説明

特異的薬理シャペロンによるゴーシェ病の治療および代理マーカーを用いた治療の監視

全身性および/または細胞代理マーカーを用いて、特異的薬理シャペロンによるゴーシェ病の治療を監視する方法が提供される。また、かかる治療の進行を監視するために使用可能である新規のバイオマーカーも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、共に全体が参照により本明細書に援用されている2007年4月13日出願の米国仮特許出願60/911,699号明細書および2008年2月12日出願の米国仮特許出願第61/028,123号明細書に対する優先権を主張するものである。
【0002】
本発明は、グルコセレブロシダーゼ、グルコシルセラミド、キトトリオシダーゼ、炎症性サイトカインおよびケモカイン、グルコシルセラミド含有マクロファージ、骨代謝マーカー類およびα−シヌクラインなどの特異的代理マーカーの存在およびレベルを判定することによりゴーシェ病を患う個体の特異的薬理シャペロンを用いた治療を監視するための方法を提供する。本発明は同様に、細胞レベルでの治療の効果を評価することにより、ゴーシェ病を患う個体の特異的薬理シャペロンを用いた治療を監視するための方法をも提供する。
【背景技術】
【0003】
ゴーシェ病
ゴーシェ病は、罹患した個体の細胞、特に単球およびマクロファージ内のスフィンゴ糖脂質(GSL)の蓄積に関連するリソソーム蓄積障害である。GSLのこの異常な集積は、GSLグルコシルセラミド(GluCer)を破壊するリソソーム加水分解酵素であるリソソーム酵素酸性β−グルコシダーゼ(GCase;グルコセレブロシダーゼ)の遺伝的欠損(突然変異)によって起こる。Gba変異の大部分は、GCaseタンパク質が小胞体(ER)内で誤った折畳みを行なう原因となる。誤って折畳まれたGCaseは、ER品質管理系によって認識され、その後、処理されリソソームまで輸送される代りに分解される(非特許文献1)。
【0004】
ゴーシェ病は、全体的疾病頻度が出生数50,000〜100,000人あたり約1件の割合の汎人種的疾病である。一部の個体群は、ゴーシェ病の比較的高い有病率を有する。例えばアシュケナージ系ユダヤ人の個体群においては、約15人に1人が、Gba変異のキャリヤである(非特許文献2)。国立ゴーシェ基金(National Gaucher Foundation)によると、約2500人のアメリカ人がゴーシェ病を患っている。
【0005】
ゴーシェ病は、常染色体劣性疾患であり、最も一般的なリソソーム蓄積症である。この疾患は、神経系病変および疾病の重症度に応じて3つの臨床タイプに分類された(非特許文献3)。1型は最も一般的であり、神経系病変が無いことを特徴とする。1型患者は、広範囲の重症度を示し、一生無症候であり続ける可能性もある。大部分の1型患者は、脾臓と肝臓の腫大、骨格異常および骨病変、および持続的炎症反応を示す。肝臓グルコセレブロシドレベルは、I型ゴーシェ病患者において、正常レベルの23倍から389倍まで上昇する。
【0006】
2型ゴーシェ病は最も稀で最も重症の形態であり、急性神経系疾患の早期開始が付随する。神経細胞障害性ゴーシェ病の特性は、水平注視の異常である。罹患した患者は進行性脳障害および錐体外路症候、例えば硬直およびパーキンソン様の動き(パーキンソニズム)を発生させる。大部分の2型ゴーシェ病患者は、神経機能の低下に起因する無呼吸または誤嚥のため小児期早期に死亡する。
【0007】
3型ゴーシェ病も同様に神経系の病変を有するが、その程度は2型よりも低い。3型患者も1型に特徴的である肝脾腫大症および骨格異常、および運動協調不良(運動失調)、発作、眼筋の麻痺、てんかんおよび認知症を含めた中枢神経系症候を有する。3型ゴーシェ病を患う人は、成人となるまで生存できるが、寿命は短いかもしれない。3型には3つの亜型が報告されている。すなわち、顕著な肝脾腫大症と骨髄疾患が関連する3a型;限定的な全身性症候が関連する3b型;および肝脾腫大症、角膜混濁、進行性失調症および認知症、および心臓弁および大動脈起始部の石灰化が関連する3c型、である。
【0008】
罹患したゴーシェ病患者において200超のGba変異が同定された。大部分のゴーシェ病患者は、幾分かの残留GCase活性を示す。しかしながら、表現型と遺伝子型の相関関係が弱いことが、表現型変異(variation)についての分子基盤を解明するための研究の問題となってきた(非特許文献4)。同じ遺伝的変異を内包する一組の双生児の間でさえ、表現型の一致が欠如している。これにも関わらず、3つの疾病タイプには異なる変異が関連している。少なくとも1つの対立遺伝子(ヘテロ接合体)上の点変異N370Sの存在は、ほぼ普遍的に、1型ゴーシェ病と関連する(非特許文献3、上掲書)。
【0009】
治療
臨床所見のある1型および3型疾患の治療は、大部分が組換え型GCaseの酵素補充療法(ERT)によるものである(Ceredase(登録商標)およびCerezyme(登録商標)、Genzyme Inc.)。骨髄移植(BMT)も同様に、ゴーシェ病(1型および3型)向け治療として利用されてきた。マクロファージは骨髄系幹細胞に由来することから、少数のゴーシェ病患者において、同種骨髄移植(BMT)が応用され成功を収めた。しかしながら、BMTには重症の病的状態と死亡率が随伴する可能性があり、適切な組織適合ドナーを有する患者の割合はわずかである。
【0010】
タンパク質欠損症を治療するための第3の比較的最近の手法には、欠損している酵素タンパク質の天然の基質の合成を阻害して病状を改善させるための小分子阻害物質の使用が関与している。この「基質還元」手法(SRT)は、ゴーシェ病を含む、リソソーム蓄積障害またはスフィンゴ糖脂質蓄積障害と呼ばれる約40の関連する酵素障害からなる一連の障害について、具体的に記述されてきた。
【0011】
特異的シャペロン戦略である第4の手法は、おそらくは小胞体(ER)またはその他の細胞タンパク質分解/排出システムにおいて、変異タンパク質を分解から救済する。特定の実施形態においては、この戦略は、特定のリソソーム障害に結びつけられる欠陥あるリソソーム酵素に対して特異的に結合する小分子可逆的阻害物質を利用する。治療が不在の場合、変異酵素はER内で誤って折畳まれ(非特許文献5)、最終製品に至るその成熟が遅延し、その後ERに関連する分解経路を介して分解される。シャペロン戦略には、ER品質管理システムからの不当なまたは異常な分解または誤って折畳まれたタンパク質の細胞内蓄積を防止するための、変異タンパク質の正しい折畳みを促進する化合物の使用が関与する。これらの特異的シャペロンは、特異的薬理シャペロン(または活性部位特異的シャペロン)と呼称される。
【0012】
シャペロン戦略は、全体が参照により本明細書に援用されているFanらに対する特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、および特許文献5中にあるように、リソソーム蓄積障害に関与する酵素について記述され例示されてきた。ゴーシェ病患者の細胞由来のGCaseの救済については、イミノ糖、イソファゴミン(IFG)およびその誘導体を用いかつ(共に2004年11月12日出願の係属中の特許文献6および特許文献7の中で記述されている)GCaseに特異的なその他の化合物を用いて記述された。かかる化合物としては、グルコイミダゾール((5R,6R,7S,8S)−5−ヒドロキシメチル−5,6,7,8−テトラヒドロイミダゾ[1,2a]ピリジン−6,7,8−トリオール)が含まれる。
【0013】
代理マーカー
表現型の不一致にもかかわらず、ゴーシェ病患者は、この疾病のいくつかの一貫した代理マーカーを示し、治療に対する臨床応答を評価するために用いられる。本発明は、ゴーシェ病の少なくとも1つ、そして好ましくは多数の代理マーカーの変化を評価することにより、特異的薬理シャペロンによる治療後のゴーシェ病患者の治療を監視する方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第6,274,597号明細書
【特許文献2】米国特許第6,583,158号明細書
【特許文献3】米国特許第6,589,964号明細書
【特許文献4】米国特許第6,599,919号明細書
【特許文献5】米国特許第7,141,582号明細書
【特許文献6】米国特許出願第10/988,428号明細書
【特許文献7】米国特許出願第10/988,427号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Street et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2006; vol. 103; no. 37: 13813-18
【非特許文献2】Aharon-Peretz et al., New Eng. J. Med. 2004; 351: 1972-77
【非特許文献3】Cox et al., Q J Med. 2001; 94: 399-402
【非特許文献4】Sidransky, Mol. Genetics and Metab. 2004; 83: 6-15
【非特許文献5】Ishii et al., Biochem. Biophys. Res. Comm. 1996; 220: 812-815
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、ゴーシェ病に関連する代理マーカーの存在および/またはレベルの変化を評価することにより、酸性β−グルコシダーゼ(GCase)のための特異的薬理シャペロンを用いたゴーシェ病患者の治療を監視する方法であって、改善によってその個体がシャペロン療法に応答していることが標示される方法を提供する。
【0017】
1つの実施形態において、代理マーカーは全身性代理マーカーである。
【0018】
全身的代理マーカーには以下のものの少なくとも1つが含まれる:細胞および尿中のリソソームGCase活性の減少;脂質を持ったマクロファージ(「ゴーシェマクロファージ」)の存在;肝脾腫大症;キトトリオシダーゼレベルの上昇;肝酵素レベルの上昇;LAMP−1およびサポシンCを含めたリソソームタンパク質レベルの上昇;肺ケモカインPARC/CCL18レベルの上昇;血漿α−シヌクラインレベルの上昇;アンジオテンシン転換酵素(ACE)および総酸性ホスファターゼレベルの上昇;免疫学的欠陥例えば貧血症、血小板減少症、白血球減少症、高ガンマグロブリン血症、脾臓中のT−リンパ球の量の減少、全身性B細胞過剰増殖、形質細胞増加症、炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−1β、IL−1α、IL−6)および骨代謝および多発性骨髄腫に関連するものを含めたケモカイン(TNF−α、IL−8、IL−17、MIP−1α、MIP−1β、VEGFおよびTRACP5b、BAP)のレベルの上昇、マクロファージ、リンパ球および好中球を含む組織または臓器内の炎症性病巣の存在、および好中球走化性の障害;骨格異常例えば骨髄内のゴーシェ細胞の浸潤、溶解性病変、骨硬化症、骨粗鬆症、骨クリーゼおよび骨痛、骨折、椎体圧潰、およびトリグリセリドレベルの低下;骨特異的アルカリホスファターゼレベルの低下;神経学的症候例えばニューロンの欠損、神経変性、水平注視異常、ミオクローヌス運動、角膜混濁、運動失調、認知症、痙性;発作、聴覚障害;認識機能障害;ゴーシェマクロファージの肺浸潤、および肺高血圧症。
【0019】
1つの具体的実施形態においては、薬理シャペロンを用いたゴーシェ病治療の後に予想されるマーカーの組合せは、以下のものである:白血球、皮膚、脳脊髄液(CSF)および尿中のβ−グルコセレブロシダーゼ(GCase)レベルの上昇;白血球、血漿、血清、尿、CSFおよび皮膚内のグルコセレブロシド(GlcCer)レベルの低下;血漿およびCSF中のα−シヌクラインレベルの低下;血漿中の骨特異的アルカリホスファターゼ(BAP)活性の増大;血漿中の酒石酸塩耐性酸ホスファターゼ5b(TRACP5b)活性の減少、血漿中のキトトリオシダーゼ活性の低下;血漿および尿中の肺および活性化調節型ケモカイン(PARC)の減少および血漿中のインタロイキン8、インタロイキン17、VEGF MIP−1βおよびMIP−1αレベルならびにLAMP−1およびカテプシンDの減少。評価される付加的なマーカーとしては、肝臓および脾臓体積のベースラインからの減少;ヘモグロビンレベルのベースラインからの上昇;ヘマトクリットレベルのベースラインからの変化;血小板数のベースラインからの変化;骨ミネラル濃度のベースラインからの改善;X線写真所見のベースラインからの改善;血漿、尿、白血球(WBC)およびCSF中のGM3レベルの低下;血漿およびCSF中のキトトリシダーゼ活性特にCSF中のIL−8、IL−6、膜マーカーの減少が含まれる。
【0020】
別の実施形態においては、代理マーカーは、細胞内代理マーカーである。
【0021】
細胞内代理マーカーには以下のものの少なくとも1つが含まれる:ゴーシェ病患者由来の細胞内におけるERからリソソームへのGCaseの異常輸送;エンドソーム経路を通した細胞脂質の異常輸送;ERまたは細胞質ゾル内における誤って折畳まれた大量のGCaseの存在;(ストレス関連マーカーの遺伝子および/またはタンパク質発現により判定されるような)GCaseの毒性蓄積が起こすERおよび/またはストレスの存在;エンドソームpHレベルの異常;単球上のMHCIIおよび/またはCD1dの血漿膜発現増大の存在;細胞形態の異常;ユビキチン/プロテアソーム経路の抑制;およびユビキチン化タンパク質の量の増加。
