説明

珪酸質肥料の製造方法

【課題】溶銑予備処理において製造されるスラグを有効に活用した可溶性珪酸含有率の高い珪酸質肥料の製造方法を提供する。
【解決手段】溶銑予備処理工程において、硫黄の含有率が0.03%以下、及び珪素の含有率が0.8%以下である溶銑にCaO粉末を添加するとともに酸素を吹き込んで溶銑を脱珪、脱燐処理することにより、塩基度(CaO/SiO)が3以下で、可溶性珪酸を15〜35%、可溶性石灰を30〜45%、く溶性苦土を8%以下、く溶性マンガンを1〜8%含有するスラグを分取する。このスラグにく溶性燐酸を添加してく溶性燐酸を5%以上とし、燐酸分を必要とする用途向けの珪酸質肥料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶銑予備処理によって生じる主として転炉スラグを活用した珪酸質肥料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼製造の工程において高炉から排出、分離して水冷により製造される水砕スラグや、転炉での溶銑予備処理によって生ずる転炉スラグは、コンクリート用骨材等の原料のほかに稲等の禾本科植物向け肥料としても有効に利用されてきた(例えば、非特許文献1、2及び特許文献1)。
しかしながら、高炉スラグを活用した肥料においては単にスラグを3mm以下に粉砕しただけであるか、又はこれに不足するく溶性(クエン酸溶解性)燐酸(P2 5 )を添加しただけのものであって、スラグの構成物質である珪酸(SiO2 )中の可溶性珪酸比率が少なく、従って、珪酸が土壌中に溶出しにくいものであった。なお、ここで可溶性珪酸とは、珪酸を含む物質を0.5N塩酸液に30℃で1時間振り混ぜた時に浸出する珪酸のことをいい、同様の試験をして浸出する石灰(CaO)は可溶性石灰という。
【0003】
他方、従来の転炉スラグは酸素の供給のほか副原料としての石灰、鉄鉱石、Mn鉱石を一括添加して、1600℃前後の高温で処理したものであって、添加する石灰分が多いため塩基度3以下の低塩基度のスラグとはならず、珪酸含有率も小なものであり、且つ、高炉スラグと同様に珪酸中の可溶性珪酸分が少ないものであった。また、ソーダ灰を使用して脱硫を行うためにスラグ中のソーダ分および硫黄含有率が大となって禾本科植物向け肥料としては不適当なものであった。
可溶性珪酸は稲を生育させるに重要な成分であって、この成分が少ないと強風により倒伏したり、病虫害や冷害に弱い稲になりやすいほか、可溶性珪酸が不足すると発育、成熟の劣ることになってしまう。
また、禾本科植物用に限らず肥料としては有効成分の多いものの方が少ないものより好ましいことはいうまでもないが、最近の農業従事者の高齢化に伴い散布量を少なくしても従来と同等以上の効果があり、作業効率の向上、労働負荷の軽減可能な肥料の開発が切望されているのである。
【非特許文献1】日本土壌肥料学雑誌 第58巻第2号(1987)166−171頁
【非特許文献2】日本土壌肥料学雑誌 第61巻第4号(1990)386−389頁
【特許文献1】特開平11−61118号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記のような現状に鑑み溶銑予備処理において製造されるスラグを有効に活用した可溶性珪酸含有率の大な珪酸質肥料の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、溶銑予備処理工程において、硫黄の含有率が0.03%以下、及び珪素の含有率が0.8%以下である溶銑にCaO粉末を添加するとともに酸素を吹き込んで溶銑を脱珪、脱燐処理することにより、塩基度(CaO/SiO)が3以下で、可溶性珪酸を15〜35%、可溶性石灰を30〜45%、く溶性苦土を8%以下、く溶性マンガンを1〜8%含有するスラグを分取し、このスラグにく溶性燐酸を添加してく溶性燐酸を5%以上とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明は溶銑予備処理によって生じる主として転炉スラグを活用した特に禾本科植物の育成に有効な可溶性珪酸含有率の高い肥料を安直に提供できるものであり、またこの肥料にく溶性燐酸を添加した珪酸質肥料として用いることによって、従来よりも格段に優れた収穫量を得ることができる。しかも少ない散布量でも優れた効果を収めることが可能であって、農作業効率の向上、労働負荷の軽減にも利するところ大なるものがあり、産業界の発展に寄与するところ大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の珪酸質肥料は特に可溶性珪酸の含有率が15〜35%と高いスラグを活用したもので、このような高い可溶性珪酸の含有率を有するスラグは、硫黄及び珪素含有量の低い溶銑、又は予め脱硫、脱珪の予備処理により硫黄及び珪素含有率を低めた溶銑に、石灰と酸素を添加して脱珪、脱燐を行うことによってスラグを構成する珪酸のネットワーク間に石灰が入り込んで珪酸同士の結合を弱めた構造のものとなっているためであると推定される。そして、本発明の珪酸質肥料とする主要処理は、溶銑にCaO粉末をランスを介して酸素とともに吹き込むことにより、スラグの塩基度を3以下、望ましくは1.5〜2.5の間として脱珪、脱燐を行うものであり、こうすることによって高い可溶性珪酸含有率を有する珪酸質肥料とすることが可能である。ちなみに、通常の転炉における溶銑予備処理温度は、前述したとおり添加する副原料が多種、多量であるため1600℃前後の高温での処理を必要とするが、本発明においては、添加物の量が少ないので1250〜1400℃の間で処理することが可能であり、望ましくは1300〜1350℃の間で処理することにより、所望の塩基度、可溶性珪酸を含有する珪酸質肥料を製造することができる。また、スラグの塩基度(CaO/SiO)は3以下でないと、スラグ中の石灰分が多くなって可溶性珪酸含有率を15%以上とすることができない。また、2.5以下の塩基度とすることにより20%以上の可溶性珪酸含有率とすることができる。尚、酸性水溶液もしくは中性水溶液中では、数1に示すようにスラグの塩基度の上昇に伴ってCa2+及びOHが増加するため、珪酸イオン(SiO4−)が存在しにくくなる。一方、スラグの塩基度が1.5未満の場合は、珪酸のネットワークが強くなると推定され、スラグ中の可溶性珪酸含有率が低下する。以上のことから、望ましくはスラグの塩基度は1.5〜2.5の間である。
【0008】
【数1】

