説明

球状弾性表面波素子、回転角度測定装置及び回転角度測定方法

【課題】 平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぎつつ、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現する。
【解決手段】 球状部材11の表面に弾性表面波を励起し、球状部材11の回転運動に応じて伝搬方向を変化させた弾性表面波を検出する構成により、従来の平面型の弾性表面波ジャイロとは異なり、反射器を備える必要が無いので、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現できる。また、球状弾性表面波素子により実現するので、平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぐことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状弾性表面波素子、回転角度測定装置及び回転角度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、弾性表面波を利用した高周波信号処理用電子デバイス、高周波フィルタ、あるいは弾性表面波の伝搬路面測定センサといった弾性表面波デバイスが実用化されつつある。
【0003】
弾性表面波デバイスは、弾性表面波の伝搬速度が電磁波に比べて非常に遅いため、信号処理デバイスとして非常に小型に作り込むことが可能である。また、電磁波を一旦、弾性表面波に変換することで、周波数フィルタ、非線型現象を利用した高調波発振素子、あるいは光と弾性波の相互作用に基づく光変調素子など、様々な信号処理デバイスに応用することが可能である。
【0004】
これら応用が可能なことは、弾性表面波が電気信号、電磁波、圧力、化学的な環境の変化に影響されて容易に変化する性質をもつことによる。各素子においては、通常、電気信号が弾性表面波に変換され、弾性表面波が周囲の環境と何らかの相互作用をした後、再度、電気信号に変換される。すなわち、各素子では、弾性表面波が電気信号に比べて周囲の環境に影響され易いことから、弾性表面波が電気回路の一部でのみ利用されている。
【0005】
一方、電気信号は、弾性表面波とは異なり、伝搬経路(配線)に沿って外部からの影響を受けず、ほとんど減衰もせずに安定して伝搬し、情報を次の信号処理プロセスに伝達することが可能である。このような電気信号の安定性が、様々な電気回路の利用を促進し、今日のエレクトロニクス産業の発展に繋がっている。
【0006】
また、電気信号と同様に安定している光信号を用いた光回路と呼ばれるものも提案されている。光回路は電磁波の影響を受けることなく非常に安定して、大量の情報を光ファイバにより送信可能にするものである。光回路を用いる光基板の実用化も進められており、強誘電体に光基板を作成したり、液晶を使ってスイッチを作成したり、干渉縞パターンを使って周波数フィルタ(波長フィルタ)を作成したりして、論理演算回路を構築することも提案されている。
【0007】
しかしながら、弾性表面波は、前述した通り、周囲の環境に影響され易いことから、これら電気信号や光信号とは異なり、各素子の一部でのみ用いられる状況にある。事実、弾性表面波を情報の伝達用に使った回路はほとんど実用化されていない。弾性表面波を効率良く長い距離伝搬させることが困難であることが、その原因の一つである。
【0008】
そこで、弾性表面波を安定して送受するために弾性表面波の導波路が考えられている。
【0009】
しかしながら、高周波信号等の情報を載せた弾性表面波を導波路上で伝搬させた場合、電磁波よりも遥かに多様な影響を媒質の構造から受けてしまう。その結果、弾性表面波は、様々な弾性波モードに変換されて制御が難しくなる。
【0010】
また、弾性表面波は回折により拡散するが、回折現象を抑える為の導波路を平面基板上に作ることが非常に困難な状況にある。
【0011】
弾性表面波デバイスでは、導波路に限らず、スイッチやアンプ、加算回路など半導体部品で実現されている機能の多くは実現が困難である。このため、半導体部品に相当する機能を、部分的に弾性表面波を用いて実現するよりも、一旦電気信号に変換して電子回路で実現するのが通例である。
【0012】
また、弾性表面波デバイスでは、弾性表面波同士を相互作用させたり、弾性波の振動パターンの情報を一定時間保持(記憶)させる機能を持たせることも困難であるため、弾性表面波を情報処理や情報伝達に用いたデバイス、弾性表面波回路と呼べるものは実現されていない。
【0013】
一方、弾性表面波デバイスに球状弾性表面波素子を利用したものがある。球状弾性表面波素子は圧電結晶球の表面にすだれ状電極を単独あるいは個別に形成したもので、弾性表面波の励起と検出を行う。
【0014】
この球状弾性表面波素子を利用した弾性表面波デバイスでは、球表面に弾性表面波を周回させる事によって、実質的に非常に長い距離を伝搬させて、周回毎の伝搬速度の僅かな変化を検知することができる。
【0015】
また、球状弾性表面波素子の表面では、素子表面を1周回するのに必要な時間(周回時間)に比較して非常に長い時間、弾性表面波を位相情報も含めて保存することができる。更に、弾性表面波を励起する際のビーム幅を波長と球の直径によって決まる値の範囲にすることで、弾性表面波のエネルギーを殆ど拡散させずに、非常に狭い経路を伝搬させることができる。なお、ビーム幅は、弾性表面波励起手段がすだれ状電極である場合、その電極の重なり幅で設計できる。
【0016】
そして、弾性表面波の周回時間や、周回経路が弾性表面波の波長の整数倍になる状態を出力情報から検知して指標とし、弾性表面波の伝搬状態の変化から温度測定や周回経路上の感応膜の変化を検知するセンサを構成することもできる。
【0017】
係るセンサには、例えば、特定のガスによって弾性表面波の伝搬速度を変える感応膜を有する球状弾性表面波素子を使用し、複数の伝搬路の弾性表面波の出力を比較する事で温度等の変動要因を校正し、特定のガスの濃度を正確に測ろうとする方法などがある。
この方法では、同一の3次元基体の上に複数のすだれ状電極を形成し、励起用の高周波信号を印加して複数の周回経路に弾性表面波を励起する必要がある。また、複数の検出手段からの出力を別個にデジタル数値化して比較する必要がある。
【0018】
また、上記のセンサ等では、複数の伝搬路を伝搬する複数の弾性表面波のエネルギーを互いに交換させて、相互作用を働かせるなどのスイッチなどが望まれている。
【0019】
一方、弾性表面波素子は、上述したようなセンサに限らず、回転や方位の変化を検知測定するためのジャイロへの利用が提案されていた(例えば、特許文献1参照。)。ここで、図20に示すように、平面型ジャイロ40は、弾性波基体41上に、定在波励起用すだれ状電極42a、42b、反射器43a,43b、弾性表面波摂動体44及び弾性表面波検出用すだれ状電極45a、45bを備えている。まず、定在波励起用すだれ状電極42a、42bは、弾性波基体41表面に弾性表面波を励起する。励起された弾性表面波は、基体表面を紙面左右方向に伝搬し、両端の反射器43a、43bで反射され、反射器43a,43b間に定在波を形成する。定在波の腹の部分では、弾性表面波摂動体44により基体垂直方向に振動成分を持った垂直振動が発生する。このとき、平面型ジャイロ40が回転すると、弾性波基体41の回転運動に応じて、定在波の腹の垂直振動がコリオリの力によって楕円状の振動に変化する。この結果、レーリー波等の進行する弾性波が発生し、弾性表面波摂動体44から定在波の経路と直交する方向に伝搬する。この弾性波を、弾性表面波検出用すだれ状電極45a又は45bにより検出する。このようなジャイロは実現されれば、機械的な構造が無く、動作が安定しており、高周波化による高感度化が容易となる。
【特許文献1】特開平8−334330号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
以上説明したように弾性表面波デバイスでは、弾性表面波を長い距離安定に伝搬させることは困難である。また、回路を形成する為に、複数の伝搬路を重ねた領域を設けても、弾性表面波を分岐したり、エネルギーを交換したり、他の伝搬路の弾性表面波に影響を与えることは、弾性表面波の線形性ゆえに不可能であった。すなわち、伝搬路が空間的に交わっても、弾性表面波同士は相互作用せず、互いに影響を与えることはできなかった。
【0021】
これに伴い、一方の伝搬路を伝搬する弾性表面波によって、他の伝搬路を伝搬する弾性表面波を操作するスイッチなどの如き、弾性表面波回路を構成することはできなかった。
【0022】
さらに、狭いビーム幅の弾性表面波を、所定の経路に伝搬させ、外部から摂動を加えて、新たな弾性表面波を励起して伝搬させたり、他の伝搬路に分岐させたりする機能をもった信号経路を実現することは困難であった。
【0023】
一方、従来の平面型ジャイロは、弾性表面波の定在波を励起するために、2つの定在波励起用すだれ状電極42a、42b、が夫々反射器43a、43bを必要とする。そのため、反射器43a、43bによりデバイスの大型化を必然的に招いてしまう。
【0024】
また、平面型ジャイロは、平面基体が回転しない状態でも、特定の伝搬路に閉じ込めた弾性表面波が、伝搬路を往復する伝搬過程で弾性表面波摂動体により回折を受けるために、エネルギーを回折現象により両端方向に漏洩してしまう。
【0025】
そのため、平面型ジャイロは、弾性表面波が高いエネルギー密度で伝搬している伝搬路、例えば回転による摂動により伝搬路を外れる方向にエネルギーを漏らすジャイロを作ろうとしても、感度の高いジャイロを構成することは困難である。
【0026】
本発明は上記実情を考慮してなされたもので、安定したビーム状の弾性表面波の伝搬を可能にし、複数の伝搬路が重なる領域において弾性表面波同士の相互作用を実現でき、弾性表面波回路の実現に寄与し得る球状弾性表面波素子を提供することを目的とする。
【0027】
さらに本発明の他の目的は、平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぎつつ、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現し得る球状弾性表面波素子、回転角度測定装置及び回転角度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
請求項1に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、前記弾性表面波を前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ回折させる弾性表面波回折手段と、前記弾性表面波回折手段により回折させた弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを有する球状弾性表面波素子であって、前記伝搬路は、任意の2本が互いに2箇所で交差する2つの交差領域あるいは互いに1箇所で接続する1つの接続領域を共有する複数本の伝搬経路を備え、前記弾性表面波回折手段は、前記伝搬路の交差領域あるいは接続領域の少なくとも1箇所に形成される球状弾性表面波素子である。
【0029】
請求項2に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な円環状の伝搬経路からなる第1伝搬路と、前記第1伝搬路に2箇所で交差するあるいは1箇所で接続する第2伝搬路と、前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とを含む球表面の少なくとも一部よりなる複数の伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記第1伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、前記第1伝搬路を伝搬する弾性表面波を前記第2伝搬路へ回折させる弾性表面波回折手段と、前記弾性表面波回折手段により前記第2伝搬路へ回折させた弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを有する球状弾性表面波素子であって、前記弾性表面波回折手段は、前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とが交差する交差領域あるいは前記接続する接続領域のうち、少なくとも1箇所に形成される球状弾性表面波素子である。
【0030】
