説明

狭いクリアランス部にまで塗装可能なカチオン電着塗料組成物及びそれを用いた電着塗膜形成方法

【課題】被塗物の狭い隙間の内部においても優れた塗膜析出性を示す電着塗料組成物および電着塗膜形成方法を提供すること。
【解決手段】水性媒体中に、それぞれ特定量のカチオン性エポキシ樹脂、ブロックポリイソシアネート硬化剤、SP値がカチオン性エポキシ樹脂に対し0.6〜1.0低い疎水性剤、粘度調整剤及び中和酸を含有し、クーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)であるカチオン電着塗料組成物。さらには前記カチオン電着塗料組成物を用い、電圧の昇圧速度が30〜70V/10秒である、電着塗膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗装用組成物及びそれを用いた電着塗膜形成方法に関し、特に、被塗物のクリアランス部における塗膜析出性に優れたカチオン電着塗料組成物及びそれを用いた電着塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗装は、複雑な形状を有する被塗物であっても細部にまで塗装を施すことができ、自動的かつ連続的に塗装することができるので、特に自動車車体等の大型で複雑な形状を有する被塗物の下塗り塗装方法として広く実用化されている。カチオン電着塗装は、カチオン電着塗料中に被塗物を陰極として浸漬させ、電圧を印加することにより行われる。
【0003】
カチオン電着塗装の過程における塗膜の析出は電気化学的な反応によるものであり、電圧の印加により、被塗物表面に塗膜が析出する。析出した塗膜は絶縁性を有するので、塗装過程において、塗膜の析出が進行して析出膜の膜厚が増加するのに従い、塗膜の電気抵抗は大きくなる。その結果、塗膜がすでに析出した部位での塗料の析出量は低下し、代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このようにして、順次被塗物に塗料固形分が析出して塗装を完成させる。本明細書中、被塗物の未着部位に塗膜が順次形成される性質を付きまわり性という。
【0004】
特許文献1には、ガスピンホール発生などによる塗膜外観の低下を伴うことなく、付きまわり性を高めることができる電着塗膜形成方法が記載されている。
【0005】
しかし、電着塗膜形成方法では、被塗物が構造として狭い隙間を有する場合、隙間の開口部から奥に位置する程、塗膜が析出し難くなる性質がある。特に開口部を有するが隙間の構造が密閉され円筒または直方体などの形状の袋部である場合には隙間の内部、特に開口部から奥に位置する程、塗膜の析出は難しくなる。例えば、被塗物が複数の鋼板を接続して形成された構造物であり、該複数の鋼板の接続部が、接続のために重ねられた鋼板と鋼板の間に隙間を有しているものである場合、隙間の内部には塗膜が形成され難く、塗装が不完全になり易い。被塗物に形成された狭い隙間の内部は、一般に、「クリアランス部」と称される。
【0006】
一般には、鋼板と鋼板の間の隙間が300μm以下になると、隙間の内部に対する電着塗膜の析出性は明確に低下する。また、上記隙間が100μm以下である場合、電着塗膜の析出性は更に低下し、隙間の開口部からの距離が5mm以上であると、隙間の奥に塗膜が形成されない部分が残ってしまう。
【0007】
このように、鋼板の表面のどこかに電着塗装が不完全な部分が残された場合、その部分から錆が発生し易くなる。
【0008】
【特許文献1】特開2006−348316
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、被塗物のクリアランス部においても優れた塗膜析出性を示すカチオン電着塗料組成物及びそれを用いた電着塗膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カチオン電着塗料組成物であって、
前記カチオン電着塗料組成物は、水性媒体中にカチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)及び中和酸を含有し、
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との固形分質量比(A)/(B)が60/40〜80/20であり、
前記疎水性剤(C)は、SP値がカチオン性エポキシ樹脂(A)に対し0.6〜1.0低い化合物であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との合計量に対して0.2〜5質量%であり、
前記粘度調整剤(D)は、樹脂粒子であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と前記疎水性剤(C)との合計量に対して3〜10質量%であり、
前記カチオン電着塗料組成物のクーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)であり、
前記疎水性剤(C)が非架橋アクリル樹脂である、
カチオン電着塗料組成物を提供する。
【0011】
ある一形態においては、前記粘度調整剤(D)は、平均粒子径が50〜200nmである架橋樹脂粒子である。
【0012】
また、本発明は、カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬し、電圧を印加して塗膜を析出させ、その後、焼き付け硬化させる過程を行う電着塗膜形成方法であって、
前記カチオン電着塗料組成物は、水性媒体中にカチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)及び中和酸を含有し、
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との固形分質量比(A)/(B)が60/40〜80/20であり、
前記疎水性剤(C)は、SP値がカチオン性エポキシ樹脂(A)に対し0.6〜1.0低い化合物であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との合計量に対して0.2〜5.0質量%であり、
前記粘度調整剤(D)が、樹脂粒子であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と前記疎水性剤(C)との合計量に対して3.0〜10.0質量%であり、
前記カチオン電着塗料組成物のクーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)であり、
