説明

現像ローラ、現像装置および画像形成装置

【課題】トナー像の濃度を適正に調整することができると共に、カブリを抑制することが可能な現像ローラ、そのような現像ローラを有する現像装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】現像ローラ22は、磁性トナーを含有する現像剤を所定の像担持体10に搬送して、所定の像担持体10上にトナー像を形成するための現像ローラ22であって、非磁性金属からなるローラ基材32と、ローラ基材32上に積層され、磁性を有する磁性層33とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光体ドラム等の像担持体上にトナー像を形成するために用いられる現像ローラ、現像ローラを備えた現像装置、および現像装置を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ等の電子写真方式を利用する画像形成装置の現像装置は、感光体ドラム等の像担持体上にトナー像を形成するための現像ローラを含む(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1の現像装置において用いられている現像ローラは、アルミニウムから形成されたスリーブ基材と、Cuを用いてスリーブ基材上に形成したCu電気めっき層と、Crを用いてCu電気めっき層上に形成したCr電気めっき層とを有する。Cr電気めっき層は、5.0μmの厚さに設定されている。そのため、Cr電気めっき層は、Hv硬度が300以上に設定されている。これにより、現像ローラの耐久性が確保されていると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−351208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の現像ローラは、現像ローラの耐久性について対策を講じているものの、現像ローラから感光体ドラムへ所定量以上の余分なトナーが搬送される場合に生じ得るカブリを抑制する対策を講じていないと考えられる。カブリに対する対策を講じないと、良好なトナー像が得られない。
【0006】
そこで、本発明は、上記事情に鑑み、トナー像の濃度を適正に調整することができると共に、カブリを抑制することが可能な現像ローラ、そのような現像ローラを有する現像装置および画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る現像ローラは、磁性トナーを含有する現像剤を所定の像担持体に搬送して、前記所定の像担持体上にトナー像を形成するための現像ローラであって、非磁性金属からなるローラ基材と、前記ローラ基材上に積層され、磁性を有する磁性層とを含む。
【0008】
本発明に係る現像ローラによれば、磁性を有する磁性層が非磁性金属からなるローラ基材上に積層されている。磁性層は、現像ローラが磁性トナーを搬送する際に磁性トナーに対して磁力を作用させる。そのため、磁性トナーは現像ローラ上に磁気的に保持される。したがって、磁性層の磁力の大きさを適宜設定することにより、現像ローラ上に磁気的に保持される磁性トナーの量を適正に調整することができる。これにより、余分な量の磁性トナーが所定の像担持体に搬送されないので、カブリの発生を抑制することができる。なお、磁性層の磁力の設定は、所定の像担持体に搬送される磁性トナーの搬送量が大幅に低下せず、トナー像の濃度およびドット再現性が許容範囲に収まるように行われる。
【0009】
本発明の好ましい実施形態では、現像ローラは、さらに、前記磁性層上に積層され、前記磁性層よりも高い硬度を有する上層を含む。
【0010】
この構成によれば、上層は、磁性層よりも高い硬度を有するので、現像ローラに耐久性を付与することができる。
【0011】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記ローラ基材は、前記磁性層側に向く基材表面を有し、前記基材表面は、前記磁性トナーの平均粒子径に応じて設定された表面粗さを有し、前記磁性層は、無電解めっき層であり、前記上層は、0.06μm以上かつ0.2μm未満の層厚を有する電解めっき層である。
【0012】
この構成によれば、磁性層は無電解めっき加工によって形成されているので、無電解めっき加工の特性により、磁性層はローラ基材の基材表面の凹凸に沿って形成される。つまり、ローラ基材上に磁性層を形成しても、基材表面の凹凸の度合いの低下が極力抑えられる。また、上層は電解めっき加工によって形成されているが、上層の層厚は0.06μm以上0.2μm未満に設定されているので、基材表面の凹凸の度合いの低下が極力抑えられる。これにより、磁性トナーは凹部に入り込んだ状態で所定の像担持体に搬送される。その結果、磁性トナーの搬送性が確保される。
