説明

物質の放出量推定装置及びその方法並びにプログラム

【課題】放出地点から放出された物質の放出量の推定を可能とし、更に、その放出量に基づく拡散予測の精度を高めることを目的とする。
【解決手段】各観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻を取得するとともに、放出地点の位置情報及び物質の放出開始時刻を取得する情報取得部21と、拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出部22と、複数の観測地点における濃度観測値と演算により求めた各観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、放出地点から放出された粒子の放出強度を推定する推定部24と、推定部24によって推定された各粒子の放出強度を影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正部25とを具備する物質の放出量推定装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の放出位置から放出された放出量を推定する物質の放出量推定装置及びその方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラント施設(火力発電所、ゴミ焼却施設、化学プラント等)での事故等による汚染物質の放出や、テロ等による毒性ガス等の放出に対し、事故または事件の現場情報(濃度観測値等)から発生源情報(放出地点の位置および物質放出量)を推定する技術が提案されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、仮想の放出点および時刻等の情報に基づき観測位置での影響を評価し、変分原理によって誤差を最小とする放出地点を求め、該放出地点における時刻および物質放出量を推定する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】石田義洋,加藤信介,樋山恭助,“センシング情報を用いた応答係数法に基づく環境影響物質の発生源推定法(第2報)”,平成21年度空気調和・衛生工学学術講演会講演論文集,(2009年9月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、プラント施設の事故等の場合には、汚染物質の放出地点および放出時刻が明らかな場合が多く、その場合には、放出地点を推定する処理が不要となり、処理の簡素化が可能となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、物質の放出地点および放出時刻が明らかな場合において、放出地点から放出された物質の放出量の推定を可能とし、更に、その放出量に基づく拡散予測の精度を高めることのできる物質の放出量推定装置及びその方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定する物質の放出量推定装置であって、各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得手段と、拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出手段と、複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定手段と、前記推定手段によって推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出手段によって算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正手段とを具備する物質の放出量推定装置を提供する。
【0008】
本発明によれば、情報取得手段によって、複数の観測地点の位置情報及びそこでの濃度観測値及び観測時刻が取得されるとともに、物質の放出地点及び放出開始時刻が取得される。影響係数算出手段では、拡散モデルを用いて、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数が算出される。推定手段では、複数の観測地点における濃度観測値と演算により求めた各観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、放出地点から放出された粒子の放出強度が推定され、更に、推定された粒子の放出強度を用いて放出地点からの放出量が推定される。放出強度修正手段では、推定手段によって推定された各粒子の放出強度が、影響係数算出手段によって算出された影響係数に応じた重み付けによって修正される。
このように、推定手段によって推定された各粒子の放出強度を、各粒子がその観測地点に与える影響度に応じて決定される重み付けによって修正するので、同じ時刻に放出された多数の粒子間にも強弱の差をつけることが可能となる。これにより、各観測地点における同定精度を高めることができ、この同定結果を用いて実施される後段処理の拡散予測の精度を高めることが可能となる。
【0009】
上記物質の放出量推定装置において、前記放出強度修正手段は、補正後の粒子の放出強度から求められる放出量と、前記推定手段によって推定された放出量とが一致するように、各前記粒子の放出強度を修正することとしてもよい。
【0010】
このように、推定手段によって推定された放出量の値は変えることなく、各粒子の放出強度のみを修正するので、同定精度を更に高めることが可能となる。
【0011】
本発明は、複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定する物質の放出量推定方法であって、各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得過程と、拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出過程と、複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定過程と、前記推定過程において推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出過程において算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正過程とを有する物質の放出量推定方法を提供する。
【0012】
