30は、通常、粒子ビーム34を生成するビーム生成設備38、およびビーム加速設備40を有する。ビーム生成設備38は、通常、粒子源、たとえばイオン源を有する。ビーム加速設備は、通常、低エネルギ加速器ユニットおよび関連付けされたビーム案内を有する。加速器設備36からの下流には、シンクロトロン42、サイクロトロン、または別の加速器、および高エネルギ・ビーム移送設備が接続されている。シンクロトロン42の後には、照射のために必要とされるエネルギを伴った粒子ビーム34aが提供される。陽子、π中間子、ヘリウム・イオン、炭素イオン、酸素イオン、またはそのほかの荷電粒子または化学元素の粒子またはイオンと呼ばれる化合物といった粒子が、通常、粒子として使用される。イオンおよび粒子という用語は、したがって、本発明においては同義語的に使用されている。
【0085】
図2においては、例としてイオン源38、線形加速器40、およびシンクロトロン42が示されている。加速器設備36およびそれの下流に接続されている高エネルギ加速設備もまた、目標ボリューム44の照射のために必要となるエネルギとともに粒子ビーム34aを、特に荷電イオンの粒子ビームを提供する能力のある任意のほかの加速器を有することができる。腫瘍治療における使用については、通常、1GeV/amu台の大きさの粒子の最大エネルギを伴うイオン・ビーム34aを提供する加速器設備36が一般に使用される。
【0086】
目標ボリューム44は、エンティティまたは照射ボリューム46内に配されている。エンティティ46は、目標ボリューム44を取囲むボリューム、および/または照射されることになっている対象全体を含むことが可能である。照射されることになっている目標ボリューム44は、粒子放射線に曝露されることになる任意形式のボリューム、たとえばフィルム検出器システム、細胞培養標本が満たされたボリューム、または患者内の腫瘍ボリューム(図示せず)とすることが可能である。目標ボリューム44は、静止している目標ボリューム44および移動している目標ボリューム44の両方とすることが可能である。目標ボリューム44は、通常、スライス45a、45b、45c、45d、45e、45fに分割され、そのそれぞれが、スライス45a、45b、45c、45d、45e、45fのそれぞれのために必要となる特定のエネルギを伴ったイオン・ビーム34aによって照射される。それぞれの場合におけるエネルギは、一般にシンクロトロン42によって設定され、可変である。
【0087】
照射されることになっている目標ボリューム44内に総合的な用量を適用するために、目標ボリューム44が、たとえばラスタ・スキャン方法によって照射される。この場合においては、偏向マグネット48a、48b、50aおよび50bを使用して細いペンシル・ビームが、照射されることになっているボリューム46にわたってラテラルに操作され、ビーム・エネルギおよび、したがってビーム34aの浸透深度が、高エネルギ加速器の設定または吸収体の厚さを変更することによって変更され、したがって、照射されることになっているボリュームにわたって、特にスライス45a、45b、45c、45d、45e、45fにわたって長さ方向にビームが案内される。
【0088】
この目的のために、照射デバイス30は、フロー・コントロール設備52および少なくとも1つの検出器54を有し、イオン・ビーム・パラメータと呼ばれるイオン・ビーム34aのパラメータを監視する。フロー・コントロール設備52は、典型的な電気接続56を介して加速器設備36、特にシンクロトロン42と、および接続58を介してラスタ・スキャン設備60と結合されている。フロー・コントローラ52は、接続62を介して検出器54と接続されている。したがって、検出器54を介して決定される値(粒子ビーム34aのパラメータ)、たとえば粒子ビーム34aのエネルギおよび位置を使用して、照射デバイス36、特にシンクロトロン42のコントロールおよび調整を行なうことが可能である。検出器54は、複数の検出器ユニットから構成することが可能である。ここに示されている実施態様においては、検出器54が2つの検出器ユニット54aおよび54bから構成され、したがって接続62が2つの接続62aおよび62bを包含する。イオン・ビーム・パラメータを決定するための検出器54の例は、たとえば、イオン化チャンバ54aおよびマルチワイヤ比例チャンバ54bであり、ビーム強度モニタまたはビーム位置モニタとして使用が可能であるか、または適している。
【0089】
フロー・コントロール設備52は、粒子ビーム・システム30のコントロール・システムを表わし、したがってシステム30の個別の構成要素を、たとえば加速器設備36、シンクロトロン42、およびラスタ・スキャン設備60のマグネット48a、48b、50aおよび50bをコントロールする。それに加えて、ビーム・パラメータを監視するために検出器54のデータ等の測定データを読取ること、および/またはフロー・コントロール設備52内にストアすることが可能である。
【0090】
