獣毛採取装置、及び動物の生態調査方法
【課題】動物への損傷を低減して、獣毛を採取できる技術を提供する。
【解決手段】動物が侵入自在な筒状の本体部2と、本体部2の内面に設けられ、動物が侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部3と、を備える。
【解決手段】動物が侵入自在な筒状の本体部2と、本体部2の内面に設けられ、動物が侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部3と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛採取装置、及び動物の生態調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クマ類を対象とした個体数推定法に関する報告として、非特許文献1の文献がある。非特許文献1には、森林内に有刺鉄線を張り、そこを通過したクマの体毛を採取すること、採取した体毛のDNA分析により個体を識別し、捕獲採取法(capture-mark-recapture method, CMR法)の原理を用いて個体数を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「哺乳類科学 48(1):101―107,2008 日本哺乳類学会」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動物の生態調査が従来から行われている。生態調査の手法として、動物を捕獲する方法の他、捕獲せずに調査可能な手法としてヘア・トラップを設置して動物の獣毛を採取し、採取した獣毛から個体数を推定する方法(以下、ヘア・トラップを用いた個体数推定方法という)がある。ヘア・トラップを用いた個体数推定方法については、非特許文献1において、クマの体毛を採取するためのヘア・トラップとして有刺鉄線を用いたものが報告されている。但し、有刺鉄線を用いたヘア・トラップは、動物に損傷を与える恐れがある。また、有刺鉄線を用いたヘア・トラップは、クマのような大型の動物用に開発されたものにすぎない。
【0005】
本発明では、上記した背景に鑑み、動物への損傷を低減して、獣毛を採取できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、動物が侵入自在な筒状の本体部の内面に、動物が侵入した際に動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部を設けることとした。
【0007】
より詳細には、本発明は、動物が侵入自在な筒状の本体部と、前記本体部の内面に設けられ、前記動物が侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部と、を備える獣毛採取装置である。
【0008】
本発明に係る獣毛採取装置では、筒状の本体部内に採取部が設けられていることから、本体部内に侵入した動物の獣毛が採取部と接触する。その結果、獣毛の一部が採取部と引っ掛かり、獣毛が採取される。本体部の形状や寸法は限定されないが、獣毛の採取を効率よく行うため、本体部の断面積は、獣毛の採取対象となる動物の体型に基づいて設計することが好ましい。すなわち、本体部の断面は、動物が侵入でき、かつ、侵入した際に獣毛が本体部の内面に設けられた採取部と接触する形状とすることが好ましい。
【0009】
ここで、本発明に係る獣毛採取装置において、前記採取部は、フック状の起毛部、ループ状の起毛部、櫛状の起毛部とのうち、少なくともいずれか一つを有する構成とすることができる。採取部を上記のように構成することで、獣毛を引っ掛けることができ、また、引っ掛けた獣毛を保持することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る獣毛採取装置における採取部の一例として、前記採取部は、面ファスナによって構成してもよい。本発明によれば、既存の面ファスナの起毛を利用して獣毛を採取することができる。
【0011】
また、本発明に係る獣毛採取装置において、前記本体部は、折りたたみ自在としてもよい。折りたたみ自在とすることで、搬送や保管が容易となる。
【0012】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記本体部内に設けられ、前記動物の進路を規制する凹凸部を更に備える構成としてもよい。凹凸部を備えることで、本体部内に侵入した際の本体部内における動物の進路が規制される。その結果、動物が一方の内面により接近し、採取部との抵抗が増加する。よって、より確実に獣毛を採取することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記本体部内に設けられ、前記動物を本体部内に誘い込む誘導部を更に備える構成としてもよい。誘導部は、獣毛の採取対象となる動物が嗜好する餌や、動物を誘き出すことが可能な臭いを発する発臭体や、動物を誘き出すことが可能な光を発する発光体などによって構成することができる。なお、誘導部は、動物を誘導可能、換言すると誘き出すことが可能なものであればその態様は限定されない。
【0014】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記動物が前記本体部へ進入したか否かを外部に対して通知する通知部を更に備える構成としてもよい。通知部を備えることで、外部から動物の進入の有無を確認することができ、一つ一つ本体部内を確認する場合に比べて、作業を効率化することができる。
【0015】
ここで、本発明は、上述した獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法として特定することもできる。例えば、本発明は、上述した獣毛採取装置で採取された獣毛を取得する獣毛取得行程と、前記獣毛取得行程で取得された獣毛をDNA解析する解析行程と、を備える動物の生態調査方法である。
【0016】
本発明に係る動物の生態調査方法によれば、獣毛採取装置で採取された獣毛をDNA解析することで、獣毛を採取した動物の個体識別や個体数の推定などが可能となる。すなわち、獣毛採取装置により、動物の生態を把握することができる。
【0017】
