説明

牽引装置

【課題】 歯、顎関節等に負荷をかけることなく、安全かつ良好に頚部を牽引できる牽引装置を提供する。
【解決手段】 患者Pの頭部に装着される頭部装着具12と、頭部装着具12を上方に移動させて頚部を牽引する頚部牽引手段14と、を含む牽引装置であって、頭部装着具12は、頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがわれるくびれ当接部42を有し、該くびれ当接部42により患者の後頭部側のみを保持した状態で頚部を牽引することを特徴とする牽引装置10から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頚部または腰部等を牽引して疾患部を治療する牽引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
頚部脊椎症、頚椎捻挫、椎間板変性、椎間板ヘルニア等の頚部疾患や肩こり、筋肉痛等の治療方法の一つとして頚部を牽引して、頚椎間関節やその周囲の筋肉等の軟部組織等を伸張・弛緩等することにより、神経圧迫による痛みや、こり、頚椎の変形等を緩和、改善させる方法が行なわれている。従来の一般的な頚部の牽引方法としては、図6に示すように、例えば、グリソン牽引といわれるベルト、つり革等からなる牽引装具を用いた牽引方法が用いられており、患者の下顎と後頭部にそれぞれベルトBT1、BT2の中間位置を下から掛け回した状態で両側を側頭部側に略沿わせつつ、各ベルトの両端を上方Uに吊り上げて、患者の頚部を牽引するものであった。これらの牽引は、例えば、特許文献1の添付図面、図1に示すように患者を椅子4に座らせた状態で、顎部や後頭部にベルト8を装着し、ベルトをハンガー6で支持しつつ、頭上に支持された滑車3に掛けまわされた牽引ワイヤー5の一端をハンガー6に接続し、他端側をワイヤーを巻き取るドラム等を内蔵した電動牽引装置21や錘などに接続して、該牽引装置21や錘等を牽引力源としてワイヤー5を引っ張ることにより患者の頚部を牽引するものであった。
【特許文献1】特開2002−159521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の牽引方法では、図6に示すように、頚部を牽引する際に、ベルトBT1により下顎部を上に引き上げるものであるから、下顎骨Jを頭蓋骨本体側(側頭骨T側)に引き寄せる力が加わるので、歯や顎関節Kに大きな負荷がかかる結果、歯、顎又は顎関節周辺の病気を発症、悪化させるおそれがあった。したがって、安全性が低く、歯や顎等の病気をもつ人や高齢者等を治療する際には、特に危険性が高くなり厳重な注意を払う必要があるとともに、患者によっては牽引治療が行なえない場合もあった。また、頚部の牽引では頚椎は自然な状態で前方に凸の彎曲C1になっているので頚椎の後方側を離開させると効果的に治療できるとされているが、従来の牽引方法では、牽引時に頚椎よりも前部分に位置する顎部に力が作用するので、例えば患者の頭部が首の付け根Fを支点として後方(図6上、矢視方向R)に傾いた状態になりがちであった。すなわち、頚椎の自然な彎曲C1状態から過度に彎曲C2させて、頚椎の前方側では各頚椎は離間方向Eに広がるが、頚椎の後方側では各頚椎は近接方向Dに圧縮されて狭くなるようなバランスの悪い牽引となる結果、効果的な頚部の治療が困難であるとともに、逆に神経等を圧迫して病状を悪化させてしまうおそれもあった。さらに、2本のベルトBT1,BT2のあてがい位置や長さ、牽引方向のバランスを微妙に調整する必要があるので作業も煩雑で作業者の労力がかかるとともに、患者が不快感を覚える場合もあった。