本発明は、複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定するための物質の放出量推定プログラムであって、各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得処理と、拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出処理と、複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定処理と、前記推定処理において推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出処理において算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正処理とをコンピュータに実行させるための物質の放出量推定プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、放出地点から放出された物質の放出量を推定することができるとともに、その放出量に基づく拡散予測の精度を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定装置によって実施される放出量推定の概略を説明するための図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定装置のハードウェア構成の一例を示したブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定装置が備える各種機能を示した機能ブロック図である。
【図4】粒子の放出強度の修正を行わない場合と行う場合のある観測地点における各粒子の状況を比較して示した図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定装置及びその方法について、図面を参照して説明する。
本発明の一実施形態に係る物質の放出量推定装置(以下、単に「放出量推定装置」という。)及びその方法並びにプログラムは、例えば、図1に示すように、特定の放出地点Aから時刻tに物質の放出が開始された場合に、複数の観測地点B1〜Bn(nは2以上の整数)に設置された観測器により計測された濃度観測値を用いて、放出地点Aから放出された物質(粒子)の放出強度、およびその放出量Qを同定するものである。より詳しくは、本実施形態では、放出地点Aから物質が連続的に放出される連続放出(瞬間放出はその一部)を想定し、この場合における各時刻の物質放出量を同定する。なお、図1では、観測地点においてn=5の場合を例示している。
【0016】
なお、上記観測地点B1〜Bnは、必ずしも同じ位置であることは必要ではなく、例えば、そのときどきで異なる位置であってもよい。すなわち、各観測地点の位置情報とその地点における濃度観測値とが関連付けられて取得できるような構成とされていればよい。
【0017】
また、放出量推定装置において推定された物質の放出量や各粒子の放出強度は、例えば、物質拡散予測装置に入力され、物質の拡散予測に用いられる。物質の拡散予測では、例えば、気象データや地形データ等が用いられ、放出地点Aから放出された物質の拡散状況が時系列で予測される。
【0018】
図2は本発明の一実施形態に係る放出量推定装置1のハードウェア構成の一例を示したブロック図である。
図2に示すように、放出量推定装置1は、例えば、CPU11と、CPU11が実行するプログラム等を記憶するためのROM(Read Only Memory)12と、各プログラム実行時のワーク領域として機能するRAM(Random Access Memory)13と、大容量記憶装置としてのハードディスクドライブ(HDD)14と、ネットワークに接続するための通信インタフェース15と、外部記憶装置16が装着されるアクセス部17と、キーボードやマウス等からなる入力部19と、データを表示する液晶表示装置等からなる表示部20とを備えている。これら各部は、バス18を介して接続されている。
【0019】
上記ROM12には、特定の放出地点Aから放出された物質の放出量を同定する放出量同定プログラムが搭載されており、このプログラムをCPU11がRAM13に読み出して実行することにより、後述する各種処理が実現される。
なお、図1に示した構成例において、CPU11が実行するプログラム等を記憶するための記憶媒体は、ROM12に限られない。例えば、磁気ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ等の他の補助記憶装置であってもよい。
【0020】
図3は、放出量推定装置1が備える各種機能を示した機能ブロック図である。図3に示すように、放出量推定装置1は、情報取得部21、影響係数算出部22、推定部24、および放出強度修正部25を備えて構成されている。
【0021】
情報取得部21は、観測地点B1〜Bnに設けられた観測器からの情報、すなわち、各観測地点の位置情報、濃度観測値、及び計測時刻を取得する。ここで、観測地点B1〜Bnから情報を入手する方法は、各観測器から取得する例に限定されない。例えば、民間または公共機関等によるガス濃度観測システムが存在して、各観測地点B1〜Bnにおける濃度データを逐次蓄積していくデータベース機能を備えたものである場合にはインターネット等のネットワーク上に設置されたデータベースにアクセスし、各観測地点の位置情報、濃度観測値、および観測時刻を取得するようにしても良い。
【0022】
また、情報取得部21は、放出地点Aの位置情報および物質の放出開始時刻の情報を取得する。放出地点Aの位置情報及び放出開始時刻は、例えば、入力部19からユーザに入力されることとしてもよいし、通信インタフェース15を介して他のシステムから取得するような構成とされていてもよい。
【0023】
影響係数算出部31は、情報取得部21により取得された各種の入力情報を用い、拡散モデルにより影響係数φkiを算出する。
【0024】
影響係数φkiは、時刻tに単位強度で放出された粒子による観測地点B(1≦k≦n)における濃度を表わしており、粒子の位置(x,y,z)と観測地点Bにおける位置(x,y,z)の相対位置、及び、物質放出時刻tと観測地点Bにおける観測時刻tとの相対時刻に応じて算出される。ここで、影響係数φkiは、例えば、時刻tに放出された粒子l(エル)毎に算出される。
【0025】
例えば、平地一様流場(拡散域の地形が平地であり、風が一様に流れている状態)を想定する場合には、拡散モデルとしてパフモデルを使用する。パフモデルによれば、風速をU[m/sec]としたとき、影響係数φkiは次式で与えられる。
【0026】
【数1】

