説明

特定成分回収方法及び装置

【課題】従来技術よりも高効率で特定成分を回収する。
【解決手段】特定成分を含む液体を凍結させる凍結工程と、該凍結工程で得られた凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させて特定成分を濃縮する濃縮工程と、該濃縮工程によって得られた濃縮液から特定成分を回収する吸着工程と、該吸着工程によって得られた特定成分を吸着材から分離する分離工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体から所定の特定成分を分離回収する特定成分回収方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、レアメタルを地殻から回収することに代えて海水から回収することが試みられている。
下記特許文献1には、海水や温泉水、あるいは地熱水からリチウムを回収するためのリチウム吸着剤として、スピネル系リチウムマンガン酸化物(LiMn)から希塩酸を用いてリチウムイオン(Li)をプロトン(H)と置換して得られるλ型マンガン酸化物が開示されている。このλ型マンガン酸化物は、リチウムイオンを含む海水等に浸漬すると該水溶液中のリチウムイオンがプロトンと置き換わることによりリチウムイオンを吸着する。
また、このようなリチウム吸着剤を用いた実証プラントとして、上記リチウム吸着剤の粒状物が充填された充填槽に海水を一定時間挿通させることにより海水中のリチウムイオンをリチウム吸着剤に吸着させ、該リチウム吸着剤から希塩酸を用いて塩化リチウムを回収するものが知られている。
【0003】
さらに、下記特許文献2には、繊維状の高分子基材(ポリプロピレン等)に放射線を照射した後にウラン捕集機能を有する官能基をグラフト重合してなるキレート捕集材が開示されている。
また、このようなキレート捕集材を用いたウラン回収技術として、上記キレート捕集材を表面積の大きいモール状とし、このモール状のウラン捕集材(モール状捕集材)を海底に係留することにより海水中の炭酸ウラニルイオン([UO(CO4-)を捕集し、イエローケーキとして回収することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3937865号公報
【特許文献2】特許第4186190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記各従来技術では、回収対象であるリチウムイオンや炭酸ウラニルイオンとともに海水中に存在する共存成分が回収対象物とともに吸着剤や捕集材に捉えられるため、その分だけ回収対象の回収率が低下するという問題がある。例えば、リチウムの回収においては、海水におけるナトリウム(Na)イオン(濃度約10,500ppm)を始め、マグネシウム(Mg)イオン(濃度約1,350ppm)、カルシウム(Ca)イオン(濃度約400ppm)、カリウム(K)イオン(濃度約380ppm)がリチウムイオンの濃度(約0.17ppm)に対して大幅に高いので、上記アルカリイオン、アルカリ土類金属イオンが塩化物換算で約45wt%もリチウム吸着剤に吸着される。一方、ウランの回収においては、ナトリウムイオンが炭酸ウラニルイオンとともに約46wt%も捕集されるので、この分だけウランの回収率が低下する。
また、海水中におけるリチウムイオンや炭酸ウラニルイオンの濃度は極めて低いため、所定量を回収するために膨大な時間(数ヶ月程度)を要するという問題もある。
さらに、上記問題のために、例えばリチウムイオン回収に際しては、リチウム吸着剤へ海水を供給するための海水汲上ポンプを長時間運転しなければならず、リチウムイオン回収に際して海水汲上ポンプ稼動のための電気代が嵩むといった問題もある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、従来よりも高効率、低コストで海水等の液体中に含まれるリチウムやウラン等の特定成分を回収することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、特定成分回収方法に係る第1の解決手段として、特定成分を含む液体を凍結させる凍結工程と、該凍結工程で得られた凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させて特定成分を濃縮する濃縮工程と、該濃縮工程によって得られた濃縮液から特定成分を吸着する吸着工程と、該吸着工程によって得られた特定成分を吸着材から回収する回収工程とを有する、という手段を採用する。
【0008】
