説明

現像剤担持体、電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置

【課題】高画質と画像耐久性に優れ、更に苛酷な高温高湿環境下に長期にわたって放置した場合であっても、安定して均一な画像を出力するための現像ローラ及び現像ローラを用いたプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供する。
【解決手段】軸芯体、弾性層および弾性層の表面を被覆している表面層を有する現像ローラであって、表面層はウレタン樹脂を含み、ウレタン樹脂は、隣接する2つのウレタン結合の間に、特定のポリエーテル構造、および特定のポリエーテルポリエステル構造の少なくとも一方の構造を有し、かつ、表面層に、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分が、80%以上である、ポリウレタン樹脂粒子を含有することを特徴とする現像ローラ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置に用いられる現像剤担持体、電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置においては、感光体(ドラム)が帯電手段により帯電され、レーザーによりドラム上に静電潜像が形成される。次に、現像容器内の現像剤(トナー)が現像剤担持体によって搬送され、ドラムと現像剤担持体との近接部でドラム上の静電潜像はトナーによって現像される。その後、ドラム上のトナーは、転写手段により記録紙に転写され、熱と圧力によって定着される。このような現像法に用いられる現像剤担持体の一つとして、金属の芯体の周囲に弾性層を設け、その上に必要に応じて単層または複数の表面層を形成した構成の現像剤担持体が挙げられる。
【0003】
近年、出力画像の再現性・均一性に対する要求は、より高度なものとなり、この中で、現像剤担持体には、トナー搬送性が、高度に安定することが要求される。このために、様々な環境に、長期間にわたって放置した場合であっても、現像剤担持体のトナー搬送能力を損なわないことが必要とされる。
【0004】
特に、高温高湿環境下では、現像剤担持体の表面の粘着性が増大する場合がある。この場合、現像剤担持体の表面に接触していたトナーが、当該表面に固着し、現像剤担持体のトナー搬送能力が不均一となり、最終的に形成される電子写真画像に欠陥を生じさせることがある。
【0005】
特許文献1では、ローラ表面に、特定の組成からなるポリテトラメチレングリコール系のポリウレタンを含有させ、各温湿度環境下での弊害を抑制する方法が報告されている。
【0006】
また特許文献2では、柔軟なポリウレタン樹脂粒子を含む表面層を有するローラの、長期使用による、表面粗度の変化を抑制するための対策方法が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−141192号公報
【特許文献2】特開2009−116009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
現像剤担持体の表面には、トナー搬送性の安定化のため、高分子樹脂粒子が添加されている場合がある。また現像剤担持体は、通常、トナーを均一に搬送するための規制部材(規制ブレード)から圧力を受けている状態にある。そのため、規制ブレードから加わる外力によって、規制ブレード当接部に位置する現像剤担持体の表面の樹脂粒子が変形し、現像剤担持体と規制ブレードとの当接部における現像剤担持体の表面の粗さが、所定の値から低下することによって、電子写真画像の品位が損なわれる場合がある。
【0009】
特許文献1では、各温湿度環境下での弊害を抑制する方法が報告されている。しかしながら、該文献で開示されたポリウレタン樹脂を用いても、規制ブレード当接部の、樹脂粒子変形による、ローラ表面粗度の局所的な低下に対しては十分とは言えず、長期放置後に、均一な画像を出力することができない場合がある。また特許文献2で開示されたポリウレタン樹脂粒子を用いても、各温湿度環境下での弊害を抑制できない可能性があり、特に、ローラ表面粗度の局所的な低下に対しては十分に改善できるものではなかった。
【0010】
本発明の目的は、苛酷な高温高湿環境下に長期にわたって放置した場合であっても、安定して均一な画像を出力するための現像剤担持体を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、高品位な電子写真画像を安定的に形成することのできる電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記目的にかなう現像ローラを提供するため鋭意研究、検討を重ね本発明に至った。
すなわち、本発明によれば、軸芯体、弾性層および該弾性層の表面を被覆している表面層を有し、該表面層はウレタン樹脂を含み、該ウレタン樹脂は、隣接する2つのウレタン結合の間に、下記A)およびB)の少なくとも一方の構造を有し、
A)下記構造式(1)で示される構造、および、下記構造式(2)で示される構造および下記構造式(3)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも一方の構造、
B)下記構造式(4)で示される構造、
かつ、該表面層に、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分が、80%以上である、ポリウレタン樹脂粒子を含有する現像ローラを得られる:
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】


【0012】
また、本発明によれば、上記の現像ローラが現像部材として装着されてなり、静電潜像が形成されるドラムと、ドラム上の静電潜像を現像する現像部材とを具備し、電子写真画像形成装置の本体に脱着可能な電子写真プロセスカートリッジが得られる。
【0013】
さらに本発明によれば、静電潜像が形成されるドラムと、ドラム上の静電潜像を現像する現像部材とを具備し、該現像部材が上記の現像ローラである電子写真画像形成装置が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、苛酷な高温高湿環境下に長期にわたって放置した場合であっても、安定して均一な画像を出力することができる。また、本発明に係る現像ローラを用いることで、高品位な電子写真プロセスカートリッジ、及び電子写真画像形成装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の現像ローラの一例を示す概念図である。
【図2】本発明の電子写真プロセスカートリッジの一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の電子写真画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
【図4】液循環型浸漬塗工装置の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の現像ローラは、図1に示すように、軸芯体2の外周面に弾性層3が設けられ、この弾性層3の表面に表面層4が被覆された構成を有する。
【0017】
<軸芯体>