【0022】
具体的実施形態においては、個体は心臓病変を伴う3型ゴーシェ病を有し、代理マーカーは大動脈および/または僧帽弁の石灰化である。
【0023】
さらなる実施形態においては、療法中で使用される特異的薬理シャペロンは、酸性β−グルコシダーゼの阻害物質、例えば可逆的競合阻害物質である。
【0024】
具体的実施形態においては、阻害物質はイソファゴミン、C−ベンジル−イソファゴミン、または、全て本明細書に参照により援用されている米国特許第6,583,158号明細書;同第6,744,135号明細書;同第6,599,919号明細書;同第6,589,964号明細書;同第6,916,829号明細書;同第7,141,582号明細書;同第5,844,102号明細書;同第5,863,903号明細書;同第6,046,214号明細書;同第5,854,272号明細書;同第6,541,836号明細書;同第6,316,489号明細書;同第6,239,163号明細書;同第6,590,118号明細書およびPCT出願国際公開第04/037233号パンフレットの中で開示されている化合物である。
【0025】
本発明は同様に、酸性β−グルコシダーゼに結合する有効量の特異的化学シャペロンを用いてゴーシェ病を治療しかつ細胞の細胞質染色に対するその効果を監視するための方法であって、異常の回復が、ゴーシェ病を患う個体がシャペロン治療に対し応答していることを表している方法も提供する。1実施形態においては、細胞質染色はリソソーム染色、特にリソソーム内の酸性β−グルコシダーゼまたはLAMP−1発現の検出である。
【0026】
別の実施形態においては、細胞質染色はポリユビキチン化タンパク質の検出である。
【0027】
特定の実施形態においては、特異的薬理シャペロンは酸性β−グルコシダーゼの阻害物質例えば可逆的競合阻害物質である。
【0028】
具体的実施形態においては、阻害物質はイソファゴミン、C−ベンジル−イソファゴミンまたはグルコイミダゾールである。
【0029】
本特許出願は少なくとも1枚のカラー図面を含む。カラー図面を伴う本特許または特許出願のコピーは、特許庁に申請し所要手数料を支払うことで提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】健常なボランティアにおける酒石酸イソファゴミンの第1相多重逐次漸増用量試験からのGCase増強の結果を示す。
【図2A】イソファゴミン(IFG)を用いた治療後の肝臓内におけるGCase活性の変化を示す。
【図2B】イソファゴミン(IFG)を用いた治療後の脾臓内におけるGCase活性の変化を示す。
【図2C】イソファゴミン(IFG)を用いた治療後の肺内におけるGCase活性の変化を示す。
【図2D】イソファゴミン(IFG)を用いた治療後の脳内におけるGCase活性の変化を示す。
【図3A】2〜24週間後の体内組織(脾臓)の重量に対するイソファゴミンを用いた治療の効果を示す。
【図3B】2〜24週間後の体内組織(肝臓)の重量に対するイソファゴミンを用いた治療の効果を示す。
【図4】IFGを用いた治療後のゴーシェ病のマウスモデルにおけるキトトリオシダーゼレベルの変化を示す。
【図5A】2週間、4週間および12週間のIFGを用いた治療後のコレステロールについての血清パラメータを示す。
【図5B】2週間、4週間および12週間のIFGを用いた治療後の肝臓酵素ALTについての血清パラメータを示す。
【図5C】2週間、4週間および12週間のIFGを用いた治療後のASTについての血清パラメータを示す。
【図5D】2週間、4週間および12週間のIFGを用いた治療後のIgGについての血清パラメータを示す。
【図6】健常なボランティアおよびゴーシェ病患者由来の血漿α−シヌクラインレベルの比較を示す。
【図7A】ゴーシェ線維芽細胞からの細胞内でのLysoTracker Redを用いたリソソームの蛍光染色を示す。
【図7B】正常な線維芽細胞からの細胞内でのLysoTracker Redを用いたリソソームの蛍光染色を示す。
【図7C】同様に正常な線維芽細胞上で実施されたリソソームタンパク質LAMP−1についての染色を示す。
【図7D】同様にゴーシェ線維芽細胞上で実施されたリソソームタンパク質LAMP−1についての染色を示す。
【図7E】ゴーシェ線維芽細胞における2重のGCaseおよびLAMP−1染色のオーバーレイを示す。
【図7F】ゴーシェ線維芽細胞における2重のGCaseおよびLAMP−1染色のオーバーレイを示す。
【図7G】特異的薬理シャペロンイソファゴミンで治療されたゴーシェ細胞の2重オーバーレイ(LAMP−1およびGCase)を示す。
【図7H】特異的薬理シャペロンイソファゴミンで治療されたゴーシェ細胞の2重オーバーレイ(LAMP−1およびGCase)を示す。
【図7I】特異的薬理シャペロンC−ベンジル−イソファゴミンで治療されたゴーシェ細胞の2重オーバーレイ(LAMP−1およびGCase)を示す。
【図7J】特異的薬理シャペロンC−ベンジル−イソファゴミンで治療されたゴーシェ細胞の2重オーバーレイ(LAMP−1およびGCase)を示す。
【図7K】GCaseのみについてのゴーシェ細胞の染色を示す。対照ゴーシェ細胞は二次抗体のみで染色された。
【図7L】GCaseのみについてのゴーシェ細胞の染色を示す。対照ゴーシェ細胞は処置されなかった。
【図7M】GCaseのみについてのゴーシェ細胞の染色を示す。対照ゴーシェ細胞はイソファゴミンで処置された。
【図7N】GCaseのみについてのゴーシェ細胞の2染色を示す。C−ベンジル−イソファゴミンで処置された。
【図8】ゴーシェ病患者におけるWBC中のGCase活性、WBC中のGlcCer濃度、血漿中のキトトリオシダーゼ活性および血漿中のα−シヌクラインレベルを対照と比較したものである。
【図9】ゴーシェ病患者における、血漿中のTRACP5b活性(女性)、血漿中のTRACP5b活性(男性)、血漿中のBAP活性(女性)および血漿中のBAP活性(男性)を対照と比較したものである。
【図10】ゴーシェ病患者における、血漿中のVEGF活性(女性)に対するPARC、IL−8、MIP−1α、IL−17、VEGFおよびIL−17を対照と比較したものである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、ゴーシェ病の特異的代理マーカーの治療後の評価により証明される通りのゴーシェ病モデルにおけるSPCでの治療に対する応答を実証する。したがって、本発明は、特異的代理マーカーの変化すなわち改善について患者を評価することによりゴーシェ病患者におけるSPC治療に対する応答を評価するための標準的治療を提供する。
【0032】
定義
本明細書中で使用される用語は一般に、本発明に関しておよび各用語が使用される具体的状況の中で当該技術分野におけるその通常の意味を有する。一部の用語について、本発明の組成物および方法そしてその作製および使用方法を説明する上で実施者に対するさらなる指針を提供することを目的として、以下でまたは明細書の他の箇所で論述される。
【0033】
「ゴーシェ病」という用語は、1型、2型および3型(3a、3bおよび3cを含めた)および中間体そして表現型徴候に基づいたその亜型を含む。
【0034】
ゴーシェ病患者とは、以下でさらに定義する通りの変異型酸性β−グルコシダーゼに起因するゴーシェ病と診断された個体を意味する。
【0035】
「変異型GCase」とは、ER内のGCaseタンパク質の折畳みおよび処理に影響を及ぼす変異を含むGCaseタンパク質である。したがって、特異的薬理シャペロンを用いて適正な立体構造に変異体を折畳んだ時点で、変異型GCaseタンパク質はゴルジを通してERからリソソームまで進行または輸送できることになる。折畳みひいてはGCaseの輸送を損なう変異は、当該技術分野において周知の日常的な検定、例えば、ゴルジ体にタンパク質が入るか否かを判定するためのグリコシダーゼ処置を伴うおよび伴わないパルスチェイス代謝標識、または細胞内のGCase局在化についての蛍光免疫染色によって判定可能である。神経細胞障害性疾患に関連するGCase折畳み変異体の具体的実施形態には、N370S、L444P、K198T、D409H、R496H、V394L、84GG、およびR329Cが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0036】
本書で使用される「MIP」とは、マクロファージ炎症性タンパク質を意味する。
【0037】
「TNF」とは、腫瘍壊死因子を意味する。
【0038】
「IL」とは、インタロイキンを意味する。
【0039】
「GM3」は、ST3ベータ−ガラクトシダーゼアルファ−2,3−ジアリルトランスフェラーゼ5を意味し、これはST3GAL5またはガングリオシドGM3としても知られている。
【0040】
本明細書中で使用される「特異的薬理シャペロン」(「SPC」)という用語は、1つのタンパク質に特異的に結合し、(i)タンパク質の安定した分子立体構造の形成を増強する;(ii)ERから別の細胞位置好ましくは未変性細胞位置までの輸送を誘発する、すなわちタンパク質のER関連分解を防止する;(iii)誤って折畳まれたタンパク質の凝集を防止する;および/または(iv)タンパク質に対し少なくとも部分的な野生型機能および/または活性を回復させるまたは増強させる、という効果のうちの1つ以上を有する、小分子、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などを含めたあらゆる分子を意味する。例えばGCaseに対し特異的に結合する化合物とは、包括的一群の関係するまたは無関係の酵素ではなくGCaseに結合しそれに対してシャペロン効果を及ぼす化合物を意味する。以下では、本発明が企図しているいくつかの特異的薬理シャペロンについて記述する:
【0041】
イソファゴミン(IFG;(3R,4R,5R)−5−(ヒドロキシメチル)−3,4−ピペリジンジオール)は、
【0042】
【化1】

という構造を有する化合物を意味する。IFGはC13NO3という分子構造式と147.17の分子量を有する。この化合物はさらに、Sierksらに対する米国特許第5,844,102号明細書およびLundgrenらに対する米国特許第5,863,903号明細書中に記載されている。N−アルキルIFG誘導体は、米国特許第6,046,214号明細書中に記載されている。
【0043】
C−ベンジル−IFGは、
【0044】
【化2】

という構造式をもつ化合物を意味する。
【0045】
GCaseのためのその他のSPCとしては、係属中のPCT公報国際出願公開第2005/046611号パンフレットおよび国際出願公開第2005/046612号パンフレットそして2004年11月12日付けの米国特許出願第10/988,428号明細書中に記載されているヒドロキシピペリジン誘導体が含まれる。同様に、GCaseのためのシャペロンとしては、2004年11月12日付けの米国特許出願第10/988,427号明細書中に記載されているグルコイミダゾールおよびポリヒドロキシシクロヘキセニルアミン誘導体が含まれる。
【0046】
一例として、グルコイミダゾールは以下の構造を有する化合物を意味する:
【0047】
【化3】

【0048】
GCaseのためのさらなるその他のSPCは、Fanらに対する米国特許第6,599,919号明細書中に記載されており、カリステジンA、カリステジンA、カリステジンB、カリステジンB、カリステジンB、カリステジンB、カリステジンC、N−メチル−カリステジンB、DMDP、DAB、カスタノスペルミン、1−デオキシノジリマイシン、N−ブチル−デオキシノジリマイシン、1−デオキシノジリマイシンビスルファイト、N−ブチル−イソファゴミン、N−(3−シクロヘキシルプロピル)−イソファゴミン、N−(3−フェニルプロピル)−イソファゴミンおよびN−[(2E,6Z,10Z)−3,7,11−トリメチルドデカトリエニル]−イソファゴミンを含む。
【0049】
ゴーシェ病の「代理マーカー」または「代理臨床マーカー」とは、ゴーシェ病に関連し、かつ単独でまたはゴーシェ病のその他の異常なマーカーまたは症候と組合せた形でゴーシェ病の信頼度の高い指標である(ただし健常な個体には関連しない)バイオマーカーの異常な存在、レベルの上昇、異常な不在またはレベルの低下を意味する。
【0050】
非限定的な例として、ゴーシェ病の代理マーカーには、リソソームGCase活性の減少;脂質を持ったマクロファージ(「ゴーシェマクロファージ」)の存在;肝脾腫大症;キトトリオシダーゼの増加;肺ケモカインPARC/CCL18の増加;アンジオテンシン転換酵素(ACE)および総酸性ホスファターゼレベルの上昇;貧血症、血小板減少症、白血球減少症および高ガンマグロブリン血症を含めた血液学的異常または免疫異常、脾臓中のT−リンパ球の欠損、全身性B細胞過剰増殖、形質細胞増加症、マクロファージ、リンパ球および好中球を含む組織または臓器内の炎症性病巣の存在、炎症性サイトカイン(例えばTNF−α、IL−1β、IL−6、IL−17、MIP−1α、VEGF)の増大、好中球走化性の障害;T細胞および単球サブセットの不均衡;単球上の細胞膜発現MHCIIおよびCd1dの過剰発現;骨髄内のゴーシェ細胞の浸潤、血漿中の骨特異的アルカリホスファターゼ活性(BAP)、溶解性病変、骨硬化症、骨痛、骨折、椎体圧潰またはトリグリセリド存在の低下を含む骨格異常;神経学的症候例えばニューロンの欠損;神経変性、水平注視異常、ミオクローヌス運動、角膜混濁、運動失調、認知症および痙性;および肺高血圧症を導く可能性のあるゴーシェマクロファージの肺浸潤、血漿中の肺および活性化調節型ケモカイン(PARC)および血漿中の酒石酸塩耐性酸ホスファターゼ5b(TRACP5b)活性が含まれる。
