説明

物質検出装置

【課題】ホール素子表面に固定される磁気微粒子の量を正確に検出する。
【解決手段】ホール素子1001の表面上に磁性粒子1101が固定可能な領域1009が形成されている。領域1009は、この領域1009に固定された磁性粒子1101の個数と、ホール素子1001にDC電源1003より電流を流したときに得られるホール起電力の大きさとが一対一で対応する領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の存在、数量あるいは濃度を磁気的に検出するための物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定量的なイムノアッセイとして、放射免疫分析法(RIA : radio immunoassay もしくはIRMA:immunoradiometric assay)が古くから知られている。この方法では、放射性核種によって、競合抗原あるいは抗体を標識し、比放射能の測定結果から抗原が定量的に測定される。つまり抗原などの標的物質を標識してこれを間接的に測定する。この方法は感度が高いことから、臨床診断において大きな貢献を果たしたが、放射性核種の安全性の問題が有り、専用の施設や装置が必要となるという欠点がある。そこでより扱いやすい方法として、例えば、蛍光物質、酵素、電気化学発光分子、磁性粒子などの標識を用いる方法が提案されてきた。蛍光標識、酵素標識、電気化学発光標識等を標識として用いた場合は、光学的な測定方法に用いられ、光の吸収率や透過率、あるいは発光光量を計測することによって、標的物質の検出が行われる。標識に酵素を用いる酵素免疫測定法(EIA:Enzyme Immunoassay)は、抗原-抗体反応をさせた後に、酵素標識抗体を反応させ、その酵素に対する基質を添加して発色させ、その吸光度により比色定量する方法である。また、磁性粒子を標識とし磁気センサ素子によって間接的に生体分子を検出するバイオセンサの研究報告が幾つかの研究機関によってなされている。この検出方法で用いられる磁気センサ素子には種々のものが挙げられる。例えば、磁気抵抗効果素子を用いたもの(非特許文献1)、ホール素子を用いたもの(非特許文献2)、ジョセフソン素子を用いたもの(非特許文献3)が提案されている。さらには、コイルを用いたもの(非特許文献4)、磁気インピーダンス素子を用いたもの(非特許文献5)が提案されている。磁性粒子は検体溶液中で分散性が良いことが好ましく、その観点から零磁場中では残留磁化の無いスーパーパラ磁性であることが好ましい。したがって、検出として用いる場合には、磁性粒子に磁界を印加し、磁化を所望の方向に誘起させる必要がある。このときセンサ素子の近傍に磁性粒子が固定されているので、磁性粒子に印加した磁界は、センサ素子にも印加されてしまう。大きな検出信号を得るためには、磁性粒子に大きな磁化を誘起させる必要があり、印加磁界の大きさは磁性粒子の磁化飽和磁界程度であることが好ましいが、センサ素子の検出レンジを超えてしまう磁界は印加できない。ホール素子は、検出磁界レンジが広く、磁性粒子の磁化が飽和するほどの大きな磁界であっても検出レンジ範囲内であるので、磁性粒子に大きな磁界を印加する場合に有利である。
【0003】
また、ホール素子を用いたバイオセンサとしては特許文献1(WO2003/067258)に記載されたものがある。この文献では、ホール素子の大きさを磁性粒子の大きさと同等とし、複数のホール素子を2次元配列したデバイスが記載されている。
【0004】
ホール素子を用いて磁性粒子を検出する場合の一般的な検出原理を図18に示す。検出電流はホール素子2001の膜面内にDC電源2005より流し、検出電流と直交する方向における膜面内の電位差をロックインアンプ2004が磁性粒子検出信号として取得する。このような配置で電気回路を接続すると、ホール素子2001で検出される磁界はホール素子2001の膜面垂直方向の磁界成分のみとなる。ホール素子2001の膜面上部に固定された磁性粒子2101を磁化するために外部からホール素子2001の膜面に対して垂直方向のDC磁界をDC電源2005およびバイアス磁界印加用コイル2006により印加する。この磁界は、磁性粒子2101の磁化が飽和する程度の大きさとすることが好ましい。磁性粒子2101の磁化ベクトルを左右に振る為に、ホール素子2001の膜面内方向にAC磁界をAC電源2007およびプローブ磁界印加用コイル2008により印加する。AC磁界の周波数をfとすると、磁性粒子2101から生じる浮遊磁界の膜面垂直方向成分は2fの周波数で変化することになる。したがって、ロックインアンプ2004によって、磁性粒子検出信号から2fの周波数成分のみを取り出し、より高感度に磁性粒子を検出することが可能である。
