説明

特性値計測方法およびその装置

【課題】 電波の強度が変動した場合に正確に計測を実施することができなかった。
【解決手段】 電波の送信部から電波を送信し、電波の受信部にてその反射波を受信し、反射波の変化に基づいて計測対象の特性値を計測するにあたり、計測対象の特性値を計測する際に上記送信部から受信部に直接入射する直接波の変動に基づいて上記反射波の変動を補正して、上記計測対象の特性値を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路や滑走路などの上の水や凍結防止剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムや酢酸マグネシウムナトリウム等の無機塩で構成される。むろん、同様の無機塩で構成される融雪剤を含むが、本明細書および特許請求の範囲では簡単のために融雪剤を略し、凍結防止剤とのみ表記している。)を含む塩水の厚さや濃度を計測する方法およびその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から路面に散布された凍結防止剤の濃度を測定して凍結を事前に防止する道路管理が行われているが、水や塩水の厚さや濃度を計測する方法あるいは装置として各種技術が開発されている(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−101521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の方法あるいは装置においては、電波の反射率等を計測し、実測した反射率と予め決められた基準の反射率とを比較することによって未知の特性値(塩水の濃度等)を算出するなどしている。反射率は送信波の強度に対する受信波の強度で表現され、種々の手法によって反射率を算出する。図1は、反射法と呼ばれる手法によって当該反射率を算出する様子を説明する説明図である。
【0004】
図1において、12は電波を送信するための送信アンテナであり、22は電波を受信するための受信アンテナである。送信アンテナ12および受信アンテナ22は、路面Rに向けて固定的に設置されており、送信アンテナ12から送信された電波は路面Rで反射して受信アンテナ22にて受信される。反射法においては、反射率の計測前に前もって反射波の強度を定義しており、電波が全反射すると思われる状況で予め電波の強度を測定する。
【0005】
すなわち、図1(a)に示すように、計測対象となる路面Rに電波反射体である金属板Mを設置し、電波を送受信する。電波は金属板Mによってほぼ全反射されるので、反射法においては、送信アンテナ12から送信された強度Aの電波は受信アンテナ22にて強度Aの電波として受信されると考える。なお、従来は、送信アンテナ12から送信され、受信アンテナ22に直接入力する直接波をノイズとして除去して当該強度Aを測定していた(例えば、特開2004−85564号公報参照)。
【0006】
水膜の塩水濃度等を計測する際には、図1(b)に示すように、路面Rに水膜Wが形成されている状態で送信アンテナ12から強度Aの電波を送信し、受信アンテナ22にて受信した反射波の強度をBとする。この結果得られる反射率はB/Aであり、この反射率B/Aと、予め複数の水膜の厚さ、複数の塩水濃度に対して決定しておいた複数の基準反射率とを比較することによって、実測された反射率B/Aにおける水膜の厚さおよび塩水濃度を決定している。
【0007】
しかし、このような計測系においては送信波の強度Aが正しく得られていることを前提としているので、実際の計測系において送信波の強度Aが変動すると、正確な反射率を得ることが困難になる。この結果、正確に特性値を取得することが困難となっていた。
【0008】
例えば、図1(b)において送信アンテナ12から送信する送信波を強度Aとしているが、図1(b)における測定は図1(a)にて強度Aの電波を計測してから時間が経過した後に行われるので、電波送信に関する回路の不安定性などによって送信波を常時強度Aに安定化させることは困難であり、実際の送信波は強度A2(≠A)である。従って、従来の反射法によって、正確に水膜の厚さや塩水濃度を計測することは困難であった。
本発明は上記した問題点を解決せんとするもので、電波の強度が変動したとしても正確に計測を実施できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明においては、反射波の変動を補正する。従って、実測時の電波の変化を正確に計測することができ、計測対象の特性値を正確に計測することができる。また、本発明においては、送信部から計測対象に向けて電波を送信し、その反射波を受信部で受信することによって電波の変化を計測しているが、この反射波以外にも、上記送信部から受信部に対して直接入射する直接波が存在する。
