特定の糖鎖構造を有する糖タンパク質を検出することにより癌を検出する方法
【課題】本発明の課題は、特定の糖鎖構造を有する糖タンパク質を免疫学的に検出することにより癌を検出する方法である。
【解決手段】当該課題は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることにより、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出する手段により解決することができる。
【解決手段】当該課題は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることにより、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出する手段により解決することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させて、シアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖タンパク質及び糖脂質上に存在する糖鎖構造はコアとなるタンパク質や糖鎖の付加部位、糖脂質の種類により、またそれらが存在する細胞種や体液の種類によって異なる。また、癌を含む種々の疾患において、健常者由来の構造とは異なる場合があることが広く知られている。糖鎖の当該特徴に着目し、健常者には存在せず特定の疾患に罹患した患者でのみ見出される糖鎖構造をターゲットとした、いくつかの疾患マーカーが用いられている。
【0003】
そのうちの一つ、母核糖鎖に属するシアリルTn(以後、「sTn」と記載する場合もある)糖鎖抗原は、CA19−9やSLXのような従来から臨床応用が進められてきたI型又はII型の基幹構造を有するN−グリコシド結合型の糖鎖抗原に比し、より初期段階での糖鎖合成異常に由来する癌関連抗原であり、良性疾患における偽陽性率が低く、癌特異性が高い。sTn糖鎖抗原は胃癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌、子宮頸癌、胆道癌等において癌の進行と悪性化に伴い、癌組織での発現が増加するとともに、血清中にも検出されるようになることから、卵巣癌と再発性胃癌の進行癌もしくは再発癌に対する血中癌マーカーの1つとして用いられている。
【0004】
しかし上記のマーカーは、血中sTn濃度がある程度上昇した後でなければsTnを検出することができず、sTnの検出感度が十分でない。そのため、上記マーカーは、進行癌や再発癌等しか検出できないため、その適用も癌の進行度や再発のモニタリングに限られ、早期癌のスクリーニングには適当でない。さらに、上記マーカーのsTnの検出感度は不十分であるため、癌の進行度や再発のモニタリング等には、sTnを別種の癌マーカーを含む、異なる診断方法と組み合わせて用いなければ正確な診断ができない。
【0005】
sTnはタンパク質のセリン又はトレオニン側鎖に付加される糖鎖構造であり、Siaα2→6GalNAcα→Ser/Thrと表記される。ここでSiaはシアル酸を、GalNAcはN-アセチルガラクトサミンを、Ser/Thrはセリン又はトレオニンを表す。O型糖鎖を有する多数のタンパク質がsTnで修飾されうる。癌の体外診断に用いられているsTnの測定には以下の2通りの方法がある。1つはsTnを認識する2種の異なるモノクローナル抗体B72.3及びCC49を用いて、いわゆるCA72−4という抗原を定量する、サンドイッチELISA法であり、もう1つはsTnを認識するモノクローナル抗体TKH2を用いたRIA固相化競合法である。当該方法は糖鎖であるsTn部分のみを標的とした検出系であり、sTnで修飾された多数種の糖タンパク質の混合物を検出していると考えられ、実際に所望の糖タンパク質分子が存在しているかは不明である。
【0006】
sTn糖鎖抗原を癌マーカーとして用いることができる上記の癌のうち、胃癌は日本において癌による死亡原因の上位を占めている。内視鏡検査等の普及により早期の段階での癌の発見と外科的切除によって治癒率は向上してきているものの、依然として再発率が高く、患者の生命予後は不良である。胃癌の再発では胃壁を超えて腹腔内に広がった遊離癌細胞から生ずる腹膜転移が主因を占めている。すなわち腹膜内に遊離癌細胞が検出された場合、高率に腹膜再発を来すことが明らかになっている。この腹膜転移については、手術によって胃癌を切除した患者の予後を予測する目的で、手術時に採取される腹腔洗浄液を用いて腹腔内の遊離胃癌細胞の検出が行われている。加えて、腹膜転移が顕在化する前に抗癌剤による腹腔内化学療法を行うと患者の予後が改善されることが示されつつあることから、高感度かつ迅速に腹腔内遊離胃癌細胞を検出する技術が求められる。従来、腹腔内遊離癌細胞は腹腔洗浄液の細胞沈渣を染色し、癌細胞を顕微鏡下に探す細胞診が行われていたが、感度が低く、検出精度も実施者の熟練にも依存する。また血清中や腹腔洗浄液中の癌マーカーをELISA法等によって測定することも行われているが、上記のように感度が十分でなく、正確な診断をすることができない。そこで、これに代わる方法として、腹腔洗浄液の細胞沈渣に対して癌細胞特異的転写産物(メッセンジャーRNA)を、RT−PCR法を用いて増幅・検出することにより高感度に遊離癌細胞を定量的に検出する方法が開発された。しかし、当該方法では、用いる試薬や機器が高価であり、手順も煩雑で時間がかかるという問題があった。
【0007】
また、sTn糖鎖抗原を癌マーカーとして用いることができる上記癌のうち、肺癌は、国内では男性の癌死亡原因のうち、第1位、女性でも胃癌についで第2位である。今後も肺癌患者数は増加する見通しで、2015年には、1年間で新たに肺癌を発病する患者数は男性11万人、女性3万7千人にのぼると予測されている。
【0008】
肺癌は、組織学的分類によって、小細胞癌と非小細胞癌に分類される。非小細胞癌はわが国では肺癌全体の約80〜85%を占める癌であり、さらに腺癌、扁平上皮癌及び大細胞癌に分類される。わが国では、腺癌が最も発生頻度が高く、男性の肺癌では約40%、女性の肺癌では約70%以上、原発性肺癌の全体では約半数が腺癌である。
【0009】
肺腺癌の臨床的診断は、主として、胸部レントゲン検査、シングルスライスCT検査、マルチスライスCT検査等で行うのが一般的である。また、肺腺癌検出方法として、癌マーカーとして公知の癌胎児性抗原(CEA)及びシアリルLex−i抗原(SLX)に対する抗体を用いて測定することにより、ヒト肺腺癌を検出する方法がある。しかしながら、当該癌マーカーを検出する診断法では、肺腺癌に対する陽性率が40〜50%と低いばかりでなく、肺癌の他の組織型、肺良性疾患及び大腸癌、胃癌、乳癌をはじめとする他の臓器癌においても検出されるため、感度及び臓器特異性の面で適用可能なマーカーとはいえないという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大内憲明 他:癌と化学療法、15巻、2767-2772頁(1988)
【非特許文献2】井村裕夫 他:癌と化学療法、16巻、3213-3219頁(1989)
【非特許文献3】Nakanishi, H, et al. : Int. J. Cancer Vol. 89, pp411-417 (2000)
【非特許文献4】Taylor-Papadimitriou, J, et al. : Biochim. Biophys. Acta. Vol. 1455, pp301-313 (1999)
【非特許文献5】Werther, J. L., et al. : Int. J. Cancer Vol. 69, pp193-199 (1996)
【非特許文献6】Ohashi, N., et al. : Int. J. Oncol. Vol. 27, pp637-644 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、癌の正確な早期診断法及び当該方法を可能にする癌マーカーが望まれていた。さらに、癌の体外診断では、上記のとおり、核酸をRT−PCR法により増幅する方法がとられていたが、当該方法は手順が煩雑で、コストと時間がかかるという課題があった。さらに、上記のとおり、従来のsTn検出法では、検出時期が遅く、検出感度も不十分であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CA72-4値の高い胃癌患者腹腔洗浄液において、sTnで修飾されたMUC1糖タンパク質が存在することを見いだした。またsTn抗原の発現について様々な癌腫を探索する過程で、当該抗原が肺腺癌組織で強く発現することを見出し、sTn抗原を発現する当該組織で当該抗原を有する高分子量のタンパク質を検出し、それをMUC1タンパク質と同定した。以上の結果に基づき、このsTnを有するMUC1糖タンパク質を高感度に検出するため、sTnを認識する、キャプチャー抗体である抗sTn抗体と、sTnで修飾された糖タンパク質を認識する、検出抗体である抗MUC1抗体とを組み合わせたELISA試験系を構築し、sTnで修飾されたMUC1分子が同定されることを確認した。このようにして、本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いた、sTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出するための免疫学的方法を確立するに至った。さらに、当該方法を用いると、上記各種癌組織及び体液中の癌の存在を精度よく検出できることも見出し、上記方法が癌を検出することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、前記方法。
(2)方法がELISA法である、(1)記載の方法。
(3)癌が胃癌又は肺癌である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)試料が腹腔洗浄液由来である、(3)記載の胃癌を検出する方法。
(5)肺癌が肺腺癌である、(3)記載の方法。
(6)(1)記載の方法に用いるための、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌の存在を検出する方法であって、前記抗体がシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする方法が提供される。本発明の方法は、検出抗体としてsTnを認識する抗体のほかに抗原分子であるMUC1分子との親和性が高い抗MUC1抗体を用いるため、糖鎖抗原であるsTnを認識する抗体のみを用いる方法よりも、感度が高い。よって、本発明の方法は、正確に癌細胞の存在を検出する方法として有用である。さらに、当該検出方法は、高価な試薬や機器が不要で安価であり、検出手順も簡易かつ短時間で結果が得られる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、肺腺癌細胞株を用いてフローサイトメトリーで細胞表面sTn発現の検討を行った結果を示す図である。
【図2】図2は、sTn合成の責任酵素遺伝子ST6GalNAcIを強制発現した胃癌細胞株を用いてフローサイトメトリーを行い、細胞表面sTn発現の確認を行った結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、肺腺癌細胞株ライセートを用いた抗sTn抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図3B】図3Bは、肺腺癌細胞株ライセートを用いた抗sTn抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図4】図4は、肺腺組織ライセートを用いた抗sTn抗体及び抗MUC1抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図5A】図5Aは、肺癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1発現の検討を行った結果を示す図である。
【図5B】図5Bは、肺癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1発現の検討を行った結果を示すグラフである。
【図6】図6は、肺腺癌細胞株の細胞ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISAによるsTn−MUC1の検出を行った結果を示す図である。
【図7】図7は、肺癌組織ライセートを用いたサンドイッチELISAによるsTn−MUC1の検出を行った結果を示す図である。
【図8A】図8Aは、ヒト胃癌細胞株のマウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進を示す写真である。
【図8B】図8Bは、ヒト胃癌細胞株のマウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進と生命予後の悪化を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、sTn陽性胃癌細胞株GCIY/6Lから抗sTn抗体を用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングによりsTnキャリアタンパク質としてMUC1を同定した結果を示す写真である。
【図9B】図9Bは、sTn陽性胃癌細胞株GCIY/6Lから抗MUC1抗体を用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングによりsTnキャリアタンパク質としてMUC1を同定した結果を示す写真である。
【図10】図10は、免疫沈降とウェスタンブロッティングを用いて、ヒト胃癌組織ライセートにおいてsTn−MUC1が発現していることを示す写真である。
【図11】図11は、CA72-4陽性ヒト胃癌腹腔洗浄液においてsTn−MUC1が存在していることを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の癌の検出方法
本発明の癌の検出方法は、癌組織で強く発現するsTnを有するMUC1糖タンパク質を精度よく検出することに関し、具体的には抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いて、当該タンパク質をより感度よく検出することを特徴とする。
【0018】
(1)本発明のsTnを有するMUC1糖タンパク質
本発明の方法に関する「sTnを有するMUC1糖タンパク質」とは、シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質をいう。「MUC1糖タンパク質」とは、MUC1コアペプチドに、セリン又はトレオニン残基を介して多数のO型糖鎖が付加されているムチン性の膜結合型糖タンパク質、又は前記膜結合型糖タンパク質が細胞外部分で切断されて生じた分泌型あるいは可溶化型糖タンパク質である。MUC1コアタンパク質遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、GENEBANKにアクセッション番号NM_002456として登録されている。MUC1コアタンパク質はI型膜タンパク質であり、短いN末端領域、20アミノ酸の反復配列(ムチンリピート)からなる中央領域、ムチンリピートよりC末側の短い細胞外領域、膜貫通領域、細胞質側の短いC末端領域からなる。細胞外領域全体にわたって多数のセリンとトレオニンが存在し、特にムチンリピートを構成する20アミノ酸のうち5アミノ酸がセリンとトレオニンで占められる。少なくともムチンリピート内では5カ所のセリンとトレオニンのほぼ全てにO型糖鎖が付加していると報告されている。ムチンリピートの繰り返し回数は著しい多型を示し、21から125回に及ぶ。それゆえその分子量は300kDa以上と長大になる。
