説明

特性勾配を有する超硬合金型の高密度材料のブロックを含む部分を製造するための方法、及び得られた部分

バインダー相中に分散させた同じ又は異なるタイプの硬質粒子で構成され、上記バインダー相が液体である温度から始まる固相線温度Tを有する高密度材料のブロック(1)を含む部分を製造するための方法であって、高密度材料の上記ブロック(1)の表面の少なくとも一部分に、全体を最低反応温度T超にしたときに上記高密度材料と化学的に反応可能な材料で構成された活性被膜(2)を被着させ、上記活性被膜(2)をコーティングした上記ブロック(1)を、加熱、次いで上記最低反応温度T以上の保持温度Tまでの時間tの間の保持、続いて大気温度までの冷却を含む熱処理にかけることを特徴とし、外部からのバインダー相を加えることなく、したがって追加のバインダー相中の上記ブロックの全体的な強化を起こさずに実施され、ミリメートルの距離にわたる上記ブロック内の上記バインダー相の変形形態をもたらす、方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
熱化学処理によってバインダー相中に分散させた硬質粒子で構成された高密度材料のブロックを含み、特性勾配を有する部分を製造するための方法である。
【0002】
多くの部分、特に穴あけ工具又は機械加工工具の刃先は、金属バインダー相中に分散させた炭化物粒子で構成された超硬合金型の材料で作られたブロックで構成されている。極めて硬く、したがって耐摩耗性があるこれらの材料は、脆いこともある。また、材料の破壊靭性を強化するため、外面若しくはこの表面の少なくとも一部分が極めて硬く、且つ内部がより堅いブロック、又は外面若しくは少なくとも一部分がより堅く、且つ内部がより硬いブロックをもたらす、硬度がブロックの初めの硬度と異なる新しい相を形成して、又は形成することなく、延性相中の組成勾配の範囲内で導入するための処理を材料に施す。
【0003】
それには、粉末冶金によって実施でき、且つブロックの中心部の延性を改善するためにバインダー相を浸潤させた、気孔率勾配を有する、高密度ではない超硬合金のブロックを製造することができる。この方法は、特にWC−Co型の系にはあまり適合しない。なぜならば、この方法は、浸潤前に存在した炭化物の骨格構造の部分的な破壊をもたらし、したがって、刃先の所望の特性が得られないからである。
【0004】
それぞれの層が異なる組成を有する多層部分を含む固相内に、自然焼結によって組成勾配をもつ超硬合金を達成することも提案されている。しかしながら、この方法は、材料を十分に緻密化させることができず、費用のかかる熱間等方圧圧縮(hot isotactic compaction)処理を続いて行わなければならない。さらに、組成勾配をもつ超硬合金の調製は複雑である。その理由は、互いに重ね合わさった(nest)連続する基本層を実現する必要があるからである。最後に、この方法は、連続的な組成勾配を生成しないという欠点がある。
【0005】
液相内の自然焼結によってかかる材料を達成することも提案されており、これは極めて迅速に、且つ単一ステップで、完全に緻密な組成勾配を有する材料を得ることを可能にする。しかし、この方法は、浸潤及び膨潤現象の複合効果の下、厚さが小さい層の間の液体が移動するため、かなり実質的に組成勾配が少なくなる欠点がある。さらに、全く予期に反して、組成勾配は、液体状態に保つ期間が臨界期間よりも短いままである場合、不連続なままであり、この臨界期間を超えると超硬合金の完全な均質化が認められるが、材料を緻密化するのに不十分である。
【0006】
その上、超硬合金の表面に窒化物、炭窒化物、酸化物又はホウ化物でできた硬質被膜を被着させることによって、切削工具の使用性能を改善することが提案されている。このような方法は、例えば、米国特許第4548786号明細書又は同第4610931号明細書に記載されている。しかし、これらの方法は、超硬合金の研磨によって耐摩耗性を改善するだけであり、この改善は小さい厚さ(数ミクロン)に対してだけであるという欠点がある。
【0007】
炭素が多量な気相を炭素に関して準化学量論的な高密度超硬合金と接触させることによって、WC−Co型の超硬合金の表面の耐摩耗性並びに耐衝撃性を改善することも提案されている。温度の影響下では、気相の炭素が準化学量論的な超硬合金内に拡散し、且つη−COC相と反応してコバルトの放出をもたらし、このコバルトは、超硬合金の外面、すなわち炭素の前面の拡散の背面に向かって移動する。米国特許第4743515号明細書に記載されているこの方法は、1又は2mmにわたってコバルトが多量なバインダー相勾配をもたらすが、処理した部分の中心部の脆弱性を保ったままであるという欠点がある。
【0008】
