説明

理髪用鋏の枢軸構造

【課題】触点を有することなく切れ味を良好に維持し、軽快な鋏捌きが得られる理髪用鋏の枢軸構造を提供する。
【解決手段】枢軸13により回転自在に軸着される第1の刃体11と第2の刃体12は、内側の枢軸13の周りの対向面に凹溝15及び16を形成している。鍔17a付きのブッシュ17が前記枢軸13に回転自在に嵌挿されると共に、鍔部17aが第1の刃体11の凹溝15に装着されている。枢軸13の指環部側における第1の刃体11には調節ネジ22が捩じ込まれ、その先端が鍔部17aに押し当った状態で捩じ込むと、第1の刃体11は指環部側が第2の刃体12の指環部側より浮き上がり、かつ刃先側が第2の刃体12の刃先側に閉じて刃先同士が押付けられるようになっており、その押付け力は調節ネジ22の捩じ込み操作によって調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理容院や美容院で用いられる理髪用鋏の枢軸構造に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、理髪用鋏を示すもので、一般に指環部1、2を備えた刃体3、4を基部において枢軸5により回動自在に軸着し、枢軸端でナット6により止着した構成を有しており、枢軸5と指環部1、2との間の基部内面には触点を形成し、枢軸5を支点とし、触点に沿った鋏の開閉操作により両刃体3、4の刃先が互いに押し付けられるように刃を密着させて頭髪の切断を行うようになっており、その一例が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−187468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
触点は、基部内面に枢軸の周りに弧状に形成され、触点同士が接触して摺接することにより刃先が互いに押し付けられた状態で開閉し、切れ味を良好に維持できるようにしているが、触点同士の接触は面接触状態で行われるため、触点の摩擦係数は低くても鋏の開閉操作には摩擦抵抗を伴う。
【0005】
本発明は、触点を有しないで軽快な鋏捌きが得られるようにし、しかも触点がなくても良好な切れ味を維持できるような理髪用鋏の枢軸構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係わる発明は、指環部を備えた第1及び第2の刃体を基部において枢軸により回動自在に軸着した理髪用鋏の上記枢軸を含む枢軸構造であって、前記第1及び第2の刃体の枢軸の周りの対向面にそれぞれ形成される凹溝と、鍔部を備えて前記枢軸に回転自在に嵌挿され、前記鍔部を前記第1の刃体の凹溝に装着するブッシュと、インナーレースを前記ブッシュに、アウターレースを前記第2の刃体の凹溝にそれぞれ密嵌させた転がり軸受と、前記枢軸より指環部側において前記第1の刃体に捩じ込まれ、先端が前記ブッシュの鍔に押し当てられる調節ネジとよりなり、該調節ネジの捩じ込み操作により第1の刃体が枢軸より指環部側において持上げられ、対向する第2の刃体との間に隙間を生ずる一方、枢軸より刃先側が閉じて刃先同士が互いに押し付けられることを特徴とし、
請求項2に係わる発明は、請求項1に係わる発明において、前記鍔部が指環部側に長く形成され、該部の指環部寄りに前記調節ネジの先端が当てられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に係わる発明によると、枢軸に軸支される第1の刃体が調節ネジの捩じ込みによって枢軸より指環部側において持上げられ、第2の刃体との間に隙間が形成されることにより、従来のこの種理髪用鋏のような互いに接触する触点がなくなり、軽快な鋏捌きを行うことができること、調節ネジの捩じ込みにより枢軸より刃先側が閉じ、互いに接触する触点がなくても第1の刃体の刃先が第2の刃体の刃先に押付けられるようになり、良好な切れ味をもたらすこと、調節ネジの捩じ込みを調整することにより刃先同士の押付け力を調整し、押付力の調整具合により軽快な鋏捌きで良好な切れ味に維持できること等の効果を有する。
【0008】
請求項2に係わる発明によると、鍔部を指環部側に長く形成することによりブッシュが回り止めされた状態で第1の刃体に取付けられるようになり、また枢軸の中心から調節ネジまでの距離を大きくし、枢軸中心から調節ネジによる力点までの長さを長くすることで、調節ネジの捩じ込み量の僅かな調整で、力点での作用力が小さくても、てこの作用により刃先同士の押付け力を大きく変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】理髪用鋏の平面図。
【図2】本発明に係わる理髪用鋏の枢軸構造の断面図。
【図3】鍔部の別の態様の平面図。
【図4】図3に示す鍔部を備えたブッシュを組込んだ枢軸構造の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の理髪用鋏の枢軸構造について図面により説明する。
図2は、一端に図示しない指環部を備えた第1の刃体11及び第2の刃体12の枢軸構造を示すもので、両刃体11及び12は枢軸13の頭部13aと、枢軸端に捩じ込まれるナット14とにより挟み込まれた状態で枢軸13に回転自在に軸着され、しかも第1の刃体11と第2の刃体12の内側の枢軸13の周りの対向面にはそれぞれ凹溝15及び16が形成されている。そして鍔17a付きの断面T形をなすブッシュ17が前記枢軸13に回転自在に嵌挿されると共に、鍔部17aが第1の刃体11の凹溝15に装着されている。この鍔部17aは円形で、同じ円形断面の凹溝15に回転可能に装着されていてもよいが、好ましくは例えば円の一部をセグメント状に切り欠いたり、多角形にして、同形の凹溝15に回転不可に装着される。
【0011】
