説明

球状無機物粉体の製造方法及び球状無機物粉体製造装置並びに樹脂組成物の製造方法

【課題】粉体の凝集・付着を抑制する球状無機物粉体の製造方法の提供。
【解決手段】金属からなる原料無機物粉体にHMDSを接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理工程とその処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する搬送工程とを有する。その後、溶融法を採用する場合には、搬送された処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて加熱溶融する溶融工程と高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とを有する。そしてVMC法を採用する場合には、搬送された処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて燃焼させる燃焼工程と高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とを有する。つまり、本発明の球状無機物粉体の製造方法は、HMDSにて表面処理を行うことで原料無機物粉体の粉体特性を向上し、粉体間の凝集防止や、粉体が輸送路に付着することを防止している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状無機物粉体の製造方法及び球状無機物粉体製造装置並びに樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカやアルミナからなる球状無機物粉体を製造する方法としては、含酸素雰囲気下にて対応する金属粉末を酸化させて得られる方法(VMC法)や、火炎溶融法などを挙げることができる。
【0003】
VMC法は、酸素を含む雰囲気中でバーナーにより化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物粒子の一部を構成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こして球状の酸化物粒子を得る方法である。
【0004】
火炎溶融法は目的とする球状金属酸化物粒子を構成する金属酸化物を粉砕などにより粉末化した後に、火炎中に投入・溶解させた後、冷却・固化させることで、球状金属酸化物粒子を製造する方法である。
【0005】
いずれの方法を採用するにしても原料になる粉体を火炎中に輸送する必要がある。その場合に原料粉体が凝集したり輸送路に付着するなどの原因によって脈動が生じて輸送が円滑に進まないことがあり、輸送が円滑に進行しないと製造条件が大きく変化して目的の性状をもつ球状無機物粉体が得られないことになる。
【0006】
この問題に対処する従来技術としては、無機質原料粉末を火炎中に溶射して球状化する球状無機質微粉末の製造方法であって、平均粒径0.5〜3μmの無機質原料粉末に分散系表面処理剤を混合した後、溶射バーナーの火炎に噴霧することにより、溶射バーナーや配管への前記無機質原料粉末の付着を防止すると共に、該原料粉末の凝集による溶射時の粒子の増大化を防止することを特徴とする球状無機質微粉末の製造方法及び製造装置が開示されている(特許文献1)。特許文献1には分散系表面処理剤としてシランカップリング剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−15884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、本出願人は従来より球状無機物微粉体を製造しており、その過程において、凝集や付着の発生を防止して脈動を防止する手法を確立している。
【0009】
本発明は上記実情に鑑み開示するものであり、従来技術とは異なる新規な処理剤にて粉体の凝集・付着を抑制する球状無機物粉体の製造方法及び製造装置、並びに、それらの製造方法にて球状無機物粉体を製造する工程をもつ樹脂組成物の製造方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の球状無機物粉体の製造方法は、原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理工程と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する搬送工程と搬送された前記処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて加熱溶融する溶融工程と溶融した前記処理済原料無機物粉体を前記高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とをもつ球状化工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
この場合、前記原料無機物粉体の体積平均粒径としては0.1μmから5.0μmである場合に効果的である。
【0012】
そして本発明の他の球状無機物粉体の製造方法は、金属からなる原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理工程と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する搬送工程と搬送された前記処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて燃焼させる燃焼工程と燃焼した前記処理済原料無機物粉体を前記高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とをもつ球状化工程と、