【0010】
そこで、この直接波の変動を取得すれば、上記送信波の変動を監視することができ、本発明においては当該直接波に基づいて反射波の変動を補正している。従って、反射波の変動を取得するために専用のセンサ等を設ける必要がなく、非常に低コストにて高精度の計測を実施することが可能になる。
【0011】
ここで、電波の送信部と受信部においては、送信部が電波を出力することにより上記直接波と計測対象からの反射波とを上記受信部にて受信することができればよい。従って、本発明においては、反射波を受信するための送信部と受信部とを、直接波を遮らないように配置すればよい。
【0012】
本発明においては、電波の変化に基づいて計測対象の特性値を計測することができればよい。従って、特性値が計測できる限りにおいてその周波数は限定されない。また、電波の変化としては上記反射率であってもよいし、減衰率であってもよい。本発明における特性値としては、特定の層の厚さや特定の層における無機塩の濃度等が挙げられ、電波の変化(例えば反射率Γ)の理論式と実測値とを比較することによって、理論式に含まれる特性値を計測することが可能になる。
【0013】
すなわち、上記反射法のように、反射波の電波を予め計測する場合、この計測と同時に直接波を計測しておく。この直接波は電波の送信強度に比例しているため、この直接波を直接波における基準の電波とし、計測対象を実測したときの直接波と比較すれば、実測した直接波が直接波における基準の電波に対してどのように変動しているかが判明する。
【0014】
そこで、計測対象の特性値を測定する際に得られる直接波の強度が上記直接波の基準の電波の強度に一致するように補正を行うための補正量を特定すれば、この補正量が上記反射波の変動を補正する際の補正量とすることができる。この結果、直接波に基づいて容易に反射波の変動を補正するための補正量を取得することが可能になる。なお、反射波の変動は、上記直接波の基準の電波を測定する際に得られる反射波の強度と上記計測対象の特性値を測定する際に得られる反射波の強度との変動であり、いずれの反射波を測定する際にも、路面においては計測対象と略同じ位置に電波反射体を配設することが好ましい。
【0015】
以上の発明は、上記特性値を計測するための特性値計測装置としても実施可能である。すなわち、計測対象に対して電波を送受信可能な手段および電波の変化を計測する手段を形成し、直接波に基づいて反射波の変動を補正する手段を設ける。そして、補正後の電波の変化に基づいて上記特性値を計測する装置を路面上に設置する。この装置によれば、路面上の水膜の有無や路面に散布した無機塩の濃度等を正確に計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)濃度計測装置の構成:
(2)基準データの算出処理:
(3)濃度の計測処理:
(4)他の実施形態:
【0017】
(1)濃度計測装置の構成:
図2は、本発明の方法を用いた凍結防止剤の濃度計測装置の一実施形態を示す図である。1は電波の送信手段にして、数GHz以下の発振周波数の電界を生成する発振器11と、入力された信号を増幅し数GHz以下の電波として送信する送信アンテナ12とから構成される。
【0018】
2は受信手段にして、路面Rから反射した電波を受信する受信アンテナ22と受信した電波を検波する検波器21とから構成される。なお、送信アンテナ12と受信アンテナ22は、梁柱などの支持手段によって路面に電波が入射角θで送信され、その反射波を受信できるように並べて配置される。
【0019】
3は送信手段1の送信強度に対する受信手段2の受信強度の比を電波の反射率として算出する送受信変化量算出部、4は処理に必要なデータを記憶するメモリである。本実施形態においては、路面上の水膜の無機塩濃度を計測する前に、メモリ4に基準反射波強度データ4aと基準直接波強度データ4bと基準データ4cとが記憶されている。5は送受信変化量算出部3で算出した反射率とメモリ4に記憶した基準データ4cとを比較する凍結防止剤の濃度判別部である。
【0020】
6は通信手段を備え、濃度判別部5で判別された凍結防止剤の濃度を図示しない中央の観測装置に配信する出力部、7は凍結防止剤の濃度を検出するためのプログラムを記憶した制御プログラム記憶部、8は制御プログラム記憶部7のプログラムと図示しないキースイッチにより設定されたサンプリング周期や発振周波数などの設定値に従い上記の1〜6を制御し凍結防止剤の濃度計測を実行するCPUである。
【0021】
