説明

現像ローラの製造方法、現像ローラ、現像装置、及び該現像装置を備えた画像形成装置

【課題】 表面が磨耗しにくく、かつ、表面粗さが小さく、精度よく作製できる現像ローラの製造方法を実現する。
【解決手段】 現像ローラ表面に開口部を有するマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスク形成後、現像ローラ表面に陽極酸化処理を行う陽極酸化工程と、前記マスクを除去するマスク除去工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機等の画像形成装置に用いられる現像ローラ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の画像形成装置においては、例えば感光体のような静電潜像担持体の表面を帯電させ、その帯電域を画像情報に応じて露光することで静電潜像を形成し、静電潜像を現像して可視化する現像方法が採用されている。
【0003】
従来の現像装置の主要な構成としては、トナーを感光体に現像するための現像ローラと、現像ローラに対するトナーの供給と剥ぎ取りを行う供給ローラと、供給ローラから現像ローラに供給されたトナーを所定量に規制しつつ、帯電させるトナー層規制ブレード(以下ブレードと記載)から成っている。
【0004】
層規制後のトナー層を安定化するためには、現像ローラで搬送するトナー量の安定化が不可欠である。現像ローラ表面に均一な凹凸部を設けることで、ここにトナーを均一に留まらせて搬送することが出来る。この凹凸部を形成するためには、現像ローラ表面をサンドブラスト処理する手法が一般的である。サンドブラスト処理は、砂などの研磨剤を吹き付けてその表面に凹凸を形成する加工方法である。
【0005】
一般に、現像ローラとしては安価なアルミを主成分とした材質を用いることが多い。アルミをサンドブラスト処理したものを現像ローラに用いた場合、アルミは硬度が低いため、現像ローラ表面がトナーの外添剤等によって表面が磨耗しやすく、徐々にトナーの搬送性が悪化する現象が見られる。この磨耗を防ぐために、例えば、特許文献1には、サンドブラスト処理したアルミ製の現像ローラ表面を陽極酸化処理した現像ローラが開示されている。
【0006】
図13は該文献に示された現像ローラ140の一部を切り欠いた正面図である。現像ローラ140は、マグネットローラ141上に現像スリーブ142が被覆されている。現像スリーブ142はアルミ製であり、その表面に十点平均粗さでRz=40μmのサンドブラスト処理が施され、さらにその表面に膜厚3μmの陽極酸化処理が施されている。アルミに対して陽極酸化処理を行うと、表面が硬化するため、ブレードや感光体ドラムとの小さなギャップにより摩擦力が大きくなっても、現像ローラの磨耗が少なく、トナーの保持力が長期にわたって維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−166902号公報(平成9年6月24日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アルミに対して陽極酸化処理を行うと、アルミ中に酸素が入り込むために体積が増加する。このため、サンドブラスト処理した、初期のアルミの形状をそのまま保つことができず、なだらかになる。表面がなだらかになると、トナーが表面に滞留しづらくなり、搬送性が悪化する。これを解消するために、あらかじめ、初期のサンドブラストによる表面粗さを大きくしておくことになる。特許文献1に示されるように、表面粗さを十点平均粗さRz=40μmと大きくした上で、例えば、膜厚3μmの陽極酸化膜を形成しても、わずか3μmの表面粗さ変化なので表面粗さ全体には大きな影響を与えない。このため、初期のアルミ形状を保つことが出来る。
【0009】
一方、現像ローラの表面粗さと、ブレードを通過するトナー量には相関がある。図14は、ブレード圧が一定の場合における、現像ローラの表面粗さとブレード通過後のトナー量との関係を示している。図14(a)における縦軸はトナー量、横軸は十点平均粗さRz、図14(b)における縦軸はトナー量、横軸は算術平均粗さRaを示す。図に示されるように、十点平均粗さRz、算術平均粗さRaいずれの算出方法によっても、現像ローラの表面粗さが大きいと現像ローラで搬送するトナー量が非常に多くなることがわかる。このため、現像ローラの表面粗さが大きくなると、それに合わせてブレードの押圧力も大きくしなければならない。
【0010】
