説明

特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置及び真偽判別方法

【課題】 本発明は、一般的な発光条件では検知不可能であり、所定の条件(励起物質が励起する二光子励起により発光)で蛍光発光する樹脂組成物を含有するインキ組成物に対して、発光ピークを確実に検知することにより真偽判別を行うことを提案する。
【解決手段】 第1の波長域の紫外線を照射可能な第1の光源及び第2の波長域の紫外線を照射可能な第2の光源を少なくとも備えた光源部と、第2の光源によって第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取る読取部と、読取部によって読み取った結果を解析して真偽を判定するデータ処理部と、光源部からの光照射及び発光検出タイミング等、各部の制御を行う制御部を少なくとも備えた特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、パスポート、有価証券、印紙類、商品タグ、有料道路等の回数券、各種チケット等の貴重品に対して施された特殊発光を用いた偽造防止要素を真偽判別する装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、有価証券、印紙類、商品タグ、有料道路等の回数券、各種チケット等の貴重品は、その価値を保証及び維持するために、各種偽造防止技術が施されている。そのため、このような貴重品には、無機又は有機蛍光顔料を含有したインキを用いて印刷物を形成し、通常、可視光下では蛍光発光せず、紫外線を照射した場合に蛍光発光することで真偽判別が行われている。
【0003】
例えば、鑑別対象物に対して、赤外線、紫外線又は単色光を切り替えながら特定の波長を照射する発光手段と、鑑別対象物から反射される特定の周波数の光をCCDカメラにより取得し、A/D変換器により電気信号に変える受像手段と、各種のファンクションを設定するための入力手段と、あらかじめ真正品の画像を記憶してある真正画像記憶手段と、取得した画像と記憶してある真正画像との相違データを処理する制御手段と、制御手段により処理された結果を表示する表示手段を備えた真偽鑑別装置が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、発光体が付与された印刷物に対して、投光部から発光体に励起光を照射し、その発光体の発光から複数の受光部により複数の特定波長域における発光特性及び残光特性を取得し、比較演算部によりあらかじめ設定した発光体の複数の特定波長域における発光特性及び残光特性の基準値と比較演算して真偽判別する方法及び装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
さらに、蛍光体及び/又は燐光体を付与した印刷物に対して、光源から励起光を照射し、照射により発する二つ以上の発光特性及び/又は残光特性スペクトルを取得し、取得したスペクトルを分光測定し、分光測定したスペクトルから蛍光体及び/又は燐光体の特定及び付与パターンを検出して識別する方法及び装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
ところで、前述した特許文献1〜3により開示されている技術は、いずれも単体の無機又は有機蛍光顔料を含有したインキを用いて、その無機又は有機蛍光顔料が発する発光ピーク又は残光ピークを検知するものであり、複数の発光ピークを有するインキの場合でも、単体の無機又は有機蛍光顔料を複数混合して作製されたインキを対象としている。
【0007】
そこで、本出願人は、無機又は有機蛍光顔料が含有されていなくとも所定の条件で蛍光発光する樹脂組成物として、一般的な365nmのハンディータイプ等で用いられている紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線照射装置で紫外線を照射しても蛍光発光することなく、メタルハライドランプ、水銀灯等で中波紫外線を50mJ/cm程度を照射した後、一般的なハンディータイプ等で用いられている紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線照射装置で照射した場合において、励起物質が励起する二光子励起により蛍光発光を得ることができる樹脂組成物及びその樹脂組成物を含有するインキ組成物を既に出願している。この樹脂組成物を含有したインキで印刷された模様は、所定の観察条件下では発光しないが、他の観察条件下では発光する(例えば、特許文献4及び5参照)。
【0008】
【特許文献1】特許第3574219号公報
【特許文献2】特開2006−266810号公報
【特許文献3】特開2006−275578号公報
【特許文献4】特願2008−115688号
【特許文献5】特願2008−115689号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1により開示されている鑑別装置は、一つの装置により照射光を切り替えることが可能で、対象の印刷物に施されている波長域の異なる領域を画像として取得することができ、さらにコンパクトな構成とするものではあるが、取得した画像を基準画像と比較するものであるとともに、一般的な赤外光及び紫外光を照射するものであり、特許文献4及び5に記載されているような二光子励起により発光するという特徴をもった対象を検出できるものではなかった。
【0010】
また、特許文献2による真偽判別方法は、紫外線全波長(200〜400nm)を照射可能な投光器を用いて、取得したい波長に対応する特定のフィルタを組み合わせ、複数の受光器により、受光するタイミングを異ならせることで、一度に発光特性と残光特性を検知するものであり、紫外線全波長に対して取得したい波長を選択可能ではあるが、対象物の発光波長と残光波長により真偽判別を行うものであり、異なる照射条件に対応可能な機構は備えておらず、特許文献4及び5に記載されているような二光子励起により発光するという特徴をもった対象を検出できるものではなかった。
【0011】
また、特許文献3の識別方法は、2種類以上の発光ピークを有するインキ、具体的には、異なる発光ピークを有する蛍光体を混合して作製されたインキに対して、分光測定により発光ピーク及び残光ピークを測定するものであり、単体の発光ピークを有する蛍光体が混合されているインキに対しては、その発光ピークを測定することが可能ではあるが、一つの発光体(本発明が対象とする樹脂組成物)において、特許文献4及び5に記載されているような二光子励起により発光するという特徴をもった対象を検出できるものではなかった。
【0012】
本発明は、このような従来の問題を解決することを目的としたもので、一般的な発光条件では検知不可能であり、所定の条件(励起物質が励起する二光子励起により発光)で蛍光発光する樹脂組成物を含有するインキ組成物に対して、発光ピークを確実に検知することにより真偽判別を行うことを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、基材上の少なくとも一部に、二光子励起により蛍光発光する樹脂組成物を含むインキにより印刷された印刷模様を有する印刷物の真偽判別装置であって、第1の波長域の紫外線を照射可能な第1の光源及び第2の波長域の紫外線を照射可能な第2の光源を少なくとも備えた光源部と、第2の光源によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取る読取部と、読取部によって読み取った結果を解析して真偽を判定するデータ処理部と、光源部からの光照射及び発光検出タイミング等、各部の制御を行う制御部を少なくとも備えた特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置である。
【0014】
また、本発明の真偽判別装置は、第1の波長域が、260nm以上330nm未満の範囲であり、第2の波長域が、330nm以上410nm以下であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の真偽判別装置は、読取部が、第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第1の読取手段を少なくとも備え、第1の読取手段によって変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の真偽判別装置は、読取部が、第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第1の読取手段を少なくとも備え、第1の読取手段は、電気信号をデジタルデータに変換する機能を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の真偽判別装置は、データ処理部が、デジタルデータを解析して定量的な評価値を算出する解析手段と、あらかじめ真正の算出データを基準値として記憶する記憶手段と、定量的な評価値と基準値とを比較して真偽を判定する判定手段から成ることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の真偽判別装置は、光源部が、第2の波長域の紫外線と同じ紫外線を、第1の光源から照射する第1の波長域の紫外線よりも先に照射可能な位置に配置された第3の光源を備え、読取部は、第3の光源によって第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第2の読取手段と、第2の読取手段により変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段とを備えたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の真偽判別装置は、第2の光源から第2の波長域の紫外線を照射した後に、印刷物を加熱するための加熱部を備え、加熱部によって加熱された印刷物に印刷された印刷模様に対し、第2の波長域の紫外線と同じ紫外線を照射可能な第4の光源を光源部に備え、第4の光源によって第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第3の読取手段と、第3の読取手段により変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段を、読取部に備えたことを特徴とする。