軸芯体2は、電極および支持部材として機能するもので、例えばアルミニウム、銅合金、ステンレス鋼の如き金属または合金;クロム、またはニッケルで鍍金処理を施した鉄;導電性を有する合成樹脂の如き導電性の材質で構成される。軸芯体2の外径は、通常4〜10mmの範囲である。
【0018】
<弾性層>
弾性層3は、ドラム表面に形成された静電潜像にトナーを過不足なく供給することができるように、適切なニップ幅とニップ圧をもってドラムに押圧されるような硬度や弾性を、現像ローラに付与するものである。この弾性層は、通常ゴム材料の成型体により形成される。上記ゴム材としては、従来から導電性ゴムローラに用いられている種々のゴム材を用いることができる。ゴム材料に使用するゴムとしては、具体的には、エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム(EPDM)、アクリルニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、NBRの水素化物、多硫化ゴム、ウレタンゴム等のゴム材料を単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。この中でも、特にセット性能等の変形に対する安定性の観点からシリコーンゴムを用いることが好ましい。シリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン、これらポリシロキサンの共重合体等が挙げられる。
【0019】
弾性層3の厚さは1.0〜8.0mmの範囲にあることが好ましく、2.0〜5.0mmの範囲にあることがより好ましい。
【0020】
弾性層3は、複数の層で形成されて良く、また、軸芯体2と弾性層3との間、弾性層3と表面層4との間には中間層を設けて良く、さらに、表面層4の外周に他の樹脂層や保護層を1層以上積層させてもよい。
【0021】
弾性層3には、導電性付与剤、非導電性充填剤、架橋剤、触媒の如き各種添加剤が適宜配合される。導電性付与剤としてはカーボンブラック;アルミニウム、銅の如き導電性金属;酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタンの如き導電性金属酸化物の微粒子を用いることができる。なかでも、カーボンブラックは比較的低い添加量で良好な導電性が得られるので特に好ましい。導電性付与剤としてカーボンブラックを用いる場合は、ゴム材中のゴム100質量部に対して10〜80質量部配合されることがより好ましい。非導電性充填剤としては、シリカ、石英粉末、酸化チタン、酸化亜鉛または炭酸カルシウム等が挙げられる。架橋剤としては、ジ−t−ブチルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンまたはジクミルパーオキサイドが挙げられる。触媒としては、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒が挙げられ、特に、白金系触媒が好ましい。
【0022】
<表面層>
表面層4は、マトリックスをなすポリウレタン樹脂中に、ポリウレタン樹脂粒子が分散されている。
マトリックスを為すポリウレタン樹脂は、隣接する2つのウレタン結合の間に、下記A)、B)の少なくとも一方の構造を有するウレタン樹脂を含む:
A)下記構造式(1)で示される構造、および、下記構造式(2)で示される構造および下記構造式(3)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも一方の構造、
B)下記構造式(4)で示される構造:
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】


【0023】
<ポリウレタン樹脂粒子>
本発明に係る、ポリウレタン樹脂粒子は、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分が、80%以上である。
本発明に係る表面層には、トナー搬送性の安定化のため、高分子樹脂粒子としてポリウレタン樹脂の微粒子が添加される。ポリウレタン樹脂粒子は、他の高分子樹脂粒子に比較して、低温域まで高い柔軟性が発現されるという特徴がある。そのため、環境によらず、安定して均一なトナー搬送性能を持つ現像ローラを得る上で好適である。また、架橋型ポリウレタン樹脂粒子は、溶剤に侵されにくく、また膨潤しにくいため、安定な塗料を調製する上で優れている。ポリウレタン樹脂粒子は、体積平均粒径が3〜20μmであることが好ましい。本発明におけるポリウレタン樹脂粒子の体積平均粒径は、レーザー回折粒度分布測定装置[例えば、LA−750{堀場制作所(株)製}]、又は光散乱粒度分布測定装置[例えば、ELS−8000{大塚電子(株)製}]を用いて測定できる。また、表面層に添加する粒子添加量が、表面層の樹脂固形分100質量部に対し、1〜150質量部であることが好ましい。ポリウレタン樹脂粒子は、1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0024】
本発明に用いるポリウレタン樹脂粒子は、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分は、80%以上であり、好ましくは85%以上である。現像剤担持体は、通常、現像剤担持体に当接する規制ブレードの圧力を受けている状態にあるため、表面層に樹脂粒子を添加した場合、規制ブレードから加わる外力によって、規制ブレード当接部に位置する現像剤担持体の表面の樹脂粒子が変形すると考えられる。
しかしながら、表面層中の樹脂粒子として、押し込み仕事の弾性部分が、80%以上であるポリウレタン樹脂粒子を用いた場合、当該ポリウレタン樹脂粒子は、規制ブレードによって押圧され、圧縮・変形したとしても、規制ブレードによる押圧が解除されたときには、当該樹脂粒子は、元の形状に容易に回復する。
そのため、現像剤担持体の、規制ブレードと当接していない表面における表面粗度と、規制ブレードが当接していた表面における表面粗度との間に差が生じにくく、トナー搬送性能やトナーに対する帯電付与性にも差が生じにくくなる。
【0025】
これに対して、表面層中の樹脂粒子として、押し込み仕事の弾性部分が80%未満の樹脂粒子を用いた場合、当該樹脂粒子は、規制ブレードによって長期に亘って押圧され、圧縮変形した場合、規制ブレードによる押圧が解除された後も、元の形状には容易には回復しない。そのため、規制ブレードが当接していた現像剤担持体の表面には、周囲と比較して表面粗度が低くなることがある。すなわち、規制ブレードと当接していない部位の表面粗度と、規制ブレードと当接していた部位の表面粗度が、有意に異なり、それによってトナーの搬送性能やトナーに対する摩擦電荷の付与性能にばらつきが生じることとなる。
【0026】
ところで、ポリウレタン樹脂粒子は、一般に、Tgを低くすることにより、より低温域においても高い柔軟性を発現させることができるため、本発明においては、Tgの低いポリウレタン樹脂粒子を選択することが好ましい。
【0027】
Tgの低いポリウレタン樹脂粒子を得る方法としては、ポリウレタン樹脂粒子を合成する際に、ポリオール成分として、ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールを用いる方法が報告されている(特開2010−24319)。
