説明

犬猫用抗夜哭き剤

【課題】夜哭きをする高齢の犬や猫の夜哭きを予防し又は防止する。
【解決手段】フェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物を有効成分とするもので抗夜哭き剤を構成した。ここで、フェルラ酸はポリフェノールの一種であり、米糠に含まれている。フェルラ酸は抗酸化作用を有し、認知症の改善に効果がある。フェルラ酸は吸収の点でγシクロデキストリンで包摂されているものが好ましい。夜哭きをする高齢の犬又は猫にこの抗夜哭き剤を摂取させると夜哭きが抑制され、又は夜哭きが防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢の犬や猫の夜哭きを抑制したり又は防止するための犬猫用抗夜哭き剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、獣医療の進歩に伴って高齢の犬や猫が増加し、認知症状を呈する高齢の犬や猫が現れている。高齢の犬や猫に現れる認知症状には以下の1)〜5)の症状があり、これらの認知症状はその頭文字をとって「DISHA」と呼ばれている。
【0003】
1)よく知つている環境下での見当識障害(Disorientation)
2)人や他の動物との関係性の変化(Interaction)
3)睡眠−覚醒周期の変化する時間認識障害(Sleep-wakecycle)
4)しつけや排泄など学習されていた行動の減退や反応の欠如(Housetraining)
5)活動性の変化(Activity)
【0004】
これらの認知症状「DISHA」に対し、これまでのところ、効果的な薬剤は無く、また画期的な治療法も提供されていない。
【0005】
ところで、高齢の犬や猫には上記認知症状を呈すると共に夜哭きをする犬や猫が存在する。この犬や猫の夜哭きは、犬や猫自身の睡眠のみならず、飼い主の睡眠をも妨げている。しかも、犬や猫の夜哭きは近隣住民とのトラブルに発展することが多く、場合によっては社会的な問題となることもある。
【0006】
若い犬や猫であればトレーニングなどにより夜哭きを無くさせる可能性もあるが、認知症状を示している高齢の犬や猫ではトレーニングなどにより夜哭きを無くさせることはできず、寝かせる以外に有効な対策がない。そのため飼い主は、夜間に哭き続ける犬や猫をおとなしくさせることに苦慮し、これが飼い主の悩みとなっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】小動物臨床のための5分間コンサルト・Larry P.Tilley,Francis W. K . S m t t h , Jr.編, 長谷川篇彦監修,インターズ−,p p . 1 4 4 2 , 2006.
【非特許文献2】Graf E.: Antioxidant potential of ferulic acid, Free Rad. Biol. Med.13:435-448, 1992.
【非特許文献3】Ono K.et al : Ferulic acid destabilizes performed β- amyloid fibrils in vitro, Biochem. Biophys. Res. Commum. 386 : 444-449, 2005.
【非特許文献4】中村重信: F e r u l i c a c i d とG a r d e n a n g e l i c a 根抽出物製剤ANM176がアルツハイマー病患者の認知機能に及ぼす影響,Ceriat. Med. 46:1511-1519, 2008.
【非特許文献5】杉本栄造:認知症周辺症状に対するフェルラ酸の使用経験,京都医学会雑誌第57巻1号81〜83 June 2010
【非特許文献6】犬と猫の老齢医学,Mike Davies著,内野富弥 監訳,学窓社,p.1.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、夜哭きをする高齢の犬や猫に対して夜哭きを無くさせる有効な対策がない点である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、高齢の犬や猫の夜哭きを抑制したり防止するため、フェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物を有効成分とする抗夜哭き剤を高齢の犬や猫に摂取させることを最も主要な特徴とする。ここで、フェルラ酸は吸収を遅くさせるためにγシクロデキストリンで包摂されている形が好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の犬猫用抗夜哭き剤を高齢の犬や猫に摂取させると高齢の犬や猫の夜哭きを抑制したり防止することができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は本発明の実施例で使用した認知症スコアシートを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
高齢の犬や猫の夜哭きを抑制し又は防止するという目的を、フェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物を有効成分とするものにより、高齢の犬や猫に副作用を生じさせることなく実現した。
【実施例1】
【0013】
ポリフェノールの一種であるフェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物を主成分とした抗夜哭き剤(フェルラ酸、環状オリゴ糖、ビタミンC、ビタミンE、ブドウ糖、ガーデンアンゼリカ抽出物)を認知症状を呈した高齢の犬や猫に投与し、その効果を調べた。
【0014】
犬35例、猫9例のうち、「夜哭き」および「無目的な哭き声」を主症状としている犬17例および猫6例を検証対象とした。
【0015】
犬17例の犬種は、柴犬5例、シー・ズー4例、雑種犬3例、ビーグル、マルチーズ、ヨークシャー・テリア、ポメラニアン、パグが各1例であった。年齢は13〜20歳(平均15.6歳) で、雄4例、去勢済み雄7例、雌1例、不妊手術済み雌5例であった。
【0016】
猫6例は全例が短毛雑種猫であった。年齢は16〜21歳(平均19.2歳)で、雄1例、去勢済み雄2例、不妊手術済み雌3例であった。
【0017】
この検証対象の犬及び猫に本発明抗夜哭き剤を投与した。本発明抗夜哭き剤1g中にはフェルラ酸66.67mg とガーデンアンゼリカ抽出物13.33mgが含有されている。
【0018】
フェルラ酸は米糠より抽出したポリフェノールの一種であり、腸管への吸収から排泄までがおよそ3〜4時間と短いことから、ヒトでは1日3回の投与となっている。しかし、犬や猫では3回の投与は現実的ではなく、2回投与とするためにγシクロデキストリン(環状オリゴ糖)で顆粒状に包摂させ、吸収時間を長くしたものを用いた。
【0019】
また、ガーデンアンゼリカは西洋トウキ、セリ科シシウド属の二年草あるいは多年草である。ガーデンアンゼリカにはクマリンが含まれており、多量摂取により肝障害がみられることがあるが、本発明抗夜哭き剤の投与量ではクマリン量換算で0.003〜0.004mg/kgであり、長期間適用しても肝機能に影響しない投与量である。
【0020】
体重2〜4kgの症例で0.19g(添付されたスプーン山盛り1杯)、体重5〜7kgの症例で0.38g(同2杯)とし、症例の体重に応じて投与量を漸増した(最低用量として0.07g/kg以上)。投与回数は1日2回とした。
【0021】
前記の方法により投与を実施した獣医師が図1に示す認知症スコアシートにデータを記載し、それらをまとめた。経過の欄は、獣医師の自由記入とした。著効、有効、無効の判断は、担当した獣医師の判断によるものである。
【0022】
高齢の犬及び猫に対する本発明抗夜哭き剤の投与による結果は表1に示す通りであった。
【0023】
【表1】