【0004】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、その一つの目的は、歯、顎関節等の顎部に負荷をかけることなく、安全かつ良好に頚部を牽引できる牽引装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、患者Pの頭部に装着される頭部装着具12と、頭部装着具12を上方に移動させて頚部を牽引する頚部牽引手段14と、を含む牽引装置であって、頭部装着具12は、頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがわれるくびれ当接部42を有し、該くびれ当接部42により患者の後頭部側のみを保持した状態で頚部を牽引することを特徴とする牽引装置10から構成される。頭部装着具12は、例えば、枕状の形態やベルト形態に略U字状のくびれ当接部42を設けたもの等任意のものでもよい。頚部牽引手段14は、頭部装着具12を上方に移動させる構成であればよく、下記実施形態のような伸縮装置を用いた構成、索条等で吊るし上げる構成、ねじ軸とねじ軸を螺進退するスライド体とを用いた構成等その他任意の構成でもよい。
【0006】
また、患者Pを背面側に傾斜させた後傾状態で該患者Pを支える傾斜受体16が設けられ、後傾状態で患者の頭部が背面側の傾斜受体16にもたれかかることにより、後頭部を頭部装着具12のくびれ当接部42に密着させて支持することとしてもよい。
【0007】
また、頚部牽引手段14は、人体の正中線の方向Xと略平行方向Xaに頭部装着具12を移動させることにより頚部を牽引することとしてもよい。牽引時に頭部が過剰に後方へ傾いたり或いは前方や左右横方向へ傾いたりせず、頚椎を自然な前彎状態C1から前彎を減少させる方向に全体的にバランスよく牽引できる。
【0008】
また、傾斜受体16は、傾斜させた後傾状態の患者Pの背中を受ける背もたれ部18と、背もたれ部18にもたれかかった状態で腰部を略90度曲げて着座させる座部20と、を含む椅子体22からなることとしてもよい。椅子体22は、後傾角度を任意に設定できるようにしても良い。背もたれ部18の背もたれ面側や座部20の座面側には、クッション性のある素材を用いることとしてもよい。
【0009】
また、座部20に連結され椅子体22に着座した患者の骨盤周りに装着される腰部装着具58と、腰部装着具58により腰部を固定した状態で座部20を背もたれ部18に対して上下移動させることにより腰部を牽引する腰部牽引手段60と、頚部と腰部を同時に牽引するように頚部牽引手段14と腰部牽引手段60とを連係作動させる制御部30と、を含むこととしてもよい。腰部牽引手段60は、座部20を背もたれ部18に対して上下移動させる構成であればよく、下記実施形態のようなねじ軸68を用いた構成、シリンダ等の伸縮機構や、チェーンの回転による上下機構等、その他任意の構成でもよい。
【0010】
また、腰部牽引手段60は、人体の正中線の方向Xと略平行な方向Xbに座部20を移動させて腰部を牽引することとしてもよい。
【0011】
また、傾斜受体16には、患者Pの頚部及び/又は腰部を温める温熱装置80が設けられたこととしてもよい。
【0012】
また、頚部牽引手段14及び/又は腰部牽引手段60による牽引力を検知する検知手段74,76と、検知手段74,76に接続され、検知手段74,76からの信号に基づいて牽引手段14,60を動作させながら設定牽引力を超えた場合には牽引を停止させる安全制御部(30)と、を含むこととしてもよい。例えば、頚部側の牽引力を牽引する検知手段74は、圧力センサ等を頭部装着具12内に組み込んでもよいし、頭部装着具12と頚部牽引手段14との間に介設状に設けても良いし、頚部牽引手段に組み込むこととしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の牽引装置によれば、患者の頭部に装着される頭部装着具と、頭部装着具を上方に移動させて頚部を牽引する頚部牽引手段と、を含む牽引装置であって、頭部装着具は、頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがわれるくびれ当接部を有し、該くびれ当接部により患者の後頭部側のみを保持した状態で頚部を牽引する構成とすることにより、頚部を牽引する際に、歯、顎骨、顎関節に負荷がかかることがなく、安全に頚部を牽引できる。さらに、頚椎全体をバランスよく伸張させるように牽引することができ、効果的に牽引治療できる。
【0014】