【0019】
正常組織におけるMUC1コアペプチド上での糖鎖伸張反応は、セリン又はトレオニン側鎖にGalNAcが結合することで開始する。通常、このGalNAcにガラクトース(Gal)がβ1-3結合で付加してコア1構造(Galβ1-3GalNAcα-Ser/Thr)を形成し、さらにコア1構造にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がβ1-6結合で付加しコア2構造(Galβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAcα-Ser/Thr)を形成する。さらにこれら非還元末端のGalやGlcNAcに糖鎖が付加され、長大な糖鎖が形成される。結果として長大な糖鎖を多数有したMUC1糖タンパク質が生じる。
【0020】
一方、癌細胞では、前記のO型糖鎖合成がしばしば異常を示すことが分かっている。シアリルTn(sTn)もそのような癌関連糖鎖抗原の1つとして以前から知られていた。sTnは、タンパク質のセリン又はトレオニン側鎖に付加される糖鎖構造であり、ポリペプチド鎖のセリン又はトレオニン残基のヒドロキシル基にSiaα2→6GalNAcがα結合している抗原をいい、Siaα2→6GalNAcα→Ser/Thrで表される。
ここで、Siaはシアル酸を、GalNAcはN-アセチルガラクトサミンを、Ser/Thrはセリン又はトレオニンを表す。O型糖鎖を有する多数のタンパク質がsTnで修飾されうる。sTnは、より初期段階での糖鎖合成異常に由来する。すなわち、前記コア1構造のGalNAcに対しシアル酸(Sia)がα2-6結合で結合している(Siaa2→6GalNAca→Ser/Thr)。しかし、この結合様式は正常組織では見出されない。重要なことは、このシアル酸付加により、当該糖鎖にこれ以上の付加・伸長が起きなくなることであり、結果的にsTn糖鎖抗原が蓄積する。sTn糖鎖抗原は、良性疾患における偽陽性率が低く、癌特異性が高いことを特徴とし、胃癌、膵癌、大腸癌、胆道癌等の消化器癌や卵巣癌、子宮頸癌等で認められ、これらの癌の組織マーカーとして用いられる他、血中癌マーカーの1つとしても用いられる。
【0021】
本発明者らが同定した上記「シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質」とは、MUC1糖タンパク質上のO型糖鎖の全部又は一部がシアリルTnである、癌細胞によって合成されるMUC1糖タンパク質の一群である。担癌患者においてMUC1糖タンパク質に対する自己抗体が検出されるとの報告があったが、その作用機序は知られていなかった。発明者らは、シアリルTnは2糖からなる短い糖鎖のため、正常組織で合成されるMUC1糖タンパク質では高密度に存在する長大なO型糖鎖によってマスクされていたMUC1コアペプチドの一部が露出することになるため、シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質は強い抗原性を獲得すると考えた。実際に、本発明に関する「シアリルTnが修飾されたMUC1糖タンパク質」は、癌組織で強く発現するため、癌マーカーとして用いることができる。癌については、以下に詳細に説明する。
【0022】
(2)本発明の抗体
本発明の方法は、抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いることを特徴とする。
本発明において「抗sTn抗体」とはsTn糖鎖抗原に結合し得る抗体分子全体を意味し、「抗MUC1抗体」は、種々の糖鎖で修飾されたMUC1糖タンパク質又は糖鎖修飾を受けていないMUC1コアタンパク質又はそれらの部分断片に結合し得る抗体分子全体を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。さらに、その断片、すなわち抗原抗体反応活性を有する活性フラグメント、具体的には、Fab、F(ab’)2、Fv、組換えFv体、1本鎖Fvも含まれる。
【0023】
本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体は公知の方法を用いて調製することができるし、市販されているハイブリドーマを用いて公知の方法に従って作製してもよい。また、本願発明で用いられる抗sTn抗体及び抗MUC1抗体は、sTn及びMUC1に対する特異性が確認された抗体であれば、いかなる抗体をも用いうる。
【0024】
例えば、ポリクローナル抗体を作製するためには、免疫した動物から得られた抗血清中からポリクローナル抗体を作製する方法があげられる。具体的には、MUC1糖タンパク質若しくはMUC1糖タンパク質に修飾されたsTn又はそれらの部分断片を抗原として用いて動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)を免疫し、最終免疫後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得ればよい。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、1〜10mgであり、アジュバントの有無によって適宜調節する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等が挙げられる。抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0025】
モノクローナル抗体を作製するには、当該分野で周知のハイブリドーマ法によって製造することができる。例えば、MUC1糖タンパク質若しくはMUC1糖タンパク質に修飾されたsTn又はそれらの部分断片を抗原として、哺乳動物を免疫した後に得られる抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞等)とミエローマ細胞(例えばP3X63−Ag.8.U1、NS−Iなど)との細胞融合を行い、細胞融合後に目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすればよい。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。
【0026】
本発明における抗体には、ヒト型化又はヒト化されたものも含まれる。ヒト抗体は、免疫系をヒトのものと入れ換えた哺乳動物を免疫すれば、通常のモノクローナル抗体と同様にして作製することができる。ヒト型化抗体は、定常領域と可変領域の一部がヒト型の抗体であり、可変領域において、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものを、CDRと呼ばれる相補性決定領域(complementarity determining region)はマウス由来のものからなる再構成した抗体である。ヒト型化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域からCDRをヒト可変領域に移植して、次にこれらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト型化抗体の作製法は、遺伝子工学的手法により得ることができ、当分野において確立されている。
【0027】
(3)本発明のタンパク質を特異的に検出する方法
本発明の方法は、sTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することにより、癌を検出する方法に関する。特異的に検出する方法としては、免疫学的に検出する方法があげられる。免疫学的方法としては、一般に普及している多くの手法があげられ、免疫沈降及びウェスタンブロッティングのほか、競合法、イムノメトリック法、ネフェロメトリー(nephelometry)、サンドイッチ法などが好適に用いられるが、感度及び特異性の見地から、サンドイッチ法がとくに好ましい。サンドイッチ法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)又はEIA(enzyme immunoassay))、放射性免疫測定法(RIA(radioimmuno assay))等が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明のsTnを有するMUC1糖タンパク質を免疫学的に検出する方法としては、生体由来の試料を、標識した上記「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」と接触させて、当該試料中に「sTnを有するMUC1糖タンパク質」が存在する場合には、当該タンパク質が上記標識抗体と反応することで、その存在を検出する方法や、免疫学的な凝集反応として上記タンパク質の存在を検出する方法もあげられる。
【0029】
この場合、上記抗体は、適当な化学的又は物理的検出手段により検出可能な標識を有する。そのような標識物質を用いる測定法に使用される標識剤として、たとえば蛍光物質、酵素、放射性同位元素、発光物質などが用いられる。標識にとくに酵素を用いた場合は、ELISA法と呼ばれ、広く利用されている。また、蛍光物質としては、フルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなど、酵素として、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなど、放射性同位元素として、125I、131I、3H、14Cなど、発光物質として、ルシフェリン、ルシゲニン、ルミノール、ルミノール誘導体などがあげられる。
【0030】
具体的な免疫学的方法として、例えば、免疫沈降及びブロッティングを用いる方法を例示する。すなわち、細胞ライセート又は組織のライセート等の生体由来の試料から免疫沈降物を得て、適当なバッファーを添加してインキュベートすることにより溶出させる。この溶出した免疫沈降物について抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析する。この結果、sTnを有するMUC1糖タンパク質を示す分子量250kDaをこえるバンド及びスメアを検出する方法である。
【0031】
具体的な免疫学的方法として、さらに、サンドイッチELISA法を用いた方法も例示する。すなわち、適当量の抗sTnモノクローナル抗体と適当量の細胞ライセート又は組織ライセート等の生体由来の試料を反応させた後、抗MUC1モノクローナル抗体を添加してさらに反応させる(1次反応)。その後、さらに、上記反応液に、標識酵素で標識された2次抗体を添加して反応させる(2次反応)。最後に、標識酵素により触媒される発色反応により、上記試料中に存在するsTnを有するMUC1糖タンパク質を検出する方法である。この場合、1次反応において、抗sTnモノクローナル抗体と抗MUC1モノクローナル抗体とを添加する順序は逆でもよく、当該1次反応と2次反応は逆順序に行ってもよく、同時に行ってもよいし、さらに時間をずらして行ってもよい。また、標識に用いられる標識酵素としては、HRP(ペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなどがあげられる。本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体又は抗原と標識酵素との結合には、ビオチン‐アビジン系を用いてもよい。また、抗原又はモノクローナル抗体を不溶化させてもよく、その場合には、物理的吸着を用いてもよく、あるいは通常タンパク質又は酵素などを不溶化、固定化するために用いられる化学結合を用いる方法を用いることができる。さらに、担体として、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、あるいはガラスなどを用いることもできる。そして、反応媒体として、反応の至適条件を与えるか、反応生成物質の安定化などに有用な緩衝液、反応物質の安定化剤などを含んでもよい。さらに、検出手段としては、分光器、放射線検出器、光散乱検出器といった上記標識を検出可能なものであればいかなる手段をも用いることができる。
【0032】
(4)本発明の癌を検出する方法
本発明では、上記の免疫学的方法により得られた検出結果を指標として癌の状態を評価することにより癌を検出することができる。具体的には、(i)生体由来の試料と本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体とを反応させて、試料中に存在する癌マーカーであるsTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出する工程;及び(ii)工程(i)の検出結果を、癌と関連付ける工程;を含む癌の検出方法である。
【0033】
ここで、評価方法としては、例えば、免疫沈降やブロッティングを用いた上記検出方法により、所定のタンパク質の分子量と同一の分子量を有するタンパク質が確認された場合を陽性とし、当該タンパク質が確認されなければ陰性として、癌の状態を評価する方法があげられる。また、例えば、サンドイッチELISA法を用いた上記検出方法により検出結果が所定の基準値を超えるものを陽性、所定の基準値以下のものを陰性とし、陽性の場合には、癌を発症している可能性があると判断し、癌の状態を評価する方法があげられる。
【0034】
癌の状態とは、癌の罹患の有無又はその進行度を意味し、癌発症の有無、癌の進行度、癌の悪性度、癌の転移の有無及び癌の再発の有無等が挙げられる。上記評価に際し、これらの癌の状態は1つを選択してもよく、複数個を適宜組み合わせて選択してもよい。癌の有無を評価するには、癌に罹患しているか否かを判断する。癌の悪性度は、癌がどの程度進行しているのかを示す指標となるものであり、病期(Stage)を分類して評価したり、いわゆる早期癌、進行癌を分類して評価したりすることも可能である。癌の転移は、原発巣の位置から離れた部位に新生物が出現しているか否かにより評価する。再発は、間欠期又は寛解の後に再び癌が現れたか否かにより評価する。
【0035】
(5)本発明の生体由来の試料
本発明の癌の検出方法には、生体由来の試料を用いることができる。本発明で用いる生体由来の試料としては、体液、組織、細胞、血液、尿及び手術等で採取される液体等があげられるがこれらに限定されない。手術等で採取される液体としては、例えば、腹腔洗浄液や腹水があげられる。腹腔洗浄液とは、手術時に腹腔を洗浄する腹腔洗浄法により得られる液体をいい、洗浄には生理食塩水等が用いられる。腹腔洗浄法には、腹腔内貯留液の有無や性状などを検査するための診断的腹腔洗浄法と消化管穿孔時の腹腔内洗浄、腹腔内細菌の排除及び術中の出血による凝血塊の除去、臓器の乾燥予防などを目的とした治療的腹腔洗浄法などがあげられ、このような方法により得られた液体であれば本発明で用いることができる。特に、胃癌腹腔洗浄液は、従来から、腹腔内の遊離胃癌細胞を検出して胃癌の腹膜転移の有無を検査するために採取されてきた試料である。本発明の方法で用いる生体由来の試料として当該胃癌腹腔洗浄液を用いると、高感度かつ迅速に腹腔内遊離胃癌細胞を検出することができるため、胃癌腹腔洗浄液は本発明の生体由来の試料として好ましい。
