玉軸受用保持器および玉軸受
【課題】 耐グリース漏洩性および省スペースを同時にかつ低コストで達成することができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供する。
【解決手段】 環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉4を保持するポケット11を、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器5において、上記各ポケット11の内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入し、前記凹み部を設けることにより、玉4に付着しているグリースが保持器5の内径面で掻き取られる量を減少させ、内輪2の外径部へのグリース付着を防止する。
【解決手段】 環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉4を保持するポケット11を、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器5において、上記各ポケット11の内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入し、前記凹み部を設けることにより、玉4に付着しているグリースが保持器5の内径面で掻き取られる量を減少させ、内輪2の外径部へのグリース付着を防止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、玉軸受用保持器および玉軸受に関し、例えば、食品製造装置等の回転部、搬送系に用いられる軸受のグリース漏れを解決する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造装置に使用される軸受には、耐グリース漏洩性、低トルク、耐食性等が要求される。これらの要求のうち、耐グリース漏洩性を高めるため、スリンガ(例えば特許文献1)やシールを複数枚設けるもの(例えば特許文献2)がある。
【特許文献1】特開2003−262234号公報
【特許文献2】特開2003−254343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1または2に開示のものでは、軸受の軸方向にスリンガ等を設けるためのスペースが必要であり、部品点数が増えて製造コストが高くなる。
また、グリースが漏れて、食品に混入しても問題のない植物系のグリースを使用する場合もある。しかし、この植物系のグリースを使用する場合、鉱油系、化学合成系のグリースに比べて短寿命である。また、植物系のグリースであっても食品に混入しない方が望ましい。
【0004】
この発明の目的は、耐グリース漏洩性および省スペースを同時にかつ低コストで達成することができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の玉軸受用保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入したことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、冠形状の玉軸受用保持器を適用し、このポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けたため、玉に付着している食品機械用グリースを保持器の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、保持器ポケット背面側からのグリース漏洩を抑制し、内輪外径部へのグリース付着を防止することができる。それ故、内輪のシール溝へのグリースの流動を防止でき、よって玉軸受からのグリース漏れを防止できる。これにより、グリースが漏れず食品に混入しない。
【0007】
したがって、鉱油系や化学合成油系のグリースを使用でき、食品機械用グリースを使用する場合に比べて玉軸受が長寿命となる。前記玉軸受用保持器により、グリース漏洩を防ぐことができるため、内輪のシール溝の形状を設計変形する必要がなく、また玉軸受の軸方向に、スリンガ等を設ける必要もない。したがって、部品点数を増やす必要がなく、省スペース化を達成することができる。従来のものより、部品点数低減による製造コストの低減を図ることができる。
【0008】
上記食品機械用グリースは、基油が流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油であっても良い。
上記食品機械用グリースの増ちょう剤は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物であっても良い。
【0009】
グリースの封入率が、内外輪間の静止空間に対する100%未満であっても良い。玉軸受の密封板内側と内外輪で囲まれる空間を全空間容積とし、この全空間容積から、玉軸受が回転した際に、玉及び保持器が回転運動を行う空間を除いた空間を「静止空間」とする。
グリースの封入率が静止空間に対する100%未満であると、密封板内径面と内輪外径面との径方向隙間から、封入されたグリースが玉軸受外部から不所望に漏れ出すことを抑制できる。
【0010】
上記ポケットの凹み部の軸方向位置が、保持器を軸受に組み込んだ状態で、内輪の軌道面の肩部と略一致する位置であっても良い。この場合、玉に付着しているグリースを、保持器の内径面で掻き取る量が効果的に減少する。
上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられても良い。このように、保持器円周方向の中心の両側に位置に凹み部が複数箇所に設けられていることで、軸受の回転方向によらず、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させることができる。
【0011】
上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられてポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有するものであっても良い。この場合、1箇所の凹み部により、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させ得るため、保持器構造を簡単化することができる。よって、この凹み部を形成するための金型構造を簡単化すると共に、保持器内径面に溜まるグリース量を減少させることが可能となる。各ポケットの内面に凹み部を砥石等により後加工する場合、複数箇所の凹み部を形成する場合に比べて工数低減を図ることができる。それ故、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0012】
凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。
上記各ポケットの背面における保持器内径縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けても良い。これにより、ポケットでの内径面の面積を低減できて、グリース漏れ防止の効果を上げることができる。
前記各ポケットの開放側に、円周方向に対面する一対の爪が軸方向に突出して設けられ、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間の間隔よりも、保持器外径側の先端間の間隔を狭くしても良い。この場合、外輪からのグリースは、保持器外径側の爪部の外径部分で掻き取られ、グリースが内輪に付着しない。内輪からのグリースも、保持器外径側の爪部の内径部分で掻き取られ、玉に付着するグリース量を少なくできる。掻き取られたグリースは、内輪の外径面から遠い位置にあるため、内輪の外径面に付着しない。
前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結しても良い。
前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて段階的に狭くしても良い。
前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くしても良い。
ポケットにおける保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線に投影した前記爪の全幅をIt としたとき、前記直線に投影した前記爪における保持外径側の爪部の幅Ie が2/3It 以下となるように、保持器外径側の前記爪部の幅を設定するのが好ましい。
【0013】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項の玉軸受用保持器を組み込んだ玉軸受によると、保持器により、グリース漏洩を防ぐことができる。このため、従来のものより、グリース封入量を多くすることができ、長寿命化を図ることができる。
前記玉軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されたものであり、前記内外輪および複数の玉がそれぞれステンレス鋼製であっても良い。この場合、内外輪等の軸受部品に防錆油を塗布しなくても錆の発生を抑えることが可能となる。また防錆油を塗布しなくてもよいため、軸受として食品製造装置に使用可能な汎用性が高まる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の玉軸受用保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入したため、耐グリース漏洩性および省スペースを同時にかつ低コストで達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図面1ないし図3と共に説明する。図1(A)は、この実施形態に係る玉軸受が適用される食品製造装置の断面図、図1(B)はその要部拡大断面図である。前記玉軸受1は密閉型の深溝玉軸受であり、図1(A)に示すように、食品製造装置、例えば、食品を混練する食品製造装置のケーシングKSに設けられた混練用回転軸J1を支持する回転部に用いられる。ただし、玉軸受1を、食品製造装置の搬送系等に用いても良い。
【0016】
図1(A)に示す食品製造装置KSは、投入口TGからケーシングKS内に投入される食品原料を、スクリュー羽根SBで混練しながら、矢符A1にて示す軸方向一方に移送する。その後、食品製造装置KSは、混練された食品を排出口HGから排出する。前記スクリュー羽根SBは回転軸J1に螺旋状に設けられ、この回転軸J1は図示外のモータで回転駆動可能に構成される。
ケーシングKSの一端および他端には軸受箱JB,JBが設けられ、各軸受箱JBに玉軸受1の外輪3が嵌合される。外輪端面は止め輪TWにより抜け止めされる。これら玉軸受1の内輪2に、回転軸J1の両端部が嵌合される。これにより、玉軸受1は、回転軸J1の両端部を回転自在に支持する。
【0017】
玉軸受1について説明する。
