説明

珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法

【解決手段】平均粒子径0.05〜10μmの二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させ、スラリー化してなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
【効果】本発明によれば、溶融・凝固した金属珪素と固着することのない離型剤層を形成できる珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素鋳造用鋳型に塗布し、特にこれを焼成して離型剤層を形成するための珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素は半金属に分類される元素で、一般的な金属とは異なる性質を持つ元素として様々な分野で使用されている。例えば、鉄中の酸素原子を除去することを目的に、溶融した鉄中に脱酸剤の成分として導入されたり、アルミニウムの合金の主要成分として添加されたりするような冶金的、金属的な使用方法や、珪素と酸素が結合したシロキサン結合に様々な有機官能基を付加したシリコーン化合物などの使用方法と共に、珪素の重要な工業的利用方法であるところの半導体としての利用方法などがある。
【0003】
これらの用途のうち、冶金的、金属的使用方法と、シリコーン化合物としての使用方法は、珪素元素単体としてそのまま使用することはほとんどないが、半導体材料としての用途は、珪素単体での使用、更に言えば高純度化した珪素としての使用が前提となる用途である。この半導体用の用途を更に分けると、LSI等の半導体デバイス用ウェハー、太陽電池用ウェハー、スパッタリーグターゲット用、高純度雰囲気炉用反射断熱材用などの用途がある。このうち、単結晶シリコンとしての使用方法に限定されるLSI用ウェハーを除いては、多結晶シリコンの結晶形態で使用可能な用途である。
【0004】
多結晶シリコンの製造方法は、通常、珪素を型に鋳込むことにより製造される。多結晶シリコンの鋳造方法については、耐熱材料、例えば黒鉛やシリカなどの材料製のるつぼが用いられ、溶融珪素が接触する部分のるつぼ側に、離型剤となる物質を層状に附着させたものが広く使用されている。
【0005】
例えば、特開平10−182133号公報(特許文献1)では、黒鉛製るつぼの内壁にSiC又はCを離型剤として使用する技術が開示されている。
特開2002−292449号公報(特許文献2)では、窒化珪素からなる下地剤と、窒化珪素及び二酸化珪素を28:72〜75:25の重量比率で混合した混合材料とを重ねて塗布する方法が開示されている。
特開2004−291027号公報(特許文献3)では、窒化珪素と、水素ガス及び酸素ガスの高温火炎中に四塩化珪素を噴射して加熱処理して得られる非晶質微細シリカとを含有し、この微細シリカを窒化珪素との総量の10〜90重量%となるように混合したものを離型剤として使用する技術が開示されている。
特開2006−334671号公報(特許文献4)では、窒化珪素と二酸化珪素を含有したものをプラズマ溶射法で塗布して離型剤層とする方法が開示されている。
【0006】
このように、先行技術では、離型剤成分として主に窒化珪素と二酸化珪素が使用されている。これらのうち窒化珪素は耐熱性材料であり、離型剤主成分として機能している。一方、二酸化珪素は、溶融珪素中に徐々に溶解する性質があり、しかも溶融珪素と親和するので、溶融珪素の凝固時に強固に固着してしまい、離型性ではなく結着剤としての性質が発揮される材料である。それにもかかわらず、上記先行技術に二酸化珪素が離型剤成分として積極的に使用されているのは、本来の離型剤である窒化珪素層が脆く、機械的作用や熱的な変動などでるつぼから剥離しやすいので、その剥離を抑制するためのバインダーとしての目的が主であった。
【0007】
窒化珪素や炭化珪素などの実効的な耐熱性材料としての離型剤成分に対して、バインダーとして機能する二酸化珪素は、その形態や離型剤(耐熱材料)との混合状態で、バインダー機能が大きく変化することは上述の先行技術でも確認できる。例えば、特開2004−291027号公報(特許文献3)では、従来の平均粒径20μm程度の二酸化珪素に代わりに、酸水素燃焼法で作製した平均粒径0.05μmの非晶質シリカを使用することで、粗大窒化珪素の周囲に微細シリカが取り巻き、窒化珪素同士が強固に付着する効果を誘発するとされる。
【0008】
ところで、二酸化珪素は、溶融した珪素に溶解するので、このバインダー成分となる二酸化珪素は溶融珪素中に融解することになる。そのため、二酸化珪素と接触している離型成分の窒化珪素や炭化珪素などの耐熱性材料は、バインダー成分としての二酸化珪素が融出してしまうので、耐熱性材料はバインダーレスの状態となり、その一部は粉体として溶融珪素中に移動し、珪素の凝固後は珪素中に固形不純物として混入することとなる。この固形不純物が、溶融凝固した珪素の用途に対して影響を及ぼすことが無ければ、上記の「離型成分(耐熱性材料)+バインダー成分としての二酸化珪素」よりなる離型剤層は効果のある離型剤となるが、凝固珪素の用途上から、珪素中の固形不純物の存在が問題となる用途であれば、「離型成分(耐熱性材料)+バインダー成分としての二酸化珪素」なる離型剤層は良好な離型剤とはいえない。