【0051】
その他の代理マーカーは、細胞内レベルで存在し(「細胞内代理マーカー」)、ゴーシェ患者由来の細胞内におけるERからリソソームへのGCaseの異常輸送;エンドソーム経路を通した脂質の異常輸送;ERまたは細胞質ゾルにおいて誤って折畳まれた大量のGCaseの存在;(ストレス関連マーカーの遺伝子および/またはタンパク質発現により判定した際の)GCaseの毒性蓄積が起こすERおよび/または細胞ストレスの存在;エンドソームpHレベルの異常;細胞形態の異常;ユビキチン/プロテアソーム経路の抑制;およびユビキチン化タンパク質の量の増加を含む。
【0052】
「代理マーカーの改善」とは、ゴーシェ病を患っておらずしかもその代理マーカーの異常な存在、不在またはレベルの変化を説明するその他の疾病を患っていない健常な個体と対比してゴーシェ病において異常に存在するかまたは異常に上昇している1つ以上の臨床的代理マーカーの改善または削減、あるいはゴーシェ病において異常に減少しているかまたは不在である1つ以上の臨床的代理マーカーの存在または増加というSPCを用いた治療の後の効果を意味する。
【0053】
「応答者」とは、ゴーシェ病などのGCaseタンパク質の誤った折畳みをひき起こすGba変異に関連する疾病の診断を受けここで権利請求されている方法にしたがって治療され、1つ以上の臨床症候の改善、向上または予防または以上で言及した1つ以上の代理マーカーの改善を示す個体である。
【0054】
さらに、個体が応答者であるか否かの決定は、SPCを用いた治療に応答した変異型GCaseタンパク質の細胞内輸送などの細胞内代理マーカーの改善を評価することによって、細胞内レベルで行なうことができる。ERからの輸送の回復は、応答を示す。個体が応答者であるか否かを決定するために査定され得るその他の細胞内評価には、上述の細胞内代理マーカーの改善が含まれる。
【0055】
「治療上有効な用量」および「有効量」という用語は、治療応答を得るのに充分である特異的薬理シャペロンの量を意味する。治療応答とは、前述の症候および代理臨床マーカーのいずれかの改善を含め、療法に対する有効な応答としてユーザー(例えば臨床医)が認識するあらゆる応答であってよい。したがって治療応答は、一般的に、上述のもののような疾患または障害の1つ以上の症候の改善である。
【0056】
「薬学的に許容できる」という語句は、生理学的に許容可能であり、ヒトに投与された場合に典型的には、望ましくない反応を生成しない分子的実体および組成物を意味する。好ましくは、本明細書で使用されている「薬学的に許容できる」という用語は、連邦または州政府の規制機関により承認されていることまたは、動物、より詳細にはヒトにおける使用のために米国薬局方またはその他の一般的に認知された薬局方の中に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、化合物を投与する場合に用いられる希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを意味する。かかる薬学的担体は、水および油などの無菌の液体であり得る。特に注射用溶液用の担体として、好ましくは、水または水溶液食塩溶液およびデキストロースおよびグリセロール水溶液が利用される。適切な薬学的担体は、“Remington's Pharmaceutical Sciences” by E.W. Martin, 18th Editionの中で記述されている。
【0057】
「約」および「およそ」という用語は、一般に、測定の性質または精度から許容可能な程度の測定数量についての誤差を意味する。典型的には、例示的な誤差の程度は所与の値または値範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、そしてより好ましくは5%以内である。あるいは、特に生体系において、「約」および「およそ」という用語は、1桁以内、好ましくは所与の値の10倍または5倍以内、より好ましくは2倍以内の値を意味し得る。本明細書中で示されている数値的数量は、特に明記しないかぎり近似値であり、これは、明示的に記載されていない場合に「約」または「およそ」という用語が暗示され得る、ということを意味している。
【0058】
調合物、投薬量および投与
IFGおよび誘導体は、例えば錠剤、カプセルまたは液体の形での経口投与または注射用の滅菌水溶液の形を含む任意の投与経路に適した形態で投与可能である。具体的実施形態においては、酒石酸IFGは粉末充填型カプセルとして投与される。酒石酸IFGは、本明細書に参照により援用されている係属中の仮特許出願第60/808,020号明細書および60/890,719号明細書中に記載されている。化合物を経口投与向けに調合する場合、錠剤またはカプセルは、結合剤(例えばアルファ化トウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えばラクトース、微結晶性セルロースまたはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルクまたはシリカ);崩壊剤(例えばジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)などの薬学的に許容できる賦形剤を用いて従来の手段により調製可能である。錠剤は、当該技術分野において周知の方法によりコーティングされてよい。
【0059】
経口投与のための液体調製物は、例えば溶液、シロップまたは懸濁液などの形をとっていてもよいし、または使用前に水または別の適切なビヒクルと共に構成するための乾燥製品としての体裁をとっていてもよい。このような液体調製物は、懸濁剤(例えば水、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用油);乳化剤(例えばレシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンドオイル、油性エステル、エチルアルコールまたは分留植物油);および防腐剤(例えばメチルまたはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)などの薬学的に許容できる添加剤を用いて、従来の手段によって調製されてよい。調製物は同様に、適宜、緩衝塩、着香料、着色剤および甘味料を含有していてよい。経口投与向けの調製物は、セラミド特異的グルコシルトランスフェラーゼ阻害物質の制御放出または持続放出を提供するように適切に調合され得る。
【0060】
非経口/注射用途に適したIFGまたは誘導体の医薬製剤には一般に、無菌水溶液または分散剤、そして無菌注射溶液または分散剤の即時調製用の無菌粉末が含まれる。全てのケースにおいて、形態は無菌でなくてはならず、注射針を容易に通過する程度に流動的でなくてはならない。それは、製造および貯蔵条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用を受けないように保存されていなくてはならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールなど)、その適切な混合物および植物油を含む溶媒または分散媒質であり得る。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティングの使用、分散の場合には所要粒径の維持そして界面活性剤の使用などによって維持可能である。微生物の作用の予防は、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ソルビン酸などといったさまざまな抗細菌および抗真菌剤により得ることができる。数多くのケースにおいて、例えば糖または塩化ナトリウムなどの等張剤を含み入れることが合理的である。注射用組成物の長時間吸収は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンといった吸収を遅延させる作用物質を組成物中に使用することによって得ることができる。
【0061】
無菌注射溶液は、必要に応じて以上で列挙したその他の成分のさまざまなものと共に適切な溶媒中に所要量でIFGまたは誘導体を取込み、その後ろ過または最終滅菌を行なうことによって調製される。一般に、分散剤は、以上に列挙したその他の所要成分および基本的分散媒質を含有する無菌ビヒクル中にさまざまな滅菌済み活性成分を取込むことによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、事前に無菌ろ過した溶液から、活性成分に任意の付加的な所望の成分が加わった粉末を生成する真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0062】
上述の製剤は、1つまたは複数の賦形剤を含有し得る。製剤中に含み入れてよい薬学的に許容できる賦形剤は、緩衝液例えばクエン酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝液、酢酸塩緩衝液、および重炭酸塩緩衝液、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、タンパク質例えば血清アルブミン、コラーゲンおよびゼラチン;塩例えばEDTAまたはEGTAおよび塩化ナトリウム;リポソーム;ポリビニルピロリドン;糖例えばデキストラン、マンニトール、ソルビトール、およびグリセロール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコール(例えばPEG−4000、PEG−6000);グリセロール、グリシンまたはその他のアミノ酸および脂質である。製剤と共に使用するための緩衝系としては、クエン酸塩、酢酸塩、重炭酸塩、およびリン酸塩緩衝液が含まれる。リン酸塩緩衝液が好ましい実施形態である。
【0063】
製剤は同様に非イオン洗浄剤も含有できる。好ましい非イオン洗浄剤にはポリソルベート20、ポリソルベート80、トリトンX−100、トリトンX−114、ノニデットP−40、オクチルα−グルコシド、オクチルβ−グルコシド、ブリッジ35、プルロニックおよびトゥイーン20が含まれる。
【0064】
投与
IFGまたは誘導体の投与経路は、(好ましくは)経口であるかまたは、静脈内、皮下、動脈内、腹腔内、眼内、筋内、口腔、直腸、膣内、眼窩内、脳内、皮内、頭蓋内、髄腔内、心室内、鞘内、嚢内、関節包内、肺内、鼻腔内、経粘膜、経皮、または吸入を介したものであってよい。
【0065】
IFGまたは誘導体の上述の非経口製剤の投与は、調製物の定期的なボーラス注入によるものであってよく、または、体外容器(例えば静注用バッグ)または体内容器(例えば生体侵食性移植片)からの静脈内または腹腔内投与によって投与されてよい。例えば、各々参照により本明細書に援用されている米国特許第4,407,957号明細書および同第5,798,113号明細書を参照のこと。肺内送達の方法および器具は、例えば各々参照により本明細書に援用されている米国特許第5,654,007号明細書、同第5,780,014号明細書および同第5,814,607号明細書の中に記載されている。その他の有用な非経口送達系としては、エチレン酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ、移植可能な輸液系、ポンプ送達、カプセル化細胞送達、リポソーム送達、針送達型注射、無針注射、ネブライザ、エアロゾル化装置、電気穿孔、および経皮パッチが含まれる。無針注射装置は、参照により本明細書に援用されている米国特許第5,879,327号明細書;同第5,520,639号明細書;同第5,846,233号明細書および同第5,704,911号明細書の中に記載されている。上述の製剤のいずれもこれらの方法を用いて投与可能である。
【0066】
さらに、詰め替え可能なペン型注射器および無針注射装置などの患者に便利なように設計されたさまざまな装置を本明細書中で論述されている本発明の製剤について使用してよい。
【0067】
投薬量
当業者であれば、本発明の方法において使用されているIFGまたは誘導体の有効量は、日常的実験により判定され得るが、0.01〜100μMの間、好ましくは0.01〜10μMの間、最も好ましくは0.05〜1μMの間の血清レベルを得るための量になるものと予想される、ということを理解する。化合物の有効用量は、一日体重1kgあたり0.5〜1000mg、好ましくは0.5〜100、最も好ましくは一日体重1kgあたり1〜50mgと予想される。具体的実施形態においては、この用量は、約10〜600mg/日、より具体的には25〜300mg/日、より具体的には50〜150mg/日であるかあるいは規定通り適切な間隔がとられる。例えば、企図されている二投薬計画には、約7日間に150mg/日の酒石酸IFGでの治療とそれに続く約4日おきまたは7日おきの間隔投薬が含まれる。
【0068】
代理マーカーを用いたゴーシェ病治療の監視
