説明

物質の熱安定性の評価方法。

【課題】 断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、測定する物質によらずに、物質の熱安定性を正しく評価する方法を提供する。
【解決手段】 断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、球形部2および球形部に取り付けられた試料の導入管3から構成され、ハステロイ、チタン、ステンレス鋼などからなる金属製で、その表面が金メッキ処理された試料容器1を用いて行うことを特徴とし、このことによって、測定する物質によらずに、物質の熱安定性を正しく評価することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の熱安定性の評価方法に関する。詳しくは、断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
物質の熱安定性を評価する装置として、断熱熱量計であるARC(Accelerating Rate Calorimeter)等が国内外で広く用いられている。
これらの装置では、試料の熱分解ガスの発生等によって内部圧力が上昇した場合でも容器が破損しないように、チタン、ハステロイCおよびステンレス鋼製の試料容器が用いられている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
しかしながら、これらの試料容器を用いて測定した場合、測定する物質によって、本来検出されないはずの発熱が検出されるなどして、熱安定性を正しく評価できていないと思われることがあった。
【非特許文献1】田村昌三編、「化学プロセス安全ハンドブック」、(株)朝倉書店、2000年3月1日、p.66〜68
【非特許文献2】「住友化学 1989-I」、住友化学工業(株)、1989年5月29日、p.61〜81
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、測定する物質によらずに、物質の熱安定性を正しく評価する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法について鋭意検討した結果、試料容器として、表面が金メッキ処理された金属製の試料容器を用いることによって、測定する物質によらずに、物質の熱安定性を正しく評価することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、表面が金メッキ処理された金属製の試料容器を用いて行うことを特徴とする物質の熱安定性の評価方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によって、断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、測定する物質によらずに、物質の熱安定性を正しく評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係わる試料容器の断面模式図である。この試料容器1は金属からなり、表面に金メッキが施されている。試料容器1の球形部2に、試料の導入管3が取り付けられている。更に、球形部2には試料温度測定用の熱電対を固定するために熱電対固定金具4が取り付けられている。なお、熱電対固定金具がなく、熱電対を針金で容器に固定して行うこともできる。
【0008】
試料容器はハステロイC、チタン、ステンレス鋼などからなり、この表面に金メッキが施される。本発明の目的を達成するためには、金メッキは内表面だけでよいが、金メッキを施す際に外表面もメッキされる。
金メッキの厚みは、約0.5〜2μm、好ましくは約1〜1.5μmである。
金メッキは、公知の方法、例えば、「最新表面処理技術総覧」(最新表面処理技術総覧編集委員会 編集(株)産業技術サービスセンター、1987年)に記載の方法に準じて行われる。
【0009】
試料容器の形状は特に限定されるものではなく、球形、円筒状のものなどが挙げられるが、通常、球形のものが使用される。
数gの試料が導入される試料容器の大きさは、通常、球形部2の内径が25.4mmφ、内容積が約9cmで、導入管3の内径が4mmφ、長さが25mm程度である。
【0010】
図2は本発明の一実施形態に係わる断熱熱量計の構成図である。この断熱熱量計11は、公知の断熱型の熱量計であり、試料の自己発熱反応による温度および圧力の時間変化を測定、記録し、化学物質の熱的危険性のスクリーニング、暴走反応条件の評価、安全な貯蔵条件の決定、反応速度論的解析等の用途に使用されるものであって、このような断熱熱量計として、CSI(Columbia Scientific Industries)社製の‘CSI-ARCTM’、THT(Thermal Hazard Technology)社の‘ARCTM’、TIAX社製の‘New ARCTM’、FAI(Fauske & Associates,Inc.)社製の‘ARSSTTM'(The Advanced Reactive System Screening Tool)、HEL(Hazard Evaluation Laboratory Limited)社製の‘TSU'(Thermal Screening Unit)などが市販されている。
【0011】
断熱熱量計11は、断熱材保温部15と、断熱材保温部15の内部に設置されている放射熱ヒーター14aとジャケットヒーター14b、14cおよび14dとからなる加熱部14と、この加熱部14で囲まれた内側に設置された、試料12を入れるための試料容器1とを備えている。格納容器19は測定中の試料容器1の破裂等に備えて設置されるが、爆発等のおそれがない場合には格納容器19は設置しなくても良い。
【0012】
放射熱ヒーター14aは、試料容器1内の試料12を熱量測定時の設定温度まで加熱するためのものであり、ジャケットヒーター14b、14cおよび14dは、これらのジャケットヒーターで囲まれた内側の空気を加熱して試料12と試料容器1周辺との温度差を一定範囲内(例えば0.05℃以内)に制御し、試料12を断熱状態に維持するためのものである。
【0013】
ジャケットヒーター14b、14cおよび14dの近傍には、ヒーター温度測定用の熱電対18が埋め込まれている。また、断熱材保温部15は、試料12の断熱状態を維持するためのものである。
【0014】
試料容器1内の圧力変化は、圧力センサー16で測定される。また、圧力測定用の配管20から分岐した配管21を設けることによって、試料容器1の内部を窒素、アルゴン、酸素等のガスによって置換する。
【0015】
断熱熱量計11は、大気圧〜173barAの圧力範囲、約5〜450℃の温度範囲で試料12の熱量測定が可能である。また、熱電対17は、試料2の発熱速度を0.01℃/分の検知精度で測定する。
【0016】
以下に、断熱熱量計11による熱量測定方法の一例を示す。試料容器1の下方に設置されている放射熱ヒーター14aにより試料12の温度(実際には試料容器1の温度)を初期の熱量測定温度まで加熱し、一定の待ち時間(通常5〜10分程度)の後に試料12の発熱の有無を確認する探索過程に入る。その探索過程において一定の自己発熱速度(通常0.02℃/分程度)以上の温度上昇が検出されないときは、さらに放射熱ヒーター14aにより試料12の温度(実際には試料容器1の温度)を数℃(通常は5℃程度)上げ、同じような断熱下での操作を繰り返す。上記した一定の自己発熱速度を越える発熱現象が検出されると、熱電対17で測定される試料容器1の温度と熱電対18で測定されるジャケットヒーター14b、14cおよび14dの近傍の温度との差が、例えば0.05℃以内となるように制御され、試料12の温度が断熱的に上昇する。このように試料12の温度が断熱的に上昇し反応熱が蓄積されていくにつれて、試料12の温度が指数関数的に上昇し、最大反応速度を経て最高温度に達する。このようにして試料12の熱的特性を断熱下で測定することができる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0018】
実施例1
図1と同様の形状の表面が金メッキ処理されたハステロイC−276製の球形試料容器(永岡工業(株)製)(内径25.4mmφで内容積が約9cmの球形部、内径が約4mmφで長さが約25mmの導入管および熱電対固定金具から構成されている)と断熱熱量計として‘CSI-ARCTM'(CSI社製)を用いて、72重量%の硫酸水溶液について発熱の有無、断熱温度上昇を測定した。試料量は1.6gであり、雰囲気ガスは窒素、測定温度範囲は30〜350℃である。結果を表1に示す。
【0019】
比較例1
表面に金メッキをしていない以外は、実施例1と同様のハステロイC−276製の球形試料容器(永岡工業(株)製)を用いて、72重量%の硫酸水溶液について実施例1と同様に測定した。試料量は1.6gであり、雰囲気ガスは窒素、測定温度範囲は40〜255℃である。結果を表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
実施例1では発熱が見られなかったのに対して、比較例1では99.5℃で発熱が検出されている。硫酸は30〜350℃の温度では自己発熱反応を起こさないことから、比較例1で検出された発熱は、硫酸の自己発熱反応によるものではなく、硫酸が試料容器を腐食させたことにより生じた熱である。すなわち、金メッキをしていない試料容器を用いた場合、硫酸の熱安定性を正しく評価していなく、一方、金メッキをした試料容器を用いた場合、発熱が検出されていないことから、硫酸の熱安定性を正しく評価していることが分かる。
【0022】
実施例2
実施例1で使用したものと同様の表面を金メッキ処理したハステロイC−276製の球形試料容器(永岡工業(株)製)を用いて、80重量%の過酸化ジ-t-ブチルのトルエン溶液について実施例1と同様に測定した。試料量は6.0gであり、雰囲気ガスは空気、測定温度範囲は25〜330℃である。
【0023】
比較例2
実施例1の試料容器と同様の形状で、金メッキをしていないチタン製の球形試料容器(永岡工業(株)製)を用いて、80重量%の過酸化ジ-t-ブチルのトルエン溶液について実施例1と同様に測定した。試料量は6.0gであり、雰囲気ガスは空気、測定温度範囲は80〜250℃である。
【0024】