一般に粒子ビーム・システム30のビーム・パラメータは、照射の前に生成された照射プランを使用してコントロールされる。この照射プランは、通常、目標ボリューム44の照射の開始前にプランニング設備内において作成される。しかしながら、照射がすでに始まっているときに照射プランの作成および/または修正が行なわれることを規定することも可能である。その種の照射プランは、方法200(図4に示す)によって作成することが可能である。
【0091】
図2aに示されているビーム修正設備は、能動的ビーム修正設備32である。図2aに示されている粒子ビーム・システム30の構成要素のアレンジメントは、単なる例示である。このほかのアレンジメント、特にビーム生成およびビーム修正のためのこのほかの構成要素を使用することは可能である。
【0092】
図2bは、照射設備66の別の実施態様の例を略図的な表現で示している。この場合においては、ビーム・エネルギ(イオン・ビームのエネルギ)がいわゆるリッジ・フィルタ・システム68を介して変調される。このフィルタ68の形状は、フィルタの多様なポイントにおいて厚さを変化させることによってイオン・ビーム34aが異なる範囲で減じられるように設計される。したがって、フィルタ68の設計によって、目標ボリューム44内のイオン・ビームの深度用量分布の精密な形式が一意的に固定される。逆に言うと、指定された深度用量分布が、関連付けされたフィルタ68の設計を決定する。フィルタ68の技術的設計は、したがって、通常、それぞれの場合において決定された照射プランに依存する。照射プランを作成する方法200は、フィルタ・システム68および/または個別の構成要素の作成に使用することが可能であり、したがって、たとえばCNC製造機械のためのコントロール・データの生成に使用することが可能である。達成されるべき有効用量分布のための提案されている方法によって生成されるデータは、したがって、フィルタ68の作成に使用することが可能である。図2bに示されているビーム修正設備10は、受動ビーム修正設備70として指定されている。受動ビーム修正設備70は、通常、フィルタ68をはじめ、コリメータ設備71を含むが、図には1つのコリメータだけが略図的に示されている。
【0093】
上述のビーム修正のための能動的および受動的な方法に加えて、ビーム修正設備を実装するための混合方法もまた考えられる。
【0094】
図3は、光量子ビーム(3d)およびイオン・ビーム(3b)について、エネルギ沈着の期待値をマイクロメートル尺度で略図的に示している。光量子放射線と比較して変化しているイオン・ビームの作用は、異なるビーム・タイプ、すなわちイオン放射線と光量子放射線のエネルギ沈着72の微視的分布の相違によって引き起こされる。光量子放射線の場合においては、この分布が平均して観察されている表面74にわたって均等に生じている。それとは対照的に、イオンは、非常に不均一に分布されるエネルギを沈着させる。イオンの軌跡またはトレース76の近傍においては(数nmの距離においては)、極めて高い用量D(約10Gyに至る)の沈着が可能であるが、軌跡76からの距離がより大きいところにおいては(数μmにおいては)、用量値が急激に非常に低い値(<<1Gy)まで低下し得る。全体的な結果は、沈着されるエネルギの非常に不均一な分布78(3b)である。しかしながら、この不均一な分布78の小さい部分領域(nm)80(3c)だけを考察すると、この部分領域内に沈着される用量もまた、概略で一定であると仮定することが可能である。この分布は、したがって、同一の局所的用量における光量子を用いた照射について期待されたであろうとする分布と類似する。
【0095】
したがって、上で述べた類似性を基礎として適切な部分領域80を選択することによって、小さい部分領域内のイオン・ビームの作用を、光量子放射線の作用から演繹することが可能になる。特に、部分領域として、特に部分ボリュームとして、鋭敏なボリュームが選択される。
【0096】
次に、照射プランを決定し、かつ最適化するためにイオン・ビームの作用を計算するこの原理の利用を、図4に示されている方法を基礎としてより詳細に説明する。
【0097】
図4は、粒子ビーム34a(図2参照)を用いた目標ボリューム44の照射に使用される照射プランを作成するための方法200のフローチャートを示している。照射プランの決定では、計算が方法ステップ210において開始する。方法ステップ220においては、照射ボリューム46の目標ボリューム44内のフルエンス分布が決定される。目標ボリューム44は、照射されることになっている無機、有機、または生物学的物質を包含することが可能である。生物学的物質は、通常、細胞からなる。目標ボリューム44は、たとえば、少なくとも1つの細胞培養および/または少なくとも1つの組織、たとえば腫瘍組織を包含することが可能である。
【0098】
方法ステップ230においては、フルエンス分布から結果としてもたらされる有効用量分布が決定され、微視的な、特に局所的なダメージ相関を基礎としてそれぞれの物質内の観察可能な効果を決定するデータが使用される。ステップ235は、与えられたフルエンス分布についての望ましい目標用量に到達したか否かのクエリである。それが肯定であれば、この方法がステップ240において終了する。肯定でなければ、セットポイント値と有効用量分布の実際の値の間における差に対応してフルエンス分布が修正された後に、プロセスがステップ220へと続く。
