説明

特性が改善されたポリアルケノエートセメント

本発明は、生物医学用途又は歯科用途のためのポリアルケノエートセメントであり、次の成分a)〜成分d)を含む:a)少なくとも1つのリンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー、b)少なくとも1つの多価金属の酸可溶性塩又は多価金属の酸可溶性化合物、c)少なくとも1つの非高分子酸性リン化合物、及びd)水の存在下で成分a)、成分b)及び成分c)と反応することができ、イオンを放出する微細ガラス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学用途又は歯科用途のための特性が改善されたポリアルケノエートセメントに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアルケノエートセメントは、1972年から知られている。それらのポリ酸ベースのセメントの接着強度は、歯のアパタイト及びセメントのガラスの両方とそれらのCaイオンを経由して結合した錯体を形成することができるポリカルボン酸から生じる。下記式は、Ca2+によるポリアクリル酸の架橋を図式で示す。
【0003】
【化1】

【0004】
ガラス及び酸の硬化段階中、ガラスから浸出するカチオン(Ca2+、Al3+)は、ポリ酸の鎖を架橋する。その結果、部分的に反応したガラス粒子を包埋する水不溶性多価塩マトリクスの形成がもたらされ、それはさらに反応してセメントを形成する。
【0005】
これらのセメントは、歯の象牙質及びエナメル質によく接着し、窩洞における充填材料として使用する場合に良好な封止特性を示す。それらは、液体及びバクテリアの侵入を防止し、二次齲蝕を防ぐ。しかしながら、これらのセメントは、硬化プロセスの完了前に水分の影響を受けやすく、加えて酸可溶性である。また、光学特性(透光性)が、今日の美観要求を満たしていない。
【0006】
上記セメントの特性をさらに改善するために、Wilsonは、前世紀の80年代後半に、ポリビニルホスホン酸(ポリ(VPA))をベースとした新たな種類のセメントの開発を試みた。下記式はポリVPAを図式で示す。
【0007】
【化2】

【0008】
ポリ(VPA)の水溶液のpHは約1.5である。したがって、ポリ(VPA)は、ポリアクリル酸や他のポリカルボン酸よりも強酸であり、このため、これまでに記載したセメントの接着特性を有するだけでなく、より多くの機械的充填をなし得るセメントを調製することが可能である。
【0009】
ビニルホスホン酸とアクリル酸又は他のカルボン酸とのコポリマーも、かかるセメントの調製に使用することができる。
【0010】
ガラスとポリ(VPA)とのかかるセメントは、グラスポリホスホネートセメントと呼ばれている。ガラス及びホスホン酸等の酸で攻撃された充填剤材料を含むセメントを記載する最初の刊行物は、A.D. Wilson(特許文献1)及びEllis(特許文献2)により提示された。
【0011】
しかしながら、不都合なことに、それらのセメントの硬化挙動は、ポリ(VPA)の高い酸強度のために実用的に用いるためにはあまりに速すぎた。したがって、ポリアクリル酸を用いて調製されるセメントの硬化時間は、ポリ(VPA)で置き換えた場合、セメントも混合及び加工しなければならないことを考慮せずとも、約3〜4分から45秒に短縮されることが、特許文献1に記載されている。
【0012】
Akinmade及びBraybrookは、特許文献3に、ポリ(VPA)を予め部分的に中和すれば、ポリ(VPA)ベースのセメントの硬化時間を延長することができることを示すことができた。これはさらなる発展を示していたが、ポリカルボン酸ベースのセメントに比べてより良好な機械特性の原因となるとされる十分に大量の粉末の取込みが可能でないため、さらに過度に速い硬化は相変わらずそれらのセメントの欠点のままであった。
【0013】
1995年に、Wilde及びWilliamsは特許文献4の特許明細書に、機械特性を改良させるために少量のポリ(VPA)のコポリマーを含有するポリカルボン酸ベースのグラスアイオノマーセメントを単に提示したにすぎなかった。しかし、それらのセメントは、先行技術で既知のセメントをほんの少しばかり改質したものだったため、それらのセメントの物理特性が、予め知られているセメントの物理特性とほんのわずかしか異ならないことは驚くようなことではなかった。
【0014】
本来の目的(例えば、ポリカルボン酸ベースのグラスアイオノマーセメントの遅い硬化、高い酸可溶性又は高い不透明度、及び関連する芳しくない美観等の上述の欠点を克服するための、ポリ(VPA)を主に又は全体的にベースとするセメント)は、これまでは達成されていない。
【0015】
リン含有酸性基を有するポリアルカンポリマー、又は類似の構造のポリマーは全て、以下「リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー」と呼ぶ。酸−塩基反応により生成されるセメントは、それらのポリマーが調製に用いられる場合、「リンベースのポリアルケノエートセメント」と呼ぶ。
【0016】
これまで、ポリアルケノエート酸が全体的に又は部分的にリン含有酸性基を含む、有用であるか又は市販されているポリアルケノエートセメントは存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】欧州特許第0340016号
【特許文献2】欧州特許第0431740号
【特許文献3】欧州特許第0626842号
