説明

特異的結合対のメンバー間の結合相互作用を促進する方法

【課題】特異的結合対相互作用、バイオエンティティー(bioentity)の分離および希薄な物質の生物学的流体からの単離を促進する。
【解決手段】標的エンティティー上の促進された(enhanced)磁性負荷によって、かかる生物分離を促進し、それにより、そのように単離された標的エンティティーの生物化学的および診断的分析を容易にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は、特異的結合対相互作用、バイオエンティティー(bioentity)の分離および希薄な物質の生物学的流体からの単離の分野に関する。好ましくは、標的エンティティー上の促進された(enhanced)磁性負荷によって、かかる生物分離を促進し、それにより、そのように単離された標的エンティティーの生物化学的および診断的分析を容易にする方法が提供される。
【背景技術】
【0002】
特異的結合対相互作用を必要とする相当な数の製造、分析および研究室プロセスおよび手法がある。多くの研究室的および臨床的手法は、バイオスペシフィック(biospecific)アフィニティー反応と呼ばれるかかる相互作用に基づく。かかる反応は、一般に、生物学的試料の診断試験において、または幅広い範囲の標的物質、特に、細胞、ウイルス、タンパク質、核酸などの生物学的エンティティーの分離に利用される。実際問題として、できるだけ迅速かつ効率よく特異的結合対相互作用を行うことが重要である。これらの反応は古典的な化学的問題、例えば、温度、濃度および特異的結合対メンバーのもう1つ別のメンバーに対するアフィニティーに依存する。理想的には、複数の非共有結合を迅速に形成する特異的結合パートナーを用いる分離が利用される。かかる結合パートナーの使用は、特に、生物学的系においてよくあることであるが、単離されるべき1の特異的結合対メンバーの濃度が非常に低い場合に重要である。もちろん、濃度は、水精製のような他の分離プロセスあるいは微量汚染物質または他の望ましくない生産物を除去する必要のある応用において問題とされる。
【0003】
目的の物質と標的物質が特異的に結合する別の物質との間の複合体形成に基づいて、上記の標的物質を結合、分離または分析する種々の方法が利用できる。得られる複合体の溶液または非結合材料からの分離は、重力によって、例えば、沈降によって、または別法では、リガンド物質に結合した微粒子またはビーズの遠心分離によって行ってもよい。所望により、結合/遊離分離工程を容易にするために、かかる粒子またはビーズに磁気を帯びさせてもよい。磁性粒子は、免疫および他のバイオスペシフィックアフィニティー反応におけるそれらの使用のように、当該分野でよく知られている。例えば、米国特許第4,554,088号およびImmunoassays for Clinical Chemistry、第147〜162頁、Hunterら編、Churchill Livingston, Edinborough (1983)を参照のこと。一般に、磁気または重力分離を容易にするいずれの材料もこの目的に使用できる。しかしながら、磁気原理による方法が好ましい。
【0004】
磁性粒子は一般に、2つの幅広いカテゴリーに分かれる。第1のカテゴリーは、永久に磁化可能であるかまたは強磁性体である粒子を包含し;第2のカテゴリーは、磁場に付された場合にだけ、大量の磁気作用を示す粒子を含む。後者は磁気感応粒子と呼ばれる。磁気感応作用を示す材料は、時々、超常磁性と記載される。しかしながら、大量の強磁性を示す材料、例えば、磁性酸化鉄は、約30nmまたはそれ以下の直径の結晶である場合、超常磁性として特徴付けられうる。対照的に、強磁性材料のより大きな結晶は、磁場に曝露後、永久磁石の特徴を保持し、強力な粒子−粒子相互作用のため、その後に凝集する傾向がある。
【0005】
磁性粒子は、大(1.5〜約50ミクロン)、小(0.7〜1.5ミクロン)およびコロイド状またはナノ粒子(<200nm)に分類することができる。後者は、強磁性流体または強磁性流体様粒子とも呼ばれ、古典的な強磁性流体の特性の多くを有する。Libertiら、pp 777-790、E. Pelezzetti(編)"Fine Particle Science and Technology", Kluver Aced. Publishers, Netherlands。
【0006】
小磁性粒子は、都合のよいことに生物機能ポリマー(例えば、タンパク質)でコートされているので、バイオスペシフィックアフィニティー反応を含む分析において非常に有用であり、非常に広い表面積を提供し、妥当な反応速度論を与える。0.7−1.5ミクロンの範囲の磁性粒子は、例えば、米国特許第3,970,518号;4,018,886号;4,230,685号;4,267,234号;4,452,773号;4,554,088号および4,659,678号を包含する特許文献において記載されている。これらの粒子のうち若干数が免疫学的試薬のための有用な固形支持体であると開示されている。
【0007】
上記の小磁性粒子に加えて、超常磁性作用も有する大磁性粒子(>1.5ミクロン〜約50ミクロン)のクラスがある。かかる材料は、Ugelstad(米国特許第4,654,267号)によって発明され、ダイナル社(Dynal)(ノルウェー、オスロ)によって製造されたものを包含する。ポリマー粒子が合成され、粒子膨張の過程によって、磁鉄鉱結晶がそこに埋め込まれる。同じ大きさの他の材料は、分散された磁鉄鉱結晶の存在下で粒子の合成を行うことによって調製される。これは、磁鉄鉱結晶の捕捉をもたらし、かくして、磁性を帯びた材料が製造される。どちらの場合も、得られる粒子は超常磁性作用を有し、磁場の除去により難なく分散する。上記の磁性コロイドまたはナノ粒子とは異なり、かかる材料ならびに小磁性粒子は、粒子あたりの大量の磁性材料のため、単純な研究室の磁性物質を用いて難なく分離される。したがって、分離は2、3百ガウス/cmから約1.5キロガウス/cmまでほどの低い勾配において行われる。コロイド状磁性粒子(約200nmよりも小さい)は、それらの拡散エネルギー、粒子あたりの小さい磁気量およびストークス剤のために、分離に実質的により高い磁気勾配を必要とする。
【0008】
米国特許第4,795,698号、Owenらは、ポリマーでコートされたミクロン以下の大きさのコロイド状超常磁性粒子に関する。「698特許」は、生物機能的ポリマーの存在下における磁性種の沈殿によるかかる粒子の製造を記載する。本明細書において単発粒子と呼ばれる得られる粒子の構造は、5−10nmの直径を有する1以上の強磁性クリスタライトがおよそ50nmの直径を有するポリマー体内に埋め込まれているミクロ−集塊であることがわかった。これらの粒子は、数ヶ月ほどの長い観察期間に、水性懸濁液から分離しないというはっきりとした傾向を示す。Molday(米国特許第4,452,773号)は、非常に高濃度のデキストランの存在下での塩基の添加を介してFe+2/Fe+3から磁鉄鉱および他の酸化鉄を形成することによって製造された、Owenらの「698特許」に記載されたのと同様の性質の材料を記載する。そのようにして製造された材料は、コロイド性を有する。該方法は、Miltenyi Biotec(Bergisch Gladbach, Germany)によって商業化されている。その生産物は、細胞分離アッセイにおいて非常に有用であることが判明している。
【0009】
もう1つ別の超常磁性コロイド状粒子の製造方法が米国特許第5,597,531号に記載されている。「698特許」に記載の粒子とは対照的に、これらの後者の粒子は、超音波エネルギーによって約25〜120nmの範囲のある程度安定な結晶クラスター中に分散させられた予め形成された超常磁性結晶上に生物機能的ポリマーを直接コーティングすることによって製造される。得られる粒子(本明細書において直接コートしたまたはDC粒子と呼ばれる)は、同じ全体の大きさを有するOwenらまたはMoldayらのナノ粒子よりも有意に大きな磁気モーメントを示す。