前記疎水性剤(C)が非架橋アクリル樹脂であり、
前記電圧の昇圧速度が30〜70V/10secである、
電着塗膜形成方法を提供する。
【0013】
ある一形態においては、上記被塗物が複数の鋼板を接続して形成された構造物であり、該複数の鋼板の接続部が、接続のために重ねられた鋼板と鋼板の間に隙間を有しているものである。
【0014】
ある一形態においては、上記隙間の最も狭い部分の間隔が300μm以下である。
【0015】
ある一形態においては、上記カチオン性エポキシ樹脂(A)のSP値が11.2〜11
.6であり、上記疎水性剤(C)のSP値が10.2〜10.6である。
【0016】
ある一形態においては、前記粘度調整剤(D)は、平均粒子径が50〜200nmである架橋樹脂粒子である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のカチオン電着塗料組成物及びそれを用いた電着塗膜形成方法はクリアランス部における塗膜析出性、つまり、隙間塗装性に優れ、被塗物が狭い隙間を有する場合であっても優れた防錆性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
1.カチオン電着塗料組成物の成分
本発明のカチオン電着塗料組成物は、水性媒体、水性媒体中に分散するか又は溶解したバインダー樹脂エマルション、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)、中和酸、有機溶媒等を含有する。本発明のカチオン電着塗料組成物はさらに顔料を含んでもよい。バインダー樹脂エマルションに含有されるバインダー樹脂は、カチオン性エポキシ樹脂(A)およびブロックイソシアネート硬化剤(B)からなる樹脂成分である。以下、それぞれの成分について説明する。
【0019】
カチオン性エポキシ樹脂(A)
カチオン性エポキシ樹脂(A)には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。このカチオン性エポキシ樹脂は、特公昭54−4978号、特公昭56−34186号などに記載されている公知の樹脂であってよい。
【0020】
カチオン性エポキシ樹脂は、典型的には、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ環の全部をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環するか、または一部のエポキシ環を他の活性水素化合物で開環し、残りのエポキシ環をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物で開環して製造される。
【0021】
ビスフェノール型エポキシ樹脂の典型例はビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。前者の市販品としてはエピコート828(油化シェルエポキシ社製、エポキシ当量180〜190)、エピコート1001(同、エポキシ当量450〜500)、エピコート1010(同、エポキシ当量3,000〜4,000)などがあり、後者の市販品としてはエピコート807(同、エポキシ当量170)などがある。
【0022】

【0023】
【化1】

【0024】
[式中、Rはジグリシジル化合物からグリシジルオキシ基を除いた残基であり、R’はポリウレタンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基であり、そしてnは1〜5の整数である。]
で示されるオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂をカチオン性エポキシ樹脂に用いてもよい。耐熱性及び耐食性に優れた塗膜が得られるからである。
【0025】
エポキシ樹脂にオキサゾリドン環を導入する方法としては、例えば、メタノールのような低級アルコールでブロックされたブロックポリイソシアネートとポリエポキシドを塩基性触媒の存在下で加熱保温し、副生する低級アルコールを系内より留去することで得られる。
【0026】
二官能エポキシ樹脂とモノアルコールでブロックしたジイソシアネート(すなわち、ビスウレタン)とを反応させるとオキサゾリドン環を含有するエポキシ樹脂が得られることは公知である。このオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂の具体例及び製造方法は、例えば、特開2000−128959号公報第0012〜0047段落に記載されている。
【0027】
これらのエポキシ樹脂は、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、および単官能性のアルキルフェノールのような適当な樹脂で変性しても良い。また、エポキシ樹脂はエポキシ基とジオール又はジカルボン酸との反応を利用して鎖長延長することができる。
【0028】
これらのエポキシ樹脂は、開環後0.3〜4.0meq/gのアミン当量となるように、より好ましくはそのうちの5〜50%が1級アミノ基が占めるように活性水素化合物で開環するのが望ましい。
【0029】
カチオン性基を導入し得る活性水素化合物としては1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩、スルフィド及び酸混合物がある。本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる1級、2級又は/及び3級カチオン性エポキシ樹脂を調製するためには1級アミン、2級アミン、3級アミンの酸塩をカチオン性基を導入し得る活性水素化合物として用いる。

【0030】
具体例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、トリエチルアミン塩酸塩、N,N−ジメチルエタノールアミン酢酸塩、ジエチルジスルフィド・酢酸混合物などのほか、アミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどの1級アミンをブロックした2級アミンがある。アミン類は複数のものを併用して用いてもよい。
【0031】
カチオン性エポキシ樹脂は、溶解性パラメータ(SP値)が11.2〜11.6、好ましくは11.4〜11.6、である。カチオン性エポキシ樹脂のSP値が11.2未満であると電着塗膜と被塗物との密着性が不十分となり防錆性が低下するおそれがあり、11.6を超えると塗装仕上がり性が低下するおそれがある。