【0013】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記磁性層は、前記上層よりも高い摩擦係数を有する。
【0014】
この構成によれば、長期間の使用によって上層が削れた場合、磁性層が現れる。磁性層は、上層よりも高い摩擦係数を有するので、磁性トナーとの間に作用する摩擦によって磁性トナーを搬送することができる。そのため、上層が削れてしまった場合であっても、トナーの搬送性を維持することができる。
【0015】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記磁性層は、ニッケルの含有率が95%以上の層である。
【0016】
この構成によれば、含有率が95%以上になると磁性体となるニッケルめっきの特性を利用することで、磁性層の形成が容易となる。
【0017】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記上層は、クロムめっき層である。
【0018】
この構成によれば、クロムを選択することで、現像ローラに耐久性を容易に付与することができる。
【0019】
本発明に係る現像装置は、磁性トナーを含有する現像剤を貯留する現像剤貯留部と、所定の像担持体との間に形成された現像ギャップを有し、前記現像剤貯留部中の前記現像剤を前記所定の像担持体に搬送して、前記所定の像担持体上にトナー像を形成するための現像ローラと、前記現像ローラに現像バイアスを印加して前記現像ローラと前記所定の像担持体との間に電位差を生じさせることにより、前記現像ローラ上の前記現像剤を前記所定の像担持体に移動させるバイアス印加部とを含み、前記現像ローラとして、上記構成の現像ローラが用いられている。
【0020】
本発明に係る現像装置では、現像ギャップの大きさおよび現像バイアスのレベルは、磁性トナーが現像ローラから所定の像担持体に搬送される搬送量、ひいてはトナー像の濃度に影響する要素である。したがって、現像ギャップおよび現像バイアスを適宜設定することで、磁性トナーの搬送量を適正に調整することができる。しかも、本発明に係る現像装置は、上記構成の現像ローラを用いているので、磁性層の磁力を適宜設定することで、トナー像の濃度を適正に調整することができると共に、カブリを抑制することができる。このように、本発明に係る現像装置は、現像ギャップの大きさおよび現像バイアスのレベルに加え、磁性層の磁力を設定して、トナー像の濃度調整およびカブリの抑制を行う。これにより、現像ギャップの大きさおよび現像バイアスのレベルの設定に余裕を持たせることができるので、トナー像の濃度、トナー像のドット再現性およびカブリの抑制を長期にわたって確保することができると共に、現像装置の設計の自由度が高くなる。
【0021】
本発明に係る画像形成装置は、トナー像が形成される像担持体と、前記像担持体に現像剤を搬送して、前記トナー像を前記像担持体上に形成する現像装置と、前記トナー像をシート上に転写させる転写部材と、前記トナー像を前記シート上に定着させる定着部とを含み、前記現像装置として、上記構成の現像装置が用いられている。
【0022】
本発明に係る画像形成装置は、トナー像の濃度の確保、トナー像のドット再現性の確保およびカブリの抑制を可能とする上記構成の現像装置を用いているので、良好なトナー像を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る現像ローラによれば、余分な量の磁性トナーが所定の像担持体に搬送されないので、カブリの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】画像形成装置の内部構造を概略的に示す図である。
【図2】画像形成装置に用いられる現像装置の内部構成を示す図である。
【図3】現像装置の現像スリーブを断面で示すと共に、現像スリーブの動作を説明する模式図である。
【図4】図3においてサークルで囲った部分の拡大図であり、現像スリーブの3層構造を示す。
【図5】感光体ドラム上に形成されるトナー像の画像濃度と、カブリの濃度との間の関係を示す図である。
【図6】ニッケルめっき層のニッケル純度とカブリとの間の関係を調べるために行った実験に関する図である。
【図7】ニッケルめっき層のニッケル純度とカブリとの間の関係を調べるために行った実験に関する図である。
【図8】ニッケル純度とカブリ濃度との間の関係を示す図である。
【図9】トナー像の画像濃度の低下幅について行った実験に関する図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を詳しく説明する。尚、本発明の一実施形態として、以下の説明では、画像形成装置としてモノクロタイプのプリンタを示すが、本発明は、これに限定されるものではなく、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの他の画像形成装置にも適用可能である。