【0009】
以上から、離型剤成分として、窒化珪素や炭化珪素などの耐熱性物質を使用せず、バインダーである二酸化珪素がそのまま離型剤層となるのであれば、不純物混入を本質的に防止できることとなるが、今までの技術では、二酸化珪素を離型剤の主成分として離型剤層を形成すると、その離型剤層は溶融・凝固した珪素と固着してしまい、珪素との分離が不可能であった。
【0010】
更には、図1に示すように、るつぼ1の表面に形成された二酸化珪素を主成分とする離型剤層2が溶融・凝固した珪素3と固着するばかりでなく、離型剤層2は、二酸化珪素や黒鉛製のるつぼ1とも固着してしまうので、結果として、溶融・凝固珪素3はるつぼ1と固着することになり、そのためにるつぼ材と珪素との熱膨張差によって冷却時に内部応力が発生して亀裂4が生じ、インゴットが割れてしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−182133号公報
【特許文献2】特開2002−292449号公報
【特許文献3】特開2004−291027号公報
【特許文献4】特開2006−334671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、従来離型成分として用いられていた窒化珪素や炭化珪素等の耐熱性物質を含有せず、二酸化珪素のみを離型成分として含む離型剤であっても、金属珪素がるつぼに固着することなく鋳造できる離型剤層を形成することができる珪素鋳造用離型剤組成物及びその調製方法並びにこの離型剤組成物を用いた珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の平均粒子径を有する二酸化珪素粒子、好ましくは内部に気孔が存在しない中実な非晶質二酸化珪素粒子を水等の液体に懸濁分散させ、混合して得られる離型剤組成物(スラリー)が、これを珪素鋳造用鋳型に塗布し、焼成することで、溶融・凝固した金属珪素と固着することのない離型剤層を形成できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0014】
従って、本発明は、下記珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供する。
請求項1:
平均粒子径0.05〜10μmの二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させ、スラリー化してなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
請求項2:
二酸化珪素粒子の粒径より計算した比表面積ScとBET比表面積Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲である請求項1記載の離型剤組成物。
請求項3:
二酸化珪素粒子が非晶質である請求項1又は2記載の離型剤組成物。
請求項4:
二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させた後、混合してスラリー化することを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物の調製方法。
請求項5:
請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物を珪素鋳造用鋳型に塗布した後、焼成して、上記鋳型表面に離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。
請求項6:
予め窒化珪素を含む離型剤を珪素鋳造用鋳型に塗布後、焼成して上記鋳型表面に窒化珪素離型剤層を形成し、次いで、この窒化珪素離型剤層上に重ねて請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物を塗布後、焼成して二酸化珪素離型剤層を形成することで、上記鋳型表面に二層以上の離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、溶融・凝固した金属珪素と固着することのない離型剤層を形成できる珪素鋳造用離型剤組成物、その調製方法及び珪素鋳造用鋳型の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】従来の離型剤層を有するるつぼで珪素を溶融したときの状態を示す部分拡大断面図である。
【図2】本発明の離型剤層の珪素溶融使用後の表面の光学顕微鏡写真である。
【図3】本発明の離型剤層を有するるつぼの断面の光学顕微鏡写真である。