特定成分回収方法に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、凍結工程では、液化燃料基地における低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方の冷熱を用いる、という手段を採用する。
【0009】
特定成分回収方法に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、液化燃料基地において海水と低温液化燃料との熱交換によって低温液化燃料を気化させる気化器から排水された海水(排海水)を低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方を用いて凍結させる、という手段を採用する。
【0010】
特定成分回収方法に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、特定成分はリチウム(Li)、ホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)あるいは/及びウラン(U)である、という手段を採用する。
【0011】
特定成分回収方法に係る第5の解決手段として、上記第1〜第4のいずれかの解決手段において、特定成分を含む液体は海水である、という手段を採用する。
【0012】
特定成分回収方法に係る第6の解決手段として、上記第2〜第5のいずれかの解決手段において、低温液化燃料は液化天然ガスあるいは液化石油ガスである、という手段を採用する。
【0013】
また、本発明では、特定成分回収装置に係る第1の解決手段として、特定成分を含む液体を凍結させて凍結物を生成する凍結手段と、当該凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させることにより特定成分を濃縮する濃縮する濃縮手段と、該濃縮手段によって得られた濃縮液から特定成分を吸着する吸着手段と、該吸着手段によって得られた特定成分を吸着材から回収する回収手段とを具備する、という手段を採用する。
【0014】
特定成分回収装置に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、凍結手段は、液化燃料基地における低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方の冷熱を用いて液体を凍結させる、という手段を採用する。
【0015】
特定成分回収装置に係る第3の解決手段として、上記第2の解決手段において、凍結手段は、液化燃料基地において海水と低温液化燃料との熱交換によって低温液化燃料を気化させる気化器から排水された海水(排海水)を低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方を用いて凍結させる、という手段を採用する。
【0016】
特定成分回収装置に係る第4の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、特定成分はリチウム(Li)、ホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)あるいは/及びウラン(U)である、という手段を採用する。
【0017】
特定成分回収装置に係る第5の解決手段として、上記第1〜第3のいずれかの解決手段において、特定成分を含む液体は海水である、という手段を採用する。
【0018】
特定成分回収装置に係る第6の解決手段として、上記第2〜第5のいずれかの解決手段において、低温液化燃料は液化天然ガスあるいは液化石油ガスである、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特定成分を含む液体を凍結させ、該凍結で得られた凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させることにより特定成分を濃縮し、他方、該濃縮過程において液体中の高濃度共存物質を晶析・沈殿させ(特定成分は液体中の濃度が低い場合に晶析しない)、当該濃縮によって得られた濃縮液から特定成分を吸着・回収するため、海水から特性成分を直接吸着・回収する従来技術よりも高い回収率で特定成分を吸着・回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン回収装置Aの全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン回収装置Aにおける海水凍結濃縮装置5の詳細構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン回収方法の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン回収装置Aは、LNG基地内あるいはLNG基地近郊に備えられるものである。LNG基地は、LNGタンク1、気化器2、LNG払出ポンプ3、海水汲上ポンプ4、海水凍結濃縮装置5、リチウムイオン吸着槽6及び分離液貯蔵槽7から構成されている。
