説明

特異的標的機能を有する蛍光磁気ナノ粒子

【課題】磁気と光学イメージングの両方について特異性をもつマルチモダリティコントラスト剤を提供する。
【解決手段】蛍光特性と特異的標的機能を有する磁気ナノ粒子であって、この蛍光磁気ナノ粒子は、磁気ナノ粒子、前記磁気ナノ粒子を化学的に修飾する生体適合性ポリマー、前記生体適合性ポリマーと結合する蛍光染料、および前記生体適合性ポリマーと結合する特異的標的剤を含む。前記ナノ粒子の蛍光特性と磁気特性は、異なったタイプの信号源を提供し、これによって病巣を再確認するための異なるタイプの映像法を利用した迅速なイメージングが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁気ナノ粒子に関し、より詳細には蛍光特性と特異的標的機能を有する磁気ナノ粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジーの分野では、磁気ナノ粒子は、造影、診断、治療、バイオ物質の分離などに広く利用することができ、造影において磁気ナノ粒子は、例えば、映像コントラストを高めるためのコントラスト剤、または特定の疾患の存在を追跡するためのトレーサーとして利用されている。さらに、磁気ナノ粒子はドラッグデリバリーや癌治療にも用いられている。
【0003】
現在、コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴映像法(MRI)および超音波(US)など多くの映像分析技術が病気の診断に利用されている。コンピュータ断層撮影の一般的な検査法は、X線を用いて映像を得るというものである。例えば、密度がそれぞれ異なるために人体の各組織のX線回折の結果が異なったものになるということを利用して映像を得る。また、異なる組織または器官の間のコントラストを強めるため、コントラスト剤が検査時に用いられることもある。しかしながら、X線の照射は好ましくない副作用をもたらすため、代わりの検査法として磁気共鳴映像法(MRI)が供されている。
【0004】
磁気共鳴映像法は、組織のいくつかの異なった特徴を示すことが可能である。MRI映像サイクル中の特異的信号の記録時間における組織の磁化レベルは、主にMRI映像中の特定の組織の明度を決定する。コントラストは、組織が同じ磁化レベルでない場合に作り出される。
【0005】
MRIは、例えばコンピュータ断層撮影(CT)および超音波(US)など他の映像法の後に用いられて、より精確な生理学的情報を提供するものである。通常は、まず腫瘍の特性を異なったタイプの映像法により推測してから、腫瘍巣をMRIによって確定する。
【0006】
酸化鉄粒子は臨床上、MRI用コントラスト剤として使用されている。酸化鉄粒子は、これら粒子を取り込む組織の有効な横緩和時間(T2)を短縮する。主として縦緩和時間(T1)を短縮し強度上昇をもたらすガドリニウムジエチルトリアミンペンタ酢酸塩(Gd−DTPA)に代表される別な種類のMRIコントラスト剤と比較すると、酸化鉄粒子はより高感度である。しかし、現在市販されているMRIコントラスト剤は特異性に劣っており、それらのコントラストの向上が求められる。
【0007】
さて、多くの映像法が利用可能となってはいるが、それらにはそれぞれ異なったタイプのコントラスト剤が用いられる。例えば、MRI後のNIR(近赤外)イメージングによる腫瘍巣の再確認には、さらに蛍光剤の使用が必要となる。結果として、さらなる手間が必要となり、時間がかかるため診断情報は価値を失うことになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明の目的は磁気と光学イメージングの両方について特異性をもつマルチモダリティコントラスト剤(multi-modality contrast agent)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、標的剤を磁気ナノ粒子に結合させ、標的特異性を備えたMRIコントラスト剤を供することで標的効率(targeting efficiency)を高める。さらに、磁気ナノ粒子を蛍光染料と結合させて、NIRイメージング(NIR imaging)のような光学イメージング(optical imaging)用コントラスト剤として機能させるようにする。よって、本発明のマルチモダリティコントラスト剤は、磁気ナノ粒子、磁気ナノ粒子を化学的に修飾する生体適合性ポリマー、生体適合性ポリマーに結合する蛍光染料、および生体適合性ポリマーに結合する特異的標的剤を含む。