説明

特にエアバッグのための織物

【課題】中実糸を用いた織物と同等の高いカバーファクター及び高い端部櫛引抵抗(edgecomb resistance)を変えることなく、軽量な織物を提供する。
【解決手段】特にエアバッグのための織物であって、少なくとも一部にポリマー材料の中空フィラメント糸を含み、該織物はWALZ密度によるカバーファクターで、同じ直径の中実フィラメント糸を用いた場合と同じカバーファクターを有する、織物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にエアバッグのための、少なくとも一部にポリマー材料製の中空のフィラメント糸を含む織物に関する。
【背景技術】
【0002】
そのような織物は例えばアクゾ(AKZO)によるEP0616061B1により公知である。これに開示されたコンタクトないしフィルタ織物は、異なる糸密度と異なる直径の糸で織られた織物である。この織物の第1の問題点は、中空糸を用いているにもかかわらず、自動車用に用いるために強まってきた重量を減らすという要求に比べてまだ重すぎることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP0616061B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その中に開示された、織物中の中実糸及び中空糸は同じデニールを持つ。なぜなら、その発明者は、高通気性かつ高強度の織物には中実糸も中空糸も同じ繊維強度を持つ必要があり、そのため断面において同じ材料重量を有する必要があるという前提に基づいているからである。その結果として中実糸(高い繊維密度)と中空糸(低い繊維密度)とで繊維密度が異なることにより、中実糸と中空糸とで直径が異なるものとなり、それらの2つのタイプの繊維が織物に与える影響として、織物の厚さが不安定かつ不均一となるという点が挙げられる。このような織物は均一なコーティングが難しいという難点もある。中空糸を用いた織物はまた厚さが厚くなり、その結果エアバッグのたたんだときの容積がかさばり、エアバッグとしては不利である。EP0616061B1に開示された織物は、WALZ密度を求める方法により正しく計算されたカバーファクター(繊維密度)から明らかなように、(EP0616061B1で計算されたものとは異なって)場所によってカバーファクターが異なり、したがってその空気透過率も異なる。織物の場所によって空気透過率が異なることは、エアバッグにとって非常に好ましくない。なぜなら、信頼性の高いエアバッグの「滞留時間(Standzeit)」、即ちどの程度の時間、本来の要求を満たした状態でふくらんでいるか、を規定することができなくなるからである。
【0005】
中空繊維を全部又は一部含む中空糸を用いることにより、織物の熱容量を増加させることが知られている。EP0616061B1はこの効果を利用するために太さ(デニール)の異なる中空糸と中実糸を用いているが、上記のような問題点がある。
【0006】
さらに、EP0616061B1(の最初)には、中空断面積のパーセンテージが40%を超えると繊維が硬くなり、エアバッグの折り畳み性能が悪くなることを記載し、そして例えば一部又は全部が中空の繊維で形成された糸が、200から1100デニール(dtex)の範囲にあること、そしてこれより小さい糸は製造困難であり、これより大きい糸は折り畳み性能が非常に悪く利用不可になるという問題があることを確認している。
【0007】
このような場合、中空フィラメントの製造において中孔(ルーメン、フィラメントの孔)が増加してもフィラメントのデニールを変えないで製造する、即ち中空フィラメントのポリマー材の質量が中実のポリマー材の質量と同じとなるように製造するという点が重要である。これに加えて、中孔は糸の直径を増加させる。かくて、EP0616061B1に開示された構造においては、単位長さあたりの糸の交織糸数(Faeden/cm)をより少なくする必要があるが、より太い糸では織物中の縦糸と横糸の織り結び(Einbindung=Ondulation)がほどけやすくなる。これとは別に、中空糸は、糸の壁厚(輪部の面積)が大きくなるほど柔軟性が少なくなる。これは交織しにくいというデメリットを生ずる。
【0008】
