説明

狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置

【課題】立向き溶接等に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接において、円弧状運動によるスパッタや融合不良を防止または抑制する。
【解決手段】狭開先の幅方向中心位置を起点に一方の開先端部近傍まで上向きにオシレートする上進第1工程Paと、一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する上昇第1工程Pbと、一方の開先端部近傍を起点に狭開先の幅方向中心位置まで下向きにオシレートする下進第1工程Pcと、狭開先の幅方向中心位置を起点に他方の開先端部近傍まで上向きにオシレートする上進第2工程Pdと、他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する上昇第2工程Peと、他方の開先端部近傍を起点に狭開先の幅方向中心位置まで下向きにオシレートする下進第2工程Pfとで1サイクルとされ、オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば圧力容器や配管等の立向き溶接及び全姿勢溶接に適用される狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば大径の圧力容器では、真円度確保等の観点から容器側壁の構成部材を縦向きに設置し、隣接する構成部材間を容器軸方向(長手方向)に溶接する場合があり、このとき構成部材間を立向き溶接することが必要になる。この立向き溶接は、上下方向に延在する開先に対して、上向きの溶接方向に溶接を進めていく溶接姿勢のことである。
従来、特に厚板構造物の溶接においては、溶接工数の低減や溶接継手の高品質化等が望まれている。そして、たとえば狭開先MAG溶接法を用いた立向き溶接や全姿勢溶接を実施する場合には、左右対称の溶接条件を用いた円弧状反復運動オシレートによるガスシールド溶接が行われている。
【0003】
立向き姿勢に適用される狭開先ガスシールドアーク溶接においては、ワイヤ先端を上進溶接の溶接方向(トーチ及びチップの進行方向)と反対の下向きとし、ワイヤ先端を左右対称の円弧状となるように反復オシレートさせて、反転及びオシレート速度を制御しつつガスシールド溶接を行う立向き狭開先溶接方法が知られている。(たとえば、特許文献1参照)
また、大径の圧力容器を現地で溶接する場合には、開先の方向が水平方向等のように上下方向以外となることもあり、従って、立向き、横向き、下向き及び上向き等の様々な姿勢での溶接や、複数の姿勢を連続的に変化させる全姿勢溶接が必要となる。
【特許文献1】特開平7−136765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した立向き溶接及び全姿勢溶接において、下向きのワイヤ先端が左右対称の円弧状となるように反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接の場合には、円弧状運動の前半部に存在する下進部でスパッタや融合(溶け込み)不良が発生する。
すなわち、図7に示す狭開先ガスシールドアーク溶接では、上下方向へ延在する開先1に対してチップ2が挿入され、チップ2の先端から突出するワイヤ3の先端3aにアークを形成して溶接する。この場合、ワイヤ3の先端3aは、上向きの溶接進行方向と反対側の下向きとされ、左右対称の円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行いながら溶接を行っている。
【0005】
この結果、ワイヤ3の先端3aは、図中に矢印で示すように、開先1の端部に沿って上方へ移動する上昇工程Aと、開先1の端部から他端部まで上昇しながらオシレートする揺動工程Bと、開先1の他端部に沿って上方へ移動する上昇工程Cと、開先1の他端部から端部まで上昇しながらオシレートする揺動工程Dの順に、4工程を1サイクルとする軌跡を描いて開先1に沿った上昇をしながら溶接する。
従って、揺動工程B,Dにおいては、図8に示す拡大図のように、オシレート開始直後から開先1の幅方向中心位置(軸線)まで下向きに進んで円弧形状を描く下進オシレート部が生じている。この下進オシレート部では、重力の影響を受ける溶融プールがアーク4に先行するので、スパッタ5の発生や溶け込み確保が困難になる。なお、図中の符号6はビードである。
【0006】
また、立向き及び全姿勢溶接では、図9に示すように、上昇工程A,Cにおいて溶金が開先1の幅方向中央部に集中し、中央凸ビード形状7が発生する。このような中央凸ビード形状7は、アーク長の急変による融合不良を生じさせるので、溶金の少ない開先1の両端部側に対して、図中にハッチングで示すように溶金を増加することが必要となる。
また、立向き及び全姿勢溶接では、図10に示すように、上昇工程A,Cにおいて左右の溶金量が不均一となり、開先1の幅方向(左右)で溶金量が異なる非対称ビード形状8が発生する。このような非対称ビード形状8も、中央凸ビード形状7と同様に、アーク長の急変による融合不良を生じさせるので、溶金の少ない開先1の一端部側(図示の例では右側)に対して、溶金を増加することが必要となる。
【0007】