【0010】
磁気分離技術は、強磁性体を流体媒体から分離するために磁場発生装置を利用する。対照的に、コロイド状超常磁性粒子の比較的弱い磁気感応と関連して、それらが懸濁液中に保持される傾向は、かかる粒子をそれらが懸濁している流体媒体から分離するために高勾配磁気分離(HGMS)技術の使用を必要とする。HGMS系において、磁場の勾配、すなわち、空間的誘導は、所定の点での磁場の強度によってもたらされるよりも大きな影響を懸濁粒子の作用に対して与える。
【0011】
高勾配磁気分離は、真核生物および原核生物細胞、ウイルス、核酸、タンパク質および炭水化物を包含する幅広い種々の生物学的材料の分離に有用である。これまでに知られた方法において、生物学的材料は、抗体、抗体フラグメント、特異的結合タンパク質(例えば、プロテインA、ストレプトアビジン)、レクチンなどのような結合物質によって特異的に認識できるかまたはそれらに結合できる少なくとも1個の特徴的決定子を有する場合、HGMSによって分離可能であった。
【0012】
HGMS系は、2つの幅広いカテゴリーに分けることができる。1のかかるカテゴリーは、分離チャンバーまたは容器の外部に位置する磁気回路を用いる磁気分離系を包含する。かかる外部分離器(または解放的磁場勾配(open-field gradient)分離器)の例は、米国特許第5,186,827号に記載されている。「827特許」に記載される具体例のいくつかにおいて、必要な磁場勾配は、磁石の同じ極が場に対向する配置にあるように非磁性容器の周囲に永久磁石を配置することによって作成される。かかる系において得られうる試験媒体内の磁場勾配の範囲は、磁石の強度および磁石間の分離距離によって制限される。したがって、外部勾配系を用いて得ることができる勾配には限界がある。同時係属中の米国仮出願第60/098,021号において、新規な容器設計によって放射状勾配を最大にする手段および分離効率を最大にする方法が開示されている。かかる容器は、本明細書に記載の方法を実施するために使用できる。
【0013】
もう1つ別の型のHGMS分離器は、1)適用される磁場を強めるため、および2)試験媒体内に磁場勾配を作成するために、試験媒体内に配置されている強磁性収集構造を利用する。内部HGMS系の1の既知の型において、微細なスチールウールまたはガーゼを磁石に隣接して位置するカラム内に詰め込む。適用した磁場は、スチールワイヤーの付近に集中し、その結果、懸濁した磁性粒子はワイヤーの表面に誘引され、付着するであろう。かかるワイヤー上に生じた勾配は、ワイヤー直径に反比例し、一方、磁気の「リーチ」は直径とともに減少する。したがって、非常に高い勾配を生じることができる。
【0014】
内部勾配系の1の欠点は、スチールウール、ガーゼ材料またはスチールミクロビーズの使用が、交差しているワイヤーの付近または交差しているワイヤー間の隙間内における毛管現象によって試験媒体の非磁性成分を捕らえることである。種々のコーティング方法がかかる内部勾配カラムに適用された(米国特許第4,375,407号および5,693,539号)が、かかる系における大きな表面積は今だ、吸着作用によって回収問題を生じる。したがって、内部勾配系は、特に非常に低頻度の捕捉物質の回収が分離の目的である場合、望ましくない。さらに、それらは自動化が困難であり、高価である。
【0015】
一方、外部勾配を用いるHGMSに基づくアプローチを用いる細胞分離は、いくらか便利である。まず、試験管、遠心管またはヴァキュテーナー(採血に使用される)のような単純な研究室の管を用いてもよい。外部勾配が分離した細胞が効果的に単層化される種類である場合、米国特許第5,186,827号に記載の四極子/六極子装置を用いる場合または米国特許第5,466,574号に記載の対立二極子を用いる場合のように、細胞の洗浄および続く操作が容易になる。さらに、管または同様の容器からの細胞の回収は、単純かつ効率のよいプロセスである。これは、特に、高勾配カラムからの回収と比べた場合である。かかる分離容器はまた、元の試料の容量を減らすことができるというもう1つ別の重要な特徴を提供する。例えば、特定のヒト血液細胞サブセット(例えば、磁気的に標識したCD34細胞)を粘度を減少させるために緩衝液で20%希釈した血液から単離する場合、15mlの円錐形試験管を適当な四極子磁気装置中における分離容器として用いてもよい。非結合細胞を除去するための適当な洗浄および/または分離および再懸濁後、CD34細胞を200μlの容量で非常に効果的に再懸濁することができる。これは、例えば、15mlの円錐形試験管中の12mlの溶液(血液、強磁性流体および希釈緩衝液)で開始し、分離を行い、上澄液およびその後の洗浄上澄液を捨て、回収した細胞を3mlの適当な細胞緩衝液中に再懸濁することによって行うことができる。次いで、さらなる分離/洗浄工程(必要に応じて標識または染色反応を行ってもよい)を包含しうる第2の分離を行い、最後に、単離した細胞を最終容量200μlで容易に再懸濁する。この一連の方法において容量を減らし、ボルテックスミキサーを再懸濁に用いることによって、再懸濁容量より大きい試験管に付着した細胞が減少した容量で回収される。適当に処理した容器中で注意深く、迅速に行う場合、細胞回収は非常に効率がよい(70−90%)。
【0016】
磁気分離を行うことができる効率ならびに磁気的に標識した細胞の回収および純度は、多くの因子に依存するであろう。これらは、分離している細胞の数、かかる細胞上に存在する特徴的決定子の密度、細胞あたりの磁性負荷、磁性材料の非特異的結合(NSB)、使用される技術、容器の性質、容器表面の性質および媒体の粘度のような問題を包含する。通常の場合であるが、系の非特異的結合が比較的一定である場合、標的集団が減少するのと同様に、純度が減少する。例えば、元の混合物中0.25%である集団の80%を回収する0.2%NSBを用いる系は50%の純度を有するであろう。一方、最初の集団が1.0%であった場合、純度は80%であるであろう。
【0017】
標的細胞の集団が小さければ小さいほど、磁気的に標識し、回収することが困難になるであろうことに注目することが重要である。さらに、標識および回収は、使用される磁性粒子の性質に著しく依存する。例えば、ダイナル(Dynal)ビーズのような大きい磁性粒子は大きすぎて、系の混合によって生じる衝突によって懸濁液中において細胞を拡散および効果的に標識できない。非常に初期の癌における腫瘍細胞の場合のように、細胞が血液1mlあたり1細胞またはそれ以下の集団である場合、標的細胞を標識する確率は、系に加えられた磁性粒子の数および混合時間の長さに関連するであろう。細胞とかかる粒子の実質的な時間の混合は心身に有害であるので、粒子濃度をできるだけ増加させることが必要になる。しかしながら、加えることのできる磁性粒子の量には限りがある。他の血液成分中に混合した希薄な細胞を扱う代わりに、分離において大量の磁性粒子中に混合した希薄な細胞に対処する。後者の状態は、かかる細胞を数える能力またはそれらを試験する能力を著しく改善することはない。したがって、妥協は、非常に希薄な標的エンティティーの単離を可能にすると同時に、磁性材料の量および混合時間を制限することである。
【0018】
希薄な頻度(血液1mlあたり1ないし20−50個)の細胞を単離するための大きな粒子の使用に対するもう1つ別の欠点は、大きな粒子がケージ様方式において細胞の周囲に密集しやすいことであり、それらの「検分(see)」または分析を困難にする。したがって、粒子は分析前に解離させなければならず、それは明らかに他の複雑な状況を導く。
【0019】
