説明

特に歯科目的の、酸化物セラミックと外装材との間の接着プロモーター、その使用方法及びその製造と塗布のためのキット

本発明の目的は、酸化物セラミックと外装材の間の結合を改善すること、及び該結合の耐久性を向上させることにある。本発明によれば、接着プロモーター(シリケートセラミックと石英の混合物)のゾルを、高密度に焼結されていない被外装基体に塗布する。該基体は酸化物セラミック又はその出発材料からなる。続いてこの基体を、これに作用させた接着プロモーターと共に最終焼結し、その後外装材を前記基体に取り付ける。本発明は、例えば、高負荷耐久性の歯冠やブリッジの作製に利用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物セラミックと、その表面に設けられる外装材との間の、特に歯科目的の接着プロモーターに関し、酸化物セラミックは1種以上の金属酸化物(特に酸化ジルコニウムセラミック、酸化アルミニウムセラミック又はスピネルセラミック)からなる合成酸化物セラミック若しくは天然鉱物混合物から得られる酸化物セラミックであり、外装材は、例えばシリケートセラミックや、外装コンポジット、外装プラスチックである接着プロモーターに関する。
【0002】
本発明は、このような材料間の結合を形成するために該接着プロモーターを使用する方法と、該接着プロモーターを製造及び塗布するためのキットも包含する。
【背景技術】
【0003】
酸化物セラミックが高負荷耐久性の歯冠やブリッジの作製に使用されることはよく知られている。この場合、このような義歯構造体を美的に形成するためには、比較的不透明な酸化物セラミックの表面に歯と同じ色の歯科用セラミック(以下、外装セラミックと呼ぶ)を設けることが必要である。外装セラミックは、長石と石英を主成分として製造されるシリケートセラミックであり、長石セラミック又はガラスセラミックとも呼ばれる。同様に、この外装は歯と同じ色を呈する外装コンポジット又は外装プラスチックを用いて作成することもできる。該構造体は、まず予備焼結した酸化物セラミックブロックからダイヤモンドを使用した器具を用いて切り出される。この部品の体積は後に外装を施される構造体より約20%大きい。続いてこの構造体を焼結(1250℃〜1600℃)すると本来あるべきサイズに収縮する。このように予備成形された高密度の酸化物焼結セラミック部品に外装セラミックを取り付け、更に同様に焼結する(850℃〜1000℃)。その際、両セラミックの膨脹係数を可能な限り一致させる努力がなされている。
【0004】
技術的に見ると、外装セラミックは構造体セラミックより膨脹係数がわずかに小さいため、焼結とその後に行われる冷却プロセスにおいて外装セラミックは酸化物セラミック上に焼きばめされて機械的に結合される(例えばアイヒナー、カッペルト「歯科材料とその加工」第2巻、素材とその臨床加工、ティーメ・フェアラーク)。
【0005】
口内の過酷な環境条件、常に変化する温度や湿度、或いは機械的負荷によって、両セラミックの境界面には大きな応力が発生する。その結果、外装セラミックが酸化物セラミックの表面から直接剥離することがあり、また、その応力が外装セラミックに伝達されて外装セラミック内に内部応力が生じ、凝集破壊、更に外装セラミックにおける剥離を招く(所謂チッピング)。
【0006】
このような多くの問題を解決するために、当業界では酸化物セラミック上にシリケート層を設けて結合強度を向上させてきた。そしてシリケート層を取り付けるための幾つかの方法が開示されている。
【0007】
米国特許出願第4,364,731A号明細書は、高周波マグネトロンスパッタリング法によって二酸化ケイ素層を取り付ける方法を記載している。
【0008】
テトラエトキシシランの炎内加水分解プロセスによってシリケート層を取り付けることも知られている(DE3403894Cl)。
【0009】
更にDD276453には、シリケート・酸化クロム層をゾルゲル溶液を用いて取り付け、続くテンパープロセス(320℃、2〜8分)で固化する方法が記載されている。
【0010】
DE3802043Clにはシリケートコーティングを鋼玉ブラストプロセスで設ける方法が開示されており、ブラスト用鋼玉に平均粒径<5μmの二酸化ケイ素を一定量添加する。鋼玉粒子が衝突する領域では、局所的にエネルギー密度が十分高くなるためシリケート微粒子が表面で融解する。
【0011】
上述の試み全てに共通することは、装置やプロセスに多大な労力とコストを必要とするにもかかわらず、結合強度を向上させて前述の「チッピング」を抑制するほどの品質向上には至らないことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許出願第4,364,731A号
【特許文献2】DE3403894Cl
【特許文献3】DD276453
【特許文献4】DE3802043Cl
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、酸化物セラミックと外装材の間の結合を改善すること、及び該結合の耐久性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によれば、高密度に焼結された酸化物セラミックからなる予備成形基体に外装材を直接取り付けるのではなく、まず最初に、高密度には焼結されていない酸化物セラミック又はその出発材料からなる後処理可能な基体を作製する。作製上の観点からは、該基体は低温で予備焼結させることができ、従来のように高密度に焼結されなくてよい。このように予備成形された基体の被外装面に接着プロモーターの溶液又はゾル(スラッジ)を塗布する。この際、接着プロモーターは未だ高密度に焼結していない基体の表面に侵入する(条件により深さ10μmまで)。