本発明は、従来技術の欠点を解消するか、少なくとも大きく減少させるエアバッグ用の織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、少なくとも一部にポリマー材の中空フィラメント糸を含む、特にエアバッグ用の織物であって、WALZ密度によるカバーファクター(Gewebedichte,GD)が、同じ直径の中実フィラメント糸を用いたときと同じカバーファクターを有するという特徴を持つ織物によって達成される。本発明に係る織物により、公知の織物よりも軽い重量で、高いカバーファクター(GD)及び高い端部櫛引抵抗(Kammausziehkraft, edgecomb resistance)を変えることなく、織物の熱容量ないし耐熱性を高める中空フィラメントの性質を特に有効利用することができる。中空フィラメント糸と中実フィラメント糸とを本発明に基づいて用いることにより、強度、織物厚さ、カバーファクターを一定に保つことができる。端部櫛引抵抗(縫い目の強さの尺度)も増加させることができる。本発明に係る織物は、乗用車又は航空機の乗員拘束システムのためのエアバッグに特に適している。
【0010】
中空繊維糸(中空フィラメント)と中実繊維糸(中実フィラメント)の直径は同じなので、本発明に係る織物は、中空フィラメントを用いない同等の織物よりも軽い。この重量の軽減程度は、中孔(ルーメン)のパーセンテージによる。本発明に係る織物で作ったエアバッグはその充填密度は変わらないので、本発明に係る織物を利用する場合でもモジュールの寸法を変更する必要がないので有利である。更なる大きな利点として、織物の重量が軽いために、エアバッグの急激な(高度にダイナミックな)展開時においてその加速度を改善できるということがある。さらに、中実フィラメントとそれと同じ直径を持つ中空フィラメントを組み合わせることによって、均一な織物地を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る織物は、以下のような織り構造を有する。即ち、
−中空フィラメント(糸)のデニールは、ルーメンのパーセンテージが増加するにつれて小さくなる。
−糸の直径、糸密度、及びカバーファクター(GD)は一定である。
−中空フィラメントの輪部の面の壁(管壁)は、ルーメンのパーセンテージが増加すると薄くなる。
−ルーメンのパーセンテージの減少=重量の減少、という式が成り立つ。
【0012】
ルーメンのパーセンテージの定義:ルーメンのパーセンテージとは、中空フィラメントのルーメン(中孔)部分(断面積)の、中空フィラメントの全断面積に対するパーセント割合である。
【0013】
従来技術の織物によれば、中空フィラメントの中空断面積の割合が大きくなるにつれて、中空フィラメントの剛性が(好ましくない意味で)増加する。しかし本発明に係る織物の構造では、中孔が大きくなると、輪部の面の壁(管壁)が薄くなり、これは幸いにも中空フィラメントの曲げ剛性を増加させることにはならない。
【0014】
輪部面の壁が薄いことにより、中空フィラメントの織りは同じ直径の中実フィラメントの織りと同じように行うことができる。高いカバーファクターを持つ織物により、それ自身丸い中空フィラメントは交織部において楕円形のねじれによる反転を形成し、これにより端部櫛引抵抗(摩擦抵抗)を高めることができるという利点を有する。
【0015】
例えば、本発明に係る中空フィラメントは、中空フィラメント/中実フィラメントの織り構造(縦糸及び/又は横糸)として、中実フィラメント1本に対して中空フィラメント1本で織ることができる。
【0016】
本発明に係る織物の利用方法として、一体製織(one piece woven、OPW)エアバッグの特に熱応力にさらされる領域において、中空フィラメントをステッチ横糸(Stickschuss)技術(ドイツ特許DE10115890B2参照)に用いることができる。これは本発明に係る織物によってのみ可能である。なぜなら、すべての糸が同じ直径を持つという特徴により、不均一な織物ないしOPW表面から生じる不所望の厚/薄効果を解消できるからである。
【0017】