【0005】
ホール素子は半導体材料で構成されるが、その組成は様々であり、例えば、Si、Bi、Ge、Se、InSb、InAs、GaAsなど種々の半導体が使用可能である。ホール起電力VHは電子やホールに磁界Hが印加されたときに働くローレンツ力によって生じ、簡単には下記の式(1)で表される。ただし、このときの磁界は一様な強度分布を持つ磁界で、ホール素子全体に印加されている。

【0006】
ここで、Iはホール素子に流れる測定電流、dはホール素子の膜厚、Rはホール定数である。また、ホール起電力の極性は、磁界の印加方向によって異なる。
【非特許文献1】H. A. Ferreira, et al, "J. Appl. Phys., 93 7281 (2003)”
【非特許文献2】Pierre-A. Besse, et al, "Appl. Phys. Lett. 80 4199 (2002)”
【非特許文献3】SeungKyun Lee, et al, "Appl. Phys. Lett. 81 3094 (2002)”
【非特許文献4】Richard Luxton, et al, "Anal. Chem.16 1127 (2001)”
【非特許文献5】Horia Chiriac, et al, "J. Magn. Magn. Mat. 293 671 (2005)”
【特許文献1】国際公開WO2003/067258号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
磁性粒子から発生する磁界(浮遊磁界)は、図19に示すような磁力線を描く。磁性粒子を免疫検査等の標識として用いる場合、反応効率の観点から、磁性粒子の大きさは小さい方が好ましい。しかし、ホール素子の大きさに比べて小さな磁性粒子を用いた場合には、磁性粒子から発生する浮遊磁界は、ホール素子を不均一な強度で貫く。このために、ホール素子の膜面上部の、磁気粒子が固定される位置によって、ホール起電力の大きさが異なる。その結果、固定された磁気粒子の個数とホール起電力の大きさが一対一で対応しない(固定された磁気粒子の個数とホール起電力の大きさとの対応関係が一様でない)という問題があった。
【0008】
そこで本発明の目的は、上記背景技術の問題に鑑み、ホール素子上に固定された測定対象物質の固定量(個数や量)を正確に検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明は、膜面上部から見た形状が、四角形である部分と、該四角形の夫々の辺の部分に接した任意の形状の4つの枝部分とを少なくとも含む形状であり、かつ該枝部分に電極を具備するホール素子と、
該ホール素子の対向する任意の2つの電極に接続された電流源、および該電流源が接続された電極以外の2つの対向する電極の電位差からホール電圧を検出するホール電圧検出手段と、を備え、
前記電流源より電流を流すことでホール起電力を得るとともに、前記ホール電圧検出手段によって検出されるホール電圧から、前記ホール素子の膜面上部に固定された測定対象物質の量を換算して検出する物質検出装置であって、
該固定された測定対象物質の個数とホール起電力の大きさとが一対一で対応するよう、前記ホール素子の膜面上部に前記測定対象物質が固定可能な領域が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の物質検出装置を用いることにより、測定対象物質を正確に定量することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明について詳細に説明する。
【0012】
ホール素子に局所的に印加される磁界によって生じるホール起電力をシミュレーションするには、ホール素子内の局所電流密度を考えなければならない。ホール素子内を流れる局所電流密度Jは下記の式(2)によって表されることが非特許文献:S. Liu, et al.,“J. Appl. Phys. 83 6161 (1998)”に示されている。

【0013】
ただし、Bはホール素子にその膜面垂直に印加される磁界、Eは電界、μHは透磁率、σは伝導率である。微小領域においてこの式を満たし、かつ領域界面でJが連続であるという条件を満たすことによって、ホール素子の電位分布が求められる。また、その電位分布からホール起電力の大きさが求められる。非特許文献6においては、一様な強度分布を持つ磁界をホール素子の微小領域に印加した電位分布の結果が示されている。
【0014】