を有することを特徴とする。
【0013】
つまり、本発明の球状無機物粉体の製造方法は、オルガノシラザン類にて表面処理を行うことで原料無機物粉体の粉体特性を向上し、粉体間の凝集防止や、粉体が輸送路に付着することを防止している。オルガノシラザン類はシランカップリング剤と比較して同等乃至優れた付着・凝集防止効果を発揮する。
【0014】
ここで、前記表面処理工程は前記原料無機粉体の表面積1m2辺り0.05μモル〜5μモルの前記オルガノシラザン類を接触させる工程であることが望ましい。そして、前記オルガノシラザン類はヘキサメチルジシラザンであることが望ましい。
【0015】
上記課題を解決する本発明の樹脂組成物の製造方法が製造する樹脂組成物は球状無機物粉体と、前記球状無機物粉体を分散する有機樹脂材料とを有しており、その球状無機物粉体は前述の本発明の球状無機物粉体の製造方法により製造されることを特徴とする。
【0016】
また、上記課題を解決する本発明の球状無機物粉体の製造装置は、原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理手段と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスにて搬送する原料搬送路をもつ原料搬送手段と、
前記処理済原料無機物粉体が前記原料搬送手段にて内部に搬送され且つ高温火炎を発生させる火炎発生装置を内部にもつ内部空間をもち、搬送された前記処理済原料無機物粉体を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉の内部から加熱処理後の無機物粉体を搬出する搬出手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の球状無機物粉体の製造方法及び製造装置は上記構成を採用することから以下の作用効果を発揮する。すなわち、オルガノシラザン類を表面に接触させて処理することで原料無機物粉体における互いの凝集や輸送路への付着が効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例にて用いた球状無機物粉体の製造装置の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(球状無機物粉体の製造方法)
本発明の球状無機物粉体の製造方法について、以下、実施形態に従い詳細に説明を行う。本実施形態の球状無機物粉体の製造方法は(1)溶融法及び(2)VMC法に適用される。なお、溶融法及びVMC法は排他的な製造方法ではなく、VMC法にて説明するように、構成として組み合わせることも可能である。つまり、VMC法にて燃焼させる原料無機物粉体中に製造される球状無機物粉体を構成する無機物を混合することで、製造条件を変化させることが可能になって、種々の性状をもつ球状無機物粉体を製造することができる。
【0020】
(1)溶融法
本実施形態の球状無機物粉体の製造方法は原料無機物粉体を加熱溶融して球状無機物粉体を製造する方法であり、表面処理工程と球状化工程とを有する。原料無機物粉体の形態は特に限定しないが、原料無機物粉体の粒径(粒径分布)によって製造される球状無機物粉体の粒径(粒径分布)が変化するので、必要な粒径(粒径分布)が実現できるように粒径(粒径分布)を設定する。
【0021】
原料無機物粉体は溶融・固化後に球状無機物粉体を形成可能な材料から形成される。溶融・固化によって変化しない無機物から形成される球状無機物粉体を製造する場合にはその無機物からなる原料無機物粉体を採用する。例えば、球状無機物粉体が金属酸化物(シリカやアルミナなど)から形成される場合には、その金属酸化物からなる原料無機物粉体を用いることができる。また、原料無機物粉体としては低融点ガラスなどの混合物を採用することもできる。更に、ある種の有機物などのように、加熱によって揮散する化合物を混合しても良い。
【0022】
原料無機物粉体として体積平均粒径が0.1μmから5.0μmであるものは輸送路において付着や凝集が問題になり易いので本実施形態の製造方法を採用することが望ましい。
【0023】
表面処理工程は原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする工程である。オルガノシラザン類はSi−NH−Si結合を有し、1つ以上の炭化水素基をもつ化合物であれば充分であり、特に限定しない。例えば、ジシラザン:(R3Si)2NH、シクロシラザン:(R2SiNH)nなどが例示できる。ここで、Rはすべて独立して選択可能な炭化水素基である。特にヘキサメチルジシラザン(HMDS)を採用することが望ましい。オルガノシラザン類は原料無機粉体の表面積1m2辺り0.05μモル〜5μモルの範囲で用いることが望ましく、0.07μモル〜3μモルの範囲で用いることがより望ましい。ここで、原料無機物粉体の表面積は窒素ガスを用いたBET法により測定した。
【0024】
