説明

玄米茶の製造方法

【課題】香ばしい香りと甘味やコク味が増強され、玄米本来の持つ香ばしさがバランスよく調和された玄米茶用玄米の製造方法を提供する。
【解決手段】ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含む水溶液を原料玄米に含浸させた後、100〜200℃の温度で焙煎する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた香味を有する玄米茶飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、玄米の持つ風味を活かした玄米茶飲料が多くの人に好まれ、飲用されている。玄米茶飲料は、一般に、精白米を蒸し、乾燥し、焙じた米(「炒り米茶」というが、本明細書中、便宜的に「玄米」と表記することもある)と緑茶を混合したものを熱水等で抽出して得られるものであり、玄米の香ばしい香りと緑茶の香味の調和のとれたものが嗜好の高い玄米茶飲料として知られている。
【0003】
玄米茶の種類は、緑茶の茶種の違いにより分類されており、例えば、煎茶玄米茶、玉露玄米茶、焙じ玄米茶等がある。また、従来とは違った嗜好性の高い玄米茶飲料を得るために、米麹の甘味と香りを玄米に付加した発酵玄米を用いた玄米茶も提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−275742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
容器詰め玄米茶飲料では、抽出時や保存時に、原料の玄米が含有する澱粉が溶出されやすく、また加熱殺菌や冷蔵状態の保存などの熱履歴の影響もあり、香味の調和がくずれやすいという問題を有している。
【0006】
本発明は、香ばしい香りと甘味やコク味が増強され、玄米本来の持つ香ばしさがバランスよく調和された玄米茶用玄米の製造方法、特に容器詰め玄米茶飲料の製造に有利な玄米茶用玄米を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
玄米茶の香味は、緑茶の種類により決定され、玄米は香ばしい香りを出すためのブレンド材料として位置づけられているに過ぎない。本発明者らは、上記課題を解決すべく、玄米の香味を特徴づけるため、玄米の加工法について鋭意検討した結果、玄米に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を含浸させた後、100〜200℃の温度で焙煎することで、玄米の香味に特徴を持たせることができ、従来とは違った嗜好性の高い玄米茶が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、以下に限定されるものではないが、次の発明を包含する。
(1) ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有するアミノ酸水溶液を玄米に含浸させる工程、および、浸透処理した玄米を100〜200℃の温度で焙煎処理する工程、を含む、玄米茶用玄米の製造方法。
(2) 原料玄米1kgあたり45mg以上のアミノ酸(A)を添加する、(1)に記載の製造方法。
(3) アミノ酸水溶液が、緑茶葉の抽出液である、(1)又は(2)に記載の製造方法。
(4) 緑茶葉の抽出液が酵素処理を施したものである、(3)に記載の製造方法。
(5) ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸(A)を含有するアミノ酸水溶液を原料玄米に含浸させる工程、浸透処理した玄米を100〜200℃の温度で焙煎処理する工程、焙煎処理した玄米と緑茶とを重量比2:8〜8:2で混合する工程、および、焙煎処理した玄米と緑茶の混合物1重量部に対して5〜150重量部の水で抽出する工程、を含む、玄米茶飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の玄米茶用玄米を用いると、優れた香味を有する玄米茶飲料を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の玄米茶用玄米の製造工程例を示すフロー図である。