【0036】
(6)本発明の方法で検出できる癌
本発明の方法により検出できる癌の適用部位は特に限定されず、胃癌、肺癌、脳腫瘍、舌癌、咽頭癌、乳癌、食道癌、膵癌、胆道癌、胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、肝癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、皮膚癌、各種白血病(例えば急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫)、等を対象として適用される。上記癌は、原発巣であっても、転移したものであっても、他の疾患と併発したものであってもよい。特に、本発明の方法には、肺癌及び胃癌の検出に適する。ここで、本発明の方法は、肺癌の検出のうち、肺腺癌の検出に好適である。また、本発明の方法は、胃癌の検出のうち、胃癌の検出のほか、胃癌の腹膜転移の検出にも好適である。胃癌の腹膜転移とは、胃壁を超えて腹腔内に広がった遊離癌細胞から生ずる癌で、胃癌の再発の主因である。本発明の方法を胃癌の腹膜転移の検出に用いる場合は、腹腔洗浄液を用いて腹膜播種を検出することにより、癌の予後や再発の有無を早期に診断することできるため、好ましい。
【0037】
本発明の癌検出試薬
本発明の上記癌を検出する方法には、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬を用いることができる。
【0038】
本発明の抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体を免疫学的測定方法に適用する場合、特別の条件、操作などは必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作に準じて行われ、必要であれば若干の修飾を加えて好適な測定系が構築できる。
【0039】
そのためのもっとも簡便かつ効率的に測定を行うことを可能とするのは、上記試薬をキット化することである。そうしたキット化により、通常の検査室又は実験室で、特殊な分析機器、熟練した操作、高度の知識は必要とせずに、効率的に定量を行うことができる。上記の各種検出方法又は治療の判定方法を実施するためのアッセイキットの構成及び形態は、とくに限定されるものでなく所定の目的を達成できるものであればその内容は限定されない。一般には上記検体試料について、アッセイ方法を実行し得られた結果を解釈するための使用説明書、反応試薬、反応が行われる場となる反応媒体、アッセイの場を提供する基材などから構成される。さらに所望により、比較基準とするためのあるいは検量線を作成するための照合サンプル、検出器なども含んでもよい。
【0040】
本発明の「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」を癌検出試薬として用いる場合には、「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」を他の溶媒や溶質と組み合わせて組成物とすることができる。たとえば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤などを組み合わせることができる。
【0041】
本検出試薬には、本発明の抗体の他に、抗原固相化マイクロプレート、「sTnを有するMUC1糖タンパク質」の標準品(STD)、抗体希釈溶液、HRP標識−抗ウサギIgG抗体、OPD(オルトフェニレンジアミン)錠、基質液、反応停止液、濃縮洗浄液などを含めることができる。また、標識酵素として、HRP(ペルオキシダーゼ)の他に、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなどを用いることもできる。さらに、反応媒体として、反応の至適条件を与えるか、反応生成物質の安定化などに有用な緩衝液、反応物質の安定化剤なども含めることもできる。
【実施例】
【0042】
実施例1:sTn陽性癌細胞株の探索及び樹立
本実施例は、sTn陽性癌細胞株を樹立することを目的とする。
肺腺癌細胞株として、A549、ABC1、EHHA−9、NCI−H358、NCI−H441、NCI−H838、NCI−H1355、NCI−H1819、NCI−H1975、NCI−H3255、HAL8、HAL24、HCC827、LX−1、PC−9、及びRERF−LC−MSの16種類の細胞を用いて以下の実験に供した。
【0043】
上記細胞は全て、10%非働化ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を添加したRPMI1640(Invirogen)培地中で37℃の加湿5%CO2インキュベーター中で培養した。
【0044】
培養後の細胞をトリプシン−EDTA(0.5%;GIBCO)で処置してプレートから剥離した後、遠心分離によって回収した。回収した細胞を約2.0×106細胞/mlになるように1%FCSを含むPBSで希釈し、0.1ml(〜2.0×105細胞)を5ml試験管に分注した。その後、0.1mlのB72.3産生ハイブリドーマ培養上清を添加し、4℃で1時間染色した。遠心分離して上清を除去した後、1%FCSを含むPBSで懸濁し、APCコンジュゲートされた抗マウスIg抗体(BD Biosciences)を終濃度10μg/mlになるように添加し、4℃で1時間染色した。遠心分離して上清を除去した後、1%FCSを含むPBSで再懸濁し、フローサイトメトリー解析に供した。
【0045】
フローサイトメトリー解析には、FACSAria(商標)セルソーター(Becton Dickinson)を用いた。細胞に633nmのHe−Neレーザーの励起光を照射した後、APC由来の蛍光を650nm以上の蛍光検出器で検出した。その結果、図1に示されたように、EHHA−9細胞及びNCI−H441細胞で細胞表面sTn抗原の発現が高いことが示された。
【0046】
一方、これまでに樹立され利用可能であった胃癌細胞株にはsTnが発現しているものはなかった。そこで胃癌細胞株の1つで、マーカーとして緑色蛍光タンパク質EGFPを有するGCIY−EGFPに、sTn合成の責任酵素であるST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドを導入した。フローサイトメトリーでsTnの発現を調べたところ、sTn陽性の画分が認められたので、この画分をソートし、sTn陽性の亜株(GCIY/6L)を樹立した(図2)。コントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株(GCIY/6S)を樹立した。
【0047】
実施例2:肺癌細胞株ライセートを用いた免疫沈降及びウェスタンブロッティング
本実施例は、sTn陽性癌細胞株を用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングにより、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0048】
実施例1で細胞表面sTn抗原の発現が高いことが示されたEHHA−9細胞及びNCI−H441細胞を以下の実験に供した。まず、このEHHA−9細胞及びNCI−H441細胞をRIPAバッファー(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、2mM EDTA、0.1%SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1%TritonX−100、及び1×プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche))で溶解した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mlを1.5ml試験チューブに分注した。その後、10μlのB72.3がコンジュゲートされたセファロースビーズ(〜2.5μg抗体/μl)を添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションによって溶出した。
【0049】
溶出された免疫沈降物について銀染色及びB72.3を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、EHHA−9細胞ライセート由来の免疫沈降物のレーンでは分子量250kDaをこえるバンドが検出され、NCI−H441細胞ライセート由来の免疫沈降物のレーンでは分子量160〜250kDaのスメアが検出された(図3A)。
しかしながら、銀染色では、ウェスタンブロッティング解析で得られた分子量のバンド又はスメアに対応するバンド又はスメアを検出することができなかった(図3A)。
【0050】
これらの結果により、検出されたバンドがムチンタンパク質である可能性が考えられた。そこで、上記の免疫沈降物を利用し、抗ムチン抗体のパネル(抗MUC1(VU4H5)、抗MUC3(M3.1)、抗MUC4(H−300)、抗MUC5B(5B#19−2E)、抗MUC7(V−20)、抗MUC11(P−18)、抗MUC12(C−21)、抗MUC13(K−13)、抗MUC17(N−19)(以上、SantaCruz)、抗MUC2(CCP58)(ZYMED)、及び抗MUC5AC(CHL2)(Novocastra))を用いてウェスタンブロッティング解析を行った。
【0051】
その結果、抗MUC1抗体を用いた時にのみ、分子量250kDaを越える位置にバンドが検出された(図3B)。これより、MUC1がsTn抗原のキャリアタンパク質であることが示された。
【0052】
実施例3:肺腺癌組織を用いた免疫沈降及びウェスタンブロット
本実施例は、癌組織用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングにより、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0053】
本実施例で用いた肺腺癌組織試料(非癌部及び癌部)は、筑波大学病院で肺腺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた試料である。
上記のように得られた肺腺癌組織試料をRIPAバッファーで溶解した後、10,000gで5分間遠心分離し、上清を細胞ライセートとして回収した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mLを1.5ml試験チューブに分注した。その後、実施例2で記載した10μlのB72.3セファロースビーズを添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで3回洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションで溶出した。溶出した免疫沈降物について、銀染色(図4、A)並びにB72.3及び抗MUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、図4で示されるように、MUC1は癌部でのみ検出され、非癌部では検出されなかった(図4、B)。一方、抗MUC1抗体(クローンVU4H5,SantaCruz)で免疫沈降し、得られた免疫沈降物を、抗sTn抗体を用いて検出した場合にも、癌部でのみ250kDaより上の位置に特異的なバンドが得られた(図4、B)。したがって、この系で検出されるMUC1が肺腺癌を検出する良好なマーカーとなることが示された。
【0054】
実施例4:肺癌組織ライセートを用いた免疫沈降及びウェスタンブロット
本実施例は、癌組織ライセートを用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングを行い、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0055】
本実施例で用いる肺癌組織試料(非癌部及び癌部)は全て、東京医科大学病院で肺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた。
上記肺癌組織試料をRIPAバッファーで溶解した後、10,000gで5分間遠心分離し、上清を細胞ライセートとして回収した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mlを1.5ml試験チューブに分注した。その後、実施例2で記載した10μlのB72.3セファロースビーズを添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで3回洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションで溶出した。溶出した免疫沈降物についてMUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析した。その結果、図5A及びBで示されるように、肺腺癌34症例中29症例(85.3%)においてMUC1が検出され(図5B)、この系で検出されるMUC1が肺腺癌を検出する良好なマーカーとなることが示された。
【0056】
実施例5:肺癌細胞株ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISA
本実施例は、肺癌細胞株ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISAで肺腺癌の存在を予測することができるか否かの検討を行うことを目的とする。
【0057】
以下の実験には、sTnをキャリーするMUC1を発現する肺腺癌細胞株EHHA9、sTnは発現するがMUC1上にSTnがキャリーされない肺腺癌細胞株PC9/6L及びsTnを発現しない肺腺癌細胞株PC9/6S由来のライセート並びに培養上清を用いた。上記試料を用いて、以下に記載するサンドイッチELISA法により、sTn−MUC1を検出した。
【0058】
すなわち、96ウェルプレート(Corning)にB72.3/抗sTnモノクローナル抗体溶液(5μg/ml、0.05M炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、4℃で終夜反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、1%BSAを含むPBSTを添加してブロッキングを行った。PBSTで洗浄した後、100ng/mlになるようにRIPAバッファーで希釈された細胞ライセート又は10倍濃縮した細胞培養上清をそれぞれ100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、ビオチン化された抗MUC1モノクローナル抗体溶液(5μg/ml、50mM炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、HRP標識されたストレプトアビジン溶液(Jackson;20,000倍希釈)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、1−Step(商標)TurboTMB−ELISA(Pierce)を100μl/ウェルで添加し、その後1M H2SO4を100μl/ウェルで添加した。最終的にOD450nmを測定し、抗原の存在を確認した。
