説明

現像ローラおよびその製造方法

【課題】芯金表面に施したメッキの硬度を高めることで、芯金に傷が無く回転不良等に伴う画像欠陥の無い現像ローラおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】芯金の外周に導電性シリコーンゴムで形成される弾性層および被覆層の順に形成された現像ローラにおいて、前記芯金の表面が無電解ニッケル−リンメッキにより形成された少なくともリンとニッケルとを含むメッキで皮膜され、そのメッキ皮膜が一リン化三ニッケル(Ni3P)を含むことを特徴とする現像ローラによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタ、ファクシミリ及び複写機等の電子写真方式を採用した画像形成装置における現像ローラおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複写機、プリンター等のOA機器は高画質化が進んでおり、それに伴い感光体上の静電潜像をトナーにより可視化する現像プロセスにおいては、現像剤担持部材として弾性層を有する現像剤担持部材を用い、感光体に均一に圧接して現像を行う接触現像方式が提案されている。この接触現像方式においては、現像剤担持部材は、感光体への均一な圧接幅を確保するために、弾性材料により構成される弾性層を有すると共に、電圧を印加してトナー像を感光体上に形成するために、均一な導電性や耐リーク性が求められる。
【0003】
そこで、例えば導電性支持体上に、電子導電剤やイオン導電剤を分散して所望の抵抗値に調節した弾性層を形成し、その外周に、耐摩耗性やトナー帯電性、トナー搬送性を得るために、ナイロン、ウレタン等の樹脂と、適宣表面粗さを確保するための粗し粒子や、導電性を確保するための導電剤を添加した被覆材料からなる被覆層を設ける場合が多い。
【0004】
さて、これらの現像剤担持部材は、例えば装置本体、あるいはカードリッジ本体の軸受け部分に固定して回転させるため、通常、両端に軸体を露出させた部分を設けて使用される。
【0005】
上記軸体は通常、メッキを施したものが使用される。メッキとしては黄銅メッキ、亜鉛メッキ等、多数存在するが、中でも無電解ニッケルメッキが一般的に使用される。無電解ニッケルメッキの特徴の一つとしてメッキ液中の還元剤の種類によって皮膜中に混入する元素が異なることが挙げられ、例えば次亜リン酸化合物を還元剤とした場合はリン、水素化ホウ素化合物ではホウ素が混入する。一方、ヒドラジンやホルマリンのように殆ど混入しない場合もある。このような無電解ニッケルメッキ法は化学メッキとも呼ばれ、メッキ液中に含まれる還元剤によって金属イオンを還元析出させる純粋な化学反応に基づいた方法である。該メッキ法は電気を利用して行われる電解ニッケルメッキ法に比べ、メッキ皮膜の厚さが均一で高い寸法精度が得られ、かつピンホールが発生しにくいため耐食性に優れるといった利点がある。
【0006】
前述した様に、現像剤担持部材は、感光体への均一な圧接幅を確保した上で、均一量のトナー搬送が行われるが、現像剤担持部材両端の露出された軸体にキズがあると、軸体が回転不良を起こしトナー搬送量が局所的に不均一となり画像不良として現れてしまうという問題があった。また、使用開始時に画像不良として現れなくても、軸体にキズがあると装置本体、あるいはカードリッジ本体の使用環境によっては、軸体に錆が発生して画像不良となるケースも発生する。
【0007】
従来技術においては、無電解ニッケルメッキを施した芯金に、クロム酸処理または熱処理(表面酸化)により不活性化処理して、ゴム材の接着性改善を図っている。(特許文献1、非特許文献1))
この方法は、熱処理により表面酸化においては、接着性改善は望めるが、メッキ層の硬度アップは望めない。またクロム酸処理においては、環境上好ましくない。
【0008】
また、他の従来技術においては、軸体のキズを防止するため、軸体上にゴムロールを形成した後、不必要なゴムを除去するため、吸引力で軸体に非接触でゴムを除去する方法が提案されている。(特許文献2)
この方法は、軸体へのゴムの接着強度にもよるが、不必要なゴムが残ったり、ゴムと軸体を接着する為の接着剤などが残ってしまう可能性があり、ゴムと軸体の接着強度が比較的弱く、剥離性の良いものに限定される。
【0009】
また別の方法として、不必要なゴムを除去するため、超高圧水を吹きつけ、軸体にキズが付かない様に不必要なゴムを除去する方法が提案されている。(特許文献3)
