説明

理容鋏

【課題】所謂引き切り機能を有する理容鋏の実用化を実現する。
【解決手段】刃部と操作部を備えた刃体で構成され理容鋏に於いて、一方の刃体1の枢結交差個所に、ギア収納孔13を形成すると共に、ギア収納孔の内側面にラック部14を形成し、且つ刃体1の外面にガイド溝15設け、他方刃体2の枢結軸位置に、ラック部と噛み合う弧状歯42を設けたピニオン体4を、同刃体2と一体に回動するように設け、ギガイド溝に嵌合する突起を備えたガイド体5を、ギア収納孔の外面側を跨いで配置して、ガイド体の軸孔53から突出した枢結螺軸32にナット体6を螺合装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪切断操作に際して、切断のために交叉する刃体部が相対的にスライド移動する理容鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
理容鋏の基本構成は、周知の通り刃部と操作部(指孔部)を備えた刃体を、X状に交差させて、交差部に両刃体を貫通する軸孔を穿設すると共に、該軸孔に挿通した枢結軸で交差部を枢結して刀体の開閉操作を可能としているものである。
【0003】
理容鋏は、理容師が専ら毛髪を切断するのに使用するもので、より使いやすく切れ味の優れているものが望まれ、その対応として毛髪に直交する剪断力が作用する従前の鋏に対して、刃部が刃縁方向に移動しながら剪断力を加える構造(相対的な引き切り構造:以下「スライド切断構造」という)の鋏が提案されている。
【0004】
例えば一方の刃体(下方刃体:使用時に親指で操作される刃体)に枢結軸を固定し、他方の刃体(上方刃体:使用時に中指で操作される刃体)の枢結個所は長孔として枢結軸の刃縁線方向への移動を可能とし、両刃体の摺動対向面に、刃縁線方向に対して傾斜する溝及び前記溝に対応する突起を設けた構造(特開平10−179951号)、下方刃体の軸部(枢結軸対応)を二軸にし、上方刃体における前記軸部の挿通個所を弧状孔或いはL状孔とする構造(特開平11−114242号他)、下方刃体と上方刃体の枢結軸を偏心させる構造(特公平4−59919号公報)等が知られている。
【0005】
前記の上方刃体のスライド移動構造は、基本的にクランク運動であり、使用者には、通常使用されている枢結軸を中心として動作する理容鋏と比較して、違和感があり、枢結軸を中心とした回動動作とスライド運動が一見して一致する構造が安心感を与えるもので、この対応として枢結軸に設けたピニオン歯車と、上方刃体のラックと組み合わせで引き切りを実現する構造も提案されている(特許文献1,2)。
【0006】
特許文献1(実開平60−149382号公報)には、上刃体の枢結個所に大きな矩形孔を穿設し、前記矩形孔に、内周面にラックを形成し、底面(鋏の外表面となる)に長軸孔を設けギアボックスを装着し、下方刃体に一体として突設した枢結軸に前記ラックに噛み合うピニオン歯車を軸装し、長軸孔から突出した軸部に連結ピンを装着して抜け止め構造としている。
【0007】
また特許文献2(特開昭62−170284号公報)には、上方刃体の枢結個所に大きな長孔を穿設すると共に、前記長孔の内周面にラックを形成し、下方刃体に一体に取り付けたピニオン歯車を前記長孔内に組み入れ、ピニオン歯車から突設した枢結軸にナット体を螺合しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平60−149382号公報。
【特許文献2】特開昭62−170284号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のピニオン歯車とラックの組み合わせによるスライド切断構造は、枢結軸(歯車軸)に螺合されるナット体は、上方刃体の分離阻止部材として作用すると同時に、切断操作時には、上方刃体との間で摺動が生ずる。この結果ナット体の緩みが発生して、枢結軸方向の両刃体の挟圧力を弱めてしまい、切れ味を低下させてしまう。
【0010】
尚特許文献1に記載のようにナット体を採用せずに緩みの発生しないピン体を採用した場合には、所望の挟圧力とする調整機能を備えることができない。
【0011】