請求項3に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路を伝搬する第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路における伝搬方向とは異なる方向に第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、前記弾性表面波摂動手段により異なる伝搬方向へ励起して伝搬させた第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを有する球状弾性表面波素子であって、前記伝搬路は、任意の2本が互いに2箇所で交差する2つの交差領域あるいは互いに1箇所で接続する1つの接続領域を共有する複数本の伝搬経路を備え、前記弾性表面波摂動手段は、前記伝搬路の交差領域あるいは接続領域の少なくとも1箇所に形成される球状弾性表面波素子である。
【0031】
請求項4に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な円環状の伝搬経路からなる第1伝搬路と、前記第1伝搬路に2箇所で交差するあるいは1箇所で接続する第2伝搬路と、前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とを含む球表面の少なくとも一部よりなる複数の伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記第1伝搬路を伝搬する第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記第1伝搬路から前記第2伝搬路へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、前記弾性表面波摂動手段により前記第2伝搬路へ励起して伝搬された第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを有する球状弾性表面波素子であって、前記弾性表面波摂動手段は、前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とが交差する交差領域あるいは前記接続する接続領域のうち、少なくとも1箇所に形成される球状弾性表面波素子である。
【0032】
請求項5に対応する発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に対応する球状弾性表面波素子において、前記伝搬路の少なくとも1つは、弾性表面波が周回可能な連続した曲面からなる周回経路を備えた球状弾性表面波素子である。
【0033】
請求項6に対応する発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか一項に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波検出手段及び/又は前記弾性表面波励起手段を複数備えるとき、少なくとも1組の弾性表面波検出手段及び弾性表面波励起手段は、互いに同一のすだれ状電極からなる球状弾性表面波素子である。
【0034】
請求項7に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、前記3次元基体の回転運動に応じて、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、前記弾性表面波摂動手段により異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを備えた球状弾性表面波素子である。
【0035】
請求項8に対応する発明は、請求項7に対応する球状弾性表面波素子において、前記伝搬路は、連続した曲面からなる円環状の表面を有し、この円環状の表面の少なくとも一部には、前記弾性表面波を周回させるための周回経路を備えた球状弾性表面波素子である。
【0036】
請求項9に対応する発明は、請求項8に対応する球状弾性表面波素子において、前記3次元基体は、互いに交わる複数の前記伝搬路と当該各伝搬路に形成された周回経路とを有し、前記弾性表面波波検出手段は、前記励起された第2の弾性表面波が周回する周回経路とは異なる周回経路上に配置された球状弾性表面波素子である。
【0037】
請求項10に対応する発明は、請求項8または請求項9に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波励起手段は、前記周回経路に沿って前記第1の弾性表面波の定在波を励起し、前記弾性表面波摂動手段は、前記周回経路の一部の領域で且つ前記定在波の振幅が極大となる位置に周期的に形成され、当該振幅が極小となる位置とは密度及び/又は高さの異なる構造物からなる球状弾性表面波素子である。
【0038】
請求項11に対応する発明は、請求項8又は請求項9に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波励起手段は、前記3次元基体の表面を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起し、前記周回する第1の弾性表面波を干渉させることで周回経路上の少なくとも一部に定在波を発生させる機能を有し、前記弾性表面波摂動手段は、前記3次元基体の回転運動に応じて、前記定在波を構成する弾性表面波に摂動を加え、当該周回方向とは異なる方向に第2の弾性表面波を励起して伝搬させるように、前記定在波の腹の位置に密度及び/又は高さの異なる構造物を設けた球状弾性表面波素子である。
【0039】
請求項12に対応する発明は、請求項8乃至請求項11のいずれか1項に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波励起手段は、少なくとも2つの周回経路にそれぞれ配置され、前記弾性表面波摂動手段は、前記3次元基体の3軸方向の回転運動に応じて、前記周回経路を伝搬する第1の弾性表面波に個別に摂動を加え、前記周回経路とは異なる方向に第2の弾性表面波を個別に励起して伝搬させるように当該各周回経路に少なくとも1つ形成され且つ合計で複数形成され、前記弾性表面波検出手段は、前記複数の弾性表面波摂動手段により励起して伝搬された第2の弾性表面波を検出するように3つの伝搬路にそれぞれ配置された球状弾性表面波素子である。
【0040】
請求項13に対応する発明は、請求項1乃至請求項12のいずれか1項に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波励起手段は、前記3次元基体の表面に接するかあるいは近接して設けられ、前記駆動信号の電界を印加するためのすだれ状電極と、このすだれ状電極から印加される電界を圧電効果により弾性表面波に変換するための圧電性材料とからなる球状弾性表面波素子である。
【0041】
請求項14に対応する発明は、請求項1乃至請求項13のいずれか1項に対応する球状弾性表面波素子において、前記3次元基体は、圧電性結晶である球状弾性表面波素子である。
【0042】
請求項15に対応する発明は、請求項1乃至請求項14のいずれか1項に対応する球状弾性表面波素子において、前記弾性表面波検出手段は、前記弾性表面波を圧電効果により電界に変換するための圧電性材料と、この電界に応じた検出信号を出力するためのすだれ状電極とからなる球状弾性表面波素子である。
【0043】
請求項16に対応する発明は、請求項4乃至請求項15のいずれか1項に対応する球状弾性表面波素子の回転角度測定装置であって、高周波信号を前記駆動信号として前記弾性表面波励起手段に入力する駆動信号入力手段と、前記駆動信号の入力後、前記3次元基体の回転運動に応じて前記摂動が弾性表面波に加わり、前記弾性表面波検出手段から出力された検出信号に基づいて、前記3次元基体の回転角度を測定する回転角度測定手段とを備えた回転角度測定装置である。
【0044】
請求項17に対応する発明は、弾性表面波を伝搬可能な伝搬路を有する3次元基体と、入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と、前記3次元基体の回転運動に応じて、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを備えた球状弾性表面波素子の回転角度測定方法であって、高周波信号を前記駆動信号として前記弾性表面波励起手段に入力する駆動信号入力ステップと、前記弾性表面波励起手段により高周波信号に応じて前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起する弾性表面波励起ステップと、前記第1の弾性表面波が前記伝搬路を伝搬中に、前記3次元基体の回転運動に応じて、前記弾性表面波摂動手段が当該伝搬中の第1の弾性表面波に摂動を加えて伝搬方向とは異なる方向へ伝搬させる摂動ステップと、異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出ステップと、前記検出信号に基づいて、前記3次元基体の回転角度を測定する回転角度測定ステップとを備えた回転角度測定方法である。
【0045】
請求項18に対応する発明は、請求項17に対応する回転角度測定方法において、前記弾性表面波摂動手段は、前記弾性表面波励起手段により励起される定在波の腹の位置に密度及び/又は高さの異なる構造物を備えており、前記弾性表面波励起ステップは、前記3次元基体の表面上を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起して、干渉させることで周回経路上の少なくとも前記構造物の存在する領域に定在波を発生させる定在波発生ステップとを含んでおり、前記摂動ステップは、前記腹の位置の振動に、前記3次元基体の回転運動を作用させるステップと、前記作用により、前記腹の位置で振動している第1の弾性表面波を当該回転運動の方向に従って伝搬させるステップとを備えた球状弾性表面波素子の回転角度測定方法である。
【0046】
請求項19に対応する発明は、請求項17又は請求項18に対応する回転角度測定方法において、前記高周波信号は高周波バースト信号であり、前記回転角度測定ステップは、前記高周波バースト信号の入力を停止した後に、前記検出信号を受信するステップと、受信した検出信号に基づいて、前記測定を実行するステップとを備えた回転角度測定方法である。
【0047】
請求項20に対応する発明は、請求項18又は請求項19に対応する回転角度測定方法において、前記弾性表面波励起ステップが、前記3次元基体の表面上を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起して、干渉させることで周回経路上の少なくとも前記構造物の存在する領域に定在波を発生させる定在波発生ステップとを含むとき、前記定在波を前記弾性表面波励起手段あるいは前記周回経路上に形成される弾性表面波検出手段により検出し、周回検出信号を出力するステップと、前記周回検出信号に基づいて、前記定在波の強度を測定するステップと、この測定により得られる強度値を上昇させるように前記高周波信号の周波数を調整するステップと、前記調整した周波数をもつ高周波信号を入力し、前記定在波を発生させるステップとを備えた回転角度測定方法である。
【0048】
なお、請求項1から3において励起された弾性表面波は1回の回折あるいは1回の摂動によって異なる方向あるいは異なる伝搬路に伝搬した後に弾性表面波検出手段で検出される必要はない。つまり、弾性表面波を励起した伝搬路と弾性表面波検出手段の存在する伝搬路との間に、複数の弾性表面波回折手段と伝搬路が介在することを本発明は除かない。
【0049】
さらに詳しく説明すると、第1伝搬路上で弾性表面波励起手段が励起した弾性表面波を一の弾性表面波回折手段によって第2伝搬路上に伝搬させ、さらに他の弾性表面波回折手段によって第2伝搬路上から第3伝搬路上に伝搬させ、さらに他の伝搬路上に伝搬させた後に弾性表面波検出手段で検出してもよい。
【0050】
さらに、弾性表面波回折手段、弾性表面波摂動手段、弾性表面波励起手段、弾性表面波検出手段はそれぞれ一個である必要はない。また、同一の連続した伝搬路上に夫々複数存在しても良いものとする。
【0051】
<用語>
ここで、本発明において、「弾性表面波」と表記している波は、境界波、回廊波、内郭を周回する表面波、弾性表面波、漏洩弾性表面波、擬似弾性表面波、擬似漏洩弾性表面波等、表面にエネルギーを集中させて伝搬する弾性波全般を包含する。
【0052】
同様に、本発明においては、球形の境界を持つ弾性表面波素子(球状弾性境界波素子)も球形の表面あるいは境界を弾性表面波が伝搬する現象に基いた素子であれば、球状弾性表面波素子と呼ぶこととする。例えば球状弾性表面波素子は、3次元基体が球形状の素子に限らず、伝搬路が球形の表面を有していれば、半球表面しか有しない場合や、球形状の一部が平面形状など他の形状に加工されている素子をも包含する。
【0053】
なお、本明細書中、「摂動」の語は、外部からの積極的な作用(例、3次元基体の回転運動等)により弾性表面波の伝搬状態を変化させる作用を称し、外部からの積極的な作用を含まない回折体又は摂動体の構造による弾性表面波の「回折」と区別して表現している。しかしながら、実際の波の伝搬に影響を与えたり、その一部のエネルギーを用いて新たな波を励起する力学的あるいは電磁気学的な現象は種々あり、それらの種々の現象をこの2つの表現(「摂動」、「回折」)によって包含させている。このため、個別の実施においては、これらの種々の現象であれば2つの表現に包含されるので、更に2つの表現のいずれに相当するものかを調べることは不要である。
