説明

特定の塩濃度で自己集合性が惹起されるペプチドおよびその自己集合体

本発明は、新規な自己集合性ペプチドを提供することを課題とする。特に、本発明は、両親媒性に基づく自己集合をするペプチドとは異なる機構で自己集合するペプチドを提供すること、更に、生理的塩濃度を塩濃度閾値とする塩濃度依存的ペプチド性新規自己集合素材を提供することを課題とする。 フジツボ第3接着タンパク質のアミノ酸配列の各繰り返し配列を基にした、コンセンサス配列(配列番号1)、配列番号1のN末端側に電荷のクラスターEHSHDHHDDDを付加した配列(配列番号2)、5回目の繰り返し配列(配列番号3)、6回目の繰り返し配列(配列番号4)、並びに配列番号5〜12で表される自己集合性ペプチドを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、自己集合性を有すペプチドに関する。より具体的には、塩濃度を上げることにより自己集合性を示すペプチド、及びその調製方法に関する。本発明のペプチドは、バイオマテリアル等の素材として使用できる。
【背景技術】
タンパク質・ペプチドの中には、2量体、多量体などの自己集合性(自己会合性ともいう。)を示すものは知られていたものの、以前は、タンパク質・ペプチドの改変が容易でなかったので、材料工学や工学の対象とは考えられていなかった。
ところが、遺伝子組み換え技術の発達とペプチド合成装置の進歩にともない、近年、例えば、ペプチドなどの生体分子の自己集合体の、再生医療やドラッグデリバリーへの応用が検討され、これら分子自己集合性が、ナノテクノロジーの設計、製造に有用であろうと注目を集めている。
ペプチドを用いた自己集合系としては、Aggeli等が、短いペプチドを非水溶性溶媒で、長いポリマー上のナノテープにする報告をしている(非特許文献1:A.Aggeli,et al.(1997)Nature,Vol.386,pp.259−262)。また、親水性領域と疎水性領域と2つのことなる領域を有するポリマー分子は、界面活性剤の様に、水溶液中で、疎水性部分を水相から離れさせるように互いに作用することで、自己集合を起こすことが知られており、種々の単純なペプチドを用いた実験がなされている(非特許文献2:S.Vauthey,et al.(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.99pp.5355−5360)。
また、塩濃度依存的自己集合により形成されるペプチド性素材としては、例えば、アルギニンーアラニンーアスパラギン酸のような親水性と疎水性アミノ酸が交互に繰り替えす両親媒性ペプチド(非特許文献3:TC.Holmes,et al.(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.97,pp.6728−6733)、及び(非特許文献4:S.Zhang,et al.(2002)Cur.Opin.Chem.Biol.,6,865−871)について多くの研究がある。
しかし、現在まで提供されている、自己集合性ペプチドはいずれもが両親媒性に基づくベーターシート構造を利用するペプチドであった。
【非特許文献1】A.Aggeli,et al.(1997)Nature,Vol.386,pp.259−262
【非特許文献2】S.Vauthey,et al.(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.99 pp.5355−5360
【非特許文献3】TC.Holmes,et al.(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,Vol.97,pp.6728−6733
【非特許文献4】S.Zhang,et al.(2002)Cur.Opin.Chem.Biol.,6,865−871
【発明の開示】
本発明は、新規な自己集合性ペプチド性素材を提供することを目的とする。特に、本発明は、両親媒性に基づく自己集合をするペプチドとは異なる自己集合性ペプチドを提供することを目的とする。更に、生理的塩濃度を塩濃度閾値とする塩濃度依存的ペプチド性新規自己集合素材を提供することも目的とする。
又、本願発明には、新規な自己集合性ペプチド、及び生理的塩濃度を塩濃度閾値とする塩濃度依存的自己集合性の新規なペプチド性材料を提供することを課題とする。
本発明者らは、新たな自己集合性ペプチドの開発のために、様々な材料を検討した結果、フジツボ第3接着タンパク質(特開平09−299089号又は(Kamino,K.(2001)Biochem.J.356,503−507)参照。Mrcp20kとも呼ぶ。)のアミノ酸配列情報を解析し、該配列情報を利用することにより、全くあたらしいタイプの自己集合性ペプチドを提供できることを見出した。フジツボ第3接着タンパク質(Mrcp−20k)は、分子量20kDa、等電点4の単純蛋白質であり、Cysのalignmentにより6回の繰り返し配列よりなることがわかっている。疎水性アミノ酸をほとんど含まず、電荷アミノ酸に非常に富む蛋白質である。
