説明

状態検出装置、電子機器、プログラム及び状態検出方法

【課題】 加速度センサーの加速度信号に基づいて、第1の乗り物に乗っているか、第1の乗り物以外の第2の乗り物に乗っているかを判別する状態検出装置、電子機器、プログラム及び状態検出方法等を提供すること。
【解決手段】 状態検出装置200は、加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する取得部210と、演算処理を行う演算部220とを含み、演算部220は取得部210が取得したx軸成分の平均値、y軸成分の平均値及びz軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した座標変換行列と、x軸成分、y軸成分及びz軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、状態検出装置、電子機器、プログラム及び状態検出方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主に自動車の分野で、自動車が移動中なのか停止中なのかを判定する技術が知られている。また、歩行中なのか乗り物に乗っているのかを判別する技術も公開されている。例えば特許文献1には、モーションセンサーからのセンサー情報に基づいて、ユーザーによる携帯情報処理装置の使用状態を検知する手法が開示されている。特許文献1では、加速度センサーからの加速度データに基づいて、ユーザーの活動状態(静止、歩行、ランニング、乗物移動)等を検出している。
【0003】
また、加速度センサーだけでなく、マイクやGPSを併用することで、走行・歩行・自転車・停止・自動車・バス・電車等のユーザーの移動状態を判別する技術が公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−286809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、歩行や停止と、乗物移動とを判別することは可能であるが、乗物移動の中で車と電車とを区別することはできない。また、マイクやGPSを併用することで、車・バス・電車等の判別は可能であるが、GPSは地下鉄などでは測位ができず、マイクは環境のノイズの影響を強く受けてしまうという問題があり、その結果誤った判定をしてしまうことがある。また、GPSやマイクを使うことで消費電力が多く必要になってしまうという問題もある。
【0006】
本発明の幾つかの態様によれば、加速度センサーの加速度信号に基づいて、第1の乗り物に乗っているか、第1の乗り物以外の第2の乗り物に乗っているかを判別できる状態検出装置、電子機器、プログラム及び状態検出方法等を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する取得部と、演算処理を行う演算部と、を含み、前記演算部は、前記取得部が取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別する状態検出装置に関係する。
【0008】
本発明の一態様では、座標変換行列を求め、求めた座標変換行列と、x軸成分、y軸成分及びz軸成分とによって第1の指標値を取得し、取得した第1の指標値に基づいて第1の状態と第2の状態を判別する。よって、加速度センサーのセンサー信号に基づいた、異なる乗り物による移動の判別等が可能になる。
【0009】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、前記加速度信号の信号強度に基づいて第1の特徴量を求めるとともに、前記信号強度に対して帯域通過フィルター処理を施して第2の特徴量を求め、前記第1の特徴量と前記第2の特徴量から第2の指標値を求め、前記第1の指標値と前記第2の指標値とに基づいて前記第1の状態と前記第2の状態とを判別してもよい。
【0010】
これにより、FFT等の周波数変換処理を行うことなく、周波数特性に基づいた状態検出が可能になるため、周波数変換処理を行う場合に比べて処理負荷を軽減し、消費電力を抑えること等が可能になる。
【0011】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、前記第1の特徴量と前記第2の特徴量の比から、前記第2の指標値を求めてもよい。
【0012】
これにより、周波数に応じた特性を持つ第2の特徴量の絶対値ではなく、第1の特徴量に対する相対値を第2の指標値とすることができるため、加速度信号値の全体的な強度に左右されずに処理を行うこと等が可能になる。
【0013】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、N(Nは1以上の整数)個の前記x軸成分、N個の前記y軸成分及びN個の前記z軸成分から前記加速度信号のN個の信号強度を求め、前記N個の信号強度の各信号強度と、前記信号強度の平均値との差分絶対値和から前記第1の特徴量を求め、N個の前記信号強度に前記帯域通過フィルター処理を施して得られた値の絶対値和から前記第2の特徴量を求めてもよい。
【0014】
これにより、第1の特徴量及び第2の特徴量を具体的に求めることが可能になる。絶対値和或いは差分絶対値和から求められるため、周波数変換処理等に比べて処理負荷が軽くなる。
【0015】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、前記帯域通過フィルター処理として、1〜3Hzが通過帯域に含まれる前記帯域通過フィルターを施す処理を行ってもよい。
【0016】
これにより、第2の種類の乗り物(この場合電車)での移動時に加速度信号に特徴的に現れる周波数帯域に対応する帯域を通過させる帯域通過フィルター処理を行うことが可能になる。
【0017】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、歩数検出部からの誤カウントの度合いを表す誤カウント情報に基づいて、第3の指標値を求め、前記第1の指標値、前記第2の指標値及び前記第3の指標値に基づいて、前記第1の状態と前記第2の状態とを判別してもよい。
【0018】
これにより、歩数検出部における誤カウント情報に基づいて第3の指標値を求めることが可能になる。
【0019】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、歩行状態でないと判断したときの、前記歩数検出部での歩数検出情報を前記誤カウント情報として用いることで、前記第3の指標値を求めてもよい。
