説明

物質分離デバイスおよび物質分離方法

【課題】流体中の2種以上の物質を、連続的に高度に分離することが可能な、物質分離デバイスを提供する。
【解決手段】試料である流体を流通させる分離室と、分離室の壁面に設けられた、分離の駆動力となるポテンシャルが互いに異なる部分であるφ1部及びφ2部と、分離室の下流端のφ1部により近い部分に形成された第1流出口と、分離室のφ2部により近い部分に形成された第2流出口、を有する。このような分離室が、複数段にわたって接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体に溶解又は分散して含まれる物質を連続的に分離することのできる物質分離デバイス、および物質分離方法に関し、電場、電磁場、磁場、振動場(音場)、熱的場、及び/又は、加速度場などの、分離すべき物質と相互作用して該物質を選択的に移動させる力を発生するポテンシャル勾配(即ちポテンシャルの場の勾配)を分離の駆動力として、前記物質を分離する物質分離デバイス及び物質分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体に溶解又は分散して含有される物質は、該流体を分離の駆動力となる各種のポテンシャルの場の中に置くと、該流体に含まれる物質の濃度勾配(濃度分極)が生じることが知られている。例えば、溶液や分散液に静電場を掛けると、周知の電気泳動の原理によって、プラス帯電物質は低電位側へ移動してそこに濃縮され、マイナス帯電物質は高電位側へ移動してそこに濃縮される。分散液を交番電場中に置くと、分散媒より誘電率の大きな分散質は高ポテンシャル側に濃縮される(特許文献1)。分散液を静磁場中に置くと、分散媒より透磁率の高い分散質は高磁束密度側に濃縮される。溶液に熱的場(温度勾配)の中に置くと、溶媒より分子量の大きな溶質は低温側に濃縮される(非特許文献1)。分散液を超音波の振動場に置くと、分散質は振幅の小さい方向へ移動する。従って、流路壁が振動の腹、流路の中心線が振動の節(ふし)となる定在波を形成する周波数の超音波を流路に照射すると、分散質は流路の中心線付近に濃縮される(非特許文献2)。溶液に遠心力を掛けると、溶液に溶解している高分子物質は低位置ポテンシャル勾配側に濃縮される。
【0003】
【特許文献1】特表2003-507739
【非特許文献1】フルニエ、ジユアナル ド フィジク、第8巻、44〜48頁、1944年〔P.A. Fournier, Journal De Physique, 8,45-48 (1944).〕
【非特許文献2】ニルソン、マイクロ トータル アナリシス システム 2006(μ−TASコンファレンス2006 予稿集)314頁、2006年 〔A. Nilsson, Micro Total Analysis System 2006 (Proceedings of μ-TAS 2006 Conference),314, (2006).〕
【0004】
しかしながら、分離対象物質の性質が互いに近い場合には、高度に分離することは出来なかた。例えば、電気泳動法は、ポテンシャル勾配による分離の中では分離能の高い分離方法であるが、この場合でさえ、電荷/分子量の比が近い物質の分離には高電圧と長い分離距離を要した。外部静電場による荷電物質の分離方法、即ち、流路中の流体に電極を接触させずに静電場を掛ける方法は、非常に分離能が低かった。磁場による分離方法は、強磁性体のビーズ以外の物質の分離には巨大な超伝導磁石を必要とし、相当に困難であった。温度差(温度勾配)による分離法は、高温部と低温部における溶質の濃度差は1%以下と小さく(非特許文献1)、分離手段として工業的に利用されることはなかった。超音波による分離も、1段での分離能が低く、実用的な分離を行うには、直列の4回の分離操作が必要であった(非特許文献2)。遠心沈降法による溶質の分離は、大きな遠心力を要し、相当困難であった。
【0005】
また、上記の分離方法は、分離能が低いだけでなく、分離に長時間を要するのが常であった。例えば、電気泳動による蛋白や核酸の分離は数時間、上記温度ポテンシャル勾配じよる分離は数十分以上、超遠心によるポリマーの分離も数十分以上を要していた。その他のポテンシャル勾配に関しても、分離対象の性質差が小さい場合には、僅かでも分離能を上げるために長時間を要していた。
【0006】
さらに、電場による分離は、分離速度を上げるために電位差を大きくすると、媒体の電気分解が生じて、物質分離デバイス中のような密閉系で使用できず、また、発熱やエネルギー消費量が大きいという問題があった。
【0007】
また、電場、電磁場、磁場、熱の場に関して、ポテンシャル勾配を分離の駆動力とする従来の分離デバイスや分離方法に於いては、前記φ1部-φ2部間距離を小さくすると拡散混合により分離率が低くなるし、同距離を大きくすると、ポテンシャル勾配が低下し、分離の駆動力が低下して分離率が低下する上、分離に長時間を要するようになるという限界があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、分離すべき物質と相互作用して該物質を選択的に移動させる力を発生するポテンシャル勾配を分離の駆動力として、流体に溶解又は分散して含まれる2種以上の物質を、容易に高い分離度で連続的に分離できる物質分離デバイスおよび物質分離方法を提供することにある。前記の場及び分離すべき物質としては、例えば、電場による荷電物質の分離、電磁場による誘電物質の分離、磁場による1でない透磁率を有する物質の分離、振動の場による質量の異なる物質の分離、熱の場による質量の異なる物質の分離、及び/又は、加速度場による密度の異なる物質との分離などである。
また、電場、電磁場、磁場、熱の場に関して、前記φ1部-φ2部間距離を十分に大きくして拡散混合を防ぎつつ、ポテンシャル勾配が低下することを防ぎ、高い分離率と迅速な分離を可能にする物質分離デバイスおよび物質分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明者らは、流体中に含まれる異なる物質を分離する物質分離デバイスであって、
前記物質分離デバイスが、
(1)毛細管状の流路と、該流路の途上に分離室を有し、該分離室は流入口、第1流出口、及び第2流出口を有すること、
(2)該分離室の内壁面の互いに異なる部分に、前記流体に含まれる前記複数の物質のひとつ又はいくつかを駆動するポテンシャル勾配の該ポテンシャルがφ1とφ2とされるφ1部とφ2部が設けられていること、
(3)前記第1流出口が、前記φ2部より前記φ1部に近い部分に設けられ、前記第2流出口が、前記φ1部より前記φ2部に近い部分に設けられていること、
および、
(4)前記分離室が、上流から下流にかけて複数段にわたって配置され、該複数段のうちの任意の段における前記分離室の第1流出口又は第2流出口が、下流側次段における分離室の流入口に接続されていること
を特徴とする物質分離デバイスを提供する。
本発明はまた、該物質分離デバイスを用いた、流体中に含まれる互いに異なる物質の分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、分離すべき物質と相互作用して該物質を選択的に移動させる力を発生するポテンシャル勾配を分離の駆動力として、流体に溶解又は分散して含まれる2種以上の物質を、容易に高い分離度で連続的に分離できる物質分離デバイスおよび物質分離方法を提供する。
本発明は、φ1部-φ2部間距離を小さく保ち、大きなポテンシャル勾配を維持しつつ、拡散混合を抑制することによって分離率を向上させることができる。
本発明は又、バルブ切り替えなどの操作をする必要がなく、物質分離デバイスに単に流体を流すだけで分離された物質を別々の取出口から連続的に取り出すことができる。そしてまた、小さな圧力損失で分離可能な物質分離デバイスを提供できるため、流体を流すために高圧を必要としない。
磁場による分離の場合には、永久磁石を用いることにより省エネルギーで分離できる。静電場による分離であって、電極を分離流路内の流体に接触させて電位差を設ける場合には、液体の電気分解が生じないほど小さい電位差を用いて、高速で高い分離率が得られる。又、このような低電位差では発熱も少なくなり、省エネルギーの分離が出来る。
【0011】
本発明は、本物質分離デバイスをマイクロリアクターと一体化することが可能であり、マイクロリアクターによる生成物を分離して連続的に次の工程に移すことが出来るため、複雑な多段反応を行うマイクロリアクターを構築することを可能にする。
さらに本発明は、微少量の流体の分離も可能であり、本物質分離デバイス内で実施される化学反応や分析と連続させることにより、マイクロ・トータル・アナリシス・システム(μ−TAS)を構築することも可能にする。
さらに、本物質分離デバイスを多数同時に稼働させることが容易であり、通常スケールの分離にも好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
〔分離の駆動力〕
本発明に使用する、分離の駆動力となるポテンシャル勾配は、流体中に含まれる互いに異なる物質、即ち第1物質及び/又は第2物質と相互作用して、該物質が高ポテンシャル方向又は低ポテンシャル方向に移動する力を発生するポテンシャル勾配である。ポテンシャル勾配が存在する領域を「ポテンシャルの場」または単に「場」と称する。このようなポテンシャルとしては、後述のように、電気ポテンシャル。電磁ポテンシャル、磁気ポテンシャル、振動ポテンシャル、温度ポテンシャル、加速度ポテンシャルを例示できる。
【0013】
第1物質及び/又は第2物質が力を受けて分離する機構としては、次の3つがあり得る。その第1は、前記場の中に置かれた第1物質及び第2物質が、互いに逆方向に力を受け、逆方向へ移動する場合である。勿論、該物質の一方が溶媒(又は分散媒)の場合には、流路を満たしている該溶媒(又は分散媒)は力を受けても実質的に移動することが出来ず、溶質(又は分散質)のみが移動する。
【0014】
第2は、前記場の中に置かれた第1物質及び第2物質が、同じ方向に力を受け、同じ方向へ移動するが、その速度が異なる場合である(一方が受ける力がゼロであり、移動しない場合を含む。また、該物質の一方が溶媒又は分散媒の場合には、流路を満たしている該溶媒(又は分散媒)は力を受けても実質的に移動することが出来ず、溶質(又は分散質)のみが移動する。但し、溶質(又は分散媒)が後述の浮力により逆方向に移動する場合がある。第1物質及び第2物質が双方共に溶質(又は分散質)である場合には、第1物質及び第2物質がそれぞれ異なる強さの力を受ける場合と、両者が同じ力を受けるが、粒子の大きさの違いなどにより互いに異なる速度で移動する場合があり得る。
【0015】
第3は、前記場の中に置かれた溶媒が低ポテンシャル方向への力を受け、該溶媒より密度の低い溶質が、浮力により高ポテンシャル方向へ移動する場合である。このとき、該ポテンシャル勾配により溶質が受ける力は、該溶媒と異なればよい(ゼロを含む)。この浮力による分離は、溶質と溶媒の分離と、2つの溶質の分離の双方とも可能である。分散質についても同様である。
【0016】
〔ポテンシャル勾配、ポテンシャル付加機構〕
本発明に使用できるポテンシャル勾配と相互作用の種類、及びポテンシャル付加機構としては、次のようなものを例示できる。
【0017】
〔電気ポテンシャル勾配〕
電気ポテンシャル勾配は、電場におけるポテンシャル(即ち電位)の勾配である。電場は荷電物質と相互作用して、プラス荷電粒子は低電位方向へ、マイナス荷電粒子は高電位方向へ向かう力を受ける。荷電粒子が受ける力は、静電場の電場の強さと該粒子の電荷にそれぞれ比例する。受ける力が一定の時、流体中での粒子の移動速度は粒子の電荷/質量の比に比例する。流体に静電場を掛ける方法としては、第1内平面とφ2部に電極を設けて、流路中の流体に接触させて電場を掛ける方法(即ち接触式)と、電極を流体に接触させずに、流路或いは物質分離デバイスの外部から掛ける方法(即ち非接触式)がある。
電気ポテンシャル勾配を接触式により形成する場合、即ち、φ1部とφ2部に設けられた電極により付与される場合は、電気ポテンシャル勾配は、好ましくは1[V/mm]以上、さらに好ましくは、3[V/mm]以上、最も好ましくは5[V/mm]以上である。電気ポテンシャル勾配の上限は、過剰な発熱やアーク放電が生じない範囲で高くすることが出来、例えば100[V/mm]にすることが出来る。また、φ1部とφ2部間の電位差は、好ましくは3[V]以下、さらに好ましくは、2[V]以下、最も好ましくは1[V]以下である。該電位差の下限はゼロでなければ任意である。この範囲にすることにより、流体の電気分解を生じさせず、気泡の発生や無駄な電力消費を防止できる。
【0018】
分離流路の内壁に電極を設置する方法は任意であるが、内壁の一部への板状(箔状)の電極の接着や、内壁の一部に蒸着、スパッタリング、化学メッキ、導電性樹脂の塗布などにより導電性物質の層を形成する方法で実施できる。
電気ポテンシャル勾配を 前記非接触式により設ける場合は、分離流路内に空気が充填された状態における電気ポテンシャル勾配は、好ましくは1000[V/mm]以上、さらに好ましくは、3000[V/mm]以上、最も好ましくは5000[V/mm]以上である。電気ポテンシャル勾配の上限は、絶縁破壊が生じない範囲で高くすることが出来、例えば1000000[V/mm]にすることが出来る。
上記非接触式において、分離流路のφ1部及びφ2部となす内壁部分に、流体と絶縁された電極を設置してもよいし、絶縁体の素材で形成された物質分離デバイスに電極を埋め込んでもよいし、本物質分離デバイスの外部の両側に電極を配置してもよい。外部に設置する場合、電極板は空中への放電を防ぐために、絶縁体で覆うことが好ましい。物質分離デバイスの上記電極を設置する範囲は、分離流路を含む範囲であれば任意であり、分離流路以外の流路部分を含む範囲でもよい。電極は、物質分離デバイスに固定されていてもよいし、物質分離デバイスとは独立に形成して、使用時に所定の位置関係に設置してもよい。
【0019】
φ1部とφ2部に掛かる電位差は式1により計算できる。

=(Q/εA)(dεi) ・・・式1
ここで、
Q=VεA/Σ(d/ε
但し、
C:電気容量[ファラッド:F]、C:真空中の電気容量[F]、
Q:電気量[クーロン:C]、V:電位差[ボルト:V]、
ε:媒体の比誘電率[−]、ε:真空の誘電率[=8.85×10-12 F/cm]、
A:面積[cm2]、d:電極間距離[cm]、添え字i(正の整数)は、
φ1部−φ2部方向に分割した第i層を示す。又添え字Tは、
全層(即ち、物質分離デバイス)を示す。
(文献:例えば“新実験化学講座”,日本化学会編,丸善 (1976),基礎
技術4電気p.265.)