【図2】本発明の玄米茶用玄米の製造工程例を示すフロー図である。
【図3】本発明の玄米茶用玄米の製造工程例を示すフロー図である。
【図4】実施例2で分析した茶抽出液のアミノ酸組成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記したように、本発明においては、玄米に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を浸透させた後、100〜200℃の温度で焙煎する。1つの観点からは本発明は玄米茶用玄米の製造方法であり、また別の観点から本発明は、このようにして得られた玄米茶用玄米を用いる玄米茶の製造方法である。
【0012】
(玄米茶用玄米の製造方法)
本発明においては、原料米に特定のアミノ酸(ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸)を含む水溶液を浸透させるが、原料米の種類は限定されず、例えば、ジャポニカ型米、インディカ型米及びその中間体、ウルチ米、モチ米などを、所望する香味に合わせて1種または複数種使用することができる。ウルチ米を使用すると本発明の効果が顕著に発現するため好ましい。
【0013】
以下、図面に基づいて本発明にかかるアミノ酸を利用した玄米茶用玄米の具体的実施形態の例を説明する。図1〜3は、本実施形態にかかる玄米茶用玄米の製造工程例を示すフロー図であり、精白工程、浸漬工程、蒸し工程、乾燥工程、混合工程、焙煎工程、冷却工程を経て玄米茶用玄米が製造される。
【0014】
まず、ステップ1の精白工程では、精選した玄米の穀粒から籾殻を外し、玄米を白くなるまで削って白米を得る。精白の度合いは、特に限定されないが、九分ヅキ以上精白された、いわゆる白米が好適に用いられる。ステップ2の浸漬工程では、前記ステップ1で得られた白米を水に浸漬し、蒸し易くする。好ましい浸漬条件は、10〜40℃の水に、1〜24時間、好ましくは1〜3時間程度である。浸漬後に白米を取り出して、ステップ3の蒸し工程では、100℃程度の水蒸気で、10〜120分、好ましくは10〜30分程度蒸す。蒸し工程の後、米の粒同士がくっつかないように、ステップ4の乾燥工程では、ばらしながらお米を乾燥させる。乾燥は、120〜180℃程度の温度で、米の水分含量が0.1〜10%程度になるまで行う。
【0015】
本発明では、アミノ酸としてロイシン(Leu)、バリン(Val)及びイソロイシン(Ile)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸(以下、アミノ酸(A)ともいう)を含む水溶液を用い、これを米に含浸させる。なお、本発明でいうアミノ酸水溶液とは、アミノ酸を含有する液体を意味し、アミノ酸の懸濁液も含まれるものとするが、アミノ酸が原料となる玄米に均一に混合できるという観点からは、アミノ酸水溶液として用いることが好ましい。
【0016】
図1〜3の態様では、原料米を処理するステップと並行して、ステップ8でアミノ酸水溶液を調製している。好ましい態様において、アミノ酸水溶液は、アミノ酸(A)すなわち、ロイシン、バリン及びイソロイシンの総量がアミノ酸水溶液中0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜2重量%となるように調製する。
【0017】
また、抽出の際に玄米中の澱粉が溶出し、のり状感を生じることがあるが、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸(以下、アミノ酸(B)ともいう)を上記アミノ酸(A)と併用すると、のり状感を顕著に改善する効果があり、好ましい。これらのアミノ酸(B)を併用する場合、アミノ酸(B)の総量が、アミノ酸水溶液中に含まれるアミノ酸の総量(具体的には、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、グリシン、ヒスチジン、アルギニン、トレオニン、アラニン、プロリン、テアニン、チロシン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、リジン、フェニルアラニンの17種類のアミノ酸の総量)に対して10〜80重量%、となるように調製することが好ましく、15〜25重量%となるように調製することがより好ましい。