【0026】
図1は、画像形成装置1の内部構造を概略的に示す図である。画像形成装置1は、外部(例えばパーソナルコンピュータ)からの画像データに基づいてシートP上にトナー像を形成する画像形成部4と、シートP上に形成されたトナー像を加熱してシートP上に定着させる定着部5と、シートPを収容する給紙カセット7と、シートPが排出される排紙トレイ12と、給紙カセット7から画像形成部4および定着部5を経由して排紙トレイ12に向けてシートPを搬送する搬送路6と、画像形成装置1の図1における右側面に設けられた手差しトレイ3と、各種のメニューを設定する複数のメニュー設定キー等が配置された操作部(図示せず)とを含む。
【0027】
画像形成部4は、感光体ドラム10(像担持体)と、感光体ドラム10に帯電処理を実行する帯電器42と、帯電された感光体ドラム10にレーザ光Lを照射して、静電潜像を形成する露光器43と、感光体ドラム10に形成された静電潜像にトナーを静電付着させ、トナー像を顕像化する現像装置20と、内部に充填されたトナーを現像装置20へ供給するトナーカートリッジ45と、現像されたトナー像をシートPに転写する転写ローラ46(転写部材)と、感光体ドラム10のドラム表面10a上に残留するトナーを除去並びに回収するトナー除去器47とを含む。なお、感光体ドラム10の回転方向(図1では時計回りの方向)から見て、帯電器42、現像装置20、転写ローラ46、トナー除去器47の順に、感光体ドラム10の周方向に沿って配置されている。また、露光器43は、帯電器42の上方に配置されている。
【0028】
感光体ドラム10は、例えば、アルミニウム製シリンダの表面に正帯電性光導電体であるアモルファスシリコン層が蒸着された感光体を有するドラムである。
【0029】
帯電器42は、例えば帯電ローラ50を含む。帯電ローラ50は、直流電圧と交流電圧が重畳された所定の基準帯電電圧(基準帯電バイアス)をドラム表面10aに印加することにより、ドラム表面10aの表面電位を均一に帯電させる。
【0030】
露光器43は、外部PC(パーソナルコンピュータ)等から入力された画像データに基づくレーザ光Lを感光体ドラム10のドラム表面10aに導くポリゴンミラー(図示せず)を有している。ポリゴンミラーは、所定の駆動源によって回転しつつ、感光体ドラム10のドラム表面10a上にレーザ光Lを走査して、ドラム表面10aに静電潜像を形成する。現像装置20は、静電潜像にトナーを供給してドラム表面10a上にトナー像を形成する現像動作を行う。
【0031】
転写ローラ46は、搬送路6において感光体ドラム10のドラム表面10aに圧接されており、転写ローラ46とドラム表面10aとの間には、ニップ部Nが形成されている。転写ローラ46には、ドラム表面10aの表面電位とは逆極性の電圧が印加されるので、ドラム表面10a上のトナー像は、シートPがニップ部Nを通過する際にシートP上に転写される。ニップ部Nを通過したシートPは搬送路6を通って定着部5に搬送される。
【0032】
定着部5において、シートP上のトナー像が該シートP上に加熱定着された後、シートPは搬送路6を通って排紙トレイ12に搬送される。
【0033】
以下、現像装置20について、図1に加え、図2を参照しながら詳述する。図2は、現像装置20の内部構成を示す図である。現像装置20は、磁性のトナーを含む1成分現像剤を使用するものであって、図1および図2に示すように、該現像装置20の内部空間を画定する現像容器21と、現像剤を貯留する現像剤貯留部11と、感光体ドラム10のドラム表面10aに対向する現像ローラ22と、規制ブレード30とを、基本的な構成要素として含む。なお、現像装置20は、非磁性体のトナーと磁性体のキャリアとを含む2成分現像剤を用いることもできる。
【0034】
現像容器21は、底フレーム21bと、底フレーム21bを上方から覆う本体フレーム21aとを含み、これらの両フレーム21a,21b間において内部空間が画定されている。
【0035】
現像剤貯留部11は、内部空間の大部分を占めて現像剤を貯留する現像剤貯留空間Sと、現像剤貯留空間Sにおいて底フレーム21bに形成され、現像装置20の長手方向に延びる2つの隣り合う現像剤循環路14,15とを含む。
【0036】
現像剤循環路14,15は、例えばアルミニウム等の金属からなる仕切り板17によって長手方向において互いに仕切られているが、長手方向における両端部において互いに連通されている。各現像剤循環路14,15には、回転により現像剤を攪拌しつつ搬送するスクリューフィーダ18,19が回転可能に装着されている。スクリューフィーダ18,19は、搬送方向が互いに逆方向に設定されているので、現像剤は、現像剤循環路14および現像剤循環路15間を攪拌されつつ搬送される。現像剤貯留部11は、トナーカートリッジ45から図略の補給口を介してトナーを現像剤貯留空間S内に受け入れる。