また、患者を背面側に傾斜させた後傾状態で該患者を支える傾斜受体が設けられ、後傾状態で患者の頭部が背面側の傾斜受体にもたれかかることにより、後頭部を頭部装着具のくびれ当接部に密着させて支持する構成とすることにより、重力などにより患者の頚部にかかる緊張等を低減したリラックス状態で牽引でき、頚部の伸張効果の向上及び患者への負荷の軽減を実現できる。さらに、患者の頭部のもたれかかりを利用して頭部装着具による後頭部の保持状態を確実に維持して、確実な頚部の牽引を行なえる。
【0015】
また、頚部牽引手段は、人体の正中線の方向と略平行方向に頭部装着具を移動させることにより頚部を牽引する構成とすることにより、頚椎をバランスよく牽引して治療効果を向上できる。
【0016】
また、傾斜受体は、傾斜させた後傾状態の患者の背中を受ける背もたれ部と、背もたれ部にもたれかかった状態で腰部を略90度曲げて着座させる座部と、を含む椅子体からなる構成とすることにより、患者の頚部、背中、腰部等を自然な状態で牽引でき、効果的に牽引治療できる。さらに、患者は比較的楽な姿勢で牽引されるとともに、患者に対する負担も少ない。また、傾斜受体の患者を支える構成が比較的簡単な構成で製造できる。また、牽引するための準備を簡便、短時間で行なえる。
【0017】
また、座部に連結され椅子体に着座した患者の骨盤周りに装着される腰部装着具と、腰部装着具により腰部を固定した状態で座部を背もたれ部に対して上下移動させることにより腰部を牽引する腰部牽引手段と、頚部と腰部を同時に牽引するように頚部牽引手段と腰部牽引手段とを連係作動させる制御部と、を含む構成とすることにより、脊椎の略全体及びその周囲の筋肉等を全体的に牽引して、脊椎や背筋等により生じる頚部疾患等に対しても効果的に頚部を治療できる。同時に、腰椎、脊椎等も牽引される結果、腰、背中等の疾患も緩和、治療できる。
【0018】
また、腰部牽引手段は、人体の正中線の方向と略平行な方向に座部を移動させて腰部を牽引する構成とすることにより、頚椎及び腰椎を含む脊椎の略全体がバランスよく牽引されて、効果的な治療が行なえる。
【0019】
また、傾斜受体には、患者の頚部及び/又は腰部を温める温熱装置が設けられた構成とすることにより、患部を温めることで、患部周辺の血液の循環を向上させたり、痛みの緩和できる等の温熱治療効果を期待できる結果、相乗的に患部の治療効果を向上させうる。また、例えば、牽引前に予め患部を温めておくと、筋肉等の緊張が緩和された状態で牽引されるので、牽引治療効果も向上できる。
【0020】
また、頚部牽引手段及び/又は腰部牽引手段による牽引力を検知する検知手段と、検知手段に接続され、検知手段からの信号に基づいて牽引手段を動作させながら設定牽引力を超えた場合には牽引を停止させる安全制御部と、を含む構成とすることにより、過剰に頚部または腰部に牽引力が作用するのを防止して、安全に牽引治療が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下添付図面を参照しつつ本発明の牽引装置の実施の形態について説明する。本発明の牽引装置は、例えば、頚部を牽引して頚部疾患の治療等に利用される牽引装置である。図1ないし図5には、本発明の牽引装置の実施形態を示している。図1、図2に示すように、本実施形態において、牽引装置10は、患者の頭部に装着される頭部装着具12と、頭部装着具12を上方に移動させて頚部を牽引する頚部牽引手段14と、を備えている。
【0022】
本実施形態では、図1に示すように、患者Pを背面側、矢視Rs方向に傾斜させた後傾状態で該患者Pを支持する傾斜受体16が設けられており、患者を後傾した状態で頚部を牽引するようになっている。本実施形態では、傾斜受体16は、後傾された背もたれ部18と、座部20と、を含む椅子体22からなり、患者Pは、座部20に着座しつつ、背もたれ部18にもたれかかった状態で頚部の牽引が行われる。なお、本実施形態では、患者が椅子体22に座った際の正面側、即ち、図1の左側を前方とし、患者が椅子体22に座った際の背中側、即ち、図1の右側を後方とする。本実施形態において、椅子体22は、床面上に設置される中空箱形の支持台24に回動軸25を介して回動できるように軸支されており、支持台24に内蔵された回動機構26を介して、背もたれ部18が鉛直状に設定された直立状態と、背もたれ部18が後方に傾斜させた後傾状態と、を自在に変更できるように支持されている。これにより、牽引前または牽引後に椅子体22を直立状態として、患者Pの椅子体18への着席、又は立ち上がり動作を楽に行なえる。一方、牽引操作する前には患者を着座させた状態で後傾状態に変更できる。