詳細な説明は図を参考にした次の実施例において示される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る蛍光磁気ナノ粒子は、特異的標的機能(Specific targeting function)を有しているため、標的効率が向上し、かつ、コントラストの高い病巣の映像が提供されることとなる。さらに、ナノ粒子の蛍光と磁気特性は異なったタイプの信号源を提供できるため、各種映像法を用いた迅速なイメージングにより病巣を再確認することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下の記載は本発明を実施する上での最良の形態を示したものである。この記載は本発明の一般的原理を説明する目的で作成されたもので限定された意味で取るべきでない。本発明の範囲は添付した特許請求の範囲を参照することによって最良に判断される。
【0012】
本発明は特異的標的機能(Specific targeting function)をもつ蛍光磁気ナノ粒子を提供するものである。特異的標的は、標的効率を高め、コントラストの高い病巣の映像を提供する。ナノ粒子の蛍光と磁気特性は、異なったタイプの信号源を提供するため、病巣を再確認するための異なるタイプの映像法を用いた迅速なイメージングが可能となる。
【0013】
図1を参照されたい。本発明のマルチモダリティ磁気ナノ粒子100は、磁気ナノ粒子10と化学的に結合する生体適合性ポリマー12を含む。生体適合性ポリマー12は蛍光染料14および特異的標的剤16と結合している。図に示すように、生体適合性ポリマー12は磁気ナノ粒子10の表面全体を被覆し、コア/シェル構造を形成していることが好ましい。生体適合性ポリマー12が、磁気ナノ粒子10上の単層コーティングを形成するとより好ましい。
【0014】
磁気ナノ粒子は、Fe、Co、Niおよびそれらの酸化物のうちの1種または2種以上からなることが好ましい。また当然に、ナノ粒子は、その他任意の単一または複合磁気材料からなるものであってもよいが、超常磁性材料が特に好ましい。磁気ナノ粒子10の好ましい直径は約3〜100nmであることが好ましく、約3〜10nmであることがさらに好ましい。
【0015】
本発明への使用に適した生体適合性ポリマー12には、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、PLA−PEG、ポリグリコール酸(PGA)、ポリε−カプロラクトン(PCL)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等が含まれるが、これらに限定されることはない。生体適合性ポリマー12と磁気ナノ粒子10との化学結合は、カップリング剤(図示せず)を用いた反応によりなされる。好ましいカップリング剤は、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)のようなアミノトリアルコキシシランである。生体適合性ポリマー12は磁気ナノ粒子10に水中への分散性、血液との相溶性を付与し、かつ、ホストから容易に排出される。生体適合性ポリマー12は界面活性剤使用の必要をなくすことに注目されたい。
【0016】
生体適合性ポリマー12は、磁気ナノ粒子10に化学結合した後、その末端基が修飾されて、蛍光染料14、および特異的標的剤16と結合できるようになる。当該者は、ナノ粒子に特異性を与えるべく任意の適した標的剤を付加することができる。一般的に用いられている標的剤は、抗体、タンパク質、ペプチド、酵素、炭水化物、糖タンパク質、ヌクレオチド、および脂質を含む。例えば、葉酸は、葉酸受容体をもつ乳癌細胞を特異的に認識するのに使用できる。葉酸の構造は、−CONH−結合の形成より、末端にアミンをもつ生体適合性ポリマーとの結合を可能する。
【0017】
蛍光染料14は、さらに磁気ナノ粒子と結合し、NIRイメージングなどの光学映像法に用いられる光学信号を提供する。蛍光染料14は、共有結合により生体適合性ポリマーと結合することが好ましい。好ましい蛍光染料には、有機あるいは無機染料および有機金属錯体が含まれる。蛍光染料の励起および発光波長は紫外光(UV)、近赤外光(NIR)、もしくは可視光(VIS)であり得る。標的剤および蛍光染料と結合した磁気ナノ粒子の直径は約3〜100nmであることが好ましく、約15〜100nmであることがさらに好ましい。粒子が大き過ぎる場合、細胞の中に入り込むことができないか、あるいは貧食作用によって白血球に捕捉されてしまう可能性がある。
【0018】