シミュレーションに際して、膜面上部から見た形状が十字型のホール素子を用意する(図17参照)。このホール素子は、該十字形状の中央部の四角形部分が5μm×5μm、該十字形状の対向する各対の枝部分と四角形部分とを含めた全体長さがそれぞれ10μm、膜厚が250nmで形成されたものとする。そして、このホール素子上に1個の磁性粒子を固定した場合のホール起電力について下記の式(2)を用いてシミュレーションした結果を図4から図7に示す。
【0015】
ただし、磁気粒子は全て同一物で、球形で、ホール素子の表面上に接して乗っている状態で計算している。図中の等高線は、同じ大きさのホール起電力が得られるような磁気粒子の固定位置(すなわち、固定する磁気粒子の中心位置)を全て繋いだ線を示す。また、各シミュレーション結果の最大値と最小値を20分割する線である。ただし、シミュレーションは第一象現の領域のみ行っている(図17参照)。また、境界条件として以下の条件式を満たすようにした。
【0016】
導体条件

【0017】
絶縁体条件

【0018】
ホール素子の四角形部分の対角線上で、かつ対角線の中心から等距離である領域に磁性粒子が固定される。このとき、磁性粒子の大きさが四角形部分の一辺の長さの1/10の大きさである場合には、磁気粒子がホール素子の四角形部分の角付近に固定されると、ホール起電力が高くなり、その場所から外れるとホール起電力が低くなる。(図4参照(磁性粒子直径:0.5μm))
磁性粒子の大きさがホール素子の四角形部分の一辺の長さ(5μm)の1/5の大きさであっても、この傾向は伺える。(図5参照(磁性粒子直径:1μm))
しかし、磁性粒子の大きさがホール素子の四角形部分の一辺の長さ(5μm)の2/5の大きさになると、ホール素子の四角形部分の全面において、比較的均一なホール起電力が得られる。(図6参照(磁性粒子直径:2μm))
また、ホール素子の四角形部分の大きさと磁性粒子の大きさが同じ大きさになると、図7(四角形部分:5μm×5μm、磁性粒子直径:2μm)に示す様に、ホール起電力の等高線は、ホール素子の中央から同心円状に分布する。
【0019】
図4〜図7に順次示した上記の傾向は、ホール素子の膜厚が500nmあるいは1μmと厚くなっても同様に見られる。(膜厚が500nmの図8〜図11、膜厚が1μmの図12〜図15参照)
以上のシミュレーション結果から、磁気粒子の固定領域を限定すると、磁気粒子の定量的な測定が可能であることが分かる。
【0020】
そこで本発明の物質検出装置は、以下の態様をとる。
【0021】
ホール素子にはホール素子膜面内方向に検出電流を流す電源と、ホール起電力を検出する検出手段が電気的に接続される。ホール素子の材料として、Si、Bi、Ge、Se、InSb、GaAs、InAs等、様々な半導体材料が使用可能である。また、ホール素子は多層膜からなるホール素子であっても良い。ホール素子表面の磁界感能領域上において、同一測定対象物質の数量とホール起電力の大きさが一対一で対応するような位置に、磁界を発生する測定対象物質が、あるいは測定対象物質を介して磁気標識が固定される。ここで、磁界感能領域とは、ホール素子にその膜面垂直の磁界が印加された場合に、ホール起電力が生じる磁界印加領域を示し、十字型のホール素子においては、四角形部分よりもやや広い領域を示す。測定対象物質の数量とホール起電力の大きさが一対一で対応するような位置とは、測定対象物質が固定可能な領域の中心が、ホール素子中央部の四角形部分の対角線上であって、かつ対角線の中心から略等距離となる位置である(図2参照)。特に、測定対象物質が略球形であり、かつ測定対象物質の粒径がホール素子の四角形部分の短辺の1/5以下であるとき、前記測定対象物質が固定可能な領域は、2つ以上存在し、ホール素子中央部の四角形部分の対角線上であって、かつ対角線の中心から略等距離にある領域である。
【0022】
図4から図15に示したシミュレーション結果から、測定対象物質が固定可能な領域について、簡単な数式でのフィッティングを試みたところ、次の結果が得られた。すなわち、ホール素子中央部の四角形部分が正方形であり、測定対象物質の粒径をr、ホール素子の膜厚をt、ホール素子中央部の四角形部分の一辺の長さをLとするときに、定数Rが

【0023】
で表される。そして、r≦L/5 のときに、測定対象物質が固定可能な領域が、ホール素子中央部の四角形部分の角を形成する2辺の両方に接する直径2Rの円の同心円であるとともに直径がRである円の領域内とすることで、より多くの測定対象物質が検出可能となる。あるいは、測定対象物質の粒径rが、ホール素子の四角形部分の短辺Lの2/5以上である(r≧2L/5 )のときには、測定対象物質が固定可能な領域を図3に示す領域としても良い。すなわち、測定対象物質固定可能領域1009は、ホール素子中央部の四角形部分から、該四角形部分の角を形成する2辺の両方に接する直径2Rの円に囲まれる4つの領域を除いた領域としても良い。
【0024】