【特許文献4】英国特許第2291060号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、実用的に十分に適用することができ、かつその目的にとって重要な特性(速い硬化時間を伴う十分な加工時間、より低い可溶性、良好な機械的充填能力、またより良好な美観等)の点で、ポリカルボン酸をベースとする上述の従来型ポリアルケノエートセメントよりもはるかに優れている、リンベースのポリアルケノエートセメントを得ることであった。
【課題を解決するための手段】
【0019】
驚くべきことに、新規なポリアルケノエートセメントは、生物医学用途及び/又は歯科用途に好適であり、かつ以下の成分(a)〜成分(d)を含有することが見出されたことの結果として、本発明の課題を解決することができた:
(a)少なくとも1つのリンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー、
(b)少なくとも1つの多価金属の酸可溶性塩又は多価金属の酸可溶性化合物、
(c)少なくとも1つの非高分子酸性リン化合物、及び
(d)水の存在下で成分(a)、(b)及び(c)と反応することができ、イオンを放出する微細ガラス。
【0020】
成分(a)〜成分(c)は、とりわけ水の存在下でイオンを放出する微細ガラス(成分(d))と混合することができ、それらが反応してセメントを形成する。
【0021】
十分に硬化する際、(b)と(c)との組合せを含有する本発明のセメントは、使用に都合のよい十分な加工時間、改善された硬化特性、例えば、より大きい硬度又はより小さい磨耗などの改善された機械特性、及びそれどころかさらに改善された光学特性を示す。
【0022】
本発明の好ましい実施の形態では、本発明の組成物は、(i)成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含む酸溶液と、また(ii)酸可溶性ガラス(成分(d))とを含む。したがってこの形態では、酸溶液(液体)は、成分(a)、成分(b)及び成分(c)を含有する。このようにして、加工時間が終了した後の短時間のうちに、多価カチオン(本明細書中では「即座に利用可能な多価カチオン」とも呼ぶ)が硬化反応に利用可能であり、これは、ガラス粉末からの多価カチオンが完全に利用可能となるまでに数時間が経過する従来技術で既知のセメントと対照的である。
【0023】
本発明のさらなる好ましい実施の形態では、成分(b)を、粉末状ガラス(成分(d))と乾燥形態で混和することができる。したがって本実施の形態では、液体は成分(a)及び成分(c)を含有する。
【0024】
本発明のさらなる好ましい実施の形態では、リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー(成分(a))を、粉末状ガラス(成分(d))と乾燥形態で混和することができる。したがって本実施の形態では、液体は成分(b)及び成分(c)を含有する。
【0025】
本発明のさらなる好ましい実施の形態では、リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー(成分(a))と酸可溶性塩(成分(b))の両方を、粉末状ガラス(成分(d))と乾燥形態で混和することができる。したがって本実施の形態では、液体は成分(c)のみを含有する。
【0026】
乾燥形態の成分(a)及び/又は成分(b)を成分(d)と混和し、また液体中に溶解形態で含有する実施形態も可能である。
【0027】
驚くべきことに、「即座に利用可能な多価カチオン」と非高分子酸性リン成分との組合せは、従来技術で既知のセメントと対照的にそれらのセメントの加工性及び結果的に優れた使いやすさを可能とする良好な機械的価値と共に、セメントの硬化反応の遅延をもたらす。
【0028】
(a)及び(b)のみと(d)との組合せ、又は(a)及び(c)のみと(d)との組合せは、上記の改善された特性をもたらさず、これは、(a)、(b)及び(c)と(d)との組合せによってのみ達成される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
特段の規定のない限り、パーセンテージは重量パーセンテージを示す。成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体の場合、残りは水から成ることが好まれる。
【0030】
リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー(成分(a))は、ビニルホスホン酸のホモポリマー、ビニルリン酸のホモポリマー、またビニルホスホン酸のコポリマー、及び/又は所望により不飽和カルボン酸と共重合する不飽和リン酸のポリマーであってもよい。これらの上述のポリ酸はまた、部分的にエステル化された形態で用いてもよい。不飽和カルボン酸でエステル化されたビニルホスホン酸、不飽和ホスホン酸でエステル化されたビニルホスホン酸、及び不飽和リン酸でエステル化されたビニルホスホン酸も好適である。
【0031】
所望のリンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー又はコポリマーの合成に好適なモノマーは、例えば、ビニルホスホン酸、α−メチル−ビニルホスホン酸、スチレンビニルホスホン酸、アクリル酸、2−クロロアクリル酸、3−クロロアクリル酸、2−ブロモアクリル酸、3−ブロモアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、グルタル酸、シトラコン酸、メサコン酸、フマル酸及びチグリン酸であり得る。
【0032】
上述のリンベースの不飽和酸との共重合にさらなる好適なモノマーは、例えば、アクリルアミド、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化アリル、酢酸ビニル及び2−ヒドロキシエチルメタクリレートであり得る。