先に記載したように、磁気ナノ粒子に蛍光染料を結合させることにより、蛍光−磁気ナノ粒子は、MRIのみならず光学映像法のコントラスト剤としても機能し得るため、異なる映像法による病巣の確認をより容易にする。実験により、蛍光染料の結合は、MRI時における磁気ナノ粒子のコントラストの強度を減少させないことが示されている。
【0019】
どのようなかたちによっても限定することなく、本発明を次の実施例によりさらに説明する。
【0020】
実施例1:ナノ粒子の調製
2.98254g(0.015モル)のFeCl2・4H2Oを8.109g(0.03モル)のFeCl3・6H2Oに加え攪拌し溶解させた。この混合物を2口フラスコに入れ、60℃にて500rpmで攪拌し、5N NaOH溶液を、100〜150μl/secの速度で、黒色が現れ、pH値13が測定されるまで滴下した。NaOH溶液の滴下が終了したなら、反応混合物を15分間攪拌し、室温に冷却してから、3000rpmで10分間遠心分離して沈殿物を回収した。その沈殿物を0.5N HClに再分散させてから、9000rpmで30分間遠心分離し、沈殿物を回収した。さらにその沈殿物をジメチルスルフォキサイド(DMSO)で洗浄し、再びDMSOに再分散させ、9000rpmで30分間遠心分離を行って浮遊物を回収した。その浮遊物を0.1μmのポリテトラフロオロエチレン(PTEF)フィルターで濾過し、得られた浮遊物をFe34ナノ粒子懸濁物として回収した。
【0021】
実施例2:生体適合性ポリマーとの結合
0.167モルのPEGビスカルボキシレート(Mn=600)と0.48モルの塩化チオニルを丸底フラスコにて1.5時間還流し、減圧(76mmHg)下で1時間蒸留した。その後、0.44モルの2,2,2−トリフルオロエタノールを加え、還流し、減圧下で1時間蒸留して、PEG−ジトリフルオロエチルエステルを得た。
【0022】
135mlのAPSをPEG−ジフルオロエチルエステルに加え8時間反応させた。実施例1の酸化鉄0.866ミリモルを100mlのDMSOに溶解させ、次いで1.44モルのPEG−トリフルオロエチルエステルシランを添加した。0.016モルのエチレンジアミンを前記溶液に加え、2時間強くかきまぜて、アミンターミネーテッド(amine-terminated)PEGによって修飾された酸化鉄ナノ粒子を得た。
【0023】
実施例3:標的剤との結合
1.7ミリモルの葉酸を超音波処理でDMSOに完全に溶かした。0.76ミリモルのN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)と3.9ミリモルの1−エチル−3−(3−(ジメチルアミノ)プロピル)カルボジイミドをそのDMSO溶液に加え、60℃、1時間、超音波処理した。溶液のpH値は9に調整し、実施例2の酸化鉄ナノ粒子200mg(0.58ミリモル)を加え、8時間反応させ、葉酸で修飾された酸化鉄ナノ粒子を得た。
【0024】
実施例4:蛍光染料との結合
実施例3の修飾されたナノ粒子(2mg/ml)を10mlの脱イオン水に溶かし、次いで1mlのCypHer5E(Amersham Bioscience社製NIR染料10-6 mol/ml)を添加した。その混合物を7時間攪拌し、特異性をもつ蛍光磁気ナノ粒子を得た。
【0025】
実施例5:コントラスト強化試験
実施例4の蛍光磁気ナノ粒子のコントラスト強化特性を、Bruker社製0.47T 20MHz MQ20 min−specによって調べた。測定されたr2/r1比は12(210/16.7)であり、市販品Schering社製RESOVIST(登録商標)の6.04よりはるかに高かった。
【0026】
実施例6:細胞特異性試験
Hff(ヒト包皮繊維芽細胞)、HeLa(ヒト上皮癌)、KB(ヒト咽頭癌)、およびMDA−MB−231(ヒト乳癌)の細胞株をそれぞれ播種し、次いで実施例4で得た酸化鉄ナノ粒子(200μg/ml)1mlを添加し、各細胞株をそれぞれ洗浄して回収した。透過電子顕微鏡(TEM)を用いて細胞への酸化鉄ナノ粒子の内在化(internalization)を確認した。図2〜5のTEM顕微鏡写真に示されるように、ナノ粒子(図中の矢印で示す)は、葉酸受容体をもつ細胞、つまり、KB、MDA−MB−231およびHeLa内に内在化していた。一方、葉酸受容体をもたないHff細胞中に内在化は確認されなかった。
【0027】
さらに、フローサイトメトリーを使い、各細胞内に取込まれたナノ粒子量を計った。その結果を次表に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
KB、MDA−MB−231およびHeLa細胞は、葉酸受容体をもたないHff細胞に較べ、かなりの量の酸化鉄を取込んでいる。この結果はTEM顕微鏡写真の観察と符合している。