【0023】
本実施形態では、椅子体の背もたれ部18は、図1、図4に示すように、前面側に患者の背中を受ける広面積の背もたれ面28を有しており、正面視縦長略矩形状で支持台24に支持された荷重受基体29に設けられている。荷重受基体29は、下端側を回動軸25を介して支持台24に軸支されている。荷重受基体29には、内部に頚部牽引手段14等の構成部材や装置を制御する制御部30等を内蔵する収容空間が形成されており、牽引装置全体が椅子体22構造としてコンパクトに設けられている。なお、背もたれ部の背もたれ面28は、図1上では平面状に形成されているが、例えば、背骨のS字彎曲に沿うような彎曲面やその他任意の形状に形成されていても良い。一方、座部20は、上面側に人の座面31を形成した箱型形状に設けられており、背もたれ部18の前面に突出するように荷重受基体29の背もたれ部18より低位置側に一体的に設けられている。本実施形態では、座部20は、着座した患者Pが、背もたれ部にもたれかかった状態で腰部を略90度曲げた姿勢になるように、座部20の座面31が背もたれ部18に対して略90度に設定されている。これにより、患者は腰部を略90度曲げて着座することにより脊椎が自然なS字状彎曲になりやすいとともに、傾斜した背もたれ部18にもたれかかることで脊椎方向にかかる重力が低減し、例えば、重力等による患者の頚椎や頚部周辺の筋肉等の緊張が低下したリラックス状態となる。これにより、頚部に大きな牽引力を加えることなく有効に頚椎を離間させることができ、患者への負担も少なく、効果的な牽引治療を行える。さらに、座部20は、後述の腰部牽引手段60を介して背もたれ部18に対して上下動自在に連結されている。座部20の下端側には、足載せ33が前方に突設されている。なお、傾斜受体16としては、本実施形態の構成に限らず、例えば、座部に対して背もたれ部のみが後傾された構成、座部と背もたれ部の角度が自在に変更できる構成、ベッド状の構成等その他任意の構成でもよい。
【0024】
回動機構26は、椅子体22を回動軸30周りに回動させるとともに、椅子体18の所要の角度における後傾状態を保持されるように支持する。本実施形態において、回動機構26は、支持台24内に配置された駆動モータ34と、支持台24内で前後方向に軸方向を向けて軸回り回転自在に支持されたねじ軸36と、ねじ軸36に貫通状に螺着しているスライド体38と、一端をスライド体38に軸支されつつ他端側を背もたれ部18の後方に突設された接続片39に軸支された支持腕40と、を含む。駆動モータ34は背もたれ部18内に設置された制御部30に電気的に接続されており、制御部30からの信号により、運転、停止する。ねじ軸36は、駆動モータ34と減速機を介して連結されており、駆動モータ34の回転によって軸回転させられることによりスライド体38をねじ軸の軸方向に螺進退させる。ねじ軸の軸回転により、スライド体38がねじ軸36後方側に移動すると支持腕40を介して椅子体22の後方側への荷重を支持しながら椅子体22を後傾させる。スライド体38がねじ軸36の前方側へ移動すると支持腕40を介して椅子体22は強制的に立ち上げられて直立状態となる。なお、回動機構26は、上記のように駆動モータとねじ軸等を利用した構成に限らず、例えば、回動軸25にギアを一体的に設けてギアにモータ等を直結して回動軸を直接に回動させる構成、シリンダ等の伸縮機構を用いた構成等、その他任意の構成でよい。
【0025】