原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させる方法としては特に限定しない。例えば、オルガノシラザン類が液体状である場合にはそのままで、又は、何らかの溶媒を用いた溶液として添加して混合することができる。特に混合機や粉砕機中にて、よく撹拌しながらオルガノシラザン類を添加することで、原料無機物粉体の表面に対して、より均一に付着させることができる。オルガノシラザン類の添加方法についても特に限定しないが、噴霧器を用いて霧状としたオルガノシラザン類をそのまま又は何らかの溶媒を用いた溶液として添加することが望ましい。また、原料無機物粉体の一部について、その表面にオルガノシラザン類を接触させて処理した後に、残りの原料無機物粉体に混合することで、原料無機物粉体の全体を処理することもできる。ここで、オルガノシラザン類は、原料無機物粉体表面に単に付着しているものであっても良いし、原料無機物粉体表面との間で化学反応が進行しているものでも良い。
【0025】
球状化工程は搬送工程と溶融工程と凝固工程とをもつ。搬送工程により原料無機物粉体を搬送した後、溶融工程にて原料無機物粉体を溶融・球状化し、凝固工程にて溶融した原料無機物粉体を凝固させている。
【0026】
搬送工程は処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する工程である。ホッパーなどに貯蔵された処理済原料無機物粉体をキャリヤガスを流通させている輸送路中に供給することで搬送する。キャリヤガスとしては処理済原料無機物粉体との間で望まない反応が進行しないガスを選択する。窒素、空気、酸素、アルゴンなどの希ガスなどが採用できる。特に常温にて搬送する場合であって、特に反応性が高い材料から構成される原料無機物粉体を採用しない限り、窒素や空気を採用することがコストの観点からは望ましい。
【0027】
溶融工程は搬送された処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて加熱溶融する工程である。溶融工程は加熱炉中にて行うことが望ましい。加熱炉は特に限定しないが、製造する球状無機物粉体に要求される純度に応じて加熱炉の壁を構成する材料を選択することが望ましい。例えば、製造する球状無機物粉体に対して、ウラン濃度が所定値以下であることが要求されている場合には、原料無機物粉体及び球状無機物粉体が接触する可能性がある加熱炉の壁を構成する材料中のウラン濃度を低く制御することが望ましい。
【0028】
凝固工程は、溶融工程にて加熱溶融した原料無機物粉体を火炎中から回収して、冷却凝固させる工程である。冷却凝固させるには火炎中から球状化した原料無機物粉体を回収する必要があるが、火炎中から回収する方法としては限定しない。
【0029】
凝固工程の一例としては以下の工程を挙げることができる。溶融工程において火炎中に分散された原料無機物粉体は火炎の熱によって溶融した後、自重によって下降していくので、加熱炉の下方に火炎を形成させずに、下方の空間の温度を低くしておくことで、溶融して球状化した原料無機物粉体は加熱炉の下方空間にて凝固する工程を採用することができる。この構成を採用した場合に、冷却凝固して形成された球状無機物粉体は加熱炉の下方、例えば、下方に形成した回収口から内容物を吸引することで回収することができる。
【0030】
(2)VMC法
本実施形態の球状無機物粉体の製造方法は金属からなる原料無機物粉体を火炎中にて燃焼させることで、金属と火炎中の雰囲気ガスとを反応させることで、球状無機物粉体を製造する方法であり、表面処理工程と球状化工程とを有する。原料無機物粉体の形態は特に限定しないが、原料無機物粉体の粒径(粒径分布)によって製造される球状無機物粉体の粒径(粒径分布)が変化するので、必要な粒径(粒径分布)が実現できるように粒径(粒径分布)を設定する。
【0031】
原料無機物粉体を構成する金属は燃焼した後に球状無機物粉体を形成可能な材料である。例えば、球状無機物粉体が金属酸化物(シリカやアルミナなど)から形成される場合には、その対応する金属(ケイ素、アルミニウム)からなる原料無機物粉体を用いる。これらの金属は最終的に製造される球状無機物粉体に要求される純度に応じて純度を調節する。そして、原料無機物粉体としては単一の金属のみならず、必要に応じて複数の金属の混合物であっても良い。また、ある種の有機物などのように、燃焼によって揮散する化合物を混合しても良い。
【0032】
また、必要に応じて、球状無機物粉体を構成する無機物(例えばシリカ、アルミナなど)から形成される粉体を原料無機物粉体中に含有させることができる(溶融法類似の構成の採用)。その場合には、その粉体についてもオルガノシラザン類にて処理することが望ましい。
【0033】
表面処理工程は原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする工程である。本表面処理工程は、被処理対象である原料無機物粉体の種類が異なる以外、前述した溶融法における表面処理工程と同じなので更なる説明は省略する。
【0034】
球状化工程は搬送工程と燃焼工程と凝固工程とを有する。搬送工程及び凝固工程は前述した溶融法において説明した同工程と同じ工程が採用できるので更なる説明は省略する。
【0035】
燃焼工程は、搬送工程によって搬送された処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて燃焼させる工程である。高温火炎中には製造される球状無機物粉体を組成する元素に応じて選択される元素を含有する雰囲気ガスを含む。例えば、球状無機物粉体を構成する無機物がシリカ(アルミナ)である場合、原料無機物粉体はケイ素(アルミニウム)から構成し、雰囲気ガスは酸素を含むものを選択する。燃焼工程では原料無機物粉体中のケイ素が雰囲気ガス中の酸素と反応することで燃焼反応が進行して、シリカを形成する。
【0036】
(球状無機物粉体の製造装置)