本発明は、特異的薬理シャペロンを用いたゴーシェ病患者の治療を監視する方法も提供している。具体的には、疾患の進行およびIFGでの治療に対するその応答を評価するためにさまざまな検定が利用される。特に、さまざまな全身および細胞内マーカーを検定することができる。本発明の監視態様は、さまざまな細胞物質の侵襲的測定および非侵襲的測定の両方を包含している。
【0069】
グルコシルセラミド(GluCer)蓄積
GluCerは、ゴーシェ病患者主として1型及びIII型患者において病的に蓄積する糖脂質である。許容されたさまざまな方法を用いて、尿および血漿そして組織内のレベルを測定することができる。さらに、1つの一般的なゴーシェ代理マーカーは、「ゴーシェマクロファージ」の存在である。ゴーシェマクロファージは、活性化されたマクロファージを表す全く異なる形態を有する有脂質拡大型マクロファージである。
【0070】
特に蓄積GluCerのみが、I型ゴーシェ病を患う個体のマクロファージ内だけに現われる。ゴーシェマクロファージの存在は、例えばヘマトキシリンおよびエオシン染色および顕微鏡検査により、形態学的に容易に査定される。
【0071】
酸性β−グルコシダーゼ活性
GCaseの減少は、ゴーシェ病の3つの型全てに随伴する。上述の通り、GCase活性の非侵襲性査定を、ゴーシェ病患者由来の末梢リンパ球および多核白血球(PMN)について評価することができる。皮膚生検からの培養済み線維芽細胞も使用可能である。かかる検定には標準的に、患者からの血液白血球の抽出、細胞の溶解、そして4−メチルウンベリフェリルベータ−D−グルコシドまたは4−ヘプチル−ウンベリフェリル−ベータ−D−グルコシドなどの基質を添加した時点での活性の判定が関与する(例えばForsyth et al., Clin Chim Acta. 1993; 216(1-2):11-21; Beautler et al., J Lab Clin Med. 1970; 76:747-755を参照のこと)。別の検定では、短アシル鎖基質N−(1−ヘキサノイル)−D−エリスロ−グルコシルスフィンゴシン(ヘキサノイル−GlcCer)が使用される。ヘキサノイルGlcCer加水分解レベルとヒトの皮膚線維芽細胞内のゴーシェタイプの間に厳密な相関関係が観察された(Meivar-Levy et al., Biochem J. 1994;303 (Pt 2):377-82)。
【0072】
患者の細胞内のGCase活性を評価するために、フローサイトメトリを使用することもできる(Lorincz et al., Blood. 1997; 189: 3412-20; and Chan et al., Anal Biochem. 2004;334(2):227-33)。この方法では、飲作用により細胞中に取り込まれた蛍光発生GCase基質CMFDGluが利用された。その後、従来のフルオレセイン発光光学素子を用いて、細胞を評価した。蛍光レベルはGCase活性の量と相関関係をもつ。
【0073】
細胞形態学
血液白血球およびPMNの微細構造的解析が記述されてきた(Laslo et al., Acta Paediatr. Hung. 1987; 28: 163-73)。簡単に言うと、電子顕微鏡検査法により、ゴーシェ病患者における空胞形成中の病変が明らかにされた。この方法は、ゴーシェマクロファージの存在を判定するためにも使用できる。
【0074】
キトトリオシダーゼ
1型ゴーシェ病患者では血漿中の酵素キトトリオシダーゼ(キチナーゼ1)の活性が上昇している(Hollak et al., J. Clin. Invest. 1994; 93: 1288-92)。キトトリオシダーゼは、39kDaのヒトキチンヒドロラーゼ(キチナーゼ)である。ゴーシェ病におけるこの酵素の機能は、細菌細胞壁、真菌、線虫およびその他の病原体の中に発見される構成要素であるその基質キチンから不明瞭である。ほぼ全ての症候性ゴーシェ病患者の血漿中では、キトトリオシダーゼ(キチナーゼ)活性が正常の少なくとも100倍(最高600倍)増大しているが、前症候性個体においてはそうではない。無症候性個体においては、キトトリオシダーゼ活性も同様に高まり、正常な個体と症候性ゴーシェ病患者の中間である。キトトリオシダーゼは、ゴーシェマクロファージおよびPMNによって分泌され、ERT内の野生型GCaseの追加時点で削減される。
【0075】
キトトリオシダーゼ活性が15,000nmol ml−1−1を超えると、ゴーシェ病の治療が必要であることが示唆されてきた(Aerts et al., Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 2003; 358: 905-14)。限定的な意味なく、酵素用基質の添加による患者から単離した細胞内の酵素活性の検出を含め、キトトリオシダーゼの上昇を検出するために数多くの検定を用いることができる。このような基質の1つが基質分子4−メチルウンベリフェリル−(4−デオキシ)キトビオースである。キトトリオシダーゼ活性についてこの基質を利用する検定が、Aguilara et al., J Biol Chem. 2003; 278(42):40911-6中に記載されている。
【0076】
高脂血症
ゴーシェ病患者は、血漿総コレステロール、低比重リポタンパクコレステロール(LDL)および高比重リポタンパクコレステロール(HDL)レベルの減少ならびにアポリポタンパク質(apo)A−IおよびBの減少を示す。逆に、血漿アポEの濃度は上昇している。コレステロールレベルの分析は、日常的なコレステロール検査によって達成可能である。
【0077】
骨髄分析
上述の通り、ゴーシェ病患者は、骨髄中にゴーシェ細胞の浸潤を示す。ゴーシェマクロファージを検出するための骨髄生検(吸引)に加えて、骨髄の磁気共鳴(MR)イメージングが最近になって記述された(Poll et al., Skleletal Radiol. 2001; 30: 496-502)。この試験では、ERTの後にゴーシェ病患者を評価し、黄色骨髄の外観の変化を評価するためにMRが使用された。信号強度の増加は、骨梗塞を有するゴーシェ病患者における不均質でまだらな信号強度とは対照的に、治療後に脂肪髄の部分的再転換を実証した。
【0078】
さらに、腰骨髄のトリグリセリド含有量を試験するために定量的化学シフトイメージングが応用された(Hollak and Aerts, J. Inherit. Metab. Dis. 2001; 24: 97-105)。トリグリセリド含有量は、ゴーシェマクロファージによるトリグリセリド脂肪細胞の変化に起因して低くなっている。したがって、療法後の骨髄脂肪含有量の補正は、骨合併症の発生を予測するものである。
【0079】
骨分析
ゴーシェ病の骨格徴候は、大腿遠位の無症候性エレンマイアーフラスコ奇形から病的骨折、椎体圧潰、溶解性病変そして骨梗塞発現から起こり骨硬化症を導く急性骨クリーゼまでの範囲に広がる。骨減少症、骨壊死、乏血壊死も同様に存在する。骨痛は、骨格病変に随伴する。ゴーシェ病の骨格徴候は、骨格X線撮影を用いて検出および評価でき、骨減少症を査定するためには、2重エネルギーX線吸光光度分析法(DEXA)走査が使用された。
【0080】
一実施形態においては、DKK1レベルが測定され、ここでDKK1の低レベルがゴーシェ病を表わす。
【0081】
骨病変の生化学的指標は、カルシウム、リン、骨特異的アルカリホスファターゼ、I型プロコラーゲンのカルボキシ末端側プロペプチド(PICP)、I型コラーゲンのカルボキシ末端側テロペプチド(ICTP)、オステオカルシン、無傷副甲状腺ホルモンの血清濃度および尿中カルシウム、リン、ヒドロキシプロリンおよび遊離デオキシピリジノリンのなどの骨代謝および腰BMDのマーカーを使用して測定可能である(Ciana et al., J Inherit Metab Dis.2005;28(5):723-32)。
【0082】
血液学的徴候
ゴーシェ病の血液学的徴候としては、XI因子の欠損によりひき起こされる後天的凝血障害および血球減少症が含まれる。血球減少症が脾臓摘出後に発生する場合、ゴーシェ細胞による骨髄浸潤が現われる。血小板減少症、貧血症および白血球減少症が特に一般的である。ゴーシェ病における免疫異常障害には、高ガンマグロブリン血症、脾臓内のT−リンパ球欠損症、および好中球走化性障害が含まれる。その他の免疫異常としては、全身性B細胞過剰増殖、形質細胞増加症、マクロファージ、リンパ球および好中球を含む組織または臓器内の炎症性病巣の存在、および炎症性サイトカイン(例えばTNF−α、IL−1β、IL−6、IL−8、IL−17、MIP−1αおよびVEGF)の上昇が含まれる。上述のものの評価は、血球減少症を決定するためのCBCといったような日常的生化学試験を用いて達成可能である。
【0083】
一実施形態においては、ゴーシェ病患者が酵素補充療法(ERT)および/または基質還元療法(SRT)で治療されてきたかまたは現在それで治療されている場合、IL−1α、IL−1β、IL−6およびIL−7はゴーシェ病のための代理マーカーとしは除外され、一方ERTおよび/またはSRTでの治療を受けていない患者またはIL−1α、IL−1β、IL−6およびIL−7レベルが前−ERTおよび/または前−SRTレベルに戻るのに充分長い間ERTおよび/またはSRTを受けていなかった患者については、IL−1α、IL−1β、IL−6およびIL−7は、ゴーシェ病のための代理マーカーとして含み入れられる。
【0084】
さらに、MHCII抗原および脂質結合分子CD1dの細胞膜発現の増加が、1型ゴーシェ病患者由来の単球上で観察され、これは、脂質のエンドソーム輸送の障害を示唆していた(Balreira et al., Br. J. Haematology. 2005; 129: 667-76)。ERTでの治療はMHCIIの過剰発現を軽減し、これらの患者におけるT細胞サブセットの均衡を回復させた。したがって、MHCIIおよびCD1dはゴーシェ病のバイオマーカーであり、その過剰発現は、例えばFACS分析および/または逆転写酵素PCRを用いてシャペロン療法で治療された患者由来の単球上で監視可能である。
【0085】
肺バイオマーカー
1型ゴーシェ病患者は、多くの場合、特に脾臓摘出後に、肺高血圧を示す。このことは、疾病の重症度の増大と相関関係をもつ。PHの診断は、ドップラー心エコー検査法を用いて心室収縮期圧(RVSP)を査定することにより達成できる。心エコー検査法は、肺動脈圧の間接的尺度として三尖弁閉鎖不全(TI)勾配を査定するために、日常的に実施される。肺機能異常のその他のマーカーには、気道閉塞、呼気流の減少、肺容量の減少および肺胞毛管拡散異常が含まれる。これらのパラメータは、例えば機能残余容量の減少および総肺容量の減少および空気トラッピングの兆候を観察することにより査定可能である。機能残余容量(FRC)は、古典的開回路、窒素洗い流し技術および標準的肺活量測定法により測定可能である。空気トラッピングは高い残余容量または残余容量/総肺容量によって証明される。肺徴候の程度を査定するために、胸部X線を用いることもできる。最後に、肺異常をも促進し得る脊椎の有害な変化について査定するために、高解像度のCT(HRCT)を使用することができる。
【0086】
ゴーシェ病においては、PARC/CCL18と呼ばれる肺ケモカインが、疾病の重症度および治療に対する応答を反映する臨床的開発のためのバイオマーカーとして同定された(Cox et al., Acta Paediatr Suppl. 2005; 94(447):39-42)。ゴーシェ病におけるPARC/CCL18の高いレベル(10〜50倍)が、脾臓および肝臓体積の増加および血小板数の減少の信頼性の高い指標であることが示された。
【0087】
臓器肥大症
全てのタイプのゴーシェ病における理学的検査は通常、肝脾腫大症の存在を明らかにする。脾腫は、体重で補正した場合5倍から80倍超の範囲でサイズが増大し得る。脾臓の表面上の小結節は、髄外造血領域、ゴーシェ細胞の集合または梗塞の分解を表わし得る。被膜下脾臓梗塞は局在化した腹痛として現われる可能性がある。巨大な臓器肥大症を有する患者においては、小人症および消耗が見られる場合がある。
【0088】
肝腫張は、野生型1型ゴーシェ病患者の50%超、そして2型および3型疾患患者の大部分に発生する。肝体積は、正常から正常の約8.7倍にまで至る。肝臓グルコセレブロシドレベルは25倍から400倍に上昇する。ゴーシェ病罹患が軽度である患者においてさえ、ASTおよびALTといった肝酵素のわずかな上昇は一般的であるが、黄疸または肝細胞合成機能不全の存在は、予後不良の指標である。肝生検時点で、糖脂質を含むゴーシェ細胞は、類洞内で明白である。
【0089】
腹部の超音波検査法またはMRイメージングは、ゴーシェ病患者における臓器肥大症の程度を判定することができる。
【0090】
神経学的症候および目の症候
2型および3型ゴーシェ病は、GluCerおよびその代謝産物が患者の脳内に蓄積することに起因する神経細胞障害性症候を随伴する。かかる症候には、ニューロンの欠損、神経変性、水平注視異常、ミオクローヌス運動、角膜混濁、運動失調、認知症、痙性、聴覚異常、異常EEG/発作;認識機能障害および進行性球麻痺が含まれる。特殊な眼球運動異常には、(眼球運動先行症としても知られている)水平サッカード開始障害(hSIF)、水平サッカード減速、垂直サッカード開始障害(vSIF)(特に下向き)、垂直サッカード減速(特に下向き)および第6神経不全麻痺が含まれる。
【0091】