【0059】
その結果、図6A及び6Bで示すように、sTn−MUC1は、対照細胞株と比較してsTnをキャリーするMUC1を発現する肺腺癌細胞株由来のライセート及び培養上清でより多く検出された。したがって、本明細書に記載された方法を用いて上記抗原を検出することにより、肺腺癌の存在を予測することができることが示された。
【0060】
実施例6:肺癌患者組織ライセートを用いたサンドイッチELISA
本実施例は、肺癌患者組織ライセートを用いたサンドイッチELISAで肺癌の存在を予測することができるか否かの検討を行うことを目的とする。
【0061】
本実施例で用いる肺癌組織試料(非癌部及び癌部)は全て、東京医科大学病院で肺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた。
以下の実験には、肺腺癌患者の癌部由来の組織ライセート(AD)、ならびにその他の肺癌患者の癌部又は罹患部由来の組織ライセート(SQ、SCLC、Fibrosis)を用いた。上記組織ライセートを用いて、以下のように、サンドイッチELISA法を用いてsTN−MUC1を検出及び測定した。
【0062】
すなわち、96ウェルプレート(Corning)にB72.3/抗sTnモノクローナル抗体溶液(5μg/ml、50mM 炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、4℃で終夜反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、1%BSAを含むPBSTを添加してブロッキングを行った。PBSTで洗浄した後、100ng/mlになるようにRIPAバッファーで希釈した細胞ライセートを100μl/ウェルで添加して、室温で2時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、ビオチン化した抗MUC1モノクローナル抗体溶液(5μg/ml,0.05M炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、HRP標識されたストレプトアビジン溶液(Jackson;20,000倍希釈)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、1−Step(商標)TurboTMB−ELISA(Pierce)を100μl/ウェルで添加し、その後1M H2SO4を100μl/ウェルで添加した。最終的にOD450nmを測定し、抗原の存在及び量を確認した。
【0063】
その結果、図7で示すように、sTn−MUC1は、対照組織ライセートと比較して腺癌組織ライセートでより多く検出された。したがって、本明細書に記載された方法を用いて該抗原を検出することにより、肺腺癌の存在を予測することができることが示された。
【0064】
実施例7:マウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進と生命予後の悪化
本実施例は、癌細胞を移植したマウスモデルを用いて、sTn発現と癌の腹膜転移及び予後の悪化の相関関係を検討することを目的とする。
【0065】
本実施例では、実施例1で樹立した、ST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドが導入されたsTn陽性の亜株であるGCIY/6L及びコントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株であるGCIY/6Sを用いた。上記株の培養条件等は実施例1に記載のとおりである。
【0066】
GCIY/6L及びGCIY/6Sを培養し、指数関数的に増殖している時点で、GCIY/6L及びGCIY/6Sを、トリプシンを用いて培養皿から剥がし、ハンクス液に懸濁した。
【0067】
2×106個の細胞を含む細胞懸濁液をヌードマウスの腹腔にシリンジを用いて注入し、SPFにて飼育し、経過を観察した。細胞懸濁液注入後、5週目又は7週目に開腹し、注入した癌細胞株をEGFPの蛍光により観察した。
【0068】
その結果、5週目の時点では、sTn陽性であるGCIY/6Lの方が、sTn陰性のGCIY/6Sに比べて明らかに腹膜転移が亢進しており(図8A)、取り出した癌の重量も有意に大きかった(図8B、左)。一方、7週目の時点では、GCIY/6LとGCIY/6Sの間で、腹膜転移の程度に明瞭な差は認められなかった(図8A)。また、移植後のマウスの生命予後を観察したところ、sTn陽性であるGCIY/6Lの方がsTn陰性のGCIY/6Sに比べて明らかに短命であった(図8B、右)。
【0069】
従ってGCIY/6Lは活性型ST6GalNAcIを強制発現した人工的な系ながら、高率に腹膜転移し、生命予後が悪いというヒトにおける胃癌の腹膜再発と共通する性質を有していることが見出された。そこで、この細胞株を用いてsTnキャリアタンパク質を探索することとした。
【0070】
実施例8:抗sTn抗体(B72.3)の精製及び固相化
本実施例は、抗sTn抗体であるB72.3モノクローナル抗体を精製し、固相化することを目的とする。B72.3モノクローナル抗体はsTnに対する特異性が確認されている抗体である。
【0071】
B72.3モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(ATCCより入手)を無血清培地Hybridoma-SFM(インビトロジェン)に馴化したのち大量培養し、B72.3モノクローナル抗体を含む大量の培養上清を回収した。遠心分離及び濾過により浮遊物を除いた後、MAbTrap Kit(GEヘルスケア)又はrProteinA Sepharose(GEヘルスケア)を用いてB72.3モノクローナル抗体を精製した。
【0072】
B72.3モノクローナル抗体の固相化にはCNBr-activated Sepharose(GEヘルスケア)を用いた。精製B72.3モノクローナル抗体1mgに対しCNBr-activated Sepharoseレジン0.05gの割合で、添付のプロトコールに従って反応させた。これにより、B72.3モノクローナル抗体をSepharoseレジンに共有結合を介して結合させた。反応後、Sepharoseレジンを洗浄し、レジン0.05gあたり200μlの20mM リン酸緩衝液pH7.0に懸濁し、適量を免疫沈降に用いた。
【0073】
実施例9:sTn陽性GCIY/6LからのsTnキャリアタンパク質の免疫沈降とウェスタンブロッティングによる同定
本実施例は、sTn陽性GCIY/6Lを用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングを行い、sTnキャリアタンパク質を同定することを目的とする。
【0074】
本実施例では、実施例1で樹立した、ST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドが導入されたsTn陽性の亜株であるGCIY/6L及びコントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株であるGCIY/6Sを用いた。上記株の培養条件等は実施例1に記載のとおりである。
【0075】
上記、GCIY/6L及びGCIY/6Sを10cm培養皿で80%コンフルエント程度まで培養し、培養上清(sup、10ml)を回収するとともに、細胞が張り付いた培養皿に、プロテアーゼ阻害剤としてcompleteMini、EDTA−free(Roche)を添加した0.5ml RIPAバッファー(50mM Tris−HCl pH7.3、150mM NaCl、2mM EDTA、0.1% TritonX−100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)を加えて細胞を溶解し、マイクロチューブに移して遠心分離後、上清をライセート(lysate)として回収した。予めマウスIgGを付けたProteinG Sepharoseビーズを加えて培養上清及びライセートをプレクリアした後、実施例8で調製した抗sTn抗体(B72.3)固相化ビーズ10μlを加え浸透しながら4℃で一晩インキュベートした。遠心分離を行うことにより回収したビーズをRIPAバッファーで洗浄した後、10μlSDSサンプルバッファーを加えて98℃で5分間加熱することで、ビーズに結合したタンパク質を溶出した。これを6%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、Immun−BlotPVDF膜(バイオラッド)に転写した。転写後のブロットを5%スキムミルクを含むTBS−T(Tris−buffered saline−0.1%Tween20)を用いて室温で1時間ブロッキングした後、1次抗体として50μg/ml程度のB72.3を含むハイブリドーマ培養上清(0.1%Tween20添加)中で室温、1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、TBS−Tで20000倍に希釈したAnti−mouseIgG、HorseradishPeroxidase−linkedF(ab’)2(GEヘルスケア)を含む2次抗体液中で室温で1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、WesternBlottingDetectionReagents(GEヘルケア)による化学発光システムとX線フィルムを用いてB72.3に反応するsTnキャリアタンパク質を検出した(図9A)。
【0076】
その結果、GCIY/6Lの培養上清とライセートの両者から、主要なバンドとして250kDaを超える分子量を示すバンドと100kDaから150kDaの間の分子量を示すバンドが検出された。
【0077】
前者のタンパク質が250kDaを超える巨大なタンパク質であること及びB72.3がsTnのクラスターを認識すると報告されていることから、次に、このタンパク質がムチンである可能性について検討した。ブロットをストリッピングバッファー(2%SDS,100mM 2−mercaptoethanol,62.5mM Tris−HCl pH6.7)中で50℃、30分間処理して抗体を外した後、TBS−Tで200倍に希釈した抗MUC1モノクローナル抗体(クローンVU4H5、Santa Cruz Biotechnology)を含む1次抗体液中で室温1時間インキュベーションして、十分洗浄した後、TBS−Tで20000倍に希釈したAnti−mouseIgG、HorseradishPeroxidase−linkedF(ab’)2を含む2次抗体液中で室温で1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、前記と同一のシステムで、MUC1を検出した。
【0078】
その結果、B72.3で検出された250kDaを超えるバンドと同一の位置にシグナルが得られた(図9A)ことが示された。これより、MUC1がsTnで修飾されており、抗sTn抗体B72.3で免疫沈降されることが分かった。
【0079】
さらに確認のために、GCIY/6Lの培養上清とライセートを抗MUC1抗体で免疫沈降した。まず、前記同様にプレクリアした後、1μg抗MUC1モノクローナル抗体(VU4H5)を結合させ固相化したProteinG Sepharoseビーズ20μlを加えて浸透しながら4℃で一晩インキュベートした。以後、前記と同じ方法でブロットを調製し、抗sTn抗体B72.3に反応するバンドの有無を確認した。
【0080】
その結果、B72.3による免疫沈降−ウェスタンブロット解析で検出された250kDaを超えるバンドと全く同一の位置にシグナルが得られた(図9B)。これより、GCIY/6LではMUC1がsTnで修飾された主要なタンパク質の1つであることが確認された。
【0081】
実施例10:ヒト胃癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1の発現
本実施例は、ヒト胃癌組織ライセートにおいてsTn−MUC1の存在を確認することを目的とする。
【0082】
本実施例では、愛知県がんセンター病院においてインフォームドコンセントが得られた患者から採取された胃癌凍結組織を用いた。
すなわち、薄切した胃癌凍結組織(厚さ16μm、面積約1cm2)4枚をマイクロチューブに移し、プロテアーゼ阻害剤としてcomplete Mini、EDTA−free(Roche)を添加した0.4ml RIPAバッファーとガラスビーズを加えて組織を破砕・溶解し、マイクロチューブに移して遠心分離後、上清をライセート(lysate)として回収した。タンパク質100μgを含むライセートを分取し、ProteinG Sepharoseビーズ15μlを加えてプレクリアした後、実施例9と同一の方法で、免疫沈降−ウェスタンブロット解析を行った。
【0083】
その結果、抗sTn抗体でMUC1が免疫沈降され、かつ抗MUC1抗体による免疫沈降物にsTnシグナルが認められた(図10)。これより、実際の胃癌組織においてもsTnで修飾されたMUC1(sTn−MUC1)が存在することが明らかになった。
【0084】
実施例11:胃癌腹腔洗浄液におけるsTn−MUC1の検出
本実施例は、胃癌腹腔洗浄液においてsTn−MUC1を検出することを目的とする。
本実施例では、愛知県がんセンター病院においてインフォームドコンセントが得られた胃癌患者から採取された腹腔洗浄液を用いた。全ての腹腔洗浄液のCA72-4濃度をCA72-4ELISAキット(DRG社製)を用いて測定した。腹膜転移を伴う進行胃癌でCA72-4濃度が100U/mlより大きい腹腔洗浄液3例(高CA72-4群)と腹膜転移を伴う進行胃癌でCA72-4濃度が30U/mlより小さい腹腔洗浄液1例(低CA72-4)及び腹膜播種を認めない初期癌でCA72-4陰性の腹腔洗浄液1例(CA72-4陰性)に対して、2mgのタンパク質を含む腹腔洗浄液から実施例5と同一の方法でB72.3モノクローナル抗体レジンを用いた免疫沈降を行い、抗MUC1抗体(VU4H5)を用いてウェスタンブロット解析を行った。
【0085】
その結果、高CA72-4群では250kDaを超える分子量を示す領域にMUC1特異的なバンドが認められた(図11)。従って、これら高CA72-4群の腹腔洗浄液にはsTnで修飾されたMUC1分子が存在することが明らかとなった。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させて、シアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、癌を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖タンパク質及び糖脂質上に存在する糖鎖構造はコアとなるタンパク質や糖鎖の付加部位、糖脂質の種類により、またそれらが存在する細胞種や体液の種類によって異なる。また、癌を含む種々の疾患において、健常者由来の構造とは異なる場合があることが広く知られている。糖鎖の当該特徴に着目し、健常者には存在せず特定の疾患に罹患した患者でのみ見出される糖鎖構造をターゲットとした、いくつかの疾患マーカーが用いられている。