【0032】
SP値は、異なる種類の物質同士の溶解し易さを客観的に表現する指標である。SP値は数値が大きいほど極性が高く、数値が小さいほど極性が低いことを示す。物質のSP値は実測することにより又は計算することにより特定される。SP値を特定する方法は公知であり、例えば次の方法によって実測することができる[参考文献:SUH、CLARKE、J.P.S.A−1、5、1671〜1681(1967)]。
測定温度:20℃
サンプル:樹脂0.5gを100mlビーカーに秤量し、良溶媒10mlをホールピペットを用いて加え、マグネティックスターラーにより溶解する。
溶媒:
良溶媒…テトラヒドロフラン
貧溶媒…n−ヘキサン、イオン交換水など
濁点測定:50mlビュレットを用いて貧溶媒を滴下し、濁りが生じた点を滴下量とする。
【0033】
樹脂のSP値δは次式によって与えられる。
【0034】
【数1】

【0035】
【数2】

【0036】
【数3】

【0037】
Vi:溶媒の分子容積(ml/mol)
φi:濁点における各溶媒の体積分率
δi:溶媒のSP値
ml:低SP貧溶媒混合系
mh:高SP貧溶媒混合系
【0038】
また、カチオン性エポキシ樹脂及びアクリル樹脂等の合成高分子は、合成時に成分の使用量を増減することによりSP値を調節することができる。SP値を調節する具体的な方法は周知である。
【0039】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)
本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれるブロックイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化した化合物である。ポリイソシアネートとは、1分子中にイソシアネート基を2個以上有する化合物をいう。ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族系、脂環式系、芳香族系および芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0040】
ポリイソシアネートの具体例には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、及びナフタレンジイソシアネート等のような芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、及びリジンジイソシアネート等のような炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、及び1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−もしくは2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン(ノルボルナンジイソシアネートとも称される。)等のような炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、及びテトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等のような芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物(ウレタン化物、カーボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン、ビューレット及び/又はイソシアヌレート変性物);等があげられる。これらは、単独で、または2種以上併用することができる。
【0041】
ポリイソシアネートをエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどの多価アルコールとNCO/OH比が2以上で反応させて得られる付加体ないしプレポリマーもブロックイソシアネート硬化剤に使用してよい。
【0042】
ブロック剤は、ポリイソシアネート基に付加し、常温では安定であるが解離温度以上に加熱すると遊離し、イソシアネート基を再生し得るものである。
【0043】
ブロック剤としては、ε−カプロラクタムやブチルセロソルブ等通常使用されるものを用いることができる。しかしながら、これらの内、揮発性のブロック剤はHAPsの対象として規制されているものが多く、使用量は必要最小限とすることが好ましい。
【0044】
疎水性剤(C)
疎水性剤(C)は非水溶性の化合物であり、電着塗装の過程で塗膜の析出と同時に発生してしまう気泡を移動し易くする成分である。析出した塗膜の表面から気泡が移動し易いと、被塗物が構造として狭い隙間を有する場合、狭い隙間の内部から気泡が除去され易くなり、結果として、隙間の内部に塗膜が析出し易くなる。
【0045】
疎水性剤としては非架橋アクリル樹脂を用いる。非架橋アクリル樹脂は、内部架橋を提供する架橋性モノマーを用いることなく調製されたアクリル樹脂を意味する。
【0046】
非架橋アクリル樹脂は、例えば水酸基含有エチレン性不飽和モノマー、酸性基含有エチレン性不飽和モノマー、その他のエチレン性不飽和モノマーを任意に選択し、共重合して調製することができる。非架橋アクリル樹脂の調製方法は公知であり、例えば、特開2009−235350第0056〜0059段落に記載されている。
【0047】
好ましい非架橋性アクリル樹脂は、モノマー合計量を100質量%として、スチレン20〜30質量%、メタクリル酸イソブチル15〜50質量%、アクリル酸エチルヘキシル5〜40質量%、アクリル酸エチル0〜40質量%及びメタクリル酸ヒドロキシエチル5〜20質量%から重合されたものである。かかる非架橋アクリル樹脂は、ガラス転移温度が20〜40℃、数平均分子量が2,500〜3,500、水酸基価が30〜50mgKOH/gである。なお数平均分子量の測定は、ポリスチレンを標準として用いて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)の測定結果から算出することができる。
【0048】
また、非架橋アクリル樹脂は、SP値が10.2〜10.6、好ましくは10.2〜10.4である。非架橋アクリル樹脂のSP値が10.2未満であると電着塗膜と被塗物との密着性が不十分となり防錆性が低下するおそれがあり、10.6を超えると隙間塗装性が低下するおそれがある。
【0049】