この方法は、不必要な軸体端部のゴム部分を除去する際、必要な部分のゴムと軸体の接着面を痛める事が多く、完成されたゴムロールは、ゴムの端部側が軸体から剥離し、端部のゴム径が太くなる所謂ラッパ状となってしまう。また、水に対し、ローラの物性が速い可逆性を持つ場合のみしか利用できない。
【特許文献1】特公平7−74056号公報、(第2頁)
【特許文献2】特開2004−195625号公報、(第2頁)
【特許文献3】特開平8−174500号公報、(第2頁)
【非特許文献1】岡村寿郎、川岸重光、神戸徳蔵、鷹野修;「無電解メッキの応用」、p170〜173、(1991)、槙書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上記課題に鑑みてなされたものであって、芯金の外周上にNi3Pを含むメッキ皮膜を形成し芯金表面に施したメッキの硬度を高めることで、芯金に傷が無く回転不良等に伴う画像欠陥の無い現像ローラおよびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決した本発明は、芯金の外周上に、導電性シリコーンゴムで形成される弾性層と、被覆層とを内周側から順に形成した(内周側から外周側に向かって弾性層、被覆層を順に形成した)現像ローラにおいて、
該芯金の表面が少なくともリンとニッケルとを含むメッキで皮膜され、該メッキの皮膜が一リン化三ニッケル(Ni3P)を含むことを特徴とする現像ローラに関する。
【0012】
前記メッキの皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)含有量が3質量%〜70質量%であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、芯金の表面に、無電解ニッケル−リンメッキにより、少なくともリンとニッケルとを含むメッキ皮膜を形成する工程と、
該メッキ皮膜を200℃〜500℃で熱処理することで該メッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成する工程と、
該一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成した前記芯金を、金属製の円筒型内に、該円筒型と同心となるように配し、該芯金と円筒型との空隙内に導電性シリコーンゴム材料を注入して熱硬化させ該芯金上に導電性シリコーンゴムからなる弾性層を形成する工程と、
該弾性層の外周上に被覆層を形成する工程と、
を有することを特徴とする現像ローラの製造方法に関する。
【0014】
前記メッキ皮膜を形成した後、前記熱処理によりメッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成する工程までの時間が24時間以内であることが好ましい。
また、前記熱処理が不活性雰囲気または還元性雰囲気中で行われることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によれば、芯金表面に施したメッキの硬度を高めることで、芯金に傷が無く回転不良等に伴う画像欠陥の無い現像ローラおよびその製造方法を提供することを可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、上述したように、芯金の外周上に、内周側から導電性シリコーンゴムで形成されている弾性層、被覆層の順に形成された現像ローラにおいて、前記芯金の表面が無電解ニッケル−リンメッキにより形成された少なくともリンとニッケルとを含むメッキで皮膜され、そのメッキ皮膜が一リン化三ニッケル(Ni3P)を含むことを特徴とする現像ローラである。
【0017】
以下に、本発明の実施の形態を図を用いてより詳細に説明する。尚、本発明の実施形態、実施例、比較例中の「部」は質量部を示す。
【0018】
図1は、本発明の現像ローラの一つの実施形態の概略を示すもので、(a)は現像ローラの軸線に沿った概略断面図を、(b)は現像ローラを軸方向からみた概略断面図を示す。この図に示した実施形態の現像ローラは、芯金1a上に弾性層1bを形成し、さらにその外周に被覆層1cを設けたものである。
【0019】
1)芯金
本発明においては、表面に無電解ニッケル−リンメッキを施した軸体(芯金)を用いる。軸体としては特に制限されるものではなく、中空状あるいは中実状であっても差し支えなく使用できる。また、材料についても特に制限されるものではなく、鉄製あるいは鋼製、例えば鉄・アルミニウム・チタン・銅及びニッケル等の金属やこれらの金属を含むステンレス・ジュラルミン・真鍮及び青銅等の合金等の材料や、現像ローラ製造用として従来公知のものが使用できる。
【0020】