【0022】
また、リチウムイオン回収装置Aは、これら構成要素のうち、海水凍結濃縮装置5、リチウムイオン吸着槽6及び分離液貯蔵槽7から構成されている。なお、このようなリチウムイオン回収装置Aは、LNGタンク1、気化器2、LNG払出ポンプ3及び海水汲上ポンプ4からなる既存のLNG基地に、海水凍結濃縮装置5、リチウムイオン吸着槽6及び分離液貯蔵槽7を追加設備することによって構築されたものである。
【0023】
LNG基地は、周知のように、LNG船(図示略)から陸揚げされたLNG(低温液化燃料)を貯蔵すると共に気化してLG(天然ガス)とし、当該天然ガスを火力発電所の燃料あるいは都市ガスとして外部に供給する施設であり、海岸近傍に備えられている。LNGタンク1は、上記LNG船から陸揚げされたLNGを一時的に貯蔵するための貯留槽であり、LNG基地の規模に応じて複数設けられている。
【0024】
気化器2は、LNGタンク1から払い出されたLNGを海水を用いて気化させて天然ガスとする一種の熱交換器であり、LNG基地の規模に応じて1あるいは複数設けられている。この気化器2は、LNGの気化に使用した海水(排海水)を排出する。この排海水は、一部あるいは全部が海水凍結濃縮装置5に供給され、残りが海中に放水される。
【0025】
LNG払出ポンプ3は、上記LNGタンク1からLNGを払い出して上記気化器2、また海水凍結濃縮装置5に供給するポンプである。LNG払出ポンプ3によってLNGタンク1から払い出されたLNGは、殆どが気化器2に供給されるが、一部が海水凍結濃縮装置5に供給される。なお、図1ではLNG払出ポンプ3がLNGタンク1とは別体に描かれているが、LNG払出ポンプ3はLNGタンク1内に収容されている場合もある。海水汲上ポンプ4は、LNG基地近傍の海岸から海水を汲み上げて気化器2に供給するポンプである。
【0026】
また、リチウムイオン回収装置Aは、海水から有価物であるリチウムを回収するための設備である。海水凍結濃縮装置5は、詳細については後述するが、LNG払出ポンプ3から供給され、かつ、−160℃程度の低温液体であるLNGを用いて気化器2から供給された排海水を凍結させて柱状凍結物とすると共に、当該柱状凍結物(つまり海水)に微少含有物として含まれるリチウム(正確にはリチウムイオン)を濃縮し、晶析・沈殿されることにより高濃度共存物質を海水中から除去する。つまり、海水凍結濃縮装置5は、排海水の凍結処理と特定成分であるリチウムの濃縮処理と高濃度共存物質であるナトリウムやマグネシウムの晶析処理とを行う装置である。この海水凍結濃縮装置5は、上記柱状凍結物の端部を局部的に融解させると共に、融解部を中心軸線に沿って一定方向に順次移動させることにより柱状凍結物中のリチウムを最終的に存在する融解水(濃縮水)内に濃縮する。
【0027】
リチウムイオン吸着槽6は、所定のリチウム吸着材を用いて上記濃縮水からリチウム(リチウムイオン)を回収する装置である。このリチウムイオン吸着槽6は、例えば上述したλ型マンガン酸化物を濃縮水に浸漬させることにより濃縮水中に含まれるリチウム(リチウムイオン)を吸着すると共に、リチウム(リチウムイオン)を吸着したλ型マンガン酸化物に、分離液貯蔵槽7から供給された酸(例えば希塩酸)を作用させることによりリチウム吸着材からリチウムを塩化リチウムとして分離し、外部へと出力する。分離液貯蔵槽7は、上記酸(例えば希塩酸)を貯蔵する容器であり、酸をリチウムイオン分離液としてリチウムイオン吸着槽6に供給する。
【0028】
なお、リチウムイオン吸着槽6におけるリチウム吸着材は、上記λ型マンガン酸化物に限定されるものではなく、現時点で知られているリチウム吸着材であれば如何なるものであっても良いが、リチウム(リチウムイオン)の吸着性能に優れたものが好ましいことは勿論である。
【0029】
続いて、上記海水凍結濃縮装置5の詳細構成について、図2を参照して説明する。
海水凍結濃縮装置5は、図2に示すように、フロン槽5a、複数の凍結管5b、複数のリング状ヒータ5c、ヒータ駆動部5d、熱交換器5e、循環ポンプ5f及び駆動通電装置5gから構成されている。
【0030】