本実施形態において、頭部装着具12は、図1、図4に示すように、背もたれ部18の前面側の上方位置で座部20の座面31上に配置されており、椅子体22に着座した患者Pが背もたれ部18にもたれかかった状態で頭部に装着される。頭部装着具12は、図2、図3にも示すように、患者の頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがわれるくびれ当接部42を有している。本実施形態では、くびれ当接部42は、例えば、略U字状である程度の縦幅を有する帯体状に形成されており、患者のくびれ部に沿いつつ、頚部の真後ろ側から左右両側に広がって、両端側を両耳の後方近辺、具体的には側頭骨Tの乳様突起Mが位置する部分に延長させて下方側から略U字状に密着当接するように形成されている。乳様突起Mの位置は、上部側の頚椎の位置に対して、側面視で前後方向のずれが少ないので、この位置を支持して牽引することにより、バランスよい頚部の牽引が期待できる。なお、図3は、説明のために詳細を省略した模型図であり、概略構成を簡単に示している。頭部装着具12は、この略U字状のくびれ当接部42により患者の後頭部側のみを保持した状態で頚部を上方へ牽引する。すなわち、頭部装着具12は、従来の装具のように顎にかけるベルト等を一切含まず後頭部側のくびれ部周辺だけに牽引力を作用させて頚部を牽引する。これにより、牽引時に歯や顎関節K等に負荷がかかることがないので顎の疾患等を発症、悪化させることがなく安全に牽引できる。さらに、主に頚椎の左右両側付近から後方側にかけて牽引力が作用するから、頚椎が前方に彎曲している自然な状態C1から頚椎の前部側及び頚椎の後部側を離開するように(図2上、離間方向E1に)バランスよく牽引でき、効果的に牽引治療できる。本実施形態では、頭部装着具12は、上記のように後傾した椅子体22に患者Pがもたれかかった状態で装着されるから、後傾状態で患者の頭部が背面側の椅子体22にもたれかかることにより、患者の後頭部を頭部装着具12のくびれ当接部42に密着させて支持するようになっている。よって、くびれ当接部42による後頭部側のみの保持状態でも頭部に安定して装着でき、後頭部から離脱したり、ずれたりすることなく確実に頚部の牽引が行える。本実施形態では、頭部装着具12には、装着状態を確実にするために、くびれ当接部42の後方側に接続されて後頭部の隆起部に係着される補助受部44と、補助受部44の上端側に接続されて頭部に巻き付け状に固定される補助巻き付け部46と、が一体的に設けられている。頭部装着具12の補助巻き付け部46には、ワイヤー等の索条類からなる吊支部材48が接続されており、吊支部材48を介して頚部牽引手段14に連係されている。
【0026】
本実施形態では、頚部牽引手段14は、その構成部材を背もたれ部18を構成している荷重受基体29に内蔵して、椅子体22に一体的に組み付けられている。図1、図4に示すように、本実施形態では、頚部牽引手段14は、背もたれ部18の左右中央側の上端側に設置され、頭部装着具12を背もたれ部20に対して上下動させる直動機構50を含む。本実施形態では、直動機構50は、制御部30を介して動作制御されており、後傾した背もたれ部18にもたれかかった患者Pの正中線の方向Xと略平行な方向Xaに沿って頭部装着具12を移動させる。すなわち、患者の頚部を正中線の方向Xと略平行に牽引することとなり、牽引時に頚部が前屈又は後屈して頚椎に負荷がかかるのを防止し、頚椎全体を伸張させるようなバランスの良い牽引を実現できる。直動機構50は、例えば、モータ52と、モータ52の回転によりロッド体を伸縮する伸縮装置54と、を有している。モータ52は、制御部30に電気的に接続されており、制御部30からの信号を受けて駆動、停止する。伸縮装置54の上端側には、背もたれ部18の上端から前方側に向けて突設した連結支持部56が設けられており、連結支持部56の前端側に吊支部材48を介して頭部装着具12が連結されている。モータ52を駆動させて、伸縮装置54のロッド体を伸張することにより、頭部装着具12を背もたれ部の背もたれ面28に略沿うように吊り上げて、頚部を牽引する。なお、頚部牽引手段14は、上記実施形態に限らず任意の構成でよい。例えば、背もたれ部14を上下2分割にして、上部側を下部側の背もたれ部に対して上下移動に構成し、該上部側に頭部装着具12を固定することにより構成してもよい。
【0027】
さらに、本実施形態では、患者の頚部と同時に腰部を牽引するようになっており、図1に示すように、椅子体22には、座部20に連結され患者の骨盤周りに装着される腰部装着具58と、腰部装着具58により腰部を固定した状態で座部20を背もたれ部に対して上下移動させることにより腰部を牽引する腰部牽引手段60と、が設けられている。頚部の疾患の原因は頚部周辺に限らず、頚椎を含む脊椎、背中、肩等の筋等にもある場合多いことから、脊椎の略全体を牽引することにより、頚部の治療を効果的に行なえる。同時に、脊椎の疾患、腰部の疾患等の治療も効果的に行なえる。