【0037】
現像ローラ22は、感光体ドラム10のドラム表面10aとの間に0.2mm〜0.4mmの現像ギャップが形成された状態で感光体ドラム10に対向配置されている。現像ローラ22は、現像装置20の長手方向(つまり、感光体ドラム10の軸方向)に延びる筒状の現像スリーブ24と、現像スリーブ24を図2では反時計回りの方向に回転させる図略の回転軸とを含むローラ部材である。
【0038】
図3は、現像スリーブ24を断面で示す模式図である。同図に示すように、現像スリーブ24は、筒状のスリーブ基材32(ローラ基材)と、スリーブ基材32の外周面36(基材表面)上に積層されたニッケルめっき層33と、ニッケルめっき層33上に積層された上層34とを含む3層構造を有する。
【0039】
スリーブ基材32は、アルミニウム等の非磁性金属から形成された素管である。ニッケルめっき層33は、無電解めっき加工によって外周面36上に形成され、ニッケルめっきの種類は、ニッケル(Ni)−リン(P)である。ニッケルの純度が高くなるにつれ(つまり、リンの含有率が小さくなるにつれ)、ニッケルめっき層33の磁性が強くなる。一方、リンの含有率が大きくなると、ニッケルめっき層33は、アモルファスとなって結晶性が低下するため、その磁性は低下する。リンの含有率が8%以上になると、ニッケルめっき層33はほぼ非磁性体となる。本実施形態では、ニッケルめっき層33において、ニッケルの純度は95%以上に設定され、リンの含有率は5%以下に設定されている。したがって、ニッケルめっき層33は、磁性を備えた磁性層として作用する。これにより、非磁性金属からなるスリーブ基材32に磁性が付与される。また、ニッケルめっき層33の層厚は、0.1μm〜20μmの範囲におけるいずれかの値に設定されている。
【0040】
上層34は、電解めっき加工によって形成されたクロムめっき層(電解めっき層)である。上層34は、ニッケルめっき層33よりも高い硬度(ビッカース硬度)を有する。また、上層34の層厚は、0.06μm〜0.2μmの範囲におけるいずれかの値に設定されている。クロムとしては、3価のクロムであることが好ましい。
【0041】
ニッケルめっき層33は、そのめっき材料の性質により、上層34であるクロムめっき層よりも高い摩擦係数を備えている。ニッケルめっき層33の摩擦係数は0.5であり、上層34の摩擦係数は0.46である。ここでの摩擦係数は、ニッケルめっき層33および上層34を構成する材料同士の摩擦係数であり、具体的には、例えば、E.Rabinowicz,ASLE Trans.,1971,Vol.14,No.3,p.198で定義された値等に基づいている。
【0042】
図4は、図3においてサークルで囲った部分CAの拡大図である。同図に示すように、スリーブ基材32の外周面36には、ブラスト処理等によって凹凸が形成されている。外周面36の表面粗さRzは、トナーの平均粒子径に応じて設定されている。具体的には、外周面36の表面粗さRzは、トナーの平均粒子径よりも若干大きく設定されている。平均粒子径が7.1μmのトナーを用いる場合、外周面36の表面粗さRzは、十点平均粗さで7.8μm程度に設定される。
【0043】
ニッケルめっき層33は、スリーブ基材32の外周面36の凹凸に沿って形成されている。また、上層34は、ニッケルめっき層33を介してスリーブ基材32の外周面36の凹凸に沿うように形成されている。ニッケルめっき層33および上層34の外周面36上への形成に起因する凹凸の度合い(表面粗さRz)の低下は極力抑制されている。
【0044】
現像スリーブ24の内部には、磁石ロール25が内蔵されている。磁石ロール25は、現像スリーブ24の長手方向に延び、支持軸28に固定的に支持されている。
【0045】
磁石ロール25には、汲上極27が形成されている。汲上極27は、現像スリーブ24を介して現像剤循環路14に対向配置された磁極、例えばN極である。汲上極27は、現像剤循環路14内のトナーを、回転している現像スリーブ24上に磁気的に付着させ、現像剤層として現像スリーブ24上に担持させる。トナーは、スリーブ基材32の外周面36に形成された凹凸の凹部に入り込んだ状態または凹部に引っ掛かった状態で、現像スリーブ24の回転に伴って規制部Rに向けて搬送される。
【0046】
規制部Rは、現像剤層の層厚を薄層化かつ均一化するために設けられている。規制部Rは、規制ブレード30、規制極29および磁石部材35から構成されている。
【0047】