なお、本発明に係る動物の生態調査方法は、上述した獣毛採取装置を設置する設置行程を更に備えるようにしてもよい。設置行程では、獣毛の採取対象となる動物の習性を考慮して獣毛採取装置を設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、動物への損傷を低減して、獣毛を採取できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】実施形態に係る獣毛装置の斜視図を示す。
【図1B】実施形態に係る獣毛装置の断面図を示す。
【図2】実施形態に係る獣毛装置の設置状況の一例を示す。
【図3】実施形態に係る獣毛装置による獣毛の採取を説明する図を示す。
【図4】獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法のフローを示す。
【図5】獣毛採取装置の設置位置を示す平面図を示す。
【図6】設置位置及び獣毛採取の有無を示す。
【図7】DNA分析サンプルの一覧を示す。
【図8】分析結果の一覧を示す。
【図9】変形例1に係る獣毛採取装置を示す。
【図10】変形例2に係る獣毛採取装置を示す。
【図11】変形例3に係る獣毛採取装置を示す。
【図12】変形例4に係る獣毛採取装置を示す。
【図13】L字状の獣毛採取装置を示す。
【図14】入口及び出口が中央部よりも狭く形成されている獣毛採取装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る獣毛採取装置及び獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、ニホンリスの獣毛を採取する場合を例に説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示であり、本発明は以下に説明する実施形態に限定されない。
【0021】
<獣毛採取装置の構成>
図1A、図1Bに示すように、実施形態に係る獣毛採取装置1は、本体部2、採取部3を備える。
【0022】
本体部2は、円筒形状であり、本体部2の径は、ニホンリスが侵入した際に内面に接続された採取部3がニホンリスの体と接触する寸法に設計されている。材質は、特に限定されず、実施形態に係る本体部2は、樹脂製である。また、実施形態に係る本体部2は、狭小なトンネル状の場所を潜るニホンリスの習性を利用したものである。なお、図1に示す本体部2は、ペットボトルの上部と下部を切断したものを用いている。本体部2の形状や寸法は、獣毛の採取対象となる動物の種類、大きさ、習性等を考慮して適宜設計することができる。
【0023】
採取部3は、本体部2の内面に面状に設けられ、ニホンリスが本体部2内に侵入した際に侵入したニホンリスの獣毛と接触してニホンリスの獣毛を採取する。実施形態に係る獣毛採取装置1では、採取部3に面ファスナを用いている。実施形態では、採取部3が両面テープを用いて本体部2の内面に接続されている。実施形態に係る面ファスナからなる採取部3は、帯状であり、帯状の長手方向と本体部2の長手方向とが一致し、かつ、各帯状の採取部3が互いに平行になるように本体部2の内面に接続されている。また、採取部3の表面には、フック状の起毛が複数設けられている。採取部3は、獣毛が引っ掛かる形状を有していればよく、採取部3の形状や寸法は、獣毛の採取対象となる動物の種類、大きさ、習性等を考慮して適宜設計することができる。採取部3の表面の起毛は、ループ状の起毛でもよく、また、フック状の起毛とループ状の起毛とを組み合わせてもよい。更に、採取部3は、面ファスナに代えて粘着テープ、櫛、ブラシ等を用いてもよい。
【0024】
<使用方法>
図2は、実施形態に係る獣毛装置の設置状況の一例を示す。実施形態に係る獣毛採取装置1は、樹木の例えば地上から1.5mの高さに接続して用いる。また、実施形態に係る獣毛採取装置1は、平面上10m間隔で設置することができる。平面上の間隔や地上からの高さは、例えば捕獲を目的とした過去の実験例に基づいて設定することができる。
【0025】
図3は、実施形態に係る獣毛装置による獣毛の採取を説明する図を示す。図3に示すように、獣毛装置1をニホンリスが通過すると、ニホンリスの獣毛の一部が採取部3のフック状の起毛に引っ掛かり、獣毛が採取される。採取部3によって採取された獣毛は、例えばピンセット等を用いて採取する。ピンセットで採取した獣毛をDNA解析する場合には、獣毛を冷凍保存可能な容器等に入れ、解析先の研究所等へ搬送する。
【0026】
<獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法>
上述した実施形態に係る獣毛採取装置1を用いて、ニホンリスの生態調査が可能となる。図4は、獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法のフローを示す。図4に示す生態調査は、トラップ作成工程、トラップ設置工程、モニタリング調査工程、DNA分析工程を備える。以下、実際に行った生態調査に基づいて説明する。実際に行った生態調査は、ニホンリスの生態を把握するために既に実施したテレメトリー調査や捕獲調査を、より効率よく、かつ生物資源保護の観点から生態を把握するべく行った。
【0027】
(トラップ作成工程)
トラップ作成工程では、ニホンリスの獣毛を採取するためのトラップが作成される。本生態調査では、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1を作成した(図1A、図1B参照)。
【0028】
(トラップ設置工程・モニタリング調査)
トラップ設置工程では、トラップ作成工程で作成されたトラップが設置される。
【0029】
(予備調査)
ここで、本生態調査では、作成した獣毛採取装置1が想定どおりに獣毛を採取することが可能かどうかを確認するための予備調査を行った。予備調査では、ニホンリスの代わりにシマリスを用い、室内に設置したゲージ内に獣毛採取装置1を設置し、経過観察を行った。その結果、獣毛採取装置1の設置から3日目に獣毛の採取が確認された。その後も2〜3日おきに獣毛の採取が確認できたため、獣毛採取装置1の有効性を確認し、獣毛採取装置1の設置から1ヶ月(30日)をもって予備調査を終了した。
【0030】
また、予備調査では、予備調査で採取したシマリスの獣毛からDNA分析を行い、GenBankで検索した結果、シマリスであるとの判断を得ることができた。また、DNA分析の
結果から、遺伝的に北海道産に近いことが推定された。なお、予備試験の結果から以下の成果を得ることができた。
・獣毛からDNAを抽出することが可能であること。
・毛根がついていれば、確実にDNAデータを得ることが可能であること。
・毛根が失われていても2cm程度の長さのサンプルがあれば、DNAデータを 得ることが可能であること。
