説明

玉掛けワイヤロープの形状修正装置および方法

【課題】修正装置本体の溝の中に玉掛けワイヤロープを通して装着し、テコ原理を用いることにより、作用点部でワイヤロープの変形部分を容易に修正することのできる玉掛けワイヤロープの形状修正装置および方法を得る。
【解決手段】延長方向に沿ってコ字状の溝を有するとともに、一端を作用点部とし、かつ他端を力点部とするレバー形状の本体1と、本体1の溝の開口側に位置し、かつ本体1の作用点部に近接するように貫通形成された軸穴1dと、軸穴1dに着脱自在に挿入された連結軸1bと、を備えている。ワイヤロープ2の変形部分2dを、連結軸1bの内側の作用点部に位置するように本体1の溝内に装着して、力点部にかかる力により修正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エレベータの主ロープ取替え工事で使用される玉掛けワイヤロープの形状修正装置および方法に関し、特に玉掛けワイヤロープの変形部分の形状修正を、片手または両手で容易に行うことのできる新規な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、エレベータの主ロープ取替え工事で使用される玉掛けワイヤロープは、使用時に張力(荷重)がかかって使用後に変形するが、変形した玉掛けワイヤロープは、保管しにくいうえ次回に使用する際に取り扱いが難しくなるので、修正する必要がある。したがって、従来から、ワイヤロープの変形を修正する際には、木ハンマやプラスチックハンマなどを用いて、変形部分に打撃を加えながら手直ししているのが一般的であった。
【0003】
しかし、上記のように変形部分に打撃を加える作業は、経験を必要とし熟練者でなければ容易に修正することができないので、油圧シリンダを兼ね備えたワイヤロープの形状修正装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1に記載の従来装置は、張力がかかった状態で形状修正を行うものである。しかしながら、玉掛けワイヤロープの場合には、荷重がかかっていない状態のみにおいて形状変形の確認が可能であることから、特許文献1に記載の従来装置であっても、張力がかかっていない状態で玉掛けワイヤロープの形状を修正することはできない。
【0005】
【特許文献1】特開平5−169175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の玉掛けワイヤロープの形状修正装置では、たとえば特許文献1に記載の技術を適用した場合、張力がかかっていない玉掛けワイヤロープを、保持作用部に保持して油圧シリンダで押圧部を進退動作させることはできないので、玉掛けワイヤロープの変形を確認して形状を修正することができないという課題があった。
特に、玉掛けワイヤロープの場合、変形部分が連続して生じる可能性が高いので、修正操作に多大な労力を有するという課題があった。
【0007】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、修正装置本体の溝の中に玉掛けワイヤロープを通して装着し、テコ原理を用いることにより、先端部(作用点部)で玉掛けワイヤロープの変形部分を容易に修正することのできる玉掛けワイヤロープの形状修正装置および方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明による玉掛けワイヤロープの形状修正装置は、延長方向に沿ってコ字状の溝を有するとともに、一端を作用点部とし、かつ他端を力点部とするレバー形状の本体と、本体の溝の開口側に位置し、かつ本体の作用点部に近接するように貫通形成された軸穴と、軸穴に着脱自在に挿入された連結軸と、を備え、玉掛けワイヤロープの変形部分を、連結軸の内側の作用点部に位置するように本体の溝内に装着して、力点部にかかる力により修正するように構成されたものである。
【0009】
また、この発明による玉掛けワイヤロープの形状修正方法は、玉掛けワイヤロープを本体の溝内に装着して、玉掛けワイヤロープの変形部分を作用点部に位置させるステップと、力点部と、玉掛けワイヤロープの一部である保持部とに力をかけて変形部分を修正するステップとを備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、修正装置本体の溝の中に玉掛けワイヤロープを通して装着し、テコ原理を用いることにより、玉掛けワイヤロープの変形部分を容易に修正することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置(以下、単に「修正装置」ともいう)の要部を示す斜視図である。また、図2および図3は図1の修正装置本体1をそれぞれ示す平面図および側面図である。図1および図2においては、修正装置本体1の中央部のみが示されており、図3においては、修正装置本体1の両端部が示されている。