さらに、硝子体混濁を伴うゴーシェ病患者由来の硝子体における脂質の蓄積は、抽出マトリクス援用型レーザー脱離イオン化飛行時間計測式質量分析法(DE MALDI−TOF−MS)法(Fujiwaki et al., J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2004; 806(1):47-51)を用いて検出された。
【0092】
心臓血管
大動脈および僧帽弁の石灰化を伴う3型ゴーシェ表現型も同定された(George et al., Clin Genet. 2001;59(5):360-3)。
【0093】
その他の代理マーカー
アンジオテンシン変換酵素(ACE)および現状総酸性ホスファターゼが、ゴーシェ病患者において上昇している。
【0094】
これらのマーカーは、治療前に異常性を特定された場合にのみ、治療監視用として使用可能であると理解すべきである。例えば、遺伝子変異に起因して、個体群の約5〜6%がキトトリオシダーゼを発現することができない。この遺伝子欠陥を有するゴーシェ病患者においてキトトリオシダーゼが上昇しないと思われるということは自明である。したがって、キトトリオシダーゼは、治療を査定するのに用いる上で適切な代理マーカーではないと思われる。さらに、マーカーの異常な上昇を疾病の存在と相関関係づけし、肝臓病、虚血壊死、骨粗鬆症または免疫グロブリン異常症といったようなその他の原因または合併症に原因を求めないことが好ましい。
【0095】
細胞内マーカーを検出するための分子生物学監視検定
特異的薬理シャペロンを用いたゴーシェ病の治療の監視は、上述の全身的または巨視的レベルに加えて細胞内レベルで行なうことができる。例えば、ゴルジ複合体への脂質のエンドソーム−リソソーム膜輸送の障害が、リソソーム蓄積症の特徴である(Sillence et al., J Lipid Res. 2002;43(11):1837-45)。したがって、ゴーシェ病治療の1つの監視方法は、標識された脂質(BODIPY−LacCer)を有する患者由来の細胞に接触し、エンドソーム構造内でのその輸送を監視することにある。例えばエンドソーム構造内の病的蓄積は、その患者が治療にうまく応答していないことの指標であると考えられる。
【0096】
一例として、リソソームおよびエンドソーム内のpH範囲を測定するために、細胞により取り込まれるpH感応性蛍光プローブを使用することができる(すなわち、フルオレセインはpH5で赤色であり、5.5〜6.5で青色乃至緑色である)。リソソームの形態およびpHが、野生型細胞とシャペロン治療された患者および未治療の患者の細胞において比較される。この検定は、pH感受性を判定するために平板読取り装置検定と並行して実行できる。例えば、BODIPY−LacCerは、正常細胞中ではゴルジまで輸送されるが、脂質蓄積障害では細胞のリソソームに蓄積する。BODIPY−LacCerは、膜内の濃度に応じて緑色または赤色の蛍光を発し、リソソーム内の緑色/赤色比を用いて濃度変化を測定することができる。
【0097】
化合物で処理されたおよび未処理の生きた健常な細胞および患者の細胞がBODIPY−LacCerでインキュベートされ、FACSおよび/または共焦点顕微鏡で赤色/緑色比を測定することができ、共焦点顕微鏡を用いて染色パターン(リソソーム対ゴルジ)を決定することができる。
【0098】
輸送は、pH勾配に沿って細胞内で発生し(すなわちERのpH約7、ゴルジのpH約6.2〜7.0、トランスゴルジ網のpH約6.0、早期および後期エンドソームのpH約6.5、リソソームのpH約4.5)、ゴーシェ細胞などの輸送欠陥を有する細胞内では内腔およびエンドソームpHが分断される。したがって、輸送に対するpHのプラス効果に相関された場合、野生型細胞、SPC治療を受けた患者および未治療の患者の細胞におけるpH感受性を判定するための検定を用いて、ゴーシェ病患者における輸送の回復を監視することができる。患者の細胞のpH変化に対する感受性がさらに強い場合には、細胞pH感受性を低減させ、リソソームの形態または機能を回復させ、またより一般的には正常な輸送を回復させるSPCについてのスクリーニング検定を作り出すことが可能となる。
【0099】
さらに、輸送欠陥の軽減は、Lyso−Tracker(登録商標)などのリソソームマーカーでの欠損酵素(GCase)の同時局在化を判定することにより分子レベルで査定可能である。リソソーム内のGCaseの局在化は、ERからリソソームまでの輸送が特異的薬理シャペロンを用いた治療により回復することの証拠である。かかる検定は、実施例3において後述されている。簡単に言うと、正常な細胞ならびにSPCで治療されたおよび未治療の患者の細胞が酵素およびエンドソーム/リソソームマーカー(例えばRab7、Rab9、LAMP−1、LAMP−2、ジストロフィン関連タンパク質PAD)に対する一次抗体および蛍光タグ付けされた二次抗体と共に固定され染色される。酵素およびその他のエンドサイトーシス経路マーカーの濃度に起因する蛍光の量を定量化するためにFACSおよび/または共焦点顕微鏡が使用され、染色パターンの変化を判定するために共焦点顕微鏡を用いることができる。
【0100】
さらに、エンドグリコシダーゼH処理の組合わされたパルス−チェイス代謝標識などの従来の生化学方法。Endo Hは、ERグリコシル化を獲得した(高マンノースN−連結)、すなわちERに局在化されているタンパク質のみを分割し、ER外でゴルジまでそれを行ないゴルジ内で付加的なグリコシル化を獲得したタンパク質を分割しない。したがって、Endo H感受性GCaseのレベルが高くなればなるほど、ER内のタンパク質の蓄積が増大する。GCaseがゴルジ内へそれを行なった場合、全てのN連結糖が分割されることから、タンパク質がゴルジから退出したか否かを確認するためにグリコシダーゼPNGアーゼFを使用することができる。
【0101】
ERストレス
ゴーシェ病患者における誤って折畳まれたGCaseなどの細胞のER内の誤って折畳まれたタンパク質の毒性蓄積は、ERストレスをもたらすことが多い。これにより、細胞ホメオスタシスの分断を解消しようと試みる細胞ストレス応答が誘発されることになる。したがって、特異的薬理シャペロンでの治療の後の患者におけるERストレスのマーカーを測定することで、治療の効果を監視する別の方法が提供される。かかるマーカーには、BiP、IRE1、PERK/ATF4、ATF6、XBP1(X−box結合因子1)およびJNK(c−Jun N末端キナーゼ)を含む、折畳まれていないタンパク質の応答と関連付けられる遺伝子およびタンパク質が含まれる。ERストレスを査定するための1つの方法は、野生型細胞とゴーシェ病患者細胞との間と同様、SPC治療を受けた細胞と未治療の細胞との間の発現レベルを比較することにある。対照として、ERストレス誘発物質(例えばER内の折畳まれていないタンパク質のN−グリコシル化および蓄積の阻害ためのツニカマイシン、ラクタシスチンまたはH)およびストレス緩和剤(例えばタンパク質合成を阻害するためのシクロヘキサミド)を使用することができる。
【0102】
ERストレス応答を監視するために企図されている別の方法は、遺伝子チップ解析を介したものである。例えばさまざまなストレス遺伝子を伴う遺伝子チップを用いて、ERストレス応答のタイプ(早期、後期、アポトーシスなど)および発現レベルを測定することができる。一例として、HG−U95Aアレイを使用することができる(Affymetrix Inc.)。
【0103】
最後に、長期にわたるERストレスが、ER内の折畳まれていないタンパク質のレベルおよび結果としてのストレスレベルに応じて、アポトーシスおよび細胞死をもたらし得ることから、細胞は多少の差こそあれ、ツニカマイシンまたはプロテアソーム阻害物質などのERストレス誘発物質に対する感受性を有する。ストレス誘発物質に対する細胞の感受性が高くなればなるほど、観察されるアポトーシスまたは死細胞の数は多くなる。アポトーシスは、カスパーゼ3(アポトーシスの早期指標)について蛍光基質類似体、FACS、共焦点顕微鏡を使用して、かつ/または蛍光平板読取り装置(ハイスループット検定のためには96ウェルのフォーマット)を用いてアポトーシスまたは細胞死について陽性の細胞の百分率を決定すること(FACSおよび/または共焦点顕微鏡検査)を用いて測定でき、そうでなければ蛍光平板読取り装置で96ウェルのフォーマットでのタンパク質濃度との関係において蛍光強度を測定することができる。
【0104】
ER中の毒性タンパク質蓄積の結果としてもたらされるERストレスに対する別の応答は、ユビキチン/プロテアソーム経路の抑制である。これにより、エンドサイトーシス経路は全体的に破壊される(Rocca et al., Molecular Biology of the Cell. 2001; 12: 1293-1301)。誤って折畳まれたタンパク質の蓄積は時として、ポリユビキチンの量の増加と相関される(Lowe et al., Neuropathol Appl Neurobiol. 1990; 16: 281-91)。
【0105】
プロテアソーム機能およびユビキチン化は、日常的検定を用いて査定できる。例えば、生きた動物における26Sプロテアソーム機能のイメージングによる評価が、生物発光イメージング用のユビキチン−ルシフェラーゼリポータにより達成された(Luker et al., Nature Medicine. 2003. 9, 969 - 973)。プロテアソーム単離のためのキットは、例えばCalbiochem(Cat.No.539176)から市販されている。ユビキチン化は、免疫組織化学または免疫蛍光を用いて、形態学的試験によって検査可能である。例えば、健常な細胞ならびにSPCで治療されたおよび未治療の患者の細胞を、ユビキチン化されたタンパク質に対する一次抗体と共に固定および染色することができ、FACSおよび/または共焦点顕微鏡検査による二次抗体の蛍光検出を用いて、ユビキチン化されたタンパク質レベルの変化を判定する。
【0106】
ユビキチン化されたタンパク質を検出するための別の検定は、AlphaScreen(商標)(Perkin−Elmer)である。このモデルでは、ビオチン−ユビキチン(bio−Ub)を用いて、GST−UbcH5a融合タンパク質のGST部分がユビキチン化される。ATPの存在下でのE1によるユビキチン活性化の後、bio−UbがUbcH5aに移送される。この反応において、UbcH5aはbio−Ubをそのタグ付けされたGST部分に移送するための担体として作用する。ビオチン化されたユビキチン化された状態となったタンパク質は次に、抗−GSTアクセプタおよびストレプトアビジンにより捕捉される。ドナーはビーズを作り、結果としてシグナルを生成する。ユビキチン化が無い場合、いかなるシグナルも生成されない。
【0107】
最後に、ELISAサンドイッチ検定を用いて、変異型GCaseを捕捉することができる。GCase(例えばウサギ)に対する一次抗体は表面に吸収され、酵素が、細胞溶解物または血清とのインキュベーション中に捕捉され、次に二次酵素結合検出を伴って、ユビキチン化タンパク質に対する抗体(例えばマウスまたはラット)を用いてユビキチン化酵素の量が検出かつ定量化される。あるいは、検定を用いて、細胞抽出物または血清中のマルチユビキチン化タンパク質の合計量を定量化することができると思われる。
【0108】
併用療法
本発明の治療的監視は同様に、IFGおよび誘導体およびERTまたは遺伝子療法の組合せを用いた患者の治療の後にも適用可能である。このような併用療法は、同一所有者の米国特許出願公開第2004/0180419号明細書(出願番号第10/771,236号)、および米国特許出願公開第2004/0219132号明細書(出願番号第10/781,356号)の中に記載されている。両方の出願共、その全体が参照により本明細書に援用されている。
【実施例】
【0109】
本発明は、以下で提示する実施例を用いて詳細に記述される。かかる実施例の使用は、例示にすぎず、本発明またはいずれかの例示された用語の範囲および意味を決して限定するものではない。同様にして、本発明は、本明細書中に記載されているいずれかの特定の好ましい実施形態に限定されるわけではない。実際、本明細書を読んだ時点で、当業者にとっては、本発明の数多くの修正および変形形態が明らかになる。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲の文言ならびに特許請求の範囲の権利対象である等価物の全範囲によってのみ限定されるものである。
【0110】
実施例1:ゴーシェ病の治療のための酒石酸IFGの安全性、薬物動態および薬力学の第I相試験
細胞ベースの動物モデルを用いて、イソファゴミンが、ゴーシェ病において欠損している酵素であるグルコセレブロシダーゼ(GCase)の細胞レベルを上昇させることを示した。無作為化2重盲検第I相臨床試験を72人の健常なボランティア(男性39人、女性33人)において実施した。酒石酸イソファゴミンを水溶液として経口投与した。ヒト初回投与(first-in-human)単一逐次漸増試験において、8、25、75、150(2コホート)および300mgの用量を投与した(各コホート中被験薬6名、プラセボ2名)。多重逐次漸増試験において、7日間にわたり、25、75および225mgの用量を毎日投与した(各コホート中被験薬6名、プラセボ2名)。両方の試験において、酒石酸イソファゴミンは一般に全ての用量で充分な耐容性を示し、両方の試験において治療中に発生する有害事象は大部分が軽度であった。重度の有害事象は発生しなかった。
【0111】