【0054】
<作用>
従って、請求項1,2に対応する発明は以上のような手段を講じたことにより、3次元基体の表面に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波を回折させる弾性表面波回折体を伝搬路の交差領域又は接続領域に備えた構成により、安定したビーム状の弾性表面波の伝搬を可能にし、複数の伝搬路が重なる領域において弾性表面波同士の相互作用を実現するので、弾性表面波回路の実現に寄与する球状弾性表面波素子を提供することができる。
【0055】
請求項3,4に対応する発明は、3次元基体の表面に弾性表面波を励起し、励起された弾性表面波の伝搬方向とは異なる伝搬方向へ弾性表面波を伝搬させる弾性表面波摂動体を伝搬路の交差領域又は接続領域に備えた構成により、安定したビーム状の弾性表面波の伝搬を可能にし、複数の伝搬路が重なる領域において弾性表面波同士の相互作用を実現するので、弾性表面波回路の実現に寄与する球状弾性表面波素子を提供することができる。
【0056】
請求項5に対応する発明は、請求項1〜4に対応する作用に加え、伝搬路を弾性表面波が周回可能な周回経路としているので、実質的に非常に長い距離を弾性表面波に周回させることができ、各種の検出又は測定のための弾性表面波回路に好適な球状弾性表面波素子を提供することができる。
【0057】
請求項6に対応する発明は、請求項1〜5に対応する作用に加え、弾性表面波検出手段と弾性表面波励起手段を同一のすだれ状電極とした構成にしているので、構造が簡単な球状弾性表面波素子を提供することができる。
【0058】
請求項7に対応する発明は、3次元基体の表面に弾性表面波を励起し、3次元基体の回転運動に応じて摂動を加えて励起される弾性表面波を検出する構成により、従来の平面型の弾性表面波素子とは異なり、反射器を備える必要が無いので、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現することができる。また、球状弾性表面波素子により実現するので、平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぐことができる。
【0059】
請求項8に対応する発明は、請求項7に対応する作用に加え、3次元基体が連続した曲面からなる円環状の表面を有しているため、弾性表面波の周回経路を形成することができる。励起する弾性表面波を周回させることができるため、反射器を備える必要がないので小型のジャイロをを実現することができる。
【0060】
請求項9に対応する発明は、請求項8に対応する作用に加え、摂動によって励起した弾性表面波の回折波検出手段が異なる周回経路上に配置されるので、効率良く弾性表面波を検出することができる。これにより、効率良く回転量を求めることが可能となる。
【0061】
請求項10,11に対応する発明は、請求項8,9に対応する作用に加え、弾性表面波を定在波にして強度を増大させると共に、弾性表面波摂動手段として密度及び/又は高さの異なる構造物を設けることで、弾性表面波の伝搬方向を変化させることができる。これにより、回転量を求めることが可能となる。
【0062】
請求項12に対応する発明は、請求項8〜11に対応する作用に加え、複数の弾性表面波を発生させ、3次元基体の3軸方向の回転運動に応じて個別に弾性表面波の伝搬方向を変化及び検出させるため、3次元的な回転方位を検出でき、もって、3軸測定が可能な素子を提供することができる。
【0063】
請求項13に対応する発明は、請求項1〜12に対応する作用に加え、弾性表面波励起手段をすだれ状電極及び圧電性材料から構成したので、効率的に弾性表面波を励起することができる。これにより、効率良く回転量を求めることが可能となる。
【0064】
請求項14に対応する発明は、請求項1〜13に対応する作用に加え、3次元基体に圧電性結晶を用いているので、圧電性薄膜の成膜等のプロセスを用いずに伝搬路を形成することができる。これにより、素子の製造工程を容易にすることができる。
【0065】
請求項15に対応する発明は、請求項1〜14に対応する作用に加え、弾性表面波検出手段をすだれ状電極及び圧電性材料から構成したので、伝搬路による伝搬方向とは異なる方向に伝搬させた弾性表面波を効率的に検出することができる。これにより、効率良く回転量を求めることが可能となる。
【0066】
請求項16に対応する発明は、請求項4〜15に対応する作用に加え、球状弾性表面波素子の3次元基体の回転運動に応じて伝搬方向を変化させた弾性表面波を検出し、球状弾性表面波素子の回転角度を求めることができる。
【0067】
請求項17に対応する発明は、球状弾性表面波素子の3次元基体の回転運動に応じて摂動をうけ励起された弾性表面波を検出し、球状弾性表面波素子の回転角度を求めることができる。また、請求項7に対応する作用と同様に、反射器を備える必要が無いので、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現することができる。
【0068】
請求項18に対応する発明は、請求項17に対応する作用に加え、励起される弾性表面波を定在波にしている。これにより、弾性表面波励起手段における弾性表面波の振動強度を増大させることができるので、効率良く回転量を求めることができる。
【0069】
請求項19に対応する発明は、請求項17または18に対応する作用に加え、駆動信号としての高周波バースト信号の入力を停止してから、伝搬方向を変化させた弾性表面波を測定することにより、高いSN比を獲得して検出感度を向上させることができる。
【0070】
請求項20に対応する発明は、請求項18,19に対応する作用に加え、駆動信号の周波数を調整することで弾性表面波の共振状態を維持し、常に十分な強度の定在波を弾性表面波摂動手段の構造物に対して適切な位相で励起することができる。従って、回転角度を測定する際には、弾性表面波摂動手段における弾性表面波の振動強度を強めると共に安定させることができ、もって、測定感度と精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0071】
以上説明したように本発明によれば、安定したビーム状の弾性表面波の伝搬を可能にし、複数の伝搬路が重なる領域において弾性表面波同士の相互作用を実現でき、弾性表面波回路の実現に寄与できる球状弾性表面波素子を提供することができる。
【0072】
さらに本発明によれば、平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぎつつ、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現し得る弾性表面波素子、回転角度測定装置及び方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0073】
以下、本発明の各実施形態について図面を参照しながら説明するが、その前に本発明の前提となる球状弾性表面波素子の概要を述べる。なお、以下の説明において、同種の部分には同一の符号を付して重複した説明は省略する。
【0074】
図21は一般的な球状弾性表面波素子の構成を示す模式図である。球状弾性表面波素子50は、弾性表面波の伝搬路を有する球状部材51、励起用すだれ状電極52を備えている。
【0075】
球状部材51は、弾性表面波の伝搬路を有する3次元基体である。弾性表面波の伝搬路は、例えば球状のガラス部材51aの表面に圧電性材料ZnOの薄膜51bなどをスパッタ成膜して形成可能となっている。なお、球状部材51としては、圧電性結晶である水晶やLiNbO等を用いる場合、圧電性材料の薄膜51bを用いずに伝搬路を形成可能となる。水晶等の圧電性結晶は、弾性表面波の伝搬路となる特定の経路を有している。経路数はその結晶形により異なる。例えば、水晶の場合には、C軸を地軸とした赤道経路(以下、「Z軸シリンダ」という。)である。LiNbOの場合には10経路存在することが確認されている。また、BSO結晶と呼ばれる結晶の場合は4経路が存在する。
【0076】
励起用すだれ状電極52は、高周波信号源から一定周波数のRF(高周波)信号が印加されることにより、球状部材51表面の伝搬路に弾性表面波を励起可能となっている。
【0077】
以上のような球状弾性表面波素子は、励振される弾性表面波が球状部材の直径に沿って帯状に多重周回することを利用した素子である。そして、以下の(i),(ii)に述べるように使用することが可能である。
【0078】
(i)球状弾性表面波素子では、弾性表面波の回折効果と球状部材の幾何学的な特性のバランスを調整することにより、弾性表面波の位相波面を維持したまま伝搬させることができる。すなわち、弾性表面波をビームとして伝搬可能となっている。特に、3次元基体が球状部材で等方性を有する場合、周回経路のあらゆる場所で弾性表面波の位相波面を周回経路に垂直にするように設定可能である。この設定条件の算出方法は既によく知られている。但し、以下の各実施形態では、必ずしもこのように設定する必要はなく、ある程度ビームの幅が変化してもよい。
【0079】
(ii)励起用すだれ状電極として一方向性すだれ状電極を用いない場合、すだれ状電極に対して略垂直な両方向に弾性表面波が励起される。そのため、発生した弾性表面波は、球状部材の表面を周回し、定在波を形成可能となる。なお、すだれ状電極は、伝搬する弾性表面波を電気エネルギーとして測定回路に漏出するが、弾性表面波がすだれ状電極を通過する際に失う電気エネルギーは殆ど無い。そのため、数十回以上もしくは数百回程度、弾性表面波を伝搬路に周回させ続けることができる。さらに、弾性表面波が1周回する時間よりも長い時間にわたって高周波信号を入力すれば、その間は定在波を増幅しつつ発生させることが可能となる。以下の各実施形態は、大振幅を作り易い観点から定在波を形成する場合(励起用すだれ状電極として一方向性すだれ状電極を用いない場合)を例に挙げて説明する。但し、定在波は本発明に必須ではなく、一方向性すだれ状電極を用いてもよいことは言うまでもない。
【0080】
以上により、本発明の各実施形態の前提となる一般的な球状弾性表面波素子の説明を終了する。
【0081】
続いて、本発明の各実施形態について説明する。
【0082】
<第1の実施形態>
図1は本発明の第1の実施形態に係る球状弾性表面波素子の回転角度測定装置の構成を示す模式図である。この回転角度測定装置は、球状弾性表面波素子10、高周波信号源20、信号強度測定部21A、21Bを備えている。
【0083】
ここで、球状弾性表面波素子10は、球状部材11、定在波励起用すだれ状電極12、弾性表面波摂動体13、検出用すだれ状電極14A、14Bを備えている。
【0084】
球状部材11は、弾性表面波を伝搬可能な伝搬路を有する3次元基体であり、ここでは、直径10mmの水晶(圧電性結晶)を使用している。伝搬路は連続した曲面からなる円環状の表面を有し、この円環状の表面に、励起用すだれ状電極12により発生した弾性表面波を周回させるための周回経路を備えている。
【0085】
定在波励起用すだれ状電極12は、球状部材11の表面に接して設けられ、高周波信号源20から入力される一定周波数のRF信号(駆動信号)に応じて、RF信号の電界を球状部材11表面の伝搬路に印加するものであり、球状部材11表面に弾性表面波を励起して伝搬させる機能をもっている。詳しくは、定在波励起用すだれ状電極12は、球状部材11である水晶のz軸シリンダ上に形成され、励起する弾性表面波を左右両方向に励起するので定在波SAW1として発生させる。なお、定在波SAW1は球表面を1周回する帯状のビームとして伝搬されるが、完全なビームに作りこむ必要は無い。ビームの幅がある程度変化しても回転角度の測定には大きな影響がないからである。例えばビームの幅が球状部材11全体に拡散して素子の固定が困難になるか、又はビームの集中によって非線形効果を起こす等の支障が無ければ良い。これらの条件を満たす弾性表面波素子を設計するには、定在波励起用すだれ状電極12により励起される弾性表面波の波長を、球状部材11の直径の30分の1以下にすることが望ましい。また定在波励起用すだれ状電極12の重なり幅(あるいは定在波励起用すだれ状電極12により励起された直後の弾性表面波のビーム波のビーム幅)は、球状部材11の直径の5分の1以下にすることが望ましい。
【0086】