【0020】
〔電磁ポテンシャル勾配〕
電磁ポテンシャル勾配は電磁場におけるポテンシャル(電磁強度)の勾配である。電磁場は誘電体と相互作用して力を発生する。相互作用の力は電磁強度に比例し、電磁強度の勾配に比例し、かつ物質の誘電率に比例する。媒体より誘電率の高い粒子は高ポテンシャル方向へ力を受ける。
電磁ポテンシャル勾配は、例えばφ1部に2つの電極を設け、そこに交流電圧を掛けることによって、φ1部側の電磁ポテンシャルφ1がφ2部側のポテンシャルφ2より高い電磁ポテンシャル場を形成出来る。該2つの電極は互いに入り込んだ櫛形であることが好ましい。該電極の形成方法は、上記電気ポテンシャルの場合と同様である。本電磁ポテンシャル勾配においても、例えばφ1部側に流路と接触しない2つの電極を設け、非接触法でポテンシャル勾配を形成することも可能である。
電磁ポテンシャルの周波数はゼロでなければ任意であるが、10[kHz]〜10[MHz]が効果的であり好ましい。電磁場強度の波形は任意であり、正弦波の他、例えば矩形波やパルス波であって良い。
【0021】
〔磁気ポテンシャル勾配〕
磁気ポテンシャル勾配は、磁場におけるポテンシャル(即ち、磁位)の勾配である。磁場は、1でない透磁率を有する物質と相互作用して力を発生する。相互作用の力は、磁束密度に比例し、磁束密度の勾配に比例し、かつ物質の透磁率に比例する。媒体より透磁率の高い粒子は磁束密度の高い方向へ力を受ける。
磁気ポテンシャル勾配は磁束密度であり、好ましくは0.1[T(テスラ)]以上、さらに好ましくは、0.3[T]以上、最も好ましくは0.5[T]以上である。磁束密度の上限は、装置が大がかりに成りすぎない範囲で高くすることが出来、例えば50[T]にすることが出来る。しかし、3[T]以下であることが、永久磁石とポールピースにより容易に実現できるためこのましく、1.5[T]以下であることが、より容易に実現できるため好ましい。
磁気ポテンシャル勾配を付与する方法は任意であり、物質分離デバイスのφ1部側又はφ2部側の外側に永久磁石、電磁石、又は超伝導磁石を配することができる。永久磁石又は超伝導磁石が、エネルギーの消費がなく好ましく、永久磁石が簡便であり好ましいい。ポールピースを用いて、磁力線を分離流路に集中的に通過させることも好ましい。永久磁石、電磁石、又はポールピースを物質分離デバイスに固着して一体化しても良い。
【0022】
〔振動ポテンシャル勾配〕
振動ポテンシャル勾配は、振動(音響)の進行波(単数又は複数)によって形成される振動場の、振動強度ポテンシャル(振幅)の勾配である。該振動場は、媒体と密度の異なる物質と相互作用し、媒体より密度の高い物質を低振幅方向へ移動させる。周波数を超音波領域とすることで効果的となる。
振動場は、時間に対して非対称な振動波形を持つ進行波(単数)の場であり得る。進行波の振動場は、本物質分離デバイスのφ1部側の外表面又はφ2部側の外表面に振動子(例えば超音波振動子)を接触させて、又は流体を介して該面に振動を付与する方法で実施できる。振動子は物質分離デバイスと一体化されていて良い。
或いは、振動場は、振動の周波数を、波長が流路の壁間距離の2倍になるように調節することによって、流路壁が振動の腹、流路の中心が振動の節になるような定在波を形成した振動場であり得る。このような定在波振動の場においては、流路の両内壁面から中心方向へ向かう振動ポテンシャル勾配が形成され、媒体より密度の高い粒子は流路の中心部に集まる。
定在波の振動場は、本物質分離デバイスに超音波振動子を直接又は液体を介して接触させて、超音波振動を付与することが出来る。分離流路のφ1部とφ2部を振動の腹、該両壁面の中間部を振動の節となる周波数に調節する。超音波振動子は、物質分離デバイスのどの部分に接触させても、又は流体を介して物質分離デバイス全体に振動を与えても、前記のように周波数を調節することにより該定在波を発生させることが出来る。しかしながら、φ1部に平行な面に接触させることが、低出力で十分な強度の定在波を発生させることが出来るため好ましい。超音波振動子は物質分離デバイスと一体化されていて良い。
【0023】
〔温度ポテンシャル勾配〕
熱の場における温度勾配を温度ポテンシャル勾配として取り扱うことが出来る。熱の場は、媒体と密度の異なる物質と相互作用し、媒体より質量の大きな粒子を低温方向へ移動させる。
温度ポテンシャル勾配(温度勾配)は、好ましくは10[℃/mm]以上、さらに好ましくは、30[℃/mm]以上、最も好ましくは50[0℃/mm]以上である。温度勾配の上限は任意であり、例えば1000[℃/mm]にすることが出来る。φ1部とφ2部の温度差は大きい方が好ましく、好ましくは10[℃]以上、さらに好ましくは、30[℃]以上、最も好ましくは50[℃]以上である。温度勾配の上限は任意であり、例えば媒体となる液体の沸点と凝固点の差にすることが出来る。温度勾配を付与する方法は任意であり、例えば、物質分離デバイスの一方の外表面を低温物質と接触させ、他方の外表面を高温物質と接触させる方法、物質分離デバイス内に電気ヒーターなどの発熱体を埋め込む方法、本物質分離デバイス外から赤外線、レーザー光線、マイクロ波などを照射する方法を例示できる。
【0024】
φ1部及びφ2部に掛かる温度差は次式により計算できる。

i−1−T=(x/λ)(Q/S) ・・・E2
ここで、
(Q/S)=(T−T )/[Σ(x/λ)]
但し、
:各層の厚み [m]、S :面積[m]、
:第i層界面の温度[℃]、
:物質分離デバイスの一方の側の表面温度[℃]、
:物質分離デバイスの他方の側の表面温度[℃]、
λ:各層の熱伝導率 Q:熱貫流量[ワット:w]、
添え字i(正の整数)は、φ1部−φ2部方向に分割
した第i層を示す。
(文献:例えば「新版化学機械の理論と計算」、亀井三郎編、
産業図書(株)1959年.)。
【0025】
〔加速ポテンシャル勾配〕
加速度ポテンシャル勾配は、加速度場のポテンシャルの勾配であり、加速度場のポテンシャルは位置エネルギーである。加速度場は、媒体と密度の異なる物質と相互作用し、媒体より密度の高い物質を低位置エネルギー方向へ移動させる。加速度場は重力場や遠心力場であり得る。しかし、重力場が分離すべき物質に与える力は小さく、分離対象は密度差が大きく且つ粒径差が大きなものに限られるため、本発明に於いては、加速度ポテンシャル勾配は、重力場より大きな加速度場のポテンシャル勾配であることが好ましい。
重力場より大きい加速度場は遠心力により与えられる。加速度場は、機構的な制約はあろうが、大きいほど分離効率と分離速度が向上するため好ましく、好ましくは100[G(重力加速度)]以上、さらに好ましくは300[G]以上、最も好ましくは1000[G]以上である。上限は、例えば10000[G]にすることが出来る。
【0026】
〔浮力の場〕
前記第1物質及び/又は第2物質が力を受けて分離する機構の第3の場合を、浮力の場による分離として取り扱うことも出来る。即ち、第1物質と第2物質が溶質と溶媒である場合、上記の各種の場に於いて、溶質より溶媒が低ポテンシャル勾配方向により強い力を受け、溶質を浮力によって高ポテンシャル勾配方向へ移動させて分離する場合、浮力の場による分離と見ることが出来る。ポテンシャル勾配は位置エネルギーである。分散質と分散媒の場合も同様である。また、互いに浮力の異なる2つの溶質や2つの分散質を互いに分離することも出来る。
本発明で使用するポテンシャル勾配は、時間的に強度が変化しない定常的な場であれば分離できるが、変動しても差し支えない。電磁場や振動の場の場合は、場は微視的には時間的に変化するが、巨視的には定常状態としてよい。
【0027】
物質分離デバイスに上記の各種ポテンシャル勾配を設ける範囲は任意であり、分離室以外の部分、例えば分離室間を連絡する流路を含む範囲でもよい。流路を含む範囲にもポテンシャル勾配を付与すると、分離室以外の流路部分でも分離がなされ、それが多段に積算されて効率の良い分離が行える場合がある。分離駆動力となるポテンシャル勾配が、非接触型の電気ポテンシャル勾配、温度勾配、進行波型の振動ポテンシャル勾配、又は加速度ポテンシャル勾配の場合には、このように分離室以外の流路にもポテンシャル勾配を掛けることも好ましい。しかし、ポテンシャル勾配が磁気ポテンシャル勾配の場合には、ポールピースを用いて、分離流路に選択的に磁気ポテンシャル勾配を付与することが、分離率の向上の面で好ましい。
本発明に於いて、ポテンシャル勾配を2種以上同時に掛けてもよい。
なお、本発明で分離の駆動力として用いるポテンシャル勾配は、上述のように、流路内の任意の位置にある物質が、分離される方向へ力を受けるような、流路の両壁間全体にわたる勾配であって、特開2006-043696に開示されているような、流路壁が選択的な親和性を示すようなものではない。即ち、流路壁の極近傍(数nm未満と考えられる)でのみ相互作用が存在し、それ以外の大部分の流路中では相互作用がないものは含まない。
【0028】
[物質分離デバイス]
〔外形・寸法〕
本発明の物質分離デバイスの外形は任意であり、例えば板状(曲板状を含む)、シート(フィルム、ベルト、リボンなどを含む)状、棒状、塊状、その他任意の複雑な形状であって良い。これらの中で、板状又はシート状であることが、ポテンシャル勾配付加機構を物質分離デバイスの外側に設ける場合にも、前記分離流路に大きなポテンシャル勾配を形成することが容易であること、使用上の容易性、他の物質分離デバイスと一体化することの容易性、及び製造の容易性から好ましい。特に、前記ポテンシャル勾配が温度勾配、静電ポテンシャル勾配、電磁ポテンシャル勾配、又は磁気ポテンシャル勾配であるときは、板状やシート状とし、該平面に直角な方向に該ポテンシャル勾配を付与することにより、大きなポテンシャル勾配を付与することが出来るため好ましい。上記板状やシート状は、曲面状であっても良い。
ポテンシャル付与装置部分を除く本物質分離デバイスの厚みは、好ましくは50[μm]以上、更に好ましくは100[μm]以上、最も好ましくは200[μm]以上であり、好ましくは5mm以下、更に好ましくは3mm以下、最も好ましくは2mm以下である。厚みをこの寸法とすることにより、分離流路を後述のように好適な寸法とすることが出来、又、分離流路に大きなポテンシャル勾配を与えることが出来る。
【0029】
〔素材〕
本物質分離デバイスを構成する素材は、φ1部と第2壁面を、それぞれポテンシャルφ1とφ2にできるものであれば任意である。後述のように、用い得る素材は使用する場の種類によって異なり、又、物質分離デバイスの構造部分によって異なるが、後述の具体例で述べる例外を除けば、一般的には、ガラス、ステンレススチールなどの金属、シリコンなどの半導体、石英などの結晶、セラミック、炭素、有機重合体、有機無機複合体などが使用できる。前記有機重合体には、ポリジメチルシロキサンやポリシラザンのように、厳密には無機重合体に分類される場合もあるが通常は有機重合体として扱うものも含まれる。これらの材料にはそれぞれ長短があり、目的の分離系に応じて好適なものを選択すればよい。中でも有機重合体は、分離駆動力となるポテンシャルがいずれの場合であっても好適な物性を有し、安価で製造も容易なため、好ましく使用できる。
【0030】
〔分離室〕
本発明の物質分離デバイスは、流路の途上に空洞状の分離室を有し、該分離室にはポテンシャル勾配が付与される。本発明の物質分離デバイスにおいて、ポテンシャルの付与方式として次の2種類がある。
第1のポテンシャル付与方式に於いては、該分離室の内壁の異なる部分に、分離の駆動力となるポテンシャル勾配のポテンシャルがφ1とφ2とされた部位であるφ1部とφ2部が設けられ、ポテンシャルφ1とポテンシャルφ2は互いに異なるポテンシャルとされる。前記φ1部とφ2部の間は、前記ポテンシャル勾配は単純増加又は単純減少とすることが好ましい。また、φ1とφ2のポテンシャル差が大きい程好ましい。このようにすることにより、第1物質と第2物質は、前記ポテンシャル勾配によって前記φ2部から前記φ1部に向けて駆動されるか、もしくは前記φ1部からφ2部に向けて駆動され、前記φ1部又はφ2部付近に最も濃縮された(又は希釈された)前記物質が、前記流体とともに前記第1流出口又は前記第2流出口から流出する。また、φ1部とφ2部の距離を小さくして、ポテンシャル勾配を大きくすることが、分離速度が向上するため好ましい。本第1のポテンシャル付与方式は、定在波振動の場に於ける振動ポテンシャル勾配以外のポテンシャルを、後述の具体的構造で示すように、分離室側面の内壁面と交叉する方向に掛けることにより実施することが出来る。
【0031】
第2のポテンシャル勾配付与方式においては、該分離室の内壁の互いに対向する部分に、同じポテンシャルφ1とされた部位であるφ1部とφ2部が設けられ、さらに、該φ1部とφ2部の間に、これ等とは異なるポテンシャルφ3とされた部位であるφ3部が該分離室の空間中に存在する。第2のポテンシャル勾配付与方式は、ポテンシャル勾配を前記定在波振動の場に於ける振動ポテンシャル勾配により実施することが出来る。この場合、媒体より密度の高い粒子はφ1部とφ2部間の中間部に濃縮されるから、流体を濃縮液と希釈液に分離して取り出すためには、取出口の構造に工夫がいる。例えば、後述の、第1流出口と第2流出口に分割する流体の流量比が1以外に成るような構造や方法にする必要がある。
分離室は、流入口と、第1流出口と第2流出口とを有し、第1流出口はφ2部よりφ1部に近い部分に設けられ、φ1部側の、第1物質が濃縮された流体が流出するようにされており、第2流出口はφ1部よりφ2部に近い部分に設けられ、φ2部側の、第2物質が濃縮された(即ち、第1物質が希釈された)流体が流出するようにされている。
【0032】
〔取出口〕
本発明の物質分離デバイスには第1流出口に接続された第1取出口と、第2流出口に接続された第2取出口が設けられている。本発明の多段型物質分離デバイスにおける、第1取出口と第2取出口が設けられる接続上の位置は、後述の物質分離デバイスの具体的構造の項で説明する。本発明の物質分離デバイスは、さらに、第3取出口を設けることも出来る。これについても、設けられる接続上の位置は、後述の物質分離デバイスの具体的な構造の項で説明する。勿論、上記第1取出口と第2取出口は、本物質分離デバイス外に開口している代わりに、本物質分離デバイス内に形成された他の構造、又は、本物質分離デバイス中や、該デバイスと一体化されたマイクロ流体デバイスの中に形成された他の構造に直接接続されていて良い。上記他の構造は任意であるが、例えば、反応槽や反応用流路、クロマトグラフィーなどの分離機構、光学的或いは電気的な検出機構、マイクロ流体デバイス内に形成されたポンプ機構、バルブ機構を例示できる。
【0033】
〔製造方法〕
本発明の物質分離デバイスの製造方法は任意であり、各素材に応じた方法を採用できる。本発明の物質分離デバイスが、溝を有する部材で構成されている場合、該部材は、例えば、フォト(放射線)リソグラフィー(但し、光硬化性樹脂のパターン露光法や、光分解性樹脂のパターン露光法などの、エッチング工程を有しない物も含む)、光(エネルギー線)造形法、光(エネルギー線)アブレーション、射出成型、キャスト硬化法、熱エンボス法(溶融レプリカ法)、溶剤キャスト法(溶剤レプリカ法)、機械的切削、サンドブラスト法、蒸着法、気相重合法、溝となるべき、層の表裏を貫通する欠損部を有する層状部材と平滑な表面を有する部材との固着等であり得る。
本発明の物質分離デバイスが、層の表裏を貫通する欠損部を有する層状部材と、平滑な表面を有する部材とで構成されている場合には、該欠損部を有する層状部材は、該欠損部の形成方法も任意であり、上記溝を有する部材と同様の方法や、切り抜き法を使用しうる。
各部材の固定方法も任意であり、クランプ、ネジ、リベットなどによる非固着の固定であり得るが、固着が好ましい。固着方法は任意であり、互いに固着させる部材の少なくとも一方が粘着力を示す半硬化状態で互いに密着させ、その状態で硬化させて固着する方法、接着剤を使用した接着、粘着剤による固着、部材表面への溶剤塗布による接着、熱や超音波による融着、などの方法を使用しうるが、半硬化状態で密着固化させる方法、及び、無溶剤型の接着剤の使用が好ましい。無溶剤型接着剤としてエネルギー線硬化性樹脂を用い、エネルギー線照射により硬化させて接着する方法が、生産性が高く好ましい。
【0034】
〔物質分離デバイスの具体的構造〕
まず、本発明の物質分離デバイスの分離室の構造の具体例について説明する。分離室の流入口、第1流出口、第2流出口の位置関係や、分離室内のφ1部、φ2部との位置関係は、典型的には次の2種がある。
【0035】
(I型)分離室の直交する3方向の寸法のうち最小でない方向を長さ方向(即ち、流体を流動させる方向)とし、流入口が分離室の長さ方向の一方の端に設けられており、前記φ1部とφ2部が分離室の側面に設けられており、第1流出口と第2流出口が分離室の長さ方向の他端に設けられている方式。本方式においては、分離室に入った流体は、分離室内をマスフローとして一方向に流れながら、第1物質と第2物質が、流れ方向に直角なφ1部−φ2部方向に分離し、第1物質と第2物質がそれぞれ濃縮された流体が別々に流出する。