理論的には、高勾配磁気分離と共にコロイド状磁性粒子を使用することは、特に、目的の細胞サブセットが全集団の小さなフラクションを含む場合、目的の細胞サブセットを真核生物細胞の混合集団から分離するための特別の方法であるようである。適当な磁性負荷を用いると、適度に希釈した全血と同じくらいの粘り気のある媒体中でさえも単離できるように、細胞上に十分な力がはたらく。注目されるように、約200nm未満のコロイド状磁性材料は、希薄な細胞と衝突し、磁気的に標識するそれらの能力を著しく促進するブラウン運動を示すであろう。これは、例えば、100nmのコロイド状磁性粒子(強磁性流体)を用いる非常に効率のよい腫瘍細胞パージング実験の結果が記載されている米国特許第5,541,072号において明らかにされている。まさに重要なことに、記載の大きさの範囲またはそれ以下のコロイド状材料は、一般に、細胞の見かけを損なわない。そのように回収された細胞は、フローサイトメトリーまたは可視または蛍光技術を用いる顕微鏡によって試験できる。大きな磁性粒子とは対照的に、かかる物質は、それらの拡散性のため、血中の腫瘍細胞のような希薄な事象を難なく「見出し」、磁気的に標識する。
【0020】
しかしながら、上記の理由のために、特別の装置設計である外部磁場勾配系における細胞分離のための強磁性流体様粒子の使用に関連する有意な問題がある。Miltenyi Biotecによって製造されたようなOwenまたはMoldayによって記載された型のミクロン以下の大きさの磁性粒子に対する直接的モノクローナル抗体結合体は、米国特許第5,186,827号に記載の四極子または六極子磁気装置のような最も良好な利用可能な外部磁気勾配装置を用いる細胞選択法における使用に十分な磁気モーンメントを有さない。適度に希釈した全血中における分離に使用する場合、それらは、いっそう効果がない。米国特許第5,597,531号、LibertiおよびPinoに記載のような実質的により磁性を帯びた同様な材料を用いると、より有望な結果が得られた。モデル・スパイキング実験において、比較的高い上皮細胞接着分子(EpCAM)決定子密度を有するSKBR3細胞(胸部腫瘍系統)が、非常に低いスパイキング密度(血液1mlあたり1−5細胞)でさえも抗−EpCAM強磁性流体の直接結合体を用いて全血から効果的に分離されることが見出された。一方、低いEpCAM決定子密度を有するPC3細胞(前立腺系統)は、有意に低下した効率で分離される。おそらく、これは、これらの低い決定子密度細胞上に負荷している不十分な磁性の結果である。
【0021】
上記に照らして、本発明者らは、大、小またはコロイド状のどれかの磁性粒子の目的の生物学的エンティティー上への「負荷」の増加または促進に向けられた方法に対する要望を高く評価した。これらの方法は、低い決定子密度を有する標的物質または細胞を単離することに役立たせるために使用してもよい。標的バイオエンティティーの単離の効率を上げることは、次いで、続くかかるエンティティーの生化学的および組織化学的分析を容易にする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の開示)
制御および最適化された様式で生物学的溶液中に存在する特異的結合対メンバー間の衝突を組織的に強制することによって、特異的結合対メンバー間の相互作用を促進するための有効な方法を提供することが本発明の目的である。これは、衝突数が増えるように、1の特異的結合対メンバーの他のメンバーに対する相対的な運動を引き起こすことによって達成される。顕微鏡レベルで、溶液の勢いのある攪拌は、常に特異的結合対のメンバー間に最適数の衝突をもたらすわけではないようである。例えば、細胞表面決定子に特異的なモノクローナル抗体に結合したコロイド状磁性ナノ粒子は、磁気的に標識されるべき標的細胞と混合したとき、2つのエンティティーが互いに相対的に移動する場合に、かかる細胞をより効果的により高い標識密度で標識するであろう。したがって、細胞が懸濁液中にあり、磁性コロイドが細胞中を「引っ張られる」場合、実質的により多数のナノ粒子が連続攪拌、ボルテックスおよび他の混合法と比べて特異的に細胞に結合する。別法では、磁性コロイドが遠心分離に対して安定である場合、細胞を遠心分離によってコロイド中を移動させてもよい。該過程はまた、標的細胞に特異的に結合したコロイド状ナノ粒子の量を有意に増加する。したがって、該原理を混合の代わりに、または混合に加えて用いることができる。
【0023】
1のエンティティーの他に対する相対的な運動を引き起こす多くの方法がある。下記の実施例において、細胞の懸濁液中を粒子を移動させるために磁気勾配を用いるか、または、重力上安定なコロイド状磁性粒子中を細胞を移動させるために遠心分離を用いる。明らかに後者の場合、どちらの成分も磁性である必要はない。例えば、該過程のg力に対して安定ないずれかのコロイド中で細胞を遠心分離することができた。例えば、コロイド状金中で細胞を遠心分離する。
【0024】
上記の特異的結合対メンバーの相対的な移動を引き起こす方法に加えて、磁気力または重力を包含するいずれかの差を用いることもできるが、1の成分の他の成分に対して相対的な電荷または電荷差を用いることができる。1のエンティティーをいくつかの他の成分に対して相対的に媒体中で振動させる振動電場を想像することができる。同様に、内部力を使用してもよい。
【0025】
限定するものではないが、免疫アッセイ、細胞分離、分析的使用またはバイオプロセッシングのためのタンパク質単離、細菌捕捉および核酸操作を包含する本発明の方法が有利に用いられる多数の応用がある。2つのエンティティーが結合または衝突して生産物または生産中間体を形成しなければならない工業的プロセスがある。温度はしばしばかかる反応を加速するために用いらのだが、本発明をインキュベーション時間の短縮または反応温度の低下のために使用してもよい。本発明の方法は、上記の種々の応用に望ましい有効な特異的結合対メンバー相互作用を実現する。磁気分離の場合、本発明により作成可能なリガンド特異的粒子の増加した磁性負荷のため、低い決定子密度を有するバイオエンティティーが捕捉される。さらに、本発明は低濃度の1の特異的結合対メンバーの使用を可能にすることによって莫大な利益を提供する。磁性粒子(またはいずれか他の物質)を1の特異的結合対メンバーと結合した標的エンティティーと何回か繰り返し接触させることができる場合、同じレベルの標識を達成するためにより少量が必要とされるであろう。
【0026】
本明細書で使用される場合、「標的バイオエンティティー」または「被検体」なる語は、幅広く種々の目的の生物学的または医学的材料をいう。例えば、ホルモン、タンパク質、ペプチド、レクチン、オリゴヌクレオチド、薬剤、化学物質、核酸分子(RNAまたはDNA)および細胞、ウイルス、細菌などのような生物粒子を包含する生物学的起源の粒状被検体を包含する。上記の標的バイオエンティティーのいずれかに関して使用される場合、「決定子」なる語は、バイオスペシフィックリガンドまたはバイオスペシフィック試薬によって特異的に結合され、その存在が選択的結合が起こるために必要とされる特異的結合物質に選択的に結合することに関与し、その原因となる標的のバイオエンティティーの一部分を示す。基本的用語において、決定子は、特異的結合対反応において受容体によって認識される標的バイオエンティティー上の分子接触領域である。本明細書で使用される場合、「特異的結合対」なる語は、抗原−抗体、受容体−ホルモン、受容体−リガンド、アゴニスト−アンタゴニスト、レクチン−炭水化物、核酸(RNAまたはDNA)ハイブリダイズ配列、Fc受容体またはマウスIgG−プロテインA、アビジン−ビオチン、ストレプトアビジン−ビオチン、およびウイルス−受容体相互作用を包含する。想像上、当業者に明らかなように、種々の他の決定子−特異的結合物質の組み合わせが本発明の方法の実施に使用できる。本明細書で使用される場合、「抗体」なる語は、免疫グロブリン、モノクローナルまたはポリクローナル抗体、免疫反応免疫グロブリンフラグメントおよび1本鎖抗体を包含する。伝統的に作成される抗体と同様な特異性を有する決定子を特異的に認識するペプチド、オリゴヌクレオチドまたはその組み合わせもまた、本発明の使用が意図される。