本発明者らは、フジツボ第3接着タンパク質のアミノ酸配列の各繰り返し配列をCysを基にアライメントし、目視で、具体的には、Cysの並びを見ながら最適化した。それを基に、コンセンサス配列(配列番号1)を作成した。配列番号1で表されるペプチドに加え、配列番号1のN末端側に電荷のクラスターEHSHDHHDDDを付加した配列(配列番号2)で表されるペプチド、5回目の繰り返し配列(配列番号3)で表されるペプチド、及び6回目の繰り返し配列(配列番号4)で表されるペプチドをそれぞれBoc法により化学合成し、逆相クロマトグラフィーにより精製、凍結乾燥した。
それらを適当な水溶液に溶解後、適宜塩水溶液を添加し、それについて光散乱測定、原子間力顕微鏡観察、円二色性偏光測定、コンゴレッド染色等により確認したところ、自己集合して集合体を形成すること及びその構造を確認し、本発明を完成したものである。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2003−417215号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、光散乱測定による配列番号1〜4のペプチドの自己集合性を塩濃度を変えて検証した結果を示す。横軸は、NaClのモル濃度、縦軸は、光散乱測定法による見かけの分子量(kDa)を表す。又、図中の1〜4は、それぞれ配列番号1〜4をサンプルとして用いた場合の結果をしめす。
図2は、原子間力顕微鏡(AFM)によるペプチド集合体(自己集合体)イメージ。
図3は、自己集合体構造が裸眼で観察できる膜状体を形成することを示す写真(ペプチド濃度10mg/ml)。
図4 配列番号3のペプチドを用いた細孔をもつ自己集合体のAFMによる観察(pH8)
図5 配列番号3のペプチドを用いた自己集合体のAFMによる観察(pH6)
図6 配列番号3のペプチドのCDスペクトル測定結果
図7 配列番号3のCysをSerに置き換えたペプチドを用いた自己集合体のAFMによる観察(pH8)
図8 配列番号3のCysをSerに置き換えたペプチドのCDスペクトルの結果
【発明を実施するための最良の形態】
本願発明には、フジツボ第3接着タンパク質(特開平09−299089)に今回新たに見出された、繰り返し構造に基づく、新規自己集合ペプチドを含む。具体的には、配列番号3(SKLPCNDEHPCYRKEGGVVSCDCK)又は配列番号4(KTITCNEDHPCYHSYEEDGVTKSDCDCE)のアミノ酸配列で表されるペプチド及び配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列に1〜数個、好適には、1〜8個、より好適には、1〜4個、更に好適には、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたペプチドであって、水溶液中において自己集合性を有するペプチドが含まれる。
更に、本願発明には、フジツボ第3接着タンパク質(特開平09−299089)に今回新たに見出された、繰り返し構造に基づく、コンセンサス配列からなる新規自己集合ペプチドを含む。具体的には、配列番号1で表されるペプチド(EKIPCNEKHPCYRCDADTKCSCDCE)又は配列番号1のアミノ酸配列に1〜数個、好適には、1〜8個、より好適には、1〜4個、更に好適には、1又は2個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するペプチドであって、水溶液中において自己集合性を有するペプチドが含まれる。
なお、タンパク質の繰り返し構造をマルチプル・アラインメントとみなし、これをもとに、hmmbuildおよびhmmcalibrateプログラムにより、プロファイルHMMを作成し、このプロファイルHMMから、コンセンサス配列をHMMERプログラム・パッケージのhmmemitプログラムにより求めることもできる。
配列番号1のアミノ酸配列に対して欠失、置換、付加の具体例としては、例えば、3番目と4番目のCys(アミノ末端から14番目及び20番目のアミノ酸)を欠失させた変異が含まれる。また、配列番号1中の(DとE)、(NとQ)、(AとGとTとS)、及び(HとRとK)はそれぞれの()中では置換させることができることを意味する。又、配列番号1中の疎水性アミノ酸を相互に置換した配列も含みうる。配列番号1中、上記した欠損可能なCysを除いた4つのCysは自己集合性の発揮に必要である。二番目のCysの前はProであることが望ましい。2番目Cysの次のアミノ酸は(Bulky)アミノ酸(W,Y,R,H)であることが望ましい。2番目Cysの次の次(2番目のCysから下流側2番目のアミノ残基)にある塩基性アミノ酸は配列番号1と同じであることが望ましい。1番目と二番目のCysの間のアミノ酸の数は4つであることが望ましい。また、後ろ(カルボキシル側の)の2つのCysの間隔も1アミノ酸であることが望ましい。
又、本願発明は、フジツボ第3接着タンパク質(特開平09−299089)に繰り返し構造又はそのコンセンサス配列に基づく自己集合性ペプチドに電荷のクラスターを有する配列を付加することができる。具体的には、HEED,KHD,EEDHKHHDH,KKH,HRK、EHSHDHHDDDを挙げることができ、好適には、EHSHDHHDDDを用いることができる。更に、具体的には、配列番号1で表されるペプチドのアミノ末端側にEHSHDHHDDDを結合したポリペプチド(配列番号2:EHSHDHHDDDEKIPCNEKHPCYRCDADTKCSCDCE)が挙げられる。