酒石酸イソファゴミンは、経口で優れた全身性曝露を示した。単回投与試験では、血漿AUCおよびCmax値は、投与した用量と線形相関関係を示した。平均血漿レベルは、3.4時間でピークに達し(SEM:0.6時間)、血漿消失半減期は14時間であった(SEM:2時間)。複数回投与試験では、7日間の経口投与後、薬物動態挙動は用量に伴って線形であり、予想外の酒石酸イソファゴミン蓄積が全く無いことが発見された。Tmaxおよび半減期の値は、単回投与試験で観察されたものと類似していた。
【0112】
複数回投与試験においては、単離した白血球中のGCase活性を、酒石酸イソファゴミンの投与中1、3、5および7日目に測定し、治療後の休薬期間中は9、14および21日目に測定した。酒石酸イソファゴミンを受けた全ての対象において、薬物治療期間中GCaseレベルの顕著な増加とそれに続いて薬物除去時点での減少および21日目までのほぼベースラインレベルへの復帰が見られた(図1)。酵素レベルの上昇は、用量に関連し、ベースラインレベルのおよそ3.5倍に達した。健常なボランティアにおける安全性、薬物動態および予備薬力学的効果についてのこれらの結果は、ゴーシェ病の治療のための酒石酸イソファゴミンのさらなる評価を裏づけている。
【0113】
実施例2:特異的薬理シャペロンで治療されたL444P遺伝子導入マウスにおけるゴーシェ病の代理マーカーの判定
L444P遺伝子導入マウス(グルコシルセラミドシンターゼヌルバックグラウンド上でヒトL444P変異型Gbaについてホモ接合型)は、多臓器炎症;B細胞過剰増殖;脳、肝臓、脾臓および肺の中のGCase活性の欠損;肝臓および脾臓重量の増大;3ヵ月目のキトトリオシダーゼの血漿レベル上昇;ならびにIgG血漿レベルの上昇(Mizukami et al., J. Clin. Inves. 2002; 109: 1215-21)を示す。しかしながら、グルコシルセラミドシンターゼ遺伝子内の分断に起因して、これらのマウスは例えばマクロファージ内でGluCerの蓄積を示さない。表皮内の透過障壁機能障害に起因して、以前に作られたL444P遺伝子導入マウスは誕生から3日以内に死亡したことから、同時グルコシルセラミドシンターゼ分断が必要である。
【0114】
この実験においては、L444P遺伝子導入マウスをイソファゴミンまたはC−ベンジル−イソファゴミンで治療し、1、3、6および12ヵ月目に代理マーカーを測定してシャペロンの効能を判定した。さらに、4週間の治療後に2週間の非シャペロン治療「休薬」期間にあるマウスも、未治療の対照において見られた、レベルの代理マーカー逆転について評価した。
【0115】
方法
イソファゴミン治療
マウスに対し、酒石酸イソファゴミンを20mg/kgの濃度で飲料水中に入れて適宜、投与した。
【0116】
代理マーカー測定
4週、12週または24週の最終日にマウスを屠殺し、(i)肝臓、脾臓、肺および脳内のGCase酵素活性の増強、(ii)キトトリオシダーゼ活性;(ii)体重、脾臓および肝臓重量および(iv)血清IgG、コレステロールおよび肝臓酵素レベルについて評価した。さらに、血漿中および前述の組織中のシャペロン濃度も決定される。
【0117】
a. 組織中のGCase活性検定:
肝臓、脳、脾臓および肺の組織を新鮮な形で採取する(PBSで血液を洗い出す)かまたは、冷凍備蓄から解凍する。組織は、細く刻んだ組織であり、これを200〜500μlのマックイルバイン(MI)緩衝液(pH5.2の0.1Mのクエン酸および0.2Mのリン酸緩衝液中の0.25%のタウロコール酸ナトリウム、0.1%のトリトンX100)中で氷上均質化させ、10,000×gで遠心分離する。上清を収集し、このステップにおいて冷凍してもよい。
【0118】
組織ホモジネートからの約1〜10μlの上清を、Micro BCAタンパク質検定用の透明な96ウェル平板(Pierce,cat#23235)に添加して、メーカーのプロトコルにしたがって総タンパク質量を定量する。負の対照として、さらに10μlを黒色平板に添加し、GCase活性の阻害物質である10μlの2.5mMのCBE(6.7mlの緩衝液中の2.7mgのコンズリトールBエポキシド)と混合し、30分間室温(RT)に放置する。次に、GCase基質である3mMの4−メタルウンベリフェリルベータ−D−グルコシド(4−MU−ベータ−D−グルコシド;作り立ての粉末を0.2mlのDMSO中に溶解させ、次に適切な体積までの十分量のMI緩衝液を用いて溶解させる)を50μl添加し、黒色平板を1時間37℃でさらにインキュベートする。インキュベーションの後、10μlの上清を第2の黒色平板に添加し、10μlのMI緩衝液および50μlの6mMのGCase基質4−MU−ベータ−D−グルコシドと混合し、1時間37℃でインキュベートした。その後、pH10.8の70μlの0.2Mグリシンを添加することにより反応を停止させる。平板読取り装置(Victor 2 1420マルチラベルカウンタ;Wallac)内においてF460で平板を読取る。
【0119】
以下の等式により、相対的ベータ−グルコース活性を決定する:
(CBE無しのF460−CBEを伴うF460)/(A550試料−A550緩衝液)
【0120】
460の読取り値を4−MU標準曲線に基づいて4−MUのnmole数に変換し、タンパク質標準曲線に基づいてA550をタンパク質mgに変換する。GCase活性1単位は、1時間で放出される4−MUのnmole数として定義される。
【0121】
b. 体重および組織重量の測定:
4、3、6および12ヵ月後の屠殺に先立ち、動物を秤量した。屠殺の後、脾臓および肝臓を取り出し秤量した。
【0122】
c. キトトリオシダーゼ活性:
5μlのアリコート(2つ)中で検定を目的として、血漿を収集し、残りを−80℃で保管する。5μlの血漿/EDTAを、96ウェルの黒色平板内で、リン酸クエン酸緩衝液(185mlの0.1Mのクエン酸と200mlの0.2Mのリン酸ナトリウムを混合することによって作られた0.1Mのクエン酸塩と0.2Mのリン酸緩衝液、pH5.2)中の22μMの4−MU−b−D−N,N’,N’’−トリアセチルキトトリオース100μlと混合する。負の対照として5μlのEDTA/PBS(血漿無し)を使用する。標準血清を用いた標準曲線を、平板の1列の中で連続希釈によって調製する。その後、37℃で15分間平板をインキュベートし(湯浴中での浮動)、pH10.8の150μlの1Mグリシンを添加して、反応を停止する。Victor 1420マルチラベルカウンタ(Wallac)内でF355/F460で平板を読取る。
【0123】
d. IgG測定:
血漿中のIgG濃度の決定のために、マウスIgG ELISA定量キット(Bethyl Laboratories,Cat # E90−131)を使用した。96ウェルの平板を100μlのコーティング緩衝液(100mlの2重脱イオン水中にコーティング抗原1カプセルを溶解させることで作ったもの)でコーティングし、室温で1時間インキュベートした。150μlの洗浄緩衝液(50mMのトリスHCl(pH8.0);0.14MのNaCl;0.05%のTween 20)で3回ウェルを洗浄し、各洗浄の後吸引した。洗浄の後、200μlのブロッキング溶液を添加し(50mMのトリスHCl(pH8.0);0.14MのNaCl;1%のBSA)、平板を1時間RTでまたは一晩4℃でインキュベートした。インキュベーションの後、ウェルを洗浄緩衝液と95μlの試料希釈剤緩衝液(50mMのトリスHCl、pH8.0;0.14MのNaCl;0.05%のTween 20;1%のBSA)で3回再洗浄し、5μlの被験血漿をウェルに添加し、RTで一時間インキュベートした。
【0124】
標準として、既知濃度の連続希釈した標準マウスIgG抗体100μlをウェルの1列に添加した(5000ng/ml〜7.8ng/mlの濃度での希釈剤緩衝液で希釈したもの)。
【0125】
インキュベーションの後、ウェルを5回洗浄緩衝液で洗浄して未結合試料を除去し、100μlの二次抗体(希釈剤緩衝液中1:20000)を添加し、その後RTで1時間、再びインキュベートした。未結合の試料を除去するべく(5回)洗浄した後、100μlの顕色剤(等しい割合の試薬AとB)を各ウェルに添加し、RTで20分間インキュベートした。1Mのリン酸100μlを添加することで反応を停止させ、平板読取り装置内において450nmで色の強さを測定した。
【0126】
e. コレステロールおよび肝臓酵素の測定
これらを通常の技術によって測定した。
【0127】
休薬期間試験
治療の停止後、飲料水を介して投薬したイソファゴミンのL444Pマウスに対する効果が退行するか否かそしていかなる時間枠で退行するかを判定するために、休薬期間試験を実施した。3月齢の9匹の雄L444Pマウスに、4週間1日1kgあたり約10mgの投薬を行ない、対照として同数のマウスを未治療状態とした。4週間の経過時点で4匹の治療マウスと4匹の未治療マウスを屠殺し、残りの動物はそれ以上イソファゴミンで治療しなかった。すなわち、それらにさらに2週間通常の飲料水を与えてから屠殺し、上述の代理マーカーを評価した。
【0128】
結果
組織内のGCase活性
肝臓、脾臓、肺および脳の中でイソファゴミンでのわずか2週間の治療後にGCase活性の有意な増加が観察され(図2A−D)、これは4〜12週間にわたり持続した。とりわけ脳内では、イソファゴミン治療は、未治療のマウスにおける約1U/mgから2週間および4週間の治療後の約4.5U/mgまで増大し、さらに12週間後には約6U/mgまで増大する(p<0.001)という結果をもたらした(図2B)。GCase活性の増加は3、6および12ヵ月目にも持続し、シャペロンが投与されるかぎり持続する。
【0129】
同様にして、2週間後に、C−ベンジル−イソファゴミンで治療したマウスもまた脾臓内でGCase活性の有意な増加を示し、肺および脳内では活性増加傾向を示した(データ示さず)。GCase活性の増加は、さらなる治療の時点でその他の臓器内でも観察されるものと予想されている。
【0130】
体重および組織重量
12週間のイソファゴミン治療後に、治療したマウスは、野生型マウス(約40g)と未治療マウス(約29g)の中間である約33gの体重を示した(データ示さず)。対照的に、脾臓重量(図3A)は、未治療マウス(0.11mg)に比べて治療したマウスにおいては12週間の治療時までに著しく減少した(0.09mg)。野生型脾臓は約0.08mgであった。これは12週間の治療後も持続し(有意性に達した)、この時点で脾臓重量は未治療マウスにおける0.15mgおよび正常なマウスにおける0.10mgに対比して、治療したマウスでは0.12mgであった。脾臓重量の正規化は、治療持続期間中続くものと予想される。
【0131】
肝臓重量は、12週間後の時点で、治療済み、未治療そして対照の野生型マウスの間で有意な形で変化しなかった(図3B)が、24時間後有意な減少を達成した(データ示さず)。
【0132】
キトトリオシダーゼ活性
4週間のイソファゴミン治療の後キトトリオシダーゼレベルの差異は全く見られなかったが、未治療のマウスにおいて見られるレベル(20,000F460μg超のタンパク質)と比べて12週間後にレベルが低下した(約17000μgのタンパク質)(p=0.1)(図4)。ただし野生型マウス(これは約7500μgのタンパク質を有していた)に比べると、レベルはなおも上昇していた。ここでもまた、連続的治療でキトトリオシダーゼレベルの連続的低下が予想される。
【0133】
IgG、コレステロールおよび肝臓酵素
コレステロールまたは肝臓アミノトランスフェラーゼ(アスパルタイトアミノトランスフェラーゼ(AST)またはアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT))には、4週間または12週間目に、イソファゴミン治療したマウスと未治療マウスに有意な差異はなかった(それぞれ図5B−D)。対照的に、血清IgGレベルは、未治療マウスと比べて、2週間の治療までに有意な低下を示し、これは4週間および12週間の治療まで持続した(図5A)。これは、酵素補充療法中の組換え型GCaseでの治療に比べて有意な改善である。メーカーによると、15%の患者が組換え型酵素に対するIgGを発生させ、うち46%の患者が結果として超過敏反応も発生させる。
【0134】
休薬期間
上述の場合と同様、10mg/kg/日での4週間の治療の後、GCase活性は、L444P遺伝子導入マウスにおいて肝臓、脾臓、肺および脳内で有意に上昇した。同様にして、IgGは有意に減少した。
【0135】
実施例3:IFGは、ゴーシェ病患者由来の細胞におけるグルコセレブロシダーゼ、炎症性サイトカインおよび骨代謝のレベルを上昇させる
変異GCaseレベルに対するIFGの効果を評価するために、60人の患者の末梢白血球に由来するマクロファージおよびEBV形質転換されたリンパ芽球を用いた生体外応答試験を実施した。炎症、骨代謝そして多発性骨髄腫と関連する潜在的バイオマーカーについて血漿をスクリーニングした。試験は、米国内の8ヵ所の場所で実施された。
【0136】
結果