上述の方法の種々の欠点を改善するために、超硬合金中に侵入(又は移動)可能な液相を用いて、外部から膨潤によってこれらの超硬合金を強化することによって、ミリメートルの距離にわたってバインダー相中に組成勾配を有する超硬合金のブロックを製造することが提案されている。この膨潤現象は、固体/液体系の組成に近い組成の外部液体の移動に対応しており、バインダー相の体積分率並びに/又は固体粒子の大きさ及び形態の局所的不均衡によってもたらされた移動の圧力の単独の推進力下で完全に緻密であると考えられている。この現象は、液体の吸収によりその固体粒子の形態を適合させる能力を有しており、したがってエネルギー的に安定にし、すなわち、溶解と再沈殿現象によってこれらの粒子の大きさを必ずしも増大させることなく、硬質粒子の形態の変更によってオストワルド熱成(Ostwald ripening)を有する、凝縮相(固体及び液体)で構成された任意の系に関する。
【0009】
穴あけ工具又は切削工具用の刃先を製造するためのこの方法の使用は、強化させるよう意図されている焼結高密度ブロックと、膨潤現象によってバインダー相を供給するよう意図されている膨潤材料が加圧された粉末ペレットとのより重要なアセンブリの達成、並びに十分な熱処理を実施するための全体の炉内への配置を必要とする。この方法には、所望の組成勾配に関して必要な大きさにしなければならない膨潤材料を要求する欠点があり、この欠点はこの方法を複雑にし、ほとんどの場合膨潤表面の修正を要する。
【0010】
極めて意外な方法で、本発明者らは、高密度超硬合金ブロック内にミリメートルの距離にわたってバインダー相中に濃度勾配をもたらすことが可能だったことを発見し、唯一の条件は、適合被膜を高密度超硬合金ブロックの表面のすべて又は一部分に被着させ、且つ十分な熱処理を施すことであり、熱処理の温度は、バインダー相の液体状態への移行を可能にする温度(考慮中の超硬合金の固相線)と少なくとも同じでなければならない。
【0011】
被膜を構成する材料は、不安定化されており(又は分離されており)、材料を構成する1つ又は複数の化学元素は、拡散し、且つブロックの材料と反応し、又は反応せず、ブロック中のバインダー相勾配の生成及び/又は適用した熱処理の持続期間に応じた、おおよそ実質的な距離にわたって硬度がブロックの初めの硬度と異なる相の形成をもたらす。ブロック中にそのように生成した勾配の形態、すなわち、被膜を被着させた表面の硬化、中心部の軟化又は被膜を適用した表面の逆の軟化、及び中心部の硬化は、使用した被膜の性質及び厚さ、コーティングした表面の割合及び熱処理に特に依存する。熱処理のパラメーターは、特に所望の勾配の形態に応じて当業者によって決定することができる。
【0012】
これらの発見を踏まえて、熱処理を実施する前にサーメットの表面上に被着させ得る材料を、以下の種類に分けることができる。すなわち、
高密度ブロックを含む不活性な材料:上記材料は、高密度ブロック中にマクロスケールでバインダー相の任意の局所的な変形形態を生まない材料を必要とする;
高密度ブロックを含む活性な材料:上記材料は、高密度ブロック中にマクロスケールでバインダー相の局所的な変形形態を生む材料を必要とする。このように、「活性な」という用語は、この方法に関して考えるべきであり、すなわち高密度ブロック中のバインダー相の局所的な変形形態をもたらすことである。
【0013】
活性な材料のうち、以下を区別することができる:
追加のバインダー相を供給できるもの、及び
追加のバインダー相を全く供給できないもの。
【0014】
以下も区別する:
高密度ブロックを含む、活性な及び非反応性の(又は化学的に反応しにくい)材料:上記材料の化学元素は拡散するが、固相を全く形成しない高密度サーメットの2相(固体又は液体)のうちの1相と反応しないものである;及び
高密度ブロックを含む活性な及び化学的に反応性の材料:少なくとも1つの固相を形成する高密度サーメットの固相又は液相を介して、上記材料のいくつかの化学元素は拡散し、反応するものである。
【0015】
したがって、本発明は、目的に対し、バインダー相中に分散させた同じ性質又は異なる性質の硬質粒子で構成され、上記バインダー相が液体である温度から始まる固相線温度Tを有する高密度材料のブロックを含む部分を製造するための方法であって、高密度材料のブロックの表面の少なくとも一部分に、全体を最低反応温度T超にしたときに高密度材料と化学的に反応可能であるが任意の追加のバインダー相を与えない材料で構成された活性被膜を被着させること、及び活性被膜をコーティングしたブロックを、加熱、次いで最低反応温度T以上の保持温度Tで時間tの間の保持、続いて大気温度までの冷却を含む熱処理にかけることを特徴とする方法を提供する。この方法は、外部からのバインダー相を加えることなく、したがって追加のバインダー相のブロックの全体的な強化(enrichment)を生じさせずに作製される、ミリメートルの距離にわたるブロック内のバインダー相の変形形態をもたらす。