【0020】
これにより、誤カウント情報として、歩行状態でないと判断したときの歩数検出情報を用いることが可能になる。
【0021】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、前記座標変換行列と、前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値に基づいて、前記第1の指標値を求めてもよい。
【0022】
これにより、座標変換行列と各軸の平均値から第1の指標値を求めることが可能になる。フィルター処理等を行わないため、第1の状態と第2の状態での加速度信号の差(変化の度合い)に基づいた処理等ができる。
【0023】
また、本発明の一態様では、前記演算部は、N(Nは1以上の整数)個の前記x軸成分、N個の前記y軸成分及びN個の前記z軸成分を取得する区間を単位区間とする場合に、前記座標変換行列と、第i(iは1以上の整数)の単位区間での前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分から、第iの水平成分を求めるとともに、前記座標変換行列と、前記第iの単位区間の次の第i+1の単位区間での前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分から第i+1の水平成分を求め、得られた前記第iの水平成分と前記i+1の水平成分の差分値を求め、求めた前記差分値の絶対値の累和から前記第1の指標値を求めてもよい。
【0024】
これにより、単位区間ごとに水平成分を求め、水平成分の差分絶対値和から第1の指標値を求めることが可能になる。電車と車の例では、加速度信号の水平成分に特徴的な違いが出るため、効率的な判別処理ができる。また、差分絶対値和を求める処理は周波数変換処理等に比べて負荷が軽い。
【0025】
また、本発明の他の態様は、請求項1乃至9のいずれかに記載の状態検出装置を含む電子機器に関係する。
【0026】
また、本発明の他の態様は、加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する取得部と、演算処理を行う演算部として、コンピューターを機能させ、前記演算部は、前記取得部が取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別するプログラムに関係する。
【0027】
また、本発明の他の態様は、加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得し、取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別する状態検出方法に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】車での移動時と停止時の3軸の加速度信号の違いを説明する図。
【図2】停止時(静止時)の3軸の加速度信号。
【図3】歩行・電車移動・車移動を行った場合の加速度信号の変化を説明する図。
【図4】本実施形態のシステム構成例。
【図5】加速度信号の差分絶対値和における電車とバス(車)の違いを説明する図。
【図6】第1の指標値の例。
【図7】第2の特徴量の例。
【図8】歩数検出部の構成例。
【図9】本実施形態の状態検出処理を説明するためのフローチャート。
【図10】帯域通過フィルターの周波数特性の例。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0030】
1.本実施形態の手法
まず本実施形態の手法について説明する。従来、自動車が移動中なのか停止中なのかを判定する手法が知られているほか、歩行中か乗り物に乗っているかを判別する手法も開示されている。なお、加速度センサーの他にマイクやGPS等を併用することで、自動車・バス・電車等のうちどの乗り物に乗っているのかを判別する手法があるが、GPSは地下鉄などでは測位ができず、マイクは環境のノイズの影響を強く受けてしまうという問題があり、その結果誤った判定をしてしまうことがある。また、GPSやマイクを使うことで消費電力が多く必要になってしまうという問題もある。そのため、ここでは加速度センサーのセンサー信号に基づいた車と電車の判別手法を用いるものとする。
【0031】
加速度センサーを用いた判別を行う例として、例えば「停止」、「歩行」、「車」、「電車」の各状態を判別する手法について考える。ここで停止とは、乗り物に乗っており、その乗り物が移動していない状態であってもよいし、そもそも乗り物に乗らずに移動していない状態であってもよい。図1に車に乗っている際の加速度センサーの信号値の例を示す。図1に示したように、移動中は信号値が大きく変化するのに対して、アイドリング中(停止中)は信号値の変化が少ない。よって、「車」と「停止」の判別は可能である。同様に「電車」と「停止」も判別できるものと考えられる。
【0032】
また、乗り物に乗らず静止している状態(停止に含まれる状態)は図2に示したように一様に信号値が小さくなるため、他の状態との判別ができる。更に歩行時には、大きな信号値の変化が定期的に現れるという特性から、他の状態との判別が可能である。歩行が判別可能であることは、歩数計が広く流通していることからも理解できることである。
【0033】
以上をふまえると、「停止」、「歩行」が他の状態と判別可能であることから、後は「車」と「電車」の判別ができればよいことになる。なお、「車」と「電車」を判別可能になることで、デッドレコニング等の分野に応用が可能である。デッドレコニングとはGPS等を用いない、慣性センサー等による位置推定手法のことである。この場合、絶対位置の取得は困難であるため、蓄積していく誤差を推定し修正する作業が必要となるが、車か電車かがわかれば、その誤差の推定に役立てることができる。具体的には、電車で移動中であると判別されれば、地図上の線路の位置をトレースするような軌跡を描くことが推定されるし、車で移動中であると判別されれば、地図上の道路の位置をトレースするような軌跡を描くことが推定される。
【0034】
