説明

狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴム、その使用およびその製造方法

【課題】狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴム、その使用およびその製造方法を提供する。
【解決手段】新規の方法により、非常に狭い分子量分布と、それに対応して低い多分散指数値とを特徴とする新規の水素化ニトリルゴム(B)を製造する。本製造方法は超音波を使った水素化ニトリルゴム(A)の処理を含み、その結果得られる水素化ニトリルゴム(B)は、水素化ニトリルゴム(A)より低い重量平均分子量(M)を有する。得られた水素化ニトリルゴム(B)は、押出法または射出成形法での加工による成形品の製造に対して優れた適性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムと、水素化ニトリルゴムを超音波で処理することによるその製造方法と、得られた水素化ニトリルゴムの成形品の製造のための使用とに関する。
【背景技術】
【0002】
略語HNBRでも知られる水素化ニトリルゴムは、略語NBRでも知られるニトリルゴムの水素化によって調製される。
【0003】
略語NBRでも知られるニトリルゴムは、少なくとも1種の不飽和ニトリルと、少なくとも1種の共役ジエンと、場合により他のコモノマーとからなるコポリマーであるゴムである。
【0004】
水素化ニトリルゴムは、非常に良好な耐熱性、優れた耐オゾン性および耐薬品性、ならびに非常に優れた耐油性を有する特別のゴムである。
【0005】
HNBRの上記の物理特性および化学特性は、非常に良好な機械特性、特に高い耐摩耗性と関連する。このため、HNBRは、現在、非常に幅広い種類の用途分野で広く使用されている。HNBRは、例えば、自動車分野におけるガスケット、ホースおよび減衰要素のため、石油抽出分野における固定子、ボアホールシールおよびバルブシールのため、そして多数の電気産業部品、機械工学部品および造船部品のために使用される。
【0006】
市販のHNBRのグレードは、55〜105の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有し、これは、約200000〜500000の範囲の重量平均分子量M(ポリスチレン等価物に対してゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により決定される)に相当する。ここで見られる多分散指数D(D=M/M、ここでMは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である)は分子量分布の幅を示し、3.0より大きい。残留二重結合含量は、さらに、1〜18%の範囲である(IR分光法により決定される)。
【0007】
比較的高いムーニー粘度は、HNBRの加工性に厳しい制限を加える。多くの用途では、分子量がより低く、従ってムーニー粘度がより低いHNBRグレードを使用するのが理想的であろう。これにより、加工性が決定的に改善されるであろう。
【0008】
これまで、分解によりHNBRの鎖長を短くする多数の試みがなされてきた。1つの可能性として、例えばロールミルによる素練りとして知られる方法による機械的な分解がある。もう1つの可能性は、例えば強酸との反応による化学的な分解である。しかしながら、この化学的な分解の欠点は、カルボン酸基およびエステル基などの官能基が分子内に取り込まれ、さらにポリマーの微細構造が実質的に変化することである。これらの変化は全て、この材料の用途に不利に寄与する。
【0009】
標準的な製造方法において現在広く行われている方法を用いると、55より小さいムーニー粘度(ML1+4、100℃)を有し、従って改善された加工性を有するHNBRを製造することは不可能であるか、あるいは非常に困難である。HNBRのよく知られた製造方法は、NBRの水素化である。通常この水素化は、とりわけ、使用するNBRグレードおよび水素化度の関数であるポリマーのムーニー粘度を、2倍以上に増大させる。これは、市販のHNBRの粘度範囲が、出発材料NBRのムーニー粘度の下限(現在では30MUよりいくらか低い値である)によって制限されることを意味する。
【0010】