弾性表面波摂動体13は、球状部材11の回転運動に応じて、弾性表面波の定在波SAW1を伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ伝搬させるものであり、具体的には定在波SAW1の腹の位置に、例えば球状部材11よりも大きな密度を持つ金厚膜を配列した構造物である。この弾性表面波摂動体13は以下のように作成可能である。すなわち、周回経路上に金クロム膜(金300nm、クロム50nm程度)の膜を形成し、次に、定在波SAW1の腹位置のパターンを残すようにフォトリソグラフィプロセスにより金膜及びクロム膜をエッチングして作成する。このフォトリソグラフィプロセスは、球表面上に焦点を持つ光学系が既に開発されており、容易に実施可能である。なお、球状部材11が回転運動した際に、摂動弾性表面波SAW2を効率的に励起する観点から、弾性表面波摂動体13は可能な限り密度の大きい材料で作成することが望ましい。
【0087】
検出用すだれ状電極14A、14B(弾性表面波検出手段)は、弾性表面波摂動体13により異なる方向へ伝搬した弾性表面波SAW2を、球状部材11の圧電効果により検出して検出信号を信号強度測定部21A,21Bに出力可能とするものである。検出用すだれ状電極14A、14Bは、異なる方向に伝搬した弾性表面波SAW2の進行方向であって、弾性表面波の定在波SAW1の周回帯を挟んだ位置にそれぞれ形成される。すなわち、異なる方向へ伝搬した弾性表面波SAW2は必ずしも周回する必要はない。
【0088】
一方、高周波信号源20は、一定の周波数のRF信号を出力し、得られたRFバースト信号を定在波励起用すだれ状電極に印加する信号源である。RF信号内の正弦波の周期は、弾性表面波が球状部材11の周回経路を1周するのに要する周回時間Tcの整数分の1としている。これにより、RFバースト信号を周回時間Tcより長い時間印加することで、振動振幅の大きな弾性表面波とそれによる振幅の大きな定在波を励起可能としている。
【0089】
信号強度測定部21A、21Bは、それぞれ検出用すだれ状電極14A、14Bから出力された検出信号に基づいて、検出信号の強度から球状部材11の回転角度を測定するものである。検出信号として、回転の角速度に略比例した強度の信号を観測し、時間積分することで回転角度を測定する。
【0090】
なお、以上のような球状弾性表面波素子10は、図2に示すように作成しても良い。すだれ状電極は、圧電材料に電界を及ぼして弾性波を励起、あるいは圧電材料の発生する電界を電気的に受信すればよいものである。そこで、球状部材11に近接するモールド用基材30の空隙部分に球状部材11に対向させて、すだれ状電極31を形成した構造を用いてもよい。このような構造の製造方法は、半導体やマイクロマシン技術によって確立されている。別個に凹面に形成したすだれ状電極を3次元基体に接近させて実現することも可能である。周回経路の物理的な構造を作る必要がないので、弾性表面波の伝搬を反射がより少なく減衰も小さくすることができる。
【0091】
次に、以上のように構成された球状弾性表面波素子の回転角度測定装置による回転角度測定方法を説明する。
【0092】
高周波信号源20は、一定の周波数のRF信号を発生して出力することにより、RFバースト信号を励起用すだれ状電極12に入力する。このRFバースト信号内の正弦波の周期は、励起される弾性表面波SAW1が球状部材11の周回経路を1周するのに要する周回時間Tcの整数分の1となるように調整し、RFバースト信号全体を周回時間Tc以上に長い時間印加する。
【0093】
励起用すだれ状電極12に、RF信号が印加されると、図3に周辺構成を省略しながら示すように、球状部材11の表面上を互いに逆方向に周回する弾性表面波SAW11,SAW12が励起される。
【0094】
ここで、弾性表面波SAW11,SAW12は、周回する弾性表面波SAW11,SAW12同士を干渉させることで周回経路上に定在波SAW1を形成するように設定されている。定在波SAW1は、周回経路上で相対する周回方向からの弾性表面波のそれぞれの位相が等しくなる位置が腹となり、振幅が大きくなる。また、腹の位置から位相が90度ずれる位置では節となり、相対する周回方向からの弾性表面波SAW11,SAW12の干渉により、互いに打ち消されて振幅はゼロとなる。なお、多重周回する際に、3次元基体が等方性を有していても、あるいは結晶体のような異方性を有していても、1周回にかかる時間は一定である。そのため、定在波を形成し得るとともに、定在波SAW1の腹及び節の位置は不変である。
【0095】
一方、弾性表面波摂動体13の金厚膜は、図4に示すように、定在波SAW1の腹の位置に形成される。ここで、球状部材11表面は、定在波SAW1の1/2周期毎に、位置(a)と(b)とを交替するように振動する。弾性表面波摂動体13は、微細な振動重りの機能を実現している。
【0096】
そして、この定在波SAW1を構成する弾性表面波SAW11,SAW12は、周回周期Tc毎に励起用すだれ状電極12を通過して球状部材11の表面を周回する。なお、弾性表面波SAW11,SAW12は、まとめて図1にSAW1と表す。
【0097】
このような状態で、素子が取付けられた外部対象の回転運動に応じて球状弾性表面波素子10が回転運動をすると、弾性表面波摂動体13の金厚膜の振動とは異なる方向に慣性力が作用する。この慣性力は、一般的にはコリオリ力と呼ばれる。そして、この慣性力が金厚膜の振動に作用すると、振動していた定在波の腹が楕円状に振動し、弾性表面波SAW1とは異なる方向に、例えば弾性表面波SAW2が励起される。ここで励起される弾性表面波SAW2はレーリー波である。レーリー波においては、図5に示すように、固体材料の表面近傍では、材料の変位が縦長の楕円状となり、変位最上点における表面の変位方向とレーリー波の伝搬方向は逆になる。但し、本発明はレーリー波に限るものではなく、3次元基体表面にエネルギーを集中して伝搬するものであればよい。
【0098】
いずれにしても、球状弾性表面波素子10の回転運動に応じて、弾性表面波SAW1が弾性表面波伝搬体13を通過する毎に、弾性表面波SAW1の伝搬方向とは異なる方向に、レーリー波等の弾性表面波SAW2が励起される。この弾性表面波SAW2は回転運動の向きにより、検出用すだれ状電極14A又は14Bに受信される。受信されると、対応する信号強度測定部21A又は21Bに弾性表面波SAW2の検出信号が出力される。
【0099】
信号強度測定部21A又は21Bは、この検出信号に基づいて、検出信号の強度から球状弾性表面波素子の回転角度を測定することができる。
【0100】
なお、本発明において、3次元基体の回転による摂動によって異なる方向に伝搬する弾性表面波の検出信号は、3次元基体の回転速度に応じた強度で出力される性質を有し、3次元基体の静的な空間上の方位にしたがって出力(強度)を変えるものではない。なお、回転した角度は回転速度を時間で積分して求めている。
【0101】
ここで、上述した回転角度の測定手順について図6のタイムチャートを用いて詳細に説明する。なお、図6の横軸は時間、縦軸は信号強度を表す。
【0102】
本実施形態では、励起用RF信号を切断後に異なる方向に伝搬した弾性表面波を検出することで、SN比を向上させている。
【0103】
励起用RF信号が弾性表面波摂動体13で励起する弾性表面波SAW2の周波数は、定在波励起用RF信号に少なくとも含まれる周波数である。そのため、定在波励起用RF信号が検出用すだれ状電極14Aおよび14B、あるいはその信号線から入り雑音化する。そこで、SN比を向上させるために以下の手順(i)〜(iii)で測定を行う。
【0104】
(i)まず図6(a)に示すように、一定時間、RF信号を印加して定在波を励起する(時刻t1〜)。この場合、周回経路を弾性表面波SAW1が周回する周回時間TcがRF信号の周期の整数倍であることが望ましい。励起するRFバースト信号の信号周期を周回時間Tcより長くすることで定在波の振幅強度を増すことが可能だからである。
【0105】
(ii)次に、励起用RF信号を切断する(時刻t2)。本実施形態の場合は、周回経路上にわたり弾性表面波のエネルギーが蓄えられ、励起用RF信号を切断した後にも定在波が存在する。これにより、励起用RF信号の切断後に、検出用すだれ状電極14A又は14Bから出力される検出信号を回転角度の測定対象として強度測定することが可能となる。但し、図6(b)に示すように、弾性表面波SAW1の定在波の強度は時間とともに指数関数的に減衰する。
【0106】
(iii)次に、図6(c)に示すような時刻t0〜t3までの球状部材11の回転運動に応じて、図6(d)に示すように、異なる方向へ伝搬した弾性表面波SAW2の検出信号が検出用すだれ状電極から信号強度測定部21Aもしくは21Bに出力される。
【0107】
この検出信号は、回転速度が一定であった場合でも、定在波の強度の減衰に応じて時間的に減衰して観測される。しかしながら、信号強度測定部21A,21Bは、図6(d)の矢印aに示すように、最も振幅の大きな時刻の値を検出信号の強度として採用すれば良い。さらに高精度測定をするために、弾性表面波SAW1の定在波の強度をもって検出信号の強度を校正すれば、定在波の強度の変動を測定結果に影響させないようにすることが可能となる。また、検出信号の振幅を校正するだけではなく、校正後の振幅を時間で積分することによって、さらに回転角度を高精度に測定することができる。
【0108】
上述したように本実施形態によれば、球状部材11の表面に弾性表面波SAW1を励起し、球状部材11の回転運動に応じて、弾性表面波SAW1の伝搬方向とは異なる方向へ伝搬した弾性表面波SAW2を検出する構成により、従来の平面型の弾性表面波ジャイロとは異なり、反射器を備える必要が無いので、弾性表面波を利用した小型のジャイロを実現することができる。また、球状弾性表面波素子により実現するので、平面型ジャイロのようなエネルギーの漏洩を防ぐことができる。
【0109】
また、球状部材11が連続した曲面からなる円環状の表面を有しているため、弾性表面波を周回経路上で周回させることができ、素子を小型にすることができる。また、励起される弾性表面波を定在波にして強度を増大させると共に、弾性表面波摂動体13として質量の異なる物質を配列した構造物を設けることで、効率良く弾性表面波の伝搬方向を変化させることができる。これにより、効率良く回転角度を求めることができる。
【0110】
また、球状弾性表面波素子では、励起する弾性表面波の波長を、球状部材の直径により決まる条件で励起することにより、回折させずにビーム状に伝搬させて検出用のすだれ状電極により検出することができる。そのため、従来の平面型ジャイロの課題であった、「弾性表面波の“回折”が検出用すだれ状電極に出力され、3次元基体の回転による摂動によって励起される弾性表面波の信号が埋もれてしまい、SN比の低下として計測を困難にする現象」を防ぐことが可能となる。
【0111】
また、検出用すだれ状電極を、弾性表面波摂動体に対して、3次元基体の反対側近辺に設置することで、回転に伴い発生する検出信号のSNを相対的に大きくすることも可能である。
【0112】
<第2の実施形態>
図7は本発明の第2の実施形態に係る回転角度測定装置に適用される球状弾性表面波素子の構成を示す模式図であり、図1と同一部分には同一符号を付し、変形した部分にはアルファベットの添字を付して、ここでは異なる部分について主に述べる。なお、以下の各実施形態も同様にして重複した説明を省略する。
【0113】
本実施形態は、第1の実施形態の変形例であり、図7(a)に示すように、互いに直交する3つの回転軸x,y,zの6つの回転方向(検出方位x1,x2,y1,y2,z1,z2)に対する回転角度を検出可能とする観点から、図7(b)に示すように、球状部材11が、互いに直交する2本の伝搬路A,Bと当該各伝搬路A,B上に形成された周回経路とを有している。各周回経路には弾性表面波摂動体13x,13y,13zが少なくとも1つ形成され且つ合計で3つ形成されている。また、各弾性表面波摂動体13x,13y,13zを挟むように、対応する添字x,y,zをもつ検出用すだれ状電極14x1,x2,y1,y2,z1,z2が伝搬路A,B上の周回経路とは異なる周回経路上に配置されている。なお、検出方位x1,x2は、x軸を回転中心にして球状部材11が回転した際に、2通りの回転方向に対応している。他の検出方位y1,y2,z1,z2も同様である。
【0114】
ここで、球状弾性表面波素子10は、球状部材11、定在波励起用すだれ状電極12A、12B、弾性表面波摂動体13x、13y、13z、および検出用すだれ状電極14x1、14x2、14y1、14y2、14z1、14z2を備えている。
【0115】
球状部材11は、複数の周回経路を有している。本実施形態においては、定在波励起用すだれ状電極12A、12Bが、それぞれ弾性表面波を伝搬路A、Bに励起している。
【0116】
定在波励起用すだれ状電極12A,12Bは、それぞれ伝搬路A,B上に弾性表面波の定在波SAW1A、SAW1B(図示せず)を励起するものである。
【0117】
弾性表面波摂動体13xは、球状部材11のx軸の回転運動に応じて、個別に弾性表面波を検出用すだれ状電極14x1又は14x2に向けて伝搬するように、伝搬路A上の定在波SAW1Aの腹の位置に配置される厚膜である。
【0118】
