説明

球形吸着炭の吸着試験方法

本発明は、1種以上の特定の尿毒症毒素又はその関連化合物を含む試験液を使用して、球形吸着炭、特に、クレメジン、の吸着特性、すなわち、吸着力価、吸着速度、及び/又は吸着選択性、を評価することを特徴とする球形吸着炭の吸着試験方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球形吸着炭の新規な吸着試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレメジン(登録商標)は、呉羽化学工業(株)により慢性腎不全における尿毒素症状の改善及び透析導入の遅延を目的として開発された高純度の多孔質炭素からなる球形微粒状の経口吸着剤、すなわち、経口投与用球形吸着炭である。
【0003】
従来から、薬用炭はその吸着性を利用して、過酸症(胃酸過多症など)及び消化管内醗酵による生成ガスの吸着、毒物の吸着に用いられていた。また、慢性腎不全時の尿毒症毒素(uremic toxins)の除去を目的として、この薬用炭を用いてこれらの毒素を消化管内で吸着除去しようとする試みも行われた。しかし、明確な効果が得られず、また、酵素、ビタミン、鉱物質なども吸着してしまうことによる問題点も生じていた。
【0004】
そこで、呉羽化学工業(株)は、1975年より医薬用途、特に、慢性腎不全時の尿毒症毒素(uremic toxins)の除去に適した経口吸着剤の開発を目指し、1)従来の炭末で問題となった服用困難・便秘作用を軽減し、2)生体内毒素の成分と考えられ、炭末では吸着されにくいイオン性有機物に対する吸着力を高め、3)炭末で吸着され易い消化酵素等に対する吸着力を低下させる、ことを目的として、原料及び製造方法を含め検討を重ねた結果、当該クレメジンを完成させたものである。
【0005】
したがって、クレメジンは厳密な原料及び製造方法の管理がなされて製造されているものであり、その物理構造が毒素の吸着に大きく影響し、その薬効にも関与するものと考えられる物理学的医薬品といえる。しかし、現在、クレメジンの原体規格として薬効に直接関与すると考えられる物質に対する吸着試験として定められているものは、DL−β−アミノイソ酪酸吸着試験及びα−アミラーゼ吸着試験のみであり、クレメジン自体の製品特性、特に、吸着特性を十分に管理するための分析方法が存在しているとはいい難い。
【0006】
一方、2004年2月に当該クレメジンの後発品としてキューカル(登録商標)及びメルクメジン(登録商標)が承認を受けている。これらの後発医薬品はともに、上記クレメジンの原体及び/又は製剤規格として規定されている吸着試験(インビトロのイオン性有機化合物(DL−β−アミノイソ酪酸)及び消化酵素(α−アミラーゼ))の吸着挙動において同等の特性を示すものと考えられている。しかしながら、最近になってクレメジンとその後発医薬品の物理的特性が必ずしも同等ではない可能性が報告されており(非特許文献1)、さらに薬効についても両者が同等ではない可能性があることが報告されている(非特許文献2、非特許文献3)など、クレメジンの後発医薬品を同等物として適正に評価する球形吸着炭の吸着特性に関する分析方法が存在しているともいえない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Pharmaceutical Regulatory Science, Vol.36, No.11, p.497-504 (2005).
【非特許文献2】Pharmaceutical Regulatory Science, Vol.37, No.6, p.373-380 (2006).
【非特許文献3】Japanese Journal of Nephrology, Vol.51, No.1, p.51-55 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、球形吸着炭の物理構造等に起因すると考えられる吸着特性を十分に管理し、球形吸着炭、特に、クレメジン(登録商標)、の適正な評価を行うことができる分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、球形吸着炭への各種物質の吸着特性から、一定の条件を満たした化合物を被吸着物質として用いることにより、球形吸着炭の吸着特性、すなわち、吸着力価、吸着速度、及び/又は吸着選択性を用いて、球形吸着炭、特に、クレメジン(登録商標)、の適正な評価を行うことができる吸着試験方法を見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1]被吸着物質として、特定の尿毒症毒素物質及び/又はそれと共通した化学構造を有する化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする、球形吸着炭の吸着試験方法。
[2]球形吸着炭の吸着試験方法が、吸着力価試験方法、吸着速度試験方法、及び吸着選択性試験方法からなる群から選択される少なくとも1種の試験方法である、上記[1]に記載の試験方法。
[3]球形吸着炭が、多孔性球状炭素質物質からなる経口投与用吸着剤である、上記[1]又は[2]に記載の試験方法。
[4]特定の尿毒症毒素物質が、以下の条件を満たすものである、上記[3]に記載の試験方法。
(i)被験物質である球形吸着炭への吸着において、吸着平衡(吸着飽和)に達するまでに要する時間が24時間以内であり、かつ、
(ii)その際の吸着率が20〜80%である。
[5]被吸着物質として、尿毒症毒素物質及び/又はそれと共通した化学構造を有する化合物を含有する試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する各被吸着物質の濃度又は量を測定する工程を含むことを特徴とする、[1]乃至[4]のいずれかに記載の球形吸着炭の吸着試験方法。
[6]被吸着物質として、特定の尿毒症毒素物質といずれも共通した化学構造を有する4種の化合物を同時に含有する試験液を用いることを特徴とする上記[2]に記載の球形吸着炭の吸着選択性試験方法であって、
当該4種の化合物が、
(1)疎水性基を有する化合物、
(2)親水性基を有する化合物、
(3)酸性基を有する化合物、及び
(4)塩基性基を有する化合物
である試験方法。
[7]特定の尿毒症毒素物質がインドールであり、被吸着物質として用いられる共通した化学構造を有する4種の化合物が、
(1)疎水性基を有する化合物としてのインドール、
(2)親水性基を有する化合物としてのトリプトファン、
(3)酸性基を有する化合物としてのインドール酢酸、及び
(4)塩基性基を有する化合物としてのトリプタミン
である、上記[6]に記載の吸着試験方法。
[8]被吸着物質として、さらに、分子量が1000〜1500である高分子化合物を同時に試験液中に含有するものである、上記[6]又は[7]に記載の試験方法。
[9]分子量が1000〜1500である高分子化合物が、シアノコバラミンである、上記[8]に記載の試験方法。
[10]被吸着物質を含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する各被吸着物質の濃度又は量を測定する工程を含むものである、上記[6]乃至[9]のいずれかに記載の試験方法。