しかしながら、ブレードでの押圧力は、トナーの劣化を考慮すると、できるだけ小さく抑えることが望ましい。ブレードでの押圧力が大きいと、トナーの外添剤がはがれたり、あるいは外添剤がトナー内部に入り込んだりするため、トナー同士の吸着、硬化の原因となる。したがって、現像ローラの表面粗さをあまり大きくすることは、ブレードの押圧力が必要になり、トナー劣化の観点から望ましくない。一般に、ブレード圧が低い領域では、十点平均粗さRzは少なくとも5μm以下に抑える必要があり、特許文献1で示されている十点平均粗さRz=40μmでは、トナー劣化を抑制するという観点からは大きすぎるという問題がある。
【0011】
さらに、サンドブラスト処理では現像ローラ表面に均一な凹凸を作るのが難しく、表面粗さをコントロールするのが難しいという課題もある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面が磨耗しにくく、かつ、陽極酸化後において十点平均粗さRz=5μm程度の理想的な表面粗さが得られ、精度よく作製できる現像ローラを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る現像ローラの製造方法は、現像ローラ表面に開口部を有するマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスク形成後、前記現像ローラ表面に陽極酸化処理を行う陽極酸化工程と、前記マスクを除去するマスク除去工程を含む。
【0014】
また、前記マスク除去工程の後に、前記現像ローラ表面に、陽極酸化処理を行ってもよい。また、前記マスク形成工程の前に、前記現像ローラ表面に陽極酸化処理を行ってもよい。また、前記現像ローラの製造方法は、少なくとも1回の陽極酸化処理を10℃以下の低温で行ってもよい。
【0015】
本発明に係る現像ローラは、表面に凸部を形成した現像ローラであって、前記凸部は、陽極酸化膜で形成されている。また、前記凸部は、前記現像ローラ表面に千鳥状に配置されてもよい。
【0016】
また、前記現像ローラ表面が陽極酸化膜で覆われていてもよい。また、前記凸部の間隔がトナーの平均粒径よりも小さい構成としてもよい。また、前記現像ローラは、アルミを主成分としてもよい。
【0017】
本発明に係る現像装置は、上記のいずれかに記載の現像ローラを備える。
【0018】
本発明に係る画像形成装置は、上記の現像装置を備える。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、表面が磨耗しにくく、かつ、表面粗さが小さく、精度の高い現像ローラを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施形態に係る画像形成装置の構成を示す概略図である。
【図2】現像装置の構成を示す概略図である。
【図3】実施形態1に係る現像ローラ2の断面図である。
【図4】実施形態1に係る陽極酸化膜の作成工程を示す概略図である
【図5】現像ローラの表面に形成されたマスクパターンの一例である。
【図6】陽極酸化膜厚と液温の関係について示した図である。
【図7】陽極酸化膜厚と液温の関係の計算方法を説明する図である。
【図8】陽極酸化膜厚と液温の関係の計算結果を示す図である。
【図9】現像ローラの表面に形成されたマスクパターンの一例である。
【図10】実施形態2の現像ローラの断面図を示す。
【図11】実施形態2に係る陽極酸化膜の作成工程を示す概略図である。
【図12】実施形態3に係る陽極酸化膜の作成工程を示す概略図である。
【図13】従来の現像ローラの概略図である。
【図14】現像ローラの表面粗さとブレード通過後のトナー量との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図1〜図12を用いて以下に説明する。なお、本発明の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表わすものとする。
【0022】
図1は、本発明の実施形態である画像形成装置100の構成を示す概略図である。なお、図1は、画像形成装置100の主な構成要素を中心に簡略化して記載された一例である。画像形成装置100は、静電潜像担持体となる感光体51を複数備えるタンデム方式のカラー画像形成装置である。本実施形態に示す画像形成装置100は、イエロー画像用、マゼンタ画像用、シアン画像用、および黒色画像用の4つの感光体を備え、ネットワークを介して接続されたPC(Personal Computer)等の各種端末装置から送信される画像データや、スキャナ等の原稿読み取り装置によって読み取られた画像データに基づいて、被転写材となる用紙Pに対して、カラー画像またはモノクロ画像を形成するプリンタ機能を有するものである。