【0020】
また、本発明の真偽判別装置は、読取部を構成する第1の読取手段、第2の読取手段及び第3の読取手段が、特定の波長域を通過させる少なくとも一つのフィルタと、少なくとも一つのフィルタを通過してきた光を受光する光電変換センサ、CCDカメラ又はCMOSカメラを少なくとも有して成ることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の真偽判別装置における読取部は、第1の読取手段、第2の読取手段及び第3の読取手段において変換した電気信号の強度を高める増幅手段を、各読取手段に対応して備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明の真偽判別装置は、判定手段により真偽を判定した結果を表示する表示部を備えたことを特徴とする。
【0023】
また、本発明の真偽判別装置は、表示部が、読取部を構成する少なくとも一つの読取手段に対応しており、第1の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第1の表示手段、第2の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第2の表示手段及び/又は第3の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第3の表示手段を備えたことを特徴とする。
【0024】
また、本発明の真偽判別装置は、表示部が、読取部が二つ以上の読取手段により構成されている場合、一つの表示手段によって判定結果を表示することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、基材上の少なくとも一部に、二光子励起により蛍光発光する樹脂組成物を含むインキにより印刷された印刷模様を有する印刷物の真偽判別方法であって、印刷模様に対して、第1の波長域の紫外線を照射する第1の照射工程と、第1の照射工程後、印刷模様に対して、第2の波長域の紫外線を照射する第2の照射工程と、第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取る第1の読取工程と、読み取った結果と真正の算出データとを比較して真偽を判定する解析判定工程から少なくとも成ることを特徴とする特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法である。
【0026】
また、本発明の真偽判別方法は、第1の波長域が260nm以上330nm未満の範囲であり、第2の波長域が330nm以上410nm以下であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の真偽判別方法は、読取工程が、第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様が発する光を特定の波長域を通過させるフィルタを介して受光し、受光した光を電気信号に変換し、電気信号をデジタルデータに変換することを特徴とする。
【0028】
また、本発明の真偽判別方法は、読取工程が、第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を、特定の波長域を通過させるフィルタを介して画像として取得することを特徴とする。
【0029】
また、本発明の真偽判別方法は、読取工程が、変換した電気信号の強度を増幅してからデジタルデータに変換することを特徴とする。
【0030】
また、本発明の真偽判別方法は、解析判定工程が、デジタルデータを解析して定量的な評価値を算出し、あらかじめ算出してある真正の算出データと定量的な評価値とを比較して真偽を判定することを特徴とする。
【0031】
また、本発明の真偽判別方法は、解析判定工程が、読取工程で取得した画像と、あらかじめ取得してある真正の画像とを比較して真偽を判定することを特徴とする。
【0032】
また、本発明の真偽判別方法は、第1の照射工程よりも前の工程に、印刷模様に対して、第2の波長域の紫外線と同じ波長域の紫外線を照射する第3の照射工程と、第3の照射工程によって第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取る第2の読取工程を有して成ることを特徴とする。
【0033】
また、本発明の真偽判別方法は、第2の照射工程よりも後の工程に、印刷物を加熱する加熱工程と、加熱された印刷物に対して、第2の波長域の紫外線と同じ波長域の紫外線を照射する第4の照射工程と、第4の照射工程によって第2の波長域の紫外線が照射された際の印刷模様を読み取る第3の読取工程を有して成ることを特徴とする。
【0034】
また、本発明の真偽判別方法は、解析判定工程によって判定された結果を表示する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明の装置により、特殊な蛍光発光を示す樹脂組成物を含んだインキにより印刷されている偽造防止印刷物に対して、通常の紫外線照射装置を用いただけでは、真偽判別が不可能であるが、第1の波長域である中波紫外線を照射する手段と、第2の波長域である長波紫外線を照射する手段を少なくとも備えていることから、樹脂組成物が二光子励起により発光する特徴を検知して真偽判別を行うことが可能となり、単純な蛍光インキを用いた偽造及び模造に対して、鑑定的な真偽判別が行えるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】第1の波長域の紫外線を照射後に第2の波長域の紫外線を照射した場合の励起状態を示す模式図である。
【図2】本発明の真偽判別装置の構成を示す図である。
【図3】本発明が対象とする印刷模様を読み取った際の発光強度を示す図である。
【図4】本発明が対象とする樹脂組成物が含まれたインキによる模様と一般的な蛍光顔料が含まれたインキによる模様を示す図である。
【図5】図4の印刷模様を、本発明の真偽判別装置を用いて読み取った際の画像を示す図である。
【図6】図5で示した画像を、明度のラインプロフィールで示した図である。
【図7】本発明の真偽判別装置の基本構成を模式的に示す図である。
【図8】本発明の真偽判別方法の基本的な工程を示すフローチャート図である。
【図9】本発明の真偽判別方法における第1の読取工程の詳細を示すフローチャート図である。
【図10】本発明の真偽判別方法において、別の工程を含むフローチャート図である。
【図11】実施例1において対象とした印刷物を示す図である。
【図12】実施例1における印刷物を読み取った際のデータを示す図である。
【図13】実施例2における真偽判別装置を模式的に示す図である。
【図14】実施例2における印刷物の読取結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0038】
まず、本発明における真偽判別方法を実施するために用いられる印刷物について説明する。本発明に用いる印刷物は、基材上の少なくとも一部に、所定の条件によって発光する樹脂組成物を含有したインキを用いて模様、図柄、文字、記号等(以下、「模様等」という)が印刷されている。なお、本発明が真偽判別を行うために必要となるインキに含まれている樹脂組成物であって、所定の条件によって発光する樹脂組成物を、以下、「樹脂組成物」という。
【0039】
この所定の条件とは、第2の波長域の紫外線(本発明では、第2の波長域を330nm以上410nm以下の範囲の長波の紫外線とする)、具体的には、一般的な365nmのハンディータイプ等で用いられている紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線照射装置で紫外線を照射しても蛍光発光することなく、第1の波長域の紫外線(本発明では、第1の波長域を260nm以上330nm未満の範囲の中波の紫外線とする)、具体的には、メタルハライドランプ、水銀灯等により50mJ/cm程度の紫外線を照射した後、再度、第2の波長域の紫外線を照射することであり、この条件下においてのみ蛍光発光するものが、本発明が対象とする樹脂組成物を含んだインキである。