・毛根が失われていて、かつ2cm以下の長さのサンプルであっても、3本程度 のサンプル量があればDNAデータをえることが可能であること。
【0031】
(フィールド調査)
予備調査の結果から、獣毛採取装置1を屋外フィールドに実際に設置し経過観察を行った。図5は、獣毛採取装置の設置位置を示す平面図を示す。図6は、設置位置及び獣毛採取の有無を示す。本生態調査では、トラップとしての獣毛採取装置1を平面上において、隣接する獣毛採取装置1同士の間隔が10mとなるよう樹木に設置した。樹木に設置する際の地上からの高さは、1.5mとした。平面上の間隔や地上からの高さは、例えば捕獲を目的とした過去の実験例に基づいて設定することができる。本生態調査では、ニホンリスが実際に確認された地点、ねぐら近傍、コリドー(移動路)の近傍など、計12箇所に設置した。経過観察は隔週で実施し、設置から撤去まで計9回行った。その結果、図6に示すように、獣毛が6箇所で採取された。
【0032】
(DNA分析)
DNA分析では、獣毛のDNA分析が行われる。本生態調査では、上記フィールド調査でえられた獣毛(6サンプル)に加えて、別調査の捕獲個体から得られた獣毛(2サンプル)、更に別の調査による捕獲個体から得られた獣毛及び組織(4サンプル、組織片)に
ついてDNA分析が行われた。図7は、DNA分析サンプルの一覧を示す。図7に示すDNAサンプルについて、Microsatellite markerであるLis6(F・R)プライマー用いてPC
R法による増幅を行い、フラグメント解析を行った。
【0033】
その結果、図8に示す分析結果を得ることができた。図8に示すように、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1からは、分析に十分な反応ピークを得ることができた(図8では、「12SrRNA」の項目の「○」で示す)。そして、12SrRNAの部分領域について得られた増幅産物について塩基配列分析を行ったところ、増幅産物が得られた、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1については、367塩基対の配列を決定することができた。決定された塩基配列についてBLAST検索(ホモロジー検索)を行ったところ、GenBankに登録されているニホンリス(accession number:D50286)に最も近いことが確認された。従って、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1は、ニホンリスであることが確認された。また、ニホンリスと確認された、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1については、Lis6(F・R)プライマーでは複数のピークが出現したため、遺伝子型の推定及び個体識別は出来なかったが、Lis20(F・R)プライマーでは、遺伝子型の推定及び個体識別が可能であった(図
8では、「Lis20の遺伝子型」の項目の「○」で示す)。
【0034】
また、図8に示すように、サンプルNO(3)−2〜4、及び(4)−1、(5)、(6)については、Lis6(F・R)プライマーで増幅が得られず分析に十分な反応ピークを得ることができなかった(図8では、「12SrRNA」の項目の「×」で示す)。
【0035】
以上説明した実際に行った生態調査により、獣毛採取装置1によって獣毛を採取し、DNA解析を行うことで種判別及び個体識別が可能であることが確認された。なお、獣毛は、毛根のついた状態か、ある程度の数(例えば、3本以上)及び大きさのサンプルが必要であることも確認された。
【0036】
<作用効果>
以上説明した実施形態に係る獣毛採取装置1では、筒状の本体部2内に面状の採取部3が設けられていることから、本体部2内に侵入したニホンリスの獣毛が採取部3と接触する。その結果、獣毛の一部が採取部3の起毛と引っ掛かり、獣毛が採取される。従って、実施形態に係る獣毛採取装置1によれば、ニホンリスに対して損傷を与えることなく、ニホンリスの獣毛を採取することができる。また、獣毛採取装置1によって採取した獣毛についてDNA解析を行うことで、ニホンリスの種判別及び個識別が可能となる。すなわち、テレメトリー調査や捕獲調査によらずに、従来よりも効率よく、かつ生物資源保護を考慮して生態を把握することができる。
【0037】
<変形例>
次に、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1の変形例について説明する。
【0038】
(変形例1)
図9は、変形例1に係る獣毛採取装置を示す。変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部2の径を調節自在であり、更に、折り畳みが可能である。図9において、(a)は使用時(径:大)、(b)は使用時(径:小)、(c)は折り畳み時を示す。
【0039】
変形例1に係る獣毛採取装置1aは、実施形態に係る獣毛採取装置1の構成に加えて、本体部2aの径を調整する調節部4を更に備える。調節部4は、本体部2の長手方向に沿って設けられた切り込み部41と、切り込み部41の近傍、かつ本体部2aの外面に設けられ、本体部2aの内面に接続された採取部3aとしての面ファスナと接続自在な面ファスナからなる接続部42とを備える。更に、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部
2aの内面に接続された採取部3aを構成する面ファスナが、対向する位置において互いに異なる形状の起毛となるよう配置されている。例えば、採取部3aは、採取部を構成する面ファスナの雄と雌が対向するように構成されている。なお、面ファスナが雄雌兼用の場合には、調節部4としての面ファスナ、採取部3としての面ファスナを全て同じもので構成することができる。
【0040】
変形例1に係る獣毛採取装置1aでは、接続部42の接続位置を調整することで、本体部2の径を自由に変更することができる。従って、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、ニホンリスだけでなく、例えばニホンリスとは体格が異なる種々の動物の獣毛を採取する装置として用いることができる。すなわち、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、獣毛の採取対象となる動物の種類や体格等にかかわらず、幅広く用いることができる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、獣毛採取装置1aに対して外力を加えて押し潰すことで、対向する採取部3aを構成する面ファスナ同士が接続され、押し潰された状態が維持される。従って、折り畳んだ状態で、搬送や保管が可能となる。なお、より折り畳み易くするため、本体部2aの長手方向に沿って折り畳みを補助する線状の薄肉部を更に設けるようにしてもよい。