非架橋アクリル樹脂は、SP値が、カチオン性エポキシ樹脂(A)のSP値に対し0.6〜1.0、好ましくは0.8〜1.0、より好ましくは0.9〜1.0低い値であることが好ましい。非架橋アクリル樹脂のSP値が、樹脂(A)のSP値に対し1.0低い値未満になると相溶性が不十分となり塗装仕上がり性が低下するおそれがあり、樹脂(A)のSP値に対し0.6低い値を超えると隙間塗装性が低下するおそれがある。
【0050】
粘度調整剤(D)
粘度調整剤は非溶解性の微粒子であり、電着塗料組成物の粘度を上昇させる成分である。電着塗料組成物の粘度が上昇すると、被塗物が構造として狭い隙間を有する場合、狭い隙間を構成する被塗物の端部が被覆され易くなる。
【0051】
粘度調整剤としては樹脂粒子を用いる。好ましい樹脂粒子は内部架橋構造を持つアクリル樹脂粒子である。内部架橋構造を持つアクリル樹脂粒子は、多官能重合性不飽和化合物(a)と他の重合性モノマー(b)とを乳化剤、開始剤の存在下に乳化重合させて得ることができる。又は、モノマー(a)とモノマー(b)を塊状重合させた後、機械粉砕させて篩分けにより得ることができる。架橋構造を持つアクリル樹脂粒子の調製方法は公知であり、例えば、特開平6−25567号公報第0005段落に記載されている。
【0052】
好ましい実施形態では、樹脂粒子は、平均粒子径が50〜200nm、好ましくは80〜170nm、より好ましくは100〜130nmである架橋樹脂粒子である。樹脂粒子の平均粒子径が50nm未満であると隙間塗装性が低下するおそれがあり、200nmを超えると塗装仕上がり性が低下するおそれがある。本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる樹脂粒子の平均粒子径は、体積平均粒子径であり粒状粒子透過測定法によって測定することができる。樹脂粒子の平均粒子径の測定に用いることができる機器として、例えば日機装(株)社製、MICROTRAC9340UPAなどが挙げられる。平均粒子径の測定は、溶媒(水)の屈折率1.33、樹脂分の屈折率(樹脂の種類により異なる。例えばアクリル樹脂では1.59)を用いて、樹脂粒子の粒度分布を測定し、その測定値から累積相対度数F(x)=0.5における平均粒子径を算出することによって測定することができる。
【0053】
顔料
一般に、電着塗料には着色剤として顔料を含有させる。本発明のカチオン電着塗料組成物にも必要に応じて通常用いられる顔料を含有させる。かかる顔料の例としては、チタンホワイト、カーボンブラック及びベンガラのような着色顔料、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー及びシリカのような体質顔料、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛、シアン化亜鉛、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム及びリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛のような防錆顔料等が挙げられる。
【0054】
顔料分散ペースト
顔料を電着塗料の成分として用いる場合、一般に顔料を予め高濃度で水性媒体に分散させてペースト状にする。顔料は粉体状であるため、電着塗料で用いる低濃度均一状態に一工程で分散させるのは困難だからである。一般にこのようなペーストを顔料分散ペーストという。
【0055】
顔料分散ペーストは、顔料を顔料分散樹脂と共に水性媒体中に分散させて調製する。顔料分散樹脂としては、一般に、カチオン性又はノニオン性の低分子量界面活性剤や4級アンモニウム基及び/又は3級スルホニウム基を有する変性エポキシ樹脂等のようなカチオン性重合体を用いる。水性媒体としてはイオン交換水や少量のアルコール類を含む水等を用いる。一般に、顔料分散樹脂は5〜40質量部、顔料は20〜50質量部の固形分比で用いる。
【0056】
2.カチオン電着塗料組成物の調製
カチオン電着塗料組成物は、カチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロックイソシアネート硬化剤(B)、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)、顔料分散ペースト、中和酸及び有機溶媒等の成分を水性媒体中に分散又は溶解することによって調製される。
【0057】
カチオン電着塗料組成物中、ブロックイソシアネート硬化剤(B)の含有量は、硬化時にカチオン性エポキシ樹脂中の1級、2級又は/及び3級アミノ基、水酸基等の活性水素含有官能基と反応して良好な硬化塗膜を与えるのに十分でなければならず、一般にカチオン性エポキシ樹脂(A)のブロックイソシアネート硬化剤(B)に対する固形分質量比で表して一般に60/40〜80/20、好ましくは65/35〜75/25の範囲である。
【0058】
疎水性剤(C)の含有量(固形分)は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂(A)とブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との合計量(固形分)に対して0.2〜5質量%、好ましくは1.5〜5質量%、より好ましくは3〜5質量%である。疎水性剤の含有量が0.2質量%未満であると、隙間塗装性が低下するおそれがあり、5質量%を超えると防錆性が低下するおそれがある。
【0059】
粘度調整剤(D)の含有量(固形分)は、カチオン電着塗料組成物中のカチオン性エポキシ樹脂(A)とブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と疎水性剤(C)との合計量(固形分)に対して3〜10質量%、好ましくは5〜9質量%、より好ましくは6〜8質量%である。粘度調整剤の含有量が3質量%未満であると、隙間塗装性が低下するおそれがあり、10質量%を超えると塗装仕上がり性が低下するおそれがある。
【0060】
また、カチオン電着塗料組成物には、カチオン性エポキシ樹脂を中和して、バインダー樹脂エマルションの分散性を向上させるために中和酸を含有させる。中和酸は塩酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、乳酸のような無機酸または有機酸である。
【0061】