規制ブレード30は、現像スリーブ24の上方位置で現像スリーブ24に対向した状態で配設され、現像スリーブ24の長手方向に延びる薄板状のSUS部材である。規制ブレード30は、現像スリーブ24に向かって延びる先端部31を有しており、先端部31の先端面と現像スリーブ24との間に0.3mm程度の規制ギャップが形成されている。
【0048】
規制極29は、規制ブレード30の先端面に対向するように磁石ロール25に形成された磁極、例えばS極である。磁石部材35は、現像スリーブ24の回転方向から見た規制ブレード30の上流面に接合され、現像スリーブ24の長手方向に延びる板状の磁石である。磁石部材35は、現像スリーブ24に向かって延びる先端部を有しており、先端部には、規制極29と同極性の磁極、例えばS極が形成されている。
【0049】
規制ブレード30の先端部31には、規制極29の磁界および磁石部材35の磁界により、規制極29および磁石部材35とは逆の磁極、例えばN極が誘起されており、規制ブレード30、規制極29および磁石部材35間には、磁路、いわゆる磁気シールドが形成されている。現像剤層は、現像スリーブ24の回転に伴って規制部Rに到達すると、磁気シールドの磁界によって規制ギャップにおいて磁気的に拘束されつつ、規制ブレード30によって穂切りされる。これにより、現像剤層の層厚が適正に調整される。
【0050】
規制された現像剤層は、現像スリーブ24の回転に伴って感光体ドラム10に向けて搬送される。現像装置20は、図3に示すように、現像スリーブ24に現像バイアスを印加するバイアス印加部37をさらに含む。バイアス印加部37は、現像スリーブ24に現像バイアスを印加して、現像スリーブ24と、ドラムバイアスが印加されている感光体ドラム10のドラム表面10aとの間に電位差を生じさせる。この電位差にしたがって、現像剤層の磁性トナーは、現像スリーブ24からドラム表面10aに移動する。これにより、ドラム表面10a上の静電潜像に磁性トナーが付着し、トナー像が形成される。
【0051】
具体的には、本実施形態では、図3に示すように、磁性を備えたニッケルめっき層33がスリーブ基材32上に積層されている。そのため、ニッケルめっき層33は、現像スリーブ24が磁性トナーをドラム表面10aに搬送する際に(つまり、電位差にしたがって磁性トナーがドラム表面10aに移動する際に)、現像スリーブ24上の磁性トナーに対して磁力を作用させる。そのため、ニッケルめっき層33は、現像スリーブ24およびドラム表面10a間の現像領域DRにおいて前記電位差にしたがってドラム表面10aに移動しようとする磁性トナーの一部RTを現像スリーブ24上に磁気的に保持する。これにより、現像領域DRに搬送されてくる磁性トナーの一部RTは、ドラム表面10aに移動することが妨げられる。一方、現像スリーブ24上に磁気的に保持されなかった磁性トナーFTは、前記電位差にしたがってドラム表面10aに移動して、トナー像を形成する磁性トナーTTとして作用する。
【0052】
現像スリーブ24上に磁気的に保持される磁性トナーRTの量は、ニッケルめっき層33の磁力の大きさ、つまり、ニッケルの純度およびリンの含有率を、ニッケルの純度が95%以上となるように適宜調整することにより、適正に調整することができる。ニッケルの純度およびリンの含有率の調整は、現像スリーブ24からドラム表面10aに搬送される磁性トナーFTの搬送量を大幅に低下させない程度に、つまり、ドラム表面10a上に形成されるトナー像の濃度およびトナー像のドット再現性が許容範囲内に収まる程度に行われる。
【0053】
適量の磁性トナーRTが現像スリーブ24上に保持されることで、余分な量の磁性トナーがドラム表面10aに移動しないので、カブリの発生を抑制することができる。カブリは、余分な量の磁性トナーがドラム表面10aに移動して、トナー像の周囲に付着し、トナー像周囲を汚してしまう現象である。現像スリーブ24上に保持されている磁性トナーRTは、現像スリーブ24の回転に伴って現像剤貯留室14に戻される。
【0054】
図5は、ドラム表面10a上に形成されるトナー像の画像濃度と、カブリの濃度との間の関係を示す図である。縦軸は、トナー像の濃度およびカブリの濃度の高低を表し、横軸は、現像領域DRにおいて作用する磁力の高低を表す。トナー像の画像濃度は、現像領域DRにおける磁力が高くなるにつれて低くなる。これは、現像領域DRにおける磁力が高くなると、現像スリーブ24上に保持される磁性トナーRTの量が大きくなる。その結果、トナー像の画像濃度が低下する。
【0055】
また、カブリの濃度も、現像領域DRにおける磁力が高くなるにつれて低くなる。これは、現像領域DRにおける磁力が高くなると、現像スリーブ24上に保持される磁性トナーRTの量が大きくなり、その結果、カブリ濃度が低下し、カブリが抑制される。
【0056】