このように、測定対象物質が固定可能な領域が限定されたホール素子を用いて、該ホール素子上の測定対象物質の固定量を磁気的に検出する。
【0025】
図1に示すようなホール素子を例にとると、十字形状部の磁界感能領域のホール起電力を検出するために、ホール起電力を検出する電極に直列に選択トランジスタを接続する。磁界を発生する測定対象物質あるいは測定対象物質を介して固定される磁気標識に、ホール素子の膜面に垂直な方向にDC磁界(バイアス磁界)を印加し、測定対象物質あるいは磁気標識を磁化させる。このバイアス磁界の大きさは、測定対象物質あるいは磁気標識の磁化が飽和するような大きさである。さらに、バイアス磁界と垂直な方向に、磁界(プローブ磁界)を印加し、測定対象物質あるいは磁気標識の磁化方向を振動させる。つまり、測定対象物質あるいは磁気標識から生じる浮遊磁界のホール素子膜面垂直方向成分の大きさを変化させる。交流磁界の周波数がfであるならば、測定対象物質あるいは磁気標識から生じる浮遊磁界によって生じるホール起電力は、2fの周波数を持つ。したがって、ホール起電力をロックインアンプを介して2fの周波数成分のみ検出することで、測定対象物質の数量に比例した検出信号を得ることが可能である。
【0026】
さらに、このような物質検出装置を用いて、非磁性体である測定対象物質を検出する場合について、DNA(デオキシリボ核酸)を例にとって簡単に説明する。
【0027】
まず、所望の塩基配列を持ったDNAをホール素子の測定対象物質固定領域に固定しておく。測定対象物質固定領域上へのDNAの固定は、例えばDNAの末端をチオール基とし、かつ測定対象物質固定領域を金で形成することで、金-チオール結合を用いて行う。一方、塩基配列がわからないDNAを磁気標識で標識し、これを検体とする。測定対象物質固定領域に固定されたDNA上に検体を滴下する。もし、DNAの塩基配列が相補的であるならば、DNAはハイブリダイズし、磁気標識で標識されたDNA(検体)が標的物質固定領域上に固定される。逆に相補的でなければDNAはハイブリダイズしないので、ホール素子を洗浄すると、磁気標識が固定されたDNAが容易に除去される。以上の様にしてDNAの検出が可能である。
【実施例】
【0028】
さらに、本発明をより具体的に説明する。
【0029】
図1に例示する物質検出装置は、膜面上部から見た形状が一方向に十字形状部を繰り返した形成した形状であるホール素子1001を有する。ホール素子1001の枝部分は電極を具備する。そして、ホール素子1001の長手方向にて対向する任意の2つの電極に、検出電流を流す電流源であるDC電源1003が接続される。さらに、DC電源1003が接続された電極以外の電極はホール電圧検出電極1002として用いられている。本例では、検出電流の方向に対しホール素子膜面内で直交する方向にて対向する3対のホール電圧検出電極(計6つ)がある。各ホール電圧検出電極1002にはそれぞれ、選択トランジスタTr.1〜Tr.6が直列に接続される。選択トランジスタTr.1〜Tr.6の出力はセンスアンプ(SA)に入力され、センスアンプの出力はロックインアンプ1004に入力される回路構成である。
【0030】
本実施例では磁界感能領域となる3つの十字形状部を持つ磁気センサとしたが、磁界感能領域の数はこれに限定されるものではなく、さらに多くの磁界感能領域を持つものであっても構わない。
【0031】
ホール素子1001には図のように膜面垂直方向にDCバイアス磁界がDC電源1005とコイル1006によって印加され、同時にAC電源1007とコイル1008によって膜面内方向にACプローブ磁界が印加される。ACプローブ磁界の周波数をfとすると、磁気標識として用いる磁気粒子1101から生じる浮遊磁界の膜面垂直方向成分の大きさは2fの周波数で変化する。したがって、ホール電圧も2fの周波数で変化する。そのため、ロックインアンプ1004によって、ホール電圧検出信号から2fの周波数成分のみを取り出すことで、磁性粒子1101を検出することが可能である。
【0032】
また、上記で説明した物質検出装置を用いて、以下のプロトコールに従って前立腺癌のマーカーとして知られている前立腺特異抗原(PSA)を検出することができる。
【0033】
ホール素子1001の膜面上部に形成された測定対象物質固定可能領域1009はAu薄膜で形成されている。この領域には、さらにPSAを認識する一次抗体が固定化されている(図16参照)。
【0034】
上記の物質検出装置を用いてPSAの検出を行う。この際、下記のプロトコールに従って、磁性粒子1101が測定対象物質固定可能領域1009に特異的に固定される。尚、磁性粒子1101が固定された様子を図16に示す。
【0035】
