説明

球状弾性表面波素子の製造方法

【課題】結晶球の周回経路の結晶方位に対応した膜厚の膜を正確に真空成膜する。
【解決手段】真空容器21内で蒸着材料22を加熱気化させる蒸着材料放射ステップ(22,31)と、弾性表面波4を周回させる圧電性結晶球2の周回経路5が前記気化された蒸着材料22の放射ビームの照射方向と対面するように、圧電性結晶球2を回転可能に支持する支持ステップ(32,35)と、周回経路の結晶方位に従って前記回転支持ステップによる圧電性結晶球2の回転速度を変更し、周回経路上に結晶方位に依存した膜厚分布で真空成膜する成膜制御ステップ(1,5,32,34,35)とを有する球状弾性表面波素子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波が伝搬周回する円環状領域(以下、周回経路と呼ぶ)に真空成膜する球状弾性表面波素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
球形表面の赤道上を含む周回経路に沿って弾性表面波を帯状に多重周回させる球状弾性表面波素子は、その素子表面に特定のガス種に高感度に反応するガス感応膜を形成し、あるいは金の薄膜を形成した後に周回経路上に抗体膜を固定し、バイオセンサとして使用することができる。
【0003】
図4は一般的な球状弾性表面波素子1及びその駆動計測系10の一例を示す図である。
【0004】
球状弾性表面波素子1は、水晶などの圧電性結晶球(球形基材)2の表面の所定位置にすだれ状電極(電気音響変換素子)3と呼ばれる電極パターンが形成されており、駆動計測系10を構成する高周波信号発生部11から高周波信号を発生し、予め定めた短い所定時間の間に高周波送受切替えスイッチ12を通してすだれ状電極3に印加する。そして、結晶球2の表面に電界を及ぼして歪みを発生させ、弾性表面波4を励起して周回経路5に沿って周回させる。
【0005】
このとき、周回経路5に沿って周回する度に弾性表面波4がすだれ状電極3に対して電圧を発生させるので、すだれ状電極3でその発生電圧を検出し出力する。信号検出出力部14は、短い所定時間を経過した後、高周波送受切替えスイッチ12を切替え、高周波送受切替えスイッチ12及び高周波増幅器13を通して送られてくる電圧信号を計測し出力する。よって、弾性表面波4の周囲の環境変化に伴う信号変化を計測できることから、高感度なセンサとして機能する。
【0006】
弾性表面波4の周回できる経路は、圧電性結晶の結晶軸に基づいて決まっている。そこで、すだれ状電極3を、結晶球2と弾性表面波4の波長で決まる幅(球の直径と弾性表面波の波長との積の平方根)に形成することで、弾性表面波4が周回経路5上を帯状に安定に多重周回し、その周回ごとにすだれ状電極3で電圧変化を検出することで、既に水素センサとして利用されている。
【0007】
ところで、弾性表面波4の周回する周回経路4上に、厚さ数十ナノメートルで例えばパラジウムの金属感応膜を形成すると、例えば周囲環境に水素が存在しているとき、感応膜は水素原子を吸収して硬くなり、弾性表面波4が圧電性結晶球2の周回経路5を周回する速度を上げることが知られている。
【0008】
従来、以上のような球状弾性表面波素子1の感応膜形成方法には幾つかの方法が試されている。
【0009】
先ず、バイオ分野で試行中の感応膜形成方法は、蛋白分子、例えば抗体膜などの有機分子の膜形成について、球状弾性表面波素子1を感応膜物質の溶解されている溶液中に浸漬し、結晶球2全体に付着形成させる方法である。抗体膜の形成に当っては、予め下地に金膜を形成した後、この下地の金膜を固定するために抗体分子を自己組織化膜として形成するものであって、高感度のバイオセンサを作ることができる。
【0010】
さらに、他の有機膜の形成方法としては、回転テーブルの回転中心からずれた位置に球状弾性表面波素子1を回転可能に固定した後、周回経路5を赤道とし、その自転軸を回転中心として垂直に保って回転し、周回経路5全周に均一に有機膜を成膜する方法である(特許文献1参照)。
【0011】
