説明

物質検査装置および物質検査方法

【課題】検査対象に付着している物質を迅速かつ効率よく検査することを目的とする。
【解決手段】ベルトコンベア50上を搬送されてくる食品1に付着している物質を試料として採取して検査する装置であって、ベルトコンベア50上に配置され、ベルトコンベア50上を搬送されてくる食品1周辺の雰囲気とともに食品1に付着している物質を試料として吸引する試料吸引装置13と、試料吸引装置13により吸引された試料を分析する質量分析装置23とを備える物質検査装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質検査装置および物質検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、ガスクロマトグラフィ等を用いて食品等に付着している残留農薬等を分析する検査装置が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−213567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、食品に付着している農薬などの化学薬品について、食品をすりつぶしてガスクロマトグラフィにかけて検査する方法では、試料を拭き取ったり、前処理して試料瓶に試料液を注入したりするのに人の手作業が必要となり、大量の検査を短時間で行うことができず検査に2〜3日程度を要するという不都合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、検査対象に付着している物質を迅速かつ効率よく検査することができる物質検査装置および物質検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、搬送ライン上を搬送されてくる検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、前記搬送ライン上に配置され、前記検査対象周辺の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引部と、該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部とを備える物質検査装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、試料吸引部により、搬送されている検査対象の流れを妨げることなく試料を採取し、これを質量分析部で分析することで、大量の検査対象についてそれぞれに付着している物質の成分を短時間で検査することができる。例えば、食品等を検査対象とした場合、製造工程中における大量の食品等について、残留農薬や有害化学物質の存在の有無を迅速に全数検査することができる。
なお、質量分析部としては、例えば、TOFMS(time−of−flight mass spectrometer)等の質量分析計が好適に用いられる。
【0008】
本発明は、梱包容器によって梱包されている検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、前記梱包容器に挿通され、該梱包容器内の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引部と、該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部とを備える物質検査装置を提供する。
【0009】
検査対象に付着している物質は、気化した状態で梱包容器内に留まることにより濃縮されている場合がある。本発明によれば、試料吸引部により、梱包容器内の雰囲気とともに試料を吸引するだけで、採取した試料を感度よく分析することができ、検査対象に付着している物質の成分を精度よく検査することができる。
【0010】
上記発明においては、本体が据え付けられる台車を備えていることとしてもよい。
台車により物質検査装置が可搬性を有するので、試料を採取する対象、位置または時間等を任意に変えながら検査を行うことができる。
【0011】
本発明は、検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、前記検査対象を収容する検査対象収容容器と、該収容容器内の前記検査対象の前記試料を加熱気化する加熱部と、該加熱部により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引部と、該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部とを備える物質検査装置を提供する。
【0012】
本発明によれば、検査対象をすり潰したり検査対象から試料を拭き取ったりする前処理が必要なく、検査対象収容容器に検査対象をそのまま入れて加熱することによって試料を採取することができる。また、加熱部により食品を加熱することで、検査対象に農薬成分等の物質が付着している場合にはこれらの蒸気圧を上げることができ、感度を上げて分析を行うことができる。
【0013】
