説明

玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末とその製造方法

【課題】安価な材料を使用した玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末とその製造方法を提供する。
【解決手段】玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は、玉葱の薄皮101、球部外皮104、球根頂部切除部、および底部の細根を含む切除部を原料とするものである。本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法は、玉葱の薄皮、球部外皮等を収集するステップと、前記玉葱残屑を破砕するステップと、前記破砕済の玉葱残屑をさらに粉砕乾燥して粉状にするステップとから構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
玉葱それ自体の栄養成分に着目して、あるいは他の野菜の残屑と混合して、家畜の飼料、肥料、その他に利用する数多くの提案がなされている。特許文献1記載の発明は、玉葱等を丸ごと食酢に含浸させ、乾燥させたのちに粉砕して家畜、特に雌豚の受胎率を向上させる目的に利用する飼料の製造方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平3−7545号公報
【特許文献2】特開2004−36904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記方法は、豚の特定の状況下において、極めて優れた効果を示しているが、製造方法が複雑で、材料原価が高価になる虞がある。
本件発明者等は、家畜特に豚を用いて後述のような種々の実験を行った結果、玉葱屑の薄皮や外皮に含まれるケルセチンを始めとする成分が、生体に相乗的に作用して、生体の健康維持促進に顕著な効果を奏することを見いだした。
本発明の目的は、より安価な材料、すなわち従来は産業廃棄物とされていた玉葱屑を使用した玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明による請求項1記載の玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は、
玉葱残屑を原料として粉砕乾燥したケルセチン含有粉末であって、
前記原料は、玉葱の薄皮、球部外皮、球根頂部切除部、および底部の細根を含む切除部からなり、前記球部外皮は薄皮に接する最外側の屑皮であり、水分70〜90%を含んでおり、玉葱の薄皮とその他の残屑の重量比は1:24〜98であり、
前記粉末の水分は、15%以下とするものである。
【0006】
本発明による請求項2記載の玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法は、
玉葱の薄皮、球部外皮、球根頂部切除部、および底部の細根を含む玉葱残屑を収集するステップと、
前記玉葱残屑を破砕するステップと、
前記破砕済の玉葱残屑をさらに粉砕乾燥して粉状にするステップと、
を含む玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法であって、
前記粉状にするステップは、圧力空気噴射装置に圧力空気を接続し、ラバル管状のノズル複数本から破砕された玉葱残屑に噴射し、さらに粉砕乾燥させることを特徴とするものである。
請求項2記載の圧力空気噴射装置は本件出願人の出願に係る上記特許文献2記載の出願に詳細に説明されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は、玉葱の薄皮、球部外皮等を原料とするものであり、これは従来廃棄物とされていたものを再利用するものである。
したがって、原料は極めて安価である。そして、薄皮の成分はもとより、球部の成分を含み、玉葱のもつ様々な効用を濃縮したものであり、少量の使用で健康な豚の成長に寄与し、養豚業者の生産コストの低下に著しく寄与している。すなわち、この動物実験により、本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末が生体に極めて良い影響を与えることが判明した。
さらに、本発明による前記玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法は、従来の玉葱の飼料の製造方法のように圧搾とか消石灰などを使わない点で優れている。
従来方法に比べ、ランニングコストおよびイニシャルコストを2分の1にする等、コスト面でも優れている。
【0008】
本願玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は、家畜の飼料として用いることにより、抗生物質代替品と考えることもできる。
すなわち、養豚経営者は、本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末を数%程度飼料に混合することにより、従来使用していた抗生物質の使用を省略することができる。
その結果食肉等の生産コストを下げることができる。さらに良い肉質の食肉を提供することができる。
また玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は水溶性であり、子豚期のミルクに添加して使用することができる。これにより抗生物質を使用することなく子豚の疾病防御と発育促進を図ることができる。本願玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末を添加した飼料で肥育した豚の肉には、残留抗生物質がないから安全である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の原料を説明するための玉葱の正面図である。
【図2】同、前記玉葱の断面図である。
【図3】本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法を説明するためのシステム図である。
【図4】本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末を家畜飼料(乾燥たまねぎ)としてとうもろこしの飼料栄養成分と比較して示した図である。