【0023】
画像形成装置100は、図1に示すように、用紙Pにトナー画像を形成する機能を有する画像形成ステーション部50(50Y、50M、50C、50B)、当該画像形成ステーション部50で用紙Pに形成されたトナー像を定着させる機能を有する定着装置40、用紙Pを載置する供給トレイ60から画像形成ステーション部50および定着装置40へと用紙Pを搬送する機能を有する搬送部30を備えている。
【0024】
画像形成ステーション部50は、4つの画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bから構成されている。具体的には、供給トレイ60と定着装置40との間において、供給トレイ60側から、イエロー画像形成ステーション50Y、マゼンタ画像形成ステーション50M、シアン画像形成ステーション50C、および黒色画像形成ステーション50Bがこの順に配置されている。これら各色の画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bは、それぞれ、使用するトナーの種類以外は、実質的に同一の構成を有しており、各色に対応する画像データに基づいて、イエロー、マゼンタ、シアン、および黒色のトナー画像を形成して、最終的に記録媒体となる用紙P上に転写するものである。
【0025】
次に、図1における各画像形成ステーションの構成部品について、イエロー画像用の画像形成ステーション50Yを代表として説明する。画像形成ステーション50Yは、静電潜像が形成される潜像担持体となる感光体51を備え、これらの感光体51の周囲には、周方向に帯電装置52、露光装置53、現像装置1、転写ローラ54、およびクリーニング装置55がそれぞれ配置されている。
【0026】
感光体51は、OPC(Organic Photoconductor;有機光導電体)等の感光性材料を表面に有する略円筒のドラム形状を呈し、露光装置53の下方に配設され、駆動手段と制御手段によって、所定方向(図中矢印F方向)に回転駆動されるように制御されている。
【0027】
帯電装置52は、感光体51の表面を所定の電位に均一に帯電するための帯電手段であって、感光体51の上方でその外周面に近接して配置されている。本実施の形態では、接触型のローラ方式の帯電ローラが使用されているが、チャージャー型やブラシ方式、イオン放出帯電方式等の帯電装置を用いてもよい。
【0028】
露光装置53は、画像処理部から出力された画像データに基づいて、帯電装置52にて帯電された感光体51の表面に、レーザ光を照射して露光することにより、当該表面に画像データに応じた静電潜像を書き込む機能を有する。露光装置53は、各画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bに応じて、イエロー、マゼンタ、シアン、または黒色にそれぞれ対応する画像データが入力されることにより、対応する色に応じた静電潜像をそれぞれ形成する。露光装置53としては、レーザ照射部および反射ミラーを備えたレーザスキャニングユニットや、例えば書き込みヘッドのような、ELやLED等の発光素子をアレイ状に並べた書込み装置を使用することができる。
【0029】
現像装置1は、現像ローラ、供給ローラ及びブレードから成っている。詳細は後述するが、この現像装置1は、本実施の形態では、現像剤としてトナーを使用する、いわゆる一成分現像装置であり、露光装置53によって感光体51表面に形成された静電潜像を現像してトナー画像(可視像)を形成する。
【0030】
転写ローラ54は、感光体51上に形成されたトナー像を搬送ベルト33にて搬送される用紙P表面に転写するものであり、トナーの帯電極性とは、逆極性、すなわち本実施形態では、正(プラス)極性のバイアス電圧が印加される。
【0031】
クリーニング装置55は、用紙Pへのトナー画像転写後に、感光体51の外周面上に残存しているトナーを除去および回収する。本実施形態では、感光体51を挟んで現像装置1と略対向する位置で、かつ感光体51の側方に配置されている。
【0032】