図1(B)に示すように、玉軸受1は、内輪2と外輪3の軌道面2a,3aの間に複数の玉4を介在させ、これら玉4を保持する保持器5を設け、内外輪2,3間に形成される環状空間の両端をそれぞれ接触シール6で密封したものである。玉軸受内部には、後述の食品機械用グリースが封入される。内外輪2,3は例えば軸受鋼からなる。玉4は一般的に鋼球からなる。食品製造装置に用いられる玉軸受1では、内外輪2,3および玉4は、特にマルテンサイト系のステンレス鋼(日本工業規格SUS440C)からなるものを適用することが、食品に対する衛生面、軸受自体の防錆面の点で好ましい。例えば、食塩水等が玉軸受内部に浸入するような過酷な使用条件において、前記ステンレス鋼からなる内外輪2,3および玉4を適用すると、これら軸受部品に防錆油を塗布しなくても錆の発生を抑えることが可能となる。また防錆油を塗布しなくてもよいため、軸受として食品製造装置に使用可能な汎用性が高まる。なお、鋼球に代えてセラミックス球からなる玉4を適用しても良い。接触シール6は、環状の芯金7とこの芯金7に一体に固着されたゴム状部材8とで構成され、外輪3の内周面に形成されたシール取付溝9に外周部が嵌合状態に固定される。内輪2は各接触シール6の内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝10が形成され、接触シール6の内周側端に形成されたシールリップ6aが内輪2のシール溝10に摺接する。
【0018】
保持器5は、図2に示すように、内部に玉4(図1(B))を保持するポケット11を、環状体12の円周方向の複数箇所に有する冠形状のものである。各ポケット11は、環状体12の一側面に一部が開放されている。各ポケット11の内面は、玉4の外面に沿った凹球面状の曲面形状とされている。環状体12の隣合うポケット11,11間の部分は連結部13となる。各ポケット11の開放側には、保持器円周方向に対面する一対の爪14,14が軸方向に突出して設けられている。なお、この明細書において、軸受軸方向のポケット開放側をポケット側と呼び、その反対側を背面側と呼ぶ。
【0019】
保持器5のポケット11の内面には、図2、図3に示すように、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる複数の凹み部16が設けられている。この凹み部16を設けることにより、玉4に付着しているグリースが保持器5の内径面で掻き取られる量を減少させ、内輪2の外径部へのグリース付着を防止する。この例では、凹み部16を、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11の両側に位置する2箇所としている。各凹み部16の内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)が、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状であり、詳しくは図3(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線Lを中心とする各仮想円筒Vの表面に略沿う円筒面状の形状である。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側のポケット開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。なお、玉配列ピッチ円PCDはポケットPCDとも呼ぶ。
2個の凹み部16の位置は、例えば、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11に対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。凹み部16の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O11から凹み部16の最深位置までの距離Rcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では凹み部16を2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0020】
図4のポケットの内面のさらに他の例は、凹み部16の断面形状(保持器円周方向に沿う断面形状)を、多角形状としたものである。詳しくは、同図(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線LAを中心とする各多角形柱(図示の例では正10角形柱)VAの表面に略沿う多角形状である。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。この図4の実施形態におけるその他の構成は、図3の例と同様である。
【0021】
図5のさらに他の例は、ポケット11の内面に設けられる凹み部16が、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11の両側に位置して2箇所に設けられ、かつ、各凹み部16が保持器外径縁付近まで延びている。これら凹み部16の内面の保持器円周方向に沿う断面形状は、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RBbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、一つの仮想リングVBの表面に略沿った形状である。この仮想リングVBは、凹み部16を加工する砥石の外周面であっても良い。前記仮想リングVBは、ポケット11内に収まるリング外径であって、任意周方向位置の断面形状が円形となるドーナツ状であり、図6のように、リング中心OVBが保持器中心軸Oに対して傾きを持つ。このように仮想リングVBが内径側に傾きを持っているため、各凹み部16における、内径側凹み部分よりも外径側凹み部分の凹み深さが浅くなる。換言すれば、各凹み部16は、内径側凹み部分から外径側凹み部分に向かうに従って凹み具合が減少する。これにより、グリース漏れ防止効果が得られる。
【0022】
なお、この発明において、凹み部16の保持器円周方向に沿う断面形状は、図3〜図5の各例の形状に限らず、部分楕円状や、矩形溝状、台形溝状や、その他任意の断面形状としても良い。凹み部16の上記断面形状は、凹み部中心に対して非対称の形状であっても良い。
ポケット11における内面形状は、球面状に限らず、玉配列ピッチ円PCDよりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる形状であれば良く、例えば玉配列ピッチ円PCDよりも外径側の部分が円筒面状、内径側の部分が円すい面状であっても良い。
【0023】
図7の例の玉軸受用保持器5は、図3〜図5に示す実施形態において、連結部13の内径面の背面側を削除したものである。これにより、ポケット11では、その背面側が円弧状の殻部11aで囲まれた形状となる。
図3〜図5の例では、前記凹み部16により、玉4に付着したグリースを保持器5の内径面で掻き取る量を減らすことができるものの、わずかに付着する場合には、その堆積量が増加するとグリース漏れに繋がってしまう。つまり、この場合、連結部13の内径面にもグリースが付着し、この部分のグリースが軸方向にしか移動できない。この連結部13の軸方向の範囲が、内輪2の外径部の存在領域と重なる場合、すなわち連結部13の内径面が内輪2の軌道面2aよりも軸受端面側に位置する場合には、連結部13の内径面からグリースが軸受外に漏れてしまうことになる。そこで、図7のように、連結部13の内径面の背面側を削除すると、連結部13の内径面からグリースが軸受外に漏れるのを防ぐことができる。
【0024】
図7の例では、連結部13の背面側において、内径面から外径面にわたって削除した例を示しているが、保持器5の強度を考えた場合は、その削除量は少ないことが望ましい。内輪2の外径部へのグリース付着の抑制には、内輪2の外径面と保持器5の内径面との距離を長くすることも有効であることから、連結部13の内径側のみを一部削除し、外径側に従来のような壁面を残すようにしても良い。すなわち、隣合うポケット11,11間の連結部13の円周方向中央位置における断面において、連結部13の削除されずに残された内径面の背面側の軸方向位置を、内輪2の軌道面2aの肩部よりも軌道面2a中央側に位置させることが、グリース漏れ防止の上で重要である。このことを、図7の保持器5に仮想線で示す内輪2の断面図を重ねて、軸方向Yの位置関係の模式図として図12に示す。つまり、同図において、連結部13の軸方向位置Ybが、内輪2の軌道面2aの肩部の軸方向位置Yaよりも軌道面2aの中央側(Yb<Ya)であれば良い。
また、同図におけるYbの位置は、連結部13の内径面が存在してよい背面側の位置であり、その外径側にポケット11の中央部の背面側の軸方向位置と同じ位置まで延びる外壁面が存在しても良い。同様に、Ybの位置から外径側に向けて連結部13の軸方向厚さが、背面側へと徐々に、あるいは段階的に厚くなるような形状としても良い。
【0025】
図8の例の玉軸受用保持器5は、図7の実施形態において、ポケット11の殻部11aの厚さを比較的厚くした例を示す。この場合の殻部11aの厚みの増加は、保持器5の内径面の面積増加を招くため、グリース漏れを助長する傾向になる。とりわけ、保持器5の内径面において、堆積するグリースが多量になる位置は、図12における内輪2の軌道面2aの肩部と一致する軸方向位置の近傍(符号Pで示す)となるので、この軸方向位置の近傍での保持器5の内径面の面積低減が重要である。そこで、この実施形態では、そのポケット11の殻部11aの外面にも凹み部26を設け、ポケット11の内径面の面積を低減している。これにより、保持器5の内径面へのグリース堆積量の減少と、保持器単体の強度向上とを両立させることができる。
【0026】
保持器5の内径面の面積を低減するには、図9に部分拡大斜視図で示すように、ポケット11の内面に設ける凹み部16を大きくしても良い。
図10に部分拡大斜視図で示すように、保持器5を構成する環状体12を、内径側の軸方向厚さが薄く、外径側に向かって徐々に厚くなる形状とすることで、保持器5の内径面の面積を低減するようにしても良い。同様に、環状体12の軸方向厚さを、内径側から外径側へと段階的に増加させるようにしても良い。
【0027】
図11の例の玉軸受用保持器5は、図8の実施形態において、ポケット11の開放側に突出する一対の先端部14の一部を削除して、軽量化を図ったものである。玉軸受1を高速回転で使用する場合、保持器5に作用する遠心力の影響が大きくなる。この遠心力による保持器5の応力を低減するためには、保持器5の軽量化が有効である。そこで、この実施形態では、先端部14の外径側を一部削除した形状としている。高速回転時に、保持器5の先端部14では、ポケット11の中央部に対して外径側に傾くように変形するため、先端部14の内径側で玉4を案内することになる。したがって、この実施形態のように、先端部14の外径側を一部削除しても、軸受機能上の悪影響は生じない。
【0028】
図13および図14は、グリース付着状態の確認を行なった試験結果を示す。この試験では、図7の例の保持器5を組み込んだ玉軸受と、一般的な冠形状の保持器とを組み込んだ玉軸受とを、同一条件で運転して比較した。図13は、図7の例の保持器5を用いた玉軸受のグリース付着状態を示し、図14は一般的な冠形状の保持器を用いた玉軸受のグリース付着状態を示す。
【0029】
この試験結果から、一般的な冠形状の保持器を組み込んだ玉軸受(図14)では、保持器内径面と内輪の外径部との間にグリースが多量存在し、紙面手前方向の内輪シール溝に向かってグリースが漏れてきている。玉軸受にシールが装着されていれば、シール溝とシール先端との間にグリースが流動し、軸受内部の温度上昇とともに軸受外部へ漏洩することになる。実施形態の保持器5を組み込んだ玉軸受(図13)では、保持器5の内径部に極微量のグリース付着が認められるものの、内輪外径部には認められないことが分かる。
【0030】