本発明に係るポリエステル樹脂粒子としては、市販されているものの中から上記した特性を示すものを選択して用いることができる。具体的には、例えば、以下のものを挙げることができる。
・「アートパールP−800T」(商品名、根上工業社製)、
・「アートパールJB−800T」(商品名、根上工業社製)、
・「ダイナミックビーズUCN−5070D」(商品名、大日精化工業社製)、
・「ダイナミックビーズUCN−5150D」(商品名、大日精化工業社製)。
【0028】
また、本発明に係るポリエステル樹脂粒子は、公知のポリエステル樹脂粒子の製造方法を援用することによって製造することもできる。
ここで、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分が80%以上のポリエステル樹脂粒子を得るための1つの指針としては、ポリエステル樹脂粒子の損失正接(tanδ)の最大値の温度(以降、この温度をガラス転移温度(Tg)とする)をできるだけ低い温度とすることが挙げられる。そのためには、ポリエステル樹脂粒子の原料として、後述するポリウレタン樹脂粒子C−7及びC−8の合成において用いたような、数平均分子量が6000程度のポリオール(商品名:クラレポリオールP−6010、クラレ社製)等を用いることが有効である。
また、他の指針としては、ポリエステル樹脂粒子のtanδの損失弾性率の項の値を小さくすることが挙げられる。そのためには、例えば、ポリエステル樹脂粒子の原料として、後述するポリウレタン樹脂粒子C−5の合成において用いたような、3官能以上のポリオール(商品名:プラクセル320、ダイセル化学工業社製)等を用いることが有効である。
【0029】
<マトリクスポリマーとしてのポリウレタン樹脂>
本発明に係る表面層のマトリックスポリマーとして用いられるポリウレタン樹脂は、隣接する2つのウレタン結合の間に、下記A)、B)の少なくとも一方の構造を有するウレタン樹脂である。
A)構造式(1)で示される構造と、構造式(2)で示される構造および構造式(3)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも一方の構造、
B)構造式(4)で示される構造。
より具体的には、本発明に係るポリウレタン樹脂は、2つの隣接するウレタン結合の間に以下のような構造を有するものである。
(i)前記構造式(1)及び(2)で示される構造、
(ii)前記構造式(1)及び(3)で示される構造、
(iii)前記構造式(1)、(2)及び式(3)で示される構造、
(iv)前記構造式(1)、(2)及び(4)で示される構造、
(v)前記構造式(1)、(3)及び(4)で示される構造、
(vi)前記構造式(1)、(2)、(3)及び(4)で示される構造。
【0030】
このような構造を有するポリウレタン樹脂は、従来のポリウレタン樹脂に比べ、側鎖にメチル基が導入されたことにより、ポリウレタン樹脂として非常に低い極性を示すものである。そのため苛酷な高温高湿環境(例えば、温度40℃、相対湿度95%RH)においても、ローラ表面の著しい粘着性の上昇を抑えることができ、トナー固着による表面粗度異常に起因する、トナー搬送性の異常を防ぐことができる。
【0031】
さらに、ポリウレタン樹脂の側鎖に導入されたメチル基は、ポリウレタン樹脂の配向の規則性を下げ、特に低温環境下での結晶性が著しく低くなっている。そのため、このようなポリウレタン樹脂を含む表面層を具備する現像剤担持体は、例えば、温度0℃といった低温環境下においても柔軟であり、硬度が上昇し難い。その結果、前記した表面層中のポリウレタン樹脂粒子の、規制ブレードによる押圧が解除された後の形状の回復を妨げにくい。
更に、本発明に係るポリウレタンは、構造式(1)で示される構造よりも疎水性が高い構造式(2)〜式(4)で示される構造を分子内に有することにより、ウレタン樹脂自体の水との親和性が低下し、ウレタン樹脂としては比較的に低吸水性とすることが可能である。さらに高温域においては、構造式(2)、構造式(3)および構造式(4)で示される構造中の、側鎖としてのメチル基の存在により高温域での分子運動性が抑制される。そのため、本発明に係る現像ローラの表面は、高温高湿環境下においても粘着性が上昇しにくく、高温高湿環境下での現像ローラ表面へのトナーの固着を有効に抑制し得る。
【0032】
これに対して、マトリクスポリマーとして、一般的なポリウレタン樹脂を用いてなる現像剤担持体は、高温高湿環境において長期放置した後には、表面の粘着性が上昇し、現像剤担持体の表面にトナーが固着しやすくなる。その結果、現像剤担持体のトナー搬送性が不安定となり、高品位な電子写真画像が得られない場合がある。
【0033】
本発明においては、押し込み仕事の弾性部分が80%以上のポリウレタン樹脂粒子に加え、苛酷な高温高湿環境においても、ローラ表面の著しい粘着性の上昇が抑えられるマトリックスポリマーとして、隣接する2つのウレタン結合の間に、下記A)、B)の少なくとも一方の構造を有するウレタン樹脂を用いる。
A)構造式(1)で示される構造と、構造式(2)で示される構造および構造式(3)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも一方の構造、
B)構造式(4)で示される構造。
【0034】
これによって、高温高湿環境下に長期にわたって放置した場合においても、当接部におけるポリウレタン樹脂粒子の変形回復およびトナー固着によるトナー搬送性の異常を改善することが見込まれる。
【0035】
通常、ポリウレタン樹脂の合成は、以下の如き方法が用いられる。
・ポリオール成分とポリイソシアネート成分を混合、反応させるワンショット法、
・一部のポリオールとイソシアネートを反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーと、低分子ジオール、低分子トリオールの如き鎖延長剤とを反応させる方法。
【0036】
本発明に用いるポリウレタンマトリックスポリマーを形成するためのポリオール成分は必要に応じてあらかじめ2,4−トリレンジイソシアネート(TDI)、1,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)の如きイソシアネートにより鎖延長したプレポリマーとしてもよい。
【0037】
構造式(1)の構造と、構造式(2)および(3)から選ばれる少なくとも一つの構造または構造式(4)の構造以外の成分は、本発明の効果発現の観点から、ポリウレタン樹脂構造中で、20質量部以下の含有率とすることが好ましい。
【0038】
ポリオール成分と反応させるポリイソシアネート成分としては、特に限定されるものではないが、エチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)の如き脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサン1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン1,4−ジイソシアネートの如き脂環式ポリイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(p−MDI)、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートの如き芳香族イソシアネート及びこれらの共重合物やイソシアヌレート体、TMPアダクト体、ビウレット体、そのブロック体を用いることができる。