【0016】
保持温度Tは、高密度材料の固相線温度T以上であることがより好ましい。
【0017】
保持温度Tは、T+200℃以下であることがより好ましい。
【0018】
保持時間tは、1分〜10分であることがより好ましい。
【0019】
活性被膜は、ブロックの表面の一部分にだけ被着させることができる。
【0020】
活性被膜は、ブロックの表面全体に被着させることができる。
【0021】
高密度材料は、例えば、金属マトリックス中に分散させた金属炭化物粒子で構成された超硬合金である。
【0022】
超硬合金は、さらに、大きさが直径1mm以下の天然又は合成ダイヤモンド粒子を含有していてもよい。
【0023】
超硬合金は、例えば、WC−M型であり、Mは、Co、Ni及びFeの中から選ばれる1種又は複数種の金属であり、バインダー相中のこれらの金属の含有率の合計は重量で、50%よりも高い。
【0024】
ブロックの高密度材料と反応できる被膜材料は、例えば、窒化物、ホウ化物、炭化物、酸化物、水素化物、炭窒化物、ホウ炭化物、グラファイト型の化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物で構成されている。この材料は、これらの種々の化合物の任意の混合物から構成され得る。
【0025】
被膜は、PVD(物理蒸着法)若しくはCVD(化学蒸着)型の方法、又は噴霧による若しくはブラシを用いた若しくは浸漬による若しくは連続撮影による方法によって被着させることができる。
【0026】
高密度材料のブロックは、例えば、刃先、又は岩石若しくは金属用の穴あけ、破壊若しくは機械加工工具の刃先のブロック支持体である。
【0027】
さらに、PDC(多結晶ダイヤモンド成形体)又はTSP(熱安定多結晶ダイヤモンド)型のダイヤモンドで被覆されたプレートは、ブロック支持体の表面上に被着させることができる。
【0028】
ダイヤモンドで被覆されたプレートは、ろう付によって、ブロックの処理後にブロックに加えることができる。
【0029】
このとき、この加熱法は穴あけ工具若しくは切削工具用の刃先として、又は穴あけ工具若しくは切削工具の刃先用のブロック支持体としての使用に適合した特性の勾配を有する超硬合金のブロックを非常に簡単な方法で達成する利点がある。
【0030】
本発明はさらに、本発明に基づく方法によって得ることができるバインダー相中に分散させた硬質粒子で構成されたブロックを含み、且つ0.5mm超、好ましくは1mm超、より好ましくは3mm超の長さにわたってバインダー相中の含有率の連続的な勾配を有し、最も多量な領域と最も少量な領域の間のバインダー相の含有率の差が体積で1%超、好ましくは2%超、より好ましくは5%超である、岩石を削るための工具用の刃先に関する。
【0031】
刃先は、厚さが0.4mm〜5mmであってもよい、PDC又はTSP型の、追加のダイヤモンドで被覆されたプレートを含むことができる。
【0032】
本発明はさらに、少なくとも1種の刃先又は超硬合金と天然若しくは合成ダイヤモンド粒子(直径1mmに達し得る大きさを有する)との混合物で構成された含浸ブレードを含む、岩石を削るための工具に関する。
【0033】
本発明は次に、添付図に関してより詳細だが制限しない形で説明するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】被膜で完全に被覆された高密度超硬合金のブロック及び熱処理炉内に配置した全体の断面図である。
【図2】外面から始まって超硬合金の内部に向かうブロック内部のバインダー相中の濃度の分布と、ブロックの初めの硬度と異なる硬度をもつ固相の形成又は未形成とを示す、高密度超硬合金の処理したブロックの断面図である。
【図3】下面がコーティングされていない、本発明に従って高密度処理した高密度超硬合金のブロック支持体に被着させたミリメートル厚のダイヤモンドで被覆されたプレートで構成された穴あけ工具用の刃先の概略断面図である。
【図4】コーティングした超硬合金の高密度ブロックの熱処理サイクルの時間に基づく温度の変化を示す図である。
【図5】上面及び側面を窒化ホウ素でコーティングした超硬合金のブロックの第1の実施例の断面概略図である。
【図6】処理後に中心部より外面のバインダー相がより減少している、図5のブロックから得たバインダー相中の濃度勾配のドームとしての形態の概略図である。
【図7】上面及び側面の一部分だけを窒化ホウ素でコーティングしたブロックの第2の実施形態を示す図である。