試験結果からわかるように、この実施形態の玉軸受用保持器5では、各ポケット11の内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部16を設けたことにより、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部へのグリース付着を防止することができる。内輪2の外径部へのグリース付着がなければ、内輪2のシール溝10(図1(B))へのグリースの流動を防止でき、結果として玉軸受1からのグリース漏れを防止できる。
【0031】
前記各実施形態において、ポケット11の内面の凹み部16の好ましい位置は、図12に符号Pで示す位置である。つまり、凹み部16の軸受軸方向位置が、保持器5を玉軸受1に組み込んだ際の内輪軌道面2aの肩部と概ね一致する場所である。なぜなら、保持器5の内径面に堆積するグリースが多量となるのは、玉4と内輪軌道面2aの接触により、軌道面肩部と一致する軸方向位置の近傍となるからである。
【0032】
図15の例の玉軸受用保持器5は、図3〜図5の実施形態において、ポケット11の内面に設ける2つの凹み部16を、1つの凹み部16に置き換えたものである。この凹み部16の場合も、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びるものとし、この凹み部16の内面の保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)を、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RCbの円弧状としている。
この凹み部16は、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11から両側に広がって1箇所に設けられ、凹み部16の幅W16は、ポケット11の保持器円周方向の幅W11の略全体にわたる幅としている。凹み部13の幅W16は、ポケット11の幅W11の半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。
凹み部16の内面形状は、同図15(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線LCを中心とする仮想円筒VCの表面に略沿う円筒面状の形状である。上記仮想円筒VCは、凹み部16を加工する砥石の表面であっても良い。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。凹み部16は、この実施形態では、丁度、玉配列ピッチ円PCDまで延びているが、玉配列ピッチ円PCDよりも保持器外径側まで若干延びていても、また玉配列ピッチ円PCDに若干達しないものであっても良い。
【0033】
凹み部16の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O11から凹み部16の最深位置までの距離RCcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さ(丁度1.05倍であって良い)であることが好ましい。ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raは、玉4の半径よりも僅かに大きくし、玉4の半径の1.05未満としている。
【0034】
図16の例の玉軸受用保持器5は、各ポケット11の開放側に、円周方向に対面する一対の爪14,14が軸方向に突出して設けられた冠形状の玉軸受用保持器において、各ポケット11のうち保持器内径側の爪部14a,14aの先端間の間隔よりも、保持器外径側の爪部14b,14bの先端間の間隔が狭く設定されている。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16を設けている。
爪部14aの突出長は、一般的な冠形状の保持器における爪の突出長と同じにされ、爪部14bの突出長は爪部14aよりも長くされている。爪14の保持器円周方向に沿う断面(玉配列のピッチ円PCDに沿う断面)を示す図19のように、ポケット中心O11から爪部14a先端および爪部14b先端を臨む保持器円周方向に対する角度θa ,θb を、爪部14b先端を臨む角度θb が、爪部14a先端を臨む角度θa の1.5倍以上(θb ≧1.5θa )に設定するのが好ましい。
【0035】
保持器外径側の爪部14bの保持器径方向の幅は、図20に示すように、ポケット11における保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線Nに投影した爪14の全幅(ポケット幅)をIt としたとき、前記直線Nに投影した爪部14bの幅Ie が、前記全幅It の2/3以下(Ie ≦2/3It )に設定するのが好ましい。
【0036】
この実施形態では、図17や図18に示す工程で玉軸受用保持器5を製造する。図17(A)に示すように、保持器外径側の爪部14bの、保持器内径側の爪部14aよりも突出する爪先端部分からなる爪部品14baを、保持器本体5Aと別体に形成する。そして、内外輪2,3(図1(B))および玉4に前記保持器本体5Aを組み込んだ後に、図17(B)のように、爪部品14baを保持器本体5Aに、接着、あるいはホットプレス等による溶着、あるいは嵌合する。これにより、保持器組み込み時に、爪14の付け根で白化や破損が生じるのを避け得る。爪部品14baは、保持器内径側の爪部14aよりも突出する爪先端部分だけでなく、保持器外径側の爪部14bの大部分あるいは全体であってもよい。
【0037】
図18の製造方法は、図18(A)のように、爪部14bの、爪部14aよりも突出する爪先端部分14baを、完成時よりもポケット中心O11から離反する開放姿勢とした保持器半製品5Bを製作する。そして、内外輪2,3(図1(B))および玉4に保持器半製品5Bを組み込んだ後に、図18(B)のように、爪先端部分14baを玉4の表面に沿う閉鎖姿勢に、熱を加えながら折り曲げて熱変形させたり、あるいは二次加工する。これにより、保持器組み込み時に、爪14の付け根で白化や破損が生じるのを回避し得る。
【0038】
図16の例の玉軸受用保持器5では、外輪3(図1(B))からのグリースは、保持器外径側の爪部14bの外径部分で掻き取られ、グリースが内輪2に付着しない。内輪2からのグリースも、保持器外径側の爪部14bの内径部分で掻き取られ、玉4に付着するグリース量が少なくなり、玉4の極部に堆積するグリースが抑制される。掻き取られたグリースは、内輪2の外径面から遠い位置にあるため、掻き取られたグリースが内輪2の外径面に付着することはない。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16を設けたことにより、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部へのグリース付着をより確実に防止し得る。
【0039】
他の例の玉軸受用保持器として、保持器内径側の爪先端よりも保持器外径側の爪先端の突出長が長ければ、爪の形状は、爪14の形状は、内外輪2,3や接触シール6(図1(B))に非接触である限り、どのような形状でも良い。
図21の他の例では、各ポケット11の一対の爪14,14の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くしている。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16(図3〜図5等)を設けている。
図22の他の例では、各ポケット11の一対の爪14,14の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結している。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16(図3〜図5等)を設けている。
【0040】
食品機械用グリースについて説明する。
食品機械は、食品原料および食用製品(以後、「食品原料等」と称す)の加工の際、食品原料等に直接接触する部分はもとより、食品機械に装着されている軸受その他の摺動部品等、食品原料等に直接接触しない部分であっても、部品から材料成分が流出して食品中に混入する可能性があり、食品用途における各種材料についての法律上の衛生基準である、食品衛生法で定められた食品、添加物等の規格基準、FDA規格およびUSDAのH−1規格等の認可基準にしたがって、以下の食品機械用グリースが適用される。
【0041】
本発明に使用できる食品機械用グリースの基油として、流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油が用いられる。
前記流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油から選ばれる油は、人体に無害な物質としてUSDA H−1規格、FDA規格にも合格したものである。また、流動パラフィン油は、比較的軽質の潤滑油留分を硫酸洗浄によって高度に精製した炭化水素油であり、主としてアルキルナフテン類からなり、「食品添加物公定書」または「日本薬局方」に薬用流動パラフィンとして記載されたものである。また、このものは、アメリカ、イギリス、ドイツの食添流動パラフィン油、局方流動パラフィン油にも相当する。
本発明に使用できるポリαオレフィン油は、上記USDA H−1規格により、直接食品に接触させても人体に対して全く無害であるという評価基準を得たものであり、芳香族炭化水素や硫化化合物等の不純物を含まない合成炭化水素油である。本発明に使用できる植物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばツバキ油、オリーブ油、落花生油、ヒマシ油、菜種油などを使用することができる。本発明に使用できる動物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばサナギ油、牛脚油、ラード(豚脂)等、またはイワシ油、ニシン油等の水産動物油等であってもよい。
【0042】
本発明に使用できるフッ素油は、上記したUSDA H−1に合格し、炭素、フッ素、酸素の3原子からなるものであり、例えば下記の化1内の式(1)、式(2)に示す分子構造のものである。
【化1】
【0043】
前記エステル油、シリコーン油およびポリアルキレングリコール油から選ばれる基油は、所定濃度未満であれば人体に害を与えない物質としてUSDA H−1規格またはFDA規格に合格したものである。本発明に使用できるエステル油は、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ケイ酸エステル油などの−COO−構造を有する周知のエステル油であって、前述のFDAが間接食品添加物(Indirect Food Additive) に指定した化合物からなる合成潤滑油である。FDAに指定されたエステル油の具体例として、モノヒドロゲンフォスフェートエステル油、ジヒドロゲンフォスフェートエステル油等が挙げられる。
本発明に用いるシリコーン油は、ポリマー型の合成潤滑油として周知のシリコーン油のうち、前記FDAに指定されたものであり、下記の化2で表されるシリコーン油(例えばジメチルポリシロキサン油等)を採用し得る。
【化2】
(式中、Rはメチル基、フェニル基の単体または混合された基である。)
このようなシリコーン油(オルガノポリシロキサン油)の具体例としては、ジメチルシリコーン油等のアルキルメチルシリコーン油、フェニルメチルシリコーン油等が挙げられる。