(特許文献1)および(特許文献2)は、最も近い従来技術を表す。(特許文献2)は、オレフィンメタセシスと、それに続く水素化とによる、ニトリルゴム出発ポリマーの分解を包含する方法について記載している。この方法では、ニトリルゴムを、第1のステップで、コオレフィン(co−olefin)と、オスミウム、ルテニウム、モリブデンまたはタングステンをベースにした特定の錯体触媒との存在下で反応させ、第2のステップで水素化する。(特許文献1)によると、この方法によって、30000〜250000の範囲の重量平均分子量(M)、3〜50の範囲のムーニー粘度(ML1+4、100℃)、および2.5未満の多分散指数Dを有する水素化ニトリルゴムが得ることができる。従って、得られるHNBR分解生成物は、可能性のある分子量の範囲が広い特徴、および分子量分布が出発ポリマーに対して比較的狭い特徴がある。しかしながら、このメタセシス反応の不利点は、複雑な調製を必要とし、かつ、高価な触媒の使用が必要なことである。もう1つの不利点は、化学的分解の分子量についての性質から、分子量分布の幅または多分散指数に下限があるという事実である。オレフィンメタセシスでは、ランダムな鎖の分解が起こり、少なくとも2.0の多分散度がもたらされる。「高分子材料事典(The Polymeric Materials Encyclopedia)」、CRCプレス社、1996年、V.V.コーシャク(Korshak)、「メタセシス重合、シクロオレフィン(Metathesis polymerization,Cycloolefins)」、12頁には、例えば、不飽和炭素ポリマー鎖のメタセシス分解によって2.01〜2.23の多分散指数が達成されることが記載されている。従って、2.01より小さい値は、試験方法の測定誤差により曲解された値に違いない。
【特許文献1】国際公開第02/100941号パンフレット
【特許文献2】国際公開第02/100905号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術を発端として、本発明の目的は、既に開示された国際公開第02/100941号の水素化ニトリルゴムより狭い分子量分布または小さい多分散指数を有すると同時に、低い重量平均分子量値も有する水素化ニトリルゴムを製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
驚くべきことに、水素化ニトリルゴムの分子量は超音波の効果によって有利に低下させることができ、そしてこの手段により、メタセシス/水素化結合方法により製造される国際公開第02/100941号および国際公開第02/100905号の低分子量水素化ニトリルゴムより、著しく狭い分子量分布、従って小さい多分散指数を有する、低減された分子量の水素化ニトリルゴムを提供することができることが分かった。
【0013】
従って、本発明は、水素化ニトリルゴム(A)に超音波を照射し、その結果得られる水素化ニトリルゴム(B)が水素化ニトリルゴム(A)より低い重量平均分子量Mを有することを特徴とする水素化ニトリルゴム(B)の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本出願の目的において、「水素化ニトリルゴム(HNBR)」は、少なくとも1種の共役ジエンの繰返し単位と、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルの繰返し単位と、適切な場合には1種または複数種の共重合可能なモノマーの繰返し単位とを含有するコポリマーまたはターポリマーであり、ポリマー中に取り込まれたジエン単位のC=C二重結合は、完全にまたはある程度水素化されている。ポリマー中に取り込まれたジエン単位の水素化度は、通常50〜100%の範囲、好ましくは85〜100%の範囲、特に好ましくは95〜100%の範囲である。
【0015】
「共役ジエン」はどのタイプのものでもよい。C〜C共役ジエンを使用するのが好ましい。特に好ましいのは、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレンまたはこれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3−ブタジエンおよびイソプレンまたはこれらの混合物である。1,3−ブタジエンが非常に特に好ましい。
【0016】
使用する「α,β−不飽和ニトリル」は、任意の既知のα,β−不飽和ニトリルを含んでいてよく、C〜Cα,β−不飽和ニトリル(例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはこれらの混合物等)が好ましい。アクリロニトリルはが特に好ましい。
【0017】
特に好ましい水素化ニトリルゴムは、アクリロニトリルモノマーおよび1,3−ブタジエンモノマーをベースにした水素化コポリマーによりもたらされる。
【0018】