よって、本出願人は第1の乗り物(狭義には車)に乗っている第1の状態と、第2の乗り物(狭義には電車)に乗っている第2の状態とを、加速度センサーのセンサー信号に基づいて判別する手法を提案する。図3に電車及び車で移動した際の加速度センサーの信号値を表したグラフを示す。なお、図3は電車と車だけでなく、歩行や停止の状態も含んでおり、わかりやすくするため3軸の内の1軸の値のみを用いている。図3からわかるように、車(バス)で移動中の信号値は、電車で移動中の信号値に比べて変化が大きい。これは車の方が加速・減速が急激に行われることに起因する。また、車の方が電車に比べて大きな角度を持って曲がることにもよる。
【0035】
これらの違いは加速度信号の周波数を分析することにより判別が可能である。電車においては1〜3Hz程度の低い周波数が現れるのに対して、車ではエンジンの回転数がそのまま加速度信号の周波数に現れるため電車に比べると高い周波数となる。よって、FFT(Fast Fourier Transform)のような周波数変換処理を行うことでも判別は可能であるが、周波数変換処理は処理サイクルが多く必要になってしまう。また、高い周波数の信号を扱う場合には当該高い周波数に対応してサンプリングレートも高くする必要が生じ、結果として消費電力の増大にもつながってしまう。よって、本実施形態においてはFFT等の周波数変換処理は行わずに、判別を行うものとする。
【0036】
本実施形態では、図3に示した加速度信号の違いをよく表す指標値を算出し、算出した指標値に基づく判別を行う。指標値としては第1〜第3の指標値を用いる。第1の指標値は、水平方向での加速度の変化を表す値である。第2の指標値は、2つの信号強度の比較に基づく値である。第3の指標値は、歩数検出部における誤カウント情報を用いた値である。
【0037】
以下、システム構成例について述べた後、第1〜第3の指標値の特性及び算出手法を説明し、第1〜第3の指標値を用いて第1の状態と第2の状態を判別する手法について述べる。なお、上述したように本実施形態では、「車」と「電車」だけでなく、「歩行」と「停止」を考慮してもよく、この場合についても触れるものとする。
【0038】
2.システム構成例
図4に本実施形態の状態検出装置を含む検出システムの構成例を示す。図4に示したように、状態検出装置200は、取得部210と、演算部220とを含む。ただし図4の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0039】
取得部210は、加速度センサー10からの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する。
【0040】
演算部220は、取得部210が取得した加速度信号や、歩数検出部100が検出した誤カウント情報等に基づいて第1〜第3の指標値を算出し、算出した指標値に基づいて第1の種類の乗り物に乗っている第1の状態と、第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗っている第2の状態とを判別する。
【0041】
歩数検出部100の構成については第3の指標値の箇所で詳細に説明する。なお、図4では歩数検出部100は状態検出装置200とは異なる構成としているが、状態検出装置200に歩数検出部100が含まれてもよい。
【0042】
出力部20は、状態の判別結果を出力する処理を行う。例えば、出力部20は液晶パネル等で構成される表示部であり、判別結果を表示してもよい。また、判別結果を用いて処理を行う他のシステムとのインターフェースであってもよい。
【0043】
3.指標値の演算手法
次に、第1〜第3の指標値の特性及び算出手法を説明する。ここでは、データの取得レートを16Hz(1秒間に各軸16個のデータを取得)するものとし、1秒を単位区間とする。単位区間20回(20秒)を基本区間とし、基本区間ごとに状態判定が行われる。そして、基本区間3回(60秒)ごとに判定結果が出力されるものとする。ただし、単位区間、基本区間等については上述の区間に限定されるものではない。例えば、2秒(32個のデータ)を単位区間としてもよい。
【0044】
3.1 第1の指標値
図3に示したように、車と電車とでは加速・減速の特徴に差が出る。よって、車の加速・減速の特徴と、車に比べて緩やかな電車の加速・減速の特徴とを、数値として表現できれば、車と電車を区別することが可能となる。
【0045】
例えば、N個のサンプリング値(加速度信号のx軸、y軸、z軸の各成分についてN個の値)を取得した場合に、取得した値に対して以下のa〜cのような処理を行ってもよい。
【0046】
a.3軸それぞれの平均値を求める。
【0047】
b.3軸それぞれに対して、サンプリング値と平均値との差分絶対値和を求める。
【0048】
c.bで求めた差分絶対値和の3軸の総和を求める。
【0049】
上記のa〜cの処理を行った結果の値を図示したものが図5となる。図5から明らかなように、図3に比べて違いがより顕著になり、電車に比べると車(バス)では値が大きく頻繁に変化することになる。よって、この値に基づいて電車と車を区別する指標値を求めてもよい。指標値としては、平均値に対する差分値の大きさ(振幅の大きさを表す)や、平均値より大きい値から小さい値(あるいは小さい値から大きい値)に変化する回数(平均値をまたぐ回数であり、変化の頻繁さを表す)等を用いてもよいが、ここでは隣同士の値の差分絶対値の総和を求めるものとする。これにより、値の変化が小さい場合には小さい指標値が得られ、値が大きく変化する場合には大きい指標値が得られる。つまり、分散と似た傾向の指標値が得られるため、指標値が大きい場合には車と判定し、指標値が小さい場合には電車と判定することが想定される。
【0050】
本実施形態においては、例外条件を考慮した上で改良を加えて以下のような手法で第1の指標値を算出する。まず、例外条件として衝突等の衝撃による加速度は除外する。例えば、何かに衝突することによる短時間の衝撃で大きな加速度が検出されることがある。また、加速・減速していなくても回転が生じることで、各軸で検出される加速度(重力加速度1G)が変わるため、3軸を独立に観察すると大きな変化量が検出されてしまう。このような加速度の変化は乗り物の違いを判別する際には用いるべきではないから、3軸のいずれかにおいて所与の閾値以上の変化があった場合には、当該値は指標値の算出から除外するものとする。
【0051】