一方、球状弾性表面波素子1の圧電性結晶球2の結晶材料、例えば水晶,ランガサイト,ニオブ酸リチウム,タンタル酸リチウムは、弾性表面波4が周回する経路上、弾性や電気機械的に大きな異方性を持っており、例えば電気機械結合定数が大きな値になる結晶方位の結晶面に抵抗を持つ金属膜の層がある場合には弾性表面波の減衰が大きくなることから、弾性表面波4の多数回による周回は難しくなる。
【0012】
周回経路上の各位置の結晶方位に関する弾性表面波4の影響は、前述した電気機械結合定数だけでなく、伝搬する弾性表面波の音速も変化しており、特に圧電性結晶球2の表面に金属や有機による膜が存在したとき、その膜厚に応じた影響を受ける。すなわち、結晶方位によっては膜厚が厚すぎた場合、弾性表面波4が伝搬できない領域が発生することもある。
【0013】
さらに、金属による感応膜の形成方法としては、真空蒸着方法、真空スパッタ方法、弾性表面波の周回経路の3つあるいは4つの方位から分割して蒸着する方法などが用いられる。
【0014】
これらの方法は、すだれ状電極3の面に金属などの導電性材料の導電膜が形成されると、当該すだれ状電極3が電気的に短絡してしまう可能性があり、すだれ状電極3の信号検出機能が果せなくなる。従って、導電性材料を用いた成膜は、すだれ状電極3を短絡させる可能性の高い方向からの蒸着は避けて行われる。
【0015】
真空蒸着方法や真空スパッタ方法を用いた金属膜の形成方法は、周回経路5の中心軸を中心に回転させながら蒸着する方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0016】
この金属膜の蒸着方法は、図5に示すように、真空容器21内の抵抗加熱ボード23から蒸着材料(金属)22を加熱し気化させるとともに、モータ24の回転軸に連結された回転支持体25先端に球状弾性表面波素子1における圧電性結晶球2の極位置を接着固定して支持する。26は電源である。
【0017】
すなわち、金属膜の蒸着方法は、抵抗加熱ボード23で蒸着材料22を加熱気化させ、モータ24で回転される圧電性結晶球2の周回経路(伝搬経路)5に沿って気化された蒸着材料を蒸着していく方法である。
【0018】
このとき、すだれ状電極3への金属膜の付着を防ぐために、予めすだれ状電極3の面部及び電極取出し配線上にレジストや硬化性樹脂を塗布するか、すだれ状電極3を覆うように配置させた遮蔽板を球状弾性表面波素子1と一緒に回転させながら蒸発金属を蒸着し、すだれ状電極3の短絡を防ぐ方法をとっている。
【0019】
球状弾性表面波素子1の弾性表面波4の周回経路5に沿って、素子基材となる圧電性結晶球2に比較して音速の遅い金属や有機による薄膜が形成されると、周回経路5を周回する弾性表面波4の伝搬速度が遅くなるが、その影響の程度は膜厚が厚くなるに従って大きく遅れることは既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−129126号公報
【特許文献2】特開2007−240297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、以上のように球状弾性表面波素子1の周回経路5に沿って成膜できるが、球状弾性表面波素子1の周回経路5を伝搬する弾性表面波4の減衰を抑制するなどの場合、それに必要な処置、例えば、周回経路5に沿って異なる膜厚分布で真空成膜することができない問題がある。
【0022】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、弾性表面波が周回する結晶球の周回経路の結晶方位に従って当該結晶球の回転速度を変更し、結晶方位に対応した膜厚の膜を真空成膜する球状弾性表面波素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記課題を解決するために、本発明は、圧電性結晶球を球形基材とする球状弾性表面波素子の製造方法であって、真空容器内で蒸着材料を加熱気化させる蒸着材料放射ステップと、弾性表面波を周回させる前記圧電性結晶球の周回経路が前記気化された蒸着材料の放射ビームの照射方向と対面するように、前記圧電性結晶球を回転可能に支持する回転支持ステップと、前記周回経路の結晶方位に従って前記回転支持ステップによる圧電性結晶球の回転速度