本発明の1つの有利な視点において、本発明に係る織物は、その中空フィラメント糸が、同じ直径で同じポリマー素材からなる中実フィラメント糸よりも小さなデニール(Titer)を持つ。これによる多くの利点を以下に記載する。例えば、織物の剛性、厚さ、及びカバーファクターは一定である。これにより、均一な織物を簡単に製造することができる(上記参照)。中実フィラメントによる比較可能な織物と比較して、(織り目強度の指標としての)端部櫛引抵抗が大きい。
【0018】
本発明の他の有利な視点において、本発明に係る織物は、同じ直径で同じポリマー素材からなる中実フィラメント糸を含み、中空フィラメント糸が、縦糸及び/又は横糸において所定の繰り返し位置に配置され、平織り(Leinwand)のL1/1よりも高次の織り構造で、かつL1/1織り構造の糸密度よりも高い糸密度で交織されている。これにより、例えば技術的・設計工学的要求に適した織物ないしOPWの熱的に厳しい領域に対して、中空フィラメントを配置することが可能となり、有利である。
【0019】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、同じ直径で同じポリマー素材からなる中実フィラメント糸を含み、中空フィラメント糸が、ステッチ横糸(Stickschuss)技術で、特に熱応力にさらされるOPWの領域に配置され、平織りのL1/1に比してより高い結節構造においてかつL1/1織りに比べて高い糸密度で交織されている。
【0020】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、中空フィラメント糸の中空断面積のパーセンテージは、20%以上の範囲にあり、この範囲は試験において特に有利であることが実証された。
【0021】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、カバーファクターがWALZ密度[DG%]で100%より大きい。これにより、乗員安全具として用いられるエアバッグの織物の強度に関して特に有利であることがわかった。
【0022】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、カバーファクターがWALZ密度で105%より大きい。
【0023】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、中空フィラメントを用いた織物の重量が、中実フィラメントと比べて中孔のパーセンテージの分(範囲)だけ小さい。この織物のさまざまな実施形態が公知の織物例よりも軽量であることにより、質量加速が改善され、非常にダイナミックなエアバッグの展開過程の間に特に有利である。
【0024】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、WALZ密度によるカバーファクターを達成するための有効デニールは、トリガーによって収縮が始まる時のデニールに比べて高い。
【0025】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、中空フィラメント糸が、OPWエアバッグの特に熱応力にさらされる領域に、ステッチ横糸技術を用いて組み込まれている。
【0026】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、ポリマー材料はポリエステルであり、a)糸(Garn, yarn)の直径(d)、b)cm当りの糸密度、c)WALZ密度によるカバーファクターDG、d)織物の厚さ、e)織物の重量、がポリアミド6.6の中実フィラメントで織られた織物に対応する。
【0027】
したがって本発明に係る織物は、近年普通に用いられるポリアミドに比べて大きな比重をもつポリエステルの中空フィラメントのルーメン(中孔)を、重量を約21%減少させるように選択して中空フィラメントとして組み込むことにより、ポリエステルフィラメントを用いて織ることができる。
【0028】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、同じ直径と同じ織り構造を持つ中実のフィラメントで形成された織物と糸密度が同じである。
【0029】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、同じ直径と同じ織り構造を持つ中実のフィラメントで形成された織物と厚さが同じである。