次に、本発明の計測原理を説明する。図3(a)のようにアスファルトからなる路面上に水または凍結防止剤を含む水からなる一層の水膜が存在する場合には、水または凍結防止剤を含む水(以下、「水膜」と呼ぶ)とアスファルトによる二層の誘電体の平面波に対する特性インピーダンスを求める数式を含む下記式(1)によって、反射率Γを求めることができる。
【数1】

【0022】
ここで、Zinは水面から水方向を見込んだ場合の合成インピーダンス、Γは反射率であり、θは電波の入射角(路面に対する垂線と電波との角度)である。すなわち、図3(a)に示すように水の特性インピーダンスをZ,アスファルトの特性インピーダンスをZ、水面から水方向を見込んだ場合の合成インピーダンスをZinとすると、その等価回路は図3(b)のように表現され、この等価回路に基づいて上記式(1)により反射率を算出できる。
【0023】
さらに、合成インピーダンスZinは以下の式(2)で与えられる。
【数2】

ここで、式(2)におけるZrはアスファルト界面からアスファルト方向を見込んだ場合の合成インピーダンスである。
【0024】
また、d1は水膜の厚さであり、γ1は水膜の伝搬定数であって、当該伝搬定数γ1および特性インピーダンスZ1は水膜の誘電率ε1および電波の波長λよってそれぞれ式(3)、式(4)で表現される。
【数3】

【数4】

【0025】
以上のように、反射率Γは、上記式(1)に式(2)〜式(4)を代入することによって算出可能である。そこで、水膜の伝搬定数(あるいは誘電率)と厚みおよびアスファルトの伝搬定数(あるいは誘電率)と厚みを予め決定すれば、反射率を算出することができる。そこで、水膜の厚さおよび伝搬定数について複数の値を設定すれば、上記基準データ4cを決定することができる。
【0026】
なお、式(1)を決定する際に、アスファルトの厚さや伝搬定数を利用することは必須ではない。例えば、本実施形態にかかる濃度計測装置を路面上に設置した後に、アスファルト上が乾燥している状態で上記合成インピーダンスZrを実測し、その値を式(2)に代入してもよい。なお、合成インピーダンスZrは、図3(c)の等価回路によって式(5)のように表現され、ここで述べたように式(5)に相当する合成インピーダンスZrを実測してもよいし、式(6)(7)に相当する物性値を測定してこれらの式から式(5)を算出してもよい。
【数5】

【0027】
ここで、d2はアスファルトの厚さであり、γ2はアスファルトの伝搬定数である。また、伝搬定数γおよび特性インピーダンスZはアスファルトの誘電率εおよび電波の波長λによってそれぞれ式(6)、式(7)で表現される。
【数6】

【数7】

【0028】
いずれにしても、上記式(1)に基づいて基準データ4cを決定しておくと、計測対象の特性値、例えば、特定の層の厚さや特性の層における無機塩の濃度を計測することが可能になる。例えば、式(2)〜式(7)の中で、水膜の誘電率ε、アスファルトの厚さd2および誘電率εを予め決定した値とし、これらの値を式(1)に代入した結果と、実測された反射率Γとが等しいとすれば、水膜の厚さを測定することができる。
【0029】
また、アスファルトの厚さd2と誘電率εを予め決定し、これらの値と複数の無機塩濃度における水膜の誘電率εおよび複数の厚さdを式(1)に代入して計算した反射率Γを記憶しておき、この反射率Γと実測された反射率Γとが等しいとすれば、水膜の無機塩濃度および厚さを計測することができる。
【0030】
以上のような原理によれば、理論式に基づく反射率Γと実測された反射率Γとの比較によって計測対象の特性値を計測可能になるが、本実施形態において採用する反射法において実測するのは反射率Γの分子(上記図1(b)のB)に当たる反射波の強度であり、反射波の強度に対する比較の基準は予め実測された反射波の強度(上記図1(a)のA)である。
【0031】
従って、反射法においては反射波の強度が予め計測されている必要があり、この強度を示すデータが予め基準反射波強度データ4aとしてメモリ4に記憶されている。さらに、実測した反射率Γが精度良く算出されるためには反射率Γを実測したときの電波の送信強度が上記基準反射波強度データ4aと一致している必要がある。そこで、本実施形態においては、直接波に基づいて反射波の強度を補正するようになっており、この補正のために直接波の強度(上記図1(a)のC1)が予め計測され、基準直接波強度データ4bとしてメモリ4に記憶されている。
【0032】