【0003】
そのうちの一つ、母核糖鎖に属するシアリルTn(以後、「sTn」と記載する場合もある)糖鎖抗原は、CA19−9やSLXのような従来から臨床応用が進められてきたI型又はII型の基幹構造を有するN−グリコシド結合型の糖鎖抗原に比し、より初期段階での糖鎖合成異常に由来する癌関連抗原であり、良性疾患における偽陽性率が低く、癌特異性が高い。sTn糖鎖抗原は胃癌、膵癌、大腸癌、卵巣癌、子宮頸癌、胆道癌等において癌の進行と悪性化に伴い、癌組織での発現が増加するとともに、血清中にも検出されるようになることから、卵巣癌と再発性胃癌の進行癌もしくは再発癌に対する血中癌マーカーの1つとして用いられている。
【0004】
しかし上記のマーカーは、血中sTn濃度がある程度上昇した後でなければsTnを検出することができず、sTnの検出感度が十分でない。そのため、上記マーカーは、進行癌や再発癌等しか検出できないため、その適用も癌の進行度や再発のモニタリングに限られ、早期癌のスクリーニングには適当でない。さらに、上記マーカーのsTnの検出感度は不十分であるため、癌の進行度や再発のモニタリング等には、sTnを別種の癌マーカーを含む、異なる診断方法と組み合わせて用いなければ正確な診断ができない。
【0005】
sTnはタンパク質のセリン又はトレオニン側鎖に付加される糖鎖構造であり、Siaα2→6GalNAcα→Ser/Thrと表記される。ここでSiaはシアル酸を、GalNAcはN-アセチルガラクトサミンを、Ser/Thrはセリン又はトレオニンを表す。O型糖鎖を有する多数のタンパク質がsTnで修飾されうる。癌の体外診断に用いられているsTnの測定には以下の2通りの方法がある。1つはsTnを認識する2種の異なるモノクローナル抗体B72.3及びCC49を用いて、いわゆるCA72−4という抗原を定量する、サンドイッチELISA法であり、もう1つはsTnを認識するモノクローナル抗体TKH2を用いたRIA固相化競合法である。当該方法は糖鎖であるsTn部分のみを標的とした検出系であり、sTnで修飾された多数種の糖タンパク質の混合物を検出していると考えられ、実際に所望の糖タンパク質分子が存在しているかは不明である。
【0006】
sTn糖鎖抗原を癌マーカーとして用いることができる上記の癌のうち、胃癌は日本において癌による死亡原因の上位を占めている。内視鏡検査等の普及により早期の段階での癌の発見と外科的切除によって治癒率は向上してきているものの、依然として再発率が高く、患者の生命予後は不良である。胃癌の再発では胃壁を超えて腹腔内に広がった遊離癌細胞から生ずる腹膜転移が主因を占めている。すなわち腹膜内に遊離癌細胞が検出された場合、高率に腹膜再発を来すことが明らかになっている。この腹膜転移については、手術によって胃癌を切除した患者の予後を予測する目的で、手術時に採取される腹腔洗浄液を用いて腹腔内の遊離胃癌細胞の検出が行われている。加えて、腹膜転移が顕在化する前に抗癌剤による腹腔内化学療法を行うと患者の予後が改善されることが示されつつあることから、高感度かつ迅速に腹腔内遊離胃癌細胞を検出する技術が求められる。従来、腹腔内遊離癌細胞は腹腔洗浄液の細胞沈渣を染色し、癌細胞を顕微鏡下に探す細胞診が行われていたが、感度が低く、検出精度も実施者の熟練にも依存する。また血清中や腹腔洗浄液中の癌マーカーをELISA法等によって測定することも行われているが、上記のように感度が十分でなく、正確な診断をすることができない。そこで、これに代わる方法として、腹腔洗浄液の細胞沈渣に対して癌細胞特異的転写産物(メッセンジャーRNA)を、RT−PCR法を用いて増幅・検出することにより高感度に遊離癌細胞を定量的に検出する方法が開発された。しかし、当該方法では、用いる試薬や機器が高価であり、手順も煩雑で時間がかかるという問題があった。
【0007】
また、sTn糖鎖抗原を癌マーカーとして用いることができる上記癌のうち、肺癌は、国内では男性の癌死亡原因のうち、第1位、女性でも胃癌についで第2位である。今後も肺癌患者数は増加する見通しで、2015年には、1年間で新たに肺癌を発病する患者数は男性11万人、女性3万7千人にのぼると予測されている。
【0008】
肺癌は、組織学的分類によって、小細胞癌と非小細胞癌に分類される。非小細胞癌はわが国では肺癌全体の約80〜85%を占める癌であり、さらに腺癌、扁平上皮癌及び大細胞癌に分類される。わが国では、腺癌が最も発生頻度が高く、男性の肺癌では約40%、女性の肺癌では約70%以上、原発性肺癌の全体では約半数が腺癌である。
【0009】
肺腺癌の臨床的診断は、主として、胸部レントゲン検査、シングルスライスCT検査、マルチスライスCT検査等で行うのが一般的である。また、肺腺癌検出方法として、癌マーカーとして公知の癌胎児性抗原(CEA)及びシアリルLex−i抗原(SLX)に対する抗体を用いて測定することにより、ヒト肺腺癌を検出する方法がある。しかしながら、当該癌マーカーを検出する診断法では、肺腺癌に対する陽性率が40〜50%と低いばかりでなく、肺癌の他の組織型、肺良性疾患及び大腸癌、胃癌、乳癌をはじめとする他の臓器癌においても検出されるため、感度及び臓器特異性の面で適用可能なマーカーとはいえないという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】大内憲明 他:癌と化学療法、15巻、2767-2772頁(1988)
【非特許文献2】井村裕夫 他:癌と化学療法、16巻、3213-3219頁(1989)
【非特許文献3】Nakanishi, H, et al. : Int. J. Cancer Vol. 89, pp411-417 (2000)
【非特許文献4】Taylor-Papadimitriou, J, et al. : Biochim. Biophys. Acta. Vol. 1455, pp301-313 (1999)
【非特許文献5】Werther, J. L., et al. : Int. J. Cancer Vol. 69, pp193-199 (1996)
【非特許文献6】Ohashi, N., et al. : Int. J. Oncol. Vol. 27, pp637-644 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、癌の正確な早期診断法及び当該方法を可能にする癌マーカーが望まれていた。さらに、癌の体外診断では、上記のとおり、核酸をRT−PCR法により増幅する方法がとられていたが、当該方法は手順が煩雑で、コストと時間がかかるという課題があった。さらに、上記のとおり、従来のsTn検出法では、検出時期が遅く、検出感度も不十分であるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、CA72-4値の高い胃癌患者腹腔洗浄液において、sTnで修飾されたMUC1糖タンパク質が存在することを見いだした。またsTn抗原の発現について様々な癌腫を探索する過程で、当該抗原が肺腺癌組織で強く発現することを見出し、sTn抗原を発現する当該組織で当該抗原を有する高分子量のタンパク質を検出し、それをMUC1タンパク質と同定した。以上の結果に基づき、このsTnを有するMUC1糖タンパク質を高感度に検出するため、sTnを認識する、キャプチャー抗体である抗sTn抗体と、sTnで修飾された糖タンパク質を認識する、検出抗体である抗MUC1抗体とを組み合わせたELISA試験系を構築し、sTnで修飾されたMUC1分子が同定されることを確認した。このようにして、本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いた、sTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出するための免疫学的方法を確立するに至った。さらに、当該方法を用いると、上記各種癌組織及び体液中の癌の存在を精度よく検出できることも見出し、上記方法が癌を検出することができることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、前記方法。
(2)方法がELISA法である、(1)記載の方法。
(3)癌が胃癌又は肺癌である、(1)又は(2)記載の方法。
(4)試料が腹腔洗浄液由来である、(3)記載の胃癌を検出する方法。
(5)肺癌が肺腺癌である、(3)記載の方法。
(6)(1)記載の方法に用いるための、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌の存在を検出する方法であって、前記抗体がシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする方法が提供される。本発明の方法は、検出抗体としてsTnを認識する抗体のほかに抗原分子であるMUC1分子との親和性が高い抗MUC1抗体を用いるため、糖鎖抗原であるsTnを認識する抗体のみを用いる方法よりも、感度が高い。よって、本発明の方法は、正確に癌細胞の存在を検出する方法として有用である。さらに、当該検出方法は、高価な試薬や機器が不要で安価であり、検出手順も簡易かつ短時間で結果が得られる点で有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、肺腺癌細胞株を用いてフローサイトメトリーで細胞表面sTn発現の検討を行った結果を示す図である。
【図2】図2は、sTn合成の責任酵素遺伝子ST6GalNAcIを強制発現した胃癌細胞株を用いてフローサイトメトリーを行い、細胞表面sTn発現の確認を行った結果を示す図である。
【図3A】図3Aは、肺腺癌細胞株ライセートを用いた抗sTn抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図3B】図3Bは、肺腺癌細胞株ライセートを用いた抗sTn抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図4】図4は、肺腺組織ライセートを用いた抗sTn抗体及び抗MUC1抗体による免疫沈降実験の結果を示す図である。
【図5A】図5Aは、肺癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1発現の検討を行った結果を示す図である。
【図5B】図5Bは、肺癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1発現の検討を行った結果を示すグラフである。
【図6】図6は、肺腺癌細胞株の細胞ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISAによるsTn−MUC1の検出を行った結果を示す図である。
【図7】図7は、肺癌組織ライセートを用いたサンドイッチELISAによるsTn−MUC1の検出を行った結果を示す図である。
【図8A】図8Aは、ヒト胃癌細胞株のマウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進を示す写真である。
【図8B】図8Bは、ヒト胃癌細胞株のマウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進と生命予後の悪化を示すグラフである。
【図9A】図9Aは、sTn陽性胃癌細胞株GCIY/6Lから抗sTn抗体を用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングによりsTnキャリアタンパク質としてMUC1を同定した結果を示す写真である。
【図9B】図9Bは、sTn陽性胃癌細胞株GCIY/6Lから抗MUC1抗体を用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングによりsTnキャリアタンパク質としてMUC1を同定した結果を示す写真である。
【図10】図10は、免疫沈降とウェスタンブロッティングを用いて、ヒト胃癌組織ライセートにおいてsTn−MUC1が発現していることを示す写真である。
【図11】図11は、CA72-4陽性ヒト胃癌腹腔洗浄液においてsTn−MUC1が存在していることを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする。
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の癌の検出方法
本発明の癌の検出方法は、癌組織で強く発現するsTnを有するMUC1糖タンパク質を精度よく検出することに関し、具体的には抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いて、当該タンパク質をより感度よく検出することを特徴とする。
【0018】
(1)本発明のsTnを有するMUC1糖タンパク質
本発明の方法に関する「sTnを有するMUC1糖タンパク質」とは、シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質をいう。「MUC1糖タンパク質」とは、MUC1コアペプチドに、セリン又はトレオニン残基を介して多数のO型糖鎖が付加されているムチン性の膜結合型糖タンパク質、又は前記膜結合型糖タンパク質が細胞外部分で切断されて生じた分泌型あるいは可溶化型糖タンパク質である。MUC1コアタンパク質遺伝子の塩基配列は公知であり、例えば、GENEBANKにアクセッション番号NM_002456として登録されている。MUC1コアタンパク質はI型膜タンパク質であり、短いN末端領域、20アミノ酸の反復配列(ムチンリピート)からなる中央領域、ムチンリピートよりC末側の短い細胞外領域、膜貫通領域、細胞質側の短いC末端領域からなる。細胞外領域全体にわたって多数のセリンとトレオニンが存在し、特にムチンリピートを構成する20アミノ酸のうち5アミノ酸がセリンとトレオニンで占められる。少なくともムチンリピート内では5カ所のセリンとトレオニンのほぼ全てにO型糖鎖が付加していると報告されている。ムチンリピートの繰り返し回数は著しい多型を示し、21から125回に及ぶ。それゆえその分子量は300kDa以上と長大になる。
【0019】
正常組織におけるMUC1コアペプチド上での糖鎖伸張反応は、セリン又はトレオニン側鎖にGalNAcが結合することで開始する。通常、このGalNAcにガラクトース(Gal)がβ1-3結合で付加してコア1構造(Galβ1-3GalNAcα-Ser/Thr)を形成し、さらにコア1構造にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)がβ1-6結合で付加しコア2構造(Galβ1-3(GlcNAcβ1-6)GalNAcα-Ser/Thr)を形成する。さらにこれら非還元末端のGalやGlcNAcに糖鎖が付加され、長大な糖鎖が形成される。結果として長大な糖鎖を多数有したMUC1糖タンパク質が生じる。
【0020】