【図8】第2の実施形態で得られたバインダー相中の濃度勾配を示す図である。
【図9】上面及び側面をアルミナでコーティングしたブロックの第3の実施形態を示す図である。
【図10】処理後に中心部より外面のバインダー相がより多量な、第3の実施形態で得られたバインダー相中の濃度勾配を示す図である。
【0035】
以下において、寸法が数ミリメートル又は数十ミリメートルの長さの、一般に平行六面体形状又は円柱形状の、穴あけ工具用又はより一般に切削工具用の刃先を特に製造するためのブロックを考慮する。粉末冶金によって得られたこれらのブロックは、一方では金属炭化物、特に炭化タングステンなどの硬質粒子を含み、他方では主に金属又は合金で構成されたバインダー相を含む構造を有する高密度材料で構成されている。炭化物と接触すると、このバインダー相は、適合温度で、その融解温度が炭化物の融解温度未満であり、金属又は合金の融解温度未満である共晶を形成し得る。バインダー相を構成するこの金属又はこの合金は、例えばコバルトであるが、鉄又はニッケル又はこれらの金属の混合物であってもよく、これらの元素はバインダー相の少なくとも50重量%であることが典型である。
【0036】
このバインダー相は、合金添加物を含有していてもよく、その含有率の合計は、高くて15重量%に達することができるが、一般に5%を超えない。これらの合金添加物は、導電性を改善するために、銅、又は炭化物によって及びバインダー相によって構成された系に関して表面活性効果を有するケイ素とすることができる。合金添加物は、炭化物形成元素であってもよく、上記炭化物形成元素は混合炭化物又は炭化タングステン以外のM型の炭化物の形成を可能にする。これらの元素は、特にマンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル、チタン、ジルコニウム及びハフニウムである。
【0037】
さらに、バインダー相は、硬質粒子の形状を変える合金添加物及び/又は成長を妨げる合金添加物、及び当業者に既知の合金添加物を含むことができる。
【0038】
最後に、これらの材料の化学成分には、合成の方法の結果として生じる不可避の不純物が含まれる。
【0039】
いくつかの用途のためには、刃先の耐摩耗性を強化するため、直径が1mmに達し得る天然又は合成ダイヤモンド粒子を加えることができる。これらのダイヤモンド粒子は、含浸という名前で知られている焼結によるブロックの製造に使用されている粉末混合物に加えられる。
【0040】
本発明によれば、特性勾配をもつ超硬合金のブロックを達成するためには、高密度材料のブロック1を、高密度材料のバインダー相及び/又は炭化物相と化学的に反応し得る材料の、厚さが一般に約50μm〜2mmの層2でコーティングする。このコーティングは、この被膜材料を気体形状で加える場合、噴霧、PVD(物理蒸着法)又はCVD(化学蒸着)被着によって実施され、或いは被膜材料を液体形状で加える場合、ブラシを用いて、浸漬又は連続撮影によって実施される。次いで全体を炉4の炉床3の上に置き、全体を保持温度Tにし、全体をこの温度で時間tの間保持して、外側の被膜又はその構成元素の1つと高密度材料との相互作用を確実なものとし、ブロック内部の特性勾配の形成をもたらすようにする。それには、保持温度Tは、外側の被膜若しくはその元素の1つが反応(特に固相を形成)し始め、又は反応しないで実質的にブロック内部に拡散する(固相を形成しないが高密度ブロックのバインダー相の組成の変化を局所的にもたらし得る)温度より高い温度である最低反応温度T以上でなければならない。この反応温度Tは、ブロックを構成する超硬合金の固相線温度T以上でなければならない。この固相線温度は、超硬合金のバインダー相が液体状態である最低温度である。この条件が望ましく、したがって被膜又はその構成元素の1つは、急速に拡散でき、次いで処理中のブロックの構成成分(固体粒子又は液相)を考慮した被膜に従って反応し、又は反応しない。被膜が、ホウ素などのメタロイド又は任意の他のメタロイド又は炭素、窒素などの非金属又は任意の他の非金属を含む化合物から成る場合、反応温度Tは、超硬合金の固相線温度Tより必ずしも高くない化合物の不安定化温度又は解離温度T以上である。反応温度T、不安定化温度T及び固相線温度Tは、被膜を構成する材料及びブロックを構成する材料の性質によって決まる。当業者は、これらの温度をどのようにして決定するか知っている。
【0041】
先に記載のとおり、上記で定義した反応温度Tは固相線温度T以上であり、それにより十分な拡散速度を得るために拡散が液体状態のバインダー相中で生じる。
【0042】