本発明に使用できるポリアルキレングリコール油は、合成潤滑油として周知のポリエチレングリコール油、ポリプロピレングリコール油などであり、これらは前述のFDAで規定された合成潤滑油である。
【0044】
食品機械用グリースは、前記基油に、増ちょう剤として化合物を配合する。この化合物は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
本実施形態に係る玉軸受用保持器5によりグリース漏洩を防ぐことができるため、従来のものより、グリース封入量を多くすることができ、長寿命化を図ることができる。
増ちょう剤にアルミニウム複合せっけんを用いたものは、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。よって、この食品機械用グリースを封入した玉軸受1の長寿命化を図ることが可能となる。
食品機械用グリースとしては、植物系のものに限定されるものではなく、鉱油系や化学合成油系のグリースを使用できる。この場合、植物系のグリースを使用する場合に比べて玉軸受1が長寿命となる。
【0045】
グリースの封入率は、内外輪2,3間の静止空間に対する100%未満である。玉軸受1の接触シール内側と内外輪2,3で囲まれる空間を全空間容積とし、この全空間容積から、玉軸受が回転した際に、玉4及び保持器5が回転運動を行う空間を除いた空間を「静止空間」とする。
グリースの封入率が静止空間に対する100%未満であると、接触シール内径面と内輪外径面との径方向隙間から、封入されたグリースが玉軸受外部から不所望に漏れ出すことを抑制できる。
【0046】
以上説明した実施形態におけるいずれかの玉軸受用保持器5の背面側を、グリース対策を施したい側に向けて組み込めば、最終製品のグリース密封機能が保たれる。図1(A)の食品製造装置においては、図1(B)に示すように、各保持器5の背面側をケーシングKS内に向け、ポケット側を軸方向外方に向けた玉軸受1を軸受箱JBに嵌合して組み込む。これにより、ポケット背面側からのグリース漏洩を抑制し、内輪外径部へのグリース付着を防止することができる。それ故、内輪2のうち、特に、軸方向内方のシール溝10へのグリースの流動を防止でき、よってケーシングKSと回転軸J1との間の径方向隙間δ1(図1(B)から、ケーシングKS内にグリースが漏洩することを防止できる。これにより、グリースが食品に混入することを防止し得る。
【0047】
前記玉軸受用保持器5により、グリース漏洩を防ぐことができるため、内輪2のシール溝10の形状を設計変更する必要がなく、また玉軸受1の軸方向に、スリンガ等を設ける必要もない。したがって、部品点数を増やす必要がなく、省スペース化を達成することができる。従来のものより、部品点数低減による製造コストの低減を図ることができる。
【0048】
本実施形態に係る玉軸受用保持器5をアンギュラ玉軸受に適用しても良い。
図23に示す単列アンギュラ玉軸受においては、内輪2の右側にシール溝10が形成され、シール部材6は右端にのみ設けられる。右側のシール溝10に対応して外輪内径面の右側端にシール部材固定溝9が形成されている。図23左側の内輪外径面を成すカウンターボア部CBは、同図右側の外径部2Dより小径に形成される。これにより、外輪3および玉4に対し、内輪2をこの左側のカウンターボア部CBから容易に組み込むことができる。さらに、ポケット背面側における保持器5の内径面と、前記カウンターボア部CBとの距離δ2を長くし得る。この場合、保持器の凹み部16により、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する相乗効果により、左側のカウンターボア部CBへのグリース付着防止を図ることが可能となる。
【0049】
図24に示す他の例では、軌道面2a等から同図左側に押し出されるグリースについて、凹み部16により、玉4付着のグリースを保持器5の内径面5dで掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部2Dへのグリース付着を防止でき、シール溝10へのグリース流動を防止し得る。
図25の他の例のように、内外輪両側にシール部材6,6が設けられていても良い。軌道面2a等から同図右側に押し出されるグリースは、右側のシール部材6によりグリース漏れを防止し得る。軌道面2a等から同図左側に押し出されるグリースについて、保持器5の凹み部16により、玉4に付着しているグリースを内径面5dで掻き取る量が減少する。
【0050】
図26に示す複列アンギュラ玉軸受においては、軌道面2a,3a間に複列の玉4を介在させ、各列の保持器5が各列における複数の玉4を保持している。各列の保持器5のポケット開放側を軸方向内方に向け、ポケット背面側がシール部材6にやや離隔して対向する。換言すれば、2個の保持器5,5のポケット面が向かい合うように配置される。軸受空間には前述の食品機械用グリースが封入される。これらアンギュラ玉軸受においても、前述の深溝玉軸受と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)は、この実施形態に係る玉軸受が適用される食品製造装置の断面図、(B)はその要部拡大断面図である。
【図2】同玉軸受用保持器の斜視図である。
【図3】(A)は同保持器の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図4】(A)は同保持器の他の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想多角柱を加えた状態を示す斜視図である。
【図5】(A)は同保持器のさらに他の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想リングを加えた状態を示す斜視図である。
【図6】同保持器のポケットと仮想リングの関係を断面で示す説明図である。
【図7】この発明の他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の斜視図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の斜視図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図12】玉軸受用保持器のポケットと内輪軌道面の間での軸方向位置の関係の説明図である。
【図13】(A)は図3に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図14】(A)は一般的な冠形状の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図15】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図16】この発明の他の実施形態の玉軸受用保持器の斜視図である。
【図17】同玉軸受用保持器の製造方法の説明図である。
【図18】同玉軸受用保持器の他の製造方法の説明図である。
【図19】同玉軸受用保持器の爪先端のポケット中心からの角度の説明図である。
【図20】同玉軸受用保持器の爪の幅の説明図である。
【図21】玉軸受用保持器の爪の他の形状例を示す側面図である。
【図22】玉軸受用保持器の爪のさらに他の形状例を示す側面図である。
【図23】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図24】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図25】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図26】この発明のさらに他の実施形態にかかる複列アンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…玉軸受
2…内輪
4…玉
5…玉軸受用保持器
11…ポケット
12…環状体
14…爪
16…凹み部
【技術分野】
【0001】
この発明は、玉軸受用保持器および玉軸受に関し、例えば、食品製造装置等の回転部、搬送系に用いられる軸受のグリース漏れを解決する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
食品製造装置に使用される軸受には、耐グリース漏洩性、低トルク、耐食性等が要求される。これらの要求のうち、耐グリース漏洩性を高めるため、スリンガ(例えば特許文献1)やシールを複数枚設けるもの(例えば特許文献2)がある。
【特許文献1】特開2003−262234号公報
【特許文献2】特開2003−254343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1または2に開示のものでは、軸受の軸方向にスリンガ等を設けるためのスペースが必要であり、部品点数が増えて製造コストが高くなる。
また、グリースが漏れて、食品に混入しても問題のない植物系のグリースを使用する場合もある。しかし、この植物系のグリースを使用する場合、鉱油系、化学合成系のグリースに比べて短寿命である。また、植物系のグリースであっても食品に混入しない方が望ましい。
【0004】
この発明の目的は、耐グリース漏洩性および省スペースを同時にかつ低コストで達成することができる玉軸受用保持器および玉軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明の玉軸受用保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入したことを特徴とする。
【0006】
この構成によると、冠形状の玉軸受用保持器を適用し、このポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けたため、玉に付着している食品機械用グリースを保持器の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、保持器ポケット背面側からのグリース漏洩を抑制し、内輪外径部へのグリース付着を防止することができる。それ故、内輪のシール溝へのグリースの流動を防止でき、よって玉軸受からのグリース漏れを防止できる。これにより、グリースが漏れず食品に混入しない。
【0007】
したがって、鉱油系や化学合成油系のグリースを使用でき、食品機械用グリースを使用する場合に比べて玉軸受が長寿命となる。前記玉軸受用保持器により、グリース漏洩を防ぐことができるため、内輪のシール溝の形状を設計変形する必要がなく、また玉軸受の軸方向に、スリンガ等を設ける必要もない。したがって、部品点数を増やす必要がなく、省スペース化を達成することができる。従来のものより、部品点数低減による製造コストの低減を図ることができる。
【0008】
上記食品機械用グリースは、基油が流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油であっても良い。
上記食品機械用グリースの増ちょう剤は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物であっても良い。
【0009】
グリースの封入率が、内外輪間の静止空間に対する100%未満であっても良い。玉軸受の密封板内側と内外輪で囲まれる空間を全空間容積とし、この全空間容積から、玉軸受が回転した際に、玉及び保持器が回転運動を行う空間を除いた空間を「静止空間」とする。
グリースの封入率が静止空間に対する100%未満であると、密封板内径面と内輪外径面との径方向隙間から、封入されたグリースが玉軸受外部から不所望に漏れ出すことを抑制できる。