【0028】
腰部装着具58は、例えば、患者の腰部の骨盤周囲に巻き付け状に装着される環状のベルト体からなり、腰部装着具42の両側方側から一体的に下方に伸びた接続帯部62により座部20に接続される。腰部装着具58は、例えば、バックル等や面ファスナ等の連結手段で腰の前で環状に連結、解除自在な構成として、簡単に腰部に装着離脱されるようになっている。
【0029】
腰部牽引手段60は、本実施形態では、その構成部材を背もたれ部18を構成している荷重受基体29内に内蔵されて、椅子体22に一体的に組み付けられて設けられている。本実施形態では、腰部牽引手段60は、座部20を背もたれ部18の背もたれ面に沿って上下動させるレール機構63を含む。レール機構63は、椅子体22に着座した患者の正中線Xの方向と略平行な方向Xbに座部を上下移動させるようになっている。なお、腰部牽引手段60は、患者の体格に合わせて頭部装着具12に対する座部の位置調整手段も兼ねている。本実施形態では、レール機構63は、背もたれ部18の前面側に縦に設けられたレール64と、モータ66と、背もたれ部18内に縦方向に配置され軸回転自在に支持されたねじ軸68と、座部20の背面側から背もたれ部18内に一体的に突設されてねじ軸68に貫通状に螺着しているスライド部70と、を含む。レール64は、座部20の後面側に設けられた車輪等のレール係合部(図示せず)と係合しつつ、座部20を上下にスライド移動する。モータ66は背もたれ部18内に設置された制御部30に電気的に接続されており、制御部30からの信号により、運転、停止する。ねじ軸68は、モータ66と減速機を介して連結されている。モータ66の回転によるねじ軸68の軸回転により座部20のスライド部70がねじ軸の軸方向に螺進退して座部20がレール64に沿って上下動するとともに、モータの停止状態では所定位置で固定状態が保持される。また、本実施形態では、座部20に着座した患者の脇下を下から支えるように背もたれ部18から前方に突設された脇支持部材72が設けられている。脇支持部材72は、腰部牽引手段60による腰部の牽引時に上半身側を背もたれ部側に固定状態とし、頚部牽引手段14により牽引されている頚部に過剰に牽引力が加わるのを防止しつつ確実に腰部を牽引できる。なお、患者の上半身側を背もたれ部側に固定するベルトなどを設けても良い。
【0030】
本実施形態では、頚部牽引手段14による頚部の牽引力を検知するための頚部検知手段74と、腰部牽引手段60による腰部の牽引力を検知するための腰部検知手段76が設けられており、各検知手段74,76の信号に基づいて頚部牽引手段14、腰部牽引手段60による牽引を停止させる安全制御部を有している。本実施形態では、安全制御部は、制御部30に兼用されており、各検知手段74,76は制御部30と電気的に接続されている。頚部検知手段74は、例えば、圧力センサからなり、伸縮装置54の上端に設けられた連結支持部56内に配置されて、頭部装着具12を吊支している吊支部材48に接続されている。吊支部材48にかかる引っ張る力を検知して、検知信号を制御部30に送る。同様に、腰部検知手段76は、圧力センサからなり、腰部装着具58の接続帯部62と座部20との接続位置に組み込まれている。接続帯部62にかかる引っ張り力を検知して、検知信号を制御部30に送る。
【0031】
本実施形態では、制御部30は、頚部と腰部を同時に牽引するように頚部牽引手段14と腰部牽引手段60とを連係作動させるように制御している。制御部30は、例えば、スイッチのオン、オフ操作できるコントローラ等に接続されており、患者自身又は医者等の他の操者のコントローラ操作により、牽引動作を起動、停止できるようになっている。さらに、本実施形態では、検知手段50、51からの信号に基づいて、頚部牽引手段22を動作させるとともに、検知手段50、51からの信号が設定牽引力を超えた場合には、牽引を停止させるように頚部牽引手段14、腰部牽引手段60を制御する。これにより、過度の牽引による怪我や病状の悪化を未然に防止して、患者の安全を確保できる。なお、設定牽引力は、例えば、患者の体重や、年齢、病状等に合わせて設定されるとよい。