なお、加熱部としては、ヒータ、マイクロ波照射装置またはレーザ光発生装置等が挙げられる。また、検査対象収容容器は、例えば、検査対象とする食品等に加工を加えることなく現物の状態で収容可能な容積を有するものとすればよい。また、密閉可能な容器が望ましい。
【0014】
上記発明においては、前記検査対象収容容器が、該容器内の前記検査対象に向けてキャリアガスを吹き付けて前記試料を前記試料吸引部へと導くキャリアガス吐出部を備えることとしてもよい。
【0015】
キャリアガス吐出部により、検査対象に付着している試料を効率的に採取することができる。例えば、検査対象収容容器内に検査対象を設置可能なステージ等を設け、キャリアガス吐出部からステージ上を通過するようにキャリアガスを吐出させることとすればよい。
【0016】
本発明は、検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、前記検査対象を保持する検査対象保持部と、該検査対象保持部材により保持されている前記検査対象を加熱して前記試料を加熱気化する加熱部と、該加熱部により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引部と、該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部とを備え、前記検査対象保持部が、複数の貫通孔を有する熱伝導板である物質検査装置を提供する。
【0017】
本発明によれば、検査対象保持部により、検査対象を安定させた状態で熱を高効率で伝熱させて試料を加熱気化させることができる。また、試料吸引部により、気化した試料を検査対象保持部の貫通孔から効率的に採取することができ、分析効率の向上を図ることができる。
【0018】
検査対象保持部としては、例えば、ステンレス板やアルミ板等を用いることができ、これら金属板の上に検査対象を載せて保持することとしてもよいし、2枚の金属板で検査対象を挟み込んで保持することとしてもよい。
【0019】
本発明は、搬送ライン上を搬送されてくる検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、前記搬送ライン上の前記検査対象周辺の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引工程と、該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程とを備える物質検査方法を提供する。
【0020】
本発明によれば、搬送されている検査対象の流れを妨げることなく試料を採取し、大量の検査対象を短時間で全数検査することができる。試料吸引工程においては、例えば、検査対象にキャリアガスを吹き付けて、キャリアガスとともに試料を吸引することとしてもよい。この場合、検査対象の下方からキャリアガスを吹き付け、検査対象の上方でキャリアガスを吸引するのが望ましい。このようにすることで、検査対象の上方からキャリアガスを吹き付けて下方で吸引する場合に比べて、キャリアガスにごみや埃等が混入してしまうのを抑制し、試料の採取効率および分析精度の向上を図ることができる。
【0021】
本発明は、梱包容器によって梱包されている検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、前記梱包容器に挿通部を挿通し、前記梱包容器内の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引工程と、該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程とを備える物質検査方法を提供する。
【0022】
本発明によれば、挿通部を介して梱包容器内の雰囲気とともに試料を吸引することで、梱包容器内で気化した試料が容器内に留まることによって濃縮されている場合に、試料を感度よく分析することができる。
【0023】
本発明は、検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、前記検査対象を密閉可能な容器に収容する収容工程と、前記容器内の前記検査対象の前記試料を加熱気化する加熱工程と、該加熱工程により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引工程と、該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程とを備える物質検査方法を提供する。
【0024】
本発明によれば、検査対象をすりつぶす等の前処理を行うことなく、密閉容器に検査対象を入れて試料を加熱気化することで、作業効率の向上を図るとともに、感度を上げて分析することができる。試料吸引工程においては、例えば、容器内の検査対象にキャリアガスを吹き付けて、キャリアガスとともに試料を吸引することとしてもよい。
【0025】
本発明は、検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、複数の貫通孔を有する熱伝導板で前記検査対象を保持する検査対象保持工程と、前記熱伝導版で保持した前記検査対象を加熱して前記試料を加熱気化する加熱工程と、該加熱工程により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引工程と、該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程とを備える物質検査方法を提供する。