【図4】本発明の離型剤層を有するるつぼで珪素を溶融したときの状態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の離型剤組成物は、平均粒子径0.05〜10μmの二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させ、混合してスラリー化してなることを特徴とする。
【0018】
本発明で用いられる二酸化珪素粒子としては、水晶を粉砕した微細粒子(粉状粒子)や、珪素化合物を酸化させて製造するヒューム状二酸化珪素等種々の形態の二酸化珪素粒子が挙げられる。
【0019】
ここで、上述したように、溶融珪素は二酸化珪素とよく濡れ、離型剤条件によっては凝固時に強固に固着してしまうために、従来、二酸化珪素を主成分とする離型剤は珪素溶融用の離型剤として使用できなかった。即ち、珪素溶融時に曝される珪素の溶融温度である1450℃においては、離型剤である二酸化珪素が焼結する温度であるので、離型剤層の二酸化珪素が強固に焼結すると共に、るつぼ材である二酸化珪素やカーボン材等の耐火性材料とも固着している状態となっていた。このような離型剤層が形成されたるつぼで珪素を溶融すると、「るつぼ−離型剤層−溶融・凝固珪素」が固着してしまうので、珪素の凝固時に珪素インゴットが割れてしまっていた。
【0020】
このような固着現象の対策として、本発明者が検討した結果、二酸化珪素粒子として、粒径が0.05〜10μmで、かつ、その粒径より計算した比表面積値Scと、BET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲であり、非晶質である二酸化珪素粒子を、適当なバインダー成分などと共に水などの分散媒とよく撹拌し、スラリー化した状態でるつぼ(鋳型)に塗布、乾燥した後に、焼成及び1450℃以上で処理することにより形成した離型剤層を使用することで、るつぼと金属珪素の固着現象の発生しない乃至は固着現象が発生したとしても離型剤層やるつぼがその機能を損なう程に崩壊することなく鋳造が達成できる。
【0021】
即ち、本発明の二酸化珪素粒子を含有する離型剤組成物は、離型剤スラリー塗布後の焼成と、実際に使用する金属珪素の融点である1450℃以上に昇温することで、離型剤層中に大小多くの気孔をもった離型剤層となる。図2は、本発明の離型剤層の珪素溶融使用後の表面の光学顕微鏡による写真であり、図3は、本発明の離型剤層5(厚さw=約200μm)を有するるつぼ1の断面の光学顕微鏡写真であるが、このように多数の気孔が存在することによって、離型剤層の強度が適度に弱くなり、少しの加重印加で離型剤層が崩れる程となる。これを図4を用いて説明すると、本発明の二酸化珪素離型剤層5を有するるつぼ1で珪素3を溶融すると、溶融珪素の凝固時に珪素と二酸化珪素の固着がおきても、離型剤層5の強度が適度に弱いため、珪素近傍のごく一部の離型剤層、特には珪素と接触している離型剤層部分だけが崩壊することで、離型剤層のその他の部位やるつぼ本体に割れが発生することはない。
【0022】
本発明では、この内部に大小多くの気孔をもった離型剤層を形成するための条件として、平均粒子径が0.05〜10μm、好ましくは0.1〜2.5μmである二酸化珪素粒子を使用する。この粒径の範囲の二酸化珪素粒子が、焼成と金属珪素溶融温度下の高温に曝されることで、二酸化珪素粒子同士が焼結するが、粒子サイズが小さすぎると焼結が緻密化しすぎてしまい、離型剤層の気孔の割合が低下してしまうので、離型剤層と珪素が固着してしまう場合がある。また、粒径が大きすぎると離型剤層中の気泡が大型化して、その気泡中に珪素が浸透し、同様に離型剤層と珪素が固着してしまう場合がある。この場合、二酸化珪素粒子が結晶質であると、結晶質を維持したまま焼結することとなり、焼結時の二酸化珪素粒子の移動速度が非晶質のものよりも低下するので焼結しづらく、しかも二酸化珪素焼結層(離型剤層)中の気孔の割合も低くなってしまう場合があるので、二酸化珪素粒子は非晶質であることが好ましい。離型剤層中の気孔の存在で離型剤層の強度が適度に弱くなり、珪素とるつぼを分離する際に離型剤層だけが崩れることによって、珪素とるつぼが固着しないこととなる。
なお、二酸化珪素粒子の粒子径は電子顕微鏡像あるいは遠心沈降式粒度分布測定で測定することができるが、本発明においては電子顕微鏡像から得られる値である。
【0023】
また、本発明の二酸化珪素粒子は、球状として、その粒径より計算した比表面積値Scと、BET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが、0.5〜4、特に0.8〜2の範囲であるのがよい。これは、使用する二酸化珪素粒子がその粒内に多くの開気孔がないことが望ましいためである。二酸化珪素粒子中に気孔が広く存在すると、珪素溶融温度下の高温に曝されるときに、粒子内部の気孔が膨張することで二酸化珪素粒子の実効的なサイズが低下してしまい、上記の粒径が小さい場合と同様の結果になってしまうからである。そのため、二酸化珪素粒子の形状としては、中実な球状であることが好ましい。このような二酸化珪素粒子は、市販品を用いることができ、例えば、商品名:アドマファイン SO−C5,SO−E1,SO−E2((株)アドマテックス製)等を用いることができる。