【0036】
(II型)分離室の直交する3方向の寸法のうち最小でない方向を長さ方向とし、流入口が分離室の長さ方向の中間部に設けられており、前記φ1部とφ2部が分離室の長さ方向の両端部の端面にそれぞれ設けられており、第1流出口と第2流出口が分離室の長さ方向の両端部にそれぞれ設けられている方式。本方式においては、分離室に入った流体は二つに分かれ、それぞれが逆方向にマスフローとして流れながら、第1物質と第2物質が、該マスフローの流速より速い速度で互いに逆方向へ分離し、第1物質と第2物質がそれぞれ濃縮された流体が別々に流出する。
【0037】
もちろん、上記のI型とII型は典型的な形態であり、連続的にその中間的な形態があり得る。例えば後述するように、半立体型の態様に特に好適な、上記I型とII型の中間型の態様があり得る。
また、本発明の物質分離デバイスは、典型的な構造として、立体型、半立体型、及び平面型の態様を好ましく採り得る。立体型は、流出口から流出する流体が、多段に分離室が配列されている平面の外へ流出する構造であり、平面型は、流出口から流出する流体が、多段に分離室が配列されている平面内へ流出する構造であり、半立体型は、流出口から流出する流体が、多段に分離室が配列されている平面内ではあるが、該平面に平行な2層へそれぞれ流出する構造である。もちろん、これらの折衷型があり得るし、本物質分離デバイスの部分毎に異なる構造を採ってよい。
【0038】
以下、図面を参照して、I型の分離室とII型の分離室のそれぞれについて、立体型、半立体型、及び平面型の各態様に即して詳細に説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。また、同じ目的機能の構造体は同じ番号で示した。
【0039】
以下、物質分離デバイスの具体的構造について次の表題に従って説明を行う。
1.〔I型の立体型〕
2.〔II型の立体型〕
3.〔I型の半立体型〕
4.〔II型の半立体型〕
5.〔I型の平面型〕
6.〔II型の平面型〕
7.[多段配置]
8.[I型の立体型に於ける多段配置]
9.〔3段以上の多段配置の基本構成〕
10.〔濃縮溶液量の確保〕
11.〔導入口、取出口、流路〕
12.〔その他の機構〕
【0040】
1.〔I型の立体型〕
図1はI型の立体型の態様の説明図であり、図1(A)に分離室の平面図、図1(B)にα−α線における側面断面図を示した。本態様においては、内部層23の両面にそれぞれ第1外部層22および第2外部層24が積層され、第1外部層22の外側には基材21が積層され、第2外部層24の外側にはカバー層25が積層されている。
【0041】
内部層23には分離室3が形成されていて、図1内の左右方向が長さ方向とされ、第1外部層22側の側面(図1(B)の紙面内上方)がφ1部1とされ、その対向面である第2外部層24側の側面(図1(B)の紙面内下方)がφ2部2とされる。分離室3の長さ方向の一端(図中左端)に流入口5が設けられている。分離室3の他端(図中右端)の第1外部層22側の側面に第1流出口6が形成され、第2外部層24側の側面には第2流出口7が形成されている。
【0042】
このような構造により、流入口5から分離室3に入った流体は、分離室3を図1内の左から右方向へマスフローで流れ、流れる間に第1物質はφ1部1方向へ移動して濃縮され、該第1物質濃縮流体は第1流出口6から第1外部層22側の流路12へ流出する。一方、第2物質はφ2部2方向へ移動して濃縮され、該第2物質濃縮流体は第2流出口7から第2外部層24側の流路13へ流出する。
【0043】
(分離室)
図1に示された本態様に於いては、分離室3は、物質分離デバイスは板状又はシート状の外形を有し、該物質分離デバイスの平面に平行な方向、即ち図1の左右方向に、断面略矩形の毛細管状の分離室3が形成されているが、本I型の立体型の態様において、一般には分離室3の断面形状は任意であり、例えば正方形や長方形などの矩形、台形、菱形、多角形、円形、半円形などであってよい。これらの中で、矩形、台形、または半円形とすることが、製造の容易性から好ましい。なお、角を有する断面形状の場合には、その角に丸面取りが施された形状であっても良い。分離室上流側端面8や分離室下流側端面9は分離室3の側面と直交している必要はなく、任意であり、例えば図1のように平面視でテーパー状になっていて良い。
【0044】
図1に示した態様においては、分離室の寸法は、例えば長さ方向が2mm、高さが100[μm]、幅が300[μm]であり、長さ方向が最も長いが、幅を例えば5mmのように、長さより大きくしてもよい。しかし、II型との区別を明確にするため、本I型の立体型は、φ1部とφ2部が設けられる内壁面間の距離、即ち、厚み方向の寸法を、分離室3の最小寸法とする。
【0045】
本態様に於いては、分離室3のφ1部1とφ2部2間の距離は、好ましくは10[μm]以上、さらに好ましくは30[μm]以上、最も好ましくは100[μm]以上であり、好ましくは1000[μm]以下、さらに好ましくは500[μm]以下、最も好ましくは300[μm]以下である。この下限以上とすることにより、拡散混合による均一化を抑えて、一分離室当たりの分離率を高めることができる。また、この上限以下とすることにより、分離室3内で第1物質と第2物質が分離する速度を十分速くすることができ、処理速度を向上させることが出来る。
【0046】
分離室3の幅、即ち、長さ方向に直角で、且つφ1部1−φ2部2方向に直角な方向の寸法は任意であり、処理すべき流体の量に応じて選択できる。例えば好ましくは1[μm]以上、さらに好ましくは10[μm]以上、最も好ましくは100[μm]以上であり、好ましくは5cm以下、さらに好ましくは1cm以下、最も好ましくは3mm以下である。この下限以上とすることにより、処理量を増すことができ、製造も容易になる。また、この上限以下とすることにより、偏流による分離効率の低下を抑制することができる。但し、後述の「10.濃縮溶液量の確保」の(2−1)項に記載されているように、一つの分離室に多数の第1流出口6と第2流出口7を設ける場合には、上記分離室の幅は各流出口1本当たりの幅とする。
【0047】
分離室3の長さは、φ1部1とφ2部2間の距離より大きければ任意であるが、φ1部1とφ2部2間の距離の1倍を超え、好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2倍以上であり、好ましくは1000倍以下、さらに好ましくは300倍以下、さらに好ましくは100倍以下である。この範囲とすることにより、分離室毎の分離効率が高くなり、かつ、分離室を小さくできるため、段数を増すことができる。
【0048】
(流入口)
図1の態様に於いては、流入口5は分離室3の一方の端面8に設けられ、上流端とされているが、一般にI型の立体型の態様に於いては、流入口5を分離室3の端のどの位置に設けるかは任意であり、φ1部1側内壁面、φ2部2側内壁面、φ1部1とφ2部2間の側面に設けてもよい。
【0049】
後述のように、分離室を多段配置するにあたり、一つの分離室の流入口に前段の二つの分離室の流出口からの流路を接続する場合がある。この場合、分離室の上流端のどの位置に流入口5を設けるかは任意である。例えば、前段の二つの分離室の各流出口からの流路を一つにまとめて流入口5に接続しても良いし、それぞれを別々に設けられた流入口5に接続しても良い。別々に設けられた流入口5の位置としては、例えば、分離室の上流端に於けるφ1部1側とφ2部2側の側面、φ1部1とφ2部2の間の互いに対向する2つの側面、分離室の上流端の端面の異なる場所、であり得る。このように、分離室上流端の異なる位置に流入させても、分離室断面の寸法を前記の範囲とすることにより、異なる流入口から流入した流体は分離室内で混合し、本発明の分離機能を発揮しうる。
【0050】
(第1流出口および第2流出口)
本I型の立体型の態様においては、第1流出口6は、分離室3の下流端の、φ1部1側の側面に設けられ、第2流出口7は、φ2部2側の側面に設けられる。両流出口を分離室3の内壁の対向面に設け、流体が第1流出口6および第2流出口7から互いに逆方向へ流出することが、流出口付近での再混合が少なく、分離率が高くなるため好ましい。
分離の駆動力が定在波の振動ポテンシャルの場合には、分散媒より密度の高い分散質は分離室3のφ1部1とφ2部2の間のφ3部付近に濃縮されるため、第1流出口6と第2流出口7の断面積を違えて、不均等な流量で流出するようにする必要がある。濃縮された分散質は多量に流出する方の流出口から流出する。本物質分離デバイスを多段構成にする場合、断面積の大きい方の流出口を各段とも同じにする必要がある。これらは、本発明の他の態様の物質分離デバイスについても同様である。
【0051】
本I型の立体型の態様に於いては、第1流出口6、第2流出口7の形状や寸法は任意であるが、半立体型の態様と区別するために、第1流出口6、第2流出口7の面積は分離室3の横断面積(即ち、流線に直角な方向の断面積。図1(A)および(B)の紙面に垂直な方向の断面積である。)より小さくされ、分離室3の横断面積の1/2以下がさらに好ましい。断面積の下限は任意であるが、圧力損失の増加を招かないために、分離室3の横断面積の1/10以上が好ましい。
【0052】
(流路)
分離室3の流入口5、第1流出口6、及び第2流出口7は、流路でもって他の分離室やその他の構造に接続される。各流路の形状や寸法は任意である。しかし、分離室3だけでなく流路部分にも電気ポテンシャル勾配、電磁ポテンシャル勾配、磁気ポテンシャル勾配、進行波の振動ポテンシャル勾配、加速度ポテンシャル勾配、温度勾配、が形成される場合には、該流路において第1物質と第2物質が分離室3とは逆方向に分離され、本物質分離デバイスの分離能が低下する場合がある。これを防ぐため、流路の断面積を小さくして流速を高くし、マスフローで流れる流速を、第1物質と第2物質の拡散速度より高くすることにより、流路内で第1物質と第2物質の組成を変化させずに移送することができる。このため、流路の断面積は分離室3の横断面積以下であることが好ましく、分離室3の横断面積の1/2以下がさらに好ましい。断面積の下限は任意であるが、圧力損失の増加を招かないために、分離室3の横断面積の1/10以上が好ましい。圧力損失をなるべく低く抑えつつ分離能の低下を招かない最適値は、流路と分離室に於ける温度差やポテンシャル差の違い、流路の向きや長さなどの構造に依存するため、正確な見積もりは困難である。しかしながら、その値は、簡単な実験により分離率が低下しない値として求めることができる。流路は、本分離デバイスを構成する部材の任意の部分に形成してよい。
【0053】
(外形)
本態様の物質分離デバイスの外形は任意であり、本発明の物質分離デバイスの外形で述べた内容と同じである。即ち、板状又はシート状であることが、物質分離デバイスのφ1部とφ2部の距離を小さくし、また、物質分離デバイスの外側から、ポテンシャル勾配を掛ける場合でも、大きなポテンシャル勾配とφ1部-φ2部間の大きなポテンシャル差を形成することが容易である点で好ましい。
【0054】
(素材)
本物質分離デバイスは、基材21、第1外部層22、内部層23、第2外部層24及びカバー層25を密着積層された状態で固着して構成されている。固着は、接着剤による接着であっても良いし、融着などの、接着剤を用いない固着であっても良いし、各層間を密着させてネジやクランプなどで固定されていてもよい。また、例えばマイクロ光造形法などの方法により、各層を別々に形成することなく一体成型されていて、各層が層として認識されなくても良いし、また例えば、射出成型や切削やエッチングなどの方法により、上記のうちの複数の層、例えば基材21と第1外部層22や、第2外部層24とカバー層25が、それぞれ一体成型された部材とされていて、該部材に於いては各層が層として認識されなくても良い。
【0055】
本物質分離デバイスを構成する素材は、使用目的により、温度差、電気ポテンシャル、磁気ポテンシャル、重力場より大きな加速度場、が掛けられるものであれば任意であり、本発明の物質分離デバイスに使用できる素材として前記したものを使用できる。以下、分離の駆動力として使用するポテンシャル勾配毎に述べる。
【0056】
(i)温度勾配の場合
分離の駆動力が温度勾配の場合には、少なくとも内部層23は熱伝導率の小さい素材で形成されていることが必要である。内部層23を構成する素材の熱伝導率は、10[wm−1−1]以下が好ましく、3[wm−1−1]以下がさらに好ましく、1[wm−1−1]以下が最も好ましい。熱伝導率の下限は、自ずと限界はあろうが、小さいことそれ自身による不都合はないため限定することを要しない。熱伝導率の下限は、例えば、0.01[wm−1−1]であり得る。この範囲とすることにより、φ1部とφ2部の間に大きな温度差や大きな温度勾配を付けることが容易になる。
【0057】
前記分離駆動力の項で述べたように、物質分離デバイスの外部から温度差を掛ける場合には、物質分離デバイスの表面を温度調節することにより、流路面にφ1部とφ2部を形成する場合には、物質分離デバイス表面と分離室3を隔てる部分、即ち、図1に於ける基材21や第1外部層22や第2外部層24やカバー層25の素材として、熱伝導率が内部層23の熱伝導率の、好ましくは1倍以上、更に好ましくは2倍以上、最も好ましくは5倍以上の素材を使用することが好ましい。これにより、物質分離デバイスの表面間の温度差が同じ場合に、φ1部とφ2部の間の温度差をより大きくすることが出来る。
【0058】
また、本物質分離デバイス全体としての、厚み方向、即ちカバー側外表面28から基材側外表面27までの熱伝導率は、10[wm−1−1]以下が好ましく、3[wm−1−1]以下がさらに好ましく、1[wm−1−1]以下が最も好ましい。熱伝導率の下限は、自ずと限界はあろうが、小さいことそれ自身による不都合はないため限定することを要しない。熱伝導率の下限は、例えば、0.01[wm−1−1]であり得る。物質分離デバイスを透過する方向の熱伝導率をこのような範囲とすることにより、熱貫流量を少なくでき、消費エネルギーの減少が図れる。
【0059】
勿論、本物質分離デバイスの貫流熱量は物質分離デバイスの厚みにも依存するから、同じ貫流熱量の場合、熱伝導率の大きい素材を使用するほど、物質分離デバイスの厚みを薄くできる。
【0060】
項熱伝導率素材として、金属、結晶、ガラス、セラミックが好ましく、低熱伝導率素材として有機重合体が好ましい。また、小さな熱伝導率を持った素材として、バルクでは高い熱伝導率を有する素材であっても、多孔質体にしたり、低熱伝導率素材との複合体にすることなどにより、低熱伝導率素材とする方法も好ましく採用しうる。このような多孔質体としては、例えば発泡ガラス、気泡を有するセラミック、多孔質重合体を例示出来るし、低熱伝導率素材との複合体としては、例えばガラスや有機重合体のマイクロカプセルの混入、中空繊維の混入、金属やガラスの場合には有機重合体との積層体、上記多孔質体との積層体、真空断熱層を例示できる。
図1の構造を採る場合には、中間層23として、分離室以外の部分は有機重合体の発泡体や真空断熱層とすることが好ましい。
【0061】
(ii)電気ポテンシャル勾配の場合
分離の駆動力が電気ポテンシャル勾配の場合には、少なくとも内部層23は電気絶縁体であることが必要である。内部層23が導電体であると、φ1部1とφ2部2に必要な電位差を設けることが出来ない。
(iii) 電磁ポテンシャル勾配の場合
分離の駆動力が電磁ポテンシャル勾配の場合には、電極の短絡を防ぐことが出来れば特に素材の制約はない。
【0062】
(iv)磁気ポテンシャル勾配の場合
分離の駆動力が磁気ポテンシャル勾配の場合には、少なくとも内部層23は強磁性体でないことが必要である。内部層23が強磁性体であると、磁力線は分離室の周りの内部層形成素材中を透過し、分離室内をほとんど貫通しないため、φ1部1とφ2部2に大きな磁位差を設けることが出来ない。
【0063】
(v) 振動ポテンシャル勾配の場合
分離の駆動力が振動ポテンシャル勾配の場合には、物質分離デバイスの素材は該振動を吸収しないことが必要である。即ち、使用する周波数における粘弾性測定の損失正接(tanδ)が好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.1以下である。
(vi)重力場より大きい加速度ポテンシャル勾配の場合
分離の駆動力が重力場より大きい加速度場のポテンシャル勾配の場合には、物質分離デバイスを構成する素材は、該加速度に耐えるだけの強度を有するものである。
【0064】
(分離駆動力)