一方、癌細胞では、前記のO型糖鎖合成がしばしば異常を示すことが分かっている。シアリルTn(sTn)もそのような癌関連糖鎖抗原の1つとして以前から知られていた。sTnは、タンパク質のセリン又はトレオニン側鎖に付加される糖鎖構造であり、ポリペプチド鎖のセリン又はトレオニン残基のヒドロキシル基にSiaα2→6GalNAcがα結合している抗原をいい、Siaα2→6GalNAcα→Ser/Thrで表される。
ここで、Siaはシアル酸を、GalNAcはN-アセチルガラクトサミンを、Ser/Thrはセリン又はトレオニンを表す。O型糖鎖を有する多数のタンパク質がsTnで修飾されうる。sTnは、より初期段階での糖鎖合成異常に由来する。すなわち、前記コア1構造のGalNAcに対しシアル酸(Sia)がα2-6結合で結合している(Siaa2→6GalNAca→Ser/Thr)。しかし、この結合様式は正常組織では見出されない。重要なことは、このシアル酸付加により、当該糖鎖にこれ以上の付加・伸長が起きなくなることであり、結果的にsTn糖鎖抗原が蓄積する。sTn糖鎖抗原は、良性疾患における偽陽性率が低く、癌特異性が高いことを特徴とし、胃癌、膵癌、大腸癌、胆道癌等の消化器癌や卵巣癌、子宮頸癌等で認められ、これらの癌の組織マーカーとして用いられる他、血中癌マーカーの1つとしても用いられる。
【0021】
本発明者らが同定した上記「シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質」とは、MUC1糖タンパク質上のO型糖鎖の全部又は一部がシアリルTnである、癌細胞によって合成されるMUC1糖タンパク質の一群である。担癌患者においてMUC1糖タンパク質に対する自己抗体が検出されるとの報告があったが、その作用機序は知られていなかった。発明者らは、シアリルTnは2糖からなる短い糖鎖のため、正常組織で合成されるMUC1糖タンパク質では高密度に存在する長大なO型糖鎖によってマスクされていたMUC1コアペプチドの一部が露出することになるため、シアリルTnで修飾されたMUC1糖タンパク質は強い抗原性を獲得すると考えた。実際に、本発明に関する「シアリルTnが修飾されたMUC1糖タンパク質」は、癌組織で強く発現するため、癌マーカーとして用いることができる。癌については、以下に詳細に説明する。
【0022】
(2)本発明の抗体
本発明の方法は、抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いることを特徴とする。
本発明において「抗sTn抗体」とはsTn糖鎖抗原に結合し得る抗体分子全体を意味し、「抗MUC1抗体」は、種々の糖鎖で修飾されたMUC1糖タンパク質又は糖鎖修飾を受けていないMUC1コアタンパク質又はそれらの部分断片に結合し得る抗体分子全体を意味し、ポリクローナル抗体であってもモノクローナル抗体であってもよい。さらに、その断片、すなわち抗原抗体反応活性を有する活性フラグメント、具体的には、Fab、F(ab’)2、Fv、組換えFv体、1本鎖Fvも含まれる。
【0023】
本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体は公知の方法を用いて調製することができるし、市販されているハイブリドーマを用いて公知の方法に従って作製してもよい。また、本願発明で用いられる抗sTn抗体及び抗MUC1抗体は、sTn及びMUC1に対する特異性が確認された抗体であれば、いかなる抗体をも用いうる。
【0024】
例えば、ポリクローナル抗体を作製するためには、免疫した動物から得られた抗血清中からポリクローナル抗体を作製する方法があげられる。具体的には、MUC1糖タンパク質若しくはMUC1糖タンパク質に修飾されたsTn又はそれらの部分断片を抗原として用いて動物(例えばラット、マウス、ウサギなど)を免疫し、最終免疫後に抗体価を測定し、最大の抗体価を示した日に採血し、抗血清を得ればよい。抗原の動物1匹当たりの投与量は、ウサギの場合、1〜10mgであり、アジュバントの有無によって適宜調節する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)等が挙げられる。抗血清から抗体の精製が必要とされる場合は、硫安塩析法、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィーなどの公知の方法を適宜選択して、又はこれらを組み合わせることにより精製することができる。
【0025】
モノクローナル抗体を作製するには、当該分野で周知のハイブリドーマ法によって製造することができる。例えば、MUC1糖タンパク質若しくはMUC1糖タンパク質に修飾されたsTn又はそれらの部分断片を抗原として、哺乳動物を免疫した後に得られる抗体産生細胞(脾臓細胞、リンパ節細胞等)とミエローマ細胞(例えばP3X63−Ag.8.U1、NS−Iなど)との細胞融合を行い、細胞融合後に目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすればよい。融合細胞のクローニングは、限界希釈法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生細胞であるハイブリドーマを樹立する。樹立したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法として、通常の細胞培養法又は腹水形成法等を採用することができる。
【0026】
本発明における抗体には、ヒト型化又はヒト化されたものも含まれる。ヒト抗体は、免疫系をヒトのものと入れ換えた哺乳動物を免疫すれば、通常のモノクローナル抗体と同様にして作製することができる。ヒト型化抗体は、定常領域と可変領域の一部がヒト型の抗体であり、可変領域において、フレームワーク領域(FR)はヒト由来のものを、CDRと呼ばれる相補性決定領域(complementarity determining region)はマウス由来のものからなる再構成した抗体である。ヒト型化抗体を作製する場合は、マウス抗体の可変領域からCDRをヒト可変領域に移植して、次にこれらのヒト型化された再構成ヒト可変領域をヒト定常領域に連結する。ヒト型化抗体の作製法は、遺伝子工学的手法により得ることができ、当分野において確立されている。
【0027】
(3)本発明のタンパク質を特異的に検出する方法
本発明の方法は、sTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することにより、癌を検出する方法に関する。特異的に検出する方法としては、免疫学的に検出する方法があげられる。免疫学的方法としては、一般に普及している多くの手法があげられ、免疫沈降及びウェスタンブロッティングのほか、競合法、イムノメトリック法、ネフェロメトリー(nephelometry)、サンドイッチ法などが好適に用いられるが、感度及び特異性の見地から、サンドイッチ法がとくに好ましい。サンドイッチ法としては、例えば、酵素免疫測定法(ELISA(enzyme−linked immunosorbent assay)又はEIA(enzyme immunoassay))、放射性免疫測定法(RIA(radioimmuno assay))等が含まれるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明のsTnを有するMUC1糖タンパク質を免疫学的に検出する方法としては、生体由来の試料を、標識した上記「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」と接触させて、当該試料中に「sTnを有するMUC1糖タンパク質」が存在する場合には、当該タンパク質が上記標識抗体と反応することで、その存在を検出する方法や、免疫学的な凝集反応として上記タンパク質の存在を検出する方法もあげられる。
【0029】
この場合、上記抗体は、適当な化学的又は物理的検出手段により検出可能な標識を有する。そのような標識物質を用いる測定法に使用される標識剤として、たとえば蛍光物質、酵素、放射性同位元素、発光物質などが用いられる。標識にとくに酵素を用いた場合は、ELISA法と呼ばれ、広く利用されている。また、蛍光物質としては、フルオレスカミン、フルオレッセインイソチオシアネートなど、酵素として、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなど、放射性同位元素として、125I、131I、3H、14Cなど、発光物質として、ルシフェリン、ルシゲニン、ルミノール、ルミノール誘導体などがあげられる。
【0030】
具体的な免疫学的方法として、例えば、免疫沈降及びブロッティングを用いる方法を例示する。すなわち、細胞ライセート又は組織のライセート等の生体由来の試料から免疫沈降物を得て、適当なバッファーを添加してインキュベートすることにより溶出させる。この溶出した免疫沈降物について抗sTn抗体及び抗MUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析する。この結果、sTnを有するMUC1糖タンパク質を示す分子量250kDaをこえるバンド及びスメアを検出する方法である。
【0031】
具体的な免疫学的方法として、さらに、サンドイッチELISA法を用いた方法も例示する。すなわち、適当量の抗sTnモノクローナル抗体と適当量の細胞ライセート又は組織ライセート等の生体由来の試料を反応させた後、抗MUC1モノクローナル抗体を添加してさらに反応させる(1次反応)。その後、さらに、上記反応液に、標識酵素で標識された2次抗体を添加して反応させる(2次反応)。最後に、標識酵素により触媒される発色反応により、上記試料中に存在するsTnを有するMUC1糖タンパク質を検出する方法である。この場合、1次反応において、抗sTnモノクローナル抗体と抗MUC1モノクローナル抗体とを添加する順序は逆でもよく、当該1次反応と2次反応は逆順序に行ってもよく、同時に行ってもよいし、さらに時間をずらして行ってもよい。また、標識に用いられる標識酵素としては、HRP(ペルオキシダーゼ)、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなどがあげられる。本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体又は抗原と標識酵素との結合には、ビオチン‐アビジン系を用いてもよい。また、抗原又はモノクローナル抗体を不溶化させてもよく、その場合には、物理的吸着を用いてもよく、あるいは通常タンパク質又は酵素などを不溶化、固定化するために用いられる化学結合を用いる方法を用いることができる。さらに、担体として、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコンなどの合成樹脂、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、あるいはガラスなどを用いることもできる。そして、反応媒体として、反応の至適条件を与えるか、反応生成物質の安定化などに有用な緩衝液、反応物質の安定化剤などを含んでもよい。さらに、検出手段としては、分光器、放射線検出器、光散乱検出器といった上記標識を検出可能なものであればいかなる手段をも用いることができる。
【0032】
(4)本発明の癌を検出する方法
本発明では、上記の免疫学的方法により得られた検出結果を指標として癌の状態を評価することにより癌を検出することができる。具体的には、(i)生体由来の試料と本発明の抗sTn抗体及び抗MUC1抗体とを反応させて、試料中に存在する癌マーカーであるsTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出する工程;及び(ii)工程(i)の検出結果を、癌と関連付ける工程;を含む癌の検出方法である。
【0033】
ここで、評価方法としては、例えば、免疫沈降やブロッティングを用いた上記検出方法により、所定のタンパク質の分子量と同一の分子量を有するタンパク質が確認された場合を陽性とし、当該タンパク質が確認されなければ陰性として、癌の状態を評価する方法があげられる。また、例えば、サンドイッチELISA法を用いた上記検出方法により検出結果が所定の基準値を超えるものを陽性、所定の基準値以下のものを陰性とし、陽性の場合には、癌を発症している可能性があると判断し、癌の状態を評価する方法があげられる。
【0034】
癌の状態とは、癌の罹患の有無又はその進行度を意味し、癌発症の有無、癌の進行度、癌の悪性度、癌の転移の有無及び癌の再発の有無等が挙げられる。上記評価に際し、これらの癌の状態は1つを選択してもよく、複数個を適宜組み合わせて選択してもよい。癌の有無を評価するには、癌に罹患しているか否かを判断する。癌の悪性度は、癌がどの程度進行しているのかを示す指標となるものであり、病期(Stage)を分類して評価したり、いわゆる早期癌、進行癌を分類して評価したりすることも可能である。癌の転移は、原発巣の位置から離れた部位に新生物が出現しているか否かにより評価する。再発は、間欠期又は寛解の後に再び癌が現れたか否かにより評価する。
【0035】
(5)本発明の生体由来の試料
本発明の癌の検出方法には、生体由来の試料を用いることができる。本発明で用いる生体由来の試料としては、体液、組織、細胞、血液、尿及び手術等で採取される液体等があげられるがこれらに限定されない。手術等で採取される液体としては、例えば、腹腔洗浄液や腹水があげられる。腹腔洗浄液とは、手術時に腹腔を洗浄する腹腔洗浄法により得られる液体をいい、洗浄には生理食塩水等が用いられる。腹腔洗浄法には、腹腔内貯留液の有無や性状などを検査するための診断的腹腔洗浄法と消化管穿孔時の腹腔内洗浄、腹腔内細菌の排除及び術中の出血による凝血塊の除去、臓器の乾燥予防などを目的とした治療的腹腔洗浄法などがあげられ、このような方法により得られた液体であれば本発明で用いることができる。特に、胃癌腹腔洗浄液は、従来から、腹腔内の遊離胃癌細胞を検出して胃癌の腹膜転移の有無を検査するために採取されてきた試料である。本発明の方法で用いる生体由来の試料として当該胃癌腹腔洗浄液を用いると、高感度かつ迅速に腹腔内遊離胃癌細胞を検出することができるため、胃癌腹腔洗浄液は本発明の生体由来の試料として好ましい。
【0036】
(6)本発明の方法で検出できる癌
本発明の方法により検出できる癌の適用部位は特に限定されず、胃癌、肺癌、脳腫瘍、舌癌、咽頭癌、乳癌、食道癌、膵癌、胆道癌、胆嚢癌、十二指腸癌、大腸癌、肝癌、子宮癌、卵巣癌、前立腺癌、腎癌、膀胱癌、横紋筋肉腫、線維肉腫、骨肉腫、軟骨肉腫、皮膚癌、各種白血病(例えば急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人型T細胞白血病、悪性リンパ腫)、等を対象として適用される。上記癌は、原発巣であっても、転移したものであっても、他の疾患と併発したものであってもよい。特に、本発明の方法には、肺癌及び胃癌の検出に適する。ここで、本発明の方法は、肺癌の検出のうち、肺腺癌の検出に好適である。また、本発明の方法は、胃癌の検出のうち、胃癌の検出のほか、胃癌の腹膜転移の検出にも好適である。胃癌の腹膜転移とは、胃壁を超えて腹腔内に広がった遊離癌細胞から生ずる癌で、胃癌の再発の主因である。本発明の方法を胃癌の腹膜転移の検出に用いる場合は、腹腔洗浄液を用いて腹膜播種を検出することにより、癌の予後や再発の有無を早期に診断することできるため、好ましい。
【0037】
本発明の癌検出試薬
