説明

特異的免疫寛容を誘導するための組成物

本発明は、ペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する宿主の免疫寛容を誘導する組成物に関し、前記組成物は、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、ペプチド性またはタンパク質性の自己抗原、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質およびペプチド性またはタンパク質性の移植抗原からなる群から選択される有効成分を含有する赤血球を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド性もしくはタンパク質性の有効成分、特に、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、ペプチド性もしくはタンパク質性の自己抗原、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質またはペプチド性もしくはタンパク質性の移植抗原に対する宿主の免疫寛容を誘導する組成物に関する。本発明は、さらにヒトを含む哺乳動物の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、免疫寛容の誘導を促進することが知られている。これは、肝臓での食物抗原および肝臓同種移植片の受容における寛容化によって例示される。肝臓に運ばれた一部の外来抗原に対するいくつかの抗原特異的寛容も実証されている。E. Breousら、Hepatology、2009年8月、612〜621ページには、肝臓の制御性T細胞およびクッパー細胞が、マウスの肝臓を標的とする抗原に対する全身のT細胞の寛容の非常に重要なメディエーターであることが報告されている。E. Breousらには、肝臓に対する遺伝子導入モデルでは、抗原に応答して免疫抑制性サイトカインであるインターロイキンIL-10を分泌する肝臓の制御性T細胞によって非自己抗原に対する細胞傷害性Tリンパ球の応答が抑制されることが報告されている。さらに、クッパー細胞は、この状況において免疫応答を生じるのではなく寛容原性となる。
【0003】
クッパー細胞の寛容原性の役割について、C. Juら、Chem. Res. Toxicol. 2003年、16:1514〜1519ページにより報告されている。A.H. Lauら、Gut 2003年、52:1075〜1078ページも参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】EP-A-101 341
【特許文献2】EP-A-679 101
【特許文献3】WO2006/016247
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】E. Breousら、Hepatology、2009年8月、612〜621ページ
【非特許文献2】C. Juら、Chem. Res. Toxicol. 2003年、16:1514〜1519ページ
【非特許文献3】A.H. Lauら、Gut 2003年、52:1075〜1078ページ
【非特許文献4】European Medicines Agency、Committee for Medicinal products for human use(CHMP)、Guidelines on immunogenicity assessment of biotechnology-derived therapeutic proteins、Draft、London、2007年1月24日
【非特許文献5】Romero P.J.、Romero E.A.、Blood Cells Mol. Dis. 25(1999年)9〜19ページ
【非特許文献6】Bratosin D.ら、Cell Death Differ. 8(2001年)1143〜1156ページ
【非特許文献7】R. Seguraら、J. Immunol、2006年1月、176(1):441〜50ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、さまざまなペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する免疫寛容の誘導のために使用できる組成物を提供することを目的とする。本発明は、特に、1つまたはいくつかのペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する特異的免疫寛容を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、ペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する宿主の免疫寛容を誘導する組成物であって、前記有効成分を含有する赤血球含む組成物である。この有効成分は、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、ペプチド性もしくはタンパク質性の自己抗原、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質またはペプチド性もしくはタンパク質性の移植抗原およびそれらの混合物であり得る。
【0008】
有効成分は、天然、合成または組換え型起源のものとすることができる。分子を「含有する」とは、対象のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質を含有する分子と、任意の起源のものであってもよい、前記ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の作用に有害でない別の部分とを包含することが意図される。例えば、そのような部分としては、ハプテンが挙げられる。
【0009】
理論に縛られるものではないが、本発明による組成物は、抗原に特異的な制御性T細胞(Treg)を誘導し、免疫抑制性サイトカインまたはインターロイキン、特にIL-10を産生すると考えられる。
【0010】
治療用薬剤として生物学的なおよび/または生物工学により得られるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質がますます使用されている。しかしながら、こうした薬剤は、体液性および/または細胞性免疫応答を誘導する可能性があることが認識されてきた。そのような治療用薬剤に対する免疫反応の結果は、臨床的に重要でない一過性の抗体の出現から、生命に関わる重度の状態にまで及ぶ。可能性のある臨床的結果は、重度な過敏症型の反応、効力の低下、および内因性のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に対する抗体を含む自己免疫の誘導である(European Medicines Agency、Committee for Medicinal products for human use(CHMP)、Guidelines on immunogenicity assessment of biotechnology-derived therapeutic proteins、Draft、London、2007年1月24日)。
【0011】
治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、定義によるとペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、または、病態、特に、この分子の投与によって治すことができる欠乏症による病態を治療する際に有効である分子を含有するペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質である。
【0012】
ある実施形態において、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は抗体である。これは、任意のそのフラグメントを包含する。
【0013】
別の実施形態において、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は凝固因子である。これは、任意のそのフラグメントを包含する。
【0014】
別の実施形態において、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は酵素である。これは、任意のそのフラグメントを包含する。
【0015】
別の実施形態において、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は増殖因子である。これは、任意のそのフラグメントを包含する。
【0016】
フラグメントという用語は、全分子の代わりとして関連する病態を治療する際に効率的であることが知られるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質のあらゆるフラグメントを包含するために使用される。
【0017】
これらの定義には、グリコシル化型も包含される。
【0018】
ある実施形態において、有効成分はリソソーム酵素である。リソソーム酵素は、酵素補充療法(ERT)によって、ポンペ病(糖原病II型)、ファブリー病およびムコ多糖症MPS Iを含むリソソーム蓄積症を治療するまたは治すために使用されるものであってもよい。例として、以下を挙げることができる:
-ポンペ病を治療するためのアルファグルコシダーゼ酵素、例えば、Myozyme(登録商標);
-MPS Iを治療するためのラロニダーゼ、例えば、Aldurazyme(登録商標);
-ファブリー病を治療するためのアルファガラクトシダーゼAまたはアガルシダーゼアルファ、例えば、Fabrazyme(登録商標)およびReplagal(登録商標)。
【0019】