共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルと一緒に、当業者に既知の1種または複数種の他のモノマー、例えば、α,β−不飽和モノカルボン酸もしくはジカルボン酸、またはそのエステルもしくはアミドを使用することも可能である。ここで好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸もしくはジカルボン酸は、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、およびメタクリル酸である。使用する好ましいα,β−不飽和カルボン酸エステルは、これらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルである。特に好ましいα,β−不飽和カルボン酸エステルは、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、およびアクリル酸オクチルである。
【0019】
使用するHNBRポリマー中の共役ジエンの割合およびα,β−不飽和ニトリルの割合は、大幅に変化し得る。共役ジエンまたは共役ジエンの総量の割合は、ポリマーの総量に対して、通常40〜90重量%の範囲であり、好ましくは55〜75重量%の範囲である。α,β−不飽和ニトリルまたはα,β−不飽和ニトリルの総量の割合は、ポリマーの総量に対して、通常10〜60重量%の範囲、好ましくは25〜45重量%の範囲である。それぞれの場合におけるモノマーの割合は、全体で100重量%になる。追加的なモノマーの存在可能な量は、ポリマーの総量に対して、0.1〜40重量%、好ましくは1〜30重量%である。この場合、対応する共役ジエンの割合とα,β−不飽和ニトリルの割合とをそれぞれ追加的なモノマーの割合によって置き換え、それぞれの場合における全てのモノマーの割合を、全体で100重量%にする。
【0020】
上記のモノマーの重合によるニトリルゴムの製造は当業者にはよく知られており、文献(例えば、ホーベン−ウェイル(Houben−Weyl)、「有機化学の方法(Methoden der Organischen Chemie)」第14/1巻、ゲオルグ・ティーメ・フェアラーク・シュトゥットガルト(Georg Thieme Verlag Stuttgart)1961年)に広範囲にわたって記載されている。
【0021】
水素化ニトリルゴム(A)を得るための上記のニトリルゴムの水素化は、当業者に公知の方法で行うことができる。一例として、適切な方法は、均一触媒〔例えば、「ウィルキンソン(Wilkinson)」触媒((PPhRhCl)として知られる触媒またはその他の触媒〕を用いる水素との反応である。ニトリルゴムの水素化方法は公知である。通常、ロジウムまたはチタンが触媒として用いられるが、金属の形態、あるいは好ましくは金属化合物の形態の、白金、イリジウム、パラジウム、レニウム、ルテニウム、オスミウム、コバルト、または銅を使用することも可能である(例えば、米国特許第3,700,637号明細書、DE−PS−2539132号明細書、EP−A−134023号明細書、DE−A−3541689号明細書、DE−A−3540918号明細書、EP−A−298386号明細書、DE−A−3529252号明細書、DE−A−3433392号明細書、米国特許第4,464,515号明細書および米国特許第4,503,196号明細書を参照)。
【0022】
均一相水素化のために適切な触媒および溶媒を以下に記載するが、DE−A−2539132号明細書およびEP−A−0471250号明細書にも開示されている。
【0023】
例えば、ロジウム含有触媒の存在下で選択的な水素化を達成することができる。例として、一般式:
(RB)RhX
の触媒を使用することが可能であり、式中、
は、同一または異なり、C〜C−アルキル基、C〜C−シクロアルキル基、C〜C15−アリール基またはC〜C15−アラルキル基であり、
Bは、リン、ヒ素、硫黄、またはスルホキシド基S=Oであり、
Xは、水素またはアニオン、好ましくはハロゲン、特に好ましくは塩素または臭素であり、
lは、2、3または4であり、
mは、2または3であり、そして
nは、1、2または3、好ましくは1または3である。
【0024】