【0099】
方法200を使用して、目標ボリューム44を照射すること、目標ボリューム44の照射に使用される照射プランを作成すること、および/または目標ボリューム44が照射される前または照射された後に照射プランの妥当性検査を行なうことが可能である。
【0100】
方法200は、方法ステップ230内において、物質の照射、特に腫瘍治療での生物学的組織の照射における粒子ビームの使用が、粒子ビームの生物学的作用の正確な知識を必要とすることから、生物物理学的モデルの使用を含む。使用される生物物理学的モデルは局所効果モデル(LEM)と呼ばれており、粒子のタイプ(イオン・タイプ)、イオン・ビームのエネルギ、イオン用量、および物質、特に細胞および組織のタイプといった粒子ビーム34aのパラメータの有効性の複雑な依存度を考慮に入れる。この場合において、有効用量分布の計算時に、細胞または細胞核内の局所的エネルギ沈着の生物学的作用が考慮に入れられる。
【0101】
図5は、図4のフローチャートの方法ステップ230に含ませることが可能な方法ステップのフローチャートを示している。
【0102】
方法ステップ250においては、微視的用量分布mDvが、フルエンス分布から決定される。微視的用量分布、特に局所的用量分布は、単一イオン・トレース周りの放射状用量分布の少なくとも部分的な使用を伴って決定することが可能である。放射状用量分布は、局所的なエネルギ沈着の期待値を、イオン・トレースの軌跡からの距離の関数として記述する。放射状用量分布を使用する利点は、この方法においては光量子照射の後の効果を直接的に参照することが可能になることである。放射状用量分布は、たとえばモンテカルロ・シミュレーションによって生成することが可能である。別の可能性が、アモルファス・パス構造の解析的用量記述を通じて存在する。放射状用量分布は、局所的なエネルギ沈着の期待値を、イオン・トレースの軌跡からの距離の関数として記述する。放射状用量分布を使用する利点は、この方法においては光量子照射の後の効果を直接的に参照することが可能になることである。放射状用量分布は、たとえばモンテカルロ・シミュレーションによって生成することが可能である。別の可能性が、アモルファス・パス構造の解析的用量記述を通じて存在する。先行技術において周知のLEMモデルの中でそれらが使用される形式では:
【0103】
【数2】

【0104】
これにおいてλは正規化定数であり、LETは線エネルギ付与を記述し、rminは一定用量を用いて内部領域を特徴付けし、rmaxは最大トレース半径であり、たとえば次式によって決定される。
max=γEδ (10)
これにおいて、γ=0.062、δ=1.7である。rmaxはμmで与えられ、EはMeV/uで表わしたイオンの固有エネルギである。LETは、イオンが水等価物質を通過するときにイオンによって沈着されるエネルギを距離の単位長当りで示し、keV/μmで与えられる。
【0105】
方法ステップ260においては、空間的ダメージ分布rSvが微視的用量分布mDvから少なくとも部分的に決定され、局所的ダメージ誘発の確率が、関連付けされた光量子用量効果曲線PEK1から少なくとも部分的に演繹される。生物学的目標ボリュームの場合、たとえば細胞または組織の場合においては、空間的ダメージ分布rSvを、たとえば細胞核内の二重ストランド破壊(DSB)の分布によって与えることが可能である。この場合において、関連付けされた光量子用量効果曲線PEK1は、二重ストランド破壊の誘発を用量の関数として記述する用量効果曲線である。
【0106】
方法ステップ270においては、適切に選択されたボリューム内の相関されるダメージ事象の数についての期待値が、鋭敏なボリューム内の空間的ダメージ分布rSvから少なくとも部分的に決定される。生物学的物質の場合には、鋭敏なボリュームが、生物学的物質の細胞の少なくとも1つのサブ−ボリュームおよび/または部分ボリュームを包含する。上で述べたとおり、サブ−ボリュームおよび/または部分ボリュームに分割することの利点は、部分的な領域においてはエネルギ沈着の期待値の分布が、イオン・ビームの場合でさえもほぼ一様になり、したがって光量子ビームの場合における分布と類似になることである。
【0107】
これらの小ボリュームにおける生物学的効果は、したがって、等しいサイズの用量を伴う光量子放射線について期待されるものと対応するべきである。このことは、イオン・ビームの生物学的作用を光量子ビームのそれから演繹可能にする。
【0108】
方法ステップ280においては、同じ収率の相関されるダメージ事象の達成に必要とされたことになる光量子用量PD1が決定される。相関されるダメージ事象は、通常、指定された距離内において誘発される二重ストランド破壊の組み合わせである。しかしながら、二重ストランド破壊と単一ストランド破壊またはそのほかの細胞機能に関係のあるDNA変質との組み合わせもまた、相関されるダメージ事象として考えることが可能である。
【0109】
