説明

玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット

【課題】廃棄処理が簡便であり、地球環境に影響が少なく、しかも機械的強度に優れた長繊維強化樹脂ペレットを提供する。
【解決手段】玄武岩繊維ロービングを引きながら溶融された熱可塑性樹脂を含浸することにより製造されるペレットであり、玄武岩繊維がペレットの長さ方向に平行に配列しており、長さ4〜50mmである玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玄武岩長繊維で強化され機械的強度等の著しく向上した玄武岩長繊維強化樹脂成形品、それに使用する玄武岩長繊維強化樹脂ペレット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の短繊維強化樹脂に代わる手法として、近年、繊維の折損を起こすことなく長繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物を製造する方法として、引き抜き成形が注目されており、代表例として、特許文献1では、連続したガラス繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら溶融樹脂で含浸する方法が提案されている。
【0003】
また、最近は、かかる長繊維強化可塑性樹脂組成物の技術分野においても、更なる機械的強度改善のため様々な手法が提案され、ガラス繊維の性状を限定したもの(特許文献2参照)や、ペレットの形状を検討したもの(特許文献3参照)がある。
【0004】
一方、近年の環境問題への配慮から、このような長繊維強化可塑性樹脂成形品の分野においても、使用後の廃棄(焼却)について考慮する必要がある。従来、長繊維強化可塑性樹脂成形品では、機械的強度の点から、長繊維としてガラス繊維や炭素繊維が使用されてきた。長繊維としてガラス繊維を使用したものは、焼却段階で溶融し、焼却炉等を汚染するという問題がある。一方、炭素繊維を使用したものは焼却可能であるが、それ自体が高価であり、汎用性に欠けるという問題があった。
【特許文献1】特開平3−121146号公報
【特許文献2】特開2003−192799号公報
【特許文献3】特開2004−300293号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、廃棄処理が簡便であり、地球環境に影響が少なく、しかも機械的強度に優れた長繊維強化樹脂ペレット及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、繊維として玄武岩繊維を用いることにより、機械的強度に優れ、しかも廃棄処理が容易である気球環境にやさしい長繊維強化樹脂を見出し本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち本発明は、玄武岩繊維ロービングを引きながら溶融された熱可塑性樹脂を含浸することにより製造されるペレットであり、玄武岩繊維がペレットの長さ方向に平行に配列しており、長さ4〜50mmである玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット及びその製造法、並びに該玄武岩長繊維強化樹脂ペレットを用いた成形品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機械的強度に優れ、しかも廃棄処理が容易であり、地球環境に影響の少ない繊維強化樹脂ペレット並びに繊維強化樹脂成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(熱可塑性樹脂)
本発明に使用される長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットのマトリックス樹脂は、熱可塑性樹脂であれば全ての樹脂が使用可能である。例えば、一般用ポリスチレン、耐衝撃性ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル、塩素化ポリプロピレン等のハロゲン含有ポリオレフィン樹脂、6−ナイロン、6,6−ナイロン、4,6−ナイロン、11−ナイロン、12−ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリエチルアクリレート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスルホン酸系樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂等の汎用樹脂からスーパーエンプラまで全ての熱可塑性樹脂及びこれらの2種類以上からなるアロイ樹脂が使用可能である。アロイを形成する樹脂は、ここに挙げた熱可塑性樹脂に限定されるものではなく、周知の他の熱可塑性樹脂及びそれらの2種類以上のアロイ樹脂が使用可能である。
【0010】
特に本発明の適用が好ましい熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂を挙げることができる。ポリオレフィン系樹脂として好ましいものは、マレイン酸等で変性されたポリオレフィン(酸変性量0.001〜1重量%)である。かかる酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィンと酸変性ポリオレフィンをブレンドすることにより酸変性量を上記範囲に調整したものであってもよい。このような酸変性ポリオレフィンは、機械的物性の向上により効果的である。
(玄武岩繊維)
次に、本発明で用いられる玄武岩繊維とは、砕石玄武岩を1500〜1600℃程度の高温で溶融した後に引き取ることにより繊維化した連続長繊維であり、多数の単糸が集束されたロービング状のものが各種市販されている。
【0011】
使用する玄武岩繊維の太さ、数、及び長さには特に制限はないが、一般に単糸径で1〜100μm、好ましくは3〜50μm、さらに好ましくは5〜30μmのものが利用できる。
【0012】
一般にガラス繊維や炭素繊維などの繊維束には糸切れ、毛羽発生の抑制のため、あるいは熱可塑性樹脂中への分散性改良のために、エポキシ系、ウレタン系、不飽和カルボン酸、またはその誘導体で変性された変性ポリオレフィン系樹脂等のサイジング剤により処理されているが、本発明で使用する玄武岩繊維もこのようなサイジング剤により処理されたものであってもよい。