【0024】
本発明の組成物(スラリー)中の二酸化珪素粒子の含有割合は特に制限されないが、スラリーの固形分全量に対して5〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜40質量%である。
【0025】
本発明の離型剤組成物は、二酸化珪素粒子に対し、スラリー化する水やエタノール、ブチルアルコール等のアルコール類などの液体や、ポリビニルアルコール(PVA)やセルロースなどのバインダー成分、スラリー化時に発生する気泡を消泡するための界面活性剤等を適宜添加した後に、ボールミル、ニーダー、スクリュー撹拌機等の混合機を用いて十分撹拌してスラリーとし、このスラリーを刷毛などによる塗布や、スプレー噴霧などによる塗布でるつぼ(鋳型)内壁に塗布して、離型剤層を形成する。この塗布方法としてどのような方法を選択するかによって、スラリーの粘度や、界面活性剤等の濃度を適宜調整することが好ましい。
【0026】
スラリー塗布された直後のるつぼは、スラリーの液体成分で湿潤状態であるので、これを乾燥させることを目的に50〜200℃程度の中温で適当な時間保持する工程が取られる。この工程によって離型剤層は湿潤状態ではなくなるので、重ね塗りで離型剤層の上に重ねて更にスラリーを塗布するなどして所望の離型剤層厚とする。
【0027】
本発明の二酸化珪素離型剤層は、上述のように溶融珪素と接触しているので、離型剤層は珪素に徐々に溶解し、徐々に厚みを減少させる。従って、本発明においては、離型剤層厚が減少することを前提に離型剤層の厚さを決定しなければならない。この点に関し、本発明者の検討によれば、溶融時間や溶融温度にも依存するが、離型剤層の厚さは30μm以上、望ましくは100μm以上、特に400μm以上とするのがよい。また、離型剤層の厚みが厚すぎると、無駄に離型剤を使用することになって不経済となるので、通常はその厚みは1mmあれば十分であり、500μm以下が好ましく、特に450μm以下であることが好ましい。もし溶融時間が極端に長く、離型剤成分の二酸化珪素がどの程度珪素中に溶解するか不明な場合は、離型剤層として十分な厚みを持たせると共に、離型剤層を二酸化珪素以外の層を含む二層以上とし、るつぼ側の層には、例えば窒化珪素を主成分として含む離型剤を最小限塗布し、乾燥して窒化珪素離型剤層を形成した後、この上から重ねて本発明の二酸化珪素粒子を含む離型剤組成物を塗布して二酸化珪素離型剤層を形成することができる。
【0028】
更に、上述のように、本発明の離型剤層は微細な気孔を多数有する構造をもつ。そして、この気孔が微細なため、溶融した珪素は気孔内部には侵入せず、離型剤層表面だけで二酸化珪素と接していることとなる。この気孔は、基本的に開気孔であるので、気孔内にまで溶融珪素が入り込めば離型剤層全体に珪素が浸透することとなって、離型剤層の役割を果たさなくなってしまうが、本発明においては気孔が微細であることによって珪素が浸透せずに離型剤層としての効果が発揮できることになる。
【0029】
所望の離型剤層が形成できたら、この離型剤層が塗布されたるつぼを焼成する。焼成の主な目的は、離型剤層のバインダー成分や有機材料成分を離型剤層から蒸発や酸化反応等で除去することで、400〜1200℃の高温で10分〜2時間処理するのがよい。この場合、るつぼ材質が処理する温度で酸化されない物質、例えば炭化珪素、アルミナ、二酸化珪素などの酸化物製であるときは、処理雰囲気は大気等の酸化雰囲気とすることができるが、るつぼ材がグラファイトなど焼成温度で酸化されてしまう材料の際は、アルゴンや窒素などの不活性な雰囲気下で焼成するのがよい。
このようにして焼成した二酸化珪素離型剤層を有するるつぼは、特に金属珪素の溶融用として好適に使用することができる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、下記例中、部は質量部を表す。
【0031】
[実施例1]
平均粒子径0.5μm、BET比表面積Sb5.5m2/g、その粒子サイズより計算した比表面積値Sc5.2m2/gとBET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが1.1である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アドマファイン SO−E2、(株)アドマテックス製)1部、PVA1.8部、水1.8部及びブチルアルコール0.001部を樹脂製のボールミルに入れ、このボールミルを5時間回転させることで二酸化珪素を主成分としたスラリーを調製した。
このスラリーをシリカ製のるつぼの内壁全面に刷毛で塗布し、50℃の乾燥器で1時間乾燥させた。乾燥後離型剤層の厚みを測定したところ100μmであった。この塗布、乾燥を4回繰り返して400μm厚の離型剤層をシリカ製るつぼの内壁に形成した。
この離型剤層付きのるつぼを電気炉に入れて、大気中、1000℃で2時間焼成した。焼成後の離型剤層は、指先で擦ると離型剤のシリカが剥がれるものの、離型剤とるつぼが剥離するようなことはなかった。