【0009】
珪酸質肥料は安定した品質であることが必要であり、本発明の製造方法における前記主要処理を行う前には、転炉炉前でサンプルを採取して溶銑の化学組成を分析し、溶銑が所定の硫黄含有率(0.03%)及び珪素含有率(0.8%)以下にある場合に主要処理を行うものである。
しかしながら、溶銑の硫黄、珪素の含有率が高い場合には、既記の予備処理を施す必要がある。即ち、溶銑中の硫黄分が0.03%より高い場合には硫黄含有率の高いスラグとなり、肥料として不適になるからであり、肥料品質の劣化を防止するために脱硫を行わねばならない。通常脱硫処理は溶銑が混銑車の中にある時にCaO又はカーバイドをランスを介して吹き込んで脱硫を行う。この時酸化剤として例えば酸化鉄、アルミ灰を用いてもよい。生成したスラグは溶銑から分離し除去される。また、溶銑中の珪素含有率が0.8%より高い場合には、スラグの塩基度を調整するために予備の脱珪処理を行う必要がある。この予備の脱珪処理は通常は前記脱硫された溶銑を転炉に移して、ランスより酸素を吹き込むことによってなされる。そして硫黄の含有率が0.03%以下、及び珪素の含有率が0.8%以下である溶銑となし、且つ、生成したスラグは肥料用原料としての品質を劣化させないために除去する。以上の処理が施された溶銑は、その後脱珪、脱燐して目的とする珪酸質肥料を得ることができる。
【0010】
本発明において、珪酸質肥料中の可溶性珪酸の含有率を15〜35%に限定する理由は、15%未満では禾本科植物用肥料としては可溶性珪酸が不足しているからである。なお、望ましくは20%以上である。一方35%を越えて高くしても効果は飽和するのみならず、脱燐のための添加CaOの量が少なくなって脱燐が不十分になるからである。可溶性石灰の含有率を30〜45%に限定する理由は、可溶性石灰は土壌を中和し禾本科植物の育成を促進するに有効な成分であり、そのためには30%以上を必要とするからであり、しかし、45%を越えると逆に可溶性珪酸含有率が低くなってしまうからである。また、く溶性苦土(MgO)の含有率は8%以下に限定する。苦土は石灰とともに土壌酸度の矯正用にも用いられるが、植物栄養素として重要な成分であり、植物体中では葉緑素に含有される。特に禾本科植物においては米の味を向上させるに有効であるが、苦土の含有率が8%を越えて含有させても効果は飽和する。く溶性マンガンの含有率は、1〜8%に限定する。MnOも植物の育成に有効な成分であって、1%未満では肥料として不適当である。しかし、8%を越えて含有させても効果は飽和する。
【0011】
肥料中のく溶性燐酸の含有率は使用目的によって異なる。溶銑中には0.1〜0.2%燐分が含有されているが、脱珪、脱燐によって生成されるスラグの量が大量であるために珪酸質肥料用原料に含まれる燐酸は5%未満であり、通常は1〜4%程度である。従って、特に燐酸分を必要としない用途向けの珪酸質肥料中のく溶性燐酸の含有率は5%未満であってもよい。しかしながら、燐酸分を必要とする用途向けの珪酸質肥料中のく溶性燐酸の含有率は5%以上であることが必要である。5%未満では燐酸の効果を十分発揮させることができないからである。そこで本発明では、上記のスラグにく溶性燐酸を添加してく溶性燐酸を5%以上とする。なお、25%を越えて含有させても効果は飽和するので上限は25%とするのが望ましい。
本発明に係る珪酸質肥料は肥料の使途からしてスラグの形態を粉砕した粉末を造粒するものとして使用されるのは、いうまでもない。
【実施例】
【0012】
以下、実施例により具体的に説明する。