を変更し、前記周回経路上に当該結晶方位に依存した膜厚分布で前記気化された蒸着材料を真空成膜し、前記球状弾性表面波素子を製造する成膜制御ステップとを有する球状弾性表面波素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、弾性表面波が周回する結晶球の周回経路の結晶方位に従って当該結晶球の回転速度を変更でき、結晶方位に対応した膜厚の膜を正確に真空成膜できる球状弾性表面波素子の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る球状弾性表面波素子の製造方法で用いられる製造装置の概略的な構成図。
【図2】回転支持体とその支持体に支持される球状弾性表面波素子との関係を示す図。
【図3】弾性表面波の伝搬速度分布と、周回経路の結晶方位とモータの回転速度との対応関係を説明する図。
【図4】一般的な球状弾性表面波素子とその駆動計測系との一構成例を示す図。
【図5】従来の球状弾性表面波素子の製造方法に適用されている製造装置の概略的な構成図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る実施形態に従った球状弾性表面波素子の製造方法に適用される製造装置の概略的な構成図である。なお、製造装置で製造される一例としての球状弾性表面波素子については既に図4で説明されているので、ここではその球状弾性表面波素子1に関する重複する部分の説明は省略する。また、本発明で用いられる図1に示す製造装置において、図5と同一部分には同一符号を付して説明する。
【0027】
先ず、球状弾性表面波素子1としては、ランガサイト結晶材よりなる直径例えば3.3mmの圧電性結晶球2が用いられる。ランガサイト結晶のZ軸の圧電性結晶球2中心部に直交する赤道上に沿って弾性表面波4を周回させるために、弾性表面波4の周回経路5の所定位置に150MHzの中心周波数を有するクロム500オングストローム,金1000オングストロームからなるすだれ状電極(電気音響変換素子)3が形成される。
【0028】
なお、本発明において、弾性表面波4とは、球形基材となる結晶球2の表面近傍にエネルギーを集中させて伝搬する波を指し、漏洩弾性表面波や擬似弾性表面波を含むものとする。
【0029】
また、球状弾性表面波素子1とは、結晶球2の表面の所定位置に形成されたすだれ状電極(電気音響変換素子)3で励起された弾性表面波4が球表面の最大外表面を含む円環状の領域(周回経路)に沿って帯状に周回可能な素子をいう。
【0030】
そこで、球状弾性表面波素子1の本体となる圧電性結晶球2の周回経路5に沿って真空成膜する製造装置としては、図1に示すように構成されている。
【0031】
この製造装置は、真空容器21内下部の所定位置に設置され、蒸着材料(例えば金)22を加熱蒸発させる抵抗加熱ボード等の加熱蒸着手段(蒸着材料放射源)31と、真空容器21内上部の所定位置に設置されるステッピングモータ32と、このステッピングモータ32とは真空容器21の所要個所に取り付けた中継コネクタ33を介して着脱可能に接続されるモータ回転角制御部34と、前記加熱蒸着手段31の真上に配置され、ステッピングモータ32の回転軸に連結される回転支持体35先端に支持される圧電性結晶球2でもある未成膜の球状弾性表面波素子1と、この球状弾性表面波素子1の下部近傍に配置される蒸着マスク36とで構成されている。
【0032】
加熱蒸着手段31としては、高真空中で加熱して気化させた蒸着材料(例えば金)22を球状弾性表面波素子1表面の周回経路5に沿って蒸着させるもので、前述するように例えば抵抗加熱ボードが用いられる。この抵抗加熱ボードは、蒸着材料22をのせてボードの抵抗による熱によって蒸着材料22を溶かして蒸発させる機能を有する。
【0033】
ステッピングモータ32は、モータ回転角制御部34からの回転角度制御指示に基づき、0.5度以下の分解能で回転でき、かつ、その回転角度位置に応じて変更される回転速度制御指示に従って回転速度が制御されるものである。
【0034】