【0018】
図1および図3に示すステップ5の混合工程では、上記ステップ8で得られたアミノ酸水溶液を、ステップ4で得られた水分を浸透できる程度にまで柔らかく蒸した米(以下、「原料玄米」とも表記する)に混合して含浸させる。
【0019】
本発明においてアミノ酸水溶液を含浸させる方法は、アミノ酸が原料玄米に浸透又は付着できる方法であれば特に手段は制限されない。例えば、アミノ酸水溶液を原料玄米に噴霧、散布又は塗布する方法、アミノ酸水溶液に原料玄米を浸漬させる方法などが挙げられる。アミノ酸が原料玄米に均一に含浸できる観点からは、アミノ酸水溶液を原料玄米に噴霧する方法が好ましい。
【0020】
本発明では、原料玄米1kgに対してアミノ酸(A)を45mg以上含浸させることが好ましい。45mg以上の場合、本発明の特徴である香ばしい香りを十分に増強することができ、香ばしい香りと甘味、コク味の調和のとれた玄米茶飲料を製造できる。したがって、本発明では、ロイシン、バリン及びイソロイシンの総量が、原料大玄米100重量部に対して0.005〜0.25重量%程度であることが好ましく、0.05〜0.1重量%程度であることがより好ましい。
【0021】
次に、本発明においては、上記のアミノ酸水溶液を含浸させた玄米に対して100〜200℃の温度で焙煎を行う。水分を少し含む状態で乾燥時よりも強い熱が与えられ、これにより、玄米茶の香ばしい香りである2−ブタナール及び/又は3−ブタナールを増強させることができると考えられる。加熱の程度が深いと、単純火香、すなわち焦げ臭に近い香りが強くなり、2−ブタナール及び/又は3−ブタナールなどの好ましい香気の知覚を阻害することがある。したがって、2−メチルブタナール及び/又は3−ブタナールが火香である2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン(2,5(6)-dimethylpyrazine)に対して好ましくは0.5〜50倍量、より好ましくは1〜30倍量含有されるように焙煎することが望ましい。ここで、焙煎された玄米中の2−ブタナール、3−ブタナール含量及び2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン含量は、ガスクロマトグラフィーにより測定することができる。
【0022】
2−ブタナール及び/又は3−ブタナール含量及び2,5−(あるいは2,6−)ジメチルピラジン含量が上記範囲となる焙煎方法として、具体的には、アミノ酸を含浸させた玄米の品温が100〜200℃、好ましくは110〜170℃、より好ましくは130〜150℃に到達するように加熱する方法が挙げられる。焙煎の装置や方法は特に制限されず、通常、玄米茶用玄米の焙煎に用いられる方法、例えばフクレ炒り焙煎、カタ炒り焙煎等が挙げられる。
【0023】
図1〜3に示す態様では、ステップ6で米を焙煎し、ステップ7で焙煎した米を冷却している。ステップ7の冷却は、焙煎後に釜から原料を取り出すと該原料が発火する惧れがあるため、この発火を防止することが主目的である。
【0024】
このように焙煎して得られる焙煎玄米の水分含量は、5%以下であることが好ましく、1%以下程度であることがより好ましい。
また、本発明においては、ステップ2における精白した玄米を浸漬する工程において玄米に特定のアミノ酸を含浸させてもよい。図2に示す態様では、水に代えてアミノ酸水溶液を用い、アミノ酸水溶液に精白した玄米を浸漬して、アミノ酸を玄米に含浸させている。ただし、この場合、アミノ酸が含浸しにくく浸漬時間に長時間を要することになるため、好ましくは図1又は図3に示すように、蒸して柔らかくした米にアミノ酸水溶液を含浸させるのがよい。
【0025】
本発明においては、玄米へのアミノ酸の含浸を多段階で行ってもよく、例えば、精白した玄米をアミノ酸水溶液に浸漬させた後、蒸して柔らかくし、さらにアミノ酸水溶液を含浸させて焙煎する方法も本発明に含まれるものとする。
【0026】