【0041】
以上説明した変形例1に係る獣毛採取装置1aでは、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1と同じく、ニホンリスに対して損傷を与えることなく、ニホンリスの獣毛を採取することができる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aによって採取した獣毛についてDNA解析を行うことで、ニホンリスの種判別及び個体識別が可能となる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部2aの径を調整自在であることから、獣毛の採取対象となる動物の種類や体格等にかかわらず、幅広く用いることができる。更に、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、折り畳むことができ、折り畳んだ状態で、搬送や保管が可能となる。
【0042】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る獣毛採取装置を示す。変形例2に係る獣毛採取装置1bは、本体部2b内に、動物の進路を規制する凹凸部を更に備える。変形例2では、凹凸部として、本体部2bの一方の側面に突部5が形成されている。その結果、本体部2b内に侵入した際の本体部2b内におけるニホンリスの進路が狭くなり、ニホンリスの進路が規制される。その結果、図10に示す例では、ニホンリスの一方の側面が本体部2b内の側面に接近し、採取部3bとの抵抗がより増加する。その結果、より確実に獣毛を採取することが可能となる。
【0043】
(変形例3)
図11は、変形例3に係る獣毛採取装置を示す。変形例3に係る獣毛採取装置1cは、本体部2c内に、ニホンリスを本体部2c内に誘い込む餌からなる誘導部6を更に備える。餌には、ニホンリスが嗜好する木の実を用いることができる。その結果、ニホンリスをより確実に本体部2c内に誘い込むことができ、獣毛をより確実に採取することができる。なお、誘導部6には、獣毛の採取対象となる動物が嗜好する餌を適宜用いることができる。また、誘導部6には、餌に代えて、動物を誘い込むことが可能な臭いを発する発臭体や、動物を誘い込むことが可能な光を発する発光体などを用いてもよい。
【0044】
(変形例4)
図12は、変形例4に係る獣毛採取装置を示す。変形例4に係る獣毛採取装置1dは、ニホンリスが本体部2dへ進入したか否かを外部に対して通知する通知部7を更に備える。変形例4の通知部は、本体部2の壁の一部に設けられ、ニホンリスが接触すると回転する回転体によって構成されている。回転体の内側面に目立つ色を施すことで、回転体が回転して内側面が外部に露出した際に、獣毛採取装置1の外側から回転体の回転の有無を容
易に識別することができる。すなわち、通知部7を備えることで、外側からニホンリスの進入の有無を確認することができ、一つ一つ本体部2内を確認する場合に比べて、作業を効率化することができる。なお、通知部7は、例えば誘導部としての餌に紐を接続し、更に紐の先端にマーカを接続しておき、ニホンリスが餌を持ち出すことで紐の先端に接続されたマーカが本体部2dの外に露出するようにしてもよい。このような構成によっても、外側からニホンリスの進入の有無を確認することができる。
【0045】
(その他の変形例)
上述した実施形態に係る獣毛採取装置1、及び各変形例に係る獣毛採取装置は、本体部2が直線状の筒によって構成されているが、本体部2は、図13に示すようにL字状の筒によって構成してもよい。また、本体部2は、径が異なる領域を有する構成としてもよい。図14に示す獣毛採取装置は、入口及び出口が中央部よりも狭く形成されている。図13や図14に示すように本体部2の形状に変化をもたせることで、ニホンリスが本体部2の内面に接続された接触部3に接触する可能性が増加する。その結果、より確実に獣毛を採取することができる。
【0046】
以上本発明の獣毛採取装置及び獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。また、上述した実施形態では、ニホンリスの獣毛を採取する場合を例に説明したが、獣毛採取装置1の本体部2の径を適宜変更することで、本発明の獣毛採取装置は、他の動物の獣毛の採取にも幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1・・・獣毛採取装置
2・・・本体部
3・・・採取部
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛採取装置、及び動物の生態調査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クマ類を対象とした個体数推定法に関する報告として、非特許文献1の文献がある。非特許文献1には、森林内に有刺鉄線を張り、そこを通過したクマの体毛を採取すること、採取した体毛のDNA分析により個体を識別し、捕獲採取法(capture-mark-recapture method, CMR法)の原理を用いて個体数を推定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「哺乳類科学 48(1):101―107,2008 日本哺乳類学会」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
動物の生態調査が従来から行われている。生態調査の手法として、動物を捕獲する方法の他、捕獲せずに調査可能な手法としてヘア・トラップを設置して動物の獣毛を採取し、採取した獣毛から個体数を推定する方法(以下、ヘア・トラップを用いた個体数推定方法という)がある。ヘア・トラップを用いた個体数推定方法については、非特許文献1において、クマの体毛を採取するためのヘア・トラップとして有刺鉄線を用いたものが報告されている。但し、有刺鉄線を用いたヘア・トラップは、動物に損傷を与える恐れがある。また、有刺鉄線を用いたヘア・トラップは、クマのような大型の動物用に開発されたものにすぎない。