弾性表面波摂動体13yは、球状部材11のy軸の回転運動に応じて、個別に弾性表面波を検出用すだれ状電極14y1又は14y2に向けて伝搬するように、伝搬路A上の定在波SAW1Aの腹の位置に配置される厚膜である。
【0119】
弾性表面波摂動体13zは、球状部材11のz軸の回転運動に応じて、個別に弾性表面波を検出用すだれ状電極14z1又は14z2に向けて伝搬するように、伝搬路B上の定在波SAW1Bの腹の位置に配置される厚膜である。
【0120】
なお、本来は伝搬路A上に13zを形成することが望ましいが、伝搬路A上に複数の弾性表面波摂動体を形成することは安定した定在波を励起する観点から好ましくないので、少しずらした位置に形成している。
【0121】
検出用すだれ状電極14x1、14x2は、それぞれ弾性表面波SAW2x1,SAW2x2を検出して検出信号を信号強度測定部21A,21Bに出力するものである。検出用すだれ状電極14y1、14y2並びに14z1、14z2は、14x1、14x2と同様の機能を有し、異なる方向に伝搬した弾性表面波SAW2y1,SAW2y2,SAW2z1,SAW2z2を検出して図示しない信号強度測定部に出力可能となっている。
【0122】
一方、高周波信号源20と信号強度測定部21A,21B,…は図示していないが、第1の実施形態と同様に構成される。すなわち、高周波信号源20は、定在波励起用すだれ状電極12A,12Bにそれぞれ一定周波数のRF信号を印加可能となっている。また、信号強度測定部21A,21B,…は、それぞれ検出用すだれ状電極14x1,14x2,14y1,14y2,14z1,14z2から出力された検出信号に基づいて、対応する添字x1〜z2の回転方向x1,x2,y1,y2,z1,z2の回転角度を測定可能となっている。すなわち、信号強度測定部21A,21B,…は、検出用すだれ状電極14x1,…,14z2毎に1台ずつ設けられ、計6台が配置されている。
【0123】
次に、以上のように構成された球状弾性表面波素子の回転角度測定装置による回転角度測定方法を説明する。
【0124】
いま、図示しない高周波信号源からRF信号が定在波励起用すだれ状電極12A,12Bに入力されたとする。
【0125】
定在波励起用すだれ状電極12A,12Bは、入力されたRF信号に応じてそれぞれ伝搬路A,B上に弾性表面波の定在波SAW1A、SAW1B(図示せず)を励起する。
【0126】
この状態で、球状弾性表面波素子10がx軸を中心軸としてx1又はx2方向に回転すると、この回転運動に応じて、弾性表面波摂動体13xが弾性表面波SAW1Aを検出用すだれ状電極14x1又は14x2に向けて伝搬方向を変化させる。
【0127】
例えばx軸を中心にx1方向に回転すると、弾性表面波が検出用すだれ状電極14x1の方向に伝搬する。検出用すだれ状電極14x1は、異なる方向に伝搬した弾性表面波を検出して検出信号を信号強度測定部21Aに出力する。信号強度測定部21Aは、この検出信号に基づいて、x1方向の回転角度を測定することができる。
【0128】
同様にx軸を中心にx2方向に回転すると、弾性表面波SAW1Aが検出用すだれ状電極14x2の方向に伝搬する。検出用すだれ状電極14x2は検出信号を信号強度測定部21Bに出力し、信号強度測定部21Bにより、x2方向の回転角度を測定することができる。
【0129】
以下同様に、球状弾性表面波素子10の回転軸x,y,zを中心とした回転運動に応じて、回転方向x1,x2,y1,y2,z1,z2に沿った回転角度を検出することができる。
【0130】
上述したように本実施形態によれば、第1の実施形態の効果に加え、複数の弾性表面波を発生させ、球状部材11の3軸方向の回転運動に応じて個別に弾性表面波を励起及び検出させるため、3次元的な回転方向を検出でき、もって、3軸測定が可能な素子を提供することができる。詳しくは、2つの伝搬路A、Bを利用することで、3軸全ての方位について回転角度を検出することができる。3次元でのあらゆる回転は、x軸、y軸、z軸の3つの回転に独立に検出可能である。また周回経路が垂直でない場合でも、計算によってそれぞれの方位の回転量を求めることが可能である。
【0131】
なお、上記実施形態において、球状部材11の表面に漏出する弾性表面波のクロストークを避けるために、定在波励起用すだれ状電極12Aと12Bには互いに異なる周波数をもつRF信号を印加することが望ましい。
【0132】
また、上記実施形態においては8個のすだれ状電極12A〜B,14x1〜14z2を用いている。このように多数のすだれ状電極を形成することを防ぐために、図8に示す構成にすることが可能である。この構成では、前述した定在波励起用すだれ状電極12A,12Bを省略し、検出用すだれ状電極14y1,14y2、14z1,14z2をそれぞれ伝搬路A又はB上に配置することにより、検出用すだれ状電極14y1,14y2、14z1,14z2に、定在波励起用すだれ状電極の機能を持たせている。詳しくは伝搬路A,Bの交点に弾性表面波摂動体13yzを形成し、この弾性表面波摂動体13yzを四方から挟むように、検出用すだれ状電極14y1,14y2、14z1,14z2を伝搬路A,B上に配置している。これにより、例えば検出用のすだれ状電極14y1に高周波信号を印加して定在波を励起して、弾性表面波摂動体13yzで異なる方向へ励起して伝搬させた後に、異なる方向に伝搬した弾性表面波を検出用すだれ状電極14z1または14z2で検出することが可能となる。すなわち、図8に示す構成にすることで、定在波励起専用のすだれ状電極12A,12Bを省略できることから、形成するすだれ状電極の個数を6つに減らすことが可能となるので、製造プロセスを簡略化できる。
【0133】
なお、本実施形態では、伝搬路Aに対して垂直に伝搬路Bを有する構成とし、各伝搬路A,Bに弾性表面波を励起して周回させたが、水晶の場合は伝搬路Bの周回に伴う減衰が大きい。そのため、ニオブ酸リチウム(LiNbO)やタンタル酸リチウムを球状部材11として使用する方が、より好ましい。
【0134】
<第3の実施形態>
図9は本発明の第3の実施形態に係る球状弾性表面波素子に適用される弾性表面波摂動体の構成を示す模式図である。
【0135】
本実施形態は、第1又は第2の実施形態の変形例であり、弾性表面波摂動体13として「質量形成」及び/又は「質量欠損」を利用したものである。
【0136】
ここで、弾性表面波摂動体13は、弾性表面波の周回経路の一部の領域で且つ定在波の腹の位置に周期的に形成され、定在波の節の位置とは密度及び/又は高さの異なる構造物から構成される。例えば弾性表面波摂動体13は、球状部材11とは異なる弾性定数を有する材質によって伝搬路に形成される。これは球状部材11あるいはその表面に形成された圧電膜のエッチングによる穴や溝によって形成してもよく、逆に部材上に凸形状の構造物を形成してもよい。
【0137】
具体的には弾性表面波摂動体13は、図9(a)〜(c)に示すように、凸型構造、凹型構造又は複合型構造により形成可能となっている。
【0138】
図9(a)に示す凸型構造の場合、ある回転操作に対して質量形成部13aに摂動が加わるものである。
【0139】
図9(b)に示す凹型構造の場合、質量欠損部13bにより、ある回転操作に対して凸型構造の場合とは逆位相に摂動が加わるものである。ここで、凹型構造の質量欠損部13bは以下の手順(i)〜(iii)で作成可能である。
【0140】
(i)水晶球等の球状部材11の表面に、定在波の腹位置を露出させるようにレジストをパターニングする。
【0141】
(ii)フッ酸処理により、球状部材11の露出した腹位置をエッチングする。
【0142】
(iii)レジストの剥離により、ディンプル状の拡散パターンを形成して質量欠損部13bを作成する。なお、この方法では、異種材料を形成するプロセスが不要となる。
【0143】
図9(c)に示す複合型構造の場合、凸型構造と凹型構造とを重ね合わせて形成される。
【0144】
以上のような質量形成部13aと質量欠損部13bの配置は、詳しくは図10に代表させて示す通りである。すなわち、紙面の横方向に沿った1つの弾性表面波(励起波)においては、低い位置の腹には質量欠損部13bが配置され、高い位置の腹には質量形成部13aが配置される。換言すると、質量形成部13aは、1つの弾性表面波に関し、1波長λ毎に1つずつ配置される。質量欠損部13bも同様に、1つの弾性表面波に関し、1波長λ毎に1つずつ配置される。なお、各部13a,13bは、いずれも定在波の節位置には配置されない。
【0145】
一方、紙面の縦方向においては、質量形成部13aを、λ’の間隔で1つずつ配置する。同様に、質量欠損部13bを、λ’の間隔で1つずつ配置する。このように配置をすると、紙面の縦方向に沿って1波長λ’の弾性表面波(レーリー波)が励起される。
【0146】
また、質量形成部13aと質量欠損部13bは、図示するように、励起した弾性表面波及び摂動によって異なる方向に励起する弾性表面波の各弾性表面波に関し、互いに半波長(λ/2),(λ’/2)の間隔で格子状に配置されており、半波長毎に摂動効果を生成可能となっている。
【0147】
以上のような構成によれば、第1又は第2の実施形態の効果に加え、弾性表面波摂動体13として密度や高さの異なる物質からなる質量形成部13aや質量欠損部13bを配列した構造物を設けることで、摂動によって効率良く弾性表面波を励起することができる。これにより、効率良く回転角度を求めることが可能となる。また、特に複合型構造の場合、半波長毎に摂動効果を生成できるので、摂動によって励起する弾性表面波の信号強度をより一層、増加させることができる。
【0148】
<第4の実施形態>
図11は本発明の第4の実施形態に係る球状弾性表面波素子に適用される弾性表面波摂動体の構成を示す平面図である。
【0149】
本実施形態は、第1から第3の実施形態の変形例であり、摂動によって励起される弾性表面波を斜め方向に励起する観点から、図11に示すように、励起用の弾性表面波の伝搬方向dに対し、弾性表面波摂動体13の質量形成部13aが角度θだけ斜め方向に配列されている。
【0150】
このように形成された弾性表面摂動体13は、弾性表面波SAW1を周回方向から角度θだけ斜め方向に伝搬する。また、前述同様に質量形成部13aの間に質量欠損部13bを配置し、図12に示すような複合型の弾性表面波摂動体13を構成すれば、質量欠損部13bの分だけ更に効率的に弾性表面波を摂動により励起することが可能となる。
【0151】
以上のような構造によれば、第1〜第3の実施形態の効果に加え、斜め方向に弾性表面波を励起することができるので、球状部材11の各すだれ状電極と周回経路の配置を自由に設計することが可能となる。例えば図13に示すように、LiNbO等の結晶からなる球状部材11Lでも容易に球状弾性表面波素子10の回転角度測定装置を作成することができる。LiNbO結晶では弾性表面波の周回経路がその結晶形により特定される。例えばZ軸シリンダとなるSAW1の周回帯と、Z軸シリンダに傾斜したSAW2の周回帯とは、結晶形により特定される。そのため、弾性表面波の定在波SAW1の伝搬経路に対して垂直以外の方向に、弾性表面波SAW2を伝搬する必要が生じる。このような場合、本実施形態で述べた弾性表面波摂動体13を用いることで、弾性表面波の伝搬路に沿って、弾性表面波を摂動により励起させることができる。
【0152】
また、弾性表面波摂動体によって伝搬方向を変化させた弾性表面波を、他の伝搬路に伝搬させる場合には、伝搬方向の変化後の弾性表面波をビームとして伝搬するように弾性表面波摂動体を設計することにより、変化後の弾性表面波のエネルギーを拡散させることがなく、大きな信号として取り出す事が可能となる。そのため、従来の平面型ジャイロの課題であった、「弾性表面波の“回折”が検出用すだれ状電極に出力され、平面基体の回転による摂動によって励起される弾性表面波の信号が埋もれてしまい、SN比の低下として計測を困難にする現象」を防ぐことが可能となる。
【0153】
さらに、3次元基体の回転に伴い励起された弾性表面波の振動周期が、周回経路を周回するのに要する周回時間の整数分の1である場合は、より安定に弾性表面波のエネルギーを伝搬路に維持する事が可能となる。この条件を満たすためには、3次元基体の回転に伴い励起される弾性表面波の周回時間を調節するための薄膜を周回経路上に形成すればよい。
【0154】
<第5の実施形態>
図14は本発明の第5の実施形態に係る球状弾性表面波素子の回転角度測定装置の構成を示す模式図である。
【0155】
本実施形態は、第1から4の実施形態の変形例であり、高周波信号源20sのRF信号の周波数を調整することで弾性表面波の共振状態を維持し、常に十分な強度の定在波を発生させるものである。
【0156】
この回転角度測定装置は、球状弾性表面波素子10、高周波信号源20s、切換部22、切換スイッチ23、弾性表面波強度測定部24、共振状態判断部25、周波数調整部26及び図示しない信号強度測定部を備えている。
【0157】