【0026】
本発明によれば、熱伝導板を介して検査対象に高効率で伝熱させ、また、気化した試料を熱伝導板の貫通孔を通過させて効率的に採取することで、分析効率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、検査対象に付着している物質を迅速かつ効率よく検査することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態に係る物質検査装置100および物質検査方法について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る物質検査装置100は、例えば、図1に示すように、食品(検査対象)10の搬送ライン上で、食品1に残留農薬や有害化学物質等の危険物質が付着していないかどうかを検査する装置である。この物質検査装置100は、例えば、調理工程等から包装工程等へ食品1を搬送するベルトコンベア(搬送ライン)50上に設置されている。
【0029】
物質検査装置100は、図2に示すように、ベルトコンベア50が内部を通過する筒状の筐体3と、筐体3内に収容され、通過するベルトコンベア50上の食品1に付着している物質を試料として吸引する試料吸引装置(試料吸引部)13と、試料吸引装置13により吸引された試料を質量分析する質量分析装置(質量分析部)23と、質量分析の結果、農薬等の存在が検出された場合に点灯する警報器33とを備えている。なお、符号35は、検査結果を表示するモニタや操作ボタン等を示している。
【0030】
筐体3は、ベルトコンベア50が通過する本体入口部4Aおよび本体出口部4Bと、ベルトコンベア50の通路に形成される中空の試料採取空間5とを有している。
本体入口部4Aおよび本体出口部4Bには、ベルトコンベア50の上方に隙間をあけてカーテン6が取り付けられている。
【0031】
カーテン6は、試料採取空間5の空気の出入りを減少させるためのものであり、搬送されている食品1の妨げとならないように取り付けられている。試料採取空間5の天井面には、ベルトコンベア50の搬送面に対向するように複数の吸引口5aが設けられている。
【0032】
試料吸引装置13は、試料採取空間5の吸引口5aと質量分析装置23とを流通可能に接続する流通管15と、試料採取空間5の雰囲気を吸引して質量分析装置23へ導く吸引ポンプ17とを備えている。
【0033】
吸引ポンプ17は、公知の真空ポンプであり、吸引口5aから試料採取空間5の雰囲気を吸引し、流通管15を介して質量分析装置23へ気流を導くものである。この吸引ポンプ17は、試料採取空間5の雰囲気を吸引することで、ベルトコンベア50上の食品1周辺の雰囲気とともに食品1に付着していた物質が気化した試料を吸引するようになっている。なお、吸引ポンプ17は、筐体3の底部に設置されている。
【0034】
質量分析装置23は、流通管15によって導かれた気流を導入して気流に含まれる試料をイオン化するイオン化チャンバ25と、イオン化チャンバ25によりイオン化された物質を検出する検出装置(質量分析部)27と、質量分析装置23内を減圧状態に維持する分析用真空ポンプ29とを備えている。
【0035】
イオン化チャンバ25には、イオン化した物質を濃縮するイオントラップ(図示略)が設けられている。物質を濃縮することで、検出装置27の感度を高めることができる。
検出装置27は、質量分析法により試料分析を行うものであり、例えば、TOFMS等の質量分析計である。質量分析法は、分解能が高く、かつ、誤報率が低い。
【0036】
この検出装置27は、イオン化チャンバ25により生成されたイオンを質量の違いによって分離して検出し、物質の構造および組成等を分析するようになっている。この検出装置27によれば、イオン化チャンバ25に試料が導入されてから短時間(例えば、1秒以内)で特定物質を検知することができる。検出装置27によって得られた物質のスペクトルは、図示しない判定部により判定されるようになっている。
【0037】
判定部には、予め計測された様々な農薬物質や有機化学物質等の危険物質のスペクトルがデータベース上に記憶されている。例えば、メタミドホスは、図3に示されるようなスペクトルが得られる。また、ジクロルボスは、図4に示されるようなスペクトルが得られる。図3および図4において、縦軸は検出強度を示し、横軸は質量電荷比を示している。なお、イオンA,Bの化学式は推測によるものである。
【0038】
判定部では、検出装置27から送られてきた物質のスペクトルと、データベース上の危険物質のスペクトルとが照合され、物質が危険物質かどうかが判定されるようになっている。危険物質が検出された場合には、警報器33が作動するようになっている。
【0039】
分析用真空ポンプ29は、質量分析装置23内、特にイオン化チャンバ25内を約10−3Paの高真空状態に維持するようになっている。これにより、イオン化チャンバ25において生成されたイオンが、安定かつ分解せずに検出装置27に送られるようになっている。
【0040】