【0039】
この中でもトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネートの如き芳香族イソシアネートがより好適に用いられる。
【0040】
ポリオール成分と反応させるポリイソシアネート成分の混合比は、ポリオールの水酸基1.0に対してイソシアネート基の比率が1.2から4.0の範囲であることが好ましい。
【0041】
芳香族イソシアネートとウレタン結合同士の間に、構造式(1)の構造と、構造式(2)および(3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造を有するポリエーテル成分;または構造式(1)と、構造式(2)および(3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造と、構造式(4)の構造を有するポリエーテルポリエステル成分とを反応させて得られるポリウレタンは、柔軟かつ強度に優れ、高温高湿下で粘着性が低く、低温下で結晶性が上昇しにくい。さらに、このようにして得られたポリウレタンのTgは十分に低いため、環境変動による影響を受けにくく、出力される画像が、安定して均一となり、好適である。
【0042】
本発明の表面層に含まれるポリウレタンマトリックスポリマーのTgと、本発明の表面層に含まれるポリウレタン樹脂粒子のTgは、いずれも−50℃以下であることが好ましく、かつ、それらのTgの差は、10℃以内であることが好ましい。これは、Tgが−50℃以下であれば、表面層の、全体としての環境による弾性率変動が小さくなり、出力される画像が、高温環境下で出力した場合と、低温環境下で出力した場合においても、安定して均一な画像となることが期待されるからである。
【0043】
また、該ポリウレタンマトリックスポリマーのTgと、該ポリウレタン樹脂粒子のTgの差が、10℃以内の範囲であれば、両者の柔軟さが同程度になることが期待される。このため、表面層に含まれるポリウレタンマトリックスポリマーは、苛酷な低温環境においても、表面層に含まれるポリウレタン樹脂粒子の形状回復を、より阻害しないようになる可能性がある。さらに、ポリウレタンマトリックスポリマーとポリウレタン樹脂粒子の、界面剥離をも抑制できる可能性がある。
【0044】
表面層は導電性を有することが好ましい。導電性の付与手段としては、イオン導電剤や導電性微粒子の添加が挙げられるが、安価であり、抵抗の環境変動が少ない導電性微粒子が好適に用いられ、また導電性付与性と補強性の観点から、カーボンブラックが特に好ましい。該導電性微粒子の性状としては、一次粒子径18nm以上50nm以下、かつDBP吸油量が50ml/100g以上160ml/100g以下であるカーボンブラックであると、導電性、硬度、分散性のバランスが良好であり好ましい。
【0045】
前記カーボンブラックとしては、具体的には以下のものを挙げることができる。「ケッチェンブラック」(商品名、ライオン株式会社製)、アセチレンブラックの如き導電性カーボンブラック;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MTの如きゴム用カーボンブラック。その他、酸化処理を施したカラーインク用カーボンブラック、熱分解カーボンブラックを用いることができる。これらは1種又は2種以上を併用することができる。表面層に添加させるカーボンブラックの含有量は、表面層を形成する樹脂成分100質量部に対して10質量部以上30質量部以下であることが好ましい。
【0046】
前記カーボンブラックの他、使用可能な導電剤としては、以下のものを挙げることができる。天然若しくは、人造グラファイト;銅、ニッケル、鉄、アルミニウムの如き金属粉;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫の如き金属酸化物粉;ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレンの如き導電性高分子。これらは必要に応じて1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0047】
本発明のポリウレタン樹脂は、2つのウレタン結合の間には、構造式(1)の構造と、構造式(2)および(3)からなる群から選ばれる少なくとも一つの構造または構造式(4)の構造以外に、本発明の効果が損なわれない程度に必要に応じてポリプロピレングリコール、脂肪族ポリエステルを含有させてもよい。脂肪族ポリエステルとしては、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールの如きジオール成分、トリメチロールプロパンの如きトリオール成分と、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸等のジカルボン酸との縮合反応により得られる脂肪族ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0048】
表面層4には、本発明の効果が損なわれない程度に必要に応じて架橋剤、可塑剤、充填剤、増量剤、加硫剤、加硫助剤、架橋助剤、酸化防止剤、老化防止剤、加工助剤、レベリング剤を含有させることができる。
【0049】
表面層4の厚さは、1〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0050】
表面層4の形成方法として、塗料によるスプレー、浸漬、ロールコート等が挙げられるが、浸漬塗工、すなわち、特開昭57−5047号公報に記載されているような浸漬槽上端から塗料をオーバーフローさせる方法は、高分子樹脂層を形成する方法として簡便で生産安定性に優れ、一般的に利用されている。
【0051】
図4は浸漬塗工装置の概略図である。25は円筒形の浸漬槽であり、現像ローラ外径よりわずかに大きな内径を有し、現像ローラの軸方向の長さより大きな深さを有している。浸漬槽25の上縁外周には環状の液受け部が設けられており、撹拌タンク27と接続されている。また浸漬槽25の底部は撹拌タンク27と接続されている。撹拌タンク27の塗料は、液送ポンプ26によって浸漬槽25の底部に送り込まれる。浸漬槽の上端部からは、塗料がオーバーフローしており、浸漬槽25の上縁外周の液受け部を介して撹拌タンク27に戻る。弾性層3を設けた芯体2は昇降装置28に垂直に固定され、浸漬槽25中に浸漬し、引き上げることで表面層4を形成する。
【0052】
本発明の現像ローラは、磁性一成分現像剤や非磁性一成分現像剤を用いた非接触型現像装置及び接触型現像装置や、二成分現像剤を用いた現像装置等いずれにも適用することができる。
【0053】
本発明の電子写真プロセスカートリッジは、本発明の現像部材である現像ローラと当接して配置されている電子写真ドラムを具備し、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能に構成されている。また、本発明の電子写真画像形成装置は、本発明の現像ローラと当接して配置されている電子写真ドラムを具備している。本発明の電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置は、上記本発明の現像ローラを有するものであれば、複写機、ファクシミリ、又はプリンタに限定されるものではない。
【0054】