[11]球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.05〜0.5mg/mLである、上記[10]に記載の試験方法。
[12]球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.05〜0.2mg/mLである、上記[11]に記載の試験方法。
[13]球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.1mg/mLである、上記[12]に記載の試験方法。
[14]試験液が、pH6〜8のリン酸緩衝液に各被吸着物質を溶解させたものである、上記[10]乃至[13]のいずれかに記載の試験方法。
[15]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、10〜300mgである、上記[14]に記載の試験方法。
[16]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、40〜120mgである、上記[15]に記載の試験方法。
[17]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、50mg又は100mgである、上記[16]に記載の試験方法。
[18]試験液の容量が10〜300mLである、上記[15]乃至[17]のいずれかに記載の試験方法。
[19]試験液の容量が30〜100mLである、上記[18]に記載の試験方法。
[20]試験液の容量が50mLである、上記[19]に記載の試験方法。
[21]吸着に付す時間が1〜6時間であり、温度が10〜50℃である、[10]乃至[20]のいずれかに記載の試験方法。
[22]被吸着物質として、尿毒症毒素物質又はその関連化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする球形吸着炭の吸着力価試験方法であって、球形吸着炭を添加する前の試験液中の尿毒症毒素物質又はその関連化合物の濃度が0.1〜10mg/mLである試験方法。
[23]尿毒症毒素物質又はその関連化合物がインドールである、上記[22]に記載の試験方法。
[24]インドールの濃度が0.5〜1.5mg/mLである、上記[23]に記載の試験方法。
[25]被吸着物質としてインドールを含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存するインドールの濃度又は量を測定する工程を含むものである、上記[23]又は[24]に記載の試験方法。
[26]試験液がpH6〜8のリン酸緩衝液に被吸着物質を溶解させたものである、上記[22]乃至[25]のいずれかに記載の試験方法。
[27]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、10〜30mgである、上記[26]に記載の試験方法。
[28]試験液の容量が30〜100mLである、上記[27]に記載の試験方法。
[29]試験液の容量が50mLである、上記[28]に記載の試験方法。
[30]吸着に付す時間が1〜6時間であり、温度が10〜50℃である、上記[25]乃至[29]のいずれかに記載の試験方法。
[31]被吸着物質として、尿毒症毒素物質又はその関連化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする球形吸着炭の吸着速度試験方法であって、球形吸着炭を添加する前の試験液中の尿毒症毒素物質又はその関連化合物の濃度が0.1〜10mg/mLである試験方法。
[32]尿毒症毒素物質又はその関連化合物がインドールである、上記[31]に記載の試験方法。
[33]インドールの濃度が0.5〜1.5mg/mLである、上記[32]に記載の試験方法。
[34]被吸着物質としてインドールを含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存するインドールの濃度又は量を測定する工程を含むものである、上記[32]又は[33]に記載の試験方法。
[35]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液900mLあたり、100〜600mgである、上記[34]に記載の試験方法。
[36]試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液900mLあたり、180〜540mgである、上記[35]に記載の試験方法。
[37]試験液の容量が900mLである、上記[35]又は[36]に記載の試験方法。
[38]試験方法が、日局パドル法50回転もしくは100回転、及び/又は日局バスケット法100回転の溶出試験に準じたものである、上記[31]乃至[37]のいずれかに記載の試験方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の分析方法を用いることによって、球形吸着炭の物理構造等に起因すると考えられる吸着特性を適正に評価することができる。
本発明の分析方法を用いることによって、球形吸着炭を有効成分とする医薬品や、それと治療学的及び/又は生物学的な同等物である球形吸着炭を適正に評価することができる。
本発明の分析方法を用いることによって、球形吸着炭を有効成分とするクレメジン(登録商標)を適正に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】酸化還元処理前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)又は原体となる球形吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))の吸着選択性を示した図である。被吸着物質として6種の化合物(インドール、トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン、シアノコバラミン、及びα−アミラーゼ)を使用した。各カラムは、それぞれ上記6化合物の各球形吸着炭への吸着率を示し、各化合物毎にそれぞれ左から順にa:F−AST、b:O−AST、c:W−AST、d:R−AST、e:KDS、及びf:KDS(粉砕)の吸着率を示す。
【図2】クレメジン(登録商標)、メルクメジン(登録商標)、キューカル(登録商標)、及び薬用炭への吸着選択性を示した図である。被吸着物質として、インドール、トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン、及びシアノコバラミンの5化合物を使用した。各カラムは、それぞれ上記5化合物の各球形吸着炭への吸着率を示し、各化合物毎にそれぞれ左から順にa:クレメジン、b:メルクメジン、c:キューカル、及びd:薬用炭の吸着率を示す。