以上の構成によれば、上記図1(b)のように反射波の強度Bを実測する際に送信波の強度がAではなくA2に変動していたとしても、このときの直接波の強度C2に基づいて送信波の強度A2を補正することができる。すなわち、直接波の強度C2は送信波の強度A2に比例しているため、直接波の強度C1と実測時における直接波の強度C2との比(C1/C2)を反射波の強度Bに乗じることによって、補正後の反射波の強度B1を取得することができる。本実施形態においては、以上のようにして実測される反射率(B1/A)と理論式にて算出された反射率Γとを比較し、これにより、高精度の計測を可能にしている。
【0033】
(2)基準データの算出処理:
次に、本発明における基準反射波強度データ4aと基準直接波強度データ4bと基準データ4cとの取得処理を詳細に説明する。図4は、これらのデータを取得する処理を示すフローチャートである。この処理は、濃度計測装置を作成後、道路に設置する前に工場で実施してもよいし、道路に設置した後、最初の濃度計測の前に実施してもよい。このフローチャートに示す処理は、上記制御プログラム記憶部7に記憶されたプログラムに基づいてCPU8が処理を実施する。
【0034】
この処理は、図1(a)に示すように路面上に電波を略全反射する金属板Mが埋設されている状態で実施され、まず、CPU8は、電波を送信する(ステップS100)。例えば0.1〜1GHz近傍の予め決められた発振周波数において、送信手段1を介して送信アンテナ12から電波を送信する。
【0035】
次に、CPU8は路面Rから反射した電波を受信アンテナ22で受信し(ステップS110)、送信した周波数と同じ周波数の電波を検波器21で検波し、検波された電波から反射波を抽出してその受信強度Aを取得する(ステップS120)。取得したデータは基準反射波強度データ4aとしてメモリ4に記憶される(ステップS130)。すなわち、電波の伝搬速度と反射波における伝搬経路から電波を送信してから反射波を受信するまでの時間間隔が算出可能であるので、電波を送信後、この時間間隔が経過したときに受信した電波を反射波成分とする。
【0036】
次に、CPU8は、上記検波された電波から直接波を抽出してその強度C1を取得し(ステップS140)、取得したデータを基準直接波強度データ4bとしてメモリ4に記憶する(ステップS150)。ここでは、電波の伝搬速度と直接波における伝搬経路から電波を送信してから直接波を受信するまでの時間間隔を算出しておき、電波を送信した後、この時間間隔が経過したときに受信した電波を直接波成分としている。
なお、上記説明では反射波の強度の取得(ステップS120)と記憶(ステップS130)の後、直接波の強度の取得(ステップS140)と記憶(ステップS150)を実行したが、受信アンテナ22で受信される順序で直接波と反射波の取得と記憶を行ってもよいことは勿論である。
【0037】
次に、CPU8は基準データ4cを生成し、メモリ4に記憶する(ステップS160)。ここでは、アスファルトの合成インピーダンスZrを既値とし、水膜の厚さdおよび誘電率εを予め決定した値として上記式(2)〜式(4)に基づいて式(1)を算出する。このとき、水膜については複数の厚さおよび誘電率について式(1)の反射率Γが算出され、各厚さおよび誘電率について反射率Γが算出される。算出された各反射率Γは、当該反射率Γを算出する際に使用された水膜の厚さおよび誘電率が対応付けられて記憶される。すなわち、誘電率と無機塩濃度とは一対一に対応しているので、反射率Γによって水膜の厚さと無機塩の濃度を特定することが可能である。
【0038】
(3)濃度の計測処理:
次に、本発明における無機塩濃度の計測処理を説明する。図5は、当該無機塩濃度の計測処理を示すフローチャートである。この処理は、上記基準反射波強度データ4aと基準直接波強度データ4bと基準データ4cとを作成した後に実施されるようになっており、制御プログラム記憶部7に記憶されたプログラムに基づいてCPU8が処理を実施する。
【0039】
CPU8が処理を開始すると、まず、CPU8は、上記ステップS100,S110と同様にして電波の送受信を行う(ステップS200、S205)。但し、この処理は計測対象の特性値を計測するために実施されるので、図1(b)に示すように、濃度計測装置を路面上に設置した後、路面R上に水膜W等が形成され得る状態で実施される。
【0040】
次に、CPU8は、ステップS205にて受信され電波に基づいて直接波(強度C2)と反射波(強度B)とを取得する(ステップS210)。すなわち、送信した周波数と同じ周波数の電波を検波器21で検波し、検波された電波から反射波および直接波を抽出してそれぞれの受信強度を取得する。
【0041】