方法ステップ290においては、光量子用量PD1と関連付けされる効果E1が、観察可能な効果についての第2の光量子用量効果曲線PEK2から決定される。腫瘍組織の照射の場合においては、観察可能な効果を、たとえば腫瘍の破壊とすることが可能である。しかしながら、観察可能な効果は、周囲を取囲む健康な正常組織にも関係し、たとえばそれを、照射フィールドの侵入チャンネル内の当該腫瘍の正面にある皮膚の変質とすることが可能である。これらの場合においては、光量子用量効果曲線PEK2が、腫瘍破壊および皮膚の変質の依存度を照射用量の関数として表わすことになる。
【0110】
方法ステップ300においては、所定のフルエンス分布についての観察可能な効果E2が、当該フルエンス分布と対応する鋭敏なボリューム内に沈着される光量子用量PD1とイオン用量の比に対応する観察可能な効果E1のスケーリングによって決定される。
【0111】
好ましくは、方法ステップ300において、所定のフルエンス分布についての観察可能な効果E2が、イオン照射後の相関されるダメージ事象の数(AkS)の光量子照射後の相関されるダメージ事象の数(AkS)に対する比に対応する観察可能な効果E1のスケーリングによって決定される。
【0112】
方法ステップ310においては、有効用量が、イオン用量IDと同一の効果E2に帰することになる光量子用量PD2として決定される。相対的な生物学的有効性は、その後、光量子用量PD2のイオン用量IDに対する比によって与えられる。
【0113】
方法200を用いると、粒子ビーム34aを用いた照射後の観察可能な効果についての予測、たとえば照射される細胞培養内の細胞の生存の確率、腫瘍破壊の確率、または正常組織の変質の確率を得ることが可能である。
【0114】
通常は方法200を用いると、腫瘍治療における使用と関係のある全エネルギ範囲にわたり、さらには異なるイオン・タイプの広い範囲にわたる作用が正しく記述される。以下の図面に方法200によって行なわれる計算の例を示し、説明する。
【0115】
計算は、以下の記述およびパラメータに基づくことが可能であるが、提案されている有効用量分布の決定にとってそれらが必須ではない。
【0116】
1)鋭敏なボリュームとしての細胞核が、500μmの体積を伴う円柱としてシミュレーションされる。細胞核の半径は、実験的なデータを使用して決定される。それに応じて細胞核の高さが与えられる。
【0117】
2)個別のイオン・トレース周りの放射状用量分布は、式(11)に従って与えられる。これにおいて、rmin=v/c×6.5nmはエネルギ依存であり、vはイオンの速さ、cは光の速さである。
【0118】
3)実験データから、PEK1はNDSB=γDSB×Dγとなり、それにおいてγDSB=30DSBs/Gy/細胞であり、Dγは光量子用量である。それに加えて、非特許文献4の中にあるように、単一ストランド破壊(ESB)の追加のクラスタ効果が考慮に入れられる。
【0119】
4)PEK2は次式によって与えられる。
【0120】
【数3】

【0121】
これにおいてα、βは線形二次パラメータであり、一般に『インビトロの』測定または臨床データによって与えられる。s=α+2βDは、スレッショルド値Dより上のグラディエントであり、それを超えると、実験的な知識によれば、PEK2が純粋な指数関数推移に移る。SはD>Dtについてのグラディエントであり、ηはESBのクラスタ効果を定量化する(上記の非特許文献4を参照されたい)。
【0122】
5)相関されるダメージ事象は、この例の計算においては440nmより小さい距離を伴うDSBのペアとして考察される。この値は、実験的なデータを基礎として最適化済みであり、本発明に従った方法に適用される。これは、イオン・タイプ、イオン・エネルギ、用量、または生物学的物質とは独立である。
【0123】
図6は、イオン(11MeV/u,153.5keV/μm)または光量子を用いた5μmの半径を伴う細胞核の照射後の計算された二重ストランド破壊の分布を示している。いずれのビーム・タイプについても、同一の合計エネルギ沈着D=0.3Gyを基礎としており、これは当該細胞核内における単一イオンの用量沈着に対応する。3つの軸、x、y、zは、x、y、およびz方向それぞれにおける細胞核の長さの広がりを表わし、示されている数値は、マイクロメートルで表わした長さに対応する。円形の記号98のそれぞれは、イオンが細胞核を横断した後の二重ストランド破壊を表わし、方形の記号99のそれぞれは、光量子を用いた照射後の二重ストランド破壊を表わす。イオンの飛行経路または軌跡は、矢印97によってマークされたとおりである。イオン照射後の二重ストランド破壊が、イオンの経路周りの狭い領域内に位置することを明確に見ることが可能である。それとは対照的に、記号99によってマークされている光量子照射後の二重ストランド破壊は、確率論的に、かつ近似的に、全体の細胞核ボリュームの中において一様である。
【0124】
これらの異なる空間的分布に起因して、イオン・ビームが相関されるダメージ事象を、たとえば2つの二重ストランド破壊を、たとえば440nmといった指定された距離内において誘発することが、有意によりありがちとなる。
【0125】