【0013】
また、本発明で使用する玄武岩繊維は、熱可塑性樹脂との接着性改良のために各種表面処理剤により処理したものが好ましい。
【0014】
表面処理剤としてはシランカップリング剤が好ましく、シランカップリング剤としては、分子中にエポキシ基、ビニル基、アミノ基、メタクリル基、アクリル基、及び直鎖アルキル基のいずれか1つを有するシランカップリング剤などが使用できる。シランカップリング剤は1種でも良く、2種以上を混合して用いることもできる。シランカップリング剤の中でも、特に、分子中にエポキシ基、アミノ基、直鎖アルキル基を有するエポキシシラン系、アミノシラン系、直鎖アルキルシラン系が好適である。エポキシシラン系シランカップリング剤のエポキシ基としては、グリシジル基、脂環式エポキシ基等が好適であり、かかるシランカップリング剤としては、日本ユニカー(株)製A−186、A−187、AZ−6137、AZ−6165(以上、商品名)等が具体的に挙げられる。アミノシラン系シランカップリング剤としては、1級アミン、2級アミン或いはその双方を有するものが挙げられ、日本ユニカー(株)製A−1100、A−1110、A−1120、Y−9669、A−1160(以上、商品名)等が具体的に挙げられる。また、直鎖アルキルシラン系としては、ヘキシル基、オクチル基、デシル基を有するものが挙げられ、日本ユニカー(株)製AZ−6171、AZ−6177(以上、商品名)、信越シリコーン(株)製KBM−3103C(商品名)等が具体的に挙げられる。
【0015】
中でもアミノシラン系が好ましい。特に、γ−アミノプロピルトリアルコキシシランは好適である。
【0016】
表面処理剤で繊維を処理する場合は、繊維を通常表面処理剤の水溶液中を通過させ、その後乾燥させてケーキ状に巻き取り、樹脂含浸に使用される。表面処理剤の水溶液の濃度は特に限定されるものではないが、通常0.01〜10重量%の水溶液が使用される。
(玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造)
本発明の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットは、強化用連続玄武岩繊維を引きながら熱可塑性樹脂を繊維に含浸させる引き抜き成形法により得られ、樹脂ペレットの製造方法自体は従来の技術をそのまま適用できる。
【0017】
例えば、熱可塑性樹脂に必要に応じて樹脂添加剤を加えて、連続玄武岩繊維をクロスヘッドダイを通して引きながら、熱可塑性樹脂を押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給して強化用連続玄武岩繊維に、熱可塑性樹脂を含浸させ、溶融含浸物を加熱し、冷却後、引き抜き方向と直角に切断して得られるので、該ペレットの長さ方向に玄武岩繊維が同一長さで平行配列している。
【0018】
引き抜き成形は、基本的には連続した強化用繊維束を引きながら樹脂を含浸するものであり、上記クロスヘッドの中を繊維束を通しながら押出機等からクロスヘッドに樹脂を供給し含浸する方法の他に、樹脂のエマルジョン、サスペンジョンあるいは溶液を入れた含浸浴の中を繊維束を通し含浸する方法、樹脂の粉末を繊維束に吹きつけるか粉末を入れた槽の中を繊維束を通し繊維に樹脂粉末を付着させたのち樹脂を溶融し含浸する方法等が知られており、本発明ではいずれも利用できる。特に好ましいのはクロスヘッド方法である。また、これらの引き抜き成形における樹脂の含浸操作は1段で行うのが一般的であるが、これを2段以上に分けてもよく、さらに含浸方法を異にして行ってもかまわない。
【0019】
玄武岩繊維に、熱可塑性樹脂を含浸させる比率は、樹脂と玄武岩繊維の合計中の玄武岩繊維の重量比率が10〜70重量%である。
【0020】
玄武岩繊維の比率が上記範囲より少なすぎると複合材料としての所望の機械的物性が得られず、70重量%以上では、樹脂の含浸が十分ではなく、繊維の毛羽立ち、ペレットの破損などが起こり、成形品の強度を維持することができない。
【0021】
上記熱可塑性樹脂に必要に応じて加えられる樹脂添加剤としては、熱可塑性樹脂の1種または2種以上を補助的に少量併用することも可能である。また、目的に応じ所望の特性を付与するため、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、例えば酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤等の安定剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料や顔料等の着色剤、潤滑剤、可塑剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を更に配合することも可能である。また、ガラスフレーク、マイカ、ガラス粉、ガラスビーズ、タルク、クレー、アルミナ、カーボンブラック、ウォラストナイト等の板状、粉粒状の無機化合物、ウィスカー等を併用してもよい。
【0022】
含浸は、150〜350℃、好ましくは200〜330℃、さらに好ましくは220〜300℃で行われるか又は含浸物は上記温度で加熱される。加熱温度が上記範囲より低すぎると、含浸が不十分になり、高すぎると、熱可塑性樹脂の分解が併発する。
【0023】
溶融含浸物は、加熱反応後、押出されてストランドとなり、切断可能な温度まで冷却され、カッターで切断されてペレットとなる。ペレットの形状はとくに限定されず、具体的には円柱状、角柱状、板状、さいころ状などが挙げられる。このようにして得られたペレットでは玄武岩繊維は実質的に同じ長さで、各繊維の方向が押し出された方向、即ちペレットの長さ方向に揃っている。
【0024】
なお、本発明に係るペレットは、上記狭義のペレットの他に、ストランド状、シート状、平板状なども含む広義の意味でも用いられる。
【0025】
本発明の玄武岩長繊維強化樹脂ペレットの寸法は、玄武岩の長さが4〜50mm、好ましくは5〜40mm、さらに好ましくは6〜30mmである。ペレット中の玄武岩長繊維の長さが上記範囲より短すぎると複合材料としての所望の機械的物性が得られず、長すぎるとペレットを使用した射出成形機などへ供給し難くなる。
(成形品の製造)
得られたペレットは単独で、又は他の熱可塑性樹脂で希釈して、射出成形等の原料として使用される。希釈する樹脂の種類及び比率は、所望の成形品の物性値により定められる。