S 0.024%、Si 0.65%である転炉内の溶銑に脱硫、脱珪の予備処理を行うことなく直接CaO粉末をランスを介して酸素とともに吹き込んで溶銑を脱珪、脱燐処理して、塩基度2.1のスラグを分取し、これを粉砕、造粒して表1に示す珪酸質肥料Aとした。さらに同様にしてCaO粉末の添加量を変化させて塩基度を2.6、1.6としたスラグを分取して、表1に示す珪酸質肥料B、Cとした。
これらの珪酸質肥料A、B、Cはく溶性燐酸の含有率が5%未満の参考例である。
【0013】
また、混銑車に収容されたS 0.036%、Si 0.88%である溶銑にCaOとアルミ灰を添加して脱硫し、生成したスラグを除去した。次いで前記脱硫されて転炉に注入された溶銑に酸素を吹き込んで予備の脱珪をして生成したスラグを除去した。こうして得られたS 0.007%、Si 0.15%含有する溶銑にCaO粉末をランスを介して酸素とともに吹き込んで溶銑を脱珪、脱燐処理して、塩基度2.0のスラグを分取し、これを粉砕し、く溶性燐酸を添加したのち造粒して表1に示す珪酸質肥料Dとした。
そして、同様な工程において添加するCaOの量を変化させて塩基度を1.6、2.7としたスラグを分取して、表1に示す珪酸質肥料E、Fとした。
これらの珪酸質肥料D、E、Fは本発明の実施例である。
なお、表1中の肥料Gは従来の高炉水砕スラグをもってした肥料であり,肥料Hは従来の転炉スラグをもってした肥料である。
これらの肥料G、Hは従来例である。
【0014】
表1に示した各種肥料を隣接する類似の気象条件、土壌条件を有する各々10アールの水田に散布して稲を育成して得た結果を表2に示す。
従来の肥料Gにおいては10アール当り200kg散布して、精玄米重量597kg、屑米重量7.9kg、登熟歩合88.0%という結果を得た。
また、従来の肥料Hにおいては10アール当り120kgとして肥料を散布したが、精玄米重量552kgと低い収穫量であり、屑米重量も19.3kgと多く、登熟歩合も83.7%という低い結果しか得ることができなかった。
これに対して、本発明の実施例である肥料D〜Fにおいては10アール当り120kgという従来の肥料Gの6割の量の散布で、精玄米重量592〜602kg、屑米重量6.8〜7.5kg、登熟歩合は全て90%以上という優れた成績を収めることができ、またこの結果は同一量を散布した従来の肥料Hの結果より格段に優れているものであることが確認できる。これらの優れた結果は主として可溶性珪酸の含有率が高いことによってもたらされた効果である。
【0015】
【表1】

【0016】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑予備処理工程において、硫黄の含有率が0.03%以下、及び珪素の含有率が0.8%以下である溶銑にCaO粉末を添加するとともに酸素を吹き込んで溶銑を脱珪、脱燐処理することにより、塩基度(CaO/SiO)が3以下で、可溶性珪酸を15〜35%、可溶性石灰を30〜45%、く溶性苦土を8%以下、く溶性マンガンを1〜8%含有するスラグを分取し、このスラグにく溶性燐酸を添加してく溶性燐酸を5%以上とすることを特徴とする珪酸質肥料の製造方法。

【公開番号】特開2008−100915(P2008−100915A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11427(P2008−11427)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【分割の表示】特願2001−3468(P2001−3468)の分割
【原出願日】平成13年1月11日(2001.1.11)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】