【図3】インドールのクレメジン(登録商標)、クレメジン(登録商標)(カプセル)、メルクメジン(登録商標)、又はキューカル(登録商標)への吸着速度試験結果を示した図であり、グラフの縦軸は、各球形吸着炭1g当りのインドールの吸着量を示し、横軸は、吸着時間を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明をより詳細に説明する。球形吸着炭の吸着特性を評価するためには、球形吸着炭の吸着特性、すなわち、吸着力価、吸着速度、及び/又は吸着選択性を評価することが重要である。従って、本発明は、1種以上の特定の尿毒症毒素又はその関連化合物を含む試験液を用いることを特徴とし、具体的には、当該試験液に試験対象とする球形吸着炭を添加して、攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付す工程、当該球形吸着炭を除く工程、及び球形吸着炭除去後の試験液中に残存する被吸着物質の濃度又は量を測定する工程を含み、それにより球形吸着炭の吸着特性を評価することができる吸着試験方法である。本発明に係る球形吸着炭の吸着試験方法は、吸着力価試験方法、吸着速度試験方法、及び吸着選択性試験方法からなる群から選択される少なくとも1種の試験方法を含む。
【0014】
本明細書中で使用する「球形吸着炭」とは、球形微粒多孔質炭素である。例えば、球形微粒多孔質炭素には、「クレメジン(登録商標)」、「メルクメジン(登録商標)」、「キューカル(登録商標)」等の経口投与用球形吸着炭が含まれる。好ましくは「クレメジン(登録商標)」である。
さらに、本明細書中で使用する「球形吸着炭」には、特許第3522708号公報に記載の「多孔性球状炭素質物質」、特許第3672200号公報、欧州特許出願公開第1547605号明細書、特許第3865400号公報、欧州特許出願公開第1745793号明細書、特許第3835698号公報、欧州特許出願公開第1500397号明細書、特許第3865399号公報、欧州特許出願公開第1500397号明細書、特開2000−233916号公報にそれぞれに記載の「球状活性炭」もしくは「表面改質球状活性炭」、及び、特開2004−244414号公報記載の「医薬用吸着剤」も含まれ、これらの球形吸着炭もも本発明の方法により評価が可能である。しかし、これらに限定されない。「クレメジン(登録商標)」は、直径が0.01〜1mmであり、BET法により求められる比表面積が700m2/g以上であり、細孔直径20〜15000nmの細孔容積が0.04mL/g以上で0.10mL/g未満であり、全酸性基が0.3〜1.20meq/gであり、全塩基性基が0.20〜0.70meq/gである球形吸着炭である。
【0015】
<本発明の評価に使用される化合物>
【0016】
(1)吸着力価の評価においては、慢性腎不全の薬効に関連するターゲット化合物であって、かつ、本発明により評価される球形吸着炭に対し吸着平衡(又は吸着飽和)に達した状態で吸着量を測定することができる化合物を使用することが、試験条件の頑健性及び定量精度を確保する上で重要となる。
【0017】
そこで、上記吸着力価の評価に使用される化合物としては、尿毒症毒素又はその関連化合物が挙げられる。具体的には、Vanholder et al.,Pediatric Nephrology, 2008, Vol.23, p.1211-1221、又はEUToX Uremic Toxin Database (http://www.nephro-leipzig.de/eutoxdb/index.php)に記載された尿毒症毒素化合物、それらの前駆体、及び代謝物等であり、更にクレメジンにより吸着される化合物として評価されたDL−β−アミノイソ酪酸、インドール、p−クレゾール、終末糖化産物(Advanced glycation end products)(AGEs)等も含まれる。また、これらの化合物のうち球形吸着炭への吸着量が20〜80%であり、吸着平衡(又は吸着飽和)に達する時間が24時間以内である化合物であることが好ましく、さらに好ましくはクレメジン(登録商標)への吸着量が20〜80%であり、吸着平衡(又は吸着飽和)に達する時間が24時間以内である化合物である。
【0018】
ここで「球形吸着炭への吸着量が20〜80%であり、吸着平衡(又は吸着飽和)に達する時間が24時間以内である」とは、以下に示す方法に従い評価することができる。測定時点を3時間、24時間を含む3時点以上(例えば、3、6、24及び48時間など)とし、球形吸着炭のいずれかの試験系において吸着平衡(又は吸着飽和)が確認される時点で試験終了とする。
吸着平衡(又は吸着飽和)とは、被吸着物質の残存率が20〜80%でかつ一定値(24時間値の残存率に対し誤差±3%以内)を示した時、吸着平衡とみなすことが出来る。
本試験方法としては、例えば、pH7.4のリン酸緩衝液中、被吸着物質を約0.1mg/mLとした試験液を作成し、その試験液50mLに球形吸着炭の添加量を10mg、125mg、又は500mgとした各試験系における各時点での吸着量を評価することが望ましい。
【0019】
また、上記測定条件下において、化合物が十分な安定性を有していることも必要である。特に、上記条件を満たす化合物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、インドール、p−クレゾール、馬尿酸、グアニジノコハク酸、フェノール等が挙げられ、更に好ましくは、インドールが挙げられる。
【0020】
なお、DL−β−アミノイソ酪酸のクレメジン(登録商標)への吸着量は上記好ましい各化合物と比較して極めて低く、クレメジン添加量500mgの試験系において吸着量が20〜80%に達したが、吸着平衡に到達しないものであった。
【0021】
(2)吸着速度の評価においては、上記、吸着力価の評価において使用される化合物を好適に用いることができる。
【0022】
(3)吸着選択性の評価においては、球形吸着炭が球形微粒多孔質であるため、細孔直径とその容積や、酸化還元処理などによる炭素表面の修飾状態により、吸着特性が異なる。従って、本試験に被吸着物質として使用される化合物の「分子サイズ」及び「親水性・疎水性、酸性及び塩基性」等のファクターによる選択性を評価することによって、球形吸着炭の吸着特性の適正な評価を行うことができる。
【0023】
本発明において、まず、上記吸着力価の評価に使用される化合物をコア化合物とし、当該コア化合物又は当該コア化合物と共通した化学構造に「親水性・疎水性・酸性・塩基性」のいずれかの置換基が導入された化合物、すなわち、共通した化学構造に酸性基が導入された化合物(以下、「酸性基を有する化合物」と称することもある)、塩基性基が導入された化合物(以下、「塩基性基を有する化合物」と称することもある)、疎水性基が導入された化合物(コア化合物自体が疎水性を示す場合にはコア化合物自体をも含み、以下、「疎水性基を有する化合物」と称することもある)、親水性基が導入された化合物(以下、「親水性基を有する化合物」と称することもある)の化合物を被吸着物質として組み合わせて使用することが好ましい。
親水性基とはアミノ酸基、ヒドロキシル基等が、疎水性基とはアルキル基、フェニル基等が、酸性基とはカルボキシル基、リン酸基、硫酸基等が、塩基性基とはアミノ基、グアニジル基等が挙げられる。コア化合物又はコア化合物と共通した化学構造に前記したいずれかの置換基が導入された化合物は、コア化合物又はコア化合物と共通した化学構造と比較して、導入された置換基に応じた特性(例えば、酸性度、塩基性度、親水性度、疎水性度など)が向上していれば足りる。
【0024】