本I型の立体型物質分離デバイスは、分離の駆動力が、いずれのポテンシャル勾配の場合であっても好ましく使用できる。本物質分離デバイスの基材21側とカバー層25側から温度勾配、外部電極による電気ポテンシャル勾配、磁気ポテンシャル勾配、振動のポテンシャル勾配、加速度勾配を掛けることにより、φ1部1とφ2部2を形成することができる。上記は、物質分離デバイスの基材側外表面27とカバー層側外表面28に温調ブロック、または電極を配することで実施できるし、物質分離デバイスの基材側外表面27又はカバー層側外表面28に磁石または超音波振動子を配することで実施できる。また、物質分離デバイスの基材側外表面27又はカバー層側外表面28に磁石または超音波振動子を配し、周波数を調節することで、前記φ1部1、φ2部2およびφ3部を形成することができる。又、加速度場は、物質分離デバイスのφ1部1−φ2部2方向を放射方向にした遠心力により実施できる。
【0065】
上記に於いて、本物質分離デバイス全体を等しく温度ポテンシャル勾配、電気ポテンシャル勾配、又は磁気ポテンシャル勾配の場の中に配置してもよいが、本物質分離デバイスの外表面の、分離室に相対する部分にのみ、温調ブロック、電極、磁石(ポールピースであってよい)を配して、φ1部1とφ2部2に他の部分より大きな温度差、電位差、磁位差を形成することも好ましい。特に、分離駆動力が磁気ポテンシャル勾配である場合に、ポールピースを用いて、分離室部分にのみ磁力線を集中させることが、φ1部1とφ2部2の磁位差および磁位差の勾配を大きくすることができ、好ましい。これらは、他の立体型及び半立体型の物質分離デバイスについても同様である。
【0066】
本I型の立体型物質分離デバイスは、液体または超臨界流体の分離に好適である。本立体型の態様では、流出口に於ける再混合の少ない点で半立体型より優れていて、分離効率を高くし易い。
【0067】
2.〔II型の立体型〕
図2はII型の立体型の態様の説明図であり、図2(A)は平面図、図2(B)はβ−β線における側面断面図である。本態様では、内部層23の両面にそれぞれ第1中間層26および第2中間層27が積層され、第1中間層26の外側には第1外部層22が積層され、第1外部層22の外側には基材21が積層され、第2中間層27の外側には第2外部層24が積層され、第2外部層24の外側にはカバー層25が積層されている。分離室3は、第1中間層26、内部層23および第2中間層27を貫通する縦穴として形成されている。流入口5は縦穴状の分離室3の長さ方向(図2(B)の紙面内上下方向)の中間部の側面に設けられ、上流端とされる。流入口5は、内部層23に設けられた流路11に接続されている。縦穴状の分離室3の長さ方向の両端(図2(B)の紙面内上端と下端)が下流端とされ、該下流端の端面である第1外部層22の表面と第2外部層24の表面が、それぞれφ1部1とφ2部2とされている。第1流出口6は分離室3の基材21側の端面に設けられ、第1外部層22に設けられた流路12に接続され、第2流出口7は分離室3のカバー25側の端面に設けられ、第2外部層24に設けられた流路13に接続されている。
【0068】
流入口5から分離室3に入った流体は二つに分かれ、マスフローとして第1流出口7方向と、第2流出口17方向にそれぞれ流れる。このとき、分離室3中で、第1物質はφ1部1方向へ拡散で移動してφ1側に濃縮され、第1流出口6から流出する。第2物質はφ2部側へ拡散で移動して濃縮され、第2流出口7から流出する。
【0069】
(物質分離デバイス)
本II型の立体型においても、物質分離デバイスを構成する素材の種類、部材の形状、製造方法、ポテンシャル勾配付与機構などについては、I型の場合と同様である。
【0070】
(分離室)
本II型の立体型に於いては、分離室3は本物質分離デバイスの厚み方向、即ち図2(B)の紙面内上下方向に設けられている。分離室3の横断面、即ち、基材21に平行な方向の断面の形状は任意であり、図2(a)では円であるが、その他に、例えば正方形や長方形などの矩形、台形、菱形、三角形、五角形、六角形、楕円形、半円形などであってよい。なお、角を有する断面形状の場合には、その角に丸面取りが施された形状であっても良い。
【0071】
分離室3の断面積は、好ましくは100[μm]以上、さらに好ましくは1000[μm]以上、最も好ましくは10000[μm]以上であり、好ましくは10[mm]以下、さらに好ましくは3[mm]以下、最も好ましくは1[mm]以下である。この下限以上とすることにより、分離室3を流れる流体のマスフローの流速を、第1物質と第2物質が分離する方向に移動する拡散速度に比べて十分に小さくすることができ、分離効率が向上する。又、上記上限以下とすることにより、分離室をコンパクトにでき、同一面積の物質分離デバイスに多数の分離室を形成することができ、処理量の増加や、段数の増加による分離率の向上を計ることが出来る。
【0072】
本態様に於いては、分離室3のφ1部1とφ2部2間の距離は、前記I型と区別するために、分離室3の横断面(図2(a))に於ける対向する内壁面間の最小距離より大きくする。対向する内壁面間の最小距離とは、該横断面を平行線で挟んだとき、該平行線間の距離が最も小さくなる場合の平行線間距離を言う。分離室3のφ1部1とφ2部2間の距離は、分離すべき流体が液体または超臨界流体である場合には、好ましくは10[μm]以上、さらに好ましくは30[μm]以上、最も好ましくは100[μm]以上であり、好ましくは1000[μm]以下、さらに好ましくは500[μm]以下、最も好ましくは300[μm]以下である。この下限以上とすることにより、拡散による混合の効果を抑えて分離効率を高めることができる。また、この上限以下とすることにより、分離室3内で第1物質と第2物質が分離する速度を十分速くすることができ、処理速度を向上させることが出来る。分離すべき流体が気体である場合には、φ1部1とφ2部2間の距離は好ましくは1mm〜50mm、さらに好ましくは3mm〜30mmである。
【0073】
なお図2の態様に於いては、分離室3は横断面積一定の筒状であるが、横断面積は一定である必要はなく、例えば、流出口に近づくほど横断面積が小さくなるテーパー状や斜面状であってもよい。このような構造は、例えば第1中間層26を、第1外部層22に近づくにつれて横断面積が小さくなるテーパー状や斜面状に形成することにより実施できる。
【0074】
また、図2の態様に於いては、φ1部1とφ2部2は、どちらも、分離室3の側面に対して直交する平面であるが、φ1部1とφ2部2形状は任意であり、例えば、流出口に近づくほど横断面積が小さくなるテーパー状や斜面状であってもよい。このような構造は、例えば第1中間層26と第1外部層22の間にもう1層形成し、該層に於ける分離室3部分を、第1外部層22に近づくにつれて横断面積が小さくなるテーパー状や斜面状に形成することにより実施できる。
【0075】
(流入口)
図2の本態様に於いては、流入口5は分離室3の中間部に設けられる。従って、分離室3の側面に設けられる。流入口5の寸法や接続先については、前記I型の立体型の場合と同様である。
【0076】
(第1流出口および第2流出口)
分離室3の基材21側の下流端である図2(B)の上方の端部は、端面がφ1部1とされ、該端面に第1流出口6が設けられている。分離室3の他方の下流端である図2(B)の下方の端部は、端面がφ2部2とされ、該端面に第2流出口7が設けられている。
【0077】
本態様に於いても、第1流出口6、第2流出口7の面積は分離室3の断面積より小さくされる。これにより、分離室3の下流端の端面と流路の境界である流出口が明確になり、II型の半立体型の態様との区別が明確になる。又、本態様に於いては、分離室3の下流端の端面における第1流出口6や第2流出口7の位置は任意であり、図2(A)の態様においては、流入口5に対して90度横の両隅であるが、流入口5側であっても、流入口5から遠い側であっても、端面の中央部であっても良い。この点に於いて、I型の立体型の態様と異なる。各流出口の断面形状は任意である。
【0078】
(流路)
流入口5、第1流出口6、及び第2流出口7には流路12、13が接続されている。これらの流路の形状や寸法については、I型の立体型の場合と同様である。
【0079】
(分離駆動力)
本II型の立体型物質分離デバイスは、分離の駆動力がいずれのポテンシャル勾配であっても好ましく使用できる。
以上、II型の立体型物質分離デバイスについて説明したが、上記において特記されていない項目については、前記I型の立体型と同様である。
【0080】
3.〔I型の半立体型〕
図3はI型の半立体型の態様の説明図であり、図3(A)は平面図、図3(B)はγ−γβ線に於ける側面断面図(C)はδ−δ線に於ける側面断面図である。本態様の半立体型では、内部層23は第1内部層23’と第2内部層23”の2層から成っていて、第1外部層22と第2外部層24は省略されている。第1内部層23’と第2内部層23”内に形成された分離室3となる欠損部は合わされて横断面略矩形の分離室3を形成し、その分離室3の基材21側の面にφ1部1を形成し、カバー層25側の面にφ2部2を形成している。
【0081】
(分離室)
本I型の半立体型物質分離デバイスに於いては、前記I型の立体型と同様に、分離室3は本物質分離デバイスの平面に平行な方向、即ち図3(B)の紙面内左右方向に長く設けられている。分離室の形状寸法や、φ1部1とφ2部2を設ける位置などについては、前記I型の立体型と同様である。
【0082】
(流入口)
流入口5についても、流入口5を二つ形成する場合に、第1内部層23’の端面又は側面と、第2内部層23”の端面又は側面に形成して良いこと以外は、前記I型の立体型の場合と同様である。
【0083】
(第1流出口および第2流出口)
図3に示された、本I型の半立体型物質分離デバイスに於いては、分離室3の下流側端面9の第1内部層23’の厚み分が第1流出口6とされている。また、第2内部層23”の厚み分が第2流出口7とされている。即ち、分離室3およびその下流端である流出口6、7までは、第1内部層23’と第2内部層23”の欠損部は完全に重なり合い断面は矩形を呈するが[図3(B)]、流出口6、7から下流方向に進むにつれ、平面内の横方向に少しずつずれて[図3(C)]、最終的には互いに独立した流路12、13となる。
【0084】
第1流出口6、第2流出口7の断面積については、前記I型の立体型の場合と同様であるが、本態様においてはそれに加えて、流出口6、7の断面形状が、高さ/幅(ここで言う「高さ」はは物質分離デバイスの厚み方向の寸法であり、「幅」は物質分離デバイスの平面方向の寸法。)の比が好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.7以上、最も好ましくは1以上である。高さ/幅の比の上限は製造可能であれば高いほど好ましく、特に制約を設ける必要はないが、製造の容易さの点から、10以下が好ましく、5以下が更に好ましく、3以下が最も好ましい。そのため、図3のように、流出口が分離室の下流側端面に設けられる場合には、分離室の幅を、流出口に近づくにつれ徐々に狭め、狭まった部分に流出口を設けることが好ましい。このようにすることにより、φ1部1側の流路面付近に濃縮された第1物質とφ2部2側の流路面付近に濃縮された第2物質が分岐部で再混合して分離率を低下させることを防ぎ分離率を向上させることができる。
【0085】
第1流出口6や第2流出口7は、分離室3の下流端9の側面に設けても良い。図4は同じくI型の半立体型の態様で、第1流出口6及び第2流出口7が、分離室3の下流端9の側面に設けられた場合の説明図であり、図4(A)は平面図、図4(B)はε−ε線に於ける側面断面図(C)はζ−ζ線に於ける側面断面図である。本態様では、流路12と流路13が分離室3の下流端9の分離室側面に直角に取り付けられている状態になる。この場合にも、分離室の幅を流出口に近づくにつれ徐々に狭めることが好ましいことは図3の場合と同様であるが、流出口6、7の断面の高さ/幅の比は任意である。
【0086】
(流路)
本I型の半立体型の態様においては、流路11、12、13は第1内部層23’又は第2内部層23”に形成されるが、該流路はその他の部分に形成された流路に接続されていても良いその他の部分に設けた流路とは、例えば第1内部層23’の欠損部と第2内部層23”の欠損部を合わせて一本の流路としたものや、前記I型の立体型と同様の外部層を設け、該外部層に設けた流路や、各部材に穿たれた該層に直角な孔であってよい。流路の寸法、形状については、I型の立体型の場合と同様である。
【0087】
(分離駆動力)
本I型の半立体型物質分離デバイスは、分離の駆動力がいずれのポテンシャル勾配であっても好ましく使用できる。本態様に於いては、流路12や流路13にもポテンシャル勾配の場内に置くことが、該流路も分離室と同様に機能し、物質分離デバイスの分離率が向上するため好ましい。
【0088】
本I型の半立体型の態様は、分離室3のφ1部とφ2部の距離が同じ場合、φ1部側外表面とφ2部側外表面の距離を他の態様より小さくできるため、本物質分離デバイスの外部に温調プレートや電極板や磁石を配したときに、φ1部とφ2部間の温度差や電位差や磁束密度を大きく出来るため好ましい。また、本I型の半立体型の態様は、基材21、第1内部層23’、第2内部層23”、及びカバー層25の4層で形成できるため、製造の簡易性に優れている。さらに、基材21と第1内部層23’とを一体化した、分離室や流路となる溝を有する基材側部材と、第2内部層23”とカバー層25とを一体化した、分離室や流路となる溝を有するカバー側部材の2部材を固着する方法でも製造できる。
【0089】
以上、I型の半立体型物質分離デバイスについて説明したが、上記において特記されていない項目については、前記I型の立体型と同様である。
【0090】
4.〔II型の半立体型〕
図5はII型の半立体型の実施態様の説明図であり、図5(A)は平面図、図5(B)はη−η線に於ける側面断面図である。本態様の物質分離デバイスは、第1流出口6と第2流出口7が、分離室3の両端部の端面でなく、分離室3の両端部の側面に設けられている点が前記II型の立体型と異なる。即ち、内部層23の両面にそれぞれ第1外部層22および第2外部層24が積層され、第1外部層22の外側には基材21が積層され、第2外部層24の外側にはカバー層25が積層されている。分離室3は第1外部層22、内部層23および第2外部層24を貫通する縦穴として形成されており、分離室3の基材21側の端面がφ1部1、カバー層側の端面がφ2部2とされている。流入口5は中間層23に、分離室3の長さ方向の中間部の側面に設けられ、第1流出口6と第2流出口7は、それぞれ分離室3の両端部の側面の、第1外部層22と第2外部層24に設けられている。
【0091】
本態様に於いては、第1流出口6と第2流出口7が設けられる位置は、分離室3の下流端における周囲の任意の部分であり、図5(A)の平面図で流入口5側であっても、流入口5から遠い側であっても、90度横であっても良い。この点に於いて、I型の半立体型の態様と異なる。
【0092】
本態様に於ける、各流入口と流出口の接続や、上記以外のことについては、上記II型の立体型と同様である。
【0093】
5.〔I型の平面型〕
図6はI型の平面型の態様の説明図であり、図6(A)は平面図、図6(B)はθ−θ線に於ける側面断面図である。本I型の平面型の態様では、内部層23の両面にそれぞれ基材21とカバー層25が積層されていて、分離室3、流入口5、第1流出口6および第2流出口7は全て内部層23に形成されている。分離室3における内部層23に垂直な一方の側面(図2(A)の紙面内上側の側面)がφ1部1とされ、該φ1部1の対向面側の側面(図2(A)の紙面内下側の側面)がφ2部2とされている。流入口5は分離室3の長さ方向(図2の紙面内左右方向)の左端部の端面8に設けられている。第1流出口6は下流端の端面9のφ1部1に近い部分に設けられた、第2流出口7はφ2部2の下流側端部(右端)に設けられている。流路も内部層23に設けられるが、必要に応じて、例えば外部層を設け、補助的な流路を該外部層に設けても良い。
【0094】
流入口、第1流出口6および第2流出口7に関して、その他は前記I型の立体型で述べた内容と同様である。
【0095】
(分離駆動力)
本I型の平面型物質分離デバイスは、φ1部1−φ2部2方向、即ち、図5(A)の平面図における紙面内の上下方向にポテンシャル勾配を設けるように設置される。そのため、本態様の物質分離デバイスは、加速度ポテンシャル勾配を分離駆動力とする分離が、φ1部1−φ2部2間に大きなポテンシャル勾配を持たせ易いため特に好適である。
【0096】
また、本態様の物質分離デバイスは、φ1部1とφ2部2間の距離を大きくすることが容易であり、拡散による混合が生じにくくなり、分離すべき流体が気体である場合に特に好適である。このとき、φ1部1とφ2部2間の距離は好ましくは1mm〜100mm、さらに好ましくは3mm〜50mmである。