この試験は、I型ゴーシェ病を患う21人の男性、III型ゴーシェ病を患う1人の男性、そしてI型ゴーシェ病を患う18人の女性を含んでいた。患者の年令は7〜83才で、40人中38人の患者が酵素補充療法(ERT)を受けていた。40人のうち34人の患者からのマクロファージの抽出に成功し、そのうち32人が、酒石酸IFGで治療された(5日間)時点でGCaseレベルの用量依存性上昇(平均=2.8倍)を実証した。5つのさらなる患者由来リンパ芽球細胞系列について、類似の結果が観察された。IFGはN370S/N370S(11)、N370S/L444P(8)、N370S/84insG(11)、N370S/R163X、N370S/Y212H、L444P/del136T、L444P/F216Y、L444P/L174F、G202R/R463C、およびK79N/複合体Bエクソン9/10(III型GD)を含めた、異なる遺伝子型をもつ患者由来の細胞中のGCaseレベルを有意な形で上昇させた。マクロファージ中のGCaseの最大増強は、約30μMのIFGで達成された。
【0137】
破骨細胞活性のマーカーであるTRACP5bは、ERTを受けていた患者でさえ、特に男性のゴーシェ対象の血漿中で上昇した。同時に、骨特異的アルカリホスファターゼ(BAP)の活性は、ゴーシェ対象(特に女性)の血漿中で減少した。このことは、ゴーシェ病患者において骨被着よりも骨吸収の方が強く作用を受け、骨病を促進する可能性があるということを示唆している。
【0138】
その他の炎症誘発性サイトカインおよびケモカインも同様に一部のゴーシェ対象において上昇した。これらにはIL−8、IL−17、VEGF、PARCおよびMIP−1αが含まれていた。サイトカインのこの組合せは、同様に、骨吸収および多発性骨髄腫(特にIL−17、VEGF、およびMIP−1α)と関連づけされた。未治療かERTで治療中であるゴーシェ病患者が多発性骨髄腫を発生する高いリスクを有する、という事実を考慮すると、これは興味深いことである。ゴーシェ対象において抗炎症性サイトカイン(IL−1ra、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13)の血漿レベルは高くなかった。
【0139】
実施例4:ゴーシェ病患者の血漿中の代理マーカーの同定
最近になって、リソソーム酵素の変異とLSD以外の神経障害の関連性が確立されてきた。一例としては、Gba遺伝子内の変異とパーキンソニズムおよびパーキンソン病の間には、揺るぎない関連性が存在する。一試験においては、稀な若年性難治性パーキンソニズムを患う17人の患者のグループが、典型的に1型の非神経細胞障害性疾患に関連する変異であるN370Sについてのホモ接合性およびヘテロ接合性個体を含め、Gbaミスセンス変異を伴う少なくとも1つの対立遺伝子を有することが発見された(Tayebi et al., Mol. Genet. Metab. 2003; 79; 104-109)。別の試験においては、特発性パーキンソン病に罹患した99人のアシュケナージ系ユダヤ人の集団を、6つのGba変異(N370S、L444P、84GG、V394LおよびR496H)について評価した。31人のパーキンソン病患者は、1つまたは2つの変異Gba対立遺伝子を有していた。すなわち、23人はN370Sについてヘテロ接合性であり、3人はN370Sについてホモ接合性であり、4人は84GGについてヘテロ接合性であり、1人はR496Hについてヘテロ接合性であった(Aharon-Peretz et al., New Eng. J. Med. 2004; 351: 1972-77)。変異N370S対立遺伝子の頻度は、1573の正常な対象中のものの5倍であり、84GGの頻度は正常な対象のものの21倍であった。パーキンソン病患者のうち、Gba変異を担持する患者は同様に、キャリヤでない患者よりも若かった。この試験はGba変異についてのヘテロ接合性がアシュケナージ系ユダヤ人にパーキンソン病に対する素因を与えるかもしれないということを示唆している。
【0140】
パーキンソン病およびゴーシェ病は、同様に、ニューロンの欠損、アストログリオーシスおよび海馬ニューロン(CA2−4領域)内の細胞毒性レヴィ小体様α−シヌクライン包接の存在を含めた、いくつかの病理学的特徴も共有している。最近の1刊行物がゴーシェ病の3つの形態全てにおける神経学的病状の程度について記述している(Wong et al., Mol. Genet. Metabol. 2004; 38: 192-207)。大脳皮質層3および5、海馬CA2〜4および層4b内の異常は、3つのタイプ全てを有するゴーシェ患者において発見された。ニューロンの欠損は、2型および3型を患う患者においてのみ明白であり、一方1型患者は、アストログリオースを伴って現われた(Wong et al., 上掲書)。1型ゴーシェ病およびパーキンソン病/認知症を患う2人の患者が、海馬CA2−4ニューロン内のα−シヌクライン陽性包接を示し、1人の患者が脳幹型および皮質型レヴィ小体を有し、1人が黒質ニューロンの顕著なニューロン欠損を有していた(Wong et al.,上掲書)。要約すると、パーキンソニズムおよび認知症を患う4人の患者は全て、海馬CA2−4グリオーシス、およびニューロン枯渇、グリオーシス、および黒質中の脳幹型レヴィ小体を有していた。
【0141】
ELISAで測定した場合、α−シヌクラインの血漿レベルは、健常な対照に比べるとパーキンソン病患者において高い(Lee et al. J Neural Transm. 2006;113(10):1435-9)。シャペロン療法、ERT、SRTまたはその他の治療で治療の進行を監視するためのバイオマーカーとして使用するために、α−シヌクラインがゴーシェ病患者由来の血漿中で高かったか否かを判定する目的でゴーシェ病患者40人において血漿α−シヌクラインレベルを測定し、12人の健常なボランティア由来の血漿中のレベルと比較した。
【0142】
方法
患者試料
実施例3で記載されているように、患者の血漿試料を入手した。
【0143】
ELISA
メーカーの使用説明書にしたがい、市販のELISAキット(BioSource International,Camarillo,CA)を用いてα−シヌクラインレベルを判定した。簡単に言うと、ELISA平板を、0.02%(w/v)のアジ化ナトリウムを含有するpH9.6の200mMのNaHCO3(Sigma,St.Louis,MO,USA)中の1μg/mLの非ビオチン化mAb211(100μL/ウェル;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)と共に4℃で一晩インキュベートすることによってコーティングし、PBST(0.05%のTween 20を含むPBS)で4回洗浄し、200μL/ウェルのブロッキング緩衝液(2.5%のゼラチンと0.05%のTween 20を含有するPBS)と共に37℃で2時間インキュベートした。平板をPBSTで4回洗浄し、試験すべき試料100μLを各ウェルに(ニート(neat)で)添加した。平板を2時間37℃でインキュベートした。PBSTで4回洗浄した後、ブロッキング緩衝液中で1μg/mLまで希釈した100μLのビオチン化mAb211を添加し、2時間37℃でインキュベートした。ウェルをPBSTで4回洗浄し、ブロッキング緩衝液中で3:5000に希釈され37℃で1時間インキュベートされた100μL/ウェルのExtr Avidin−Alkalineホスファターゼ(Sigma)と共にインキュベートした。その後ウェルをPBSTで4回洗浄してから酵素基質Yellow「pNPP」(Sigma)(100μL/ウェル)を添加し、室温で30分間発色させた。405nmにおける吸光度値を判定し、対応の無い両側t検定を用いて結果を比較した。
【0144】
結果
健常なボランティア対照に比べて、α−シヌクラインレベルは、ゴーシェ病患者由来の血漿中で有意な形で上昇していた(p=0.019;図6)。集団間の分散は、有意に異なっていなかった。
【0145】
したがって、ゴーシェ病治療を評価するための予後マーカーとして血漿α−シヌクラインを使用することができる。
【0146】
実施例5:ゴーシェ線維芽細胞内で分断されたリソソーム輸送の回復
(ヒト患者由来の)N370Sゴーシェ線維芽細胞は、細胞質中の基質(すなわちGluCer)の蓄積を実証していないものの、これらの線維芽細胞は、野生型線維芽細胞と比べて異常なリソソームタンパク質およびGCase染色を示す。SPCイソファゴミンを用いたN370S線維芽細胞の治療は、リソソーム中に見られるGCaseの量を増大させ、細胞に対する正常なリソソーム染色パターンを回復した。
【0147】
方法
細胞培養
5%のCOを用いて10%のFBSおよび1%のpenn/strepと共にDMEM中でN370S線維芽細胞(DMN89.15)を37℃で培養した。健常な個体由来の野生型線維芽細胞細胞系列CRL−2097を対照として使用した。細胞を10cmの平板からカバースリップを備えた12ウェルの平板内に二次培養した。1つの集密的10cm平板からの細胞を38mlの培地中で稀釈させた。10mMの原液(5%DMSO)から12ウェルの平板の各ウェルに、以下の濃度でイソファゴミンまたはC−ベンジル−イソファゴミンを添加した。
【0148】
C−ベンジル−イソファゴミン−対照(二次抗体のみ);未治療;0.03μM;0.1μM;0.3μM;1.0μM;3.0μM;および10.0μM。
【0149】
イソファゴミン対照(二次抗体のみ);未治療;10μM;30μM;100μM;1nM;3nM;および10nM。
【0150】
合計約6日間、細胞を培養した。
【0151】
定着および染色
細胞をPBS中で5分間洗浄し、15分間3.7%のパラホルムアルデヒド(PBS中)で定着させ、PBS中で5分間再度洗浄し、5分間0.5%サポニンで透過化した。その後、0.1%のサポニンを含有するPBSで細胞を洗浄し、新鮮な0.1%の水素化ホウ素ナトリウム/0.01%のサポニンで5分間処置し、各5分ずつ3回、0.1%のサポニン/1%のBSAを伴うPBSで洗浄した。
【0152】
1%のBSAを伴うPBS中の一次抗GCase(1:200)または抗LAMP−1(1:200;BD Pharmingen,Cat.No.555798)抗体溶液500μlと共に1時間、細胞をインキュベートした。メーカーの使用説明書にしたがって、LysoTracker(登録商標)Red(Cambrex,East Rutherford,NJ)を用いたリソソーム染色を実施した。インキュベーションの後、PBS中の0.1%のサポニンを含む1%BSA中で3回、細胞を洗浄し、その後二次抗体溶液(1:500;抗GCaseについては抗ウサギAlexaFluor588そして抗LAMP−1については抗マウスIgG AlexaFluor594)と共にインキュベートした。細胞をカバースリップ上に載せ、密封し、直ちに検分した。
【0153】
共焦点顕微鏡法
細胞を、共焦点顕微鏡を用いて視覚化した。赤色および緑色チャンネル利得を6に設定し、強度ウインドウを用いてレーザー出力を最適化し、実験の残りの部分については調整しなかった。全てのスライドを同じシッティング(sitting)で分析し、20倍および60倍のレンズ、小さなピンホール、最適な画素サイズ、平均2回の走査を用いていかなるズームもなく全ての画像を収集し、以前の実験全てと同様、赤色および緑色チャンネルを同時に獲得した。
【0154】
全ての画像を同じ強度で表示し、最大数の細胞の上にカーソルを設置することにより各画像について赤色+緑色チャンネル強度グラフを生成した。
【0155】
重複する赤色(LAMP−1)および緑色(GCASE)画素についての比率を計算することにより、将来の測定を行なうことができる。
【0156】
結果
5日超にわたり集密的であったゴーシェN370S線維芽細胞は、断続的染色パターンを有する(図7B)正常な線維芽細胞と比較して、LysoTracker(登録商標)レッドを用いた粒状リソソーム染色パターン(図7A)を示す。L444P線維芽細胞についても類似の結果が示された(データ示さず)。リソソームLAMP−1についての染色は、N370Sおよび正常な線維芽細胞の両方において示されている(それぞれ図7C〜D)。ゴーシェ線維芽細胞においてはより多くのLAMP−1が示される。
【0157】
30.0μMのイソファゴミン(図7G〜H)と3.0μlのC−ベンジル−イソファゴミン(図7I〜J)での治療は、2重染色によって示されているように、未治療の対照(図7E〜F)と比べリソソーム内のGCaseの量を増加させ、GCaseおよびLAMP−1についての正常なリソソームの断続的染色パターンを再度確立した。
【0158】
図7K〜Nは、以下のようなN370Sゴーシェ線維芽細胞内のGCaseリソソーム染色の変化を示している:(K)−対照(二次抗体のみ);(L)−未治療のN370S線維芽細胞;(M)−30μMのイソファゴミン;および(N)3μMのC−ベンジル−イソファゴミン。GCase染色は、未治療対照に対比して、シャペロン治療された細胞内のリソソームに局在化することが示されている。類似の結果は、L444Pゴーシェ線維芽細胞についても得られた(データ示さず)。
【0159】
これらの結果は、薬理学シャペロンでの治療がリソソーム内のGCaseレベルを上昇させることを立証している。リソソームの輸送の増加に加えて、パルスチェイス実験は、IFGがER中のN370S GCaseを増大させることを実証した(データ示さず)。
【0160】
シャペロン治療での通常の細胞形態のこの改善は、ERおよび/または細胞質ゾル内の場合によっては会合体の形をした変異GCaseの量または貯蔵の減少に起因する。評価されたSPCが血液−脳関門を横断することが実証されていることから、この戦略は神経細胞障害性ゴーシェ病(2型および3型)を患うゴーシェ病患者のCNS症候を軽減することができた。
【0161】
実施例6:ゴーシェ線維芽細胞内でのシャペロン治療によるポリユビキチン化タンパク質の増大;プロテアソーム分解経路の回復
