説明

球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法

【課題】低コストで球状黒鉛鋳鉄管の継手部の靱性を確保しながら強度の向上を図る。
【解決手段】球状黒鉛鋳鉄管を鋳造する際に、予め、遠心鋳造装置の円筒状金型4の内面のうちで管の受口側の継手部を形成する部分に、Fe−Si系接種剤6を散布しておき、管の継手部のSi含有量を、3.00重量%以下で直管状の中間部(直部)のSi含有量よりも多くする。これにより、継手部の基地組織のフェライトに対するSiの固溶強化作用で継手部の強度を高めることができ、かつ、継手部の基地組織中に微細な球状黒鉛を多数晶出させて継手部の靱性を確保することができる。しかも、管全体を対象としてSnやCuを多く添加する場合に比べて成分コストを大幅に低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両端に継手部を有する球状黒鉛鋳鉄管(ダクタイル鋳鉄管)とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な球状黒鉛鋳鉄には、JIS規格のFCD350、FCD400、FCD450等の高靭性タイプのものと、FCD600、FCD700、FCD800等の高強度タイプのものがあるが、球状黒鉛鋳鉄管に関しては、比較的強度と伸びのバランスのよいFCD450(引張強さ:450MPa以上、伸び:10%以上)に相当する材質のものがよく使用される。
【0003】
上記FCD450相当の材質の球状黒鉛鋳鉄管を製造する場合は、通常、その鋳放し状態の基地(マトリックス)組織の主体がパーライトであるため、鋳造後に連続焼鈍炉で熱処理(焼鈍)を施して、基地組織をフェライト化することにより、所望の機械的性質が得られるようにしている。
【0004】
しかしながら、近年では、従来よりも高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管が要求されるようになってきている。このような要求に対応するために、本願発明者らは、パーライト安定化元素であるSnとCuの含有量を所定範囲に収めることにより、基地組織におけるパーライト面積率を所定範囲に調整して高強度が得られるようにするとともに、基地組織中に微細な黒鉛を多数晶出させることにより、組織を緻密化して高靱性を得る技術を提案した(特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−189706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の提案は、球状黒鉛鋳鉄管の全ての部位を対象として高強度と高靭性が得られるようにしたものであるが、コストの高いSnやCuを多く添加する必要があるという難点がある。
【0007】
一方、球状黒鉛鋳鉄管に対しては、用途によって、両端に形成される継手部の方がその間の中間部よりも強度向上が求められるケースがある。例えば、既設管を利用した埋設工法として最近よく実施されているパイプインパイプ工法において、既設管に挿入される新管の口径をできるだけ大きくとるには、継合わされる管と厚み方向での重なりが生じる継手部を特に薄肉化する必要があり、これに伴って継手部の強度向上も必要となる。また、球状黒鉛鋳鉄管には、受口側の継手部に、継合わされた管どうしの離脱防止手段となるロックリングを装着するための周方向溝や、ロックリング締付用のセットボルトがねじ込まれるねじ孔が形成されているものがあり、このような管では特に受口側の継手部の高強度化が求められる。
【0008】
そこで、本発明は、低コストで球状黒鉛鋳鉄管の継手部の靱性を確保しながら強度の向上を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、両端に形成される継手部を含む管全体の組成が、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%、Cu:0.01〜0.30%、Sn:0.001〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものであり、継合わされる管の受口側の継手部に挿口側の継手部を挿入した状態で設置される球状黒鉛鋳鉄管において、前記両継手部の少なくとも一方のSi含有量を両継手部の間に形成される中間部のSi含有量よりも多くした構成を採用した。
【0010】
すなわち、上記の管全体の組成はFCD450相当の材質を有する一般的な球状黒鉛鋳鉄管のものであり、このFCD450相当の球状黒鉛鋳鉄管に対して、継手部のSi含有量を中間部よりも多くすることにより、管全体を対象としてコストの高いSnやCuを多く添加しなくても、継手部の基地組織のフェライトに対するSiの固溶強化作用で継手部の強度を高めることができ、かつ、継手部の基地組織中に微細な球状黒鉛を多数晶出させて継手部の靱性を確保できるようにしたのである。