【0026】
本発明の玄武岩長繊維強化樹脂ペレットを使用して射出成形して得られた成形品は、射出成形時に折損が少なく、玄武岩繊維が1mm以上の重量平均繊維長で分散している。
【0027】
なお、重量平均繊維長は、成形品の樹脂分を溶剤により溶出し、残った玄武岩繊維について測定する。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(原材料)
樹脂−1.酸基含有ポリオレフィン系樹脂
ポリプロピレンと酸変性ポリプロピレン(マレイン酸1.0重量%変性)を重量比95:5で混合したもの(樹脂全体に対する酸変性量0.05重量%)
樹脂−2.ポリアミド樹脂
ナイロン12
繊維−1.玄武岩繊維ロービング
径13μmの繊維が3720本の単位でγ―アミノプロピルトリアルコキシシラン(1重量%水溶液を使用)により表面処理をされたもの。
繊維−2.ガラス繊維(Eガラス)
表面処理されたもの。径17μの繊維が4000本の束。
(射出成形)
装置:(株)日本製鋼所製、J−150EII
成形温度(シリンダー温度):実施例1=235℃、実施例2=245℃
成形品:ISO多目的試験片
成形品の物性測定:上記試験片を用い、下記測定を行った。
引張強度:ISO 527−1に準拠
シャルピー衝撃試験:ISO 179/1eAに準拠
実施例1
連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、玄武岩繊維ロービングを引きながら、酸基含有ポリオレフィン系樹脂をクロスヘッドに接続された押出機から供給して、溶融状態(280℃)で玄武岩繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、細断し、玄武岩繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。
実施例2
実施例1同様に連続繊維の通路を波状に加工したクロスヘッドを通して、玄武岩繊維ロービングを引きながら、ナイロン12樹脂をクロスヘッドに接続された押出機から供給して、溶融状態(280℃)で玄武岩繊維に含浸させた後、賦形ダイを通してストランドとして引取り、冷却後、細断し、玄武岩繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。
比較例1
玄武岩繊維ロービングに代えてガラス繊維を使用した以外は実施例1と同様な操作を実施して、ガラス長繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。
比較例2
玄武岩繊維ロービングに代えてガラス繊維を使用した以外は実施例2と同様な操作を実施して、ガラス長繊維含有量40重量%、長さ11mmのペレットを得た。
【0029】
これらの評価結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
玄武岩繊維ロービングを引きながら溶融された熱可塑性樹脂を含浸することにより製造されるペレットであり、玄武岩繊維がペレットの長さ方向に平行に配列しており、長さ4〜50mmである玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項2】
玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット中の玄武岩の含有量が10〜70重量%であることを特徴とする請求項1記載の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、熱可塑性ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ハロゲン含有ポリオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリスルホン酸系樹脂、ポリフェニルエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、液晶性芳香族ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂及びポリエーテルエーテルケトン樹脂より選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項4】
玄武岩繊維が表面処理剤で処理されたものであることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項記載の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項5】
表面処理剤がシランカップリング剤であることを特徴とする請求項4記載の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項6】
表面処理剤であるシランカップリング剤がアミノシラン系であることを特徴とする請求項5記載の玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット。
【請求項7】
連続した長繊維を引きながら熱可塑性樹脂を長繊維に含浸させる長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造法であって、玄武岩繊維ロービングを引きながら、熱可塑性樹脂を押出機から溶融状態で供給して、熱可塑性樹脂と玄武岩繊維の合計中の玄武岩繊維の重量比率が10〜70重量%となるように、連続した玄武岩繊維に含浸後、4〜50mmの長さに切断する、玄武岩繊維がペレットの長さ方向に平行に配列している玄武岩長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造法。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか1項に記載の玄武岩長繊維強化樹脂ペレットを射出成形してなり、玄武岩繊維が1mm以上の重量平均繊維長で分散してなる成形品。

【公開番号】特開2007−284631(P2007−284631A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116337(P2006−116337)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】