本明細書で使用される場合、「検出可能に標識する」なる語は、物理的または化学的手段による直接または間接的なその検出または測定が試験試料中の標的バイオエンティティーの存在を示すいずれかの物質を示す。有用な検出可能な標識の代表例は、限定するものではないが、光吸収、蛍光、反射率、光散乱、燐光またはルミネセンス特性に基づいて直接または間接的に検出可能な分子またはイオン;それらの放射能特性によって検出可能な分子またはイオン;それらの核磁気共鳴または常磁性特性によって検出可能な分子またはイオンを包含する。光吸収または蛍光に基づいて間接的に検出可能な分子の群のなかでも、例えば、適当な基質を変換する、例えば、非−光吸収から光吸収分子に、または非−蛍光から蛍光分子へ変換する種々の酵素が包含される。「実質的に除外して」なる句は、バイオスペシフィックリガンドまたはバイオスペシフィック試薬とその対応する標的決定子との間の結合反応の特異性を示す。バイオスペシフィックリガンドおよび試薬は、その標的決定子に対して特異的結合活性を有し、また、今だ、他の試料成分に対して低レベルの非特異的結合を示しうる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1Aはヒストグラムであり、図1BはEpCAM特異的モノクローナル抗体を用いるPC3細胞の標識を示すグラフである。
【図2】図2Aおよび図2Bは、EpCAM特異的モノクローナル抗体に結合した磁性ナノ粒子を異なる濃度で用いるPC3細胞の標識を示す1対のヒストグラムである。細胞の標識は、磁気分離の前(図2A)および後(図2B)で示す。
【図3】図3Aおよび3Bは、非特異的モノクローナル抗体結合強磁性流体を用いて得られた標識(図3B)と比較した、強磁性流体に結合した細胞特異的モノクローナル抗体を用いるPC3細胞の標識(図3A)を示すヒストグラムである。各場合において、磁気分離の前後のPC3細胞の蛍光強度を示す。
【図4】図4は、磁気収集の前後のCD34特異的モノクローナル抗体に結合した磁性ナノ粒子を用いるKG1a細胞の標識を示すヒストグラムである。
【図5】図5A−5Dは、磁場の外側(図5Aおよび5C)および内側(図5Bおよび5D)におけるダイナル抗−上皮細胞ビーズを用いるインキュベーション後の前立腺腫瘍(PC3)細胞を示す一連の顕微鏡写真である。小さいドットは遊離のダイナルビーズである。図5Aおよび5Bは、10x倍率であり;図5Cおよび5Dは20x倍率である。
【図6】図6A−6Dは、磁場の外側および内側でのダイナル抗−上皮細胞ビーズを用いるインキュベーション後の胸部腫瘍細胞(SKBR3)を示す一連の顕微鏡写真である。小さいドットは遊離のダイナルビーズである。
【図7】図7A−7Cは、磁気分離の間の特異的または非特異的強磁性流体を用いるPC3細胞の標識を示すヒストグラムである。図7A:磁気分離の間に存在する遊離の強磁性流体なし;図7B:磁気分離の間に存在する特異的強磁性流体:図7C:磁気分離の間に存在する非特異的強磁性流体。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の詳細な記載
上記の議論から、特異的結合対のメンバー間の結合相互作用を促進するためのいずれかの手段が1または他のかかるメンバーを有する被検体の分離性を改善することが明らかであろう。広く認められている特許出願(名称「磁性ナノ粒子の調節した凝集方法("Methods of Controlled Aggregation of Magnetic Nanoparticles")」、Libertiら)において、凝集原理によって標的エンティティー上での磁性負荷を増加する方法が開示されている。該開示は、正常な集団の約85%由来のヒト血液中において種々のレベルで生じるIgMと考えられる特異的因子の発見に基づいている。該IgM−様因子は、LibertiおよびPinoの米国特許第5,597,531号に記載の方法によって調製された強磁性流体と反応する。強磁性流体凝集因子(FFAF)は、付加的な強磁性流体をすでに細胞に結合している強磁性流体上に密集させる。該付加的な磁性負荷は有意に希薄な細胞単離、特に低決定子密度細胞の単離の効率を上げる。これらの観察は、また、細胞が損傷せず、細胞回収が増えるように、強磁性流体の密集を逆転させる方法の開発を容易にした。好ましい順序は、(1)その多くが潜在的に存在する血中のいずれかの内因性FFAFを除去または無能力にし;(2)細胞を決定子特異的リガンドに結合した強磁性流体と共にインキュベートし;(3)工程2と同時またはその後に、可逆性凝集剤を添加することによって強磁性流体の凝集を引き起こし;(4)試料を磁気勾配に付して標的の単離を引き起こし;(5)少なくとも1つの細胞相溶性脱凝集剤を用いて凝集を逆転させることである。該手順は、全血由来の希薄な低決定子密度細胞の効率のよい、再現可能な単離をもたらす。内因性FFAFを含有しない血液を洗浄することによって、工程1を削除でき、回収が増えるであろうことは明らかである。
【0029】
標識実験を行う場合、標的物質を標識化剤と共にインキュベートすることが通例である。インキュベーション時間はいくつかの因子に依存するであろう。これらは、標識化剤の大きさおよび濃度、アッセイの温度および系を混合するか否かを包含する。1−2μg/mlの濃度のモノクローナル抗体を用いて細胞を標識する場合、抗体アフィニティーに依存して、標識物質を標識リガンドと共に室温で15分間インキュベートすることが一般的である。抗体濃度を5μg/mlまで増加することによって、インキュベーション時間を約5分間に短縮することができる。いずれかの場合、試料の混合は、結合される抗体量に明白な影響を与えない。ダイナルビーズのような大きい磁性粒子の場合、製造者によって推奨されるインキュベーション時間は、沈降を防ぐために必要とされる混合を行いながら、20〜30分である。強磁性流体標識は15分間のインキュベーションを必要とし、その後、四極子分離器(米国特許第5,186,827号)において15分間の標準化された分離を行い、それは典型的に最も良好な結果を与えることが見出された。おそらく、これは、強磁性流体コロイドの安定性、大きさおよびコロイドの性質の結果である。
【0030】
粘性溶液(典型的には血液)からの細胞の単離における研究において、慣例的に、媒体からの最適な分離は上記の四極子磁気装置の1つにおいて10−15分かかることが観察された。しかしながら、磁気的に収集された細胞を緩衝液中に再懸濁し、再び分離する場合、かかる過程の最適時間は約3〜4分である。該観察は、粘性効果だけでは説明できない。内因性凝集因子を除去するために処理された全血中にスパイクされた低決定子密度上皮腫瘍細胞の単離を評価するために実験を行った。抗−EpCAMモノクローナル抗体に直接結合した強磁性流体を用いた。室温で15分間インキュベーション後すぐに、細胞に結合した強磁性流体の量を定量し、合わせたインキュベーション後および10分分離工程後に達成された標識の量と比較した。データは、磁気分離工程の不在下で、標的細胞に結合した強磁性流体の量が5倍減少したことを示す。インキュベーション時間が強磁性流体結合に影響したかどうかを評価するために、処理時間が2つの試料間で同一となるように、第1の試料を室温でさらに10分インキュベートした。より長いインキュベーションにおいて、強磁性流体結合における実質的な増加は観察されなかった。インキュベーション工程直後および分離工程前に、強磁性流体のさらなる結合を防ぐために所定量の抗−EpCAMモノクローナル抗体を加える場合、分離した細胞に結合した強磁性流体の量はインキュベーションだけの後で得られた量と同一であった。これらの観察は、分離工程の間に細胞に結合する付加的な強磁性流体が特異的細胞決定子に結合するのであって、磁性物質によって誘導される強磁性流体−強磁性流体現象の型ではないことを示唆した。下記の実施例に示される研究は、上記の仮定が本当に正しいことを証明するであろう。