次に、CPU8は、上記メモリ4から基準直接波強度データ4bを抽出し、上記ステップS210にて取得した直接波の強度を利用して補正量(C/C2)を取得する(ステップS215)。この補正量は、反射波の強度(A)を測定する際に取得した直接波の強度(C)と実測した直接波の強度(C2)との比であるため、この補正量を実測した反射波の強度(B)に乗じることによって、実測時の送信強度の変動を補正した反射波強度(B)を得ることができる。
【0042】
そこで、CPU8は、反射強度の補正値(B1=B・C/C2)を算出する(ステップS220)。そして、CPU8は送受信変化量算出部3にて反射率(B/A)を算出する(ステップS225)。反射率を取得したら、当該実測した反射率と基準データとを比較するため、CPU8はメモリ4から基準データ4cを取得する(ステップS230)。
【0043】
次に、CPU8は実測した反射率とすべての基準データ4cとを比較して(ステップS235)、実測した反射率が基準データ4cのいずれかに一致するか否かを判別する(ステップS240)。むろん、ここで一致するか否かを判別する際には、両者が厳密に等しいことを要求することが必須というわけではなく、基準データ4cと実測した反射率との差分が閾値以下であるときに一致すると判別する構成としてもよい。
【0044】
ステップS240にて、実測した反射率が基準データ4cのいずれかに一致すると判別されたときには、その基準データ4cに対応付けられている水膜の厚さおよび無機塩濃度を取得し、これらを示すデータを出力部6から中央の観測装置に通報する(ステップS245)。
【0045】
ステップS240にて、実測した反射率が基準データ4cのいずれにも一致しない場合、CPU8は通報を行わない。最後に、計測と同時に計時を開始したサンプリングタイマ(例えば、3分周期)がタイムアップしたかを判定(ステップS250)し、タイムアップに達した場合には、上記ステップS200以降の処理を繰り返す。
【0046】
以上のような計測において、実測した反射率(B/A)は、直接波に基づいて反射波の変動が補正されている。従って、送信強度が変動したとしても、基準データ4cと比較し得る正確な反射率に基づいて計測を実施することが可能であり、高精度に計測値を取得することが可能である。また、この補正に際して直接波を参照しているので、補正のためにセンサ等を追加する必要はない。
【0047】
すなわち、送信アンテナ12と受信アンテナ22とは反射波を測定するために必須の構成であり、電波の測定に際してこれ以上の構成を追加することなく直接波を取得することができる。また、反射波を測定することに着目した場合、従来、この直接波はノイズとされていたが、本発明では、この直接波を使用して反射波の変動を補正している。従って、本発明では、従来ノイズとして除去されていた成分を積極的に利用して反射波の変動を補正していることになり、この結果、従来は得られなかった極めて高い精度での測定を実施可能である。
【0048】
図6〜図8は、本発明による補正例を説明する説明図である。これらの図において、横軸は時間、縦軸は電波の強度であり、図6および図7は補正前の電波の強度、図8は補正後の電波の強度を示している。また、図6は直接波と反射波の双方を一つのグラフ、図7,図8は直接波と反射波とをそれぞれ別のグラフで示しており、図6の(a)および図7(a),図8(a)は直接波の強度、図6(b)および図7(b),図8(b)は反射波の強度である。従って、受信アンテナ22においては、図7(a)に示す電波を受信した後に図7(b)に示す電波を受信し、あるいは図8(a)に示す電波を受信した後に図8(b)に示す電波を受信していることになる。
【0049】
図6においては、ある計測対象に対して電波を送信したときの直接波と反射波を異なる日時(図6における日付1,2)にて測定した結果と、基準データを測定したときの基準直接波強度および基準反射波強度(図6における基準強度)とを示している。図7においては、これらを直接波と反射波とについて抜き出したものであり、図7(a)の直接波については日付1,2における強度および基準直接波強度(C)を示している。また、図7(b)の反射波については日付1,2における強度を示している。この図に示すように、濃度計測装置および計測対象が同じであったとしても、日付によって電波の強度は変動している。すなわち、送信手段1における電圧の変動等の影響を受け、受信手段2で受信する電波は変動する。
【0050】
図8においては、上記補正量(C/C2)を日付1,2のそれぞれにおける直接波と反射波とに乗じて得られる補正後の強度を示しており、図8(a)に示すように、補正後の直接波の強度は基準直接波強度とほぼ一致している。また、図8(b)に示すように、補正後の反射波の強度は日付1,2で一致しており、同じ計測対象についての反射波が同じ強度として取得されることがわかる。従って、本発明によれば、極めて高精度の計測対象の特性値を計測することができる。
