説明

獣毛を含んだ繊維製品

【課題】弾力性や軽さを具備しつつ、よりソフトな風合いを持つ繊維製品を提供する。
【解決手段】獣毛繊維を材料として含む非水溶性繊維と、水溶性繊維と、を混紡することにより、混紡糸2を製造する。そのように得られた混紡糸2を少なくとも一部に使用した織物もしくは編物を製造する。続いて、そのようにして得られた織物もしくは編物を所定温度以上の水で洗い、水溶性繊維を溶解除去する。その結果、弾力性や軽さを具備しつつ、よりソフトな風合いを持つ最終製品としての繊維製品が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独特の風合いを備えた獣毛を含んだ繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ソフトで風合いの良い繊維製品を得るための方法の一つとして、非水溶性紡績糸と水溶性紡績糸を交撚し、製織もしくは製編した後に水溶性紡績糸を溶解除去することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−190063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した特許文献1に提案されている方法により得られる繊維製品は、水溶性紡績糸の部分が溶解除去されるため、水溶性紡績糸を用いないものと比較し、ソフトで風合いの良いものとなる。しかしながら、非水溶性紡績糸の硬さそのものは水溶性紡績糸を用いないものと同様であるため、一定の硬さが感じられる。
【0005】
そこで、本発明は、弾力性や軽さを具備しつつ、よりソフトな風合いを持つ繊維製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的に鑑みて想到されたものであり、
獣毛繊維を材料として含む非水溶性繊維と、水溶性繊維と、を混紡することにより得られる混紡糸
を提供する(第1の実施態様)。
【0007】
また、上記の第1の実施態様において、
前記非水溶性繊維を重量比で0.5より多く含む中心部分と、
前記水溶性繊維を重量比で0.5より多く含み、前記中心部分を束ねるように前記中心部分に巻き付く結束部分と
を備える
構成を採用してもよい(第2の実施態様)。
【0008】
また、上記の第1または2の実施態様において、
前記獣毛は、カシミヤ山羊の毛である
構成を採用してもよい(第3の実施態様)。
【0009】
また、上記の第1乃至3のいずれかの実施態様において、
前記水溶性繊維は、水中溶解温度が摂氏30度以上かつ摂氏50度以下である
構成を採用してもよい(第4の実施態様)。
【0010】
また、本発明は、上記の第1乃至4のいずれかの実施態様の混紡糸を少なくとも一部に使用した織物もしくは編物を製造する工程と、
前記織物もしくは編物に含まれる前記水溶性繊維を、当該水溶性繊維の水中溶解温度以上の温度の水で溶解除去する工程と
を備える繊維製品の製造方法
を提供する(第5の実施態様)
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の実施態様にかかる混紡糸は、水溶性繊維を溶解除去すれば、弾力性や軽さを有し、かつソフトな風合いの糸となる。そのような糸を使用して織物や編物を製造すれば、独特の風合いを持った繊維製品を得ることができる。また、本発明の第1の実施態様にかかる混紡糸を使用して織物や編物を製造した後、当該織物または編物に含まれる水溶性繊維を溶解除去しても、独特の風合いを持った繊維製品を得ることができる。
【0012】
また、本発明の第2の実施態様にかかる混紡糸は、例えば空気精紡機を使用して紡出可能であるため、高い生産性で生産され得る。
【0013】
また、本発明の第3の実施態様にかかる混紡糸は、獣毛としてカシミヤ山羊の毛を採用しているので、柔らかくて保温性が良い繊維製品の製造に利用可能である。
【0014】
また、本発明の第4の実施態様にかかる混紡糸は、水溶性繊維として水中溶解温度が摂氏30度以上かつ摂氏50度以下であるものを採用しているので、常温において水溶性繊維が溶解することなく、また、高温に弱い高級獣毛を使用している場合においても繊維自体に与えるダメージを最小限に抑えつつ水溶性繊維を溶解除去することができる。
【0015】
また、本発明の第5の実施態様かかる繊維製品の製造方法によれば、水溶性繊維の強度の付加された混紡糸を用いて製織もしくは製編が行われるため、その工程管理にさほどの困難性を伴わず、その後の水溶性繊維の溶解除去により、容易に弾力性や軽さを有し、かつ独特の風合いを備える繊維製品を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、従来技術にかかる交撚糸を用いて製造された繊維製品と、本発明にかかる混紡糸を用いて製造された繊維製品との違いを説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(実施形態)