【0031】
したがって、いずれかの特異的結合対間の相互作用をその大きさにかかわらず促進するために適用されうる新規な方法が提供される。特異的結合対メンバーの促進された結合を誘導するために、1つの特異的結合対メンバーだけを他に対して相対的に移動させなければならない。本発明の基礎を成す原理の一般的な応用性の例として、細胞だけが遠心場において移動するように(強磁性流体自体ではない)、特異的強磁性流体と共にインキュベートしている細胞懸濁液を遠心分離する場合、懸濁液を強磁性流体と徹底的に混合した場合よりもかなり多くの強磁性流体が細胞に結合するであろう。より大きなダイナルビーズは、その大きさおよび密度のため、細胞と一緒に遠心分離し、それゆえ、本明細書の記載と同一の磁性負荷現象を提供できない。したがって、ダイナルビーズ−特異的リガンド結合体を細胞懸濁液とともにインキュベートし、容器に隣接して適当な磁石を置くことによって、磁性ビーズを相互に作用するサイクルで懸濁液中を移動させる場合、単純に混合した場合と比較して、細胞に結合したビーズの量が非常に有意に増える。これらの観察は、顕微鏡およびおそらく巨大分子レベルで、真の混合または衝突を包含する混合に限りがあることを示唆する。
【0032】
1の特異的結合対メンバーの他に対する相対的な運動を誘導する種々の方法があり、その多くは特異的結合対メンバーのいずれかまたは両方に対する磁気的効果を必要としない。一般的な意味において、本発明は、多くの実際的利益および応用を有する。単純な混合または攪拌と比較して、より大きな特異的結合対相互作用を達成することができる。さらに、多くの例において、より短時間で最適な結合を達成することが有益であろう。本発明は、その目的に適用でき、一般に、必要とされる特異的結合対メンバーの量を減少させるだけでなく、特異的結合対メンバー間の相互作用が重要な事象であるいずれかの試験またはプロセスの効率を大いに増加させるであろう。細胞および細胞様分離に加えて、免疫アッセイ、DNAまたはRNAの捕捉および工業的プロセスのような本発明によって利益を得るであろう多くの他の可能性のある応用が存在する。磁気勾配分離の手段によって目的の物質を非磁性試験媒体から単離するために磁性粒子を使用する磁気分離法が好ましい。試料をまず混合し、それにより、磁気分離装置中に置く前に磁性粒子が標的を見出すことが可能になる。該インキュベーション期間の間、ボルテックスのようないくつかの手段によって試料を混合または攪拌して、磁性粒子と標的細胞との間により大きな接触を引き起こし、同様に成分の沈降を防ぐことが通例である。下記の実施例において、ナノ粒子を細胞に対して相対的に溶液中を移動させる磁気勾配の影響下での目的物質の標識が、標識密度を著しく増加させることが明らかにされる。標識密度の増加は、標的物質のより効率のよい分離をもたらす。
【0033】
細胞、細菌、ウイルス、タンパク質または核酸のようなバイオエンティティーを磁性粒子で標識する場合、異なる大きさの粒子を使用することができる。しかしながら、磁性粒子の標識されるべき溶液または懸濁液中での移動は、衝突および結合を最適化する方法で行われなければならない。粒子を移動させるために磁気勾配が使用される場合、粒子を標的バイオエンティティーと衝突させるが、標的バイオエンティティーから決定子(例えば、受容体)を「剥ぎ取らない(rip)」勾配が好ましい。したがって、ダイナル粒子は低勾配場を必要とし、一方、より高い磁気勾配は、コロイド状ナノ粒子と共に利用されうる。標識反応の間の標的の差別的な移動および物質の収集は、分離工程の間に、または反復分離もしくは部分的分離および再懸濁によって実現できる。別法では、磁性材料をインキュベーション容器内で多方面にわたって移動させることができる。相対的な移動をもたらすために遠心分離を使用する場合、特異的結合対メンバーの1方が遠心力によって影響されないか、または特異的結合対のメンバーに対して作用する遠心力の差が十分に衝突を引き起こすことができるべきである。
【0034】
下記の実施例は、さらに、本発明の基礎を成す基本的原理および磁気分離に関連するような本発明を用いるための種々の手段をいくらか詳細に記載する。細胞分離のためのコロイド状磁性ナノ粒子(強磁性流体)の使用は、本開示時に発明者らによって意図された最も良好な様式を構成する。これらの粒子例は、いかなる方法においても、本発明を制限するように考えられるべきではない。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
強磁性流体の不在下での細胞特異的モノクローナル抗体を用いる細胞標識
上皮細胞接着分子(EpCAM)は、典型的標的抗原であり、本発明の方法にしたがって標的バイオエンティティー上の促進された磁性負荷を明らかにするために利用された。EpCAMは、上皮細胞起源の細胞上で発現するが、造血起源の細胞上では発現しない。EpCAM抗原の密度は単離および/または分析されるべき細胞型に依存する。例えば、前立腺腫瘍細胞系統(PC3細胞)上でのEpCAMの発現は均一であり、発現レベルは比較的低い。図1Aは、EpCAMに特異的なマウスモノクローナル抗体を用いるPC3細胞上でのEpCAMの分布を示すヒストグラムである。次に、EpCAM抗体結合のレベルをフルオレセインイソチオシアネート(FITC)に結合した二次ヤギ抗−マウス抗体(GAM)GAM−FITCを用いて定量した。蛍光強度は、細胞上の抗体量に正比例する。図1のヒストグラムは、細胞上でのEpCAMの分布を示すPC3細胞の蛍光強度を示す。図1Aはまた、PC3細胞がEpCAMに関して細胞の1集団よりなることを示す。抗原の飽和は、図1Bに示すように、4μg/ml濃度のEpCAMモノクローナル抗体で得られる。
【0036】
[実施例2]
相対的磁気移動運動の不在下での抗−EpCAM−強磁性流体を用いる細胞標識
EpCAMに特異的なマウスモノクローナル抗体を磁性ナノ粒子(強磁性流体)と結合させた。PC3細胞を1mlあたり5、10、20、40および60μgの鉄(Fe)の濃度の上皮細胞特異的強磁性流体(抗−EpCAM−FF)と共にインキュベートした。強磁性流体に結合した抗体の全てが標的に特異的に結合できると仮定する場合、およその抗体濃度は、1mlあたり各々、0.4、0.8、1.5、3.1および4.6μgである。実験において、0.75mlの等張緩衝液中における約200,000個のPC3細胞を12x75mmポリスチレン管に加えた。抗−EpCAM−FF(20μl容量)を5、10、20、40および60μg/mlの最終濃度で試料に加えた。穏かなボルテックスによって試料を混合した。15分間のインキュベーション後、試料を500gで5分間遠心分離して、細胞を非標識強磁性流体から除去した。上記および下記に示すように、該工程は細胞上への強磁性流体負荷を促進する。該実施例の目的の場合、該工程によって負荷された加えられた強磁性流体は、全結果に影響しないであろう。上澄液を廃棄した。細胞ペレットを100μlの等張緩衝液中に再懸濁した。次いで、細胞をGAM−FITCで染色して、細胞に結合した抗−EpCAM−FFの量を定量した。15分間インキュベーション後、1mlの等張緩衝液を細胞に加え、試料を遠心分離して過剰のGAM−FITCを除去した。細胞ペレットを500μlの等張緩衝液中に再懸濁し、細胞の蛍光強度をフローサイトメトリー(FACScaliber, Becton-Dickinson,San Jose, CA)によって測定した。観察された蛍光強度は、細胞上の強磁性流体量に正比例した。
【0037】