【0040】
なお、前述した一般的な365nmのハンディータイプ等で用いられている紫外線照射装置で照射する紫外線強度は、例として1.5mW/cm程度、また、メタルハライドランプ、水銀灯等の紫外線照射装置で照射する中波紫外線の照射量は50mJ/cm程度としたが、これに限定されるものではなく、特にメタルハライドランプ、水銀灯等の紫外線照射装置についてもこれに限定するものではなく、あくまでも中波の紫外線を照射可能な装置であればよく、更には、中波の紫外線の照射量についても、仮に紫外線強度が低い場合には、長時間照射することで同じ効果を奏するもので、中波の紫外線を照射することが重要である。
【0041】
次に、樹脂組成物について説明する。この樹脂組成物は、第1の波長域の紫外線の照射により励起物質を形成し、第1の波長域の紫外線を照射後、第2の波長域の紫外線を照射することで、励起物質が励起する二光子励起により第1の発光色に発光する。この状態を模式図として示したのが図1である。
【0042】
基底状態(S0)の樹脂組成物は、第1の波長域(λ1)の光を吸収し、第1の励起一重項状態(S1)となり、項間交差で第1の励起三重項状態(T1)になる。次いで、第2の波長域(λ2)の光を吸収し、上のレベルの第2の励起一重項状態(S2)となり、項間交差で第2の励起三重項状態(T2)になる。第2の励起三重項状態(T2)は、光を放射して第1の励起三重項状態(T1)にもどる。第1の励起三重項状態(T1)は、無輻射失活により基底状態(S0)にもどる。
【0043】
ここで第1の波長域(λ1)と第2の波長域(λ2)の関係は、λ1<λ2であることを特徴とし、第1の波長域(λ1)は、前述したとおり、260nm以上330nm未満の中波紫外線の範囲であり、第2の波長域(λ2)は、330nm以上410nm以下の長波紫外線の範囲であり、この範囲外であると発光しにくい状態となる。
【0044】
この樹脂組成物は、例えば、多官能アクリレートを含んで成る樹脂と、光吸収により分子内開裂してラジカルを発生するラジカル光重合開始剤とを含んで成る樹脂組物であって、多官能アクリレートを含んで成る樹脂は、アクリロイル基の官能基密度を0.5mmol/g以上を有する、又は、分子内にエチレン性不飽和基とビスフェノール骨格を有している。
【0045】
多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーから成り、アクリロイル基の官能基密度が0.5mmol/g以上から成る樹脂は、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールオリゴアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールオリゴアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンオリゴアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールオリゴアクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0046】
さらに、多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーから成る樹脂のアクリロイル基の官能基密度は、好ましくは3.0mmol/g以上である。なお、アクリロイル基の官能基密度が0.5mmol/g未満であった場合には、発光しにくい状態となる。
【0047】
また、分子内にエチレン性不飽和基とビスフェノール骨格を有する多官能アクリレートとしては、ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールF型ジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールF型ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、酸変性ビスフェノールF型エポキシ(メタ)アクリレート、酸変性フェノールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート、酸変性クレゾールノボラック型エポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0048】
ラジカル光重合開始剤は、多官能アクリレートを含んで成る樹脂100重量%に対して、0.1〜10重量%含まれて成る樹脂組成物であることが好ましい。
【0049】
前述した樹脂組成物についての更なる詳細については、本出願人が先に出願した特願2008−115688号及び特願2008−115689号に記載しており、本発明自体ではないため、ここでは省略する。
【0050】
本発明は、前述した樹脂組成物を含有したインキを、OPニス、透明インキ等として利用し、さらに着色染料、着色顔料、蛍光染料、蛍光顔料及びパール顔料から成る群から選択される、少なくとも1種の化合物を含有する色材を含んで成るインキとして、紙、プラスチック等の基材上の少なくとも一部に模様を印刷することにより作成された印刷物を真偽判別するものである。
【0051】
前述した二光子励起により発光する樹脂組成物を含有したインキを用いた真偽判別方法としては、樹脂組成物の発光の特徴を捉えた方法により真偽判別を行うものであり、始めに、少なくとも樹脂組成物を含有したインキによって印刷された模様領域に対して、第1の波長域の紫外線を照射し、その後、第2の波長域の紫外線を照射することにより発光する状態を検知し、発光の有無、発光ピーク波長及び/又は発光強度により真偽を判定する。
【0052】
真偽判別を行うために用いる装置としては、図2に示すように、二光子励起により発光する樹脂組成物を含有したインキにより印刷された模様等に所定の光を照射する光源部と、光源部から照射された光により発光した状態を読み取り、読み取った結果をデジタルデータに変換する読取部と、デジタルデータ化されたデータを解析して真偽を判定するデータ処理部と、光源部からの光照射や発光検出タイミング等を制御する制御部を備えている。制御部及びデータ処理部は同じ函体、例えばパーソナルコンピュータ等に収納されていてもよい。
【0053】
それぞれの部位について、所定の光を照射する光源部から説明する。前述のとおり、本発明の真偽判別を行う対象となる印刷物に形成された模様等は、二光子励起により発光する樹脂組成物を含有したインキにより印刷されているため、その特徴点となる二光子励起により発光する状態を検知する必要がある。そのため、光源部については、第1の波長域の紫外線を照射可能な第1の光源(具体的には、中波紫外線を50mJ/cm程度で照射可能な光源)と、第2の波長域の紫外線を照射可能な第2の光源(具体的には、紫外線強度が1.5mW/cm程度の長波紫外線を照射可能な光源)を少なくとも有する。
【0054】
本明細書中においては、第1の光源から照射する紫外線の波長を第1の波長域といい、260nm以上330nm未満の中波紫外線とし、第2の光源から照射する紫外線の波長域を第2の波長域といい、330nm以上410nm以下の長波紫外線とする。なお、本実施の形態においては、第1の光源から照射される第1の波長域をについて、具体的に中波紫外線を50mJ/cm程度で照射することとし、第2の光源から照射される第2の波長域について、具体的に紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線を照射することとして説明する。
【0055】
第1の光源と第2の光源の配置は、必ず、先に第1の光源を配置して基材に対して第1の波長域の中波紫外線を照射し、次に、第2の光源から基材に対して第2の波長域の長波紫外線を照射する必要がある。先に、第2の光源から第2の波長域の長波紫外線を照射し、次に第1の光源から第1の波長域の中波紫外線を照射しても、二光子励起による発光は生じないため、本発明が対象とする印刷物に対する真偽判別は行えない。
【0056】
第1の光源としては、中波紫外線を照射可能であれば特に限定はないが、例えば、中波紫外線を50mJ/cm程度で照射可能なメタルハライドランプ、水銀灯を用いることができる。また、第2の光源としては、紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線を照射可能であれば特に限定はないが、例えば、一般的に蛍光発光を伴わせるために用いられている365nmのブラックライトやLED光源を用いることができる。
【0057】
対象とする印刷物等の真偽判別に対して、少なくとも第1の光源と第2の光源を備えていれば、樹脂組成物は二光子励起により発光するため、真偽判別を行うことは可能となるが、さらに、二光子励起により発光させる前の段階において、一般的な蛍光発光の状態を確認するために、第2の光源と同じ紫外線を照射可能な第3の光源を、第1の光源の前に配置しても良い。本発明が対象とする真偽判別用の樹脂組成物は、二光子励起により発光するものであるため、第2の波長域である長波の紫外線を照射しても発光しないが、その発光しない状態を確認することにより、より一層の信憑性を得ることができる。
