説明

玉鎖引張り用レバー

【課題】トイレ排水タンクの玉鎖に荷重が負荷され、玉鎖が次第に劣化し、切れてしまうのを防止する。
【解決手段】玉鎖70を引張るためのレバーにおいて、レバーの操作に伴い回転するレバーアームと、レバーアームの回転軸を挟んで左右一対の状態でレバーアームに設けられた二つの鎖取付部34とを備え、レバーアームを左右どちらの回転方向に回動させた場合も、鎖取付部34に取り付けられた玉鎖70が真っ直ぐな状態を維持できるように、鎖取付部34にスリット44を設けたことにより、玉鎖70と排水弁の間隔を施工時に所定長さに調節することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、便器のタンクに設けられ、玉鎖を引張るためのレバーに関する。本発明のレバーは、玉鎖を介して排水弁を開閉する際に、玉鎖に局所的な曲げ荷重が掛かることを防止するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレに備えられる貯水タンクの排水弁を開くための排水レバーが知られている(例えば、特許文献1参照)。貯水タンクの底に排水弁が配置され、その排水弁に鎖の一端が繋ながっており、その鎖の他端が、水面より高い位置に配置された排水レバーに接続される。排水レバーが操作されると、排水レバーが回動して鎖を引上げ、排水弁を引上げて開く。鎖としては、施工時に長さの調整が容易である玉鎖が好んで用いられる。
【0003】
【特許文献1】特開2007−046349号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1(図7)によれば、従来、貯水タンクにおいて、ハンドル1により駆動軸2を回転させると、それに連動して玉鎖引張り用レバー3が回転し、玉鎖が上方へ引き上げられ、その結果排水弁4が開状態となり、貯水タンク1内の便器洗浄水が便器へ排水される。また、玉鎖は、小洗浄側排水弁と接続している小洗浄側玉鎖5と大洗浄側排水弁と接続している大洗浄側玉鎖6があり、ハンドル1の回転と連動して一方が上方に引き上げられる構成になっている。例えば、ハンドル1を小洗浄側に回転させると、駆動軸と共に玉鎖引張り用レバー3が回転し、小洗浄側玉鎖5が引き上げられ、小洗浄側排水弁が開状態になる。
玉鎖引張り用レバー3と玉鎖の接続部分について、玉鎖引張り用レバー3を小洗浄側に回転した場合、小洗浄側排水弁を引き上げる小洗浄側玉鎖5については、スリット7の範囲で自由に移動したり傾いたりすることでき、玉鎖は真っ直ぐな状態のままでいられるような構成になっている(図9)。しかし、玉鎖引張り用レバー3を大洗浄側に回転した場合、小洗浄側玉鎖5については、自由に移動したり傾いたりするスリット7の範囲が充分にないため、玉鎖引張り用レバー3から曲げ荷重を受ける構成になっている(図10)。大洗浄側玉鎖6についても同様のことが言える。それ故、玉鎖が玉鎖引張り用レバー3から受ける曲げ荷重を避けることができず、長期間使用したときには玉鎖の破断が発生する恐れがあるという不具合があった。
【0005】
本発明の目的は、玉鎖と排水弁の間隔を施工時に所定長さに調節することができるという従来の基本性能を有しつつ、玉鎖引張り用レバーが回動して玉鎖を引上げる都度、玉鎖に荷重が負荷され、玉鎖が次第に劣化していき、切れてしまうのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために請求項1記載の発明によれば、玉鎖を引張るためのレバーにおいて、レバーの操作に伴い回転するレバーアームと、レバーアームの回転軸を挟んで左右一対の状態で記レバーアームに設けられた二つの鎖取付部とを備え、レバーアームを左右どちらの回転方向に回動させた場合も、鎖取付部に取り付けられた玉鎖が真っ直ぐな状態を維持できるように、鎖取付部にスリットを設けたことを特徴とすることにより、
玉鎖引張り用レバーを左右どちらの回転方向に回動させても、玉鎖が真っ直ぐな状態に維持されるので、玉鎖に玉鎖引張り用レバーから局所的に荷重が負荷されることがない。よって、荷重が局所的に掛かることにより、玉鎖が次第に劣化していき、切れることを防止できる。
なお、真っ直ぐな状態とは、緩やかに撓んだ状態でもよく、玉鎖が玉鎖引張り用レバーから局所的に荷重を負荷されることがない状態をいう。
【0007】