【0097】
本態様に於ける、上記に特記されたこと以外のことについては、上記I型の立体型と同様である。
【0098】
6.〔II型の平面型〕
図7はII型の平面型の態様の説明図であり、図7(A)は平面図、図7(B)はι−ι線に於ける側面断面図である。本態様の物質分離デバイスは、内部層23の両面にそれぞれ基材21とカバー層25が積層されている。分離室3、流入口5、第1流出口6および第2流出口7は全て内部層23に形成されている。流入口5は分離室3の長さ方向(図7(A)の紙面内上下方向)の中間部の側面に設けられている。分離室3の長さ方向の両端(図7(A)の紙面内上端と下端)の端面が、それぞれφ1部1とφ2部2とされている。両端面は平面である必要はなく、図7(A)の態様に於いては、の平面図でテーパー状にされている。第1流出口6は分離室3の図7(A)の紙面内上側の端面中央部に設けられ、第2流出口7は分離室3の図7(A)の紙面内下側の端面の中央部に設けられている。
【0099】
一般に、本II型の平面型の態様に於いては、第1流出口6と第2流出口7が設けられる位置は、分離室3の下流端であれば任意であり、下流端の流入部5の反対側の側面、流入部5と同じ側の側面、端面のいずれであってもよい。流路も内部層23に設けられるが、必要に応じて、例えば外部層を設け、補助的な流路を該外部層に設けても良い。
【0100】
(分離駆動力)
本II型の平面型物質分離デバイスは、図7(A)における紙面内の上下方向に温度勾配やポテンシャル勾配を設けるように設置される。 加速度の位置ポテンシャル差を分離駆動力とする分離が、φ1部1−φ2部2間に大きなポテンシャル勾配を持たせ易いため特に好適である。また本物質分離デバイスは、φ1部1とφ2部2間の距離を大きくすることが容易であり、拡散による混合が生じにくくなり、分離すべき流体が気体である場合に特に好適である。このとき、φ1部1とφ2部2間の距離は好ましくは1mm〜100mm、さらに好ましくは5mm〜50mmである。
本態様に於ける、上記に特記されたこと以外のことについては、上記II型の立体型と同様である。
【0101】
7.[多段配置]
本発明の物質分離デバイスは、前記分離室が、上流から下流にかけて複数段にわたって配置され、該複数段のうちの任意の段における分離室の第1流出口又は第2流出口が、下流側次段における分離室の流入口に接続されていることを特徴とする。
分離室3の第1流出口6をもう一つの分離室3の流入口5に接続すると、第1物質が2回濃縮され、濃縮率が向上する。これは、一つの分離室内では、拡散による均一化効果のために、φ1部1側とφ2部2側の濃度差が一定以上にならないのに対し、複数の分離室を直列に接続すると、濃度差を積算してゆける為に、高度に濃縮することが可能になるのである。換言すれは、一つの分離室のφ1部1−φ2部2間に設ける各種ポテンシャル差は限界があるのに対し、複数の分離室を直列に接続すると、φ1部1−φ2部2間に設けるポテンシャル差を積算するのと同じ効果が得られる。本発明では、物質分離デバイスの厚みを薄くして、該厚み方向にポテンシャル勾配を付与することにより、大きなポテンシャル勾配と大きなポテンシャル差を形成することが出来るだけでなく、多段配置にすることにより、さらにそれを積算することが出来る。
【0102】
(2段配置)
段数が2段の場合において、第1物質の濃縮、又は第2物質の除去を求める場合には、前段の第1流出口6に後段の分離室3の流入口5を接続すればよい。第2物質の濃縮、又は第1物質の除去を求める場合には、前段の第2流出口7に後段の分離室3の流入口5を接続すればよい。第1物質と第2物質の両方を濃縮する場合には。第1流出口6、第2流出口7にそれぞれ別の後段の分離室3の流入口5を接続すればよい。
【0103】
上述したように、本発明の物質分離デバイスの各分離室の好ましい態様として、I型の立体型、II型の立体型、I型の半立体型、II型の半立体型、I型の平面型、及びII型の平面型の六つの代表的な態様を例示できる。分離室の多段配置においては、これらの態様の分離室を任意に組み合わせて配置すればよいが、使用する各分離室の態様を同じにすることが、製造が容易であり好ましい。
【0104】
以下、前記I型の立体型を例として、多段配置の態様について説明する。
【0105】
8.[I型の立体型に於ける多段配置]
図8、図9はI型の立体型の多段配置の態様の平面図及びκ−κ線に於ける側面断面図である。なお、図8〜図12は、多段配置の接続方法を示したものであり、各分離室の詳細な形状は略されている。各分離室の詳細は、図1に示したものと同様である。該立体型の態様では、第1外部層22に形成された流路12を下流側次段の分離室3の流入口5に、φ1部1が設けられた側即ち基材21側から接続し、第2外部層24に形成された流路13を下流側次段の分離室3の流入口5に、φ2部2が設けられた側即ちカバー層25側から接続するものである。なお、初段の分離室3の流入口5には、導入口15に連絡する流路11が接続される。
【0106】
図10は、第1外部層22の平面図である。第1外部層22には、各段の分離室3の第1流出口6から、下流側次段の分離室3の流入口5まで、それぞれ流路12が形成されている。
【0107】
図11は、内部層23の平面図である。内部層23には、分離室3がその長さ方向に沿って複数段に配置され、各段には複数本の分離室3が平行に配置されている。
【0108】
図12は、第2外部層24の平面図である。第2外部層24には、各段の分離室3の第2流出口7から、下流側次段の分離室3の流入口5まで、それぞれ流路13が形成されている。
【0109】
9.〔3段以上の多段配置の基本構成〕
以下、共通の媒体に溶解している第1物質と第2物質を、それぞれ媒体からφ1部-φ2部方向に分離濃縮する場合における、多段配置の基本構成について述べる。
【0110】
図8〜図12の第1段から第K段間での範囲は、多段は1の基本構成を示したものである。図8、図9に示された態様では、分離流路を多段に接続する方式のうち、次のような好ましい接続方式で接続されている。即ち、上流から下流にかけて分離室3が複数段にわたって配置され、第1段に分離室3a、第2段に分離室3b及び3c、第三段に分離室3d、3e及び3fが配置されていて、第1段における分離室3aの第1流出口6aが、第2段における分離室3bの流入口5bに流路12aでもって接続され、前記分離室3aの第2流出口7aが、第2段における分離室3cの流入口5cに流路13aでもって接続されている。
【0111】
さらに、第2段における分離室3bの第1流出口6bが、第三段における分離室3dの流入口5dに流路12bでもって接続され、前記分離室3bの第2流出口7bが、第三段における分離室3eの流入口5eに流路13bでもって接続されている。また、第2段における分離室3cの第1流出口6cが、前記分離室3eの流入口5eに流路12cでもって接続され、前記分離室3cの第2流出口7cが、第三段における分離室3fの流入口5fに流路13cでもって接続されている。
【0112】
ここで、第2段における分離室3bの第2流出口7bと、分離室3cの第1流出口6cとが、第三段において異なる分離室の流入口に接続されているのではなく、同一の分離室3eの流入口5eに接続されている。いま、当初試料に含まれる第1物質および第2物質の濃度をそれぞれ50%ずつと仮定する。その試料を分離室3aに流入させると、試料に含まれる第1物質がφ1部1に濃縮され、分離室3aの第1流出口6aから流出する試料は、例えば第1物質の濃度が51%に上昇する。それと同時に、第1物質はφ2部2では希釈され、分離室3aの第2流出口7aから流出する試料は、例えば第1物質の濃度が49%に降下する。さらに、分離室3aの第1流出口6aから流出する試料を分離室3bに流入させると、上記と同様に第1物質がφ1部1に濃縮され、第1物質はφ2部2側では希釈される。その結果、51%で導入された第1物質の濃度が、例えば分離室3bの第1流出口6bから流出する試料は52%に上昇するとともに、分離室3bの第2流出口7bから流出する試料は、第1物質の濃度が50%に下降する。一方、第1物質の濃度が49%の試料を導入された分離室3cの第1流出口6cから流出する試料は、例えば第1物質の濃度が50%に上昇するとともに、分離室3cの第2流出口7cから流出する試料は、第1物質の濃度が48%に下降することになる。
【0113】
ここで、第2段の分離室3bの第2流出口7bから流出する試料は、前記第1段で第1物質の濃度が濃縮された後、第2段で第1物質の濃度が希釈されたものである。同様に、分離室3cの第1流出口6cから流出する試料は、第1段で第1物質の濃度が希釈された後、第2段で第1物質の濃度が濃縮されたものである。そしてこの二つの濃度は略等しくなる。従って、第1物質の濃度がほぼ等しい上記2つの試料を異なる分離室で分離処理する利益はない。そこで、上記2つの試料を異なる分離室に流入させるのではなく、同一の分離室3eに流入させればよい。
【0114】
第4段以降も同様に接続される。即ち、上記「第1段」、「第2段」、「第3段」を、上流から下流にかけて複数段にわたって配置された前記分離室のうちの連続した3段である「任意の特定段」、該特定段の「下流側次段」、及び該特定段の「下流側次次段」と読み替えればよい。このように、本実施態様における分離室の多段配置は、1段毎に分離室3が1本ずつ増える配置である。このような接続構造とすることによって、1本の分離室3がそれぞれ次段の2本の分離室に接続された構造、即ち、1段毎に流路数が2倍になる構造に比べて流路数を少なくでき、スペースファクターが向上する。
【0115】
そして、最下流段における複数の分離室の流出口のうち、各段における分離室の第1流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第1取出口16に接続され、最下流段における複数の分離室の流出口のうち、各段における分離室の第2流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第2取出口17に接続されていることにより、各々の流出口から第1物質濃縮流体および第2物質濃縮流体がそれぞれ取り出される。
【0116】
上記の本方式を一般化して述べると、以下のようになる。
すなわち、各段において並列に配された分離室を「列」として表し、第1物質が最も濃縮される列を第1列と称することにし、第1段第1列の分離室3aを「分離室[1,1]」と称し、一般に、第n段第i列(n,iは正の整数、以下同様)の分離室3を「分離室[n,i]」と称することにする。流入口5、第1流出口6、第2流出口7についても同様に、第n段第i列のものを[n,i]で示すものとする。
【0117】
すると、図8に示す第1段第1列の分離室3a(即ち分離室[1,1])の第1流出口6a(即ち、第1流出口[1,1])は、第2段第1列の分離室3b(即ち分離室[2,1])に導かれる。一方、第1段第1列の分離室[1,1の第2流出口7a(即ち、第2流出口[1,1])は、第2段第2列の分離室3c(即ち、分離室[2,2])の流入口5(即ち、流入口5[2,2])に接続されている。
第2段と第3段の接続については、分離室[2,1]に関して第1流出口[2,1]は流入口[3,1]に、第2流出口[2,1]は流入口5[3,2]に接続される。また、分離室[2,2]に関して第1流出口[2,2]は流入口流入口[3,2]に、第2流出口[2,2]は流入口[3,3]に接続される。
そして一般に、第n段第i列の第1流出口[n,i]は、第(n+1)段第i列の分離室[n+1,i]の流入口[n+1,i]に接続されており、第n段第i列の分離室の第2流出口[n,i]は、第(n+1)段第(i+1)列の分離室[n+1,i+1]の流入口[n+1,i+1]に接続されている。
【0118】
そして、本気本構成部分の最終段(第K段)の第1流出口[K,1]からは第1物質が最も濃縮された溶液が、第2流出口[K,K]からは第2物質が最も濃縮された溶液が流出する。
【0119】
本多段配置の基本構成に於ける分離室3の段数は3段以上が好ましく、4段以上が更に好ましく、5段以上が最も好ましい。段数を多くするほど、単段での分離率が低い分離対象も良好に分離することができる。勿論、1つの分離室3における分離能が優れる系に於いては、段数を少なくすることができる。段数の上限は特に制限はないが、製造の容易さの点から、1000段以下が好ましく、100段以下が更に好ましい。本発明においては、このように多段配置型の分離デバイスとしても、膜分離装置とは異なって各段毎にポンプを要しないため、構造が極めて単純となり、容易にマイクロ流体デバイス内に組み込むことができる。マイクロ流体デバイスの容積を同一としたとき、より小さな分離室をより多段に形成する方が全体としての分離率が向上する。
【0120】
物質分離デバイスが、本多段配置の基本構成のみで構成されている場合には、上記多段配置の態様に於いて、最終段(第K段)の第1流出口[K,1]から流出する第1物質が最も濃縮された溶液を第1取出口16に接続し、第2流出口[K,K]から流出する第2物質が最も濃縮された溶液を第2取り出し口17に接続する。但し、濃縮率が多少低下しても、収率を求める場合には、例えば、最終段(第K段)の第1流出口[K,2]や第1流出口[K,3]も第1取出口16に接続してもよい。第2取出口17についても同様である。
【0121】
また、上記多段配置の態様に於いて、共通溶剤中の第1物質と第2物質を分離するような3成分の分離の場合には上記の構成が好適であるが、第2物質が溶媒であるような2成分の分離の場合には、第1物質の濃縮(又は除去)だけを考えればよいから、第3取出口18は設けずに、第3取出口18に接続される流路は第2取出口17に合流させてよい。あるいは、第3段以降は、各段の分離室数を第1物質濃縮側だけの半分とすることも好ましい。即ち、前記一般的な表現によれば、第2段の第2流出口「n、n/2」(但し、n/2が整数にならない場合には最も近い整数とする)は、下流側次段の流入口[n+1,(n+1)/2]に接続することが、第1物質濃縮流体の収率が増加するため好ましい。勿論、第2物質を濃縮する場合には、第1流出口に関して同様にすればよい。
【0122】
物質分離デバイスが、本多段配置の基本構成部分の後に、次に述べる回収領域段が形成されている場合には、各取出口は、下記のように接続される。
【0123】
10.〔濃縮溶液量の確保〕
上記の段階的配置を採用した場合、各流出口からの流出量を均等と仮定すると、第1物質が最大に濃縮された流体の取り出し量、即ち、第K段の、それまでに第1流出口を最も多い回数通過した流体が流出する流出口、また、一般化された表示では 第1物質が最大に濃縮される第1流出口[K,1]、から採取される溶液の量は、段数が増えるほど収率が低下する。同様に、第2物質が最大に濃縮される第2流出口[K,K]、から採取される溶液の量は、段数が増えるほど収率が低下する。この不都合を回避する手段として下記の2つの方式が好ましいものとして用いられる。下記の2つの手段は併用して良い。
【0124】
(第1方式:回収領域段の分離室数を各段で略一定とした方式)
図8、図9に示したように、本方式では、第1段から境界段である第K段(即ち、n=Kである段)までの範囲の上流範囲段においては、上記の基本構成のように、各段に含まれる分離室の本数は、段数と同じ本数の分離室が形成されている。そして、境界段の第K段より下流側の任意の段(以下「回収領域段」と称する)には、各段ほぼ一定本数の分離室が形成されている。例えば、第K段以降には交互にn本およびn−1本の分離室が形成されている。このような構成にすることによって、スペースファクターを高く維持しながら、濃縮流体の収率を増すことが出来る。
【0125】
そして、最下流段における複数の分離室の流出口のうち、各段における分離室の第1流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、第1物質濃縮流体を取り出す第1取出口16に接続され、最下流段における複数の分離室の流出口のうち、各段における分離室の第2流出口の通過回数が最多となる流出口が、第2物質濃縮流体を取り出す第2取出口17に接続されていることにより、各々の流出口から第1物質、第2物質がそれぞれ取り出される。
【0126】
なお本方式では、第K段以降の第n段における分離室の本数が交互にK本およびK−1本とされている。この場合、分離室3の本数がK本となる段における各分離室3nの流出口のうち、それまでの第1流出口6の通過回数が最多となる流体の流出口が、流路12zを介して第1取出口16に接続され、それまでの第2流出口7の通過回数が最多となる流体の流出口が、取出流路13zを介して第2取出口17に接続されている。
【0127】