フロン槽5aは、冷媒としてのフロン(正確にはフロンガス)が充填された容器である。各凍結管5bは、同一形状に形成された円筒状容器であり、フロン槽5a内に互いに平行状態で収納されている。また、各凍結管5bは、一端(上端)に気化器2から排海水が供給され、他端(下端)から濃縮水が排出される。すなわち、各凍結管5bは、表面にフロンが接触する状態でフロン槽5a内に収納されており、内部に充填された排海水は、フロンの冷熱によって凍結する。
【0031】
リング状ヒータ5cは、図示するように各凍結管5bに備えられた円環形状の電気ヒータである。すなわち、リング状ヒータ5cは、上記フロン槽5a内において凍結管5bの周面の中心軸方向における一部位を環状に取り囲むように設けられている。このようなリング状ヒータ5cは、各凍結管5b内に形成された柱状凍結物について当該柱状凍結物の中心軸方向における一部分を局部的に融解させるものである。
【0032】
ヒータ駆動部5dは、一種のボールネジである。すなわち、ヒータ駆動部5dは、図示するように、表面にネジ溝が形成されると共に軸線方向が上記各凍結管5bと平行するように各凍結管5bの間に設けられたラック棒(円柱棒)と、当該ラック棒に噛み合うように内週にネジ溝が形成されると共に上記リング状ヒータ5cが固定されたピニオンリングとから構成されている。
【0033】
熱交換器5eは、上記LNG払出ポンプ3から供給されたLNGとフロン槽5a内のフロンとを熱交換させるものである。循環ポンプ5fは、フロン槽5a内のフロンを上記熱交換器5eとの間で循環させるためのポンプである。駆動通電装置5gは、上記ヒータ駆動部5dの駆動(つまりラック棒の回転駆動)とリング状ヒータ5cへの電力供給と行う装置である。
【0034】
次に、このように構成されたLNG基地、特にリチウムイオン回収装置Aの動作について、図3をも参照して詳しく説明する。
【0035】
最初に、LNG基地は、LNG払出ポンプ3と海水汲上ポンプ4とが作動することによって、LNGタンク1から供給されたLNGを気化器2で海水と熱交換させることによって気化させ、当該気化によって生成された天然ガスを火力発電所等の外部需要者に供給する。
【0036】
ここで、気化器2においてLNGの気化に供された海水(つまり排海水)は、LNGとの熱交換によって温度低下するが、凍結するまでの温度にはならず、一部が海岸で海に廃棄される一方、残りが本リチウムイオン回収装置Aの構成要素である海水凍結濃縮装置5に供給される。そして、この排海水は、海水凍結濃縮装置5において、LNG払出ポンプ3から供給されたLNGの冷熱に基づいて凍結処理される(ステップS1)。
【0037】
すなわち、図2に示した海水凍結濃縮装置5では、各凍結管5bに排海水が充填され、フロン槽5a内のフロン(冷媒)との熱交換によって排海水が冷却される。一方、フロン(冷媒)は、排海水との熱交換によって昇温するが、循環ポンプ5fが作動することによってフロン槽5aと熱交換器5eとの間を循環するため、フロン(冷媒)よりも低温な液体であるLNGと熱交換して冷却される。つまり、各凍結管5b内の排海水は、フロン(冷媒)を仲介役としたLNGとの熱交換によって凝固点以下まで冷却され、柱状凍結物となる。
【0038】
このようにして柱状凍結物が内部に形成された各凍結管5bに対して、ヒータ駆動部5dが作動することによって各凍結管5bのリング状ヒータ5cが初期位置、つまり各凍結管5bの上端位置に位置設定されると共にリング状ヒータ5cへの通電が開始される。そして、ヒータ駆動部5dがさらに作動することによって、リング状ヒータ5cが通電状態のまま各凍結管5bの下端まで所定の速度で順次移動し、この結果として排海水中に含まれているリチウム(リチウムイオン)は順次濃縮される(ステップS2)。
【0039】
すなわち、リング状ヒータ5cが上記初期位置にある場合、リング状ヒータ5cの発熱によって各凍結管5bの柱状凍結物は、フロンによって冷却された状態であるものの、各凍結管5bを介してリング状ヒータ5cと対向する部位(上端部位)のみが局部的に融解する。この融解部は、柱状凍結物が円柱状の形状を有しているので、所定厚の円盤状の領域となる。
【0040】
そして、この円盤状の融解部は、リング状ヒータ5cがゆっくりと各凍結管5bの下端に向かって移動することによって、同様に下端に向かって移動する。すなわち、リング状ヒータ5cの移動に伴なって、融解した部位はフロンによる冷却によって再凍結する一方、凍結状態にあった部位はリング状ヒータ5cの熱によって新たに融解する。このような排海水の固相から液相への相変化に伴なって排海水中に含まれているリチウム(リチウムイオン)は液相内に濃縮される。なお、このような濃縮原理は、ゾーンメルト法として一般に知られているものである。
【0041】