【0058】
また、本発明が対象とする樹脂組成物を、一般的に蛍光発光する蛍光顔料と混合してインキを作成することも可能であり、そのようなインキを用いることで、第2の波長域である長波の紫外線を照射すると、第1の色を伴って発光し、さらに、第1の波長域である中波の紫外線で照射し、その後、再び第2の波長域である長波の紫外線を照射すると、樹脂組成物が本来持っている発光色と、第1の色の発光色が混色した状態の色で発光するという効果を奏する。このような混合インキを用いた印刷物に対しても、前述した第3の光源を用いると効果的な真偽判別を行うことができる。
【0059】
一般的に蛍光発光する蛍光顔料と樹脂組成物を混合したインキにより形成された模様等を真偽判別する方法としては、第3の光源により、まず、第2の波長域である長波の紫外線を照射し、第1の色を伴う蛍光発光の状態を検知し、次に、第1の光源により第1の波長域である中波の紫外線を照射し、第2の光源より、再び第2の波長域である長波の紫外線を照射して、混色発光した状態を検知するものである。
【0060】
さらには、本発明が対象とする樹脂組成物の特徴として、一度、二光子励起により発光した状態から、樹脂組成物を加熱(85℃程度)することにより、樹脂組成物は基底状態に戻るため、蛍光発光強度は減衰し、第1の波長域である中波の紫外線を照射しても蛍光発光することがなくなる。その特徴を利用し、第2の光源の後の工程において、第4の光源を配置しても良い。
【0061】
第4の光源は、第2の光源及び第3の光源と同様、第2の波長域である長波の紫外線を照射可能であれば特に限定されない。この第4の光源を用いる場合には、必ず第4の光源と第2の光源の間に、基材(樹脂組成物)を約85℃程度加熱可能な加熱部を設ける必要がある。なお、加熱部としては、加熱機能を備えたローラ等がある。
【0062】
加熱部及び第4の光源を備えることにより、一度、二光子励起により発光した状態が、第2の波長域である長波の紫外線を照射しても発光しないか否かにより、更なる信憑性を得るための真偽判別が可能となる。
【0063】
次に、光源部により所定の光を基材(樹脂組成物)に対して照射した状態で、発光状態を取得するための読取部について説明する。本発明の真偽判別装置における読取部は、対象とする印刷物の発光状態を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する少なくとも一つの読取手段と、その少なくとも一つの読取手段によって変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段を有している。なお、AD変換手段については、読取手段自体がデジタルデータに変換可能な機能を備えていてもよく、また、後述するデータ処理部内に備えられていてもよい。
【0064】
この読取部については、真偽判別の方法によって、二つの読取手段又は三つの読取手段を備えることも可能である。仮に、二つ以上の読取手段を備える場合には、各読取手段に対応して、電気信号をデジタルデータに変換するためのAD変換手段を備えることとなる。なお、読取手段については、一つのみを備える場合に、備えられた読取手段を第1の読取手段といい、二つ目の読取手段を備える場合に、備えられた二つ目の読取手段を第2の読取手段といい、さらには、三つ目の読取手段を備える場合に、備えられた三つ目の読取手段を第3の読取手段という。第2の読取手段及び第3の読取手段の詳細については後述する。
【0065】
また、読取部を構成する各読取手段において、フォトダイオード等の光電変換センサにより受光した光を光電変換することとなるが、この読み取った信号の強度が弱い場合には、電気信号の強度を高めるための増幅手段(増幅器)を各読取手段に対応して備えても良い。
【0066】
各読取手段によって発光状態を取得する方法については、発光光量を取得する方法や、発光状態を画像として取得する方法がある。
【0067】
発光光量を取得する方法としては、特に限定されないが、例えば、特定の波長域を通過させるフィルタと、通過してきた光を受光するフォトダイオード等の光電変換センサを用いる。なお、フィルタとしては、例えば、極めて狭い範囲の波長域のみを通過させるバンドパスフィルタや、その他にもシャープカットフィルタ、パスフィルタ等を用いることができる。また、光電変換センサは、樹脂組成物の発光強度が十分高いときにはフォトダイオードを用いることができるが、発光強度が低い場合には、フォトマルチプライヤーやイメージインテンシファイア等の高感度の光電変換センサを用いることができる。
【0068】
図3は、基材(1)上に、本発明が対象としている樹脂組成物を含んだインキにより印刷した模様(2)(商標第3042101号)に対して、2本の点線によって囲まれた範囲を測定箇所(K)とし、その測定箇所(K)における発光強度をグラフ化したものを示す。模様(2)が存在する箇所の電圧が高くなっているが、その箇所が樹脂組成物による発光により発光強度が高くなっている状態である。
【0069】
また、発光状態を画像として取得する方法としては、紫外線をカットするための紫外線カットフィルタと、極めて狭い範囲の波長域のみを通過させるバンドパスフィルタとのフィルタの組み合わせや、ある波長以下の光をできるだけ完全に吸収し、これより長波長の光をできるだけ完全に透過するシャープカットフィルタを用い、フィルタを通過してきた光を画像として取得するCCDカメラ又はCMOSカメラ(以下「CCDカメラ等」という。)を用いる。
【0070】
CCDカメラ等により取得した発光状態の画像をそのまま表示部により表示し、樹脂組成物を含有したインキで印刷した模様等の画像が表示されたか否かにより、真正の可否を判定しても良いが、後述するようにデータ処理部内に記憶手段を設け、あらかじめ真正の蛍光画像を記憶しておき、読取部により取得した蛍光画像とパターンマッチングにより比較することで、真偽の判定をしても良い。
【0071】
図4は、基材(1)上に、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様(3)と、本発明が対象とする樹脂組成物を含むインキによって印刷した模様(2)であり、図5は、この両方の模様に対して第1の光源から第1の波長域の紫外線(具体的には、中波紫外線を50mJ/cm程度)を照射し、第2の光源より第2の波長域の紫外線(具体的には、紫外線強度が1.5mW/cm程度)を照射し、その状態をCCDカメラ等を備えた読取部で取得した画像の点線で囲んだ領域の画像である。
【0072】
図5(a)に示すように、全体的に濃く表現されているところが基材の画像(1’)であり、上下に帯状に最も明るく表現されているところが、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様の画像(3’)であり、四角形のやや明るく表現されているところが、本発明が対象とする樹脂組成物を含むインキによって印刷した模様の画像(2’)である。
【0073】
なお、図5(b)に示した読取画像は、第3の光源を用いて照射した際に、CCDカメラ等を備えた読取部で取得した画像であり、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様の画像(3’)のみが表現されており、二光子励起による発光を伴っていないため、本発明が対象とする樹脂組成物を含むインキによって印刷した模様の画像(2’)は見られない。
【0074】
さらには、CCDカメラ等を備えた読取部で取得した画像データから、任意の直線状の位置X1−X2において、明度に関するラインプロフィール解析を行っても良い。
【0075】
図6は、図5に示すCCDカメラ等を備えた読取部で取得した画像に対して、X1−X2及びX’1−X’2の箇所に対する明度のラインプロフィールを示す。図6(a)は、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様が蛍光発光しているために、その領域の明度が基材の明度よりも高くなっている領域(A)と、本発明が対象とする樹脂組成物を含むインキによって印刷した模様が二光子励起により蛍光発光しているために、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様よりは明度は低いものの、基材の明度よりは高くなっている領域(B)を示している。また、図6(b)は、二光子励起による蛍光発光を伴っていないため、一般的な蛍光顔料を含むインキによって印刷した模様が蛍光発光して、明度が基材よりも高くなっている領域(A)のみが示されている。
【0076】
この明度のラインプロフィールを表示部により表示し、(B)の領域、いわゆる、二光子励起による発光を伴って明度が高くなっている領域の存在の有無により、真偽を判定しても良いが、後述するデータ処理部内に記憶手段を備えて、あらかじめ真正の印刷物における明度のラインプロフィールを基準値として記憶しておき、この結果と比較することにより、真偽を判定しても良い。
【0077】