また、大径の圧力容器を現地で溶接する場合、立向き溶接に加えて、横向きや上向き等の様々な溶接姿勢、あるいは、複数の溶接姿勢が連続的に変化する全姿勢溶接を必要とする。しかし、横向きや上向き等の異なる溶接姿勢による溶接及び全姿勢溶接は、溶接姿勢により溶金の挙動が複雑となるため、自動溶接による高品質の溶接を施工することは困難である。
このような背景から、立向き溶接及び全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接においては、円弧状運動によるスパッタや融合不良の発生を防止または抑制することができる狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置が望まれる。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、立向き溶接及び全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接において、円弧状運動によるスパッタや融合不良の発生を防止または抑制できる狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置の提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、下記の手段を採用した。
本発明に係る狭開先溶接方法は、溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接方法において、前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして一方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第1工程と、前記一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第1工程と、前記一方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第1工程と、前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして他方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第2工程と、前記他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第2工程と、前記他方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第2工程とにより1サイクルの溶接工程が形成され、前記オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速されていることを特徴とするものである。
すなわち、立向き溶接等のように上下方向の上向きに溶接を進める場合には、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度を正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度より増速する。また、横向き溶接のように水平方向へ溶接を進めるような場合には、正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度と、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きにオシレートする工程のオシレート速度を増速すればよい。
【0009】
このような本発明の狭開先溶接方法によれば、狭開先の幅方向中心位置を起点にして一方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第1工程と、一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第1工程と、一方の開先端部近傍を起点にして狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第1工程と、狭開先の幅方向中心位置を起点にして他方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第2工程と、他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第2工程と、他方の開先端部近傍を起点にして狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第2工程とにより1サイクルの溶接工程が形成され、前記オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速されているので、鉛直方向下向きにオシレートする工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
すなわち、立向き溶接では、鉛直方向下向きの速度成分を含む逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度が、鉛直方向上向きの速度成分を含む正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度より増速されることにより、逆進第1工程及び逆進第2工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