相関されるダメージ事象、たとえば二重ストランド破壊ペア(DSBペア)の数の、誘発された個別のダメージ事象の総数、または好ましくは分離された、および相関されたダメージ事象の総数に対する比は、相関されるダメージ事象の誘発の確率、またはそれに代えて、相関されるダメージ事象の収率についての測度と考えることが可能である。光量子ビームを用いて、イオン・ビームを用いた場合と類似する、相関されるダメージ事象の数AkSの、個別のダメージ事象の、または分離された、および相関されたダメージ事象の総数に対する比を惹起させるには、有意に高い用量が必要になる。
【0126】
図7は、イオン・ビームについて図6に示されている分布と同じ、相関されるダメージ事象の総ダメージ事象に対する比を結果としてもたらす用量における光量子照射後の二重ストランド破壊99の計算された分布を示している。したがって適切に選択された細胞核のサブ−ボリュームについて、図7に示された分布を図6に示されているイオン・ビームの作用の表現として見ることが可能であり、したがって、イオン・ビームの作用を従来的な光量子ビームの作用から演繹することが可能である。この方法に基づくモデルは、一般化された局所的効果モデル(GLEM)と呼ばれる。
【0127】
図8は、ヘリウムおよび炭素イオンを用いた照射後のHSG(ヒト唾液腺)細胞の不活性化についての相対的生物学的効果比の、GLEMを使用して行なわれた計算を示している。相対的生物学的効果比(RBW)は、x軸上の線エネルギ付与(LET)の関数としてy軸上にプロットされている。計算の基礎としているPEK2についての光量子データ(α=0.313Gy−1,β=0.0616Gy−2)は、非特許文献6から採用した。D=18Gyであり、細胞核の半径は5μmである。
【0128】
曲線85および92は、GLEM方法に従って計算された、最大RBWファクタのRBWα=αion/αおよびヘリウムと炭素イオンを用いた照射についてのLETの間における機能的な関係、および実験的なデータ90および96(非特許文献6から採用された実験的なデータ)との比較を示す。曲線85、88および86は、ヘリウム・イオンについての曲線であり、曲線85はGLEMに従って計算され、曲線86はLEM IIIに、曲線88はLEM IIに従って計算された。丸い記号によって示され、かつ90によって代表的に示されている測定データは、ヘリウム・イオンを用いた目標ボリューム44の照射後に決定されたデータである。同様に、曲線92はGLEMを用いた計算、曲線93はLEM IIIを用いた計算、曲線94はLEM IIを用いた計算を、炭素イオンについて示しており、96によって代表的に記号化されている方形の記号は、関連付けされた実験的な値を示している。曲線85および92が、実験的な値を最良に反映していることを明確に見ることが可能である。特に、低いLETについて、GLEMを用いて計算された曲線が測定された値90および96のポジションをより良好に予測していることが明確に理解できる。
【0129】
このことは、図9に示された比較によって確認される。図9aは、ミリメートル単位の浸透深度xに依存するエネルギ変調されたヘリウム・イオンを用いて照射された目標ボリューム44についての物理的な用量プロファイル81(8cmの水等価深度における4cmの拡張ブラッグ・ピーク)を示している。参照記号79は、目標ボリューム44内に沈着される用量Dを示す。矢印100はイオン・ビームを示す。実験データとの比較として、α=0.228Gy−1、β=0.02Gy−2、およびD=35Gy(細胞核の半径は5μm)としたPEK2のパラメータを用いて実験的に決定されたCHO細胞の生存と計算された生存を比較する。
【0130】
図9bにおいては、曲線87がLEM Iに従った計算の結果を表わしており、82はLEM IIを用いた計算に従った曲線、78はLEM IIIを用いた計算に従った曲線、84はGLEMに従った計算による曲線である。塗りつぶしの円は、代表的に83によってマークされているが、実験的な結果(非特許文献7)を表わしている。この場合においても、GLEMを用いた計算が、LEM I乃至LEM IIIのモデルと比較して実験的なデータとの有意により良好な符合を示す。
【0131】
追加の比較において、図10に、治療に類似する照射フィールド内における陽子および炭素ビームの作用の計算を、同様に実験的に決定されたPEK2のパラメータ、α=0.105Gy−1、β=0.025Gy−2、およびD=40Gy(細胞核の半径は6μm)を用いたCHO細胞についての対応する実験的なデータとともに示す。
【0132】
図10aは、物理的な用量分布を、180°の角度において照射される2つの対向するフィールドとともに示している。目標ボリューム44は、粒子ビーム34aを用いて、矢印100によって略図的に示されている第1の方向から、および矢印110によって略図的に示されている第2の方向から照射される。曲線116は、炭素照射の物理的な用量プロファイルDを示しており、曲線118は、陽子照射の物理的な用量プロファイルDを示している。用量はDによって示され、かつy軸上にプロットされ、長さ単位xはx軸上にプロットされる。目標ボリューム44の位置は、領域112によって略図的に示されている。
【0133】