モータ回転角制御部34は、例えばパソコンなどが用いられ、或いは少なくともCPUと記憶部が設けられ、パソコンを含む記憶部には球状弾性表面波素子1の周回経路5の結晶方位とステッピングモータ32の回転速度との回転速度対応テーブル34aが設けられ、球状弾性表面波素子1の周回経路5の360°にわたって、回転速度対応テーブル34aに規定される圧電性結晶球2の結晶方位に従って回転速度を変更する回転速度制御指示をステッピングモータ32に送出する。
【0035】
未成膜の球状弾性表面波素子1は、回転支持体35先端に固定支持されるが、このとき球状弾性表面波素子1の周回経路5以外の圧電性結晶球2表面が回転支持体35に接着或いは把持される。望ましくは、球状弾性表面波素子1の周回経路5の方向と直交する方向の圧電性結晶球2の表面が支持される。その結果、球状弾性表面波素子1真下の蒸着マスク36のスリット36aが周回経路5の幅に相当する大きさに形成されていれば、球状弾性表面波素子1による360°の回転にわたって周回経路5がスリット36aの方向を向いた状態となる。
【0036】
しかし、回転支持体35と平行な方向となる蒸着マスク36のスリット開口幅は、周回経路5の方向と直交する方向の圧電性結晶球2表面の接着ずれ等を考慮すれば、球状弾性表面波素子1の周回経路5上の幅よりも多少大きな幅のスリット開口部に形成するのが望ましい。
【0037】
スリット36aのもう一方の開口幅(回転支持体35の回転軸を自転軸として経度が変わる方向の幅)は、圧電性結晶球2の直径の2分の1以下とするのが望ましい。その理由はスリット36aの開口幅を狭くすることで、より細かく蒸着の分布を制御可能である為である。さらに、周回経路5の方向に所定の膜厚で成膜する場合、球状弾性表面波素子1をより遅く回転させとか、あるいは球状弾性表面波素子1の回転数を増やして膜厚を厚くすることもできる。
【0038】
図2は回転支持体35の具体的な構成を示す図である。
【0039】
回転支持体35は、ステッピングモータ32の回転軸に連結され、ステッピングモータ32の回転に同期して回転するものであって、L字状に形成された平板状を有する電極マスク支持体35aと、この電極マスク支持体35aの長手方向に所要の間隔を有して互いに対峙するように設置される弾性を有する一対の素子固定用板35b,35bと、これら一対の素子固定用板35b,35bの間に支持させる複数の球状弾性表面波素子1,1の間に介在され、球状弾性表面波素子1,1の動きを封じる中央部に貫通孔を有する連結用リング35cとが設けられている。
【0040】
一対の素子固定用板35b,35bの間に支持される複数の球状弾性表面波素子1は、すだれ状電極3の面部が電極マスク支持体35aに対面するように定置させる。そのため、球状弾性表面波素子1のすだれ状電極3の当接する電極マスク支持体35aの該当部位が多少湾状に形成されていれば、球状弾性表面波素子1を適切に定置させることができる。
【0041】
これにより、すだれ状電極3が電極マスク支持体35aで覆われるので、加熱蒸着手段31で加熱気化された蒸着材料22がすだれ状電極3上に導電膜を形成して短絡するような状態を防ぐ役割を果すことができる。
【0042】
なお、電極マスク支持体35a上に複数の球状弾性表面波素子1を並べて支持するようにしたのは、一度に多くの球状弾性表面波素子1の周回経路5に感応膜を成膜する為である。
【0043】
なお、対峙する素子固定用板35b,35bの間隔を広げ、3つ以上の球状弾性表面波素子1を配列し、各隣接素子1−1間に連結用リング35cを介在させるようにしてもよい。
【0044】
図3はランガサイト結晶材よりなる圧電性結晶球2の周回経路5上の弾性表面波4の伝搬速度の分布(イ)と、スリット36a開口部と対面する圧電性結晶球2の周回経路5の結晶方位とステッピングモータ32の回転速度との対応関係(ロ)を示す図である。この図3に示す対応関係(ロ)は、モータ回転角制御部34の記憶部の回転速度対応テーブル34aに規定されている。
【0045】
この図3の例は、横軸の0度から60度がマイナスY結晶方位に相当し、伝搬速度が大きい結晶方位では電気機械結合定数が大きくなる。このランガサイトのZ軸シリンダー経路に沿う伝搬速度は約2400m/秒にわたり、60度周期で分布していることが判る。
【0046】