リング状ヒータ5cが下端まで移動し終えた状態では、柱状凍結物の下端部が最終的に融解部となる。そして、この下端部に位置する融解部は、柱状凍結物の各部位に含まれていたリチウム(リチウムイオン)の殆どが集合した状態の排海水(濃縮水)である。このような濃縮水は、図2に示すように各凍結管5bの下端から排水され、リチウムイオン吸着槽6に供給される。
【0042】
リチウムイオン吸着槽6は、上記濃縮水にλ型マンガン酸化物を浸漬させることにより、濃縮水中に含まれるリチウム(リチウムイオン)を、例えばλ型マンガン酸化物を用いて吸着する(ステップS3)。そして、リチウムイオン吸着槽6は、リチウム(リチウムイオン)を吸着したλ型マンガン酸化物に分離液貯蔵槽7から供給された酸、例えば希塩酸を作用させることによりλ型マンガン酸化物からリチウムを回収する(ステップS4)。
【0043】
このような本実施形態によれば、海水凍結濃縮装置5によって排海水を凍結させてリチウム(リチウムイオン)を濃縮させた上で、リチウムイオン吸着槽6によってリチウムを回収するので、海水からリチウムを直接回収する従来技術よりも高効率でリチウムを回収することが可能である。
また、本実施形態では、排海水を利用するので、海から海水を汲み上げるための海水汲上ポンプが不要となる。
また、本実施形態では、排海水の濃縮液であることから、従来法よりも短い時間で海水中の特定成分を回収・吸着することができる。
さらに、本実施形態では、海水よりも低い温度の排海水を利用することから、海水を直接凍結するよりも少ない冷熱で凍結を行うことができる。
【0044】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態はリチウムイオン吸着槽6によってリチウムを柱状凍結物(排海水)から回収するものであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、海水にはリチウム(リチウムイオン)の他に様々な成分が含まれているので、リチウムイオン吸着槽6に代えて、あるいはリチウムイオン吸着槽6と直列、もしくは並列して各成分(例えばホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)、ウラン(U)等)の分離・回収に特化した分離装置を設けることにより、リチウム以外の成分あるいはリチウム及び他の成分を特定成分として回収することができる。例えば、ウラン(U)を回収する場合には、上述したキレート吸着材を用いることにより、特定成分としてのウラン(U)を効果的に回収することができる。
【0045】
(2)上記実施形態では、気化器2から排出された排海水を海水凍結濃縮装置5に投入したが、これに代えて海水汲上ポンプ4の吐出海水を海水凍結濃縮装置5に直接投入しても良い。しかしながら、気化器2の排海水は、気化器2におけるLNGとの熱交換によって海水汲上ポンプ4の吐出海水よりの低温であり、よって凍結させるために必要な熱量が海水汲上ポンプ4の吐出海水よりも少なくて済む。したがって、熱効率的には排海水を海水凍結濃縮装置5に投入することが好ましい。
【0046】
(3)上記実施形態では、一般的なLNG基地の設備に対して海水凍結濃縮装置5、リチウムイオン吸着槽6及び分離液貯蔵槽7を追加することによりリチウムイオン回収装置Aを既存のLNG基地に追加設備する構成を採用した。しかしながら、新たにLNG基地を建設する場合には、例えば海水凍結濃縮装置5の機能を併せ持つ気化器を設計し、LNG基地を構成する機器の数の少数化と設備コストの低減とを図るようにしても良い。
また、海水凍結濃縮装置5は排海水を凍結する機能とリチウムを濃縮する機能とを併せ持つものであるが、この2つの機能を別装置として構成するようにしても良い。
【0047】
(4)上記実施形態では、LNG基地にリチウムイオン回収装置Aを設けるようにしたが、LNG基地に代えてLPG(液化石油ガス)基地にリチウムイオン回収装置Aを設け、液化石油ガスあるいは当該液化石油ガスを気化させた石油ガスの冷熱を用いて海水や排海水を凍結させて特定成分を回収するようにしても良い。
【0048】
(5)上記実施形態の海水凍結濃縮装置5では、フロンを仲介させてLNGと排海水との間の熱交換を行うようにしたが、LNGと排海水とを直接熱交換させるようにしても良い。また、LNGに代えて気化器2から排出される天然ガス(低温気化燃料)を、あるいはLNG及び天然ガス(低温気化燃料)を排海水あるいは海水と熱交換させて排海水あるいは海水を凍結しても良い。さらには、海水凍結濃縮装置5の構成は、図2に示した構成に限定されない。
【0049】
(6)また、LNG基地及びLPG基地では不可避的にBOG(ボイルオフガス)が発生するが、このBOGの冷熱を海水や排海水の凍結に利用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