又、次に掲げるペプチドも自己集合性を有しうるペプチドであり、本願発明に包含される。

更に、本願発明には、フジツボ第3接着タンパク質(特開平09−299089)に繰り返し構造又はそのコンセンサス配列に基づく自己集合性ペプチド配列、並びにシロスジフジツボの接着タンパク質(特願2003−325604)の繰り返し構造に基づく自己集合性ペプチドに細胞接着、金属結合又は抗菌性配列等のモチーフ配列を結合して調製される機能性を付した自己集合性ポリペプチドも含まれる。例えば、上記配列番号1〜12のいずれかで表されるペプチドのNあるいはC末端に細胞接着モチーフであるRGD(アルギニンーグリシンーアスパラギン酸)を結合させることができる。
本願発明には、上記した配列番号1〜12いずれか記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、付加および欠失からなる群より選択される少なくとも1つ以上の変異を有する改変ポリペプチドで表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチドも包含される。
又、本願発明には、上記した配列番号1〜12いずれかで表されるペプチドをコードする遺伝子、及び配列番号1〜12いずれかで表されるアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチドをコードする遺伝子が包含され、例えば、配列番号13又は14で表される配列の遺伝子が含まれ、具体的には、特開平09−299089に記載の配列番号1の配列中塩基番号433〜501の配列及び同配列番号1の塩基番号502〜582の配列で表される遺伝子も包含する。
更に、本願発明には、上記した遺伝子を組み換えた組み換えベクター及び当該組み換えベクターを用いた、本願発明の自己集合性ペプチドを発現する方法が包含される。
本発明のペプチドは一般的な化学合成の他に、対応するDNAを化学合成後、一般的な微生物や培養細胞により組み換え体を調製することによっても入手することができる。
化学合成法としては、t−Boc法とFmoc法を用いることができ、ペプチド合成機を利用して合成することもできる。また、遺伝子組み換え法による生産としては、例えば、配列番号13又は14に示される遺伝子を公知の発現ベクターを、例えば、大腸菌を宿主とする場合はpET若しくはpGEMEX、又は哺乳動物細胞を宿主とする場合はpCIにそれぞれ組み換えて、発現させる方法を用いることができる。
本発明で明らかにされたペプチドは、従来知られている自己集合性ペプチドとは全く異なるアミノ酸配列を持ち、さらに異なる原理で形成されるペプチド性自己集合性素材に関するものである。
さらに、これまでのペプチド性素材はいずれもが低塩濃度でも自己集合性が引き起こされるものであったが、本発明者らが見出したペプチドは特定の塩濃度までは自己集合性が抑制されており、特定の塩濃度閾値を超えることで急激に自己集合性が発揮されてペプチド集合体を形成させるペプチドに関するものである。好適には、0.5M以上の塩濃度で自己集合化させることができ、1Mを越えても自己集合化させることができる。塩の自己集合化効果は、1価の塩の方が、2価の塩よりも高い。用いる塩としては、通常の適宜な塩を用いることができるが、例えば、NaCl,KCl,CaCl,MgClを用いることができる。
これらの条件下で、上記した配列番号1〜12で表されるペプチド、例えば、配列番号1〜4で表されるペプチドは、ランダムに凝集するのではなく、塩効果で規則的に自己集合する。更に、上記した配列番号1〜12のアミノ酸配列に1〜数個、好適には、1〜8個、より好適には、1〜4個、更に好適には、1又は2個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するペプチドであって、水溶液中において自己集合性を有するペプチドを塩に曝すことにより、ペプチドの自己集合体(ペプチド集合体)を形成することができる。
又、用いることができるペプチド濃度として、例えば、10μM〜10mg/mlを挙げることができる。ペプチド濃度によっては、膜状体を形成させることも可能である。又、条件を選択することにより、ナノファイバー又はハイドロゲルとすることも可能である。また、ペプチド配列として、配列番号1〜12で示されるアミノ酸配列に1又は数個のCys以外のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチドをアルカリ条件下、より好適にはpH8で塩と反応させることにより、規則的な細孔を有するペプチドの自己集合体を形成することができる。用いる塩としては、通常の適宜な塩を用いることができるが、例えば、NaCl,KCl,CaCl,MgClを用いることができる。