このようにすることによって、最小の流路数で所定値以上に分離(濃縮)された溶液を、多量に採取することができる。しかも、第K段以降、一段おきに溶液が取り出される分だけ下流側次段の分離室に流入する流体量は減少して行くから、十分多数の回収領域段を設けると、最終的には導入された溶液のほとんどが第1取出口16又は第2取出口17から分離されて取り出される。即ち、分離の収率が向上する。
【0128】
境界段である第K段より回収領域ついて一般化した表現では次のようになる。即ち、第n段において分離室がi本配され、n又はiの少なくともいずれかが2以上であり、第n段において分離室の第1流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第1取出口16に接続され、第2流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第2取出口17に接続されてなり、第n段以降の段における分離室がi本配された段の分離室の流出口のうち、当該段より上流段において、前記流体が第1流出口を通過する回数をl、前記流体が第2流出口を通過する回数をmとした際に、l−mが最も大きい流出口が、前記第1取出口16に接続され、m−lが最も大きい流出口が、第2取出口17に接続されている構成である。具体的には、段数と列数とが同じ場合には、n本の分離室を含む第n段の第1流出口[n,1]が第1取出口16に接続され、第2流出口[n,n]が第2取出口17に接続されている。
【0129】
上記第1の方式のように接続することにより、回収領域段において、段が進む程に分離室を増す必要がなくなるので、回収領域段における分離室の本数の増加が抑制される。すなわち、前記境界段に至るまでは段数と共に該段の分離室数が増加するが、境界段以降は、段数nが増しても分離室数が増加しない。この場合、第n段の分離室数を、段数nがある値(Kとする)の段(境界段)では概ねKとし、段数nがKを超える範囲(回収領域段)では概ねKで一定とする。なお、一段おきに流出口を取出口に接続すれば、nがKを超える範囲(回収領域段)における流路数は、nが増加するごとに交互にKおよび(K−1)となる。
【0130】
本態様においても、多段配置の基本構成の場合と同様に、最下流段における複数の分離室の流出口のうち、各段における分離室3の第1流出口6の通過回数が比較的多くなる複数の流出口をまとめて第1取出口16に接続するとともに、各段における分離室3の第2流出口7の通過回数が比較的多くなる複数の流出口をまとめて第2取出口17に接続してもよい。この場合、隣接するいくつかの流出口をまとめて第1取出口16または第2取出口17に接続することになり、所定値以上に分離(濃縮)された溶液を多量に採取することができる。
【0131】
また、回収領域段を設ける場合も、第2物質が溶媒であるような2成分の分離の場合には、第1物質の濃縮(又は除去)だけを考えればよいから、第3取出口18は設けずに、第3取出口18に接続される流路は第2取出口17に合流させてよい。あるいは、第K段以降の各段の分離室数を第1物質濃縮側だけの半分とし、前記一般的な表現によれば、第n段の第2流出口「K、K/2」又は「(K−1)、(K−1)/2」(但し、K/2又は(K−1)/2が整数にならない場合には最も近い整数とする)は、下流側次段の流入口[(K−1),(K−1)/2]又は[K,K/2]に接続することが、第1物質濃縮流体の収率が増加するため好ましい。勿論、第2物質を濃縮する場合には、第1流出口16に関して上記のようにすればよい。
【0132】
(第2方式:各段の分離室の断面積の総和を略同一とする方式)
第2の方式は、任意の特定段における複数の分離室の断面積の総和が、それより下流側の任意の段における複数の分離室の断面積の総和と略同一とする構成である。これは任意の二つの段について行えるが、全段について分離室の断面積の総和を略同一とすることが好ましい。これにより、上流段における分離室の本数が少なくても、濃縮溶液の取出量を増加させることが可能になる。具体的な態様は、下記(2-1),(2-2)、(2-3)を例示できる。これらの各方式は併用しても良いし、上記第1方式と併用しても良い。
【0133】
(2-1)分離室の横断面積を調節する方式
本方式は、図13に示したように、各段に於ける分離室の数は変更せずに、各段に於ける分離室の横断面積を調節する。例えば、第1段の分離室の横断面積は、最終段(第Z段とする)の各分離室の横断面積のZ倍とする。これにより、第1段の分離室の流入口5に供給する原液の量をZ倍とすることにより最終段の第1流出口[Z,1]および第2流出口[Z,Z]から、全ての分離室の断面積が同じ場合のZ倍の流量で濃縮溶液を採取することができる。このとき、分離室の流路断面積を拡大する際に、φ1部1とφ2部2間の距離を大きくすることは、ポテンシャル勾配の低下や、拡散で分離すべき距離の増加を招き、分離率が低下する方向にあるため好ましくない。そこで、φ1部1とφ2部2間の距離を変えずに、分離室の幅のみを広げることが好ましい。幅を拡大する場合には、流路内に支柱や壁を設ける方法により、φ1部とφ2部の距離の精度の低下を防止することが出来る。
【0134】
本方式は、立体型又は半立体型の態様に好適である。この場合、分離室におけるφ1部1とφ2部2との間の距離は内部層23の厚さによって固定されるが、流路幅の拡大は容易に実施可能だからである。
【0135】
(2-2)各段の分離室の数を調節する方式
各段の分離室の数を調節して、各段に流れる流体の総和を略同一にする方式である。第n段(n=1〜Z)に含まれる分離室がn本である場合には、第n段において、各分離室を、最終段である第Z段の分離室の数の略Z/n倍の、完全に並列に接続された同じ寸法の分離室の数で構成する方式である。換言すれば、分離の基本構成である分離室の代わりに、複数の分離室が完全に並列に接続された分離ユニットで置き換える方式である。ここで言う完全に並列に接続するとは、流入口5、第1流出口6、および第2流出口7を全て並列に接続することを言う。但し、流路の本数は自然数なので、Z/nの値が整数にならない場合には、それに近い整数にすればよい。例えば、第1段の分離室数をNとし、第2段を、分離室の数が各N/2である2つの分離ユニットで構成し、第3段を、分離室の数が各N/3である3つの分離ユニットで構成する。これらの分数が整数でない場合には、最も近い整数とすればよい。これにより、第1段の分離室の流入口5に供給する原液の量をN倍とし、最終段の第1流出口[Z,1]および第2流出口[Z,Z]から、全ての分離室の断面積が同じ場合のZ倍の流量で濃縮溶液を採取することができる。
本方式は、上記(1-2)と同様に、分離室が、立体型、半立体型、および平面型の全ての場合に好適である。
【0136】
(2-3)分離室の長さを調節する方式
本方式は、任意の特定段に於ける分離室の流路長を、前記下流側次段段における分離室の流路長より長くする構成である。これにより、前記特定段の分離室を流れる流体の流速を増しても、滞留時間は保たれ、濃縮溶液の取出量を増加させることが可能になる。具体的には、第n段に含まれる分離室数nである場合には、第n段の分離室の流路長を、最終段である第Z段の分離室の流路長の略n/Z倍にする。そして、第1段の分離室の流入口5に供給する原液の量をZ倍とすることにより、最終段の第1流出口[Z,1]および第2流出口[Z,Z]から、全ての分離室の長さが同じ場合のZ倍の流量で濃縮溶液を採取することができる。
【0137】
本方式は、分離室が、立体型、半立体型および平面型の全ての場合に好適である。
以上述べた、濃縮溶液量の確保のための第2方式においても、前記多段配置の基本構成の場合と同様に、第3取出口18は設けずに、第3取出口18に接続される流路は第2取出口17に合流させてよい。あるいは、各段の分離室数を第1物質濃縮側だけの半分とし、前記一般的な表現によれば、第2段の第2流出口「n、n/2」(但し、n/2が整数にならない場合には最も近い整数とする)は、下流側次段の流入口[n+1,(n+1)/2]に接続することが、第1物質濃縮流体の収率が増加するため好ましい。勿論、第2物質を濃縮する場合には、第2流出口に関して上記のようにすればよい。
【0138】
11.〔導入口、取出口、流路〕
本発明の物質分離デバイスに於いて、分離室3へ分離原流体を導入する導入口15及び上述した第1取出口16、第2取出口17、並びに第3取出口27の形成位置や形状は任意であり、物質分離デバイスの任意の面であってよく、例えば基材側表面27、カバー層側表面28、物質分離デバイスの端面や側面であってよい。本物質分離デバイスを多数並列に設置して処理量の増加を計る場合には、物質分離デバイスの端面や側面であることが好ましい。
【0139】
また、各流路は断面積が同じである必要はなく、好適に調節できる。例えば、濃縮溶液量の確保の為の第1方式において、ある分離室から流出する流体が、下流段の分離室へ流れる量と、流路12z或いは流路13zへ流れる量が、概ね等しくなるようにするため、各流路12、及び各流路13の断面積を好適に調節することが好ましい。
【0140】
12.〔その他の機構〕
上述した本態様の構成に対して、以下の構成を付加してもよい。
各流路の流量比を調節するために、流路の任意の部分に流量調節バルブを設けることも可能である。
【0141】
電気ポテンシャル勾配を分離駆動力とする物質分離デバイスを多数並列に設置して処理量の増加を計る場合、本物質分離デバイスと電極を交互に多数積層し、積層された該電極に交互にプラスとマイナスの電位を与えることが好ましい。磁気ポテンシャルによる分離の場合も同様である。
【0142】
第3取り出し口から取り出される流体を、ポンプを介して第1段の流入口5に接続してもよい。このとき、第3取り出し口を物質分離デバイス外に接続するのではなく、物質分離デバイス内に於いて、該デバイス内に設けられたポンプを介して第1段の流入口5に接続してもよい。これにより、第3取出口18から流出する流体を、上流段の分離室に還流させることが可能になり、試料を効率的に利用することができる。
【0143】
[物質分離方法]
以下に本発明の物質分離方法を説明するが、下記に記載されていない細部については、本発明の物質分離デバイスの項で説明した内容と同じである。
【0144】
〔分離対象物質〕
本発明の物質分離方法の分離対象物質について述べる。本発明は、流体中に含まれる少なくとも2種類の物質、即ち第1物質および第2物質を相互に分離する物質分離デバイス及びその方法に関する。本発明の分離対象の流体は任意の流体であり、液体、超臨界流体、液晶、または気体であり得る。これらの流体は、均一混合物又は分散物であり得る。中でも、流体は液体であることが、本発明の効果をより発揮できる上、応用範囲が広く好ましい。
前記第1物質および第2物質は互いに異なる物質であれば任意であり、例えば、溶質と溶媒、共通の溶媒に溶解した2つの溶質、分散質と分散媒、共通の分散媒に分散した2つの分散質、溶質と分散質などであり得る。第1物質および第2物質は、分離を行う時の温度と圧力に於ける単独での相状態は任意であり、それぞれ、液体、超臨界流体、液晶、気体、固体のいずれであってもよい。勿論、前記第1物質および第2物質は、分離に用いる場との相互作用によって力を受け、分離されるものであり、分離対象に応じて適切な場を選択することが出来る。
なお、本発明で言う「分離」は、第1物質または第2物質の一方が溶媒或いは分散媒の場合には「濃縮」又は「希釈」になる。即ち、溶質と溶媒が分離されると、一方の流出口から溶質が濃縮された溶液が流出し、他方の流出口から溶質が希釈された溶液が流出する。
【0145】
一般に、第1物質と第2物質の性質の違いが大きいほど分離が容易である。該性質は、言うもでもなく分離に使用する場の種類によって異なり、例えば、磁気ポテンシャル勾配による分離の場合には、透磁率の差が大きなほど、また、粒子の大きさの違いが大きいほど、分離が容易である。従って、常磁性体又は反磁性体の分散媒からの強磁性体分散質の分離が最も容易である。即ち、比較的小さな磁束密度であっても、高速で、高い分離率で分離できる。分散質の粒径が小さくなり、低分子物質に近づくほど分離は困難となる。しかしながら、強磁性体ビーズのような非常に容易に分離できる物質は従来法によっても十分に分離可能である。本発明は、従来法では低い分離率でしか分離できないような分離対象に対して効果的である。一般的に言って、好ましくは、従来の1段法では分離率が1.002〜2、更に好ましくは1.05〜1.5、最も好ましくは1.01〜1.1である様な分離系が本発明の効果が発揮できる。但し、分離率=[(流出液の第1物質の濃度/流出液の第2物質の濃度)/(原液の第1物質の濃度/原液の第2物質の濃度)](又は、該式で第1物質と第2物質を逆にした式)とする。上式において、第1物質又は第2物質が溶媒の場合には濃度を1と置く。この時、上記分離率は濃縮率又は希釈率とも称する。
本発明は又、後述の第1取出口と第2取出口の他に第3取出口を設けることにより、流体に含まれる、互いに異なる3種類の物質、即ち、第1物質、第2物質、及び第3物質を互いに分離することも出来る。該3種類の物質は、例えば、2種類の溶質と溶媒、3種類の溶質、2種類の分散質と分散媒、3種類の分散質などであり得る。
【0146】
以下、本発明で分離される物質に関して、各ポテンシャルについてさらに詳しく述べる。
電気ポテンシャル勾配による分離の場合には、第1物質と第2物質は、荷電量の異なる物質、又は、荷電量/質量の値が異なる物質であり、この差が大きなほど分離率や分離速度が向上する。荷電量は絶対値でなく、プラスとマイナスを区別する。媒体は荷電量がゼロであるか、分離すべき粒子とは逆の荷電を持つ物質が好ましい。このような粒子としては、DNAなどのポリヌクレオチド、蛋白などのポリペプチド、アミノ酸などの荷電低分子化合物を例示できる。第1物質と第2物質の荷電量または荷電量/質量の値の差が大きいほど分離効率や分離速度が高くなる。
【0147】
電磁ポテンシャル勾配による分離の場合には、分散粒子の濃縮が効果が大きく好ましい。例えば、血球、細胞、微生物の分離濃縮を例示できる。
磁気ポテンシャル勾配による分離の場合には、第1物質と第2物質は、透磁率の異なる物質、又は、透磁率/質量の値が異なる物質であり、この差が大きなほど分離率や分離速度が向上する。透磁率は絶対値でなく、プラスとマイナスを区別する。大きな透磁率を持った物質としては、強磁性体の微細な固体粒子、赤血球などの強磁性体分子を含む粒子、強磁性体分子を含有する有機重合体、液晶性物質などの大きな電子共役部を持った分子を例示できる。
【0148】
温度ポテンシャル勾配による分離の場合には、第1物質と第2物質は、粒子の大きさの差、例えば分子量の差がある系であり、この差が大きなほど分離率や分離速度が向上する。小さい方の粒子を、分離条件で流体状である低分子化合物とすると、大きい方の粒子は、好ましくは分子量5000以上の重合体、更に好ましくは分子量10000以上の重合体、尤も好ましくは分子量30000以上の重合体、及びこれに相当する粒子径を持った粒子である。該粒子はミセルなどの会合体や二次粒子であっても良い。第1物質の大きさの上限は、安定した分散状態を維持するためには自ずと限界はあろうが、特に上限を設ける必要はない。溶質と溶媒の例としては、ポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチドを含める。以下同様)、糖鎖、ポリペプチド(オリゴペプチドを含める。以下同様)などの生化学物質の水溶液(ここで言う水溶液は緩衝液溶液を含む。以下同様)、種々の化学物質の水溶液や有機溶剤溶液などが挙げられる。分散質の例としては、花粉や細胞や細胞内組織などの、固体やゲル状の分散質の他、ミセルや疎水性有機液体の分散質を例示できる。一般に、大きい方の粒子の大きさが大きいほど分離率や分離速度が高くなる。また、分離すべき物質の大きさの差が大きいほど分離率や分離速度が高くなる。
【0149】
振動場及び定在波振動場による分離の場合には、第1物質と第2物質は互いに密度の異なる分散質と分散媒であり、粒径差や密度差は、安定した分散状態を維持する範囲で大きなほど分離率や分離速度が向上するため好ましい。このような系としては、例えば血液からの血球と血漿の分離を例示できる。
重力ポテンシャル勾配による分離の場合には、第1物質と第2物質は互いに密度の異なる分散質と分散媒であり、粒径差や密度差が大きなほど分離率や分離速度が向上するため好ましい。しかし、この差があまり大きすぎると、通常の沈降分離により分離可能となるため、本発明に於いては、従来法では分離率が前記のように低いか、分離に時間を要する程度にその差が小さい系に効果的である。第1物質と第2物質が共通分散媒に分散した分散質である場合には、共通溶媒として第1物質と第2物質の間の密度のものを使用することが、浮力を利用して分離率を向上させることが出来るため好ましい。
【0150】