好ましい触媒は、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド、トリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(III)クロリドおよびトリス(ジメチルスルホキシド)ロジウム(III)クロリド、ならびに式((CP)RhHのテトラキス(トリフェニルホスフィン)ロジウムヒドリド、そして、トリフェニルホスフィンが完全にまたはある程度トリシクロヘキシルホスフィンで置換された、これらに対応する化合物である。少量の触媒を用いることができる。適切な量は、ポリマーの重量に対して0.01〜1重量%の範囲、好ましくは0.03〜0.5重量%の範囲、特に好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲である。
【0025】
通常、この触媒を、式RB(式中、R、mおよびBは、触媒について上記で定義したとおりである)の配位子である共触媒と共に使用することが望ましい。mは好ましくは3であり、Bは好ましくはリンであり、基Rは、同一でも異なっていてもよい。共触媒は、好ましくは、トリアルキル、トリシクロアルキル、トリアリール、トリアラルキル、ジアリールモノアルキル、ジアリールモノシクロアルキル、ジアルキルモノアリール、ジアルキルモノシクロアルキル、またはジシクロアルキルモノアリール基を有する。
【0026】
適切な共触媒は、一例として、米国特許第4,631,315号明細書において見られる。トリフェニルホスフィンは、好ましい共触媒である。共触媒の使用量は、好ましくは、水素化すべきニトリルゴムの重量に対して0.3〜5重量%、好ましくは0.5〜4重量%の範囲である。ロジウム含有触媒の共触媒に対する重量比は、さらに好ましくは、1:3〜1:55の範囲、好ましくは1:5〜1:45の範囲である。適切な方法では、水素化すべきニトリルゴム100重量部に対して、0.1〜33重量部、好ましくは0.5〜20重量部、非常に特に好ましくは1〜5重量部の共触媒、特に、2重量部より多いが5重量部より少ない共触媒を使用する。
【0027】
この水素化の実際的な方法は、米国特許第6,683,136号明細書から、当業者によく知られている。通常の方法では、水素化すべきニトリルゴムを、トルエンまたはモノクロロベンゼンなどの溶媒中、100〜150℃の範囲の温度および50〜150バールの範囲の圧力で2〜10時間、水素で処理する。
【0028】
本発明の目的において、水素化は、出発ニトリルゴム中に存在するC=C二重結合の反応であり、この反応の程度は、出発ニトリルゴム中に存在する二重結合に対して、通常少なくとも50%、好ましくは少なくとも75%、特に好ましくは少なくとも85%である。
【0029】
本発明の方法において出発材料として使用する水素化ニトリルゴム(A)は、通常、200000〜1000000の範囲、好ましくは200000〜400000の範囲、特に好ましくは200000〜300000の範囲の重量平均分子量Mを有する。これらはさらに、1.9〜6.0の範囲、好ましくは2.2〜5.0の範囲、特に2.5〜4.0の範囲の多分散指数D=M/M(ここで、Mは重量平均分子量であり、Mは数平均分子量である)を有する。
【0030】
本発明の方法において使用する水素化ニトリルゴム(A)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、50〜130の範囲、好ましくは55〜75の範囲である。ここで、ムーニー粘度は、ASTM標準D1646により測定する。
【0031】
本発明の超音波の効果は、少なくとも18kHz、好ましくは18〜30kHzの範囲、特に19〜25kHzの範囲の周波数の音波エネルギーの入力である。
【0032】
ここでエネルギーの入力は、照射する周波数の関数である。周波数が高いほど、エネルギー入力は低い。「高エネルギー超音波」は、最高で100kHzまでの周波数で使用される用語である。ここで非常に特に好ましいのは、20kHzの領域の周波数の超音波の使用である。
【0033】
エネルギーの入力は、溶媒中の処理すべき水素化ニトリルゴム(A)の溶液内に、超音波発振器を浸漬することによって行う。
【0034】
バッチ法あるいは連続法を使用して、本発明の方法を実施することができる。
【0035】
バッチ法、すなわちバッチ手順の場合には、操作は、攪拌式または非攪拌式反応器内で実施する。
【0036】
連続手順においてエネルギー入力を達成することも可能である。この場合、一例として、循環式手順における単一パスまたは複数パスを備えたCSTR型の連続流通反応器(連続攪拌槽反応器)を使用することができる。連続して順次配列された複数のCSTRを使用して、本発明の方法を実施することも可能である。連続流通管状反応器は、適切な数の超音波発振器を用いて、同様に好適である。
【0037】