別の実施形態において、有効成分は、血友病を治療する際に有用な凝固因子である。凝固因子は、特に、血友病Aを治療するための第VIII因子であってもよい。凝固因子は、特に、血友病Bを治療するための第IX因子であってもよい。凝固因子は、両方の血友病を治療するための第VII因子であってもよい。
【0020】
ペプチド性またはタンパク質性の自己抗原は、定義によると正常な組織構成要素であり、自己免疫疾患のような、患者における有害な体液性または細胞性免疫応答の標的である抗原である。
【0021】
ある実施形態において、有効成分は、関節リウマチ(RA)に対するものである。
【0022】
別の実施形態において、有効成分は、多発性硬化症(MS)に対するものである。例えば、有効成分は、ミエリン塩基性タンパク質である。
【0023】
別の実施形態において、有効成分は、1型糖尿病およびLADA(成人潜在性自己免疫性糖尿病)などの若年性糖尿病に対するものである。例として、β細胞抗原、特に、グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、プロインスリンおよびインスリン様増殖因子-2(IGF2)ならびにそれらの混合物を挙げることができる。
【0024】
別の実施形態において、有効成分は、ぶどう膜炎に対するものである。網膜S抗原を挙げることができる。
【0025】
別の実施形態において、有効成分は、クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)に対するものである。
【0026】
別の実施形態において、有効成分は、全身性エリテマトーデスに対するものである。
【0027】
別の実施形態において、有効成分は、乾癬に対するものである。
【0028】
別の実施形態において、有効成分は、後天性の重症筋無力症に対するものである。例として、アセチルコリンレセプターを挙げることができる。
【0029】
アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、定義によると宿主のアレルギー反応の原因となるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であり、その反応には、アナフィラキシーショックが含まれることもある。
【0030】
ある実施形態において、アレルギー反応を誘導するこのペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、上述のような治療効果のある活性ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質であり、ここで、本発明は、それに対するいくらかまたはすべてのアレルギー反応を避けることおよびその無力化を可能にする。
【0031】
別の実施形態において、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質は、食物起源のもの、または、例えば、経口摂取後に血液循環に入りアレルギー反応を生じる可能性のある任意の他のタンパク質性もしくはペプチド性分子である。
【0032】
ペプチド性またはタンパク質性の移植抗原は、定義によると移植された組織によって提示され、患者の移植片拒絶、例えば、移植片対宿主病(GVHD)に関与する抗原である。
【0033】
ある実施形態において、移植抗原は、腎臓移植片拒絶に関与するものである。
【0034】
ある実施形態において、移植抗原は、心臓移植片拒絶に関与するものである。
【0035】
ある実施形態において、移植抗原は、肝臓移植片拒絶に関与するものである。
【0036】
「宿主」という用語は、好ましくはヒトを指すが、動物、特に、ペット(特に、イヌまたはネコ)およびスポーツのための動物(特に、ウマ)も指す。
【0037】
本発明によると、赤血球は、有効成分(AP)を含有する、すなわち、カプセル化し、これは、APが赤血球内部にある、または本質的に赤血球内部にあることを意味する。
【0038】
ある実施形態において、本組成物は、細網内皮系の抗原提示細胞(APC)を標的とする。特徴によると、赤血球は、細網内皮系の抗原提示細胞(APC)標的化を促進するように設計、選択または修飾される。
【0039】
好適な実施形態において、本組成物は、肝臓、特に、クッパー細胞を標的とする。特徴によると、赤血球は、肝臓標的化を促進するように設計、選択または修飾される。肝臓にAPが運ばれると、APの寛容、特にAPに特異的な寛容の誘導をもたらす。肝臓の寛容原性APCは、この寛容の誘導に関わっている。これらの細胞は、本質的にクッパー細胞(KC)、肝臓の未成熟樹状細胞および肝類洞内皮細胞である。
【0040】
好適な実施形態において、本組成物は、APCの炎症を促進する反応を抑えるために使用される。特徴によると、赤血球は、好ましくは、APCの炎症を促進する反応を抑えるように設計または修飾される。
【0041】
好適な実施形態において、本発明による組成物は、APを含有し、肝臓を標的とする赤血球を含む。本組成物は、肝臓のAPC、特にKCによるこうした赤血球の貪食を促進する。
【0042】
第1の実施形態によると、赤血球は、APを含有し、肝臓のAPC、特にKCによる前記赤血球の貪食を促進するために、前記赤血球の表面にあるエピトープを認識する免疫グロブリンとの免疫複合体の形態である。
【0043】
本組成物は、マクロファージによる貪食を促進することも可能にする。
【0044】
好ましくは、免疫グロブリンは、免疫グロブリンGである。
【0045】
適切にオプソニン化するために使用できる抗体として、抗アカゲザル抗体、抗グリコホリンA抗体および抗CR1(CR1=補体レセプタータイプ1)抗体が挙げられ得る。抗アカゲザル抗体が好適である。
【0046】
別の実施形態によると、肝臓標的化および/または炎症を促進する反応の阻害は、赤血球の表面を修飾する薬剤、特に、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3もしくはBS3)、グルタルアルデヒドまたはノイラミニダーゼなどの橋架け剤または架橋剤を使用した適切な化学的処理によって行われる。
【0047】
別の実施形態によると、肝臓標的化および/または炎症を促進する反応の阻害は、イオノフォアを使用することによって行われる。イオノフォアとは、当業者に周知のとおり、細胞膜の脂質二重層を通してイオンを移動させる脂溶性分子を意味する。イオノフォアは、特に、細胞膜の脂質二重層を通してイオンを移動させるために微生物によって合成されるような脂溶性分子であってもよい。一般に、イオノフォアは、イオンと複合体を形成することができ、イオンキャリアとして働く。
【0048】
ある実施形態において、イオノフォアは、カルシウムなどの二価カチオンと複合体を形成するものである。本発明によると、イオノフォアは、カルシウムとともに使用することができ、これは、細胞内カルシウム濃度を高め、ホスファチジルセリンを提示させ、これにより赤血球の早期老化をもたらす。
【0049】
例として、カルシウムイオノフォアA23187(カルシマイシン)が使用できる。A23187などのイオノフォアは、RBCの細胞内カルシウム濃度を上昇させることにより細胞の老化をもたらし、老化した赤血球の貪食が炎症を促進する反応を抑えると考えられる。これは、Romero P.J.、Romero E.A.、Blood Cells Mol. Dis. 25(1999年)9〜19ページおよびBratosin D.ら、Cell Death Differ. 8(2001年)1143〜1156ページによる。
【0050】
特定の実施形態において、少なくとも2つの標的化の方法が併用され、例えば、その場合、本組成物は、免疫複合体の形態であるAPを含有する赤血球を含み、肝臓での取り込み、およびAPC、特にKCによる貪食を促進するよう化学的に処理される。
【0051】
ある実施形態において、赤血球は、患者自身に由来する。
【0052】
別の実施形態において、赤血球は、血液型が適合したドナーに由来する。
【0053】
本発明による組成物は、同じ赤血球または異なる赤血球のそれぞれの中に1つまたは複数のAPを含んでもよい。
【0054】
赤血球中に有効成分をカプセル化するための技術は公知であり、本明細書において好適な、溶解-再封入による基本的な技術は、特許EP-A-101 341およびEP-A-679 101に記載されており、当業者はこれを参照することができる。この技術によると、透析要素の第1の区画(例えば、透析用チューブまたは透析用カートリッジ)には、赤血球の懸濁液が連続的に供給されると同時に、第2の区画は、赤血球を溶解させるために赤血球の懸濁液に対して低張である水溶液を含有し、次に、再封入ユニットでは、浸透圧および/またはコロイド浸透圧を増加させることによってAPの存在下で赤血球を再封入し、その後、APを含有する赤血球の懸濁液が収集される。
【0055】
現在までに挙げられてきた変形例のうち、WO2006/016247に記載されている方法が好ましいものとして挙げられ、これにより、効率的に、再現性よく、安全で、安定してAPをカプセル化することができる。この方法は、以下のステップを含む:
1-ヘマトクリット値が65%以上で等張液へ赤血球ペレットを懸濁して+1から+8℃の間に冷却するステップ、
2-前記赤血球ペレットの赤血球サンプルを使用して浸透圧脆弱性を測定するステップ、
ステップ1および2は任意の順序(同時も含む)で行うことができる、
3-同じチャンバー内において+1から+8℃の間で一定に維持された温度でAPを溶解および内部移行するプロセスステップであって、ヘマトクリット値が65%以上の赤血球の懸濁液と、+1から8℃の間に冷却された低張の溶解液とを透析用カートリッジを通過させることを含み、溶解パラメータが、先に測定された浸透圧脆弱性に従って調節されるステップ、ならびに
4-内部温度が+30から+40℃の間の第2のチャンバーにおいて高張液の存在下で行われる再封入するプロセスステップ。
【0056】
「内部移行」は、赤血球内にAPが浸透することを意味することが意図される。