上記軸体に施される無電解ニッケル−リンメッキ皮膜のメッキ方法については特に制限されることなく、従来公知の無電解ニッケル−リンメッキ法で行われる。無電解ニッケル−リンメッキ法はメッキ皮膜の厚さが均一で高い寸法精度が得られ、かつピンホールが発生しにくいため耐食性に優れるといった観点からゴムローラ用の軸体において特に好ましいメッキ方法である。
【0021】
本発明では上記無電解ニッケル−リンメッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)が含まれているものが使用される。通常、該メッキ皮膜の組成は主にニッケルおよびリンで構成されており、該皮膜中のリンはメッキ液の濃度、組成、pH、メッキ温度および時間等の条件により0.5質量%〜21質量%まで含有量を変えることができる。
【0022】
皮膜中のリン濃度を好適な範囲に変化させるための、好ましいメッキ液としてはpHを酸性領域に設定することが好ましい。メッキ温度については、40℃以上、90℃以下の範囲が好ましい。これらの条件に設定して無電解ニッケル−リンメッキを行った場合、を得られる皮膜の厚さは6μm以下である。
【0023】
リン含有量が多いほど耐傷性および耐食性が良くなるが、あまり多すぎると皮膜が脆くなる場合があり、21質量%以下の濃度で実用的である。一方、該皮膜中のリンはエネルギーを加えることによりニッケルと反応して結晶化し、一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成する(非特許文献1)。一リン化三ニッケル(Ni3P)は侵入型化合物の性質を有するため、耐傷性、耐食性に優れており、また導電性に何ら悪影響を及ぼさない。
【0024】
本発明の効果は上記軸体に施される無電解ニッケル−リンメッキ皮膜中に少なくとも一リン化三ニッケル(Ni3P)が含まれていれば得ることができる。但し、リン含有量が0.5質量%未満の場合、メッキ時にニッケル成分とリン成分との反応がしにくくなる。従って、本発明の効果を発揮するために必要な量の一リン化三ニッケル(Ni3P)を得るためにはかなりのエネルギーが必要となるため、コスト及び条件面で厳しくなる。
【0025】
一方、リン含有量が0.5質量%以上ではメッキ皮膜は非晶質状態で析出するため、ニッケル成分とリン成分との反応が進行しやすく、本発明の効果を発揮するために必要な量の一リン化三ニッケル(Ni3P)を容易に形成することができる。従って該メッキ皮膜中のリン含有量が0.5質量%以上であれば本発明の優れた効果を得ることができるが、21質量%を越えるとメッキ本来の特性が失われ、皮膜が脆くなりメッキ皮膜の剥がれが発生し易くなるため、耐食性や耐傷性が低下する。以上の観点から本発明の現像ローラの軸体に施される無電解ニッケル−リンメッキは該メッキ皮膜中のリン含有量が0.5質量%〜21質量%のものが好ましく、8質量%〜16質量%がより好ましい。
【0026】
本発明の効果はまず、無電解ニッケル−リン皮膜中のリンを活性化させ、一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成させることにある。一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成させる方法としてはメッキ皮膜中のリンを活性化し、結晶化するために必要な熱量を与えることが出来れば特に制限されない。例えば、熱風炉、誘導加熱、高周波およびレーザー等、従来公知の方法を使用することができる。但し、その方法が誘導加熱等の電気加熱である場合はメッキ基板となる軸体が導電性の金属であることが要求される。なお、メッキ皮膜中のリンがどの程度、Ni3Pの形でNiと結晶を形成するかはリンを活性化させる条件によって異なる。条件によってリンの全てがNi3Pを形成したり、一部がNi3Pを形成したりする。
【0027】
加熱は不活性雰囲気または還元雰囲気で行うことができる。具体的には、還元性雰囲気(水素ガス等)あるいは不活性ガス(アルゴンあるいは窒素ガス等)雰囲気で行うことが好ましい。加熱を不活性雰囲気または還元雰囲気下で行うと、空気よりも雰囲気中の酸素濃度を低くできるため、より効果的に一リン化三ニッケル(Ni3P)の結晶化を行うことができる。具体的な不活性ガス雰囲気および還元雰囲気の流量としては、熱処理時の酸素濃度が空気より下回っていれば良い。
【0028】