水素化ニトリルゴム(A)に対する超音波の効果は、溶液中で生じる。ここで分子鎖は、機械的な力の適用により切断される(「応用超音波化学(Applied Sonochemistry)」、編者:T.J.メイスン(Mason)、J.P.ロリマー(Lorimer)、ウィリー−VHCフェアラーク(Wiley−VCH Verlag)、バインハイム(Weinheim)、2002年、161−162頁も参照)。キャビテーションによって分子鎖の切断をもたらす高いせん断力が生じる。キャビテーションは、液体中での気泡の生成および急激な崩壊に使用される用語である。
【0038】
使用する溶媒は、HNBRに適切な任意の溶媒、例えば、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサンまたはモノクロロベンゼンを含んでいてよい。モノクロロベンゼンが好ましい。
【0039】
溶媒中の水素化ニトリルゴム(A)の濃度についての唯一の制限は、得られる溶液の粘度である。しかしながら、分子量の低下は、他の条件が同一の場合に濃度が低くなるにつれてより効果的に起こることが分かっている。操作では、通常、0.5〜15重量%、好ましくは1.0〜7.5重量%の初期濃度の、溶媒中の水素化ニトリルゴム(A)を用いる。
【0040】
超音波エネルギーの入力は、広い範囲の温度および圧力において可能である。本発明の方法は、通常、−30〜100℃の範囲の温度で実施する。低い温度が、鎖−分解反応に対して好ましい効果を有することが分かった。従って本発明の方法は、好ましくは、−20〜50℃の範囲の温度で実施する。
【0041】
本発明の方法は、通常、1〜5バールの圧力範囲で実施する。
【0042】
本発明の方法では、もちろん、様々な水素化ニトリルゴム(A)の混合物を用い、これらに超音波を照射することも可能である。その結果、水素化ニトリルゴム(B)の混合物が得られる。
【0043】
本発明の方法で得られる水素化ニトリルゴム(B)の特徴は、特に狭い分子量分布と、それに対応して低い多分散指数値とである。この特性プロファイルを有する水素化ニトリルゴムはこれまで知られておらず、入手できなかった。
【0044】
従って、本発明は、2以下、好ましくは2未満、特に好ましくは1.9未満、非常に特に好ましくは1.7未満の多分散指数D=M/Mを有する水素化ニトリルゴムを提供する。特に、Dは1より大きく2.0より小さく、特に好ましくは、Dは1より大きく1.9より小さい。
【0045】
本発明の方法において得られる水素化ニトリルゴム(B)は、使用する水素化ニトリルゴム(A)より低い重量平均分子量Mを有する。水素化ニトリルゴム(B)の重量平均分子量Mは、通常、30000〜250000の範囲、好ましくは30000〜150000の範囲、特に好ましくは30000〜100000の範囲である。
【0046】
本発明の方法において得られる水素化ニトリルゴム(B)のムーニー粘度(ML1+4、100℃)は、1〜50の範囲、好ましくは10〜40の範囲である。ここで、ムーニー粘度は、ASTM標準D1646により測定する。
【0047】
驚くべきことに、この超音波処理手段では、初めて、極めて狭い分子量分布を有する水素化ニトリルゴムの提供することに成功している。使用した水素化ニトリルゴムの化学結合の機械的な切断方法による切断は、化学的な結合の切断とは違ってランダムに進行しない、すなわち、ポリマー鎖のすべての結合が等しく「反応性」であるとは限らないようである。
【0048】
低分子量および狭い分子量分布を有する本発明の水素化ニトリルゴムは、非常に良好な加工性を有する。
【0049】
従って、本発明は、成形品(好ましくは、押出成型または射出成形によって製造される成型品)の製造のための本発明の水素化ニトリルゴムの使用も提供する。
【0050】
本発明は、さらに、非常に狭い分子量分布と、対応する低い多分散指数とをそれぞれ有する本発明の水素化ニトリルゴムから製造される成形品を提供する。このために使用可能な方法(例えば射出成形法または押出法など)、さらにそれに対応する射出成形装置または押出機も、当業者によく知られている。これらの成形品を製造する際、本発明の水素化ニトリルゴムに、当業者にとって既知であり、従来の技術知識を用いる適切な方法において当業者に選択され得るよく知られた助剤(例えば、充填剤、充填剤活性化剤、促進剤、架橋剤、オゾン安定化剤、抗酸化剤、加工油、エキステンダー油、可塑剤、活性化剤、または早期加硫の活性剤または抑制剤など)を添加することも可能である。
【0051】
本発明の水素化ニトリルゴムから製造されるのが好ましい製品の例は、ガスケット、ホース、減衰要素、固定子またはケーブル被覆材である。
【実施例】
【0052】