また、加速度センサーは重力による加速度も検出しているが、車での移動でも電車での移動でも重力加速度は一定である。つまり、車と電車の差異を検出するためには、重力加速度以外の加速度成分を比較することが望ましい。よって、重力加速度による加速度成分を可能な限り除去するために、座標変換行列を求めるものとする。ここで、座標変換行列はある単位区間(例えば基本区間における最初の単位区間)でのN個のサンプリング値(例えば16個の値)の各軸の平均値を求め、求めた平均値で表される加速度を重力加速度の方向と仮定して求められるものである。なお、座標変換行列は各軸の平均値から重力方向を仮定して求められる行列であればよく、単位区間での値に基づいて決定されるものに限定されない。具体的な第1の指標値の算出処理を以下のa’〜d’に示す。
【0052】
a’.N個のサンプリング値ごとに3軸それぞれの平均値を求める。
【0053】
b’.求めた平均値を重力と考えて座標変換行列を求める。
【0054】
c’.座標変換行列を用いて、3軸の平均値それぞれに対して座標変換を施し水平成分(XH,YH)を求める。
【0055】
d’.XH、YHについて隣り合う値の差分絶対値を累和する。
【0056】
このa’〜d’の処理を式で表したものが下式(1)〜(3)である。なお、ここでは単位区間を1秒とし、各単位区間において16個の値(x〜x16、y〜y16、z〜z16)が取得されるものとする。また、座標変換行列をCとする。iが単位区間ごとに振られる添え字であり、jが基本区間ごとに振られる添え字である。
【0057】
【数1】

【0058】
【数2】

【0059】
【数3】

【0060】
上式(1)〜(3)により求められる第1の指標値の数値変化の例を図6に示す。
【0061】
なお、上述の処理c’では3軸の平均値に対して座標変換を施したが、これに限定されるものではない。例えば、N個のサンプリング値それぞれに対して座標変換を施し、得られた値の平均値からXH等を求めてもよい。下式(4)、(5)に示す。第1の指標値の算出手法については、その他種々の変形実施が可能である。
【0062】
【数4】

【0063】
【数5】

【0064】
3.2 第2の指標値
上述したように、加速度信号の周波数では、電車においては1〜3Hz程度の低い周波数が現れるのに対して、車ではエンジンの回転数がそのまま加速度信号の周波数に現れるため電車に比べると高い周波数となる。よって、周波数特性を分析することにより車と電車を区別することが可能になる。
【0065】
本実施形態においては、FFTのような処理の重い周波数変換を行うのではなく、簡易的な手法で周波数に依存する指標値を求め、判別に用いる。具体的には第1の特徴量としてフィルター処理を行わない信号強度に基づく値を用いるとともに、第2の特徴量として、低い周波数(例えば1〜3Hz)を通過域とする帯域通過フィルターを通した後の信号強度を用いる。そして、第1の特徴量と第2の特徴量の比(第2の特徴量/第1の特徴量)を第2の指標値とする。
【0066】
ここで、第1の特徴量は、フィルター処理を行っていないため、全周波数帯域における信号強度に基づく値となる。それに対して、第2の特徴量は低い周波数を通過域とする帯域通過フィルターを通しているため、当該通過域に対応する信号強度に基づく値となる。ここで通過域の周波数を、電車での移動の加速度信号において顕著に見られる周波数帯域に対応させて設定するものとする。そのように設定することで、電車で移動中には、信号値の多くの部分が低い周波数(帯域通過フィルターの通過域に対応)に集中することになるため、第2の特徴量の値は第1の特徴量の値に近くなり、結果として第2の指標値は1に近い値となる。それに対して車での移動中では、信号値はより高い周波数に分布することになるため、第2の特徴量は第1の特徴量に比べて小さい値となり、第2の指標値は電車の場合に比べて小さい値となる。
【0067】
よって、第2の指標値が大きい場合には、電車と判定されやすくし、小さい場合には車と判定されやすくすることで、電車と車の判別が可能になる。
【0068】
なお、第1の特徴量としては例えば、加速度の信号強度と、信号強度の平均値との差分絶対値和の値を用いればよい。また、第2の特徴量としては例えば、信号強度に帯域通過フィルター処理を施した値の絶対値和を用いればよい。
【0069】
よって、第1の特徴量をSumDistZ、第2の特徴量をSumPowerとした場合、下式(6)〜(8)で表される値を用いてもよい。SumPowerの数値変化の例を図7に示す。
【0070】
【数6】

【0071】
【数7】

【0072】
【数8】

【0073】
3.3 第3の指標値
第3の指標値としては歩数検出部における歩数の誤カウント情報を用いる。歩数計では、車や電車での移動中にも、乗り物移動による振動を歩数としてカウントしてしまうケースがある。そのため、乗り物移動中であるか歩行中であるかの判別を行い、乗り物移動中と判定された場合には、歩数としてカウントされたとしても当該カウントを誤カウントとして抑圧する処理が行われる。一般的に、電車に比べて車の場合の方が誤カウントの回数は多い。
【0074】
そこで本実施形態では、抑圧前の誤カウントの回数を第3の指標値として用いる。第3の指標値が大きい場合には車と判定されやすくし、小さい場合には電車と判定されやすくすることで、電車と車の判別が可能になる。
【0075】
歩数検出部の構成例を図8に示す。なお、ここで示す歩数検出部はFFT等の周波数変換のような負荷のかかる処理は行わないものを想定している。歩数検出部100は、検出部120と、特徴量抽出部130と、判定部140と、歩行時間計測部150と、歩数カウント部160と、を含む。ただし、歩数検出部100は図8の構成に限定されず、これらの一部の構成要素を省略したり、他の構成要素を追加するなどの種々の変形実施が可能である。
【0076】
検出部120は、歩数検出処理を行う。ここで歩数検出処理とは例えば、前処理後の信号値に基づいて歩行が行われたと考えられるタイミングを検出する処理のことである。検出部120は、ピーク検出部121と、被評価値算出部123と、閾値判定部125とを含む。ピーク検出部121は、前処理後の信号値の中からピーク値を検出する。被評価値算出部123は、ピーク値が検出されたタイミングの信号値から、歩数検出に用いられる被評価値を算出する。閾値判定部125は、適応的に閾値を設定し、設定した閾値と被評価値とを比較することで歩数検出を行う。
【0077】
特徴量抽出部130は、乗物移動か否かを判定する特徴量を算出する。判定部140は、特徴量抽出部130で算出された特徴量に基づいて、評価期間に検出された歩数が、乗物移動によるものか否かの判定を行う。歩行時間計測部150は、継続歩行時間を計測する。ここで継続歩行時間とは、連続して歩行が検出されている時間のことを表す。歩数カウント部160は、歩数のカウントを行う。検出部120における歩数検出処理においては乗物移動であるかの判定は特に行われていない。歩数検出の結果を、歩数表示部20に表示される歩数に反映させるか否かは、判定部140での判定結果を考慮して歩数カウント部160により決定されることになる。