【図5】試験区分(添加区と対照区)と体重の変化を示す図である。
【図6】試験区分ごとの体重の平均値の変化を示すグラフである。
【図7】出荷所要日数の試験区分の固体ごとに示した棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面等を参照して本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末とその製造方法について説明する。
図1は、本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の原料を説明するための玉葱の正面図であり、図2は前記玉葱の断面図である。
本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の原料は玉葱残屑であり、玉葱の鱗茎の中心部の使用を予定していない。生産者が収穫した玉葱100は上下が切り落とされる。本発明による玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末は玉葱の薄皮101、球部外皮(鱗茎部の最外側)104、球根頂部切除部102、および底部の細根を含む切除部103を原料とするものである。これらの玉葱残屑が取り去られた部分は市場に食用として出荷される。なお、図2中、105に囲まれる部分は食用にして供される部分である。
【0011】
前記玉葱残屑よりなる原料が水分70〜90%を含んでいる場合、
玉葱の薄皮:その他の残屑=2:98(重量比)程度である。この量は玉葱の種類により変動するが概ね1:24〜98(重量比)の範囲にあると考えられる。
玉葱の外皮の部分は食用に供される部分と略同じ成分で含硫有機化合物、糖質を豊富に含むものである。その他の屑、主として褐色の薄皮部分は、抗酸化作用をもつケルセチン(フラボノイド)ペクチン,タンニンが多く含まれている。しかし薄皮には玉葱の前記含硫有機化合物は含まれていない。
【0012】
前記玉葱残屑よりなる原料は、図3に示すように、破砕機1に投入されて破砕され原料ホッパ2から、粉砕乾燥のために圧力空気噴射装置5に供給される。圧力空気噴射装置5には圧力空気供給機3,熱風発生装置4が接続されている。圧力空気噴射装置5には、ラバル管状のノズル複数本、この実施例では7本が設けられており、圧力空気が、過熱された気体中に投入された前記玉葱残屑よりなる原料に突き当たり、前記原料が粉砕されて、乾燥機6に送られて乾燥される。
【0013】
前記粉末の水分は、15%以下、より好ましくは10%以下とし、変質を防止して、保存可能性を高める。乾燥機6に送られて乾燥させられた原料はサイクロン7に送られ、選別機8に投入される。前記粉末の外形最大長さ(メッシュ)は2mm以下、より好ましくは1mm以下となるように選別する。選別された粉末は製品タンク9に投入され、袋詰めされた製品10として出荷される。
【0014】
(家畜による粉末の効果の確認実験)前記玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末を家畜飼料に用いて、前記玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末よりなる家畜飼料添加区と対象区各4頭の豚について、肥育、疾病、肉質、飼育環境の観点から比較を行なった。
何れも添加区における効果が圧倒的に優れていた。
これは、次のような因果関係によるものと推定される。外皮104の部分は、含硫有機化合物、糖質(フラクトオリゴ糖)が含まれている。その他の部分、特に薄皮101にはケルセチン(フラボノイドの一種)が含まれている。含硫有機化合物は、血行促進、ビタミンB1 吸収促進、殺菌作用がある。糖質(フラクトオリゴ糖)は豚の腸内にビフィズス菌の増殖を促進させる。前記血行促進、ビタミンB1 吸収促進の作用のために、豚の精神を安定させ、健康な豚が飼育され肉質が改善される。また殺菌作用および腸内環境改善により免疫力が高まるため、現在使用されている抗生物質の使用を避けても疾病発生の率を抑え、発育性を改善することができる。薄皮に含まれるケルセチンは抗酸化作用があるので、血圧降下に寄与するなどその他の疾病に全般的に有効に作用する。
【0015】
玉葱残屑粉末の実施例(乾燥たまねぎと表示)と、とうもろこしの飼料栄養素比較表を図4に示す。図5に示すように、対照区とたまねぎ添加区をそれぞれオス2頭とメス2頭で構成し、平成14年7月18日頃から比較観察を行なった。添加区では飼料(全農配合飼料)に3%の前記玉葱残屑粉末を添加して飼育した。一般成分においては、蛋白質の含量が比較的高いことから栄養的にも問題はなく、今回の添加率では嗜好性も良好であった。
【0016】
(肥育の比較)当初(7月18日)の平均体重はそれぞれの区で30kgであった。8月1日から各豚の体重を測定して図5に示す。図6に体重の平均値をグラフにして示してある。
図6のグラフは、肥育中期(体重約60kg,肥育日数40日)以後、発育性改善効果大であったことを示している。乾燥たまねぎ中のフラクトオリゴ糖が腸内環境を改善し、その効果を得るためには毎日一定量以上の摂取が有効であり、乾燥たまねぎの摂取量の増加に伴いフラクトオリゴ糖の摂取量が前記一定量以上となり毎日継続摂取した結果、発育性を改善したといえる。
図7に110kgの到達日数を棒グラフにして示してある。110kgの到達日数が短い方が肥育が早いと考えて良い。対照区はバラツキが大きい上に平均でも所要日数が長い。
これに対して添加区はバラツキは少なく平均でも所要日数が短い。
【0017】
(飼料要求率)飼料要求率とは、1kgの生産物(増体重)を作るのに何kgの飼料が必要であるかを示すものであり、これは肥育の経済性の評価に役立つ。
飼料要求率=飼料摂取量/増体重(生産量)
たまねぎ添加区は2.95、対照区では3.12
たまねぎ添加区の方が生産性において有利であった。
【0018】
(疾病の比較)固体に番号を付して疾病を示す
たまねぎ添加区 対照区
NO.109 軽胸膜肺炎 NO.83 重胸膜肺炎
NO.111 肝うっ血 NO.85 胸膜肺炎 中SEP 軽褪色 大腸炎
NO.80 重SEP NO.82 肝うっ血
NO.86 結節廃棄 NO.94 結節廃棄