【0010】
上記ポケットの凹み部の軸方向位置が、保持器を軸受に組み込んだ状態で、内輪の軌道面の肩部と略一致する位置であっても良い。この場合、玉に付着しているグリースを、保持器の内径面で掻き取る量が効果的に減少する。
上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられても良い。このように、保持器円周方向の中心の両側に位置に凹み部が複数箇所に設けられていることで、軸受の回転方向によらず、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させることができる。
【0011】
上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられてポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有するものであっても良い。この場合、1箇所の凹み部により、玉の表面のグリース掻き取り量を減少させ得るため、保持器構造を簡単化することができる。よって、この凹み部を形成するための金型構造を簡単化すると共に、保持器内径面に溜まるグリース量を減少させることが可能となる。各ポケットの内面に凹み部を砥石等により後加工する場合、複数箇所の凹み部を形成する場合に比べて工数低減を図ることができる。それ故、製造コストの低減を図ることが可能となる。
【0012】
凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状であっても良い。
上記各ポケットの背面における保持器内径縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けても良い。これにより、ポケットでの内径面の面積を低減できて、グリース漏れ防止の効果を上げることができる。
前記各ポケットの開放側に、円周方向に対面する一対の爪が軸方向に突出して設けられ、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間の間隔よりも、保持器外径側の先端間の間隔を狭くしても良い。この場合、外輪からのグリースは、保持器外径側の爪部の外径部分で掻き取られ、グリースが内輪に付着しない。内輪からのグリースも、保持器外径側の爪部の内径部分で掻き取られ、玉に付着するグリース量を少なくできる。掻き取られたグリースは、内輪の外径面から遠い位置にあるため、内輪の外径面に付着しない。
前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結しても良い。
前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて段階的に狭くしても良い。
前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くしても良い。
ポケットにおける保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線に投影した前記爪の全幅をIt としたとき、前記直線に投影した前記爪における保持外径側の爪部の幅Ie が2/3It 以下となるように、保持器外径側の前記爪部の幅を設定するのが好ましい。
【0013】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項の玉軸受用保持器を組み込んだ玉軸受によると、保持器により、グリース漏洩を防ぐことができる。このため、従来のものより、グリース封入量を多くすることができ、長寿命化を図ることができる。
前記玉軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されたものであり、前記内外輪および複数の玉がそれぞれステンレス鋼製であっても良い。この場合、内外輪等の軸受部品に防錆油を塗布しなくても錆の発生を抑えることが可能となる。また防錆油を塗布しなくてもよいため、軸受として食品製造装置に使用可能な汎用性が高まる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の玉軸受用保持器は、環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、食品機械用グリースを封入したため、耐グリース漏洩性および省スペースを同時にかつ低コストで達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
この発明の一実施形態を図面1ないし図3と共に説明する。図1(A)は、この実施形態に係る玉軸受が適用される食品製造装置の断面図、図1(B)はその要部拡大断面図である。前記玉軸受1は密閉型の深溝玉軸受であり、図1(A)に示すように、食品製造装置、例えば、食品を混練する食品製造装置のケーシングKSに設けられた混練用回転軸J1を支持する回転部に用いられる。ただし、玉軸受1を、食品製造装置の搬送系等に用いても良い。
【0016】
図1(A)に示す食品製造装置KSは、投入口TGからケーシングKS内に投入される食品原料を、スクリュー羽根SBで混練しながら、矢符A1にて示す軸方向一方に移送する。その後、食品製造装置KSは、混練された食品を排出口HGから排出する。前記スクリュー羽根SBは回転軸J1に螺旋状に設けられ、この回転軸J1は図示外のモータで回転駆動可能に構成される。
ケーシングKSの一端および他端には軸受箱JB,JBが設けられ、各軸受箱JBに玉軸受1の外輪3が嵌合される。外輪端面は止め輪TWにより抜け止めされる。これら玉軸受1の内輪2に、回転軸J1の両端部が嵌合される。これにより、玉軸受1は、回転軸J1の両端部を回転自在に支持する。
【0017】
玉軸受1について説明する。
図1(B)に示すように、玉軸受1は、内輪2と外輪3の軌道面2a,3aの間に複数の玉4を介在させ、これら玉4を保持する保持器5を設け、内外輪2,3間に形成される環状空間の両端をそれぞれ接触シール6で密封したものである。玉軸受内部には、後述の食品機械用グリースが封入される。内外輪2,3は例えば軸受鋼からなる。玉4は一般的に鋼球からなる。食品製造装置に用いられる玉軸受1では、内外輪2,3および玉4は、特にマルテンサイト系のステンレス鋼(日本工業規格SUS440C)からなるものを適用することが、食品に対する衛生面、軸受自体の防錆面の点で好ましい。例えば、食塩水等が玉軸受内部に浸入するような過酷な使用条件において、前記ステンレス鋼からなる内外輪2,3および玉4を適用すると、これら軸受部品に防錆油を塗布しなくても錆の発生を抑えることが可能となる。また防錆油を塗布しなくてもよいため、軸受として食品製造装置に使用可能な汎用性が高まる。なお、鋼球に代えてセラミックス球からなる玉4を適用しても良い。接触シール6は、環状の芯金7とこの芯金7に一体に固着されたゴム状部材8とで構成され、外輪3の内周面に形成されたシール取付溝9に外周部が嵌合状態に固定される。内輪2は各接触シール6の内周部に対応する位置に、円周溝からなるシール溝10が形成され、接触シール6の内周側端に形成されたシールリップ6aが内輪2のシール溝10に摺接する。
【0018】
保持器5は、図2に示すように、内部に玉4(図1(B))を保持するポケット11を、環状体12の円周方向の複数箇所に有する冠形状のものである。各ポケット11は、環状体12の一側面に一部が開放されている。各ポケット11の内面は、玉4の外面に沿った凹球面状の曲面形状とされている。環状体12の隣合うポケット11,11間の部分は連結部13となる。各ポケット11の開放側には、保持器円周方向に対面する一対の爪14,14が軸方向に突出して設けられている。なお、この明細書において、軸受軸方向のポケット開放側をポケット側と呼び、その反対側を背面側と呼ぶ。
【0019】
保持器5のポケット11の内面には、図2、図3に示すように、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる複数の凹み部16が設けられている。この凹み部16を設けることにより、玉4に付着しているグリースが保持器5の内径面で掻き取られる量を減少させ、内輪2の外径部へのグリース付着を防止する。この例では、凹み部16を、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11の両側に位置する2箇所としている。各凹み部16の内面形状は、保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)が、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径Rbの円弧状であり、詳しくは図3(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線Lを中心とする各仮想円筒Vの表面に略沿う円筒面状の形状である。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側のポケット開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。なお、玉配列ピッチ円PCDはポケットPCDとも呼ぶ。
2個の凹み部16の位置は、例えば、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11に対する周方向の配向角度を40°±15°とした対称な2箇所である。凹み部16の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O11から凹み部16の最深位置までの距離Rcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さであることが好ましい(丁度1.05倍であって良い)。
なお、この実施形態では凹み部16を2箇所としたが、3箇所以上としても良い。
【0020】
図4のポケットの内面のさらに他の例は、凹み部16の断面形状(保持器円周方向に沿う断面形状)を、多角形状としたものである。詳しくは、同図(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線LAを中心とする各多角形柱(図示の例では正10角形柱)VAの表面に略沿う多角形状である。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDの付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに近づくに従って徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅狭となる形状である。この図4の実施形態におけるその他の構成は、図3の例と同様である。
【0021】
図5のさらに他の例は、ポケット11の内面に設けられる凹み部16が、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11の両側に位置して2箇所に設けられ、かつ、各凹み部16が保持器外径縁付近まで延びている。これら凹み部16の内面の保持器円周方向に沿う断面形状は、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RBbの円弧状であり、詳しくは同図(B)に示すように、一つの仮想リングVBの表面に略沿った形状である。この仮想リングVBは、凹み部16を加工する砥石の外周面であっても良い。前記仮想リングVBは、ポケット11内に収まるリング外径であって、任意周方向位置の断面形状が円形となるドーナツ状であり、図6のように、リング中心OVBが保持器中心軸Oに対して傾きを持つ。このように仮想リングVBが内径側に傾きを持っているため、各凹み部16における、内径側凹み部分よりも外径側凹み部分の凹み深さが浅くなる。換言すれば、各凹み部16は、内径側凹み部分から外径側凹み部分に向かうに従って凹み具合が減少する。これにより、グリース漏れ防止効果が得られる。