次にデータ処理部の詳細構成について説明する。データ処理部は、読取部により読み取った結果を解析して定量的な評価値を算出する(例えば、ラインプロフィール解析)解析手段と、あらかじめ真正の算出データを基準値として記憶しておく記憶手段と、算出した評価値と基準値を比較して真偽を判定する判定手段を有している。なお、この「定量的な表価値」とは、読み取った部分の状態を、どのように真偽判別を行うかにより、その真偽判別を行うために必要とする値を示すもので、例えば、明暗の状態を輝度(明度)値や電圧値等で表した値のことであり、真偽判別の段階で数値化された評価値を利用し、同様に数値で表した基準値と比較することで判定を行う。また、前述したように、読取部においてデジタルデータに変換するためのAD変換手段を備えずに、データ処理部にAD変換手段を備えても良い。
【0078】
なお、真偽の判定は、前述のとおり、発光強度、発光状態の画像及び明度のラインプロフィールの少なくとも一つを用いて比較することにより、真正か否かを判定する。
【0079】
本発明の真偽判別を行うための装置構成としては、前述した光源部、読取部、データ処理部及び制御部を備えていれば良いが、さらに、各読取結果を画面上に表示可能な表示部を備えていても良い。表示部は、各読取部の結果を表示することとなるため、読取部に対応した表示部が必要となる。例えば、第1の光源及び第2の光源のみで真偽判別を行う装置構成の場合に設けられる表示部は、第1の表示手段が一つあれば良く、第3の光源を更に用いて真偽判別を行う装置構成の場合に設けられる表示部は、第1の表示手段と、第3の光源に対応した第2の表示手段を備え、さらには、第4の光源を用いて真偽判別を行う装置構成の場合に設けられる表示部は、第1の表示手段及び第2の表示手段と、第4の光源に対応した第3の表示手段を備えることとなる。
【0080】
また、表示部については、判定手段における判定結果を表示することでも良く、表示部を判定手段と別に構成しても良いが、判定手段を有するデータ処理部と表示部を同じパーソナルコンピュータに設けても良い。
【0081】
また、本発明の真偽判別装置は、印刷物を載置するためのテーブル又はベルトを備え、そのテーブル等は、印刷物を複数連続的に真偽判別可能とするため及び第3の光源又は第4の光源を用いての真偽判別を行う場合には、その印刷物を載置するテーブル等が所定の方向に連続的に移動可能な機構としても良い。所定の方向とは、第3の光源側から、第1の光源、第2の光源、そして第4の光源と、順次照射する方向のことである。
【0082】
以上の構成の一例を模式的に示したのが図7である。基材(1)上に印刷により形成されている模様(2)に対して、第1の波長域である中波紫外線を照射するための第1の光源(4)と、第2の波長域である長波紫外線を照射するための第2の光源(5)と、そのときの状態を取得して電気信号に変換するためのCCDカメラ等から成る第1の読取手段(6)と、変換された電気信号の強度を高くするための増幅手段(8)(具体的には増幅器)と、強度が高くなった電気信号をデジタルデータに変換するためのAD変換手段(9)(具体的にはAD変換器)と、読み取った結果を解析して定量的な評価値を算出する解析手段、あらかじめ真正のデータを記憶している記憶手段及び取得した印刷物の蛍光データと記憶手段に記憶されている真正の基準データとを比較して真偽を判定する判定手段を備えたパーソナルコンピュータ(10)と、基材(1)を連続的に移動可能な機構を備えた基材載置用のテーブル(7)から構成されている。なお、蛍光発光の状態を取得し易くするために、第1の光源(4)、第2の光源(5)、CCDカメラ(6)及びテーブル等は、外光を遮断するためのブラックボックス(12)内に配置されている。さらに、パーソナルコンピュータにおいては、読取結果及び判定結果を表示可能な表示部(11)も備えている。
【0083】
図7に示した本発明の真偽判別装置(13)については、二光子励起による発光のみを取得可能とする機構を図示しているが、前述のとおり、通常の蛍光顔料による発光及び二光子励起による発光後に加熱し、発光状態を確認する機構を備えることも可能であり、その場合には、第3の光源及び第3の光源に対応させるCCDカメラ等による読取部、増幅手段、AD変換手段を第1の光源よりも前の工程に配置し、第4の光源及び第4の光源に対応させるCCDカメラ等による読取部、増幅手段、AD変換手段を第2の光源よりも後の工程に配置すると共に、加熱部を第4の光源の前の位置に配置することとなる。なお、増幅手段は発光強度によっては必要はなく、また、AD変換手段はデータ処理部であるパーソナルコンピュータ(10)に備えても良い。
【0084】
次に本発明の真偽判別方法について図8及び図9を用いて説明する。以下説明する本発明の真偽判別方法は、前述した真偽判別装置を用いることが好ましいが、これに限定されるものではなく、図8及び図9における各工程(Step)を実行できれば良い。
【0085】
まず、真偽判別を行う対象となる印刷物に印刷されている印刷模様に対し、第1の照射工程として、第1の波長域である中波紫外線、具体的には、中波紫外線を50mJ/cm程度で照射する(Step1)。この状態では、蛍光顔料が配合されていない場合、印刷模様が蛍光発光することはない。次に、第2の照射工程として、第2の波長域の長波紫外線、具体的には、紫外線強度が1.5mW/cm程度の紫外線を照射する(Step2)。この状態において、模様等(2)は二光子励起により発光する。ただし、他に一般的な蛍光顔料が混合されているインキにより印刷模様を形成している場合には、二光子励起による発光と通常の蛍光発光が混色した状態で発光し、樹脂組成物を含まず、一般的な蛍光顔料のみを含んだインキで印刷模様を形成している場合は、通常の蛍光発光のみを伴う。この場合には、後述するが、真正の発光状態における各データと比較して真偽を判定するため、特に問題とはならない。なお、この段階において、仮に印刷模様が発光しない場合には、目視でも真正品ではないことが判定可能である。
【0086】
例えば、樹脂組成物を含む印刷模様部分において、第1の照射工程(Step1)で発光が検出されず、かつ、第2の照射工程(Step2)で発光が検出された場合を真正と判定するような判定フローを組むことで、真偽判別を行うこともできる。
【0087】
次に、第1の読取工程(Step3)として、第2の波長域の紫外線を照射した際の印刷模様の状態を取得する。取得する方法は、フォトダイオードやCCDカメラ等を用いれば良い。
【0088】
この発光状態を取得する方法の詳細については、図9に示すように、フォトダイオード等の光電変換センサを用いて発光光量を取得する場合、印刷模様の発光を受光(Step3−1)して電気信号に変換し(Step3−2)、変換された電気信号の強度を増幅器等により高め(Step3−3)、増幅された電気信号をデジタルデータ化(Step3−4)する。ただし、変換された電気信号の強度が高い場合には、Step3−3の電気信号の強度を増幅する工程は省略しても良い。
【0089】
また、発光状態を画像として取得する場合は、発光した印刷模様をCCDカメラ等の撮影器により画像取得(Step3−1’)する。この画像取得したデータをそのまま真正の画像データと比較しても良いが、この画像データに対して所定の位置で明度のラインプロフィール化(Step3−2’)を行い、次の工程(Step4)で比較することでも良い。
【0090】
次に、解析判定工程(Step4)として、デジタルデータ化された発光強度、画像として取得された画像データ又は明度のラインプロフィール化されたデータと、あらかじめ算出されている真正の算出データとを比較し、真正の算出データと一致した場合には、真正品であると判定し、一致しない場合には偽造品であると判定する。
【0091】
比較するためにあらかじめ測定しておく真正の算出データについては、実際に真偽を判定する印刷物に対する発光状態の取得方法に合わせて適宜測定すれば良いが、発光強度、発光画像及び明度ラインプロフィールのすべてに対して測定しておくことが好ましい。
【0092】
以上の説明については、図8における点線で囲んだ工程(Step)及び発光状態を読み取る方法の詳細を示した図9についてであり、この工程までで実際の真偽判別は可能であるが、判定結果を表示(Step5)し、さらには、出力することとしても良い。
【0093】
また、図10は、図8及び図9における真偽判別方法に対して、さらに二つの工程(StepA)(StepB)を追加した態様を示している。
【0094】
まず、StepAについては、樹脂組成物が二光子励起による発光を伴なっていない状態での発光の有無、通常の蛍光顔料を含むインキのみ又は樹脂組成物と通常の蛍光顔料を混合したインキに対する発光状態を読み取るための工程であり、このStepAについては、前述した第1の照射工程(Step1)よりも前の工程として行う。
【0095】
StepAの詳細として、真偽判別を行う対象の印刷模様に対して、第3の照射工程(StepA−1)として、第2の照射工程(Step2)において照射する紫外線と同じ紫外線となる第2の波長域である長波の紫外線を照射する。この時、樹脂組成物のみを含んだインキにより印刷模様が形成されている場合には発光することはない。前述のとおり、第3の照射工程と記載してあるが、第1の照射工程よりも前の工程として行う。
【0096】