また、横向き溶接では、その溶接方向に応じて、正進第1工程及び正進第2工程のオシレート速度と、逆進第1工程及び逆進第2工程のオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きの速度成分を含んでオシレートするいずれか一方の工程でオシレート速度が増速されるため、鉛直方向下向きにオシレートする工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
【0010】
上記の狭開先溶接方法において、前記進行第1工程及び前記進行第2工程で電流値を増加することが好ましく、これにより、開先両端部の溶金を増加することができるので、中央凸ビード形状の発生を防止または抑制することができる。
【0011】
上記の狭開先溶接方法において、非対称ビード形状発生時には、前記進行第1工程及び/または前記進行第2工程で、電流値及び/または前記オシレートの停止時間を増加することが好ましく、これにより、ビード不足側の端部の溶金を増加することができるので、非対称ビード形状の発生を防止または抑制することができる。
この場合、前記非対称ビードの発生は、前記ワイヤの突き出し長または前記電流値の変化を検出することにより、確実に判断することができる。
【0012】
本発明に係る狭開先溶接装置は、溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して立向き狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接装置において、請求項1から4のいずれかに記載の狭開先溶接方法による溶接制御を行う制御部を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
このような狭開先溶接装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の狭開先溶接方法による溶接制御を行う制御部を備えているので、下進第1工程及び下進第2工程で溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述した本発明によれば、立向き溶接及び立向き溶接を含む全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接において、円弧状運動によるスパッタや融合不良の発生を防止または抑制することができる狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図5は、たとえば図6に示す大型の圧力容器10について、胴部11の構成例を示している。このような胴部11は、円筒形状の真円度を確保するため、構成部材となる板材12を縦置きにして溶接することが望ましい。すなわち、図示の胴部11は、円周方向に並べた複数枚の板材12について、隣接する端部間に形成されて上下方向に延在する複数本の開先1を同時に、狭開先MAG溶接を用いた立向きのガスシールド溶接によって一体化することが望ましい。なお、板材12の数や同時に溶接する開先1の数については、図示の例に限定されることはない。
【0016】
この場合の溶接の進行方向(溶接方向)は、図1に示すように、胴部11の下から上に向かって容器軸方向(長手方向)へ上昇する上向きとなる。具体的に説明すると、上下方向に延在する開先1に挿入されたチップの先端部からワイヤ3の先端3aが突出し、ワイヤ3の先端3aが溶接進行方向と反対側の下向きに円弧状軌跡を描くように反復運動するオシレートを行いながらチップとともに上昇(進行)することにより、ワイヤ3の先端3aにアークを形成して立向きの狭開先MAG溶接を行っている。
【0017】
このように、上下方向となる溶接方向へ延在する開先1に挿入されたチップから突出するワイヤ3の先端3aにアークを形成し、ワイヤ3の先端3aが上向きの溶接進行方向と反対側の下向き(逆向き)に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行いながら上昇(進行)して立向き狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接方法では、図示しない狭開先溶接装置の制御部において、オシレートの反転時停止時間及び速度を制御している。すなわち、本発明の狭開先制御装置は、以下に説明するようにしてオシレートの反転時停止時間及び速度を制御する制御部を備えている。なお、狭開先制御装置は、一般に溶接電流、溶接電圧、溶接速度、オシレート幅、オシレート速度及び端部の停止時間よりなる6つのパラメータを用いて各種制御を行っている。
以下、本発明の狭開先溶接方法について、オシレートの反転停止時間及び速度の制御を具体的に説明する。なお、以下の説明では、開先1が上下の溶接方向へ延在し、上向きに溶接を進行していく立ち向き溶接の場合を例に示して説明する。
【0018】
ワイヤ3の先端3aが上昇しながらオシレートを行う溶接工程は、図1に矢印Pa,Pb,Pc,Pd,Pe,Pfで示す6工程を1サイクルとする。
最初の上進(正進)第1工程Paは、狭開先とした開先1の幅方向中心位置を起点にして、一方の開先端部近傍まで溶接進行方向の上向き(鉛直方向上向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の上進第1工程Paは、開先1の中心位置を起点とし、先端3aが右上がりの円弧を描くようにして開先1の右側端部近傍までオシレートする。