【0012】
図1〜図3において、修正装置本体1は、一端を作用点部として他端を力点部とする数10cm程度の長さのレバー形状を有し、連結部材1aを介して連結された同一形状(断面コ字状)の2つの部分からなる。修正装置本体1の2つの部分は、それぞれ、軸穴1dに挿入された連結軸1bを回転中心として連結部材1aに枢着されており、連結部材1aに対して回転自在に連結されている。
【0013】
軸穴1dは、修正装置本体1の溝の開口側に位置するように貫通形成され、延長方向に沿って複数個配列されている。これにより、任意の軸穴1dに連結軸1bを挿入して組み立てることができ、連結部材1aの有効長さを可変設定できるようになっている。また、連結部材1aの軸穴を複数個形成してもよい。なお、ここでは、連結軸1bが2個ずつ形成された場合を示しているが、必要に応じて任意数だけ形成することができる。
【0014】
また、図2に示すように、連結軸1bの一端には、抜け防止用の鍔部が形成され、他端には、着脱自在の抜け防止枠が装着されている。さらに、図3に示すように、修正装置本体1の両端部(力点部)には、作業員が操作し易いように、両手形状に倣う形状を有する握り部1cが形成されている。
【0015】
図4は修正装置本体1の形状を拡大して示す断面図であり、修正装置本体1のコ字状溝に沿って玉掛けワイヤロープ(以下、単に「ワイヤロープ」ともいう)2aが装着された状態を示している。図4において、修正装置本体1のコ字状内壁には、開口側に向かって対向間隔が大きくなるようにテーパ部1eが形成されている。
【0016】
つまり、修正装置本体1は、内壁のテーパ部1eにより、実質的にV字形状の溝を構成しており、これにより、外径の大きいワイヤロープ2aに限らず、外径の小さいワイヤロープ2b(点線参照)であっても、適正に収納できるようになっている。
【0017】
次に、図5および図6の側面図を参照しながら、図1〜図4に示したこの発明の実施の形態1に係る修正装置本体1を用いた修正動作について説明する。
図5および図6は、形状修正を必要とするワイヤロープ2を修正装置本体1内に装着する際の操作手順を順次的に示している。なお、図5および図6内のワイヤロープ2は、図4内のワイヤロープ2a、2bを総称している。
【0018】
まず、図5において、着脱自在の抜け防止枠を取り外した後、軸穴1dから連結軸1bを抜いて連結部材1aを取り外し、修正装置本体1の2部分を分割した状態で、修正装置本体1の溝内に、変形したワイヤロープ2を装着する。
【0019】
このとき、ワイヤロープ2の変形部分2dが、修正装置本体1の端部(作用点部)、すなわち連結部材1aの取り付け位置に対応するように、修正装置本体1の2部分にワイヤロープ2を装着する。続いて、図6において、連結部材1aを装着して、連結軸1bを軸穴1dに挿入し、抜け防止枠を取り付けて、修正装置本体1を一体的に組み立てる。
【0020】
以下、握り部1cをつかみ、修正装置本体1を破線矢印イ、ロの方向に回転操作することにより、ワイヤロープ2の変形部分2dを修正することができる。
このとき、変形したワイヤロープ2の変形部分2dをレバー形状の修正装置本体1で逆方向に折り曲げるように操作し、直線になるように修正する。たとえば、図6に示した例では、破線矢印ロの方向に力を加えることにより、ワイヤロープ2の変形部分2dを修正する。
【0021】
また、変形部分2dの変形量が少ない場合には、連結部材1aを組み立てない図5の状態で、片手でワイヤロープ2の一部をつかみ、他方の手で修正装置本体1を操作することにより、容易に修正することもできる。
【0022】
また、ワイヤロープ2の変形部分2dが連続的に存在する場合には、変形部分2dを連結部材1aの対応位置に移動させた後、同様に、破線矢印イ、ロのいずれか一方の所要方向に回転させて変形部分2dを修正する。これにより、変形部分2dの発生数によらず、ワイヤロープ2の変形部分2dを順次にかつ容易に修正することができる。
【0023】
このように、この発明の実施の形態1に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置は、延長方向に沿ってコ字状の溝を有するとともに、一端を作用点部とし、かつ他端を力点部とするレバー形状の本体1と、本体1の溝の開口側に位置し、かつ本体の作用点部に近接するように貫通形成された軸穴1dと、軸穴1dに着脱自在に挿入された連結軸1bと、を備え、ワイヤロープ2の変形部分2dを、連結軸1bの内側の作用点部に位置するように本体1の溝内に装着して、握り部1c(力点部)にかかる力により修正するように構成されている。
【0024】