搬送部30は、駆動ローラ31、従動ローラ32、および搬送ベルト33を備え、各画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bにおいて、各色のトナー像が転写される用紙Pを搬送する。搬送部30は、無端状の搬送ベルト33が駆動ローラ31と従動ローラ32との間に張架された構成となっており、供給トレイ60から給紙された用紙Pを各画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bへと順に搬送する。
【0033】
定着装置40は、加熱ローラ41および加圧ローラ42を備え、これらが当接する定着ニップ部に用紙Pを搬送することで、用紙P上に転写されたトナー像を熱圧着して用紙Pに定着させる。
【0034】
このように構成された画像形成装置100では、搬送部30によって搬送される用紙Pは、各画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bの感光体51との対向位置を通過する際に、それら対向位置において、搬送ベルト33を介して下方に配置された転写ローラ54による転写電界の作用にて、各感光体51上のトナー像が順次用紙P上に転写される。これによって、各色のトナー像が用紙P上に重なり合うように転写され、用紙P上に所望のフルカラートナー像が形成される。こうしてトナー像が転写された用紙Pは、定着装置40によってトナー像の定着処理が行われた後に、排紙トレイに送出される。
【0035】
なお、本実施形態の画像形成ステーション部50では、イエロー、マゼンタ、シアン、および黒色の4色の画像を形成する構成であるが、特にこれら4色に限定せず、例えばシアンおよびマゼンタと同一の色相で濃度がより低いライトシアン(LC)およびライトマゼンタ(Lm)を加えた6色のトナー画像を形成する構成であっても良い。
【0036】
図2は、図1に示す画像形成ステーション部50が備える現像装置1の構成を示す概略図である。現像装置1は、トナーを感光体51に現像するための現像ローラ2と、現像ローラ2に対するトナーの供給と剥ぎ取りを行う供給ローラ3と、供給ローラ3から現像ローラ2に供給されたトナーを所定量に規制しつつ帯電量を付加するブレード4から成っている。
【0037】
現像ローラ2は、感光体51と近接し、トナーが感光体51へと移動する現像領域へと現像剤を搬送するように構成される。また、現像ローラ2は感光体51との現像ギャップを保持しており、現像ギャップはギャップ保持部材(図示せず)で150〜500μmに調整されている。現像ローラ2には表面の一部に陽極酸化膜が形成されている。現像ローラ2の表面処理については後に詳述する。
【0038】
また、現像ローラ2には、DC電圧またはDC電圧に重畳したAC電圧が印加されている。現像ローラ2とブレード4は同じバイアス電圧を印加することが多い。なお、供給ローラ3には現像ローラ2と同じバイアス電圧を印加する場合と、供給ローラ3から現像ローラ2にトナーが移行しやすいように50Vから200V程度の直流電位差を設ける場合がある。
【0039】
供給ローラ3は、現像ローラ2とニップ部で接触している。供給ローラ3はウレタンゴム等で構成され、現像ローラ2とのニップ部の食い込み量は0.2〜1.0mmである。感光体51の回転方向に対して、現像ローラ2と供給ローラ3は回転方向が逆に設定されている。図示していないが、トナーを撹拌し、供給ローラ2までトナーを搬送するトナー撹拌ローラがある。
【0040】
ブレード4は、金属製のプレート4aの先端部にウレタン等のゴム部材4bが取り付けられた構成になっている。プレート4aはリン青銅製で厚さ0.1〜0.2mm、先端部のゴム部材4bは厚さ1〜2mm程度の弾性ゴムから成っている。
【0041】
トナーは、平均体積粒径6〜9μmのポリエステルトナーであって、外添材として、シリカが3.0wt%、酸化チタンが0.5〜2.0wt%がそれぞれ添加されている。供給ローラ3に搬送されたトナーは、ニップ部で現像ローラと摺擦、帯電され、現像ローラへくみ上げられトナー層が形成される。次にトナーはブレード4のゴム層を通過する際に、ブレード4からの圧力で層規制されると同時に再度帯電される。ブレード4を通過したトナーは、現像ローラ2に印加された電圧と感光体51上の潜像電位に応じて感光体51に現像が行われ、潜像が可視化される。
【0042】
現像装置1には、各画像形成ステーション50Y、50M、50C、50Bの画像形成に応じて、イエロー、マゼンタ、シアン、または黒色の現像剤が収容されている。これらの現像剤は、帯電された感光体51の表面電位と同極性に帯電されたトナーを含んでいる。なお、感光体51の表面電位の極性および使用するトナーの帯電極性は、正負を問わないが、本実施形態では負(マイナス)とした。