【0024】
表1に示す結果から、犬猫の夜哭きに対する本発明抗夜哭き剤の投与の結果は以下の通りであった。
1)犬の夜哭きに対する本発明抗夜哭き剤の投与による結果は、著効11例、有効0例、無効4例、中止2例であった。
2)本発明抗夜哭き剤は、犬の夜哭きに対しては、64%で改善された。投与を中止した症例を除けば73%であった。
3)猫の夜哭きに対する本発明抗夜哭き剤の投与の結果は、著効4例、有効1例、無効1例であった。
4)本発明抗夜哭き剤は、猫の夜哭きに対しては、83%で改善された。
5)夜哭きが改善されなかつた5例のうち、昼夜の逆転の改善が2例、くるくる回ることの改善が1例、体調の改善が1例でみられた。
6)本発明抗夜哭き剤の投与を中止した2例は、「体調が良くなり、わがままな吠え」がひどくなったことによるものと、「体調が良くなり尿失禁も改善したが、てんかん様発作がひどくなつた」ために中止したものである。
7)本発明抗夜哭き剤の投与後には、下痢、嘔吐などの副作用は、全症例で認められなかった。
【0025】
今回、本発明抗夜哭き剤の投与により、犬17例中11例、猫6例中5例に夜哭き改善の効果が認められた。投与開始から2日で夜哭きが改善したケースや、数十日経つてから効果が現れたケースがあるが、このことは認知症状を起こした脳内の病理的な違いを示しているのか、1回当たりの投与量の問題なのかは不明であり、今後の検討課題となる。また、無効の2例においても同様である。投与方法については、今回投与した約2倍量を2〜3週間投与し、効果を確認した後に減量していくといつた方法を検討してもよいかもしれない。
【0026】
フェルラ酸は、米糠から抽出されたポリフェノールの一種で強力な抗酸化作用をもち、アミロイドβタンパクの凝集阻止作用を有するとされており、神経細胞死抑制を期待されている。また、ガーデンアンゼリカは、神経突起伸長作用、神経細胞のネットワーク再構築から、神経再生を期待されている。
【0027】
ヒトでは、認知症をアルツハイマー型認知症、正常圧水頭症、レビー小体型認知症、脳血管性認知症などに分けられており、それぞれ治療法が異なっている。中村らは、フェルラ酸とガーデンアンゼリカ根抽出物製剤ANM176がアルツハイマー病患者の認知機能低下を抑える効果があると報告し、杉本は、認知症周辺症状に対してフェルラ酸を使用し、中等度以上の認知症BPSDの陰性症状の改善を報告している。
【0028】
しかしながら、犬や猫がヒトと同じような認知症状を見せていても、病理的には異なつた原因であることは十分に考えられる。ヒトと異なり、高齢動物に対しては手軽にCTやMRIが使用できない現状では、認知症状をもっと注意深く観察することによって、脳内の病理的変化に気づけるのではないかと考える。
【0029】
ヒトの老齢者は、自分たちの病気が単に「老齢」のせいで、どうしようもないと信じ込み、病気の初期に医学的処置を求めようとしない傾向がある。高齢動物を抱えた飼い主も同じように「高齢なのでどうしようもない」と考えがちである。
【0030】
しかし、今回、本発明抗夜哭き剤の投与によって、夜哭きを呈する症例の69%(犬と猫を合わせて)において改善の効果がみられたことは、夜哭きで脳む飼い主はもちろん、我々獣医療に携わる者にとっても、大きな福音である。
【0031】
認知症状の分析や投与量の問題など、まだ検討すべき課題は多々あるが、この抗夜哭き剤が、この分野の治療の発展に大きく寄与できるものと考える。
【0032】
さらに今回は夜哭き以外の認知症状の改善も多くの症例でみられた。副反応ともいうべき食欲の増進や運動性の復活、毛艶の改善などもみられたが、これらについても今後、さらに症例を重ねて検討していきたいと考えている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェルラ酸とガーデンアンゼリカ抽出物を有効成分とする犬猫用抗夜哭き剤。
【請求項2】
フェルラ酸がγシクロデキストリンで包摂されていることを特徴とする請求項1に記載の犬猫用抗夜哭き剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−231690(P2012−231690A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100755(P2011−100755)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年1月1日 株式会社インターズー発行の「CLINIC NOTE No.66 Jan」に発表
【出願人】(508047244)合資会社 家庭動物総合研究所 (3)
【Fターム(参考)】