本発明では、原料玄米に上記特定のアミノ酸水溶液を含浸させ特定の条件で焙煎することにより、玄米茶の香ばしい香りが増強され、その結果、こげ臭や雑味を伴うことなく、香ばしい香りが増強された玄米茶飲料を製造することができる。本発明者らの検討によると、この香ばしい香りは、ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含む水溶液を使用した場合に発現する。特に、ロイシンは、香ばしい香りだけでなく、甘味やコクも増強する効果を有する。したがって、本発明の好適な態様の一つは、アミノ酸含有溶液がロイシンを含み、さらにバリン及び/又はイソロイシンを含むものである。本発明によって、玄米茶の香ばしい香りが増強される理由の詳細は明らかでなく、本発明は以下の推測に拘束されるものでないが、特定のアミノ酸を原料玄米に含浸させてから焙煎処理すると、香ばしい香りである2−メチルブタナール(2-methylbutanal)及び/又は3−ブタナール(3-methylbutanal)が増強するためであると推測される。
【0027】
ロイシン、バリン及び/又はイソロイシンを用いて発現する香味改善作用は、フェニルアラニン(Phe)、グルタミン酸(Glu)、グリシン(Gly)、プロリン(Pro)、及びテアニン(Theanine)からなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を併用することで、より大きな効果を奏し、特にコク、甘味の増強に有効である。ロイシン、バリン及びイソロイシンを用いずに、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を添加した場合には、香味改善作用は得られないことから、この効果は、特定のアミノ酸(ロイシン、バリン、イソロイシン:アミノ酸A)と特定のアミノ酸(フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、テアニン:アミノ酸B)とが協働的に機能して得られるものと考えられる。
【0028】
ステップ8で用意するアミノ酸水溶液としては、精製されたアミノ酸を用いてこれを水に溶解(又は懸濁)させたものを用いてもよいし、アミノ酸を含有する植物抽出物をそのまま又は精製(粗精製を含む)して用いてもよい。図3に示す態様では、緑茶抽出物をアミノ酸含有溶液として使用しており、緑茶抽出物をろ過、濃縮してから、玄米に含浸させている。ここで、アミノ酸を含有する植物抽出物として、緑茶抽出物が好適に例示される。通常、緑茶抽出物には、テアニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン等のアミノ酸が多く含まれるが、本発明の有効成分であるアミノ酸(A)バリン、ロイシン、イソロイシンや、これらアミノ酸(A)と相加的又は相乗的に作用して澱粉由来ののり状感を改善するアミノ酸(B)フェニルアラニン、グリシン、プロリンの含有量は少ないことが知られている。したがって、緑茶抽出物を用いる場合は、物理的又は化学的処理を施して、アミノ酸(A)やアミノ酸(B)の濃度を高める処理を行うのが好ましい。ここで物理的又は化学的処理としては、酵素処理、酸処理、高温高圧処理、微細化処理、超音波処理等が挙げられる。中でもアミノ酸の反応を選択的に制御できる観点から、酵素処理が好ましい。
【0029】
緑茶抽出物の酵素処理としては、酵素が緑茶葉及び/又は茶抽出液中のタンパク質や繊維質に作用することにより、抽出液中のアミノ酸濃度を高めることができる方法であれば、いずれの方法でもよい。例えば、酵素抽出(酵素を添加混合した緑茶葉を水(熱水)で抽出する方法又は酵素を添加した水(熱水)で緑茶葉の抽出を行う方法)、或いは緑茶はより水(熱水)で抽出した緑茶抽出液に酵素を添加混合して処理する方法が挙げられる。酵素としてはプロテアーゼ、α−アミラーゼ、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、ペクチナーゼ、プロトペクチナーゼ及びグルタミナーゼ等を1種又は複数種類併用して用いることができる。酵素処理の条件は、用いる酵素の至適条件を鑑みて適宜選択すればよい。
【0030】