ここで、球状弾性表面波素子10における定在波励起用すだれ状電極12sは、球状部材11の表面に接して設けられ、高周波信号源20sから切換スイッチ23を介して入力される一定周波数のRF信号(駆動信号)に応じて、RF信号の電界を球状部材11表面の伝搬路に印加し、球状部材11の表面上を互いに逆方向に周回する弾性表面波SAW11、SAW12を励起する機能を持っている。
【0158】
また、定在波励起用すだれ状電極12sは、定在波を発生可能なRF信号の周波数を調べる際には、周回する弾性表面波SAW11とSAW12の合成波SAW1(図示せず)を検出し、周回検出信号を切換スイッチ23を介して弾性表面波強度測定部24に出力する機能を持っている。
【0159】
一方、高周波信号源20sは、一定の周波数のRF信号を断続的に出力し、得られたRFバースト信号を切換スイッチ23を介して定在波励起用すだれ状電極12sに印加する信号源である。また、高周波信号源20sは、周波数調整部26によりRF信号の周波数が制御されており、周波数を微調整可能な観点から、例えばデジタル信号発生器を用いることが好ましい。
【0160】
切換部22は、切換スイッチ23の接続又は絶縁を制御する機能を持っている。
【0161】
切換スイッチ23は、切換部22に制御され、定在波励起用すだれ状電極12sを高周波信号源20s又は弾性表面波強度測定部24に接続するか、両者20s,24から絶縁する。
【0162】
弾性表面波強度測定部24は、定在波励起用すだれ状電極12sから切換スイッチ23を介して入力された周回検出信号に基づいて、弾性表面波SAW1の強度を測定する機能と、得られた強度測定値を共振状態判断部25に出力する機能とを有し、例えばデジタルオシロスコープが使用可能となっている。
【0163】
共振状態判断部25は、弾性表面波強度測定部24から出力された強度測定値に基いて、RF信号の周波数を調整するか否かを判断する機能と、調整する旨の判断結果に応じて周波数調整部26を制御する機能とをもっている。共振状態判断部25は、ここでは電子計算機を用いており、GPIB等を用いて周波数調整部26にRF信号の周波数変更の指示を出す。周波数変更の指示は、速やかに共振状態を得る観点から、周波数を増加方向又は減少方向に変更させた際に、前回の強度測定値よりも今回の強度測定値が上昇したとき、次回の変更も同じ方向に出すことが好ましい。
【0164】
周波数調整部26は、共振状態判断部25に制御され、高周波信号源20sのRF信号の周波数を調整する。なお、高周波信号源20sと周波数調整部26はデジタル部品を用いて一体に構成することも可能である。
【0165】
続いて、弾性表面波の共振状態とその測定方法について説明する。なお、球状弾性表面波素子の回転角度の測定方法については、第1から第4の実施形態までと同様であるので省略し、共振状態の周波数に調整する方法を主に説明する。
【0166】
ここで、「共振状態」とは、弾性表面波が球状弾性表面波素子の周回経路を周回する時間が、弾性表面波の振動周期の整数倍にある状態をいう。共振状態では、1周回よりも長い時間だけ高周波信号を印加すると、互いに逆向きに伝搬する弾性表面波をそれぞれ増幅でき、結果として、強い定在波を励起することが可能となる。理由は、既に周回している弾性表面波と同じ位相で、弾性表面波の振動を増幅する電界を定在波励起用すだれ状電極に印加することになるからである。
【0167】
一方、共振状態から外れた場合、すなわち共振状態を作ることが出来ない周波数を定在波励起用すだれ状電極に印加すると、周回中の弾性表面波に対して異なる位相の弾性表面波が印加され、既に存在している弾性表面波が打ち消されてしまう。そのため、共振状態から外れた場合、摂動によって異なる方向に励起させた弾性表面波を検出するのに十分な強度の定在波を形成することができなくなる。
【0168】
このような共振状態は、周囲の温度や湿度、表面状態等に影響を受ける。例えば温度によって弾性表面波SAW1の周回速度(周波数)が変わることで共振状態が破られる。逆に弾性表面波SAW1の周波数(周期)を調整することで共振状態を維持することが可能となる。また、弾性表面波SAW1の周波数はRF信号の周波数により変更する。すなわち、RF信号の周波数を変更することにより、共振状態を維持する弾性表面波SAW1の周波数を調整することが可能となる。
【0169】
共振状態では定在波の強度が強いことから、弾性表面波SAW1の強度I’を測定することで共振状態であるか否かを判断可能である。すなわち、周回する弾性表面波の強度を弾性表面波強度測定部24で測定し、得られた測定強度を予め設定した共振状態での基準強度と比較する。測定強度が基準強度よりも低いとき、共振状態から外れたと判断する。共振状態から外れると、高周波信号源20sの出力するRF信号の周波数を変更し、再度、弾性表面波の強度を測定する。測定強度が基準強度と等しくなるまで、RF信号の周波数の変更を繰り返すことで、共振状態を検知することが可能となる。
【0170】
また、共振状態に近づくと、弾性表面波の測定強度値は上昇し、共振状態では最大値を示すことになる。そのため、共振状態を維持する方法は、前述した基準強度と比較する方法に限らず、測定強度値が上昇する向きにRF信号の周波数を掃引し、弾性表面波の測定強度値が最大になるように当該周波数を制御する方式としても良い。
【0171】
また、定在波用すだれ状電極12sを、図15に示すように、定在波励起用のすだれ状電極12tと、励起波の強度検出用のすだれ状電極12uとして分離してもよい。これにより切換部22および切換スイッチ23を省略でき、構成を単純化できる。また、弾性表面波を連続的に励起し検出できる利点を有する。あるいは、図15に示す装置を変形し、強度検出用のすだれ状電極12uを高周波発信器20s又は弾性表面波強度測定部24に切換接続する構成にしてもよい。この変形例では、定在波励起のときには2つのすだれ状電極12t,12uを共に駆動し、共振状態を検出するときには図15に示すように強度検出用のすだれ状電極12uを用いればよい。
【0172】
次に、以上のように構成された回転角度測定装置において、共振状態を維持し、十分な強度の定在波を発生させる手順について図16のフローチャートを用いて説明する。なお、回転角度測定装置は、図14に示したものを用いる。
【0173】
始めに、周波数調整部26は、高周波信号源20sのRF信号の周波数を調整する(s1)。次に、切換部22は切換スイッチ23を制御し、球状弾性表面波素子10と高周波信号源20sを接続する(s2)。高周波信号源20sは、一定の周波数のRF信号を発生して断続的に出力することにより、RFバースト信号を励起用すだれ状電極12sに入力する。
【0174】
定在波励起用すだれ状電極12sは、球状部材11の表面上を互いに逆方向に周回する弾性表面波SAW11、SAW12を励起し、周回する弾性表面波SAW11とSAW12を干渉させることで周回経路上の少なくとも一部に定在波SAW1を発生させる(s3)。
【0175】
次に、切換部22は、切換スイッチ23を制御し、球状弾性表面波素子10と弾性表面波強度測定部24を接続する(s4)。これにより、定在波励起用すだれ状電極12sが、周回する弾性表面波SAW1を検出し、周回検出信号を弾性表面波強度測定部24に出力する。
【0176】
弾性表面波強度測定部24は、周回検出信号に基いて、弾性表面波SAW1の強度を測定し(s5)、得られた測定強度値I'を共振状態判断部25に出力する。
【0177】
共振状態判断部25は、測定強度値I'に基づいて、RF信号の周波数を調整するか否かを判断する。判断においては、周回検出信号の測定強度値I’と予め設定された共振状態での弾性表面波の基準強度値Iとを比較する。
【0178】
比較の結果、測定強度値I’と基準強度値Iが等しければ共振状態であると判断し、処理を終了する(s6=Yes)。また、測定強度値I’が基準強度値Iより低ければ共振状態ではないと判断し、測定強度値I’を上昇させるように、周波数調整部26にRF信号の周波数変更の指示を出す(s6=No)。
【0179】
以上のようなRF信号の周波数の変更を、弾性表面波SAW1が共振状態になるまで繰り返す。これにより、調整した周波数をもつRF信号を入力し、十分な強度をもつ定在波を発生させることができる。
【0180】
上述したように本実施形態によれば、第1から第4の実施形態の効果に加え、高周波信号源20sのRF信号の周波数を調整することで弾性表面波の共振状態を維持し、常に十分な強度の定在波を発生させることができる。
【0181】
また、RF信号の周波数の調整により、効率的に定在波を励起できるため、弾性表面波摂動体13の腹の位置での振動振幅を大きくすることができる。従って、回転角度を測定する際には、摂動により励起される弾性表面波の強度を強めることができ、もって、測定感度を向上させることができる。
【0182】
<第6の実施形態>
図17は本発明の第6の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【0183】
また、以下の説明中、すだれ状電極の数は一例であり、本発明は伝搬路の数に対応させてすだれ状電極の数を変化させた形態をも包含する。
【0184】
球状弾性表面波素子110は、弾性表面波を伝搬可能な複数の伝搬路120A〜120Dを有する球状部材11X上に、すだれ状電極130A〜130Dと、弾性表面波摂動体140A〜140Dを有している。
【0185】
球状部材11Xは、弾性表面波を伝搬可能な伝搬路120A〜120Dを有する3次元基体である。球状部材11Xとしては、LiNbO3等の結晶からなる球状部材11Lを用いてもよい。
【0186】
伝搬路120A〜120Dは、任意の2本が互いに2箇所で交差する2つの交差領域あるいは1箇所で接続する1つの接続領域を共有する複数本の伝搬経路である。
【0187】
ここで、2つの伝搬路が交わる際に、それらの伝搬路がともに周回経路である場合には、伝搬路が「交差する」という。一方、2つの伝搬路が交わる際に、少なくともいずれかの伝搬路が周回経路でない場合には、伝搬路が「接続する」という。
【0188】
伝搬路120A,120Bは、弾性表面波が周回可能な連続した曲面からなる周回経路であり、伝搬路120Aと伝搬路120Bは互いに交差している。
【0189】
また、伝搬路120C,120Dは、弾性表面波が周回しない伝搬路であり、伝搬路120A,120Bに接続している。
【0190】
すだれ状電極130A〜130Dは、伝搬路120A〜120D上に形成され、入力される駆動信号に応じて、伝搬路120A〜120Dの表面に弾性表面波を励起するとともに、弾性表面波摂動体140A〜140Dにより伝搬方向を変化させた弾性表面波を検出し、検出信号を出力するものである。
【0191】
弾性表面波摂動体140A〜140Dは、すだれ状電極130A〜130Dが励起した弾性表面波に摂動を加え、当該弾性表面波をそれぞれ伝搬路120A〜120Dによる伝搬方向とは異なる方向へ伝搬させる機能を有するものである。また、第6〜7の実施形態において、弾性表面波摂動体は弾性表面波回折体に置き換えても良いものとする。すなわち、入力される弾性表面波に対して出力される弾性表面波を異なる方向へ伝搬させる機能を有するものであれば、弾性表面波摂動体と弾性表面波回折体は区別しない。その際、弾性表面波摂動体による第1の弾性表面波から第2の弾性表面波を励起するという作用は、弾性表面波回折体による第1の弾性表面波が回折されて伝搬するという作用に置き換えるものとする。
【0192】
ここで、弾性表面波摂動体140A、140B、140Dは、伝搬路120Aと伝搬路120Cの接続領域、伝搬路120Bと伝搬路120Cの接続領域、伝搬路120Bと伝搬路120Dの接続領域にそれぞれ形成され、弾性表面波摂動体140Cは、伝搬路120Aと伝搬路120Bの交差領域に形成される。なお、伝搬路120A,120Bは、図17の紙面裏側にも図示しない交差領域を有する(2つの周回経路は2箇所で交差する)。
次に、本実施形態に係る弾性表面波素子110の動作について述べる。
【0193】
ここでは、簡単のために、すだれ状電極130Cにより励起された弾性表面波SAWq1とSAWq2を例にとって説明するが、他のすだれ状電極が同様の役割を果たしても良いことは言うまでもない。
【0194】
始めに、すだれ状電極130Cに高周波信号を印加し、すだれ状電極130Cの両側から伝搬路120C上を双方向に伝搬するように、それぞれ弾性表面波SAWq1とSAWq2を励起する。
【0195】
弾性表面波SAWq1は、伝搬路120C上を伝搬し、接続領域に形成された弾性表面波摂動体140Aにより、伝搬方向を変化させられ、伝搬路120Aを伝搬する。一方、弾性表面波SAWq2は、伝搬路120C上を伝搬し、接続領域に形成された弾性表面波摂動体140Bにより、伝搬方向を変化させられ伝搬路120Bを伝搬する。
【0196】
そして、弾性表面波SAWq1は伝搬路120Aを周回し、弾性表面波SAWq2は伝搬路120Bを周回するようになる。このとき、2つの弾性表面波SAWq1,SAWq2は、交差領域の弾性表面波摂動体140C上で相互作用し、互いにエネルギーをやり取りする。