【0022】
なお、この発明において、凹み部16の保持器円周方向に沿う断面形状は、図3〜図5の各例の形状に限らず、部分楕円状や、矩形溝状、台形溝状や、その他任意の断面形状としても良い。凹み部16の上記断面形状は、凹み部中心に対して非対称の形状であっても良い。
ポケット11における内面形状は、球面状に限らず、玉配列ピッチ円PCDよりも内径側の部分が、保持器内径側開口縁に近づくに従って小径となる形状であれば良く、例えば玉配列ピッチ円PCDよりも外径側の部分が円筒面状、内径側の部分が円すい面状であっても良い。
【0023】
図7の例の玉軸受用保持器5は、図3〜図5に示す実施形態において、連結部13の内径面の背面側を削除したものである。これにより、ポケット11では、その背面側が円弧状の殻部11aで囲まれた形状となる。
図3〜図5の例では、前記凹み部16により、玉4に付着したグリースを保持器5の内径面で掻き取る量を減らすことができるものの、わずかに付着する場合には、その堆積量が増加するとグリース漏れに繋がってしまう。つまり、この場合、連結部13の内径面にもグリースが付着し、この部分のグリースが軸方向にしか移動できない。この連結部13の軸方向の範囲が、内輪2の外径部の存在領域と重なる場合、すなわち連結部13の内径面が内輪2の軌道面2aよりも軸受端面側に位置する場合には、連結部13の内径面からグリースが軸受外に漏れてしまうことになる。そこで、図7のように、連結部13の内径面の背面側を削除すると、連結部13の内径面からグリースが軸受外に漏れるのを防ぐことができる。
【0024】
図7の例では、連結部13の背面側において、内径面から外径面にわたって削除した例を示しているが、保持器5の強度を考えた場合は、その削除量は少ないことが望ましい。内輪2の外径部へのグリース付着の抑制には、内輪2の外径面と保持器5の内径面との距離を長くすることも有効であることから、連結部13の内径側のみを一部削除し、外径側に従来のような壁面を残すようにしても良い。すなわち、隣合うポケット11,11間の連結部13の円周方向中央位置における断面において、連結部13の削除されずに残された内径面の背面側の軸方向位置を、内輪2の軌道面2aの肩部よりも軌道面2a中央側に位置させることが、グリース漏れ防止の上で重要である。このことを、図7の保持器5に仮想線で示す内輪2の断面図を重ねて、軸方向Yの位置関係の模式図として図12に示す。つまり、同図において、連結部13の軸方向位置Ybが、内輪2の軌道面2aの肩部の軸方向位置Yaよりも軌道面2aの中央側(Yb<Ya)であれば良い。
また、同図におけるYbの位置は、連結部13の内径面が存在してよい背面側の位置であり、その外径側にポケット11の中央部の背面側の軸方向位置と同じ位置まで延びる外壁面が存在しても良い。同様に、Ybの位置から外径側に向けて連結部13の軸方向厚さが、背面側へと徐々に、あるいは段階的に厚くなるような形状としても良い。
【0025】
図8の例の玉軸受用保持器5は、図7の実施形態において、ポケット11の殻部11aの厚さを比較的厚くした例を示す。この場合の殻部11aの厚みの増加は、保持器5の内径面の面積増加を招くため、グリース漏れを助長する傾向になる。とりわけ、保持器5の内径面において、堆積するグリースが多量になる位置は、図12における内輪2の軌道面2aの肩部と一致する軸方向位置の近傍(符号Pで示す)となるので、この軸方向位置の近傍での保持器5の内径面の面積低減が重要である。そこで、この実施形態では、そのポケット11の殻部11aの外面にも凹み部26を設け、ポケット11の内径面の面積を低減している。これにより、保持器5の内径面へのグリース堆積量の減少と、保持器単体の強度向上とを両立させることができる。
【0026】
保持器5の内径面の面積を低減するには、図9に部分拡大斜視図で示すように、ポケット11の内面に設ける凹み部16を大きくしても良い。
図10に部分拡大斜視図で示すように、保持器5を構成する環状体12を、内径側の軸方向厚さが薄く、外径側に向かって徐々に厚くなる形状とすることで、保持器5の内径面の面積を低減するようにしても良い。同様に、環状体12の軸方向厚さを、内径側から外径側へと段階的に増加させるようにしても良い。
【0027】
図11の例の玉軸受用保持器5は、図8の実施形態において、ポケット11の開放側に突出する一対の先端部14の一部を削除して、軽量化を図ったものである。玉軸受1を高速回転で使用する場合、保持器5に作用する遠心力の影響が大きくなる。この遠心力による保持器5の応力を低減するためには、保持器5の軽量化が有効である。そこで、この実施形態では、先端部14の外径側を一部削除した形状としている。高速回転時に、保持器5の先端部14では、ポケット11の中央部に対して外径側に傾くように変形するため、先端部14の内径側で玉4を案内することになる。したがって、この実施形態のように、先端部14の外径側を一部削除しても、軸受機能上の悪影響は生じない。
【0028】
図13および図14は、グリース付着状態の確認を行なった試験結果を示す。この試験では、図7の例の保持器5を組み込んだ玉軸受と、一般的な冠形状の保持器とを組み込んだ玉軸受とを、同一条件で運転して比較した。図13は、図7の例の保持器5を用いた玉軸受のグリース付着状態を示し、図14は一般的な冠形状の保持器を用いた玉軸受のグリース付着状態を示す。
【0029】
この試験結果から、一般的な冠形状の保持器を組み込んだ玉軸受(図14)では、保持器内径面と内輪の外径部との間にグリースが多量存在し、紙面手前方向の内輪シール溝に向かってグリースが漏れてきている。玉軸受にシールが装着されていれば、シール溝とシール先端との間にグリースが流動し、軸受内部の温度上昇とともに軸受外部へ漏洩することになる。実施形態の保持器5を組み込んだ玉軸受(図13)では、保持器5の内径部に極微量のグリース付着が認められるものの、内輪外径部には認められないことが分かる。
【0030】
試験結果からわかるように、この実施形態の玉軸受用保持器5では、各ポケット11の内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部16を設けたことにより、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部へのグリース付着を防止することができる。内輪2の外径部へのグリース付着がなければ、内輪2のシール溝10(図1(B))へのグリースの流動を防止でき、結果として玉軸受1からのグリース漏れを防止できる。
【0031】
前記各実施形態において、ポケット11の内面の凹み部16の好ましい位置は、図12に符号Pで示す位置である。つまり、凹み部16の軸受軸方向位置が、保持器5を玉軸受1に組み込んだ際の内輪軌道面2aの肩部と概ね一致する場所である。なぜなら、保持器5の内径面に堆積するグリースが多量となるのは、玉4と内輪軌道面2aの接触により、軌道面肩部と一致する軸方向位置の近傍となるからである。
【0032】
図15の例の玉軸受用保持器5は、図3〜図5の実施形態において、ポケット11の内面に設ける2つの凹み部16を、1つの凹み部16に置き換えたものである。この凹み部16の場合も、保持器内径側の開口縁から保持器外径側に延びるものとし、この凹み部16の内面の保持器円周方向に沿う断面形状(すなわち保持器中心軸に垂直な平面で断面した断面形状)を、ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raよりも小さな曲率半径RCbの円弧状としている。
この凹み部16は、ポケット11の開口縁における保持器円周方向の中心OW11から両側に広がって1箇所に設けられ、凹み部16の幅W16は、ポケット11の保持器円周方向の幅W11の略全体にわたる幅としている。凹み部13の幅W16は、ポケット11の幅W11の半分よりも大きいことが好ましく、2/3以上、あるいは3/4以上であることがより好ましい。
凹み部16の内面形状は、同図15(B)に示すように、保持器5の半径方向の直線LCを中心とする仮想円筒VCの表面に略沿う円筒面状の形状である。上記仮想円筒VCは、凹み部16を加工する砥石の表面であっても良い。この凹み部16は、保持器半径方向につき、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円PCDまで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円PCDに至るに従って、徐々に小さく、つまり徐々に浅くかつ幅が狭くなる形状とされている。凹み部16は、この実施形態では、丁度、玉配列ピッチ円PCDまで延びているが、玉配列ピッチ円PCDよりも保持器外径側まで若干延びていても、また玉配列ピッチ円PCDに若干達しないものであっても良い。
【0033】
凹み部16の深さは、ポケット内面の凹球面の中心O11から凹み部16の最深位置までの距離RCcが、玉4の半径の1.05倍以上となる深さ(丁度1.05倍であって良い)であることが好ましい。ポケット11の内面となる凹球面の曲率半径Raは、玉4の半径よりも僅かに大きくし、玉4の半径の1.05未満としている。
【0034】
図16の例の玉軸受用保持器5は、各ポケット11の開放側に、円周方向に対面する一対の爪14,14が軸方向に突出して設けられた冠形状の玉軸受用保持器において、各ポケット11のうち保持器内径側の爪部14a,14aの先端間の間隔よりも、保持器外径側の爪部14b,14bの先端間の間隔が狭く設定されている。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16を設けている。
爪部14aの突出長は、一般的な冠形状の保持器における爪の突出長と同じにされ、爪部14bの突出長は爪部14aよりも長くされている。爪14の保持器円周方向に沿う断面(玉配列のピッチ円PCDに沿う断面)を示す図19のように、ポケット中心O11から爪部14a先端および爪部14b先端を臨む保持器円周方向に対する角度θa ,θb を、爪部14b先端を臨む角度θb が、爪部14a先端を臨む角度θa の1.5倍以上(θb ≧1.5θa )に設定するのが好ましい。
【0035】
保持器外径側の爪部14bの保持器径方向の幅は、図20に示すように、ポケット11における保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線Nに投影した爪14の全幅(ポケット幅)をIt としたとき、前記直線Nに投影した爪部14bの幅Ie が、前記全幅It の2/3以下(Ie ≦2/3It )に設定するのが好ましい。
【0036】
この実施形態では、図17や図18に示す工程で玉軸受用保持器5を製造する。図17(A)に示すように、保持器外径側の爪部14bの、保持器内径側の爪部14aよりも突出する爪先端部分からなる爪部品14baを、保持器本体5Aと別体に形成する。そして、内外輪2,3(図1(B))および玉4に前記保持器本体5Aを組み込んだ後に、図17(B)のように、爪部品14baを保持器本体5Aに、接着、あるいはホットプレス等による溶着、あるいは嵌合する。これにより、保持器組み込み時に、爪14の付け根で白化や破損が生じるのを避け得る。爪部品14baは、保持器内径側の爪部14aよりも突出する爪先端部分だけでなく、保持器外径側の爪部14bの大部分あるいは全体であってもよい。