【0030】
以上、好適な実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれら開示された実施例に限定はされないと解されるべきである。本発明は、当業者には自明であるような種々の変更や類似の構成を含むことが意図されている。したがって、添付の特許請求の範囲は、かかる各種変更および類似の構成を全て包含するように、最も広い意味に解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明にかかわる特異的標的機能をもつ蛍光磁気ナノ粒子を示す概略図である。
【図2】実施例6のHffの細胞株を示すTEM顕微鏡写真である。
【図3】実施例6のKBの細胞株を示すTEM顕微鏡写真である。
【図4】実施例6のHeLaの細胞株を示すTEM顕微鏡写真である。
【図5】実施例6のMDA−MB−231の細胞株を示すTEM顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0032】
10 磁気ナノ粒子
12 生体適合性ポリマー
14 蛍光染料
16 特異的標的剤
100 マルチモダリティ磁気ナノ粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的標的機能を有する蛍光磁気ナノ粒子であって、
磁気ナノ粒子と、
前記磁気ナノ粒子を化学的に修飾する生体適合性ポリマーと、
前記生体適合性ポリマーに結合する蛍光染料と、
前記生体適合性ポリマーに結合する特異的標的剤と、
を含む蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項2】
前記磁気ナノ粒子が、Fe、Co、Niおよびそれらの酸化物のうちの1種または2種以上からなる超常磁性ナノ粒子である請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項3】
前記磁気ナノ粒子と、蛍光染料および特異的標的剤が結合された磁気ナノ粒子とが約3〜100nmの粒径を有してなる請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項4】
前記蛍光染料の励起または発光波長が紫外光(UV)、近赤外光(NIR)、および可視光(VIS)のうちの少なくとも一つである請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項5】
前記蛍光染料が、有機染料、無機染料または有機金属錯体を含む請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項6】
前記特異的標的剤が、抗体、タンパク質、ペプチド、酵素、炭水化物、糖タンパク質、ヌクレオチド、または脂質を含む請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項7】
前記生体適合性ポリマーが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(PLA)、PLA−PEG、ポリグリコール酸(PGA)、ポリε−カプロラクトン(PCL)およびポリメチルメタクリレート(PMMA)のうちの少なくとも一つを含む請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項8】
前記生体適合性ポリマーが末端アミノ基を含み、前記特異的標的剤と前記生体適合性ポリマーとが共有結合によって結合して−CONH−結合を形成してなる請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項9】
前記生体適合性ポリマーが単層コーティングのコア/シェル構造を形成する請求項1記載の蛍光磁気ナノ粒子。
【請求項10】
前記生体適合性ポリマーがカップリング剤により前記磁気ナノ粒子との結合を形成し、当該カップリング剤がアミノトリアルコキシシランである請求項9記載の蛍光磁気ナノ粒子

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−169261(P2007−169261A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−195577(P2006−195577)
【出願日】平成18年7月18日(2006.7.18)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】