また、請求項2記載の発明のよれば、スリットは、レバーアームの回転方向に沿って形成されていることを特徴とすることにより、
荷重が掛かることにより、玉鎖が次第に劣化し、切れることをより確実に防止することができる。
【0008】
また、請求項3記載の発明のよれば、スリットは、玉鎖がレバー操作に伴って移動する軌道に沿って円弧を描いた凹状で形成されていることを特徴とすることにより、
玉鎖引張り用レバーを回転させた時、玉鎖が動く軌道の分だけスリットが設けられているため、玉鎖の動きをスリットでガイドし、スムーズに動かすことが出来る。
【0009】
また、請求項4記載の発明のよれば、レバーアーム回転方向と垂直方向の前記スリットの幅が、玉鎖の紐が移動可能な最小の幅で設けられていることことを特徴とすることにより、
玉鎖を受ける面積を最大化することができ、玉鎖引張り用レバーを回転させ排水弁を引張る際に、鎖取付部から玉鎖が抜けることをより確実に防ぐことができる。
なお、玉鎖の紐が移動可能な最小の幅とは、玉鎖が玉鎖引張り用レバーから局所的に荷重を負荷されずに移動できる幅をいう。
【0010】
また、請求項5記載の発明のよれば、レバーアームの鎖取付部の近傍に設けられた、鎖取付部に溜まった水滴を排出するための水抜き手段を備えたことを特徴を備えたことを特徴とすることにより、
結露などによる水滴が玉を濡らす可能性が抑制され、玉鎖の劣化が一層効果的に防止される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、玉鎖と排水弁の間隔を施工時に所定長さに調節することができるという従来の基本性能を有しつつ、玉鎖引張り用レバーが回動して玉鎖を引上げる都度、玉鎖に荷重が負荷され、玉鎖が次第に劣化し、切れるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態にかかる玉鎖引張り用レバーの平面図である。図2は、図1の右側から見た同レバーの側面図である。図3は、図1の下側から見た同レバーの正面図である。
【0014】
図1から図3に示される本発明の一実施形態にかかる玉鎖引張り用レバー20は、トイレに設置される便器洗浄水を貯めるための貯水タンク(図示省略)内に取り付けられて、その貯水タンクの底部に配置された排水弁(図示省略)に一端部が接続された玉鎖の他端部と接続され、その玉鎖を引上げることでその排水弁を開くためのものである。ここで、貯水タンクや排水弁の構成は、従来のものと変わらないため、ここでは説明を省略する。
【0015】
図1から図3に示すように、排水弁を開くための玉鎖引張り用レバー(以下、排水レバーという)20は、円筒状のハンドル継手22と、ハンドル継手22にジョイント部材26や28を介して一体的に結合されたレバーアーム24とを有する。図2に二点鎖線で示すように、人が操作するためのハンドル60に回転シャフト62が結合されており、この回転シャフト62の先端部が、貯水タンクの側壁64に開けられた穴66に外側から挿入されて貯水タンク内に入り、そして、玉鎖引張り用レバー20のハンドル継手22に挿入され固定される。ハンドル60は、貯水タンクの側壁64の外側に配置される。人がハンドル60に触れていない自然の状態では、玉鎖引張り用レバー20が図1から図3に示すように静止している。人がハンドル60を回動操作すると、回転シャフト62がその中心軸回りに回動するので、排水レバー20が回転シャフト62を中心に回動し、それにより、排水レバー20のレバーアーム24が回転シャフト62を中心に回動する。
【0016】
回転シャフト62に直交する両方向へ回転シャフト62からほぼ最も遠く離れた、レバーアーム24の前縁近傍の2箇所に、それぞれ、鎖取付部34と36が設けられ、鎖取付部34と36にはそれぞれ別の玉鎖が取り付けられる。図1及び図3中で左側に示された一方の鎖取付部34には、例えば少量の排水を行なうための玉鎖が接続され、右側に示された他方の鎖取付部36には、例えば大量の排水を行なうための玉鎖が接続される。これらの2本の玉鎖は、図2及び図3に一点鎖線35と37で示すように、鎖取付部34と36から下方に垂れ下ることになる。ハンドル60を左回りに回動させれば、図3中の左側の鎖取付部34が持ち上がってそこに繋がった玉鎖を引張り上げ、少量排水が行われる。逆に、ハンドル60を右回りに回動させれば、図3中の右側の鎖取付部36が持ち上がってそこに繋がった玉鎖を引張り上げ、大量排水が行われる。玉鎖の材質は、金属製や合成樹脂製の何れでも良い。