アミノ酸水溶液として緑茶抽出物を用いる場合、カテキン類が多い緑茶抽出液を用いると、本発明の焙煎工程で苦味や渋味を発生したり、茶飲料製造における加熱殺菌時に異味を発生したりする場合がある。したがって、本発明に用いる緑茶抽出液としては、カテキン類の除去工程を施したものが好ましい。ここで、本明細書におけるカテキン類とは、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレートおよびエピガロカテキンガレートの総称を表す。具体的には、緑茶抽出液中、茶葉由来固形分に対してカテキン類の総量の割合が15.0重量%以下、好ましくは13.5重量%以下、より好ましくは10.0重量%以下、特に好ましくは8.0重量%以下となるように除去する。なお、茶抽出液のBrix(可溶性固形成分量)は、通常、0.2〜20%程度、好ましくは5〜20%、より好ましくは10〜20%である。カテキン類の除去方法は特に制限されないが、例えば、緑茶抽出液から樹脂(吸着)によりカテキン類を除去する方法、緑茶葉に水性溶媒を接触させて緑茶葉抽出液を得てからこの抽出液を除去(廃棄)する方法等が挙げられる。特に、カテキン類は高温で抽出されやすいという性質を有することから、緑茶葉に高温の水を接触させて高温抽出液を得て、この高温抽出液を除去(廃棄)する方法が好適である。
【0031】
(玄米茶飲料の製造方法)
本明細書でいう玄米茶飲料とは、本発明で得られる玄米茶用玄米より抽出して得られる抽出液を含有する飲料をいう。好ましい態様としては、本発明で得られる玄米茶用玄米を緑茶と混合し、水または温水で抽出して得られる飲料が挙げられる。この際、玄米と緑茶の混合割合は、重量比で2:8〜8:2、好ましくは3:7〜8:2、より好ましくは4:6〜8:2程度である。
【0032】
玄米茶飲料の抽出原料となる玄米には、本発明のアミノ酸含浸処理を行った玄米を全て用いてもよいし、アミノ酸含浸処理を行った玄米を一部に用い、従来の玄米茶(アミノ酸含浸処理を行っていないもの)と混合して用いてもよい。具体的には、本発明の玄米茶用玄米は、抽出原料となる玄米全量に対して、10〜100重量%、好ましくは50〜100重量%となるように配合する。
【0033】
本発明の玄米茶用玄米と混合する緑茶は、特に限定されず、所望する香味に応じて適宜選択すればよい。具体的には、煎茶、玉露、被せ茶、ほうじ茶、深蒸し茶、釜煎り茶、玉緑茶、碾茶、茎茶、抹茶、粉茶などが選択される。
玄米と緑茶を混合した抽出原料を、水道水若しくは脱イオン水等任意の水で、好ましくは75〜100℃、好ましくは80〜95℃の抽出水温度において抽出することによって玄米茶飲料を得ることができる。抽出時には、攪拌してもよいし攪拌しなくてもよい。抽出比(重量比)は、抽出原料1重量部に対し抽出水5〜150部、好ましくは5〜30部である。また、本発明における抽出時間は抽出温度にもよるが、好ましくは3〜60分、より好ましくは5〜30分程度である。
【0034】
好ましい態様において、抽出された玄米茶抽出液は、直ぐに段階的に金網などをしようしてろ過をして茶殻などの残渣を除去して、10〜40℃まで、例えばプレート式交換機などを用いて冷却する。さらに、連続式遠心分離機若しくはネルろ過等を用いて不溶成分を取り除くことが好ましく、遠心分離の条件は、通常4000〜9000Gである。遠心分離機はどのような型式のものでもよいが、好ましくは玄米茶抽出液の上層部に浮上する油分を除去できるので3相型遠心分離機がよい。また、ネルろ過を行ってもよく、例えばネル布等を用いることにより行うことができる。
【0035】
その後、必要に応じて、得られたろ液にL−アスコルビン酸、炭酸水素ナトリウム等の酸化防止剤やpH調整剤を添加して、pHを5.0〜7.0に調整してもよい。pH調整された抽出液を、最終調合液の可溶性固形分(Brix)が所望の値(0.1〜0.5)になるように希釈して、固形分濃度を調整してもよい。
【0036】