【0057】
特に、透析について、赤血球ペレットは、ヘマトクリット値が高い、65%以上、好ましくは70%以上で等張液に懸濁され、この懸濁液は、+1から+8℃の間、好ましくは+2から6℃の間、一般に、+4℃の領域に冷却される。特定の実施形態によると、ヘマトクリット値は、65%から80%の間、好ましくは70%から80%の間である。
【0058】
溶解のステップの直前に、赤血球に対して浸透圧脆弱性が測定されるのが有利である。赤血球または赤血球を含有する懸濁液は、溶解のために選択された温度に近い、またはそれと同じ温度であることが有利である。本発明の別の有利な特徴によると、浸透圧脆弱性の測定は、速やかに行われる。すなわち、サンプルが採取された直後に溶解プロセスが行われる。好ましくは、サンプルを採取してから溶解を開始するまでの間のこの時間は、30分以内、より好ましくは25分以内、さらには、20分以内である。
【0059】
浸透圧脆弱性が測定され、考慮されることを伴う溶解-再封入するプロセスが行われる手法に関するさらなる詳細について、当業者は、WO2006/016247を参照することができる。
【0060】
本発明の一特徴によると、本発明による組成物は、最終的に、ヘマトクリット値が約40%から約70%の間、好ましくは約45%から約55%の間、さらに良いのは約50%の赤血球の懸濁液を含む。本組成物は、好ましくは、約1から約250mlの容量で包装される。包装は、好ましくは、輸血または投与に適した種類の血液バッグ、シリンジおよび同種のものにおける包装である。処方箋に対応するカプセル化されたAPの量が、血液バッグ、シリンジおよび同種のものに完全に含有されるのが好ましい。
【0061】
本発明の目的はまた、ペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する宿主の免疫寛容を誘導するための方法であり、前記組成物は、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質、ペプチド性またはタンパク質性の自己抗原、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質およびペプチド性またはタンパク質性の移植抗原からなる群から選択される有効成分を含有する赤血球を含む。この方法は、有効量の本発明による組成物の宿主への投与、特に、注射または注入による、好ましくは、注入による静脈内投与を含む。
【0062】
本発明の一特徴によると、約1から約250ml、特に、約10から約250ml、一般に、約10から約200mlの赤血球の懸濁液が投与される。適切なヘマトクリット値、一般に約40%から約70%の間、好ましくは約45%から約55%の間、さらに良いのは約50%のヘマトクリット値である懸濁液が投与される。赤血球は、同時に示される有効成分(カプセル化された有効成分)に対する赤血球自体の寛容原性効果を有してもよい。したがって、多量の赤血球が、寛容原性効果に有利である場合がある。一方、上記のような肝臓標的化により、低用量の赤血球を使用することが可能になることもある。したがって、当業者は、患者に使用される有効成分および赤血球の最適な量を選択することができ、肝臓を標的とするために赤血球が処理されたか否かを考慮に入れることができる。
【0063】
本発明の目的はまた、投与される赤血球に存在する1つまたは複数の有効成分に特異的な免疫寛容を誘導するための本発明による組成物の使用である。
【0064】
本発明の別の目的は、投与される赤血球に存在する1つまたは複数の有効成分に特異的な免疫寛容を誘導するための医薬として使用するための本発明による組成物である。
【0065】
ここで、以下の添付図面を参照して非限定例による実施形態によって本発明のさらなる詳細を記載する。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】FOXP3を発現しているCD4 T細胞の百分率を表わすグラフである。
【図2】IL-10を産生している制御性CD4+ CD25+ T細胞の百分率を表わすグラフである。
【図3】脾臓におけるFOXP3を発現しているCD4 T細胞の百分率を表わすグラフである。
【図4】肝臓におけるFOX P3を発現しているCD4 T細胞の百分率を表わすグラフである。
【図5】OVAに特異的なCD8 T細胞の百分率を表わすグラフである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0067】
マウスの赤血球中へのFITC-デキストランのカプセル化
カラム低張透析(column hypotonic dialysis)を使用してFITC-デキストラン蛍光色素(70kDa)をマウス起源(OF1マウス)の赤血球中にカプセル化した。血液を遠心分離し、その後、PBSにより3回洗浄する。透析前に、最終濃度が8mg/mlになるように添加するFITC-デキストランの存在下で、ヘマトクリットを70%に調節する。容量オスモル濃度が低い溶解バッファに対して赤血球を2ml/分の速度で透析する(対流量15ml/分)。容量オスモル濃度が高い溶液および37℃での30分のインキュベーションを使用してカラムを出た溶解した赤血球を再封入する。グルコースを含有するPBSにより数回洗浄した後、細胞のヘマトクリットを50%にする。
【実施例2】
【0068】
FITC-デキストランを含有する赤血球に対するビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)1mMによる化学的処理
1.7×106細胞/μlにされる前に、FITC-デキストランをカプセル化した赤血球の懸濁液をPBSにより数回洗浄し、2mM BS3の1容量の緩衝液(BS3溶液は、グルコース0.09%およびリン酸緩衝液を含有する、pH7.4)と混合して最終BS3濃度の1mMを得る。細胞を室温で30分間インキュベートする。1容量の20mM トリス-HCl、NaCl 140mMを添加することによって反応をクエンチする。室温で5分間インキュベートした後、混合物を800gで5分間、4℃において遠心分離する。その後、最終生成物を構成するためにヘマトクリットを50%に調節する前に、グルコースを含有するPBSにより2回(800gで遠心分離)、さらにSAG-BSA 6%により1回(1000gで遠心分離)10分間、細胞を洗浄する。
【実施例3】
【0069】
FITC-デキストランを含有する赤血球に対するビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)5mMによる化学的処理
1.7×106細胞/μlにされる前にFITC-デキストランをカプセル化した赤血球の懸濁液をPBSにより数回洗浄し、10mM BS3の1容量の緩衝液(BS3溶液は、グルコース0.09%およびリン酸緩衝液を含有する、pH7.4)と混合して最終BS3濃度の5mMを得る。細胞を室温で30分間インキュベートする。1容量の20mM Tris-HCl、NaCl 140mMを添加することによって反応をクエンチする。室温で5分間インキュベートした後、混合物を4℃において800gで5分間遠心分離する。その後、最終生成物を構成するためにヘマトクリットを50%に調節する前に、グルコースを含有するPBSにより2回(800gで遠心分離)、さらにSAG-BSA 6%により1回(1000gで遠心分離)10分間、細胞を洗浄する。
【実施例4】
【0070】
A23187イオノフォアによるFITC-デキストランを含有する赤血球の処理
FITC-デキストランを含有する赤血球の懸濁液をHepes 10mM、NaCl 140mM、BSA 0.1%、CaCl2 2.5mMを含有するバッファAにより1回洗浄し、その後、バッファAを使用して懸濁液を1.106細胞/マイクロリットルに希釈する。DMSOに濃縮されているイオノフォアをバッファAにより希釈し、その後、細胞懸濁液に添加して最終濃度の0.15、0.2または0.3μMを得る。細胞を37℃で30分間インキュベートする。混合物を4℃において800gで6分間遠心分離する。その後、グルコースを含有するPBSにより2回(遠心分離800g)およびSAG-BSA 6%により1回(遠心分離1000g)細胞を洗浄し、最終生成物を得る。
【実施例5】
【0071】
マウスに赤血球を注射した後のFITC-デキストランの体内分布
実施例1で得られるとおりの、FITC-デキストランを含有するマウスOF1の赤血球およびBS3またはイオノフォアにより処理されたものまたは処理されていないもの(実施例2〜4による)の以下の5つのバッチを調製した:
バッチ1:未処理
バッチ2:BS3 1mM
バッチ3:BS3 5mM
バッチ4:イオノフォア 0.2μM
バッチ5:イオノフォア 0.3μM。
【0072】
それぞれのバッチをOF1マウスにJ1でIV注射する。注射の1時間30分後にマウスを屠殺し、血液、脾臓、肝臓および骨髄を回収する:50μlの血液アリコートならびに脾臓、肝臓および骨髄の場合は、それぞれ器官の全細胞を粉砕および均質化した後の50μlのアリコート。アリコートを-20℃で少なくとも20分間を凍らせ、その後、室温でゆっくりと解凍する。対照のマウスのアリコートを使用してFITC-デキストランの濃度の標準範囲を準備する:その場合、125μlの異なる濃度のFITC-デキストランによりアリコートを溶解させて濃度の標準範囲を構成する。
【0073】
125μlの蒸留水を使用して分析対象のサンプルのアリコートを溶解させる。その後、175μlのTCA 12%をアリコートに添加する。その後、混合物を4℃において15,000gで10分間遠心分離する。蛍光定量法による検出(励起494nm、発光521nm)の前に、200μlの酸上清を取り、500μlのトリエタノールアミン0.4Mを添加する。各サンプルのFITC-デキストラン濃度は、濃度の標準範囲を使用して求めることができ、その後、対応する器官に存在するFITC-デキストランの割合を推定できる。
【0074】
【表1】