加熱温度については、200℃以上であれば、メッキ皮膜中のリンの活性化が進み、一リン化三ニッケル(Ni3P)の結晶化がより良好に進行する。また、例えば軸体が鉄の場合、軸体が500℃を超えると変形して現像ローラの軸体として使用できなくなることがある。このため、加熱温度としては200℃〜500℃が好ましく使用される。また、一般的に高温条件では作業管理上困難が生じるため、200℃〜400℃がより好ましい。
【0029】
軸体にメッキ皮膜の形成完了から、熱処理をするまでの時間は24時間以内であることが好ましく、さらに1時間以内であることがより好ましい。これは、メッキ皮膜を形成した軸体を空気中に放置しておくと、次第にメッキ皮膜表面が酸化してしまうため、一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成の妨げとなってしまうからである。ここでいうメッキ皮膜の形成完了とは、メッキ液でメッキ皮膜を形成し、リンス工程などを経て、乾燥を終了したものを指す。また、加熱時間については、加熱温度によっても異なるが、30分以上であることが好ましい。
【0030】
メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)の含有量は、3質量%〜70質量%とするのが好ましい。メッキ皮膜中のリンが全て反応し一リン化三ニッケル(Ni3P)になった状態が上限となり、メッキ皮膜中のリン含有量が21量%のとき、メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)がおおよそ70質量%の上限となる。また、下限は、メッキ皮膜中のリン含有量が0.5質量%のとき、メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)の含有量がおおよそ3質量%以上となり、耐傷性に対し効果が認められた。メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)の含有量を3質量%〜70質量%とするためには、皮膜形成時の皮膜中のリン含有量を変化させたり、一リン化三ニッケル(Ni3P)形成時の加熱温度を調節すれば良い。また、メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)の含有量が3質量%〜70質量%であることにより、より耐傷性に優れた芯金を得ることができる。
【0031】
2)弾性層
弾性層1bには導電性シリコーンゴムを用いる。シリコーンゴムは単独で用いても複数種のものを用いても良い。シリコーンゴムに導電性を付与するためには、電子伝導機構を有する導電剤(カーボンブラック、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)或いはイオン導電剤(アルカリ金属塩およびアンモニウム塩)を添加したものや、導電性ゴム等を適宜用いることができる。この場合、導電剤は2種以上を併用してもよい。導電剤の添加量は、シリコーンゴム材料100部に対し、通常、2〜20部とすればよい。硬さ、圧縮永久歪みを考慮した場合、弾性層には付加反応型導電性シリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0032】
弾性層の厚みは通常、1〜6mmとするのが好ましい。また、本発明で用いることの出来る弾性層の材料は、型を用いて材料を注入し熱硬化させる工程から得られるものである。型を用いての弾性層の形成は、メッキ皮膜された芯金を金属製の円筒型内に同心状となるように配し、その両端を材料注入口のついた金属製コマにて支持し、長手方向のどちらか一方から芯金と円筒型で形成される空隙内に導電性シリコーンゴム材料を注入し熱硬化させ、その後、金型から脱型し導電性シリコーンゴムからなる弾性層を形成する。導電性シリコーンゴム材料の粘度は25℃で50〜500Pa・sであることが好ましい。また、熱硬化の温度は材料の種類にもよるが、105〜130℃であることが好ましい。この際、金属製コマは芯金を金型内で安定に支持するため芯金と接しているが、金属製コマの型組時と脱型時に、芯金に対する金属製コマの挿入および脱離の角度調整の具合次第では、芯金に傷を付けてしまう事が多い。芯金の硬さに対し、金型の硬さは、繰り返し使用しても摩耗しないように芯金より、硬い材質を利用するのが一般的であるが、用いる芯金の表面を本発明の様にすることにより、芯金に傷が付きにくくなる。また弾性層形成時以外の工程においても、やむを得ず、芯金より硬い材質と接する部分があってもその効果が発揮される。
【0033】
現像ローラは、少なくとも1層の弾性層を有するが、多層とする場合には、弾性層1bと同様の材質を用いることが出来、この場合、現像ローラの硬度調整や抵抗調整をし易くなるなどのメリットが挙げられる。