以下、本発明にかかる混紡糸および当該混紡糸を用いて繊維製品を製造する製造方法の一実施形態を説明する。
【0018】
本実施形態にかかる混紡糸は、カシミヤ山羊の毛の繊維と水中溶解温度が摂氏40度の水溶性ビニロン繊維とを混紡して得られる。また、本実施形態にかかる製造方法においては、上記のようにして得られる混紡糸を使用してセーターが製編され、その後に摂氏40度以上のお湯で当該セーター内に含まれる水溶性ビニロン繊維が溶解除去されることにより、最終製品としてのセーターが製造される。
【0019】
カシミヤ山羊の毛の繊維と水溶性ビニロン繊維とは、各々、例えば重量比7:3で混合する。この混合の割合は、最終的に得たい繊維製品の弾力性や軽さ等に応じて適宜選択すればよい。
【0020】
本発明の実施において採用可能な紡績方法は、獣毛繊維を材料とする既存の紡績方法であればいずれのものであってもよい。以下、それらの方法の一例を簡単に説明する。
上述のカシミヤ山羊の毛の繊維と水溶性ビニロン繊維とを混合した後、もつれ合った繊維を解きほぐしつつ、原料の中のゴミ等の異物を取り除き、一定の厚さと幅を有するシート状の繊維の集まり(ラップ)にする。この工程は、例えば混打綿機により行われる。
【0021】
次に、シート状の繊維を細かい無数の針の間に通して開きながら、前の工程で除去されなかった不要物等を取り除く。そして、その繊維をまっすぐに引き伸ばして平行にそろえ、太いロープ状のもの(スライバー)を作る。この工程は、例えば梳綿機により行われる。
【0022】
次に、何本かのスライバーを引き延ばしながらまとめて1本のスライバーにする。この際、繊維の方向は更にそろえられる。この工程は、例えば練条機により行われる。
【0023】
次に、スライバーに撚りを加えながら更に引き延ばし、細い紐状のもの(粗糸)を作る。この工程は、例えば粗紡機により行われる。そして、粗糸にさらに撚りを加えながら引き延ばし、適当な太さおよび撚り数の糸をつくる。この工程は、例えばリング精紡機により行われる。
【0024】
このようにして混紡糸がつくられる。なお、本明細書中において、水溶性繊維を溶解除去する前の糸を「混紡糸」と呼び、それと区別するために水溶性繊維を溶解除去した後の糸を「紡績糸」と呼ぶことにする。
【0025】
なお、本実施形態では、非水溶性繊維として100パーセントのカシミヤ山羊の毛の繊維を採用するものとするが、目的に応じ、カシミヤ山羊の毛の繊維を他の種類の非水溶性繊維と所望の重量比で混合して得られる非水溶性繊維を採用してもよいし、カシミヤ山羊の毛に代えて、アルパカの毛、羊毛等の他の獣毛繊維を採用してもよい。獣毛繊維に混合する非水溶性繊維としては、例えば、綿、麻、シルク等の天然繊維や、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリルニトリル等の合成繊維がある。
【0026】
また、同様に、本実施形態では、水溶性繊維として水中溶解温度が摂氏40度の水溶性ビニロン繊維を採用しているが、常温で溶解せずかつ獣毛の繊維にダメージを与えないという目的から、水中溶解温度が摂氏30度以上かつ摂氏50度以下の水溶性ビニロン繊維であればよい。また、同様の水中溶解温度条件を満たす、水溶性ビニロン繊維以外の水溶性繊維を採用してもよい。
【0027】
次に、得られた混紡糸を使用してセーターを製編する。セーターは、一般に弾力性や軽さに加え、その風合いが重視される繊維製品の一つであり、本発明の効果がよく現れるため、本実施形態において繊維製品の具体例として選択されている。したがって、弾力性、軽さおよび風合いが重視される繊維製品であれば、セーター以外の繊維製品のいずれが本発明にかかる方法により製造されてもよい。また、製編に限られず製織によって製造される繊維製品であってもよい。さらに、上述の混紡糸を全体に用いなくとも、少なくとも一部に使用したものであれば、上述の目的において一定の効果を得ることはできる。
【0028】
製編されたセーターは、摂氏40度以上の温度の水(例えば摂氏60度のお湯)で処理されることにより、水溶性ビニロン繊維が溶解除去される。これにより、上述の目的が達成され、結果として独特の空気感を有する風合いのセーターが得られる。ここで、お湯の温度は摂氏60度以外の温度であってもよいが、比較的高い温度で長時間にわたり溶解除去処理を行うと、獣毛の繊維に多大なダメージを与えることとなり、また、比較的低い温度で短時間だけ溶解除去処理を行うと、水溶性繊維の種類によっては一部が製品に残留してしまうこととなる。
【0029】
なお、混紡糸を製編等した後に水溶性繊維を溶解除去して繊維製品を得る方法以外に、先に水溶性繊維を溶解除去した紡績糸を製編等することにより繊維製品を製造する方法を採用してもよい。