次の上昇(進行)第1工程Pbは、一方の開先端部近傍で所定時間Tbだけオシレートを停止する工程である。この工程では、オシレートのみ停止しているので、ワイヤ3の先端3aは所定の進行速度(チップ上昇速度)で溶接方向へ移動する。図示の上行第1工程Pbは、開先1の右側端部近傍に沿って、先端3aが溶接方向へ上昇する。
【0019】
次の下進(逆進)第1工程Pcは、一方の開先端部近傍を起点にして、開先1の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きとなる下向き(鉛直方向下向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の下進第1工程Pcは、開先1の右側端部近傍を起点とし、先端3aが左下がりの円弧を描くようにして開先1の幅方向中心位置までオシレートする。
次の上進(正進)第2工程Pdは、狭開先とした開先1の幅方向中心位置を起点にして、他方の開先端部近傍まで溶接進行方向の上向き(鉛直方向上向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の上進第2工程Pdは、開先1の中心位置を起点とし、先端3aが左上がりの円弧を描くようにして開先1の左側端部近傍までオシレートする。
【0020】
次の上昇(進行)第2工程Peは、他方の開先端部近傍で所定時間Teだけオシレートを停止する工程である。この工程では、オシレートのみ停止しているので、ワイヤ3の先端3aは所定の進行速度(チップ上昇速度)で溶接方向へ移動する。図示の上昇第2工程Peは、開先1の左側端部近傍に沿って、先端3aが溶接方向へ上昇する。
最後の下進(逆進)第2工程Pfは、他方の開先端部近傍を起点にして、開先1の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きとなる下向き(鉛直方向下向きの速度成分を含む)にオシレートを行う工程である。図示の下進第2工程Pfは、開先1の左側端部近傍を起点とし、先端3aが右下がりの円弧を描くようにして開先1の幅方向中心位置までオシレートする。
【0021】
このようにして、本発明の狭開先溶接方法は、上進(正進)第1工程Paと、上昇(進行)第1工程Pbと、下進(逆進)第1工程Pcと、上進(正進)第2工程Pdと、上昇(進行)第2工程Peと、下進(逆進)第2工程Pfとを備えた1サイクルの溶接工程を形成し、上進(正進)第1工程Pa、上昇(進行)第1工程Pb、下進(逆進)第1工程Pc、上進(正進)第2工程Pd、上昇(進行)第2工程Pe及び下進(逆進)第2工程Pfの順に溶接工程が進められる。
【0022】
そして、特に立ち向き溶接においては、鉛直方向の下向きにオシレートを行う下進第1工程Pc及び下進第2工程Pfのオシレート速度が、鉛直方向の上向きにオシレートを行う上進第1工程Pa及び上進第2工程Pdのオシレート速度より増速されている。
すなわち、立ち向き溶接では、オシレートが溶接進行方向とは逆向きとなる下向きに進んで円弧を描くことから、溶融プールがアークに先行しやすい下進第1工程Pc及び下進第2工程Pfにおいては、オシレート速度を増速することにより溶融プールがアークに先行することを防止または抑制している。従って、上進第1工程Pa及び上進第2工程Pdにおける増速後のオシレート速度は、図2に示すように、溶融プール9がアーク4に先行することなく適切な位置関係を維持できるような速度とすればよい。
この結果、オシレート速度が増速された下進第1工程Pc及び下進第2工程Pfでは、溶融プール9とアーク4との位置関係が適切に保たれるので、スパッタの発生や融合不良についても防止または抑制することができる。
【0023】
また、上述した狭開先溶接方法においては、上昇第1工程Pb及び上昇第2工程Peで必要に応じて溶接の電流値を増加させる。すなわち、図3に示すような中央凸ビードとなりやすい溶接モードでは、開先1の両端部近傍で溶接電流を増すと、図中に示すハッチング部の溶金量が増加するので、開先1の幅方向中央部に溶金が集中して形成される凸ビード形状7の発生を防止または抑制することができる。
【0024】
また、上述した狭開先溶接方法においては、図4に示すように、非対称ビード形状8が発生した時には、上昇第1工程Pbまたは上昇第2工程Peで電流値及び/またはオシレートの停止時間(反転時停止時間)を増加させる。すなわち、非対称ビード形状8は、開先1の幅方向において溶金量が不均一になる現象であるから、溶金量が不足する開先1の端部側で溶接電流を増すと、図中に示すハッチング部の溶金量を増加させて非対称ビード形状8を解消することができる。このような溶金量の増加は、オシレート停止時間を増加させてもよく、ワイヤ3の先端3aが開先1の端部付近を溶接方向に上昇する時間を増すことによっても、非対称ビード形状8の解消が可能である。
【0025】
上述した非対称ビード形状8の発生は、ワイヤ3の突き出し長または溶接電流の電流値が変化したことを検出することにより、確実に判断することができる。従って、非対称ビード形状8の発生を検知した場合には、電流値の増加またはオシレート停止時間の増加により、少なくとも一方を実施して溶金量を増加させ、溶金量の不均一を解消して非対称ビード形状8の発生を防止または抑制することができる。
【0026】
ところで、上述した実施形態では、開先1が上下方向に延在する溶接箇所を溶接対象とする立向き溶接を例示して説明したが、本発明は、上述した立向き溶接を含む全姿勢溶接にも適用できる。すなわち、図6に示すように、圧力容器10の胴部11と圧力容器20との間を連結する配管部30のように、円形断面となる配管部30の全周にわたって溶接部31,32が存在するような場合には、立向き溶接や横向き溶接を含む全姿勢溶接が必要となる。