本発明に係る現像ローラを搭載した本発明の電子写真プロセスカートリッジ及び電子写真画像形成装置の一例として、非磁性一成分現像系プロセスを用いたプリンタを以下に説明する。図2において、現像装置10は、一成分トナーとして非磁性トナー8を収容した現像容器と、現像容器内の長手方向に延在する開口部に位置しドラム5と対向設置された現像ローラ1とを備え、ドラム上の静電潜像を現像してトナー像を形成する。
【0055】
図3に示すように、プリンタには図示しない回転機構により回転されるドラム5が備えられる。ドラム5の周りには、ドラム5の表面を所定の極性・電位に帯電させる帯電部材12と、帯電されたドラム5の表面に画像露光を行って静電潜像を形成する、不図示の画像露光装置とが配置される。更にドラム5の周りには、形成された静電潜像上にトナーを付着させて現像する本発明の現像ローラ1を有する現像装置10が配置される。さらに、紙22にトナー像を転写した後、ドラム上をクリーニングする装置13が設けられる。
【0056】
紙22の搬送経路上には、転写されたトナー像を紙22上に定着させる定着装置15が配置される。
【実施例】
【0057】
以下に本発明に係る具体的な実施例及び比較例について示す。
【0058】
[共重合体の分子量測定]
本実施例中における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)の測定に用いた装置、並びに条件は以下の通りである。
・測定機器:HLC−8120GPC(東ソ−社製)
・カラム:TSKgel SuperHZMM(東ソ−社製)×2本
・溶媒:THF(20mmol/L トリエチルアミン添加)
・温度:40℃
・THFの流速:0.6ml/min
なお測定サンプルは0.1質量%のTHF溶液とした。更に検出器としてRI(屈折率)検出器を用いて測定を行った。
検量線作成用の標準試料として、TSK標準ポリスチレンA−1000、A−2500、A−5000、F−1、F−2、F−4、F−10、F−20、F−40、F−80、F−128(東ソ−社製)を用いて検量線の作成を行った。これを基に得られた測定サンプルの保持時間から重量平均分子量を求めた。
【0059】
[ウレタン樹脂粒子の押し込み仕事の弾性部分の測定]
作製したポリウレタン樹脂粒子の押し込み仕事の弾性部分は、以下のように測定した。 すなわち、超微小押し込み硬さ試験機(商品名:ENT−1100a、エリオニクス社製)を用い、ISO14577−1に基づいて、温度は23±5℃、相対湿度は50%RH未満、荷重負荷および除荷時間は30秒、最大荷重における保持時間は30秒、押し込み速度は2μm/s以下の条件にて測定した。最大荷重は、0.1mNとした。
なお、後述する、C−1〜C−8に係るポリウレタン樹脂粒子の押し込み仕事の弾性部分の値は、C−1〜C−8の各々のポリウレタン樹脂粒子の10個について上記の測定を行って、得られた押し込み仕事の弾性部分の値の算術平均値である。なお、圧子としては、基部が三角形の角錐形を有し、稜間隔が115度のダイヤモンド圧子を用いた。
【0060】
[ポリウレタン樹脂粒子およびポリウレタンマトリックスポリマーのTgの測定]
ポリウレタン樹脂粒子およびポリウレタンマトリックスポリマーのTgは、示走査熱量計DSC8230L(商品名、リガク社製)を用い、ガラス転移が起こる温度範囲の中点をTgとした。
【0061】
[軸芯体の調製]
軸芯体として、SUS304製の直径6mmの芯金にプライマー(商品名、DY35−051;東レダウコーニング社製)を塗布、焼付けしたものを用意した。
【0062】
[弾性層の調製]
上記で用意した、軸芯体を金型内に配置し、以下の材料を混合した付加型シリコーンゴム組成物を金型内に形成されたキャビティに注入した。
【表1】

続いて、金型を加熱してシリコーンゴムを150℃、15分間加硫硬化し、脱型した後、さらに180℃、1時間加熱し硬化反応を完結させ、軸芯体の外周に直径12mmの弾性層を設けた。
【0063】
[表面層の調製]
以下に表面層を得るための合成例を示す。
(ポリエーテルジオール A−1)
反応容器内で、乾燥テトラヒドロフラン230.7g(3.2モル)、乾燥3−メチルテトラヒドロフラン68.9g(0.8モル)(モル混合比80/20)の混合物を、温度10℃に保持した。70%過塩素酸13.1g、及び無水酢酸120gを加え、2.5時間反応を行った。次に反応混合物を20%水酸化ナトリウム水溶液600g中に注ぎ、精製を行った。さらに減圧下残留する水及び溶媒成分を除去し、液状のポリエーテルジオールA−1 218gを得た。数平均分子量は2000であった。
【0064】
(水酸基末端ウレタンプレポリマー A−2 の合成)
窒素雰囲気下、反応容器中で、コスモネートMDI(商品名、三井化学社製)28.4質量部を、メチルエチルケトン50.0質量部に溶解した。次に、ポリエーテルジオールA−1 200.0gのメチルエチルケトン178.4質量部溶液を、反応容器内の温度を65℃に保持しつつ、徐々に滴下した。滴下終了後、温度75℃で3時間反応させた。得られた反応混合物を室温まで冷却し、水酸基末端ウレタンプレポリマー A−2 221gを得た。数平均分子量は15000であった。
【0065】
(ポリエーテルポリエステルジオール A−3)
ポリエーテルジオール A−1とクラレポリオールP−2010(商品名、クラレ社製)の質量比50/50の混合物をポリエーテルポリエステルジオール A−3 として用いた。
【0066】
(ポリエステルジオール A−4)
クラレポリオールP−2010を用いた。
【0067】
(ポリエーテルジオールA−5)
PTG2000(商品名、保土谷化学工業社製)を用いた。
【0068】
(ポリエーテルジオール A−6 の合成)
反応容器中で、乾燥3−メチルテトラヒドロフラン172.2g(4モル)を、温度10℃に保持した。70%過塩素酸13.1g、及び無水酢酸120gを加え、2.5時間反応を行った。次に反応混合物を20%水酸化ナトリウム水溶液600g中に注ぎ、精製を行った。さらに減圧下残留する水及び溶媒成分を除去し、液状のポリエーテルジオールA−6 152gを得た。数平均分子量は2000であった。
【0069】
(ポリエステルジオール A−7 の合成)
反応容器中で、乾燥ブタンジオール90.1g(1モル)、乾燥アジピン酸146.1g(1モル)を、温度200℃に保持し、1時間撹拌した。次に減圧下残留する水及び溶媒成分を除去し、液状のポリエーテルジオールA−7 176gを得た。数平均分子量は2000であった。
【0070】
(イソシアネート基末端プレポリマー B−1)
コロネート2030(商品名、日本ポリウレタン工業社製)を使用した。
【0071】
(イソシアネート基末端プレポリマー B−2 の合成)
窒素雰囲気下、反応容器中でトリレンジイソシアネート(TDI)であるコスモネート80(商品名、三井化学社製)69.6質量部に対し、ポリプロピレングリコール系ポリオールであるエクセノール1030(商品名、三洋化成工業社製)200.0gを反応容器内の温度を65℃に保持しつつ、徐々に滴下した。滴下終了後、温度65℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を室温まで冷却し、イソシアネート基含有量4.8%のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー B−2 244gを得た。