本発明の上記癌を検出する方法には、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬を用いることができる。
【0038】
本発明の抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体を免疫学的測定方法に適用する場合、特別の条件、操作などは必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作に準じて行われ、必要であれば若干の修飾を加えて好適な測定系が構築できる。
【0039】
そのためのもっとも簡便かつ効率的に測定を行うことを可能とするのは、上記試薬をキット化することである。そうしたキット化により、通常の検査室又は実験室で、特殊な分析機器、熟練した操作、高度の知識は必要とせずに、効率的に定量を行うことができる。上記の各種検出方法又は治療の判定方法を実施するためのアッセイキットの構成及び形態は、とくに限定されるものでなく所定の目的を達成できるものであればその内容は限定されない。一般には上記検体試料について、アッセイ方法を実行し得られた結果を解釈するための使用説明書、反応試薬、反応が行われる場となる反応媒体、アッセイの場を提供する基材などから構成される。さらに所望により、比較基準とするためのあるいは検量線を作成するための照合サンプル、検出器なども含んでもよい。
【0040】
本発明の「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」を癌検出試薬として用いる場合には、「抗sTn抗体」及び「抗MUC1抗体」を他の溶媒や溶質と組み合わせて組成物とすることができる。たとえば、蒸留水、pH緩衝試薬、塩、タンパク質、界面活性剤などを組み合わせることができる。
【0041】
本検出試薬には、本発明の抗体の他に、抗原固相化マイクロプレート、「sTnを有するMUC1糖タンパク質」の標準品(STD)、抗体希釈溶液、HRP標識−抗ウサギIgG抗体、OPD(オルトフェニレンジアミン)錠、基質液、反応停止液、濃縮洗浄液などを含めることができる。また、標識酵素として、HRP(ペルオキシダーゼ)の他に、アルカリホスファターゼ、リンゴ酸脱水酵素、α−グルコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼなどを用いることもできる。さらに、反応媒体として、反応の至適条件を与えるか、反応生成物質の安定化などに有用な緩衝液、反応物質の安定化剤なども含めることもできる。
【実施例】
【0042】
実施例1:sTn陽性癌細胞株の探索及び樹立
本実施例は、sTn陽性癌細胞株を樹立することを目的とする。
肺腺癌細胞株として、A549、ABC1、EHHA−9、NCI−H358、NCI−H441、NCI−H838、NCI−H1355、NCI−H1819、NCI−H1975、NCI−H3255、HAL8、HAL24、HCC827、LX−1、PC−9、及びRERF−LC−MSの16種類の細胞を用いて以下の実験に供した。
【0043】
上記細胞は全て、10%非働化ウシ胎仔血清(FBS)(Sigma)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(GIBCO)を添加したRPMI1640(Invirogen)培地中で37℃の加湿5%CO2インキュベーター中で培養した。
【0044】
培養後の細胞をトリプシン−EDTA(0.5%;GIBCO)で処置してプレートから剥離した後、遠心分離によって回収した。回収した細胞を約2.0×106細胞/mlになるように1%FCSを含むPBSで希釈し、0.1ml(〜2.0×105細胞)を5ml試験管に分注した。その後、0.1mlのB72.3産生ハイブリドーマ培養上清を添加し、4℃で1時間染色した。遠心分離して上清を除去した後、1%FCSを含むPBSで懸濁し、APCコンジュゲートされた抗マウスIg抗体(BD Biosciences)を終濃度10μg/mlになるように添加し、4℃で1時間染色した。遠心分離して上清を除去した後、1%FCSを含むPBSで再懸濁し、フローサイトメトリー解析に供した。
【0045】
フローサイトメトリー解析には、FACSAria(商標)セルソーター(Becton Dickinson)を用いた。細胞に633nmのHe−Neレーザーの励起光を照射した後、APC由来の蛍光を650nm以上の蛍光検出器で検出した。その結果、図1に示されたように、EHHA−9細胞及びNCI−H441細胞で細胞表面sTn抗原の発現が高いことが示された。
【0046】
一方、これまでに樹立され利用可能であった胃癌細胞株にはsTnが発現しているものはなかった。そこで胃癌細胞株の1つで、マーカーとして緑色蛍光タンパク質EGFPを有するGCIY−EGFPに、sTn合成の責任酵素であるST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドを導入した。フローサイトメトリーでsTnの発現を調べたところ、sTn陽性の画分が認められたので、この画分をソートし、sTn陽性の亜株(GCIY/6L)を樹立した(図2)。コントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株(GCIY/6S)を樹立した。
【0047】
実施例2:肺癌細胞株ライセートを用いた免疫沈降及びウェスタンブロッティング
本実施例は、sTn陽性癌細胞株を用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングにより、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0048】
実施例1で細胞表面sTn抗原の発現が高いことが示されたEHHA−9細胞及びNCI−H441細胞を以下の実験に供した。まず、このEHHA−9細胞及びNCI−H441細胞をRIPAバッファー(50mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl、2mM EDTA、0.1%SDS、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、1%TritonX−100、及び1×プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche))で溶解した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mlを1.5ml試験チューブに分注した。その後、10μlのB72.3がコンジュゲートされたセファロースビーズ(〜2.5μg抗体/μl)を添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションによって溶出した。
【0049】
溶出された免疫沈降物について銀染色及びB72.3を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、EHHA−9細胞ライセート由来の免疫沈降物のレーンでは分子量250kDaをこえるバンドが検出され、NCI−H441細胞ライセート由来の免疫沈降物のレーンでは分子量160〜250kDaのスメアが検出された(図3A)。
しかしながら、銀染色では、ウェスタンブロッティング解析で得られた分子量のバンド又はスメアに対応するバンド又はスメアを検出することができなかった(図3A)。
【0050】
これらの結果により、検出されたバンドがムチンタンパク質である可能性が考えられた。そこで、上記の免疫沈降物を利用し、抗ムチン抗体のパネル(抗MUC1(VU4H5)、抗MUC3(M3.1)、抗MUC4(H−300)、抗MUC5B(5B#19−2E)、抗MUC7(V−20)、抗MUC11(P−18)、抗MUC12(C−21)、抗MUC13(K−13)、抗MUC17(N−19)(以上、SantaCruz)、抗MUC2(CCP58)(ZYMED)、及び抗MUC5AC(CHL2)(Novocastra))を用いてウェスタンブロッティング解析を行った。
【0051】
その結果、抗MUC1抗体を用いた時にのみ、分子量250kDaを越える位置にバンドが検出された(図3B)。これより、MUC1がsTn抗原のキャリアタンパク質であることが示された。
【0052】
実施例3:肺腺癌組織を用いた免疫沈降及びウェスタンブロット
本実施例は、癌組織用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングにより、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0053】
本実施例で用いた肺腺癌組織試料(非癌部及び癌部)は、筑波大学病院で肺腺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた試料である。
上記のように得られた肺腺癌組織試料をRIPAバッファーで溶解した後、10,000gで5分間遠心分離し、上清を細胞ライセートとして回収した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mLを1.5ml試験チューブに分注した。その後、実施例2で記載した10μlのB72.3セファロースビーズを添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで3回洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションで溶出した。溶出した免疫沈降物について、銀染色(図4、A)並びにB72.3及び抗MUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングにより解析した。その結果、図4で示されるように、MUC1は癌部でのみ検出され、非癌部では検出されなかった(図4、B)。一方、抗MUC1抗体(クローンVU4H5,SantaCruz)で免疫沈降し、得られた免疫沈降物を、抗sTn抗体を用いて検出した場合にも、癌部でのみ250kDaより上の位置に特異的なバンドが得られた(図4、B)。したがって、この系で検出されるMUC1が肺腺癌を検出する良好なマーカーとなることが示された。
【0054】
実施例4:肺癌組織ライセートを用いた免疫沈降及びウェスタンブロット
本実施例は、癌組織ライセートを用いて免疫沈降及びウェスタンブロッティングを行い、本発明のタンパク質を解析することを目的とする。
【0055】
本実施例で用いる肺癌組織試料(非癌部及び癌部)は全て、東京医科大学病院で肺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた。
上記肺癌組織試料をRIPAバッファーで溶解した後、10,000gで5分間遠心分離し、上清を細胞ライセートとして回収した。タンパク定量後、タンパク質量が100μg/mlになるように細胞ライセートをRIPAバッファーで希釈し、1mlを1.5ml試験チューブに分注した。その後、実施例2で記載した10μlのB72.3セファロースビーズを添加し、4℃で終夜インキュベートした。免疫沈降物をRIPAバッファーで3回洗浄し、1×SDSサンプルバッファー(100mM Tris−HCl、pH6.8、10%グリセロール、2%SDS、0.005%BPB)で懸濁した後、95℃で5分間のインキュベーションで溶出した。溶出した免疫沈降物についてMUC1抗体を用いたウェスタンブロッティングで解析した。その結果、図5A及びBで示されるように、肺腺癌34症例中29症例(85.3%)においてMUC1が検出され(図5B)、この系で検出されるMUC1が肺腺癌を検出する良好なマーカーとなることが示された。
【0056】
実施例5:肺癌細胞株ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISA
本実施例は、肺癌細胞株ライセート及び培養上清を用いたサンドイッチELISAで肺腺癌の存在を予測することができるか否かの検討を行うことを目的とする。
【0057】
以下の実験には、sTnをキャリーするMUC1を発現する肺腺癌細胞株EHHA9、sTnは発現するがMUC1上にSTnがキャリーされない肺腺癌細胞株PC9/6L及びsTnを発現しない肺腺癌細胞株PC9/6S由来のライセート並びに培養上清を用いた。上記試料を用いて、以下に記載するサンドイッチELISA法により、sTn−MUC1を検出した。
【0058】
すなわち、96ウェルプレート(Corning)にB72.3/抗sTnモノクローナル抗体溶液(5μg/ml、0.05M炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、4℃で終夜反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、1%BSAを含むPBSTを添加してブロッキングを行った。PBSTで洗浄した後、100ng/mlになるようにRIPAバッファーで希釈された細胞ライセート又は10倍濃縮した細胞培養上清をそれぞれ100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、ビオチン化された抗MUC1モノクローナル抗体溶液(5μg/ml、50mM炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、HRP標識されたストレプトアビジン溶液(Jackson;20,000倍希釈)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、1−Step(商標)TurboTMB−ELISA(Pierce)を100μl/ウェルで添加し、その後1M H2SO4を100μl/ウェルで添加した。最終的にOD450nmを測定し、抗原の存在を確認した。
【0059】
その結果、図6A及び6Bで示すように、sTn−MUC1は、対照細胞株と比較してsTnをキャリーするMUC1を発現する肺腺癌細胞株由来のライセート及び培養上清でより多く検出された。したがって、本明細書に記載された方法を用いて上記抗原を検出することにより、肺腺癌の存在を予測することができることが示された。
【0060】
実施例6:肺癌患者組織ライセートを用いたサンドイッチELISA
本実施例は、肺癌患者組織ライセートを用いたサンドイッチELISAで肺癌の存在を予測することができるか否かの検討を行うことを目的とする。
【0061】
本実施例で用いる肺癌組織試料(非癌部及び癌部)は全て、東京医科大学病院で肺癌の外科的切除手術を受けた患者からインフォームドコンセントを経て得られた。
以下の実験には、肺腺癌患者の癌部由来の組織ライセート(AD)、ならびにその他の肺癌患者の癌部又は罹患部由来の組織ライセート(SQ、SCLC、Fibrosis)を用いた。上記組織ライセートを用いて、以下のように、サンドイッチELISA法を用いてsTN−MUC1を検出及び測定した。
【0062】