図2Aは、蛍光ヒストグラムを示す。平均蛍光強度(MFI)または非染色細胞のベースライン蛍光は、任意の単位において4.1であった。5μg/ml濃度の抗−EpCAM−FFでのMFIは22.4であった。10μg/ml濃度でのMFIは33.7であった。20μg/ml濃度でのMFIは67.3であった。40μg/ml濃度でのMFIは153.0であった。60μg/ml濃度でのMFIは220.3であった。図2Aのデータから、図1Aに示されるように細胞の標識に精製抗体を用いたときに得られたのと同様の強磁性流体の滴定曲線を得ることができたことが明らかである。
【0038】
図2Aに示されるような細胞を飽和するために必要とされる比較的大量の強磁性流体(60μg/ml)は、大容量が処理されなければならない場合に、該手法の経済的可能性を束縛する。分析を実施するために200μlに減らされるべき全血試料、例えば、20mlを用いて行う場合、もう1つ別の複雑な状況が存在する。試料容量減少後に存在する遊離の強磁性流体の量は、続く分析を妨げることができる。したがって、最適な標識および効率のよい分離を提供すると同時に、磁性粒子濃度を最小に維持することが望ましい。
【0039】
[実施例3]
磁気分離の前後の細胞特異的または非特異的強磁性流体の標識強度
該実施例および追随するいくつかは、どのように相対的運動原理が見出されたのか、ならびに、その効果の規模およびその結果を明らかにする。該実施例において、低EpCAM決定子密度を有する前立腺腫瘍細胞系統PC3の細胞を使用した。1.5mlの等張緩衝液中における約500,000個のPC3細胞を12x75mmポリスチレン管に加えた。抗−EpCAM−FF(20μl容量)を0、5、10、20、40および60μg/mlの最終濃度で試料に加えた。試料を穏かにボルテックスしながら混合し、四極子磁気分離器中に10分間置いて分離をもたらした。10分後、上澄液を廃棄した。管を磁気分離器からはずした。容器壁に収集された細胞および遊離の強磁性流体を1mlの等張緩衝液中でボルテックスしながら再懸濁した。試料を上記のように遠心分離して細胞を遊離の強磁性流体から除去した。細胞ペレットを飽和量のGAM−FITCを含有する100μlの等張緩衝液中に再懸濁した。15分間インキュベーション後、1mlの等張緩衝液を管に加え、遠心分離して過剰のGAM−FITCを除去した。細胞ペレットを500μlの等張緩衝液中に再懸濁し、細胞の蛍光強度をフローサイトメトリーによって測定した。
【0040】
図2Bに示されるヒストグラムは、図2Aと対照的に、強磁性流体を用いるPC3細胞の標識が、磁場における強磁性流体標識化PC3細胞の分離後に試験した強磁性流体の全ての濃度において比較的一様であることを示す。さらに、各場合の標識は、図2Aの実験、すなわち、磁気分離を行わなかった実験において使用された強磁性流体の最も高レベルを用いて得られたのと同様であった。
【0041】
磁気分離器中でのインキュベーションにおいて磁気的に収集された細胞の標識が促進される理由を調べるために、下記の実験を行った。抗−EpCAM−FF(20μl容量)を5μl/mlの最終濃度および1.5mlの容量でPC3細胞試料に加えた。15分間インキュベーション後、500μlの強磁性流体標識化細胞を12x75mmポリスチレン管に移し、500gで5分間遠心分離して非標識化強磁性流体から細胞を除去した。残存する1mlの強磁性流体標識化細胞を四極子磁気分離器中に10分間置いた。上澄液を吸引後、収集された細胞および遊離の強磁性流体を1mlの等張緩衝液中に再懸濁し、上記のように遠心分離して遊離の強磁性流体から細胞を分離した。各遠心分離後、上澄液を捨て、細胞ペレットを100μlの細胞緩衝液中に再懸濁し、GAM−FITCで標識した。15分間インキュベーション後、1mlの等張緩衝液を管に加え、遠心分離して過剰のGAM−FITCを除去した。細胞ペレットを500μlの等張緩衝液中に再懸濁し、細胞の蛍光強度をフローサイトメトリーによって測定した。さらに、磁気分離実験後、緩衝液中に残存した非収集細胞を12x75mm管に移し、遠心分離して細胞をいずれかの遊離の強磁性流体から分離し、上記のようにGAM−FITCで染色した。図3Aは、抗−EpCAM−FFに曝露されなかった細胞、分離前の抗−EpCAM−FFと共にインキュベートした細胞、および磁気インキュベーション後の非収集および収集細胞フラクションの蛍光強度のヒストグラムを示す。平均蛍光強度(MFI)は、非標識細胞(バックグラウンド蛍光)で5.0、磁気分離前の強磁性流体標識化細胞で19.4、磁気選択後に得られた細胞で69.5および磁気選択後に懸濁液中に残存した細胞で28.2であった。データは、収集細胞のMFIが磁気分離前の同じ細胞と比べて4倍高かったことを示す。非収集細胞のMFIは、磁気分離前の細胞よりもわずかに高かった。図3Aは、明らかに、PC3細胞は磁気分離後のEpCAM密度に関して均一であるが、磁気的に収集された細胞は、非収集細胞と比べた場合、その表面に有意により多くの強磁性流体を有することを示す。分離の間に収集されなかった細胞は、強磁性流体で標識されたが磁気分離器に付されなかった細胞と比べて、その細胞表面上にわずかにだけ多くの量の強磁性流体を有する。
【0042】
強磁性流体標識におけるこの増加が特異的強磁性流体−受容体相互作用に起因することを確信するために、CD34抗原(CD34 FF)、PC3細胞上に存在しない抗原を認識する非特異的抗体で標識した強磁性流体用いて実験を繰り返した。図3Bは、抗−CD34−FFの不在下でのPC3細胞、分離前の抗−CD34−FFと共にインキュベートした細胞、および磁気インキュベーション後の非収集および収集細胞フラクションの蛍光強度のヒストグラムを示す。平均蛍光強度(MFI)は、非標識細胞(バックグラウンド蛍光)で5.0、磁気分離前の強磁性流体標識化細胞で4.8、磁気選択後の懸濁液中に残存した細胞で4.5、非特異的に選択されたわずかな細胞で17.1であった。抗−EpCAM−FFを用いる実験とは対照的に、細胞は二次GAM−FITC結合抗体で標識されず、強磁性流体が細胞上に存在しなかったをことを示す。
【0043】
上記の実験から引き出すことのできる結論は:1)リガンド特異的強磁性流体の試料への添加後、その後の磁場への曝露は、細胞に結合した磁性粒子の数に増加をもたらす;2)磁気的に収集された細胞および非収集細胞は図1に示されるように、同数のEpCAM抗原を発現するが、磁気的に収集された細胞は非収集細胞と比べて多数の磁性粒子を細胞表面上に有する;3)細胞あたりの磁気量の増加は、細胞特異的強磁性流体を用いてのみ得ることができる。
【0044】
[実施例4]
標識密度の増加は異なる抗原を用いて得ることができる
本明細書に記載の現象が腫瘍細胞上に存在する特定の抗原決定基に限らないことを明らかにするために、CD34+KG1a細胞系統およびCD34モノクローナル抗体が結合した強磁性流体を用いる実験を行った。該実験で用いられた実験手順は、上記のPC3細胞および抗−EpCAM−FFについて記載されたものと同様であった。該実験の結果は、図4に示される。データは、磁気分離が標的細胞に結合している磁性粒子の量に増加をもたらしたことを明らかにする。平均蛍光強度(MFI)は、非標識細胞(バックグラウンド蛍光)で2.1、磁気分離前の強磁性流体標識化細胞で16.7、磁気選択後に得られた細胞で125.1および磁気選択後の懸濁液中に残存した細胞で20.2であった。これらの結果は、EpCAM抗原陽性細胞について得られた結果と一致する。
【0045】
[実施例5]
相対的移動によって誘導される標識密度の増加は粒子の大きさに無関係である