【0027】
(1)式において、σ,σ,σはそれぞれ濃度分布のx,y,z方向の拡散パラメータ[m]であり、パスキル・ギフォード線図や経験式等に基づいて得られる。なお、拡散モデルとしては、パフモデルに限定されることなく、例えばプルームモデル等の他のモデルを使用することも可能である。
【0028】
また、一般の市街地などでは、建屋、地形等の影響で一様流でないケースが多いが、このような複雑気流場の場合には、数値拡散計算により影響係数を算出する。すなわち、各種シミュレーションモデルを用いて、放出地点Aから単位強度の放出をした場合の評価地点での濃度(即ち、影響係数)を求めるものである。このシミュレーションモデルとしては、例えば、修正プルームモデル、ポテンシャル流モデル、粘性流モデルが挙げられる。なお、これらの詳細については、例えば、三菱重工技報vol.21 No.5抜刷(1984年9月)「排煙拡散数値シミュレーションモデルの開発」pp.1-8 にて、開示されている。また、環境庁大気保全局大気規制課編「窒素酸化物総量規制マニュアル」にも詳述されているプルーム・パフモデルや、同じく周知のモデルであるセル内粒子法、ラグランジュ型粒子モデルを使用しても求めることができる。
【0029】
推定部24は、上記影響係数を用いて算出される残差ノルムπが、最小値を取るときの放出強度qを算出し、更に、この放出強度qに時刻tにおける粒子の放出個数Lを乗算することにより、時刻tにおける放出量Q(=q×L)を算出する。
ここで、qは時刻tに放出された1個の粒子の放出強度であり、同じ強度の粒子が同時刻にL個放出された場合を想定している。
【0030】
残差ノルムπは、以下の(2)式で与えられる。
【0031】
【数2】

【0032】
(2)式において、fは観測地点Bにおける観測時刻tの濃度観測値である。Nは、観測点数である。また、Fは観測地点Bにおける観測時刻tの濃度計算値であり、例えば、粒子法による濃度計算値Fは以下の(3)式で与えられる。
【0033】
【数3】

【0034】
また、(3)式において、(x,y,z)は観測地点Bにおける位置情報(x,y,z)、tは観測地点における観測時刻、tは放出時刻、qは粒子1個の放出強度、Lは時刻tに放出された粒子数である。
【0035】
上記(3)式を(2)式に代入すると、以下の(4)式が得られる。
【0036】
【数4】

【0037】
推定部24は、(4)式から導出される(5)式の連立方程式を解くことにより、残差ノルムπが最小値をとるときの放出強度qを得る。そして、この放出強度qから放出時刻tにおける放出地点Aの放出量Qを算出する。
【0038】
【数5】

【0039】
なお、瞬間放出の場合は、φki=0(i≠1)より、上記(5)式は以下の(6)式で表わされる。
【0040】
【数6】

【0041】
ここで、上記(5)式が解を持つためには、通常M<N、すなわち観測点数N(時刻も含めて)が、放出時刻のタイムステップ数Mよりも大きい値である必要がある。しかしながら、通常は、放出時刻のタイムステップ数Mは観測点数Nよりも多いために、上記(5)式から得られるqに関する連立方程式は解くことができないという不都合がある。
【0042】
そこで、放出時刻のタイムステップ数Mを観測点数N以下に調整し、タイムステップ間の放出量については線形補間で近似することにより得ることとした。
すなわち、時刻t(t<t<ti+1)における放出強度qは、以下の(7)式で得ることができる。
【0043】
【数7】