【0037】
図18の製造方法は、図18(A)のように、爪部14bの、爪部14aよりも突出する爪先端部分14baを、完成時よりもポケット中心O11から離反する開放姿勢とした保持器半製品5Bを製作する。そして、内外輪2,3(図1(B))および玉4に保持器半製品5Bを組み込んだ後に、図18(B)のように、爪先端部分14baを玉4の表面に沿う閉鎖姿勢に、熱を加えながら折り曲げて熱変形させたり、あるいは二次加工する。これにより、保持器組み込み時に、爪14の付け根で白化や破損が生じるのを回避し得る。
【0038】
図16の例の玉軸受用保持器5では、外輪3(図1(B))からのグリースは、保持器外径側の爪部14bの外径部分で掻き取られ、グリースが内輪2に付着しない。内輪2からのグリースも、保持器外径側の爪部14bの内径部分で掻き取られ、玉4に付着するグリース量が少なくなり、玉4の極部に堆積するグリースが抑制される。掻き取られたグリースは、内輪2の外径面から遠い位置にあるため、掻き取られたグリースが内輪2の外径面に付着することはない。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16を設けたことにより、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部へのグリース付着をより確実に防止し得る。
【0039】
他の例の玉軸受用保持器として、保持器内径側の爪先端よりも保持器外径側の爪先端の突出長が長ければ、爪の形状は、爪14の形状は、内外輪2,3や接触シール6(図1(B))に非接触である限り、どのような形状でも良い。
図21の他の例では、各ポケット11の一対の爪14,14の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くしている。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16(図3〜図5等)を設けている。
図22の他の例では、各ポケット11の一対の爪14,14の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結している。さらに、各ポケット11の内面に、凹み部16(図3〜図5等)を設けている。
【0040】
食品機械用グリースについて説明する。
食品機械は、食品原料および食用製品(以後、「食品原料等」と称す)の加工の際、食品原料等に直接接触する部分はもとより、食品機械に装着されている軸受その他の摺動部品等、食品原料等に直接接触しない部分であっても、部品から材料成分が流出して食品中に混入する可能性があり、食品用途における各種材料についての法律上の衛生基準である、食品衛生法で定められた食品、添加物等の規格基準、FDA規格およびUSDAのH−1規格等の認可基準にしたがって、以下の食品機械用グリースが適用される。
【0041】
本発明に使用できる食品機械用グリースの基油として、流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油が用いられる。
前記流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油から選ばれる油は、人体に無害な物質としてUSDA H−1規格、FDA規格にも合格したものである。また、流動パラフィン油は、比較的軽質の潤滑油留分を硫酸洗浄によって高度に精製した炭化水素油であり、主としてアルキルナフテン類からなり、「食品添加物公定書」または「日本薬局方」に薬用流動パラフィンとして記載されたものである。また、このものは、アメリカ、イギリス、ドイツの食添流動パラフィン油、局方流動パラフィン油にも相当する。
本発明に使用できるポリαオレフィン油は、上記USDA H−1規格により、直接食品に接触させても人体に対して全く無害であるという評価基準を得たものであり、芳香族炭化水素や硫化化合物等の不純物を含まない合成炭化水素油である。本発明に使用できる植物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばツバキ油、オリーブ油、落花生油、ヒマシ油、菜種油などを使用することができる。本発明に使用できる動物油は、食品または食品添加物として使用できる周知の天然油であり、例えばサナギ油、牛脚油、ラード(豚脂)等、またはイワシ油、ニシン油等の水産動物油等であってもよい。
【0042】
本発明に使用できるフッ素油は、上記したUSDA H−1に合格し、炭素、フッ素、酸素の3原子からなるものであり、例えば下記の化1内の式(1)、式(2)に示す分子構造のものである。
【化1】
【0043】
前記エステル油、シリコーン油およびポリアルキレングリコール油から選ばれる基油は、所定濃度未満であれば人体に害を与えない物質としてUSDA H−1規格またはFDA規格に合格したものである。本発明に使用できるエステル油は、二塩基酸エステル油、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ケイ酸エステル油などの−COO−構造を有する周知のエステル油であって、前述のFDAが間接食品添加物(Indirect Food Additive) に指定した化合物からなる合成潤滑油である。FDAに指定されたエステル油の具体例として、モノヒドロゲンフォスフェートエステル油、ジヒドロゲンフォスフェートエステル油等が挙げられる。
本発明に用いるシリコーン油は、ポリマー型の合成潤滑油として周知のシリコーン油のうち、前記FDAに指定されたものであり、下記の化2で表されるシリコーン油(例えばジメチルポリシロキサン油等)を採用し得る。
【化2】
(式中、Rはメチル基、フェニル基の単体または混合された基である。)
このようなシリコーン油(オルガノポリシロキサン油)の具体例としては、ジメチルシリコーン油等のアルキルメチルシリコーン油、フェニルメチルシリコーン油等が挙げられる。
本発明に使用できるポリアルキレングリコール油は、合成潤滑油として周知のポリエチレングリコール油、ポリプロピレングリコール油などであり、これらは前述のFDAで規定された合成潤滑油である。
【0044】
食品機械用グリースは、前記基油に、増ちょう剤として化合物を配合する。この化合物は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物である。
本実施形態に係る玉軸受用保持器5によりグリース漏洩を防ぐことができるため、従来のものより、グリース封入量を多くすることができ、長寿命化を図ることができる。
増ちょう剤にアルミニウム複合せっけんを用いたものは、水素脆性による特異な剥離の発生を抑制することができる。よって、この食品機械用グリースを封入した玉軸受1の長寿命化を図ることが可能となる。
食品機械用グリースとしては、植物系のものに限定されるものではなく、鉱油系や化学合成油系のグリースを使用できる。この場合、植物系のグリースを使用する場合に比べて玉軸受1が長寿命となる。
【0045】
グリースの封入率は、内外輪2,3間の静止空間に対する100%未満である。玉軸受1の接触シール内側と内外輪2,3で囲まれる空間を全空間容積とし、この全空間容積から、玉軸受が回転した際に、玉4及び保持器5が回転運動を行う空間を除いた空間を「静止空間」とする。
グリースの封入率が静止空間に対する100%未満であると、接触シール内径面と内輪外径面との径方向隙間から、封入されたグリースが玉軸受外部から不所望に漏れ出すことを抑制できる。
【0046】
以上説明した実施形態におけるいずれかの玉軸受用保持器5の背面側を、グリース対策を施したい側に向けて組み込めば、最終製品のグリース密封機能が保たれる。図1(A)の食品製造装置においては、図1(B)に示すように、各保持器5の背面側をケーシングKS内に向け、ポケット側を軸方向外方に向けた玉軸受1を軸受箱JBに嵌合して組み込む。これにより、ポケット背面側からのグリース漏洩を抑制し、内輪外径部へのグリース付着を防止することができる。それ故、内輪2のうち、特に、軸方向内方のシール溝10へのグリースの流動を防止でき、よってケーシングKSと回転軸J1との間の径方向隙間δ1(図1(B)から、ケーシングKS内にグリースが漏洩することを防止できる。これにより、グリースが食品に混入することを防止し得る。
【0047】
前記玉軸受用保持器5により、グリース漏洩を防ぐことができるため、内輪2のシール溝10の形状を設計変更する必要がなく、また玉軸受1の軸方向に、スリンガ等を設ける必要もない。したがって、部品点数を増やす必要がなく、省スペース化を達成することができる。従来のものより、部品点数低減による製造コストの低減を図ることができる。
【0048】
本実施形態に係る玉軸受用保持器5をアンギュラ玉軸受に適用しても良い。
図23に示す単列アンギュラ玉軸受においては、内輪2の右側にシール溝10が形成され、シール部材6は右端にのみ設けられる。右側のシール溝10に対応して外輪内径面の右側端にシール部材固定溝9が形成されている。図23左側の内輪外径面を成すカウンターボア部CBは、同図右側の外径部2Dより小径に形成される。これにより、外輪3および玉4に対し、内輪2をこの左側のカウンターボア部CBから容易に組み込むことができる。さらに、ポケット背面側における保持器5の内径面と、前記カウンターボア部CBとの距離δ2を長くし得る。この場合、保持器の凹み部16により、玉4に付着しているグリースを保持器5の内径面で掻き取る量が減少する相乗効果により、左側のカウンターボア部CBへのグリース付着防止を図ることが可能となる。
【0049】
図24に示す他の例では、軌道面2a等から同図左側に押し出されるグリースについて、凹み部16により、玉4付着のグリースを保持器5の内径面5dで掻き取る量が減少する。これにより、内輪2の外径部2Dへのグリース付着を防止でき、シール溝10へのグリース流動を防止し得る。
図25の他の例のように、内外輪両側にシール部材6,6が設けられていても良い。軌道面2a等から同図右側に押し出されるグリースは、右側のシール部材6によりグリース漏れを防止し得る。軌道面2a等から同図左側に押し出されるグリースについて、保持器5の凹み部16により、玉4に付着しているグリースを内径面5dで掻き取る量が減少する。
【0050】
図26に示す複列アンギュラ玉軸受においては、軌道面2a,3a間に複列の玉4を介在させ、各列の保持器5が各列における複数の玉4を保持している。各列の保持器5のポケット開放側を軸方向内方に向け、ポケット背面側がシール部材6にやや離隔して対向する。換言すれば、2個の保持器5,5のポケット面が向かい合うように配置される。軸受空間には前述の食品機械用グリースが封入される。これらアンギュラ玉軸受においても、前述の深溝玉軸受と同様の作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】(A)は、この実施形態に係る玉軸受が適用される食品製造装置の断面図、(B)はその要部拡大断面図である。
【図2】同玉軸受用保持器の斜視図である。
【図3】(A)は同保持器の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図4】(A)は同保持器の他の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想多角柱を加えた状態を示す斜視図である。