上記の実施例は、磁性粒子が標的細胞に対して相対的に移動しているとき、特異的磁性ナノ粒子を用いる細胞の標識における増加を分離過程の間に得ることができることを示す。上記で使用した磁性ナノ粒子は、150−180nmの大きさの範囲の強磁性流体である。該現象がより大きな磁性粒子に適用されるかどうかに取り組むために、ダイナルビーズを用いる実験を行った。ダイナル社(ノルウェー)は、細胞の単離に用いられる2つの異なる大きさ(2.8および4.5μm)の磁性ビーズを製造している。該実施例において、2.8μmの大きさであって、EpCAMに特異的なマウスモノクローナル抗体(Ber-EP4)でコートされた抗−上皮細胞ダイナビーズ(Dynabeads)を使用した。これらのビーズは顕微鏡下で見ることができるので、細胞に結合したビーズの量を定量するために二次染色(例えば、GAM−FITC)は必要とされない。400,000個の前立腺腫瘍細胞(PC3)を含有する等張緩衝液(0.75ml)を12x75mmポリスチレン管に加えた。抗−上皮細胞特異的ダイナビーズ(1x10個のビーズ)を含有するPBS緩衝液(50μl)を試料に加え、ボルテックスによってよく混合し、試料を単極子磁気分離器に接して10分間置いた。2分毎に試料を磁気分離器から離し、混合し、戻した。該実験に用いられた磁気勾配は、ダイナルビーズが試料中をゆっくりと移動するようなものであった。対照として、PC3細胞を含有するもう1つ別の試料をダイナビーズと共に磁場の不在下で混合しながら10分間インキュベートした。10分間処理したこれらの試料の各々から、5μlを顕微鏡スライド上にスポットした。次いで、細胞および遊離のダイナビーズをデジタルカメラを取り付けた顕微鏡を用いて撮影した。
【0046】
図5は、磁性ビーズに結合したPC3腫瘍細胞および遊離のビーズを示す。図5Aおよび5Cは、混合したが、磁場に曝露されなかった試料を示す。遊離のDynabeaseの有意な数に注目されたい。図5Bおよび5Dにおいて、Dynabeasおよび細胞が磁気勾配に曝露されたので、非常にわずかしか遊離のビーズが試料中に観察されなかった。また、後者の場合、1細胞あたり明らかにより多くのビーズが存在する。これらの結果は、ビーズが細胞試料中を移動させられるならば、標的細胞含有試料のより大きな磁性ビーズとのインキュベーションが細胞に対する磁性ビーズの結合において有意な増加をもたらすことを示す。高EpCAM密度胸部癌細胞系統、SKBR3を用いて、実験を抗−上皮ダイナビーズを用いて繰り返し、結果を図6に示す。これらの結果は、PC3細胞について観察されたものと一致する。すなわち、単に混合しただけの試料と比べて、より多くのビーズが細胞に結合し、磁場に付された試料中で遊離のビーズは観察されなかった。
【0047】
[実施例6]
磁気分離の前後の細胞特異的強磁性流体を用いるインキュベーション後の細胞の標識強度
本明細書に記載の原理をさらに確認するため、および細胞標識において観察される増加を得るために溶液中で遊離した強磁性流体が必要か否かを決定するために、下記の実験を行った。実験は、抗−EpCAM−FFおよび抗−CD34−FFを用い、前立腺腫瘍細胞系統PC3を用いて行った。図7Aは、磁気分離の前後の両方で、抗−EpCAM−FFを用いるインキュベーション後に得られるPC3細胞の蛍光強度のヒストグラムを示す。図3に示される実験と対照的に、磁気分離前に遠心分離によって細胞を溶液中で遊離した強磁性流体から除去した。図7Aから明らかなように、標識密度は、磁気分離の間に増加せず、磁気分離の間に遊離の強磁性流体が必要なことを示した。図7Bにおいて、磁気分離の前に2μg/mlの濃度で添加された抗−EpCAM−FFを用いて、実験を繰り返した。この場合、収集細胞の標識は明らかに増加した。しかしながら、抗−CD34−FFを分離前に添加した場合、細胞の標識強度における増加は観察されなかった。さらに、このことは、図3および下記の表Iに示されるように、細胞の標識増加を得るために、溶液中で遊離した強磁性流体が標的細胞に特異的でなければならないことを明らかにする。したがって、磁気勾配は、細胞に対して相対的に強磁性流体を動かすように作用して、特異的結合を促進する。
【0048】
【表1】

【0049】
下記の結論が上記の実験から引き出されうる。1)過剰/非結合強磁性流体が磁気分離の前に除去される場合、磁気分離は標識強度を増加させない;2)溶液中における遊離の強磁性流体は、標的バイオエンティティーの標識強度を増加させるのに特異的な細胞型でなければならない。
【0050】
[実施例7]
標識強度および分離効率を上げるための最適化
上記の実験から、細胞標的に対して相対的な特異的磁性粒子の移動は、結合反応を有意に増大させる。該実施例において、観察される増大のための最適条件を提供するために、異なるインキュベーション条件下での特異的抗−EpCAM−FFを用いる腫瘍細胞の標識を評価した。200,000個の前立腺細胞(PC3)を含有する等張緩衝液(1ml)を異なる12x75mmポリスチレン管に加えた。特異的抗−EpCAM−FF(20μl)を各試料に最終濃度5μg/mlまで加え、各試料をボルテックスによって混合した。表IIに示す種々の条件下で試料をインキュベートした。15分インキュベーション後、試料をボルテックスによって混合し、500gで5分間遠心分離して、過剰の強磁性流体から細胞を除去した。上澄液を吸引後、細胞ペレットを100μlの等張緩衝液中に再懸濁した。次いで、細胞をGAM−FITCで染色し、細胞の蛍光強度をフローサイトメトリーによって測定した。結果を表IIに下記する。
【0051】
【表2】

【0052】
細胞を強磁性流体と共にインキュベートし、四極子磁気分離器中の磁場に曝露したとき、すなわち、強磁性流体の移動が起きている間、強磁性流体を用いる標的細胞の標識は有意に増加した(5〜7倍)。非常に類似した実験を一様な磁場、すなわち、非磁気勾配中において行ったとき、得られた標識は、細胞および強磁性流体を磁場の不在下でインキュベートしたときの本明細書で得られたものと同一であったことに注目されたい。
【0053】
[実施例8]
重力によって強磁性流体中を細胞を移動させることによる標的細胞の標識
上記の実験は、磁場の高勾配領域における強磁性流体の移動が標的細胞への強磁性流体の結合を促進すること、すなわち、細胞がより速く、より効果的に標識されることを示す。強磁性流体に対して相対的な標的細胞の移動が同様に、特異的強磁性流体の結合の増加をもたらすことを明らかにするために、遠心分離実験を行った。該実験のために、標的細胞(PC3)を上記の抗−EpCAM−FFと混合し、すぐに、500gで5分間遠心分離した。これらの条件下で、強磁性流体は顕著に再分布しない。強磁性流体を用いる細胞の標識は、上記のようにGAM−FITCでの染色後にチェックした。これらの実験は、遠心力によって強磁性流体中を細胞を移動させることもまた、静止インキュベーションに付された細胞と比べて、2倍の細胞標識の増加をもたらしたことを明らかにした。注目すべきは、標識量を測定するために使用される手段が非結合強磁性流体からの細胞の遠心分離を用いることである。したがって、コントロールは全て、人為的に上昇する。しかしながら、得られたデータは明らかに、特異的結合対メンバー間の結合の増加のための差別的な移動の原理を示す。
【0054】
上記の事件から引き出されうる結論は、下記のとおりである。1)標識強度の増加を実現するのは、磁気勾配であり、インキュベーションの間に存在する磁場の強さではない。したがって、ナノ粒子の移動が必要とされる。2)最適以下の濃度の磁性粒子を用いる標的細胞標識における有意な増加は、a)強磁性流体懸濁液中を標的エンティティーを移動させることによって、またはb)細胞懸濁液中を磁性粒子を移動させることによって得ることができる。
【0055】
[実施例9]
細胞上の粒子数の増加は細胞回収を増加する
本明細書で下記する実験の結果は、さらに、本発明の方法を用いて標的バイオエンティティー上の磁性粒子の負荷を増加することが有意にかかるエンティティーの収集効率を向上することを示す。血液(1ml)を遠心分離し、血漿を除去し、等張緩衝液で置き換えて、細胞の標識をもたらすことのできるいずれかの潜在的な成分を取り出した。血液細胞を12x75mmポリスチレン管に加え、次いで、0.5mlの希釈洗浄緩衝液(Immunicon)を加えた。既知数の低EpCAM密度PC3細胞を含有する等張緩衝液(50μl)を血液試料中にスパイクした。20μlの抗−EpCAM−FFを各試料に最終濃度5μg/mlまで加えた。
