説明

理化学試験用恒温装置

【課題】 本発明は、恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽およびブロック恒温槽のすべてを1台にて兼用することができ、しかも立ち上がりの迅速な理化学試験用恒温装置を新規に提供しようとするものである。
【解決手段】 本発明は槽内の内底面と前後および左右側面の内面を底面下の加熱/冷却装置により加熱/冷却する加熱/冷却面にて形成して、槽内に加熱/冷却手段を設けないことで、恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽のほか、挿し立て孔付のブロックを収容するブロック恒温槽のすべてを1台にて共用可能とする万能恒温槽を構成するようにしたことを特徴とする理化学試験用恒温装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は理化学試験用恒温装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、理化学試験においては、例えば大腸菌のヒートショック試験、短時間の酵素反応試験、凍った試料や試薬の融解、培地・バッファーの保温、各種の酵素反応、in situハイブリダイゼーション試験、核酸・タンパク質の熱変性試験、制限酵素などの酵素反応試験、等温遺伝子増幅試験、cDNA合成試験、mRNA合成試験用として恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽(水蒸気による空気層),ブロック恒温槽を各別に設備してきている。
本願出願人は特開平11−10011号公報にて1台にて恒温水槽と恒温空気槽および恒温モイストチャンバー槽を兼用する恒温装置を提案した。またブロック恒温槽としては特開平8−272457号公報の従来例がある。
【特許文献1】特開平11−10011号公報
【特許文献2】特開平8−272457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前者公報の恒温装置は、槽内の一側に整流制御ヒータ、水,空両用の空焚き可能なヒータ、空気攪拌用のファン、水攪拌用プロペラ等の機器を装備するために槽内が狭くなってチューブ等の挿し立て孔付のブロックを収容することができないために、ブロック恒温槽として兼用することはできないという課題があった。
また従来のブロック恒温槽は後者の公報に記載されているように、底面からの一方向の加熱/冷却のみによるため、ブロックが設定温度に到達するまでに長い時間を要し、また底面に近い側と遠い側との温度分布にバラツキが大きく生ずるという課題があった。また冷却時に槽内に生ずる結露水の排出に難儀するという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、槽内の内底面と前後および左右側面の内面を底面下の加熱/冷却装置により加熱/冷却する加熱/冷却面にて形成して、槽内に加熱/冷却手段を設けないことで、恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽のほか、挿し立て孔付のブロックを収容するブロック恒温槽のすべてを1台にて共用可能とする万能恒温槽を構成して、かかる課題を解決するようにしたのである。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、槽内に加熱/冷却手段を一切設けないことにより、1台の恒温装置によって恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽のほか、ブロック恒温槽としても活用することができ、試験に応じて数台の恒温装置を備えなければならなかった従来の設備コストの高価となる点の課題を1台の設置にて解決するという効果を生じ、さらに1台の設置にて試験現場のスペースを有効利用することができるという効果を生ずる。
【0006】
槽の底面下に設ける加熱/冷却装置がつくる温度の伝導にて底面と前後および左右側面の内面を加熱/冷却するようにしたので、従来のブロック恒温槽に見られた一方向からの熱伝導に較べて槽内の設定温度到達時間を著しく短縮することができるという効果を生ずる。ドレン路を設けるにより冷却使用時に生ずる結露水を容易に排出することができるという効果を生ずる。
【0007】