【図5】(A)は同保持器のさらに他の一例の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想リングを加えた状態を示す斜視図である。
【図6】同保持器のポケットと仮想リングの関係を断面で示す説明図である。
【図7】この発明の他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の斜視図である。
【図8】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の斜視図である。
【図9】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図10】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図11】この発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図である。
【図12】玉軸受用保持器のポケットと内輪軌道面の間での軸方向位置の関係の説明図である。
【図13】(A)は図3に示す構造の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図14】(A)は一般的な冠形状の保持器を組み込んだ玉軸受のグリース漏れ試験の結果の説明図、(B)は(A)の部分拡大図である。
【図15】(A)はこの発明のさらに他の実施形態にかかる玉軸受用保持器の部分拡大斜視図、(B)は同斜視図に仮想円筒を加えた状態を示す斜視図である。
【図16】この発明の他の実施形態の玉軸受用保持器の斜視図である。
【図17】同玉軸受用保持器の製造方法の説明図である。
【図18】同玉軸受用保持器の他の製造方法の説明図である。
【図19】同玉軸受用保持器の爪先端のポケット中心からの角度の説明図である。
【図20】同玉軸受用保持器の爪の幅の説明図である。
【図21】玉軸受用保持器の爪の他の形状例を示す側面図である。
【図22】玉軸受用保持器の爪のさらに他の形状例を示す側面図である。
【図23】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図24】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図25】この発明のさらに他の実施形態にかかるアンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【図26】この発明のさらに他の実施形態にかかる複列アンギュラ玉軸受の要部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1…玉軸受
2…内輪
4…玉
5…玉軸受用保持器
11…ポケット
12…環状体
14…爪
16…凹み部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、
上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、
食品機械用グリースを封入した、
ことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、上記食品機械用グリースは、基油が流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油である玉軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1において、上記食品機械用グリースの増ちょう剤は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物である玉軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、グリースの封入率が、内外輪間の静止空間に対する100%未満である玉軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、上記ポケットの凹み部の軸方向位置が、保持器を軸受に組み込んだ状態で、内輪の軌道面の肩部と略一致する位置である玉軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられた玉軸受用保持器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられてポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有する玉軸受用保持器。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、上記この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、上記各ポケットの背面における保持器内径縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けた玉軸受用保持器。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記各ポケットの開放側に、円周方向に対面する一対の爪が軸方向に突出して設けられ、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間の間隔よりも、保持器外径側の先端間の間隔を狭くした玉軸受用保持器。
【請求項11】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結した玉軸受用保持器。
【請求項12】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて段階的に狭くした玉軸受用保持器。
【請求項13】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くした玉軸受用保持器。
【請求項14】
請求項11または請求項12において、ポケットにおける保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線に投影した前記爪の全幅をIt としたとき、前記直線に投影した前記爪における保持外径側の爪部の幅Ie が2/3It 以下となるように、保持器外径側の前記爪部の幅を設定した玉軸受用保持器。
【請求項15】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項の玉軸受用保持器を組み込んだ玉軸受。
【請求項16】
請求項15において、前記玉軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されたものであり、前記内外輪および複数の玉がそれぞれステンレス鋼製である玉軸受。
【請求項1】
環状体の一側面に一部が開放されて内部に玉を保持するポケットを、上記環状体の円周方向複数箇所に有する冠形状の玉軸受用保持器において、
上記各ポケットの内面に、保持器内径側のポケット開口縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設け、
食品機械用グリースを封入した、
ことを特徴とする玉軸受用保持器。
【請求項2】
請求項1において、上記食品機械用グリースは、基油が流動パラフィン油、ポリαオレフィン油、植物油、動物油、フッ素油、エステル油、シリコーン油およびアルキレングリコール油から選ばれる少なくとも1つの油である玉軸受用保持器。
【請求項3】
請求項1において、上記食品機械用グリースの増ちょう剤は、アルミニウム複合石けん、カルシウムハイドロステアレート、ポリウレア、クレーおよびフッ素樹脂から選ばれる少なくとも1種の化合物である玉軸受用保持器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において、グリースの封入率が、内外輪間の静止空間に対する100%未満である玉軸受用保持器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において、上記ポケットの凹み部の軸方向位置が、保持器を軸受に組み込んだ状態で、内輪の軌道面の肩部と略一致する位置である玉軸受用保持器。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において、上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心の両側に位置して複数箇所に設けられた玉軸受用保持器。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において、上記凹み部が、上記ポケットの開口縁における保持器円周方向の中心から両側に広がって1箇所に設けられてポケットの保持器円周方向の幅の半分よりも大きな幅を有する玉軸受用保持器。
【請求項8】
請求項6または請求項7において、上記この凹み部は、保持器内径側の開口縁から玉配列ピッチ円の付近まで延びていて、保持器内径縁から玉配列ピッチ円に近づくに従って徐々に浅くかつ幅狭となる形状である玉軸受用保持器。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、上記各ポケットの背面における保持器内径縁から保持器外径側へ延びる凹み部を設けた玉軸受用保持器。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記各ポケットの開放側に、円周方向に対面する一対の爪が軸方向に突出して設けられ、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間の間隔よりも、保持器外径側の先端間の間隔を狭くした玉軸受用保持器。
【請求項11】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の保持器内径側の先端間を開放し、保持器外径側の先端間を連結した玉軸受用保持器。
【請求項12】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて段階的に狭くした玉軸受用保持器。
【請求項13】
請求項10において、前記各ポケットの一対の爪の先端間の間隔を、保持器内径側から保持器外径側に向けて無段階に狭くした玉軸受用保持器。
【請求項14】
請求項11または請求項12において、ポケットにおける保持器円周方向の中心を通る保持器半径方向の直線に投影した前記爪の全幅をIt としたとき、前記直線に投影した前記爪における保持外径側の爪部の幅Ie が2/3It 以下となるように、保持器外径側の前記爪部の幅を設定した玉軸受用保持器。
【請求項15】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項の玉軸受用保持器を組み込んだ玉軸受。
【請求項16】
請求項15において、前記玉軸受は、内外輪間に介在する複数の玉が保持器に保持されたものであり、前記内外輪および複数の玉がそれぞれステンレス鋼製である玉軸受。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【公開番号】特開2010−121755(P2010−121755A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297939(P2008−297939)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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