【0056】
1の試料を磁気勾配の不在下で15分間、混合しないでインキュベートした。インキュベーション後、試料を四極子磁気分離装置中に10分間置いて分離をもたらした。洗浄し収集した細胞を標識化抗体で染色して、下記のように、フローサイトメトリーによってスパイクされた腫瘍細胞の回収を測定した。腫瘍細胞を同定するフィコエリトリン(PE)に結合したHer2−neu MAbおよび白血球に特異的なペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)結合CD45 MAbを試料に加え、15分間インキュベートした。染色後、細胞を磁気分離によって洗浄して、過剰な染色抗体を除去した。磁気的に洗浄し、収集した細胞を500μlの希釈−洗浄緩衝液中に再懸濁した。10μl容量の核酸色素および10,000個の3μm蛍光ビーズを試料に加えた。次いで、発端として試料を核酸色素の放射蛍光を用いるフローサイトメーター上で分析した。フローサイトメトリーにおいて獲得された蛍光ビーズのフラクションは、フローサイトメトリーによって分析された試料の量を決定するために使用し、次いで、それは、スパイクされた腫瘍細胞の回収の算出を可能にする。
【0057】
細胞および強磁性流体の混合後、第2の試料を四極子磁気分離装置の内部に15分間置いた。1分毎に、管を磁気分離装置から取りだし、試料をボルテックスによって5秒間混合し、戻した。最終的に、管を分離器中にさらに10分間放置して分離をもたらした。試料を処理するための手順の残りは、試料1について上記したとおりであった。第3の試料は、5分毎に分離器から取り出し、ボルテックスし、戻す以外は、試料番号2と同様に処理された。第4の試料は、15分間の期間の最後にだけ、分離器から取り出し、ボルテックスし、戻し、次いで、10分間磁気分離装置中に放置して分離をもたらす以外は、試料番号2と同様に処理された。これらの実験は二連で行い、結果は表IIIに示し、添加したPC3細胞の回収%として表す。
【0058】
【表3】

【0059】
データは、血液および磁性粒子を細胞に対して相対的な磁性ナノ粒子の移動を実現する磁気勾配の存在下でインキュベートしたとき、PC3細胞の回収において非常に有意な増加があったことを示す。磁気勾配の存在下でのインキュベーションスキームの種々の修飾は、磁気勾配の不在下で行われたインキュベーションスキームと比べて、一貫してPC3細胞のより大きな回収をもたらした。磁気装置中における異なるインキュベーション間のPC3細胞の回収において、いくつかの差異が存在した。強磁性流体中を標的細胞が3回通過するプロセスが最も良好な結果を与えるようである。
【0060】
同様の実験は、遊離のEpCAM MAbが磁気分離工程前の室温でインキュベートされた試料に加えられたとき、標的腫瘍細胞の回収が減少することを明らかにする。強磁性流体移動の不在下でEpCAM−MAbを分離前に加えるとき、特に、比較的低い決定子密度細胞、例えば、PC3の場合、分離効率は著しく減少する。SKRB3のような高決定子密度細胞を用いると、効果はそれほど劇的ではない。表IVを参照のこと。
【0061】
【表4】

【0062】
[実施例10]
細胞標識の増加は広範囲な抗原密度を発現する細胞を用いて得ることができる
嚢癌系統T24、前立腺癌細胞系統PC3および胸部癌細胞系統SKBR−3由来の細胞は、種々の密度のEpCAM抗原を細胞表面上に発現する。抗原密度を、細胞をEpCAMに特異的なフルオレセイン化モノクローナル抗体で染色することによって評価した。非染色細胞の蛍光強度と比べた場合、下記の表Vに示すように、T24細胞の平均蛍光強度は2倍高く、PC3細胞は8倍高く、SKBR3細胞は50倍高かった。本発明の基礎を成す原理においてかかる範囲の抗原密度の効果を評価するために、下記の実験を行った。洗浄した血液細胞のアリコート(1ml)を12x75mmポリスチレン管に加え、次いで、0.5mlの希釈−洗浄緩衝液を加えた。各細胞系統について既知数の腫瘍細胞を含有する細胞緩衝液(50μl)を各試料中にスパイクした。抗−EpCAM−FF(20μl)を各試料に最終濃度5μg/mlまで加えた。試料をよく混合し、適当な対を混合せずに室温で15分間インキュベートするか、または磁気分離器中に15分間置いた。上記のように、全試料をよくボルテックスし、磁気分離器中に10分間置いて分離をもたらした。
【0063】
回収された細胞を適当な標識化抗体で染色して、上記のようにフローサイトメトリーによってスパイクされた腫瘍細胞の回収を測定した。下記の表Vに示す結果は、標的被検体に対して相対的な強磁性流体移動を誘導する磁気勾配の影響下でインキュベーションを行うことにより、腫瘍細胞回収における有意な増加が達成されることを明らかにする。注目すべきは、より低いEpCAM密度を有する腫瘍細胞において、効果がより明白であることである。
【0064】
【表5】

【0065】
若干数の本発明の好ましい具体例を記載し、詳細に上記に例示したが、本発明はかかる具体例に限定されるものではない。上記の請求の範囲に示すように、本発明の範囲および精神から逸脱することなく、種々の修飾がそれになされることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特異的結合対のメンバーの両方が移動できるキャリヤー媒体中における特異的結合対のメンバー間の結合相互作用を促進する方法であって、該キャリヤー媒体中を、特異的結合対の1のメンバーを特異的結合対の他のメンバーに対して相対的に移動させることを特徴とし、ここに、1の特異的結合対メンバーを粒状磁性材料の表面上に結合し、他の特異的結合メンバーを標的被検体と結合し、該粒状磁性材料の表面上に結合した1の特異的結合対メンバーを磁場勾配の影響下で媒体中を移動させる方法。
【請求項2】
該粒状磁性材料の表面上に結合した1の特異的結合対メンバーを最初に1の方向に移動させ、次いで異なる方向に移動させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
特異的結合対メンバーがビオチン−ストレプトアビジン、抗原−抗体、ミメトープ(mimetope)−抗体、受容体−ホルモン、受容体−リガンド、レクチン−炭水化物、プロテインA−抗体Fcおよびアビジン−ビオチンよりなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項4】
標的被検体がホルモン、タンパク質、ペプチド、レクチン、オリゴヌクレオチド、薬剤、化学物質、核酸分子、細胞、ウイルスおよび細菌よりなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
磁性材料が50nm〜50μmの範囲の粒子の大きさを有する請求項1記載の方法。
【請求項6】
磁性材料が90〜400nmの範囲の粒子の大きさを有する請求項5記載の方法。
【請求項7】
該粒状磁性材料の表面上に結合した1の特異的結合対メンバーを、前記メンバーの両方を混合した直後に移動させる請求項1記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−261963(P2010−261963A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151171(P2010−151171)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【分割の表示】特願2000−596370(P2000−596370)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(309021320)ベリデックス・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】Veridex,LLC
【Fターム(参考)】