説明

牽引フック取付構造

【課題】 本発明は牽引フックを車体端部の牽引フック取付部材にねじ式に着脱自在とした牽引フック取付構造に関し、低コスト及び軽量であるにも関わらず牽引強度と圧潰性との両立を図ることを目的とする。
【解決手段】牽引フック22を車体外部より脱着するための牽引フック取付部材18はクラッシュボックス12のバンパレインフォース側壁面12-1には固定であるが、サイドメンバ側には直接的には非固定である。鋼線30は牽引フック取付部材18をサイドメンバ側に連結する。鋼線30は牽引フックによる引張荷重をサイドメンバ側に伝達するが、衝突方向にはフリーである。また、衝突時におけるバンパレインフォース14及びクラッシュボックス12のつぶれ時に牽引フック取付部材18はサイドメンバ側の逃げ孔28を介して後退することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は牽引フックを車体端部の牽引フック取付部材にねじ式に着脱自在とした牽引フック取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ねじによって着脱自在な牽引フック取付構造としては、牽引フック側を雄ねじとし、車体側の牽引フック取付部材の雌ねじ部に着脱させる構造のものが普通である。牽引フックは車体の前方若しくは又は後方から取り付けられるが、車体の前部若しくは後部には衝突時の潰れによって車体の骨格部材であるサイドメンバを保護するためのバンパレインフォースやクラッシュボックスが設けられている。他方、牽引時にかかる引張力を受け止める必要があるが、牽引フック取付部材はバンパレインフォースやクラッシュボックスのみでは強度が足りないので、サイドメンバを牽引フック取付部材の取り付けに関与させる構造としている。例えば、牽引フック取付部材をクラッシュボックスとサイドメンバ側部材との間に跨って取り付けたり(特許文献1)、バンパレインフォースやクラッシュボックスを素通りさせ、牽引フック取付部材をサイドメンバに締結する構造としている(特許文献2及び3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−2136号公報
【特許文献2】特開2009−292175号公報
【特許文献3】特開2008−37220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では牽引フック取付部材はクラッシュボックスとサイドメンバ側部材との間に跨って取り付けた構造であり、牽引時の引張力はサイドメンバ側部材により受け止められ、衝突時は牽引フック取付部材はサイドメンバ側にはフリーであるためクラッシュボックスの圧潰による緩衝機能は損なわれることがない。しかしながら、牽引フック取付部材は長大なものとなり、部品コストや重量の点で不利である。また、正面からの入力に対しては牽引フック取付部材がサイドメンバ側の部材の開口部を通り抜けることができるが、斜め入力に対しては開口縁を抉るような動きをするためクラッシュボックスのスムースな圧潰の支障となり、効率的なエネルギ吸収が阻害される恐れがある。
【0005】
特許文献2及び3は牽引フック取付部材はバンパレインフォース及びクラッシュボックスをフリーに挿通され、サイドメンバ側の部材に固定されているため衝突時に牽引フック取付部材がバンパレインフォースやクラッシュボックスの圧潰の支障となることは全然ないため所期のエネルギ吸収が阻害される恐れはないが、牽引フックの装着のために、そのねじ部はバンパレインフォース及びクラッシュボックスを完全に挿通させる必要があり、牽引フックが極めて長大化し、これもコストや重量の点で不利である。
【0006】
更に、一般的な牽引フック取付部材取り付け構造として、クラッシュボックスの前壁と、前後壁の中間の補強板に結合する構造のものもあるが、この場合、牽引時の入力を全てクラッシュボックスで受け持つことになり、クラッシュボックスの強度を牽引強度に対して十分なものにする必要がある。他方、衝突時の緩衝機能からするとクラッシュボックスの圧潰によりエネルギ吸収をする必要があり、クラッシュボックスは適度に壊れやすい構造である必要がある。クラッシュボックスのエネルギ吸収部(前後壁を繋ぐ上下左右の壁)の板厚を牽引強度を保持するため補強したり、板厚を大きくしたり、素材として強度特性の優れたものを採用する必要がある。他方、衝突時のエネルギ吸収機能からはサイドメンバより先にクラッシュボックスを圧潰させる必要性から、補強された左右の壁を壊れ易くする工夫が必要となり、その手段として孔の追加、潰れの起点となるビード設置などであり、これらは材料の価格像、加工工程数の増、重量増に繋がる。これを要するに、牽引のための必要強度と衝突時のエネルギ吸収との相矛盾する要求の調和が必須であり、コストが嵩み及び重量増加に繋がることは避け得ない。