【0075】
1mM BS3処理が赤血球の肝臓および脾臓標的化を誘導する一方、イオノフォア処理は赤血球の肝臓標的化のみを誘導する。イオノフォアの用量を増加させると標的化が向上する。
【実施例6】
【0076】
FITC-デキストランを含有する赤血球のマウスにおける貪食の測定
実施例1で得られるとおりの、FITC-デキストランを含有するマウスOF1の赤血球およびBS3またはイオノフォアにより処理されたものまたは処理されていないもの(実施例2〜4による)の5つのバッチを調製した:
バッチ1:未処理
バッチ2:BS3 1mM
バッチ3:BS3 5mM
バッチ4:イオノフォア 0.2μM
バッチ5:イオノフォア 0.3μM。
【0077】
それぞれのバッチをOF1マウスにJ1でIV注射する。注射の1時間30分後にマウスを屠殺し、肝臓を回収する。F4/80マーカーを発現している肝臓のマクロファージ、CD11bマーカーを発現している肝臓細胞およびCD11cマーカーを発現している肝樹状細胞に組み込まれた蛍光を、フローサイトメトリーを使用して測定した。
【0078】
【表2】

【0079】
BS3およびイオノフォア処理は、マクロファージ(F4/80およびCD11b)および樹状細胞による赤血球貪食を誘導する。BS3処理については、処理された赤血球を貪食する細胞の百分率は、処理のために使用されるBS3の量に用量依存的である。
【実施例7】
【0080】
マウスおよびヒトの赤血球中にオボアルブミンをカプセル化する方法
変形例1:
低張透析法により透析用チューブで、オボアルブミン(45kDaのタンパク質、雌鶏の卵オボアルブミン)をマウスの赤血球(OF1マウスまたはC57BL/6マウス)中にカプセル化した。透析のためにヘマトクリットを70%にする前に、赤血球懸濁液を数回洗浄した。熱処理後に透析を行った場合は、透析用チューブにおいて容量オスモル濃度が低い溶解緩衝液中で約1時間または30分間透析を行った。その後、容量オスモル濃度が高い溶液により赤血球を30分間再封入した。数回の洗浄後に、最終生成物を緩衝液、Sag-マンニトールに溶解させ、ヘマトクリットを50%にした。
【0081】
変形例2:
ここでは、低張透析法により透析カラムで、オボアルブミンをマウスの赤血球中にカプセル化した。透析のためにヘマトクリットを70%にする前に赤血球懸濁液を数回洗浄した。透析カラムにおいて容量オスモル濃度が低い溶解緩衝液中で約10分間透析を行った。カラムから出るとすぐに、容量オスモル濃度が高い溶液により赤血球を37℃で30分間再封入した。数回の洗浄後に、最終生成物を、グルコースSAGマンニトールを含有するNaClグルコース緩衝液または補体除去した血漿に溶解させ、ヘマトクリットを50%に戻した。
【実施例8】
【0082】
マウスの赤血球中にオボアルブミンをカプセル化するための方法
低張透析によってオボアルブミン(Worthington Biochemical Corporation、レイクウッド、ニュージャージー州)をマウスの赤血球中にカプセル化した。リチウムヘパリンに収集されたC57BL/6マウス血液から赤血球懸濁液を調製した。簡単にいえば、生理食塩水により赤血球を3回洗浄し、透析の前に血液のヘマトクリット(Hct)を70%に調節した。赤血球懸濁液にOVAを5または0.5mg/mlの最終濃度で添加した。80中空繊維透析装置(Gambro、リヨン、フランス)に逆流(15ml/分)して循環する細胞溶解緩衝液(容量オスモル濃度が50mOsmol/kg)に対して透析を行った(細胞流速2ml/分)。0.4g/lのアデニン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)、15.6g/lのイノシン(Sigma-Aldrich)、6.4g/lのピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、4.9g/lのリン酸一ナトリウム無水物(Sigma-Aldrich)、10.9g/lのリン酸二ナトリウム十二水和物(Sigma-Aldrich)、11.5g/lのグルコース一水和物(Sigma-Aldrich)および50g/lのNaCl(Sigma-Aldrich)を含有する高張液(1900mOsmol/kg)を添加する(10%最終容量)ことによって赤血球を「オンライン」で再封入した。赤血球を高張液とともに37℃で30分間インキュベートした。実施例15に記載されるように、0.9%NaCl 0.2%グルコース(Bioluz、サン-ジャン-ド-リュズ、フランス)により何回か洗浄した後、Hepes 10mM、NaCl 140mM、BSA 0.1%、CaCl2 2.5mMを含有するバッファAにより生成物を1回洗浄し、バッファAにより1.106細胞/μlに希釈し、0.15μMのカルシウムイオノフォアA23187(Sigma)により37℃で30分間処理した。0.9%NaCl 0.2%グルコースによる3回の洗浄後に、最終生成物を再懸濁し、補体除去したC57BL/6マウス血漿により最終生成物のヘマトクリットを50%に調節した(15%最終容量)。そのように得られた生成物を2〜8℃で保管した。
【実施例9】
【0083】
マウスの赤血球中にオボアルブミンをカプセル化するための方法
低張透析によってオボアルブミン(Worthington Biochemical Corporation、レイクウッド、ニュージャージー州)をマウスの赤血球中にカプセル化した。リチウムヘパリンに収集されたC57BL/6マウス血液から赤血球懸濁液を調製した。簡単にいえば、生理食塩水により赤血球を3回洗浄し、透析の前に血液のヘマトクリット(Hct)を70%に調節した。赤血球懸濁液にOVAを5または0.5mg/mlの最終濃度で添加した。透析用チューブに逆流(15ml/分)して循環する細胞溶解緩衝液(容量オスモル濃度が50mOsmol/kg)に対して透析を行った(細胞流速2ml/分)。透析後に、0.4g/lのアデニン(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)、15.6g/lのイノシン(Sigma-Aldrich)、6.4g/lのピルビン酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)、4.9g/lのリン酸一ナトリウム無水物(Sigma-Aldrich)、10.9g/lのリン酸二ナトリウム十二水和物(Sigma-Aldrich)、11.5g/lのグルコース一水和物(Sigma-Aldrich)および50g/lのNaCl(Sigma-Aldrich)を含有する高張液(1900mOsmol/kg)を添加する(10%最終容量)ことによって赤血球を再封入した。実施例14に記載されるとおり、高張液とともに赤血球を37℃で30分間インキュベートし、その後、BS3により化学的に処理した。
【0084】
0.9%NaCl 0.2%グルコース(Bioluz、サン-ジャン-ド-リュズ、フランス)により何回か洗浄した後、最終生成物を再懸濁し、補体除去したC57BL/6マウス血漿により最終生成物のヘマトクリットを50%に調節した(15%最終容量)。そのように得られた生成物を2〜8℃で保管した。
【実施例10】
【0085】
オボアルブミンを含有する赤血球に対する抗体処理
インビボ試験のために109細胞/mlおよびインビトロ試験のために108細胞/mlにする前に、オボアルブミンをカプセル化した赤血球の懸濁液を数回洗浄する。それを抗TER119抗体(インビトロ試験のために10μg/mlおよびインビボ試験のために23μg/mlまたは5μg/ml)とともに4℃で30分間インキュベートする。数回の洗浄後に、最終生成物を注射可能な品質の緩衝液に溶解させ、ヘマトクリットを50%にする。
【実施例11】
【0086】
インビトロにおけるオボアルブミンを含有する赤血球の樹状細胞による貪食の測定
実施例9により得られる赤血球の樹状細胞による貪食効率に対する抗体処理の効果を、インビトロにおいて測定する。蛍光ラベル、CFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)により、赤血球を4℃で20分間標識する。CFSEは、細胞膜を通って拡散する非蛍光色素である。細胞内に入ると、細胞内のエステラーゼによる切断後、分子が蛍光になる。
【0087】
電磁ビーズを使用してC57BL/6マウスの脾臓から樹状細胞を単離する。これらのビーズは、CD11cマーカーを認識する抗体を有することで、CD11c+樹状細胞部分を単離することを可能にする。
【0088】
その後、CFSE標識された、または標識されていない赤血球を、20:1の比率で最終容量200μl/ウェルの丸底の96ウェル培養プレート中で樹状細胞(10×106細胞/ml)とともに37℃において5%CO2で4時間インキュベートする。4時間の培養後に、NH4Clにより樹状細胞によって取り込まれなかった赤血球を溶解させ、何回か洗浄を行う。その後、樹状細胞によるCFSE蛍光色素の捕捉を、フローサイトメトリーによって測定する(R. Seguraら、J. Immunol、2006年1月、176(1):441〜50ページ)。
【0089】
3集団の赤血球を試験した:
(A)オボアルブミンを加えた、CFSE蛍光色素により標識されていない赤血球、
(B)オボアルブミンを加えた、CFSEにより標識された赤血球、
(C)オボアルブミンを加えた、抗TER119抗体により処理され、CFSEにより標識された赤血球。
【0090】
結果
【0091】
【表3】