【0017】
レバーアーム24の上面の鎖取付部34と36にそれぞれ隣接した2箇所には、それぞれ、導水溝30と32が設けられている。この2つの導水溝30と32の、鎖取付部34と36から離れた端部には、それぞれ、水抜き穴38と40が設けられている。
【0018】
図1及び図3に示すように、一方の鎖取付部34は、玉受け座42と、スリット44と、玉留め突起45と47と、紐通し部46とを有する。他方の鎖取付部36も同様に、玉受け座48と、スリット50と、玉留め突起51と53と、紐通し部52とを有する。2つの鎖取付部34と36の構造は、各部の配置が互に対称である点を除き、実質的に同じであるから、以下では、一方の鎖取付部34を代表的に取り上げて、その構造をより詳細に説明する。
【0019】
図4は、図1に示された一方の鎖取付部34の部分を裏から見た拡大図を示している。また、図5は、それぞれ、図4のA−A線に沿った断面図である。
【0020】
図4から図5に示すように、鎖取付部34の玉受け座42は、下方へ球状凹面を内側に持ち、全体的にボウル状のものであり、その内側の球状凹面内に、玉鎖70中の一つの玉72を収容されるようになっている。玉受け座42の球状凹面は滑らかであり、玉鎖70の玉72を、レバーアーム24の回動に伴って容易に回動自在な状態で支持する。
【0021】
スリット44は、紐通し部46と連続し形成され、排水弁の開閉に伴う玉鎖の動く軌道に沿って設けれらている貫通スリットである。具体的にスリット44の形状を説明すると、紐通し部46に向かって円弧凹形状になっており、紐通し部46を軸に左右対称になっている。円弧の幅は、紐74の径より若干大きくなっており、図5に示すように、スリット44内には、玉受け座42内に支持された玉72から下方へ(つまり、玉鎖を引張る方向とは逆の方向へ)出た紐74が通る。その紐74の下端部は、スリット44内を通ってから下方へ垂れ下り水中に入って排水弁に接続される。図5に示すように、レバーアーム24が回動する(特に、排水弁を開けるために玉鎖70を引上げる方向へ回動する)と、玉鎖70の紐74は、レバーアーム24に対して、レバーアーム24の回動方向に平行な方向に揺動する。
【0022】
玉留め突起45と47は、玉受け座42内に収容された玉鎖70の玉72が玉受け座42から脱落しないよう、玉72を玉受け座42内に留める役目をする突起である。紐通し部46は、玉留め突起45と47の間に設けられた、紐74の直径に近い幅をもつスリットである。玉鎖70の玉72を外から玉受け座42内に入れたり、逆に玉受け座42から外へ出したりする時に、紐通し部46内を紐74が通過するようになっている。
【0023】
以上のように構成された排水レバー20においては、レバーアーム24が回動することにより、図5に示すように、玉鎖70の玉72が玉受け座42内で回動し、玉鎖70の紐74がレバーアーム24に対して揺動する。この紐74の揺動は、スリット44の領域内で行なわれるので、紐74はレバーアーム24のどの部分にも接触することが無く、常に真っ直ぐな状態か、真っ直ぐでなくても緩やかに撓んだ状態に維持され、強く折れ曲がることはない。その結果、玉鎖70の水中部分から紐74を伝って昇ってきた水により、可撓性を失った紐においても、従来のように紐74が強く折れ曲がることがなくなるので、紐74は劣化し難く、切れ難い。このような作用効果は、2つの鎖取付部34と36のいずれにおいても同様に得られる。
【0024】
また、結露やその他の理由でレバーアーム24の上面に水滴が付着しても、その水滴が鎖取付部34と36の近傍に来ると、その水滴は、鎖取付部34と36に隣接した導水溝30と32に落ちて水抜き穴38と40へ送られ、水抜き穴38と40から下方へ落とされる。このようにして、結露などによる水滴が鎖取付部34と36の近傍から排除されるので、結露などにより玉鎖の紐が濡れる頻度も減り、紐の寿命が延びる。
【0025】
上述した本実施形態のスリット44においては、一例として、球状凹面形状を適用した場合ついて説明したが、玉鎖70が鎖取付部から抜けることがなければ、何れの形状でもよい。
【0026】