第2の刃体12の凹溝16に装着され、ブッシュ17に嵌挿される転がり軸受18はアウターレース19が前記凹溝16に密嵌されて第2の刃体12に固定状態で回転不可に取付けられる一方、インナーレース20がブッシュ17に密嵌されてブッシュ17に固定状態で回転不可に取付けられている。
【0012】
枢軸13の指環部側における第1の刃体11には外側から調節ネジ22が捩じ込まれ、凹溝15内に突出する先端はブッシュ17の鍔部17aに押し当てられ、鍔部17aに押し当った状態で捩じ込むと、第1の刃体11は指環部側が第2の刃体12の指環部側より浮き上がり、かつ刃先側が閉じて刃先同士が互いに押付けられるようになっており、その押付け力は調節ネジ22の捩じ込み操作によって調整できるようになっている。
【0013】
本実施形態においてはまた、第1の刃体11の凹溝15の深さをh、第2の刃体12の凹溝16の深さをh、鍔部17aを含むブッシュ17の全長をhとすると、h>h+hとなるように形成されており、鍔部17aが第1の刃体11の凹溝底に当り、かつ図2に示すブッシュ下端が第2の刃体12の凹溝16底に当たって支持された状態において、第1の刃体11と第2の刃体12との間には、h−(h+h)の隙間が形成され、調節ネジ22を捩じ込んで、図示するように第1の刃体11を第2の刃体12より浮かせると、上記隙間が更に拡大するようになっている。なお、図示する例において、転がり軸受18は軸方向の長さが鍔部17aを除くブッシュ17と同じ長さに形成されているが、同じでなく、長く形成されていても短く形成されていてもよい。長く形成される場合、ブッシュ17は転がり軸受18と調節ネジ22とによって支持されて軸方向の動きが拘束される。一方短く形成される場合、ブッシュ17が第2の刃体12の凹溝底と調節ネジ22とによって支持されて軸方向の動きが拘束される。
【0014】
本実施形態によると、第1の刃体11と第2の刃体12は枢軸13の周りで常に離間した状態となり(刃先同士は調節ネジ22の捩じ込みにより第1の刃体11が第2の刃体12に対し傾き、閉じることによって接触状態となっている)、このため第1の刃体11と第2の刃体12は刃先同士が押付けられた状態で鋏捌きにより触点がない状態で軽快に開閉する。
【0015】
本実施形態において、ブッシュ17は鍔部17aが円形で、同じ円形の凹溝15に装着されていても、調節ネジ22で鍔部17aが押付けられることにより第1の刃体11に対し回転されることはなく、ブッシュ17と第1の刃体11とインナーレース20とが一体となって、アウターレース19と一体をなす第2の刃体12に対し、枢軸13の周りを回動する。
【0016】
本実施形態においては、ブッシュ17の全長hと、第1の刃体11の凹溝15の深さhと、第2の刃体12の凹溝16の深さhとがh>h+hとなるように形成されているが、h≦h+hとなるように形成され、第1の刃体11と第2の刃体12が枢軸13の周りで接触するようになっているとしても(この場合、第1の刃体11の凹溝底と鍔部17aは接するか、或いは隙間ができるが、先端を鍔部17aに押し当てた状態で調節ネジ22を捩じ込むことにより第1の刃体11を第2の刃体12より離間させることができる。したがって上記式h>h+hは本発明の必須の要件ではない。
【0017】
別の実施形態においてはブッシュの鍔部が指環部側に長く延びて形成される。図3はその一例を示すもので、ブッシュの鍔部25aが指環部側に長く延びて形成されている。
【0018】
図4は、図3に示す鍔部25aを備えたブッシュ25を取付けた枢軸構造を示すもので、第1の刃体11の凹溝26は鍔部25aと同形をなして指環部側に長く形成され、鍔部25aが凹部26に回転不可に装着されるようになっており、調節ネジ22が図1に示す調節ネジ22よりも枢軸13から離れた箇所で鍔部25aに押し当てられるようになっている。
【0019】
本実施形態によると、調節ネジ22により鍔部25aに作用する力点aにおける作用力が小さくても、てこの作用で刃先印同士の押付け力を大きくすることができ、したがって調節ネジ22を微調整することで、刃先部同士の押付け力を調整し、切れ味を調整することができる。
【符号の説明】
【0020】
11・・第1の刃体
12・・第2の刃体
13・・枢軸
15、16、26・・凹溝
17、25・・ブッシュ
17a、25a・・鍔部
18・・転がり軸受
22・・調節ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指環部を備えた第1及び第2の刃体を基部において枢軸により回動自在に軸着した理髪用鋏の上記枢軸を含む枢軸構造であって、前記第1及び第2の刃体の枢軸の周りの対向面にそれぞれ形成される凹溝と、鍔部を備えて前記枢軸に回転自在に嵌挿され、前記鍔部を前記第1の刃体の凹溝に装着するブッシュと、インナーレースを前記ブッシュに、アウターレースを前記第2の刃体の凹溝にそれぞれ密嵌させた転がり軸受と、前記枢軸より指環部側において前記第1の刃体に捩じ込まれ、先端が前記ブッシュの鍔に押し当てられる調節ネジとよりなり、該調節ネジの捩じ込み操作により第1の刃体が枢軸より指環部側において持上げられ、対向する第2の刃体との間に隙間を生ずる一方、枢軸より刃先側が閉じて刃先同士が互いに押し付けられることを特徴とする理髪用鋏の枢軸構造。
【請求項2】
前記鍔部が指環部側に長く形成され、該部の指環部寄りに前記調節ネジの先端が当てられることを特徴とする請求項1記載の理髪用鋏の枢軸構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−130493(P2012−130493A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−284382(P2010−284382)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【出願人】(502369562)株式会社柳生 (7)
【Fターム(参考)】