本実施形態の球状無機物粉体の製造装置は、表面処理手段と原料搬送手段と加熱炉と搬出手段とを有する。表面処理手段は原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする手段である。本製造装置は前述の溶融法、VMC法のいずれの方法にも適用できる。
【0037】
原料搬送手段は処理済原料無機物粉体をキャリヤガスにて搬送する原料搬送路をもつ手段である。原料無機物粉体の表面にオルガノシラザン類を接触・処理して処理済原料無機物粉体にすることで、処理済原料無機物粉体が原料搬送路に付着して搬送量の変動が発生し難くなる。
【0038】
加熱炉は内部空間を備える。内部空間はその内部に処理済原料無機物粉体が搬送される空間である。内部空間内にて処理済原料無機物粉体が加熱処理される。この加熱処理としては、溶融法の場合には処理済原料無機物粉体を加熱溶融する処理であり、VMC法の場合には処理済原料無機物粉体を燃焼させる処理である。
【0039】
内部空間の内部には火炎発生装置をもつ。火炎発生装置は高温火炎を発生する装置であり、可燃ガスと支燃ガスとを供給し内部空間内に開口する供給ノズルなどにより構成される。可燃ガスとしてはメタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素ガス、水素ガスなどが例示され、支燃ガスとしては酸素などが例示される。特にVMC法に適用する場合に、支燃ガスとしての酸素を過剰に添加することでVMC法にて利用される酸素を供給することができる。VMC法において酸素以外のガスを用いる場合にはそのガスをキャリヤガス、可燃ガス及び/又は支燃ガスに混合して供給することもできる。
【0040】
搬出手段は加熱炉の内部から加熱処理後の無機物粉体を搬出する手段である。例えば、バグフィルタなどを備えた吸引装置を挙げることができ、この装置によって、加熱炉の下方に開口する開口部から内部のガスを吸引して浮遊する球状無機物粉体を分離する。
【0041】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物の製造方法にて製造される樹脂組成物は、前述の球状無機物粉体と有機樹脂材料とを混合し、球状無機物粉体を有機樹脂材料中に分散させたものである。本樹脂組成物は半導体液状封止材として半導体素子や電子デバイスの封止に用いることができるほか、基板材料、接着剤、シール材、充填材、レジスト材、無機ペースト、コーティング剤、精密成形樹脂などに用いることができる。
【0042】
球状無機物粉体については上述した通りなので更なる説明は省略する。球状無機物粉体は全体の質量を基準として40質量%以上含有することが望ましく、更には50質量%以上含有することがより望ましい。
【0043】
有機樹脂材料としては、エポキシ樹脂、オキシラン樹脂、オキセタン化合物、環状エーテル化合物、環状ラクトン化合物、チイラン化合物、環状アセタール化合物、環状チオエーテル化合物、スピロオルトエステル化合物、ビニル化合物などが挙げられ、これらの化合物を単独で、又は複数種類混合して用いることができる。
【0044】
特に、エポキシ樹脂が入手性、取扱性などの観点から好ましい。エポキシ樹脂は特に限定されないが、1分子中に2以上のエポキシ基を有するモノマー、オリゴマー、ポリマーが挙げられる。例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂、トリアジン核含有エポキシ樹脂が挙げられる。
【0045】
エポキシ樹脂以外の具体例としては、フェニルグリシジルエーテル、エチレンオキシド、エピクロロヒドリンなどのオキシラン化合物;トリメチレンオキサイド、3,3−ジメチルオキセタン、3,3−ジクロロメチルオキセタンなどのオキセタン化合物;テトラヒドロフラン、2,3−ジメチルテトラヒドロフラン、トリオキサン、1,3−ジオキソフラン、1,3,6−トリオキサシクロオクタンなどの環状エーテル化合物;β−プロピオラクトン、ε−カプロラクトンなどの環状ラクトン化合物;エチレンスルフィド、3,3−ジメチルチイランなどのチイラン化合物;1,3−プロピンスルフィド、3,3−ジメチルチエタンなどのチエタン化合物;テトラヒドロチオフェン誘導体などの環状チオエーテル化合物;エポキシ化合物とラクトンとの反応によって得られるスピロオルトエステル化合物;スピロオルトカルボナート化合物;環状カルボナート化合物;エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテルなどのビニル化合物;スチレン、ビニルシクロヘキセン、イソブチレン、ポリブタジエンなどのエチレン性不飽和化合物が例示できる。カチオン重合性化合物としては、エポキシ樹脂及びこれらの化合物を単独で、又は複数種類混合して用いることができる。
【0046】
エポキシ樹脂を採用した場合などに添加する硬化剤としては1級アミン、2級アミン、フェノール樹脂、酸無水物を用いることがあり、硬化触媒としてはブレンステッド酸、ルイス酸、塩基性触媒などが用いられる。塩基性触媒としては、イミダゾール系、ジシアンジアミド系、アミンアダクト系、ホスフィン系、ヒドラジド系が用いられる。
【実施例】
【0047】
本発明の球状無機物粉体の製造方法について実施例に基づき、更に詳細に説明を行う。
【0048】
(試験1)
図1に示す球状無機物粉体製造装置にて評価を行った。図1に示す部分は原料搬送手段の部分と加熱炉における火炎発生装置の部分とに相当し、本発明の製造方法における搬送工程と溶融工程の一部とを実現する装置に相当するものである。
【0049】