【0034】
また、弾性層を多層とする場合には、少なくとも一つの弾性層を型を用いて材料を注入し熱硬化させる工程から得れば良く、それ以外の弾性層は、例えばチューブ被覆やチューブ被覆後、研磨加工を行う方法で形成することができ、特に限定されるものではない。但し、付加反応型導電性シリコーンゴムを用いる弾性層の形成が後工程になる場合には、その前工程で出来る弾性層の材料がその反応・成形の際の阻害とならない様な材料を選択する必要がある。
【0035】
3)被覆層
被覆層1cは、弾性層(複数の弾性層を有する場合には最も外側の弾性層)の外周上に、これに接して形成され、弾性層中に含有される軟化油や可塑剤等の成分が現像ローラ表面へブリードアウトするのを防止する目的で、または、現像ローラ全体の電気抵抗を調製する目的で設けられる。
【0036】
現像ローラは少なくとも1層の被覆層を有する。被覆層を1層とする場合には、この被覆層の厚みは、ブリードアウトを防止するため、通常、8μm以上とするのが好ましく、また弾性層の柔軟性を損なうことなく、また耐摩耗性を考慮すると、100μm以下とするのが好ましく、さらには30μm以下がより好ましい。また、被覆層を多層とする場合には、各層の合計厚みが上記範囲となるようにすればよい。
【0037】
樹脂材料としては例えば、フッ素樹脂、ナイロン樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ブチラール樹脂、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、エチレン酢酸ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリ塩化ビニル系熱可塑性エラストマーおよび塩素化ポリエチレン系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。これらの樹脂材料は、単独重合体であっても、共重合体であってもよい。また、これらの樹脂材料は単独で、または2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
被覆層1cは、接触現像方式においては現像ローラの感光体への均一な圧接が必要であり、また現像ローラ上のトナーの層厚を規制する規制ブレードとも接触しているため、変形した跡が残ると、それが画像不良として現れてしまう。その様なことから、現像ローラは、複写機やプリンタ等に用いられる環境温度に対し、高い圧縮永久歪みが要求されるポリウレタン樹脂が好ましい。
【0039】
被覆層1cに使われる、ウレタン樹脂に用いられるポリオール化合物としては、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコールポリエチレンジアジペート、ポリエチレンブチレンアジペート、ポリ−ε−カプロラクトンジオール、ポリカーボネートポリオール、ポリプロピレングリコール等の公知のポリウレタン用ポリオールが挙げられる。
【0040】
また、イソシアネート化合物としては、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等のジイソシアネート、およびそれらのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレタン変性体等を好ましく使用することができる。特に好ましいイソシアネート化合物は、HDIおよびそのビュレット変性体、イソシアヌレート変性体、ウレタン変性体等である。イソシアネート化合物は、その分子鎖が長いほど、より高い柔軟性を有するポリウレタン被覆層を生成する。
【0041】
また被覆層1cは、十分なトナー搬送性を確保するため、樹脂材料に対し絶縁性粒子を適当量添加することができる。絶縁性粒子の大きさとしては、3μmから100μmの平均粒径を有するものが望ましく、5μmから30μmの平均粒径のものがより好ましい。
【0042】
絶縁性粒子の材質としては、例えば、ウレタン粒子、ナイロン粒子、アクリル粒子、シリコーン粒子等を用いることが出来る。形状としては球形が好ましい。
【0043】
絶縁性粒子の添加量は、被覆層を形成する被覆材料中の樹脂材料を100部としたとき、絶縁性粒子は、通常、2〜50部とするのが好ましい。絶縁性粒子の添加量をこの範囲とすると、現像ローラとして適度のトナー搬送性を持つ、被覆層表面が得られる。
【0044】