ここで、選択されたコア化合物は、その特性(例えば、酸性度、塩基性度、親水性度、疎水性度)を考慮し、置換基を導入せず、そのまま被吸着物質として本試験に使用することができる。例えば、本発明の吸着選択性の評価において、コア化合物として疎水性を示すインドールが選択された場合、インドールを疎水性基を有する化合物として、インドールにアミノ酸側鎖が導入されたトリプトファンを親水性基を有する化合物として、インドールにカルボキシル基が導入されたインドール酢酸及び/又はインドールに硫酸基が導入されたインドキシル硫酸を酸性基を有する化合物として、インドールにアミノ基が導入されたトリプタミンを塩基性基を有する化合物として、これらを組み合わせて、被吸着物質として吸着選択試験に使用することができる。
好ましくは、インドール、トリプトファン、インドール酢酸、及びトリプタミンの4種の化合物の組み合わせであり、これらをその吸着選択性試験に使用することができる。
さらに選択された被吸着物質群を組み合わせて本試験に用いる際には、これらの被吸着物質群を同一の溶液に溶解させ、その溶液と球形吸着炭を接触させることで、当該球形吸着炭の吸着選択性を評価するこができる。
【0025】
さらに、本試験は、上記被吸着物質に加え、非吸着物質を共存させて行うことができる。例えば、クレメジン(登録商標)を本試験の球形吸着炭として選択した場合に、クレメジンの分子サイズ排除領域が分子量1000〜1500程度と推察されることから、クレメジンに吸着されない分子量1000〜1500の化合物を使用することが有用である。ここで、非吸着物質は、特に限定されないが、生体内に存在する化合物が好ましく、中でも、シアノコバラミン(分子量1355、以下、ビタミンB12と称することもある)が特に好ましい。
【0026】
なお、α−アミラーゼは分子量50000のタンパク質であり、従来、クレメジンの吸着試験で非吸着物質として用いられていたが、複数の被吸着物質を同時に含有させる本評価方法においては、更に、α−アミラーゼを組み合わせた場合、沈殿・濁りが生じるため、非吸着物質として使用できないことが分かった。
<本発明の評価の測定方法>
【0027】
(1)吸着力価の評価
吸着力価の評価方法は、一般に用いられる方法にしたがって行うことができる。例えば、被吸着物質を含む試験液に、試験対象である球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付した後、当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する該被吸着物質の濃度又は量を測定するものである。
【0028】
被吸着物質の種類により、被吸着物質の濃度、評価される球形吸着炭の量、吸着時間、溶液のpH、温度等の条件は適宜選択することができる。
【0029】
具体的には、例えば、以下のような条件が挙げられるが、これらの記載に限定されるものではない。
【0030】
被吸着物質の濃度は、0.1〜10mg/mL、好ましくは、0.5〜1.5mg/mL、より好ましくは、1.0mg/mLである。
【0031】
試験液の量は、測定が可能なものであればいずれでも良いが、10〜300mL、好ましくは30〜100mL、より好ましくは50mLである。
【0032】
試験液のpHは、pH6〜8、好ましくはpH6.8又はpH7.4である。
【0033】
試験液は、通常使用されるものであればいずれでも良く、一般に緩衝液が用いられるが、好ましくは酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液などが挙げられ、より好ましくはリン酸緩衝液である。
【0034】
評価される球形吸着炭の添加量は、被吸着物質の濃度、試験溶液量、pH、及び/又は緩衝液の種類によって、適宜選択できる。例えば、被吸着物質の濃度を0.5〜1.5mg/mL、試験液量を50mLとした場合、球形吸着炭の添加量は、10〜50mg、好ましくは10〜30mg、より好ましくは25mgである。
【0035】
吸着時間は、被吸着物質の濃度、試験液量、pH、緩衝液の種類、及び/又は評価される球形吸着炭の添加量によって、適宜選択できる。例えば、1〜6時間、好ましくは3時間である。
【0036】
吸着温度は、10〜50℃、好ましくは30〜40℃、更に好ましくは37℃である。
【0037】
また、被吸着物質としてインドールを使用する場合、吸着量はpH2〜12の範囲で変化しないが、吸着温度が10〜50℃の範囲において温度が上昇するにつれて吸着量は低下する傾向を示す。そこで、吸着力価試験は、インドールの試験液中濃度を0.5〜1.5mg/mL、好ましくは1mg/mlとし、試験液の溶解液として水又はpH6〜8の緩衝液、好ましくはpH7.4のリン酸緩衝液を使用し、球形吸着炭の添加量を試験液量50mLに対し、10〜30mg、好ましくは25mgとし、吸着温度を30〜40℃、好ましくは37℃に設定し、試験液量を50mlとし、及び吸着時間を1〜6時間、好ましくは転倒回転型撹拌機 ロータ・ミックス60rpmで攪拌後3時間とする条件下で行うことができる。
【0038】
また吸着量は通常用いられる方法、例えば、HPLC等により測定することができる。
【0039】
例えば、被吸着物質がインドールである場合、その吸着量は、以下の条件下でのHPLCにより測定できる。
【0040】
HPLC条件
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
カラム:GL−Science Inertsil ODS−3V (4.6mmID、150mm、5μm)、又は SUPELCO Discovery HS C18(4.6mmID、150mm、5μm)
カラム温度:40℃
移動相:水/アセトニトリル/TFA混液(1000:1000:1)
流量:1mL/min
注入量:10μL
【0041】
(2)吸着速度の評価
吸着速度の評価方法は、例えば、被吸着物質を含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付した後、当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する該被吸着物質の濃度又は量を測定するものである。
【0042】
また、吸着速度の評価は、例えば、製剤等の溶出試験で用いられる日局パドル法50もしくは100回転の溶出試験及び/又は日局バスケット法100回転の溶出試験に準じた方法により行われるものであり、試験液としては、一定濃度の被吸着物質を含んだ溶液を用いることができる。
【0043】
被吸着物質の種類等により、被吸着物質の濃度、評価される球形吸着炭の量、溶液のpH等の条件は適宜選択することができる。
【0044】
具体的には、例えば、以下のような条件が挙げられるが、これらの記載に限定されるものではない。
【0045】
被吸着物質の濃度は、0.1〜10mg/mL、好ましくは0.5〜1.5mg/mL、より好ましくは、1.0mg/mLである。
【0046】
被吸着物質を含む試験液の量は、測定可能な量であればいずれでも良いが、10mL〜3L、好ましくは100mL〜2L、より好ましくは900mLである。
【0047】
試験液のpHは、pH6〜8、好ましくはpH6.8又はpH7.4である。