【0033】
成分(a)は好ましくは、ポリビニルホスホン酸と、不飽和カルボン酸、とりわけ、マレイン酸、アクリル酸、イタコン酸、又はそれらの組合せとのコポリマーを含む。
【0034】
成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含み得る液体が、成分(a)を含有する場合、液体中の成分(a)の量は、好ましくは10〜70重量%、より好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは30〜50重量%である。
【0035】
複数の価数(すなわち、多価)の金属カチオンの酸可溶性塩又は酸可溶性化合物(成分(b))は、(c)の存在下で、沈殿を形成することなく、リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマーの水溶液に可溶性でなければならない。この組合せに好適な塩及び化合物は、例えば、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ce2+、TiO2+、ZrO2+、Fe2+、Co2+、Cu2+、Zn2+等の二価カチオンを有するものであり、又は好ましくは、Sc3+、Y3+、La3+、Yb3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Fe3+、Ru3+、Os3+、Au3+、Al3+、Ga3+、In3+等の三価カチオンを有するものであり得る。
【0036】
Al3+カチオン又はFe3+カチオンを有するものが特段に好まれる。
【0037】
多価金属の酸可溶性塩又は酸可溶性化合物のアニオンは、例えば、O2-、[CO32-、Cl-、[SO42-、[PO43-、[HPO42-、[H2PO4-、[HPO22-、[H2PO3-であり得る。
【0038】
成分(b)の好適な構成成分は、例えば、Al2(SO43、AlCl3、FeCl3及びAlH6(PO43である。リン酸二水素塩の形態の金属塩を使用することが特段に好まれ、これはまた同時に成分(c)の構成成分も構成し得り、この場合AlH6(PO43が特に好ましい。
【0039】
成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含み得る液体が、成分(b)を含有する場合、当該液体中の成分(b)の量は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.1〜5重量%である。
【0040】
非高分子酸性リン化合物(成分(c))は、有機−無機又は事実上純粋に無機であってもよい。それはリン酸又はリン酸誘導体であってもよく、それはホスホン酸又はホスホン酸誘導体であってもよい。酸性ホスフェート及び酸性ホスホネート、又は上記との組合せも同様に好適である。それらのリン含有モノマーの酸性エステルも好適である。
【0041】
好ましい例は、モノホスホン酸、ジホスホン酸又はオルト−リン酸であり、とりわけ、ジホスホン酸及びオルト−リン酸が好ましい。酸性ホスフェートの好適な例は、リン酸二水素、及び式(RO)P(O)(OH)2及び式(RO)2P(O)(OH)(式中、R=例えば、ブチル、n−オクチル、n−ヘキシル等)の有機酸性ホスフェートである。酸性ホスホネートの好ましい例はビス(クロロエチル)ビニルホスホネートである。
【0042】
成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含み得る液体中の成分(c)の量は、好ましくは0.1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。
【0043】
水の存在下で成分(a)、成分(b)及び成分(c)と反応できる、好適なイオンを放出する微細ガラス(成分(d))は、従来技術によるイオンを放出するガラス、例えば、二価金属カチオンでドープされたアルミノケイ酸ガラス、及びフッ化物、アルカリ金属イオン及び/又はホスフェートを含む溶融物等である。これらのガラスは、反応性であり、好ましくは、SiO2/Al23比が0.6〜5.0:1、とりわけ2.0〜5.0:1であることを特徴とする。
【0044】
ガラスは、純粋な合成ガラスであってもよく、又は例えば欧州特許第0883586号に記載されているように、例えばゲルを利用して初めに酸と反応する天然鉱物を含んでいてもよい。合成ガラスの好ましい例は、例えば、石英(SiO2)及びアルミナ(Al23)と一緒に、所望により1つ以上の、例えば、CaF2、CaCO3、AlPO4、Ca3PO4等の好適なフッ化物、炭酸塩及び/又はリン酸塩を添加して、溶融することによって製造できるアルミノケイ酸ガラスである。このような種類の合成ガラスは、当該技術分野で既知であり、例えばA.D. Wilson et al. "Aluminosilicate Glasses for Polyelectrolyte Cements" I&EC Product Research & Development, Vol. 19, pp. 263-270, 1980により記載されている。本発明により理解されるガラスはさらに、三価金属イオン(好ましくはアルミニウム)、酸素イオン及びフッ化物イオンに加えて、例えば、ストロンチウム、カルシウム及びバリウムのアルカリ土類金属イオンをも含む、いわゆる「非溶融オキシフルオライド物質」を含むこともできる。好ましいガラスの例は、当該技術分野で既知であり、例えば、欧州特許第0883566号及び国際公開第2007/017152号の公報に記載されている。それらは、通例の商業的供給元から適切な形態で購入することができる。