遠心力による加速度ポテンシャル勾配による分離の場合には、第1物質と第2物質は密度の異なる物質であり、この差が大きなほど分離率や分離速度が向上するため好ましい系である。この差があまり大きすぎると、通常の遠心分離によっても迅速な分離が可能となるため、本発明に於いては、従来法では分離率が前記のように低いか、分離に時間を要する程度にその差が小さい系に効果的である。そのような例としては、溶媒に溶解した有機高分子物質を例示できる。第1物質と第2物質が共通溶媒に溶解した二種の溶質である場合には、共通溶媒として第1物質と第2物質の間の密度のものを使用することが、浮力を利用して分離率を向上させることが出来るため好ましい。分離すべき流体が気体の場合には、密度の大小は分子量の大小と一致する。
【0151】
〔物質分離方法〕
本発明の物質分離方法に於いては、前記分離流路には流速をレイノルズ数2300未満として層流で流す。乱流で流すと、分離流路の厚み方向や幅方向に濃度差が生じず、分離されない。分離流路以外の流路の中では乱流になっても良い。但し、分離流路以外の流路中でも分離が行われ、それが本分離デバイスの分離能の向上に寄与する場合には、該流路中でも層流とすることが好ましい。
物質分離デバイスに流体を流す方法は任意であり、例えば、吐出ポンプ(図示略)により導入口15に流体を導入してもよいし、導入口15に接続したチューブを貯液槽(図示略)に投入し、吸引ポンプ(図示略)を各取出口16、17、18に接続して吸引することにより流してもよい。吐出ポンプのみを用いる場合は、各取出口16、17、18から流出する流体の量的関係は、物質分離デバイスの流路の断面積の寸法や各取出口に接続するチューブの内径と長さの調節により、圧力損失を調節する方法で調節できる。一方、吸引法は、そのような工夫をしなくても、第1取出口16、第2取出口17、第3取出口18からそれぞれ取り出す流量を正確に制御できるため好ましい。
その他の接続方法として、例えば、吐出ポンプ(図示略)を導入口15に接続し、吸引ポンプ(図示略)を取出口16と取出口17に接続し、取出口18に接続したチューブを受液槽に投入してもよい。
本発明の物質分離方法は、単に流体を物質分デバイスに流すだけで分離することができ、多段分離に於ける各段での撹拌操作、各段でのバルブ操作、ポンプによる各段間の移送操作等が不要であるため、操作が極めて容易である。
【0152】
流体を流す速度の時間的変化については任意であり、一定速度であって良いし、変動させてもよいし、間欠的に流しても良い。
【0153】
分離すべき流体が、2種の流体の混合流体、溶質と溶媒、分散質と分散媒であるような2成分系の場合には、第1物質が第2物質より強くφ1部方向に駆動されるとすると、前記第1流出口からは第1物質が濃縮された流体を取り出し、前記第2流出口からは第1物質が希釈され、相対的に第2物質が濃縮されたた流体を取り出す。このとき該分離すべき流体が、第3物質を含有していても良い。第3物質は、第1物質と共に第1流出口側に濃縮されるものであっても、第2物質と共に第2流出口側に濃縮されるものであっても、本分離方法では分離されずに、第1流出口と第2流出口から等しく流出するものであっても良い。
【0154】
分離すべき流体が、溶質(又は分散質)である第1物質と、同じく溶質(又は分散質)である第2物質と、これらの共通の溶媒(又は分散媒)から成るような3成分系の場合には、第1物質がφ1部方向に駆動され、第2物質がφ2部方向に駆動されるとすると、前記第1取出口から第1物質が濃縮され第2物質が希釈された流体を取り出し、前記第2取出口からは第2物質が濃縮され第1物質が希釈された流体を取り出し、前記第3取出口から第1物質も第2物質も希釈された媒体を取り出す。このとき該分離すべき流体が、前記共通の溶媒以外の第4物質を含有していても良い。
【0155】
流体に含まれる3種以上の物質を互いに分離する場合には、まず、その内の2種を分離出来る物質分離デバイスを用いて分離し、該分離デバイスの第1取出口16、第2取出口17の一方又は両方に、残りの物質を分離することが出来る物質分離デバイスを接続することによって、分離することが出来る。
定在波の振動ポテンシャルによる分離の場合には、分散媒より密度の高い分散質は分離室3のφ1部1とφ2部2の間のφ3部付近に濃縮されるため、第1流出口6と第2流出口7から不均等な流量で流出するようにする必要がある。これは、両流出口の断面積が互いに異なる物質分離デバイスを用いることで実施できる。濃縮された分散質は多量に流出する方の流出口から流出する。
【0156】
本分離方法においては、流体の流速が過剰に速い、即ち流体の分離流路内滞留時間が過剰に短いと、分離不十分で排出されるため、分離率が低下する。逆に、流体の流速を過剰に遅くする、前記分離対象物質の項で述べたように、分離流路内での分離は平衡に達するため分離率は飽和するが、処理速度は低下する。しかし、第1物質と第2物質がφ1部とφ2部の間で分離する速度は、ポテンシャル勾配の種類毎に、上記で説明した因子により変わり、更に、媒体である流体の粘度などの影響も受ける。このように、第1物質と第2物質が分離する速度に関わる因子は多様なため、計算で正確に予測することは困難な場合が多いが、流速を変える実験で簡単に見いだすことが出来る。流体を本物質分離デバイスに流す速度は任意であり、例えば、流体の本物質分離デバイス内の滞留時間は、好ましくは15秒以上、さらに好ましくは30秒以上、最も好ましくは1分以上であり、好ましくは1時間以下、より好ましくは30分秒以下、最も好ましくは15分以下である。本物質分離デバイスの分離流路を小さくして段数を多くすると、本物質分離デバイス内の滞留時間を同じにしても分離率が向上する。
【実施例】
【0157】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は以下の実施例の範囲に限定されるものではない。
【0158】
(実施例1)
本実施例では、I型の立体型の多段配置型物質分離デバイスであって、前記実施態様の第1方式の例を示す。
【0159】
図1は、実施例1の物質分離デバイスの分離室部分の(a)平面図及び(b)α−α線に於ける部分断面側面図である。また、図8は実施例1の物質分離デバイス100の平面図、図9は側面図、図10は第1外部層22の平面図、図11は内部層23の平面図、図12は第2外部層24の平面図である。但し、段数は簡略化して描かれている。
【0160】
本実施例1の物質分離デバイスは、分離室3が20段にわたって直列接続されている。また、各段における分離室3の本数は、第1段が1本、第2段が2本と順次増加し、第12段(境界段)以降は交互に12本および11本となっている。そして、分離室3の本数が12本となる段(偶数段)における各分離室3の流出口のうち、それより上流の段における分離室3の第1流出口6の通過回数が最多となる流体の流出口が、取出流路12zを介して第1取出口16に接続されている。また、分離室3の第2流出口7の通過回数が最多となる流体の流出口が、取出流路13zを介して第2取出口17に接続されている。さらに、その他の流出口が、取出流路14zを介して第3取出口18に接続されている。
【0161】
本実施例1の物質分離デバイスは、上記I型の立体型の形態で作製されている。即ち、内部層23の両面にそれぞれ第1外部層22および第2外部層24を固着し、第1外部層22の外側に基材21を固着し、第2外部層24の外側にカバー層25を固着して構成されていて、内部層23に該内部層の貫通溝として分離室3が形成され、分離室3に面した第1外部層22にφ1部1が形成され、分離室3に面した第2外部層24にφ2部2が形成され、分離室3の上流側端面(図中左側)に流入口5が形成され、分離室3の下流側端部(図中右側)に於ける内部層23と第1外部層22との境界面に第1流出口6が設けられ、内部層23と第2外部層24との境界面に第2流出口7が設けられ、第1外部層22に第1流出口に接続される流路12が形成され、第2外部層24に第2流出口に接続される流路13が形成されている。また、基材21側外表面に導入口15、第1取出口16、第2取出口17、及び第3取出口18が開口して設けられている。
【0162】
〔物質分離デバイスの作製〕
まず、本実施例における紫外線照射および蛍光特性測定の方法について説明する。
【0163】
(紫外線ランプX1による照射)
3kWメタルハライドランプを光源とするアイグラフィックス株式会社製のUE031−353CHC型UV照射装置を用いて、波長365nmで強度40mW/cm2の紫外線を、特に指定が無い限り室温、窒素雰囲気中で照射した。
【0164】
(紫外線ランプX2による照射)
250W高圧水銀ランプを光源とするウシオ電機株式会社製のマルチライト250Wシリーズ露光装置用光源ユニットを用いて、波長365nmで強度50mW/cm2の紫外線を、特に指定が無い限り室温、窒素雰囲気中で照射した。
【0165】
次に、本実施例における製膜液および組成物の調整方法について説明する。
(組成物X1の調製)
エネルギー線重合性化合物として、平均分子量2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー「ユニディックV−4263」(大日本インキ化学工業株式会社製)を70部、ヘキサンジオールジアクリレート「ニューフロンティアHDDA」(第1工業製薬株式会社製)を30部、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)を3部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製)を0.5部、それぞれ混合して組成物X1を調製した。
【0166】
(組成物X2の調製)
エネルギー線重合性化合物として、前記「ユニディックV−4263」を80部、前記「ニューフロンティアHDDA」を20部、光重合開始剤として前記「イルガキュアー184」を2部、それぞれ混合して組成物X2を調製した。
【0167】
(基材側部材の形成)
厚さ80[μm]のポリエチレンテラフタレート(PET)シートを第1の一時的な支持体(図示略)として使用し、該一時的な支持体上にスピンコーターにて組成物X2を塗工し、紫外線ランプX1により紫外線を1秒間照射して製膜液X2を半硬化させ、基材21となる樹脂層を形成した。該基材21上にスピンコーターにて組成物X1を塗工し、該塗膜の流路12を形成すべき部分(図10参照)以外の部分に、紫外線ランプX2によりフォトマスクを介して紫外線を40秒間照射して製膜液X1を半硬化させ、第1外部層22を形成した。その後、紫外線の非照射部分に残された未硬化の組成物X1を50%エタノール水溶液で洗浄除去し、流路12となる溝を形成した。
【0168】
別途、上記と同じPETシートを第2の一時的な支持体(図示略)として、この上にバーコーターにて組成物X1を塗工し、分離室3及び流路14zを形成すべき部分(図11参照)以外の未硬化塗膜に、紫外線ランプX2によりフォトマスクを通して紫外線を120秒間照射して半硬化させ、一時的な支持体(図示略)上に内部層23を形成した。 次いで、紫外線の非照射部分に残された未硬化の組成物X1を50%エタノール水溶液により洗浄除去し、分離室3となる内部層23の欠損部を形成した。その後、該分離室3となる内部層23の欠損部を、前記基材21上に形成された第1外部層22の多孔質層33と端同士が重なるように位置を合わせて積層し、その状態で、紫外線ランプX2により紫外線を30秒間照射して硬化を進めて固着した。その後、前記第1の一時的な支持体(図示略)を基材21から剥離し、前記第2の一時的な支持体(図示略)を内部層23から剥離し、基材21と第1外部層22と内部層23が固着された基材側部材を得た。
【0169】
(カバー層側部材の形成)
前記と同じPETシートを第三の一時的な支持体(図示略)として、この上にバーコーターにて組成物X2を塗工し、該未硬化塗膜に、紫外線ランプX1により紫外線を1秒間照射して半硬化させ、カバー層25を形成した。
次いで、カバー層25の上に、バーコーターにて組成物X1を塗工し、フォトマスクを通して、該未硬化塗膜の流路13を形成すべき部分(図12参照)以外の部分に、紫外線ランプX2により紫外線を40秒間照射して製膜液X1を半硬化させ、第2外部層24を形成した。その後、紫外線の非照射部分に残された未硬化の組成物X1を50%エタノール水溶液で洗浄除去し、流路13
となる溝を形成し、カバー層側部材とした。
【0170】
(2つの部材の固着)
前記カバー層側部材の第2外部層24を、前記基材側部材の第1外部層22に位置を合わせて積層し、その状態で、紫外線ランプX1により紫外線を60秒間照射して硬化を進めて固着した。その後、前記第三の一時的な支持体(図示略)をカバー層25から剥離し、図8、図9に示したような物質分離デバイス前駆体を得た。
【0171】
(その他の構造の形成)
次に、第1段の分離室3aの流入口5aとなる端部において、ドリルを用いて、基材21、及び第1外部層22に直径0.5[mm]の穴を開けて導入口15と流入口5aを形成した。同様にして、流路12zの下流端部において、基材21に直径0.3[mm]の穴を開けて第1取出口16を形成た。また同様にして、流路13zの下流側端部において、基材21、第1外部層22、および内部層23に直径0.3[mm]の穴を開けて第2取出口17を形成し、流路14zの下流側端部において、基材21および第1外部層22に直径0.3[mm]の穴を開けて第3取出口18を形成した。
【0172】
以上のようにして分離デバイス100を作製した。分離デバイス100の外形は100[mm]×25[mm]×0.5[mm]である。各部の寸法は、基材21、第1外部層22、内部層23、第2外部層24、及びカバー層25の厚みは全て約100[μm]であり、分離室3は流入口5及び流出口付近で幅が約100[μm]になるよう、両端が徐々に狭められている。流路12、流路13、流路14は幅が100[μm]、高さが100[μm]であり、第1流出口6及び第2流出口7の寸法は、幅が100[μm]、高さが100[μm]である。分離室3の段数は20段であり、第12段目までは1段ごとに分離室3の数が1ずつ増え、境界段である第12段以降は、一段毎に12と11になっていて、第20段目の分離室3の数は12である。
【0173】
(φ1部とφ2部の形成)(温度)
作製した物質分離デバイス100の上面の基材21側表面の全分離流路3を含む範囲に、150[℃]に調節されたアルミニウム製の温調プレートを、また、下面のカバー層25側表面の同じ範囲に、0[℃]に調節されたアルミニウム製の温調プレートを接触させた。
アルミニウムの熱伝導率を200[wm−1−1]、組成物(X1)硬化物および組成物(X2)硬化物の熱伝導率を0.15[wm−1−1]、水の熱伝導率を0.61[wm−1−1]として式2を用いて計算すると、Tφ1=79.4[℃]、Tφ2=70.7[℃]、φ1部1とφ2部2の温度差ΔT=8.7[℃]、温度勾配は87[℃/mm]と見積もられる
〔物質分離方法〕
分離実験用の原溶液として、平均分子量70000のポリスチレンスルホン酸(関東化学)の0.1重量%水溶液を用いた。上記の原溶液は、アスピレーターで減圧しつつ超音波洗浄機に1分間掛けて脱気した後、実験に使用した。
【0174】
導入口15、第1取出口16、第2取出口17にはそれぞれマイクロシリンジポンプ(図示略)を接続し、第3取出口18にはチューブを接続してその他端をバイアル瓶に投入した。導入口15から流速5[mm/分]、15[mm/分]、又は50[mm/分]で原溶液を導入し、第1取出口16と第2取出口17をそれぞれ導入流量の1/3の速度で吸引した。
【0175】
(実施例2)
本実施例では、接触式による電気ポテンシャル勾配の付与の例を示す。
〔物質分離デバイスの作製〕
物質分離デバイスを作製するに当たり、工程の途中で、第1外部層6の内部層側と、第2外部層7の内部層側に、金を蒸着させて電極とし、これに前記「V4263」の5重量%酢酸エチル溶液をスピンコートした後、該酢酸エチルを揮発させたこと以外は実施例1と同様にして物質分離デバイスを作製した。
〔φ1部とφ2部の形成〕
前記電極に、第1外部層6側をマイナス極として3Vの直流電圧を掛けた。即ち、φ1部1とφ2部2は、電位差が3V,電位ポテンシャルの勾配が30V/mmである。
【0176】
(実施例3)
本実施例では、非接触式による電気ポテンシャル勾配の付与の例を示す。
〔物質分離デバイスの作製〕
実施例1で作製したものと同じ物質分離デバイス100の上面の基材21側表面の全ての分離室3を含む範囲に厚さ50[μm]の銅箔をシリコーン系接着剤で貼り付けて電極板とし、更に該電極板の表面を該シリコーン系接着剤でコートした。
〔φ1部とφ2部の形成〕