しかし、不安定化温度又は解離温度Tが超硬合金の固相線温度T未満である場合、被膜材料の1つ又は複数の構成成分が固体状態のブロックのバインダー相中に拡散し始め、おそらく反応し得ることを、当業者は容易に理解するはずである。
【0043】
保持温度Tは、高すぎてはいけない。より好ましくは、T+200℃未満、好ましくは、T+100℃未満、より好ましくは、T+50℃未満のままでなければならない。保持時間tは、所望の勾配の形態及び大きさに適合しなければならず、経験から推定される。一般に数分間の長さである。
【0044】
不安定化若しくは解離できる被膜材料、及び/又は処理すべき高密度ブロックを構成する材料と反応する被膜材料は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化チタンなどの金属若しくはメタロイド窒化物、又はホウ化チタンなどのホウ化物、炭化ホウ素、炭化チタンなどの金属若しくはメタロイド炭化物、又は水素化チタンなどの水素化物又はグラファイト又はアルミナなどの耐火性酸化物又は炭窒化物又は金属ホウ炭化物又はかかる材料の混合物である。
【0045】
先に記載されたとおり、処理すべきブロックのコーティングを実施するために使用した材料は、活性でなければならず、且つ、ある特定の場合には、固相線温度T超でもよく反応しなければならないが、この温度未満では安定のまま、すなわち解離しないことがより好ましい。
【0046】
被膜材料の性質及びブロックを構成している材料の性質に応じて、得られた特性勾配は、中心部に対するブロックの表面の相対的な硬化の結果として、又は、反対に、軟化の結果として生じ得ることに留意されたい。
【0047】
熱処理には、図4に示すように、温度を保持温度Tまで上げ、次いでこの温度で保持時間t保持し、大気温度まで冷却することが含まれる。
【0048】
保持時間t及び保持温度Tは、処理すべきブロック及び得ることが望まれる特性勾配の大きさに応じて適合される。
【0049】
熱処理は、抵抗炉、又は誘導炉、又は高周波オーブンで保護雰囲気下又は真空中で実施することができる。保護雰囲気は、例えば、アルゴン、又はアルゴンと水素との混合物であるが、原則としてアルゴン、窒素、水素化アルゴン、水素化窒素、水素などの任意の中性雰囲気、又は場合によっては低真空若しくは高真空である。
【0050】
図2に示すとおり、そのように処理したブロックは、組成、特にバインダー相中の含有率が、外部から内部に異なる。この図では、バインダー相中の等濃度曲線Cが示されており、最も外側の領域10がバインダー相中で最も少なく、その結果最も硬く、中間領域11は中間の濃度であり、バインダー相中の最も多量な領域12は最も硬くなく、その結果最も堅い。この図2に示すとおり、バインダー相中の含有率の変形形態が数ミリメートルにわたって実施されていることがわかる。したがって、超硬合金の1つの構成成分を被着させた外側の層の1つ又は複数の構成元素の作用によって、内側の領域を強化するために外側の領域を減少させることによる外側の領域から内側の領域へのバインダー相液の移行(又は移動)現象を誘導できると思われる。
【0051】
もちろん、所与の超硬合金及び所与の被膜材料では、バインダー相の含有率の変形形態によって影響を受けた領域の範囲は、保持時間tの最高保持温度T、並びに被膜材料の厚さに依存する。被膜の層と同じ厚さのためには、温度Tがより高く、時間tがより長いほど、影響を受ける領域がより広がる、すなわち、ブロックが深さ方向により影響を受ける。
【0052】
当業者は、処理条件を所望の結果にどのように適合させるかを知っている。上記のようなブロックは、その表面すべてが活性材料で覆われていることにも注意されたい。しかし、活性材料は、ブロックの外部表面の一部分にしか被着させられず、したがって被膜下に位置するブロックの領域だけで硬化又は軟化がもたらされ、したがってコーティングされていないブロックの外部表面に広げられる中心部が硬化又は軟化した領域をそれぞれ有する。
【0053】
ミリメートルの距離にわたってブロック内のバインダー相を分布させるこの変形形態は、外部からのバインダー相を加えることなく、実施されることに注意されたい。しかし、バインダー相が被膜の1つ又は複数の元素と結合して固相を形成することもあり、したがってブロックのバインダー相中の含有率を減少させるので、処理したブロックの全バインダー相中の含有率が同一のままであるわけではない。
【0054】
数百ビッカースに達し得る硬度の変形形態は、0.5mm超の距離にわたって実施することができ、ブロック全体にわたって広げることができる。
【0055】
一例として、真空中及び水素化アルゴン下で2種類の異なるコーティング(窒化ホウ素、アルミナ)を用いる同じ熱サイクル(T=1350℃、t=5分)によって、同じ材料、利用可能な13重量%のコバルトを含有するWC−Co(HV2kg/10S=1220)で構成されたブロックの3つの処理を実施する。