【0078】
検出部120では加速度信号の下ピーク(或いは上ピークでもよい)と所与の閾値との比較を行い、閾値を超えていた場合に歩数として検出する。しかし、検出されたものが全て歩行によるものとは限らないため、特徴量を求めて検出された歩数が歩行によるものかどうかの判定を判定部140で行っている。
【0079】
特徴量としては加速度信号の2回積分信号を用いることが考えられる。歩行時は加速度信号とその2回積分信号は同じ周期でほぼ逆相の関係になるが、乗り物移動時等はそのような関係にならないため判別ができる。また、歩幅周期のばらつき(分散値)を特徴量として用いてもよい。歩行時は周期運動であるため周期はほぼ一定になるのに対し、乗り物移動時はランダムな成分が多く周波数の変動が大きくなるため判別可能である。さらにノイズレベルを特徴量としてもよい。ノイズとしては下ピークが検出されながら歩数として検出されなかった際の信号値等を用いる。歩行ではないのに高い信号値が現れた場合、それはノイズによるものである可能性が高く、ノイズレベルが高い場合には、その周辺での歩数検出も、歩行以外の要因による誤検出の可能性が高いと考えられる。
【0080】
以上のような特徴量による判定が行われた結果、検出部120では歩数として検出されながら、歩数カウント部160においてはカウントが確定されない(テンポラリカウンターではカウントされたが、コミットされずにリセットされてしまう)ものが生じる。これが本実施形態でいうところの抑圧された誤カウントに相当する。第3の指標値となる誤カウント情報としては、誤カウントの回数をそのまま用いればよい。
【0081】
4.判定手法
第1〜第3の指標値が求められたら、求めた指標値を用いて電車か車かの判定を行う。上述したように、第1及び第3の指標値については大きいほど車と判定されやすく、小さいほど電車と判定されやすい。第2の指標値については大きいほど電車と判定されやすく、小さいほど車と判定されやすい。この条件を満たすように、3つの指標値を用いて判定を行う。なお判定は基本区間ごとに1回行われるものとする。一例を下式(9)に示す。
【0082】
第2の指標値-(第3の指標値/8)-(第1の指標値/4)>0.7 ・・・・・(9)
上式(9)が成り立つ場合には電車と判定し、成り立たない場合には車と判定する。式(9)の左辺は第2の指標値が大きいほど、また、第1、第3の指標値が小さいほど大きくなるため、上述した第1〜第3の指標値の特性から、電車であることが予想される場合に左辺が大きくなり、0.7より大きいという条件が成立しやすい。
【0083】
ただし、本実施形態における判定は車と電車の判別に限定されるものではなく、歩行と停止も判別してもよい。本実施形態の判定手法の例を図9のフローチャートを用いて説明する。
【0084】
この処理が開始されると、まず歩数計のカウント(誤カウント抑圧後のカウント)が0であるかの判定が行われる(S101)。歩数が0でなかった場合には、さらに歩数が閾値よりも大きいかの判定が行われ(S102)、大きければ状態が歩行であると判定し(S103)、小さければ不明と判定し(S104)、処理を終了する。ここで不明としているのは、歩数計により歩数が検出された以上歩行である可能性が高いところ、判定時間に対する歩数があまりにも少なく、歩行として不自然な状態になっているためである。つまり、信頼度の高い判定をすることができないのであるから、無理に歩行や停止等の状態に確定させてしまうのではなく、不明としておき状態判別結果を用いた処理を留保等する方がシステムの安定的な動作に寄与する可能性が高いことによる。
【0085】
S101において歩数が0だった場合、S105において特徴量StopCountが閾値よりも大きいかの判定が行われる。ここでStopCountとは、単位区間における各軸の最大値と最小値の差に基づいて算出される値である。例えば、初期値を0にしておき(基本区間開始時に初期化される)、最大値と最小値の差が所与の閾値以下の場合にインクリメントされる値であってもよい。つまり、StopCountとは値の変化が小さいことを表すものであるため、StopCountが閾値よりも大きい場合には停止と判定する(S106)。
【0086】
S105においてNoであった場合には、S107において特徴量SumZerocrossが閾値よりも大きいかの判定が行われる。ここでSumZerocrossとは、単位区間において各軸の値が平均値をクロスする回数(平均値よりも小さい値から大きい値に変化した回数+平均値よりも大きい値から小さい値に変化した回数)を求め、基本区間分(例えば20個の単位区間分)加算したものである。クロス回数が多い場合とは、ノイズが多い等の不安定な状態であることが想定されるため、S107においてYesの場合には不明と判定し(S108)、処理を終了する。
【0087】
S107においてNoであった場合には、S109において上式(9)が成り立つかの判定が行われ、上述したように成り立つ場合には電車と判定し(S110)、成り立たない場合には車と判定する(S111)。
【0088】
以上が基本区間ごとに行われる判定手法であるが、上述したように、状態検出装置からの出力は60秒ごとに行われることが想定される(もちろんこれに限定されるものではない)。つまり、1回の出力に対して3つの判定結果が得られていることになる。よって、3つの判定結果を用いて多数決判定等を行って出力する状態を決定してもよい。例えば、3つが一致した場合にはその状態を出力し、2つが一致した場合にも、その状態を出力する。3つがそれぞれ異なる場合には、あらかじめ設定しておいた信頼度が高い状態を選択する。具体的には歩数検出の信頼度が高いため、それぞれが異なる3つの判定結果のうち1つが歩行であれば出力される状態も歩行にすることが考えられる。また、2つが一致したとしても一致した状態を出力しなくてもよい。例えば残りの1つが歩行であり、かつ最新である場合等には、その歩行という判定の信頼度が高いと考えられるため、出力結果を歩行としてもよい。手法については種々の変形実施が可能である。
【0089】