【0030】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、単層領域と2層領域とを持つOPWとして製織されており、縦糸方向又は横糸方向に延在する、実質的に延伸したチューブ状構造(複数)又はチューブ(複数)を含み、この単層領域(複数)に中空フィラメントを含む。
【0031】
上記の記載及び表A,Bからわかるように、実施形態(複数)はおもに高密度でコーティングされていない織物に関するものである。本発明の更なる利点は、ルーメンのパーセンテージに相当する分だけ大きなデニールを持つ中実フィラメントの直径と変わらないように、糸のデニールを減らすようにルーメンのパーセンテージを調整した、ポリマー素材製の中空フィラメントを適用する方法をクレームするものである。例えば、縦糸方向又は横糸方向にチューブを組み込んだチューブ状織物である。この目的のため、高い引張応力のため、2層織りのチューブの引張応力の方向に中実フィラメントが組み込まれている。単層領域は、重量を軽減するために中空フィラメントを含む。チューブ(複数)を横断する方向の糸構成(概して横糸の系)は、その所望機能に応じて中実フィラメントでも中空フィラメントでも組み込むことができ、また交互に組み込むこともできる。
【0032】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、チューブを横断する方向の糸構成は、中実フィラメント又は中空フィラメントのいずれでも組み込むことができる。
【0033】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、チューブ(複数)を横断する方向の糸構成は、中実フィラメントと中空フィラメントとを交互に組み込むことができる。
【0034】
本発明のさらに他の有利な視点において、本発明に係る織物は、縦糸及び横糸方向に伸びる管状構成(Gebilde)ないしチューブ(複数)は中空フィラメントで構成され、単層領域は特に特別な引張応力方向に中実フィラメントで構成される。このような織物は以下のような構成が有利である。即ち、チューブ(複数)が特に耐熱性ないし熱絶縁性に特に適する機能が必要である場合、チューブ(複数)は縦糸及び横糸方向に中空フィラメントで構成される。その場合、単層の中間領域は特に引張応力方向に中実フィラメントで構成されるのが有利である。
【0035】
本発明における中空フィラメントを用いた織物は、一様(ないし均一)な表面を有し(厚いところと薄いところがない)、そのためコーティングに非常に適している。そのため、中空フィラメントによる織物は、コーティングの重量は支持織物(中空フィラメントによる織物)の坪量(単位面積あたりの基礎重量)の減少により相殺されるという新たな効果を有する。さらに、交織部分で楕円形に変形した中空フィラメントはコーティング材を結合するための表面積が大きくなる。
【0036】
本発明に係る、同じ密度、厚さ、そして特に同じ櫛引抵抗を持つ、中実フィラメント又は中空フィラメントにより構成された織物は、混成集積フィラメントシステムに特に適しており、縫い合わせ構造に影響を与えない。以下に記載する実施例では、中実フィラメントを中空フィラメントに置き換えたもの、又は織物製造における混成集積(Mischverbau)について述べる。
【0037】
本発明に係る織物は、一体製織(OPW)エアバッグを含むことを明記する。即ち、同じ厚さで、中実フィラメントと交互に縦糸又は横糸に組み込んだ中空フィラメントを用いた本発明に係る織物からエアバッグを製造することができ、またOPW技術でエアバッグを製造することができる。
【0038】
糸のデニール(Titeir)は、10000mの糸のグラム重量(dtex)で定義される。したがってデニールは糸本体の基礎面積(Grundflaeche)と比重と10000mを掛け合わせたものと同等である。ただし中空フィラメントにおいては、基礎面積は中孔を囲む輪(円環)の面積である。
【0039】
中空フィラメント糸の直径dは、以下の式のように全基礎面積F(輪)+F(中孔)から計算される。
F(全)又は(輪)=dtex(mm
-----------------
g/cm×10,000
F(全)は、F(輪)から中孔パーセンテージを考慮してmmとして計算される。糸の直径dは、WALZ密度で記載されたカバーファクターに関して以下のように計算される。