【0056】
図5で10の印を付けた第1のブロックは、窒化ホウ素BNの層11を噴霧によってコーティングして、ブロックの上面及び側面を覆い、次いで真空中で処理した。
【0057】
図6に概略図で示したように、得られたバインダー相中の濃度勾配は、領域12のようなドームの形態を有している。コーティングした表面の下に位置する領域12は、ブロックの中心部に位置する領域13よりも約130HV大きい硬度を有している。バインダー相の移動の方向は、矢印によって、及び等濃度の増大する方向(C1<C2<C3<C4)によって示されている。
【0058】
図7で20の印を付けた第2のブロックも、窒化ホウ素BNの層21でコーティングされているが、後者は、ブロックの2分の1にだけ被着させた。さらに水素化アルゴンの雰囲気下で、ブロックを処理した。
【0059】
図8に示すとおり、得られたバインダー相の濃度勾配は、120HVの硬度の大きさをもたらし、被膜の下に位置する領域22だけが硬化し、残り23は硬化していない。この場合もやはり、バインダー相の移行の方向は、矢印によって、及び等濃度の増大する方向(C1<C2<C3)によって示されている。
【0060】
図9で30の印を付けた第3のブロックは、ブラシを用いてブロックの上面及び側面上に液体ペーストの形態で被着させて真空中で処理した酸化アルミニウムAlの層31でコーティングされた。図10に示すとおり、バインダー相中の濃度勾配は、ドームの形で得られたが、第1のブロックで得られたものとは反対に、表面に近い領域32は、それらの硬度が中心部の領域33の硬度よりも150HV小さいように軟化された。バインダー相の移動の方向は、矢印によって、及び等濃度の増大する方向(C1<C2<C3<C4)によって示されており、その方向は、上記の2例に関して逆である。
【0061】
そのように、考慮中のWC−Co材料の場合は、窒化ホウ素が被膜の層に近いブロックの領域の軟化を可能にし、一方アルミナが硬化を可能にする。
【0062】
他方では、処理を実施するために使用した炉の雰囲気(真空又は水素化アルゴン)は、結果に影響を与えない。
【0063】
先に示したように、そのように処理したブロックは、穴あけ工具又は切削工具の刃先を構成でき、数ミリメートル又はさらに大きい寸法であってよい。それは、寸法が数センチメートルで、且つこの方法によって硬化できる切刃(cutting blades)を達成すると考えることができるからである。
【0064】
図3に示すように、岩石を削るための工具用又は耐火材料若しくは機械加工のための切削工具用の刃先も達成され、該刃先は本発明に基づく方法を用いて達成した超硬合金中のブロック支持体20で構成されており、その外側面は硬く、且つ中心部がより堅く(C1<C2<C3<C4)、且つその内側面を熱処理前にコーティングしておらず、且つその処理後の上面に、PDC(多結晶ダイヤモンド成形体)型又はTSP(熱安定多結晶ダイヤモンド)型のHPHT(高圧−高温)法によって厚さが0.4mm超の天然又は合成ダイヤモンドで被覆されたプレート21を加えている。
【0065】
特に、本発明に従って処理したブロック支持体20は、例えば、「LS Bond」として知られ、且つ米国特許第4225322号明細書及び米国特許第5111895号明細書に記載されている方法に従って、ろう付によってHPHT法の後に構築できたものであるが、この操作を行わなくともバインダー相中の濃度の勾配のブロックの劇的な変更形態をもたらす。
【0066】
この方法によって、当業者が想像できる以外の刃先を達成することができる。これらの刃先は、岩石破砕用、穴あけヘッド用又は機械加工工具用の工具など、当業者に既知の多様な工具に組み込むことができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー相中に分散させた同じ又は異なるタイプの硬質粒子で構成され、前記バインダー相が液体である温度から始まる固相線温度Tを有する高密度材料のブロック(1)を含む部分を製造するための方法であって、高密度材料の前記ブロック(1)の表面の少なくとも一部分に、全体を最低反応温度T超にしたときに前記高密度材料と化学的に反応可能な材料で構成された活性被膜(2)を被着させ、前記活性被膜(2)をコーティングした前記ブロック(1)を、加熱、次いで前記最低反応温度T以上の保持温度Tまでの時間tの間の保持、続いて大気温度までの冷却を含む熱処理にかけることを特徴とし、外部からのバインダー相を加えることなく、したがって追加のバインダー相中の前記ブロックの全体的な強化を起こさずに実施され、ミリメートルの距離にわたる前記ブロック内の前記バインダー相の変形形態をもたらす、方法。