以上の本実施形態では、状態検出装置200は、図4に示したように取得部210と、演算部220とを含む。取得部210は、加速度センサー10からの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する。演算部220は、取得されたx軸成分、y軸成分及びz軸成分それぞれの平均値から、座標変換行列を演算する。そして、座標変換行列、x軸成分、y軸成分及びz軸成分により第1の指標値を求め、求めた第1の指標値に基づいて、第1の状態と第2の状態とを判別する。
【0090】
ここで、座標変換行列とは、座標変換のための行列のことであり、加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分それぞれの平均値で表されるベクトルの方向を重力方向とみなした場合に、基準軸のうちの1軸(例えば座標変換後のz軸)を重力方向に一致させ、直交する2軸(例えば座標変換後のx軸及びy軸)を水平方向に一致させる座標変換を行う。また、第1の状態とは第1の種類の乗り物に乗って移動している状態を表し、第2の状態とは第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗って移動している状態を表すものとする。
【0091】
これにより、重力方向を考慮した座標変換処理を行う座標変換行列を求めた上で、座標変換行列、x軸成分、y軸成分及びz軸成分と基づいて求めた第1の指標値を用いて、どの乗り物に乗って移動しているかを判別することが可能になる。例えば、車と電車を判別する場合には、加速度信号における特徴的な差異は水平成分に現れ、鉛直成分(重力方向)は、どちらも同じ重力加速度が働くことになる。よって、その場合には上述したように座標変換後の水平成分を用いて第1の指標値を求めればよい。しかし、水平成分を用いることに限定されるものではなく、例えば航空機等の重力方向の加速度に特徴が表れる乗り物の判別を行う場合には、鉛直成分を用いてもよい。
【0092】
また、演算部220は、加速度信号の信号強度に基づいて第1の特徴量を求めてもよい。ここで、加速度信号の信号強度は例えばx軸成分、y軸成分及びz軸成分から得られる。さらに、当該信号強度に対して帯域通過フィルター処理を施して第2の特徴量を求め、第1の特徴量と第2の特徴量から第2の指標値を求めてもよい。そして、第1の指標値と第2の指標値に基づいて第1の状態と第2の状態を判別する。
【0093】
これにより、第1の指標値に加えて、加速度信号の信号強度に基づいて求められた第2の指標値を用いて状態検出を行うことが可能になり、検出精度の向上を図ることができる。第1の特徴量は、加速度信号の信号強度そのものに基づく値であるのに対して、第2の特徴量は信号強度に帯域通過フィルター処理を施したものである。つまり、第1の特徴量が全周波数帯域における信号強度に対応するのに対して、第2の特徴量は帯域通過フィルターの通過域の周波数における信号強度に対応する。上述したように、電車での移動の場合には、車での移動時に比べて低い周波数が加速度信号に現れることになる。第1の特徴量と第2の特徴量を用いて第2の指標値を求めることで、乗り物による加速度信号の周波数特性の違いを検出することが可能になる。その際、FFTのような周波数変換処理を行わず、帯域通過フィルター処理を行うため、処理負荷が軽く、また、サンプリングレートを上げる必要もないため消費電力も大きくなることがない。
【0094】
また、演算部220は、第1の特徴量と第2の特徴量の比から第2の指標値を求めてもよい。
【0095】
これにより、2つの特徴量の比を用いて第2の指標値を求めることが可能になる。例えば、第1の特徴量をSumDistZとし、第2の特徴量をSumPowerとした場合には、(SumPower/SumDistZ)を第2の指標値とすることが考えられる。第2の特徴量は、上述したように帯域通過フィルター処理を行った後の信号強度に基づく値であることから、当該帯域通過フィルターの特性に応じて、車と電車とで第2の特徴量の値が変わってくることが想定される。例えば、帯域通過フィルターの通過域を電車での移動時に特徴的に現れる周波数帯域に対応させれば、電車移動時には第2の特徴量は大きくなり、車移動時には第2の特徴量は小さくなるはずである。しかし、全体の信号値の大小により、第2の特徴量の絶対的な値は変わってくるため、必ずしも電車>車となるとは限らない。そこで、全周波数帯域の信号強度に対応する第1の特徴量との比をとって、全体の信号値に対する通過域の信号値の相対値を求め、第2の指標値とする。上述の例であれば、電車の信号強度は通過域に集中することが想定されるため、第2の指標値は1に近くなるのに対して、車の信号強度はより高い周波数帯域に分布することから第2の指標値は電車の場合に比べて小さい値となる。
【0096】
また、演算部220は、N個のx軸成分、N個のy軸成分及びN個のz軸成分から、N個の加速度信号の信号強度を求め、N個の信号強度の各信号強度と、信号強度の平均値との差分絶対値和から第1の特徴量を求めてもよい。そして、N個の信号強度に帯域通過フィルター処理を施して得られた値の絶対値和から第2の特徴量を求めてもよい。
【0097】
これにより、上式(6)〜(8)に示したような処理が可能になる。第1の特徴量は、信号強度と、その平均値との差分絶対値和が求められるため、数学的には分散に近い特性を持つ値が得られ、信号値に含まれる主要な振動成分に対応する値となる。第2の特徴量は、特に平均値との差分を取っていないが、これは帯域通過フィルター処理を施すことで信号の直流成分が除去されることによる。
【0098】
また、演算部220は、帯域通過フィルター処理として、1〜3Hzが通過帯域に含まれる帯域通過フィルターを施す処理を行ってもよい。
【0099】
これにより、帯域通過フィルター処理として電車での移動時に加速度信号に特徴的に現れる周波数帯域を通過させる処理を行うことが可能になり、電車の場合と車の場合とで、判別可能な程度に第2の指標値の値を異ならせることができる。図10に帯域通過フィルター処理に用いられるフィルターの周波数特性の例を示す。図10のフィルターでは、0.5Hz〜5Hzの周波数の信号を通過させ、その中でも特に1Hz〜3Hzの信号をよく通過させる。つまり、本実施形態で用いる帯域通過フィルターは、通過域の下限が0.5Hz〜1Hzの間の値であり、通過域の上限が3Hz〜5Hzの間の値であるフィルターであってもよい。ただし、フィルターの特性はこれに限定されるものではない。例えば通過域の上限を高くすることで、車と電車における第2の指標値の差が小さくなってくることが想定されるが、車と電車とが判別可能なだけの差が得られる限界まで通過域の上限を高くしてもよい。つまり、車と電車とで第2の指標値に差が出るのであれば、通過域の上限は5Hzより大きくてもよい。