√F(全)(mm)
d=-----------------
0.885
【0040】
このような用語の用法により、中空繊維とは、中空面積のパーセンテージが糸の全断面積に関連付けられる中孔を持つフィラメントを含む中空糸ないし合成フィラメント糸であるという説明に役立つであろう。
【0041】
WALZ密度で定義されたドイツにおけるカバーファクターDGの定義は、ドイツ、シュトットガルトのRobert Kohlhammer Verlagにより1947年に出版された「繊維の実務」(Textilpraxis)の330-366ページにある「織物密度I(Die Gewebedichte I)」、及び「織物密度II(Die Gewebedichte II)」に記載されている。カバーファクターDGは、繊維の番手と目数、糸素材の密度により記載される。WALZ密度によるカバーファクターDGは、次のように定義される。
カバーファクター:DG%=(dk+ds)*fk*fs
ここで、
dk/ds=縦糸又は横糸の実質的な直径(mm)
fk/fs=縦糸又は横糸の1cmあたりの糸目数
【0042】
中実フィラメントからなる糸の実質直径(Substanzdurchmesser)は、以下の式で与えられる。
√(dtexks
dks=--------------------------(mm)
88.5×√(密度g/cm
(注)上記式は平織(カバーファクターI)のみに適用される。平織り、即ちL1/1より高次の織り目構造の織物は所定の係数を掛けたカバーファクターを用いる。例えば綾織2:1=0.70、綾織2:2=0.56、綾織3:1=0.56、綾織4:4=0.38、サテン1:4=0.49、パナマ(かご織)2:2=0.56であり、カバーファクターIIとする。
【0043】
WALZ密度で規定されたカバーファクター(DG)の計算の説明:
1.有効デニール:
有効デニールは、中実フィラメントの円形面積(Kreisflaeche)と中空フィラメントの輪部の面積(Ringflaeche)から計算される。
2.糸の直径
糸の直径(d)はカバーファクターを計算するのに関係し、中空フィラメントの場合は総断面積(輪の面積+中空部の面積)である。
3.糸のサイズ、密度及び交織の関係:
交織部(L1/1のとき)により得られる面積は、(dk+ds)(mm)で与えられる。
100mm:(dk+ds)の商はcmあたりの最大交織数(100%)に相当する。fk×fsの積は、cmあたりの交織数(Anzahl von Bindungen)に相当する。
以下の実施例は、模式的図解のため図1〜図4によって支持される。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】織り構造の概略断面図である。
【図2】ポリマーの均一なタイルの一例の概略図である。
【図3】「サンドイッチ」タイルの一例の概略図である。
【図4】中空フィラメントによる縦糸横糸交織の概略図である。
【図5】第1の変形例における、縦糸又は横糸のチューブを織り込んだチューブ織りの一例の概略図である。
【図6】第2の変形例における、縦糸又は横糸のチューブを織り込んだチューブ織りの他の例の概略図である。
【実施例】
【0045】
図1は、縦糸、横糸とともに示した、L1/1の織り構造の概略断面図である。したがってWALZ密度で規定されたカバーファクター(DG)は次式で与えられる。
100×fk×fs
----------------------=DG%
100
---------------
(dk+ds)
したがって
(dk+ds)×fk×fs=DG%
【0046】
糸の直径(d)は幾何学的に正確な数値(mm)であり、即ち中実フィラメントでは実質的に直径であり、中空フィラメントでは輪部と中空部の面積をあわせた合計直径(Fges)である。
【0047】
EP0616061B1によれば、わずか20%の中空部の面積成分により熱抵抗が約175%増加する。これは次のような計算モデルに基づいている。210g/mの重量をもつ面積1mを比重(g/m)で割る。その結果、図2のような層厚さdvで1mの均一なポリマープレート(Platte)が得られる。実施例ではPA6.6で0.18mmである。
【0048】