このように構成された本実施形態に係る物質検査装置100による物質検査方法について説明する。
ベルトコンベア50上を搬送されてきた食品1が、筐体3の本体入口部4Aから試料採取空間5に導入されると、吸引ポンプ17の作動により、通過中の食品1周辺の雰囲気が吸引される。このとき、食品1から気化した試料が雰囲気とともに吸引口5aに吸引され、流通管15を介して質量分析装置23へと送られる(試料吸引工程)。
【0041】
質量分析装置23においては、流通管15により導かれた気流がイオン化チャンバ25に導入され、気流に含まれる試料がイオン化チャンバ25内でイオン化される。生成されたイオンは、イオントラップで濃縮された後、分析用真空ポンプ29の作動により検出装置27へと送られて質量分析法にかけられる。
【0042】
検出装置27においては、イオンが質量の違いによって分離されて検出され、物質の構造および組成等が分析される(質量分析工程)。検出装置27により分析された物質のスペクトルは判定部へと送られて、データベース上の危険物質のスペクトルと照合され、物質が危険物質かどうか判定される。
【0043】
判定部により、危険物質の存在が確認されない場合には、食品1は物質検査装置100を通過して次工程へと搬送される。一方、危険物質の存在が確認された場合は、警報器33が作動して検査員に報知される。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係る物質検査装置100および物質検査方法によれば、試料吸引装置13により、搬送されている食品1の流れを妨げることなく試料を採取し、これを検出装置27で分析することで、大量の食品1にそれぞれに付着している物質の成分を短時間で検査することができる。これにより、残留農薬や有害化学物質等の存在の有無を迅速に全数検査することができる。
【0045】
なお、本実施形態においては、例えば、試料吸引装置13が、ベルトコンベア50上の食品1にキャリアガスを吹き付けるキャリアガス噴出口(図示略)を備えることとしてもよい。例えば、キャリアガス噴出口をベルトコンベア50の下方に配置し、食品1の下方から上方の吸引口5aへとキャリアガスを流すこととすればよい。キャリアガスによって試料を吸引口5aへと導くことで試料の採取効率を高めることができる。また、検査対象の上方からキャリアガスを吹き付けて試料採取空間5の下方で吸引する場合に比べて、ごみや埃等が吸引されてしまうのを抑制し分析精度を高めることができる。キャリアガスとしては、例えば、空気、窒素ガス、アルゴンガス、または、ヘリウムガス等が好適に用いられる。
【0046】
また、本実施形態においては、物質検査装置100が、加工食料品の製造工程における搬送ライン上に設置されていることとしたが、例えば、食品1を製造した後の流通過程における流通ライン上や生鮮食料品の仕分け過程における搬送ライン上に設置することとしてもよい。
【0047】
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態に係る物質検査装置200および物質検査方法について、図5および図6を参照して説明する。
本実施形態に係る物質検査装置200は、梱包容器250によって梱包されている食品201等に付着している物質を試料として採取して検査する装置である点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る物質検査装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
物質検査装置200は、質量分析装置23等を備える略直方体形状の物質検査装置本体203と、物質検査装置本体203が据え付けられたワゴン(台車)205とを備え、可搬性を有している。ワゴン205には、検査員がワゴン205を搬送するための持ち手205aとタイヤ205bとが取り付けられている。
【0049】
物質検査装置本体203は、質量分析装置23のほか、梱包容器250内の雰囲気を吸引する試料吸引装置213と、物質検査装置200を稼動させるバッテリ207とを備えている。
【0050】
試料吸引装置213は、梱包容器250に挿通される吸引ホース(挿通部)215と、吸引ホース215を介して梱包容器250内の雰囲気を吸引する吸引ポンプ17とを備えている。吸引ホース215は、長手方向に伸縮可能であるとともに、曲げ変形に対して高い柔軟性と高い戻り剛性を有する弾性変形可能な部材であり、質量分析装置23のイオン化チャンバ25と梱包容器250内部とを流通可能に接続するものである。
【0051】
この吸引ホース215は、基端部がイオン化チャンバ25に接続されており、先端部が物質検査装置本体203の上端面を抜けて容器外部に延び、梱包容器250内に挿通されるようになっている。吸引ホース215の先端部は、梱包容器250の上端面から挿通するのが望ましい。食品201の上方から容器内の雰囲気を吸引することで、容器の底部に溜まるごみや埃等が吸引されてしまうのを抑制することができる。また、梱包容器250は、吸引ホース215が挿通される部分以外は密閉状態とされることが望ましい。略密閉状態の容器内では、気化した試料が梱包容器250内に留まることで濃縮されている場合がある。
【0052】