【0072】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−1)
アートパールP−800T(商品名、根上工業社製)を用いた。ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は7μm、Tgは−32℃、押し込み仕事の弾性部分は80%であった。
【0073】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−2)
ダイミックビーズUCN−5070D(商品名、大日精化工業社製)を用いた。ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は7μm、Tgは−10℃、押し込み仕事の弾性部分は93%であった。
【0074】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−3)
ダイミックビーズUCN−5150D(商品名、大日精化工業社製)を用いた。ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は15μm、Tgは−10℃、押し込み仕事の弾性部分は87%であった。
【0075】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−4)
アートパールC−800T(商品名、根上工業社製)を用いた。ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は7μm、Tgは−13℃、押し込み仕事の弾性部分は56%であった。
【0076】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−5 の合成)
反応容器に、3官能ポリカプロラクトン系ポリエステルポリオールであるプラクセル320(商品名、ダイセル化学工業株式会社製)を208.0g、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン型ポリイソシアネートを92.0g(Index(NCO/OH)は1.5)、メチルエチルケトン100g、ジブチル錫ジラウレート0.003gを混合した。
【0077】
次に、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、水800gを加え、ヒドロキシプロピルメチルセルロースであるメトローズ90SH−100(商品名、信越化学工業株式会社製)32gを溶解して分散媒を調製した。600rpmで撹拌しながら、前記反応容器内の反応系を加え、懸濁液を調製した後、60℃に昇温し、その状態でさらに4時間撹拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、水で洗浄した後、乾燥させ、平均粒径10μmのポリウレタン樹脂粒子を得た。Tgは−48℃だった。また、押し込み仕事の弾性部分は86%であった。
【0078】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−6 の合成)
アートパールJB−800T(商品名、根上工業社製)を用いた。ポリウレタン樹脂粒子の平均粒径は7μm、Tgは−52℃、押し込み仕事の弾性部分は91%であった。
【0079】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−7 の合成)
窒素ガスを十分に満たしたオートクレーブに、クラレポリオールP−6010(商品名、クラレ社製)を1420g、ヘキサメチレンジオソシアネートを80g、ジブチル錫ジラウレート0.15gを加え、60℃で12時間撹拌し、反応混合物1を得た。
別の反応容器に、プラクセル320を1200g、ヘキサメチレンジイソシアネートを300g混合し、反応混合物2を得た。
次に、前記反応混合物1、反応混合物2、ヘキサメチレンジイソシアネートのウレトジオン型ポリイソシアネート31.0gを混合し、反応混合物3を得た。
さらに、撹拌機を有するセパラブルフラスコに、水800gを加え、メトローズ90SH−100を32g溶解して分散媒を調製した。600rpmで撹拌しながら、前記反応混合物3を加え、懸濁液を調製した後、60℃に昇温し、その状態でさらに4時間撹拌した。得られた反応混合物を室温まで冷却し、水で洗浄した後、乾燥させ、平均粒径10μmのポリウレタン樹脂粒子を得た。Tgは−58℃だった。また、押し込み仕事の弾性部分は89%であった。
【0080】
(ポリウレタン樹脂粒子 C−8 の合成)
C−7において、ポリエステルポリオールとして、3−メチルペンタンジオ−ルとセバシン酸の共重合体であるクラレポリオールP−6050(商品名、数平均分子量6000、クラレ社製)を160gとした以外はC−7と同様にして、平均粒径10μmのポリウレタン樹脂粒子を得た。Tgは−62℃だった。また、押し込み仕事の弾性部分は92%であった。
【0081】
(実施例1)
以下に、本願発明の現像ローラの製造方法について説明する。
ポリオール A−1 100質量部に、イソシアネート基末端プレポリマー B−1 109質量部、カーボンブラックMA230(商品名、三菱化学社製)を樹脂成分に対し30質量部混合し、メチルエチルケトンに溶解、混合し、サンドミルにて均一に分散し、分散液1を得た。
ここで、Tgを測定するため、この分散液1を少量、陶器製の皿に展開し、150℃にて2時間加熱処理することで、ポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースを作製し、Tgの測定に供した。Tgは、−61℃だった。
上記分散液1に樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−1 を樹脂成分に対し100質量部添加し、撹拌モーターで10分間撹拌し、表面層形成用塗料1を得た。
次にこの表面層形成用塗料1を前記弾性層3上に浸漬塗工した後乾燥させ、150℃にて1時間加熱処理することで弾性層外周に表面層4を設け、実施例1の現像ローラを得た。表面層の膜厚は、8.2μmだった。
【0082】
(実施例2)
ポリオール A−2 100質量部に、イソシアネート基末端プレポリマー B−1 19質量部、カーボンブラック MA230(商品名、三菱化学社製)を樹脂成分に対し30質量部混合し、総固形分比30質量%になるようにメチルエチルケトンに溶解、混合し、サンドミルにて均一に分散し、分散液2を得た。
ここで、Tgを測定するため、この分散液2を少量、陶器製の皿に展開し、150℃にて2時間加熱処理することで、ポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースを作製し、Tgの測定に供した。Tgは、−58℃だった。
上記分散液2に樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−1 を樹脂成分に対し100質量部添加し、撹拌モーターで10分間撹拌し、表面層形成用塗料2を得た。
次にこの表面層形成用塗料2を前記弾性層3上に浸漬塗工した後乾燥させ、150℃にて2時間加熱処理することで弾性層外周に表面層4を設け、実施例2の現像ローラを得た。表面層の膜厚は、8.8μmだった。
【0083】
(実施例3)