【0045】
「水の存在下で反応し得る」という表現は、とりわけ、最終的にセメントの十分な硬化をもたらす、ガラスからのイオン、主にカチオンの放出であると理解される。
【0046】
「微細」という表現は、ガラスが、D99値100μm未満、好ましくは30μm未満、より好ましくは20μm未満の粒径を有することを意味する。
【0047】
粒径は従来、平均粒径(D50値及び/又はD99値)として与えられ、例えば、「沈渣分析器(Sediment Analyser)」測定装置を用いて求めることができる。微細ガラス粒子の粒径のD50値は、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは5μm以下、特には0.5〜5.0μmである。微細ガラス粒子の粒径のD99値は、好ましくは2〜40μm、より好ましくは30μm以下、特には2〜30μmである。
【0048】
成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体に対するガラス(成分(d))の比率は、好ましくは5:1〜0.5:1、より好ましくは3:1〜0.8:1である。本発明のポリアルケノエートセメントを、生物医学用充填材料又は歯科用充填材料として使用する場合、比較的大きい割合のガラスが有益であることが見出され、この際、ガラスと液体との好ましい比率は、4.0:1〜2.0:1、とりわけ3.0:1〜2.0:1であった。本発明のポリアルケノエートセメントを、生物医学用固定材料又は歯科用固定材料として使用する場合、比較的小さい割合のガラスが有益であることが見出され、この際、ガラスと液体との好ましい比率は、1:1〜0.6:1、とりわけ約0.8:1であった。
【0049】
成分(d)は、水溶性又は少なくとも部分的に水溶性の多価金属カチオン化合物をさらに含んでいてもよく、その十分多くの量が、混合されたセメントの初期硬化段階中に溶解する。「少なくとも部分的に水溶性の」という表現は本明細書中では、少なくとも2g、好ましくは少なくとも4gの多価金属カチオン化合物が100mLの水に室温で溶解することができることを意味する。「十分大きな割合」という表現は本明細書中では、少なくとも、少なくとも30%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも90%の多価金属カチオン化合物が、混合されたセメントの初期硬化段階中に溶解することを意味する。「初期硬化段階」という表現は本明細書中では、例えば、成分(d)と他の成分との混合後、0〜10分、好ましくは0〜5分の期間を指す。特定の用途において、初期硬化段階はまた、0〜30分、又はさらに0〜60分の期間であってもよい。
【0050】
本発明のセメントの使用は、生物医学分野及び歯科分野における様々な療法に適する。歯の審美的修復材及び固定材料としての使用が好ましい。
【0051】
セメントは粉末/液体形態で存在していてもよく、この場合、液体は酸性成分の水溶液である。別の実施形態では、酸性成分が、実質的に乾燥形態の粉末中に部分的に又は全体的に存在することもできる。また、本発明によるセメントの成分は、ペースト形態で存在していてもよく、この場合にはその他に、増粘剤、湿潤剤、また樹脂(とりわけ親水性樹脂)等の通例使用されるペースト形成剤が、本発明の適切な成分と共に組み込まれる。
【0052】
本発明のセメントは、当該技術分野で既知の、1つ以上の通例の添加剤及びアジュバント、例えば、適切な指示薬、着色剤、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、界面活性剤、緩衝剤、安定化剤、キレート剤等をさらに含むことができる。所望であれば、セメントはまた、歯科用セメントにおける分野で慣用されている、1つ以上の薬剤又は治療物質、例えば、フッ素化剤、抗齲蝕剤(例えばキシリトール)、再石灰化剤(例えばリン酸カルシウム化合物)、コントラスト剤等を含むことができる。
【実施例】
【0053】
I.硬化挙動及び機械特性に関する試験
以下の実施例は、上記の処置を例示することを意図しているものである。
【0054】
セメントの調製では、液体(組成に関しては以下を参照)は、イオンを放出する微細ガラス(EonGlass、Benco company (United States))と、ガラス対液体の比率2.4:1で混和される。
【0055】
使用する液体の成分:
a.)リンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー
1:ポリ(ビニルホスホン酸)とアクリル酸とのコポリマーの40%水溶液、pH=0.7
b.)多価金属の酸可溶性塩
1:Al2(SO43
2:AlCl3
3:FeCl3
4:AlH6(PO43
c.)非高分子酸性リン化合物
1:H3PO4
2:ジホスホン酸
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1及び表2は、成分(b)及び成分(c)の両方が物理特性の改善に必要であることを示す。(b)を省くと、速すぎる硬化及び機械的に弱すぎるセメントがもたらされ、一方、成分(c)が無ければ、混濁する不均質な液体しか得られず、均質なセメントの混合が不可能となる。
【0059】
((c)の存在下で)添加する(b)の量を利用して殆ど意のままに加工時間を調節することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(a)〜成分(d)を含む生物医学用途又は歯科用途のためのポリアルケノエートセメント:
(a)少なくとも1つのリンベースの酸性ポリアルケノエートポリマー、
(b)少なくとも1つの多価金属の酸可溶性塩又は多価金属の酸可溶性化合物、
(c)少なくとも1つの非高分子酸性リン化合物、及び
(d)水の存在下で成分(a)、成分(b)及び成分(c)と反応することができ、イオンを放出する微細ガラス。
【請求項2】
成分(a)が、ビニルホスホン酸若しくはビニルホスホン酸のコポリマー、又は不飽和カルボン酸でエステル化されたビニルホスホン酸、又は不飽和ホスホン酸でエステル化されたビニルホスホン酸、又は不飽和リン酸でエステル化されたビニルホスホン酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項3】
前記多価金属が二価金属カチオンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項4】
前記二価金属カチオンが、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Ce2+、TiO2+、ZrO2+、Fe2+、Co2+、Cu2+及び/又はZn2+であることを特徴とする、請求項3に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項5】
前記多価金属が三価金属カチオンであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項6】
前記三価金属カチオンが、Sc3+、Y3+、La3+、Yb3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Fe3+、Ru3+、Os3+、Au3+、Al3+、Ga3+及び/又はIn3+であることを特徴とする、請求項5に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項7】
成分(b)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、0.1〜50重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項8】
成分(b)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、0.1〜10重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項9】
成分(b)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、0.1〜5重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項10】
成分(d)が、水溶性の、又は少なくとも部分的に水溶性の多価金属カチオン化合物を含み、その十分大きな割合が、混合された前記セメントの初期硬化段階中に溶解することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項11】
成分(c)が、リン酸、酸性ホスフェート、ホスホン酸、酸性ホスホネート、又はそれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項12】
前記リン酸が、ジ(エチルへキシル)リン酸又はオルト−リン酸又は部分的に中和されたオルト−リン酸であることを特徴とする、請求項11に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項13】
前記酸性ホスフェートが、三リン酸六水素アルミニウム及び/又は二リン酸四水素カルシウムであることを特徴とする、請求項11に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項14】
前記ホスホン酸が、モノホスホン酸又はジホスホン酸であることを特徴とする、請求項11に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項15】
成分(c)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、0.1〜50重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項16】
成分(c)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、5〜30重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。
【請求項17】
成分(c)が、成分(a)、成分(b)及び/又は成分(c)を含有し得る液体全体に基づき、10〜20重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載のポリアルケノエートセメント。

【公表番号】特表2011−526268(P2011−526268A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515226(P2011−515226)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004699
【国際公開番号】WO2010/000438
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(501391869)エス ウント ツェー ポリマー ジリコーン ウント コンポジット シュペーツィアリテーテン ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】