図10bは、計算されたCHO細胞の生存、および実験的に決定されたそれを示している。方形の記号124は、陽子照射後の測定された生存であり、曲線114は計算された生存である。丸い記号122は、炭素照射後の測定された生存を表わし、曲線120は計算された生存を表わす。曲線114と生じた陽子放射線についての測定結果124の比較、および曲線120と測定データ122の比較から、提案されている方法200とともにGLEMモデルを使用して計算された有効用量分布が、実験的なデータを非常に良好に再現することが観察できる。
【0134】
図8乃至10における比較は、このように、本発明に従ったGLEMモデルを使用する計算が、もっとも信頼性があり、かつ有効用量分布の予測、特に粒子治療のためのそれに適していることを明らかにしている。
【0135】
ここで示した照射および/または照射プランニングのための方法は、少なくとも部分的に照射されているか、照射されることになっている物質内における粒子ビーム34aの作用を決定するための方法を含む。この方法においては、粒子ビーム34aを特徴付ける少なくとも1つのパラメータから、および物質の少なくとも1つの性質から、当該物質内の粒子ビームの作用が微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定される。照射および/または照射プランニングのための方法は、少なくとも部分的に照射されているか、照射されることになっている物質内における粒子ビーム34aの作用を決定するための方法であり、次にリストするステップを含むことも可能である。
− 空間的微視的ダメージ分布を使用して微視的ダメージ相関を決定するステップ;
− 空間的微視的ダメージ分布を、粒子ビーム34aによって生成される微視的用量分布から少なくとも部分的に決定するステップであって、局所的ダメージの誘発の確率が第1の光量子用量効果曲線から少なくとも部分的に演繹されるステップ;
− 鋭敏なボリュームの適切に選択された部分的ボリューム内における相関されるダメージ事象の数についての期待値を、少なくとも部分的に空間的微視的ダメージ分布から決定するステップ;
− 相関されるダメージ事象の数の粒子ビームについての期待値に対応する、概略で同じ収率の相関されるダメージ事象を達するために必要となったであろうとされる光量子用量を決定するステップ;
− 光量子用量に関連付けされる効果、または関連付けされる作用を、少なくとも部分的に第2の光量子用量効果曲線から決定するステップ;
− 粒子ビームの多様なパラメータについて、および多様なパラメータについてそれぞれの場合において決定される作用をメモリ・ユニット内にストアするステップであって、照射されることになっている物質内における粒子ビームの作用が、粒子ビーム34aおよび/または当該物質の少なくとも1つの性質、特に当該物質の多様な性質を特徴付ける多様なパラメータについての微視的ダメージ相関を基礎として決定されるステップ。
【0136】
したがって、少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになる物質内における粒子ビーム34aの作用を別々の方法で決定し、データ・セット、テーブル、値テーブル、等々の形式でストレージ媒体内にストアすることが可能である。これらのデータ・セット、テーブル等々は、照射について、特に照射プランニングについて、上記の方法とは異なる周知の方法で入力データとして入力可能である。
【符号の説明】
【0137】
10 ビーム修正設備
12 単一エネルギ・イオン・ビーム
14 矢印
16 イオン・ビーム
18、18’ ブラッグ・ピーク
22 x軸
24 ブラッグ・ピーク
26 ゼロ点
30 粒子治療システム、照射デバイス、粒子ビーム・システム、システム
32 能動的ビーム修正設備
34 粒子ビーム
34a 粒子ビーム、イオン・ビーム
36 加速器設備、照射デバイス
38 ビーム生成設備、イオン源
40 ビーム加速設備、線形加速器
42 シンクロトロン
44 目標ボリューム
46 照射ボリューム、エンティティ、ボリューム
52 フロー・コントロール設備、フロー・コントローラ
54 検出器
54a 検出器ユニット、イオン化チャンバ
54b 検出器ユニット、マルチワイヤ比例チャンバ
56 電気接続
58 接続
60 ラスタ・スキャン設備
62、62a、62b 接続
66 照射設備
68 リッジ・フィルタ・システム、フィルタ
70 受動ビーム修正設備
71 コリメータ設備
72 エネルギ沈着
76 トレース、軌跡
78 不均一な分布、曲線
80 部分領域
81 用量プロファイル
82、84、85、86、87、88 曲線
90 データ、値
92、93、94、96 データ、値
100、110 矢印
112 領域
114、116、118、120 曲線
122 記号、測定データ
124 記号、測定結果
16a〜16i 矢印
19a〜19i ブラッグ・ピーク
45a〜45f スライス