本実施形態においては、吸引ホース215の先端部を梱包容器250内に挿通し、吸引ポンプ17の作動によって梱包容器250内の雰囲気を吸引することで、梱包容器250内で気化した試料が気流とともに吸引ホース215を介して質量分析装置23へと導かれる(試料吸引工程)。吸引ホース215により導かれた気流に含まれる試料は、イオン化チャンバ25を介して検出装置27に導入され、質量分析法により分析される(質量分析工程)。
【0053】
以上説明したように、本実施形態に係る物質検査装置200および物質検査方法によれば、試料吸引装置213により、梱包容器250内の雰囲気を吸引するだけで試料を効率的に吸引することができる。特に、気化した試料が梱包容器250内に留まることで濃縮されている場合に感度よく分析することができ、梱包容器250内の食品201に付着している物質の成分を精度よく検査することができる。また、ワゴン205により、物質検査装置200を搬送可能にすることで、梱包容器250を移動させることなく、試料を採取する対象、位置または時間等を任意に変えながら検査を行うことができる。
【0054】
[第3の実施形態]
以下、本発明の第3の実施形態に係る物質検査装置300および物質検査方法について、図7を参照して説明する。
本実施形態に係る物質検査装置300は、密閉可能な容器に収容した食品301に付着している物質を試料として採取して検査する装置である点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る物質検査装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0055】
物質検査装置300は、食品301を収容する収容容器(検査対象収容容器)303と、収容容器303内の食品301を加熱して試料を気化させるヒータ(加熱部)333と、ヒータ305により加熱気化された試料を吸引する試料吸引装置(試料吸引部)13と、質量分析装置23とを備えている。
【0056】
収容容器303は、上端部に開口部305aを有する中空の容器本体305と、開口部305aを密閉可能な蓋307と、容器本体305内部に配置され、食品301が設置されるステージ(図示略)とを備えている。
【0057】
容器本体305は、大きさ、形状等が異なる様々な種類の食品301を切断したりすり潰したりすることなく現物の状態で収容可能な容積を有していることが望ましい。例えば、キャベツのような比較的大きい生鮮食料品を切断等することなく収容可能な容積を有していることが望ましい。この容器本体305は、蓋307の開閉により、開口部305aから食品301を出し入れしたり容器内を密閉したりすることができるようになっている。
【0058】
また、容器本体305は、開口部305a近傍に配置された図示しない吸引口と、ステージに設置された食品301にキャリアガスを吹き付けて試料を吸引口へと導くキャリアガス吐出部309とを備えている。キャリアガス吐出部309は、容器本体305の底部に設けられており、吐出したキャリアガスがステージ上を通過して上方の開口部へと流れるようになっている。
【0059】
ヒータ333は、容器本体305の周囲に配置されており、食品301を大気圧条件下で加熱し試料を気化するようになっている。
試料吸引装置13は、流通管15が容器本体305の吸引口と質量分析装置23とを流通可能に接続するようになっている。
【0060】
本実施形態においては、容器本体305の開口部305aから食品301を現物の状態で入れてステージ上に設置し、蓋307を閉めて開口部305aを密閉する(収容工程)。容器本体305内では、キャリアガス吐出部309からキャリアガスが吐出され、ステージ上を通過して吸引口へ流れている。
【0061】
ヒータ307の作動により、容器本体305内の食品301が加熱されて試料が気化し(加熱工程)、キャリアガスとともに吸引口から吸引されて流通管15を介して質量分析装置23へと導かれる(試料吸引工程)。流通管15により導かれた気流に含まれる試料は、イオン化チャンバ25を介して検出装置27に導入され、質量分析法により分析される(質量分析工程)。
【0062】
以上説明したように、本実施形態に係る物質検査装置300および物質検査方法によれば、食品301をすり潰したり食品301から試料を拭き取ったりする前処理が必要なく、作業工程の簡略化を図ることができる。また、収容容器303に食品301を入れて試料を加熱することで、試料の蒸気圧を上げて濃度を高めることができ、感度を上げて分析することができる。
【0063】
なお、本実施形態においては、加熱部としてヒータ307を例示して説明したが、これに代えて、例えば、マイクロ波照射装置やレーザ光発生装置等を採用することとしてもよい。
【0064】
[第4の実施形態]
以下、本発明の第4の実施形態に係る物質検査装置400および物質検査方法について、図8および図9(a),(b)を参照して説明する。
本実施形態に係る物質検査装置400は、食品401を保持しながら試料を採取して検査する装置である点で、第1の実施形態と異なる。
以下、第1の実施形態に係る物質検査装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0065】