【0032】
このるつぼに珪素を入れてから、電気炉にて1500℃で珪素を溶融した後に炉内でるつぼを徐々に降下することでるつぼ底から珪素を凝固させた。
電気炉を冷却後るつぼを取り出したところ、るつぼはクラックが入っていたものの、るつぼと珪素の融着は発生していなかった。
【0033】
[実施例2]
平均粒子径0.25μm、比表面積Sb16m2/g、Sb/Scが1.6である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アドマファイン SO−E1、(株)アドマテックス製)を使用する以外は実施例1と同様の処理にてスラリーを調製し、同様の方法で塗布、乾燥、焼成を実施した。離型剤層の厚さは420μmであった。
これを用いて実施例1と同様に珪素を溶融、凝固させたところ、るつぼはクラックが入っていたものの、るつぼと珪素の融着は発生していなかった。
【0034】
[実施例3]
平均粒子径2.2μm、比表面積Sb1.9m2/g、Sb/Scが1.6である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アドマファイン SO−C5、(株)アドマテックス製)を使用する以外は実施例1と同様の処理にてスラリーを調製し、同様の方法で塗布、乾燥、焼成を実施した。離型剤層の厚さは420μmであった。
これを用いて実施例1と同様に珪素を溶融、凝固させたところ、るつぼはクラックが入っていたものの、るつぼと珪素の融着は発生していなかった。
【0035】
[比較例1]
平均粒子径0.02μm、比表面積Sb90m2/g、その粒子サイズより計算した比表面積値ScとBET比表面積計で測定した比表面積値Sbとの比Sb/Scが0.7である、非晶質の二酸化珪素粉(商品名:アエロジル90、エボニック(株)製)1部、PVA1.8部、水1.8部及びブチルアルコール0.001部を樹脂製のボールミルに入れ、このボールミルを5時間回転させることで二酸化珪素を主成分としたスラリーを調製した。
このスラリーをシリカ製のるつぼの内壁全面に刷毛で塗布し、50℃の乾燥器で1時間乾燥させた。乾燥後離型剤層の厚みを測定したところ80μmであった。この塗布、乾燥を5回繰り返して400μm厚の離型剤層をシリカ製るつぼの内壁に形成した。
この離型剤層付きのるつぼを電気炉に入れて、大気中、1000℃で2時間焼成した。焼成後の離型剤層は、指先で擦ると離型剤のシリカが剥がれるものの、離型剤とるつぼが剥離するようなことはなかった。
【0036】
このるつぼに珪素を入れてから、電気炉にて1500℃で珪素を溶融した後に炉内でるつぼを徐々に降下することでるつぼ底から珪素を凝固させた。
電気炉を冷却後るつぼを取り出したところ、るつぼと珪素の界面の30%程度が融着していた。
【符号の説明】
【0037】
1 るつぼ
2 従来の離型剤層
3 金属珪素
4 亀裂
5 本発明の離型剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径0.05〜10μmの二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させ、スラリー化してなることを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物。
【請求項2】
二酸化珪素粒子の粒径より計算した比表面積ScとBET比表面積Sbとの比Sb/Scが0.5〜4の範囲である請求項1記載の離型剤組成物。
【請求項3】
二酸化珪素粒子が非晶質である請求項1又は2記載の離型剤組成物。
【請求項4】
二酸化珪素粒子を液体に懸濁分散させた後、混合してスラリー化することを特徴とする珪素鋳造用離型剤組成物の調製方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物を珪素鋳造用鋳型に塗布した後、焼成して、上記鋳型表面に離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。
【請求項6】
予め窒化珪素を含む離型剤を珪素鋳造用鋳型に塗布後、焼成して上記鋳型表面に窒化珪素離型剤層を形成し、次いで、この窒化珪素離型剤層上に重ねて請求項1乃至3のいずれか1項記載の離型剤組成物を塗布後、焼成して二酸化珪素離型剤層を形成することで、上記鋳型表面に二層以上の離型剤層を形成することを特徴とする珪素鋳造用鋳型の製造方法。

【図1】
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【図4】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−126735(P2011−126735A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285913(P2009−285913)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】