48a、48b、50a、50b 偏向マグネット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになっている物質に対する粒子ビーム(34a)の作用を決定するための方法であって、前記粒子ビーム(34a)を特徴付ける少なくとも1つのパラメータおよび物質特性を特徴付ける少なくとも1つのパラメータから、前記物質内の前記粒子ビームの前記作用が微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定される方法。
【請求項2】
前記微視的ダメージ相関は、サブ−マイクロメートル範囲において生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記微視的ダメージ相関は、空間的微視的ダメージ分布を使用して決定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記空間的微視的ダメージ分布は、前記粒子ビーム(34a)によって生成される微視的用量分布から少なくとも部分的に決定され、誘発される局所的ダメージの確率が第1の光量子用量効果曲線から少なくとも部分的に演繹されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記微視的ダメージ相関が決定されるとき、鋭敏なボリュームの適切に選択された部分的ボリューム内における相関されるダメージ事象の数についての期待値が、前記空間的微視的ダメージ分布から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記粒子ビームについての相関されるダメージ事象の前記数の前記期待値に対応する、概略で同じ収率の相関されるダメージ事象を達成するために必要となったであろうとされる光量子の用量が決定されることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記光量子用量と関連付けされる効果が、第2の光量子用量効果曲線から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか、特に請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記粒子ビームの作用が、前記光量子用量と前記粒子ビームによって前記鋭敏なボリューム内に沈着される用量の比、または光量子または粒子の照射後の相関されるダメージ事象の前記数に対応して前記光量子用量と関連付けされた前記効果をスケーリングすることによって少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか、特に請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記粒子ビーム(34a)および/または前記物質の多様な性質を特徴付ける多様なパラメータについて、少なくとも部分的に照射されているか、または照射されることになっている前記物質に対する前記粒子ビームの前記作用が前記微視的ダメージ相関を基礎として決定され、前記粒子ビームの前記多様なパラメータについて、および前記多様な物質特性について、それぞれの場合において決定される前記作用がメモリ・ユニット内に保持されることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
粒子ビーム(34a)を使用して照射ボリューム内の目標ボリュームについての照射プランニングを作成するための方法であって、
− 照射ボリューム(46)内の目標ボリューム(44)を指定するステップと、
− 前記目標ボリューム(44)を包含する前記照射ボリューム(46)内においてフルエンスおよび/またはエネルギ分布を決定するステップと、
− 前記フルエンスおよび/またはエネルギ分布から結果としてもたらされる有効用量分布を決定するステップであって、前記照射ボリューム(46)の前記物質内における前記粒子ビームの作用が使用され、前記作用が請求項1乃至9のいずれかに記載の方法による前記微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定されているステップと、
を包含する方法。
【請求項11】
前記目標ボリューム(44)についての照射プランを作成するか、またはそれを作成するために、および/または前記目標ボリューム(44)についての照射プランの妥当性検査を行なうために前記方法が使用されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
微視的用量分布が、前記フルエンス分布から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
所定のフルエンス分布について観察可能な効果が、光量子用量についての観察可能な効果の、前記フルエンス分布に対応する前記光量子用量と前記鋭敏なボリューム内に沈着された用量の比に対応するスケーリングから少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至12のいずれか、特に請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記有効用量分布が、関連付けされる前記光量子用量の前記作用、特に前記観察可能な効果から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至13のいずれか、特に請求項10乃至13に記載の方法。