【0092】
4時間の共培養の後、インビトロにおいて、オボアルブミンを加えた抗TER119抗体により処理されたマウスの赤血球は、脾臓から単離された樹状細胞によって未処理の赤血球よりも効率的に貪食された。抗体が存在しない場合は27%に過ぎないのに対して、36%の樹状細胞が抗体を有する赤血球を貪食した。
【実施例12】
【0093】
インビボにおけるマウスについてのオボアルブミンを含有する赤血球の脾臓および肝臓のマクロファージおよび樹状細胞による貪食の測定
OF1マウスのオボアルブミンを含有する赤血球を、同族でないC57BL/6マウスに注射するためこの研究は同種異系間の研究である。
【0094】
OF1マウスの、オボアルブミンを加え(実施例9)、抗TER119抗体により処理された(実施例10に記載されるとおり)または未処理の赤血球74×107の3つのバッチを調製する。これらのバッチは、以下のように分けられる:
バッチ1:抗体処理なし
バッチ2:抗TER119抗体により処理される。
【0095】
各バッチをCFSEにより標識し、C57BL/6マウスに静脈内注射する。注射の3時間後に、マウスの血液、脾臓および肝臓を採取する。マウスの血液中を循環する蛍光赤血球の百分率を、フローサイトメトリーによって測定する。フローサイトメトリーによって、F4/80マーカーを発現している脾臓のマクロファージ、F4/80マーカーを発現している肝臓のマクロファージおよびCD11cマーカーを発現している脾臓の樹状細胞に組み込まれた蛍光を測定する。
【0096】
結果
【0097】
【表4】

【0098】
注射の3時間後には、オボアルブミンを加えた、抗TER119抗体により処理されたマウスの赤血球がマウスの血液中にほとんど存在していない(1%)一方で、未処理の、オボアルブミンを加えた赤血球は依然としてマウスの血液中に存在している(4.6%)。
【0099】
抗TER119抗体により処理された赤血球は、脾臓のF4/80マクロファージおよびCD11c樹状細胞によって貪食される。
【0100】
抗TER119抗体により処理された赤血球は、脾臓のF4/80マクロファージによって未処理の赤血球よりも効率的に貪食された。未処理のバッチでは28%に過ぎないのに対して、81%の脾臓のマクロファージが抗体処理された赤血球を貪食した(Table 4(表4))。
【0101】
抗体処理された赤血球も、脾臓のCD11c樹状細胞によって未処理の赤血球よりも効率的に貪食された。それぞれ、未処理の赤血球の場合には5%に過ぎないのに対して、22%の樹状細胞が抗体処理された赤血球を貪食した(Table 4(表4))。
【0102】
【表5】

【0103】
抗TER119抗体により処理された赤血球は、肝臓のF4/80マクロファージによって貪食される。
【0104】
抗TER119抗体により処理された赤血球は、肝臓のF4/80マクロファージによって未処理の赤血球よりも効率的に貪食された。未処理のバッチの場合は24%に過ぎないのに対して、50%の肝臓のマクロファージが抗体処理された赤血球を貪食した(table 5(表5))。
【0105】
結論として、赤血球に抗体が結合することにより、脾臓および肝臓における赤血球の効率的な標的化、およびこうした赤血球を貪食できる樹状細胞およびマクロファージの百分率の大幅な増加を可能にする。
【実施例13】
【0106】
Poly(I:C)および抗体処理されたまたは未処理の、オボアルブミンを加えた赤血球のマウスへの1回の注射後の制御性T細胞、およびそれらの抗炎症性インターロイキン-10(IL-10)の産生の百分率の測定
この研究の目的は、Poly(I:C)および抗体処理された(抗TER119)または未処理の、オボアルブミンを加えた赤血球の注射後に、C57BL/6マウスにおける制御性T細胞の百分率を測定することであった。
【0107】
OF1マウスの、抗体処理されたまたは未処理の、オボアルブミンを加えた赤血球30×107の2つのバッチを実施例8に従って調製した。この研究では、等量の封入された、および遊離型オボアルブミンを注射し、負の対照は赤血球の保存液とした(グルコースを含むNaClを含有する33%の補体除去したマウス血漿)。マウスに注射した遊離型または封入されたOVAの量は2μgとした。マウスに注射した遊離型Poly(I:C)の量は25μgとした。
バッチ1:オボアルブミンを加えた赤血球およびPoly(I:C)
バッチ2:抗体処理されたオボアルブミンを加えた赤血球およびPoly(I:C)
【0108】
各バッチをC57BL/6マウスに静脈内注射した(各群あたり4匹のマウス)。バッチの注射の7日後に、マウスを殺しその脾臓を収集した。フローサイトメトリーによってFOXP3を発現しているCD4+ T細胞の百分率を測定するために(図1、Table 6(表6))、2.5×106の脾臓細胞を使用した。簡単にいえば、NH4Cl溶液(StemCell Technologies、カタログ番号7850)を使用したRBCの溶解後、脾臓細胞を、まずPC5-抗-CD4(Biolegend、カタログ番号BLE100514)およびFITC-抗-CD25モノクローナル抗体(Biolegend、カタログ番号BLE110569)により染色し、その後、PE-抗-FOXP3 mAb(Biolegend、カタログ番号320008)またはアイソタイプ対照とともにインキュベートする前に、固定および透過処理緩衝剤(Biolegend、カタログ番号421303)とともにインキュベートした。
【0109】
フローサイトメトリーによってIL-10を産生している制御性T細胞(CD4+ CD25+)の百分率を測定するために(図2)、脾臓細胞(5×106細胞/ml)を0.1μg/mlのOVA323-339ペプチド(Genscript、カタログ番号41007-1)とともに37℃において5%CO2空気中24ウェル培養プレート上で4時間培養した。培養開始1時間後に、サイトカインの分泌を妨げるためにブレフェルジンA(Ebioscience、カタログ番号420601)を添加した。培養の終わりに、細胞を、まずPC5-抗-CD4およびFITC-抗-CD25モノクローナル抗体により染色し、その後、PE-抗-IL-10 mAb(Biolegend、カタログ番号505008)またはアイソタイプ対照とともにインキュベートする前に、固定緩衝液(Biolegend、カタログ番号420801)および透過処理緩衝液(Biolegend、カタログ番号421002)とともにインキュベートした。
【0110】
保存液を注射した対照のマウスと比較して、Poly(I:C)および抗体処理されたOVAを加えた赤血球または遊離型OVAを注射後、転写因子FOXP3を発現している制御性CD4 T細胞の百分率は有意に増加した(図1、Table 6(表6)、スチューデント検定、それぞれp<0.007およびp<0.05)。
【0111】
【表6】