また、本体1は、一体的に連結された同一形状の2つ部分からなり、本体1の2つ部分は、連結軸1bにより係止された連結部材1aを介して相互に回転自在に連結され、連結部材1aに対応したそれぞれの一端の位置を作用点部とし、それぞれの他端の位置(握り部1c)を力点部とし、ワイヤロープ2は、本体1の2つ部分のぞれぞれの溝内に装着される。
【0025】
これにより、握り部1cに比較的小さい力を加える折り曲げ操作のみで、熟練者でなくても、容易に変形部分2dを修正することができる。
また、修正装置本体1の溝の中でワイヤロープ2を動かすことにより、修正状態を確認することができる。
【0026】
また、本体1の溝の内壁に、溝の開口側に向かって対向間隔が大きくなるようにテーパ部1eを設け、溝の断面形状を実質的にV字形状としたので、外径の異なるワイヤロープ2a、2bであっても、溝内に装着して適合させることができ、また、ワイヤロープ2を保持し易くなる。
【0027】
また、軸穴1dは、本体1の延長方向に沿って複数個形成されているので、連結軸1bを差し替えて挿入することにより、ワイヤロープ2の外径の違いに応じて、また、変形部分2dの形状や長さに応じて、連結部材1aの実質的長さを最適に設定することができる。
【0028】
また、この発明の実施の形態1に係る玉掛けワイヤロープの形状修正方法は、連結軸1bおよび連結部材1aを取り外して、ワイヤロープ2を本体1の2つの部分のそれぞれの溝内に装着するステップと、連結軸1bおよび連結部材1aを取り付けて、ワイヤロープ2の変形部分2dを作用点部(連結部材1aの対応部)に位置させるステップと、本体1の2つの部分のそれぞれの力点部(握り部1c)に力をかけて変形部分2dを修正するステップとを備えている。
【0029】
これにより、ワイヤロープ2の形状修正を行う際に、ワイヤロープ2を修正装置本体1の溝の中に通すので、ワイヤロープ2を保持し易くすることができる。
【0030】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1では、作業員が両手で修正装置本体1を操作する場合について説明したが、ワイヤロープ2の外径が小さ場合には、小さい力で修正可能なので、図7〜図9に示すように、2部分のうちの一方の修正装置本体1のみを用いて片手で操作してもよい。
【0031】
以下、図7〜図9を参照しながら、この発明の実施の形態2に係る修正装置本体1を用いた修正動作について説明する。図7はこの発明の実施の形態2に係る修正装置本体1を示す斜視図、図8は図7の修正装置本体1にワイヤロープ2を装着した状態を示す平面図、図9は修正操作時の修正装置本体1およびワイヤロープ2の状態を示す側面図である。
【0032】
まず、図7に示す修正装置本体1の溝の中に、図8のように、修正を必要とするワイヤロープ2を装着する。この場合、連結部材1aは不要となる。また、ワイヤロープ2が比較的短い場合には、ワイヤロープ2の一端から装着可能なので、連結軸1bを取り外す必要がなく、装着したままでもよい。
【0033】
続いて、図9のように、ワイヤロープ2の変形部分2dを修正装置本体1の端部(作用点部)に位置させて、修正装置本体1の握り部1c(図3、図5参照)を片手でつかみ、ワイヤロープ2の露出側の保持部2c(破線枠参照)を他方の片手で持ちながら、破線矢印イ、ロの方向に回転操作することにより、変形部分2dを修正する。
【0034】
このように、この発明の実施の形態2に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置は、延長方向に沿ってコ字状の溝を有するとともに、一端を作用点部とし、かつ他端を力点部とするレバー形状の本体1と、本体1の溝の開口側に位置し、かつ本体の作用点部に近接するように貫通形成された軸穴1dと、軸穴1dに着脱自在に挿入された連結軸1bと、を備え、ワイヤロープ2の変形部分2dを、連結軸1bの内側の作用点部に位置するように本体1の溝内に装着して、握り部1c(力点部)にかかる力により修正するように構成されている。
【0035】
また、この発明の実施の形態2に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置は、ワイヤロープ2を本体1の溝内に装着して、ワイヤロープ2の変形部分2dを作用点部に位置させるステップと、力点部と、ワイヤロープ2の一部である保持部2cとに力をかけて変形部分2dを修正するステップとを備えている。
このように、レバー形状の片方の修正装置本体1のみを用いた場合も、前述と同様の作用効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態1に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置の要部を示す斜視図である。
【図2】図1の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を示す平面図である。