物質検査装置400は、食品401を保持する熱伝導率の高い食品ホルダ(検査対象保持部)403と、食品ホルダ403により保持されている食品401を加熱して試料を気化させる加熱装置433と、試料吸引装置13と、質量分析装置23とを備えている。
【0066】
食品ホルダ403は、一対のステンレス板405によって構成されており、2枚のステンレス板405の間に食品401を挟み込むようになっている。これらステンレス板405には、厚さ方向に貫通する複数の微小の貫通孔405aが全面にわたりメッシュ状に設けられている。
【0067】
貫通孔405aは、ステンレス板405に挟まれている食品401から気化した試料を通過させて、食品ホルダ403の外部へ抜け易くするものである。食品401としては、比較的平たい形状のものが好ましい。
【0068】
加熱装置433は、食品ホルダ403を挿入可能な開口部405aおよび中空の気化空間435aを有する矩形状の気化容器本体435と、気化容器本体435の外側平面に沿って配置されたヒータ(加熱部)437とを備えている。
【0069】
気化容器本体435の気化空間435aは、食品ホルダ403を挿入できる程度に狭くした平面状に延びるスリット状に形成されている。気化空間435aの閉塞端部には、質量分析装置23と試料吸引装置13とを流通可能に接続する流通管15が接続されている。
【0070】
ヒータ437は、気化空間435a内に挿入された食品ホルダ403を外部から加熱し、ステンレス板405を伝熱させて食品401に付着している試料を気化させるようになっている。
【0071】
本実施形態においては、食品ホルダ403の一対のステンレス板405によって食品401を挟み込んで保持し(検査対象保持工程)、食品ホルダ403を加熱装置433の開口部405aから気化空間435aに挿入する。ヒータ437の作動により、気化空間435a内の食品ホルダ403を伝熱させて食品401を加熱し、試料を気化させる(加熱工程)。熱伝導率の高いステンレス板405により、食品401に高効率で熱を伝えて試料を気化させ易くすることができる。
【0072】
気化した試料は、ステンレス板405の貫通孔405aを通過して気化空間435aに抜け、流通管15を介して質量分析装置23へと導かれる(試料吸引工程)。流通管15により導かれた気流に含まれる試料は、イオン化チャンバ25を介して検出装置27に導入され、質量分析法により分析される(質量分析工程)。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る物質検査装置400および物質検査方法によれば、食品401に高効率で伝熱させるとともに、気化した試料を食品ホルダ403の貫通孔405aを通過させて効率的に採取することで、分析効率の向上を図ることができる。この物質検査装置400によれば、例えば、食品ホルダ403を加熱装置433に挿入してから、約0.3秒で物質のスペクトルを取得することができる。
【0074】
なお、本実施形態においては、食品ホルダ403が一対のステンレス板405によって構成されていることとしたが、食品ホルダ403は熱伝導率のよい金属板等によって構成されていればよく、例えば、アルミ板等を採用してもよい。また、食品ホルダ403を1枚のステンレス板405で構成し、ステンレス板405の上に食品401を載せることで保持することとしてもよい。
【0075】
また、本実施形態に係る物質検査装置400を用いてメタミドホスやジクロルボス等の危険物質のスペクトルを観測することができる。例えば、図10に示すように、食品ホルダ403を1枚のステンレス板405で構成し、ステンレス板405に試薬Aとしてメタミドホスやジクロルボスを付着させて加熱装置433へ導入すればよい。物質検査装置400を用いることで、加熱装置433へ試薬Aを導入してから約0.3秒でスペクトルを取得することができる。
【0076】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではない。
例えば、上記各実施形態においては、加工食料品や生鮮食料品等に付着している危険物質等を検出することとしたが、これに限定されるものではない。例えば、玩具など、子供が口に入れる可能性があるようなものを検査対象としてもよい。
また、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る物質検出装置の斜視図である。
【図2】図1の物質検査装置およびベルトコンベアの縦断面図である。
【図3】メタミドホスのスペクトルを示す図である。
【図4】ジクロルボスのスペクトルを示す図である。
【図5】本発明の第2の実施形態に係る物質検出装置の斜視図である。
【図6】図5の物質検出装置および梱包容器の縦断面図である。
【図7】本発明の第3の実施形態に係る物質検出装置の縦断面図である。
【図8】本発明の第4の実施形態に係る物質検出装置の縦断面図である。
【図9】(a)は2枚のステンレス板で食品を挟み込む前の状態を示し、(b)は2枚のステンレス板で食品を挟みこんで保持している状態を示す斜視図である。
【図10】試薬を食品ホルダの1枚のステンレス板に付着させた様子を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1,201,301,401 食品(検査対象)