まず、抗原(被検体)であるPSA1103を含むリン酸緩衝生理食塩水(被検体溶液)をホール素子1001の表面に滴下し、5分間インキュベートする。
【0036】
次にリン酸緩衝生理食塩水によって、未反応のPSA1103を洗浄除去する。
【0037】
さらに、磁性粒子1101により標識された抗PSA抗体(二次抗体)1104を含むリン酸緩衝生理食塩水をホール素子1001の表面に滴下し、5分間インキュベートする。
【0038】
最後に、未反応の標識抗体(磁性粒子1101が固定された抗PSA抗体(二次抗体)1104)をリン酸緩衝生理食塩水で洗浄除去する。
【0039】
このようなプロトコールによって、測定対象物質固定可能領域1009の表面に磁性粒子1101が一次抗体1102、PSA(抗原)1103、および二次抗体(抗PSA抗体)1104を介して固定される(図16参照)。つまり、被検体溶液の中にPSA1103が存在しない場合には、磁性粒子1101はホール素子1001の膜面上部に固定されないので、磁性粒子1101の有無を検出することによって、PSA1103の検出が可能である。ホール素子表面上に磁性粒子1101が固定されていないことは、前述のロックインアンプ1004によりホール電圧検出信号から2fの周波数成分が検出されないことで判断する。また、ホール電圧検出信号の大きさから、固定された磁性粒子1101の数量を換算し、被検体溶液中に含まれるPSA1103の量を間接的に知ることが可能である。
【0040】
さらに詳述すると、上記のプロトコールによって磁性粒子1101が特異的に固定された後、下記に説明する手順によって磁性粒子の固定量、すなわちPSA1103の量は検出される。
【0041】
図1を参照すると、DC電源1003よりホール素子1001に所望の大きさの検出電流を流す。このとき、DC電源1005とコイル1006を用いて磁性粒子1101にDCバイアス磁界を印加する。さらに、AC電源1007とコイル1008を用いてACプローブ磁界を印加する。ACプローブ磁界の周波数をfとするとき、磁性粒子1101から生じる浮遊磁界のホール素子膜面垂直成分は2fの周波数で変化する。まず、選択トランジスタTr.1,Tr.2をON状態に、選択トランジスタTr.3,Tr.4,Tr.5,Tr.6はOFF状態にして、ホール素子1001の図中左側の十字形状部に生じるホール電圧をセンスアンプSAに入力する。センスアンプSAの出力はロックインアンプ1004によって、周波数2fの成分のみ検出される。この検出信号は、ホール素子1001の図中左側の十字形状部に固定された磁性粒子1101の数に比例した大きさを示す。次いで、選択トランジスタTr.3,Tr.4をON状態に、選択トランジスタTr.1,Tr.2,Tr.5,Tr.6をOFF状態にする。これにより、上記と同様にロックインアンプ1004から、ホール素子1001の図中央部の十字形状部に固定された磁性粒子1101の検出信号を得る。さらに、選択トランジスタTr.1,Tr.2,Tr.3,Tr.4をOFF状態に、選択トランジスタTr.5,Tr.6をON状態として、ホール素子1001の図中右側の十字形状部に固定された磁性粒子1101の検出信号を得る。以上、得られた3つの検出信号の合計値によって、検体溶液中のPSA1103を定量することができる。
【0042】
以上説明した本実施例では、ホール素子が1つのみの場合について説明したが、複数個のホール素子を持つ検出系とすることで、一度に複数の抗原を検出することも可能である。
【0043】
このように実施例を挙げて示した本発明は、磁性体の検出、さらには磁性粒子を標識とした非磁性物質の検出として利用され、測定対象物質の数や量を正確に検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の物質検出装置の一構成例を示す概念図。
【図2】本発明の物質検出装置の測定対象物質固定可能領域の一例を説明する概念図。
【図3】本発明の物質検出装置の測定対象物質固定可能領域の一例を説明する概念図。
【図4】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図5】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図6】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図7】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図8】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図9】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