【0005】
本発明では、上記した背景に鑑み、動物への損傷を低減して、獣毛を採取できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、動物が侵入自在な筒状の本体部の内面に、動物が侵入した際に動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部を設けることとした。
【0007】
より詳細には、本発明は、動物が侵入自在な筒状の本体部と、前記本体部の内面に設けられ、前記動物が侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部と、を備える獣毛採取装置である。
【0008】
本発明に係る獣毛採取装置では、筒状の本体部内に採取部が設けられていることから、本体部内に侵入した動物の獣毛が採取部と接触する。その結果、獣毛の一部が採取部と引っ掛かり、獣毛が採取される。本体部の形状や寸法は限定されないが、獣毛の採取を効率よく行うため、本体部の断面積は、獣毛の採取対象となる動物の体型に基づいて設計することが好ましい。すなわち、本体部の断面は、動物が侵入でき、かつ、侵入した際に獣毛が本体部の内面に設けられた採取部と接触する形状とすることが好ましい。
【0009】
ここで、本発明に係る獣毛採取装置において、前記採取部は、フック状の起毛部、ループ状の起毛部、櫛状の起毛部とのうち、少なくともいずれか一つを有する構成とすることができる。採取部を上記のように構成することで、獣毛を引っ掛けることができ、また、引っ掛けた獣毛を保持することが可能となる。
【0010】
また、本発明に係る獣毛採取装置における採取部の一例として、前記採取部は、面ファスナによって構成してもよい。本発明によれば、既存の面ファスナの起毛を利用して獣毛を採取することができる。
【0011】
また、本発明に係る獣毛採取装置において、前記本体部は、折りたたみ自在としてもよい。折りたたみ自在とすることで、搬送や保管が容易となる。
【0012】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記本体部内に設けられ、前記動物の進路を規制する凹凸部を更に備える構成としてもよい。凹凸部を備えることで、本体部内に侵入した際の本体部内における動物の進路が規制される。その結果、動物が一方の内面により接近し、採取部との抵抗が増加する。よって、より確実に獣毛を採取することが可能となる。
【0013】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記本体部内に設けられ、前記動物を本体部内に誘い込む誘導部を更に備える構成としてもよい。誘導部は、獣毛の採取対象となる動物が嗜好する餌や、動物を誘き出すことが可能な臭いを発する発臭体や、動物を誘き出すことが可能な光を発する発光体などによって構成することができる。なお、誘導部は、動物を誘導可能、換言すると誘き出すことが可能なものであればその態様は限定されない。
【0014】
また、本発明に係る獣毛採取装置は、前記動物が前記本体部へ進入したか否かを外部に対して通知する通知部を更に備える構成としてもよい。通知部を備えることで、外部から動物の進入の有無を確認することができ、一つ一つ本体部内を確認する場合に比べて、作業を効率化することができる。
【0015】
ここで、本発明は、上述した獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法として特定することもできる。例えば、本発明は、上述した獣毛採取装置で採取された獣毛を取得する獣毛取得行程と、前記獣毛取得行程で取得された獣毛をDNA解析する解析行程と、を備える動物の生態調査方法である。
【0016】
本発明に係る動物の生態調査方法によれば、獣毛採取装置で採取された獣毛をDNA解析することで、獣毛を採取した動物の個体識別や個体数の推定などが可能となる。すなわち、獣毛採取装置により、動物の生態を把握することができる。
【0017】
なお、本発明に係る動物の生態調査方法は、上述した獣毛採取装置を設置する設置行程を更に備えるようにしてもよい。設置行程では、獣毛の採取対象となる動物の習性を考慮して獣毛採取装置を設置することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、動物への損傷を低減して、獣毛を採取できる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】実施形態に係る獣毛装置の斜視図を示す。
【図1B】実施形態に係る獣毛装置の断面図を示す。
【図2】実施形態に係る獣毛装置の設置状況の一例を示す。
【図3】実施形態に係る獣毛装置による獣毛の採取を説明する図を示す。
【図4】獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法のフローを示す。
【図5】獣毛採取装置の設置位置を示す平面図を示す。
【図6】設置位置及び獣毛採取の有無を示す。
【図7】DNA分析サンプルの一覧を示す。
【図8】分析結果の一覧を示す。
【図9】変形例1に係る獣毛採取装置を示す。
【図10】変形例2に係る獣毛採取装置を示す。
【図11】変形例3に係る獣毛採取装置を示す。
【図12】変形例4に係る獣毛採取装置を示す。
【図13】L字状の獣毛採取装置を示す。
【図14】入口及び出口が中央部よりも狭く形成されている獣毛採取装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る獣毛採取装置及び獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法の実施形態について図面に基づいて説明する。以下の説明では、ニホンリスの獣毛を採取する場合を例に説明する。なお、以下に説明する実施形態は例示であり、本発明は以下に説明する実施形態に限定されない。
【0021】
<獣毛採取装置の構成>
図1A、図1Bに示すように、実施形態に係る獣毛採取装置1は、本体部2、採取部3を備える。
【0022】
本体部2は、円筒形状であり、本体部2の径は、ニホンリスが侵入した際に内面に接続された採取部3がニホンリスの体と接触する寸法に設計されている。材質は、特に限定されず、実施形態に係る本体部2は、樹脂製である。また、実施形態に係る本体部2は、狭小なトンネル状の場所を潜るニホンリスの習性を利用したものである。なお、図1に示す本体部2は、ペットボトルの上部と下部を切断したものを用いている。本体部2の形状や寸法は、獣毛の採取対象となる動物の種類、大きさ、習性等を考慮して適宜設計することができる。