底面および前後左右側面の内面は熱伝導の良好なアルミニウムの延板にて形成することで加熱/冷却を促進するという効果を生ずる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、槽内の底面と前後および左右側面の内面を底面下の加熱/冷却装置により加熱/冷却する加熱/冷却面にて形成して、槽内に加熱/冷却手段を設けないことで、恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽のほか、挿し立て孔付のブロックを収容するブロック恒温槽のすべてを1台にて共用可能とする万能恒温槽を構成し、ブロック恒温槽として使用するときはブロックの側面を槽の加熱/冷却面に密接させるようにしたのである。
【実施例1】
【0009】
図1はブロック恒温槽1として使用する状態を示すもので、無蓋角箱形をした槽2の下部にペルチェ素子を利用した加熱/冷却機構3を設け、槽2の内面は底面2aのほか、前後面2b,2c、左右側面2d,2eのすべての内面を熱伝導の良好なアルミニウム製の延板にてなる加熱/冷却面2fにて形成している。3aは排熱用のファンである。
【0010】
試料チューブSを挿し立てする挿し立て孔4aを並設してなるアルミニウム製のブロック4は、槽2の2分の1以下の高さで、ブロック4の底面4bおよび全側面4cが槽2の底面を含む加熱/冷却面2fに密接する大きさにて形成されている。なおブロック4は槽2内に横並びにて収まる大きさの2個または4個にて形成することもあり、この場合、横並べする各ブロック4の隣接する側面同士が密接して相互に熱伝導するようにする。
【0011】
試験をはじめるに際して加熱/冷却機構3を作動すると、機構3のつくりだす熱は槽2の底面2aと前後側面2b乃至2eの熱伝導の良好な加熱/冷却面2fからブロック4の底面4bおよび全部の側面4cを加熱/冷却することにより、ブロック4は急速に全域が設定温度に到達することとなるので、各挿し立て孔4aに試料入りチューブSを挿し立て、チューブS内の試料液を設定の恒温状態にて持続して試験を進めることができることとなる。底面のみならず全側面からの良好な熱伝導によって従来の2分1程度の短時間にて設定温度に達するために待ち時間を少なくして迅速に試験を開始することができることとなる。
【0012】
図2は冷却使用時に槽内に生ずる結露水の排水を示すもので、後記する恒温水槽用に設ける吸排攪拌用のパイプ7a,7bの経路中に外部排水用のドレン路7cを接続し、槽2内の底面2aおよび側面2b〜2eに結露する水をパイプ7a,7bからドレン路7cを介して容易に槽外に排出することができるようにしたのである。7dは開閉用コックである。なお、ドレン路7cは吸排攪拌用のパイプとは別経路にて槽2の底面2aまたは側面2b〜2eの下端に設けることもある。
【実施例2】
【0013】
図3は第2実施例で、ブロック4の上面に、ブロック高さより上の加熱/冷却面2fに接面するアルミニウム製の凹陥形の蓋5を緊密に被せ嵌めるようにしたのである。槽2の上半に伝導する熱を有効利用してブロック4を上面からも加熱/冷却することによって設定温度に到達する時間をさらに短縮することができるようになる。さらに挿し立て孔4aの上面からの放熱を防止することによってチューブS内の試料液をより精密な恒温状態にて維持することができるものとなる。
【実施例3】
【0014】
図4は恒温水槽6としての使用例であって、ブロック恒温槽1として使用した角箱形の槽6内に所定量の水Wを入れ、底面2aに開口するパイプ7a,7bに吸排攪拌ポンプ7を接続して使用可能とする。前記したドレン路7cの開閉用コック7dは閉じておく。その他の構成と作用は前例と同じである。
【実施例4】
【0015】
図5は恒温空気槽8としての使用例であって、攪拌ファン9aを設けた蓋9を被せることにより槽8内のエアーを対流させて使用可能となる。その他の構成と作用は実施例1,2と同じである。
【実施例5】
【0016】
図6はモイストチャンバー槽10の使用例で、槽10の内面上に少しの水Wを張り水蒸気を発生させて使用可能とする。その他の構成と作用は実施例1,2,3と同じである。
【0017】
以下に上記の各恒温槽の長所と短所および適正のある試験例を示す。
・ブロック恒温槽
長所・ ・ ・恒温や低温が手軽にでき、同温であるならば恒温水槽より省エネとなる。
短所・ ・ ・容器形状に制限がある。水より熱伝導が悪い。
よって核酸・タンパク質の熱変性試験、制限酵素などの酵素反応試験、等温遺伝子増幅試験、cDNA合成試験、mRNA合成試験など、高温や低温が必要で、主にマイクロチューブを使用し、反応時間が比較的にやや長め(〜数時間)の実験に向いている。