【0043】
<実施形態1>
図3は、本実施形態における現像ローラ2の概略断面図である。現像ローラ2の表面の少なくとも一部には陽極酸化膜21が形成されている。陽極酸化処理を行うと、金属部に酸素が入り込むため、陽極酸化された部分は体積が増加する。このため、陽極酸化された部分と陽極酸化されていない部分で凹凸が形成される。以下、陽極酸化膜21の形成方法について説明する。
【0044】
図4は、実施形態1に係る陽極酸化膜の作製工程を示す概略図である。まず、図4(a)に示すように、アルミ製の現像ローラ2の表面に、レジストを塗布し、厚み1〜2μm程度のマスク22を形成する。なお、現像ローラ2の内部は、中空になっていてもよい。現像ローラ2の材質としては一般に安価なアルミニウムが用いられる。本実施形態でも、現像ローラ2にアルミを用いているが、陽極酸化膜を形成可能であって、その膜が硬化し、磨耗しにくくなる材料であればどのようなものでも構わない。
【0045】
次に、図4(b)に示すように、陽極酸化処理を行う。陽極酸化処理は、処理浴として希硫酸やシュウ酸などを用い、現像ローラ2のアルミニウム材を陽極として電気分解することにより行う。この処理により、アルミニウムの表面は電気化学的に酸化され、陽極酸化膜21が生成される。
【0046】
最後に、図4(c)に示すように、陽極酸化処理終了後、レジスト剥離液を用いてマスク22を除去する。陽極酸化処理を行うことにより、凸部が硬質の陽極酸化膜21で形成されるので、トナーによる現像ローラ2表面の磨耗や削れが少なくなり、トナーの搬送性の低下を抑えることができる。
【0047】
図5は、現像ローラ2の表面に形成されたマスクパターンの一例である。マスク22の形状および配置については、図5に示すように、マスク22の幅WがトナーTの平均粒径Dよりも小さくなるようにすることが望ましい。マスク22が形成された部分は陽極酸化されず、表面が凹部となる。この凹部がトナーの平均粒径より大きいと、トナーが凹部に入り込んでブレードに押されることにより融着し、硬化し、現像ローラ2の劣化の原因となるためである。
【0048】
また、現像ローラ2の表面において、表面凹凸のピッチが大きくなると、トナーの分散が疎な箇所が発生しやすい。トナーの分散が疎な部分があると、現像量が少なくなり、その領域は出力画像の濃度が薄くなるため、濃度の濃淡ムラが出やすくなってしまう。マスク22の幅WがトナーTの平均粒径Dよりも小さくなるようなマスクパターンを形成することにより、現像ローラ上に密にトナー層が形成され、トナーが疎なところの発生を防ぐという効果も期待できる。
【0049】
次に、陽極酸化条件について検討を行った。本発明では、陽極酸化後に体積が増加することを利用して、現像ローラ2の表面に凹凸を形成するので、体積が増えやすい陽極酸化条件が望ましい。陽極酸化膜の体積の増加は、アルミニウムが処理浴中に溶け出す割合に関係する。そこで、陽極酸化膜の体積の増加について検討を行った。
【0050】
図6(a)は、アルミニウム表面にマスクを施さず、シュウ酸3%の処理浴中で、液温を変化させ、陽極酸化処理を行ったときの陽極酸化膜厚dを示している。処理条件としては、電流密度5mA/cm、酸化時間は20分固定とした。液温が高いと、酸化膜厚はやや減少するが、さほど大きな変化は見られない。図6(b)は、アルミニウム表面の一部をマスクして陽極酸化処理を行い、酸化した箇所と酸化していない箇所の段差、つまり凸部高さHを調べた結果である。処理条件は、図6(a)と同じである。液温による高さHの変化量は、陽極酸化膜の厚さdの変化量よりも大きくなっていることがわかる。
【0051】
図6(a)、(b)の結果から、厚さ1のアルミニウムに対して、陽極酸化膜がどれだけの厚さに膨張したかを計算で求めた。図7を用いて具体的な計算方法を説明する。
【0052】
図7は、現像ローラ2の表面の陽極酸化処理を行った模式図である。図7(a)に示すように、レジストを塗布してマスク22を形成し、その後、陽極酸化膜21を形成する。次に、図7(b)に示すようにレジストを除去する。ここで、陽極酸化膜厚をd、現像ローラ2の表面からの凸部の高さをHとすると、d−Hにより、この陽極酸化膜21形成のために使用されたアルミニウムの厚さが算出される。これを1とし、陽極酸化膜21がどれだけの厚さに膜厚膨張したかを以下の式(1)で算出した。
【0053】
膜厚膨張率=d/(d−H)・・・(1)