【0023】
採取部3は、本体部2の内面に面状に設けられ、ニホンリスが本体部2内に侵入した際に侵入したニホンリスの獣毛と接触してニホンリスの獣毛を採取する。実施形態に係る獣毛採取装置1では、採取部3に面ファスナを用いている。実施形態では、採取部3が両面テープを用いて本体部2の内面に接続されている。実施形態に係る面ファスナからなる採取部3は、帯状であり、帯状の長手方向と本体部2の長手方向とが一致し、かつ、各帯状の採取部3が互いに平行になるように本体部2の内面に接続されている。また、採取部3の表面には、フック状の起毛が複数設けられている。採取部3は、獣毛が引っ掛かる形状を有していればよく、採取部3の形状や寸法は、獣毛の採取対象となる動物の種類、大きさ、習性等を考慮して適宜設計することができる。採取部3の表面の起毛は、ループ状の起毛でもよく、また、フック状の起毛とループ状の起毛とを組み合わせてもよい。更に、採取部3は、面ファスナに代えて粘着テープ、櫛、ブラシ等を用いてもよい。
【0024】
<使用方法>
図2は、実施形態に係る獣毛装置の設置状況の一例を示す。実施形態に係る獣毛採取装置1は、樹木の例えば地上から1.5mの高さに接続して用いる。また、実施形態に係る獣毛採取装置1は、平面上10m間隔で設置することができる。平面上の間隔や地上からの高さは、例えば捕獲を目的とした過去の実験例に基づいて設定することができる。
【0025】
図3は、実施形態に係る獣毛装置による獣毛の採取を説明する図を示す。図3に示すように、獣毛装置1をニホンリスが通過すると、ニホンリスの獣毛の一部が採取部3のフック状の起毛に引っ掛かり、獣毛が採取される。採取部3によって採取された獣毛は、例えばピンセット等を用いて採取する。ピンセットで採取した獣毛をDNA解析する場合には、獣毛を冷凍保存可能な容器等に入れ、解析先の研究所等へ搬送する。
【0026】
<獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法>
上述した実施形態に係る獣毛採取装置1を用いて、ニホンリスの生態調査が可能となる。図4は、獣毛採取装置を用いたニホンリスの生態調査方法のフローを示す。図4に示す生態調査は、トラップ作成工程、トラップ設置工程、モニタリング調査工程、DNA分析工程を備える。以下、実際に行った生態調査に基づいて説明する。実際に行った生態調査は、ニホンリスの生態を把握するために既に実施したテレメトリー調査や捕獲調査を、より効率よく、かつ生物資源保護の観点から生態を把握するべく行った。
【0027】
(トラップ作成工程)
トラップ作成工程では、ニホンリスの獣毛を採取するためのトラップが作成される。本生態調査では、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1を作成した(図1A、図1B参照)。
【0028】
(トラップ設置工程・モニタリング調査)
トラップ設置工程では、トラップ作成工程で作成されたトラップが設置される。
【0029】
(予備調査)
ここで、本生態調査では、作成した獣毛採取装置1が想定どおりに獣毛を採取することが可能かどうかを確認するための予備調査を行った。予備調査では、ニホンリスの代わりにシマリスを用い、室内に設置したゲージ内に獣毛採取装置1を設置し、経過観察を行った。その結果、獣毛採取装置1の設置から3日目に獣毛の採取が確認された。その後も2〜3日おきに獣毛の採取が確認できたため、獣毛採取装置1の有効性を確認し、獣毛採取装置1の設置から1ヶ月(30日)をもって予備調査を終了した。
【0030】
また、予備調査では、予備調査で採取したシマリスの獣毛からDNA分析を行い、GenBankで検索した結果、シマリスであるとの判断を得ることができた。また、DNA分析の
結果から、遺伝的に北海道産に近いことが推定された。なお、予備試験の結果から以下の成果を得ることができた。
・獣毛からDNAを抽出することが可能であること。
・毛根がついていれば、確実にDNAデータを得ることが可能であること。
・毛根が失われていても2cm程度の長さのサンプルがあれば、DNAデータを 得ることが可能であること。
・毛根が失われていて、かつ2cm以下の長さのサンプルであっても、3本程度 のサンプル量があればDNAデータをえることが可能であること。
【0031】
(フィールド調査)
予備調査の結果から、獣毛採取装置1を屋外フィールドに実際に設置し経過観察を行った。図5は、獣毛採取装置の設置位置を示す平面図を示す。図6は、設置位置及び獣毛採取の有無を示す。本生態調査では、トラップとしての獣毛採取装置1を平面上において、隣接する獣毛採取装置1同士の間隔が10mとなるよう樹木に設置した。樹木に設置する際の地上からの高さは、1.5mとした。平面上の間隔や地上からの高さは、例えば捕獲を目的とした過去の実験例に基づいて設定することができる。本生態調査では、ニホンリスが実際に確認された地点、ねぐら近傍、コリドー(移動路)の近傍など、計12箇所に設置した。経過観察は隔週で実施し、設置から撤去まで計9回行った。その結果、図6に示すように、獣毛が6箇所で採取された。
【0032】
(DNA分析)
DNA分析では、獣毛のDNA分析が行われる。本生態調査では、上記フィールド調査でえられた獣毛(6サンプル)に加えて、別調査の捕獲個体から得られた獣毛(2サンプル)、更に別の調査による捕獲個体から得られた獣毛及び組織(4サンプル、組織片)に
ついてDNA分析が行われた。図7は、DNA分析サンプルの一覧を示す。図7に示すDNAサンプルについて、Microsatellite markerであるLis6(F・R)プライマー用いてPC
R法による増幅を行い、フラグメント解析を行った。
【0033】
その結果、図8に示す分析結果を得ることができた。図8に示すように、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1からは、分析に十分な反応ピークを得ることができた(図8では、「12SrRNA」の項目の「○」で示す)。そして、12SrRNAの部分領域について得られた増幅産物について塩基配列分析を行ったところ、増幅産物が得られた、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1については、367塩基対の配列を決定することができた。決定された塩基配列についてBLAST検索(ホモロジー検索)を行ったところ、GenBankに登録されているニホンリス(accession number:D50286)に最も近いことが確認された。従って、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1は、ニホンリスであることが確認された。また、ニホンリスと確認された、サンプルNO(1)−1〜4、(2)−1〜2、(3)−1については、Lis6(F・R)プライマーでは複数のピークが出現したため、遺伝子型の推定及び個体識別は出来なかったが、Lis20(F・R)プライマーでは、遺伝子型の推定及び個体識別が可能であった(図