A…リチウムイオン回収装置、1…LNGタンク、2…気化器、3…LNG払出ポンプ、4…海水汲上ポンプ、5…海水凍結濃縮装置(凍結手段、濃縮手段)、5a…フロン槽、5b…凍結管、5c…リング状ヒータ、5d…ヒータ駆動部、5e…熱交換器、5f…循環ポンプ、5g…駆動通電装置、6…リチウムイオン吸着槽(吸着手段、回収手段)、7…分離液貯蔵槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定成分を含む液体を凍結させる凍結工程と、
該凍結工程で得られた凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させて特定成分を濃縮する濃縮工程と、
該濃縮工程によって得られた濃縮液から特定成分を吸着する吸着工程と、
該吸着工程によって得られた特定成分を吸着材から回収する回収工程と
を有することを特徴とする特定成分回収方法。
【請求項2】
凍結工程では、液化燃料基地における低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方の冷熱を用いることを特徴とする請求項1記載の特定成分回収方法。
【請求項3】
液化燃料基地において海水と低温液化燃料との熱交換によって低温液化燃料を気化させる気化器から排水された海水を低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方を用いて凍結させることを特徴とする請求項2記載の特定成分回収方法。
【請求項4】
特定成分はリチウム(Li)、ホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)あるいは/及びウラン(U)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の特定成分回収方法。
【請求項5】
特定成分を含む液体は海水であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の特定成分回収方法。
【請求項6】
低温液化燃料は液化天然ガスあるいは液化石油ガスであることを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の特定成分回収方法。
【請求項7】
特定成分を含む液体を凍結させて凍結物を生成する凍結手段と、
当該凍結物を局部的に融解させると共に融解部を一定方向に順次移動させることにより特定成分を濃縮する濃縮する濃縮手段と、
該濃縮手段によって得られた濃縮液から特定成分を吸着する吸着手段と、
該吸着手段によって得られた特定成分を吸着材から回収する回収手段と
を具備することを特徴とする特定成分回収装置。
【請求項8】
凍結手段は、液化燃料基地における低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方の冷熱を用いて液体を凍結させることを特徴とする請求項7記載の特定成分回収装置。
【請求項9】
凍結手段は、液化燃料基地において海水と低温液化燃料との熱交換によって低温液化燃料を気化させる気化器から排水された海水を低温液化燃料と当該低温液化燃料を気化させた低温気化燃料の少なくとも一方を用いて凍結させることを特徴とする請求項8記載の特定成分回収装置。
【請求項10】
特定成分はリチウム(Li)、ホウ素(B)、スカンジウム(Sc)、ルビジウム(Rb)、ストロンチウム(Sr)、モリブデン(Mo)、セリウム(Ce)あるいは/及びウラン(U)であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の特定成分回収装置。
【請求項11】
特定成分を含む液体は海水であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の特定成分回収装置。
【請求項12】
低温液化燃料は液化天然ガスあるいは液化石油ガスであることを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項に記載の特定成分回収装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184747(P2011−184747A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−51928(P2010−51928)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】