【0044】
また、線形補間による近似を用いて上記(4)式を表わすと、以下の(8)式となる。
【0045】
【数8】

【0046】
そして、上記と同様に、以下の(9)式に示すようなqに関する連立方程式が得られる。
【0047】
【数9】

【0048】
i=1の場合(瞬間放出)の場合は、上記(8)式において以下の(10)式の関係を満たすこととなり、(6)式と一致する。
【0049】
【数10】

【0050】
推定部24は、上記(5)式を用いて放出強度qを得てもよいし、(9)式を用いて放出強度qを得ることとしてもよい。どちらの式を用いるかについては、例えば、観測地点の数Nとタイムステップ数Mとの大小関係に応じて決めればよい。また、瞬間放出(i=1)の場合には、(6)式を用いればよい。
【0051】
放出強度修正部25は、上記推定部24によって得られた各粒子の放出強度pを修正する。
上記推定部24では、同時刻に放出された各粒子の放出強度が一様である場合を想定して放出強度qが推定されたが、実際は観測地点Bに対する各粒子の放出強度qは一様ではないといえる。そこで、放出強度修正部25では、観測地点Bへの影響の度合いに応じて、個々の粒子の放出強度qを修正し、観測地点Bにおける同化度の精度を高める。
【0052】
具体的には、上記影響係数算出部22において各粒子l(エル)毎に算出された影響係数φki(i=1〜M)が最大値をとる粒子の放出強度をqmk、影響係数の最大値をφkmとし、最大影響係数φkm及び放出強度qmk情報と各粒子の影響係数φkiに応じた重み付けにより、各粒子の放出強度を修正する。修正後の放出強度q´は以下の(11)式で与えられる。修正項は、影響係数φkiが大きいほど、放出強度が大きくなるように設定されている。
【0053】
【数11】

【0054】
そして、上記(11)式により修正された放出強度を上述の(4)式に反映させることにより(12)式が導出され、この(12)式から上記(5)式は以下の(13)式で表わされる。
【0055】
【数12】

【0056】
【数13】

【0057】
上記(11)式及び(13)式で修正された各粒子の放出強度を用いて後段に続く拡散予測を実施することで、拡散予測の精度を高めることができる。
なお、上記(11)式では、放射強度qに、影響係数φkiに応じた重み係数を加算して各粒子の放出強度を算出しているため、修正後の全粒子の総和強度Qi´は上記推定部24で算出された放射量Qiと一致しないこととなる。
このため、観測地点Bにおける修正後の放射量Qi´を推定部24で算出された放射量Qiに一致させるために、以下の(14)式を用いて各粒子の放出強度を修正する。
【0058】
【数14】

【0059】
図4に、粒子の放出強度の修正を行わない場合と行う場合の観測地点Bにおける各粒子の状況を比較して示す。図4では、便宜上、1秒に1個ずつ粒子を連続放出した場合を想定しており、図4(a)は放出強度の修正を行わない場合の粒子の様子を、図4(b)は放出強度の修正を行う場合の粒子の様子を示している。図4(a)に示される修正を行わない場合では、観測地点B20における濃度は以下の(15)式で与えられるが、図4(b)に示される修正を行う場合には、観測地点B20における濃度Qは以下の(16)式で与えられることとなり、同化精度が向上することがわかる。
【0060】
【数15】