【0015】
接着プロモーターは、純粋な及び/又は処理された長石粒子と石英粒子の混合比95:5〜10:90の混合物(例えばシリケートセラミック)と適切な分散媒(分散剤、例えば水)からなる。
【0016】
接着プロモーターを塗布した後、基体の処理表面を(例えば大気中又は加熱により)乾燥させるか、或いは硬化又は重合させる。
【0017】
その後該基体を1250℃〜1600℃の温度で高密度に焼結させることにより、最終的に得られた酸化物セラミックは十分な機械的強度と堅牢性を有する。
【0018】
続いて、高密度焼結基体に外装材(例えばシリケートセラミック又は外装プラスチック)を自体公知の方法で取り付ける。本発明によれば、この基体表面には上述の接着プロモーターが既に浸透している。
【0019】
浸透拡散した長石粒子及び石英粒子は上述の酸化物セラミックの焼結により酸化物セラミック構造体に結合される。歯科用途の場合、例えば外装材として取り付けた外装セラミック(長石セラミック)も焼結される(温度850℃〜1000℃)。その際、外装セラミックのセラミック構造が形成される一方、酸化物セラミックマトリックス内に固定された金属酸化物と、長石セラミック内のシリケート又は石英との間で金属・酸素・ケイ素結合が形成され、本発明の特徴的な結合となる。この反応によって、臨床的に数十年間にわたり検証されている歯科合金と外装セラミックの間の結合と同様、酸化物セラミックと外装セラミックの間の更なる最適な化学結合が実現される。
【0020】
驚くべきことに、まだ高密度に焼結されていない酸化物セラミックの表面に浸透した接着プロモーターによって、基体と外装材との間の境界面により強固な、従ってより高負荷耐久性を有する結合が提供されることが示された。更に、本発明者らの調査により、所謂「チッピング(外装材の一部領域の凝集剥離又は離脱)」のリスクも低減することも分かった。これは前記境界面領域での機械的応力の状況が変化することに起因し、応力変化は未高密度焼結酸化物セラミック表面に接着プロモーターが浸透拡散するためである。考えられる因果関係としては、本発明によれば、従来のように酸化物セラミックと外装材との間に機械的結合が提供されるだけでなく、最終焼結に先立って本発明の処理を受けた酸化物セラミックの表面に接着プロモーターが深さ10μmまで浸透し、この事が外装材を取り付ける際に追加的な化学的結合を提供するための前提条件となることである。酸化物セラミックの最終焼結により浸透拡散したシリケート構造は酸化物セラミックと強固に結合される。本発明によれば、シリケートセラミックは外装セラミックを取り付ける際と同様に取り付けられ、これが焼結時にSi−O−Si結合を介して表面近傍に結合したシリケートと化学反応し、それによって酸化物セラミックと外装セラミックとの間に化学的な結合が形成される。従って、結合過程が確実に表面を介して行われることが重要である。
【0021】
結合強度を向上させるために従来知られている方法を採用した場合、上述の化学結合は達成されないため、前述のような収縮による純粋な機械的な結合強度が得られるのみである。酸化物セラミックと外装材との間の改善された結合は、外装セラミック(シリケートセラミック)を使用する際だけでなく、他の外装材料、特に外装コンポジットや外装プラスチックに対しても有効に作用する。
【0022】
前述のタイプの接着プロモーターは、溶液又はゾルの製品として提供することができる。一方、接着プロモーターは使用の毎に調製することもできる。後者の場合、出発原料及び塗布の必要に応じた用具や器具を揃えるキットが有用であろう。そのようなキットは、例えば少なくとも次のものを含むことができる。
−シリケートセラミック(例えば長石)等の外装材を収容する少なくとも1個の容器
−石英を収容する少なくとも1個の容器
−水等の分散媒を収容する少なくとも1個の容器
−接着プロモーターを混合及び/又は塗布するための器具
−キットの取扱い説明書(接着プロモーターの製造及び/又は塗布)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施例二例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0024】
600℃〜900℃の温度範囲で予備焼結した酸化物セラミック体(95%ZrO、5%Y)(サイズ:2x15x15mm)に、長石(7.5g)、石英(2.5g)及び蒸留水(100mL)からなるゾルを塗布する。塗布は柔らかい刷毛で行う。
【0025】
ゾル(硬質粒子/水)は、酸化物セラミックの表面近傍の領域に浸透拡散する。長石粒子と石英粒子はそこに留まるが、水は1分後には蒸発する。ゾルが作用してから乾燥した後、約1600℃で酸化物セラミック体の最終焼結が行われる。次いで外装セラミック(ジロックス)を膜厚1mmで塗布し、通常のプロセスに従い930℃で焼結する。
【0026】
酸化物セラミックと外装セラミックの材料間の結合強度を測定するために、前記の試験目的の外装セラミックにプラスチック円筒(直径=5mm、高さ=2mm)を被せて成形する。このプラスチック円筒に圧縮せん断荷重によって力を加える。一定の高い荷重が掛かるとプラスチック円筒は外装セラミックと共に酸化物セラミックから剥離するが、破断は常に外装セラミック内で起こる。外装セラミックの一部は酸化物セラミック上に留まり、他の一部はせん断されたプラスチック円筒上に留まる。結合強度の測定値の平均は25MPaであった。同様の試験を最終焼結された酸化物セラミック体(ゾルを塗布しない)で実施すると、破断挙動において常に外装セラミックは酸化物セラミックから完全に剥離し、せん断されたプラスチック円筒上に全て存在する。これらの比較例における結合強度の測定値の平均は20MPaであった。