健常なヒト線維芽細胞の抗ポリユビキチン化タンパク質(PUP)および抗−GCase標識化を、L444P Gba変異を有するゴーシェ病患者由来の線維芽細胞およびN370S Gba変異を有するゴーシェ病患者の線維芽細胞の中のものと比較した。
【0162】
方法
細胞培養
5%のCOを用いて10%のFBSおよび1%のPSを伴うDMEM中で、L444Pゴーシェ線維芽細胞(細胞系列GM10915);N370Sゴーシェ線維芽細胞(細胞系列DMN89.15)および健常な個体からの線維芽細胞(CRL−2097)を37℃で培養した。細胞を10cmの平板から、滅菌カバーストリップを伴う12ウェルの平板内に二次培養した。1つの集密的T−75フラスコからのN370S細胞を1:6で希釈し、さらに4日間培養した。
【0163】
10mMの原液(5%DMSO)から12ウェルの平板の各ウェルに、以下の濃度でシャペロンイソファゴミンまたはC−ベンジル−イソファゴミンを添加した。
【0164】
C−ベンジル−イソファゴミン:未治療;対照(二次抗体のみ);0.03μM;0.1μM;0.3μM;1.0μM;3.0μM;および10.0μM。
【0165】
イソファゴミン:未治療;対照(二次抗体のみ);10μM;30μM;100μM;1nM;3nM;および10nM。
【0166】
定着および染色
細胞をPBS中で一回5分間洗浄し、その後15分間新鮮な3.7%のパラホルムアルデヒド中で定着させた。次に細胞をPBS中で5分間一回洗浄し、その後5分間0.2%のトリトンX−100中で透過化した。その後、PBS中で再度5分間細胞を洗浄し、新鮮な0.1%の水素化ホウ素ナトリウムで5〜10分間処置した。1%のBSAを伴うPBS中で3回(各5分ずつ)細胞を洗浄した。
【0167】
(1%のBSAを伴うPBS中で1:200に希釈した)以下の一次抗体500μlと共に1時間、細胞をインキュベートした:
1. ユビキチン化タンパク質クローンFK1に対するマウスモノクローナル抗体(AFFINITI(登録商標)Research Products Cat.No.PW 8805)。
2. ウサギ抗GCase抗体
【0168】
その後、1%のBSAを伴うPBSで細胞を3回洗浄し、その後以下の二次抗体の1:500の希釈物と共に1時間インキュベートした:
1. ヤギ抗マウスIgM(μ鎖)AlexaFluor568(Molecular Probes Cat.No.A21043)
2. ヤギ抗ウサギIgG(H+L)高交差吸収型AlexaFluor488(Molecular Probes Cat.No.A11034)
【0169】
細胞を、BSAを伴うPBS中で3回洗浄し、取付け、視覚化に先立ち4℃に貯蔵した。
【0170】
結果
初期実験は、細胞内のポリユビキチン化タンパク質(PUP)の濃度が、ゴーシェN370SおよびL444P線維芽細胞(はるかに弱い)よりも、健常な細胞内で大きい(非常に強い)ことを示した。さらに、特異的化学シャペロンでのゴーシェ線維芽細胞の治療は、ゴーシェ細胞内のPUP染色を増大させる。上述の通り、これは、タンパク質の凝集がユビキチン/プロテアソーム経路を阻害するものとして知られているためである。したがって、シャペロンを用いて凝集を減少させることで、プロテアソーム媒介型分解経路を再開させることができる。
【0171】
実施例7:ヒトゴーシェ病患者とヒト対照における代理マーカーの分析
この試験は、I型GDを患う26人の男性、III型GDを患う6人の男性、I型GDを患う26人の女性および19の異なる遺伝子型を代表するIII型GDを患う5人の女性を含んでいた。患者の年令は4〜83才の範囲に入り、63人中59人の患者は酵素補充療法を受けており、酵素輸液注入の直前に採血した。未治療WBCの分析から、対照に比べて低いGCase活性、正常なGlcCerレベル(大部分の患者がERTを受けていた)そして高いキトトリオシダーゼ活性(図8)が得られた。多数の試験がシヌクレオパチーにとっての潜在的危険因子であるGCaseについてコードする遺伝子であるGba内の変異を同定していたことから、α−シヌクレインの血漿レベルについてスクリーニングした。意外にも、GD患者は、対照に比べて高い総α−シヌクレインレベルを示した(図8)。興味深いことに、本発明者らは、GCase活性が有意に低減されているマウスモデルのグルコシルセラミドの蓄積とα−シヌクレライン蓄積が相関関係をもつことも同様に発見した。破骨細胞(TRACP5b)および骨芽細胞(BAP)の活性のマーカーは、大部分の患者について異常であった。一般に、TRACP5b活性は、多くの患者において高く、一方BAPレベルは正常より低かった(図9)。これらの結果は、骨代謝が大部分の患者において改変され、破骨細胞の活性および骨吸収に強く作用するということを示唆している。興味深いことに、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインPARC(CCL18)、IL−8、IL−17、VEGFおよびMIP−1αは、対照に比べて一部の患者において高くなっており、IL−17およびVEGFレベルについては有意な相関関係(p<0.0001)が観察された(図10)。IL−17は専らCD4+記憶T−細胞によって産生され、その他の細胞によるVEGFの産生を誘発できる。これらのサイトカインは、破骨細胞形成および破骨細胞の存続を促進でき、ゴーシェ病患者では多発性骨髄腫を発生させるリスクが増大していることが報告されているためGDに関連しうるこの多発性骨髄腫の発病機序にも関与していた可能性がある。
【0172】
同様にDKK1についても患者をスクリーニングし、それが、年令をマッチングした対照に関して大部分のゴーシェ病患者においてより低いものであることを発見した(データ示さず)。その他の炎症誘発性(IL−1[α,β]、IL−6、IL−7、IL−12p40、IL−12p70、IL−15、IL−17、フラクタルキン、EGF、TGFα、sCD40L、GM−CSF、エオタキシン、sCD14、IP−10、IFN−v、G−CSF、MIP−1β、TNFα、HSP60、HSP70)、抗炎症性(IL−1ra、IL−2、IL−4、IL−5、IL−10、IL−13)および心臓血管(CRP、SAA、SAP)マーカーの血漿レベルは、対照と比較した場合、大部分のGD患者について凡庸なものであった。
【0173】
本発明は、本明細書中に記載された具体的実施形態によってその範囲が限定されるものではない。実際、以上の記述および添付図面から当業者には、本明細書に記載されているものに加えて本発明のさまざまな修正が明らかになる。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内に包含されるものである。
【0174】
さらに、全ての値は近似値であり、説明のために示されているものであることを理解されたい。
【0175】
本出願全体を通して特許、特許出願、公報、製品関連文書およびプロトコルが引用されているが、その開示は、あらゆる目的のために全体が本明細書に参照により援用されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性β−グルコシダーゼの特異的薬理シャペロンを有効量投与した後のゴーシェ病患者の治療応答を監視する方法であって、ゴーシェ病に関連する代理マーカーの改善が存在するか否かを判定するステップを含む方法。
【請求項2】
酸性β−グルコシダーゼの特異的薬理シャペロンを投与した後のゴーシェ病患者の治療を監視する方法であって、ゴーシェ病に関連する代理マーカーの改善が存在するか否かを判定するステップを含み、改善が、患者が応答者であることの指標を表わしている方法。
【請求項3】
代理マーカーが全身性代理マーカーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
マーカーが、リソソーム酸性β−グルコシダーゼ活性の減少;脂質を持ったマクロファージ(「ゴーシェマクロファージ」)の存在;肝脾腫大症;キトトリオシダーゼレベルの上昇;肝酵素レベルの上昇;肺ケモカインPARC/CCL18レベルの上昇;アンジオテンシン転換酵素(ACE)、総酸性ホスファターゼおよび骨特異的酸性ホスファターゼのレベルの上昇;免疫学的欠陥例えば貧血症、血小板減少症、白血球減少症、高ガンマグロブリン血症、脾臓中のT−リンパ球の量の減少、全身性B細胞過剰増殖、形質細胞増加症、血漿α−シヌクラインの増加;炎症性サイトカインレベルの上昇、マクロファージ、リンパ球および好中球を含む組織または臓器内の炎症性病巣の存在、ならびに好中球走化性の障害;骨格異常例えば骨髄内のゴーシェ細胞の浸潤、溶解性病変、骨硬化症、骨痛、骨折、椎体圧潰、およびトリグリセリドレベルの低下;骨密度の低減およびその他の異常なX線写真所見;神経学的症候例えばニューロンの欠損、神経変性、水平注視異常、ミオクローヌス運動、角膜混濁、運動失調、認知症、痙性;発作、聴覚障害;認識機能障害;ゴーシェマクロファージの肺浸潤、ならびに肺高血圧症、からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
代理マーカーが細胞内代理マーカーである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
細胞内代理マーカーが、ゴーシェ病患者由来の細胞内におけるERからリソソームへの酸性β−グルコシダーゼの異常輸送;エンドソーム経路を通した細胞脂質の異常輸送;ERまたは細胞質ゾル内における誤って折畳まれた大量の酸性β−グルコシダーゼの存在;(ストレス関連マーカーの遺伝子および/またはタンパク質発現により判定されるような)GCaseの毒性蓄積が起こすERおよび/またはストレスの存在;エンドソームpHレベルの異常;単球上のMHCIIおよび/またはCD1dの血漿膜発現増大の存在;細胞形態の異常;ユビキチン/プロテアソーム経路の抑制;およびユビキチン化タンパク質の量の増加、からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
特異的薬理シャペロンが酸性β−グルコシダーゼの阻害物質である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
阻害物質が可逆的競合阻害物質である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
阻害物質がイソファゴミンである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
阻害物質がグルコイミダゾールである、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
患者に対し酸性β−グルコシダーゼに結合する特異的薬理シャペロンを有効量投与した後のゴーシェ患者の治療を監視する方法であって、患者に由来する細胞の細胞質染色に対する効果を判定するステップを含み、健常な個体に由来する細胞内の染色パターンに類似する細胞内の染色パターンの検出が、ゴーシェ病を患う個体が応答者であることの標示である、方法。
【請求項12】
細胞質染色がリソソーム染色である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
リソソーム染色が酸性β−グルコシダーゼの存在の検出である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
リソソーム染色がLAMP−1発現の検出である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
細胞質染色がポリユビキチン化タンパク質の検出である、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
特異的薬理シャペロンが、酸性β−グルコシダーゼの阻害物質である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
阻害物質が可逆的競合阻害物質である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
阻害物質がイソファゴミンである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
阻害物質がグルコイミダゾールである、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
個体が心臓病変を伴う3型ゴーシェ病を有し、代理マーカーが大動脈弁および/または僧帽弁の石灰化である、請求項1または2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−523715(P2010−523715A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503251(P2010−503251)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2008/060116
【国際公開番号】WO2008/128106
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507170099)アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】