【0061】
次に、上記のような構成要素を備えた放出量推定装置1における拡散物質の放出量推定方法について、図5を参照して説明する。ここで、図5は本実施形態に係る物質の放出量推定方法を説明するフローチャートである。
【0062】
まず、ステップSA1では、情報取得部21により、各観測地点B1〜Bnにおける位置情報、濃度観測値、および計測時刻情報が取得されるとともに、放出地点Aの位置情報および放出開始時刻が取得される。
【0063】
次に、ステップSA2では、影響係数算出部32により、拡散モデル(例えば式(1))を用いて影響係数φkiが算出される。
【0064】
次に、ステップSA3では、推定部24により、残差ノルムπが最小となる放出強度qが算出され、この放出強度qに放出個数が乗算されることにより、放出地点Aにおける時刻tの放出量Qが推定される。
【0065】
次に、ステップSA4では、推定部24によって同定された各粒子の放出強度が修正される。修正後の各粒子の放出強度および放出量Q等の算出結果は、後続の処理である拡散予測を行うシステムに入力され、拡散予測において用いられる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態の拡散物質の放出量推定装置1及び放出量推定方法並びにプログラムによれば、情報取得部21によって、複数の観測地点の位置情報及びそこでの濃度観測値及び観測時刻が取得されるとともに、物質の放出地点及び放出開始時刻が取得される。そして、影響係数算出部22では、情報取得部21によって得られた情報を用いて各観測地点における影響度数が算出される。続いて、推定部24において、影響係数算出部22で算出された影響度数を用いて表わされる残差ノルムπが最小値を取るときの放出強度qが算出され、更に、放出強度修正部25において、この放出強度qが影響濃度に応じた重み付けによって修正されることにより、粒子毎の放出強度が算出される。
【0067】
このように、本実施形態によれば、複数の観測地点B1〜Bnにおける濃度観測値と演算により求めた観測地点における濃度計算値との差から演算される残差ノルムを最小化することによって、放出地点Aから放出された粒子の放出強度を推定し、更に、この放出強度を用いて放出量Qを推定する。更に、各粒子の放出強度は、観測地点に与える影響度に応じて決定される重み付けにより修正されるので、同じ時刻に放出された多数の粒子間にも放出強度の強弱の差をつけることが可能となる。このように、粒子の放出強度を個々に修正するので、各観測地点における同定精度を高めることができ、この同定結果を用いて実施される後段処理の拡散予測の精度を高めることが可能となる。
【符号の説明】
【0068】
1 物質の放出量推定装置
15 通信I/F
19 入力部
21 情報取得部
22 影響係数算出部
24 推定部
25 放出強度修正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定する物質の放出量推定装置であって、
各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得手段と、
拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出手段と、
複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定手段と、
前記推定手段によって推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出手段によって算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正手段と
を具備する物質の放出量推定装置。
【請求項2】
前記放出強度修正手段は、補正後の粒子の放出強度から求められる放出量と、前記推定手段によって推定された放出量とが一致するように、各前記粒子の放出強度を修正する請求項1に記載の物質の放出量推定装置。
【請求項3】
複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定する物質の放出量推定方法であって、
各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得過程と、
拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出過程と、
複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定過程と、
前記推定過程において推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出過程において算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正過程と
を有する物質の放出量推定方法。
【請求項4】
複数の観測地点において観測された濃度観測値に基づいて、特定の放出地点から放出された物質の放出量を推定するための物質の放出量推定プログラムであって、
各前記観測地点の位置情報、該観測地点で観測された濃度観測値及び観測時刻の情報を取得するとともに、前記放出地点の位置情報および物質の放出開始時刻を取得する情報取得処理と、
拡散モデルを用い、粒子の位置と放出地点との相対位置、及び、物質放出時刻と観測地点における観測時刻との相対時刻とに応じて定まる影響係数を算出する影響係数算出処理と、
複数の前記観測地点における濃度観測値と演算により求めた各前記観測地点における濃度計算値との差を用いて表わされる残差ノルムを最小化することによって、前記放出地点から放出された粒子の放出強度を推定し、推定した前記粒子の放出強度を用いて前記放出地点からの放出量を推定する推定処理と、
前記推定処理において推定された各前記粒子の放出強度を前記影響係数算出処理において算出された影響係数に応じた重み付けによって修正する放出強度修正処理と
をコンピュータに実行させるための物質の放出量推定プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−65208(P2013−65208A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203699(P2011−203699)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】