塗料組成物に含有させる中和酸の量が多くなるとカチオン性エポキシ樹脂の中和率が高くなり、バインダー樹脂粒子の水性媒体に対する親和性が高くなり、分散安定性が増加する。このことは、電着塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し難い特性を意味し、塗料固形分の析出性は低下する。
【0062】
逆に、塗料組成物に含有させる中和酸の量が少ないとカチオン性エポキシ樹脂の中和率が低くなり、バインダー樹脂粒子の水性媒体に対する親和性が低くなり、分散安定性が減少する。このことは、塗装時に被塗物に対してバインダー樹脂が析出し易い特性を意味し、塗料固形分の析出性は増大する。
【0063】
カチオン電着塗料組成物中、中和酸の含有量はカチオン電着塗料組成物のクーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)、好ましくは2.2〜2.5mg/(μm・C)、より好ましくは2.4〜2.5mg/(μm・C)となるように調整する。カチオン電着塗料組成物のクーロン効率が2.0mg/(μm・C)未満であると隙間塗装性が低下するおそれがあり、2.5mg/(μm・C)を超えると隙間の入り口部分での析出が先行して隙間を閉塞させ隙間の開口部から奥に位置する程、析出が不十分となり隙間塗装性が低下するおそれがある。
【0064】
クーロン効率は塗料固形分の析出性を表す指標である。つまり、電流を流すことによって消費された単位電荷量(クーロン)及び析出する塗膜の単位厚み当たりの、析出した塗料の量(mg)である。このクーロン効率の測定は、測定するカチオン性エポキシ樹脂に一定量の硬化剤および水を加えて調製した測定用試料を、一定の電圧(180〜280V)で電着塗装し、得られた電着塗膜を焼き付けして硬化させた硬化電着塗膜の質量を測定することによって、得られた硬化電着塗膜の量から特定することができる。
【0065】
例えば、中和酸は、カチオン電着塗料組成物の樹脂固形分100g当たりの酸のミリグラム当量(meq)が15〜25の範囲内になる量で使用される。
【0066】
カチオン電着塗料組成物は、ジラウリン酸ジブチルスズ、ジブチルスズオキサイドのようなスズ化合物や、通常のウレタン開裂触媒を含むことができる。鉛を実質的に含まないものが好ましいため、スズ化合物およびウレタン開裂触媒の量はブロックポリイソシアネート化合物の0.1〜5質量%とすることが好ましい。
【0067】
また、カチオン電着塗料組成物は、水混和性有機溶剤、界面活性剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、及び顔料などの常用の塗料用添加剤を含むことができる。
【0068】
3.電着塗膜形成方法
上記カチオン電着塗料組成物は被塗物に電着塗装され、被塗物の表面には電着塗膜が形成される。被塗物としては導電性のあるものであれば特に限定されず、例えば、鉄板、鋼板、アルミニウム板及びこれらを表面処理したもの、これらの成型物等を挙げることができる。
【0069】
ある好ましい一形態では、被塗物は構造として狭い隙間を有するものである。例えば、被塗物は複数の鋼板を接続して形成された構造物であり、該複数の鋼板の接続部が、接続のために重ねられた鋼板と鋼板の間に隙間を有しているものである。その場合、鋼板と鋼板の間の隙間の最小値は300μm以下であってよく、また、上記隙間の最小値は100μm以下であってよい。
【0070】
そのような被塗物の具体例には、自動車車体、屋外電装品などがある。
【0071】
電着塗装は、一般に、カチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬する過程、及び、上記被塗物を陰極として陽極との間に電圧を印加して、塗膜を析出させる過程、から構成される。電圧を印加する際は、徐々に昇圧を行うことが好ましい。
【0072】
電着塗装の過程における昇圧速度は、30〜70V/10秒、好ましくは45〜70V/10秒、より好ましくは60〜70V/10秒である。昇圧速度が30V/10秒未満であると隙間塗装性が低下するおそれがあり、70V/10秒を超えると同じく隙間塗装性が低下するおそれがある。昇圧速度は、所定の電圧条件に達するまで、一定であることが好ましい。
【0073】
また、電圧を印加する時間は、電着条件によって異なるが、一般には、2〜4分とすることができる。電着過程の終了後、水洗した後、120〜260℃、好ましくは140〜220℃で、10〜30分間焼き付けることにより硬化した電着塗膜が得られる。
【実施例】
【0074】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例における量の単位は、特に表示しない限り、質量基準である。
【0075】
製造例1
ブロックイソシアネート硬化剤(B)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートの3量体(日本ポリウレタン社製、コロネートHX)199部とメチルイソブチルケトン32部、およびジブチルスズジラウレート0.03部を量り取り、攪拌、窒素をバブリングしながら、メチルエチルケトオキシム87.0部を滴下ロートより1時間かけて滴下した。温度は50℃からはじめ70℃まで昇温した。そのあと1時間反応を継続し、赤外線分光計によりNCO基の吸収が消失するまで反応させた。その後n−ブタノール0.74部、メチルイソブチルケトン39.93部を加え、不揮発分80%とした。
【0076】
製造例2
アミン変性エポキシ樹脂(A)の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管および滴下ロートを取り付けたフラスコに、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート(80/20wt%)71.34部と、メチルイソブチルケトン111.98部と、ジブチルスズジラウレート0.02部を量り取り、攪拌、窒素バブリングしながらメタノール14.24部を滴下ロートより30分かけて滴下した。温度は室温から発熱により60℃まで昇温した。その後30分間反応を継続した後、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル46.98部を滴下ロートより30分かけて滴下した。発熱により70〜75℃へ昇温した。30分間反応を継続した後、ビスフェノールAプロピレンオキシド(5モル)付加体(三洋化成工業社製、BP−5P)41.25部を加え、90℃まで昇温し、IRスペクトルを測定しながらNCO基が消失するまで反応を継続した。
【0077】
続いてエポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成社製、YD−7011R)475.0部を加え、均一に溶解した後、130℃から142℃まで昇温し、MIBKとの共沸により反応系から水を除去した。125℃まで冷却した後、ベンジルジメチルアミン1.107部を加え、脱メタノール反応によるオキサゾリドン環形成反応を行った。反応はエポキシ当量1140になるまで継続した。
【0078】
その後100℃まで冷却し、N−メチルエタノールアミン24.56部,ジエタノールアミン11.46部およびアミノエチルエタノールアミンケチミン(78.8%メチルイソブチルケトン溶液)26.08部を加え、110℃で2時間反応させた。その後エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル20.74部とメチルイソブチルケトン12.85部を加えて希釈し、不揮発物82%に調節した。数平均分子量1,380、アミン当量94.5meq/100gのアミン変性エポキシ樹脂を得た。得られたアミン変性エポキシ樹脂のSP値は11.4であった。
【0079】
製造例3
顔料分散樹脂の製造
攪拌機、冷却器、窒素注入管、温度計および滴下ロートを取り付けたフラスコに、エポキシ当量188のビスフェノールA型エポキシ樹脂(ダウケミカル社製、DER−331J)382.20部と、ビスフェノールA111.98部を量り取り、80℃まで昇温し、均一に溶解した後、2−エチル−4−メチルイミダゾール1%溶液1.53部を加え、170℃で2時間反応させた。140℃まで冷却した後、これに2−エチルヘキサノールハーフブロック化イソホロンジイソシアネート(不揮発分90%)196.50部を加え、NCO基が消失するまで反応させた。これにジプロピレングリコールモノブチルエーテル205.00部を加え、続いて1−(2−ヒドロキシエチルチオ)−2−プロパノール408.00部、ジメチロールプロピオン酸134.00部を添加し、イオン交換水144.00部を加え、70℃で反応させた。反応は酸価が5以下になるまで継続した。得られた顔料分散樹脂はイオン交換1150.50部で不揮発分35%に希釈した。
【0080】
製造例4
顔料分散ペーストの製造
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂を211部、二酸化チタン192.0部、ジブチルスズオキシド8.0部およびイオン交換水78部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストを得た(固形分56%)。
【0081】
製造例5
疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(1)の製造
還流冷却器、撹拌機、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、酢酸n−ブチル300.0部を仕込み、窒素雰囲気下120℃に加熱保持した。これへ、スチレン200.0部、イソブチルメタクリレート325.6部、2−エチルヘキシルアクリレート150.2部、エチルアクリレート138.6部、ヒドロキシエチルメタクリレート185.6部、酢酸n−ブチル60.0部、およびt−ブチルパーオクトエート180.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下終了後120℃に1時間保持した後、酢酸n−ブチル30.0部、およびt−ブチルパーオクトエート10.0部の混合物を滴下し、120℃で30分保持し、固形分70%のアクリル樹脂の溶液を得た。
【0082】
得られた非架橋アクリル樹脂(1)のSP値は10.5、ガラス転移温度は20℃、数平均分子量は5,600であった。
【0083】
製造例6
疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(2)の製造
還流冷却器、撹拌機、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、酢酸n−ブチル300.0部を仕込み、窒素雰囲気下120℃に加熱保持した。これへ、スチレン200.0部、イソブチルメタクリレート478.4部、2−エチルヘキシルアクリレート62.0部、エチルアクリレート74.0部、ヒドロキシエチルメタクリレート185.6部、酢酸n−ブチル60.0部、およびt−ブチルパーオクトエート180.0部の混合物を滴下ロートから3時間かけて滴下した。滴下終了後120℃に1時間保持した後、酢酸n−ブチル30.0部、およびt−ブチルパーオクトエート10.0部の混合物を滴下し、120℃で30分保持し、固形分70%のアクリル樹脂の溶液を得た。
【0084】
得られた非架橋アクリル樹脂(2)のSP値10.9、ガラス転移温度は40℃、数平均分子量は5,800であった。
【0085】
製造例7
架橋樹脂粒子Aの製造
反応容器に、アンモニウム基を有するアクリル樹脂120部と脱イオン水270部とを加え、75℃で加熱攪拌した。ここに2,2’−アゾビス(2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)1.5部の酢酸100%中和水溶液を5分かけて滴下した。5分間エージングした後、メチルメタクリレート30部を5分かけて滴下した(樹脂溶液1)。さらに5分間エージングした後、アンモニウム基を有するアクリル樹脂170部と脱イオン水250部とを混合した溶液にメチルメタクリレート170部、スチレン40部、n−ブチルメタクリレート30部、グリシジルメタクリレート5部およびネオペンチルグリコールジメタクリレート30部からなるエチレン性不飽和モノマー混合物を加え攪拌して得られたプレエマルションを40分かけて滴下した。60分間エージングした後、冷却し、架橋樹脂粒子Aの分散液を得た。得られた架橋樹脂粒子Aの分散液の不揮発分は36%、pHは5.0、平均粒子径は110nmであった。架橋樹脂粒子の平均粒子径は、日機装社製、MICROTRAC9340UPAを用いて、粒状粒子透過測定法にて測定した。また、この測定器において、架橋樹脂粒子の粒度分布を測定し、その測定値から累積相対度数F(x)=0.5における平均粒子径を算出した。これらの測定および算出においては、溶媒(水)の屈折率1.33、樹脂分の屈折率1.59を用いた。
【0086】
製造例8
架橋樹脂粒子Bの製造