トナー像の画像濃度およびカブリ濃度は共に、現像領域DRにおける磁力が高くなるにつれて低下するが、その低下幅は互いに異なる。現像領域DRにおける磁力が高くなるにつれて低下するカブリ濃度の低下幅D2は、トナー像の画像濃度の低下幅D1よりも大きい。つまり、ニッケルめっき層33を磁性層とすることで、トナー像の画像濃度は若干低下するものの、カブリ濃度を大きく低下させること、つまりカブリの発生を抑制することができる。もちろん、トナー像の画像濃度の低下幅が許容範囲内に抑えられるように、ニッケルめっき層33のニッケル純度は調整される。
【0057】
このように、本実施形態では、現像スリーブ24のスリーブ基材32上に磁性層であるニッケルめっき層33を形成することで、トナー像の画像濃度およびトナー像のドット再現性を許容範囲内に調整しつつ、カブリの発生を抑制する。これにより、良好なトナー像が得られる。
【0058】
また、本実施形態では、ニッケルめっき層33上に積層された上層34は、ニッケルめっき層33よりも高い硬度を有しているので、現像スリーブ24に耐久性を付与することができる。
【0059】
さらに、本実施形態では、ニッケルめっき層33は無電解めっき加工によって形成されているので、無電解めっき加工の特性により、ニッケルめっき層33はスリーブ基材32の基材表面36の凹凸に沿って形成される。これにより、スリーブ基材32上にニッケルめっき層33を形成しても、基材表面36の凹凸の度合いの低下が極力抑えられる。また、上層34は電解めっき加工によって形成されているが、上層34の層厚は0.06μm以上0.2μm未満に設定されているので、基材表面36の凹凸の度合いの低下が極力抑えられる。これにより、磁性トナーは凹部に入り込んだ状態または凹部に引っ掛かった状態で感光体ドラム10に搬送される。その結果、磁性トナーの搬送性が確保される。
【0060】
さらに、本実施形態では、ニッケルめっき層33は、上層34よりも高い摩擦係数を有する。長期間の使用によって上層34が削れた場合、ニッケルめっき層33が現れる。ニッケルめっき層33は、上層34よりも高い摩擦係数を有するので、磁性トナーとの間に作用する摩擦によって磁性トナーを搬送することができる。そのため、上層が削れて基材表面36の凸部が無くなり、基材表面36の表面粗さRzが低下してしまった場合であっても、磁性トナーの搬送性が維持される。上層34が削れ、ニッケルめっき層33が現れるタイミングは、現像装置20の使用条件、使用状況、環境条件等にもよるが、印字枚数が3万枚〜40万枚に達したときとなるように設定することが好ましい。印字枚数が3万枚〜40万枚に達したとき、磁性トナーの流動性(帯電性)は低下していると考えられるため、クロムめっき層である上層34では、磁性トナーの搬送性を維持することが難しいからである。
【0061】
さらに、本実施形態の現像装置20では、現像スリーブ24および感光体ドラム10間の現像ギャップの大きさ、および現像スリーブ24に印加される現像バイアスは、磁性トナーが現像スリーブ24から感光体ドラム10に搬送される搬送量、ひいてはトナー像の画像濃度に影響する要素である。したがって、現像ギャップおよび現像バイアスを適宜設定することで、磁性トナーの搬送量を適正に調整することができる。しかも、本実施形態の現像装置20は、磁性層であるニッケルめっき層33が形成された現像スリーブ24を用いているので、トナー像の画像濃度およびトナー像のドット再現性を許容範囲内に収めつつ、カブリを抑制することができる。したがって、現像装置20は、現像ギャップの大きさおよび現像バイアスのレベルに加え、ニッケルめっき層33の磁力を設定して、トナー像の濃度の確保、トナー像のドット再現性の確保およびカブリの抑制を行う。これにより、現像ギャップの大きさおよび現像バイアスのレベルの設定に余裕を持たせることができるので、トナー像の濃度、トナー像のドット再現性およびカブリの抑制を長期にわたって確保することができると共に、現像装置の設計の自由度が高くなる。
【0062】
(実験I)
次に、ニッケルめっき層のニッケル純度とカブリとの間の関係を調べるために行った実験Iについて説明する。実験Iでは、図6に示すように、実施例1〜3および比較例1,2が用いられた。実施例1〜3および比較例1,2は全て、スリーブ基材、ニッケルめっき層および上層を有する3層構造(2層のめっき構造)の現像スリーブを用いた。実施例1〜3および比較例1,2では、ニッケルめっき層のニッケル純度(つまり、リン含有率)を互いに異ならせた。その他の条件は同一である。
【0063】