保存性を高めるため好ましい態様において、このようにして得られた調合液に対して殺菌処理を行う。殺菌処理は、調合液を密封容器に充填してから行ってもよいし、殺菌後に容器に充填してもよい。容器は特に限定されず、紙パック、瓶、缶、ペットボトル等が用いられる。殺菌は、容器の種類や保存条件に合わせて、UHT殺菌、レトルト殺菌、プレート殺菌等、適宜選択すればよい。具体的には、缶や瓶の容器のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合には食品衛生法に定められた殺菌条件でレトルト殺菌が採用され、ペットボトル、紙パックのようにレトルト殺菌できないものについては、予め上記と同様の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器で高温短時間殺菌後、一定の温度まで冷却して、ホットパック充填又は無菌下での充填などの方法により容器に充填する等の方法が採用される。
【0037】
玄米茶飲料は、澱粉成分が抽出されてのり状の食感を呈する問題があることが知られている。特に、室温以下(好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下)で冷蔵保存され、飲用に供される容器詰め玄米茶飲料では、澱粉由来のベトツキ感が顕著になり、その口当たりや飲用後の後味(すっきりした味)を損なうという問題がある。一方、本発明者らは、2−メチルブタナール及び/又は3−ブタナールが、飲料中の澱粉由来ののり状感(ベトツキ感)を改善する作用があることを見出している。本発明の玄米茶用玄米では、2−メチルブタナール及び/又は3−ブタナールが増強されるので、これを抽出して得られる本発明の茶飲料は、容器詰め飲料として冷蔵状態で保存したり、飲用したりした場合にも、香ばしい香りを損なわずに、澱粉由来ののり状感が低減され、優れた香味を有するものとして製造される。
【0038】
こののり状感改善作用は、玄米茶用玄米の製造におけるアミノ酸含浸工程において、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸を併用した場合に、より大きな効果を奏する。この玄米茶抽出液の澱粉由来ののり状感低減という観点からも、アミノ酸含浸工程では、ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸(A)に加えて、フェニルアラニン、グルタミン酸、グリシン、プロリン及びテアニンからなる群から選ばれる1種以上のアミノ酸(B)を含む水溶液を、原料玄米に含浸させることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明者らは、2−メチルブタナール及び/又は3−ブタナールには緑茶抽出液の加熱殺菌に起因する好ましくない香味をマスキングできる作用があることを見出している。本発明の2−メチルブタナール及び/又は3−ブタナールが増強された玄米茶用玄米と緑茶とを混合して得られる玄米茶より抽出して得られる玄米茶飲料は、長期間の保存に渡って、加熱臭などの異味・異臭がマスキングされた、優れた香味を有する茶飲料となる。
【0040】
このような本発明は、1つの観点からは、玄米茶または玄米茶用玄米の香味改善方法であり、また、玄米茶ののり状感を低減する方法と把握することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本明細書において特記しない限り、濃度等は重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0042】
実施例1.玄米茶飲料の製造−アミノ酸の添加
市販の精米を用い、水分を浸透しやすくするため水に40分間浸漬し、30分間蒸した。これに各種アミノ酸の1%水溶液を玄米:アミノ酸水溶液の重量比が0.2:1となるように噴霧して含浸させた後、焙煎機(アイ・シー電子工業株式会社 TORNADE KING TypeT)を用い、150℃で15分間焙煎して玄米茶用玄米(焙煎玄米)を得た。ここで、玄米に添加したアミノ酸量は、2000mg/kg程度である。アミノ酸としては、(i)アスパラギン酸(Asp)、(ii)グルタミン酸(Glu)、(iii)セリン(Ser)、(iv)グリシン(Gly)、(v)ヒスチジン(His)、(vi) アルギニン(Arg)、(vii)トレオニン(Thr)、(viii)アラニン(Ala)、(ix)プロリン(Pro)、(x)テアニン(Theanin)、(xi)チロシン(Tyr)、(xii)バリン(Val)、(xiii)メチオニン(Met)、(xiv)イソロイシン(Ile)、(xv)ロイシン(Leu)、(xvi)リシン(Lys)、(xvii)フェニルアラニン(Phe)の17種類を用いた(すべてナカライテスク社製、L体)。また、対照として、アミノ酸含浸工程を行わない、すなわちアミノ酸水溶液を噴霧しないこと以外は同様にして、焙煎玄米を得た。