樹脂溶液1に用いる脱イオン水量を270部から200部に、及びプレエマルションに用いる脱イオン水量を250部から320部に変更した以外は製造例7と同様にして、架橋樹脂粒子Bの分散液を得た。得られた架橋樹脂粒子Bの分散液の不揮発分は35%、pHは5.0、平均粒子径は250nmであった。
【0087】
製造例9
実施例1、4、6に使用するカチオン電着塗料組成物1の製造
イオン交換水100部と酢酸7部を量り取り、70℃まで加温した製造例2のアミン変性エポキシ樹脂150部、製造例5の疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(1)10部および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤100部の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分38%に調整した。
【0088】
こうして得られたエマルション341部、製造例7の架橋樹脂粒子A8部、製造例4の顔料分散ペースト73部およびイオン交換水341部とを混合して、無機顔料の含有量(PWC)16質量%、架橋樹脂粒子A6質量%、非架橋アクリル樹脂3質量%、固形分20質量%のカチオン電着塗料組成物1を得た。
【0089】
次いで、得られたカチオン電着塗料組成物1の特性として、クーロン効率、塗膜粘度及び塗膜抵抗を測定した。測定方法を以下に説明する。また、測定結果を表1に示す。
【0090】
(クーロン効率の測定)
カチオン電着塗料組成物1を、一定の電圧(180〜280V)で厚さ15μmの塗膜になるように電着塗装し、得られた電着塗膜を焼き付けして硬化させた硬化電着塗膜の質量を測定することによって、得られた硬化電着塗膜の量を測定することにより、クーロン効率を求めた。
【0091】
(電着塗膜の塗膜粘度の測定)
カチオン電着塗料組成物1を用いて被塗物に膜厚15μmとなるように電着塗膜を形成し、これを水洗して余分な電着塗料組成物を取り除いた。次いで水分を取り除いた後、乾燥させることなくすぐに塗膜を取り出して、試料を調製した。こうして得られた試料を、回転型動的粘弾性測定装置「Rheosol G−3000」(ユービーエム社製)に装着した。測定条件は、歪み0.5deg、周波数0.02Hz、温度50℃とした。測定開始後、コーンプレート内で電着塗膜が均一に広がった状態となった時点で塗膜の粘度の測定を行った。
【0092】
(塗膜抵抗値の測定)
カチオン電着塗料組成物1を用いて、浴温30℃において、厚さ15μmの塗膜になるように電着塗装した。この塗装における塗装電圧および電着終了時の残余電流を測定し、これらの値から塗膜抵抗値(kΩ・cm)を算出した。計算式は、
【0093】
【数4】

である。
【0094】
製造例10
実施例2、8、9に使用するカチオン電着塗料組成物2の製造
製造例2のアミン変性エポキシ樹脂の量を175部、製造例1のブロックイソシアネート硬化剤の量を75部と変更したこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物2を得、特性を測定した。
【0095】
製造例11
実施例3、5、7に使用するカチオン電着塗料組成物3の製造
製造例2のアミン変性エポキシ樹脂の量を200部、製造例1のブロックイソシアネート硬化剤の量を50部と変更したこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物3を得、特性を測定した。
【0096】
製造例12
比較例1に使用するカチオン電着塗料組成物4の製造
製造例5の疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(1)10部の代わりに、製造例6の疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(2)10部を用いたこと以外は、製造例10と同様にしてカチオン電着塗料組成物4を得、特性を測定した。
【0097】
製造例13
比較例2に使用するカチオン電着塗料組成物5の製造
製造例2のアミン変性エポキシ樹脂の量を90部、製造例1のブロックイソシアネート硬化剤の量を10部と変更したこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物5を得、特性を測定した。
【0098】
製造例14
比較例3に使用するカチオン電着塗料組成物6の製造
製造例2のアミン変性エポキシ樹脂の量を55部、製造例1のブロックイソシアネート硬化剤の量を45部と変更したこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物6を得、特性を測定した。
【0099】
製造例15
比較例4に使用するカチオン電着塗料組成物7の製造
イオン交換水100部と酢酸7部を量り取り、70℃まで加温した製造例2のアミン変性エポキシ樹脂175部、製造例5の疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(1)10部および製造例1のブロックイソシアネート硬化剤75部の混合物を徐々に滴下し、攪拌して均一に分散させた。そのあとイオン交換水を加え固形分38%に調整した。
【0100】
こうして得られたエマルション341部、製造例7の架橋樹脂粒子A478部、製造例4の顔料分散ペースト73部およびイオン交換水478部とを混合して、カチオン電着塗料組成物7を得た。次いで、製造例9と同様にして、カチオン電着塗料組成物7の特性を測定した。
【0101】
製造例16
実施例10に使用するカチオン電着塗料組成物8の製造
製造例5の疎水性剤(非架橋アクリル樹脂)(1)10部を0.7部に変更して用いたこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物8を得、特性を測定した。
【0102】
製造例17
比較例5に使用するカチオン電着塗料組成物9の製造
製造例7の架橋樹脂粒子A8部を20部に変更して用いたこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物9を得、特性を測定した。
【0103】
製造例18
実施例11に使用するカチオン電着塗料組成物10の製造
製造例7の架橋樹脂粒子A8部の代わりに、製造例8の架橋樹脂粒子B8部を用いたこと以外は、製造例9と同様にしてカチオン電着塗料組成物10を得、特性を測定した。
【0104】
[表1]

【0105】
実施例1
カチオン電着塗料組成物1