つぎに、排水弁と玉鎖70の接続構造について説明する。図6は、排水弁側接続部80と玉鎖70の接続部分の断面図である。図示しない排水弁と連通する排水弁側接続部80に対して、玉鎖70は接続されている。紐74と玉72の間には、ワッシャが一体として取り付けられ、玉鎖70の外周にはスリーブ78が通されている。また、玉72と玉72の間には、排水弁側接続部80が嵌合している。排水弁側接続部80のコーナー部80−aにおいては、内側80−bと外側80−cのアール寸法を変えることにより、玉鎖70外周のスリーブ78の下端とコーナー部外側80−cのアールが干渉し合って、玉鎖70は左右に移動しないため、図6の一点鎖線の状態にはならず、実線の状態で一端嵌合される。よって、排水弁側接続部の玉鎖においても、荷重が負荷され、切れるのを防止することができる。さらに図4で示したスリット44の範囲を超えて玉鎖70が移動しないよう配慮することができる。
【0027】
以上、本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は本発明の説明のための例示にす
ぎず、本発明の範囲をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を
逸脱することなく、その他の様々な態様でも実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態にかかる玉鎖引張り用レバーの平面図である。
【図2】図1の右側から見た同レバーの側面図である。
【図3】図1の下側から見た同レバーの正面図である。
【図4】図1に示された一方の鎖取付部34の部分を拡大して示している。
【図5】図4のA−A線に沿った断面図である
【図6】排水弁側接続部と玉鎖の接続部分の拡大断面図である。
【図7】従来の貯水タンクの斜視図である。
【図8】従来の玉鎖引張り用レバーの平面図とその一部拡大断面図である。
【図9】玉鎖引張り用レバーを小洗浄側に回転した場合の従来の玉鎖引張り用レバーの平面図とその一部拡大断面図である。
【図10】玉鎖引張り用レバーを大洗浄側に回転した場合の従来の玉鎖引張り用レバーの平面図とその一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0029】
20…玉鎖引張り用レバー(排水レバー)
24…レバーアーム
30、32…導水溝
34、36…鎖取付部
38、40…水抜き孔
42、48…玉受け座
44、50…スリット
45、47、51、53…玉留め突起
46、52…紐通し部
60…ハンドル
70…玉鎖
72…玉
74…紐
78…スリーブ
80…排水弁側接続部
80−a…コーナー部
80−b…コーナー部内側
80−c…コーナー部外側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
玉鎖を引張るためのレバーにおいて、
前記レバーの操作に伴い回転するレバーアームと、
前記レバーアームの回転軸を挟んで左右一対の状態で前記レバーアームに設けられた二つの鎖取付部とを備え、
前記レバーアームを左右どちらの回転方向に回動させた場合も、前記鎖取付部に取り付けられた前記玉鎖が真っ直ぐな状態を維持できるように、前記鎖取付部にスリットを設けた
ことを特徴とする玉鎖引張り用レバー。
【請求項2】
前記スリットは、前記レバーアームの回転方向に沿って形成されていることを特徴とする請求項1記載の玉鎖引張り用レバー。
【請求項3】
前記スリットは、前記玉鎖が前記レバー操作に伴って移動する軌道に沿って円弧を描いた凹状で形成されていることを特徴とする請求項2記載の玉鎖引張り用レバー。
【請求項4】
前記レバーアーム回転方向と垂直方向の前記スリットの幅が、前記玉鎖の紐が移動可能な最小の幅で設けられていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の玉鎖引張り用レバー。
【請求項5】
前記レバーアームの前記鎖取付部の近傍に設けられた、前記鎖取付部に溜まった水滴を排出するための水抜き手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の玉鎖引張り用レバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−243097(P2009−243097A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−89556(P2008−89556)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】