図2は、1mの均一なポリマープレートの一例である。この層厚さを熱伝導係数(λ)で割ると全面積の熱抵抗Rw(K/W)が得られる。中空部の面積の熱抵抗Rwは同様に計算され、例えば2つの異なる材料で中空(ルーメン)率20%として計算される。
【0049】
図3は、1mの「サンドイッチプレート」の1例であり、0.09mmの厚さdhを有する「外側の層」Aが、0.036mmの「厚さ」の中空層Lを含んで(挟んで)いる。
【0050】
壁の部分と中空面積部分の各熱抵抗Rwを合計すると、中実の面積の熱抵抗に比べて約175%高い値が得られる。中実フィラメントの熱抵抗を、20%ルーメンの中空フィラメントのそれと比較すると(同じ複数パラメータで計算)、糸のボディにおいて300%を超えるRw相対的増加となる。どちらのモデルも、熱移動は壁の面に対して直交方向ないし半径方向(radial)と仮定している。
【0051】
しかしEP0616061B1におけるモデルは、閉じたポリマープレートに基づいており、織物表面の特徴(織り方(Bindung)、ウェーブ(Ondulation))は考慮されていない。
【0052】
それに対して、本発明におけるモデルは幾何学的に正確な糸のボディ構造に基づいているが、熱移動は半径方向のみを考慮している。織物の構造(糸のボディの交織、織りのタイプ、カバーファクターDG%)を考慮すると、熱応力の方向は糸のボディ、即ち半径方向から軸方向までにより異なる。さらに、熱応力が半径方向(radial)に作用すると、輪部の面積の熱抵抗は中空部のそれよりも小さく、したがって熱応力が働く方向は非線形的であることに留意する必要がある。
【0053】
図4は、中空フィラメントKとSが縦糸方向と横糸方向にどのように交織されているかを示す平織り(L1/1)の断面概略図である。矢印Vで示すような、織物表面に垂直に働く熱応力が加わると、糸の延在する方向の熱移動は対応して異なる。
【0054】
これは次のような利点をもたらす。中空フィラメントと同様に2つの中実フィラメントが織物の表面−あるいはOPWの中に−組み込まれていると、熱応力にさらされる表面領域では、中空フィラメントは好ましくはより複雑な織り構造、例えばカバーファクターないし糸密度がより大きな(カバーファクターIIの)バスケット織などで製織する必要がある。
【0055】
図5は、第Iの変形例(実施例)における、縦糸又は横糸方向に延在するチューブ(複数)を織り込んだチューブ織りの一例の概略図である。符号2は、図示の引張応力方向、ここでは例として引張方向にハニカム状に「広がった(aufgeblasen)」状態に図示された中実フィラメント(複数)のチューブを示す。符号4はチューブ2(とチューブ2)の間で引張応力方向に中実フィラメントを組み込んだ単層中間部分を示す。符号6は、横方向の糸状系である中実又は中空フィラメントの対応構造を示す。
【0056】
図6は、第IIの変形例(実施例)における、縦糸又は横糸のチューブを織り込んだチューブ織りの他の例の概略図である。この例では、符号12は、図示のように縦糸方向及び横糸方向に、ここでは例としてハニカム状に「広がった」中空フィラメントのチューブを示す。符号14は、チューブ12(とチューブ2)の間で引張応力方向に中実フィラメントを組み込んだ単層中間部分を示す。符号16は、横方向の糸である中空フィラメントの対応構造を示す。
【0057】
本発明がどのように実施できるかを説明するために、実施例としての変形例を以下にまとめる。ここでは変形例I、IIについてまとめる。

(表A)

【0058】
上記表Aは、標準品(すべて中実フィラメント)と、本発明に係る織物である変形例I及びII(すべて中空フィラメント)とを比較している。織物の表面領域を中実フィラメントから同じポリマーで同じカバーファクターの中空フィラメントに入れ替えることで、同じ糸の直径(d)で中空率(ルーメンのパーセンテージ)を変えて織物のデニールを小さくし、重量を軽減することができることについて説明するものである。
【0059】
その目的は、ポリアミド6.6(PA6.6)の中実フィラメントで製造された高いカバーファクターを持つ標準品(従来技術)を、同じカバーファクターをもつPA6.6の中空フィラメントで少なくとも一部が製造された表面領域に置き換えようというものである。
【0060】