被塗物として0.8mm×70mm×150mmのリン酸亜鉛処理した冷間圧延鋼板2枚、及びスペーサーとして12.7mm×50mm×100μmのステンレス板2枚を準備した。被塗物を2枚重ね、その間に、被塗物の角部2箇所の辺にスペーサーの辺がそれぞれ一致するようにスペーサーを挟み、固定した。そのことにより、2枚重ねた被塗物の一辺の中央部に、幅44.6mm、間隔100μmの隙間を形成した。
【0106】
製造例9で調製したカチオン電着塗料組成物1の4000mlを電着槽に入れ、隙間が形成された一辺を下向きにして、被塗物を85mmの深さまで浸漬した。電着槽及び被塗物を電源に接続し、50V/10秒の昇圧条件で塗装電圧180Vまで電圧を上げ、180秒間通電することにより、被塗物の表面に塗膜を析出させた。塗膜が付着した鋼板を電着槽から取り出し、水洗し、170℃で20分間焼付して、電着塗装鋼板を得た。
【0107】
次いで、電着塗装鋼板について塗膜の析出状態及び性能を評価した。評価方法を以下説明する。また、評価結果を表2及び3に示す。
【0108】
(隙間塗装性)
2枚重ねてある電着塗装鋼板を分解し、鋼板内側の隙間部分(2枚のスペーサーの間)に下の辺から塗膜が形成されている高さを測定した。評価基準は次の通りとした。
【0109】

【0110】
(防錆性)
電着塗装鋼板の外側の塗装面にナイフにて素地に達するクロスカットを入れ、35℃で800時間5%食塩水を塗膜表面に噴霧した。その後、塗膜を水洗し乾燥させた後、ニチバン社製「セロハンテープ」を塗膜表面に指で圧着し、勢いよく剥離した。テープにより、カット部から塗膜が剥離した幅を測定した。評価基準は次の通りとした。
【0111】

【0112】
(塗装仕上がり性)
JIS−B0601に準拠し、評価型表面粗さ測定機(ミツトヨ社製、SURFTEST SJ−201P)を用いて、電着塗装鋼板の外側の塗装面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。その際、2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均して測定値を決定した。評価基準は次の通りとした。
【0113】

【0114】
実施例2〜11、比較例1〜5
カチオン電着塗料組成物の種類及び電着塗装の条件を表2及び表3に示すように変更すること以外は実施例1と同様にして、電着塗装鋼板を得、塗膜の析出状態及び性能を評価した。結果を表2及び3に示す。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン電着塗料組成物であって、
前記カチオン電着塗料組成物は、水性媒体中にカチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)及び中和酸を含有し、
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との固形分質量比(A)/(B)が60/40〜80/20であり、
前記疎水性剤(C)は、SP値がカチオン性エポキシ樹脂(A)に対し0.6〜1.0低い化合物であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との合計量に対して0.2〜5質量%であり、
前記粘度調整剤(D)は、樹脂粒子であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と前記疎水性剤(C)との合計量に対して3〜10質量%であり、
前記カチオン電着塗料組成物のクーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)であり、
前記疎水性剤(C)が非架橋アクリル樹脂である、
カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記粘度調整剤(D)は、平均粒子径が50〜200nmである架橋樹脂粒子である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬し、電圧を印加して塗膜を析出させ、その後、焼き付け硬化させる過程を行う電着塗膜形成方法であって、
前記カチオン電着塗料組成物は、水性媒体中にカチオン性エポキシ樹脂(A)、ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)、疎水性剤(C)、粘度調整剤(D)及び中和酸を含有し、
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との固形分質量比(A)/(B)が60/40〜80/20であり、
前記疎水性剤(C)は、SP値がカチオン性エポキシ樹脂(A)に対し0.6〜1.0低い化合物であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)との合計量に対して0.2〜5質量%であり、
前記粘度調整剤(D)は、樹脂粒子であって、その含有量が、前記カチオン性エポキシ樹脂(A)と前記ブロックポリイソシアネート硬化剤(B)と前記疎水性剤(C)との合計量に対して3〜10質量%であり、
前記カチオン電着塗料組成物のクーロン効率が、2.0〜2.5mg/(μm・C)であり、
前記疎水性剤(C)が非架橋アクリル樹脂であり、
前記電圧の昇圧速度が30〜70V/10secである、
電着塗膜形成方法。
【請求項4】
前記被塗物が複数の鋼板を接続して形成された構造物であり、該複数の鋼板の接続部が、接続のために重ねられた鋼板と鋼板の間に隙間を有しているものである、請求項3に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項5】
前記隙間の最も狭い部分の間隔が300μm以下である請求項4に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項6】
前記カチオン性エポキシ樹脂(A)のSP値が11.2〜11.6であり、前記疎水性剤(C)のSP値が10.2〜10.6である請求項3〜5のいずれか一項に記載の電着塗膜形成方法。
【請求項7】
前記粘度調整剤(D)は、平均粒子径が50〜200nmである架橋樹脂粒子である、請求項3〜6のいずれか一項に記載の電着塗膜形成方法。

【公開番号】特開2012−236928(P2012−236928A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107304(P2011−107304)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】