またピニオン歯車とラックとの噛合動作がスムーズになされるには、全くガタの生じない緊密な噛み合いではなく、動作範囲に微少な余裕を有せしめた方が良いが、しかし逆に切断操作時に刃体のガタツキを発生させてしまう。
【0012】
更にピニオン・ラックを採用したスライド切断構造は、枢結軸個所にピニオン歯車を動作範囲の空間が必要であり、当該空間には切断された毛髪微細片が入り込み易く、毛髪微細片を適切に排除しないと、毛髪微細片が摺動間隙に巻き込んで、刃体操作性を悪くしてしまう。
【0013】
また毛髪切断に際しては、刃部の根元側(枢結軸側)で切断するよりも刃先部分で切断するように使用されているが、ピニオン・ラックを採用したスライド切断構造では、刃体回動角度と刃体スライド移動距離が一定の関係であり、特に刃先部分のスライド移動に関しては特に考慮されていない。
【0014】
そこで本発明は、種々の具体的な課題を抱えて、現実に製品化されていないピニオン・ラックを採用したスライド切断構造の理容鋏において、ピニオン・ラックの組み込み構造を改善して実用化できる新規構造の理容鋏を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る理容鋏は、刃部と操作部を備えた刃体をX状に交差させて、交差個所を枢結構造として刃部の開閉を自在としてなる理容鋏に於いて、一方の刃体(通常は上方刃体に対応するので、以下便宜的に「上方刃体」の用語を使用する)の交差個所に、適宜なギア収納孔を形成すると共に、ギア収納孔における刃体長手方向の内側面にラック部を形成し、他方刃体(下方刃体)の枢結軸位置に、前記ラック部に噛み合う弧状歯を設けたピニオン部を、下方刃体と一体に回動するように設け、ギア収納孔近傍の上方刃体外面に設けた刃体手方向のガイド溝に嵌合する突起を備えたガイド体を、ギア収納孔の外面側を跨いで配置し、前記ガイド体にピニオン部から直立する枢結螺軸の軸孔を形成すると共に、ガイド体から突出した枢結螺軸にナット体を螺合装着してなることを特徴とするものである。
【0016】
而して、両刃体の開閉操作を行うと、ラック部とピニオン部の弧状歯の噛み合わせによって下方刃体に対して上方刃体はスライド移動しながら回動して、交わる刃縁がスライド移動しながら毛髪を切断することになる。
【0017】
特に前記の構成は、下方刃体(枢結螺軸)と一緒に動作するガイド体上でナット体を螺合装着しているので、通常の理容鋏と同様の枢結軸部分の挟圧力調整を行うことができると共に、ナット体に対してはスライド移動に伴う緩み発生が生ずることが無い。またガイド体が上方刃体上をガイド溝に添ってスライド移動させるようにしているので、ラック部とピニオン部の弧状歯の噛合を緩やかにしてスムーズな回動及びスライド移動を実現することができた。
【0018】
また本発明(請求項2)に係る理容鋏は、前記の鋏において特に、ガイド体がギア収納孔の一部のみを塞ぐ形状に形成すると共に、下方刃体におけるギア収納孔と対応する範囲で、透孔部を設けてなるもので、切断された毛髪微細片が、ギア収納部内空間に入り込んでも、ガイド体で塞がれていない個所や、透孔部から容易に排出することができる。
【0019】
更に本発明(請求項4)は、特に前記の理容鋏において、ピニオン部の弧状歯が、両刃体の開口角度が小さい時に噛み合う方の歯の位置が、枢結螺軸を中心としての半径が大きく、逆に開口角度が大きい時に噛み合う方の歯の位置が、枢結螺軸を中心としての半径が小さくなるカム形状にしてなるもので、毛髪切断に多用される両刃体が刃先部分での切断作用時(角度が小さい時)に、刃体の相対的スライド移動距離が長くなり、使用頻度の高い個所での切断能力を向上させるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は上記の構成で、毛髪切断操作時に、刃体にスライド動作を行わせることで切れ味を高めることができたと共に、理容鋏の切れ味や使用者の好みに対応する枢結軸個所の挟圧力の調整も容易に実施できるようにして、ピニオン・ラックを採用したスライド切断構造の理容鋏の実用化が実現できたものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第一実施形態の分解斜視図。