また、実験Iでは、図7に示すように、実施例4〜6および比較例3,4も用いられた。実施例4〜6および比較例3,4は全て、スリーブ基材、ニッケルめっき層、中間層および最上層を有する4層構造(3層のめっき構造)の現像スリーブを用いた。最上層は、クロムめっき層である。中間層は、ニッケルめっき層と最上層との間に形成された無電解めっき層であり、めっきの種類として、ニッケル−タングステン−リンめっき(Ni−W−Pめっき)を用いた。ニッケル−タングステン−リンめっきは非磁性である。実施例4〜6および比較例3,4では、ニッケルめっき層のニッケル純度(つまり、リン含有率)を互いに異ならせた。その他の条件は同一である。
【0064】
実施例1〜6および比較例1〜4における各めっき層の層厚は、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツル株式会社製のSFT320)を用いて、Crめっき、Niめっきの各検量線を作成した上で測定した。スリーブ基材の表面粗さは、東京精密社製のSURFCOM500DXを用いて測定した。実験Iの他の条件を、以下に箇条書きにて示す。
・トナーの平均粒子径:7.1μm
・現像スリーブの外径:20mm
・感光体ドラムの外径:30mm
・現像スリーブの回転速度:310mm/s
・現像ローラおよび感光体ドラム間の現像ギャップ:300μm
・規制ギャップ:300μm
・規制ブレードの材料:SUS430
・トナーの帯電極性:プラス
・現像ローラへの印加バイアス:VPP 1700V、Vdc 150V
・ドラム表面電位:V 250V
・感光体ドラムの材料:アモルファスシリコン
【0065】
実験Iでは、実施例1〜6および比較例1〜4のそれぞれにおいて、1000枚を連続印字した後に、シート上に形成されたトナー像の周囲のカブリの濃度FDが測定された。カブリ濃度FDは、トナー像の周囲に付着したトナーの濃度と、シート自体が有する濃度との差であり、東京電色社製の色差計(TC−6DS)を用いて測定された。
【0066】
図8は、実験Iで測定されたカブリ濃度に基づいて作成されたグラフであり、ニッケル純度とカブリ濃度との間の関係を示している。図8のグラフから、2層めっき構造を有する実施例1〜3および比較例1,2においても、3層めっき構造を有する実施例4〜6および比較例3,4においても、ニッケル純度が95%のときに変曲点が現れている。変曲点を境に、ニッケル純度が95%以上のとき、カブリ濃度FDが0.006以下に低下するのに対し、ニッケル純度が95%未満のとき、カブリ濃度FDが0.013以上に急激に上昇する。実験Iの結果から、ニッケル純度を95%以上に設定したニッケルめっき層がカブリの抑制に効果的であることが確認された。また、めっき構造が2層構造であっても3層構造であっても、ニッケル純度が95%以上であれば、カブリを抑制できることが確認された。なお、カブリ濃度が0.01を超えると、視覚的にカブリが目立つ。
【0067】
(実験II)
次に、トナー像の画像濃度の低下幅に関して行った実験IIについて図9を参照して説明する。実験IIでは、実施例7および比較例5,6が用いられた。実施例7および比較例5,6は全て、図9に示すように、スリーブ基材、ニッケルめっき層(下層)および上層を有する3層構造の現像スリーブを用いた。ただし、実施例7では、クロムめっき層が上層として用いられたのに対し、比較例5では、金(Au)めっき層が上層として用いられ、比較例6では、すず(Sn)めっき層が上層として用いられた。
【0068】
実施例7および比較例5,6のスリーブ基材、ニッケルめっき層および上層のそれぞれに関し、摩擦係数、ビッカース硬度および厚みは、図9に示すとおりである。スリーブ基材の表面粗さは、実施例7および比較例5では、7.8μmに設定され、比較例6では、7.7μmに設定された。実験IIの他の条件を箇条書きにて以下に示す。
・トナーの平均粒子径:7.1μm
・現像スリーブの外径:20mm
・感光体ドラムの外径:30mm
・現像スリーブの回転速度:310mm/s
・現像ローラおよび感光体ドラム間の現像ギャップ:300μm
・規制ギャップ:300μm
・規制ブレードの材料:SUS430
・トナーの帯電極性:プラス
・現像ローラへの印加バイアス:VPP 1700V、Vdc 150V
・ドラム表面電位:V 250V
・感光体ドラムの材料:アモルファスシリコン
【0069】
実験IIでは、実施例7および比較例5,6のそれぞれにおいて、印字初期(0K)のトナー像の画像濃度と、100万枚を連続印字した後のトナー像の画像濃度とが測定され、印字初期の画像濃度と連続印字後の画像濃度との差、つまり画像濃度の低下幅が求められた。トナー像の画像濃度は、印字初期時においても連続印字後においてもシート上にトナー像を形成した後に分光濃度計を用いて測定された。結果は図9に示すとおりである。
【0070】