【0048】
試験液は、一般に使用される緩衝液であればいずれでも良いが、好ましくは酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液などが挙げられ、より好ましくはリン酸緩衝液である。
【0049】
評価される球形吸着炭の添加量は、被吸着物質の濃度、試験溶液量、pH、及び/又は緩衝液の種類によって、適宜選択できる。例えば、被吸着物質の濃度を0.5〜1.5mg/mL、試験液量を900mLとした場合、球形吸着炭の添加量は、100〜600mg、好ましくは180〜540mg、より好ましくは300mgである。
【0050】
本発明の吸着速度の評価方法において、吸着時間は、被吸着物質の濃度、試験液量、pH、緩衝液の種類、及び/又は評価される球形吸着炭の添加量によって、適宜選択できる。例えば、15分〜6時間である。
【0051】
本発明の吸着速度の評価方法における吸着温度は、10〜50℃、好ましくは30〜40℃、更に好ましくは37℃である。
【0052】
(3)吸着選択性の評価
吸着選択性の評価は、一般に用いられる方法にしたがって行うことができる。例えば、被吸着物質を含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付した後、当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する各被吸着物質の濃度又は量を測定するものである。
【0053】
使用される被吸着物質は、特定の尿毒症毒素物質をコア化合物とし、それと共通した化学構造に酸性基を導入した化合物(以下、酸性基を有する化合物と称することもある)、塩基性基を導入した化合物(以下、塩基性基を有する化合物と称することもある)、疎水性基を導入した化合物(以下、疎水性基を有する化合物と称することもある)、親水性基を導入した化合物(以下、親水性基を有する化合物と称することもある)の4種からなる被吸着物質群であり、場合によっては、上記被吸着物質群に加えて、さらに分子量が1000〜1500である高分子化合物を非吸着物質として使用することができる。
【0054】
被吸着物質の種類により、各被吸着物質の濃度、評価される球形吸着炭の添加量、吸着時間、試験液のpH、温度等の条件は適宜選択することが必要である。
【0055】
特に、本評価方法の場合、被吸着物質の種類は、該被吸着物質の吸着量に影響を与えるが、被吸着物質の濃度、評価される球形吸着炭の添加量、吸着時間、試験液のpH、温度等の条件を一定にすることにより、その吸着選択性の評価を行うことができる。
【0056】
具体的には、例えば、以下のような条件が挙げられるが、これらの記載に限定されるものではない。
【0057】
特定の尿毒症毒素物質をコア化合物とした酸性基を有する化合物、塩基性基を有する化合物、疎水性基を有する化合物、親水性基を有する化合物の4種、又はそれらに分子量が1000〜1500である高分子化合物を加えた5種の各被吸着物質の濃度は、0.05〜0.5mg/mL、好ましくは0.05〜0.2mg/mL、更に好ましくは0.1mg/mLである。
【0058】
特定の尿毒症毒素物質をコア化合物とした酸性基を有する化合物、塩基性基を有する化合物、疎水性基を有する化合物、親水性基を有する化合物の4種、又はそれらに分子量が1000〜1500である高分子化合物を加えた5種を溶解した試験液の量は、測定が可能であればいずれでも良いが、10〜300mL、好ましくは30〜100mL、より好ましくは50mLである。
【0059】
試験液のpHは、pH6〜8、好ましくはpH6.8又はpH7.4である。
【0060】
試験液は、通常使用される緩衝液であればいずれでも良いが、好ましくは酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液などが挙げられ、より好ましくはリン酸緩衝液である。
【0061】
評価される球形吸着炭の添加量は、被吸着物質の濃度、試験溶液量、pH、及び/又は緩衝液の種類によって、適宜選択できる。例えば、被吸着物質の濃度を0.05〜0.5mg/mL、試験液量を50mLとした場合、球形吸着炭の添加量は、10〜300mg、好ましくは40〜120mg、より好ましくは50〜100mg、更に好ましくは50mg又は100mgである。
【0062】
吸着時間は、被吸着物質の濃度、試験液量、pH、緩衝液の種類、及び/又は評価される球形吸着炭の添加量によって、適宜選択できる。例えば、1〜6時間、好ましくは3時間である。
【0063】
吸着温度は、10〜50℃、好ましくは30〜40℃、更に好ましくは37℃である。
【0064】
ただし、吸着pH、吸着温度は、通常、生体で本球形吸着炭がその効果を発揮する条件で行うことが好ましい。
【0065】
また、被吸着物質を、インドール(疎水性基を有する化合物)、トリプトファン(親水性基を有する化合物)、インドール酢酸(酸性基を有する化合物)、及びトリプタミン(塩基性基を有する化合物)の4種、及び非吸着物質をシアノコバラミンとした場合、各被吸着物質の吸着選択性は、各被吸着物質の各試験液濃度:各0.05〜0.5mg/mL、好ましくは0.05〜0.2mg/mL、さらに好ましくは0.1mg/mL又は0.2mg/mL、試験液の溶解液:水又はpH6〜8の緩衝液、好ましくはpH7.4のリン酸緩衝液、球形吸着炭の添加量:試験液量50mLに対し、10〜300mg、好ましくは40〜120mg、より好ましくは50〜100mg、更に好ましくは50mg又は100mg、吸着温度:10〜50℃、好ましくは30〜40℃、より好ましくは37℃、試験液量:50ml、及び吸着時間:1〜6時間、好ましくは転倒回転型撹拌機 ロータ・ミックス60rpmで攪拌後3時間、という試験条件で評価することができる。
【0066】
また、吸着量は通常用いられる方法、例えば、HPLC等により測定することができる。
【0067】
HPLCによる各被吸着物質の吸着量の測定は、以下の条件で行うことができる。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
カラム:GL−Science Inertsil ODS−3V (4.6mmID、150mm、5μm)、又は SUPELCO Discovery HS C18(4.6mmID、150mm、5μm)
カラム温度:40℃
移動相A:水/TFA混液(2000:1)
移動相B:アセトニトリル/TFA混液(2000:1)
送液条件:グラジェント分析条件
移動相のB濃度 5%→80%(30分)
流量:1mL/min
注入量:10μL
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
【0069】
[実施例1:吸着力価の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、特許第3522708号公報の実施例1に記載の製造方法によって製造した多孔性球状炭素質物質を本試験の披験物質である球形吸着炭(試料−1)として使用した。
【0070】
吸着力価の評価試験:インドールを含むpH7.4のリン酸塩緩衝液(濃度1.0mg/mL)50mLに球形吸着炭25mgを加え、37℃で3時間振り混ぜ、インドール残存濃度をHPLCにより測定した。撹拌機は転倒回転型撹拌機(ロータ・ミックス)を使用し、撹拌速度は60rpmであった。