・恒温水槽
長所・ ・ ・熱伝導が早くて均一、容器形状がある程度自由(大きな容器は水かさの問題で向いていない)
短所・ ・ ・水の補充が必要。高温や低温が得にくい(沸騰や凍結などの問題)
よって大腸菌のヒートショック試験、短時間の酵素反応試験、凍った試料・試薬の融解、培地・バッファーの保温など、素早い熱伝導が必要で、また容器の形状も様々で、反応時間が比較的短い(〜数十分)実験に向いている。

・恒温空気槽
長所・ ・ ・容器形状の制限なし。高温や低温も比較的得やすい。振とうにも最適。
短所・ ・ ・熱伝導は恒温水槽,ブロック恒温槽に較べて悪い。装置サイズが大きくなりがちである。
よって長時間の制限酵素などの各種の酵素反応など、反応時間が長め(〜一晩)の実験に向いている。特に振とうを必要とする試験に向いている。

・恒温モイストチャンバー槽
長所・ ・ ・湿度維持の必要な実験に適合する。
短所・ ・ ・水の補充が必要。一定の高温実験にしか適さない。
よってin situハイブリダイゼーション試験、すなわちスライドグラス上に固定した極薄の組織切片に試薬を垂らしてカバーグラスを被せ、適度の湿度により恒温状態を維持しつつ乾燥を防止する実験などに向いている。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明は 条件の異なる各種の試験・実験用としてあらゆる理化学試験の現場にて広く利用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ブロック恒温槽として使用する例を示す正面図
【図2】同、結露水排水用のドレン路を示す側面図
【図3】凹陥形をした蓋をブロックの上面に被せた第2実施例を示す正面図
【図4】恒温水槽として使用する例を示す側面図
【図5】恒温空気層として使用する例を示す正面図
【図6】恒温モイストチャンバー槽として使用する例を示す正面図
【符号の説明】
【0020】
1はブロック恒温槽
2は無蓋角箱形をした槽
2aは底面
2b乃至2eは前後左右の側面
2fは加熱/冷却面
3は加熱/冷却機構
3aは排熱用のファン
4はブロック
4aは挿し立て孔
4bは底面
4cは側面
5は凹陥形の蓋
6は恒温水槽
7は吸排攪拌ポンプ
7a,7bは吸排用のパイプ
7cはドレン路
7dは開閉用コック
8は恒温空気槽
9は蓋
9aは攪拌ファン
10は恒温モイストチャンバー槽
Sは試料入りチューブ
Wは水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内の内底面と前後および左右側面の内面を底面下の加熱/冷却装置により加熱/冷却する加熱/冷却面にて形成して、槽内に加熱/冷却手段を設けないことで、恒温水槽,恒温空気槽,恒温モイストチャンバー槽のほか、挿し立て孔付のブロックを収容するブロック恒温槽のすべてを1台にて共用可能とする万能恒温槽を構成するようにしたことを特徴とする理化学試験用恒温装置。
【請求項2】
底面とおよび前後,左右側面の内面は熱伝導の良好なアルミニウムの延板にて形成する請求項1に記載の理化学試験用恒温装置。
【請求項3】
ブロック恒温槽として使用するときは収容するブロックの底面および側面を槽の加熱/冷却面に接面させる請求項1または2に記載の理化学試験用恒温装置。
【請求項4】
収容するブロックは槽の2分の1以下の高さとし、該ブロックの上面に接面する凹陥形の加熱/冷却蓋を被せる請求項3に記載の理化学試験用恒温装置。
【請求項5】
冷却使用時に槽内に発生する結露水を排水するドレン路を設けた請求項1乃至4のいずれかに記載の理化学試験用恒温装置。
【請求項6】
恒温水槽として使用するときは槽内水を吸排対流させる吸排攪拌ポンプを底面下に設ける請求項1または2に記載の理化学試験用恒温装置。
【請求項7】
恒温空気層またはモイストチャンバー層として使用するときは槽内の空気または蒸気を攪拌する攪拌ファンを蓋の内側に設ける請求項1または2に記載の理化学試験用恒温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−75870(P2010−75870A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−248164(P2008−248164)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000208053)タイテック株式会社 (7)
【Fターム(参考)】