図9に示すように、実施例7では、印字初期時の画像濃度が1.38であり、連続印字後の画像濃度が1.36であり、画像濃度の低下幅は、わずか0.02であった。印字初期時では、スリーブ基材の凹凸が上層の耐久性によって確保されていたため、磁性トナーの搬送性は確保されていたと考えられる。連続印字によって上層が削れた後は、上層よりも高い摩擦係数を有するニッケルめっき層が現れ、磁性トナーの搬送性が確保されていたと考えられる。このように、印字初期時においても連続印字時においても磁性トナーの搬送性が確保されていたため、画像濃度の低下幅が小さかったと考えられる。
【0071】
一方、比較例5では、印字初期時の画像濃度が1.21であり、連続印字後の画像濃度が1.02であり、画像濃度の低下幅は0.19と大きかった。また、比較例6では、印字初期時の画像濃度が1.3であり、連続印字後の画像濃度が0.92であり、画像濃度の低下幅は0.38とかなり大きかった。
【0072】
比較例5および比較例6は、上層として、ニッケルめっき層よりもビッカース硬度が低い金めっき層およびすずめっき層をそれぞれ用いていたため、印字初期時から上層が削れ、そして、印字が行われるにつれ、上層およびニッケルめっき層の削れが一層進み、スリーブ基材の表面粗さが確保されなかった結果、磁性トナーの搬送性が低下したと考えられる。また、比較例6では、ニッケルめっき層よりも高い摩擦係数を備えた上層(すずめっき層)を用いたが、上層は、ビッカース硬度が低いため、印字初期時から削れてしまったと考えられるので、上層の摩擦係数が磁性トナーの搬送性に寄与したとは考えられない。
【0073】
実験IIの結果から、上層のビッカース硬度をニッケルめっき層よりも高くし、かつニッケルめっき層の摩擦係数を上層よりも高くすることで、磁性トナーの搬送性が確保され、連側印字後の画像濃度の低下幅が小さくなることが確認された。
【符号の説明】
【0074】
1 画像形成装置
10 感光体ドラム
20 現像装置
22 現像ローラ
24 現像スリーブ
32 スリーブ基材(ローラ基材)
33 ニッケルめっき層
34 上層
36 外周面(基材表面)
Rz スリーブ基材の表面粗さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性トナーを含有する現像剤を所定の像担持体に搬送して、前記所定の像担持体上にトナー像を形成するための現像ローラであって、
非磁性金属からなるローラ基材と、
前記ローラ基材上に積層され、磁性を有する磁性層と、
を備えた現像ローラ。
【請求項2】
請求項1に記載の現像ローラにおいて、
さらに、前記磁性層上に積層され、前記磁性層よりも高い硬度を有する上層を備えた現像ローラ。
【請求項3】
請求項2に記載の現像ローラにおいて、
前記ローラ基材は、前記磁性層側に向く基材表面を有し、
前記基材表面は、前記磁性トナーの平均粒子径に応じて設定された表面粗さを有し、
前記磁性層は、無電解めっき層であり、前記上層は、0.06μm以上かつ0.2μm未満の層厚を有する電解めっき層である現像ローラ。
【請求項4】
請求項3に記載の現像ローラにおいて、
前記磁性層は、前記上層よりも高い摩擦係数を有する現像ローラ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の現像ローラにおいて、
前記磁性層は、ニッケルの含有率が95%以上の層である現像ローラ。
【請求項6】
請求項2〜5のいずれか一項に記載の現像ローラにおいて、
前記上層は、クロムめっき層である現像ローラ。
【請求項7】
磁性トナーを含有する現像剤を貯留する現像剤貯留部と、
所定の像担持体との間に形成された現像ギャップを有し、前記現像剤貯留部中の前記現像剤を前記所定の像担持体に搬送して、前記所定の像担持体上にトナー像を形成するための現像ローラと、
前記現像ローラに現像バイアスを印加して前記現像ローラと前記所定の像担持体との間に電位差を生じさせることにより、前記現像ローラ上の前記現像剤を前記所定の像担持体に移動させるバイアス印加部と、
を備え、
前記現像ローラとして、請求項1〜6のいずれか一項に記載の現像ローラが用いられている現像装置。
【請求項8】
トナー像が形成される像担持体と、
前記像担持体に現像剤を搬送して、前記トナー像を前記像担持体上に形成する現像装置と、
前記トナー像をシート上に転写させる転写部材と、
前記トナー像を前記シート上に定着させる定着部と、
を備え、
前記現像装置として、請求項7に記載の現像装置が用いられている画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−155110(P2012−155110A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13541(P2011−13541)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006150)京セラドキュメントソリューションズ株式会社 (13,173)
【Fターム(参考)】