キャリヤガスとしては空気を用いた。キャリヤガスAは搬送路22の一端部から圧力0.3MPaで導入した。キャリヤガスAの導入量は50Nm/時間とした。搬送路22の他端部は火炎発生装置3に開口する原料供給ノズル221である。処理済原料無機物粉体に相当する試験粉体を導入していないときの圧力を圧力計23にて確認したところ、5kPaであった。試験粉体は原料ホッパ10中に貯蔵されており、原料供給路21を通じて、搬送路22内に導入した。試験粉体の供給速度は200kg/時間とした。搬送路22は内径が27.6mm、長さが15mとした。火炎発生装置3には可燃ガスBを可燃ガスノズル311に供給する可燃ガス供給路31と支燃ガスCを支燃ガスノズル321に供給する支燃ガス供給路32とが接続されている。火炎発生装置3は加熱炉(図略)の内部空間内に配設されている。
【0050】
試験粉体の搬送を開始してから30分間の搬送状態を観察した。そして、圧力計23によって、30分後における平均輸送圧と輸送圧のばらつきとを測定した。
【0051】
〈実施例1〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が0.8μmの破砕結晶シリカを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり0.08μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は15.0m2/gであった。
【0052】
〈実施例2〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が0.8μmの破砕結晶シリカを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり0.5μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は15.0m2/gであった。
【0053】
〈実施例3〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が0.8μmの破砕結晶シリカを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり2.0μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は15.0m2/gであった。
【0054】
〈実施例4〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が1.5μmの破砕結晶シリカを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり0.5μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は8.0m2/gであった。
【0055】
〈実施例5〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が8.5μmの破砕金属シリコンを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり0.5μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は4.5m2/gであった。
【0056】
〈実施例6〉
原料無機物粉体としては体積平均粒径が3.2μmの破砕無鉛低融点ガラスを用いた。この原料無機物粉体をミキサに投入して撹拌しながら、ヘキサメチレンジシラザンを原料無機物粉体の表面積1m2あたり0.5μmolになるように噴霧することで表面処理工程を行い、本実施例の試験粉体として試験に供した。なお、原料無機物粉体の比表面積は0.7m2/gであった。
【0057】
(比較例1〜4)
表面処理工程を行わない以外、実施例1及び4〜6における材料及び工程を採用した粉末を調製してそれぞれの比較例の試験粉体として試験に供した。
【0058】
(結果)
結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1より明らかなように、HMDSを表面に接触させて処理することで、平均輸送圧、輸送圧の変動共に低く、試験粉体の安定した搬送が実現できた。特に表面処理を行わないシリカ(比較例1及び2)については本評価試験の試験条件では詰まりが発生して満足な搬送が実現できなかった。また、金属ケイ素及び低融点ガラスについても表面処理を行わないと平均輸送圧が2倍程度にまで上昇し、搬送量の変動の大きさも5〜6倍にまで上昇した。
【0061】
(試験2)
(実施例7)
実施例4の試験粉体を用いて溶融法による球状無機物粉体の製造を行った。装置は図1に示す装置を用いた。キャリヤガスAとして酸素を用いた。加熱炉として保温構造を有するものを採用した。
【0062】
(実施例8)
実施例6の試験粉体を用いて溶融法による球状無機物粉体の製造を行った。装置は図1に示す装置を用いた。キャリヤガスAとして酸素を用いた。加熱炉として保温構造を有するものを採用した。
【0063】
(実施例9)
実施例5の試験粉体を用いて溶融法による球状無機物粉体の製造を行った。装置は図1に示す装置を用いた。キャリヤガスAとして空気を用いた。加熱炉として除熱構造を有するものを採用した。
【0064】
(比較例5)
比較例4の試験粉体を用いて溶融法による球状無機物粉体の製造を行った。装置は図1に示す装置を用いた。キャリヤガスAとして酸素を用いた。加熱炉として保温構造を有するものを採用した。
【0065】
(結果)