【0112】
それにもかかわらず、抗体処理されたOVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)の注射によって誘導された制御性T細胞のみが、OVAペプチドによるインビトロ再刺激後に抗炎症性サイトカイン(IL-10)を産生することができる(図2、Table 7(表7))。
【0113】
【表7】

【0114】
要約すると、抗体処理されたOVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)の注射は、抗原による再刺激後にIL-10を産生できる制御性T細胞の産生を誘導した。
【0115】
図1では、抗体処理された(黒い棒)もしくは未処理の(濃い灰色の棒)OVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)または遊離型OVAおよびPoly(I:C)(薄い灰色の棒)または対照の培地(白い棒)のC57BL/6マウスへの静脈内注射の7日後に、フローサイトメトリーによって脾臓のFOXP3+ CD4+ T細胞の百分率を決定した。マウスに注射した遊離型または封入されたOVAの量は2μgとし、Poly(I:C)の量は25μgとした。
【0116】
図2では、抗体処理された(黒い棒)もしくは未処理の(濃い灰色の棒)OVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)、または遊離型OVA(薄い灰色の棒)およびPoly(I:C)、または対照の培地(白い棒)を7日間注射されたC57BL/6マウスから単離された脾臓細胞のOVAペプチド0.1μg/mlによるインビトロ再刺激後に、フローサイトメトリーによって制御性CD4+ CD25+ T細胞によるIL-10の産生を決定した。マウスに注射した遊離型または封入されたOVAの量は2μgとし、Poly(I:C)の量は25μgとした。
【実施例14】
【0117】
オボアルブミンを含有する赤血球に対するBS3処理
PBSにより1.7×106細胞/μlにする前に、OVAをカプセル化する赤血球の懸濁液(実施例8)を数回洗浄し、2mM BS3の1容量の緩衝液(BS3溶液は、グルコース0.09%およびリン酸緩衝液を含有した、pH7.4)と混合して1mMの最終BS3濃度を得た。細胞を室温で30分間インキュベートした。1容量の20mM Tris-HCl、NaCl 140mMを添加することによって反応をクエンチした。室温で5分間インキュベートした後、混合物を4℃において800gで5分間遠心分離した。その後、補体除去した血漿によりヘマトクリットを50%に調節する前に、細胞をNaClグルコースにより10分間3回洗浄した(800gで遠心分離)。
【実施例15】
【0118】
オボアルブミンを含有する赤血球に対するイオノフォア処理
OVAをカプセル化する赤血球の懸濁液(実施例8)をHepes 10mM、NaCl 140mM、BSA 0.1%、CaCl2 2.5mMを含有するバッファAにより1回洗浄し、その後、バッファAを使用して懸濁液を1.106細胞/μlに希釈した。DMSOに濃縮されているイオノフォアをバッファAにより希釈し、その後、細胞懸濁液に添加して0.15μMの最終濃度を得た。細胞を37℃で30分間インキュベートした。混合物を4℃において800gで6分間遠心分離した。その後、補体除去した血漿によりヘマトクリットを50%に調節する前に、細胞をNaClグルコースにより10分間3回洗浄した(800gで遠心分離)。
【実施例16】
【0119】
肝臓を標的とするよう、および/またはAPCの炎症促進性反応(proinflammation response)を抑えるように処理された、オボアルブミンを加えた赤血球のマウスへの1回の注射後の肝臓および脾臓における制御性T細胞の百分率の測定
この研究の目的は、抗原輸送系として、肝臓を標的としAPCの炎症促進性反応を抑えるように処理されたRBCを使用することが、マウスの制御性T細胞の百分率を増加させることを実証することであった。
【0120】
C57BL/6マウスの、抗体処理、BS3処理またはイオノフォア処理されたオボアルブミンを加えた赤血球126×107のバッチを実施例8に従って調製した。マウスに注射した封入されたOVAの量は8μgとした。
バッチ1:イオノフォア処理されたオボアルブミンを加えた赤血球
バッチ2:BS3処理されたオボアルブミンを加えた赤血球
バッチ3:抗体処理されたオボアルブミンを加えた赤血球
バッチ4:抗体処理されたオボアルブミンを加えた赤血球およびPoly(I:C)
【0121】
各バッチをC57BL/6マウスに静脈内注射した(各群あたり3匹のマウス)。バッチの注射の7日後に、マウスを殺し、その脾臓および肝臓を収集した。フローサイトメトリーによって脾臓(図3、Table 8(表8))および肝臓(図4、Table 8(表8))におけるFOXP3を発現しているCD4+ T細胞の百分率を測定するために、1×106および2.5×106の肝臓細胞および脾臓細胞を使用した。簡単にいえば、NH4Cl溶液(StemCell Technologies、カタログ番号7850)を使用したRBCの溶解後、細胞を、まずPC5-抗-CD4(Biolegend、カタログ番号BLE100514)およびFITC-抗-CD25モノクローナル抗体(Biolegend、カタログ番号BLE110569)により染色し、その後、PE-抗-FOXP3 mAb(Biolegend、カタログ番号320008)またはアイソタイプ対照とともにインキュベートする前に、固定および透過処理緩衝剤(Biolegend、カタログ番号421303)とともにインキュベートした。
【0122】
図3では、イオノフォア処理(濃い灰色の棒)、BS3処理(灰色の棒)もしくは抗体処理された(薄い灰色の棒)OVAを加えた赤血球または抗体処理されたOVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)(黒い棒)または対照の培地(白い棒)のC57BL/6マウスへの静脈内注射の7日後に、フローサイトメトリーによって脾臓におけるFOXP3+ CD4+ T細胞の百分率を決定した。マウスに注射した封入されたOVAの量は8μgとした。
【0123】
図4では、イオノフォア処理(濃い灰色の棒)、BS3処理(灰色の棒)もしくは抗体処理された(薄い灰色の棒)OVAを加えた赤血球または抗体処理されたOVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)(黒い棒)または対照の培地(白い棒)のC57BL/6マウスへの静脈内注射の7日後に、フローサイトメトリーによって肝臓におけるFOXP3+ CD4+ T細胞の百分率を決定した。マウスに注射した封入されたOVAの量は8μgとした。
【0124】
フローサイトメトリーによってOVAに特異的なCD8 T細胞の百分率を測定するために(図5、Table 9(表9))、脾臓細胞をPC7-抗-CD8(Biolegend、カタログ番号BLE100722)、FITC-抗-CD3(Biolegend、カタログ番号BLE100203)およびPC5-抗-CD62Lモノクローナル抗体(Biolegend、カタログ番号BLE104410)ならびにPE-OVA-テトラマー(Beckman Coulter、カタログ番号T20076)により染色した。
【0125】
図5では、イオノフォア処理(濃い灰色の棒)、BS3処理(灰色の棒)もしくは抗体処理された(薄い灰色の棒)OVAを加えた赤血球または抗体処理されたOVAを加えた赤血球およびPoly(I:C)(黒い棒)または対照の培地(白い棒)のC57BL/6マウスへの静脈内注射の7日後に、フローサイトメトリーによって脾臓におけるOVAに特異的なCD8+ T細胞の百分率を決定した。マウスに注射した封入されたOVAの量は8μgとした。
【0126】
フローサイトメトリーによってIL-10を産生している制御性T細胞(CD4+ CD25+)の百分率を測定するために(Table 10(表10))、脾臓細胞(5×106細胞/ml)を0.1μg/mlのOVA323-339ペプチド(Genscript、カタログ番号41007-1)とともに、またはペプチドなしで、37℃において5%C02-空気中24ウェル培養プレート上で4時間培養した。培養開始1時間後、サイトカインの分泌を妨げるためにブレフェルジンA(Ebioscience、カタログ番号420601)を添加した。培養の終わりに、細胞を、まずPC5-抗-CD4およびFITC-抗-CD25モノクローナル抗体により染色し、その後、PE-抗-IL-10 mAb(Biolegend、カタログ番号505008)またはアイソタイプ対照とともにインキュベートする前に、固定緩衝液(Biolegend、カタログ番号420801)および透過処理緩衝液(Biolegend、カタログ番号421002)とともにインキュベートした。
【0127】
イオノフォア処理は、脾臓および肝臓の両方においてFOXP3を発現している制御性CD4 T細胞を有意に増加させることができる唯一の処理であった(Table 8(表8)、図3および4、p<0.05)。抗体処理は、脾臓のみにおいてFOXP3を発現している制御性CD4 T細胞を有意に増加させることができた(Table 8(表8)、図3、p<0.05)。
【0128】
【表8】