図10】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図11】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図12】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図13】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図14】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図15】磁性粒子の固定位置に対するホール起電力の大きさのシミュレーション結果を示すグラフ。
【図16】磁性粒子が一次抗体、抗原さらに二次抗体を介して固定されることを説明する図。
【図17】シミュレーション範囲を説明するための概念図。
【図18】従来のセンサの測定方法を説明するための概念図。
【図19】磁性粒子から生じる浮遊磁界の分布を示す概念図。
【符号の説明】
【0045】
1001 ホール素子
1002 ホール電圧検出電極
1003、1005 DC電源
1004 ロックインアンプ
1006 バイアス磁界印加用コイル
1007 AC電源
1008 プローブ磁界印加用コイル
1009 測定対象物質固定可能領域
1101 磁性粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜面上部から見た形状が、四角形である部分と、該四角形の夫々の辺の部分に接した任意の形状の4つの枝部分とを少なくとも含む形状であり、かつ該枝部分に電極を具備するホール素子と、
該ホール素子の対向する任意の2つの電極に接続された電流源、および該電流源が接続された電極以外の2つの対向する電極の電位差からホール電圧を検出するホール電圧検出手段と、を備え、
前記電流源より電流を流すことでホール起電力を得るとともに、前記ホール電圧検出手段によって検出されるホール電圧から、前記ホール素子の膜面上部に固定された測定対象物質の量を換算して検出する物質検出装置であって、
該固定された測定対象物質の個数とホール起電力の大きさとが一対一で対応するよう、前記ホール素子の膜面上部に前記測定対象物質が固定可能な領域が形成されている物質検出装置。
【請求項2】
前記測定対象物質が固定可能な領域が2つ以上存在し、該領域の中心が前記ホール素子の四角形部分の対角線上であって、かつ対角線の中心から等距離に位置することを特徴とする請求項1に記載の物質検出装置。
【請求項3】
前記測定対象物質が略球形であり、かつ該測定対象物質の粒径が、前記ホール素子の四角形部分の短辺の1/5以下であるときに、前記測定対象物質が固定可能な領域が、前記ホール素子の四角形部分の対角線上であって、かつ対角線の中心から等距離にある領域であることを特徴とする請求項2に記載の物質検出装置。
【請求項4】
前記ホール素子の四角形部分が正方形であり、前記測定対象物質の中心から前記ホール素子の中で電流が流れる領域までの距離をr、前記ホール素子の中で電流が流れる領域の厚さをt、前記ホール素子の四角形部分の一辺の長さをLとするときに、定数Rが

で表され、前記測定対象物質が固定可能な領域が、前記ホール素子の四角形部分の角を形成する2辺の両方に接する直径2Rの円の同心円であるとともに直径がRである円の領域内であることを特徴とする請求項3に記載の物質検出装置。
【請求項5】
前記測定対象物質が略球形であり、かつ該測定対象物質の粒径が、前記ホール素子の四角形部分の短辺の2/5以上であるときに、前記測定対象物質が固定可能な領域が、前記ホール素子の四角形部分から、該四角形部分の角を形成する2辺の両方に接する直径2Rの円に囲まれる4つの領域を除いた領域であることを特徴とする請求項1に記載の物質検出装置。
【請求項6】
前記測定対象物質が固定可能な領域が、生体分子を特異的に結合する材料によって形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の物質検出装置。
【請求項7】
磁性体からなる測定対象物質を前記生体分子に特異的に結合させることによって、前記生体分子を間接的に検出することを特徴とする請求項6に記載の物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−47546(P2009−47546A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213795(P2007−213795)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】