【0071】
HPLCは以下の条件に設定した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
カラム:GL−Science Inertsil ODS−3V (4.6mmID、150mm、5μm)
カラム温度:40℃
移動相:水/アセトニトリル/TFA混液(1000:1000:1)
流量:1mL/min
注入量:10μL
【0072】
なお、吸着前後の濃度差から各ロットの球形吸着炭1gあたりに吸着したインドールの量を算出し、吸着力価として比較評価した。試験結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
(試験結果)
吸着力価の評価:本試験で使用した7ロットの球形吸着炭(試料−1)1gあたりのインドールの吸着量はいずれも700mg/g±10%の一定量を示した。
【実施例2】
【0075】
[実施例2:吸着力価の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、特許第3522708号公報の実施例1に記載の製造方法によって製造した多孔性球状炭素性物質の内、酸化還元処理前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)及び原体となる球形吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))を使用した。吸着力価の評価試験は実施例1と同様にして行った。なお、吸着温度は室温にて行った。試験結果を表2に示した。
【0076】
【表2】

【0077】
(試験結果)
吸着力価の評価:酸化還元前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)及び原体となる球形吸吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))は、いずれも、インドールをよく吸着し、各処理段階での球形吸着炭による吸着量は、いずれも700mg/g±10%と一定量を示した。このことから、インドールに対する球形吸着炭の吸着力価特性は、酸化・還元処理工程等による影響を受けないことが示唆された。従って、酸化・還元処理工程前の製造工程や球形吸着炭の品質によって、球形吸着炭の吸着力価特性が決定されるものと考えられた。
【実施例3】
【0078】
[実施例3:吸着力価の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、特許第3522708号公報の実施例1に記載の製造方法によって製造されたクレメジン(登録商標)細粒(製造元 クレハ、製造番号 74K2)(Kre)、メルクメジン(登録商標)細粒(製造元 メルク製薬、製造番号 038OMK)(Mer)及びキューカル(登録商標)細粒(製造元 テイコクメディックス、製造番号 6EB)(Kyu)を使用した。また経口投与用吸着剤である薬用炭(製造元 オリエンタル薬品、製造番号 70525)(Yak)を使用した。試験に使用したメルクメジン細粒(Mer)及びキューカル細粒(Kyu)、薬用炭(Yak)は購入した。吸着力価の評価試験は実施例1と同様にして行った。試験結果を表3に示した。
【0079】
【表3】

【0080】
(試験結果)
吸着力価の評価:球形吸着炭1gあたりに吸着されたインドールの量は、Kre(662mg/g)、Kyu(523mg/g)、Mer(319mg/g)の順に減少した。また、Yakは387mg/gのインドールを吸着した。
【実施例4】
【0081】
[実施例4:吸着選択性の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、特許第3522708号公報の実施例1に記載の製造方法によって製造した球形吸着炭(試料−2)を使用した。
【0082】
吸着選択性の評価方法:
インドール、トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン、及びシアノコバラミンの5化合物を含むpH7.4のリン酸塩緩衝液(各化合物濃度0.1mg/mL)50mLに球形吸着炭100mgを加え、37℃で3時間振り混ぜたときの、試験液中の各化合物の残存濃度をHPLCにより求めた。撹拌機は転倒回転型撹拌機(ロータ・ミックス)を使用し、撹拌速度は60rpmであった。
【0083】
HPLCは以下の条件に設定した。
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:240nm)
カラム:GL−Science Inertsil ODS−3V (4.6mmID、150mm、5μm)
カラム温度:40℃
移動相A:水/TFA混液(2000:1)
移動相B:アセトニトリル/TFA混液(2000:1)
送液条件:グラジェント分析条件
移動相のB濃度 5→80%(30分)
流量:1mL/min
注入量:10μL
【0084】
なお、吸着前後の濃度差から各化合物の球形吸着炭への吸着率を算出し、吸着選択性プロファイルを比較評価した。試験結果を表4に示した。
【0085】
【表4】

【0086】
(試験結果)
吸着力価の評価:今回使用した7ロットの球形吸着炭(試料−2)は、いずれもインドール、トリプトファン、インドール酢酸及びトリプタミンをよく吸着し、シアノコバラミンを吸着しなかった。また、その吸着率(%)はインドールを95%以上、トリプトファンを85%以上、インドール酢酸を85%以上、及びトリプタミンを95%以上吸着したのに対し、シアノコバラミンは20%以下しか吸着が認められなかった。各ロットの球形吸着炭への吸着量はほぼ同等の値を示した。
【実施例5】
【0087】
[実施例5:吸着選択性の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、特許第3522708号公報の実施例1に記載の製造方法によって製造した多孔性球状炭素性物質の内、酸化還元処理前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)及び原体となる球形吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))を使用した。
【0088】
吸着選択性の評価方法:
インドール、トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン、α−アミラーゼ、及びシアノコバラミンの6化合物を含むpH7.4のリン酸塩緩衝液(各化合物濃度0.1mg/mL)50mLに各球形吸着炭50mgを加え、室温で3時間振り混ぜたときの、液の各化合物の残存濃度をHPLCにより求めた。撹拌機は転倒回転型撹拌機(ロータ・ミックス)を使用し、撹拌速度は60rpmであった。その他の条件は実施例4と同様に行った。試験結果を表5及び図1に示した。
【0089】
【表5】

【0090】
(試験結果)