【0011】
ここで、Si含有量の上限値を3.00重量%としたのは、Si含有量がこの上限値を超えると、基地組織のフェライトが硬くなり、伸びが小さくなって靱性が低下するからである。
【0012】
また、前記両継手部のうちでは、少なくとも前記受口側の継手部のSi含有量を前記中間部のSi含有量よりも多くすることが望ましい。受口側の継手部は、前述のロックリング用の溝やねじ孔が形成されて挿口側よりも強度が低下しやすいからである。
【0013】
また、本発明は、上記構成の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法において、管の鋳造に用いる鋳型の前記継手部を形成する部分の内面に、予めFe−Si系接種剤を散布しておくようにした。あるいは、管を鋳造する際の注湯流接種にFe−Si系接種剤を用い、この接種剤の注湯流接種量を調整する手段を設けて、前記継手部に対する接種量を前記中間部に対する接種量よりも多くするようにしてもよい。これにより、簡単に継手部のSi含有量を中間部のSi含有量よりも多くして、上記構成の球状黒鉛鋳鉄管を製造することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述したように、本発明は、球状黒鉛鋳鉄管の両継手部の少なくとも一方のSi含有量を中間部のSi含有量よりも多くしたので、Siの作用により継手部の靱性を確保しながら強度の向上を図ることができ、しかも管全体を対象としてSnやCuを多く添加する場合に比べると成分コストを大幅に低減できる。
【0015】
また、本発明の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法は、鋳型の継手部を形成する部分の内面に、予めFe−Si系接種剤を散布しておくか、あるいは鋳造時の注湯流接種においてFe−Si系接種剤の継手部への接種量を中間部への接種量よりも多くするようにしたので、管の継手部のSi含有量を簡単に中間部よりも多くでき、継手部が高強度で靭性にも優れた管を容易かつ安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の鋳造方法の説明図
【図2】a、bは、それぞれ実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の継手部および中間部の材料組織の顕微鏡写真
【図3】実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の鋳造方法の変形例の説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の球状黒鉛鋳鉄管の特性を確認するために行った実験について説明する。実験では、後述する手順により実施形態の球状黒鉛鋳鉄管を製造した。表1は製造した管の鋳造に用いた溶湯の化学成分を示す。ここで、記載を省略した残部は、Feおよび不可避的不純物からなり、その不可避的不純物には重量%でP:0.033%、S:0.007%が含まれる。
【0018】
【表1】

【0019】
製造した管は、鋳造により直管状の中間部(以下、「直部」と称する。)とその一端に連続する受口側の継手部を形成し、直部の他端部分を挿口側の継手部としたものである。この管の製造手順は、まず、図1に示すように、表1の組成を有する溶湯1を、取鍋2から注湯樋3を介して遠心鋳造装置の円筒状金型4に注ぎ、管状の半製品(鋳放し管)を鋳造する。取鍋2および注湯樋3は、台車5に載せられて金型4の軸方向に進退するようになっている。この鋳造の際には、予め、金型4の内面のうちで管の受口側の継手部を形成する部分(受口形成部)に、Fe−Si系接種剤6を散布しておく(以下、「継手部型内接種」と称する。)とともに、注湯樋3の上方に設けたホッパ7からFe−Si系接種剤6の注湯流接種を行った。なお、継手部型内接種では、接種剤6を散布した状態で金型4を回転させても、金型4の受口形成部の形状により、接種剤6が直部側へ拡散していくことはなく、確実に管の受口側の継手部のみに接種を行うことができる。
【0020】
前記接種剤6としてはFe−70%Si系のものを使用し、このFe−70%Si系接種剤6を、注湯流接種では管全体の溶湯に対して0.3重量%接種し、継手部型内接種では受口側の継手部の溶湯に対して0.7重量%接種した。なお、接種剤には、Fe−70%Si系のもののほか、Fe−50%Si系のものや、Si以外にBiを含有するものを用いてもよい。
【0021】
ここで、継手部型内接種の接種量は、受口側の継手部の溶湯の0.7重量%としたが、0.5〜0.7重量%とすることが望ましい。0.7重量%より多くしても歩留まりが悪く、また0.5重量%より少なくすると、管の継手部のSi含有量が注湯流接種のみの場合とほとんど変わらなくなるからである。
【0022】
次に、鋳造した鋳放し管を連続焼鈍炉により下記の条件で焼鈍した。この焼鈍条件は、表1の組成の溶湯で鋳造した鋳放し管にFCD450相当の材質を付与するのに一般に実施されているものである。