そこで、横向き溶接の場合には、その溶接方向が左右のいずれであるかに応じて、正進第1工程Pa及び正進第2工程Pfのオシレート速度と、逆進第1工程Pc及び逆進第2工程Peのオシレート速度とのうち、鉛直方向下向きの速度成分を含んでオシレートする工程のオシレート速度を増速する。この結果、鉛直方向下向きにオシレートする速度成分を含む工程において、溶融プールがアークに先行することを防止し、スパッタの発生や融合不良を防止または抑制することができる。
【0027】
このように、上述した本発明の狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置によれば、立向き溶接及び立向き溶接や横向き溶接を含む全姿勢溶接に適用されて反復オシレートを行う狭開先ガスシールドアーク溶接において、オシレートする方向に応じてオシレート速度を適正化することで、鉛直方向下向きにオシレートする円弧状運動に起因してスパッタや融合不良が発生すること防止または抑制することができる。
また、凸ビード形状7や非対称ビード形状8についても、開先1の両端部付近における溶接電流値やオシレート停止時間を調整し、溶金量を増加させることで発生を防止または抑制することができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において適宜変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る狭開先溶接方法及び狭開先溶接装置の一実施形態を示す図で、ワイヤの先端が上昇しながらオシレートを行う溶接工程を示している。
【図2】(a)は図1の下進第1工程を示す拡大図、(b)は(a)の水平断面図である。
【図3】凸ビード形状の防止または抑制を示す水平断面図である。
【図4】非対称ビード形状の防止または抑制を示す水平断面図である。
【図5】圧力容器の胴部構成例を示す斜視図である。
【図6】全姿勢溶接の説明図である。
【図7】従来の狭開先ガスシールドアーク溶接において、上昇しながらオシレートするワイヤの先端が描く軌跡を示す図である。
【図8】(a)は図7の下進オシレート部を示す拡大図、(b)は(a)の水平断面図である。
【図9】凸ビード形状の問題点を示す水平断面図である。
【図10】非対称ビード形状の問題点を示す水平断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 開先
3 ワイヤ
3a 先端
4 アーク
5 スパッタ
6 ビード
7 凸ビード形状
8 非対称ビード形状
9 溶金プール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接方法において、
前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして一方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第1工程と、
前記一方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第1工程と、
前記一方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第1工程と、
前記狭開先の幅方向中心位置を起点にして他方の開先端部近傍まで溶接進行方向にオシレートを行う正進第2工程と、
前記他方の開先端部近傍で所定時間だけオシレートを停止する進行第2工程と、
前記他方の開先端部近傍を起点にして前記狭開先の幅方向中心位置まで溶接進行方向と逆向きにオシレートを行う逆進第2工程とにより1サイクルの溶接工程が形成され、
前記オシレートの速度は、鉛直方向下向きのオシレート速度が鉛直方向上向きのオシレート速度より増速されていることを特徴とする狭開先溶接方法。
【請求項2】
前記進行第1工程または前記進行第2工程で電流値が増加されることを特徴とする請求項1に記載の狭開先溶接方法。
【請求項3】
非対称ビード形状発生時には、前記進行第1工程及び/または前記進行第2工程で電流値及び/または前記オシレートの停止時間が増加されることを特徴とする請求項1に記載の狭開先溶接方法。
【請求項4】
前記非対称ビードの発生は、前記ワイヤの突き出し長または前記電流値の変化を検出して判断されることを特徴とする請求項3に記載の狭開先溶接方法。
【請求項5】
溶接方向へ延在する開先に挿入されたチップから突出するワイヤの先端にアークを形成し、前記ワイヤの先端が溶接進行方向と反対側に円弧状軌跡を描くように反復するオシレートを行うとともに、前記オシレートの反転時停止時間及び速度を制御して立向き狭開先をガスシールド溶接する狭開先溶接装置において、
請求項1から4のいずれかに記載の狭開先溶接方法による溶接制御を行う制御部を備えていることを特徴とする狭開先溶接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−115700(P2010−115700A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−292322(P2008−292322)
【出願日】平成20年11月14日(2008.11.14)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】