吸着選択性の評価:酸化還元前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)及び原体となる球形吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))は、いずれも、インドール、トリプトファン、インドール酢酸及びトリプタミンをよく吸着し、シアノコバラミン、α−アミラーゼはほとんど吸着しないという傾向を示した。
一方、酸化還元前の球形吸着炭(F−AST)、酸化処理後の球形吸着炭(O−AST)、水洗後の球形吸着炭(W−AST)、還元処理後の球形吸着炭(R−AST)、原体となる球形吸着炭(KDS)及び原体となる球吸吸着炭(KDS)を粉砕したもの(KDS(粉砕))への被吸着物質の吸着量は、インドール及びインドール酢酸においては、O−AST、およびW−ASTへの吸着量が低下したのに対し、還元処理後のR−AST、及びKDSへの吸着量が改善する傾向を示した。
一方、トリプトファン、トリプタミンにおいては、O−AST、及びW−ASTへの吸着量が増加し、還元処理後のR−AST、及びKDSへの吸着量が改善する傾向を示した。
【0091】
このように、本方法によれば、製造過程の酸化又は還元処理の程度による球形吸着炭の品質差に基づく吸着特性を評価することができる。
【実施例6】
【0092】
[実施例6:吸着選択性の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、実施例3と同様に、4種の球形吸着炭(Kre、Kyu、Mer、及びYak)を使用した。
【0093】
吸着選択性の評価方法:
インドール、トリプトファン、インドール酢酸、トリプタミン、及びシアノコバラミンの5化合物を含むpH7.4のリン酸塩緩衝液(各化合物濃度0.1mg/mL)50mLに球形吸着炭100mgを加え、37℃で3時間振り混ぜたときの、試験液中の各化合物の残存濃度をHPLCにより求めた。撹拌機は転倒回転型撹拌機(ロータ・ミックス)を使用し、撹拌速度は60rpmであった。その他の条件は実施例4と同様に行った。試験結果を表6、及び図2に示した。
【0094】
【表6】

【0095】
(試験結果)
吸着選択性の評価:Kreはインドール、トリプトファン、インドール酢酸及びトリプタミンをよく吸着し、シアノコバラミンをほとんど吸着しなかった。これに対し、Merはインドール及びトリプタミンをある程度吸着するが、トリプトファン、インドール酢酸、及びシアノコバラミンをほとんど吸着しなかった。Kyuはインドール、及びトリプタミンをよく吸着するが、トリプトファン、インドール酢酸を若干吸着し、シアノコバラミンをほとんど吸着しなかった。また、薬用炭は吸着選択性を示さず、試験に用いた全ての化合物を吸着した。
【0096】
以上の結果より、本発明にかかる試験方法は、各球形吸着炭の吸着特性の違いを明確に示すことができる方法であると考えられた。また、本発明にかかる試験方法によれば高品質の医薬品を安定的に供給することが可能になると考えられた。
【実施例7】
【0097】
[実施例7:吸着速度の評価試験]
(試験方法)
試料:球形吸着炭として、クレメジン(登録商標)細粒(製造元 クレハ、製造番号 74K2)(Kre)、クレメジン(登録商標)カプセル(製造元 クレハ、製造番号74K2)(Kre(カプセル))、メルクメジン(登録商標)細粒(製造元 メルク製薬、製造番号 0380MK)(Mer)、及びキューカル(登録商標)細粒(製造元 テイコクメディックス、製造番号 6EB)(Kyu)を使用した。試験に使用したそれぞれの球形吸着炭は購入した。
【0098】
吸着速度の評価方法:
吸着速度(インビトロ生物学的同等性試験)の評価は、製剤等の溶出試験で用いられる日局パドル法100回転の溶出試験と同様な方法により行なった。被吸着化合物としてインドール1.0mg/mLを使用し、pH7.4のリン酸緩衝液に溶解させて試験液(900mL)とし、球形吸着炭を300mg添加して、一定時間(15分、30分、60分、120分、180分)における吸着量、すなわち、インドール吸着容量(Indole adsorption capacity)(IAC)、を測定することにより、吸着速度を算出した。試験結果を表7及び図3に示した。
【0099】
【表7】

【0100】
(試験結果)
吸着速度の評価:Kreは細粒及びカプセルは、各々15分で406mg/g及び245mg/g、30分で548mg/g及び438mg/g、60分で716mg/g及び675mg/gのインドールを吸着し、60分以上では共にインドールの吸着量は700mg/g±10%に達した。一方、Mer(細粒)及びKyu(細粒)は、15分で183mg/g及び385mg/g、30分で223mg/g及び455mg/g、及び60分で278mg/g及び488mg/gのインドールを吸着し、その後、該吸着量は、約300mg/g及び約500mg/gで平衡に達した。このことからKreは剤型によらず、同様な吸着速度を示す。一方、後発品であるMer(細粒)及びKyu(細粒)は、本吸着速度の評価においてKre(細粒及びカプセル)と異なる値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
クレメジン(登録商標)に代表される球形吸着炭は厳密な原料及び製造方法の管理がなされて製造されているものであり、その物理構造が毒素への吸着に大きく影響し、その薬効にも関与するものと考えられる物理学的医薬品である。
【0102】
本発明にかかる試験方法によれば、球形吸着炭、特にクレメジン(登録商標)の物理構造等に起因すると考えられる吸着特性を適正に評価することができ、高品質の医薬品を安定的に供給することが可能になる。また、同時にクレメジン(登録商標)の後発医薬品において、その吸着特性に関する同等性を適正に評価することが可能となる。
【0103】
以上、本発明の具体的な態様のいくつかを詳細に説明したが、当業者であれば示された特定の態様には、本発明の教示と利点から実質的に逸脱しない範囲で様々な修正と変更をなすことは可能である。従って、そのような修正及び変更も、すべて後記の請求の範囲で請求される本発明の精神と範囲内に含まれるものである。
【0104】
本出願は、米国仮出願61/182,231を基礎としており、その内容は本明細書に全て包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被吸着物質として、特定の尿毒症毒素物質及び/又はそれと共通した化学構造を有する化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする、球形吸着炭の吸着試験方法。
【請求項2】
球形吸着炭の吸着試験方法が、吸着力価試験方法、吸着速度試験方法、及び吸着選択性試験方法からなる群から選択される少なくとも1種の試験方法である、請求項1記載の試験方法。
【請求項3】
球形吸着炭が、多孔性球状炭素質物質からなる経口投与用吸着剤である、請求項1又は2に記載の試験方法。
【請求項4】
特定の尿毒症毒素物質が、以下の条件を満たすものである、請求項3記載の試験方法。
(i)被験物質である球形吸着炭への吸着において、吸着平衡(吸着飽和)に達するまでに要する時間が24時間以内であり、かつ、
(ii)その際の吸着率が20〜80%である。
【請求項5】