13,213 試料吸引装置(試料吸引部)
23 質量分析装置(質量分析部)
100,200,300,400 物質検査装置
205 ワゴン(台車)
303 収容容器(検査対象収容容器)
333,437 ヒータ(加熱部)
309 キャリアガス吐出部
403 食品ホルダ(検査対象保持部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送ライン上を搬送されてくる検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、
前記搬送ライン上に配置され、前記検査対象周辺の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引部と、
該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部と
を備える物質検査装置。
【請求項2】
梱包容器によって梱包されている検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、
前記梱包容器に挿通され、該梱包容器内の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引部と、
該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部と
を備える物質検査装置。
【請求項3】
本体が据え付けられる台車を備えている請求項2に記載の物質検査装置。
【請求項4】
検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、
前記検査対象を収容する検査対象収容容器と、
該収容容器内の前記検査対象の前記試料を加熱気化する加熱部と、
該加熱部により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引部と、
該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部と
を備える物質検査装置。
【請求項5】
前記検査対象収容容器が、該容器内の前記検査対象に向けてキャリアガスを吹き付けて前記試料を前記試料吸引部へと導くキャリアガス吐出部を備える請求項4に記載の物質検査装置。
【請求項6】
検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査装置であって、
前記検査対象を保持する検査対象保持部と、
該検査対象保持部材により保持されている前記検査対象を加熱して前記試料を加熱気化する加熱部と、
該加熱部により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引部と、
該試料吸引部により吸引された前記試料を分析する質量分析部と
を備え、
前記検査対象保持部が、複数の貫通孔を有する熱伝導板である物質検査装置。
【請求項7】
搬送ライン上を搬送されてくる検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、
前記搬送ライン上の前記検査対象周辺の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引工程と、
該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程と
を備える物質検査方法。
【請求項8】
梱包容器によって梱包されている検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、
前記梱包容器に挿通部を挿通し、前記梱包容器内の雰囲気とともに前記試料を吸引する試料吸引工程と、
該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程と
を備える物質検査方法。
【請求項9】
検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、
前記検査対象を密閉可能な容器に収容する収容工程と、
前記容器内の前記検査対象の前記試料を加熱気化する加熱工程と、
該加熱工程により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引工程と、
該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程と
を備える物質検査方法。
【請求項10】
検査対象に付着している物質を試料として採取して検査する物質検査方法であって、
複数の貫通孔を有する熱伝導板で前記検査対象を保持する検査対象保持工程と、
前記熱伝導版で保持した前記検査対象を加熱して前記試料を加熱気化する加熱工程と、
該加熱工程により加熱気化された前記試料を吸引する試料吸引工程と、
該試料吸引工程により吸引された前記試料を分析する質量分析工程と
を備える物質検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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