【0100】
また、演算部220は、歩数検出部100からの誤カウントの度合いを表す誤カウント情報に基づいて、第3の指標値を求めてもよい。ここで誤カウント情報とは、歩行状態でないと判断したときの歩数検出部100での歩数検出情報のことであってもよい。そして、第1〜第3の指標値に基づいて第1の状態と第2の状態を判別する。
【0101】
これにより、歩数検出部100での情報に基づいた状態検出が可能になる。歩数計等に用いられる歩数検出部100では、歩行による加速度の変動に基づいて歩数を検出するが、乗り物での移動時に発生する加速度の変化により、誤って歩数を検出してしまうことがある。従来の歩数計においては、このような誤カウントを抑圧する手法が知られており、上述した例では複数の特徴量から乗り物に乗っていることを検出し、乗り物移動が検出された場合には、検出した歩数をカウントせずにリセットしている。つまり、検出された歩数が誤りであるか否かは判別可能であるから、誤りであった歩数の検出の回数を誤カウント情報とすればよい。一般的に、電車に比べて車の方が誤カウントの回数は多いことが知られている。よって、第3の指標値として例えば誤カウントの回数をそのまま用いるのであれば、第3の指標値が大きいほど車であると判定しやすく、小さいほど電車であると判定しやすいようにすることになる。
【0102】
なお、歩数検出部100の構成例を図8に示したが、これに限定されるものではない。図8では歩数検出部100は判定部140を含み、乗り物移動であるか否かの判定を行っている。しかし、本実施形態にかかる状態検出装置200とともに用いられるのであれば、状態検出装置200の演算部220において、乗り物移動を検出してもよい。演算部220では、上述したように「電車」と「車」の他に「歩行」と「停止」の判別をしてもよいのであるから、判定部140で行われる処理を演算部220において行うことは可能である。場合によっては特徴量抽出部130で行われる処理も演算部220において行ってもよい。本実施形態においては、後述するように状態検出装置200と歩数検出部100とが電子機器に一体として搭載される可能性もあり、その場合には、歩行状態であるか否かの判定は演算部220で行うようにすれば、構成をシンプルにすることが可能となる。
【0103】
また、演算部220は、座標変換行列と、x軸成分の平均値、y軸成分の平均値及びz軸成分の平均値に基づいて第1の指標値を求めてもよい。
【0104】
これにより、座標変換行列と各軸の平均値とに基づいて第1の指標値を求めることが可能になる。よって例えば、上述した式(1)、(2)のような処理が可能になる。第2の指標値のように信号強度に基づく値を用いるのではなく、平均値を用いるため、図3に示したような加速度信号の波形における差異を直接的に用いる指標値を求めることができる。つまり、第1の指標値とは、車と電車での加速・減速における違いを判別する指標値であるということもできる。
【0105】
また、演算部220は、N個のx軸成分、N個のy軸成分及びN個のz軸成分を取得する区間を単位区間とする場合に、座標変換行列と第iの単位区間でのx軸成分、y軸成分及びz軸成分から第iの水平成分を求めるとともに、座標変換行列と第i+1の単位区間でのx軸成分、y軸成分及びz軸成分から第i+1の水平成分を求めてもよい。そして、第iの水平成分と、第i+1の水平成分の差分値を求め、求めた差分値の絶対値の累和から第1の指標値を求める。
【0106】
これにより、上述した式(3)のような処理が可能になる。座標変換行列により求められる水平成分とは、車では大きく頻繁に変化するのに対して、電車では緩やかに変化する(図5は座標変換処理が施されていないが、傾向としては図5と同様になる)。この違いを数値化するために、ここでは隣り合う単位区間での水平成分の差分の絶対値をとり、基本区間(例えば単位区間20回)の間だけ加算する。値が大きく頻繁に変化する車においては、隣り合う値の差分絶対値は大きくなり、緩やかに変化する電車では差分絶対値は小さくなる。よって、本実施形態の手法を用いることで、車の場合は値が大きくなり、電車の場合は小さくなるような第1の指標値を取得することが可能になる。なお、水平成分の値から指標値を求める手法は差分絶対値和に限定されるものではなく、車と電車の違いが判別できるものであればよい。例えば、平均値を基準とした場合の振幅値(値の大きさを検出)や、平均値をまたぐ回数(変化の頻繁さを検出)等を用いてもよい。
【0107】
また、本実施形態は上述した状態検出装置を含む電子機器に関係する。
【0108】
これにより、状態検出装置を含む電子機器を実現することが可能になる。具体的には例えば、ユーザーの体に装着される(ポケットに入れられるようなケースも含む)携帯デバイスとして実現されることが考えられる。電子機器は、状態検出装置の検出結果を用いて処理を行う他の装置を含んでもよい。例えば上述したようにデッドレコニングにおける推定に用いてもよく、携帯デバイスが表示部を備えているのであれば、当該表示部に位置推定結果を表示してもよい。
【0109】
また、本実施形態は取得部210と、演算部220としてコンピューターを機能させるプログラムに関係する。取得部210は、加速度センサー10からの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する。演算部220は、取得されたx軸成分、y軸成分及びz軸成分それぞれの平均値から、座標変換行列を演算する。そして、座標変換行列、x軸成分、y軸成分及びz軸成分により第1の指標値を求め、求めた第1の指標値に基づいて、第1の状態と第2の状態とを判別する。
【0110】
これにより、ソフトウェア的に本実施形態の処理を実現することが可能になる。例えば、スマートフォン等の携帯デバイスに搭載されるプログラムであってもよい。従来のスマートフォンには加速度センサーを内蔵しているものがある。よって、当該加速度センサーのセンサー信号をもちいて上述した処理を行うプログラム(特に携帯アプリの形で配信されるものが想定される)として実装されてもよい。そして、上記プログラムは、情報記憶媒体に記録される。ここで、情報記録媒体としては、DVDやCD等の光ディスク、光磁気ディスク、ハードディスク(HDD)、不揮発性メモリーやRAM等のメモリーなど、情報処理装置や携帯デバイス等によって読み取り可能な種々の記録媒体を想定できる。例えば、スマートフォンによって読み取り可能な記憶媒体(例えばカード型メモリー等)にプログラムが記憶され、スマートフォンのCPUにおいて実行されるケースが考えられる。