鎖−分解反応の進行は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定する。ショウデックス(Shodex)RI−71示差屈折計、S5200オートサンプラー(SFD)、カラムオーブン(ERC−125)、島津(Shimadzu)LC10ATポンプ、およびポリマー・ラブズ(Polymer Labs)からの3本の混合−Bカラムで構成されるカラムの組み合わせ、を備えたモジュールシステムを使用した。テトラヒドロフランを溶媒として使用し、得られた分子量は、PSS(マインツ(Mainz))からのポリスチレン標準を基準とする。HNBRの別個の較正は、行わなかった。
【0053】
これらから得られる数平均分子量(M)、重量平均分子量(M)および多分散指数Dなどの分子パラメータは、ウォーターズ(Waters)からの「ミレニアム(Millennium)」ソフトウェアを用いてRI信号から決定する。
【0054】
[実施例1(バッチ手順)]
HNBR〔テルバン(Therban)(登録商標)3446(ランクセス・ドイチュランド社)、60MUのムーニー粘度(ML1+4、100℃)(ASTM標準D1646により決定)、アクリロニトリル含量34重量%、残留二重結合含量(IR分光法により決定)4%〕のモノクロロベンゼン中の1重量%溶液160gに、30℃に自動温度調節したステンレス鋼反応器内で、3時間にわたって超音波を照射した。
【0055】
音波エネルギーに使用した音波源は、Drヒールシャー(Dr Hielscher)からのUIP1000装置(最大出力1000ワット、周波数20kHz、チタンからなる直径34mmのBS34超音波発振器、可変振幅)であった。選択した振幅は最大出力の50%であった。
【0056】
一定の間隔でとった試料を、分子パラメータに関してGPCにより特性決定した。結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
[実施例2(バッチ手順)]
実施例1と同一の出発材料および条件を用いて、低温保持装置により温度を0℃に低下させた。結果を、表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
[実施例3〜5(バッチ手順)]
1重量%(実施例3)、3重量%(実施例4)および5重量%(実施例5)のテルバン(登録商標)3446強度溶液に対して、実施例1と同一の装置設定を40℃の音波照射温度で用いた。結果を、以下の表3〜5に示す。
【0061】
【表3】

【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
[実施例6(循環式手順)]
実施例1と同一の装置設定で、30℃の音波照射温度を用いて、1重量%のテルバン(登録商標)3446溶液を供給容器からポンプで送り出して連続流通反応器を通し、供給容器に戻した。ここで供給容器の容積は、反応空間の容積の4倍であった。ポンプ循環速度は、反応空間において0.25時間の単一パス平均滞留時間を与えるように選択した。一定の時間間隔で供給容器から試料をとり、GPCにより分解反応の進行を確認した。結果を表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
[実施例7(循環式手順)]
実施例6と同一の装置設定および実施例6と同一の構成で、5重量%のポリマー溶液を連続流通反応器に循環させた。超音波源の振幅設定を最大出力に設定した。ポンプ循環速度は、反応空間において1分間の単一パス平均滞留時間を与えるように選択した。一定の時間間隔で供給容器から試料をとり、GPCにより分解反応の進行を確認した。結果を表7に示す。
【0067】
【表7】

【0068】
[実施例8(単一槽連続手順)]
実施例1と同一の装置設定で、30℃の音波照射温度を用いて、1重量%のテルバン(登録商標)3446溶液を供給容器からポンプで送り出して連続流通反応器を通し、次に、別個に捕集した。このタイプの構造は、単一槽連続プラントに相当する。ポンプ速度は、反応空間において15分間の単一パス平均滞留時間を与えるように選択した。結果を表8に示す。
【0069】
【表8】

【0070】
[実施例9(連続する6つの槽を使った連続手順のシミュレーション)]
実施例1と同一の装置設定で、30℃の音波照射温度を用いて、1重量%のテルバン(登録商標)3446溶液を供給容器からポンプで送り出して連続流通反応器を通し、次に、別個に捕集した。得られた溶液を、再度反応器に通過させ、均質化した。この手順を全部で6回実行した。このタイプの手順は6槽連続プラントのシミュレーションに相当し、個々の体積要素の同じ滞留時間プロファイルを提供する。ポンプ速度は、反応空間において15分間の単一パス平均滞留時間を与えるように選択した。それぞれのパスの後、試料をとり、GPCによって特性決定した。結果を表9に示す。