【0007】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、低コスト及び軽量であるにも関わらず牽引強度と圧潰性との両立を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、車体両側における左右夫々のサイドメンバの端部におけるクラッシュボックスと、車体幅方向に延び、クラッシュボックス間に配置されたバンパレインフォースと、牽引フックが車体外部より着脱自在に螺合され、クラッシュボックスのバンパレインフォース側壁面には固定であるが、サイドメンバ側部分には直接的には非固定の牽引フック取付部材と、牽引フック取付部材をサイドメンバ側に連結し、牽引フックによる引張方向には高剛性であるが衝突方向には低剛性の紐状部材とを具備した牽引フック取付構造が提供される。
【0009】
紐状部材は鋼線にて構成することができ、また、牽引フック取付部材に対向するサイドメンバ側壁面は衝突時におけるクラッシュボックス圧潰時に牽引フック取付部材の後退を正面方向のみならず斜め方向にも許容するに十分な大きさの逃げ孔を形成することができる。
【発明の効果】
【0010】
牽引フック取付部材のサイドメンバ側への連結は鋼線(ピアノ線)等の牽引フックによる引張方向には高剛性であるが衝突方向には低剛性の紐状部材により行われており牽引時には紐状部材は牽引力をサイドメンバ側に伝達し、衝突時にはフリーであるためバンパレインフォース及びクラッシュボックスの圧潰の抵抗にならないため、牽引強度と圧潰性との両立を図ることができる。
【0011】
そして、牽引フック取付部材はクラッシュボックスのバンパレインフォース側壁面には固定であるが、サイドメンバ側部分には非固定であるため、牽引フック取付部材は牽引フックの装着が可能な最小限の長さで足り、コスト減及び重量減を図ることができる。
【0012】
また牽引フック取付部材に対向するサイドメンバ側壁面に形成される逃げ孔はクラッシュボックス圧潰時に牽引フック取付部材の後退を正面方向のみならず斜め方向にも許容し、正面衝突のみならず斜め衝突に対しても所期のつぶれ機能を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1はこの発明の牽引フック取付構造を示しており、バンパレインフォースからクラッシュボックスを介しサイドメンバとの取り付け部を車体長手方向断面にて現したものである。
【図2】図2はこの発明における鋼線の止着構造の一例を示す図である。
【図3】図1は図2のIII方向矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下この発明の実施形態を車体の前部において牽引フックを取り付ける場合について説明するが、本発明は車体後部に牽引フックを取り付ける場合にも同様に適用することができる。図1において、10は車体の骨格部材であるサイドメンバであり、矩形筒状断面の鋼材にて構成され、車体の幅方向(紙面直交方向)に一対設けられている。サイドメンバ10の前端部にクラッシュボックス(バンパステーともいう)12が取り付けられる。クラッシュボックス12は鋼材で作られるが肉厚を適当に設定することで、衝突時に優先的に潰れるようになっており、これによりサイドメンバ10にいきなり大きな入力が加わらないようにすることでサイドメンバ10を保護するためのものである。クラッシュボックス車幅方向には矩形断面をなすも長手方向には幾分の拡開形状の筒状に形成され、その後壁面12-1はサイドメンバ10の前壁面10-1と対面当接され、これらの対向壁面12-1, 10-1は図示しないボルト及びナットにより締結される。そして、車体幅方向(紙面直交方向)における一対のサイドメンバ10間にバンパレインフォース14が車体幅方向に延びるように配置される。バンパレインフォース14はアルミニュームや鋼材性の矩形断面の筒状材にて構成される。バンパレインフォース14の後壁面14-1とクラッシュボックス12の前壁面12-2と対面当接され、これらの対向壁面14-1, 12-2は図示しないボルト及びナットにより締結される。バンパレインフォース14の前方にはプラスチック素材にて形成されたバンパフェーシア16が位置する。
【0015】
牽引フック取付部材18は円形断面の中実鋼材を素材とし、クラッシュボックス12の前壁面12-2及び前壁面12-2の内側に幾分の間隔をおいて配置された補強板20(クラッシュボックス12に対して溶接部W1にて溶接固定される)を挿通される。牽引フック取付部材18の、クラッシュボックス12の前壁面12-2及び補強板20に対する固定は溶接にて行われ、その溶接部をW2にて示す。牽引フック取付部材18はサイドメンバ側の部材であるクラッシュボックス12の後壁面12-1やサイドメンバ10の前壁面10-1に非固定(フリー)である。牽引フック取付部材18の前端はバンパレインフォース14の後壁面14-1のばか孔14Aを介してバンパレインフォース14内に突出するがその突出量は僅かで、対向するバンパレインフォース14の前壁面14-2から大きく離間しており、また、牽引フック取付部材18の後端についても、対向するクラッシュボックス12の後壁面12-1から大きく離間しており、牽引フック取付部材18はその長さが大幅に短縮されたものとなっている。牽引フック取付部材18の前端側より牽引フック取付孔18Aが形成され、牽引フック取付孔18Aには雌ねじが切られ、端部に雄ねじを形成した牽引フック22を外部から螺合装着可能である。