【0030】
(変形例)
上述した実施形態は、本発明の技術的思想の範囲内で様々に変形可能である。以下にその変形例を示す。
【0031】
上述の紡績の工程において空気精紡機を用いれば、混紡糸の生産性を高めることができる。具体的には、上述の練条機によって作られたスライバーを空気精紡機に供給し、当該空気精紡機から混紡糸を紡出する。
【0032】
このようにして作られた混紡糸は、撚りのほとんど無い繊維群である中心部分と、その中心部分を束ねるように当該中心部分に巻き付く繊維群である結束部分と、から構成される。
【0033】
この場合、上述の中心部分が主にカシミヤ山羊の毛の繊維(カシミヤ山羊の毛の繊維が重量比0.5より多く含まれるもの)からなり、結束部分が主に水溶性ビニロン繊維(水溶性ビニロン繊維が重量比0.5より多く含まれるもの)からなる構成とすれば、当該水溶性ビニロン繊維を溶解除去することにより、主として当該結束部分を構成する繊維群の量が減少して結束状態が緩み、結果としてソフトで風合いがよく、かつ軽さを備えた繊維製品を得ることができる。
【0034】
なお、中心部分を主にカシミヤ山羊の毛の繊維で構成し、結束部分を主に水溶性ビニロン繊維で構成するためには、後者の繊維長を前者の繊維長よりも30パーセント程度長くして混紡する方法を採用することが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0035】
また、カシミヤ山羊の毛の繊維および水溶性ビニロン繊維を混合する際に、両者の重量比や繊維長を調整することにより、目的に応じた弾力性や軽さを持つ繊維製品を得ることができる。
【0036】
なお、図1(a)は、特許文献1に示される交撚糸1を用いて製造された繊維製品のイメージを表した図であり、図1(b)は、本発明にかかる混紡糸2を用いて製造された繊維製品のイメージを表した図である。
【0037】
図に示されるように、特許文献1の交撚糸1を用いて製織・製編された繊維製品から水溶性繊維を溶解除去した場合、白丸で表される水溶性紡績糸の部分が溶け落ちて黒丸で表される非水溶性紡績糸の部分のみがそのまま残る。
【0038】
それに対して、本発明にかかる混紡糸2(もしくはそれを用いて製織・製編された繊維製品)から水溶性繊維を溶解除去した場合、繊維製品を構成する糸の本数に変化はないが、各々の糸自体から水溶性繊維の部分が溶け落ちて、1本1本の糸がスポンジ性を有する構成になる。その結果、風合いのある独特の空気感を持つ繊維製品が製造される。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の混紡糸もしくは繊維製品の製造方法によれば、弾力性や軽さを具備するだけでなく、ソフトで風合いが良く、独特の空気感を持つ繊維製品を製造することができる。
以上のことから、本発明の混紡糸もしくは繊維製品の製造方法は、様々な繊維製品の製造に適用することが可能であり、帽子、下着、手袋、靴下の製造などにも利用されることが期待できる。
【符号の説明】
【0040】
1…特許文献1に示される交撚糸、2…本発明にかかる混紡糸。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
獣毛繊維を材料として含む非水溶性繊維と、水溶性繊維と、を混紡することにより得られる
混紡糸。
【請求項2】
前記非水溶性繊維を重量比で0.5より多く含む中心部分と、
前記水溶性繊維を重量比で0.5より多く含み、前記中心部分を束ねるように前記中心部分に巻き付く結束部分と、を備える
請求項1に記載の混紡糸。
【請求項3】
前記獣毛は、カシミヤ山羊の毛である
請求項1または2に記載の混紡糸。
【請求項4】
前記水溶性繊維は、水中溶解温度が摂氏30度以上かつ摂氏50度以下である
請求項1乃至3のいずれかに記載の混紡糸。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の混紡糸を少なくとも一部に使用した織物もしくは編物を製造する工程と、
前記織物もしくは編物に含まれる前記水溶性繊維を、当該水溶性繊維の水中溶解温度以上の温度の水で溶解除去する工程と、を備える
繊維製品の製造方法。



【図1】
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【公開番号】特開2010−275677(P2010−275677A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132298(P2009−132298)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(508348934)株式会社リシンドージャパン (1)
【Fターム(参考)】