【請求項2】
前記高密度材料の前記保持温度Tが、前記固相線温度T以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記保持温度Tが、T+200℃以下であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記保持時間tが、1分〜10分であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記活性被膜を、前記ブロックの表面の一部分にだけ被着させていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記活性被膜を、前記ブロックの表面全体に被着させていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記高密度材料が、金属マトリックス中に分散させた金属炭化物粒子で構成された超硬合金であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記超硬合金が、さらに、大きさが直径1mm以下の天然又は合成ダイヤモンド粒子を含有することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記超硬合金が、WC−M型であり、Mが、Co、Ni及びFeの中から選ばれる1種又は複数種の金属であり、前記バインダー相中のこれらの金属の含有率の合計が重量で、50%よりも高いことを特徴とする、請求項7又は請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ブロックの前記高密度材料と反応できる前記被膜材料が、窒化物、ホウ化物、炭化物、酸化物、水素化物、炭窒化物、ホウ炭化物、グラファイト型の化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物又はこれらの種々の化合物の任意の混合物で構成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記被膜を、PVD(物理蒸着法)若しくはCVD(化学蒸着)型の方法、又は噴霧による若しくはブラシを用いた若しくは浸漬による若しくは連続撮影による方法によって被着させることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高密度材料の前記ブロックが、刃先、又は穴あけ、破壊若しくは機械加工(岩石/金属)用の工具の刃先のブロック支持体であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
さらに、PDC(多結晶ダイヤモンド成形体)又はTSP(熱安定多結晶ダイヤモンド)型のダイヤモンドで被覆されたプレートを、前記ブロック支持体の表面上に被着させることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ダイヤモンドで被覆されたプレートを、ろう付によって、前記ブロックの処理後に前記ブロックの表面に加えることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
0.5mm超の長さにわたってバインダー相中の含有率の連続的な勾配を有し、最も多量な領域と最も少量な領域の間のバインダー相中の含有率の差が体積で1%超であることを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって得ることができるバインダー相中に分散させた硬質粒子で構成されたブロックを含む岩石を破砕するための刃先。
【請求項16】
厚さが0.4mm超のPDC又はTSP型の追加のダイヤモンドで被覆されたプレートを含むことを特徴とする、請求項15に記載の刃先。
【請求項17】
請求項15若しくは請求項16に記載の、少なくとも1種の刃先又はブレードを含む、岩石を削るための工具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−505306(P2012−505306A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529611(P2011−529611)
【出願日】平成21年10月7日(2009.10.7)
【国際出願番号】PCT/FR2009/051910
【国際公開番号】WO2010/040953
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(508092750)
【Fターム(参考)】