本発明における被覆材料は、現像ローラ全体の電気抵抗を調整する目的のため、導電性微粒子を含む。導電性微粒子としては、各種電子伝導機構を有する導電剤(カーボンブラック、グラファイト、導電性金属酸化物、銅、アルミニウム、ニッケル、鉄粉等)或いはイオン導電剤(アルカリ金属塩およびアンモニウム塩)の微粒子を用いることができる。上記導電剤の2種以上を併用してもよい。また導電性微粒子を樹脂材料100部に対し、通常、5〜200部添加するのが好ましい。導電性微粒子の添加量を5部以上とすると、被覆層は良好な導電性を有することができ、200部まで必要量の導電性微粒子を加えることにより、導電性を安定的にコントロールすることが可能となる。導電性微粒子を樹脂材料100部に対し、15〜30部を添加するのがより好ましい。使用する導電性微粒子は、感光体を汚染する材料構成であってはならない。
【0045】
被覆層1cは例えば、前記樹脂材料等を有機溶媒に溶解させて塗工液とした後、これを弾性層上に塗布、乾燥することによって得ることができる。このような被覆層1cの形成に用いることのできる有機溶剤としては、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノンのケトン類、キシレン、トルエン等の芳香族類、n−酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、テトラヒドロフラン、エチルセロソルブ、テトラヒドロピラン等のエーテル類が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。また樹脂等が溶解する場合は、水等も溶剤として用いることが出来る。
【0046】
前述の各材料を有機溶剤や水等中に添加し適宣希釈し、導電剤を分散し、塗工液を作製する。
【0047】
塗工前の弾性層の表面清浄化は、従来の方法が利用でき、本発明の塗工液を弾性層の材料を注入した端部の長手方向反対側から塗工して被覆層を形成する方法と組み合わせることで、更に高い効果が期待出来る。その具体的な方法としては、例えば、圧縮空気の吹き付け、粘着テープとの接触、弾性層材料を侵さない有機溶剤での洗浄、高圧水での洗浄、水での洗浄等である。
【0048】
塗工方法としては、縦ディップ塗工、リング塗工、ロール塗工等が挙げられ、特に限定されない。塗工液の作製において粉砕工程を加える場合は、ボールミル、サンドミル又は振動ミル等を用いる。
【0049】
次に、上記のような塗工方法で作製した膜を乾燥するが、乾燥の方法としては、熱を加えない風乾、加熱乾燥、熱硬化性樹脂の場合は、反応温度までの加熱処理等、用いる材料によって選択することが出来る。
【0050】
4)電子写真装置
図2に本発明の現像ローラを備えた電子写真装置の概略構成図を示した。図2の電子写真装置は回転ドラム型・転写方式のものである。1は潜像担持体としての電子写真感光体(感光ドラム)であり、時計方向に所定の周速度(プロセススピード)をもって回転駆動される。感光ドラム1は、その回転過程で帯電手段としての電源E1から帯電バイアスを印加した帯電ローラ2により周面が所定の極性・電位(本実施例では−600V)に一様帯電処理され、次いで露光系3により目的の画像情報に対応したネガ画像露光(原稿像のアナログ露光、デジタル走査露光)を受けて周面に目的画像情報の静電潜像が形成される。
【0051】
また、現像ローラ4の回転に伴って現像ローラ4上にはトナー薄層が形成され、このトナー薄層が感光ドラム上に供給されることによって静電潜像がトナー画像として現像される。現像ローラ4は感光ドラムに接していても接していなくても良い。次に、感光ドラム1と転写手段としての転写ローラ5との間の転写部に所定のタイミングで給紙ローラ10を通して転写材Pが給送され、転写ローラ5に対して電源E2から約+2〜3kVの転写バイアスが印加されることで感光ドラム1面の反転現像されたトナー像が転写材Pに対して順次転写されていく。転写されたトナー像は定着ローラ11によって記録材P上に定着する。この記録材Pは搬送ローラ12によって機外へ排出される。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明する。尚、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
<芯金の作製>
芯金の形成は、φ8mmの鋼鉄製軸芯体に無電解ニッケル−リンメッキを施し、メッキ皮膜中のリン含有量はメッキ液の種類の選択により調整し、メッキ膜厚は3〜6μmとなる様に作製した。またメッキ皮膜中での一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成は炉内にN2ガスを1dm3/min.で導入しながら250℃、3時間の加熱により行い、3時間経過後、炉内温度が80℃以下になった時点で取り出した。このときメッキ皮膜を形成後、N2ガス雰囲気中での加熱開始までの時間は10分間とした。