本発明のポリペプチドの自己集合化は、本発明のポリペプチドを、上記の範囲の塩濃度の水溶液に適宜の手段で接触させることにより行うことができる。接触手段としては、例えば、特定の形状の容器中の高塩濃度の水溶液に本発明のペプチドを滴下する方法、高塩濃度の水溶液にペプチド水溶液を吐出する方法、特定の形状の容器中のペプチド水溶液に塩を溶解する方法、等を用いることができる。
これにより、例えば微生物等による組み換え発現時にも、閾値以下の塩濃度の培地中に産生させ、そこに塩をさらに加えるだけですみやかに固相化させることができる。これは例えば、微生物リアクターの作製時の微生物固相化においては立ち上げプロセスを大幅に簡略化させることができる等のメリットを含む。また組み換え発現において、目的タンパク質にこれら配列をタグとして付加することで、発現時は溶解しているが塩濃度を閾値にあげることで容易に目的タンパク質だけを回収するための要素技術として、また同配列を事前に担体等に固相化しておくことで同タグを持つ組み換え体を担体に保持する技術等にも応用可能である。
化学合成された該ペプチド及び、そのアミノ酸配列をコードするDNAを化学合成後、微生物又はや培養細胞で組み換え発現させることにより得られる該ペプチドは、組織工学用バイオマテリアルやドラッグデリバリーシステム、化粧品の基材、微生物や酵素等の固定化材等の原料として広い用途で利用されることが期待される。また、その構築原理はこれまで知られているものとは異なり、新たな原理に基づくものであり、ナノテクノロジーにおけるボトムアップ技術にも応用可能である。
【実施例1】
Mrcp−20k繰り返し配列の単純化
Mrcp−20kタンパク質の繰り返し構造をマルチプル・アラインメントとみなし、これをもとに、hmmbuildおよびhmmcalibrateプログラムにより、プロファイルHMMを作成した。このプロファイルHMMから、コンセンサス配列をHMMERプログラム・パッケージのhmmemitプログラムにより求め、コンセンサス配列を得た。コンセンサス配列は、配列番号1に示す。
【実施例2】
各ペプチドの合成
ABI430A型全自動固相合成機を用い、Boc法にて配列番号1,配列番号2,配列番号3,及び配列番号4のアミノ酸配列で表される4種類のペプチドを合成した。それぞれ、Boc−アミノ酸各4当量ずつ使用して縮合し、保護ペプチド樹脂を得た。得られた保護ペプチド樹脂を、無水フッ化水素/p−クレゾール(8:2)で−2〜−5℃下60分間処理し、樹脂から切り出すとともに脱保護して、粗ペプチドを得た。得られた粗ペプチドを逆相HPLCカラム(ODS)を用い、0.1%TFAを含むHO−CHCNの系でグラジエント溶出を行い精製した。目的物を高純度に含む分画を集め凍結乾燥して、目的ペプチドを得た。
【実施例3】
光散乱測定による自己集合性の確認
光散乱はPROTEIN SOLUTIONS社製のDyna Proを用いて測定した。配列番号1〜4で表される各ペプチドを10mg/mlとなるように超純水装置(Milli−Q SP.TOC.(ミリポア社製))で調製した超純水に溶解し、stock solutionとした。各ペプチドのstock solutionに対してNaCl、KCl、MgSOあるいはCaClを各終濃度となるように添加し、フィルター(0.2μm)ろ過後測定を行った。その結果、0.5M以下の塩濃度では分子量は検出限界以下であったが、海水に近い0.5M以上の高塩濃度の条件下において急激な分子量の上昇が見られた。NaClを塩として用いた場合の結果を図1に示す。なお図中では、配列番号1、2、3、又は4のペプチドは、それぞれ1、2、3、又は4で示されている。
これらの実験の結果から、当該ペプチドがいずれも塩濃度0.5Mを閾値にした塩濃度依存的な自己集合活性を有することが明らかとなった。
【実施例4】
原子間力顕微鏡(AFM)によるペプチド自己集合体構造の確認
AFMはオリンパス社製のNVB 100を用いた。実施例2で調製した各ペプチドのstock solution(100μM)に対して、NaClを終濃度1Mになるように添加し、撹拌後10分間静置し、それを純水に対して透析した。回収後Mica上に一部を滴下し、乾燥により水滴を除去、それを気中モードで測定した。測定はTapping modeで行い、各サンプルにつき5μm×5μmの範囲で2回ずつスキャンした。
その結果、いずれのペプチドにおいても一定の幅を持った塊が進展したかのようなイメージが得られた。配列番号4の場合の結果を図2に示す。
また、ペプチド濃度を濃度10mg/mlに調製することで、目視で直に確認できる膜状体の形成も認められた。結果を図3に示す。
【実施例5】
細孔をもつペプチド集合体(自己集合体)の調製
配列番号3で表されるペプチドを、ペプチド濃度が100μMとなるように10mMリン酸ナトリウム緩衝液=(pH8)に溶解し、ポリプロピレンチューブ中で室温で一晩静置した。そのペプチド溶液に1/4量の5M NaCl溶液を加えて緩やかに混合し、室温で10分間処理した。これを200倍量の10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH8)に対して2回透析することにより、過剰なNaClを取り除いた。この手法により、細孔をもつ構造体を作成することに成功した。実施例4と同様の操作でAFMによりその構造体を解析した結果を図4に示す。この構造体はペプチドを純水に溶解して塩を添加した場合には見られない細孔をもつ構造をとっていた。その孔のサイズは50〜500nmであり、非常に規則正しい構造をとっているものである。