図8に、上記の式(1)により算出された結果を示す。液温が高くなると、膜厚膨張の割合が小さくなっている。この結果から、液温が高くなるとアルミニウムの溶出量が増えるために、陽極酸化による膜厚があまり増加しないことがわかる。
【0054】
本発明では、陽極酸化膜の体積増加が重要な要素になることから、低温での陽極酸化が適していると言える。低温で陽極酸化処理を行うと、アルミニウムの溶出は非常に少なく、酸素がアルミニウム中に入り込む分だけ体積が増加する。液温としてはおおむね0℃〜10℃で陽極酸化を行うことが望ましく、この条件で行えば、表面凹凸を大きくすることができる。本実形態では、シュウ酸3%、液温10℃の処理浴中で、電流密度5mA/cm、酸化時間は20分固定として、陽極酸化を行い、十点平均粗さRzが約2μmの表面粗さを形成することができた。さらに、酸化時間を変えることによって膜厚膨張率を調整することが可能なので、所望の十点平均粗さRzを得るためには、現像ローラ2の表面からの凸部の高さHは、処理時間で調整すれば良い。
【0055】
なお、マスクパターンについては種々のパターンが用いられる。図9は、現像ローラ2の表面に形成されたマスクパターンの一例を示す平面図である。図9(a)に示すように、陽極酸化される部分が略円形でもよいし、図9(b)に示すように、略平行四辺形、あるいは図9(c)に示すようにストライブ状でも構わない。また、陽極酸化される部分は、縦横に規則正しく並ぶ必要は無く、ランダムに配置されるようなマスクパターンでも構わないが、前述の図5や、図9(a)、(b)のように、陽極酸化パターンが千鳥状に配置されるのが好ましい。現像ローラ2の回転により、トナー搬送ムラが少なくなるためである。また、いずれの場合でも、上述同様にマスク22の幅がトナーTの平均粒径よりも小さいことが望ましい。
【0056】
このようにマスクパターンの形状及び分布を変えることにより、トナーの粒径、形状に適合した最適な表面形状を細かく設定することができるので、精度の高い理想的な現像ローラ2を作製することが可能となる。
【0057】
<実施形態2>
次に、実施形態2について説明する。本実施形態では、現像ローラ2の表面全体が陽極酸化膜で覆われている点が実施形態1とは異なる。
【0058】
図10に、本実施形態の現像ローラ2の表面部分の断面図を示す。陽極酸化膜の厚い部分21aと陽極酸化膜の薄い部分21bから成っている。実施形態1のように陽極酸化膜がある部分とアルミが露出した部分があると、水平方向に電界が生じ、現像電界によるトナーの飛翔性を落とす要因になる可能性がある。このために、アルミが露出した部分に薄い陽極酸化膜を形成するようにしている。つまり、現像ローラ2の表面において、凸部の陽極酸化膜が厚く、凹部の陽極酸化膜が薄い構成になっている。
【0059】
図11を用いて、本実施形態の現像ローラ2の陽極酸化膜の作製方法について説明する。まず、図11(a)に示すように、アルミニウムの表面にレジストを塗布し、マスク22を形成する。次に、図11(b)に示すように、実施形態1と同様の方法で、陽極酸化処理を行う。次に、図11(c)に示すように陽極酸化処理終了後、レジスト剥離液を用いてマスクを除去する。最後に、図11(d)に示すように、全面に再度陽極酸化処理を行う。このときの条件は、例えば、シュウ酸3%、液温10℃の処理浴中で、電流密度は5mA/cm2、酸化時間は5分である。これにより、厚み1.3μmの陽極酸化膜21が形成される。最終的に、陽極酸化膜の厚い部分は厚み6.0μm、薄い部分は1.3μm、段差は1.8μmとなる。なお、既に陽極酸化されていた部分は絶縁部となるので、やや酸化が進みにくい。本実施形態では、凹凸の凹部の方も陽極酸化するため、最初に形成したマスク開口部の陽極酸化膜によって形成された段差は若干小さくなるので、1回目の陽極酸化処理はその分を考慮して条件を決める必要がある。
【0060】
このように、現像ローラ2表面を陽極酸化膜の厚い部分と陽極酸化膜の薄い部分で覆うことにより、現像電界によるトナーの飛翔性の低下を防ぐことが出来る。また、陽極酸化処理により、表面が硬質の陽極酸化膜21で形成されるので、トナーによる現像ローラ2表面の磨耗や削れが少なくなり、トナーの搬送性の低下を抑えることができる。
【0061】
<実施形態3>
次に実施形態3について説明する。本実施形態では、現像ローラ2の表面の形状は実施形態2と同じであり、作製方法が異なる。
【0062】