【0054】
出来上がった芯金については、メッキ皮膜中のリン含有量測定および一リン化三ニッケル(Ni3P)の有無の確認、ダイナミック超微小硬度の測定を実施した。
【0055】
<弾性層の作製>
次に導電性シリコーンゴムからなる弾性層の形成は、上記芯金を内径16mmの円筒状金型内に金型キャビティと同心となるように設置し、両側にコマ金型、コマの間に円筒状金型を配置した金型を成型機にセットし、射出注入装置において液状ゴムを注入した。注入条件は、注入時間10秒、金型内に注入する液状ゴムの量は40mlで4ml/秒の一定速さで注入した。ここで、液状ゴムには液状導電性シリコーンゴム(東レダウコーニング社製、体積固有抵抗1×106Ωcm品)を用い一方の液に微量に配合された白金触媒、さらにもう一方の液に硬化剤を配合した2液混合の付加反応タイプのものとした。
【0056】
液状ゴムが注入された金型は成形装置内の熱板にて115℃で加熱硬化し、脱型後、200℃のオーブンで4時間、2次加硫を行い、芯金上に厚み4mmの弾性層を有する現像ローラ前駆体を得た。
【0057】
<被覆層の作製>
次に被覆層の形成は、ウレタン塗料(ニッポランN5033;商品名、日本ポリウレタン社製)を固形分濃度10%となるように、メチルエチルケトンで希釈し、導電剤としてカーボンブラック(MA100;商品名、三菱化学製)を上記ウレタン塗料の固形分100部に対し70部、絶縁性粒子として平均粒径14μmのウレタン粒子(アートパールC400;商品名、根上工業製)を上記ウレタン塗料の固形分100部に対し10部添加した後、十分に分散したものに、硬化剤(コロネートL;商品名、日本ポリウレタン社製)を上記ウレタン塗料の固形分100部に対し10部添加、撹拌し、塗工液を調製した。次にこの塗工液を縦ディップ塗工装置の循環機中に投入し、液温度23±1℃、液粘度14.0mPa・sに調整し、上記方法で得られた現像ローラ前駆体を塗工パレットに把持し、塗工液を縦ディップ塗布し、30分間室温にて風乾後、80℃のオーブンで15分乾燥し、さらに140℃のオーブンで4時間硬化し、被覆層を形成し、現像ローラを得た。
【0058】
<評価方法>
次に、以上の様にして得られた現像ローラ両端の芯金露出部分を目視にて観察し、芯金表面上の傷の有無について、同様の方法で作製した現像ローラ100本について発生数を調べ、その結果を表1に示す。
【0059】
<メッキ皮膜中のリン含有量の測定>
リン含有量はエネルギー分散型X線分析((株)日立製作所S−4300、エダックスジャパン(株)Phoenix System)により定量分析を行った。測定はキャリブレーション実行後、ノンスタンダード法により行い、1試料片につき3点測定してその平均値を採用した。
【0060】
<メッキ皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)の確認>
一リン化三ニッケル(Ni3P)形成の確認はX線回折の平行ビーム法にて測定し、X線入射角度は0.1°とした。
【0061】
<ダイナミック超微小硬度の測定>
ダイナミック超微小硬度の測定は、ダイナミック超微小硬度計DUH−W201S((株)島津製作所製)により行った。ダイナミック超微小硬度は、圧子を試料に一定の押し込み速度(mN/s)で侵入させたときの試験荷重P(mN)と押し込み深さD(μm)より、下式で算出される。αは圧子形状による定数である。
ダイナミック超微小硬度=α×P/D2
試験条件としては、115°三角錐圧子(α=3.8584)を芯金表面に、押し込み速度0.28mN/s、試験荷重15mNで侵入させて求めた。なお試験荷重の設定は、圧子の押し込み深さがメッキ膜厚の1/10以下になる様に設定した。
【0062】
(実施例2)
実施例1において、メッキ皮膜中での一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成温度を500℃にした以外、他は実施例1と同様にして現像ローラを作製した。
【0063】
(実施例3)
実施例1において、メッキ皮膜中での一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成温度を200℃にした以外、他は実施例1と同様にして現像ローラを作製した。
【0064】
(実施例4)
実施例1において、無電解ニッケル−リンメッキ形成時に用いるメッキ液の種類を変えた以外、他は実施例1と同様にして現像ローラを作製した。