8では、「Lis20の遺伝子型」の項目の「○」で示す)。
【0034】
また、図8に示すように、サンプルNO(3)−2〜4、及び(4)−1、(5)、(6)については、Lis6(F・R)プライマーで増幅が得られず分析に十分な反応ピークを得ることができなかった(図8では、「12SrRNA」の項目の「×」で示す)。
【0035】
以上説明した実際に行った生態調査により、獣毛採取装置1によって獣毛を採取し、DNA解析を行うことで種判別及び個体識別が可能であることが確認された。なお、獣毛は、毛根のついた状態か、ある程度の数(例えば、3本以上)及び大きさのサンプルが必要であることも確認された。
【0036】
<作用効果>
以上説明した実施形態に係る獣毛採取装置1では、筒状の本体部2内に面状の採取部3が設けられていることから、本体部2内に侵入したニホンリスの獣毛が採取部3と接触する。その結果、獣毛の一部が採取部3の起毛と引っ掛かり、獣毛が採取される。従って、実施形態に係る獣毛採取装置1によれば、ニホンリスに対して損傷を与えることなく、ニホンリスの獣毛を採取することができる。また、獣毛採取装置1によって採取した獣毛についてDNA解析を行うことで、ニホンリスの種判別及び個識別が可能となる。すなわち、テレメトリー調査や捕獲調査によらずに、従来よりも効率よく、かつ生物資源保護を考慮して生態を把握することができる。
【0037】
<変形例>
次に、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1の変形例について説明する。
【0038】
(変形例1)
図9は、変形例1に係る獣毛採取装置を示す。変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部2の径を調節自在であり、更に、折り畳みが可能である。図9において、(a)は使用時(径:大)、(b)は使用時(径:小)、(c)は折り畳み時を示す。
【0039】
変形例1に係る獣毛採取装置1aは、実施形態に係る獣毛採取装置1の構成に加えて、本体部2aの径を調整する調節部4を更に備える。調節部4は、本体部2の長手方向に沿って設けられた切り込み部41と、切り込み部41の近傍、かつ本体部2aの外面に設けられ、本体部2aの内面に接続された採取部3aとしての面ファスナと接続自在な面ファスナからなる接続部42とを備える。更に、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部
2aの内面に接続された採取部3aを構成する面ファスナが、対向する位置において互いに異なる形状の起毛となるよう配置されている。例えば、採取部3aは、採取部を構成する面ファスナの雄と雌が対向するように構成されている。なお、面ファスナが雄雌兼用の場合には、調節部4としての面ファスナ、採取部3としての面ファスナを全て同じもので構成することができる。
【0040】
変形例1に係る獣毛採取装置1aでは、接続部42の接続位置を調整することで、本体部2の径を自由に変更することができる。従って、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、ニホンリスだけでなく、例えばニホンリスとは体格が異なる種々の動物の獣毛を採取する装置として用いることができる。すなわち、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、獣毛の採取対象となる動物の種類や体格等にかかわらず、幅広く用いることができる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、獣毛採取装置1aに対して外力を加えて押し潰すことで、対向する採取部3aを構成する面ファスナ同士が接続され、押し潰された状態が維持される。従って、折り畳んだ状態で、搬送や保管が可能となる。なお、より折り畳み易くするため、本体部2aの長手方向に沿って折り畳みを補助する線状の薄肉部を更に設けるようにしてもよい。
【0041】
以上説明した変形例1に係る獣毛採取装置1aでは、上述した実施形態に係る獣毛採取装置1と同じく、ニホンリスに対して損傷を与えることなく、ニホンリスの獣毛を採取することができる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aによって採取した獣毛についてDNA解析を行うことで、ニホンリスの種判別及び個体識別が可能となる。また、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、本体部2aの径を調整自在であることから、獣毛の採取対象となる動物の種類や体格等にかかわらず、幅広く用いることができる。更に、変形例1に係る獣毛採取装置1aは、折り畳むことができ、折り畳んだ状態で、搬送や保管が可能となる。
【0042】
(変形例2)
図10は、変形例2に係る獣毛採取装置を示す。変形例2に係る獣毛採取装置1bは、本体部2b内に、動物の進路を規制する凹凸部を更に備える。変形例2では、凹凸部として、本体部2bの一方の側面に突部5が形成されている。その結果、本体部2b内に侵入した際の本体部2b内におけるニホンリスの進路が狭くなり、ニホンリスの進路が規制される。その結果、図10に示す例では、ニホンリスの一方の側面が本体部2b内の側面に接近し、採取部3bとの抵抗がより増加する。その結果、より確実に獣毛を採取することが可能となる。
【0043】
(変形例3)
図11は、変形例3に係る獣毛採取装置を示す。変形例3に係る獣毛採取装置1cは、本体部2c内に、ニホンリスを本体部2c内に誘い込む餌からなる誘導部6を更に備える。餌には、ニホンリスが嗜好する木の実を用いることができる。その結果、ニホンリスをより確実に本体部2c内に誘い込むことができ、獣毛をより確実に採取することができる。なお、誘導部6には、獣毛の採取対象となる動物が嗜好する餌を適宜用いることができる。また、誘導部6には、餌に代えて、動物を誘い込むことが可能な臭いを発する発臭体や、動物を誘い込むことが可能な光を発する発光体などを用いてもよい。