【図2】同平面図。
【図3】同裏面図。
【図4】同要部平面図(動作説明図)。
【図5】同ピニオン部の平面図(イ)は第一実施形態(ロ)は第二実施形態を示す。
【図6】本発明の第二実施形態の分解斜視図。
【図7】同要部平面図。
【図8】同要部平面図(動作説明図)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明の実施形態について説明する。図1乃至4は第一実施形態を示したものである。この実施形態に示した理容鋏は、基本的に従前の鋏と同様に、二個の刃体1,2をX状に交差させて、交差個所を枢結構造として対向する刃部11,21の開閉を自在としてなるもので、前記の刃体1,2と、交差個所の枢結構造を形成する軸体3、ピニオン体(ピニオン部)4、ガイド体5、ナット体6で構成される。
【0023】
上方刃体1は、刃部11と操作部(指孔)12とを備え、交差個所に略矩形の適宜なギア収納孔13を形成すると共に、前記ギア収納孔13における刃体長手方向の刃縁側内側面にラック部14を設け、更にギア収納孔13の刃体長手方向の略中心線上で、ギア収納孔13の操作部側端縁から上方刃体1の外面に、細長で且つ後述するスライド移動の動作範囲に対応する長さのガイド溝15を設けたものである。
【0024】
下方刃体2は、刃部21と操作部(指孔)22とを備えると共に、枢結軸対応個所に角孔(図示せず)を設けると共に、所定の範囲に透孔23を設けたものである。この透孔の形成範囲は、前記角孔部分以外で、前記のギア収納孔13に対応させ、且つ後述するピニオン体4を下方刃体2の裏面(鋏擦り合わせ面)に配置した際に、抜け落ち無い大きさとしたものである。
【0025】
軸体3は基本的に従前の枢結軸体と同様の構成で、下方刃体2と供回りするように角軸31と、角軸31の先方にナット体6を螺合する枢結螺軸32を設けたものである。
【0026】
ピニオン体4は、前記角軸31と対応する角孔41を備え、前記角孔41を中心とした約4分の1円の扇形状で、外周部分に弧状歯42を備え、前記のギア収納孔13の内側に収め、ラック部14と弧状歯42が噛み合ってラック部14に添って適宜な範囲を移動できる大きさに形成したものである。
【0027】
尚前記ピニオン体4は、特に独立部材とせずに、下方刃体2の裏面に直接固着してピニオン部とし、更に当該ピニオン部の所定位置から枢結螺軸を突設しても良い。
【0028】
ガイド体5は、ギア収納孔13の横幅(短手方向)より広くした跨部51と、ガイド溝15に対応する腕部52を有する略T状としたもので、跨部51の所定個所に、枢結螺軸32に対応する軸孔53を穿設し、腕部52の裏面には、ガイド溝15に嵌合する突起54を設けたものである。
【0029】
前記の各部材は、両刃体1,2を枢結構造個所で交差させ、軸体3を下方刃体2の角孔に挿着し、弧状歯42をラック部14の所定位置に噛み合わせると共に、角孔41に角軸31を装着してピニオン体4を下方刃体2と一体とし、枢結螺軸32を軸孔53に挿通すると共に、突起54をガイド溝15に嵌合し、ギア収納孔13を跨るように配置したガイド体5の上面から突出した枢結螺軸32にナット体を螺合装着して鋏とするものである。
【0030】
而して前記の理容鋏は、通常通り両刃体1,2の開閉操作を行うと、ラック部14とピニオン体4の弧状歯42の噛み合わせによって、下方刃体2に対して上方刃体1はスライド移動しながら回動することになり、毛髪は、回動動作による剪断ではなく、更にスライド移動による剪断もなされることになる。
【0031】
また枢結軸部分におけるナット体6は、従前の上方刃体1の上面がガイド体5の上面に置き換わったものであるから、従前の挟圧力調整を行うことができることは勿論のこと、従前から種々提案されているナット体6の緩み止め構造も何ら問題なく組み込むことができるものである。
【0032】
更に前記実施形態においては、ガイド体5がギア収納孔13の一部のみを塞ぐ形状に形成しており、下方刃体2においては、ギア収納孔13と対応する範囲で、透孔23を設けているので、枢結構造部分は両刃体1,2を貫通する空間が大きく空いていることになり、切断された毛髪微細片が、前記空間内に入り易い反面、当然抜け出やすいことは勿論のこと、使用後には分解することなく、ブラシ清掃によって容易に排出することができる。