【0043】
アミノ酸を噴霧して焙煎した17種類の焙煎玄米と対照(アミノ酸未添加)の焙煎玄米を2gずつ軽量し、200gの熱湯(95℃)で5分間抽出して抽出液(Brix:約0.15)を得た。
【0044】
官能評価の結果、アルキル鎖を持つ分子量100以上の中性アミノ酸であるVal、Ile、Leuが、焦げ臭や雑味を伴わずに好ましいと知覚される香ばしい香りを増強できることがわかった。特に、Leuは香ばしい香りとともに甘味やコク味が増強され、調和がとれた優れた香味を有する玄米茶抽出液となった。一方、Pheはフローラルな甘い香りが付与され、Asp、Glu、Ser、Gly、His、Arg、Thr、Ala、Pro、Theanin、Tyr、Lysは、対照と差がなかった。また、Metはイモ臭が発現し、対照よりも好ましくない香味となった。
【0045】
実施例2.玄米茶飲料の製造−茶抽出物の含浸
(1)茶抽出物の製造
以下の方法で、アミノ酸を高濃度に含有する抽出物を製造した。まず、攪拌機付き密閉容器に10gの緑茶葉(火入れ度:中)を封入し、40℃のイオン交換水を180mL加え、緑茶葉を浸漬させた。そこにプロテアーゼ製剤(三菱化学フーズ社「コクラーゼ・P」)を0.2g添加し、40℃に保持したまま16時間攪拌を行い、酵素処理を行った。その後、得られた酵素処理液を90℃で10分加熱して酵素を失活させ、酵素抽出液を得た(試料A:酵素あり)。また、酵素を添加しないこと以外は同様にして緑茶抽出液(茶抽出物)を得た(試料B:酵素なし)。
【0046】
試料Aおよび試料Bのアミノ酸組成をHPLCで分析した。具体的測定条件は以下のとおりであり、標準物質として、アミノ酸18種(アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アルパラギン酸、トリプトファン、シスチン)およびテアニンを用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
表2および図4に、茶抽出物のアミノ酸分析結果を示す。図4より明らかなように、酵素処理した茶抽出物(試料A)は、酵素処理しなかった茶抽出物(試料B)と比較して、Val、Ile、Leuの割合が高められている。実施例1で好ましくない香味を発現するアミノ酸Metとの比〔(Val+Ile+Leu)/(Met)〕を算出すると、酵素処理を行わないと0.16、酵素処理を行うと1.47となった。
【0049】
【表2】

【0050】
(2)茶抽出物を含浸させた玄米茶用玄米の製造
(1)で製造した茶抽出物(試料A)を、17種のアミノ酸(Asp, Glu, Ser, Gly, His, Arg, Thr, Ala, Pro, Theanin, Tyr, Val, Met, Ile, Leu, Lys, Phe)の総量が抽出物全体に対して1重量%となるように減圧濃縮して、茶抽出物の濃縮液(試料A’)を調製した。
【0051】
市販の精米を用意し、これを水に浸漬し、およそ4時間後に水を切った後、30分間蒸気で蒸した。この蒸した米に茶抽出物の濃縮液(試料A’)を重量比で0.2:1となるよう噴霧した。このとき、玄米に添加されたアミノ酸(上記17種類)の総量は2000mg/kgであり、このうちバリン、イソロイシン、ロイシンの総量(Val+Ile+Leu)は460mg/kgであった。
【0052】
茶抽出液の噴霧によるアミノ酸含浸工程の後、150℃または230℃で焙煎処理を行った。また、対照として、茶抽出物を噴霧しないこと以外は同様にして焙煎玄米を製造した。焙煎処理条件は以下の通りである。なお、火入れ時間とは、アミノ酸含浸玄米を火入れ機に投入してから取出すまでの時間を指し、火入れ温度とは、火入れ機の釜の中の雰囲気温度を指す。