コーティングなしでの適用及び高い縫目強度(端部櫛引抵抗)とともにLDの観点からこの程度の織物のカバーファクターは必要である。強度及び重量の観点からは、標準品のような織物の仕様は「オーバースペック(不必要に高い,over-engineered)」である。
【0061】
(変形例I)
変形例Iは、デニールが380/72dtex、ルーメン(中孔率)20%の既存のPA6.6糸を用いるものである。収縮比、即ち最終的な処理によって決まるものであり、変化する最終的な収縮と公称収縮(熱風による糸の収縮)との比率、を考慮すると、最終処理した織物(22×22Fd/cm)の対応糸数は、最終処理した織物(収縮後)の糸の直径に基づいて、WALZ密度によるカバーファクターであらかじめ規定された106.4%から決定される。
【0062】
糸密度から計算した1平方メートルあたりの重量、捲縮及び有効デニール(収縮後)はルーメンのパーセンテージ(ルーメン%)だけ小さく、N/5cmで表される最大引張強度もそれに対応して小さくなる。
【0063】
カバーファクターのおかげで織物は必要な縫目強度(端部櫛引抵抗)を有する。
【0064】
(変形例II)
変形例IIにおいて、PA6.6中空フィラメントを用いた、「標準品」と全く同じパラメータ(カバーファクター%、糸の直径、糸密度)を有する織物を製造している。必要な有効デニールから出発し、収縮度(トリガー収縮)を考慮して公称デニールを逆算して求めている。
【0065】
1平方メートルあたりの重量減少は、ルーメンのパーセンテージに対応し、縦糸方向及び横糸方向の最大引張強度は、縦糸方向及び横糸方向の糸密度の差により、実質的に絶対値と同じパーセンテージだけ減少する。織物の2軸引張負荷(強度)に関しては、これらが同じ値であることが有利である。この変形例IIは、いわゆる標準品の織物を、中空フィラメントを用いた織物による(オーバースペックではなく、より軽い)改良された使用に適した技術的性能を有する製品に置き換えるものである。
【0066】
(変形例III)
更なる変形例IIIを、表Bを用いて詳細に説明する。表Bは、PA6.6を用いた公知の標準品と、最終的にそれと同じパラメータを持つポリエステルの中空フィラメントを用いた織物を比較したものである。そのやり方は変形例IIと同じであり、さらに材料としてのポリエステルはエアバッグ用織物に用いるには、コスト的に有利であるという点である。
【0067】
この目的は、PA6.6、dtex470、カバーファクター106.4%の22×21のL1/1織物の密な構造で、同じ糸太さと同じ糸密度を有するPES中空フィラメント糸を用いて織物(標準品)を製造することである。
【0068】
同じ一定の密度を有する織物の表面領域の中実フィラメントを、同じ糸直径(d)で、両方のポリマーの比重差に対応するパーセンテージのルーメン%を有する他のポリマー材料の中空糸に置き換えることにより、同じデニールで同じ重量(表B参照)の織物とすることができる。
【0069】
(表B)

【0070】
20%ルーメン(糸の中空率)のPESの中空フィラメントを用いることにより、同じ重量クラスでより高い比重(+21%)にもかかわらず、同じカバーファクターを持つ織物を製造することができる。
【0071】
糸と収縮度の違いと捲縮条件の違いを考慮に入れると、重量の減少はルーメンの%と同じとなる。
【0072】
織物の表面領域で中実フィラメントと同じ直径の中空フィラメントを混織(Mischverbau)することで、同じ織り構成(例えば平織りL1/1)で同じカバーファクターで重量を軽減することができる。特に熱応力にさらされる領域においては、同じカバーファクター(DGII)とするための高次の織り目構造として中空フィラメントの直径を対応して増やすことができる。
【0073】
(具体例)
a)縦糸方向及び横糸方向に、中実フィラメント1に対して中空フィラメント1を交互に織ったシート。これにより、他の同じ構造よりも軽い織り構造が得られる。
b)縦糸及び/又は横糸方向に、所定の位置により高次の織り目構造で中空フィラメントを織り込んだシート。これにより、熱応力に抵抗性の高い織物が得られる。
c)ステッチ横糸技術を用いて中空フィラメントを用いたOPW、より高次の織り目構造も可能である。これにより、熱応力に抵抗性の高い織物が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特にエアバッグのための織物であって、少なくとも一部にポリマー材料の中空フィラメント糸を含み、