【実施例2】
【0027】
600℃〜1000℃の温度範囲で予備焼結した酸化物セラミック体(95%ZrO、5%Y)(サイズ:2x15x15mm)に、長石(5g)、石英(5g)及び蒸留水(100mL)からなるゾルを塗布する。塗布は柔らかい刷毛で行う。
【0028】
ゾル(硬質粒子/水)は、酸化物セラミックの表面近傍の領域に浸透拡散する。長石粒子と石英粒子はそこに留まるが、水は1分後には蒸発する。ゾルが作用してから乾燥した後、約1450℃で酸化物セラミック体の最終焼結が行われる。この酸化物セラミック体にメタクリル含有接着シラン(シリシール)を塗布する。このシランは長石の剥離が生じた際にプラスチックで修復する際に使用される。このシランを用いると、長石セラミックとプラスチックの最適な化学的結合が可能となる。次いでプラスチック円筒(外装プラスチック:シンフォニー、直径=5mm、高さ=2mm)を成形する。このプラスチック円筒に圧縮せん断荷重により力を加える。一定の高い荷重が掛かると、プラスチック円筒は酸化物セラミックから剥離するが、破断は常に外装プラスチック内で起こる。結合強度の測定値の平均は20MPaであった。同様の実験を最終焼結された酸化物セラミック体(ゾルを塗布しない)で実施すると、酸化物セラミック表面に常に付着破断挙動が認められた。これらの比較例における結合強度の測定値の平均は8MPaであった。
【0029】
本発明により酸化物セラミックと外装セラミック、或いは酸化物セラミックと外装プラスチックとの間に更なる化学的結合が達成される。荷重が掛かると常に最も弱い部分で破断(この場合は外装セラミックにおける凝集破壊又は外装プラスチックにおける凝集破壊)が起こるが、本発明を利用しなければ、結合の最も弱い部分である酸化物セラミックと外装セラミックの境界面で付着破断挙動が生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の金属酸化物からなる酸化物セラミックとその表面に設けられる外装材との間の、特に歯科目的の接着プロモーターであって、混合比95:5〜10:90の純粋な及び/又は処理されたシリケートセラミックと分散媒との混合物からなる接着プロモーター。
【請求項2】
混合比90:10〜15:85の長石と石英の混合物を特徴とする、請求項1記載の接着プロモーター。
【請求項3】
前記酸化物セラミックは酸化ジルコニウムセラミック、酸化アルミニウムセラミック又はスピネルセラミックであり、前記外装材はシリケートセラミック、外装コンポジット又はプラスチックであり、前記シリケートセラミックは長石及び石英であり、前記分散媒は水であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の接着プロモーター。
【請求項4】
前記シリケートセラミックと石英の混合物を分散媒と混合するとゾル状の粘稠性を呈することを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の接着プロモーター。
【請求項5】
前記シリケートセラミックと石英の混合物を分散媒と混合すると液状の粘稠性を呈することを特徴とする、請求項1記載の接着プロモーター。
【請求項6】
特に歯科目的のために、1種以上の金属酸化物からなる酸化物セラミックと該酸化物セラミックの表面に取り付けられる外装材とを結合させるために接着プロモーターを使用する方法であって、外装材を設ける基体はまだ高密度に焼結されていない酸化物セラミック又はその出発材料から製造され、混合比95:5〜10:90のシリケートセラミックと石英の混合物と分散媒とからなり、且つ溶液形態又はゾル形態として提供された接着プロモーターを該基体の被外装面に塗布し、前記被外装面を乾燥させた後に前記基体と塗布された接着プロモーターと共に温度1250℃〜1600℃で高密度に焼結し、次いで高密度に焼結された前記基体の接着プロモーターで処理された表面に外装材を取り付けることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記乾燥は、常温、加熱下、又は硬化/重合によって行われることを特徴とする、請求項7記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜5の一項以上に記載の接着プロモーターを製造及び塗布するためのキットであって、少なくとも、
−外装材を収容する少なくとも1個の容器、
−石英を収容する少なくとも1個の容器、
−分散媒を収容する少なくとも1個の容器、
−接着プロモーターを混合及び/又は塗布するための器具、
−キットの使用説明書、からなるキット。


【公表番号】特表2013−509362(P2013−509362A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535630(P2012−535630)
【出願日】平成22年11月1日(2010.11.1)
【国際出願番号】PCT/DE2010/001262
【国際公開番号】WO2011/050786
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(512114578)グリュックアウフ テクノロジー カーゲー (1)
【Fターム(参考)】