前記物質分離デバイスの電極板に、基材側をマイナス側として8[kV]の直流電圧を掛けた。組成物(X1)硬化物および組成物(X2)硬化物の比誘電率を2.5[−]、流路内の空気の比誘電率を1.0[−]として式1により計算すると、アース電位に対するφ1部の電位φ1は3.0[kV]、φ2部の電位φ2は500[V]と見積もられ、φ1部−φ2部間の電位差は2.5[kV]、電気ポテンシャル勾配は12.5[kV/mm」となる。
また、流路に水が充填された状態における電位差として、流路の比誘電率として水の比誘電率80[−]を用いると、アース電位に対するφ1部の電位φ1は7.283[kV]、φ2部の電位φ2は6.338[kV]と見積もられ、φ1部−φ2部間の電位差は52[V]、電気ポテンシャル勾配は260[V/mm」となる。
〔物質分離方法〕
上記のようにしてポテンシャル勾配を付与したこと以外は実施例1と同様に配管接続し、実施例1と同様の実験を行った。
【0177】
(実施例4)
本実施例では磁気ポテンシャル勾配の付与の例を示す。
〔デバイスの作製とφ1部とφ2部の形成〕
実施例1で作製した物質分離デバイス100の全分離流路3を含む範囲のカバー層側外表面28に永久磁石を密着させた。該磁石は、両極が一辺50[mm]の正方形、厚さ22.5[mm]のネオジウム磁石(表面磁束密度約4500[G])に、一方の端面が一辺50[mm]の正方形、他方の端面が70mm×20mmであるような軟鉄製のポールピースを用いて分離流路部分に集中的に磁力線を作用させた。
〔物質分離方法〕
上記によりポテンシャル勾配を付与した物質分離デバイスを用いたこと、及び、分離すべき溶液として10倍希釈の牛血を用いたこと以外は実施例1と同様の実験を行った。
【0178】
(実施例5)
本実施例では加速度ポテンシャル勾配の付与の例を示す。
〔デバイスの作製〕
実施例1で得た物質分離デバイスを加熱し、基材側を外側にして、長手方向の間を半径200[mm]の円弧状に成形した。
〔φ1部とφ2部の形成と物質分離方法〕
作製した物質分離デバイスを遠心分離装置(図示略)に装着しした。シリンジポンプ(図示略)から、該遠心分離装置の回転中心に設けた摺動式のステンレスパイプ(図示略)を経て導入口15に接続した。第1取出口16、第2取出口17および第3取出口18にはそれぞれステンレス製チューブ(図示略)を接続し、該物質分離デバイス付近に固定したバイアル瓶(図示略)に配管接続した。
遠心分離装置を回転数3000[rpm]で回転させることにより、φ1部1とφ2部2を2000Gの加速度場の中に設置した。次いで、シリンジポンプから原溶液を一定速度で吐出し、分離された溶液を、第1取出口16、第2取出口17及び第3取出口18に接続したバイアル瓶に採取した。
【0179】
(実施例6)
本実施例では、I型の立体型の多段配置型物質分離デバイスであって、前記実施態様の第2方式、即ち、任意の連続する2つの段について、上流側の段における分離室の断面積の総和が、下流側の段における複数の分離室の断面積の総和と略同一になるように形成した。
【0180】
図13、図14は本実施例で作製した物質分離デバイスの連続する2段部分の部分平面図と側面図である。本実施例では、分離室は幅の広い空隙状に形成されており、分離室3に於ける第1外部層22と第2外部層24間の間隔(すなわち分離室の厚さ)は、スペーサ26により一定(約100[μm])に保持されている。各分離室3の幅は、流入口5から暫時拡大されている。φ1部1及びφ2部2の下流側端部には、一つの分離室3にそれぞれ複数の第1流出口6および第2流出口7が一定間隔(200[μm]おき)に配設されている。任意の段の分離室3aにおける複数の第1流出口6aに接続された複数本の流路12は、一本に合流されて下流側次段における分離室3bの流入口5bに接続されている。同様に、前記分離室3aにおける複数の第2流出口7aに接続された複数本の流路13aは、一本に合流されて下流側次段における分離室3cの流入口5cに接続されている。
【0181】
【表1】

【0182】
表1に、各段における分離室の本数および幅を示す。なお、各段における分離室3の長さは略一定であるから、分離室の幅は流路断面積に比例している。表1からわかるように、実施例2では、境界段である第12段までの上流範囲段に於いては、段数と同じ本数の分離室3が各段に形成されている。一方、分離室の幅は、上流側の段ほど広くなっている。そして、分離室の幅と本数との積は、各段とも略一致している。すなわち、任意の段における複数の分離室のφ1部1の面積の総和が、他の段における複数の分離室のφ1部1の面積の総和と略同一になっている。
境界段である第12段より下流の範囲では、実施例1と全く同じ構造である。
【0183】
〔φ1部とφ2部の形成〕(温度)
本物質分離デバイス100の上面の基材21側表面に100[℃]に調節された温調プレートを、また、下面のカバー層25側表面に0[℃]に調節された温調プレートを接触させた。φ1部とφ2部の温度差は、実施例1と同じになると計算される。
〔φ1部とφ2部の形成〕(電場)
実施例32と同様にして外部電極により電気ポテンシャル勾配を付与すると、φ1部とφ2部の電位差は、実施例3と同じになると計算される。
【0184】
〔物質分離方法〕
実施例1と同様にして試験を行った。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】I型の立体型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)及びα−α線における側面断面図(B)である。
【図2】II型の立体型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)及びβ−β線における側面断面図(B)である。
【図3】I型の半立体型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)、γ−γ線における側面断面図(B)、及びδ−δ線における側面断面図(C)である。
【図4】I型の半立体型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)、ε−ε線における側面断面図(B)、及びζ−ζ線における側面断面図(C)である。
【図5】II型の半立体型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)、η−η線における側面断面図(B)である。
【図6】物質分離デバイスの分離室部分のI型の平面型の実施態様の分離室部分の平面図(A)、及びθ−θ線における側面断面図(B)である。
【図7】II型の平面型の実施態様による物質分離デバイスの分離室部分の平面図(A)、及びι−ι線における側面断面図(B)である。
【図8】I型の立体型の分離室の多段配置を示す配置図の平面図である。
【図9】I型の立体型の分離室の多段配置を示す配置図の側面図模式図である。
【図10】I型の立体型の分離室の多段配置を示す配置図の第1外部層の平面図である。
【図11】I型の立体型の分離室の多段配置を示す配置図の内部層の平面図である。
【図12】I型の立体型の分離室の多段配置を示す配置図の第2外部層の平面図である。
【図13】各段の分離室の断面積の総和を略同一とした物質分離デバイスの部分平面図である。
【図14】各段の分離室の断面積の総和を略同一とした物質分離デバイスの部分側面断面図である。
【符号の説明】
【0186】
1‥φ1部
2‥φ2部
3‥分離室
5‥流入口
6‥第1流出口
7‥第2流出口
8‥上流側端面
9‥下流側端面
11,11a〜11z、12、12a〜12z、13、13a〜13z、14、14a〜14z‥流路
15‥導入口
16‥第1取出口
17‥第2取出口
18‥第3取出口
21‥基材
22‥第1外部層
23‥内部層
23’‥第1内部層
23”‥第2内部層
24‥第2外部層
25‥カバー層
26‥スペーサ
27‥基材側外表面
28‥カバー層側外表面
100‥物質分離デバイス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体中に含まれる異なる物質を分離する物質分離デバイスであって、
前記物質分離デバイスが、
(1)毛細管状の流路と、該流路の途上に分離室を有し、該分離室は流入口、第1流出口、及び第2流出口を有すること、
(2)該分離室の内壁面の互いに異なる部分に、前記流体に含まれる前記複数の物質のひとつ又はいくつかを駆動するポテンシャル勾配の該ポテンシャルがφ1とφ2とされるφ1部とφ2部が設けられていること、
(3)前記第1流出口が、前記φ2部より前記φ1部に近い部分に設けられ、前記第2流出口が、前記φ1部より前記φ2部に近い部分に設けられていること、
および、
(4)前記分離室が、上流から下流にかけて複数段にわたって配置され、該複数段のうちの任意の段における前記分離室の第1流出口又は第2流出口が、下流側次段における分離室の流入口に接続されていること
を特徴とする物質分離デバイス。
【請求項2】
少なくとも前記分離室の一部に前記ポテンシャル勾配を付加するポテンシャル付加機構を備える請求項1記載のマイクロ流体デバイス。
【請求項3】
前記第1流出口及び第2流出口に接続される流路の断面積が、前記分離室の断面積より小である請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項4】
前記分離室の直交する3方向の寸法のうちの最小でない方向を、流体を流動させる方向である長さ方向とし、前記φ1部とφ2部が前記分離室の長さ方向の側面に設けられており、前記流入口が前記分離室の前記長さ方向の一方の端に設けられており、前記第1流出口と前記第2流出口が分離室の長さ方向の他方の端に設けられている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項5】
前記分離室の直交する3方向の寸法のうちの最小でない方向を、流体を流動させる方向である長さ方向とし、前記流入口が前記分離室の前記長さ方向の途上に設けられており、前記φ1部とφ2部が前記分離室の前記長さ方向の両端部の端面にそれぞれ設けられており、前記第1流出口と前記第2流出口が前記分離室の前記長さ方向の両端部の端面又は側面にそれぞれ設けられている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項6】
前記複数段のうちの任意の段(上流側から数えて第n段)における分離室(a)の第1流出口と第2流出口が、下流側次段(第n+1段)における分離室(b)及び分離室(c)の流入口にそれぞれ接続され、
更に、
前記分離室(b)の第1流出口が下流側次次段(第n+2段)における分離室(d)の流入口に、
前記分離室(c)の第2流出口が下流側次次段(第n+2段)における分離室(e)の流入口に、
前記分離室(b)の第2流出口と、前記分離室(c)の第1流出口が下流側次次段(第n+2段)における分離室(f)の流入口に
それぞれ接続されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項7】
前記複数段のうちの最下流段における複数の前記分離室の流出口のうち、前記各段における前記分離室の前記第1流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第1取出口に接続され、
最下流段における複数の前記分離室の流出口のうち、前記各段における前記分離室の前記第2流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第2取出口に接続されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項8】
前記複数段のうちの任意の段(上流側から数えて第n段)において前記分離室がi本配され、n又はiの少なくともいずれかが2以上であり、
第n段において前記分離室の前記第1流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第1取出口に接続され、前記第2流出口の通過回数が最多となる前記流体の流出口が、前記流体を取り出す第2取出口に接続されてなり、
第n段以降の段における前記分離室がi本配された段の前記分離室の流出口のうち、当該段より上流段において、前記流体が第1流出口を通過する回数をl、前記流体が第2流出口を通過する回数をmとした際に、l−mが最も大きい流出口が、前記第1取出口に接続され、m−lが最も大きい流出口が、前記第2取出口に接続されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項9】
前記複数段のうちの最下流段における複数の前記分離室の流出口のうち、前記第1取出口が接続された流出口および前記第2取出口が接続された流出口以外の流出口が、上流段における前記分離室の流入口に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項10】
前記複数段のうちの任意の段(上流側から数えて第n段)における複数の前記分離室の断面積の総和は、それより下流側の任意の段(第p段。但しn<p)における複数の前記分離室の断面積の総和と略同一に形成されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項11】
前記物質分離デバイスは、基材、第1外部層、内部層及び第2外部層がこの順に積層されて構成され、
前記分離室は、前記内部層の貫通溝によって構成され、
任意の段(上流側から数えて第n段)の前記第1流出口が前記内部層の第1外部層側に形成され、前記第n段の前記第2流出口が前記内部層の第2外部層側に形成され、
前記第n段の前記第1流出口と、その下流側次段(第n+1段)の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第1流出口に接続される部分が、前記第1外部層に形成されており、前記第n段の前記第2流出口と前記第n+1段の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第2流出口に接続される部分が、前記第2外部層に形成されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項12】
前記物質分離デバイスは、基材、第1外部層、内部層及び第2外部層がこの順に積層されて構成され、
前記内部層は、第1内部層と第2内部層で構成されており、
任意の段(上流側から数えて第n段)の前記第1流出口は前記第1内部層に形成され、前記第2流出口は前記第2内部層に形成され、
前記第n段の前記第1流出口とその下流側次段(第n+1段)の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第1流出口に接続される部分が前記第1内部層に形成されており、前記第n段の前記第2流出口とその下流側次段(第n+1段)の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第2流出口に接続される部分が、前記第2内部層に形成されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項13】
前記物質分離デバイスは、基材、第1外部層、内部層及び第2外部層がこの順に積層されて構成され、
前記分離室が、前記内部層の貫通溝によって構成され、
任意の段(上流側から数えて第n段)の前記第1流出口及び前記第2流出口が共に前記内部層に形成され、
前記第n段の前記第1流出口と、その下流側次段(第n+1段)の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第1流出口に接続される部分が、前記内部層に形成されており、前記第n段の前記第2流出口と前記第n+1段の前記流入口とを接続する流路の、少なくとも前記第2流出口に接続される部分が、前記内部層に形成されている請求項1又は2記載の物質分離デバイス。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の物質分離デバイスを用い、前記分離室に前記流体を層流で流すことによって、流体中に含まれる異なる物質を相互に分離する物質分離方法。
【請求項15】
前記流体中に含まれる異なる物質が、溶媒と溶質である請求項14に記載の物質分離方法。
【請求項16】
前記流体中に含まれる異なる物質が、流体に含まれる2種類の溶質である請求項14に記載の物質分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2007−196219(P2007−196219A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345746(P2006−345746)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】