該織物はWALZ密度によるカバーファクターで、同じ直径の中実フィラメント糸を用いた場合と同じカバーファクターを有する、織物。
【請求項2】
前記中空フィラメント糸は、同じ直径で同じポリマー材料からなる中実フィラメント糸よりも小さいデニールを有する、請求項1に記載の織物、
【請求項3】
中空フィラメントを用いた前記織物の重量は、中実フィラメントと比較して、ルーメンパーセンテージの範囲内で軽い、請求項1又は2に記載の織物。
【請求項4】
前記織物の織りはL1/1、又はより高次の織りである、請求項1〜3のいずれか一に記載の織物。
【請求項5】
同じ直径で同じポリマー材料からなる中実フィラメント糸を含み、前記中空フィラメント糸は縦糸及び/又は横糸中の所定の位置に繰り返して配置され、L1/1よりも高次の織り構造かつL1/1織り構造よりも高い糸密度で交織されている、請求項4に記載の織物。
【請求項6】
同じ直径で同じポリマー材料からなる中実フィラメントを含み、前記中空糸が、OPW(一体製織)エアバッグの特に熱ストレスにさらされる領域に、ステッチ横糸技術を用いて組み込まれており、L1/1よりも高次の織り構造かつL1/1織り構造よりも高い糸密度で交織されている、請求項4に記載の織物。
【請求項7】
前記中空フィラメントの中空面積比(Hohlflaechenanteil)ないしルーメンパーセンテージは、20%以上である、請求項1〜6のいずれか一に記載の織物。
【請求項8】
カバーファクターとして100%よりも大きいWALZ密度を有する、請求項1〜7のいずれか一に記載の織物。
【請求項9】
前記カバーファクターとして105%よりも大きいWALZ密度を有する、請求項8に記載の織物。
【請求項10】
前記中空フィラメント糸と前記中実フィラメント糸はポリエステル糸である、請求項1〜9のいずれか一に記載の織物。
【請求項11】
前記ポリマー材料は、
a)糸の直径(d)、
b)1cmあたりの糸数、
c)WALZ密度によるカバーファクターDG、
d)織物の厚さ、
e)織物の重量、
がポリアミド6.6中実フィラメントから織られた織物に相当するポリエステルである、請求項1に記載の織物。
【請求項12】
均一な端部櫛引抵抗を有する、請求項1〜11のいずれか一に記載の織物。
【請求項13】
糸密度(1cmあたりの糸数)が、同じ直径の中実フィラメントで同じ織り構造で織った織物と同じかそれより大きい、請求項1〜12のいずれか一に記載の織物。
【請求項14】
織り厚さが、同じ直径の中実フィラメント糸で同じ織り構造で織った織物と同じかそれより大きい、請求項1〜13のいずれか一に記載の織物。
【請求項15】
単層領域及び2層領域を組み込んだOPWとして製織され、縦糸方向又は横糸方向に走る実質的に延伸したチューブ状構造ないしチューブ(複数)を含み、該単層領域に中空フィラメントを含む、請求項1〜14のいずれか一に記載の織物。
【請求項16】
前記複数のチューブを横断する方向の糸構造に、中実フィラメント又は中空フィラメントが組み込まれている、請求項15に記載の織物。
【請求項17】
前記複数のチューブを横断する方向の糸構造は、糸が交互に(in wechselnder Fadenfolge)配列されている構造である、請求項15に記載の織物。
【請求項18】
前記縦糸方向及び横糸方向に走る延伸したチューブ状構造ないし複数のチューブは中空フィラメントで構成され、前記単層領域(複数)は特別な引張応力の方向において中実フィラメントで形成されている、請求項15に記載の織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−525508(P2012−525508A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507645(P2012−507645)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002662
【国際公開番号】WO2010/124876
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(509343138)グローバル セーフティ テキスタイルズ ゲーエムベーハー (3)
【Fターム(参考)】