【0129】
Ab処理されたOVAを加えたRBCおよびPoly(I:C)の混注のみが、OVAに特異的なCD8 T細胞の百分率を増加させた(Table 9(表9)、図5)。
【0130】
【表9】

【0131】
Ab処理されたOVAを加えたRBCおよびPoly(I:C)の混注のみが、脾臓におけるIL-10を産生しているCD4+ CD25+ T細胞の百分率を増加させた。この産生は、OVAに特異的ではない(Table 10(表10))。
【0132】
【表10】

【実施例17】
【0133】
肝臓を標的としAPCの炎症促進性反応を抑えるよう処理された、オボアルブミンを加えた赤血球のマウスへの3回の注射後のOVAに対する免疫寛容の測定
この研究の目的は、肝臓を標的としAPCの炎症促進性反応を抑えるように処理された、OVAを加えたRBCの注射が、OVAおよびPoly(I:C)によって誘導されるOVA TおよびB細胞の応答を阻害することを実証することであった。
【0134】
処理の前に、C57BL/6マウスの血液のサンプル(200μl)を後眼窩穿刺(retro-orbital puncture)によってゲル状血清分離剤入りチューブ(Becton Dickinson、Microtainer TM SST、ref 365951)に収集して免疫前血清を得た。その後、マウスに対照の培地、遊離型OVAまたはC57BL/6マウスの血液により実施例8に従って調製したイオノフォア処理されたオボアルブミンを加えた赤血球のバッチを7、3および1日目の3回、静脈内注射した(各群あたり3から4匹のマウス)。マウスに注射した遊離型および封入されたOVAの量はそれぞれ120および90μgとした。0および21日目に、OVAおよびPoly(I:C)(それぞれ100μgおよび50μg/マウス)にマウスを曝露した。一部のマウスには、対照の培地のみを与えた。最後の注射の6日後、マウスの血液サンプル(200μl)を収集して免疫後血清を得、1:1の比率でOVA257-264ペプチドを提示する、または提示しないCFSE標識されたC57BL/6の脾細胞の懸濁液をマウスに注射してSIINFEKL細胞を溶解させる細胞傷害性CD8 T細胞の能力を評価した。OVA257-264細胞の注射16時間後に、マウスを殺し、その脾臓を収集した。
【0135】
フローサイトメトリーによって活性化されOVAに特異的なCD8 T細胞の百分率を測定するために(Table 11(表11))、脾臓細胞をPC7-抗-CD8(Biolegend、カタログ番号BLE100722)、FITC-抗-CD3(Biolegend、カタログ番号BLE100203)およびPC5-抗-CD62Lモノクローナル抗体(Biolegend、カタログ番号BLE104410)ならびにPE-OVA-テトラマー(Beckman Coulter、カタログ番号T20076)により染色した。
【0136】
OVAに特異的なインビボ溶解の百分率を測定するために(Table 12(表12))、フローサイトメトリーによって低CFSEおよび高CFSE細胞の百分率を測定し、下記式によって求めた:
%=[1-(処理マウスの比率/未処理マウスの比率)]×100、比率=高CFSEの百分率/低CFSEの百分率
【0137】
血清中の抗OVA IgG1およびIgG2aの力価を測定するために(Table 13(表13))、さまざまな希釈度の免疫前および免疫後血清(1/50から1/36450)を、OVA(Serlabo、カタログ番号WQ-LS003054、5μg/ml)によりプレコートした96ウェルのMaxiSorpプレート(Nunc、カタログ番号442404)においてインキュベートした。抗OVA IgG1およびIgG2aの存在は、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIgG1(Thermo Scientific、カタログ番号cat PA1-86031、希釈度1/4000)または抗マウスIgG2a(Thermo Scientific、カタログ番号cat PA1-86039、希釈度1/4000)のインキュベーション後のテトラメチルベンジジン(TMB)基質(Biolegend、カタログ番号421101)インキュベーションによって明らかにされた。2N H2SO4の溶液によって反応を止め、450nmおよび630nmでプレートリーダー(Biotek、カタログ番号ELx808)を使用して吸光度を測定した。630nmで得られたデータを450nmで得られたデータから差し引き、抗体の力価を希釈度として求めた。その希釈度に対する吸光度は1/50に希釈された免疫前血清に対して得られたO.D.の3倍を超える。
【0138】
OVAの注射と比較して、イオノフォア処理されたOVAを加えたRBCの注射は、OVAおよびPoly(I:C)によって誘導されるOVAに特異的なCD8 T細胞の増殖および活性化を有意に低下させることができた(Table 11(表11);p<0.05)。
【0139】
【表11】

【0140】
イオノフォア処理されたOVAを加えたRBCの注射は、OVAおよびPoly(I:C)によって誘導されるOVAに特異的な細胞溶解を有意に低下させることができた(Table 12(表12);p<0.01)。
【0141】
【表12】

【0142】
イオノフォア処理されたOVAを加えたRBCにより前処置されたマウスは、OVAにより前処置されたマウスと比較して抗OVA IgG1およびIgG2a抗体の力価が非常に低い、および/またはない(Table 13(表13))。
【0143】
【表13】