ポリオール A−3 100質量部に、イソシアネート基末端プレポリマー B−1 108質量部、カーボンブラック MA230(商品名、三菱化学社製)を樹脂成分に対し30質量部混合し、メチルエチルケトンに溶解、混合し、サンドミルにて均一に分散し、分散液3を得た。
ここで、Tgを測定するため、この分散液3を少量、陶器製の皿に展開し、150℃にて2時間加熱処理することで、ポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースを作製し、Tgの測定に供した。Tgは、−54℃だった。
上記分散液3に樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−1 を樹脂成分に対し100質量部添加し、撹拌モーターで10分間撹拌し、表面層形成用塗料2を得た。
次にこの表面層形成用塗料2を前記弾性層3上に浸漬塗工した後乾燥させ、150℃にて2時間加熱処理することで弾性層外周に表面層4を設け、実施例3の現像ローラを得た。表面層の膜厚は、9.2μmだった。
【0084】
(実施例4)
ポリオール A−2 100質量部に、イソシアネート基末端プレポリマー B−2 120質量部、カーボンブラック MA230(商品名、三菱化学社製)を樹脂成分に対し30質量部混合し、メチルエチルケトンに溶解、混合し、サンドミルにて均一に分散し、分散液4を得た。
ここで、Tgを測定するため、この分散液4を少量、陶器製の皿に展開し、150℃にて2時間加熱処理することで、ポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースを作製し、Tgの測定に供した。Tgは、−53℃だった。
上記分散液4に樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−1 を樹脂成分に対し100質量部添加し、撹拌モーターで10分間撹拌し、表面層形成用塗料2を得た。
次にこの表面層形成用塗料4を前記弾性層3上に浸漬塗工した後乾燥させ、150℃にて2時間加熱処理することで弾性層外周に表面層4を設け、実施例4の現像ローラを得た。表面層の膜厚は、8.5μmだった。
【0085】
(実施例5)
ポリオール A−4 100質量部に、イソシアネート基末端プレポリマー B−1 107質量部、カーボンブラック MA230(商品名、三菱化学社製)を樹脂成分に対し30質量部混合し、メチルエチルケトンに溶解、混合し、サンドミルにて均一に分散し、分散液5を得た。
ここで、Tgを測定するため、この分散液5を少量、陶器製の皿に展開し、150℃にて2時間加熱処理することで、ポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースを作製し、Tgの測定に供した。Tgは、−46℃だった。
上記分散液3に樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−1 を樹脂成分に対し100質量部添加し、撹拌モーターで10分間撹拌し、表面層形成用塗料5を得た。
次にこの表面層形成用塗料5を前記弾性層3上に浸漬塗工した後乾燥させ、150℃にて2時間加熱処理することで弾性層外周に表面層4を設け、実施例5の現像ローラを得た。表面層の膜厚は、9.8μmだった。
【0086】
(実施例11)
樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−3 を樹脂成分に対し50質量部添加すること以外は、実施例1と同様にして、実施例11の現像ローラを得た。
【0087】
(実施例12)
樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−3 を樹脂成分に対し50質量部添加すること以外は、実施例2と同様にして、実施例12の現像ローラを得た。
【0088】
(実施例13)
表面層4の材料として、樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−3 を樹脂成分に対し20質量部添加すること以外は、実施例3と同様にして、実施例13の現像ローラを得た。
【0089】
(実施例14)
表面層4の材料として、樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−3 を樹脂成分に対し50質量部添加すること以外は、実施例4と同様にして、実施例14の現像ローラを得た。
【0090】
(実施例15)
表面層4の材料として、樹脂粒子としてポリウレタン樹脂粒子 C−3 を樹脂成分に対し50質量部添加すること以外は、実施例5と同様にして、実施例15の現像ローラを得た。
【0091】
(実施例6〜10、実施例16〜35)
以下、実施例1〜5と同様の方法を用いて、表2−1及び表2−2に示すようなポリウレタン樹脂粒子を添加することで、実施例6〜10、実施例16〜35の現像ローラを得た。
実施例1〜35に係る現像ローラの表面層中のマトリックスポリマーとしてのポリウレタン樹脂の原料に用いたポリオールのNo.とそれが含む化学構造、および、イソシアネートのNo.とそれが含む化学構造、ならびに、当該ポリウレタン樹脂のTgを表2−1及び表2−2に示す。また、表面層中のポリウレタン樹脂粒子のNo.、粒径、押し込み仕事の弾性部分の値を表2−1及び表2−2に示す。
【0092】
【表2−1】

【0093】
【表2−2】

【0094】
(比較例1)
ポリウレタン樹脂粒子を C−4に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例1の現像ローラを得た。
【0095】
(比較例2)
ポリウレタン樹脂粒子を C−4に変更した以外は、実施例2と同様にして比較例2の現像ローラを得た。
【0096】
(比較例3)
ポリウレタン樹脂粒子を C−4に変更した以外は、実施例3と同様にして比較例3の現像ローラを得た。
【0097】
(比較例4)
ポリウレタン樹脂粒子を C−4に変更した以外は、実施例4と同様にして比較例4の現像ローラを得た。
【0098】
(比較例5)
ポリウレタン樹脂粒子を C−4に変更した以外は、実施例5と同様にして比較例5の現像ローラを得た。
【0099】
(比較例6)
ポリオールを A−5、ポリウレタン樹脂粒子を C−2 に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例6の現像ローラを得た。なお、実施例1と同様の方法で作製したポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースのTgは、−31℃だった。
【0100】
(比較例7)
ポリオールを A−6、ポリウレタン樹脂粒子を C−2 に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例7の現像ローラを得た。なお、実施例1と同様の方法で作製したポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースのTgは、−29℃だった。
【0101】
(比較例8)
ポリオールを A−7、ポリウレタン樹脂粒子を C−2 に変更した以外は、実施例1と同様にして比較例8の現像ローラを得た。なお、実施例1と同様の方法で作製したポリウレタンマトリックスポリマーのテストピースのTgは、−40℃だった。比較例8のポリウレタンマトリックスポリマーには、以下に示す構造を含む。
【化9】