【0032】
また、本実施形態では、椅子体22の背もたれ部18には、患者Pの頚部と腰部を温める温熱装置80が設けられている。温熱装置80は、本実施形態では、例えば面状発熱体等の電気抵抗で発熱するヒータを内蔵した枕状の温熱パッドからなり、制御部30と電気的に接続されている。温熱装置80は、本実施形態では、背もたれ部18の患者の頚部と腰部部分に対応した位置に取り付けられて、装置の表面が直接的に患者にあてがわれるようになっている。なお、温熱装置80は、例えば、遠赤外線や近赤外線を利用したもの、その他任意のものでもよい。温熱装置80は、患者Pの頚部と腰部等の患部を温めることにより、患部周辺の血液の循環を向上させたり、痛みの緩和できる等の温熱治療することができる。さらに、筋肉等の緊張が緩和されるので牽引治療効果も高くなる結果、相乗的に治療効果を向上させうる。本実施形態では、温熱装置80は、制御部30を介して頚部牽引手段14、腰部牽引手段60と連係的に動作するようになっており、例えば、牽引の前に温熱装置80で患部をある程度温めておいて、所定時間経過後に頚部牽引手段14、腰部牽引手段60を作動するようになっている。本実施形態では、例えば、制御部30にタイマを内蔵しておいて、温熱装置80が動作してから所定時間後に頚部牽引手段14、腰部牽引手段60をタイマ作動させて牽引するようなっている。なお、温熱装置80は、上記のような制御に限らず、例えば、温熱装置80の起動操作とは別に手動でコントローラ78等を操作して牽引手段を作動させることとしてもよい。また、一つのボタン操作で温熱装置80と各牽引手段14,60とを同時に起動するようにしてもよい。また、牽引手段14,60を制御する制御部30とは別系統で電気的に制御されることとしてもよい。
【0033】
次に、本実施形態に係る牽引装置の作用について説明する。牽引装置10を使用する場合には、先ず、椅子体22を真っ直ぐ立てて直立状態としておく。患者Pは、腰部を略90度曲げた状態で椅子体22の背もたれ部18に背中をもたれかけながら座部20に着座する。頭部装着具12のくびれ当接部42を患者Pの頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがいながら患者Pの頭部に頭部装着具12を装着するとともに、腰部に腰部装着具58を装着する。回動機構26を介して、椅子体22全体を後方向に傾斜して、図1に示すような患者Pを背面側に傾斜させて後傾状態とする。この後傾状態で患者の頭部が背もたれ部18にもたれかかることにより、後頭部を頭部装着具12のくびれ当接部42に密着させて支持される。後傾状態とすることにより患者の体重が正中線方向Xと背もたれ部にかかる方向に分散されて、頚椎、脊椎やその周りの筋肉に余計な緊張力を低下させたリラックス状態となり、牽引時の伸びが良く効果的に牽引を行なえる。なお、必要に応じて、温熱装置80を作動させて頚部や腰部を温めると牽引治療と併せて温熱治療できる。コントローラ78のスイッチをオンにし、制御部30を介して、頚部牽引手段14と腰部牽引手段60を作動させて、頚部と腰部を同時に牽引する。脊椎の略全体が牽引されることにより、頚部の疾患、脊椎の疾患、腰部の疾患等の治療を同時に効果的に行なえる。頚部牽引は、顎に牽引力が加わらず、くびれ当接部42により患者の後頭部側のみを保持した状態で牽引するので、顎の疾患を発症、悪化させることがなく、安全に牽引することができる。同時に、図2にも示すように、頚椎全体をバランスよく伸張させるように牽引することができ、効果的に牽引治療できる。牽引中では、制御部30は、頚部検知手段74、腰部検知手段76からの信号に基づいて各牽引手段を動作させつつ、各検知手段74、76からの信号が設定牽引力を超えた場合には牽引を停止させる。これにより、過剰な頚部、腰部の牽引による、病状の悪化や怪我等を未然に防止できる。このような牽引を間欠的又は持続的に行ない、所要時間後に牽引を終了する。牽引終了後には、椅子体22を直立状態に戻し、頭部装着具と腰部装着具を患者Pから外させる。
【0034】