次に、第2の読取工程(StepA−2)として、第3の照射工程(StepA−1)において第2の波長域である長波の紫外線を照射した際の印刷模様の状態を取得する。印刷模様の状態を取得する方法は、第1の読取工程(Step3)と同様であるため省略する。取得されたデータについては、第1の読取工程(Step3)により取得されたデータと共に解析判定工程(Step4)において真偽の判定に用いることとなる。
【0097】
さらにStepBについては、樹脂組成物が二光子励起により発光した後、約85℃程度の熱を加えると、再度、第2の波長である長波の紫外線を照射しても発光しないという特徴を利用して、真偽判別の信憑性を得るための工程である。
【0098】
StepBの詳細として、真偽判別を行う対象の印刷模様に対して、第1の照射工程(Step1)及び第2の照射工程(Step2)により二光子励起による発光状態を読み取った後、約85℃程度の熱を加える加熱工程(StepB−1)を行う。加熱することにより、一度基底状態に戻して発光強度を減衰させ、第4の照射工程(StepB−2)として、第2の照射工程(Step2)及び第3の照射工程(StepA−1)と同じ紫外線となる第2の波長域の紫外線を照射する。この時、樹脂組成物のみを含んだインキにより印刷模様が形成されている場合には発光することはない。
【0099】
次に、第3の読取工程(StepB−3)として、第2の波長域の長波の紫外線を照射する第4の照射工程(StepB−2)時における印刷模様の状態を取得する。印刷模様の状態を取得する方法は、第1の読取工程(Step3)及び第2の読取工程(StepA−2)と同様であるため省略する。取得されたデータについては、第1の読取工程(Step3)及び第2の読取工程(StepA−2)により取得されたデータと共に解析判定工程(Step4)において真偽の判定に用いることとなる。
【0100】
以下、本発明における特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法及び真偽判別装置について、実施例を用いて詳細に説明するが、以下の実施例に限定されることはなく、特許請求の範囲に記載された技術的な範疇であれば、適宜、変更が可能なことは言うまでもない。
【実施例1】
【0101】
実施例1として、図11に示す商品券(14)には、偽造防止要素として、基材(1)の左下部に二つの印刷模様が印刷され、他の偽造防止要素として右側にスレッド(15)が施されている。
【0102】
基材(1)の左下部に印刷されている二つの印刷模様については、一方(太陽)の印刷模様(2)は、二光子励起による発光を伴う樹脂組成物が含まれている第1のインキによって印刷されており、他方(木)の印刷模様(3)は、二光子励起による発光を伴う樹脂組成物を含まない第2のインキによって印刷されており、二つの模様(インキ)は、可視光下では同じ赤色の色彩を有している。
【0103】
第1のインキは、ジペンタエリスルトールペンタ(ヘキサ)アクリレート(東亜合成株式会社製 アロニックスM-400)70wt%、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(日本化薬株式会社製 KAYARAD R-604)10wt%、ウレタンアクリレート(荒川工業株式会社製 ビームセット505A-6)20wt%の割合で調整した組成物98wt%に対し、赤色顔料ノボパームカーミンHF4C 2wt%、光重合開始剤2−ヒドロキシー1−{4−[4−(2−ヒドロキシ2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]―フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ Irgacure127)外割2wt%、消泡剤(ビッグケミー社製BYK-1790)0.5wt%の割合で調整し、二光子励起により発光するインキを得た。なお、このインキに配合した組成物の官能基密度は、7.77mmol/gである。
【0104】
第2のインキは、ジペンタエリスルトールペンタ(ヘキサ)アクリレート(東亜合成株式会社製 アロニックスM-400)70wt%、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(日本化薬株式会社製 KAYARAD R-604)10wt%、ウレタンアクリレート(荒川工業株式会社製 ビームセット505A-6)20wt%の割合で調整した組成物98wt%に対し、赤色顔料ノボパームカーミンHF4C 2wt%、光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ Irgacure184)外割2wt%,消泡剤(ビッグケミー社製BYK-1790)外割0.5wt%の割合で調整し、二光子励起により発光しないインキを得た。
【0105】
この第1のインキ及び第2のインキを用いて、用紙製造工程において施されたスレッド入りの用紙に対し、200メッシュのテトロンバイアス版面を使用して印刷模様(2)及び印刷模様(3)をスクリーン印刷方式により印刷した。なお、基材(1)に印刷されている文字については、オフセット印刷方式により印刷している。
【0106】
この商品券(14)を、図7に示す本発明の真偽判別装置(13)を用いて真偽判別を行った。なお、真偽判別装置(13)の構成としては、まず、光源部として、中波紫外線を照射するための第1の光源(4)は、ランプ出力2.4kWのメタルハライドランプを用い、一般的な蛍光発光を伴なわせる第2の光源(5)は、ブラックライトを用いている。また、本実施例1では、発光光量を取得することにより真偽判別を行う方法としたため、二光子励起による発光状態を読み取る読取部(6)として、特定の波長域を通過させるバンドパスフィルタと、通過してくる光を受光するための光電変換センサであるフォトダイオードを用いた。さらに、フォトダイオードにより受光した光を光電変換して電気信号とし、その電気信号の強度を高めるための増幅器(8)と、強度を高められた信号をデジタルデータ化するためのAD変換器(9)を備えている。
【0107】
データ処理部としてパーソナルコンピュータ(10)を用い、パーソナルコンピュータは(10)、取得した発光光量の解析結果及び真偽の判定結果を表示するディスプレイ(11)を備えている。
【0108】
さらに、本実施例1の真偽判別装置(13)は、対象の印刷物を真偽判別する際に、簡易的な基材の移動を行えるベルト(7)と、紫外線照射時における外光を遮断するためのブラックボックス(12)を備えている。
【0109】
前述した真偽判別装置(13)を用いて、実施例1における商品券(14)に対しての真偽判別を行った。
【0110】
商品券(14)を可視光下で観察すると、左下部の二つの印刷模様は同じ赤色の模様として確認された。この商品券(14)をブラックボックス(12)内の第1の光源(4)よりも前のベルト上に、図11に示した商品券(14)の向き(右側にスレッド(15)がくるように)で載置し、真偽判別装置(13)の稼動用スイッチ(図示せず)を押す。スイッチを押したことにより、商品券(14)が載置されたベルトが動き出すと同時に、二つの光源から所定の紫外線照射が行われた。まず、第1の光源(4)であるランプ出力2.4kWのメタルハライドランプから50mJ/cm程度の中波の紫外線が商品券(14)に照射され、ベルトの移動に伴ない第2の光源(5)であるブラックライトから長波の紫外線が商品券(14)に照射された。
【0111】
第2の光源(5)から紫外線が照射された時点における発光状態を読取部(6)により取得し、増幅器(8)及びAD変換器(9)を経由したデジタルデータをデータ処理部を有するパーソナルコンピュータ(10)によって、あらかじめ記憶してある真正の基準データと比較した。
【0112】
比較したそれぞれのデータを図12に示す。図12(a)は、商品券(14)に対して本発明による真偽判別装置を用いて発光光量を測定したグラフであり、図12(b)は、あらかじめ測定してある真正の商品券の発光光量を示すグラフである。図12(a)に示すように、「太陽」の印刷模様(2)は二光子励起による発光を伴うため、グラフ中のBの範囲のとおり、発光光量が高くなるが、「木」の印刷模様(3)は、発光を伴なわないため、グラフ中のCの範囲のとおり、印刷模様(2)の発光光量よりも低い値を示している。この取得した商品券(14)のデータと、あらかじめ記憶してある真正の基準データ(図12(b))とを比較すると、同じ発光光量を示しており、商品券(14)は、真正品の商品券であることが判定できた。なお、比較したデータ及び判定結果は表示部であるディスプレイ(11)に表示されている。
【0113】
本実施例1では、真偽判別装置(13)として、発光状態を取得するための読取部(6)を、第2の光源(5)に対応した位置にのみ設置したが、第1の光源(4)に対応した位置にも読取部(6)を設け、第1の光源(4)における発光状態も取得して、併せて真正のデータと比較しても良い。ただし、本実施例1における商品券(14)については、第1の光源(4)からの紫外線の照射だけでは「太陽」の印刷模様(2)も発光しないため、二つの印刷模様は、同じ値を示すこととなる。
【実施例2】
【0114】