【0044】
(変形例4)
図12は、変形例4に係る獣毛採取装置を示す。変形例4に係る獣毛採取装置1dは、ニホンリスが本体部2dへ進入したか否かを外部に対して通知する通知部7を更に備える。変形例4の通知部は、本体部2の壁の一部に設けられ、ニホンリスが接触すると回転する回転体によって構成されている。回転体の内側面に目立つ色を施すことで、回転体が回転して内側面が外部に露出した際に、獣毛採取装置1の外側から回転体の回転の有無を容
易に識別することができる。すなわち、通知部7を備えることで、外側からニホンリスの進入の有無を確認することができ、一つ一つ本体部2内を確認する場合に比べて、作業を効率化することができる。なお、通知部7は、例えば誘導部としての餌に紐を接続し、更に紐の先端にマーカを接続しておき、ニホンリスが餌を持ち出すことで紐の先端に接続されたマーカが本体部2dの外に露出するようにしてもよい。このような構成によっても、外側からニホンリスの進入の有無を確認することができる。
【0045】
(その他の変形例)
上述した実施形態に係る獣毛採取装置1、及び各変形例に係る獣毛採取装置は、本体部2が直線状の筒によって構成されているが、本体部2は、図13に示すようにL字状の筒によって構成してもよい。また、本体部2は、径が異なる領域を有する構成としてもよい。図14に示す獣毛採取装置は、入口及び出口が中央部よりも狭く形成されている。図13や図14に示すように本体部2の形状に変化をもたせることで、ニホンリスが本体部2の内面に接続された接触部3に接触する可能性が増加する。その結果、より確実に獣毛を採取することができる。
【0046】
以上本発明の獣毛採取装置及び獣毛採取装置を用いた動物の生態調査方法の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。また、上述した実施形態では、ニホンリスの獣毛を採取する場合を例に説明したが、獣毛採取装置1の本体部2の径を適宜変更することで、本発明の獣毛採取装置は、他の動物の獣毛の採取にも幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
1・・・獣毛採取装置
2・・・本体部
3・・・採取部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物が侵入自在な筒状の本体部と、
前記本体部の内面に設けられ、前記動物が前記本体部に侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部と、を備える獣毛採取装置。
【請求項2】
前記採取部は、フック状の起毛部、ループ状の起毛部、櫛状の起毛部とのうち、少なくともいずれか一つを有する、請求項1に記載の獣毛採取装置。
【請求項3】
前記採取部は、面ファスナからなる、請求項1に記載の獣毛採取装置。
【請求項4】
前記本体部は、径を調節する調節部を更に備える、請求項1から3の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項5】
前記本体部は、折りたたみ自在である、請求項1から4の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項6】
前記本体部内に設けられ、前記動物の進路を規制する凹凸部を更に備える、請求項1から5の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項7】
前記本体部内に設けられ、前記動物を本体部内に誘い込む誘導部を更に備える、請求項1から6の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項8】
前記動物が前記本体部へ進入したか否かを外部に対して通知する通知部を更に備える、請求項1から7の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の獣毛採取装置で採取された獣毛を取得する獣毛取得行程と、
前記獣毛取得行程で取得された獣毛をDNA解析する解析行程と、を備える動物の生態調査方法。
【請求項1】
動物が侵入自在な筒状の本体部と、
前記本体部の内面に設けられ、前記動物が前記本体部に侵入した際に該動物の獣毛と接触して獣毛を採取する採取部と、を備える獣毛採取装置。
【請求項2】
前記採取部は、フック状の起毛部、ループ状の起毛部、櫛状の起毛部とのうち、少なくともいずれか一つを有する、請求項1に記載の獣毛採取装置。
【請求項3】
前記採取部は、面ファスナからなる、請求項1に記載の獣毛採取装置。
【請求項4】
前記本体部は、径を調節する調節部を更に備える、請求項1から3の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項5】
前記本体部は、折りたたみ自在である、請求項1から4の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項6】
前記本体部内に設けられ、前記動物の進路を規制する凹凸部を更に備える、請求項1から5の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項7】
前記本体部内に設けられ、前記動物を本体部内に誘い込む誘導部を更に備える、請求項1から6の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項8】
前記動物が前記本体部へ進入したか否かを外部に対して通知する通知部を更に備える、請求項1から7の何れか1項に記載の獣毛採取装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の獣毛採取装置で採取された獣毛を取得する獣毛取得行程と、
前記獣毛取得行程で取得された獣毛をDNA解析する解析行程と、を備える動物の生態調査方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−213334(P2012−213334A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79308(P2011−79308)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
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