以上説明した本発明の牽引装置は、上記した実施形態のみの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の本質を逸脱しない範囲において、任意の改変を行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の牽引装置は、例えば、頚部を牽引、又は頚部と腰部と同時を牽引して、頚部疾患、或いは腰部疾患、脊椎疾患等を治療する際に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施形態に係る牽引装置の一部内部構造を示した側面説明図である。
【図2】図1の牽引装置の頭部装着具の拡大説明図である。
【図3】図2のA−A線矢視説明図である。
【図4】図1の牽引装置の背もたれ部に正対した状態の図である。
【図5】頭部牽引手段及び腰部牽引手段と制御部と検知手段の構成を概略で示すブロック説明図である。
【図6】従来の頚部牽引治療に用いられる装具の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
10 牽引装置
12 頭部装着具
14 頚部牽引手段
16 傾斜受体
18 背もたれ部
20 座部
22 椅子体
30 制御部
42 くびれ当接部
58 腰部装着具
60 腰部牽引手段
74 頚部検知手段
76 腰部検知手段
80 温熱装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の頭部に装着される頭部装着具と、頭部装着具を上方に移動させて頚部を牽引する頚部牽引手段と、を含む牽引装置であって、
頭部装着具は、頚部と後頭部の間のくびれ部に背面側から密着当接状にあてがわれるくびれ当接部を有し、
該くびれ当接部により患者の後頭部側のみを保持した状態で頚部を牽引することを特徴とする牽引装置。
【請求項2】
患者を背面側に傾斜させた後傾状態で該患者を支える傾斜受体が設けられ、
後傾状態で患者の頭部が背面側の傾斜受体にもたれかかることにより、後頭部を頭部装着具のくびれ当接部に密着させて支持することを特徴とする請求項1記載の牽引装置。
【請求項3】
頚部牽引手段は、人体の正中線の方向と略平行方向に頭部装着具を移動させることにより頚部を牽引することを特徴とする請求項2記載の牽引装置。
【請求項4】
傾斜受体は、傾斜させた後傾状態の患者の背中を受ける背もたれ部と、
背もたれ部にもたれかかった状態で腰部を略90度曲げて着座させる座部と、を含む椅子体からなることを特徴とする請求項2または3記載の牽引装置。
【請求項5】
座部に連結され椅子体に着座した患者の骨盤周りに装着される腰部装着具と、
腰部装着具により腰部を固定した状態で座部を背もたれ部に対して上下移動させることにより腰部を牽引する腰部牽引手段と、
頚部と腰部を同時に牽引するように頚部牽引手段と腰部牽引手段とを連係作動させる制御部と、を含むことを特徴とする請求項4記載の牽引装置。
【請求項6】
腰部牽引手段は、人体の正中線の方向と略平行な方向に座部を移動させて腰部を牽引することを特徴とする請求項5記載の牽引装置。
【請求項7】
傾斜受体には、患者の頚部及び/又は腰部を温める温熱装置が設けられたことを特徴とする請求項2ないし6のいずれかに記載の牽引装置。
【請求項8】
頚部牽引手段及び/又は腰部牽引手段による牽引力を検知する検知手段と、
検知手段に接続され、検知手段からの信号に基づいて牽引手段を動作させながら設定牽引力を超えた場合には牽引を停止させる安全制御部と、を含むことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の牽引装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−345882(P2006−345882A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−171850(P2005−171850)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(501381169)
【出願人】(505220491)
【Fターム(参考)】