【0025】
実施例2と比較例2の測定結果を比較すると、両者の結果は良く一致していることが分かる。すなわち、標準的な試料として良く用いられる過酸化ジ-t-ブチルのトルエン溶液を対象として、標準的な試料容器として良く用いられているチタン製の試料容器による測定結果と、表面が金メッキ処理された金属製の試料容器による測定結果が良く一致し、表面が金メッキ処理された金属製の試料容器が標準的な試料容器として使用可能であることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係わる試料容器の断面模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係わる断熱熱量計の構成図である。
【符号の説明】
【0027】
1 試料容器
2 球形部
3 導入管
4 熱電対固定金具
11 断熱熱量計
12 試料
14 加熱部
14a 放射熱ヒーター
14b、14c、14d ジャケットヒーター
15 断熱材保温部
16 圧力センサー
17、18 熱電対
19 格納容器
20、21 配管





【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱熱量計を用いて物質の熱安定性を評価する方法において、表面が金メッキ処理された金属製の試料容器を用いて行うことを特徴とする物質の熱安定性の評価方法。
【請求項2】
金属がハステロイ、チタンまたはステンレス鋼である請求項1記載の物質の熱安定性の評価方法。
【請求項3】
試料容器が、球形部および球形部に取り付けられた試料の導入管から構成されている請求項1または2記載の物質の熱安定性の評価方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−250771(P2006−250771A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−68717(P2005−68717)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】