【0033】
次に図6乃至8に示した本発明の第二実施形態について説明する。この第二実施形態は、ピニオン体4aに更に特徴を有せしめたものである。
【0034】
即ち前記第一実施形態のピニオン体4は、弧状歯42が円弧状であり、ピニオン体4の回動角度とスライド移動距離が比例するものである。しかし理容鋏は、刃先部分が主に使用されるので、切れ味を高めるには、刃先部分を使用する状態でスライド距離が大きくなるようにすれば、スライド移動による切断効果が高められる。
【0035】
そこで第二実施形態は、図5(ロ)に示すように、ピニオン体4aの弧状歯42aが、枢結軸中心(角孔41の中心)からの距離か除々に変化するようにしたものである。
【0036】
即ちピニオン体4aの弧状歯42aが、両刃体1,2の開口角度が小さい時に噛み合う方の歯の位置が、軸体3を中心としての半径が大きく、逆に開口角度が大きい時に噛み合う方の歯の位置が、軸体3を中心としての半径が小さくなるカム形状にしてなるものである。
【0037】
更にこのピニオン体4aを採用することに伴って、上方刃体1aのギア収納孔13aの形状も、ピニオン体4aの動作軌跡に対応する形状とし、下方刃体2aの透孔23aも、適切な形状とするものである。尚他の構成については、第一実施形態と同一図番で示したものは同一構造である。
【0038】
而して図8で例示するように、両刃体1a,2aが開いた状態のラック部14と弧状歯42aの噛み合い状態から、図7に示した両刃体1a,2aを閉じた状態への移行に際しては、両刃体の開閉角度が狭くなる程、回動角度当たりのスライド移動距離が大きくなり、刃先部分での切断がよりスライド移動による切断効果が高められるものである。
【符号の説明】
【0039】
1,1a 上方刃体
11 刃部
12 操作部(指孔)
13,13a ギア収納孔
14 ラック部
15 ガイド溝
2,2a 下方刃体
21 刃部
22 操作部(指孔)
23,23a 透孔
3 軸体
31 角軸
32 枢結螺軸
4,4a ピニオン体
41 角孔
42,42a 弧状歯
5 ガイド体
51 跨部
52 腕部
53 軸孔
54 突起
6 ナット体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃部と操作部を備えた刃体をX状に交差させて、交差個所を枢結構造として刃部の開閉を自在としてなる理容鋏に於いて、一方の刃体の交差個所に、適宜なギア収納孔を形成すると共に、ギア収納孔における刃体長手方向の内側面にラック部を形成し、他方刃体の枢結軸位置に、前記ラック部に噛み合う弧状歯を設けたピニオン部を、同刃体と一体に回動するように設け、ギア収納孔近傍の刃体外面に設けた刃体手方向のガイド溝に嵌合する突起を備えたガイド体を、ギア収納孔の外面側を跨いで配置し、前記ガイド体にピニオン部から直立する枢結螺軸の軸孔を形成すると共に、ガイド体から突出した枢結螺軸にナット体を螺合装着してなることを特徴とする理容鋏。
【請求項2】
ガイド体がギア収納孔の一部のみを塞ぐ形状に形成すると共に、他方刃体におけるギア収納孔と対応する範囲で、透孔部を設けてなる請求項1記載の理容鋏。
【請求項3】
ピニオン部の弧状歯が、枢結螺軸を中心とした約4分の1円の扇状にしてなる請求項1又は2記載の理容鋏。
【請求項4】
ピニオン部の弧状歯が、両刃体の開口角度が小さい時に噛み合う方の歯の位置が、枢結螺軸を中心としての半径が大きく、逆に開口角度が大きい時に噛み合う方の歯の位置が、枢結螺軸を中心としての半径が小さくなるカム形状にしてなる請求項1又は2記載の理容鋏。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−10847(P2012−10847A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148793(P2010−148793)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(591130102)株式会社シゲル工業 (5)
【Fターム(参考)】