【0102】
比較例1〜8に係る現像ローラの表面層中のマトリックスポリマーとしてのポリウレタン樹脂の原料に用いたポリオールのNo.とそれが含む化学構造、および、イソシアネートのNo.とそれが含む化学構造、ならびに、当該ポリウレタン樹脂のTgを表3に示す。また、表面層中のポリウレタン樹脂粒子のNo.、粒径、押し込み仕事の弾性部分の値を表3に示す。
【0103】
【表3】

【0104】
[画像評価および現像ローラの表面粗度(Ra)評価]
評価対象の現像ローラを、図4のような構成を有するレーザープリンタ(商品名:LBP5300、キヤノン(株)社製)用のブラックのプロセスカートリッジに装着した。
そのプロセスカートリッジを、気温40℃、相対湿度95%RHの高温高湿環境下に、30日間置いた。その後、当該プロセスカートリッジを気温25℃、相対湿度50±5%RHの常温常圧環境下に24時間置き、引き続いて、気温0℃の低温環境下に24時間置いた。
次いで、このプロセスカートリッジを、上記レーザープリンタに装填し、気温0℃の低温環境下で、前回転なしで、ハーフトーン画像を出力した。このハーフトーン画像について、目視で観察し、下記の基準に基づき評価した。
AA:ブレード当接位とその他の部位の画像濃度に差がなく、全体が均一である。
A:ブレード当接位に対応する部位の画像濃度が、初期画像出力部のみ、若干低い。
C:ブレード当接位に対応する部位の画像濃度が、画像一面にわたって、低い。
また、上記画像評価に供したプロセスカートリッジを、気温0℃の低温環境下、レーザープリンタから取り出し、プロセスカートリッジから評価対象の現像ローラを、直ちに取り出し、表面をエアブローして表面のトナーを除去した。その後、評価対象の現像ローラを高温高湿環境下に30日間静置させたときに、規制ブレードと当接していた表面部位と、規制ブレードと当接していなかった表面部位との表面粗度Ra(JIS B0601)を、表面粗さ計(商品名:サーフコム480A、東京精密社製)を用いて測定し、Raの値とした。測定条件としては、半径2μmの触針を用い、押し付け圧0.7mN、測定速度0.3mm/sec、測定倍率5000倍、カットオフ波長0.8mm、測定長さ2.5mmとした。
【0105】
以上の結果を表4−1および表4−2に示す。
【0106】
【表4−1】

【0107】
【表4−2】

【0108】
実施例1〜35は、表面層に、本発明のポリウレタンマトリックスポリマーと、ポリウレタン樹脂粒子を含有しており、苛酷な高温高湿環境下に長期放置した後、ブレード当接部位であった箇所とその他の部位の、ローラ表面粗さの差が小さくなっている。さらに、表面層のトナー固着は確認されなかった。このため、画像の濃度差がなく、均一な画像が得られた。これは、本発明のポリウレタンマトリックスポリマーと、ポリウレタン樹脂粒子を組み合わせることによって、高温高湿環境下に長期にわたって放置した後、当接部におけるポリウレタン樹脂粒子の変形回復およびトナー固着によるトナー搬送性の異常が改善されたことを意味する。
【0109】
特に、ポリウレタンマトリックスポリマーと、ポリウレタン樹脂粒子のTgが、いずれも−50℃以下であり、かつ、それらのTgの差が、10℃以内である実施例21〜24、26〜29、および31〜34では、初期画像出力部から均一な画像が形成される。また、苛酷な高温高湿環境下、規制ブレード当接部であった箇所の粗さも、当接部以外の箇所の粗さと比較して、ほぼ有意差のない値を示した。これは、高温高湿環境下に長期にわたって放置した後、0度の如き低温環境で画像を出力した場合においても、本発明のポリウレタンマトリックスポリマーが、苛酷な低温環境においても、顕著な結晶性を発現することがなく、当接部におけるポリウレタン樹脂粒子の変形回復を阻害しないことを意味する。さらに、該ポリウレタンマトリックスポリマーのTgと、該ポリウレタン樹脂粒子のTgの差が、10℃以内であるため、両者の柔軟さが同程度になっていることが推測される。このため、表面層に含まれるポリウレタンマトリックスポリマーは、苛酷な低温環境においても、表面層に含まれるポリウレタン樹脂粒子の形状回復を、より阻害しないようになった。
【0110】
それに対し、比較例1〜5は、本発明のポリウレタンマトリックスポリマーを用いているが、ポリウレタン樹脂粒子の押し込み仕事の弾性部分が80%未満であるので、苛酷な高温高湿環境下に長期放置した後に、局所的な表面粗度の低下が十分に回復せず、良好な効果を得ることができなかった。また、比較例6〜8は、本発明のポリウレタンマトリックスポリマーを用いていない。このため、ポリウレタン樹脂粒子として、押し込み仕事の弾性部分が80%以上のものを用いても、苛酷な高温高湿環境下に長期放置した後に、トナー固着による表面粗度異常に起因する、トナー搬送性の異常が起こったといえる。さらに、低温環境において、顕著な結晶性が発現し、当接部におけるポリウレタン樹脂粒子の変形回復が阻害されたため、ブレード当接部位であった箇所とその他の部位の、ローラ表面粗さの差が大きくなり、均一な画像を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0111】
1:現像ローラ
2:導電性軸芯体
3:弾性層
4:表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯体、弾性層および該弾性層の表面を被覆している表面層を有する現像ローラであって、
該表面層はウレタン樹脂を含み、
該ウレタン樹脂は、隣接する2つのウレタン結合の間に、下記A)およびB)の少なくとも一方の構造を有し、
A)下記構造式(1)で示される構造、および、下記構造式(2)で示される構造および下記構造式(3)で示される構造からなる群から選ばれる少なくとも一方の構造、
B)下記構造式(4)で示される構造、
かつ、該表面層に、ISO14577−1に基づく、押し込み仕事の弾性部分が、80%以上である、ポリウレタン樹脂粒子を含有することを特徴とする現像ローラ。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

【請求項2】
前記弾性層の表面を被覆しているウレタン樹脂のTgと、該表面層に含まれるポリウレタン樹脂粒子のTgが、いずれも−50℃以下であり、かつ、それらのTgの差が、10℃以内であることを特徴とする請求項1に記載の現像ローラ。
【請求項3】
静電潜像が形成されるドラムと、ドラム上の静電潜像を現像する現像部材とを具備し、電子写真画像形成装置の本体に着脱可能な電子写真プロセスカートリッジにおいて、該現像部材が請求項1または2に記載の現像ローラであることを特徴とする電子写真プロセスカートリッジ。
【請求項4】
静電潜像が形成されるドラムと、ドラム上の静電潜像を現像する現像部材とを具備する電子写真画像形成装置において、該現像部材が請求項1または2に記載の現像ローラであることを特徴とする電子写真画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−41264(P2013−41264A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−155739(P2012−155739)
【出願日】平成24年7月11日(2012.7.11)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】