すなわち、96ウェルプレート(Corning)にB72.3/抗sTnモノクローナル抗体溶液(5μg/ml、50mM 炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、4℃で終夜反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、1%BSAを含むPBSTを添加してブロッキングを行った。PBSTで洗浄した後、100ng/mlになるようにRIPAバッファーで希釈した細胞ライセートを100μl/ウェルで添加して、室温で2時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、ビオチン化した抗MUC1モノクローナル抗体溶液(5μg/ml,0.05M炭酸緩衝液(pH9.6))を100μl/ウェルで添加し、室温で2時間反応させた。溶液を除去し、0.1%Tween−20を含むPBS(PBST)で洗浄した後、HRP標識されたストレプトアビジン溶液(Jackson;20,000倍希釈)を100μl/ウェルで添加し、室温で1時間反応させた。PBSTで5回洗浄した後、1−Step(商標)TurboTMB−ELISA(Pierce)を100μl/ウェルで添加し、その後1M H2SO4を100μl/ウェルで添加した。最終的にOD450nmを測定し、抗原の存在及び量を確認した。
【0063】
その結果、図7で示すように、sTn−MUC1は、対照組織ライセートと比較して腺癌組織ライセートでより多く検出された。したがって、本明細書に記載された方法を用いて該抗原を検出することにより、肺腺癌の存在を予測することができることが示された。
【0064】
実施例7:マウス移植モデルにおけるsTn発現による腹膜転移の亢進と生命予後の悪化
本実施例は、癌細胞を移植したマウスモデルを用いて、sTn発現と癌の腹膜転移及び予後の悪化の相関関係を検討することを目的とする。
【0065】
本実施例では、実施例1で樹立した、ST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドが導入されたsTn陽性の亜株であるGCIY/6L及びコントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株であるGCIY/6Sを用いた。上記株の培養条件等は実施例1に記載のとおりである。
【0066】
GCIY/6L及びGCIY/6Sを培養し、指数関数的に増殖している時点で、GCIY/6L及びGCIY/6Sを、トリプシンを用いて培養皿から剥がし、ハンクス液に懸濁した。
【0067】
2×106個の細胞を含む細胞懸濁液をヌードマウスの腹腔にシリンジを用いて注入し、SPFにて飼育し、経過を観察した。細胞懸濁液注入後、5週目又は7週目に開腹し、注入した癌細胞株をEGFPの蛍光により観察した。
【0068】
その結果、5週目の時点では、sTn陽性であるGCIY/6Lの方が、sTn陰性のGCIY/6Sに比べて明らかに腹膜転移が亢進しており(図8A)、取り出した癌の重量も有意に大きかった(図8B、左)。一方、7週目の時点では、GCIY/6LとGCIY/6Sの間で、腹膜転移の程度に明瞭な差は認められなかった(図8A)。また、移植後のマウスの生命予後を観察したところ、sTn陽性であるGCIY/6Lの方がsTn陰性のGCIY/6Sに比べて明らかに短命であった(図8B、右)。
【0069】
従ってGCIY/6Lは活性型ST6GalNAcIを強制発現した人工的な系ながら、高率に腹膜転移し、生命予後が悪いというヒトにおける胃癌の腹膜再発と共通する性質を有していることが見出された。そこで、この細胞株を用いてsTnキャリアタンパク質を探索することとした。
【0070】
実施例8:抗sTn抗体(B72.3)の精製及び固相化
本実施例は、抗sTn抗体であるB72.3モノクローナル抗体を精製し、固相化することを目的とする。B72.3モノクローナル抗体はsTnに対する特異性が確認されている抗体である。
【0071】
B72.3モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(ATCCより入手)を無血清培地Hybridoma-SFM(インビトロジェン)に馴化したのち大量培養し、B72.3モノクローナル抗体を含む大量の培養上清を回収した。遠心分離及び濾過により浮遊物を除いた後、MAbTrap Kit(GEヘルスケア)又はrProteinA Sepharose(GEヘルスケア)を用いてB72.3モノクローナル抗体を精製した。
【0072】
B72.3モノクローナル抗体の固相化にはCNBr-activated Sepharose(GEヘルスケア)を用いた。精製B72.3モノクローナル抗体1mgに対しCNBr-activated Sepharoseレジン0.05gの割合で、添付のプロトコールに従って反応させた。これにより、B72.3モノクローナル抗体をSepharoseレジンに共有結合を介して結合させた。反応後、Sepharoseレジンを洗浄し、レジン0.05gあたり200μlの20mM リン酸緩衝液pH7.0に懸濁し、適量を免疫沈降に用いた。
【0073】
実施例9:sTn陽性GCIY/6LからのsTnキャリアタンパク質の免疫沈降とウェスタンブロッティングによる同定
本実施例は、sTn陽性GCIY/6Lを用いた免疫沈降とウェスタンブロッティングを行い、sTnキャリアタンパク質を同定することを目的とする。
【0074】
本実施例では、実施例1で樹立した、ST6GalNAcIの活性型を発現するプラスミドが導入されたsTn陽性の亜株であるGCIY/6L及びコントロールとして不活性型ST6GalNAcIを異所性に発現するsTn陰性の亜株であるGCIY/6Sを用いた。上記株の培養条件等は実施例1に記載のとおりである。
【0075】
上記、GCIY/6L及びGCIY/6Sを10cm培養皿で80%コンフルエント程度まで培養し、培養上清(sup、10ml)を回収するとともに、細胞が張り付いた培養皿に、プロテアーゼ阻害剤としてcompleteMini、EDTA−free(Roche)を添加した0.5ml RIPAバッファー(50mM Tris−HCl pH7.3、150mM NaCl、2mM EDTA、0.1% TritonX−100、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%SDS)を加えて細胞を溶解し、マイクロチューブに移して遠心分離後、上清をライセート(lysate)として回収した。予めマウスIgGを付けたProteinG Sepharoseビーズを加えて培養上清及びライセートをプレクリアした後、実施例8で調製した抗sTn抗体(B72.3)固相化ビーズ10μlを加え浸透しながら4℃で一晩インキュベートした。遠心分離を行うことにより回収したビーズをRIPAバッファーで洗浄した後、10μlSDSサンプルバッファーを加えて98℃で5分間加熱することで、ビーズに結合したタンパク質を溶出した。これを6%ポリアクリルアミドゲルで電気泳動した後、Immun−BlotPVDF膜(バイオラッド)に転写した。転写後のブロットを5%スキムミルクを含むTBS−T(Tris−buffered saline−0.1%Tween20)を用いて室温で1時間ブロッキングした後、1次抗体として50μg/ml程度のB72.3を含むハイブリドーマ培養上清(0.1%Tween20添加)中で室温、1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、TBS−Tで20000倍に希釈したAnti−mouseIgG、HorseradishPeroxidase−linkedF(ab’)2(GEヘルスケア)を含む2次抗体液中で室温で1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、WesternBlottingDetectionReagents(GEヘルケア)による化学発光システムとX線フィルムを用いてB72.3に反応するsTnキャリアタンパク質を検出した(図9A)。
【0076】
その結果、GCIY/6Lの培養上清とライセートの両者から、主要なバンドとして250kDaを超える分子量を示すバンドと100kDaから150kDaの間の分子量を示すバンドが検出された。
【0077】
前者のタンパク質が250kDaを超える巨大なタンパク質であること及びB72.3がsTnのクラスターを認識すると報告されていることから、次に、このタンパク質がムチンである可能性について検討した。ブロットをストリッピングバッファー(2%SDS,100mM 2−mercaptoethanol,62.5mM Tris−HCl pH6.7)中で50℃、30分間処理して抗体を外した後、TBS−Tで200倍に希釈した抗MUC1モノクローナル抗体(クローンVU4H5、Santa Cruz Biotechnology)を含む1次抗体液中で室温1時間インキュベーションして、十分洗浄した後、TBS−Tで20000倍に希釈したAnti−mouseIgG、HorseradishPeroxidase−linkedF(ab’)2を含む2次抗体液中で室温で1時間インキュベートした。ブロットをTBS−Tで充分に洗浄した後、前記と同一のシステムで、MUC1を検出した。
【0078】
その結果、B72.3で検出された250kDaを超えるバンドと同一の位置にシグナルが得られた(図9A)ことが示された。これより、MUC1がsTnで修飾されており、抗sTn抗体B72.3で免疫沈降されることが分かった。
【0079】
さらに確認のために、GCIY/6Lの培養上清とライセートを抗MUC1抗体で免疫沈降した。まず、前記同様にプレクリアした後、1μg抗MUC1モノクローナル抗体(VU4H5)を結合させ固相化したProteinG Sepharoseビーズ20μlを加えて浸透しながら4℃で一晩インキュベートした。以後、前記と同じ方法でブロットを調製し、抗sTn抗体B72.3に反応するバンドの有無を確認した。
【0080】
その結果、B72.3による免疫沈降−ウェスタンブロット解析で検出された250kDaを超えるバンドと全く同一の位置にシグナルが得られた(図9B)。これより、GCIY/6LではMUC1がsTnで修飾された主要なタンパク質の1つであることが確認された。
【0081】
実施例10:ヒト胃癌組織ライセートにおけるsTn−MUC1の発現
本実施例は、ヒト胃癌組織ライセートにおいてsTn−MUC1の存在を確認することを目的とする。
【0082】
本実施例では、愛知県がんセンター病院においてインフォームドコンセントが得られた患者から採取された胃癌凍結組織を用いた。
すなわち、薄切した胃癌凍結組織(厚さ16μm、面積約1cm2)4枚をマイクロチューブに移し、プロテアーゼ阻害剤としてcomplete Mini、EDTA−free(Roche)を添加した0.4ml RIPAバッファーとガラスビーズを加えて組織を破砕・溶解し、マイクロチューブに移して遠心分離後、上清をライセート(lysate)として回収した。タンパク質100μgを含むライセートを分取し、ProteinG Sepharoseビーズ15μlを加えてプレクリアした後、実施例9と同一の方法で、免疫沈降−ウェスタンブロット解析を行った。
【0083】
その結果、抗sTn抗体でMUC1が免疫沈降され、かつ抗MUC1抗体による免疫沈降物にsTnシグナルが認められた(図10)。これより、実際の胃癌組織においてもsTnで修飾されたMUC1(sTn−MUC1)が存在することが明らかになった。
【0084】
実施例11:胃癌腹腔洗浄液におけるsTn−MUC1の検出
本実施例は、胃癌腹腔洗浄液においてsTn−MUC1を検出することを目的とする。
本実施例では、愛知県がんセンター病院においてインフォームドコンセントが得られた胃癌患者から採取された腹腔洗浄液を用いた。全ての腹腔洗浄液のCA72-4濃度をCA72-4ELISAキット(DRG社製)を用いて測定した。腹膜転移を伴う進行胃癌でCA72-4濃度が100U/mlより大きい腹腔洗浄液3例(高CA72-4群)と腹膜転移を伴う進行胃癌でCA72-4濃度が30U/mlより小さい腹腔洗浄液1例(低CA72-4)及び腹膜播種を認めない初期癌でCA72-4陰性の腹腔洗浄液1例(CA72-4陰性)に対して、2mgのタンパク質を含む腹腔洗浄液から実施例5と同一の方法でB72.3モノクローナル抗体レジンを用いた免疫沈降を行い、抗MUC1抗体(VU4H5)を用いてウェスタンブロット解析を行った。
【0085】
その結果、高CA72-4群では250kDaを超える分子量を示す領域にMUC1特異的なバンドが認められた(図11)。従って、これら高CA72-4群の腹腔洗浄液にはsTnで修飾されたMUC1分子が存在することが明らかとなった。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
方法がELISA法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が胃癌又は肺癌である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
試料が腹腔洗浄液由来である、請求項3記載の胃癌を検出する方法。
【請求項5】
肺癌が肺腺癌である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法に用いるための、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬。
【請求項1】
生体由来の試料と抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを接触させることを含む、癌を検出する方法であって、前記抗体がともにシアリルTnを有するMUC1糖タンパク質を特異的に検出することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
方法がELISA法である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
癌が胃癌又は肺癌である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
試料が腹腔洗浄液由来である、請求項3記載の胃癌を検出する方法。
【請求項5】
肺癌が肺腺癌である、請求項3記載の方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法に用いるための、抗シアリルTn抗体及び抗MUC1抗体とを含む、癌検出試薬。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−38952(P2011−38952A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−188106(P2009−188106)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「健康安心プログラム/糖鎖機能活用技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(505457994)学校法人東京医科大学 (6)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「健康安心プログラム/糖鎖機能活用技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(304031427)愛知県 (36)
【出願人】(505457994)学校法人東京医科大学 (6)
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