即ち、 バンパフェーシア16及びバンパレインフォース14の前壁面14-2には牽引フック22の外径より十分大きい牽引フック挿入孔24、26が形成され、牽引時に牽引フック22の先端雄ねじ部が牽引フック挿入孔24、26を介して牽引フック取付孔18Aに螺合されるようになっている。従って、牽引フック取付部材18の長さとしては、前端側では牽引フック取付部材18の装着が可能であり、後端側では補強板20への溶接が可能であればよく、その全長は従来より大巾に短縮可能である。また、牽引フック取付部材18の後端に対向したクラッシュボックス12の後壁面12-1及びサイドメンバ10の前壁面10-1(本発明のサイドメンバ側部分)に逃げ孔28が形成され、逃げ孔28は衝突時に牽引フック取付部材の後退を正面方向のみならず斜め方向にも許容するに十分な大きさ(牽引フック取付部材18の略2倍若しくはそれ以上)となっている。
【0016】
この発明によれば、牽引フック取付部材をサイドメンバ側に連結するためピアノ線等の鋼線30(この発明の紐状部材)が設けられる。鋼線30等の紐状部材は牽引フック22による引張をサイドメンバ側の部材に伝達するに十分な強度を有しているが、衝突方向には剛性がなく入力を伝えない可撓性をもっている。鋼線30は牽引フック取付部材18の後端面と逃げ孔28の内周付近におけるクラッシュボックス12の後壁面12-1又はサイドメンバ10の前壁面10-1(本発明のサイドメンバ側部分)に連結され、連結手段としては特定しないが、例えば、図2及び3に示すように、鋼線30の端部30-1をフック状に形成し、ボルト及びナットにより対向面に締結することができる。溶接が可能であれば溶接でよく、対向面に対して必要な強度にて取り付け可能な如何なる方法をも採用可能であり、場合によっては溶接も採用しうる。また、鋼線の代わりに幅の狭い鋼帯材等の引っ張り方向には高剛性であるが衝突方向には低剛性(可撓性のある)紐状素材を採用することができる。
【0017】
牽引時には牽引フック22がバンパフェーシア16及びバンパレインフォース14の牽引フック挿入孔24、26を介して牽引フック取付部材18に螺合される。牽引フック取付部材18はクラッシュボックス12の前壁12-2に連結されると共に鋼線30によりクラッシュボックス12の後壁12-2(又はサイドメンバ10の前壁面10-1)に連結されているため、牽引による引張力はクラッシュボックス12と鋼線30との双方を介してサイドメンバ10に伝達される。即ち、引張力の伝達にクラッシュボックス12と鋼線30とが分担され、必要な牽引力を得ることができる。
【0018】
通常時は牽引フック22は外した状態にある。前部衝突の際に相手方との衝突によりバンパレインフォースの潰れが最初に起こり、潰れたバンパレインフォースによって牽引フック取付部材18が押される。鋼線30は潰れ方向には剛性がないためクラッシュボックス12のみが入力を受けるためクラッシュボックス12は潰れて行くが、クラッシュボックス12が潰れている限りはサイドメンバ10には衝突による入力に対して遮断され、サイドメンバを保護することができる。衝突荷によりクラッシュボックス12の潰れが進むことにより牽引フック取付部材18は後退して行くが、クラッシュボックス12の後壁面12-1及びサイドメンバ10の前壁面10-1に逃げ孔28により、クラッシュボックス12の完全な潰れに至るまで想像線18´に示すように牽引フック取付部材18を後退させることができる。このときの鋼線30の状態を想像線30´にて示す。逃げ孔28はその大きさに余裕があるため正面衝突のみならず斜め衝突に対しても壁面を抉ることがなく牽引フック取付部材18の後退を許容とし、所期の潰れ特性を確保することができる。
【符号の説明】
【0019】
10…サイドメンバ
12…クラッシュボックス
14…バンパレインフォース
16…バンパフェーシア
18…牽引フック取付部材
20…補強板
22…牽引フック
24, 26…牽引フック挿入孔
28…逃げ孔
30…鋼線(本発明の紐状部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体両側における左右夫々のサイドメンバの端部におけるクラッシュボックスと、車体幅方向に延び、クラッシュボックス間に配置されたバンパレインフォースと、牽引フックが車体外部より着脱自在に螺合され、クラッシュボックスのバンパレインフォース側壁面には固定であるが、サイドメンバ側部分には直接的には非固定の牽引フック取付部材と、牽引フック取付部材をサイドメンバ側に連結し、牽引フックによる引張方向には高剛性であるが衝突方向には低剛性の紐状部材とを具備した牽引フック取付構造。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、前記紐状部材は鋼線にて構成された牽引フック取付構造。
【請求項3】
請求項1若しくは2に記載の発明において、牽引フック取付部材に対向するサイドメンバ側壁面は衝突時におけるクラッシュボックス圧潰時に牽引フック取付部材の後退を正面方向のみならず斜め方向にも許容するに十分な大きさの逃げ孔を形成した牽引フック取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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