【図3】図1の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を示す側面図である。
【図4】図1の玉掛けワイヤロープの形状修正装置に玉掛けワイヤロープを装着した状態を拡大して示す断面図である。
【図5】図1の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を用いた修正動作を説明するための側面図である。
【図6】図1の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を用いた修正動作を説明するための側面図である。
【図7】この発明の実施の形態2に係る玉掛けワイヤロープの形状修正装置の要部を示す斜視図である。
【図8】図7の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を示す平面図である。
【図9】図7の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を用いた修正動作を説明するための側面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 修正装置本体(玉掛けワイヤロープの形状修正装置本体)、1a 連結部材、1b 連結軸、1c 握り部、1d 軸穴、1e テーパ部、2、2a、2b ワイヤロープ(玉掛けワイヤロープ)、2c 保持部、2d 変形部分。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延長方向に沿ってコ字状の溝を有するとともに、一端を作用点部とし、かつ他端を力点部とするレバー形状の本体と、
前記本体の溝の開口側に位置し、かつ前記本体の作用点部に近接するように貫通形成された軸穴と、
前記軸穴に着脱自在に挿入された連結軸と、を備え、
玉掛けワイヤロープの変形部分を、前記連結軸の内側の前記作用点部に位置するように前記本体の溝内に装着して、前記力点部にかかる力により修正するように構成されたことを特徴とする玉掛けワイヤロープの形状修正装置。
【請求項2】
前記本体は、一体的に連結された同一形状の2つ部分からなり、
前記本体の2つ部分は、
前記連結軸により係止された連結部材を介して相互に回転自在に連結され、
前記連結部材に対応したそれぞれの一端の位置を前記作用点部とし、
それぞれの他端の位置を力点部とし、
前記玉掛けワイヤロープは、前記本体の2つ部分のぞれぞれの溝内に装着されることを特徴とする請求項1に記載の玉掛けワイヤロープの形状修正装置。
【請求項3】
前記本体の溝の内壁に、前記溝の開口側に向かって対向間隔が大きくなるようにテーパ部を設け、前記溝の断面形状を実質的にV字形状としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の玉掛けワイヤロープの形状修正装置。
【請求項4】
前記軸穴は、前記本体の延長方向に沿って複数個形成されたことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の玉掛けワイヤロープの形状修正装置。
【請求項5】
請求項1または請求項3または請求項4に記載の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を用いた修正方法であって、
前記玉掛けワイヤロープを前記本体の溝内に装着して、前記玉掛けワイヤロープの変形部分を前記作用点部に位置させるステップと、
前記力点部と、前記玉掛けワイヤロープの一部である保持部とに力をかけて前記変形部分を修正するステップと
を備えたことを特徴とする玉掛けワイヤロープの形状修正方法。
【請求項6】
請求項2から請求項4までのいずれか1項に記載の玉掛けワイヤロープの形状修正装置を用いた修正方法であって、
前記連結軸および前記連結部材を取り外して、前記玉掛けワイヤロープを前記本体の2つの部分のそれぞれの溝内に装着するステップと、
前記連結軸および前記連結部材を取り付けて、前記玉掛けワイヤロープの変形部分を前記作用点部に位置させるステップと、
前記本体の2つの部分のそれぞれの力点部に力をかけて前記変形部分を修正するステップと
を備えたことを特徴とする玉掛けワイヤロープの形状修正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−142757(P2008−142757A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334619(P2006−334619)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000236056)三菱電機ビルテクノサービス株式会社 (1,792)
【Fターム(参考)】