・火入れ機 : アイ・シー電子工業株式会社 TORNADE KING TypeT
・火入れ時間 : 10分
・火入れ温度 : 150℃,230℃
(3)玄米茶飲料の製造
茶抽出物(試料A)を含浸させ焙煎して得られた焙煎玄米及び対照玄米(試料Aの含浸を行わなかったもの)をそれぞれ2gずつ計量し、200gの熱湯で5分間抽出し、玄米茶飲料を得た。
【0053】
約60℃の玄米茶飲料について官能評価を行った。香ばしさ、甘い香り(甘香)、こげ臭について4段階で評価し、評価基準は、感じない(0点)、やや感じる(1点)、感じる(2点)、強く感じる(3点)とした。結果を表3に示す。対照の方法では、火入れ温度が低いと甘い香りが立つものの香ばしさが弱く、火入れ温度が高いと香ばしさが強くなる代わりにこげ臭が出る傾向があり、甘い香りと香ばしさを両立させることができなかった。その一方、本発明の方法、すなわち酵素処理緑茶抽出液を添加して焙煎したものは、こげ臭が少ないながらも香ばしさ、甘い香りを両立した大玄米であり、優れた香味を有する玄米茶飲料となった。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例3.容器詰め玄米茶飲料の製造
実施例2(2)で得られた玄米茶用玄米(アミノ酸として茶抽出物(試料A)を含浸して焙煎処理したもの)を用い、容器詰め玄米茶飲料を製造した。すなわち、実施例2(2)で得られた玄米茶用玄米と緑茶(煎茶)を5:5で混合したものを7g計量して250gの熱湯で5分間抽出し、茶殻を除いた後、30℃以下まで冷却して遠心分離により清澄化処理を行った後、得られたろ液に酸化防止剤としてL−アスコルビン酸を、pH調整剤として炭酸水素ナトリウムを添加してpHを6.0に調整した。その後、pH調整された抽出液を、1Lまでメスアップし、最終調合液の可溶性固形分(Brix)が0.15となるようにした。得られた調合液を缶に充填し、130℃で1分間、レトルト殺菌を行い、5℃の冷蔵庫にて冷却して容器詰め玄米茶飲料を得た。また、対照として実施例2(2)の対照(茶抽出物を噴霧しないこと以外は同様にした焙煎玄米)を用い、同様にして容器詰め飲料を製造した。
【0056】
本発明品の容器詰め玄米茶飲料は、殺菌後にも、香ばしい香りと甘味やコク味が増強され、玄米本来の持つ香ばしさがバランスよく調和された玄米茶飲料で、加熱臭などの異味・異臭が感じられない優れた香味を有するものであった。また、冷蔵保管した後も玄米茶飲料がのり状の食感(ベトツキ感)を呈することはなく、保存後も、優れた香味と口当たりや飲用後の後味(すっきりした味)を維持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸を含有するアミノ酸水溶液を玄米に含浸させる工程、および
浸透処理した玄米を100〜200℃の温度で焙煎処理する工程、
を含む、玄米茶用玄米の製造方法。
【請求項2】
原料玄米1kgあたり45mg以上のアミノ酸(A)を添加する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アミノ酸水溶液が、緑茶葉の抽出液である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
緑茶葉の抽出液が酵素処理を施したものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
ロイシン、バリン及びイソロイシンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上のアミノ酸(A)を含有するアミノ酸水溶液を原料玄米に含浸させる工程、
浸透処理した玄米を100〜200℃の温度で焙煎処理する工程、
焙煎処理した玄米と緑茶とを重量比2:8〜8:2で混合する工程、および
焙煎処理した玄米と緑茶の混合物1重量部に対して5〜150重量部の水で抽出する工程、
を含む、玄米茶飲料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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