【0197】
この結果、例えば弾性表面波SAWq1,SAWq2の干渉出力を一方の伝搬路上のすだれ状電極から出力する加算回路を構成することができる。
【0198】
同様に、例えば伝搬路120Bを周回する弾性表面波SAWq2が弾性表面波摂動体140Dを通過するとき、他の伝搬路120Dからの弾性表面波を弾性表面波摂動体140Dに伝搬させ、弾性表面波摂動体140D上で2つの弾性表面波を相互作用(干渉)させることにより、周回中の弾性表面波SAWq2の伝搬をオフ操作するスイッチ、減衰させる減衰器、あるいは増幅するアンプ等を構成することができる。
【0199】
上述したように、本実施形態によれば、伝搬路の接続領域あるいは交差領域に、励起された弾性表面波を伝搬方向とは異なる伝搬方向へ伝搬させる弾性表面波摂動体を備えた構成により、安定したビーム状の弾性表面波の伝搬を可能にし、複数の伝搬路が重なる領域において弾性表面波同士の相互作用を実現するので、弾性表面波回路の実現に寄与する弾性表面波素子を提供することができる。
【0200】
これにより、例えば弾性表面波を介した信号伝達システムを実現する球状弾性表面波システムが実現可能となる。
【0201】
<第7の実施形態>
図18は本発明の第7の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【0202】
本実施形態は、第6の実施形態の変形例であり、弾性表面波摂動体140A1〜140D1に、弾性表面波の伝搬方向を変化させる機能に加え、外部の制御手段からの指示を受け、時間的に変化する摂動を弾性表面波に与える機能を有するものである。時間的に変化する摂動を弾性表面波に与える機能は、例えば、電気信号により振動する振動子等である。この振動子は、例えば図2の類型として、球状部材11Xに近接して接触するモールド用基材の空隙部分に弾性表面波摂動体140A1〜140D1に対向させてすだれ状電極を形成した構造が使用可能となっている。但し、振動子に限らず、球状部材11Xの回転運動により、時間的に変化する摂動を弾性表面波に与えてもよいことは言うまでもない。
【0203】
他の構成要素の構造については、第6の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0204】
次に、本実施形態に係る弾性表面波素子110の動作について述べる。
【0205】
ここでは、簡単のために、すだれ状電極130Aとすだれ状電極130Bにより励起された弾性表面波SAWp1とSAWp2を例にとって説明するが、他のすだれ状電極が同様の役割を果たしても良いことは言うまでもない。
【0206】
始めに、すだれ状電極130Aにより弾性表面波SAWp1を励起し、すだれ状電極130Bにより弾性表面波SAWp2を励起する。
【0207】
弾性表面波SAWp1は伝搬路120Aを周回し、弾性表面波SAWp2は伝搬路120Bを周回する。
【0208】
次に、弾性表面波摂動体140C1は、外部からの指示を受け、時間的変化する摂動を弾性表面波SAWp1に与える。これにより、弾性表面波摂動体140C1は、弾性表面波SAWp1とエネルギーの授受を行い、弾性表面波SAWp1を伝搬路120Bの伝搬方向に伝搬させる。
【0209】
伝搬路120Bを伝搬する弾性表面波SAWp1は、予め伝搬路120Bを伝搬していた弾性表面波SAWp2と合成され、弾性表面波SAWpとなって伝搬する。
【0210】
上述したように、本実施形態によれば、2つの伝搬路120A,120B間の交差領域に外部からの指示により、時間的に変化する摂動を与えることにより、2つの伝搬路120Aと120Bを伝搬する弾性表面波SAWp1とSAWp2が互いに影響を与え合うシステムを実現することが可能となる。
【0211】
また、弾性表面波の伝搬路を接続して信号処理や加工を行う電子部品は、例えば非線型素子があげられるが、周回経路上に形成すれば2次元平面では困難だった接続を可能にする。
【0212】
これは、電子回路に相当する弾性表面波の回路システムであり、接続領域や交差領域は、この場合スイッチに相当する機能を有するものである。
【0213】
すなわち、本実施形態では、複数の伝搬路の交差領域あるいは接続領域に形成された弾性表面波摂動体が、複数の伝搬路を伝搬する弾性表面波と、エネルギーの授受を行う機能、スイッチ機能を有している。
【0214】
<第8の実施形態>
図19は本発明の第8の実施形態に係る球状弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【0215】
本実施形態は、第6の実施形態の変形例であり、単一のすだれ状電極130Aを用いて、複数の伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するとともに、検出するものである。
【0216】
弾性表面波回折体140C2は、伝搬路120A上を伝搬する弾性表面波を分岐させて伝搬路120B上にも伝搬させる機能と、分岐後に伝搬路120Bを周回した弾性表面波を反射して元の伝搬路120A上に伝搬させる機能とを有するものであり、具体的には、はしご型の反射電極パターンである。
【0217】
弾性表面波を分岐する際には、弾性表面波回折体140C2のパターン形状の変更によって制御させることができる。弾性表面回折体140C2のパターンの線素数を変化させることで、能動的にコントロールすることができる。
【0218】
なお、弾性表面波回折体140C2は、前述した弾性表面波摂動体13と同一構造物を用いる。また、それ以外にも、交差領域あるいは接続領域に、局所的な熱分布を生成して弾性的な性質が不連続な質点などを形成して設けてもよい。
【0219】
他の構成要素の構造については、第6の実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0220】
次に、本実施形態に係る弾性表面波素子の動作について述べる。
【0221】
始めに、すだれ状電極130Aにより弾性表面波SAWr1を励起する。
【0222】
励起された弾性表面波SAWr1は、伝搬路120Aを周回し、弾性表面波回折体140C2に到達する。
【0223】
ここで、弾性表面波回折体140C2は、弾性表面波SAWr1を、周回経路120Aを伝搬する弾性表面波SAWr4と、周回経路120Cを伝搬する弾性表面波SAWr2に分岐する。
【0224】
分岐されて周回経路120Aを伝搬する弾性表面波SAWr4は、すだれ状電極130Aに到達して検出される。
【0225】
また、周回経路120Cを伝搬する弾性表面波SAWr2は、弾性表面波回折体140C2により、再び周回経路120Aを弾性表面波SAWr3として伝搬し、すだれ状電極130Aに到達して検出される。
【0226】
上述したように本実施形態によれば、単一のすだれ状電極140Aを用いて、複数の伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するとともに、検出しており、弾性表面波を分岐させて伝搬させることが可能となる。
【0227】
また、伝搬路を弾性表面波が周回可能な周回経路としているので、弾性表面波を分岐させて周回させておくことが可能な弾性表面波素子を提供することができる。
【0228】
これにより、2つの伝搬路120A,120B(周回経路)の弾性表面波の伝搬状態の違いを、すだれ状電極130Aからの検出信号の強度や周波数応答、及び位相変化から検知することが可能となる。すなわち、2つの伝搬路120A,120Bの伝搬状態の変化を検知する素子を構成することが可能となる。
【0229】
また、周囲のガス濃度に応じて弾性表面波の伝搬速度を変化させる感応膜を、伝搬路120A,120B(共に周回経路)の一方に付ければ、2つの伝搬路120A,120Bの弾性表面波の伝搬状態の差に基づく出力の位相変化を利用したセンサ等に利用することも可能である。
【0230】
さらに、弾性表面波検出手段と弾性表面波励起手段を同一のすだれ状電極とした構成にしているので、構造が簡単な弾性表面波素子を提供することができる。
【0231】
なお、本願発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0232】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る球状弾性表面波素子の回転角度測定装置の構成を示す模式図である。
【図2】同実施形態におけるすだれ状電極の変形構成を示す断面図である。
【図3】同実施形態における定在波を説明するための模式図である。
【図4】同実施形態における定在波と弾性表面波摂動体を説明するための模式図である。
【図5】同実施形態におけるレーリー波を説明するための模式図である。。
【図6】同実施形態における測定手順を説明するためのタイムチャートである。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る回転角度測定装置に適用される球状弾性表面波素子の構成を示す模式図である。
【図8】同実施形態における回転角度測定装置に適用される球状弾性表面波素子の変形例の構成を示す模式図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る球状弾性表面波素子に適用される弾性表面波摂動体の構成を示す模式図である。
【図10】同実施形態における弾性表面波摂動体の構成を示す平面図である。
【図11】本発明の第4の実施形態に係る球状弾性表面波素子に適用される弾性表面摂動体の構成を示す平面図である。
【図12】同実施形態における弾性表面摂動体(複合型)の構成を示す平面図である。
【図13】同実施形態における適用例を説明するための模式図である。
【図14】本発明の第5の実施形態に係る球状弾性表面波の回転角度測定装置の構成を示す模式図である。
【図15】同実施形態における回転角度測定装置の変形例の構成を示す模式図である。
【図16】同実施形態における定在波を発生させるまでの手順を説明するためのフローチャートである。
【図17】本発明の第6の実施形態に係る弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【図18】本発明の第7の実施形態に係る弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【図19】本発明の第7の実施形態に係る弾性表面波素子の構造を示す模式図である。
【図20】従来の平面型の弾性表面波素子を用いたジャイロを示す模式図である。
【図21】一般的な球状弾性表面波素子の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0233】
10,110…球状弾性表面波素子、11…球状部材、12,12A,12B・・・定在波励起用すだれ状電極、13,13x〜13z,140A〜140D・・・弾性表面波摂動体、140C2・・・弾性表面波回折体、13a…質量形成部、13b…質量欠損部、14A,14B,14x1〜14z2・・・検出用すだれ状電極、20…高周波信号源、21A,21B…信号強度測定部、22…切換部、23…切換スイッチ、120A〜120D伝搬路、130A〜130D・・・すだれ状電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、
前記弾性表面波を前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ回折させる弾性表面波回折手段と、
前記弾性表面波回折手段により回折させた弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段と
を有する球状弾性表面波素子であって、
前記伝搬路は、任意の2本が互いに2箇所で交差する2つの交差領域あるいは互いに1箇所で接続する1つの接続領域を共有する複数本の伝搬経路を備え、
前記弾性表面波回折手段は、前記伝搬路の交差領域あるいは接続領域の少なくとも1箇所に形成される
ことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項2】
弾性表面波を伝搬可能な円環状の伝搬経路からなる第1伝搬路と、
前記第1伝搬路に2箇所で交差するあるいは1箇所で接続する第2伝搬路と、
前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とを含む球表面の少なくとも一部よりなる複数の伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記第1伝搬路を伝搬する弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、
前記第1伝搬路を伝搬する弾性表面波を前記第2伝搬路へ回折させる弾性表面波回折手段と、