SEPとは、豚流行性肺炎の略語。
対照区は疾病の発生、種類も多い。添加区と対照区を比較して、対照区のみに大腸炎が発生しているのは、添加区ではフラクトオリゴ糖の効果により腸内のビフィズス菌を増殖させ大腸炎の発生を抑止していると考えられる。肺炎を主とした疾病についても添加区の方が軽いのは、同様にフラクトオリゴ糖の効果によるものと考えられる。
薄皮に含まれるケルセチンの抗酸化作用が、豚の健康維持に全体として寄与していると考えることができる。
【0019】
肉質(食味)の検査は官能試験(3人のパネラーA,B,Cが豚ロース肉を試食し、肉質および風味を評価する。)により判定した。
軟らかさを5段階で評価した。最も軟らかいを5、かたいを1とする。

パネラー A B C
添加区 5 5 5
対照区 4 3 3

多汁性も同様に5段階で評価した。良いものを5、悪いものを1とする。

パネラー A B C
添加区 5 4 4
対照区 4 3 3

テクスチャー分析を行なった結果、硬さについては対照区が添加区よりも硬いという分析結果が得られ、軟らかさの5段評価によく対応している。
多汁性については、保水性について分析し、添加区の保水性が対照区の保水性よりも大きいという結果を得ている。
【0020】
(豚舎の環境の比較)添加区の豚の排泄物の臭いは、フラクトオリゴ糖の効果で豚の腸内の善玉菌の増殖を促進し、悪玉菌の増殖を抑制するため、硫化水素、アンモニア等の悪玉菌が生成する悪臭物質を抑えることができる。
【符号の説明】
【0021】
1 破砕機
2 原料ホッパ
3 圧力空気供給機
4 熱風発生装置
5 圧力空気噴射装置
6 乾燥機
7 サイクロン
8 選別機
9 製品タンク
10 製品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉葱残屑を原料として粉砕乾燥したケルセチン含有粉末であって、
前記原料は、玉葱の薄皮、球部外皮、球根頂部切除部、および底部の細根を含む切除部からなり、前記球部外皮は薄皮に接する最外側の屑皮であり、水分70〜90%を含んでおり、玉葱の薄皮とその他の残屑の重量比は1:24〜98であり、
前記粉末の水分は、15%以下である玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末。
【請求項2】
玉葱の薄皮、球部外皮、球根頂部切除部、および底部の細根を含む玉葱残屑を収集するステップと、
前記玉葱残屑を破砕するステップと、
前記破砕済の玉葱残屑をさらに粉砕乾燥して粉状にするステップと、
を含む玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法であって、
前記粉状にするステップは、圧力空気噴射装置に圧力空気を接続し、ラバル管状のノズル複数本から破砕された玉葱残屑に噴射し、さらに粉砕乾燥させることを特徴とする玉葱残屑を原料とするケルセチン含有粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−82149(P2009−82149A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−2583(P2009−2583)
【出願日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【分割の表示】特願2003−19181(P2003−19181)の分割
【原出願日】平成15年1月28日(2003.1.28)
【出願人】(000138325)株式会社ヤマウラ (11)
【出願人】(504227246)
【Fターム(参考)】