従って、図3は、球状弾性表面波素子1に対して、その周回経路5に蒸着材料(金)22を蒸着する際に、横軸に記載した周回経路5の結晶方位の面が蒸着マスク36のスリット36aと加熱蒸着手段31の方向を向いているときの回転速度対応関係を表すデータを示している。
【0047】
このことは、モータ回転角制御部34が、スリット36aに面する周回経路5の結晶方位と回転速度との対応値に従ってステッピングモータ32に回転速度制御指示を印加し、回転速度を変化させながら回転支持体35に支持される球状弾性表面波素子1を回転させる。
【0048】
この実施形態の例では、電気機械結合定数の大きな結晶方位(Y結晶軸方向近辺)の場合には球状弾性表面波素子1を高速(回転速度は20度/秒)で回転させて蒸着材料(金)22を蒸着させることによって膜厚を薄く形成する。
【0049】
一方、アイランド状と呼ばれる,例えば面内抵抗が1Mオーム以上とし、1度/秒の低速で回転させることで、長時間Y結晶軸方位近傍(電気機械結合定数が小さい周回経路)に蒸着材料(金)22を蒸着させることにより、十分な膜厚の金膜を形成することができる。
【0050】
以上のように電気機械結合定数の大きな周回経路部分において、金の蒸着材料22による膜を成膜すれば、その成膜による膜での電流発生とその抵抗によるエネルギーの消耗が著しく大きくなることを防ぎ、周回経路5を周回する弾性表面波4のエネルギー消耗を防ぐ効果がある。
【0051】
なお、本実施の形態では、回転軸の回転角位置に対応して回転速度を変化させる方法として、ステッピングモータ32の回転速度を変更する方法を採用したが、電気的または機械的に様々な方法を用いて、回転軸の回転角位置に従って回転速度を変えることができる。
【0052】
例えばステッピングモータ32ではなく、通常のモータを使用し、回転軸の回転位相を別個の回転角検出センサで読取り、その読み取った回転位相に従ってモータに与える電圧を変えることにより、回転速度を変更することができる。
【0053】
また、機械的には、例えばカムを用いて回転速度を変える方法も考えられる。この場合、球状弾性表面波素子1の方位と回転速度の対応関係は、カムや非同心円形のギア部品を用い、弾性表面波の周回経路5の方位に従った所定の回転速度となるようにその形状を設計することも可能であり、本発明ではその方法も除外するものではない。
【0054】
なお、球状弾性表面波素子1の弾性表面波4の周回経路5において、その結晶方位によって一意に決まる回転速度で球状弾性表面波素子1を回転させながら、その周回経路5上に真空成膜することで、例えば,弾性表面波4の音速の大きな結晶方位に、弾性表面波4の伝搬速度を遅くする蒸着材料22をより厚く形成することにより、周回経路5にわたる弾性表面波4の音速の変動を抑制するようにした球状弾性表面波素子1を製造できることは既に公知となっているので、ここではその説明は行わない。
【0055】
さらに、上記実施形態では、圧電性結晶球2の結晶方位に従って感応膜の厚さを変化させる成膜方法について説明したが、例えば圧電性結晶球2の表面に弾性表面波を励起したり、周回する弾性表面波を電気信号に変換するすだれ状電極(電気音響変換素子)3の導電性金属の電極パターンの膜厚を、その各部(各電極枝)が位置する結晶球2の結晶方位上の位置に従って変更することも可能である。
【0056】
また、圧電性結晶球2の表面には弾性特性の均一な領域が無く、必ず連続的に変化している。そのため、弾性表面波を励起するすだれ状電極3は、所定の広さを有し、圧電性結晶球2表面に均一な膜厚で形成されるが、球状弾性表面波素子1においては、すだれ状電極3の各部(各電極枝)の存在する結晶球上の結晶方位は連続的に変化しているので、その結晶方位に従って膜厚を変更したすだれ状電極3を設計することが可能である。なお、すだれ状電極3の膜厚や各部(各電極枝)の位置の詳細な設計方法については、既に様々な設計理論が構築されている。従って、すだれ状電極3の膜厚の制御とその特性への影響の計算方法についてはここでは説明を行わない。
【0057】