前記弾性表面波回折手段により前記第2伝搬路へ回折させた弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段と
を有する球状弾性表面波素子であって、
前記弾性表面波回折手段は、前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とが交差する交差領域あるいは前記接続する接続領域のうち、少なくとも1箇所に形成されることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項3】
弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路を伝搬する第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、
前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路における伝搬方向とは異なる方向に第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、
前記弾性表面波摂動手段により異なる伝搬方向へ励起して伝搬させた第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段と
を有する球状弾性表面波素子であって、
前記伝搬路は、任意の2本が互いに2箇所で交差する2つの交差領域あるいは互いに1箇所で接続する1つの接続領域を共有する複数本の伝搬経路を備え、
前記弾性表面波摂動手段は、前記伝搬路の交差領域あるいは接続領域の少なくとも1箇所に形成される
ことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項4】
弾性表面波を伝搬可能な円環状の伝搬経路からなる第1伝搬路と、
前記第1伝搬路に2箇所で交差するあるいは1箇所で接続する第2伝搬路と、
前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とを含む球表面の少なくとも一部よりなる複数の伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記第1伝搬路を伝搬する第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、
前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記第1伝搬路から前記第2伝搬路へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、
前記弾性表面波摂動手段により前記第2伝搬路へ励起して伝搬された第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段と
を有する球状弾性表面波素子であって、
前記弾性表面波摂動手段は、
前記第1伝搬路と前記第2伝搬路とが交差する交差領域あるいは前記接続する接続領域のうち、少なくとも1箇所に形成されることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記伝搬路の少なくとも1つは、弾性表面波が周回可能な連続した曲面からなる周回経路を備えたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波検出手段及び/又は前記弾性表面波励起手段を複数備えるとき、少なくとも1組の弾性表面波検出手段及び弾性表面波励起手段は、互いに同一のすだれ状電極からなることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項7】
弾性表面波を伝搬可能な球表面の少なくとも一部よりなる伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起するための弾性表面波励起手段と、
前記3次元基体の回転運動に応じて、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、
前記弾性表面波摂動手段により異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段と
を備えたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項8】
請求項7に記載の球状弾性表面波素子において、
前記伝搬路は、
連続した曲面からなる円環状の表面を有し、
この円環状の表面の少なくとも一部には、前記弾性表面波を周回させるための周回経路を備えたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項9】
請求項8に記載の球状弾性表面波素子において、
前記3次元基体は、互いに交わる複数の前記伝搬路と当該各伝搬路に形成された周回経路とを有し、
前記弾性表面波波検出手段は、前記励起された第2の弾性表面波が周回する周回経路とは異なる周回経路上に配置されたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項10】
請求項8または請求項9に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波励起手段は、前記周回経路に沿って前記第1の弾性表面波の定在波を励起し、
前記弾性表面波摂動手段は、前記周回経路の一部の領域で且つ前記定在波の振幅が極大となる位置に周期的に形成され、当該振幅が極小となる位置とは密度及び/又は高さの異なる構造物からなることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項11】
請求項8又は請求項9に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波励起手段は、
前記3次元基体の表面を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起し、
前記周回する第1の弾性表面波を干渉させることで周回経路上の少なくとも一部に定在波を発生させる機能を有し、
前記弾性表面波摂動手段は、
前記3次元基体の回転運動に応じて、前記定在波を構成する弾性表面波に摂動を加え、当該周回方向とは異なる方向に第2の弾性表面波を励起して伝搬させるように、前記定在波の腹の位置に密度及び/又は高さの異なる構造物を設けたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項12】
請求項8乃至請求項11のいずれか1項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波励起手段は、少なくとも2つの周回経路にそれぞれ配置され、
前記弾性表面波摂動手段は、前記3次元基体の3軸方向の回転運動に応じて、前記周回経路を伝搬する第1の弾性表面波に個別に摂動を加え、前記周回経路とは異なる方向に第2の弾性表面波を個別に励起して伝搬させるように当該各周回経路に少なくとも1つ形成され且つ合計で複数形成され、
前記弾性表面波検出手段は、前記複数の弾性表面波摂動手段により励起して伝搬された第2の弾性表面波を検出するように3つの伝搬路にそれぞれ配置されたことを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波励起手段は、
前記3次元基体の表面に接するかあるいは近接して設けられ、前記駆動信号の電界を印加するためのすだれ状電極と、
このすだれ状電極から印加される電界を圧電効果により弾性表面波に変換するための圧電性材料とからなることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項14】
請求項1乃至請求項13のいずれか1項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記3次元基体は、圧電性結晶であることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14のいずれか1項に記載の球状弾性表面波素子において、
前記弾性表面波検出手段は、
前記弾性表面波を圧電効果により電界に変換するための圧電性材料と、
この電界に応じた検出信号を出力するためのすだれ状電極とからなることを特徴とする球状弾性表面波素子。
【請求項16】
請求項4乃至請求項15のいずれか1項に記載の球状弾性表面波素子の回転角度測定装置であって、
高周波信号を前記駆動信号として前記弾性表面波励起手段に入力する駆動信号入力手段と、
前記駆動信号の入力後、前記3次元基体の回転運動に応じて前記摂動が弾性表面波に加わり、前記弾性表面波検出手段から出力された検出信号に基づいて、前記3次元基体の回転角度を測定する回転角度測定手段と
を備えたことを特徴とする回転角度測定装置。
【請求項17】
弾性表面波を伝搬可能な伝搬路を有する3次元基体と、
入力される駆動信号に応じて、前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起する弾性表面波励起手段と、
前記3次元基体の回転運動に応じて、前記第1の弾性表面波に摂動を加えて前記伝搬路による伝搬方向とは異なる方向へ第2の弾性表面波を励起して伝搬させる弾性表面波摂動手段と、
異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出手段とを備えた球状弾性表面波素子の回転角度測定方法であって、
高周波信号を前記駆動信号として前記弾性表面波励起手段に入力する駆動信号入力ステップと、
前記弾性表面波励起手段により高周波信号に応じて前記伝搬路の表面に第1の弾性表面波を励起する弾性表面波励起ステップと、
前記第1の弾性表面波が前記伝搬路を伝搬中に、前記3次元基体の回転運動に応じて、前記弾性表面波摂動手段が当該伝搬中の第1の弾性表面波に摂動を加えて伝搬方向とは異なる方向へ伝搬させる摂動ステップと、
異なる方向へ励起して伝搬させた前記第2の弾性表面波を検出し、検出信号を出力する弾性表面波検出ステップと、
前記検出信号に基づいて、前記3次元基体の回転角度を測定する回転角度測定ステップと
を備えたことを特徴とする回転角度測定方法。
【請求項18】
請求項17に記載の回転角度測定方法において、
前記弾性表面波摂動手段は、前記弾性表面波励起手段により励起される定在波の腹の位置に密度及び/又は高さの異なる構造物を備えており、
前記弾性表面波励起ステップは、
前記3次元基体の表面上を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起して、干渉させることで周回経路上の少なくとも前記構造物の存在する領域に定在波を発生させる定在波発生ステップとを含んでおり、
前記摂動ステップは、
前記腹の位置の振動に、前記3次元基体の回転運動を作用させるステップと、
前記作用により、前記腹の位置で振動している第1の弾性表面波を当該回転運動の方向に従って伝搬させるステップと
を備えたことを特徴とする球状弾性表面波素子の回転角度測定方法。
【請求項19】
請求項17又は請求項18に記載の回転角度測定方法において、
前記高周波信号は高周波バースト信号であり、
前記回転角度測定ステップは、
前記高周波バースト信号の入力を停止した後に、前記検出信号を受信するステップと、受信した検出信号に基づいて、前記測定を実行するステップと
を備えたことを特徴とする回転角度測定方法。
【請求項20】
請求項18又は請求項19に記載の回転角度測定方法において、
前記弾性表面波励起ステップが、前記3次元基体の表面上を互いに逆方向に周回する第1の弾性表面波を励起して、干渉させることで周回経路上の少なくとも前記構造物の存在する領域に定在波を発生させる定在波発生ステップとを含むとき、
前記定在波を前記弾性表面波励起手段あるいは前記周回経路上に形成される弾性表面波検出手段により検出し、周回検出信号を出力するステップと、
前記周回検出信号に基づいて、前記定在波の強度を測定するステップと、
この測定により得られる強度値を上昇させるように前記高周波信号の周波数を調整するステップと、
前記調整した周波数をもつ高周波信号を入力し、前記定在波を発生させるステップと
を備えたことを特徴とする回転角度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2006−177674(P2006−177674A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−368101(P2004−368101)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(503416870)ボール・セミコンダクター・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】