体積平均粒径は堀場製作所製のLA500にて測定を行った。真球度はSEMでの観察結果から所定数の粒子について、その投影面積と周囲長とを測定し、(真球度)={4π×(投影面積)÷(周囲長)2}にて算出した。真球度は各実施例及び比較例の球状無機物粉体毎に100個ずつ測定した上で平均値として求めた。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
表2より明らかなように、HMDSにて表面処理した試験粉体(実施例4及び6)を用いて溶融法にて製造した実施例7及び8の球状無機物粉体は、原料となった試験粉体の体積平均粒径に比べて僅かに大きくなる程度でほとんど変わらない体積平均粒径をもつものであった。これは原料となる試験粉体を安定的に供給することが可能になったことに由来するものと推測できる。
【0068】
それに対して、HMDSにて処理していない比較例4の試験粉体を用いたことを除き、実施例8と同様の操作を行った比較例5にて製造された球状無機物粉体の体積平均粒径は6.0μmとなり、原料の平均粒径が3.2μmであったのに対して大幅に大きくなることが分かった。これは、比較例5では原料としての試験粉体の搬送量が±40kg/時間と大きく変動していることに起因して、試験粉体の安定した供給が実現されず、試験粉体の粒子が複数個融合して原料よりも大きな粒径なったものと推測された。複数個融合したことは真球度の値からも推測できる。すなわち、比較例5の球状無機物粉体の真球度は0.87であって、表面処理以外の製造条件が同じである実施例8の球状無機物粉体の真球度0.97と比較して、低い値であり、複数個の融合が進行したことを裏付けている。
【0069】
実施例9の結果から明らかなように、VMC法にて球状無機物粉体を製造する場合であっても、真球度が0.99と非常に安定した品質の球状無機物粉体を提供することが可能になることが分かった。
【符号の説明】
【0070】
10…原料ホッパ
21…原料供給路 22…搬送路 221…原料ノズル 23…圧力計
3…火炎発生装置 31…可燃ガス供給路 311…可燃ガスノズル 32…支燃ガス供給路 322…支燃ガスノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理工程と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する搬送工程と搬送された前記処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて加熱溶融する溶融工程と溶融した前記処理済原料無機物粉体を前記高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とをもつ球状化工程と、
を有することを特徴とする球状無機物粉体の製造方法。
【請求項2】
前記原料無機物粉体の体積平均粒径が0.1μmから5.0μmである請求項1に記載の球状無機物粉体の製造方法。
【請求項3】
金属からなる原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理工程と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスと共に搬送する搬送工程と搬送された前記処理済原料無機物粉体を高温火炎中に分散させて燃焼させる燃焼工程と燃焼した前記処理済原料無機物粉体を前記高温火炎中から取り出して冷却凝固させる凝固工程とをもつ球状化工程と、
を有することを特徴とする球状無機物粉体の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理工程は前記原料無機粉体の表面積1m2辺り0.05μモル〜5μモルの前記オルガノシラザン類を接触させる工程である請求項1〜3のいずれかに記載の球状無機物粉体の製造方法。
【請求項5】
前記オルガノシラザン類はヘキサメチルジシラザンである請求項1〜4のいずれかに記載の球状無機物粉体の製造方法。
【請求項6】
球状無機物粉体と、前記球状無機物粉体を分散する有機樹脂材料とを有する樹脂組成物の製造方法であって、
前記球状無機物粉体は請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により製造されることを特徴とする樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
原料無機物粉体にオルガノシラザン類を接触させて処理済原料無機物粉体にする表面処理手段と、
前記処理済原料無機物粉体をキャリヤガスにて搬送する原料搬送路をもつ原料搬送手段と、
前記処理済原料無機物粉体が前記原料搬送手段にて内部に搬送され且つ高温火炎を発生させる火炎発生装置を内部にもつ内部空間をもち、搬送された前記処理済原料無機物粉体を加熱処理する加熱炉と、
前記加熱炉の内部から加熱処理後の無機物粉体を搬出する搬出手段と、
を有することを特徴とする球状無機物粉体製造装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−35751(P2013−35751A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−219886(P2012−219886)
【出願日】平成24年10月1日(2012.10.1)
【分割の表示】特願2007−316111(P2007−316111)の分割
【原出願日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【出願人】(501402730)株式会社アドマテックス (82)
【Fターム(参考)】