実施例2については、実施例1の商品券(14)と同じ商品券(14’)を用いているが、「木」の印刷模様(3)を印刷するためのインキは、通常の蛍光発光を伴う蛍光顔料を含んだ第3のインキを用いた。したがって、実施例1と同じ第1のインキ、他の文字及びスレッド(15)については省略し、第3のインキのみ以下に示す。
【0115】
第3のインキは、ジペンタエリスルトールペンタ(ヘキサ)アクリレート(東亜合成株式会社 アロニックスM-400)70wt%、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジアクリレート(日本化薬株式会社 KAYARAD R-604)10wt%、ウレタンアクリレート(荒川工業株式会社 ビームセット505A-6)20wt%の割合で調整した組成物93wt%に対し、赤色顔料ノボパームカーミンHF4C 2wt%、緑色蛍光顔料(根本特殊化学株式会社製D1164)5wt%、光重合開始剤1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ Irgacure184)外割2wt%、消泡剤(ビッグケミー社製BYK-1790)外割0.5wt%の割合で調整し、二光子励起により発光しない蛍光発光性インキである。
【0116】
次に、本実施例2における真偽判別装置(13’)について説明する。なお、実施例1と同じ構成については省略する。本実施例2については、真偽判別の方法を明度のラインプロフィールを用いて行うこととしたため、読取部の構成として、特定の波長域の光を選択的に透過させるシャープカットフィルタと、フィルタを通過してきた光を画像として取得するCCDカメラとした。
【0117】
また、通常の発光状態を検知し、その状態でのデータを真正の基準データと比較するため、商品券(14’)の移動方向に対して、第1の光源(4)よりも前の位置に、第2の光源(5)と同じブラックライトの第3の光源(16)と、第3の光源(16)による発光状態を読み取るための第2の読取手段(17)を設けている。
【0118】
また、樹脂組成物の特徴として、85℃程度の熱を加えると、樹脂組成物は基底状態に戻り、発光強度が減衰して発光しなくなる。この原理を利用し、一度、二光子励起により発光させた後、加熱ローラ(18)を第2の光源(6)の後に設置し、さらにその後の位置に、第2の光源(5)と同じブラックライトの第4の光源(19)と、第4の光源(19)による発光状態を読み取るための第3の読取手段(20)を設けている。
【0119】
この真偽判別装置(13’)を用いて、実施例2における商品券(14’)の真偽判別を行った。まず、商品券(14’)に対して第3の光源(16)から長波の紫外線を照射し、その時の発光状態を第2の読取手段(17)で読み取り、読み取った画像を増幅器(8’)及びAD変換器(9’)を介して信号としてデータ処理部のパーソナルコンピュータ(10)へ送信する。なお、この第3の光源(16)からの長波の紫外線により、通常の蛍光顔料を含んだ第3のインキで印刷された「木」の印刷模様(3)のみが緑色に蛍光発光している状態である。
【0120】
次に、ベルトにより商品券(14’)は搬送され、第1の光源(4)から50mJ/cm程度の中波の紫外線が照射され、続けて移動しながら第2の光源(5)から長波の紫外線が照射される。第2の光源(5)から長波の紫外線が照射された時の発光状態を第1の読取手段(6)で読み取り、読み取った画像を増幅器(8)及びAD変換器(9)を介し、信号としてパーソナルコンピュータ(10)へ送信する。この時、「太陽」の印刷模様(2)は、二光子励起により赤色に蛍光発光し、「木」の印刷模様(3)は、緑色に蛍光発光している。
【0121】
次に、ベルトにより商品券(14’)は搬送され、加熱ローラ(18)によって85℃程度の熱が加えられる。さらに商品券(14’)は、ベルトにより搬送されて第4の光源(19)から長波の紫外線が照射され、その時の発光状態を第3の読取手段(20)によって読み取る。読み取った画像を増幅器(8’’)及びAD変換器(9’’)を介し、信号としてパーソナルコンピュータ(10)へ送信する。なお、ブラックボックス(12)により肉眼での確認はできないが、樹脂組成物を含んだインキにより印刷されている「太陽」の印刷模様(2)については、加熱ローラ(18)により基底状態に戻ることから、この第4の光源(19)から照射される長波の紫外線では蛍光発光せず、通常の蛍光顔料を含んだ第3のインキで印刷された「木」の印刷模様(3)のみ、緑色に蛍光発光している状態である。
【0122】
それぞれの発光状態を読み取る各読取手段(6、17、20)については、前述のとおりCCDカメラ等により画像として取得し、取得した画像データに対して、図11に示した直線状の測定範囲(K)において、明度に関するラインプロフィール解析を行う。なお、直線状の測定範囲(K)に対するラインプロフィール解析は、市販の処理ソフトを用いることで可能である。
【0123】
商品券(14’)における直線状の測定範囲(K)のラインプロフィール解析を行った結果は図14のとおりである。図14(a)は、第3の光源(16)から長波の紫外線を照射した際の発光状態を第2の読取手段(17)で読み取った結果であり、通常の蛍光顔料を含んだ第3のインキで印刷された「木」の印刷模様(3)のみが緑色に蛍光発光していることから、その箇所の明度が高くなっている状態がわかる。この時点では、二光子励起による発光を伴う樹脂組成物を含んだ第1のインキにより印刷されている「太陽」の印刷模様(2)は蛍光発光していないため、他の箇所との明度の差異は見受けられていない。
【0124】
図14(b)は、第1の光源(4)を経て、第2の光源(5)から長波の紫外線を照射した際の発光状態を第1の読取手段(6)で読み取った結果であり、通常の蛍光顔料を含んだ第2のインキで印刷された「木」の印刷模様(3)が緑色に蛍光発光しているとともに、二光子励起による発光を伴う樹脂組成物を含んだ第1のインキにより印刷されている「太陽」の印刷模様(2)が赤色に蛍光発光しているため、ラインプロフィールも、その2箇所に該当するところの明度が高くなっている。通常の蛍光顔料を含んだ第2のインキの発光状態の方が強いため、二光子励起による発光を伴う樹脂組成物を含んだ第1のインキよりも明度のラインプロフィールが高い値を示している。
【0125】
さらに、図14(c)は、加熱ローラ(18)を経て、第4の光源(19)から長波の紫外線を照射した際の発光状態を第3の読取手段(20)で読み取った結果である。一度加熱ローラ(18)にて商品券(14’)を85℃程度加熱していることから、樹脂組成物が基底状態に戻り、長波の紫外線では蛍光発光しない状態となっている。したがって、最初の状態である第3の光源(16)から長波の紫外線を照射した際の発光状態同様、通常の蛍光顔料を含んだ第2のインキで印刷された印刷模様「木」(3)のみが緑色に蛍光発光しているため、その箇所のみの明度が高くなっている状態がわかる。
【0126】
この状態と、あらかじめ記憶手段に記憶してある真正の商品券(14’)の明度のラインプロフィール結果とを比較し、同じ結果であることから、真正の商品券であるという判定結果が表示部であるディスプレイ(11)に表示された。
【0127】
本発明における真偽判別装置については、実施例1及び実施例2において、ブラックボックス内を移動可能なテーブルで搬送させながら真偽を判別する装置として説明してきたが、この装置構成に限定されるものではなく、光源部及び読取部を有するコンパクト化された装置とし、配線を用いてデータ処理部及び制御部を備えたコンピュータと接続させることでも良い。
【符号の説明】
【0128】
1 基材
1’ 基材の画像
2 樹脂組成物を含むインキにより印刷された模様
2’ 樹脂組成物を含むインキにより印刷された模様の画像
3 脂組成物を含まないインキにより印刷された模様
3’ 樹脂組成物を含まないインキにより印刷された模様の画像
4 第1の光源
5 第2の光源
6、6’ 第1の読取手段
7 載置テーブル
8、8’ 増幅器
9、9’ AD変換器
10 パーソナルコンピュータ
11 表示部
12 ブラックボックス
13、13’ 真偽判別装置
14、14’ 商品券
15 他の偽造防止要素(スレッド)
16 第3の光源
17 第2の読取手段
18 加熱ローラ
19 第4の光源
20 第3の読取手段
A 蛍光顔料を含むインキにより印刷された模様の明度
B 樹脂組成物を含むインキにより印刷された模様の明度
C 蛍光顔料及び樹脂組成物を含まないインキにより印刷された模様の明度
K 測定箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の少なくとも一部に、二光子励起により蛍光発光する樹脂組成物を含むインキにより印刷された印刷模様を有する印刷物の真偽判別装置であって、
第1の波長域の紫外線を照射可能な第1の光源及び第2の波長域の紫外線を照射可能な第2の光源を少なくとも備えた光源部と、
前記第2の光源によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取る読取部と、
前記読取部によって読み取った結果を解析して真偽を判定するデータ処理部と、
前記光源部からの光照射及び発光検出タイミング等、各部の制御を行う制御部を少なくとも備えた特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項2】