また、圧電性結晶球2に形成される蒸着材料22の膜厚はスリット36aの形状に大きく依存する。通常、加熱蒸着手段31によって気化された蒸着材料22は、蒸着マスク36のスリット36aを通過し球状弾性表面波素子1の表面に成膜するが、圧電性結晶球2の表面が周回経路5から離れるに従って加熱蒸着手段31からの蒸着ビーム照射方向が斜めに対面することから膜厚が薄くなる。このことは、周回経路5から離れるに従ってスリット幅を広くとれば、長時間蒸着ビームを照射することにより、周回経路5から離れても同じ膜厚の膜を緯度方向に形成するように調整することが可能である。
【0058】
従って、本発明で使用するスリット36aとしては、様々な手法により設計するが、さらに球状弾性表面波素子1の回転角に従ってスリット36aの形状自体を2次元的に変更することが可能であるので、周回経路5にわたって、経度方向だけでなく、緯度方向にもその膜厚を可変しつつ調整することができる。
【0059】
その他、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0060】
1…球状弾性表面波素子、2…結晶球(球形基材)、3…すだれ状電極(電気音響変換素子)、4…弾性表面波、5…周回経路、21…真空容器、22…蒸着材料、31…加熱蒸着手段、32…ステッピングモータ、34…モータ回転角制御部、34a…回転速度対応テーブル、35…回転支持体、36…蒸着マスク、36a…スリット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電性結晶球を球形基材とする球状弾性表面波素子の製造方法であって、
真空容器内で蒸着材料を加熱気化させる蒸着材料放射ステップと、
弾性表面波を周回させる前記圧電性結晶球の周回経路が前記気化された蒸着材料の放射ビームの照射方向と対面するように、前記圧電性結晶球を回転可能に支持する回転支持ステップと、
前記周回経路の結晶方位に従って前記回転支持ステップによる圧電性結晶球の回転速度を変更し、前記周回経路上に当該結晶方位に依存した膜厚分布で前記気化された蒸着材料を真空成膜し、前記球状弾性表面波素子を製作する成膜制御ステップと
を有することを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の球状弾性表面波素子の製造方法において、
予め前記周回経路の結晶方位と回転速度との関係が規定され、前記結晶方位の電気機械結合定数の値に応じて前記規定された回転速度で前記圧電性結晶球の回転速度を制御し、前記蒸着材料による所望の膜厚を形成することを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の球状弾性表面波素子の製造方法において、
前記周回経路上に前記蒸着材料を真空成膜する際、当該周回経路の結晶方位の面が前記蒸着材料放射ステップで加熱気化させる蒸着材料の照射方向を臨むように所要の形状のスリット開口部を有する蒸着マスクを配置したことを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の球状弾性表面波素子の製造方法において、
前記弾性表面波の周回経路上への真空成膜する蒸着材料は、周囲の環境変化に従って前記弾性表面波の伝搬状態を変化させるガス感応膜材料、あるいは前記周回経路上に形成された当該感応膜材料を固定するための感応膜固定用の膜材料であることを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3の何れか一項に記載の球状弾性表面波素子の製造方法において、
前記弾性表面波の周回経路上への真空成膜する蒸着材料は、前記圧電性結晶球の周回経路を周回する当該弾性表面波を励起し、そのとき当該弾性表面波から発生する信号を検出するすだれ状電極の材料であることを特徴とする球状弾性表面波素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−199517(P2011−199517A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63150(P2010−63150)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】