(焼鈍条件)
・加熱保持:900〜1100℃×5〜25分
・冷却速度:1〜8℃/分
・冷却温度:650℃
【0023】
このようにして製造した球状黒鉛鋳鉄管の受口側の継手部(以下、単に「継手部」と称する。)と直部から試験片を採取し、各試験片についてSi含有量の測定、組織観察、機械的性質の測定を実施した。各試験片のSi含有量および機械的性質の測定結果を合わせて表2に、材料組織の顕微鏡写真を図2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2から、継手部型内接種により管の継手部のSi含有量が直部よりも多くなっていること、および継手部の引張強さと耐力がともに直部のFCD450相当の値を大きく上回っていることが確認できる。この継手部の引張強さおよび耐力の向上は、基地組織のフェライトに対するSiの固溶強化作用によるものと考えられる。
【0026】
また、伸びに関しては、継手部の方が直部よりも低いが、継手部でもFCD450の規定値(10%以上)は満足している。一方、図2からは、継手部の組織の黒鉛の方が直部よりも微細で粒数も多いことが確認でき、Siが黒鉛の晶出を促進する作用により継手部の靱性が確保されていると考えることができる。
【0027】
以上の結果から、実施形態の球状黒鉛鋳鉄管は、継手部のSi含有量を直部よりも多くすることにより、継手部がFCD450よりも高い強度と、FCD450と同等の伸びを有するものとなり、容易かつ安価に製造できることが確認された。
【0028】
また、上述した実施形態の鋳造方法の継手部型内接種に代えて、接種剤の注湯流接種量を調整する手段を設けて、継手部に対する接種量を直部よりも多くすることもできる。例えば、図3に示すように、注湯流接種を行うためのホッパ8を追加し、既設のホッパ7は注湯作業中ずっと接種剤6を吐出し続け、追加したホッパ8は、進退する注湯樋3の先端が金型4の受口形成部の位置にある間だけ接種量が多くなるように、注湯作業中の一定時間だけ接種剤6を吐出するようにしてもよい。このようにしても、簡単に継手部のSi含有量を直部のSi含有量よりも多くして、継手部が高強度かつ高靭性の球状黒鉛鋳鉄管を容易かつ安価に製造することができる。
【0029】
さらに、本発明は、実施形態のように遠心鋳造によって直部と継手部が形成される球状黒鉛鋳鉄管やその製造方法に限らず、曲管状の中間部を有する球状黒鉛鋳鉄管およびその製造方法にも適用することができる。その場合は、遠心鋳造以外の通常の鋳造法で管を鋳造する際に、固定された鋳型に対して継手部型内接種を行うとよい。
【符号の説明】
【0030】
1 溶湯
2 取鍋
3 注湯樋
4 金型
5 台車
6 接種剤
7、8 ホッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に形成される継手部を含む管全体の組成が、重量%で、C:3.20〜4.00%、Si:1.40〜3.00%、Mn:0.10〜1.00%、Mg:0.02〜0.08%、Cr:0.01〜0.20%、Cu:0.01〜0.30%、Sn:0.001〜0.03%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなるものであり、継合わされる管の受口側の継手部に挿口側の継手部を挿入した状態で設置される球状黒鉛鋳鉄管において、前記両継手部の少なくとも一方のSi含有量を両継手部の間に形成される中間部のSi含有量よりも多くしたことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項2】
前記受口側の継手部のSi含有量を前記中間部のSi含有量よりも多くしたことを特徴とする請求項1に記載の球状黒鉛鋳鉄管。
【請求項3】
請求項1または2に記載の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法において、管の鋳造に用いる鋳型の前記継手部を形成する部分の内面に、予めFe−Si系接種剤を散布しておくことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の球状黒鉛鋳鉄管の製造方法において、管を鋳造する際の注湯流接種にFe−Si系接種剤を用い、この接種剤の注湯流接種量を調整する手段を設けて、前記継手部に対する接種量を前記中間部に対する接種量よりも多くしたことを特徴とする球状黒鉛鋳鉄管の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−162766(P2012−162766A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−23001(P2011−23001)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【Fターム(参考)】