前記第1の波長域は、260nm以上330nm未満の範囲であり、前記第2の波長域は、330nm以上410nm以下であることを特徴とする請求項1記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項3】
前記読取部は、前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第1の読取手段を少なくとも備え、前記第1の読取手段によって変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項4】
前記読取部は、前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第1の読取手段を少なくとも備え、
前記第1の読取手段は、前記電気信号をデジタルデータに変換する機能を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項5】
前記データ処理部は、前記読取部で読み取った結果を解析して定量的な評価値を算出する解析手段と、あらかじめ真正の算出データを基準値として記憶する記憶手段と、前記定量的な評価値と前記基準値とを比較して真偽を判定する判定手段から成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項6】
前記光源部は、前記第2の波長域の紫外線と同じ紫外線を、前記第1の光源から照射する第1の波長域の紫外線よりも先に照射可能な位置に配置された第3の光源を備え、
前記読取部は、前記第3の光源によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第2の読取手段と、前記第2の読取手段により変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段とを備えたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項7】
前記第2の光源から第2の波長域の紫外線を照射した後に、前記印刷物を加熱するための加熱部を備え、
前記加熱部によって加熱された前記印刷物に印刷された印刷模様に対し、前記第2の波長域の紫外線と同じ紫外線を照射可能な第4の光源を前記光源部に備え、
前記第4の光源によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取り、読み取った結果を電気信号に変換する第3の読取手段と、前記第3の読取手段により変換された電気信号をデジタルデータに変換するAD変換手段を、前記読取部に備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項8】
前記第1の読取手段、前記第2の読取手段及び前記第3の読取手段は、特定の波長域を通過させる少なくとも一つのフィルタと、前記少なくとも一つのフィルタを通過してきた光を受光する光電変換センサ、CCDカメラ又はCMOSカメラを少なくとも有して成ることを特徴とする請求項3乃至7のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項9】
前記読取部は、前記第1の読取手段、前記第2の読取手段及び前記第3の読取手段において変換した電気信号の強度を高める増幅手段を、各読取手段に対応して備えたことを特徴とする請求項3乃至8のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項10】
前記判定手段により真偽を判定した結果を表示する表示部を備えたことを特徴とする請求項5乃至9のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項11】
前記表示部は、前記読取部を構成する少なくとも一つの読取手段に対応しており、第1の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第1の表示手段、第2の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第2の表示手段及び/又は第3の読取手段によって読み取られた結果に対する判定結果を表示する第3の表示手段を備えたことを特徴とする請求項10記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項12】
前記表示部は、前記読取部が二つ以上の読取手段により構成されている場合、一つの表示手段によって判定結果を表示することを特徴とする請求項11記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別装置。
【請求項13】
基材上の少なくとも一部に、二光子励起により蛍光発光する樹脂組成物を含むインキにより印刷された印刷模様を有する印刷物の真偽判別方法であって、
前記印刷模様に対して、第1の波長域の紫外線を照射する第1の照射工程と、
前記第1の照射工程後、前記印刷模様に対して、第2の波長域の紫外線を照射する第2の照射工程と、
前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取る第1の読取工程と、
前記読み取った結果と真正の算出データとを比較して真偽を判定する解析判定工程から少なくとも成ることを特徴とする特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項14】
前記第1の波長域は、260nm以上330nm未満の範囲であり、前記第2の波長域は、330nm以上410nm以下であることを特徴とする請求項13記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項15】
前記読取工程は、前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様が発する光を特定の波長域を通過させるフィルタを介して受光し、前記受光した光を電気信号に変換し、前記電気信号をデジタルデータに変換することを特徴とする請求項13又は14記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項16】
前記読取工程は、前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を、特定の波長域を通過させるフィルタを介して画像として取得することを特徴とする請求項13又は14記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項17】
前記読取工程は、前記変換した電気信号の強度を増幅してからデジタルデータに変換することを特徴とする請求項15記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項18】
前記解析判定工程は、前記デジタルデータを解析して定量的な評価値を算出し、あらかじめ算出してある真正の算出データと前記定量的な評価値とを比較して真偽を判定することを特徴とする請求項15又は17記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項19】
前記解析判定工程は、前記読取工程で取得した画像と、あらかじめ取得してある真正の画像とを比較して真偽を判定することを特徴とする請求項16記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項20】
前記第1の照射工程よりも前の工程に、前記印刷模様に対して、前記第2の波長域の紫外線と同じ波長域の紫外線を照射する第3の照射工程と、前記第3の照射工程によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取る第2の読取工程を有して成ることを特徴とする請求項13乃至19のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項21】
前記第2の照射工程よりも後の工程に、前記印刷物を加熱する加熱工程と、
前記加熱された印刷物に対して、前記第2の波長域の紫外線と同じ波長域の紫外線を照射する第4の照射工程と、前記第4の照射工程によって前記第2の波長域の紫外線が照射された際の前記印刷模様を読み取る第3の読取工程を有して成ることを特徴とする請求項13乃至20のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。
【請求項22】
前記解析判定工程によって判定された結果を表示する工程を有することを特徴とする請求項13乃至21のいずれか1項記載の特殊発光を有する印刷物の真偽判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−39979(P2011−39979A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189221(P2009−189221)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】