なお、配列番号3で表されるペプチドを、ペプチド濃度が100μMとなるように10mMリン酸ナトリウム緩衝液=(pH6)に溶解し、ポリプロピレンチューブ中で室温で一晩静置した。そのペプチド溶液に1/4量の5M NaCl溶液を加えて緩やかに混合し、室温で10分間処理した。これを200倍量の10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6)に対して2回透析することにより、過剰なNaClを取り除いた。AFMによりその構造体を解析した結果を図5に示す。規則的な細孔は観察できない。
配列番号3のペプチドの純水およびpH2〜10のリン酸ナトリウム緩衝液中の二次構造のCDスペクトルを測定した。超純水装置(Milli−Q SP.TOC.(ミリポア社製))で調製した超純水に溶解した各ペプチドのstock solution(100μM)を様々なpHの緩衝液(pH2−3およびpH6−8では10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH4−5では10mM酢酸ナトリウム緩衝液、pH9−10では10mMホウ酸ナトリウム緩衝液)で10倍に希釈し、室温で12時間反応させた後に、日本分光社製のJ725型円二色性分散計を用いてCDスペクトルを測定した。結果を図6に示す。pH8−10(アルカリ)とpH2−6(酸性)では二次構造が異なることがわかる。
次に、配列番号3の配列において全てのCysをSerに置き換えたペプチドでAFM及びCDスペクトルを測定した。上述の配列番号3と同じ条件で、AFMにより構造体を解析した結果は図7に示す。又CDスペクトルはpH2〜10において、上記した配列番号3のpH2〜6の結果と同じような結果になった。結果を図8に示す。
以上より、Cysを含む配列で表されるペプチドを用いてアルカリ条件下で塩と反応させることにより、規則的な細孔を生成するものと考えられる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明は、ペプチド、特に、塩濃度閾値依存的に自己集合性であるペプチド及び新規な自己集合体を提供する。
ここで「自己集合性」は、微少サイズ(ナノスケール)の構造体を構築する際のキーテクノロジーのひとつである。細胞外で機能するタンパク質複合体には自己集合性が備わっていることが多く、それらの構築原理はナノテクロジーに新たな原理を導入するために有用である。
本発明の自己集合性ペプチドはペプチド性素材として、そのままで、あるいはさらに細胞接着や金属結合、抗菌性配列等のモチーフ配列を導入することで組織工学用バイオマテリアルやドラッグデリバリーシステム、化粧品の基材、微生物や酵素等の固定化材等の原料、組み換えタンパク質技術の精製用や固相化用タグとして広い用途で利用されることが期待される。
また、その構築原理はこれまで知られているものとは異なり、新たな原理に基づくものであり、ナノテクノロジーにおけるボトムアップ技術にも応用可能である。
さらにその自己集合体自体を、外科治療や再生医療のキー素材であるバイオマテリアルそのものとして応用できる可能性や、化粧品基剤としての応用の可能性をもつ。
【配列表フリーテキスト】
配列番号1は、配列番号3〜8の配列のコンセンサス配列である。
配列番号2は、配列番号1に電荷クラスターを有する配列が付加された配列である。
配列番号3−8は、それぞれ、アカフジツボ接着タンパク質の繰り返し構造中の、5、6、1、2、3、及び4回目の繰り返し構造に基づく自己集合性ペプチドである。
配列番号9−12は、それぞれ、シロスジフジツボの接着タンパク質の繰り返し構造中、第1、2、3、及び4回目の繰り返し構造に基づく自己集合性ペプチドである。
配列番号13又は14は、それぞれ、配列番号3又は4をコードする遺伝子の例である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)又は(b)のペプチド。
(a)配列番号1のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項2】
(a)又は(b)のペプチド
(a)配列番号2のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号2のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項3】
(a)又は(b)のペプチド
(a)配列番号3のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号3のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項4】
(a)又は(b)のペプチド