【0051】
なお、上記図7、図8に示すように、直接波や反射波の強度は時間に対してある程度広がりを持つ。そこで、補正量C/C2の決定に際しては、実測した直接波に対して補正量C/C2を乗じた強度分布と直接波の強度分布とで差分を取り、その差分が最小となるように上記補正量C/C2を算出すればよい。むろん、ある時間における強度の比によって補正量を算出してもよいし、複数の代表的な時間における強度の比に基づいて補正量を算出しても良く、種々の構成を採用可能である。
【0052】
(4)他の実施形態:
本発明においては、直接波に基づいて反射波の変動を補正することができる限りにおいて、他にも種々の構成が採用可能である。例えば、電波の変化を示す値としては、上記反射率のみならず、電波の受信強度(=送信強度×反射率)、電波の吸収・透過量(20log10(1−反射率) )など、種々の値を採用可能である。
【0053】
さらに、本発明においては、路面上に形成する層の特性値を計測することができればよいので、その下の層がアスファルトであることは必須ではないし、アスファルトの上部や内部に金属板や金属メッシュ、炭素繊維などの電波反射体が埋設してある状態であっても、上記実施形態と同様にしてその上部の水膜における特性値を正確に計測することができる。
【0054】
さらに、水膜の厚さを計測対象の特性値とする構成を採用してもよい。この場合、予めメモリ4に記憶する基準データ4cは、複数の無機塩濃度における水膜の誘電率である。この状態において、上記式(2)に含まれる厚さdのみが未定であるため、上記実施形態と同様にして反射率Γを実測するとともに補正し、この実測値が式(1)に式(2)を代入したものと等しいとおけば、未定の値は厚さdのみになる。従って、この式を解くことにより、正確に水膜の厚さを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】反射法の説明図である。
【図2】濃度計測装置の一例を示すブロック図である。
【図3】計測原理を説明するための説明図である。
【図4】予め用意するデータの取得処理を示すフローチャートである。
【図5】無機塩濃度の計測処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明による補正例を説明する説明図である。
【図7】本発明による補正例を説明する説明図である。
【図8】本発明による補正例を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1…送信手段
2…受信手段
3…送受信変化量算出部
4…メモリ
4a…基準反射波強度データ
4b…基準直接波強度データ
4c…基準データ
5…濃度判別部
6…出力部
7…制御プログラム記憶部
8…CPU
11…発振器
12…送信アンテナ
21…検波器
22…受信アンテナ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波の送信部から電波を送信し、電波の受信部にてその反射波を受信し、反射波の変化に基づいて計測対象の特性値を計測する特性値計測方法であって、
計測対象の特性値を計測する際に上記送信部から受信部に直接入射する直接波の変動に基づいて上記反射波の変動を補正して、上記計測対象の特性値を計測することを特徴とする特性値計測方法。
【請求項2】
上記反射波は、上記計測対象と略同じ位置に配置された電波反射体に対して電波を送信し、受信した反射波であることを特徴とする上記請求項1に記載の特性値計測方法。
【請求項3】
電波を送信する送信手段と、
電波を受信する受信手段と、
上記送信手段から計測対象に向けて送信した送信波の反射波を上記受信手段で受信し、反射波の変化を計測する送受信変化量算出手段と、
上記送信手段から送信した電波が上記受信手段に対して直接入射する直接波の変動に基づいて上記反射波の変動を補正する補正手段と、
当該補正後の反射波の変化に基づいて上記計測対象の特性値を計測する特性値計測手段と、
を具備することを特徴とする特性値計測装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−57362(P2007−57362A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242623(P2005−242623)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000243881)名古屋電機工業株式会社 (107)
【Fターム(参考)】