【請求項15】
粒子ビーム(34a)を使用して照射ボリューム内の目標ボリュームを照射するための方法であって、
− 前記目標ボリューム(44)を包含する前記照射ボリューム(46)内においてフルエンスおよび/またはエネルギ分布を決定するステップと、
− 前記フルエンスおよび/またはエネルギ分布から結果としてもたらされる有効用量分布を決定するステップであって、前記照射ボリューム(46)の前記物質内における前記粒子ビームの作用が使用され、前記作用が請求項1乃至9のいずれかに記載の方法による前記微視的ダメージ相関を基礎として少なくとも部分的に決定されているステップと、
を含む方法。
【請求項16】
前記目標ボリューム(44)についての照射プランを作成するか、またはそれを作成するために、および/または前記目標ボリューム(44)についての照射プランの妥当性検査を行なうために前記方法が使用されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
微視的用量分布が、前記フルエンス分布から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
所定のフルエンス分布について観察可能な効果が、光量子用量についての観察可能な効果の、前記フルエンス分布に対応する前記光量子用量と前記鋭敏なボリューム内に沈着された用量の比に対応するスケーリングから少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至17のいずれか、特に請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記有効用量分布が、関連付けされる前記光量子用量の前記作用、特に前記観察可能な効果から少なくとも部分的に決定されることを特徴とする、請求項1乃至18のいずれか、特に請求項15乃至18に記載の方法。
【請求項20】
前記物質が、特に前記照射ボリューム(46)内のそれが、生物学的物質を少なくとも部分的に包含することを特徴とする、請求項1乃至19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記鋭敏なボリュームが、前記生物学的物質の少なくとも1つのサブ−ボリュームおよび/または部分ボリューム、特に細胞を少なくとも部分的に包含することを特徴とする、請求項1乃至20のいずれか、特に請求項20に記載の方法。
【請求項22】
目標ボリューム(44)を有する照射ボリューム(46)についての照射プランであって、前記照射プランが、請求項1乃至21のいずれかに記載の方法(200)および/または物質内における粒子ビームの作用を決定するための方法を使用して少なくとも部分的にセットアップされていることを特徴とする照射プラン。
【請求項23】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法を実行するべく設計されるかまたはセットアップされる計算ユニットを伴う照射プランニング設備。
【請求項24】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法(200)を使用して生成および/または操作が行なわれること、または請求項22に従って生成される照射プランを使用して操作が行なわれることが可能なビーム修正設備。
【請求項25】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法(200)が実行されることが可能となるように設計および/またはセットアップがなされたユニット、特に能動的ビーム修正設備(32)および/または受動ビーム修正設備(70)を有する請求項24に記載のビーム修正設備。
【請求項26】
請求項24または25に記載のビーム修正設備(10)および/または請求項23に記載の照射プランニング設備を有する照射デバイス。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【公表番号】特表2012−524565(P2012−524565A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−506402(P2012−506402)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002495
【国際公開番号】WO2010/121822
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(509255749)ジーエスアイ ヘルムホルツツェントゥルム フュア シュヴェリオーネンフォルシュング ゲーエムベーハー (7)
【氏名又は名称原語表記】GSI Helmholtzzentrum fur Schwerionenforschung GmbH
【住所又は居所原語表記】Planckstrasse 1 64291 Darmstadt GERMANY
【Fターム(参考)】