(a)配列番号4のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号4のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項5】
(a)又は(b)のペプチド
(a)配列番号5〜11いずれかのアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号5〜11のいずれか1のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項6】
(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子
(a)配列番号1のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号1のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド
【請求項7】
(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子
(a)配列番号2のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号2のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項8】
(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子
(a)配列番号3のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号3のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項9】
(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子
(a)配列番号4のアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号4のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項10】
(a)又は(b)のペプチドをコードする遺伝子
(a)配列番号5〜11いずれかのアミノ酸配列で表されるペプチド
(b)配列番号5〜11のいずれか1のアミノ酸配列に1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチド。
【請求項11】
請求項6〜10いずれか1項記載の遺伝子を組み込んだ発現ベクター。
【請求項12】
請求項11記載の発現ベクターを用いる請求項1〜5いずれか1項記載のペプチド製造方法。
【請求項13】
請求項1〜5いずれか1項記載のペプチドを溶解した水溶液に、塩含有水溶液に添加することにより、ペプチドを自己集合させる方法。
【請求項14】
塩濃度が0.5M以上である請求項13項記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜5いずれか1項記載のペプチドを高塩濃度下に曝すことにより自己集合化されたペプチド集合体。
【請求項16】
膜状、ナノファイバー又はハイドロゲルである請求項15記載のペプチド集合体。
【請求項17】
(1)配列番号1〜12いずれかのペプチド又は(2)配列番号1〜12で示されるアミノ酸配列に1又は数個のCys以外のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチドを、アルカリ条件下で塩と反応させることにより、規則的な細孔を有するペプチド集合体を形成する方法。
【請求項18】
(1)配列番号1〜12いずれかのペプチド又は(2)配列番号1〜12で示されるアミノ酸配列に1又は数個のCys以外のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は付加されたアミノ酸配列で表されるペプチドであって、塩濃度依存性自己集合性を示すペプチドを、アルカリ条件下で塩と反応させることにより形成された、規則的な細孔を有するペプチド集合体。
【請求項19】
ナノファイバー又はナノメッシュである請求項18記載のペプチド集合体。

【国際公開番号】WO2005/056589
【国際公開日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516261(P2005−516261)
【国際出願番号】PCT/JP2004/019140
【国際出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、基盤技術研究促進事業(民間基盤技術研究支援制度)、自己集合性タンパク質に基づくバイオマテリアル創成基盤整備事業、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591001949)株式会社海洋バイオテクノロジー研究所 (33)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【出願人】(500386563)株式会社ファルマデザイン (9)
【Fターム(参考)】