【0065】
(実施例5)
実施例1において、メッキ皮膜を形成してから、N2ガス雰囲気中での加熱開始までの時間を24時間とした以外、他は実施例1と同様にして現像ローラを作製した。
【0066】
(比較例1)
実施例1において、無電解ニッケル−リンメッキを施した後のメッキ皮膜中での一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成を行わなかった以外(メッキ皮膜形成後に加熱を行わなかった以外)、他は実施例1と同様にして現像ローラを作製した。
【0067】
(比較例2)
実施例4において、無電解ニッケル−リンメッキを施した後のメッキ皮膜中での一リン化三ニッケル(Ni3P)の形成を行わなかった以外(メッキ皮膜形成後に加熱を行わなかった以外)、他は実施例4と同様にして現像ローラを作製した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1から明らかなように、実施例1〜5においては、メッキ皮膜形成後、芯金を窒素雰囲気中で熱処理することで、メッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)が形成されるため、結果として芯金表面の硬度が大きくなり、芯金に傷がつきづらくなる結果が得られた。
【0070】
これに対し、比較例1および比較例2ではメッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)が形成される工程がないため、一リン化三ニッケル(Ni3P)の生成も認められず、また硬度上昇も無く、現像ローラ作製時に芯金に傷が付くものが発生した。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の現像ローラの一つの実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の現像ローラを含む電子写真装置の該略図である。
【符号の説明】
【0072】
1a 芯金
1b 弾性層
1c 被覆層
1 電子写真感光体(感光ドラム)
2 帯電手段
3 露光系
4 現像手段
5 転写ローラ
6 クリーニング手段
9 クリーニングローラ
10 給紙ローラ
12 搬送ローラ
E1、E2、E3 バイアス印加用電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金の外周上に、導電性シリコーンゴムで形成される弾性層と、被覆層とを内周側から順に形成した現像ローラにおいて、
該芯金の表面が少なくともリンとニッケルとを含むメッキで皮膜され、該メッキの皮膜が一リン化三ニッケル(Ni3P)を含むことを特徴とする現像ローラ。
【請求項2】
前記メッキの皮膜中の一リン化三ニッケル(Ni3P)含有量が3質量%〜70質量%であることを特徴とする請求項1に記載の現像ローラ。
【請求項3】
芯金の表面に、無電解ニッケル−リンメッキにより、少なくともリンとニッケルとを含むメッキ皮膜を形成する工程と、
該メッキ皮膜を200℃〜500℃で熱処理することで該メッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成する工程と、
該一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成した前記芯金を、金属製の円筒型内に、該円筒型と同心となるように配し、該芯金と円筒型との空隙内に導電性シリコーンゴム材料を注入して熱硬化させ該芯金上に導電性シリコーンゴムからなる弾性層を形成する工程と、
該弾性層の外周上に被覆層を形成する工程と、
を有することを特徴とする現像ローラの製造方法。
【請求項4】
前記メッキ皮膜を形成した後、前記熱処理によりメッキ皮膜中に一リン化三ニッケル(Ni3P)を形成する工程までの時間が24時間以内であることを特徴とする請求項3に記載の現像ローラの製造方法。
【請求項5】
前記熱処理が不活性雰囲気または還元性雰囲気中で行われることを特徴とする請求項3又は4に記載の現像ローラの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−201505(P2006−201505A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13235(P2005−13235)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(393002634)キヤノン化成株式会社 (640)
【Fターム(参考)】