【実施例18】
【0144】
さまざまな量のオボアルブミンを加えた赤血球のマウスへの注射後のOVAに対する免疫寛容の測定
イオノフォア処理されたオボアルブミンを加えた赤血球の異なる2つのバッチを、異なる2つOVA濃度で調製した以外は、実施例17に記載されるように実験を実施した。これにより、1つのバッチ、バッチ1(実施例17のような1RBCあたり53250±6800 OVA分子)および別のバッチ、バッチ2(1RBCあたり8250±840分子)がもたらされた。
【0145】
C57BL/6マウスに、7、3および1日目の3回、110μlもしくは30μlのバッチ1、110μlのバッチ2、110μlの遊離型OVAまたは110μlの保存液を静脈内注射した。マウスに注射したOVAおよびRBCの量を表14に示す。0日および21日目に、OVAおよびPoly(I:C)(それぞれ100μgおよび50μg/マウス)にマウスを曝露した。最後の注射の6日後に、マウスを殺し、脾臓を収集し、実施例17に記載されるとおり、血清中のIgG1、IgG2bおよびIgG2cの量を、HRP結合抗マウスIgG2b(Southern Biotech、1090-05)および抗マウスIgG2c(Southern Biotech、1079-05)を使用して測定した。IFNγの産生を測定するために、脾臓細胞(5×106細胞/ml)を、まず0.1μg/mlのOVA323-339ペプチド(Genscript、カタログ番号41007-1)とともに、またはペプチドなしで37℃において5%CO2-空気中24ウェル培養プレート上で48時間培養した。その後、Cytometric Bead Array(BD Bioscience、558296および558266)を使用したフローサイトメトリーによって上清中のIFNγを測定した。フローサイトメトリーによって細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)を発現しているCD4+ CD25+ T細胞の百分率を測定するために、脾臓細胞を、まずPC5-抗-CD4(Biolegend、カタログ番号BLE100514)およびFITC-抗-CD25モノクローナル抗体(Biolegend、カタログ番号BLE110569)により染色し、その後、PE-抗-CTLA-4 mAb(BD Pharminghen、カタログ番号553720)またはアイソタイプ対照とともにインキュベートする前に、PBS 1%パラホルムアルデヒド(Sigma Aldrich、F1635-25ml)により固定し、サポニン0.3%(Sigma Aldrich、84510)により透過処理した。
【0146】
【表14】

【0147】
バッチ1 高用量(OVAおよびRBCの量が多い)により前処置されたマウスは、OVAにより前処置されたマウスよりも抗OVA IgG1、IgG2bおよびIgG2c抗体の力価が有意に低かった(Table 15(表15)、IgG1:p<0.002、IgG2bおよびIgG2c:p≦0.05)。さらに、バッチ2(同じ数のRBCだが、より低用量のOVA(8から11μg/マウス))により前処置されたマウスも、OVAにより前処置されたマウスよりも抗OVA IgG1およびIgG2c抗体の力価が有意に低かった(Table 15(表15)、IgG1:p<0.006およびIgG2c:p≦0.05)。しかしながら、バッチ1 低用量(OVAおよびRBCの量が少ない)により前処置されたマウスは、著しい抗体の力価を有した。したがって、マウス1匹あたりに注射したOVAおよびRBCの量が、免疫寛容誘導に重要な役割を果たす。
【0148】
【表15】

【0149】
OVAおよびPoly(I:C)への曝露は、OVA刺激に応答してIFNγ産生を増加させる。この増加は、遊離型OVAにより前処置されたマウスでは観察されたが、イオノフォア処理されたOVAを加えたRBCにより前処置されたマウスでは観察されなかった(Table 16(表16)、p<0.005)。
【0150】
【表16】

【0151】
CTLA-4は、T細胞に阻害シグナルを伝達することによって免疫系において重要な制御的役割を果たすタンパク質であるため、CD4 CD25制御性T細胞におけるその発現をフローサイトメトリーによって測定した。バッチ1 高用量およびバッチ2により前処置されたマウスは、OVAにより前処置されたマウスおよびOVA+Poly(I:C)曝露のみを受けたマウスよりもCD4 CD25制御性T細胞におけるCTLA-4の発現の百分率が有意に高かった(Table 17(表17))、バッチ1:それぞれp≦0.03およびp≦0.02ならびにバッチ2:p≦0.05)。さらに、バッチ1 高用量により前処置されたマウスも、CD4 CD25制御性T細胞におけるCTLA-4の発現の平均蛍光強度(MFI)が有意に高かった(Table 17(表17)、p≦0.03)。最後に、バッチ1 低用量により前処置されたマウスは、OVA+Poly(I:C)曝露のみを受けたマウスよりもCD4 CD25制御性T細胞におけるCTLA-4の発現の百分率が有意に高かった(Table 17(表17)、p≦0.04)。
【0152】
【表17】

【0153】
結論として、イオノフォア処理された抗原を加えたRBCによる処理により、予防モデルにおいて抗原に特異的なTおよびB細胞の応答を防止する、または低減することが可能になる。この治療では、抗原の量だけでなく、マウス1匹あたりに注射されたRBCの量も重要な役割を果たす。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する宿主の免疫寛容を誘導するための、前記ペプチド性またはタンパク質性の有効成分を含有する赤血球を含む組成物。
【請求項2】
前記有効成分が、治療効果のあるペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質、ペプチド性もしくはタンパク質性の自己抗原、アレルギー反応を誘導するペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質またはペプチド性もしくはタンパク質性の移植抗原である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質が、抗体またはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質が、凝固因子またはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質が、酵素またはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記治療効果のあるペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質が、増殖因子またはそのフラグメントである、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
酵素補充療法(ERT)に使用するための、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
前記有効成分が、リソソーム酵素である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記リソソーム酵素が、ポンペ病(糖原病II型)、ファブリー病またはムコ多糖症MPS Iにおける酵素補充療法(ERT)のための酵素である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記リソソーム酵素が、アルファグルコシダーゼ酵素、ラロニダーゼおよびアルファガラクトシダーゼAまたはアガルシダーゼアルファからなる群から選択される、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
血友病を治療するために使用するための、請求項4に記載の組成物。
【請求項12】
前記凝固因子が、第VII因子、第VIII因子または第IX因子である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記有効成分が、自己免疫疾患を治療する際に使用するためのペプチド性またはタンパク質性の自己抗原である、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記有効成分が、関節リウマチ(RA)に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記有効成分が、多発性硬化症(MS)に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
前記有効成分が、ミエリン塩基性タンパク質である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記有効成分が、若年性糖尿病に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項18】
前記有効成分が、β細胞抗原、プロインスリン、インスリン様増殖因子-2(IGF2)およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記有効成分が、ぶどう膜炎に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項20】
前記有効成分が、網膜S抗原である、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記有効成分が、炎症性腸疾患に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項22】
前記有効成分が、クローン病に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項23】
前記有効成分が、潰瘍性大腸炎に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項24】
前記有効成分が、全身性エリテマトーデスに対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項25】
前記有効成分が、乾癬に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項26】
前記有効成分が、後天性の重症筋無力症に対するものである、請求項13に記載の組成物。
【請求項27】
前記有効成分が、アセチルコリンレセプターである、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記有効成分が、移植片拒絶に対して使用するためのペプチド性またはタンパク質性の移植抗原である、請求項1に記載の組成物。
【請求項29】
前記移植抗原が、腎臓移植片拒絶に関与する、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
前記移植抗原が、心臓移植片拒絶に関与する、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
前記移植抗原が、肝臓移植片拒絶に関与する、請求項28に記載の組成物。
【請求項32】
アレルギー反応を誘導する前記ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質が、食物起源のものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項33】
前記赤血球が、(1)前記有効成分を含有し、(2)肝臓標的化を促進するために、前記赤血球の表面にあるエピトープを認識する免疫グロブリンとの免疫複合体の形態である、請求項1から32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記赤血球が、抗アカゲザルまたは抗グリコホリンAまたは抗CR1抗体と免疫複合体を形成する、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記免疫グロブリンがIgGである、請求項33または34に記載の組成物。
【請求項36】
前記赤血球が、肝臓を標的とするために化学的に処理される、請求項1から35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
APCの炎症を促進する反応を抑えるための、請求項1から35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
ペプチド性またはタンパク質性の有効成分に対する宿主の免疫寛容を誘導するための方法であって、有効量の請求項1から37のいずれか一項に記載の組成物の前記宿主への投与を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−508442(P2013−508442A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535811(P2012−535811)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066269
【国際公開番号】WO2011/051346
【国際公開日】平成23年5月5日(2011.5.5)
【出願人】(511238790)
【Fターム(参考)】