図12は、本実施形態の現像ローラ2の陽極酸化膜21の作製方法を示す概略図である。まず、図12(a)に示すように、現像ローラ2の表面全面に陽極酸化処理を行う。このときの条件は、例えば、シュウ酸3%の10℃の処理浴中で、電流密度は5mA/cm、酸化時間は5分である。これにより、厚み1.3μmの陽極酸化膜21が形成される。次に、図12(b)に示すように、図12(a)で形成された陽極酸化膜上に、レジストを塗布し、マスク22を形成する。次に図12(c)に示すように、陽極酸化処理を行う。ここで、マスクの開口部の陽極酸化処理を行う。このときの条件は、例えば、シュウ酸3%の10℃の処理浴中で、電流密度は5mA/cm、酸化時間は20分である。この工程により、マスク開口部とマスク被覆部分に十点平均粗さRzが約2μmの表面粗さが生じる。最後に、図12(d)に示すように、レジスト等の剥離液を用いてマスク22を除去する。
【0063】
実施形態2、3に示すように、現像ローラ2表面を陽極酸化膜の厚い部分と陽極酸化膜の薄い部分で覆うことにより、現像電界によるトナーの飛翔性の低下を防ぐことが出来る。
【0064】
なお、上記それぞれの実施形態においては1成分現像を例として説明したが、2成分用の現像ローラの場合にも現像剤搬送量安定化を目的として使用することができることは言うまでも無い。
【0065】
以上説明したように、本発明の現像ローラを用いることで、長期的にトナー搬送量が安定した現像装置を提供することができる。また、本現像装置を用いることで、トナー搬送量低下に伴う濃度低下のない、濃度安定性に優れた画像形成装置を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明に係る現像ローラ及びその製造方法は、電子写真方式を利用した複写機、プリンタ、ファクシミリ、それらの複合機等の画像形成装置に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 現像装置
2 現像ローラ
3 供給ローラ
4 ブレード
4a プレート
4b ゴム部材
21、21a、21b 陽極酸化膜
22 マスク
30 搬送部
31 駆動ローラ
32 従動ローラ
33 搬送ベルト
40 定着装置
41 加熱ローラ
42 加圧ローラ
50B、50C、50M、50Y 画像形成ステーション
51 感光体
52 帯電装置
53 露光装置
54 転写ローラ
55 クリーニング装置
60 供給トレイ
100 画像形成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現像ローラ表面に開口部を有するマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスク形成後、前記現像ローラ表面に陽極酸化処理を行う陽極酸化工程と、
前記マスクを除去するマスク除去工程を含む現像ローラの製造方法。
【請求項2】
前記マスク除去工程の後に、前記現像ローラ表面に陽極酸化処理を行う請求項1記載の現像ローラの製造方法。
【請求項3】
前記マスク形成工程の前に、前記現像ローラ表面に陽極酸化処理を行う請求項1記載の現像ローラの製造方法。
【請求項4】
少なくとも1回の陽極酸化処理を10℃以下の低温で行う請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の現像ローラの製造方法。
【請求項5】
表面に凸部を形成した現像ローラであって、
前記凸部は、陽極酸化膜で形成されている現像ローラ。
【請求項6】
前記凸部は、前記現像ローラ表面に千鳥状に配置される請求項5記載の現像ローラ。
【請求項7】
前記現像ローラ表面が陽極酸化膜で覆われている請求項5または請求項6記載の現像ローラ。
【請求項8】
前記凸部の間隔がトナーの平均粒径よりも小さい請求項5ないし請求項7のいずれかに記載の現像ローラ。
【請求項9】
前記現像ローラは、アルミを主成分とする請求項5ないし請求項8のいずれかに記載の現像ローラ。
【請求項10】
請求項5ないし請求項9のいずれかに記載の現像ローラを備えた現像装置。
【請求項11】
請求項10記載の現像装置を備えた画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−57796(P2013−57796A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195913(P2011−195913)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】