被吸着物質として、尿毒症毒素物質及び/又はそれと共通した化学構造を有する化合物を含有する試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する各被吸着物質の濃度又は量を測定する工程を含むことを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1項記載の試験方法。
【請求項6】
被吸着物質として、特定の尿毒症毒素物質といずれも共通した化学構造を有する4種の化合物を同時に含有する試験液を用いることを特徴とする請求項2に記載の球形吸着炭の吸着選択性試験方法であって、
当該4種の化合物が、
(1)疎水性基を有する化合物、
(2)親水性基を有する化合物、
(3)酸性基を有する化合物、及び
(4)塩基性基を有する化合物
である、試験方法。
【請求項7】
特定の尿毒症毒素物質がインドールであり、被吸着物質として含有される共通した化学構造を有する4種の化合物が、
(1)疎水性基を有する化合物としてのインドール、
(2)親水性基を有する化合物としてのトリプトファン、
(3)酸性基を有する化合物としてのインドール酢酸、及び
(4)塩基性基を有する化合物としてのトリプタミン
である、請求項6記載の試験方法。
【請求項8】
被吸着物質として、さらに、分子量が1000〜1500である高分子化合物を同時に試験液中に含有するものである、請求項6又は7に記載の試験方法。
【請求項9】
分子量が1000〜1500である高分子化合物が、シアノコバラミンである、請求項8記載の試験方法。
【請求項10】
被吸着物質を含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存する各被吸着物質の濃度又は量を測定する工程を含むものである、請求項6乃至9のいずれか1項記載の試験方法。
【請求項11】
球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.05〜0.5mg/mLである、請求項10記載の試験方法。
【請求項12】
球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.05〜0.2mg/mLである、請求項11記載の試験方法。
【請求項13】
球形吸着炭を添加する前の試験液中の各被吸着物質の濃度が、各々0.1mg/mLである、請求項12記載の試験方法。
【請求項14】
試験液が、pH6〜8のリン酸緩衝液に各被吸着物質を溶解させたものである、請求項10乃至13のいずれか1項記載の試験方法。
【請求項15】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、10〜300mgである、請求項14記載の試験方法。
【請求項16】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、40〜120mgである、請求項15記載の試験方法。
【請求項17】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、50mg又は100mgである、請求項16記載の試験方法。
【請求項18】
試験液の容量が10〜300mLである、請求項15乃至17のいずれか1項記載の試験方法。
【請求項19】
試験液の容量が30〜100mLである、請求項18記載の試験方法。
【請求項20】
試験液の容量が50mLである、請求項19記載の試験方法。
【請求項21】
吸着に付す時間が1〜6時間であり、温度が10〜50℃である、請求項10乃至20いずれか1項記載の試験方法。
【請求項22】
被吸着物質として、尿毒症毒素物質又はその関連化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする球形吸着炭の吸着力価試験方法であって、球形吸着炭を添加する前の試験液中の尿毒症毒素物質又はその関連化合物の濃度が0.1〜10mg/mLである試験方法。
【請求項23】
尿毒症毒素物質又はその関連化合物がインドールである、請求項22記載の試験方法。
【請求項24】
インドールの濃度が0.5〜1.5mg/mLである、請求項23記載の試験方法。
【請求項25】
被吸着物質としてインドールを含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存するインドールの濃度又は量を測定する工程を含むものである、請求項23又は24に記載の試験方法。
【請求項26】
試験液がpH6〜8のリン酸緩衝液に被吸着物質を溶解させたものである、請求項22乃至25のいずれか1項記載の試験方法。
【請求項27】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液50mLあたり、10〜30mgである、請求項26記載の試験方法。
【請求項28】
試験液の容量が30〜100mLである、請求項27記載の試験方法。
【請求項29】
試験液の容量が50mLである、請求項28記載の試験方法。
【請求項30】
吸着に付す時間が1〜6時間であり、温度が10〜50℃である、請求項25乃至29いずれか1項記載の試験方法。
【請求項31】
被吸着物質として、尿毒症毒素物質又はその関連化合物を含有する試験液を用いることを特徴とする球形吸着炭の吸着速度試験方法であって、球形吸着炭を添加する前の試験液中の尿毒症毒素物質又はその関連化合物の濃度が0.1〜10mg/mLである試験方法。
【請求項32】
尿毒症毒素物質又はその関連化合物がインドールである、請求項31記載の試験方法。
【請求項33】
インドールの濃度が0.5〜1.5mg/mLである、請求項32記載の試験方法。
【請求項34】
被吸着物質としてインドールを含む試験液に、試験対象とする球形吸着炭を添加して攪拌下、一定温度で一定時間、吸着に付する工程、及び当該球形吸着炭を除く試験液中に残存するインドールの濃度又は量を測定する工程を含むものである、請求項32又は33に記載の試験方法。
【請求項35】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液900mLあたり、100〜600mgである、請求項34記載の試験方法。
【請求項36】
試験対象とする球形吸着炭の添加量が、試験液900mLあたり、180〜540mgである、請求項35記載の試験方法。
【請求項37】
試験液の容量が900mLである、請求項35又は36に記載の試験方法。
【請求項38】
試験方法が、日局パドル法50回転もしくは100回転、及び/又は日局バスケット法100回転の溶出試験に準じたものである、請求項31乃至37のいずれか1項記載の試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−528299(P2012−528299A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−550352(P2011−550352)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/JP2010/059485
【国際公開番号】WO2010/137741
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)