【0111】
なお、以上のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また状態検出装置、電子機器等の構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0112】
10 加速度センサー、20 出力部、100 歩数検出部、120 検出部、
121 ピーク検出部、123 被評価値算出部、125 閾値判定部、
130 特徴量抽出部、140 判定部、150 歩行時間計測部、
160 歩数カウント部、200 状態検出装置、210 取得部、220 演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する取得部と、
演算処理を行う演算部と、
を含み、
前記演算部は、
前記取得部が取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別することを特徴とする状態検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記演算部は、
前記加速度信号の信号強度に基づいて第1の特徴量を求めるとともに、前記信号強度に対して帯域通過フィルター処理を施して第2の特徴量を求め、前記第1の特徴量と前記第2の特徴量から第2の指標値を求め、前記第1の指標値と前記第2の指標値とに基づいて前記第1の状態と前記第2の状態とを判別することを特徴とする状態検出装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記演算部は、
前記第1の特徴量と前記第2の特徴量の比から、前記第2の指標値を求めることを特徴とする状態検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記演算部は、
N(Nは1以上の整数)個の前記x軸成分、N個の前記y軸成分及びN個の前記z軸成分から前記加速度信号のN個の信号強度を求め、前記N個の信号強度の各信号強度と、前記信号強度の平均値との差分絶対値和から前記第1の特徴量を求め、
N個の前記信号強度に前記帯域通過フィルター処理を施して得られた値の絶対値和から前記第2の特徴量を求めることを特徴とする状態検出装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかにおいて、
前記演算部は、
前記帯域通過フィルター処理として、1〜3Hzが通過帯域に含まれる前記帯域通過フィルターを施す処理を行うことを特徴とする状態検出装置。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかにおいて、
前記演算部は、
歩数検出部からの誤カウントの度合いを表す誤カウント情報に基づいて、第3の指標値を求め、前記第1の指標値、前記第2の指標値及び前記第3の指標値に基づいて、前記第1の状態と前記第2の状態とを判別することを特徴とする状態検出装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記演算部は、
歩行状態でないと判断したときの、前記歩数検出部での歩数検出情報を前記誤カウント情報として用いることで、前記第3の指標値を求めることを特徴とする状態検出装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかにおいて、
前記演算部は、
前記座標変換行列と、前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値に基づいて、前記第1の指標値を求めることを特徴とする状態検出装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかにおいて、
前記演算部は、
N(Nは1以上の整数)個の前記x軸成分、N個の前記y軸成分及びN個の前記z軸成分を取得する区間を単位区間とする場合に、
前記座標変換行列と、第i(iは1以上の整数)の単位区間での前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分から、第iの水平成分を求めるとともに、前記座標変換行列と、前記第iの単位区間の次の第i+1の単位区間での前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分から、第i+1の水平成分を求め、
得られた前記第iの水平成分と前記i+1の水平成分の差分値を求め、求めた前記差分値の絶対値の累和から前記第1の指標値を求めることを特徴とする状態検出装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれかに記載の状態検出装置を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項11】
加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得する取得部と、
演算処理を行う演算部として、
コンピューターを機能させ、
前記演算部は、
前記取得部が取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別することを特徴とするプログラム。
【請求項12】
加速度センサーからの加速度信号のx軸成分、y軸成分及びz軸成分を取得し、
取得した前記x軸成分の平均値、前記y軸成分の平均値及び前記z軸成分の平均値から、水平方向の加速度成分を求めるための座標変換行列を演算し、
演算した前記座標変換行列と、前記x軸成分、前記y軸成分及び前記z軸成分とによって得られた第1の指標値に基づいて、第1の種類の乗り物に乗車している第1の状態と、前記第1の種類とは異なる第2の種類の乗り物に乗車している第2の状態とを判別することを特徴とする状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−17131(P2013−17131A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150226(P2011−150226)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】