【0071】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化ニトリルゴム(A)に超音波を照射し、その結果得られる水素化ニトリルゴム(B)が、前記水素化ニトリルゴム(A)より低い重量平均分子量(M)を有することを特徴とする水素化ニトリルゴム(B)の製造方法。
【請求項2】
使用する前記水素化ニトリルゴム(A)が、少なくとも1種の共役ジエンの繰返し単位と、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルの繰返し単位と、適切な場合には1種または複数種の共重合可能なモノマーの繰返し単位とを含有する水素化コポリマーまたは水素化ターポリマーを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記水素化ニトリルゴム(A)が、200000〜1000000の範囲、好ましくは200000〜400000の範囲、特に好ましくは200000〜300000の範囲の重量平均分子量Mと、1.9〜6の範囲、好ましくは2.2〜5の範囲、特に2.5〜4の範囲の多分散度D=M/Mとを有する、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
少なくとも18kHz、好ましくは18〜30kHzの範囲、特に19〜25kHzの範囲の周波数の超音波を用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記超音波によるエネルギー入力を、溶媒中の前記水素化ニトリルゴム(A)溶液内に超音波発振器を浸漬することによって行う、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記水素化ニトリルゴム(A)のために用いる溶媒が、ジクロロメタン、ベンゼン、トルエン、シクロヘキサン、またはモノクロロベンゼンを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
バッチ毎に、または連続的に実施する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
−30〜100℃の範囲、好ましくは−20〜50℃の範囲の温度で実施する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項9】
2以下、好ましくは2未満、特に好ましくは1.9未満、極めて特に好ましくは1.7未満の多分散度D=M/Mを有する水素化ニトリルゴム。
【請求項10】
前記多分散度D=M/Mが、1を超えて2未満、好ましくは1を超えて1.9未満、特に好ましくは1を超えて1.7未満である、請求項9に記載の水素化ニトリルゴム。
【請求項11】
前記水素化ニトリルゴムが、少なくとも1種の共役ジエンの繰返し単位と、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルの繰返し単位と、適切な場合には1種または複数種の共重合可能なモノマーの繰返し単位とを含有する水素化コポリマーまたは水素化ターポリマーである、請求項9または10に記載の水素化ニトリルゴム。
【請求項12】
30000〜250000の範囲、好ましくは30000〜150000の範囲、特に好ましくは30000〜100000の範囲の重量平均分子量Mを有する、請求項9〜11のいずれか一項に記載の水素化ニトリルゴム。
【請求項13】
ムーニー粘度(ML1+4、100℃)が1〜50の範囲、好ましくは10〜40の範囲である、請求項9〜12のいずれか一項に記載の水素化ニトリルゴム。
【請求項14】
成形品を、好ましくは押出法または射出成形法により製造するための、請求項9〜13のいずれか一項に記載の水素化ニトリルゴムの使用。
【請求項15】
ガスケット、ホース、減衰要素、固定子またはケーブル被覆材の製造のための、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
請求項9〜13のいずれか一項に記載の水素化ニトリルゴムを含む成形品。

【公開番号】特開2007−197689(P2007−197689A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−343403(P2006−343403)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】